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  • 特許-管状治療具および留置装置 図1
  • 特許-管状治療具および留置装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】管状治療具および留置装置
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/07 20130101AFI20240814BHJP
【FI】
A61F2/07
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021543689
(86)(22)【出願日】2020-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2020031413
(87)【国際公開番号】W WO2021044856
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-07-18
(31)【優先権主張番号】P 2019160922
(32)【優先日】2019-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000200035
【氏名又は名称】SBカワスミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100154759
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 貴子
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊秀
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】陳 ▲晄▼中
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-522155(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0231511(US,A1)
【文献】国際公開第2019/078218(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/04― 2/07
A61F 2/82― 2/97
A61L 27/00―27/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シースに充填されて生体管腔内に導入され、前記生体管腔の留置部位で前記シースから放出される管状治療具であって、
管状の皮膜部と、前記皮膜部の一面に糸により縫合される骨格部と、を備え、
前記皮膜部は、繊維からなる本体層を有し、
前記本体層は、その繊維の隙間に生体適合性を有するシーリング材が充填され、全体として透液性が相対的に低下されており、
前記シーリング材は、超高分子ポリエチレンを含有する材料である
管状治療具。
【請求項2】
前記シーリング材は、前記本体層よりも透液性が低い材料からなる
請求項1に記載の管状治療具。
【請求項3】
前記シーリング材は、前記本体層よりも低い融点の材料からなる
請求項1または請求項2に記載の管状治療具。
【請求項4】
前記骨格部と前記皮膜部を縫合する前記糸は、前記本体層の繊維の隙間を通る
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の管状治療具。
【請求項5】
前記本体層の表面は、前記シーリング材により被覆され、当該被覆面は前記管状治療具の外周および前記骨格部に臨む
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の管状治療具。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の管状治療具と、
前記管状治療具が内部に充填されたシースと、を備える
留置装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管状治療具および留置装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、大動脈に生じた大動脈瘤や大動脈解離などの治療に用いられる管状治療具として、ステントグラフトが従来から知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
ステントグラフトは、例えば、金属線を用いた骨格部と、骨格部を被覆する皮膜部を含み、全体として管状の外形をなす。ステントグラフトは、血管内の所定位置において内側から径方向外側に外力が加えられることで拡張し、血管と密着した状態で血管内に留置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6131441号公報
【文献】特許第5824759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ステントグラフトの被膜部には、例えば骨格部との縫合による破れや裂けを抑制する点で繊維材料を用いることが好ましい。また、ステントグラフトの使用時に病変部位への血液の流入を抑制する上で、皮膜部の透液性は低いことが好ましい。
しかしながら、皮膜部に繊維材料を用いる場合には、繊維の隙間からの体液の漏れが生じ易いので、低い透液性を実現するには改善の余地がある。
【0005】
本発明の目的は、低い透液性を確保しつつ、縫合での裂けや破れの生じにくい管状治療具および留置装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明の一態様は、シースに充填されて生体管腔内に導入され、前記生体管腔の留置部位で前記シースから放出される管状治療具であって、管状の皮膜部と、皮膜部の一面に糸により縫合される骨格部と、を備え、皮膜部は、繊維からなる本体層を有し、本体層は、その繊維の隙間に生体適合性を有するシーリング材が充填され、全体として透液性が相対的に低下されており、シーリング材は、超高分子ポリエチレンを含有する材料である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低い透液性を確保しつつ、縫合での裂けや破れを生じにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明を適用した一実施形態のステントグラフトの斜視図である。
図2】皮膜部の構成を模式的に示す図である。
図3図2において破線で囲った部分の断面の拡大図である。
図4図1において破線で囲った部分の断面構造を模式的に示す図である。
図5図4のIIIb-IIIb線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
後述の各図では、管状治療具の一実施形態としてのステントグラフト10の構成例を模式的に表している。図面におけるステントグラフト10の形状、寸法等は模式的に示したもので、実際の形状や寸法等を示すものではない。
【0011】
図1は、一実施形態のステントグラフト10の概略構成を示す斜視図である。図1では、ステントグラフト10を血管内に留置させた状態(使用状態)を示している。
【0012】
図1に示すステントグラフト10は、血管用のステントグラフトであり、全体形状が管状をなしている。ステントグラフト10は、軸方向Axの両端部に設けられた開口が連通しており、使用状態において患者の血液が通過する管状流路を内部に有している。
図1の例では、直管形状のステントグラフト10を示している。もっとも、本実施形態のステントグラフト10は、例えば、弓状に湾曲した形状(例えば、患者の大動脈弓に対応した形状)であってもよく、捻れを有する形状であってもよい。
【0013】
ステントグラフト10は、拡張状態の形状が記憶された、いわゆる自己拡張型の構成を有する。ステントグラフト10は、図示しない筒状のシースに収容されて径方向内側に収縮された状態(不図示)で血管30内に導入される。ステントグラフト10は、血管30内の所定位置(例えば、大動脈瘤等が生じている病変部位31)に運ばれた後にシースから放出され、径方向外側に拡張する。拡張したステントグラフト10は、図1に示すように血管30の内壁と密着した状態で血管30内に留置される。
【0014】
図1に示すように、ステントグラフト10は、骨格部11と、骨格部11に固定された皮膜部12とを備えている。皮膜部12は、管状治療具用膜体の一例である。また、ステントグラフト10の軸方向Axの一端には、例えば金属骨格からなるベア部14が形成されている。
ベア部14は、ステントグラフト10の留置時に血管30の内壁との間で摩擦を生じさせ、ステントグラフト10の位置ずれ(マイグレーション)を抑制する機能を担う。
【0015】
骨格部11は、例えば、金属細線(線材)が螺旋状に巻回されて形成されている。例えば、金属細線が山部と谷部とが交互に形成されるように屈曲しながら螺旋状に巻回されることで、骨格部11が形成されている。骨格部11の金属細線の断面形状は、例えば、円形又は楕円形である。
【0016】
骨格部11は、径方向内側に収縮した収縮状態から、径方向外側に拡張した拡張状態へと自己拡張するように変形可能に構成される。
【0017】
骨格部11の金属細線を構成する材料としては、例えば、Ni-Ti合金(ニチノール)、コバルト-クロム合金、チタン合金、及びステンレス鋼等に代表される公知の金属又は金属合金が挙げられる。なお、骨格部11は、金属以外の材料(例えば、セラミックや樹脂等)で形成されていてもよい。
【0018】
また、例えば、骨格部11の材料(ニチノール等)、骨格部11の金属細線の断面積及び断面形状(ワイヤ等の円線材、又は、レーザーカットによる角線材)、周方向における骨格部11の折り返し回数及び折り返し形状(山部の数及び山部の形状)、並びに、軸方向における骨格部11の螺旋ピッチ(ステントグラフト10の単位長さ当たりの骨格量)等は、留置される血管の径等に応じて適切な値に設定され得る。これらのパラメータに関する詳細な説明は省略する。
【0019】
皮膜部12は、上述の管状流路を形成する管状の可撓性の膜体であって、骨格部11の隙間部分を閉塞するように骨格部11に取り付けられている。本実施形態では、図1に示すように、皮膜部12は、骨格部11の内側に取り付けられている。また、ステントグラフト10の軸方向Axの両端部には、骨格部11を外側から部分的に覆う外側皮膜部12aが貼設されている。
外側皮膜部12aは、例えば、骨格部11の内側から外側に皮膜部12が折り返されて形成されても良い。あるいは、外側皮膜部12aは、皮膜部12を帯状に形成したものを骨格部11の外側から重ね合わせるようにして形成されてもよい。
【0020】
なお、外側皮膜部12aは、骨格部11を外側から全体的に覆うように、すなわち、2枚の皮膜部12を用いて骨格部11を内側と外側から挟み込んで覆うように取り付けられてもよい。
また、皮膜部12は、骨格部11の外側にのみ取り付けられていてもよい。
【0021】
本実施形態の骨格部11は、後述の図4図5で示すように、皮膜部12と糸13で縫い付けられている。なお、骨格部11と皮膜部12の固定方法は、例えば、接着、溶着、テープによる貼着などであってもよい。
【0022】
図2図3は、皮膜部12の構成を模式的に示す図である。また、図4は、図1において破線で囲った部分の断面構造を模式的に示す図であり、図5は、図4のIIIb-IIIb線断面図である。
【0023】
皮膜部12は、繊維21aの布地からなる本体層21を有する。本体層21は、生体適合性を有する繊維材料の織物、編物又は不織布で構成される。図2-5では、皮膜部12の本体層21が織物で形成された例を模式的に示すが、上記のように皮膜部12は編物や不織布であってもよい。また、本体層21の織物の織り方は、平織り、綾織り、繻子織りのいずれでもよい。
【0024】
本体層21の繊維材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂や、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素樹脂等が挙げられる。
本体層21は、繊維21aの隙間に糸13を通すことができる。そのため、本体層21の裂けや破れに対する強度を低下させずに、本体層21と骨格部11の縫合を行うことができる。
【0025】
本体層21の布地には繊維21aの隙間に微細な孔が形成されるが、図3に示すように、本体層21の繊維21aの隙間にはシーリング材22が充填されている。図3では、シーリング材22が本体層21の繊維21aの隙間に入り込み、本体層21の表面がシーリング材22で被覆された状態を示している。シーリング材22は、繊維21aの隙間を塞ぐことで、本体層21の透液性を低下させる機能を担う。つまり、本体層21は、繊維単体で形成したものよりも、全体として透液性が相対的に低下されている。
【0026】
シーリング材22は、本体層21の繊維21aよりも透液性が低く、生体適合性を有する樹脂材料で構成される。シーリング材22の材料としては、例えば、ポリエチレン、シリコーン、ウレタン等を挙げることができる。
【0027】
本体層21へのシーリング材22の充填は、例えば、本体層21の少なくとも一方の表面に粒状のシーリング材22を散りばめた後に加熱してシーリング材22を溶融させて行ってもよい。また、本体層21の少なくとも一方の表面に、シーリング材22の溶液をディッピング等で付着させることで行ってもよいし、シーリング材22のシートをヒートプレスすることで行ってもよい。
なお、本体層21にシーリング材22を充填するときに加熱を行う場合、シーリング材22には本体層21よりも低い融点の材料が用いられる。
【0028】
本体層21の表面をシーリング材22で被覆することで、被覆のない場合と比べて本体層21に滑り性を付与することができる。これにより、ステントグラフト10をシース内に装填するときやステントグラフト10をシースから放出するときの抵抗を下げ、耐摩耗性を向上させることができる。例えば、シーリング材22としてポリエチレン(特に、分子量が100万~600万程度の超高分子ポリエチレン等)等の高分子化合物を含有する材料を用いると、本体層21の滑り性を一層向上させることができ、好ましい。
【0029】
また、シーリング材22としては、例えば、ポリ乳酸などの生分解性ポリマーなどを適用してもよい。すなわち、ポリ乳酸は生体内で加水分解を受け、最終的に溶けることとなる。しかし、少なくともステントグラフト10の留置後の所定期間は加水分解されずに、本体層21の繊維21aの隙間が血栓で塞がれていくまでの期間をコントロールすることで、病変部位31(大動脈瘤等)への血液の流入を抑制できると考えられる。
【0030】
以上のように、本実施形態のステントグラフト10は、管状の皮膜部12と、皮膜部12の一面に縫合される骨格部11と、を備える。皮膜部12は、繊維21aからなる本体層21を有し、本体層21は、その繊維21aの隙間に生体適合性を有するシーリング材22が充填され、全体として透液性が相対的に低下されている。
本実施形態によれば、本体層21の繊維21aの隙間がシーリング材22の充填によって塞がれているので、皮膜部12における本体層21の繊維21aの隙間からの体液の漏れが抑制される。そのため、本実施形態のステントグラフト10によれば、ステントグラフト10の内側の血液が外側の病変部位31に流入することを抑制できる。
また、皮膜部12の本体層21は、繊維21aの隙間に糸13を通すことができるので、本体層21の裂けや破れに対する強度を低下させずに、骨格部11を本体層21に縫合することができる。そのため、本実施形態のステントグラフト10によれば、縫合による皮膜部12の裂けや破れが生じにくくなる。
【0031】
また、本実施形態のステントグラフト10では、本体層21の繊維21aの隙間にシーリング材を充填することで、全体として透液性が低下された皮膜部12を用いることで、布地のみで皮膜部を構成する場合と比べて皮膜部全体の厚さを小さくできる。
例えば、布地のみで皮膜部を構成した場合には、透液性を低下させるには皮膜部を厚くする必要が生じる。皮膜部を厚くすると、管状治療具をシースに収納するときの収納性の悪化や、シースからの放出性の低下が懸念される。
これに対し、本実施形態では、皮膜部12の繊維21aの隙間がシーリング材22で塞がれているので、本体層21の厚さが小さくても透液性を低くすることができる。これにより、本実施形態によれば、従来よりも細径のシースを利用したステントグラフト留置術が可能となり、手術の際の患者の負荷(侵襲性)を一層少なくすることができる。
【0032】
また、本実施形態では、本体層21の表面をシーリング材22で被覆して滑り性を付与することで、ステントグラフト10をシースから放出するときの抵抗を下げることができる。かかる構成により、ステントグラフト留置術の際に従来よりも細径のシースを利用しやすくなり、シースへのステントグラフト10の装填作業も容易になる。
【0033】
以上、本発明は上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行ってもよい。
加えて、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0034】
10 ステントグラフト(管状治療具)
11 骨格部
12 皮膜部
13 糸
21 本体層
21a 繊維
22 シーリング材

図1
図2
図3
図4
図5