(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】射出成形支援装置及びそれを備えた射出成形機
(51)【国際特許分類】
B29C 45/76 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
B29C45/76
(21)【出願番号】P 2021576207
(86)(22)【出願日】2021-02-05
(86)【国際出願番号】 JP2021004465
(87)【国際公開番号】W WO2021157737
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2023-09-26
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/048755
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020018255
(32)【優先日】2020-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227054
【氏名又は名称】日精樹脂工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117226
【氏名又は名称】吉村 俊一
(72)【発明者】
【氏名】小塚 誠
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-001183(JP,A)
【文献】特開2015-123668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計量・可塑化した樹脂材料をスクリュ先端から金型に射出充填して成形するに際し、前記射出充填の際の最適条件を提示することができる射出成形支援装置であって、
前記樹脂材料に関する樹脂材料データ、前記スクリュに関するスクリュデータ、加熱筒に関する加熱筒データを少なくとも含む基本情報を設定するとともに、前記最適条件を得るための制約条件に関する制約情報を設定する設定部と、前記基本情報と前記制約情報に基づき、前記樹脂材料の推定固相率を最適数理処理システムによる高速演算手法により演算する演算部と、前記推定固相率の値に応じた判定指標を表示する表示部とを有する、ことを特徴とする射出成形支援装置。
【請求項2】
前記推定固相率が、前記スクリュ先端での前記樹脂材料の推定固相率である、請求項
1に記載の射出成形支援装置。
【請求項3】
前記推定固相率が、前記スクリュ先端での前記樹脂材料の第1の推定固相率と、前記スクリュ先端以外での前記樹脂材料の第2の推定固相率とを少なくとも有した2以上の推定固相率からなるプロファイルとして表示される、請求項
1又は2に記載の射出成形支援装置。
【請求項4】
前記演算部では、前記第1の推定固相率の値だけを0にする又は0に近づけるための演算が行われる、請求項
3に記載の射出成形支援装置。
【請求項5】
前記設定部は、前記基本情報から選ばれる1又は2以上のデータを設定する第1の設定部と、前記基本情報から選ばれる1又は2以上のデータを前記制約条件として前記高速演算手法に適用するか否かとし且つ適用する場合には前記制約条件の範囲を設定する第2の設定部とを少なくとも備える、請求項
1~4のいずれか1項に記載の射出成形支援装置。
【請求項6】
前記推定固相率の演算が、非線形解析手法で行われる、請求項
1~5のいずれか1項に記載の射出成形支援装置。
【請求項7】
前記演算部は、前記推定固相率に基づき、必要に応じて前記推定固相率を再度算出し、再度算出した推定固相率を前記表示部で表示する、請求項
1~6のいずれか1項に記載の射出成形支援装置。
【請求項8】
計量・可塑化した樹脂材料をスクリュ先端から金型に射出充填して成形するに際し、前記射出充填の際の条件が前記樹脂材料を適切な可塑化状態とする条件であるか否かの判断を支援できる射出成形支援装置であって、前記樹脂材料に関する樹脂材料データ、前記スクリュに関するスクリュデータ、加熱筒に関する加熱筒データ、及び前記射出充填の際の条件に関する条件データを少なくとも含む基本情報を設定する設定部と、前記基本情報に基づき、前記樹脂材料の推定固相率を演算する演算部と、前記推定固相率の値に応じた判定指標を表示する表示部とを有する射出成形支援装置の機能を備える、請求項
1~7のいずれか1項に記載の射出成形支援装置。
【請求項9】
前記推定固相率が、前記スクリュ先端での前記樹脂材料の推定固相率である、請求項8に記載の射出成形支援装置。
【請求項10】
前記推定固相率が、前記スクリュ先端での前記樹脂材料の第1の推定固相率と、前記スクリュ先端以外での前記樹脂材料の第2の推定固相率とを少なくとも有した2以上の推定固相率からなるプロファイルとして表示される、請求項8に記載の射出成形支援装置。
【請求項11】
前記表示部に表示される判定指標は、無次元の樹脂温度安定性として表示される、請求項
1~10のいずれか1項に記載の射出成形支援装置。
【請求項12】
請求項
1~11のいずれかの射出成形支援装置を備えている、ことに特徴を有する射出成形機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形支援装置及びそれを備えた射出成形機に関する。さらに詳しくは、計量・可塑化した樹脂材料をスクリュ先端から金型に射出充填して成形するに際し、射出充填の際の設定条件が樹脂材料を適切な可塑化状態とする条件であるか否かの判断を支援できる、及び/又は、射出充填の際の最適条件を提示することができる、射出成形支援装置、及びそれを備えた射出成形機に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形機は、計量・可塑化した樹脂材料(以下「溶融樹脂」ともいう。)をスクリュで金型内に射出充填して成形する装置である。そのため、溶融樹脂を適正な状態にして射出充填を行うことは、品質のよい成形品を得るために重要である。射出充填する前に樹脂材料の可塑化が過度に進行してしまった場合、樹脂材料の熱分解が発生し、樹脂材料が変質(炭化等)したり無用なガスが発生したりするおそれがある。
【0003】
こうした問題は、スクリュ内で可塑化する樹脂材料の可塑化時間や加熱条件等と密接に関係する。可塑化時間が長くなったり加熱条件が適切でなかったりして樹脂材料の可塑化が過度に進行した場合、樹脂材料の分解率が高まってしまうという問題が生じる。この問題を解決するため、スクリュ内での樹脂材料の可塑化状態を把握し、樹脂材料の分解率を低減するための技術が幾つか提案されている。一方、適正な可塑化時間を確保して樹脂材料の未溶融ポリマー分率(一連の工程後にどの程度の固体物が残留しているかを示す指標のこと。)を一定水準以下に維持することは、樹脂材料の可塑化状態を安定化させることができるので、成形品の不良を低減する上で重要である。このため、適正な可塑化状態を確保するための技術も提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、可塑化状態が安定しているか否かを正確に判別可能にすることができる、射出成形機の可塑化管理装置が提案されている。この可塑化管理装置は、計量動作中、スクリュを回転させる可塑化モータの駆動電流を検出する電流検出手段と、可塑化モータの回転速度を検出する回転速度検出手段と、可塑化モータの駆動電流からモータの駆動トルクを算出するトルク算出手段と、算出された駆動トルクと検出されたモータの回転速度とに基づいて可塑化モータの駆動電力の瞬時値を演算する演算手段とを備え、さらに、計算された駆動電力の瞬時値を可塑化時間の間積算する積算器を備えるというものである。
【0005】
また、特許文献2には、可塑化時間の推定手段を備えた射出成形機が提案されている。この射出成形機は、特定の樹脂材料を連続して可塑化したときの時間当たりの処理能力である理想可塑化能力が既知である標準射出成形機を用いたものである。そして、任意の樹脂材料を射出成形し、得られた成形品の重量から1ショットの実質量を計測し、そのときの可塑化時間を計測する。そして、可塑化仕事率を求める演算式に、1ショットの実質量、可塑化時間及び既知の理想可塑化能力を代入して可塑化仕事率を計算し、同様の計算を別の種類の樹脂材料でも実施し、樹脂材料の種類と可塑化仕事率との相関マップを作成して記憶する記憶部を備えている。さらに、標準射出成形機とは別の射出成形機で用いようとする樹脂材料の種類、金型のキャビティ体積及び別の射出成形機の既知の理想可塑化能力を入力する入力部を備えている。さらに、この別の射出成形機で使用する樹脂材料の種類と相関マップから可塑化仕事率を選択し、金型のキャビティ体積及び使用する樹脂材料の密度から1ショットの質量を推定し、可塑化仕事率、1ショットの質量及び別の射出成形機の既知の理想可塑化能力を可塑化時間の演算式に代入することで可塑化時間を推定する演算部を備えている。さらに、この演算部で推定した可塑化時間を表示する表示部を備えている。
【0006】
また、特許文献3には、可塑化した溶融樹脂をスクリュにより金型に射出充填して成形する射出成形機に対する成形支援を行う際に用いる射出成形機の成形支援装置が提案されている。この成形支援装置は、独自に開発の射出成形理論式により成形条件に係わる成形条件データ及びスクリュの形態に係わるスクリュデータを含む基本データを入力する基本データ入力部と、この基本データに基づいて加熱筒内における溶融樹脂の推定固相率を演算する固相率演算式データを設定した演算式データ設定部と、基本データ及び固相率演算式データに基づく演算処理により計量終了時における溶融樹脂の推定固相率を求める固相率演算処理部を有する演算処理機能部と、推定固相率に係わる情報をディスプレイに表示処理する出力処理機能部とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2003-340891号公報
【文献】特開2002-067109号公報
【文献】WO2019/188998A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1,2では、いずれの場合も射出成形機の稼働状態から得られる間接的な物理量に基づいて可塑化時間を把握しているため、大まかな情報としての可塑化時間で対応しているにすぎず、正確な可塑化時間に基づいて対応しているとはいえない。そのため、適正な可塑化時間を設定し、樹脂材料の未溶融分率(固相率)を一定水準以下に維持して可塑化不良を低減するには限界があった。また、実際の射出成形機の稼働状態から得られる情報に基づいて可塑化時間を把握するため、作業工数の増加及び樹脂材料の無駄を生じる等の難点があり、成形支援装置としては使い勝手に難があり、作業工程が面倒であった。特に、実際に得られる情報を基にした成形条件を正確かつ容易に反映させにくく、射出成形機毎に条件設定する必要があり、成形支援装置としての汎用性及び発展性に難があった。
【0009】
また、特許文献3では、樹脂材料の可塑化状態をシミュレーションするのに溶融時の推定固相率を算出し、その後、樹脂材料の発熱量及び未溶融ポリマー分率及び炭化率を計算し、それを無次元解にした加算値を「樹脂温度安定性」として演算している。その結果、計算値に対する実測値の相関は0.77と高い相関を示したが、そうした計算方法では、計算時間が20秒以上を要し、その時間を短くする必要があった。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、計量・可塑化した樹脂材料をスクリュ先端から金型に射出充填して成形するに際し、射出充填の際の条件が樹脂材料を適切な可塑化状態とする条件であるか否かの判断を支援できる、及び/又は、射出充填の際の最適条件を提示することができる、射出成形支援装置、及びそれを備えた射出成形機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者のこれまでの研究により、「加熱筒(スクリュ)内の材料の発熱量」を算出することが樹脂材料の溶融状態を判断する1つの要素であることが分かっているが、そうした算出手順では、計算に時間がかかってしまう。本発明では、その発熱量に基づく計算方法に代え、(ア)射出充填の際の樹脂材料を可塑化状態にするための設定条件が適切な値であるか否かの判定を短時間で行うことができ、さらに、(イ)射出充填の際の樹脂材料を最適な可塑化状態にするための条件(最適条件という。)を、最適数理処理システムを使用した高速演算手法で極めて短時間で提示できる射出成形支援装置を完成させた。
【0012】
(1)本発明に係る射出成形支援装置は、計量・可塑化した樹脂材料をスクリュ先端から金型に射出充填して成形するに際し、前記射出充填の際の条件が前記樹脂材料を適切な可塑化状態とする条件であるか否かの判断を支援できる射出成形支援装置であって、
前記樹脂材料に関する樹脂材料データ、前記スクリュに関するスクリュデータ、加熱筒に関する加熱筒データ、及び前記射出充填の際の条件に関する条件データを少なくとも含む基本情報を設定する設定部と、前記基本情報に基づき、前記樹脂材料の推定固相率を演算する演算部と、前記推定固相率の値に応じた判定指標を表示する表示部とを有する、ことを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、射出充填の際の条件が樹脂材料を適切な可塑化状態とする条件であるか否かの判定指標を提示することができる。特に、各条件を基本情報とし、独自に開発した射出理論式により得られた推定固相率を活用し、推定固相率が適切な値(例えば0又は0に近い値)であるか否かを判定指標とすることにより、極めて短時間(例えば0.1秒以下)で行うことを可能とし、その判定指標を作業オペレータの効果的な判断要素とすることができる。そして、その基本情報を現在行っている又は行おうとしている具体的な条件とすれば、その条件がどの程度のレベルの条件であるかの判断に利用することができる。
【0014】
本発明に係る射出成形支援装置において、前記推定固相率が、前記スクリュ先端での前記樹脂材料の推定固相率である。この発明によれば、スクリュ先端での樹脂材料の推定固相率が適切な値(例えば0又は0に近い値)であるか否かを判定指標とする。
【0015】
本発明に係る射出成形支援装置において、前記推定固相率が、前記スクリュ先端での前記樹脂材料の第1の推定固相率と、前記スクリュ先端以外での前記樹脂材料の第2の推定固相率とを少なくとも有した2以上の推定固相率からなるプロファイルとして表示される。この発明によれば、各種データからなる基本情報を現在行っている又は行おうとしている具体的な条件とすれば、表示された2以上の推定固相率からなるプロファイルを見ることで、その条件がどの程度のレベルの条件であるかの判断に利用することができる。そうした表示部では、第1の推定固相率と第2の推定固相率だけを表示してもよいし、さらにそれ以外の推定固相率を含めて表示してもよいが、この発明によれば、第1の推定固相率と第2の推定固相率とを含む推定固相率全体をプロファイルとして表示したり、一部をプロファイルとして表示したりすることにより、作業オペレータが目視にて容易に確認することができる。
【0016】
なお、前記表示部に表示される判定指標は、無次元の樹脂温度安定性として表示される。こうすることにより、表示される無次元の樹脂温度安定性を判定指標とすることができ、その樹脂温度安定性の値が小さいほど、適切な可塑化状態と判断することができる。
【0017】
(2)本発明に係る射出成形支援装置は、計量・可塑化した樹脂材料をスクリュ先端から金型に射出充填して成形するに際し、前記射出充填の際の最適条件を提示することができる射出成形支援装置であって、
前記樹脂材料に関する樹脂材料データ、前記スクリュに関するスクリュデータ、加熱筒に関する加熱筒データを少なくとも含む基本情報を設定するとともに、前記最適条件を得るための制約条件に関する制約情報を設定する設定部と、前記基本情報と前記制約情報に基づき、前記樹脂材料の推定固相率を最適数理処理システムによる高速演算手法により演算する演算部と、前記推定固相率の値に応じた判定指標を表示する表示部とを有する、ことを特徴とする。
【0018】
この発明によれば、適切な可塑化状態とする最適条件を最適数理処理システムによる高速演算手法により制約条件の範囲内で演算し、その判断結果に応じた判定指標を提示することができる。特に、最適数理処理システムによる高速演算手法により、制約条件の範囲内で演算されるので、その演算結果を作業オペレータの効果的な判断要素とすることができる。
【0019】
本発明に係る射出成形支援装置において、前記推定固相率が、前記スクリュ先端での前記樹脂材料の推定固相率である。この発明によれば、スクリュ先端での樹脂材料の推定固相率が適切な値(例えば0又は0に近い値)であるか否かを判定指標とする。
【0020】
本発明に係る射出成形支援装置において、前記推定固相率が、前記スクリュ先端での前記樹脂材料の第1の推定固相率と、前記スクリュ先端以外での前記樹脂材料の第2の推定固相率とを少なくとも有した2以上の推定固相率からなるプロファイルとして表示される。この発明によれば、基本情報及び制約情報に基づいて表示された2以上の推定固相率からなるプロファイルにより、それら情報の範囲内で表示された最適条件を実際の成形時の判定指標として利用することができる。そうした表示部では、第1の推定固相率と第2の推定固相率だけを表示してもよいし、さらにそれ以外の推定固相率を含めて表示してもよいが、この発明によれば、第1の推定固相率と第2の推定固相率とを含む推定固相率全体をプロファイルとして表示したり、一部をプロファイルとして表示したりすることにより、作業オペレータが目視にて容易に確認することができる。
【0021】
本発明に係る射出成形支援装置において、前記演算部では、前記第1の推定固相率の値だけを0にする又は0に近づけるための演算が行われる。この発明によれば、第1の推定固相率の値だけを0にする又は0に近づけるための演算が行われるので、その演算結果を導く最適条件を設定条件とすることができる。
【0022】
なお、前記表示部に表示される判定指標は、無次元の樹脂温度安定性として表示される。こうすることにより、表示される無次元の樹脂温度安定性を判定指標とすることができ、その樹脂温度安定性の値が小さいほど、適切な可塑化状態と判断することができる。
【0023】
本発明に係る射出成形支援装置において、前記設定部は、前記基本情報から選ばれる1又は2以上のデータを設定する第1の設定部と、前記基本情報から選ばれる1又は2以上のデータを前記制約条件として前記高速演算手法に適用するか否かとし且つ適用する場合には前記制約条件の範囲を設定する第2の設定部とを少なくとも備える。この発明によれば、設定部は、第1の設定部と第2の設定部とにそれぞれ必要に応じて設定することができるので、射出成形機の特性や樹脂材料の種類等の仕様に応じた制約条件を入力でき、その仕様に適した条件として提示された最適条件を基にして、作業オペレータの判断を支援することができる。
【0024】
本発明に係る射出成形支援装置において、前記推定固相率の演算が、非線形解析手法で行われる。この発明によれば、推定固相率の演算が非線形解析手法で行われるものであっても、極めて短時間で算出できる。
【0025】
本発明に係る射出成形支援装置において、前記演算部は、前記推定固相率に基づき、必要に応じて前記推定固相率を再度算出し、再度算出した推定固相率を前記表示部で表示する。この発明によれば、必要に応じて前記推定固相率を再度算出し、再度算出した推定固相率を前記表示部で表示することができる。
【0026】
本発明に係る射出成形支援装置において、上記(1)の射出成形支援装置の機能を備える。この発明によれば、この(2)の射出成形支援装置は、上記(1)の射出成形支援装置の機能を備えるので、射出充填の際の条件が適切な値であるか否かの判断を支援できると共に、射出充填の際の最適条件を提示して支援することができる。
【0027】
(3)本発明に係る射出成形機は、上記本発明に係る射出成形支援装置を備えている、ことに特徴を有する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、射出充填の際の条件が適切な値であるか否かの判断を支援できる、及び/又は、射出充填の際の最適条件を提示することができる射出成形支援装置、及びそれを備えた射出成形機を提供することができる。この射出成形支援装置によれば、例えば、樹脂焼け、ショートショット、ウエルド等の成形不良減少、カジリ低減、成形品機械物性の低減、スクリュメンテナンスの低減、金型へのガス付着低減等を実現できる「適切な可塑化状態」とする条件であるか否かの判定又は「適切な可塑化状態」とする条件設定を極めて短時間で算出することができるともに、「適切な可塑化状態」であることの表示を作業オペレータに対して極めて短時間で表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】実験1の条件で代用金型に射出充填する際において、樹脂材料の好ましい可塑化状態を示す推定固相率演算結果(A)と、代用金型に射出充填したときの樹脂温度の計測結果(B)である。
【
図2】実験2の条件で代用金型に射出充填する際において、樹脂材料の不適切な可塑化状態を示す推定固相率演算結果(A)と、代用金型に射出充填したときの樹脂温度の計測結果(B)である。
【
図3】実験3の条件で代用金型に射出充填する際において、樹脂材料の不適切な可塑化状態を示す推定固相率演算結果(A)と、代用金型に射出充填したときの樹脂温度の計測結果(B)である。
【
図4】代用金型に射出充填したときの樹脂温度の計測結果と、その結果に基づいた「うねり」、「バラツキ」及び「ΔT」の用語を示す説明図である。
【
図5】各条件を基本情報として得られた推定固相率に基づいて樹脂温度安定性の良否判断を行うフロー図である。
【
図6】樹脂温度のうねりの実測値(横軸)と、
図5のフロー図で算出された樹脂温度安定性(縦軸)との関係を示す説明図である。
【
図7】適切な可塑化状態とする最適条件を最適数理処理システムによる高速演算手法により制約条件の範囲内で演算し、その演算で得られた推定固相率の一例である。
【
図8】各条件を基本情報及び制約情報として得られた推定固相率に基づいて樹脂温度安定性の良否判断を行うフロー図である。
【
図9】基本情報から選ばれる1又は2以上のデータを制約条件として高速演算手法に適用するか否かとし且つ適用する場合には制約条件の範囲を設定する設定部(第2の設定部)の一例である。
【
図10】
図9に示す設定部の入力情報に基づき、射出充填の際の条件が樹脂材料を適切な可塑化状態とする最適条件となるよう、最適数理処理システムによる高速演算手法(非線形解析)で演算した結果の表示例である。
【
図11】制約条件の範囲内で最適条件を高速演算するフロー図である。
【
図15】射出成形支援装置の主な構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明に係る射出成形支援装置及びそれを備えた射出成形機について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明及び図面は、本発明を実施するための一例であり、本発明の要旨を備えるものであれば、いずれも本発明の範囲に含まれる。
【0031】
本発明に係る射出成形支援装置は、
図1~
図11等に示すように、(ア)射出充填の際の樹脂材料を可塑化状態にするための設定条件が適切な値であるか否かの判定を短時間で行うことができ、さらに、(イ)射出充填の際の樹脂材料を最適な可塑化状態にするための条件(最適条件という。)を、最適数理処理システムを使用した高速演算手法で極めて短時間で提示できる装置である。なお、「可塑化状態」とは、樹脂材料を「計量及び可塑化した状態」ということであり、「計量・可塑化」として表す。
【0032】
(ア)の射出成形支援装置は、前記樹脂材料に関する樹脂材料データ、前記スクリュに関するスクリュデータ、加熱筒に関する加熱筒データ、及び前記射出充填の際の条件に関する条件データを少なくとも含む基本情報を設定する設定部と、前記基本情報に基づき、前記樹脂材料の推定固相率を演算する演算部と、前記推定固相率の値に応じた判定指標を表示する表示部とを有する、ことに特徴がある。この射出成形支援装置は、成形条件確認用射出成形支援装置ということができる。
【0033】
この射出成形支援装置では、射出充填の際の条件が樹脂材料を適切な可塑化状態とする条件であるか否かの判定指標を提示することができる。特に、各条件を基本情報とし、独自に開発した射出理論式により得られた推定固相率を活用し、スクリュ先端での樹脂材料の推定固相率が適切な値(例えば0又は0に近い値)であるか否かを判定指標とすることにより、極めて短時間(例えば0.1秒以下)で行うことを可能とし、その判定指標を作業オペレータの効果的な判断要素とすることができる。
【0034】
(イ)の射出成形支援装置は、前記樹脂材料に関する樹脂材料データ、前記スクリュに関するスクリュデータ、加熱筒に関する加熱筒データを少なくとも含む基本情報を設定するとともに、前記最適条件を得るための制約条件に関する制約情報を設定する設定部と、前記基本情報と前記制約情報に基づき、前記樹脂材料の推定固相率を最適数理処理システムによる高速演算手法により演算する演算部と、前記推定固相率の値に応じた判定指標を表示する表示部とを有する、ことに特徴がある。この射出成形支援装置は、最適条件提示用の射出成形支援装置ということができる。
【0035】
この射出成形支援装置では、適切な可塑化状態とする最適条件を最適数理処理システムによる高速演算手法により制約条件の範囲内で演算し、その判断結果に応じた判定指標を提示することができる。特に、最適数理処理システムによる高速演算手法により、制約条件の範囲内で演算されるので、その演算結果を作業オペレータの効果的な判断要素とすることができる。
【0036】
射出成形支援装置は、
図12~
図14に示すように、計量・可塑化した樹脂材料をスクリュ3の先端6から金型2に射出充填して成形する際の支援装置である。射出成形支援装置は、通常、
図12に例示するような実際の射出成形機10に装着させたものであるが、射出成形機10に装着したものでなくてもよく、例えば樹脂材料の可塑化状態をシミュレートするシミュレーション専用の装置であってもよい。
【0037】
この射出成形支援装置は、射出充填の際の設定条件が樹脂材料を適切な可塑化状態とする条件であるか否かの判断を支援したり、及び/又は、射出充填の際の樹脂材料を最適な可塑化状態にするための条件(最適条件)を、最適数理処理システムを使用した高速演算手法で提示したりするための装置である。
【0038】
「射出充填の際」とは、樹脂材料をスクリュ3内で可塑化状態とし、その可塑化状態の樹脂材料をスクリュ3の先端6から金型(実際の金型でも代用金型であってもよい。以下同じ。)内に充填する直前の状態、の意味である。「条件」とは、可塑化状態に影響する種々の条件の意味であり、例えば、スクリュ3の回転数(rpm)、射出充填時の背圧(MPa)、樹脂材料の計量位置(mm)、射出充填のサイクル時間(秒)、樹脂材料の射出充填時間(秒)、スクリュ3の各部の設定温度(℃)、落下口設定温度(℃)、ホッパ設定温度(℃)等の種々の条件を挙げることができる。射出成形支援装置は、(ア)これら条件から選ばれる複数の条件を設定した場合、その設定した条件が、樹脂材料を適切な可塑化状態とする条件であるか否かを後述の射出理論式に基づいた方法で演算して、その結果を作業オペレータの判断に供するようにしたもの(「成形条件確認用の射出成形支援装置」ともいう。)、及び/又は、(イ)射出充填の際の樹脂材料を最適な可塑化状態とするための条件(最適条件)を最適数理処理システムを使用した高速演算手法で提示できるもの(「最適条件提示用の射出成形支援装置」ともいう。)、である。「適切な可塑化状態」とは、後述するように、スクリュ3の先端6での樹脂材料の推定固相率が適切な値(例えば0又は0に近い値)になっている状態を言う。
【0039】
以下、成形条件確認用射出成形支援装置と最適条件提示用射出成形支援装置に分けて説明する。なお、本発明に係る射出成形支援装置は、(ア)の成形条件確認用射出成形支援装置の後述する機能だけを備えるものであってもよいし、(イ)の最適条件提示用射出成形支援装置の後述する機能だけを備えるものであってもよいし、(ア)と(イ)の両方の機能を備えるものであってもよい。両方の機能を備える場合は、射出充填の際の条件が適切な値であるか否かの判断を支援できると共に、射出充填の際の最適条件を提示して支援することができる。
【0040】
[成形条件確認用の射出成形支援装置]
<設定部/第1設定部>
設定部(第1設定部)は、樹脂材料に関する樹脂材料データ、スクリュに関するスクリュデータ、加熱筒に関する加熱筒データ、及び射出充填の際の条件(充填条件)に関する条件データを少なくとも含む基本情報を設定する部分である。樹脂材料データとしては、樹脂材料の種類、メルトフローレート、比熱データ、熱伝導率データ等を挙げることができる。スクリュデータとしては、スクリュの長さ(mm)、ねじ溝ピッチ(mm)、回転数(rpm)、溝深さ(mm)、曲率半径(mm)等を挙げることができる。なお、スクリュデータには、サブフライトや可変ピッチスクリュ等の複雑な形状要素も含まれる。加熱筒データとしては、寸法情報、材質、制御点位置、ヒータ長さ、ヒータ位置、ワット数等を挙げることができる。射出充填の際の充填条件としては、射出充填時のスクリュ回転数(rpm)、射出充填時の背圧(MPa)、樹脂材料の計量位置(mm)、射出充填のサイクル時間(秒)、樹脂材料の射出時間(秒)、スクリュ3の各部の設定温度(℃)、落下口設定温度(℃)、ホッパ設定温度(℃)、可塑化時間(秒)を挙げることができる。可塑化時間に関しては、実測値以外に、後述の最適条件提示用射出成形支援装置で得られた最適値とされた可塑化時間を適用可能であるため、最適値とされた可塑化時間も含まれる。
【0041】
なお、上記した各データは、上記で列記したものに限定されず、記載されていない他のデータであってもよい。
図9は、幾つかの条件を設定する第1設定部の一例である。この第1設定部は、後述する最適条件提示用射出成形支援装置で設定する第2設定部を合わせて備えたものであるが、成形条件確認用射出成形支援装置で設定する第1設定部だけを備えたものであってもよい。
【0042】
第1設定部は、表示パネルに設けられていることが好ましい。表示パネルの種類は特に限定されないが、タッチ式で入力できる液晶表示パネルが便利である。表示パネル31は、専用パネルとして独立に設けてもよいし、例えば射出成形機10が備える表示装置14内に、又はその表示装置14に連結した別体として設けられていてもよい。
【0043】
<演算部>
演算部は、基本情報に基づき、樹脂材料の推定固相率を演算する部分である。この演算部で演算される推定固相率は、
図5のフロー図に示すように、基本情報に基づいて演算された推定固相率を用いて得られる。そのため、その基本情報を現在行っている又は行おうとしている具体的な条件として入力した場合、その条件がどの程度のレベルの条件であるかの判断に利用することができる。
【0044】
推定固相率は、上記した各種入力データ(特に加熱筒データ、スクリュデータ、樹脂充填データ等)をもとに、スクリュの各部の値として演算される。具体的には、先ず、射出充填の際の条件データや加熱筒データにより外部エネルギーが算出され、樹脂データ情報及びスクリュデータ情報より可塑化時間が算出される。なお、可塑化時間が実測の場合は計算しない。そして、Tadmorモデル式を射出理論式に展開した下記式A及び式Bの収束演算により、各スクリュ各部での樹脂の固相割合(固相率:溶けている状態)が演算される。なお、この演算では、外部エネルギーの算出と可塑化時間の算出の際に使用した加熱筒データ情報、スクリュデータ情報、成形機データ情報、樹脂データ情報に加え、必要な場合には可塑化時間も加えて算出する。こうして得られた推定固相率をスクリュ各部の横軸として繋ぎ合わせることにより、
図1(A)等に示すプロファイル形態からなる推定固相率演算結果を得ることができる。
【0045】
【0046】
なお、上記した式Aと式Bは、押出理論式として存在するTadmorモデル式を、射出理論式に展開した式であるが、ここでは、δはメルトフィルム厚、kmは融体の熱伝導率、Tbは加熱筒温度、Tmoは融点、Troは固体ペレット温度、Va,Vbは溶融速度を示唆する係数、Φは溶融速度を示唆する量、Xはソリッドベッド幅、Vbxはスクリュ幅方向の周速成分、Csは固体比熱、ρmは液体密度、λは溶融潜熱、Gmはサイクル時間を考慮した可塑化能力、ηoはゼロ剪断粘度、nは粘度指数、Vjは相対速度を示す。なお、溶融樹脂は、指数則流体に依存するものとし、b′は指数則流体に起因する量を示す。
【0047】
<表示部>
表示部は、上記演算部で演算された推定固相率の値に応じた判定指標を表示する。この表示部により、射出充填の際の条件が樹脂材料を適切な可塑化状態とする条件であるか否かの判定指標を提示することができる。特に、各条件を基本情報とし、独自に開発した射出理論式により得られた推定固相率を活用し、推定固相率が適切な値(例えば0又は0に近い値)であるか否かを判定指標として表示する。こうすることにより、極めて短時間(例えば0.1秒以下)で判定指標を表示でき、その判定指標を作業オペレータの効果的な判断要素とすることができる。そして、その基本情報を現在行っている又は行おうとしている具体的な条件とすれば、その条件がどの程度のレベルの条件であるかの判断に利用することができる。
【0048】
表示される推定固相率は、スクリュ先端での樹脂材料の推定固相率であり、スクリュ先端での樹脂材料の推定固相率が適切な値(例えば0又は0に近い値)であるか否かを判定指標とする。
【0049】
表示部には、
図1~
図3に示すように、推定固相率が、スクリュ先端での樹脂材料の第1の推定固相率と、スクリュ先端以外での樹脂材料の第2の推定固相率とを少なくとも有した2以上の推定固相率からなるプロファイルとして表示される。こうすることにより、各種データからなる基本情報を現在行っている又は行おうとしている具体的な条件とすれば、表示された2以上の推定固相率からなるプロファイルを見ることで、その条件がどの程度のレベルの条件であるかの判断に利用することができる。表示部では、第1の推定固相率と第2の推定固相率だけを表示してもよいし、さらにそれ以外の推定固相率を含めて表示してもよいが、この発明によれば、第1の推定固相率と第2の推定固相率とを含む推定固相率全体をプロファイルとして表示したり、一部をプロファイルとして表示したりすることにより、作業オペレータが目視にて容易に確認することができる。
【0050】
(推定固相率)
推定固相率について詳しく説明する。
図4は、スクリュ内各部での樹脂温度を計測する装置より、射出充填1ショットごとにスクリュ内各部で測定した樹脂温度を重ね書きした樹脂温度計測結果である。この樹脂温度計測結果において、
図4に示すように、横軸に示す各位置での最大温度と最小温度の大きさを「うねり」と呼び、重ねがきした樹脂温度計測結果の変動指標として、ショット間の平均値の標準偏差を平均値で除した値を「バラツキ(変動係数)」と呼び、設定温度(
図4の例では220.2℃)に対する最大上昇量を「ΔT」と呼ぶ。こうした樹脂温度の計測は、スクリュ先端のノズルから排出された樹脂材料の樹脂温度計測結果を表示させるため、実際の射出成形に用いる金型ではなく、代用金型を用いて行っている。
図4において、X軸はスクリュ位置であり、Y軸は樹脂温度計測装置で計測した樹脂温度である。「うねり」と「バラツキ」との間には、ある程度の相関がみられることを確認している。したがって、良好な射出成形品を得るための、射出充填の際の樹脂材料の適切な可塑化状態(きれいに溶けた状態)とは、「うねり」が小さく、且つ「バラツキ」が小さい状態である。
【0051】
本発明では、この「適切な可塑化状態」であるか否かの判定指標を、
図1(A)、
図2(A)及び
図3(A)に示すように、プロファイル形態からなる推定固相率演算結果の形で判断できるようにした。
図1(A)、
図2(A)及び
図3(A)は、射出充填の際、スクリュ内の各位置での推定固相率を、入力した上記基本情報(樹脂データ、MFRデータ、スクリュデータ、加熱筒データ、射出充填条件等)を基に演算して算出し、その推定固相率を縦軸にしたものである。なお、各図(A)において、X軸のスクリュ位置の数字が大きくなる程、スクリュの先端側になることを示している。X軸の「0」の位置は、ホッパ中央を示している。一方、Y軸の推定固相率の「1」は、樹脂材料が完全固体の状態であり、「0」は樹脂材料が完全に溶融した状態である。
【0052】
図2(A)の推定固相率演算結果は、樹脂材料の溶融位置が早過ぎる場合の結果を示している。
図2(B)は、設定温度が220.2℃の場合に、各部での実際の樹脂温度計測装置で計測した結果であり、樹脂温度は発熱量ΔTが大きく、且つ、「うねり」や「ばらつき」も大きく、「適切な可塑化状態」ではないことを示している。また、
図3(A)の推定固相率演算結果は、樹脂材料が各部で完全に溶けていない状態を示す計測結果である。
図3(B)は、設定温度が220.2℃の場合に、各部での実際の樹脂温度計測装置で計測した結果であり、樹脂温度の発熱量ΔTは負に大きく、且つ、「うねり」や「ばらつき」も大きく、さらに可塑化時間も長く、不安定である。この場合も、
図2と同様、「適切な可塑化状態」ではないことを示している。
【0053】
一方、
図1(A)の推定固相率演算結果は、樹脂材料がスクリュ先端で完全に溶融した状態を示す計算結果である。
図1(B)は、設定温度が220.2℃の場合に、各部での実際の樹脂温度計測装置で計測した結果であり、「うねり」や「バラつき」が大幅に改善されているのがわかる。こうした状態は、「適切な可塑化状態」ということができる。
【0054】
図6は、樹脂温度のうねりの実測値(横軸)と樹脂温度安定性(縦軸)との関係を示す説明図である。この図の縦軸は、
図1(A)~
図3(A)のX軸の「スクリュ先端位置」-「完全溶融位置」(完全溶融していない場合とスクリュ先端で固相率が「0」の場合は「0」とする。)の値に、
図1(A)~
図3(A)のY軸の「スクリュ先端での推定固相率(無次元解)」(実際は未溶融ポリマー分率に変換したものである。)の数倍値(倍率は任意である。)を加算した値とした。横軸は、
図4で説明した「うねり」の実測結果とした。こうしてプロットしたのが
図6であり、その値が小さい程「適切な可塑化状態」ということができる。縦軸の樹脂温度安定性は、実測された「うねり」と相関していることがわかる。縦軸も横軸も小さい方が樹脂温度安定性は安定しているといえる。
図6では、従来、発熱量、黒点発生率及び未溶融ポリマー分率の3つにより表現されてきた「適切な可塑化状態」と同様の相関(r=0.77対しr=0.79。相関はrが1に近づくほど高い。)を示していた。こうしたことから、
図1(A)~
図3(A)に示す推定固相率演算結果の形によって、「適切な可塑化状態」であるか否かを判断でき、その推定固相率の状態を判定指標に数値化することができる。
【0055】
表1は、
図2(B)の場合の発熱量ΔTの計算値及び実測値と、樹脂温度安定性の計算値及び実測値である。表2は、
図1(B)の場合の発熱量ΔTの計算値及び実測値と、樹脂温度安定性の計算値及び実測値である。樹脂温度安定性の値が小さい程、「適切な可塑化状態」であることから、樹脂温度安定性の値が0.1未満なら「優」、0.1以上0.5未満なら「良」、0.5以上1.0未満なら「可」、1.0以上なら「不可」とする指標を設定し、判定することができる。
【0056】
【0057】
【0058】
表示部に表示される判定指標は、上記した無次元の樹脂温度安定性として値で表示される。こうすることにより、表示される樹脂温度安定性を判定指標とすることができ、その樹脂温度安定性の値が小さいほど、適切な可塑化状態と判断することができる。
【0059】
なお、従来(特許文献3の技術)は、
図2(A)や
図3(A)に示す推定固相率演算結果の状態から、
図1(A)に示す推定固相率演算結果の状態にするために、各設定値を少しずつ変更させながら最適な可塑化状態となる推定固相率を把握する必要があった。そのためには、一点ずつ設定条件を変更しながら演算結果を参照する必要があった。また、従来の射出成形機では、操作画面で「推定固相率」を表示しなかったり、「適切な可塑化状態」の数値化ができていなかったりした。これに対し、本発明の射出成形支援装置では、上記したように、外部エネルギーの算出と可塑化時間の算出の際に使用した加熱筒データ情報、スクリュデータ情報、成形機データ情報、樹脂データ情報に加え、必要な場合には可塑化時間も加えて算出して得られた推定固相率を、スクリュ各部を横軸として繋ぎ合わせることにより、
図1(A)等に示す推定固相率及び樹脂温度安定性の判定指標を短時間に得ることができる。これら演算の時間は0.1秒以下の短時間とすることができる。
【0060】
以上説明したように、この成形条件確認用射出成形支援装置は、射出充填の際の条件が樹脂材料を適切な可塑化状態とする条件であるか否かの判定指標を提示することができる。特に、各条件を基本情報とし、独自に開発した射出理論式により得られた推定固相率を活用し、スクリュ先端での樹脂材料の推定固相率が適切な値(例えば0又は0に近い値)であるか否かを判定指標とすることにより、極めて短時間(例えば0.1秒以下)で行うことを可能とし、その判定指標を作業オペレータの効果的な判断要素とすることができる。
【0061】
<処理フロー>
図5は、成形条件確認用射出成形支援装置を用いて、射出充填の際の樹脂材料を可塑化状態にするための設定条件が適切な値であるか否かの判定を短時間で行うフロー図である。
【0062】
まず、支援プログラムを実行する(S1)。次いで、オペレータは、ディスプレイに表示される入力画面(第1設定部)から、樹脂材料に関する樹脂材料データを入力する(S2)。入力画面に樹脂材料の種別を選択できる樹脂選択部が表示されている場合は、そこから使用する樹脂材料を選択する。その選択により、予め内部メモリに登録されている樹脂材料データが入力データとして設定される。また、使用する樹脂材料のMFRデータを入力する(S3)。次いで、スクリュデータを入力する(S4)。スクリュデータを入力する際には、スクリュデータの入力画面から個々の寸法情報やスクリュの材質等を数値又は選択により入力してもよいし、スクリュに付した型番等を入力画面の表示から選択することにより、予め登録されたスクリュデータから自動的に設定されるようにしてもよい。次いで、加熱筒データを入力する(S5)。加熱筒データを入力する際には、加熱筒データの入力画面から個々の寸法情報、材質、制御点位置、ヒータ長さ、ヒータ位置、ワット数等を数値又は選択により入力してもよいし、加熱筒データに付した型番等を入力画面の表示から選択することにより、予め登録された加熱筒データから自動的に設定されるようにしてもよい。
【0063】
上記した基本情報を設定(入力)した後、オペレータは通常の設定手順にしたがって、成形条件を設定する(S6)。成形条件の設定は、成形条件設定画面により行うことができる。設定された成形条件は、成形条件データとして設定される。その他、成形準備に必要な入力処理を行えば、必要な基本情報に係わる設定(入力)が終了する。
【0064】
成形条件の設定を行った後、所定の支援開始キー(図示しない)をONにする。これにより、Tadmorモデル式を射出理論式に展開した上記式A及び式Bを実行する演算処理が実行され、設定された基本情報に基づいてスクリュの各部での推定固相率が演算される(S7)。引き続いて、その推定固相率を用い、スクリュ各部の横軸として繋ぎ合わせることにより、推定固相率演算結果を得ることができる(S8)。
【0065】
演算した推定固相率の結果から、上記したように、無次元の樹脂温度安定性の値を演算し、その樹脂温度安定性の値を、例えば0.1未満なら「優」、0.1以上0.5未満なら「良」、0.5以上1.0未満なら「可」、1.0以上なら「不可」とする指標を設定することで、良否判別する(S9)。その良否判別を、支援メッセージとして表示部で表示する(S10)。こうして、射出充填の際の条件が樹脂材料を適切な可塑化状態とする条件であるか否かの判定指標を提示することができる。
【0066】
[最適条件提示用の射出成形支援装置]
<設定部/第2設定部>
設定部(第2設定部)は、上記した第1設定部での基本情報のうち、樹脂材料に関する樹脂材料データ、スクリュに関するスクリュデータ、加熱筒に関する加熱筒データを少なくとも含む基本情報を設定するとともに、最適条件を得るための制約条件に関する制約情報を設定する部分である。前段の「樹脂材料に関する樹脂材料データ、スクリュに関するスクリュデータ、加熱筒に関する加熱筒データ」等については、上記第1設定部と併用してもよいが、第2設定部専用の設定部として設けてもよい。樹脂材料データ、スクリュデータ、加熱筒データ等は、第1設定部で説明したものと同様である。最適条件を得るための制約条件は、第1設定部での「射出充填の際の充填条件」の代わりに設定される条件である。この制約条件は、例えば
図9に示すような、スクリュ回転数(rpm)、背圧(MPa)、樹脂材料の計量位置(mm)、射出充填のサイクル時間(秒)、樹脂材料の射出時間(秒)、スクリュ3の各部の設定温度(℃)、落下口設定温度(℃)、ホッパ設定温度(℃)のほか、可塑化時間(秒)等を挙げることができる。
【0067】
この第2設定部は、既述の成形条件確認用射出成形支援装置で設定する第1設定部を合わせて備えたものであってもよいし、最適条件提示用射出成形支援装置で設定する第2設定部だけを備えたものであってもよい。
図9は一例であり、この態様に限定されない。第1の設定部と第2の設定部とを合わせて備える場合は、第1の設定部と第2の設定部とにそれぞれ必要に応じて各データを設定することができるので、射出成形機の特性や樹脂材料の種類等の仕様に応じた制約条件を入力でき、その仕様に適した条件として提示された最適条件を基にして、作業オペレータの判断を支援することができる。
【0068】
図9に示す第2設定部において、「最適数理システム」は高速演算手法を使用するか使用しないかを選択する表示であり、「使用しない」及び「使用する」の選択については、「使用しない」を選択した場合は、その条件項目は使用せず、「使用する」を選択した他の条件項目だけで高速演算手法で演算する。一方、「使用する」を選択した場合は、選択された条件項目を使用し、「使用しない」を選択した条件項目を除いて高速演算手法で演算する。また、
図9において、「制約条件」の「最小」及び「最大」については、条件項目の最小値と最大値を入力する部分であり、その最小値と最大値の範囲内で、高速演算手法で演算することを意味する。したがって、第2設定部で設定した条件の上下限の範囲内で、高速演算手法で演算することになる。
【0069】
この第2設定部も、第1設定部での説明と同様、表示パネルに設けられていることが好ましい。表示パネルの種類も第1設定部での説明と同様のものを適用できる。
【0070】
<演算部>
演算部は、基本情報と制約情報に基づき、樹脂材料の推定固相率を最適数理処理システムによる高速演算手法により演算する部分である。この演算部で演算される推定固相率は、
図8のフロー図に示すように、基本情報と制約情報を基に演算して得た推定固相率を用いて得られる。こうすることにより、それら情報の範囲内で表示された最適条件を実際の成形時の判定指標として利用することができる。演算は、入力された基本情報と制約情報のうち、制約情報の範囲内で最適な条件が演算される。
【0071】
最適数理処理システムは、特定条件下の最適な推定固相率を算出する処理システムであり、具体的にはスクリュ先端での樹脂材料の推定固相率(本願では第1の推定固相率という。)の値だけを0にする又は0に近づけるための演算を行う。こうした演算により、第1の推定固相率の値だけを0にする又は0に近づける射出充填条件を算出することができる。算出された射出充填条件は、射出充填の際の最適な条件である。「最適な条件」とは、樹脂材料の可塑化状態が上記固相率(0又は実質的に0)である場合の条件ということができる。ここで、第1の推定固相率とは、スクリュ先端位置での推定固相率のことであり、そのスクリュ先端位置での推定固相率が0又は実質的に0となり、その第1の推定固相率以外の箇所での推定固相率(本願では第2の推定固相率という。)は0又は実質的に0ではないことが、「最適な可塑化状態」を示すことになる。
【0072】
「適切な可塑化状態」となる条件を演算する手法として、本発明では、最適数理処理システムによる高速演算手法を適用した。高速演算手法として数理計画法を適用したが、数理計画法は、線形解析及び非線形解析に大別される。この射出成形では、非線形解析で最適条件を導く必要がある。なお、非線形解析には、逐次探索法、黄金分割法、最急降下法又はニュートン法等があり、また、制約条件も考慮したペナルティー関数法や逐次二次計画法等多くの手法が存在する。しかし、どれも精度は高いが演算時間が遅い、又は精度は中程度だが演算時間は早い等、未だ発展途上段階である。なお、非線形解析のアルゴリズムは、線形解析と比して難しくなるが、本発明で適用した最適数理システムは、ラグランジュの未定乗数法を改良したものであり、非線形解析による最適条件の演算を行った。最適化手法における数学的解法を以下に示す。
【0073】
射出充填のための条件は、適用する射出成形機の仕様により様々な制約がある。そうした制約条件のもとで算出された樹脂温度安定性の演算値は、下記式(1)に当てはめて多項式を算出する。この式(1)の2次多項式の近似式は、下記式(2)で定められる。このとき、a,b,cの偏微分を0にする。よって、aの偏微分は、下記式(3)となる。同様に、b及びcについても偏微分を行う。これらにより、下記式(4)の正規方程式を得ることができる。a,b,c,の解を求めた後に、f≒fαとして近似式を求める。その後、制約条件gに対し、下記式(5)のラグランジュの未定乗数法を利用して、最適解を算出する。
【0074】
【0075】
最適解の算出については、例えば
図2(A)の推定固相率演算結果に示すように発熱量が大きく、且つうねり及びバラつきが大きくて完全溶融位置がスクリュ先端位置よりもずっとホッパ側にある場合、
図9に示す制約条件を設定して最適条件を導き出した。このとき、
図9に示す制約条件として、回転数60~200rpm、背圧5~25MPa、サイクル時間50~55秒、射出時間5~20秒、各加熱筒設定温度(ここでは5ゾーン分)180~220℃、落下口及びホッパ温度 25~100℃として、演算し、最適解を算出した。なお、計量位置は、最大/最小の制約条件は設定せず、50mmを使用した。
【0076】
演算した後の条件の最適値は、
図10に示すように、回転数50rpm、背圧10.3MPa、サイクル時間50秒、射出時間5秒、設定温度220℃(ノズル部)~215℃(ヘッド部)~210℃(前部)~205℃(中央部)~200℃(後部)、落下口温度25℃、ホッパ温度34.5℃であった。この
図10は、
図9に示す設定部の入力情報に基づき、射出充填の際の条件が樹脂材料を「適切な可塑化状態」とする最適条件を高速演算手法を用いて算出した結果の表示例である。
図7は、この条件を再度入力した後、その条件で演算させた結果の推定固相率である。この推定固相率は、スクリュ先端位置での推定固相率がほぼ「0」であり、演算後の条件とすれば、「適切な可塑化状態」に推定固相率が表示された。こうした演算は。ラグランジュの未定乗数法を改良した式を基に行うことで、最適解を精度良く、さらに設定条件を2秒以内という短時間で演算することができるようになった。
【0077】
<表示部>
表示部は、既述した成形条件確認用射出成形支援装置の場合と同様、上記演算部で演算された推定固相率の値に応じた判定指標を表示する。この表示部により、射出充填の際において、最適数理処理システムによる高速演算手法により、制約条件の範囲内で演算された演算結果を作業オペレータの効果的な判断要素として提示することができる。表示される推定固相率は、スクリュ先端での樹脂材料の推定固相率であり、スクリュ先端での樹脂材料の推定固相率が適切な値(例えば0又は0に近い値)であるか否かを判定指標として表示する。
【0078】
表示される推定固相率は、スクリュ先端での樹脂材料の第1の推定固相率と、スクリュ先端以外での樹脂材料の第2の推定固相率とを少なくとも有した2以上の推定固相率からなるプロファイルとして表示されることが好ましい。こうすることにより、基本情報及び制約情報の範囲内で表示された最適条件を実際の成形時の判定指標として利用することができる。そうした表示部では、第1の推定固相率と第2の推定固相率だけを表示してもよいし、さらにそれ以外の推定固相率を含めて表示してもよいが、この発明によれば、第1の推定固相率と第2の推定固相率とを含む推定固相率全体をプロファイルとして表示したり、一部をプロファイルとして表示したりすることにより、作業オペレータが目視にて容易に確認することができる。
【0079】
表示部に表示される判定指標は、無次元の樹脂温度安定性として表示される。こうすることにより、表示される無次元の樹脂温度安定性を判定指標とすることができ、その樹脂温度安定性の値が小さいほど、適切な可塑化状態と判断することができる。判定指標としては、樹脂温度安定性の値を、例えば0.1未満なら「優」、0.1以上0.5未満なら「良」、0.5以上1.0未満なら「可」、1.0以上なら「不可」とする指標を設定することで、良否判別することができる。その良否判別を再度行いたい場合は、
図8に示す再演算(リトライ)を実行する。
図8に示す「リトライ」の判断ステップにより、必要に応じて推定固相率を再度算出する。再度の算出にあたっては、最初に設定した制約条件を変更して再演算することになる。再演算後の推定固相率についても、上記同様の指標で消費判別する。
【0080】
以上説明したように、最適条件提示用の射出成形支援装置では、適切な可塑化状態とする最適条件を最適数理処理システムによる高速演算手法により制約条件の範囲内で演算し、その判断結果に応じた判定指標を提示することができる。特に、最適数理処理システムによる高速演算手法により、制約条件の範囲内で演算されるので、その演算結果を作業オペレータの効果的な判断要素とすることができる。
【0081】
<処理フロー>
図8は、最適条件提示用射出成形支援装置を用いて、射出充填の際の樹脂材料を「適切な可塑化状態」にするための最適条件を算出し、算出した最適条件が適切な値であるか否かの判定を行うフロー図である。
【0082】
まず、支援プログラムを実行する(S11)。次いで、オペレータは、入力画面(第1設定部)から、各種の条件を入力する(S12)。その条件としては、樹脂材料に関する樹脂材料データ、MFRデータ、スクリュデータ、加熱筒データ等を挙げることができる。なお、入力画面に各データの種別を選択できる選択部が表示されている場合は、そこから使用するものを選択する。その選択により、予め登録されているデータを入力データとして設定することができる。これについては、既述した成形条件確認用射出成形支援装置の場合と同様であるので、ここではその説明を省略する。
【0083】
次に、制約条件を第2設定部に入力する(S13)。制約条件は、例えば
図9に示す条件等を挙げることができるが、これに限定されない。次に、入力された基本情報及び制約条件(制約情報)を用いて高速演算を実行する(S14)。高速演算は、既述したように、式1~式5を使用したラグランジュの未定乗数法を改良した方法で行う。こうした高速演算により、最適解である最適条件が算出される。
【0084】
その後は、
図5に示した処理フローと同様、演算後の最適条件で推定固相率が演算される(S15)。推定固相率の演算は、成形条件確認用射出成形支援装置のところで説明したのと同様である。得られた推定固相率をスクリュ各部の横軸として繋ぎ合わせることにより、
図7に示す推定固相率演算結果を得ることができる(S16)。なお、演算部で演算される推定固相率は、基本情報及び制約情報に基づいて演算された推定固相率を用いて得られる。この推定固相率は、それら情報の範囲内で表示された最適条件を実際の成形時の判定指標として利用することができる。
【0085】
演算した推定固相率の結果から、上記したように、無次元の樹脂温度安定性の値を演算し、その樹脂温度安定性の値を、例えば0.1未満なら「優」、0.1以上0.5未満なら「良」、0.5以上1.0未満なら「可」、1.0以上なら「不可」とする指標を設定することで、良否判別する(S17)。その良否判別を、支援メッセージとして表示部で表示する。こうして、射出充填の際の条件が樹脂材料を適切な可塑化状態とする条件であるか否かの判定指標を提示することができる。
【0086】
なお、既述したように、良否判別を再度行いたい場合は、
図8に示す再演算(リトライ)を実行する。「リトライ」の判断ステップにより、必要に応じて推定固相率を再度算出する。再度の算出にあたっては、最初に設定した制約条件を変更して再演算することになる。再演算後の推定固相率についても、上記同様の指標で消費判別する。その後、必要に応じて、得られた最適条件を射出充填に反映させる(S18)。こうして、制約条件下での最適演算モードでの最適条件を演算し、良否判別することができる。
【0087】
<高速演算処理フロー>
制約条件の範囲内で樹脂温度安定性を演算した際、ラグランジュの未定乗数法で得られた二次関数の最適解が制約条件の範囲を超える場合は、その制約条件の範囲の二次関数曲線を一次関数として判断し、最適値を算出する。最適解は、例えば
図9に示すように、回転数、背圧、計量位置、サイクル時間、射出時間、加熱筒設定温度、落下口温度及びホッパ温度を制約条件として演算して得られ、表示パネルに表示することができる。
【0088】
高速演算処理フローを
図11に示す。
図11に示すように、先ず、設定部で条件設定するが、制約条件がない場合は、
図5のS7(推定固相率の演算)を実行し、その後は、
図5に示す成形条件確認モードの各ステップで処理される。
【0089】
一方、制約条件がある場合は、制約条件の入力(
図8のS13)を行う。制約条件として、例えば
図11に示すように、回転数や背圧等を挙げることができる。制約条件1については、制約条件範囲内で樹脂温度安定性が演算されて二次式が作成され、ラグランジュの未定乗数法による最適値演算が行われる。このとき、最適値が制約条件を超えない場合はそのまま次の制約条件での演算となるが、最適値が制約条件を超える場合は一次式による最適解の算出が行われる。
【0090】
次に、制約条件2についても、上記制約条件1の場合と同様の演算が行われ、その後、制約条件3以降も同様である。制約条件毎の最適解を算出した後は、それらを基にして固相率が算出され、推定固相率演算結果が算出され、樹脂温度安定性が算出される。その樹脂温度安定性の結果の良否判定を行い、その結果が不十分の場合は再設定を行う。再設定は、制約条件を再入力し、再度、上記したフローで演算が行われる。樹脂温度安定性の良否判断で良い場合は、その結果を成形条件に反映する。
【0091】
[射出成形機]
本発明に係る射出成形機10は、上記本発明に係る射出成形支援装置を備えている。
図12は、射出成形機10の概要図であり、
図13は、射出成形金型も一例であり、
図14はスクリュの一例であり、
図15は、射出成形支援装置の主な構成を示すブロック図である。以下で説明する射出成形機10は一例であり、この射出成形機に限定されない。
【0092】
射出成形機10は、
図12に示すように、機台11と、機台11上に設けられた、射出装置12、型締装置13、表示装置14及び制御装置51とを少なくとも備えている。射出装置12と型締装置13の駆動部には、カバー(19,29,30)が設けられている。
図12の例は横型の射出成形機であるが、竪型の射出成形機であってもよく、特に限定されない。また、駆動方式も限定されず、電気駆動であってもよいし油圧駆動であってもよい。
【0093】
型締装置13は、型締めや型開型閉を行う装置であり、ここではそれら機能を有する装置として「型締装置13」と呼んで説明する。型締装置13は、
図13に示すように、金型2を備えている。金型2には、射出装置12が備える加熱筒17のノズル先端4n(
図14参照)から射出された樹脂材料が充填される。この型締装置13では、充填された樹脂材料が冷却して固化した後に、金型2を開いて成形品が取り出される。
【0094】
型締装置13では、固定型2aと可動型2bとの型締め(型閉じ)と型開きを行う。型締め型開きは、
図13に示すように、可動盤に取り付けられた可動型2bを進退移動させて行われる。可動型2bの進退は、型締駆動部(図示しない)を駆動させ、トグルリンク23とクロスヘッド24とでトグルリンク23を伸長又は屈曲させて行う従来公知の手段で行われる。
【0095】
射出装置12は、
図12に示すように、樹脂材料を可塑化する加熱筒17と、加熱筒17に供給される樹脂材料を貯蔵するホッパ18と、射出機構19とで主に構成されている。加熱筒17の内部には、スクリュ3が設けられている。ホッパ18から加熱筒17の内部に供給された樹脂材料は、外周に巻かれたヒータ4で加熱され、可塑化されながら計量が行われ、スクリュ3の回転動作で先端側に送られ、スクリュ3が前進して先端ノズル5から射出される。射出機構19では、駆動動力源として油圧駆動装置や電動駆動装置が用いられる。加熱筒17内に設けられたスクリュ3は、
図14に示すように、回転機構や、前進及び後退機構によってそれぞれ動作する。なお、スクリュ3において、Zmはメターリングゾーンを指し、Zcはコンプレッションゾーンを指している。
【0096】
図15は、射出成形支援装置で「適切な可塑化状態」を演算し、表示するための各部のブロック図である。本発明に係る射出成形機10は、全体を制御する制御装置51(
図12参照)を有している。制御装置51は、
図15のブロック図に示すように、CPU等のハードウェアを内蔵したコンピュータ機能を有するコントローラ本体及び各種データ及びプログラムを含む登録データを書込んだ内部メモリを備えている。また、コントローラ本体と内部メモリからなる制御装置本体には、ディスプレイが接続されている。ディスプレイでは、必要な情報表示が行われるとともに、タッチパネルが設けられ、このタッチパネルを用いて、入力,設定,選択等の各種入力操作が行われる。さらに、制御装置本体には、各種アクチュエータを駆動(作動)するドライバ群が接続されている。ドライバ群には、
図14に示した給電回路及び温調水循環回路を含む温調ドライバ,給電ドライバ及びヒータドライバが含まれている。
【0097】
制御装置は、HMI制御系及びPLC制御系を含み、内部メモリには、PLCプログラム及びHMIプログラムが格納されている。PLCプログラムにより、射出成形機における各種工程のシーケンス動作や射出成形機の監視等が実行されるとともに、HMIプログラムにより、制御装置の動作パラメータの設定及び表示,制御装置の動作監視データの表示等が実行される。こうした制御装置の構成は、この形態に限定されず、一般的な射出成形機と同様の構成であればよい。
【0098】
以上、好適実施形態について詳細に説明したが、本発明は、このような実施形態に限定されるものではなく、細部の構成,形状,素材,材料,数量,数値,手法等において、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更,追加,削除することができる。
【0099】
なお、本発明に係る射出成型支援装置及びこの射出成型支援装置を備えた射出成形機は、設定部(第1設定部、第2設定部)での操作(条件設定操作、最適化操作)を、無線通信(モバイル網)で接続可能な端末(例えば、スマートフォン等の移動体通信端末や、パーソナルコンピューター等)で可能にしてもよいし、無線通信と有線通信(固定網)とを併用して接続可能な端末で可能にしてもよい。そうした端末には、射出成型支援装置が備える表示部と同じ表示画面が表示されていてもよいし、端末用表示画面としてモディファイされた表示画面が表示されていてもよい。そうした端末では、表示画面を見ながら、射出成型支援装置が備える設定部と同様の操作が行えるようにしてもよい。こうすることで、作業オペレータは、射出成形機の傍らで射出成型支援装置の表示画面を目て条件設定しなくてもよく、離れたオフィスフロアでの業務中、通勤時の移動中、自宅でのテレワーク中等において、離れた場所で表示画面を見て条件設定することができる。その結果、オペレータは、様々な場所で、状態について診断でき、随時最適化を行うことができるので、作業の効率化を図ることができる。
【符号の説明】
【0100】
2 金型
2a 固定型
2b 可動型
3 スクリュ
4 ヒータ
5 ノズル
6 スクリュ先端
10 射出成形機
11 架台
12 射出装置
13 型締装置
14 表示装置
17 加熱筒
18 ホッパ
19 射出機構
20,29,39 カバー
23 トグルリンク
24 クロスヘッド
51 制御装置
Zm メターリングゾーン
Zc コンプレッションゾーン