IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コリア ユニバーシティ リサーチ アンド ビジネス ファウンデーションの特許一覧

特許7537063陽イオンの種類を制御したゼオライトを含む炭化水素吸脱着複合体およびその製造方法
<>
  • 特許-陽イオンの種類を制御したゼオライトを含む炭化水素吸脱着複合体およびその製造方法 図1
  • 特許-陽イオンの種類を制御したゼオライトを含む炭化水素吸脱着複合体およびその製造方法 図2
  • 特許-陽イオンの種類を制御したゼオライトを含む炭化水素吸脱着複合体およびその製造方法 図3
  • 特許-陽イオンの種類を制御したゼオライトを含む炭化水素吸脱着複合体およびその製造方法 図4
  • 特許-陽イオンの種類を制御したゼオライトを含む炭化水素吸脱着複合体およびその製造方法 図5
  • 特許-陽イオンの種類を制御したゼオライトを含む炭化水素吸脱着複合体およびその製造方法 図6
  • 特許-陽イオンの種類を制御したゼオライトを含む炭化水素吸脱着複合体およびその製造方法 図7
  • 特許-陽イオンの種類を制御したゼオライトを含む炭化水素吸脱着複合体およびその製造方法 図8
  • 特許-陽イオンの種類を制御したゼオライトを含む炭化水素吸脱着複合体およびその製造方法 図9
  • 特許-陽イオンの種類を制御したゼオライトを含む炭化水素吸脱着複合体およびその製造方法 図10
  • 特許-陽イオンの種類を制御したゼオライトを含む炭化水素吸脱着複合体およびその製造方法 図11
  • 特許-陽イオンの種類を制御したゼオライトを含む炭化水素吸脱着複合体およびその製造方法 図12
  • 特許-陽イオンの種類を制御したゼオライトを含む炭化水素吸脱着複合体およびその製造方法 図13
  • 特許-陽イオンの種類を制御したゼオライトを含む炭化水素吸脱着複合体およびその製造方法 図14
  • 特許-陽イオンの種類を制御したゼオライトを含む炭化水素吸脱着複合体およびその製造方法 図15
  • 特許-陽イオンの種類を制御したゼオライトを含む炭化水素吸脱着複合体およびその製造方法 図16
  • 特許-陽イオンの種類を制御したゼオライトを含む炭化水素吸脱着複合体およびその製造方法 図17
  • 特許-陽イオンの種類を制御したゼオライトを含む炭化水素吸脱着複合体およびその製造方法 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】陽イオンの種類を制御したゼオライトを含む炭化水素吸脱着複合体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/18 20060101AFI20240814BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20240814BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20240814BHJP
   C01B 39/40 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
B01J20/18 D
B01J20/28 Z
B01J20/30
C01B39/40
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021189494
(22)【出願日】2021-11-22
(65)【公開番号】P2022083428
(43)【公開日】2022-06-03
【審査請求日】2021-11-22
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】10-2020-0158372
(32)【優先日】2020-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518107501
【氏名又は名称】コリア ユニバーシティ リサーチ アンド ビジネス ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】KOREA UNIVERSITY RESEARCH AND BUSINESS FOUNDATION
【住所又は居所原語表記】145,Anam-ro,Seongbuk-gu,Seoul,Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】チェー ジュン-キュ
(72)【発明者】
【氏名】イ,クァン-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジン-ソン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,ウン-ヒ
【合議体】
【審判長】日比野 隆治
【審判官】宮澤 尚之
【審判官】後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/132482(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0324268(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J20/00-20/28,20/30-20/34
C01B33/20-39/54
B01D53/73,53/86-53/90,53/94,53/96
B01J21/00-38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素吸脱着複合体であって、
水素陽イオンを含むゼオライト粒子と、
前記ゼオライト粒子と化学的に結合した金属イオンと、
前記ゼオライト粒子の表面に提供された金属酸化物と、
を有し、
前記ゼオライト粒子におけるナトリウム対アルミニウムのモル比(Na/Al)は0.2以下であり、
前記ゼオライト粒子は、ZSM-5(Zeolite Socony Mobil-5)系粒子であり、
1nm以下のサイズを有する微細気孔容積は、0.1cm /g以上であり、Si/Alモル比は、11.3±1.3から12.7±2.1であり、
前記金属酸化物の平均直径は1~10nmであり、
前記炭化水素吸脱着複合体は、下記式(1)を満たし、
100ppmのプロペン、100ppmのトルエン、1mol%の酸素、10mol%の水蒸気を含み、ヘリウムバランスで炭化水素が、トータルで100mL/分注入され、ここで、注入/重量=100,000mL/g・hであり、70℃で5分間暴露され、53℃/分の温度上昇条件で10分間処理され、その後、600℃で5分間暴露され、吸脱着特性が測定され、
前記吸脱着特性は、温度が300℃に到達する時間まで、放出された炭化水素の量により測定され、
【数2】
前記式(1)において、
In は炭化水素吸脱着複合体に注入される全体炭化水素の量を表し、
Out は炭化水素吸脱着複合体を経て排出される全体炭化水素の量を表し、
Aは30であり、炭化水素処理効率を表す、炭化水素吸脱着複合体。
【請求項2】
炭化水素吸脱着複合体は300℃以下の温度で炭化水素の吸着を表し、
180℃以上の温度で酸化を表す、請求項1に記載の炭化水素吸脱着複合体。
【請求項3】
前記金属イオンは3族~12族の元素の中の何れか一つ以上の金属の陽イオンであり、
前記金属酸化物は3族~12族の元素の中の何れか一つ以上の金属の酸化物である、請求項1に記載の炭化水素吸脱着複合体。
【請求項4】
前記金属イオンは、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ロジウムおよびカドミウムの中の何れか一つ以上の金属の陽イオンを含み、
前記金属酸化物は鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ロジウムおよびカドミウムの中の何れか一つ以上の金属の酸化物である、請求項に記載の炭化水素吸脱着複合体。
【請求項5】
前記炭化水素吸脱着複合体の大きさは50~5000nmである、請求項1に記載の炭化水素吸脱着複合体。
【請求項6】
前記金属イオンは前記ゼオライト粒子に形成された気孔内部に結合されている、請求項1に記載の炭化水素吸脱着複合体。
【請求項7】
請求項1乃至の何れか一項に記載の炭化水素吸脱着複合体を調製する方法であって、
イオン交換方法を利用して水素陽イオンを含むゼオライト粒子を製造するステップ、および
前記水素陽イオンを含むゼオライトを、金属イオンを含む溶液に混合して、前記金属イオンおよび金属酸化物を形成するステップ
を有し、
前記水素陽イオンを含むゼオライト粒子を製造するステップにおいて、前記ゼオライト粒子のナトリウム対アルミニウムのモル比(Na/Al)は0.2以下であり、
前記金属酸化物は、前記ゼオライト粒子上の平均直径が1~10nmとなるように形成される、方法。
【請求項8】
前記水素陽イオンを含むゼオライト粒子を製造するステップは、アンモニウム塩水溶液をゼオライト粒子と20時間~30時間混合し、
前記アンモニウム塩水溶液は硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、過硫酸アンモニウム、アンモニア水、炭酸水素アンモニウムおよび蟻酸アンモニウムの中の何れか一つ以上を含む、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記金属イオンおよび金属酸化物を形成するステップは湿式含浸法を利用する、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記金属イオンおよび金属酸化物を形成するステップ以後に、600℃~900℃の温度で5~15容積%の水蒸気を注入して1時間~36時間水熱処理するステップをさらに含み、
前記炭化水素吸脱着複合体の重量に対する水蒸気を含む模擬排出ガスの時間当りガス流量は10000~200000mL/g・hである、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記金属イオンは3族~12族の元素の中の何れか一つ以上の金属の陽イオンを含む、請求項に記載の方法。
【請求項12】
請求項1乃至の何れか一項に記載の炭化水素吸脱着複合体を含む自動車用炭化水素吸脱着複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゼオライトを含む炭化水素吸脱着複合体に関し、ゼオライト構造内の陽イオンの種類を制御してゼオライト上に形成される金属イオンおよび金属酸化物を効果的に分散させた炭化水素吸脱着複合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大気汚染に対する関心が高まるにつれて、アメリカ、ヨーロッパなどでガソリン車、ディーゼル車で排出される一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)、炭化水素(HC、hydrocarbon)、粒子状物質(PM、particulate matter)などの排出ガス規制が強化されている。特に、1992年のユーロ1から2020年のユーロ6dで、時間が経つにつれて炭化水素(HC)の排出量を1992年に比べて~80%以上減縮しなければならない。ガソリン車がHCを排出する場合、三元触媒(three-way catalysts;TWCs、HC酸化に作用する)が活性を見せない低温始動区間(cold start period)で運行期間中に排出される炭化水素排出量の50~80%にあたる炭化水素が排出される。低温始動区間で排出される炭化水素を低減するために、炭化水素吸着剤(HC trap)に対する研究が行われている。炭化水素吸着剤とは、低温始動区間で排出される炭化水素を吸着して三元触媒が活性を表す温度(約200~300℃)に到逹する時に既に吸着した炭化水素を脱着させる装置である。
【0003】
高い物理的、化学的安定性を有するゼオライトを炭化水素吸着剤として用いた研究がたくさん行われている。ガソリン車の代表的な炭化水素排出物質であるプロペン(propene)、トルエン(toluene)の吸着および脱着測定を通じて炭化水素吸着剤の性能をテストしている。ゼオライト構造およびSi/Al比、金属含浸有無による炭化水素吸着剤性能に関する研究が行われた。ゼオライトのAl含有量が多くなるほど(つまり、Si/Al値が小さくなるほど)ゼオライトに大量の炭化水素が吸着された。また、多様なゼオライト構造の中でもzeolite Socony Mobil-5 (ZSM-5)とbeta構造ゼオライトが高い性能を表した。しかしながら、このようなゼオライトのみからなる炭化水素吸着剤は300℃以下での炭化水素吸着および酸化力が低くて、三元触媒が活性を表す温度に到逹するまでの低温始動区間で発生する炭化水素を充分に処理できず、さらに、多量の水分(~10容積%)が存在する場合、炭化水素吸着剤の性能が低下されるという問題点がある。
【0004】
このような問題を解決するために、三元触媒が活性を表す温度よりも低い温度で炭化水素を吸着および酸化させ、多量の水分が存在する場合にも優れた炭化水素の吸着能および酸化能を表す吸着剤の開発が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-512022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ゼオライトの陽イオン種類の調節を通じて金属イオンおよび金属酸化物の分布を調節して炭化水素吸脱着複合体の吸着および酸化性能を調節した炭化水素吸脱着複合体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、水素陽イオンを含むゼオライト粒子と、
前記ゼオライト粒子と化学的に結合した金属イオンと、
前記ゼオライト粒子の表面に備えられる金属酸化物とを含み、
前記ゼオライト粒子のうち、アルミニウム対比ナトリウムのモル比(Na/Al)は0.2以下であり、
前記金属酸化物の平均直径は1~10nmである炭化水素吸脱着複合体を提供する。
【0008】
また、本発明は、ゼオライト粒子をイオン交換方法を利用して水素陽イオンを含むゼオライト粒子を製造するステップと、
前記水素陽イオンを含むゼオライトを金属イオンを含む溶液に混合して金属イオンおよび金属酸化物を形成するステップとを含み、
前記水素陽イオンを含むゼオライト粒子を製造するステップで、前記ゼオライト粒子のうち、アルミニウム対比ナトリウムのモル比(Na/Al)は0.2以下であり、
前記金属酸化物は前記ゼオライト粒子上に平均直径は1~10nmで形成されたことを特徴とする炭化水素吸脱着複合体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明による炭化水素吸脱着複合体は、金属イオンおよび金属酸化物の分布を調節して触媒活性温度よりも低い温度でも優れた炭化水素吸着能および酸化性能を表すことができる。
【0010】
また、本発明による炭化水素吸脱着複合体は、水熱安定性も増加して、水分が存在する状況で高い温度を加える水熱処理過程を経てからも優れた炭化水素吸着および脱着性能を表すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施例による炭化水素吸脱着複合体を走査電子顕微鏡(SEM)および透過電子顕微鏡(TEM)で撮影したイメージである。
図2】本発明の一実施例による炭化水素吸脱着複合体の物理化学的特性を確認したグラフである:(a)および(b)はX線回折分析グラフであり、(c)および(d)はSEM/EDXマッピングイメージであり、(e)および(f)は窒素吸着等温線グラフであり、(g)および(h)は29Si MAS NMRグラフである。
図3】本発明の一実施例による炭化水素吸脱着複合体の走査電子顕微鏡(SEM)イメージおよびSEM/EDXマッピングイメージである:(a)は走査電子顕微鏡イメージであり、(b)はケイ素のSEM/EDXマッピングイメージであり、(c)はアルミニウムのSEM/EDXマッピングイメージであり、(d)は銅種のSEM/EDXマッピングイメージであり、(a1-d1)はNaZ、(a2-d2)はHZ、(a3-d3)は比較例1の炭化水素吸脱着複合体(CuNaZ)、および(a4-d4)は実施例1の炭化水素吸脱着複合体(CuHZ)のイメージである。
図4】本発明の他の実施例による炭化水素吸脱着複合体の走査電子顕微鏡(SEM)イメージおよびSEM/EDXマッピングイメージである:(a)は走査電子顕微鏡イメージであり、(b)はケイ素のSEM/EDXマッピングイメージであり、(c)はアルミニウムのSEM/EDXマッピングイメージであり、(d)は銅種のSEM/EDXマッピングイメージであり、(a1-d1)はNaZ_HT、(a2-d2)はHZ_HT、(a3-d3)は比較例2の炭化水素吸脱着複合体(CuNaZ_HT)、および(a4-d4)は実施例2の炭化水素吸脱着複合体(CuHZ_HT)のイメージである。
図5】比較例による炭化水素吸着剤のX線回折分析グラフである。
図6】比較例による炭化水素吸着剤の窒素吸着等温線グラフである:(a)はCuO/NaZおよびCuO/NaZ_HTのグラフであり、(b)はCuO/HZおよびCuO/HZ_HTのグラフである。
図7】本発明の一実施例による炭化水素吸脱着複合体の低温始動試験(CST)結果グラフである:(a1-c1)はナトリウム陽イオン含有ゼオライト、(a2-c2)は水素陽イオン含有ゼオライトの模擬された排出ガスの炭化水素に対するCST結果である。(a3)は(a1)-(a2)のCST結果から得たプロペン吸着量であり、(b3)は(b1)-(b2)のCST結果から得たトルエン吸着量である。(c3)は(c1-c2)のCST結果から得た300℃以前での炭化水素吸着剤の全体炭化水素処理効率である。
図8】本発明の一実施例による炭化水素吸脱着複合体の低温始動試験(CST)結果グラフである:(a)はNaZ、(b)はHZ、(c)は比較例1の炭化水素吸脱着複合体(CuNaZ)、(d)は実施例1の炭化水素吸脱着複合体(CuHZ)、(a1-d1)は水蒸気のない乾燥した条件、(a2-d2)は水蒸気が追加された湿気っぽい条件でのグラフである。
図9】本発明の一実施例による炭化水素吸脱着複合体の低温始動試験(CST)結果グラフである:出口ガスストリームの代表的な成分に対する(a)はNaZ、(b)はHZ、(c)は比較例1の炭化水素吸脱着複合体(CuNaZ)、(d)は実施例1の炭化水素吸脱着複合体(CuHZ)の結果で、(a1-d1)はプロペンおよびトルエン、(a2-d2)はm/z=56、77、106の炭化水素、(a3-d3)はCOおよびCO、および(a4-d4)は装備(MS、GC)による総炭化水素に対するグラフで、点線はプロペン(100ppm)、トルエン(100ppm)およびCHに対する全体炭化水素(1000ppmのCH)の流入口濃度を意味する。
図10】本発明の一実施例による炭化水素吸脱着複合体の低温始動試験(CST)結果グラフである:出口ガスストリームの代表的な成分に対する(a)はNaZ_HT、(b)はHZ_HT、(c)は比較例2の炭化水素吸脱着複合体(CuNaZ_HT)、(d)は実施例2の炭化水素吸脱着複合体(CuHZ_HT)の結果で、(a1-d1)はプロペンおよびトルエン、(a2-d2)はm/z =56、77、106の炭化水素、(a3-d3)はCOおよびCO、および(a4-d4)は装備によるプロペンとトルエンを合わせた濃度(MS)および全体炭化水素濃度(GC)に対するグラフで、点線はプロペン(100ppm)、トルエン(100ppm)およびCHに対する全体炭化水素(1000ppmのCH)の流入口濃度を意味する。
図11】本発明の一実施例による炭化水素吸脱着複合体のCO吸着されたサンプルおよびピリジン吸着されたサンプルに対するフーリエ変換紫外線分光分析(FT-IR)スペクトルグラフと微細多孔性容積の倍の関数で水熱処理しないサンプルと水熱処理したサンプルのCST効率に対する線形回帰グラフである:(a)はナトリウム陽イオン含有炭化水素吸脱着複合体(CuNaZ、CuNaZ_HT)および(b)は水素陽イオン含有炭化水素吸脱着複合体(CuNaZ、CuNaZ_HT)のCO吸着されたサンプルに対するFT-IRスペクトルで、(d)はナトリウム陽イオン含有炭化水素吸脱着複合体(NaZ、CuNaZ、CuNaZ_HT)および(e)水素陽イオン含有炭化水素吸脱着複合体(HZ、CuHZ、CuHZ_HT)のピリジン吸着されたサンプルに対するFT-IRスペクトルで、(c)はモノカルボニル種([Cu(CO)])および(f)はルイス酸部位(LA1/Cu)の1nm以下大きさ(V1nm)の微細多孔性容積の倍の関数で水熱処理しないサンプルと水熱処理したサンプルのCST効率に対する線形回帰グラフである。
図12】本発明の一実施例による炭化水素吸脱着複合体のH-TPR(Temperature-programmed reduction)曲線を示したグラフである:(a)は比較例1および比較例2の炭化水素吸脱着複合体、(b)は実施例1および実施例2の炭化水素吸脱着複合体、(c)は実施例1と比較例1の炭化水素吸脱着複合体結果である。(a)と(b)には商業的に購入可能なH-form ZSM-5(HCZ)にCuOを物理的に交ぜて得たCuO/HCZとこれに追加的に水熱処理をしたCuO/HCZ_HTの結果も含まれた。
図13】本発明の一実施例による炭化水素吸脱着複合体の0℃で測定されたNO吸着されたフーリエ変換紫外線分光分析(FT-IR)スペクトルとこれらを多くのピークに分離した(deconvoluted)曲線グラフである:(a)は比較例1の炭化水素吸脱着複合体であり、(b)は実施例1の炭化水素吸脱着複合体のグラフであり、(a1-b1)は1分おきで示したスペクトルで、(a2-b2)はCuイオンにあたる強さが一番高い時、Cu2+イオン、CuOおよびCuイオンを指称するそれぞれの1907cm-1(緑色)、1888cm-1(赤色)、および1810cm-1(青色)の波数に対する分解スペクトルで、(a3-b3)はCu2+イオン、CuOおよびCuイオンにあたる強度を示したグラフである。
図14】本発明の一実施例による炭化水素吸脱着複合体の30℃で測定されたCO吸着されたフーリエ変換紫外線分光分析(FT-IR)スペクトルとこれらを多くのピークに分離した(deconvoluted)曲線グラフである:左側は比較例1の炭化水素吸脱着複合体(CuNaZ_x/y)をx(温度)とy(時間)で水熱処理した場合のグラフで、右側は実施例1の炭化水素吸脱着複合体(CuHZ_x/y)をx(温度)とy(時間)で水熱処理した場合のグラフで、FT-IRスペクトルで2157cm-1および2150cm-1を中心とするピークを積分して特定領域を得、赤色で示し、2137cm-1および2107cm-1の波数でCuO粒子から生成された他の分解された曲線は灰色に表現された。
図15】本発明の一実施例による炭化水素吸脱着複合体のピリジン吸着されたフーリエ変換紫外線分光分析(FT-IR)スペクトルと排出時間に対する特定領域を示したグラフである:(a)はNaZ、(b)はHZ、(c)は比較例1の炭化水素吸脱着複合体(CuNaZ)、(d)は実施例1の炭化水素吸脱着複合体(CuHZ)のグラフで、(a2-d2)は0~8または0~11時間に測定されたスペクトを示したもので、特定領域はB、LA1/CuおよびLNaに対するピリジン吸着されたFT-IRスペクトルで1550、1450および1440cm-1を中心としてピークを積分して得た。
図16】は本発明の一実施例による炭化水素吸脱着複合体の低温始動試験(CST)を実施する間のCOおよびCOの酸化結果グラフである:(a)は実施例1の炭化水素吸脱着複合体(CuHZ)、(b)はCuO/SiO、(c)はCuOのグラフで、(d)はCOの酸化開始温度および全体炭化水素に対する水熱処理しないサンプルと水熱処理したサンプルの吸着された量を示したグラフである。
図17】本発明の一実施例による炭化水素吸脱着複合体の出口ストリームで放出ガスに対する低温始動試験(CST)結果グラフである:(a1-a3)は炭化水素、(b1-b3)はCOとCOに対するグラフでであり、上端は実施例1の炭化水素吸脱着複合体(CuHZ)、中間はCuO、下端はCuO/SiOに対するグラフである。
図18】本発明の一実施例による炭化水素吸脱着複合体の出口ストリームで放出ガスに対する300℃での酸化性能を示したグラフである:(a)は比較例1の炭化水素吸脱着複合体(CuNaZ)、(b)は実施例1の炭化水素吸脱着複合体(CuHZ)、(c)はCuO、(d)はCuO/SiOのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明をより具体的に説明するために、本発明による好ましい実施例を添付された図面を参照してより詳しく説明する。しかしながら、本発明はここで説明される実施例に限定されず、他の形態に具体化されることもあり得る。
【0013】
本明細書で、「全体炭化水素」はメタンを基準とした炭化水素を意味する。具体的には、プロペン、トルエンなどをガスクロマトグラフィー(GC FID)を通じてメタンに相応する値に変換し、変換されたメタンの量で定量化したのである。
【0014】
今までは炭化水素吸着性能を高めるために、イオン交換過程を通じて銅を含浸したゼオライトを提供したり、もっと多い量の銅を利用してイオン交換を行って一部残った銅が酸化銅形態で存在する吸着剤について報告されて来た。
【0015】
従来の炭化水素吸脱着複合体の開発はゼオライトのSi/Al比、構造、含浸する金属の種類を調節して研究されたが、本発明は同種類のゼオライトの活性部位の陽イオンの種類を調節することにより金属イオンと金属酸化物の分布を調節して優れた炭化水素吸着能と酸化能を有する炭化水素吸脱着複合体に関するものである。
【0016】
本発明は水素陽イオンを含むゼオライト粒子と、
前記ゼオライト粒子と化学的に結合した金属イオンと、
前記ゼオライト粒子の表面に備えられる金属酸化物と、を含み、
前記ゼオライト粒子のうち、アルミニウム対比ナトリウムのモル比(Na/Al)は0.2以下であり、前記金属酸化物の平均直径は1~10nmである炭化水素吸脱着複合体を提供する。
【0017】
前記ゼオライト粒子はZSM-5(Zeolite Socony Mobil-5)系ゼオライトであり得る。
【0018】
前記水素陽イオンを含むゼオライト粒子はSi/Al比が約10のゼオライトで、ゼオライトの活性部位に水素陽イオンが結合されたものである。
【0019】
また、前記ゼオライト粒子のうち、アルミニウム対比ナトリウムのモル比(Na/Al)は0.2以下、0.15以下、0.1以下または0.05以下であってもよい。上記のようなアルミニウム対比ナトリウムのモル比を有することはゼオライト粒子にナトリウム陽イオンの代わりに水素陽イオンをよりたくさん含むことを意味し、アルミニウムに対するナトリウムのモル比が0.2以下の場合は、水素陽イオン含有ゼオライト(H-form zeolite)からなることを意味する。上記のように、水素陽イオンがゼオライト活性地点に結合した場合、含浸された金属イオンの含有量が高く、ゼオライト表面に形成された金属酸化物の大きさが小さくて炭化水素吸脱着複合体の吸着性能と酸化性能を向上させる。前記ナトリウム陽イオンおよび水素陽イオンはゼオライトの活性部位に化学結合したのである。
【0020】
前記金属イオンは3族~12族の元素の中の何れか一つ以上の金属の陽イオンであってもよい。具体的には、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ロジウムおよびカドミウムの中の何れか一つ以上の金属の陽イオンであってもよい。より具体的には、前記金属イオンは1価鉄、2価鉄、3価鉄、1価コバルト、2価コバルト、1価ニッケル、2価ニッケル、1価銅または2価銅の陽イオンであってもよい。前記金属イオンはゼオライト粒子に形成された気孔内部に結合されて炭化水素吸着能を向上させることができる。
【0021】
前記金属酸化物は3族~12族の元素の中の何れか一つ以上の金属の陽イオンであってもよい。具体的には、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ロジウムおよびカドミウムの中の何れか一つ以上の金属の酸化物であってもよい。より具体的には、前記金属酸化物はFeO、Fe、Fe、Co、CoO、NiO、CuO、CuまたはCuOであってもよい。
【0022】
例えば、前記金属酸化物はゼオライト粒子表面に形成されたもので、平均直径が1~10nmであってもよい。具体的には、前記金属酸化物の平均直径は1~9nm、1~7nm、2~8nmまたは2~6nmであってもよい。上記のような金属酸化物をゼオライト粒子上に形成することにより、本発明による炭化水素吸脱着複合体は炭化水素吸着性能に優れ、炭化水素の酸化温度が低く、高い水熱安定性を有することができる。
【0023】
前記炭化水素吸脱着複合体の大きさは50~5000nmであってもよい。具体的には、前記炭化水素吸脱着複合体の大きさは50~2000nmまたは300~1500nmであってもよい。
【0024】
また、前記炭化水素吸脱着複合体はゼオライト粒子に微細気孔が形成されたもので、前記ゼオライト粒子に形成された気孔内部に金属イオンが結合され、ゼオライト粒子の表面に金属酸化物が備えられたものである。
【0025】
本発明による炭化水素吸脱着複合体は、1nm以下の大きさを有する微細気孔容積(V)が0.1cm/g以上、0.1~0.2cm/g、0.1~0.15cm/gまたは0.12~0.13cm/gであってもよい。上記のように、ゼオライト粒子に微細気孔が形成され、前記微細気孔に金属イオンが結合されてプロペンおよびトルエンのような炭化水素の吸着能が向上されることができる。
【0026】
金属陽イオンはゼオライトに含浸されることができる最大重量に対して50~80%の量で存在し、金属酸化物はゼオライトに金属陽イオンで含浸されず、残った残留金属によって形成されて存在するようになる。
【0027】
上記のような特性を有して本発明による炭化水素吸脱着複合体は下記式(1)を充足することができる:
【0028】
【数1】
上記式(1)で、
Inは炭化水素吸脱着複合体に注入される炭化水素の量を表し、
Outは炭化水素吸脱着複合体を経て排出される炭化水素の量を表し、
Aは30以上の数で、炭化水素処理効率を表す。
【0029】
上記式(1)は炭化水素吸脱着複合体に炭化水素を注入して、注入された量と炭化水素吸脱着複合体から排出される全体炭化水素の量を測定し、300℃まで炭化水素吸脱着複合体に注入された全体炭化水素の量と炭化水素吸脱着複合体を経て排出された炭化水素の量の比率を通じて炭化水素吸脱着複合体の全体炭化水素吸着率を計算した式である。この時、前記炭化水素処理効率であるAは30以上、40以上、50以上、55以上または60以上を表すことができる。
【0030】
また、本発明による炭化水素吸脱着複合体は、300℃以下の温度で炭化水素の吸着を表し、180℃以上の温度で炭化水素の酸化を表すことができる。具体的には、本発明の炭化水素吸脱着複合体は、70℃~300℃または100℃~300℃の温度で炭化水素の吸着を表し、210℃以上、220℃以上、230℃以上または240℃以上の温度で炭化水素の酸化を表すことができる。普段走行中に排出される炭化水素の50~80%が低温始動区間(300℃以下)で発生する。上記特性により、本発明による炭化水素吸脱着複合体は低温始動区間でも炭化水素を効率的に吸着して酸化させることができ、高い水熱安定性を表すことができる。
【0031】
また、本発明による炭化水素吸脱着複合体は、全体炭化水素吸着量が0.32~1.5mmolCH4/gで、炭化水素酸化開始温度が180~350℃であってもよい。具体的には、本発明の炭化水素吸脱着複合体は、全体炭化水素吸着量が0.32~1.0mmolCH4/g、0.32~0.8mmolCH4/gまたは0.32~0.4mmolCH4/gで、炭化水素酸化開始温度は180~320℃、180~300℃または180~250℃であってもよい。この時、酸化開始温度は全体炭化水素対比COの生成量が5%以上になる地点の温度を言う。
【0032】
本発明による炭化水素吸脱着複合体は、600℃~900℃で1時間~36時間5~15容積%の水蒸気を注入して水熱処理されたものであり得る。具体的には、前記炭化水素吸脱着複合体は、600℃~850℃、600℃~800℃、600℃~750℃または700℃~800℃の温度で1時間~24時間、12時間~36時間または12時間~24時間5~15容積%の水蒸気を注入して水熱処理されたものであり得る。この時、前記炭化水素吸脱着複合体の重量に対する水蒸気を含む模擬排出ガスの時間当りガス流量は10000~200000mL/g・hまたは100000~200000mL/g・hであってもよく、上記条件は自動車を長期間運用した時と同様に苛酷な条件である。上記のように水熱処理された炭化水素吸脱着複合体は水蒸気がある条件で炭化水素を吸着して酸化させる性能が低下される可能性があり、耐久性が低下される可能性がある。
【0033】
例えば、水熱処理された炭化水素吸脱着複合体は、上記式(1)で炭化水素処理効率であるAが5以上、6以上、8以上、または10以上であってもよい。水熱処理された炭化水素吸脱着複合体は水熱処理されない炭化水素吸脱着複合体に比べて比較的低い炭化水素処理効率を表すが、アルミニウム対比ナトリウムのモル比(Na/Al)が0.2以下の炭化水素吸脱着複合体が陽イオンが大部分Naからなる炭化水素吸脱着複合体よりも前記水熱処理後比較した時により耐熱性が向上され、優れた吸着能を表す。
【0034】
本発明による炭化水素吸脱着複合体は炭化水素吸着性能以外にも選択的還元触媒(Selective catalytic reduction、SCR)として活用が可能で、これを通じて、窒素酸化物(NO)を効果的に除去して大気浄化能力を表すことができる。
【0035】
また、本発明は、ゼオライト粒子をイオン交換方法を利用して水素陽イオンを含むゼオライト粒子を製造するステップ、および
前記水素陽イオンを含むゼオライトを金属イオンを含む溶液に混合して金属イオンおよび金属酸化物を形成するステップを含み、
前記水素陽イオンを含むゼオライト粒子を製造するステップで、前記ゼオライト粒子のうち、アルミニウム対比ナトリウムのモル比(Na/Al)は0.2以下であり、
前記金属酸化物は、前記ゼオライト粒子上に平均直径は1~10nmで形成されることを特徴とする炭化水素吸脱着複合体の製造方法を提供する。
【0036】
前記ゼオライト粒子はZSM-5(Zeolite Socony Mobil-5)であり得る。
【0037】
前記ゼオライト粒子は水素陽イオン含有ゼオライトであり得る。前記ゼオライト前駆体をイオン交換方法を利用してゼオライト活性部位のナトリウム陽イオンを水素陽イオンで置換させて水素陽イオン含有ゼオライトを製造する。
【0038】
前記水素陽イオン含有ゼオライトはSi/Al比が約10のゼオライトで、ゼオライトの活性部位に水素陽イオンが結合されたものである。上記のようにゼオライト活性部位の陽イオンを水素陽イオンで置換する場合、含浸される金属イオンの含有量が高く、ゼオライトの表面に形成された金属酸化物の大きさが小さくて炭化水素吸脱着複合体の酸化性能を向上させる。
【0039】
前記水素陽イオンを含むゼオライト粒子を製造するステップで製造したゼオライトは水素陽イオン含有ゼオライト(H-form zeolite)およびナトリウム陽イオン含有ゼオライト(Na-form zeolite)を含むことができる。前記ゼオライト前駆体をイオン交換後に焼成する方法を利用してゼオライト活性部位のナトリウム陽イオンを水素陽イオンで置換させて水素陽イオン含有ゼオライトおよびナトリウム陽イオン含有ゼオライトを製造する。
【0040】
前記水素陽イオンを含むゼオライトを製造するステップは、ゼオライト粒子とアンモニウム塩水溶液を混合して行うことができ、前記アンモニウム塩水溶液は硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、過硫酸アンモニウム、アンモニア水、炭酸水素アンモニウムおよび蟻酸アンモニウムの中の何れか一つ以上を含むことができる。
【0041】
前記ゼオライトは、ナトリウム陽イオン含有ゼオライト(Na-form zeolite)であり得、前記アンモニウム塩水溶液とナトリウム陽イオン含有ゼオライトを混合する場合、アンモニウム陽イオンがゼオライトに含有されたナトリウム陽イオンと置換される。その後、焼成過程を経て置換されたアンモニウム陽イオンは水素陽イオンに変化されてゼオライト粒子のナトリウムのモル比が減少されることができ、アンモニウム塩水溶液とゼオライト粒子の反応時間を調節してゼオライト粒子のナトリウムのモル比を制御することができる。
【0042】
具体的には、前記アンモニウム塩水溶液の濃度は1M~5M、1M~4M、または1M~3Mで、前記アンモニウム塩水溶液とゼオライト粒子を混合して20~30時間、22~30時間または23~27時間混合して実行することができる。前記アンモニウム塩水溶液とゼオライト粒子を混合して反応することにより、ゼオライト粒子のナトリウム陽イオンが水素陽イオンで置換されることができる。
【0043】
具体的には、イオン交換方法を経たゼオライト粒子はゼオライト粒子のうち、アルミニウム対比ナトリウムのモル比(Na/Al)は0.2以下、0.15以下、0.1以下または0.05以下であってもよい。上記のようなアルミニウム対比ナトリウムのモル比を有することはナトリウム陽イオンの代わりに水素陽イオンを含むゼオライトを含むことを意味する。上記のように、水素陽イオンがゼオライト活性地点に結合した場合、含浸される金属イオンの含有量が高く、ゼオライト表面に形成された金属酸化物の大きさが小さくて、炭化水素吸脱着複合体の吸着性能を向上させる。
【0044】
その後、ゼオライト粒子とアンモニウム塩水溶液を混合した混合溶液を遠心分離および傾斜分離して沈殿物を獲得し、獲得した沈殿物をアンモニウム塩水溶液と混合した後、さらに沈殿物を獲得する方法を3回以上繰り返し実施する。
【0045】
前記獲得した沈殿物は500~700℃の温度で10~20時間300mL/minの気流条件で焼成することができる。具体的には、獲得した沈殿物を300mL/minの気流下で500~650℃または500~600℃の温度で10~17時間または10~15時間約1℃/minの上昇速度で加熱して焼成することができる。上記過程を通じて、ナトリウム陽イオンが水素陽イオンで置換されたゼオライト粒子を製造することができ、前記ゼオライト粒子に微細気孔が形成されることができる。
【0046】
前記金属イオンおよび金属酸化物を形成するステップは、湿式含浸法を利用して金属イオンを含む金属前駆体溶液にナトリウム陽イオンが水素陽イオンで置換されたゼオライト粒子を混合して製造し、この時、金属の含有量は1~9重量%、2~8重量%、3~8重量%または4~7重量%であってもよい。追加的に、乾燥および焼成するステップをさらに含んでもよい。
【0047】
具体的には、金属イオンおよび金属酸化物を形成するステップは、湿式含浸法を利用して金属イオンおよび金属酸化物が含浸されたゼオライト粒子を500~700℃の温度で2~10時間300mL/minの気流下で焼成してゼオライト粒子に金属イオンおよび金属酸化物を含浸することができる。具体的には、金属イオンおよび金属酸化物が含浸されたゼオライト粒子を300mL/minの気流下で500~650℃または500~600℃の温度で2~8時間または3~7時間約1℃/minの上昇速度で加熱して焼成することができる。上記過程を通じて、ナトリウム陽イオンが水素陽イオンで置換されたゼオライト粒子は金属イオンおよび金属酸化物を含むことができ、より具体的には、ゼオライト粒子の微細気孔に金属イオンが含浸され、ゼオライト粒子の表面に金属酸化物が形成されることができる。
【0048】
前記金属イオンは3族~12族の元素の中の何れか一つ以上の金属の陽イオンを含む。具体的には、前記金属イオンは鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ロジウムおよびカドミウムの中の何れか一つ以上の金属の陽イオンを含む。より具体的には、前記金属イオンは1価鉄、2価鉄、3価鉄、1価コバルト、2価コバルト、1価ニッケル、2価ニッケル、1価銅または2価銅の陽イオンであってもよい。
【0049】
前記金属イオンを含む溶液をゼオライトに含浸させて形成された金属酸化物は3族~12族の元素の中の何れか一つ以上の金属の酸化物であってもよい。具体的には、前記金属酸化物は鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ロジウムおよびカドミウムの中の何れか一つ以上の金属の酸化物であってもよい。より具体的には、前記金属酸化物はFeO、Fe、Fe、Co、CoO、NiO、CuO、CuまたはCuOであってもよい。
【0050】
金属イオンおよび金属酸化物を形成するステップを通じてゼオライト粒子上に金属酸化物を形成することができ、形成された金属酸化物の平均直径は1~10nmであってもよい。具体的には、前記金属酸化物の平均直径は1~9nm、1~7nm、2~8nm、または2~6nmであってもよい。上記のような金属イオンをゼオライト粒子内に含浸させ、酸化物をゼオライト粒子上に形成することにより、本発明による炭化水素吸脱着複合体は炭化水素吸着性能に優れ、炭化水素の酸化温度が低く、高い水熱安定性を有することができる。
【0051】
上記のような過程を経て製造された炭化水素吸脱着複合体は1nm以下の大きさを有する微細気孔容積(V)が0.1cm/g以上、0.1~0.2cm/g、0.1~0.15cm/gまたは0.12~0.13cm/gであってもよく、金属陽イオンはゼオライトに含浸されることができる最大重量に対して50~80%の量で存在し、金属酸化物はゼオライトに金属陽イオンで含浸されず、残った残留金属によって形成されて存在するようになる。
【0052】
本発明による炭化水素吸脱着複合体の製造方法は、金属イオンおよび金属酸化物を形成するステップ以後に600℃~900℃の温度で1時間~36時間5~15容積%の水蒸気を注入して水熱処理するステップをさらに含む。具体的には、前記水熱処理するステップは、600℃~800℃、600℃~750℃、600℃~700℃または700℃~800℃の温度で1時間~24時間、12時間~36時間または12時間~24時間5~15容積%の水蒸気を注入して熱処理して実行することができる。この時、前記炭化水素吸脱着複合体の重量に対する水蒸気を含む模擬排出ガスの時間当りガス流量は10000~200000mL/g・hまたは100000~200000mL/g・hであってもよく、上記条件は自動車を長時間運転した場合吸着剤に加えられる条件と同様に苛酷な条件である。
【0053】
前記水熱処理を通じて得られた炭化水素吸脱着複合体は水熱処理されない炭化水素吸脱着複合体よりも比較的低い炭化水素処理効率を表すが、アルミニウム対比ナトリウムのモル比(Na/Al)が0.2以下の炭化水素吸脱着複合体が陽イオンが大部分Naからなる炭化水素吸脱着複合体よりも前記水熱処理後比較した時により耐熱性が向上され、優れた吸着能を表す。
【0054】
同時に、本発明は上述した炭化水素吸脱着複合体を含む自動車用炭化水素吸脱着複合体を提供する。本発明による炭化水素吸脱着複合体は優れた吸着能を表し、約180℃の温度で炭化水素酸化能を表して、吸着された炭化水素が比較的低温でも酸化され、高温で水熱安定性を表すので、自動車排出ガスで排出される炭化水素の除去に適用することができ、三元触媒が充分に活性を表す前の低温始動区間でも優れた炭化水素吸着能および酸化能を表して大気浄化効果を有することと見られる。
【0055】
以下に本発明の実施例を記載する。但し、下記実施例は本発明の好ましい一実施例に過ぎず、本発明の権利範囲が下記実施例によって制限されるのではない。
【0056】
[実施例]
実施例1(CuHZ)
NaZの合成
0.98gのアルミン酸ナトリウム(sodium aluminate、NaAlO、anhydrous、シグマアルドリッチ(Sigma-Aldrich))、25.45gのオルトケイ酸テトラエチル(tetraethyl orthosilicate、TEOS、98%、シグマアルドリッチ)および18.26gのテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(tetrapropylammonium hydroxide、TPAOH、40wt%in HO)を75.3gの脱イオン水に徐徐に添加した。Si/Al比が約10の前記混合物を還流下に100℃のシリコーンオイルで3時間撹拌し、さらに室温で24時間撹拌して前駆体を合成した。製造された合成前駆体をテフロンライニングされたオートクレーブに注ぎ、密封されたオートクレーブを175℃に予熱されたコンベクションオーブンに移して3日間回転させながら水熱反応を実施した。その後、一連の遠心分離を繰り返し、デキャンティングした後、脱イオンで3回洗浄して生成された固体粒子を回収した。回収された粒子は、ボックス型電気炉(boxed furnace)で約300mL/minの気流下で1℃/minの上昇速度で550℃で12時間追加焼成してナトリウム陽イオン含有ゼオライト粒子(NaZ)を合成した。
【0057】
HZの合成
次に、イオン交換過程を通じてゼオライト粒子のナトリウム陽イオンを水素陽イオンで置換した。具体的には、約100gの脱イオン水に8gの硝酸アンモニウム(NHNO、99%、シグマアルドリッチ)を溶解させて製造した1Mの硝酸アンモニウム溶液100mLに焼成されたナトリウム陽イオン含有ゼオライト粒子(NaZ)1gを添加した。生成された懸濁液を振動マシン(shaking machine、SI-300R、Lab Companion)で1日撹拌した。撹拌した後、遠心分離とデキャンティングを通じて粒子を回収した。硝酸アンモニウム溶液で撹拌し回収する過程を3回繰り返した。回収したサンプルは乾燥し、300mL/minの気流下で1℃/minの上昇速度で550℃で12時間焼成して水素陽イオン含有ゼオライト粒子(HZ)を製造した。
【0058】
CuHZ 合成
次に、水素陽イオン含有ゼオライト粒子に5重量%の銅を湿式含浸法過程を通じて含浸して炭化水素吸脱着複合体を製造した。具体的には、約80gの脱イオン水に硝酸銅(II)三水和物(Cu(NO・3HO、98%、シグマアルドリッチ)を溶解させて0.04Mの硝酸銅II(Cu(NO)溶液を製造した。前記ナトリウム陽イオンの比率が制御されたゼオライト粒子を硝酸銅溶液に添加して最終的に約5重量%のCuが含浸されるようにした。その後、混合物を回転式蒸発器に入れて水分を全部除去した後、Cu含浸されたゼオライト粒子(CuHZ)を回収して、100℃で一晩乾燥させ、ボックス型電気炉(boxed furnace)で300mL/minの気流下で1℃/minの上昇速度で550℃で6時間焼成させて炭化水素吸脱着複合体を製造した。
【0059】
実施例2(CuHZ_HT)
上記実施例1で製造した炭化水素吸脱着複合体を気流下で10容積%のHO水蒸気を通じて800℃で24時間水熱処理して炭化水素吸脱着複合体を製造した。この時、前記炭化水素吸脱着複合体の重量に対する水蒸気を含む模擬排出ガスの時間当りガス流量は約100000mL/g・hである。
【0060】
比較例1(CuNaZ)
上記実施例1でイオン交換反応を実施しないことを除き、実施例1と同じ方法で炭化水素吸脱着複合体を製造した。
【0061】
比較例2(CuNaZ_HT)
上記比較例1で製造した炭化水素吸脱着複合体を気流下で10容積%のHO水蒸気を通じて800℃で24時間水熱処理して炭化水素吸脱着複合体を製造した。この時、前記炭化水素吸脱着複合体の重量に対する水蒸気を含む模擬排出ガスの時間当りガス流量は約100000mL/g・hである。
【0062】
[実験例]
実験例1
本発明による炭化水素吸脱着複合体の形態および元素比率を確認するために、実施例1、実施例2および比較例1~比較例3の炭化水素吸脱着複合体を対象として走査電子顕微鏡(SEM)および透過電子顕微鏡(TEM)撮影およびエネルギー分散型X線分光分析(EDX、Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)、X線回折分析(XRD、X-ray diffraction)およびSi MAS NMR分析を行い、その結果は表1、表2および図1図6に示した。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
図1は本発明による炭化水素吸脱着複合体と比較例の炭化水素吸脱着複合体を走査電子顕微鏡(SEM)および透過電子顕微鏡(TEM)で撮影したイメージである。図1によれば、(a1)は比較例1の炭化水素吸脱着複合体の走査電子顕微鏡イメージであり、(a2)は比較例1の炭化水素吸脱着複合体の透過電子顕微鏡イメージであり、(b1)は実施例1の炭化水素吸脱着複合体の走査電子顕微鏡イメージであり、(b2)は実施例1の炭化水素吸脱着複合体の透過電子顕微鏡イメージである。上記表1によれば、本発明による炭化水素吸脱着複合体は、ナトリウム陽イオン含有ゼオライト(Na-form ZSM-5)をイオン交換反応を行った後に銅を担持したもので、このSi/Alモル比、Na/Alモル比、Cuの担持量を元素分析を通じて確認した。Na/Alモル比はイオン交換反応を通じて調節した。具体的には、実施例と比較例のSi/Alモル比および銅の含有量は大きく差がないが、Na/Alモル比はイオン交換反応時間によって変わることが分かる。より具体的には、本発明による炭化水素吸脱着複合体のSi/Alモル比は約10~14であることが分かる。
【0065】
図2は本発明による炭化水素吸脱着複合体の化学的特性を確認したグラフである。(a)および(b)はX線回折分析グラフであり、(c)および(d)はSEM/EDXマッピングイメージであり、(e)および(f)は窒素吸着等温線グラフであり、(g)および(h)は29Si MAS NMRグラフである。
【0066】
まず、走査電子顕微鏡イメージによれば、水素陽イオン交換と銅含浸を経た実施例1の炭化水素吸脱着複合体(CuHZ)はナトリウム陽イオン含有ゼオライト(NaZ)に比べて形態が大きく変わらないことを確認した。水素陽イオン含有ゼオライト(HZ)またはナトリウム陽イオン含有ゼオライト(NaZ)は約550±200nm大きさの球形形態を有し、これは60nmの大きさの立方体粒子で構成された。表1によれば、水素陽イオン含有ゼオライト(HZ)またはナトリウム陽イオン含有ゼオライト(NaZ)は、Na/Alモル比は、それぞれ約0.1±0.1および0.9±0.1で、水素交換が徹底的に行われたことが分かる。銅含浸工程後、銅イオンおよび銅酸化物が実施例1および比較例1の炭化水素吸着体に効果的に含浸されたことが分かる。
【0067】
透過電子顕微鏡イメージによれば、比較例1の炭化水素吸脱着複合体は実施例1の炭化水素吸脱着複合体よりも大きい銅酸化物粒子を含むことを確認した。実施例1および比較例1の炭化水素吸脱着複合体は外部表面上に銅酸化物粒子を含有し、前記銅酸化物粒子の大きさは、それぞれ6.8±2.0nmおよび3.2±0.7nmで、ゼオライト粒子上によく分布されていることを確認した。
【0068】
水熱処理した実施例2および比較例2の炭化水素吸脱着複合体は形態学的変化を誘導して、図1の(d1)、(e1)、(f1)で白色矢印で表示されたように、上記言及された大きさ60nmの粒子の鋭い角が丸くなったが、これに相応する元素成分は類似した。また、図1の(e2)でオレンジ色の矢印で表示されたように、比較例2は水熱処理後粒子が約33±12nmに大きくなったが、これは大きさ7.3±1.2nmの小さな粒子からなることを確認した。これと反対に、実施例2の炭化水素吸脱着複合体に形成された銅酸化物は依然として実施例1の炭化水素吸脱着複合体に形成された銅酸化物と類似することを確認した。
【0069】
図2によれば、比較例2の炭化水素吸脱着複合体の構造は実施例2の炭化水素吸脱着複合体の構造に比べて水熱処理をする間に崩壊および分解される傾向がより大きいことと現われた。具体的には、図2aによれば、陽イオンの種類に関わらず、銅含浸ZSM-5ゼオライトのXRDパターンは元のZSM-5ゼオライトのXRDパターンと非常に類似した。図2bによれば、比較例1で35.5゜に現われる銅酸化物の(002)平面に対応する明らかなピークは比較例1の炭化水素吸脱着複合体で大きさが4nmよりも大きい銅酸化物を表すが、実施例1には現われなかった。これは図1の透過電子顕微鏡イメージで観察したのと一致した。また、図2図4に示した元素マッピング結果を通じて比較例1の炭化水素吸脱着複合体のみで大きい銅種(より小さい粒子が凝集された形態に形成される)が観察されることを確認した。
【0070】
図2aのXRDパターンにもかかわらず15-30゜範囲の広いピークおよび約21.7゜の追加ピークは比較例2の炭化水素吸脱着複合体のXRDパターンで現われ、これは非晶質相とα-クリストバル石の形成で起因したことと見られる。新たに現われたXRDピークは比較例1の炭化水素吸脱着複合体の構造が実施例1の炭化水素吸脱着複合体よりも水熱処理により脆弱であることが分かる。また、図4の元素マッピング結果は比較例2の炭化水素吸着体のみで大きさの大きい銅酸化物粒子が観察されることを確認した(白色矢印で表示)。XRD分析の外に、図2e-fによれば、実施例および比較例の炭化水素吸脱着複合体に対して窒素吸着等温線グラフを確認することができ、水素陽イオン交換および銅含浸固定後の窒素吸着等温線および微細気孔大きさ分布は類似した。表2によれば、これらは約0.12~0.13cm/gの同様の微細気孔容積を有する。図2e~fによれば、水熱処理後、実施例2および比較例2の炭化水素吸脱着複合体全部で吸着された窒素の量は減少したが、比較例2の炭化水素吸脱着複合体で減少程度がより著しかった。具体的には、表2によれば、比較例2の微細気孔容積は0.02cm/gと、比較例1の微細気孔容積の約15%に過ぎない一方、実施例2の微細気孔容積は0.07cm/gと、実施例1の微細気孔容積の約60%であることを確認した。これはXRD分析結果から分かるように、比較例1の微細気孔構造が分解および崩壊されやすいということを表す。
【0071】
XRDおよび窒素物理吸着分析でバルク構造および組職特性を得る外にも、29Si MAS NMRスペクトルを測定して水熱処理した後銅含浸ゼオライトの構造を評価し、これを図2のg-hに示した。実施例1および比較例1の炭化水素吸脱着複合体は同様の29Si MAS NMRスペクトルを示し、これは主にQ3および3Si(1Al)の一部とともにQ4で構成された。また、実施例2の29Si MAS NMRスペクトルは実施例1の29Si MAS NMRスペクトルと同様で、水熱処理後にゼオライト構造が変わらないことが分かる。反対に、比較例2の水熱処理した場合は、Q3および3Si(1Al)に対応する29Si MAS NMRスペクトルでの領域とともにQ2に対応する29Si MAS NMRスペクトルでの領域が増加し、これは比較例1の炭化水素吸脱着複合体が水熱処理により脆弱であることを表す。これは上記言及されたXRDおよび窒素物理吸着分析結果とも一致する。
【0072】
某ゼオライト担体(NaZおよびHZ)の構造的および組織的特性が水熱処理後によく保存されたということを考慮すれば、水熱処理した後、実施例2および比較例2の炭化水素吸脱着複合体の構造的崩壊および損傷は含浸された銅種と密接な関連があることと考えられる。言い替えれば、水熱処理するうちに含浸された銅種の転移および移動はゼオライト担体の構造的分解を促進することがある。実際に、図5および図6によれば、酸化銅粒子は、XRDパターンおよびCuO/NaZおよびCuO/HZの窒素吸着等温線に基づいてゼオライト担体の構造的分解を担当したことを確認した。銅種は水熱処理するうちにゼオライト骨格構造でアルミニウム浸出でアルミン酸銅を形成しやすいためゼオライト構造が崩壊された。特に、ナトリウム陽イオンがゼオライトのα-クリストバル石への構造的転移を誘導するので、これらはアルミン酸銅の形成を促進させて構造的損傷および崩壊を促進することができる。したがって、比較例2の炭化水素吸脱着複合体の構造的不安定性は銅酸化物粒子およびナトリウム陽イオン両方に起因したことと見られる。上記の結果に基づいて、ナトリウム陽イオンの代わりに水素陽イオンを含むZSM-5ゼオライトがゼオライト内部の銅陽イオンを含浸するのに適合することを確認した。
【0073】
これを通じて、本発明による炭化水素吸脱着複合体は、銅イオンが含浸された水素陽イオン含有ゼオライト(ZSM-5)上に比較例1に比べて相対的により小さい大きさの酸化銅が形成されることが分かる。
【0074】
実験例2
本発明による炭化水素吸脱着複合体の炭化水素吸着量および処理効率を確認するために、実施例1、実施例2、比較例1、比較例2、ナトリウム陽イオン含有ゼオライト(NaZ)および水素陽イオン含有ゼオライト(HZ)を対象として低温始動試験(Cold start test、CST)を行い、その結果は図7および図8に示した。
【0075】
低温始動実験は30mL/minのHe条件下で600℃で30分間前処理過程を経た0.06gのゼオライト粒子に100mL/minの模擬排出ガスフィード(feed)を流す。この時、模擬排出ガスフィードの組成は100ppmのプロペン、100ppmのトルエン、1容積%の酸素(O)、10容積%の水蒸気(HO)、ヘリウム(He)バランスで総100mL/min、注入/重量(Feed/weight)=100000mL・g・hで、70℃で5分間露出し、10分間の間53℃/minの昇温条件で実施した後、600℃で5分間露出し、質量分析計とガスクロマトグラフィーを通じて炭化水素のプロペン、トルエンおよび全体炭化水素の吸着および脱着挙動を確認した。
【0076】
銅含浸ZSM-5ゼオライトの構造的および組織的特性および水熱処理の誘導転移を理解することで、実施例および比較例の炭化水素吸脱着複合体の低温始動試験(CST)で性能を評価した。ZSM-5ゼオライトに銅含浸は水蒸気の存在下で最初からプロペンを吸着することができない某ゼオライトに比べて低温始動試験性能を改善させた。また、乾式および湿式供給条件での低温始動試験性能を図8に示した。銅含浸の効果は、図7のa1-c1およびa2-c2に示したように、水素陽イオン含有ZSM-5ゼオライト(つまり、CuHZ)に対して著しく現われた。具体的には、 NaZでは放出されたプロペンの濃度が 直ちに流入口の濃度と同一になるが、
CuNaZでは 放出されたプロペンの濃度が約2分後に入口濃度と同一になるので若干の遅延効果が存在する。しかし、図7のa1-b1によれば、脱着されたトルエン濃度が入口濃度(約165℃で7分)に逹した時間は比較例1の炭化水素吸脱着複合体(CuNaZ)とNaZで全部同様であったが、比較例1の脱着/放出量は少なかった。一方、実施例1の炭化水素吸脱着複合体(CuHZ)はより良い性能を見せた。図7のa2によれば、吸着されたプロペン分子が温度上昇によって漸次に放出されたが、プロペンは約3分後に出現し始め、約5分に入口濃度と同様になることを確認した。同時に、図7のb2によれば、約6分後(約150℃)にトルエンが観察され、脱着された量は大幅に減少し、比較例1の炭化水素吸脱着複合体(CuNaZ)で観察(図7のb1)されるよりも遥かに低く現われた。具体的には、実施例1の炭化水素吸脱着複合体(CuHZ)によるプロペンの吸着量は約1.13mg/gで、これは比較例1の炭化水素吸脱着複合体(CuNaZ)によるプロペンの吸着量(約0.39mg/g)の約3倍である。NaZおよびHZで吸着されたプロペンの量(それぞれ0.001mg/gおよび0.11mg/g)を考慮すれば、銅含浸は特に水素陽イオン含有ゼオライトに混入される時、供給物内の水蒸気の存在下で好ましいプロペンの吸着能を見せるZSM-5ゼオライトを形成する。これを通じて、銅陽イオン(Cu/Cu2+イオン)がMFI型ゼオライト構造で陽性子を取り替えてプロペンの吸着を向上させるのに寄与することが分かる。銅含浸によるプロペン吸着量の増加にもかかわらず、図7のb3によれば、トルエンの吸着量は、NaZは約4.37mg/gで、比較例1(CuNaZ)は約3.95mg/gで、HZは約4.34mg/gで、実施例1(CuHZ)は約4.10mg/gである。しかし、実施例1の炭化水素吸着体で放出されたトルエンの量は遥かに少なく、比較例1の炭化水素吸着体がその次であった。実施例1および比較例1の炭化水素吸着体は、約10分(約360℃に対応する)後、炭化水素(プロペン、トルエン、および全体炭化水素)が観察されなかった。また、図9のa1-b3、c3-d3によれば、酸化能力を表していないNaZおよびHZとは対照的に、実施例1と比較例1の炭化水素吸着体は、CO及びCOの排出が同時に現れた。それにより、CO及びCOの発生に伴う炭化水素の放出は、該当酸化がゼオライト外部表面上の小さな銅酸化物に起因するということがわかる。
【0077】
また、水熱処理された炭化水素吸着体の低温始動試験(CST)性能を調査して特に吸着および酸化能力に対する変化を確認した。図4で確認したように、CST結果は比較例1の炭化水素吸着体(CuNaZ)が水熱処理にもっと脆弱であるということを確認した。具体的には、図7のa1-b1によれば、比較例2の炭化水素吸脱着複合体はCST試験で初期温図70℃でそれぞれ1分および5分以上プロペンおよびトルエンを吸着することができないことを確認した。反対に、図7のa2-b2によれば、実施例2の炭化水素吸脱着複合体はより良い低温始動性能を見せた。具体的には、プロペンおよびトルエンをそれぞれ70℃で3分まで、120℃で6分まで保持することができた。実施例2および比較例2の炭化水素吸脱着複合体で吸着されたプロペンの量はそれぞれ0.14および0.56mg/gであった。プロペンの吸着とともに、図7のb3によれば、実施例2および比較例2の炭化水素吸脱着複合体でトルエンの累積吸着量はそれぞれ3.87mg/gおよび1.50mg/gに現われた。これはそれぞれ実施例1および比較例1の炭化水素吸脱着複合体の約96%および約40%水準にあたる。また、プロペンとトルエンの放出は比較例2の炭化水素吸脱着複合体の場合、600℃で15分(30ppmのプロペン、0ppmのトルエン)、実施例2の炭化水素吸脱着複合体の場合、500℃で11~12分(プロペンおよびトルエン0ppm)後に最小値に到逹した。しかし、炭化水素排出量は高温でGCによって依然として検出され、実施例2および比較例2の炭化水素吸脱着複合体の酸化能力が水熱処理しない炭化水素吸脱着複合体(実施例1および比較例1)に比べて若干減少することが分かる。したがって、GCとMSとの間の一部不一致は、図10のc4-d4で青色矢印表示部分で観察された。実際に、図10のc3-d3に示したMSによって検出されたCOおよびCO分子を通じて水熱処理された炭化水素吸脱着複合体の劣悪な酸化能力が分かる。図10のc2-d2によれば、MSの化学的種分化は前記言及された副反応が所望の炭化水素の酸化の代わりに発生したことを明確に示した。
【0078】
CST性能の定性的評価とともに、全体炭化水素の濃度に関してナトリウム陽イオン含有炭化水素吸脱着複合体(比較例1および2)と水素陽イオン含有炭化水素吸脱着複合体(実施例1および2)のCST炭化水素処理効率を追加的に定義して定量化した(図7c3)。トルエンに対する明白な吸着にもかかわらず、NaZおよびHZのCST効率はゼロに近い。これは相対的に低い温度(約160℃)で既に吸着されたトルエンが完全に排出されたからである。図7のc3によれば、銅含浸された炭化水素吸脱着複合体(実施例1および比較例1)はCST効率をそれぞれ68.4%および28.5%に改善させた。図7のc1-c2および図9のc3-c4によれば、比較例1および実施例1のこのような向上されたCST効率は吸着(プロペン吸着能力増加およびトルエン脱着程度減少)および酸化(約240~250℃での低温酸化)から寄与されたことと見られる。それにもかかわらず、水熱処理された炭化水素吸脱着複合体(実施例2および比較例2)のCST効率をそれぞれ12.0%および4.8%に大きく減少した。図4の結果から類推したように、図7のc3は元の構造が損傷された比較例2(CuNaZ_HT)と違って実施例2の炭化水素吸着体(CuHZ_HT)が炭化水素吸着能力をある程度保持することができることを見せる。
【0079】
実験例3-CST性能と炭化水素吸脱着複合体の物理化学的特性の間の相関関係
図7のc3に示した炭化水素吸着体またはゼオライトのCST効率を物理的特性のみで理解することは難しい。例えば、比較例1と実施例1の炭化水素吸着体で同様な量の微細気孔容積(表2で0.12~0.13cm/g)にもかかわらず、該当のCST効率は一致しなかった。向上されたCST性能を説明するために、銅含浸ZSM-5ゼオライトの化学的特性を追加的に調査して、どういう銅種がCST効率を決めるか調べた。プロペンとトルエン吸着の結合された機能にもかかわらず、CST効率は銅含浸されないNaZおよびHZでもトルエンが吸着されるので、プロペン吸着により敏感であることと見られる。H-TPR(図12)とNO-吸着されたFT-IR(図13)分析を通じて銅含浸されたゼオライトで銅陽イオンの種分化を分析した。多数の銅種(例えば、Cu2+/CuO/Cu)の識別に頻繁に用いられたが、不明確な還元温度および時間によって変わるIR強度は有意義で定量的な結論を導き出すのに適しなかった。それにもかかわらず、比較例1の炭化水素吸脱着複合体(CuNaZ)は大部分のCuO粒子を含む一方、実施例1の炭化水素吸脱着複合体(CuHZ)はCuO粒子だけでなく銅陽イオンも含み、図13のa3-b3によれば、実施例1と比較例1の炭化水素吸着体のCuイオンの量が確実に違った。
【0080】
【表3】
図14で実施例1および比較例1の炭化水素吸脱着複合体の相異するCuイオンの量を通じて図7のc3のCST効率を説明することができる。CO分子がCuイオンを選択的に適正することができるので、CO吸着されたFT-IRスペクトルを測定し、その結果を図11に示した。生成されたIRスペクトルを見れば、2157cm-1および2150cm-1の波数でピーク面積はCuイオンに吸着されたCO分子[Cu(CO)]に起因したのである。図11のa-bによれば、実施例1の炭化水素吸脱着複合体(CuHZ)でCuイオンの量は比較例1のCuイオンの量よりも遥かに高かった。これはCuイオンが水素陽イオン含有ZSM-5ゼオライトにより効果的に配置されたことを意味し、また表1で言及された元素分析と一致することが分かる。図14図15および表3によれば、水熱処理された炭化水素吸脱着複合体(CuNaZ、CuHZ)はCuイオンの量は構造的崩壊/損傷とともに水熱処理程度((1)600℃、24時間、(2)700℃、24時間、(3)800℃、3時間、(4)800℃、12時間)によって単調に減少されたことを確認した。図11のcによれば、微細気孔容積([Cu(CO)]×V1nm)によって補正する時、CO基盤FT-IR分析結果は水熱処理しないサンプルと水熱処理したサンプルのCST効率を説明することができる。勿論、互いに異なる条件で水熱処理された炭化水素吸脱着複合体のCST性能は水熱処理程度によって単調に減少された。図11のcは銅含浸ZSM-5ゼオライトのCST効率が陽イオンの効果にかかわらず、ゼオライト内部のCuイオンに比例するということを明確に表す。これを通じて、効果的な炭化水素の吸着のために水素陽イオン含有ゼオライトでCuイオンの形成が重要であることが分かる。
【0081】
銅含浸されたゼオライトの物理化学的特性を理解するために、ゼオライトの酸部位を適正にするためのピリジン吸着FT-IR分析を行った。厳格な測定のために、ピリジン吸着されたサンプルのFT-IRスペクトルはこれらの漸近的挙動に到逹した後に獲得され、その結果を図15に示した。NaZのナトリウム陽イオンは比較例1の炭化水素吸脱着複合体(CuNaZ)に対するCu陽イオンで効果的に代替されなかった;この傾向は表1で0.9の同様なNa/Alモル比とよく一致した。一方、実施例1の炭化水素吸脱着複合体(CuHZ)に対するBサイトの減少された量(HZより130μmol/g低い)が比較例1の炭化水素吸脱着複合体(CuNaZ)に対する量(NaZより60μmol/g低い)の2倍以上であることを考慮すれば、CuNaZよりもCuHZに対するゼオライト骨格構造により多い量のCu陽イオンが導入された。同時に、CuHZでより高い強度のLA1/Cuサイト(780)はCuNaZのLA1/Cuサイト(280)に比べて銅陽イオンの顕著に多い量であることを立証した。一方、水熱処理した後の実施例2および比較例2の炭化水素吸脱着複合体は相当な量の酸部位を失った。しかし、実施例2でのLA1/Cuサイトの量は依然として比較例2でのLA1/Cuサイト量より約4倍も多かった。実施例2および比較例2の炭化水素吸脱着複合体で相違する量の還元された酸部位は水素陽イオン含有ZSM-5ゼオライト構造が担体として有利であるということを意味する。そこで、CuNaZの炭化水素吸脱着複合体のゼオライト構造はCuHZよりも水熱処理に脆弱であることと見られる。また、CO基盤適正吸着(図11c)で派生された関係とともに水熱処理しない炭化水素吸脱着複合体と水熱処理された炭化水素吸脱着複合体の適切な物理化学的特性はCST効率をよく説明した。
【0082】
実験例4-銅粒子の酸化能
従来の炭化水素吸着の役割は炭化水素を吸着してより高い温度で放出するのである。大部分の場合、炭化水素吸着は温度がTWC作動範囲に到逹する前に吸着された炭化水素を排出する可能性が高いという点を考慮すれば、低温吸着能力が炭化水素吸着能力と結合された場合、低温始動期間中に活性炭化水素の除去に好ましい。炭化水素吸着の酸化活性を評価するために、低温始動試験(CST)の測定中に一酸化炭素(CO)および二酸化炭素(CO)分子に対して調査し、その結果は図16および図17に示した。
【0083】
図16によれば、CuHZによる炭化水素酸化は210℃で始まり、これはCuO/SiOの酸化温度である353℃よりも遥かに低かった。図16のcによれば、純粋なCuO粒子の酸化が303℃で始まることが分かる。これはCuHZ上に存在するCuO粒子が炭化水素の酸化活性に優れることが分かる。図18で、300℃でCuHZの酸化活性は湿式含浸法を通じてゼオライト外部表面上に活性CuO粒子が形成され、生成された銅含浸ZSM-5ゼオライトはTWCの炭化水素酸化力に相補的であるか、少なくとも補充的であり得る。
【0084】
図16のdは銅含浸されたZSM-5ゼオライト、特に水素陽イオン含有ZSM-5ゼオライトに対する高い吸着量が低温酸化を達するのに有利であることを立証する。実際に、炭化水素酸化に対する酸化開始温度はCuO/SiOおよびCuOサンプルで観察されたよりもCuHZおよびCuNaZで遥かに低かった。これを通じて、ゼオライト担体に効果的な銅含浸が著しい炭化水素吸着および酸化機能を全部確保するのに有利であることが分かる。図17によれば、実施例1(CuHZ)および比較例1(CuNaZ)の炭化水素吸脱着複合体と比べる時、CuO/SiOおよびCuOは全部遥かに高い温度(約300℃以上)で酸化能力を表すが、炭化水素は吸着されなかった。また、図16のdによれば、CuNaZと水熱処理したCuNaZの吸着および酸化能力の間の傾向がCuHZと水熱処理したCuHZの吸着および酸化能力と異なることと現われ、これは全体CST性能を決めるのに重要な要素があることを表す。酸化のために、CuHZ上のより小さいCuO粒子(3.2nm、CuNaZの場合6.8nm)は低温酸化を達するのに有利である。要約すれば、水素陽イオン含有ZSM-5ゼオライトに銅含浸を通じて著しい炭化水素吸着および酸化能力を全部確保することができた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18