(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】全鋼製針布の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/26 20060101AFI20240814BHJP
C21D 1/10 20060101ALI20240814BHJP
C21D 1/42 20060101ALI20240814BHJP
H05B 6/10 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
C21D9/26
C21D1/10 E
C21D1/10 G
C21D1/42 B
H05B6/10 351
(21)【出願番号】P 2020188156
(22)【出願日】2020-11-11
(62)【分割の表示】P 2016567226の分割
【原出願日】2015-05-05
【審査請求日】2020-11-11
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-27
(32)【優先日】2014-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】304012943
【氏名又は名称】グローツ-ベッカート コマンディトゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】ブルースケ、 ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】マイネルト、 ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ゴルターマン、 カーメン
(72)【発明者】
【氏名】ビンダー、 バーンド
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】土屋 知久
【審判官】相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-519104(JP,A)
【文献】特開平4-241120(JP,A)
【文献】特開2006-336108(JP,A)
【文献】特開平7-118935(JP,A)
【文献】特開2004-244748(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01G15/84-15/92
C21D9/00-9/44
C21D9/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カード機械用の全鋼製針布の製造方法であって、
ベース部(17)と、前記ベース部(17)から延伸し前記ベース部よりも厚さ(D15)の小さい壁部(23)とを有するワイヤ(11)を提供するステップと、
歯(15)を形成するために原料ワイヤ(12)の前記壁部(23)にリセス(14)を形成するステップと、
前記ワイヤ(11)をその長手方向へ移動させながら、前記ワイヤ(11)の少なくともベース部(17)を第1の温度(t1)に加熱するステップと、
少なくとも前記ベース部(17)が予備加熱されている前記ワイヤ(11)を
前記長手方向へ移動させながら、前記壁部(23)を、少なくとも1つの
第2のインダクタ(18)によって特定の周波数(f2)で前記第1の温度(t1)よりも高い第2の温度(t2)へ、少なくとも部分的に誘導加熱するステップと、
前記ワイヤ(11)を冷媒中に通過させて、前記ワイヤ(11)の少なくとも前記壁部(23)を冷媒で焼入れるステップと、
を含み、
前記第1の温度(t1)への加熱は、
前記ワイヤ(11)を、少なくとも1つの第1のインダクタ(16)
を通過させることによって第1の周波数(f1)で行われ、
前記ワイヤ(11)を前記第2の温度(t2)へ加熱する前記
第2のインダクタ(18)は、前記第1の周波数(f1)よりも高い第2の周波数(f2)で動作する第2のインダクタ(18)であり、
前記第1の温度(t1)はオーステナイト化温度域(tA)より低く、かつ前記第2の温度は前記オーステナイト化温度域(tA)内にあり、
前記第1の周波数(f1)は、1MHz~5MHzの範囲であり、
前記第2の周波数(f2)は少なくとも10MHzであることを特徴とする、
方法。
【請求項2】
前記リセス(14)は、
前記ワイヤ(11)を前記長手方向へ移動させながら行う打抜き工程によって製造されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の周波数(f2)は前記第1の周波数(f1)の少なくとも5倍であることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ワイヤ(11)は焼入れ後に、少なくとも前記第2の温度(t2)より低い第3の温度で前記ワイヤを加熱するために、前記第2の周波数(f2)よりも低い第3の周波数(f3)で動作する第3のインダクタ(29)を通過することを特徴とする、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも前記第2の周波数(f2)での前記第2の温度(t2)への前記誘導加熱は、保護ガスの下で行われることを特徴とする、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ワイヤ(11)は少なくとも1つの側面がブラシがけされることを特徴とする、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくともベース部(17)を前記第1の温度(t1)に加熱するステップが、
前記第1のインダクタ(16)によって行われ、
前記ワイヤ(11)は、前記
第1のインダクタ(16)と前記
第2のインダクタ(18)との間を2秒未満で通過する、
請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全鋼製針布用の針布ワイヤの製造方法及び高周波焼入れした歯を有する針布ワイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
全鋼製針布の製造には、例えば独国特許出願公開第2904841号明細書から知られるように、針布ワイヤ(鋸歯ワイヤ)が使用される。このような針布ワイヤには、厚さの大きいベース部と、そのベース部から延びる歯の付いた壁部とがある。そこに形成された歯は、特に歯尖端付近が硬化される。針布ワイヤは全体として硬度の異なる4つの領域を持っている。歯尖端から歯の高さの約半分までの第1の領域では、針布ワイヤは少なくとも60HRCの硬度を有している。その隣接領域では、硬度は60HRC~55HRCに固定される。その次の隣接領域は、硬度を50HRC~55HRCとして、歯のベース部には約40HRCの硬度がまだ残るようになっている。このほかのワイヤのベース部が占める領域は硬化されない。
【0003】
硬化させるためには焼入れ可能な鋼をまず高温にし、それを次に焼入れする。
【0004】
これを実行するために、スイス国特許第670455(A5)号明細書では、針布ワイヤの歯を単一パルス又はパケットパルスのCO2ガスレーザでオーステナイト化温度域の温度に短時間加熱することが開示されている。熱容量が微小であるために、歯は加熱後空気中で急速に冷却され、焼入れ硬化が行われる。歯部では950HVの硬度を達成することができる。このとき、歯のベースでは僅か200HVである。材料の硬化部と未硬化部の間の境界は、円弧または直線をなす。
【0005】
実際にレーザビームの高いエネルギによって急速加熱ができるが、入力エネルギの不均一性に関する問題があり、結果として局所的な過熱が生じる可能性がある。
【0006】
独国特許出願公開第10106673(A1)号明細書は、硬化処理時に熱処理を常に特定の範囲に限定することは困難であるという知見に基づいている。これに関してこの明細書では針布ワイヤの誘導加熱を提案し、その際、可能な最高周波数での加熱により焼入れ効果が針布ワイヤの歯尖端と歯の表面に本質的に限定されるようにしている。そのために、周波数は1~2MHzが使用される。加熱は保護ガスを利用して行われてもよい。水、空気、又は油で焼入れすることにより硬化処理が行われる。その後、針布ワイヤの硬度を下げることなしに例えば不要の張力を除去するために、僅か130℃の非常に低い焼鈍温度で針布ワイヤを処理する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、全鋼製針布の改良された製造概念と、実施形態を提供することにある。これと共に、幾何学的に精度の高い歯尖端を有する歯が、実質的には後処理なしで実現可能である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、請求項1に記載の方法により達成される。
【0009】
本発明による方法によれば、針布製造用のワイヤはまず第1のステーションで加熱処理を受ける。ワイヤはこのステーションを通過しながらベース部並びに壁部を加熱される。この加熱は例えば、熱エネルギのワイヤ、具体的にはベース部への伝達、又はワイヤ内での熱エネルギの生成、というような任意の方法で行われてよい。例えば、ワイヤが加熱炉を通過して、そこで熱エネルギが輻射、及び/又は自然対流及び/又は補助対流によって伝達されてもよい。また、そのワイヤに電流を流して電気抵抗を利用して加熱することも可能である。そのために、ワイヤを2つの対向する電極、例えば炭素電極の間を通過させ、そこに直流電流あるいは低周波(例えば50Hz)の交流電流を供給して、ワイヤの側面に接触させてもよい。この結果として、ワイヤには電気が流れ、特に、そして好ましくは主としてベース部に横方向に電気が流れ、その結果として加熱される。2つの電極、又は複数の電極対、あるいはいくつかの電極グループをワイヤの長手方向に相互にある距離を置いて配置して、ワイヤ内の離間した位置から電流が流入、流出するようにしてもよい。ワイヤ内の長手方向の流れは移動するワイヤ内の電流の熱効果をより長い部分に分散させて、特にはベース部の均一な加熱を可能とする。いずれの方法においても、電流が流れて加熱されるのは主としてベース部である。加熱ステーションには1つ以上の熱源が含まれてもよい。
【0010】
ただし好ましくは、ワイヤ及びそのために具体的にはワイヤのベース部が、第1の加熱ステーションで誘導加熱される。その際この工程には第1の周波数が利用され、インダクタの場は具体的にはベース部がその場を貫通して移動するような方向に向けられる。好ましくは第1の周波数は、ワイヤ内に形成される渦電流が主としてベース部に流れ、歯には少ししか流れないように選択される。好ましくは、インダクタとそれにより生成される磁場は、渦電流がワイヤの長手軸の周りに流れるように、すなわち磁場の軸がワイヤの長手軸に少なくとも近似的に一致するように配向される。こうして、歯には殆ど渦電流が流れない。ただし、磁場の軸をワイヤに対して横向きにすることも可能である。第1の加熱ステーションには1つ以上のインダクタがあって、同一周波数又は異なる周波数で動作してもよい。
【0011】
第1のステーションでは、ワイヤは、その全体又は少なくともそのベース部が、第1の温度に予備加熱される。その後、(少なくともベース部が)予備加熱された状態で第2のステーションを貫通移動して、誘導加熱される。この場合、第2のステーションのインダクタは、第1の周波数よりも高い第2の周波数で動作する。インダクタが作る場は好ましくは壁部のみ、すなわちそこに形成されている歯のみを覆うような方向に向けられる。第2の周波数は第1の周波数よりも高く、歯尖端まで均一に歯を加熱するようにする。さらに、第2の温度は第1の温度よりも高い。具体的にはオーステナイト化温度域内にある。第2の加熱ステーションには1つ以上のインダクタがあって、同一又は異なる周波数で動作してもよい。この場合にも、第2のインダクタの周波数は第1のインダクタの周波数よりも高い。
【0012】
(少なくとも1つの)第2のインダクタを通過した後、少なくとも歯のある壁部、好ましくはワイヤ全体が、冷媒中を通過しながら焼入れされる。冷媒は、気体、不活性ガス、空気、エアロゾル、油、水、エマルジョン、又はその他の不活性で遅反応性または高速反応性の媒体であってよい。第1のステーションでワイヤを第1の温度に予備加熱し、この加熱したワイヤを途中での冷却がほとんどない状態で第2のインダクタに供給することにより、第2のインダクタの貫通後に、ベース部での熱エネルギの解放によって歯尖端からある距離において最大硬度が発生するということが防止される。それよりもむしろ、歯尖端から始まって遷移領域に至るまで均一な高硬度が実現される。好ましくはこの遷移領域は直線的な帯状であって、帯の幅は例えば最大で0.5mmであってもよい。遷移領域の幅は、歯の大きさによって、歯のベースから歯尖端までの歯の高さの最大で20%となるように試みられる。このとき、領域の幅は歯の高さと同じ方向、すなわちワイヤの長手方向に対して垂直に測定される。これは、歯前部を前方から、並びに歯背部を後方から計測する場合にも当てはまる。本発明による方法では、硬化プロセス時に温度勾配を小さい空間に閉じ込めることが可能であり、硬度の遷移領域の幅をほとんど線のような帯とすることができる。これにより、火炎で硬化させた針布ワイヤに比べて、明らかに動作性能が改善される。歯は弾性変形するか、又は破断するかである。歯の塑性変形すなわち歯の横方向への折れ曲がりはカーディング処理の大きな障害となり得るが、それが回避される。
【0013】
歯を形成するために壁部に作られるリセスは、打抜き工程での連続作業で作製できる。そのために、ワイヤを打抜きステーションで間歇的に移動させてもよい。あるいはこれに代わって、打抜き工程の間、打抜きステーションをワイヤに沿って移動させ、打抜き工具を開放した後にスタート位置に戻してもよい。この後者の方法では、特にインダクタ及び焼入れステーションにおけるワイヤの一様な前進移動が可能となる。また、打抜きステーションとインダクタの間でワイヤループを形成して、そのワイヤループで打抜きステーションにおける衝撃状のワイヤ移動をインダクタにおけるワイヤの一様な移動へ適応させることも可能である。
【0014】
好ましくは、第1のインダクタにより生成される温度t1はオーステナイト化温度域tAより低く、その一方で第2のインダクタにより生成される温度t2はオーステナイト化温度域tAの範囲内にある。好ましくは第1の温度t1は500℃より高くて900℃より低く(例えば700℃~750℃)、第2の温度t2は約950℃である。第1の温度t1は軟化焼鈍温度であるが、このとき好ましくは十分高温に設定して第2のインダクタを通過した後の歯の熱損失を最小化し、焼入れステーションに入った時の歯がまだオーステナイト化温度域内にあるようにする。他方、2つの加熱ステーションでの滞在時間と焼入れ操作に至るまでの時間は非常に短いので、ベース部は第2の加熱ステーションにおいて、渦電流または歯からの熱伝導のいずれによっても、硬化に係わるような大きな温度上昇は経験しない。むしろ、ベース領域は焼入れステーションに入った時点で、例えば最大で680℃の軟化焼鈍温度となっている。このようにしていかなる付随的な硬化も回避され、良好なプロセス制御が行われる。第1のインダクタ(または他の第1の加熱ステーション)、及び/又は第2のインダクタは保護ガスの下で運転されてもよい。好適な保護ガスは、具体的には、例えば窒素、アルゴン等の低反応性または不活性のガスである。これに関連して、“保護ガス”という用語は、高反応性のガス、具体的には表面浄化に寄与し得る還元性ガスも含む。
【0015】
第2の周波数f2が第1の周波数f1の少なくとも5倍であれば有効である。例えば、第1の周波数は最大で5MHz、好ましくは最大で3MHzに設定されてもよい。好適な例示的実施形態では、1MHz~5MHzであってよい。第2の周波数f2は好ましくは少なくとも10MHz、さらに好ましくは少なくとも15MHzである。好適な例示的実施形態では、20MHz~30MHzであり、好ましくは27MHzである。この設定を使えば、均一な品質と良好なプロセス制御を達成することが可能である。
【0016】
焼入れ後、ワイヤは、第2の周波数f2よりも低い第3の周波数f3で動作する第3のインダクタを通過してもよい。ワイヤは第3の温度t3まで加熱されてもよい。これは少なくとも第2の温度t2よりも低く、好ましくは第1の温度t1よりも低い。こうして、高周波焼鈍を行うことができる。
【0017】
誘導加熱を両インダクタにおいて不活性ガス、例えば窒素ガスの下で行うと有利である。光沢のある全鋼製針布が、酸化被膜なしで、また歯尖端の部分溶融なしで、かつ硬度の進行を制御して形成される。具体的には、形状形成工程を完全に未硬化の状態で行うことが可能である。硬化させた状態での、歯尖端研削のような後機械加工による機械的形状形成、及び/又は化学処理などが不要となる。
【0018】
さらに、ワイヤの少なくとも1つの側面をブラシ掛けすると有利である。そうすることで、打抜きステーションで作られた打抜き時のばりを取ることができる。材料硬度が高いために、打抜きばりは簡単に剥がれてブラシで落とすことができる。
【0019】
上記の方法で作製された針布ワイヤは、少なくとも1つの、そして好ましくはただ1つの、ブラシ掛けされた側面を有する。保護ガス中で高周波焼入れするために、各歯のブラシ掛けなしの側面と歯前部表面と歯背部は同一の化学組成となっている。ブラシに起因する異物は針布ワイヤの1つの側面にしか見ることができない。
【0020】
請求項10で定義されるように本発明による針布ワイヤは、壁部の厚さや歯の厚さよりも大きな厚さを有するベース部を備えている。歯は硬化される。歯の硬化された領域と硬化されていない材料との境界は、好ましくは最大で0.5mmの幅を有する直線的な帯形状となっている。この幅は好ましくは歯の高さの最大20%である。このように、歯は好ましくは完全に硬化されているか、小さい遷移領域において部分硬化されている材料だけでできている。好ましくは、硬化されていない延性のある材料は含まれていない。好ましくはこの領域以外の硬度は、歯で一様に高く、ベース部で一様に低い。局所的に硬度が極大になることや、また特に歯尖端から歯のベースに向かって硬度が増加するということはない。
【0021】
大きな歯における帯形状の遷移領域は、好ましくは歯尖端から例えば3mmの距離にある。いずれにしても、少なくとも歯の高さの70%、好ましくは少なくとも80%が完全に硬化されるように企図される。これは、遷移領域が好ましくはワイヤの長手方向に平行となっているので、歯前部の前方からの、また歯背部の後方からの測定にも当てはまる。こうして、歯が側方に曲がるという不利な状況は排除される。好ましくは遷移領域が歯溝の少し上方で終わる。ただし、遷移領域を歯溝に接するように画定することも可能である。こうして、ワイヤの湾曲性を過度に制限することなし、最大の強さを有する歯前部が得られる。このような硬度の境界の精密設定が本発明による方法で信頼性良く達成できる。
【0022】
壁部及び/又は歯は、台形又は三角形の断面を有し、ベース部から離れる方向にテーパが付くように構成されてもよい。歯の厚さが歯のベースから歯尖端に向かってかなり減少することを考慮しても、歯の加熱は、特に第2のコンダクタにおいて、十分に制御されて行われるので、加熱をガス炎で行う場合に特に懸念されるような、歯尖端の部分溶解はここでは起こらない。例えば、歯の厚さは、歯のベースから歯尖端に向かって、例えば0.6mmから0.37mmというように、3分の1を超えて減少してもよい。
【0023】
さらに、歯溝から始まる歯が歯尖端まで直線的に延伸し続けるような全鋼製針布を本発明による方法で製造可能である。特に本発明の高周波焼き入れのおかげで後工程の研削が不要となる。
【0024】
本発明のこの他の利点の詳細は、特許請求の範囲、明細書及び図面から推論できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明による全鋼製針布ワイヤの高周波焼き入れプロセスの模式的ブロック図である。
【
図2】全鋼製針布を作製するためのワイヤの模式的斜視図である。
【
図5】
図3~
図4によるワイヤの歯の硬度プロファイルを示す図である。
【
図6】硬度の遷移領域を示す、
図3と同様のワイヤの細部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、針布ローラ用の全鋼製針布アセンブリに必要とされるワイヤ11の製造装置10を示す。装置10は、異形ワイヤ12からこのワイヤ11を製造するためのものであり、ワイヤは装置10の複数のステーションを貫通して長手方向Lへ移動する。
【0027】
とりわけこの装置10には打抜きステーション13が含まれる。これは異形ワイヤ12(
図2)にリセス14を加えるためのもので、それによって歯15が形成される。打抜きステーション13の上流に、アライメントステーションやその他のステーションを備えることもできる。これに追加又は補完して、打抜きステーションの下流に研削ステーションまたはそれに類似のものを配置してもよい。必要があれば、例えば異形ワイヤ12又はワイヤ11を整列させるための追加ステーションを、必要に応じて打抜きステーション13の上流又は下流に備えてもよい。ただし図には表示されていない。
【0028】
ワイヤ11を誘導加熱するための第1のコンダクタの形態をした加熱ステーションが、打抜きステーション13の下流に配置されている。ここで、第1のインダクタ16は、少なくともワイヤのベース部17を覆う場を生成する。ただし任意選択でその歯15を覆ってもよい。第1のインダクタ16は、100kHz~5MHz、好ましくは500KHz~2MHzの間の周波数f1で動作する。本実施形態では1MHzである。このとき、ワイヤ11はこのワイヤのベース部17の領域で、好ましくは300℃より高い第1の温度t1まで加熱されることが望ましい。本例示的実施形態では、温度t1は700℃~750℃である。好ましくは、後続の焼入れ時にこのベース領域17が硬化されないように温度が設定される。
【0029】
第1のインダクタ16からある距離(例えば数10cm)の所に第2のインダクタ18が備えられ、これは明らかに高い周波数f2で動作する。これは第1の周波数f1よりも、少なくとも5倍、好ましくは少なくとも10倍、最も好ましくは少なくとも20倍高い。例えば、第2の周波数f2は20MHz~30MHzであり、好ましくは27MHzである。このとき、第2のインダクタ18は、好ましくは歯15のみ、又は各歯15の一部のみを覆うように構成されている。インダクタ16とインダクタ18の間には積極的な冷却はない。むしろ、ワイヤ11はこの距離を2秒未満、好ましくは1秒未満で通過する。
【0030】
図4は、長手方向に対して垂直に歯溝21から歯尖端20に向かって延在する、歯の高さH15を有する歯15を示している。さらに、歯15の部分19が画定される。この部分は歯尖端20から歯溝21に向かってその中心あるいはもう少し遠くにまで及んでいる。この部分19は高さH19を有し、好ましくは歯の高さH15の70%超、より好ましくは80%超となっている。ただしいずれの場合にも、第2のインダクタ18が、それぞれの歯15の少なくともこの部分19、又はそれよりも少し大きい領域を覆う。ただし、好ましくは第2のインダクタ18は歯溝21を覆わない。第2のインダクタ18、及び所望であれば第1のインダクタ16は、例えば窒素ガスの不活性ガス雰囲気で作用してもよい。このガス雰囲気は焼入れステーション22まで移動してもよい。
【0031】
インダクタ16とインダクタ18を通過した後、高温のワイヤ11は焼入れステーション22に達する。ここで、ベース部17はオーステナイト化温度域tAより低い温度t1であり、それぞれの歯15の部分19はオーステナイト化温度域tA内の温度t2である。部分19からベース部17への温度勾配は、ワイヤ11が焼入れステーション22内へ移動するときに、特に部分19が一様に硬化され、かつワイヤ11の残りの部分が硬化されないようなものとなっている。
【0032】
図3から明らかなように、ベース部17は、長手方向を横切って側面に垂直に測った厚さD17を持っており、この厚さはそれぞれの歯15上で測った厚さD15よりも大きい。ベースD17の熱容量はそれぞれの歯15の熱容量よりも大きい。ただし、ベース部17の温度を第1の温度t1へ上げることで、焼入れステーション22へ到達する前に歯15からベース17へ過多な熱流が生じることは回避される。
【0033】
壁部23は、典型的には矩形断面を有するベース部17から延びている。この場合、壁部は三角形又は図に示すように台形の断面であってもよい。第2のインダクタ18を通過するとワイヤ11には温度遷移領域24が形成される。この領域において温度が第2の高温t2(例えば950℃)から第1の低温t1(例えば550℃)に下がる。この第1の温度は、温度遷移領域24より下の、壁23の残りの部分とベース部17における温度である。したがって、焼入れステーション22を通過した後の焼入れ処理の間、ワイヤ11には
図5に示したような硬度プロファイルが生じる。部分19では、800HV0.5より大きい一様な硬度が達成される。温度遷移領域24は硬度が遷移する遷移領域24となり、そこでは800HV0.5超の硬度が約200HV0.5以下に低下する。この領域は、ベース部17から離れたところにある、垂直方向の硬度の拡大部H24であり、好ましくは歯の高さH15の20%に過ぎない。温度遷移領域24は長手方向Lへ延びる直線的な帯となっていて、その幅が高さH24となっている。この帯は歯溝24から距離Aの位置に配置されてもよい。ただし、この距離Aを0に減らして、この領域24のベース部側の境界が歯溝21に接触するようにすることも可能であり、また有利でもある。さらに、遷移領域24をさらに深く配置して、遷移領域24の硬度が遷移する領域内に歯溝21があるようにすることも可能である。
【0034】
図6は遷移領域24の断面図である。線25、26で示す遷移領域24の境界は、壁部23あるいはそれぞれの歯15を横切る方向にまっすぐ延びていてもよい。しかし、遷移領域24が、硬化領域と未硬化領域により曲線27、28に沿って境界を定められることも(好ましくは)可能である。線25及び/又は線26はベース部17の歯溝面17aに平行となっていてもよい。したがって、線27及び/又は線28のそれぞれは歯15の両側で同一高さとなっている。好ましくは線27、28が歯溝面17aに向かって湾曲した弧となっている。好ましくは曲率中心が各線27、28のベース部17から遠い側で、これまた好ましくは歯15の断面内にある。遷移領域24の境界は全鋼製針布の断面図で見ることができる。ただし、ベース部17の温度t1に対する設定、及びワイヤ11が第1のインダクタ16(または別の加熱ステーション)と第2のインダクタとの間の経路上に滞在する時間の設定とによって、ベース部17の熱負荷(ソース又はシンク)を調節して線25及び/又は線26が歯溝面17aに対して斜めになるようにすることもできる。このことは歯15の両側で異なる高さとなる線27及び/又は線28についても当てはまる。
【0035】
本発明による方法では、歯15を備えたワイヤ11が第1のインダクタ16と第2のインダクタ18を順番に通過する。インダクタ16、18は異なる周波数f1、f2で動作して異なる温度t1、t2を生成する。第1のインダクタ16は特に、硬化させないベース部17をオーステナイト化温度域tAよりも下の高温t1に加熱する。第2のインダクタ18は、歯15をさらに高い、オーステナイト化温度域tA内の第2の温度t2へ加熱する。焼入れにより、明確に画定されて硬化された、一様な高品質を有する歯が得られる。
【0036】
ワイヤ11の性質を改良するために、具体的には張力を低減するために、ワイヤが第3のインダクタ29を通過してもよい。第3のインダクタは、500kHz~5MHz、好ましくは1MHz~2MHzの、第3の周波数f3で動作する。この周波数f3は第1の周波数f1と同じであってもよい。第3のインダクタ29によって生成される温度t3は、例えば数100℃の焼鈍温度である。
【0037】
さらに、ワイヤ11は、焼鈍の前または後にばり除去ステーションを通過してもよい。このステーションでは、リセス14を打抜いたときに潜在的に形成された打抜きばりを、例えば、歯15の片方の平坦側面にのみ作用するブラシによって除去できる。
【0038】
本発明による方法では、歯15を備えたワイヤ11が第1のインダクタ16と第2のインダクタ18を順番に通過する。インダクタ16、18は異なる周波数で動作して異なる温度を生成する。第1のインダクタ16は特に、硬化させないベース部17をオーステナイト化温度域よりも下の高温に加熱する。第2のインダクタ18は、歯15をさらに高い、オーステナイト化温度域内の第2の温度へ加熱する。焼入れにより、明確に画定されて硬化された、一様な高品質を有する歯が得られる。
【符号の説明】
【0039】
10 装置
11 ワイヤ
12 異形ワイヤ
13 打抜きステーション
14 リセス
15 歯
H15 歯の高さ
16 第1のインダクタ又はほかの熱源
17 ベース部
t1 第1の温度
f1 第1の周波数
18 第2のインダクタ
t2 第2の温度
f2 第2の周波数
19 歯15の部分
20 歯15の尖端
21 歯溝
H19 部分19の高さ
22 焼入れステーション
tA オーステナイト化温度域
D17 ベース部17の厚さ
D15 歯15の厚さ
23 壁部
24 温度遷移領域
H24 領域の高さ
A 距離
25 線
26 線
27 線
28 線
f3 第3の周波数
t3 第3の温度
29 第3のインダクタ/他の熱源
30 歯の背面