(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】ポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物およびその成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 67/00 20060101AFI20240814BHJP
C08L 101/12 20060101ALI20240814BHJP
C08K 5/10 20060101ALI20240814BHJP
C08K 5/29 20060101ALI20240814BHJP
C08K 5/49 20060101ALI20240814BHJP
C08J 9/04 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L101/12
C08K5/10
C08K5/29
C08K5/49
C08J9/04 101
C08J9/04 CFD
(21)【出願番号】P 2019163076
(22)【出願日】2019-09-06
【審査請求日】2022-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2018179849
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515107720
【氏名又は名称】MCPPイノベーション合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】田村 潔
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-095853(JP,A)
【文献】特開2018-044113(JP,A)
【文献】特公昭48-002229(JP,B1)
【文献】特公昭36-006795(JP,B1)
【文献】特公昭43-001632(JP,B1)
【文献】特開2005-206827(JP,A)
【文献】特開2019-077867(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00
C08L 101/12
C08K 5/10
C08K 5/29
C08K 5/49
C08J 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)~(C)を含むポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物であって、
成分(A)のポリエステルエラストマーが
芳香族ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体であり、
成分(B)のゴム質重合体がコアシェル型ゴム質重合体であり、
成分(A)、(B)および(C)の合計を100wt%としたときの成分(A)の含有量が60wt%以上98wt%以下、成分(B)の含有量が1wt%以上20wt%以下、成分(C)の含有量が1wt%以上25wt%以下であることを特徴とするポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物。
(A):チタン含有量が240wtppm以下のポリエステルエラストマー
(B):ゴム質重合体
(C):ビスフェノールAの含有量が0wtppm以上1,000wtppm未満のエステル系化合物
【請求項2】
ISO7619-1で測定したデュロA硬度が60~90である、請求項1に記載のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
前記成分(A)のポリエステルエラストマーのチタン含有量が50wtppm以上である、請求項1又は2に記載のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
前記成分(A)のポリエステルエラストマーの末端酸価が30eq/T以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
前記成分(B)のゴム質重合体がアクリル系コアシェル型ゴム質重合体及びシリコーン系コアシェル型ゴム質重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
前記(C)のエステル系化合物がトリメリット酸トリ2-エチルへキシルまたはアジピン酸系ポリエステルである、請求項1~5のいずれか1項にポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
更に、成分(D)としてカルボジイミド化合物を含み、且つその含有量が、成分(A)、(B)および(C)の合計100質量部に対して、0.01~10質量部である、請求項1~6のいずれか1項に記載のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項8】
更に、成分(E)としてリン系化合物を含み、且つその含有量が、成分(A)、(B)および(C)の合計100質量部に対して、0.01~10質量部である、請求項1~7のいずれか1項に記載のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物よりなる成形体。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物よりなる発泡成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、得られる成形体が軟質な質感を有し、色調に優れたポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物およびその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系熱可塑性エラストマーは、強度、耐衝撃性、弾性回復性、柔軟性などの機械的性質や、低温、恒温特性に優れ、さらに耐油性、耐摩耗性にも優れており、加えてポリカーボネート、アクリロニトリル・ブタジエン共重合樹脂(ABS樹脂)等硬質樹脂へ熱融着成形が可能であることから、自動車、電気・電子部品、消費材などの分野に広く使用されている。
近年、ポリエステル系熱可塑性エラストマーをゴム質重合体と可塑剤で柔軟化したポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物の柔らかな触感、耐油性、耐摩耗性に着目し、カメラ、電動工具、靴底、自転車等のグリップまたはパッキン等の成形材料として適用することが検討され、実用化されている。
【0003】
特許文献1には、ポリエステルエラストマーに可塑剤を配合したポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物が開示されている。また、特許文献2には、アクリル系ブロック共重合体にポリエステルエラストマーと可塑剤を配合したポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-168815号公報
【文献】特開2008-031408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者の検討によると、特許文献1、特許文献2に記載されているポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物はそのデュロA硬度が高硬度領域であり、カメラ、電動工具、自転車等のグリップまたはパッキン等に使用できるような柔らかさを有していないことが判明した。さらに、特許文献1に記載されているポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物は、製造した直後のペレットの色味が、強い黄色味を呈することがあり、用途によっては使用できなかった。
【0006】
本発明の目的は、以上のような従来技術の諸問題点を鑑み、軟質な質感を有し、黄色味の少ない色調に優れたポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物およびその成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、従来のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物に含有される可塑剤に含まれるビスフェノールAに、得られるポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物のペレットの色味との相関があることが判明した。また、ポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物の原料として使用するポリエステルエラストマーの製造過程において、触媒等で使用されるチタン化合物を使用した場合に、得られるポリエステルエラストマー中にチタン化合物が大量に残留すると、分解反応が促進され、ポリエステルエラストマーの末端酸価(末端COOH基)の濃度が増大し、耐加水分解性が悪化してしまい、色調の悪化に繋がることも見出した。さらに、この末端酸価の濃度が高いポリエステルエラストマーを原料として用いたポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物は、成形後の製品の末端酸価の濃度が大きく増大し、力学特性が更に悪化するという欠点もあった。
【0008】
そこで、本発明者は、ポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物に使用する可塑剤として、ビスフェノールA含有量が所定値以下のエステル化合物を使用することで、上記課題を解決し得ることを見出した。更に、原料として使用するポリエステルエラストマーのチタン含有量や末端酸価を所定値以下とすることで、さらなる色調の改善が可能であることを見出した。
即ち、本発明の要旨は以下の[1]~[9]に存する。
【0009】
[1] 下記成分(A)~(C)を含むことを特徴とするポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物。
(A):ポリエステルエラストマー
(B):ゴム質重合体
(C):ビスフェノールAの含有量が3,000wtppm以下のエステル系化合物
【0010】
[2] ISO7619-1で測定したデュロA硬度が60~90である、[1]に記載のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物。
【0011】
[3] 前記成分(A)のポリエステルエラストマーのチタン含有量が240wtppm以下である、[1]又は[2]に記載のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物。
【0012】
[4] 前記成分(A)のポリエステルエラストマーの末端酸価が30eq/T以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物。
【0013】
[5] 前記成分(B)のゴム質重合体がアクリル系コアシェル型ゴム質重合体、シリコーン系コアシェル型ゴム質重合体およびブタジエン/アクリロニトリル共重合ゴム質重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]~[4]のいずれかに記載のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物。
【0014】
[6] 前記(C)のエステル系化合物がトリメリット酸トリ2-エチルへキシルまたはアジピン酸系ポリエステルである、[1]~[5]のいずれかにポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物。
【0015】
[7] 更に、成分(D)としてカルボジイミド化合物を含み、且つその含有量が、成分(A)、(B)および(C)の合計100質量部に対して、0.01~10質量部である、[1]~[6]のいずれかに記載のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物。
【0016】
[8] 更に、成分(E)としてリン系化合物を含み、且つその含有量が、成分(A)、(B)および(C)の合計100質量部に対して、0.01~10質量部である、[1]~[7]のいずれかに記載のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物。
【0017】
[9] [1]~[8]のいずれかに記載のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物よりなる成形体。
【0018】
[10] [1]~[8]のいずれかに記載のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物よりなる発泡成形体。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ポリエステルエラストマーに、ゴム質重合体とビスフェノールA含有量が所定値以下のエステル系化合物を配合したポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物により、軟質な質感を有し、色調に優れた成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。尚、本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
また、「重量」と「質量」は同義であり、「wt%」は「重量%」又は「質量%」を意味し、「wtppm」は「重量ppm」又は「質量ppm」を意味する。
【0021】
〔ポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物〕
本発明のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物は、下記成分(A)~(C)を含むことを特徴とするものであり、更に下記成分(D)および/または(E)を含んでいてもよい。
(A):ポリエステルエラストマー
(B):ゴム質重合体
(C):ビスフェノールAの含有量が3,000wtppm以下のエステル系化合物
(D):カルボジイミド化合物
(E):リン系化合物
【0022】
[成分(A)]
成分(A)のポリエステルエラストマーは、通常、結晶性を有するハードセグメントと、柔軟性を有するソフトセグメントとを有するブロック共重合体である。
【0023】
ポリエステルエラストマーとしては、例えば、環状ポリエスエル(本発明において「環状ポリエステル」とは、原料であるジカルボン酸またはそのアルキルエステルが環状構造を有するジカルボン酸又はそのアルキルエステルを含むものを意味する。)からなるハードセグメント(以下、「環状ポリエステルユニット」と称することがある。)とポリアルキレングリコールからなるソフトセグメント(以下、「ポリアルキレングリコールユニット」と称することがある。)とを有するブロック共重合体(以下、「環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体」と称することがある。)、および環状ポリエステルからなるハードセグメントと鎖状脂肪族ポリエステル(本発明において「鎖状脂肪族ポリエステル」とは、原料であるジカルボン酸又はそのアルキルエステルが鎖状構造のみを有するジカルボン酸又はそのアルキルエステルであるものを意味する。)からなるソフトセグメント(以下、「鎖状脂肪族ポリエステルユニット」と称することがある。)とを有するブロック共重合体(以下、「環状ポリエステル-鎖状脂肪族ポリエステルブロック共重合体」と称することがある。)等が挙げられる。これらの中でも好ましいのは入手しやすいという点で、環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体である。
【0024】
環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体としては、例えば、芳香族ポリエステルからなるハードセグメント(以下、「芳香族ポリエステルユニット」と称する場合がある。)とポリアルキレングリコールユニットを有する共重合体(以下、「芳香族ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体」と称することがある。)および脂環族ポリエステルからなるハードセグメント(以下、「脂環族ポリエステルユニット」と称することがある。)とポリアルキレングリコールユニットとを有するブロック共重合体(以下、「脂環族ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体」と称することがある。)等が挙げられる。これらの中でも耐熱性の点で、芳香族ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体が好ましい。
【0025】
芳香族ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体は、特開平10-130451号公報等に記載されているように公知の熱可塑性エラストマーであり、ポリアルキレングリコールユニットを含有する重合体であれば、各々のブロックは単一重合体であっても共重合体であってもよい。
【0026】
芳香族ポリエステルユニットの原料は以下に詳述するが、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとして含むことが好ましい。一方、ポリアルキレングリコールユニットの原料についても以下に詳述するが、ポリテトラメチレンエーテルグリコールを原料とするソフトセグメント(以下、「ポリテトラメチレングリコールユニット」と称することがある。)を含むことが好ましい。
【0027】
本発明に用いるポリエステルエラストマーとしては、ポリブチレンテレフタレート-ポリアルキレングリコールブロック共重合体が好ましく、ポリブチレンテレフタレート-ポリテトラメチレングリコールブロック共重合体が特に好ましい。
【0028】
また、脂環族ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体としては、例えば、脂環族ジカルボン酸(本明細書において「脂環族ジカルボン酸」とは環状脂肪族炭化水素に2つのカルボキシル基が直接結合した化合物を意味する。)、脂環族ジオール及びポリアルキレングリコールを原料として得られるものが代表的なものとして挙げられる。
【0029】
ポリアルキレングリコールユニットを含有する重合体であれば、各々のブロックは、単一重合体であっても共重合体であってもよい。脂環族ポリエステルユニットとしては、シクロヘキサンジカルボン酸とシクロヘキサンジメタノールを原料として得られるハードセグメントを含むことが好ましい。また脂環族ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体のポリアルキレングリコールユニットとしてはポリテトラメチレンエーテルグリコールを原料として得られるソフトセグメント(ポリテトラメチレングリコールユニット)を含むことが好ましい。
【0030】
環状ポリエステル-鎖状脂肪族ポリエステルブロック共重合体としては、例えば、芳香族ポリエステルからなるハードセグメントと鎖状脂肪族ポリエステルからなるソフトセグメントを有するブロック共重合体(以下、「芳香族ポリエステル-鎖状脂肪族ポリエステルブロック共重合体」と称することがある。)、及び脂環族ポリエステルからなるハードセグメントと鎖状脂肪族ポリエステルからなるソフトセグメントを有するブロック共重合体(以下、「脂環族ポリエステル-鎖状脂肪族ポリエステルブロック共重合体」と称することがある。)が挙げられる。
【0031】
これらの中でも芳香族ポリエステル-鎖状脂肪族ポリエステルブロック共重合体が好ましい。芳香族ポリエステル-鎖状脂肪族ポリエステルブロック共重合体の中でも、芳香族ポリエステルユニットがポリブチレンテレフタレートからなる、ポリブチレンテレフタレート-鎖状脂肪族ポリエステルブロック共重合体がより好ましい。また、鎖状脂肪族ポリエステルユニットとして好ましいのはセバシン酸およびアジピン酸に代表される炭素数4~10の鎖状脂肪族ジカルボン酸と鎖状脂肪族ジオールとから得られるものである。
【0032】
柔軟性を有するソフトセグメントとしては、ポリアルキレンエーテルグリコールユニットが好ましい。ポリアルキレンエーテルグリコールとしては、例えば、ポリメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2-及び1,3-)プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール及びポリヘキサメチレングリコール等の直鎖状および分岐状の脂肪族エーテルの他、シクロヘキサンジオールの縮合体及びシクロヘキサンジメタノールの縮合体等の脂環状エーテルの単一重合体または共重合体が挙げられる。また、これらのエーテルユニット内でのランダム共重合体でも良い。また、ポリアルキレングリコールユニットを有するブロック共重合体も用いることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0033】
また、環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体に含まれるポリアルキレングリコールユニットの数平均分子量は600~4,000であることが好ましく、700~2,500であることがより好ましく、800~2,100であることがさらに好ましく、900~1800であることが特に好ましい。なお、ここでポリアルキレングリコールユニットの数平均分子量とは、核磁気共鳴スペクトル法(NMR)で算出された値を言う。
【0034】
これらのポリアルキレングリコールユニットは、環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体に1種のみが含まれていてもよく、数平均分子量または構成成分が異なるものが2種以上含まれていてもよい。
【0035】
ポリエステルエラストマーの製造方法としては、特に制限はなく、バッチ重合法、連続重合法のいずれでもよく、例えば、環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体のうち、芳香族ポリエステルとポリアルキレンエーテルグリコールを用いた芳香族ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体であれば、炭素数1~12の鎖状脂肪族及び/又は脂環族ジオールと、芳香族ジカルボン酸またはそのアルキルエステルと、ポリアルキレンエーテルグリコールとを原料とし、エステル化反応またはエステル交換反応により得られたオリゴマーを縮合させて得ることができる。
【0036】
前記の炭素数1~12の鎖状脂肪族及び/又は脂環族ジオールとしては、ポリエステルの原料として通常用いられるものを使用することができる。鎖状脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール及び1,6-ヘキセングリコール等が挙げられる。中でも1,4-ブチレングリコールが好ましい。
脂環族ジオールとしては、例えば、1,4-シクロヘキセングリコール及び1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられ、1,4-シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
これらの炭素数2~12の鎖状脂肪族及び/又は脂環族ジオールは、1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合物を用いてもよい。
【0037】
芳香族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルとしては、ポリエステルの原料として一般的に用いられているものが使用でき、例えば、テレフタル酸及びその低級(本明細書において「低級」は炭素数4以下を意味する。)アルキルエステル、並びにイソフタル酸、フタル酸、2,5-ノルボルネンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸およびそれらの低級アルキルエステル等が挙げられる。これらの中では、テレフタル酸及びイソフタル酸が好ましく、テレフタル酸がより好ましい。
これらの芳香族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルについても1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
ポリアルキレンエーテルグリコールとしては、前述の如く、例えば、ポリメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2-及び1,3-)プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール及びポリヘキサンメチレングリコール等の直鎖状及び分岐状の脂肪族エーテルグリコールの他、シクロヘキサンジオールの縮合体及びシクロヘキサンジメタノールの縮合体等の脂環状エーテルの単一重合体又は共重合体が挙げられる。
また、これらエーテルユニット内でのランダム共重合体でもよい。
これらの中でも好ましいのはポリメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2-及び1,3-)プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール及びポリヘキサメチレングリコール等の直鎖状及び分岐状の脂肪族エーテルグリコールであり、より好ましいのはポリメチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリ(1,2-及び1,3-)プロピレングリコール及びポリテトラメチレングリコールであり、特に好ましいのはポリテトラメチレングリコールである。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
また、脂環族ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体を製造する場合には、上記の芳香族ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体を製造する場合の原料として用いる芳香族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルに代えて脂環族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルを用いればよい。
【0040】
すなわち、炭素数2~12の鎖状脂肪族及び/又は脂環族ジオールと、脂環族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルと、ポリアルキレンエーテルグリコールとを原料とし、エステル化反応又はエステル交換反応により得られたオリゴマーを重縮合させて得ることができる。
【0041】
脂環族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルとしては、ポリエステルの原料として一般的に用いられているものが使用でき、例えば、シクロヘキサンジカルボン酸及びその低級アルキルエステル、シクロペンタンジカルボン酸及びその低級アルキルエステル等が挙げられる。これらの中では、シクロヘキサンジカルボン酸及びその低級アルキルエステルが好ましく、特にシクロヘキサンジカルボン酸が好ましい。これらの脂環族ジカルボン酸についても1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体中の環状ポリエスエルユニット及びポリアルキレングリコールユニットのそれぞれの含有量は限定されないが、ハードセグメントの結晶性とソフトセグメントの柔軟性のバランスから、通常以下のような範囲となる。
【0043】
即ち、環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体中の環状ポリエステルユニットの含有量の下限値は限定されないが、通常10wt%以上、好ましくは20wt%以上である。また、環状ポリエステルユニットの含有量の上限値は限定されないが、通常95wt%以下、好ましくは90wt%以下、より好ましくは80wt%以下である。
【0044】
また、環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体中のポリアルキレングリコールユニットの含有量の下限値は限定されないが、通常5wt%以上、好ましくは10wt%以上、より好ましくは20wt%以上である。また、ポリアルキレングリコールユニットの含有量の上限値は限定されないが、通常90wt%以下、好ましくは80wt%以下である。
【0045】
なお、環状ポリエステルユニットを有するブロック共重合体中の環状ポリエステルユニットの含有量は、核磁気共鳴スペクトル法(NMR)を使用し、その水素原子の化学シフトとその含有量に基づいて算出することができる。同様に、ポリアルキレングリコールユニットを有するブロック共重合体中のポリアルキレングリコールユニットの含有量は、核磁気共鳴スペクトル法(NMR)を使用し、その水素原子の化学シフト及びその含有量に基づいて算出することができる。
【0046】
芳香族ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体としては、特に結晶化速度が速く、成形性に優れることから、ポリブチレンテレフタレート-ポリアルキレングリコールブロック共重合体が好ましく、ここで、ポリアルキレングリコールユニットのアルキレン基の炭素数は、2~12が好ましく、2~8がより好ましく、2~5が更に好ましく、4が特に好ましい。
【0047】
尚、本発明に係る芳香族ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体に代表される、環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体には、上記成分以外に3官能のアルコールやトリカルボン酸及び/またはそのエステルの1種または2種以上を少量共重合させてもよく、更に、アジピン酸等の鎖状脂肪族ジカルボン酸又はそのジアルキルエステルを共重合成分として導入してもよい。
【0048】
上記の環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体は、市販品としても入手することができる。このような市販品としては例えば、「KEYFLEX(登録商標)」(LG化学(株)製)、「プリマロイ(登録商標)」(三菱ケミカル社製)、「ペルプレン(登録商標)」(東洋紡績社製)及び「ハイトレル(登録商標)」(デュポン社製)、「ヘトロフレックス(登録商標)」(ヘトロン社製)等が挙げられる。
【0049】
環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体等のポリエステルエラストマーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0050】
<デュロA硬度>
本発明に用いるポリエステルエラストマーとしては、そのISO7619-1で測定されるデュロA硬度の下限が60以上であることが好ましく、65以上であることがさらに好ましく、70以上であることが特に好ましい。ポリエステルエラストマーのデュロA硬度の上限は95以下であることが好ましく、90以下であることがさらに好ましい。デュロA硬度が上記下限以上であれば、得られるポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物が柔らかすぎることがなく、上記上限以下であれば硬すぎることがない。
【0051】
<チタン含有量>
環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体等のポリエステルエラストマーの製造においては、重合触媒としてチタン化合物が使用される場合がある。その際に用いるチタン化合物としては、例えば、シュウ酸チタン酸カリウム、アルコキシ又はアリーロキシチタン酸化合物、炭酸チタン化合物、ハロゲン化チタン化合物、チタンアセチルアセトネート等が挙げられる。中でも、シュウ酸チタン酸カリウム、アルコキシ又はアリーロキシチタン化合物、チタンアセチルアセトネートが好ましく、特にアルコキシ又はアリーロキシチタン化合物が最も好ましい。この中でもテトラアルキルチタネート(テトラアルコキシチタン)又はテトラアリールチタネート(テトラアリーロキシチタン)が好ましく、具体的には、テトラ-n-プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネート、テトラ-t-ブチルチタネート、テトラフェニルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラベンジルチタネート、あるいはこれらの混合チタネートが挙げられる。これらのうち特にテトラ-n-プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネートが好ましく、テトラ-n-ブチルチタネートが最も好ましい。また、これらのチタン化合物の2種以上を併用して用いても良い。
【0052】
このポリエステルエラストマーの製造過程において触媒として使用されるチタン化合物によって、得られるポリエステルエラストマー中にチタン化合物が残留するが、その残留チタン量は、ポリエステルエラストマー中の含有量として、下限値は10wtppm以上が好ましく、30wtppm以上がより好ましく、50wtppm以上が特に好ましい。一方、上限値は、240wtppm以下が好ましく、220wtppm以下がより好ましく、200wtppm以下がさらに好ましく、190wtppm以下が特に好ましい。
ポリエステルエラストマーのチタン含有量が少ないと、十分な重合反応性が得られず、ポリエステルエラストマーを得ることができない場合がある。一方、ポリエステルエラストマーのチタン含有量が多くなるほど、これを含むポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物を成形することで得られる成形体の黄色味が強くなり、色調に劣るものとなる。
【0053】
なお、ポリエステルエラストマー中のチタン含有量は、灰化-アルカリ融解-ICP/AES(誘導結合高周波プラズマ発光分光分析)法で定量することができる。
【0054】
ポリエステルエラストマーのチタン含有量は、ポリエステルエラストマー製造時の温度、時間を調整することで低減することが出来、上記範囲に調整することができる。
【0055】
<末端酸価>
環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体等のポリエステルエラストマーの分子鎖末端にはCOOH基が存在しこの末端COOH基量が増大すると、耐加水分解性が悪化し、着色する等、色調が悪くなる。このため、末端COOH基量である末端酸価が多いポリエステルエラストマーとその他のエラストマー等をアロイ化して得られるポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物は、黄色味が高く、耐候試験において黄色味を帯びやすく、耐候試験前後でのYI値増加量が大きいものとなる。ただし、この末端酸価が小さすぎると、成形時等に加熱すると副生するテトラヒドロフランが多くなり作業者の安全の観点から好ましくない。
【0056】
色調に優れると共に安全性にも優れるポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物を提供し得るポリエステルエラストマーの末端酸価の下限値は1eq/T(当量/トン)以上であり、より好ましくは5eq/T以上であり、特に好ましくは10eq/T以上である。一方、上限値は好ましくは30eq/T以下であり、より好ましくは25eq/T以下であり、特に好ましくは20eq/T以下である。
【0057】
ポリエステルエラストマーの末端酸価は例えば、環状ポリエステル-ポリアルキレングリコールブロック共重合体等のポリエステルエラストマーをベンジルアルコールに溶解させ、0.1規定の水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ溶液で滴定し、1×106g当りのCOOH基量を定量することで求めることができる。
【0058】
また、ポリエステルエラストマーの末端酸価は、ポリエステルエラストマー製造時の温度、時間、重合度などを調整することにより上記範囲に調整することができる。
【0059】
<含有量>
本発明のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物において、成分(A)のポリエステルエラストマーの含有量は、成分(A)、(B)および(C)の合計を100wt%としたときに、下限値は50wt%以上が好ましく、60wt%以上がより好ましく、75wt%以上が特に好ましい。一方、上限値は99wt%以下が好ましく、98wt%以下がより好ましく、97wt%以下が特に好ましい。ポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物中の成分(A)のポリエステルエラストマーの含有量が上記下限値以上であれば、ポリエステルエラストマーが本来有している耐熱性、耐油性、耐摩耗性を十分に発揮させることができる。ポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物中の成分(A)のポリエステルエラストマーの含有量が上記上限値以下であれば、相対的に成分(B),(C)の含有量を十分なものとして、これらの成分による柔軟化で、得られるポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物をより軟質な質感を有するものとすることができる。
【0060】
[成分(B)]
本発明のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物は、成分(B)としてゴム質重合体を含む。ゴム質重合体としては特に制限はないが、コアシェル型ゴム質重合体、例えばアクリル系コアシェル型ゴム質重合体、シリコーン系コアシェル型ゴム質重合体や、ブタジエン/アクリロニトリル共重合ゴム質重合体(NBR)よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0061】
コアシェル型ゴム質重合体の具体例としては、メチルメタクリレート/ブタジエン/スチレン共重合体樹脂(MBS樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)等のジエン系コアシェル型ゴム質重合体、アクリレート/スチレン/アクリロニトリル共重合体樹脂(ASA樹脂)、アクリレート/メチルメタクリレート共重合体樹脂等のアクリル系コアシェル型ゴム質重合体、シリコーン/アクリレート/メチルメタクリレート共重合体樹脂、シリコーン/アクリレート/アクリロニトリル/スチレン共重合体樹脂等のシリコーン系コアシェル型ゴム質重合体等が挙げられる。
これらのゴム質重合体は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
これらのゴム質重合体のうち、アクリレート/メチルメタクリレート共重合ゴム質重合体(メタクリル酸アルキル・アクリル酸アルキルの共重合物)を用いることが好ましい。
【0063】
本発明のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物において、成分(B)のゴム質重合体の含有量は、成分(A)、(B)および(C)の合計を100wt%としたときに、下限値は1wt%以上が好ましく、1.5wt%以上がより好ましく、2wt%以上が特に好ましい。一方、上限値は20wt%以下が好ましく、15wt%以下がより好ましく、10wt%以下が特に好ましい。ポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物中の成分(B)のゴム質重合体の含有量が上記下限値以上であれば、十分に柔軟化され、得られるポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物は軟質な質感を有するものとなる。ポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物中の成分(B)のゴム質重合体の含有量が上記上限値以下であれば、相対的に成分(A)のポリエステルエラストマー含有量を十分に確保して、ポリエステルエラストマーが本来有している耐熱性、耐油性、耐摩耗性を十分に発揮させることができる。
【0064】
[成分(C)]
本発明のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物には、成分(C)として、ビスフェノールAの含有量が3,000wtppm以下のエステル系化合物を含むことを特徴とする。即ち、エステル系化合物は、耐熱性を付与するためにビスフェノールAを添加することに起因してビスフェノールAが含まれるものとなるが、エステル系化合物のビスフェノールAの含有量が多くなるほど、得られるポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物が黄色味を帯び色調が悪化する傾向にある。エステル系化合物のビスフェノールAの含有量は、好ましくは2500wtppm以下、より好ましくは2000wtppm以下、更により好ましくは1000wtppm未満である。
【0065】
エステル系化合物のビスフェノールA含有量は、エステル系化合物を有機溶剤に溶解後、高速液体クロマトグラフ(HPLC)によって、測定することができる。
【0066】
エステル系化合物の具体例としては、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジエチルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジ-2-エチルへキシルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジウンデシルフタレート、ジイソノニルフタレートなどのフタル酸エステル系可塑剤、トリクレジルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリ-2-エチルへキシルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリスージクロロプロピルホスフェートなどのリン酸系エステル系可塑剤、トリメリット酸トリオクチル、トリメリット酸トリ2-エチルへキシルなどのトリメリット酸エステル系可塑剤、ジペンタエリスリトールエステル系可塑剤、ジオクチルアジペート、ジ-2-エチルへキシルアジペート、ジイソブチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジブチルジグリコールアジペート、ジ-2-エチルへキシルアゼレート、ジオクチルセバケート、メチルアセチルリシノレートなどの脂肪酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸オクチルエステルなどのピロメリット酸エステル系可塑剤、アジピン酸系ポリエステル、セバシン酸系ポリエステル、フタル酸系ポリエステルなどのポリエステル系可塑剤、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化脂肪酸アルキルエステルなどのエポキシ化可塑剤、およびアジピン酸エーテルエステル、ポリエーテルエステル、ポリエーテルなどのポリエーテル系可塑剤、ジエチレングリコールジベンゾエート、ポリプロピレングリコールジベンゾエート、トリプロピレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、プロピレングリコールジベンゾエート、ジブチレングリコールジベンゾエート、ネオペンチルグリコールジベンゾエート、グリセリントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラベンゾエート、トリエチレングリコールジベンゾエート、ポリエチレングリコールジベンゾエート、トリメチロールエタントリベンゾエートなどのベンゾエート系可塑剤が挙げられる。これらの中でも、トリメリット酸トリ2-エチルへキシル等のトリメリット酸エステル系可塑剤またはアジピン酸系ポリエステルが好ましく、特にトリメリット酸トリ2-エチルへキシルが好ましい。
【0067】
トリメリット酸トリ2-エチルへキシルの市販品としては、ビスフェノールAの含有量が3,000wtppm以下である観点から、ジェイプラス社製「TOTM-NB(登録商標)」、DIC株式会社製「モノサイザー(登録商標) W-705」などを用いることが好ましい。また、アジピン酸系ポリエステルの市販品としては、DIC株式会社製「モノサイザー(登録商標) D-640」などを用いることが好ましい。
【0068】
前記トリメリット酸トリ2-エチルへキシル中に含まれるビスフェノールAについても同様に高速クロマトグラフを使用して定量することができる。
【0069】
なお、用いるエステル系化合物のビスフェノールA含有量が上記上限を超える場合、蒸留精製するなどしてビスフェノールAを除去してビスフェノールA含有量を低減すればよい。
【0070】
前記エステル系化合物は、1種のみで用いても、2種以上を任意に組み合わせても良い。2種以上のエステル系化合物を併用する場合、混合物としてのビスフェノールA含有量が上記上限値以下であればよい。
【0071】
本発明のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物において、成分(C)のエステル系化合物の含有量は、成分(A)、(B)および(C)の合計を100wt%としたときに、1wt%以上が好ましく、2wt%以上がより好ましく、3wt%以上が特に好ましい。一方、30wt%以下が好ましく、25wt%以下がより好ましく、20wt%以下が特に好ましい。ポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物中のエステル系化合物含有量が1wt%以上であれば、十分に柔軟化され、得られるポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物は軟質な質感を有するものとなることができる。ポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物中のエステル系化合物の含有量が30wt%以下であれば、成分(A)のポリエステルエラストマー含有量を十分なものとして、ポリエステルエラストマー本来の耐熱性、耐油性、耐摩耗性を有効に得ることができる上に、エステル系化合物のブリードアウトを防止することができる。
【0072】
[成分(D)]
本発明のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物は上記成分(A)、成分(B)、成分(C)、に加え、更に成分(D)としてカルボジイミド化合物、特にカルボジイミド変性イソシアネートを含むことが好ましい。
成分(D)を含むことによりポリエステルエラストマーの末端COOHがカルボジイミド化合物と反応することで、ポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物に含まれる末端COOH基量が少なくなり、色調を向上させることができる。
【0073】
カルボジイミド化合物としては、分子中に1個以上のカルボジイミド基を有する化合物(ポリカルボジイミド化合物を含む)が挙げられ、具体的には、モノカルボジイミド化合物として、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジメチルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t-ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ-t-ブチルカルボジイミド、ジ-β-ナフチルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミドなどが例示される。ポリカルボジイミド化合物としては、その重合度が、下限が通常2以上、好ましくは4以上であり、上限が通常40以下、好ましくは30以下であるものが使用され、米国特許第2941956号明細書、特公昭47-33279号公報、J.Org.Chem.28巻、p2069-2075(1963)、及びChemical Review 1981、81巻、第4号、p.619-621等に記載された方法により製造されたものが挙げられる。
【0074】
ポリカルボジイミド化合物の製造原料である有機ジイソシアネートとしては、例えば、芳香族ジイソシアネート、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネートやこれらの混合物を挙げることができ、具体的には、1,5-ナフタレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネートと2,6-トリレンジイソシアネートの混合物、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,6-ジイソプロピルフェニルイソシアネート、1,3,5-トリイソプロピルベンゼン-2,4-ジイソシアネートなどが例示される。
【0075】
工業的に入手可能な具体的なカルボジイミド化合物としては、カルボジライトHMV-8CA(日清紡ケミカル社製)、カルボジライト LA-1(日清紡ケミカル社製)、スタバクゾールP(ラインケミー社製)、スタバクゾールP100(ラインケミー社製)などが例示される。
【0076】
これらのカルボジイミド化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0077】
本発明のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物において、成分(D)のカルボジイミド化合物の含有量は、上述の成分(A)、(B)および(C)の合計100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、0.05質量部以上が更に好ましく、0.1質量部以上が特に好ましい。一方、10質量部以下が好ましく、5質量部以下が更に好ましく、3質量部以下が特に好ましい。成分(D)の含有量が上記下限値以上であれば、色調の改善効果が発現されやすく、上記上限値以下であれば、成分(D)を配合することによる流動性の低下をおさえて、成形加工性を良好なものとすることができる。
【0078】
[成分(E)]
本発明のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物は上記成分(A)、成分(B)および成分(C)に加え、更に成分(E)としてリン系化合物、特にホスフェート化合物を含むことが好ましい。
成分(E)を含むことにより、成分(A)に含まれるポリエステル重合触媒の触媒機能を抑制(つまり組成物の熱安定性を良好なものに)することで、本発明のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物の色調を向上させることができる。
【0079】
リン系化合物としては、例えば、ホスファイト系化合物、ホスフェート系化合物等の有機リン系化合物が挙げられる。
かかるホスファイト系化合物の具体例としては、テトラキス[2-t-ブチル-4-チオ(2′-メチル-4′-ヒドロキシ-5′-t-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル]-1,6-ヘキサメチレン-ビス(N-ヒドロキシエチル-N-メチルセミカルバジド)-ジホスファイト、テトラキス[2-t-ブチル-4-チオ(2′-メチル-4′-ヒドロキシ-5′-t-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル]-1,10-デカメチレン-ジ-カルボキシリックアシッド-ジ-ヒドロキシエチルカルボニルヒドラジド-ジホスファイト、テトラキス[2-t-ブチル-4-チオ(2′-メチル-4′-ヒドロキシ-5′-t-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル]-1,10-デカメチレン-ジ-カルボキシリックアシッド-ジ-サリシロイルヒドラジド-ジホスファイト、テトラキス[2-t-ブチル-4-チオ(2′-メチル-4′-ヒドロキシ-5′-t-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル]-ジ(ヒドロキシエチルカルボニル)ヒドラジド-ジホスァイト、テトラキス[2-t-ブチル-4-チオ(2′-メチル-4′-ヒドロキシ-5′-t-ブチルフェニル)-5-メチルフェニル]-N,N′-ビス(ヒドロキシエチル)オキサミド-ジホスファイトなどが挙げられるが、少なくとも1つのP-O結合が芳香族基に結合しているものがより好ましく、その具体例としては、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4′-ビフェニレンホスフォナイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、4,4′-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-t-ブチルフェニル-ジ-トリデシル)ホスファイト、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ジトリデシルホスファイト-5-t-ブチル-フェニル)ブタン、トリス(ミックスドモノおよびジ-ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、4,4′-イソプロピリデンビス(フェニル-ジアルキルホスファイト)、9,10-ジハイドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、亜リン酸トリイソデシルなどが挙げられる。これらのうち、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジ-ホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-4,4′-ビフェニレンホスフォナイト、9,10-ジハイドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキサイド、亜リン酸トリイソデシルなどが好ましく使用できる。
ホスファイト系化合物の具体的な商品名としては、(株)ADEKA製“アデカスタブ”、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製“イルガフォス”、住友化学工業(株)製“スミライザー”、クラリアント社製“サンドスタブ”、GE社製“ウエストン”、三光(株)製“SANKO-HCA”などが挙げられる。
【0080】
ホスフェート系化合物の具体例としては、モノステアリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、メチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェート、ジオクタデシルホスフェートなどが挙げられ、中でも、ジオクタデシルホスフェート、モノステアリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェートが好ましい。
ホスフェート系化合物の具体的な商品名としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製“イルガノックス”、イーストマン・コダック社製“インヒビター”、(株)ADEKA製“アデカスタブ”などが挙げられる。
【0081】
これらのリン系化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0082】
本発明のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物において、成分(E)のリン系化合物の含有量は、上述の成分(A)、(B)および(C)の合計100質量部に対して、0.01質量部以上が好ましく、0.05質量部以上が更に好ましく、0.1質量部以上が特に好ましい。一方、10質量部以下が好ましく、5質量部以下が更に好ましく、3質量部以下が特に好ましい。成分(E)の含有量が上記下限値以上であれば、色調の改善効果が発現されやすく、上記上限値以下であれば、成分(E)が本発明のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物よりなる成形体の表面にブリードアウトすることを防ぐことができる。
【0083】
[その他の成分]
本発明のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて上記成分(A)~(E)以外のその他の成分、例えば、添加剤、充填材等を適宜配合することができる。
【0084】
充填材としては、タルク、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノ珪酸ナトリウム、珪酸マグネシウム、ガラスバルーン、ガラスカットファイバー、ガラスミルドファイバー、ガラスフレーク、ガラス粉末、炭化ケイ素、窒化ケイ素、石膏、石膏ウィスカー、焼成カオリン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、金属粉、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、炭素繊維等の無機充填材;澱粉、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ等の天然由来のポリマーやこれらの変性品等の有機充填材等が挙げられる。これらは1種のみで用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。充填材の配合量は通常、全成分の50wt%以下であり、好ましくは30wt%以下である。
【0085】
添加剤としては、酸化防止剤、酸性化合物及びその誘導体、滑剤、紫外線吸収剤、光安定剤、核剤、難燃剤、衝撃改良剤、発泡剤、着色剤、有機過酸化物や、展着剤、粘着剤等が挙げられる。これらは1種のみで用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0086】
[ポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物の製造方法]
本発明のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物は、成分(A)~(C)、必要に応じて配合される成分(D)、成分(E)、その他の成分を、公知の方法、例えば、ヘンシェルミキサー、Vブレンダー、タンブラーブレンダー等で機械的に混合した後、公知の方法で機械的に溶融混練することにより製造することができる。機械的溶融混練には、バンバリーミキサー、各種ニーダー、単軸又は二軸押出機等の一般的な溶融混練機を用いることができる。
【0087】
本発明のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物の製造において、成分(C)のエステル系化合物を成分(B)のゴム質重合体に含浸させて複合体とした後、成分(A)のポリエステルエラストマー、必要に応じて配合されるその他の成分を、公知の方法、例えば、ヘンシェルミキサー、Vブレンダー、タンブラーブレンダー等で機械的に混合した後、公知の方法で機械的に溶融混練することにより製造することもできる。機械的溶融混練には、バンバリーミキサー、各種ニーダー、単軸又は二軸押出機等の一般的な溶融混練機を用いることができる。
【0088】
[ポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物の物性]
本発明のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物は、その適用される用途の観点から、柔らかな触感が求められるため、ISO7619-1で測定したデュロA硬度が90以下が好ましく、85以下がより好ましく、80以下がさらに好ましい。一方、本発明のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物のデュロA硬度は、材料強度および耐久性の観点から60以上が好ましい。
【0089】
また、本発明のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物のMFR(ISO 1133(190℃、荷重2.16kgf))は、成形性の観点から好ましい上下限値の範囲があり、下限値は0.5g/10分以上であることが好ましく、5g/10分以上であることがさらに好ましく、10g/10分以上であることが特に好ましい。一方、上限値は40g/10分以下が好ましく、30g/10分以下がさらに好ましく、20g/10分以下が特に好ましい。
【0090】
さらに、本発明のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物のYI値は、得られる成形体の外観の観点から35以下が好ましく、20以下がさらに好ましく、10以下が特に好ましい。ここで、YI値は、本発明のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物のペレットについて後述の実施例の項に記載の方法で測定された値である。
【0091】
〔成形体〕
本発明の成形体は、本発明のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物を用いて成形されたものである。
【0092】
本発明のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形などの様々な成形方法で成形することが可能であり、射出成形とブロー成形を合わせたインジェクションブロー成形などの複数の成形加工技術を合わせた成形方法にも適用することができる。
【0093】
本発明のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物により製造された成形体は、軟質な質感を有し、耐油性、耐摩耗性等に優れたものである。このため、文房具;玩具;スポーツ用品;携帯電話やスマートフォン等のカバー;グリップ等の部品;学校教材、家電製品、OA機器の補修部品、自動車、オートバイ、自転車等の各種パーツ;建装材等の部材等の各種用途に好適に用いることができる。
【0094】
〔発泡成形体〕
本発明の発泡成形体は、本発明のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物を用いて発泡成形されたものである。
【0095】
発泡成形体は、発泡粒子を型内成形させて得られ、複数の発泡粒子の融着体から構成される。例えば、多数の小孔を有する閉鎖金型内に発泡粒子(予備発泡粒子)を充填し、加圧水蒸気で発泡粒子を加熱発泡させ、発泡粒子間の空隙を埋めると共に、発泡粒子を相互に融着させ、一体化させることにより得ることができる。その際、例えば、金型内への発泡粒子の充填量を調整する等して、発泡成形体の密度を調整できる。
【0096】
発泡粒子は、本発明のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物に発泡剤を配合することにより製造することができる。
この場合、発泡剤としては、化学発泡剤、物理発泡剤のいずれを用いてもよい。
【0097】
化学発泡剤とは、分解して炭酸ガス等の気体を発生するものであり、上記の成分(A)~(C)、更に必要に応じて成分(D)および/または(E)をはじめとする、他の成分とで、上述のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物として、そのペレットと化学発泡剤と混合する、或いは、上述のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物の各成分(A)~成分(C)と共に化学発泡剤を直接、混合機若しくは成形機に供給して混合し、発泡成形体ことができる。化学発泡剤としては、例えば、重炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム等の無機系化学発泡剤や、アゾジカルボンアミド、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン等の有機系化学発泡剤が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0098】
物理発泡剤は、成形機のシリンダ内の溶融樹脂にガス状または超臨界流体として注入され、分散または溶解されるもので、金型内に射出後、圧力開放されることによって発泡剤として機能するものである。物理発泡剤としては、例えば、プロパン、ブタン等の脂肪族炭化水素類、シクロブタン、シクロペンタン等の脂環式炭化水素類、クロロジフルオロメタン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類、窒素ガス、炭酸ガス、空気等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0099】
これらの発泡剤のうちでは、通常の射出成形機が安全に使用でき、均一微細な気泡が得られやすいものとして、化学発泡剤としては無機系化学発泡剤が、物理発泡剤としては窒素ガス、炭酸ガス、空気等が好ましい。
【0100】
これらの発泡剤には、発泡成形体の気泡を安定的に均一微細にするために、必要に応じて、例えば、クエン酸のような有機酸等の発泡助剤や、タルク、炭酸リチウムのような無機微粒子等の造核剤を併用してもよい。
【0101】
更に、発泡粒子に不活性ガス又は空気(以下、不活性ガス等と称する)を含浸させて、発泡粒子の発泡力を向上させてもよい(内圧付与工程)。発泡力を向上させることにより、型内成形時に発泡粒子同士の融着性が向上し、発泡成形体は更に優れた機械的強度を有する。なお、不活性ガスとしては、例えば、二酸化炭素、窒素、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。
【0102】
発泡粒子に不活性ガス等を含浸させる方法としては、例えば、常圧以上の圧力を有する不活性ガス等雰囲気下に発泡粒子を置くことによって、発泡粒子中に不活性ガス等を含浸させる方法が挙げられる。発泡粒子は、金型内に充填する前に不活性ガス等が含浸されてもよいが、発泡粒子を金型内に充填した後に金型ごと不活性ガス等雰囲気下に置くことで含浸されてもよい。なお、不活性ガスが窒素である場合、ゲージ圧(大気圧基準)0.1~2MPaの窒素雰囲気中に発泡粒子を20分~24時間に亘って放置してもよい。
【0103】
発泡粒子に不活性ガス等を含浸させた場合、発泡粒子をこのまま、金型内にて加熱、発泡させてもよいが、発泡粒子を金型内に充填する前に加熱、発泡させて、低嵩密度の発泡粒子とした上で金型内に充填して加熱、発泡させてもよい。このような低嵩密度の発泡粒子を用いることによって、低密度の発泡成形体を得ることができる。
【0104】
発泡成形体は、例えば、シューズのソールを構成するミッドソール、インソール、アウトソール等、ラケットやバット等のスポーツ用品の打具類の芯材、パッドやプロテクター等のスポーツ用品の防具類、パッドやプロテクター等の医療・介護・福祉・ヘルスケア用品、自転車や車椅子等のタイヤ芯材、自動車等の輸送機器の内装材・シート芯材・衝撃吸収部材・振動吸収部材、防舷材やフロート等の衝撃吸収材、玩具、床下地材、壁材、鉄道車両、飛行機、ベッド、クッション等に用いることができる。
【0105】
本発明の発泡成形体は、ミッドソール、インソール及びアウトソールのいずれか又は全てに使用できる。本発明の発泡成形体を使用しなかったミッドソール、インソール及びアウトソールのいずれかには、公知のミッドソール、インソール及びアウトソールを使用できる。
発泡成形体は、上記用途に応じて適切な形状を取り得る。
【0106】
以下に、実施例および比較例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味を持つものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0107】
〔原料〕
<成分(A):ポリエステルエラストマー>
A-1:ヘトロン社製へトロフレックス(登録商標)
ポリブチレンテレフタレート-ポリテトラメチレングリコールブロック共重合体
ポリテトラメチレングリコールユニットの数平均分子量:1,700
ポリブチレンテレフタレートユニットの含有量:18wt%
ポリテトラメチレングリコールユニットの含有量:73wt%
ISO7619-1で測定したデュロA硬度:81
灰化-アルカリ融解-ICP/AES法で定量したチタン含有量:150wtppm
末端酸価:18.3eq/T
A-2:ヘトロン社製へトロフレックス(登録商標)
ポリブチレンテレフタレート-ポリテトラメチレングリコールブロック共重合体
ポリテトラメチレングリコールの数平均分子量:1,700
ポリブチレンテレフタレートユニットの含有量:27wt%
ポリテトラメチレングリコールユニットの含有量:64wt%
ISO7619-1で測定したデュロA硬度:88
灰化-アルカリ融解-ICP/AES法で定量したチタン含有量:83wtppm
末端酸価:14.6eq/T
A-3:ヘトロン社製へトロフレックス(登録商標)
ポリブチレンテレフタレート-ポリテトラメチレングリコールブロック共重合体
ポリテトラメチレングリコールの数平均分子量:1,000
ポリブチレンテレフタレートユニットの含有量:26wt%
ポリテトラメチレングリコールユニットの含有量:61wt%
ISO7619-1で測定したデュロA硬度:88
灰化-アルカリ融解-ICP/AES法で定量したチタン含有量:160wtppm
末端酸価:29.8eq/T
【0108】
<成分(B):ゴム質重合体>
B:三菱ケミカル社製メタブレン(登録商標)
メタクリル酸アルキル・アクリル酸アルキルの共重合物
【0109】
<成分(C):エステル系化合物>
C-1:トリメリット酸トリ2-エチルへキシル
高速クロマトグラフにより定量したビスフェノールA含有量:5100ppm
C-2:トリメリット酸トリ2-エチルへキシル
高速クロマトグラフにより定量したビスフェノールA含有量:1000wtppm未満
C-3:アジピン酸系ポリエステル
高速クロマトグラフにより定量したビスフェノールA含有量:1000wtppm未満
【0110】
<成分(D):カルボジイミド化合物>
D:日清紡ケミカル社製カルボジライト(登録商標)LA-1
カルボジイミド変性イソシアネート
【0111】
<成分(E):リン系化合物>
E:ADEKA社製アデカスタブ(登録商標)AX-71
モノ/ジオクタデシルホスフェート
【0112】
〔実施例1~12、比較例1、2〕
[ポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物の製造]
表-1の配合組成に記載の各成分を二軸混練機により溶融混練(シリンダー温度200℃)し、ポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物のペレットを製造した(実施例1~12、比較例1、2)。
【0113】
[物性評価用成形体の作成]
上記のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物のペレットを、射出成形機(日本製鋼所社製「J110AD」、型締め力110T)を用いて、金型温度40℃、シリンダー温度200℃~230℃にて射出成形を行い、100mm×100mm、厚み2mmの成形体を得た。
以下、それぞれ「物性評価用成形体」と称す。
【0114】
[ポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物および物性評価用成形体の評価]
実施例1~12、比較例1~2のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物のペレットおよび物性評価用成形体を以下方法により評価した。結果を表-1に示す。
【0115】
<MFR>
ポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物のペレットについて、MFR(ISO 1133(190℃、荷重2.16kgf))を測定した。
【0116】
<デュロA硬度>
上記で作成した物性評価用成形体について、ISO 7619-1に準拠してデュロA硬度を測定した。
【0117】
<YI値>
上記で作成したポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物のペレットについて、日本電色工業株式会社製ZE-2000を使用してYI値を測定した。YI値が低いほど黄色味が少なく、色調に優れることを示す。
【0118】
【0119】
[考察]
表-1に示す通り、比較例1,2のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物はYI値が高く、強い黄色味を帯びていることがわかる。一方、実施例1~5のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物は、比較例1,2のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物に比べてYI値が低く、黄色味が少ないことがわかる。
成分(D)のカルボジイミド化合物を配合した実施例6、7のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物は、実施例1~5のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物に比べてさらにYI値が低くなり、黄色味がより少ないことがわかる。これは、成分(D)と成分(A)のポリエステルエラストマーの末端カルボキシル基が反応することで末端酸価量が小さくなり、結果として得られる熱可塑性エラストマー組成物のYI低減に影響としていると推測される。
成分(E)のモノ/ジオクタデシルホスフェートを配合した実施例8~12のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物は、実施例1~5のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物に比べてさらにYI値が低くなり、黄色味がより少ないことがわかる。
【0120】
以上の結果から、本発明によれば、可塑剤としてビスフェノールA含有量が所定量以下であるエステル系化合物を用いることで、軟質な質感を有し、色調に優れるポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物を得られることがわかる。さらに、カルボジイミド化合物および/またはリン系化合物を配合することで、更なる色調の改善が可能であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明によれば、軟質な質感を有し、色調に優れたポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物を提供することができる。本発明のポリエステル系熱可塑性エラストマー組成物により製造された成形体は、文房具;玩具;スポーツ用品;携帯電話やスマートフォン等のカバー;グリップ等の部品;学校教材、家電製品、OA機器の補修部品、自動車、オートバイ、自転車等の各種パーツ;建装材等の部材等の用途に好適に用いることができる。