(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】易引裂性低光沢フィルム及びこれを用いた包装袋及びシート
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20240814BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20240814BHJP
B65D 30/02 20060101ALI20240814BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
B32B27/32 E
B65D30/02
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2020006178
(22)【出願日】2020-01-17
【審査請求日】2022-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】303060664
【氏名又は名称】日本ポリエチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】井藤 航太
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-069734(JP,A)
【文献】特開2018-069735(JP,A)
【文献】特開2002-097316(JP,A)
【文献】特開2018-104583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J5/00-5/02、5/12-5/22、
B32B1/00-43/00、
C08K3/00-13/08、C08L1/00-101/14、
B65D30/02、B65D65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層の易引裂性低光沢フィルムであって、
エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、およびエチレン・メタクリル酸メチル共重合体からなる群より選ばれる共重合体(a)
を主成分とする樹脂層(A)と、環状オレフィン系樹脂(b)とポリオレフィン系樹脂(c)を含有する樹脂層(B)の少なくとも2層を含む複数の樹脂層を積層してなり、該樹脂層(A)が少なくとも最外層に配置され、前記共重合体(a)が、共重合体(a)全体に対してアクリル酸メチル、アクリル酸エチル又はメタクリル酸メチルの含有量が10重量%以上であることを特徴とする易引裂性低光沢フィルム。
【請求項2】
前記樹脂層(B)における環状オレフィン系樹脂(b)の濃度が10~80重量%であり、ポリオレフィン系樹脂(c)の濃度が20~90重量%であることを特徴とする請求項
1に記載の易引裂性低光沢フィルム。
【請求項3】
前記ポリオレフィン系樹脂(c)が、ポリエチレン系樹脂であることを特徴とする請求項
1又は2に記載の易引裂性低光沢フィルム。
【請求項4】
前記環状オレフィン系樹脂(b)が、エチレン・環状オレフィン共重合体であることを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載の易引裂性低光沢フィルム。
【請求項5】
前記エチレン・環状オレフィン共重合体のガラス転移点が60℃以上であることを特徴とする請求項
4に記載の易引裂性低光沢フィルム。
【請求項6】
さらに分岐状ポリオレフィンを、少なくともいずれかの層に含むことを特徴とする請求項1~
5のいずれかに記載の易引裂性低光沢フィルム。
【請求項7】
前記樹脂層(A)が、さらに分岐状ポリオレフィンを含むことを特徴とする請求項
1~6のいずれかに記載の易引裂性低光沢フィルム。
【請求項8】
JIS K7128-2に基づくエルメンドルフ引裂強度によって測定されるMD及びTDの引裂強度が20N/mm以下であることを特徴とする請求項1~
7のいずれかに記載の易引裂性低光沢フィルム。
【請求項9】
JIS Z8741に基づく入射角及び受光角20°における光沢度測定において、フィルムの少なくとも一方の最外層面の光沢度が10%以下であることを特徴とする請求項1~
8のいずれかに記載の易引裂性低光沢フィルム。
【請求項10】
JIS K7124に基づくダートドロップインパクト測定において、70μmでのインパクト強度が300g以上であることを特徴とする請求項1~
9のいずれかに記載の易引裂性低光沢フィルム。
【請求項11】
前記共重合体(a)が
エチレン・アクリル酸メチル共重合体であることを特徴とする請求項
1~10のいずれかに記載の易引裂性低光沢フィルム。
【請求項12】
請求項1~
11のいずれかに記載の易引裂性低光沢フィルムを用いた包装袋。
【請求項13】
請求項1~
11のいずれかに記載の易引裂性低光沢フィルムを用いたシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、易引裂性フィルムに関し、低光沢性、インパクト強度に優れるフィルム、及びこれを用いた包装袋、シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、少子高齢化や労働人口減少、長時間労働削減等を背景とし、プラスチックフィルム及びシート製品に対して、易開封性等のユーザーフレンドリー化への要求が強くなってきている。加えて、世界的な環境問題への意識の高まりから、利便性や使い勝手だけにとどまらず、環境負荷低減を目的としたプラスチックフィルム及びシート製品の減容化、薄肉化等の取り組みがなされるようになってきている。
易開封性や易引裂性が要求される用途として、例えば食品包装分野などが挙げられる。食品包装分野の包装フィルム及びシートに要求される性能として、前述の易開封性や易引裂性に加え、強度やヒートシール性、意匠性などが挙げられる。特に意匠性に関しては、一般的には透明で光沢があり内容物の視認性が高いことが要求ニーズである一方、高級感が演出できるという理由から、低光沢でマット調な外観が要求されるケースも多く存在する。
【0003】
上記のような低光沢性を付与する方法として、例えば特許文献1には、エチレンと炭素原子3~12個のα-オレフィンを重合して得られるエチレン・α-オレフィン共重合体成分と含酸素エチレン系共重合体成分からなる低光沢性ポリエチレンフィルムが記載されている。また特許文献2には、着色基材の少なくとも一方の面側に、多数の突起部を備える低反射樹脂層を有する低反射シートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-105252号公報
【文献】特開2016-29456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
包装フィルム又はシートに低光沢性を与える手段は上記のように検討されているが、特許文献1記載のフィルムでも低光沢性が十分であるとは言えず、また引裂強度が高いため包装袋として使用した際の易開封性に劣る。特許文献2記載のシートでは、突起部の形成にはソフトモールドを用いた転写形成が必要であり、コスト面で問題がある。
本発明の目的は、低光沢性に優れるだけでなく、易引裂性及びインパクト強度にも優れる易引裂性低光沢フィルム及びこれを用いた包装袋及びシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明者が鋭意検討した結果、特定の原料構成によって、上記課題を解決できるフィルム及びシートが得られることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、第1の発明によれば、単層又は多層の易引裂性低光沢フィルムであって、エチレンと官能基含有モノマーを少なくとも含む共重合体(a)と環状オレフィン系樹脂(b)を、いずれかの層に含有することを特徴とする易引裂性低光沢フィルムが提供される。
第2の発明によれば、前記、官能基含有モノマーが、酢酸ビニル、アクリル酸、アクリル酸エステル、無水マレイン酸からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする第1の発明に記載の易引裂性低光沢フィルムが提供される。
第3の発明によれば、前記共重合体(a)を主成分とする樹脂層(A)と環状オレフィン系樹脂(b)とポリオレフィン系樹脂(c)を含有する樹脂層(B)の少なくとも2層を含む複数の樹脂層を積層してなり、該樹脂層(A)が最外層に配置されることを特徴とする第1又は第2の発明に記載の易引裂性低光沢フィルムが提供される。
第4の発明によれば、前記樹脂層(b)における環状オレフィン系樹脂(b)の濃度が10~80重量%であり、ポリオレフィン系樹脂(c)の濃度が20~90重量%であることを特徴とする第3の発明に記載の易引裂性低光沢フィルムが提供される。
第5の発明によれば、前記ポリオレフィン系樹脂(c)が、ポリエチレン系樹脂であることを特徴とする第3ないし第4の発明のいずれかに記載の易引裂性低光沢フィルムが提供される。
第6の発明によれば、前記環状オレフィン系樹脂(b)が、エチレン・環状オレフィン共重合体であることを特徴とする第1ないし第5の発明のいずれかに記載の易引裂性低光沢フィルムが提供される。
第7の発明によれば、前記エチレン・環状オレフィン共重合体のガラス転移点が60℃以上であることを特徴とする第6の発明に記載の易引裂性低光沢フィルムが提供される。
第8の発明によれば、さらに分岐状ポリオレフィンを、少なくともいずれかの層に含むことを特徴とする第1ないし第7の発明のいずれかに記載の易引裂性低光沢フィルムが提供される。
第9の発明によれば、前記樹脂層(A)が、さらに分岐状ポリオレフィンを含むことを特徴とする第3ないし第7の発明のいずれかに記載の易引裂性低光沢フィルムが提供される。
第10の発明によれば、JIS K7128-2に基づくエルメンドルフ引裂強度によって測定されるMD及びTDの引裂強度が20N/mm以下であることを特徴とする第1ないし第9の発明のいずれかに記載の易引裂性低光沢フィルムが提供される。
第11の発明によれば、JIS Z8741に基づく入射角及び受光角20°における光沢度測定において、フィルムの少なくとも一方の最外層面の光沢度が10%以下であることを特徴とする第1ないし第10のいずれかに記載の易引裂性低光沢フィルムが提供される。
第12の発明によれば、JIS K7124に基づくダートドロップインパクト測定において、70μmでのインパクト強度が300g以上であることを特徴とする第1ないし第11の発明のいずれかに記載の易引裂性低光沢フィルムが提供される。
第13の発明によれば、前記共重合体(a)がエチレンとアクリル酸メチルからなる共重合体であることを特徴とする第1ないし第12の発明に記載の易引裂性低光沢フィルムが提供される。
第14の発明によれば、第1ないし第13の発明のいずれかに記載の易引裂性低光沢フィルムを用いた包装袋が提供される。
第15の発明によれば、第1ないし第13の発明のいずれかに記載の易引裂性低光沢フィルムを用いたシートが提供される。
【発明の効果】
【0007】
上記の通り、第1の発明により、エチレンと官能基含有モノマーを少なくとも含む共重合体(a)と環状オレフィン系樹脂(b)を含有することにより、フィルムが易引裂性及び低光沢性、インパクト強度に優れる。
また第2の発明により、前記官能基含有モノマーが、酢酸ビニル、アクリル酸、アクリル酸エステル、無水マレイン酸からなる群より選択される少なくとも1種であることにより、フィルムが低光沢性及びインパクト強度に優れる。
また第3の発明により、前記共重合体(a)を主成分とする樹脂層(A)と環状オレフィン系樹脂(b)とポリオレフィン系樹脂(c)を含有する樹脂層(B)の少なくとも2層を含む複数の樹脂層を積層してなり、該樹脂層(A)が最外層に配置されることにより、フィルムが易引裂性及び低光沢性により優れる。
また第4の発明により、前記樹脂層(b)における環状オレフィン系樹脂(b)の濃度が10~80重量%であり、ポリオレフィン系樹脂(c)の濃度が20~90重量%であることにより、フィルムが易引裂性により優れる。
また第5の発明により、前記ポリオレフィン系樹脂(c)が、ポリエチレン系樹脂であることにより、フィルムがインパクト強度により優れる。
また第6の発明によれば、前記オレフィン系樹脂(b)が、エチレン・環状オレフィン共重合体であることにより、フィルムが易引裂性により優れる。
また第7の発明によれば、前記エチレン・環状オレフィン共重合体のガラス転移点が60℃以上であることにより、フィルムが易引裂性により優れる。
また第8の発明によれば、さらに分岐状ポリオレフィンを、少なくともいずれかの層に含むことにより、フィルムの低光沢性がより向上する。
また第9の発明によれば、前記樹脂層(A)が、さらに分岐状ポリオレフィンを含むことにより、フィルムの低光沢性がより向上する。
また第10の発明によれば、JIS K7128-2に基づくエルメンドルフ引裂強度によって測定されるMD及びTDの引裂強度が20N/mm以下であることにより、フィルムがさらに易引裂性に優れる。
また第11の発明によれば、JIS Z8741に基づく入射角及び受光角20°における光沢度測定において、フィルムの少なくとも一方の最外層面の光沢度が10%以下であることにより、フィルムがさらに低光沢性に優れる。
また第12の発明によれば、JIS K7124に基づくダートドロップインパクト測定において、70μmでのインパクト強度が300g以上であることにより、フィルムがさらにインパクト強度に優れる。
また第13の発明によれば、前記共重合体(a)がエチレンとアクリル酸メチルからなる共重合体であることにより、フィルムが低光沢性及びインパクト強度により優れる。
また第14の発明によれば、低光沢性及び易引裂性、インパクト強度に優れた包装袋が提供される。
また第15の発明によれば、低光沢性及び易引裂性、インパクト強度に優れたシートが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の易引裂性低光沢フィルムについて、各項目ごとに詳細に説明する。なお本発明において、ある成分を「主成分とする」とは、当該成分が組成物又は層を構成する樹脂成分中の主要成分であることを意味し、具体的には層を構成する樹脂成分中50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、さらに好ましくは100重量%含有することを意味する。
【0009】
1.易引裂性低光沢フィルムを構成する成分
1-1.共重合体(a)
本発明の共重合体(a)はエチレンと官能基含有モノマーを少なくとも含む共重合体である。共重合体(a)を特にフィルムの最外層に用いることで、フィルム外面の光沢度を下げ、インパクト強度を高くすることができる。共重合体は、ブロックコポリマーであっても、ランダムコポリマーであってもよい。共重合体(a)に含まれるエチレンユニットは、枝分れ分岐鎖を多数有する低密度ポリエチレン(LDPE)や、線状の低密度ポリエチレン(LLDPE)であってもよい。エチレンとしては、石油原料由来の他、植物原料由来等の非石油原料由来のエチレンを用いることができる。
【0010】
官能基含有モノマーとは、エチレンとの共重合に関与する基以外の官能基を少なくとも1つ有するモノマーを意味する。官能基含有モノマーが有する官能基としては、エーテル基、水酸基、エステル基、カルボニル基、アミノ基、アミド基等が挙げられる。低光沢性とインパクト強度をより優れたものにする観点からは、エステル基を有する官能基含有モノマーを用いることが好ましい。
【0011】
官能基含有モノマーの非限定的な例としては、酢酸ビニル、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸エステル、無水マレイン酸が挙げられる。アクリル酸メチルを用いることが、低光沢性及びインパクト強度をより優れたものにする観点から好ましい。官能基含有モノマーは、共重合体(a)中に1種類のみ用いてもよく、2種類以上のモノマーを併用してもよい。
2種類以上の官能基含有モノマーを併用する場合、各々の量比は所望のフィルム特性に応じて任意の範囲で決定することができ、特に制限されない。
【0012】
共重合体(a)は、エチレンと官能基含有モノマー以外のモノマーを更に含む共重合体であってもよい。そのようなモノマーの非限定的な例としては、構造式:CH2=CHR18で表される、炭素数3~20のα-オレフィンが挙げられる(ここで、R18は炭素数1~18の炭化水素基であり、直鎖構造であっても分岐を有していてもよい)。α-オレフィンの炭素数は、より好ましくは、3~12である。より具体的には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、3-メチル-1-ブテン、及び4-メチル-1-ペンテン等が挙げられる。エチレンと官能基含有モノマー以外のモノマーを更に含む場合、そのようなモノマーの含有量は、共重合体(a)全体に対して1重量%~30重量%の範囲であることが好ましく、3重量%~25重量%の範囲であることがより好ましい。この範囲とすることで、低光沢性、インパクト強度を好ましく保ちつつ、添加したモノマーによる物性を導入することができうる。
【0013】
共重合体(a)としては、例えば、メタロセン触媒等の金属触媒により重合されたエチレンと極性基含有モノマーとの共重合体や有機過酸化物を反応開始剤として重合されるエチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン・アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン・アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)、エチレン・アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン・アクリル酸・無水マレイン酸3成分系共重合体等が挙げられる。
【0014】
本発明において、低光沢性、インパクト強度の観点から、共重合体(a)はエチレン・アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン・アクリル酸エチル共重合体(EEA)またはエチレン・メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)が好ましく、より好ましくは、エチレン・アクリル酸メチル共重合体(EMA)である。
【0015】
共重合体(a)におけるエチレンと官能基含有モノマーの量関係は、共重合体(a)全体に対して官能基含有モノマーの含有量が10重量%~30重量%の範囲であることが好ましく、12.5重量%~27.5重量%の範囲であることがより好ましい。官能基含有モノマーの含有量が10重量%を下回ると、低光沢性及びインパクト強度が悪化することがあるため好ましくない。官能基含有モノマーの含有量は、共重合体(a)の調製工程において各モノマーの配合比を調整するなどして、コントロールすることが可能である。
【0016】
本発明の共重合体(a)の190℃ 2.16kg荷重下のメルトフローレイト(MFR)は0.1~20g/10minが好ましく、より好ましくは、1~10g/10minである。MFRが0.1g/10minを下回ると押出特性が悪化するため好ましくなく、一方でMFRが20g/10minを上回ると製膜安定性が悪化するため好ましくない。なお、メルトフローレイト(MFR)は、JIS K7210:1999に準拠した方法で測定される。
【0017】
共重合体(a)としては、市販品を用いることもできるが、上記のようなモノマーを用いて製造することもできる。メタロセン触媒等の金属触媒による共重合、有機過酸化物を反応開始剤とした共重合の方法は、当業者に公知である。
【0018】
共重合体(a)として用いることができる市販品として、エチレン・アクリル酸メチル共重合体(EMA)としては、例えば、日本ポリエチレン株式会社製「レクスパール(登録商標)(REXPEARL)EMA」等が挙げられ、エチレン・アクリル酸エチル共重合体(EEA)としては、例えば、日本ポリエチレン株式会社製「レクスパール(登録商標)(REXPEARL)EEA」等が挙げられ、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)としては例えば、住友化学株式会社製「アクリフト(登録商標)(Acryft)」等が挙げられる。
【0019】
1-2.環状オレフィン系樹脂(b)
本発明の環状オレフィン系樹脂(b)としては、環状オレフィンを少なくとも1種類モノマーとして用いた重合体であればよく、共重合体であってもよい。例えば、ノルボルネン系重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、環状共役ジエン重合体等が挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系重合体が好ましい。
【0020】
環状オレフィン共樹脂(b)に用いられる環状オレフィンとしては、例えば、以下のような構造の化合物が挙げられる。
【化1】
[一般式(1)中、R
1~R
12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭素数1~20の炭化水素基からなる群より選ばれるものであり、R
9及びR
10、並びに、R
11及びR
12は、各々一体化して2価の有機基を形成してもよく、R
9又はR
10と、R
11又はR
12とは、互いに環を形成していてもよい。
また、nは、0又は正の整数を示し、nが2以上の場合には、R
5~R
8は、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【0021】
環状モノマーとしては、ノルボルネン系オレフィン等が挙げられ、ノルボルネン、ビニルノルボルネン、エチリデンノルボルネン、ノルボルナジエン、テトラシクロドデセン、トリシクロ[4.3.0.12,5]、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3-エン、などの環状オレフィンの骨格を有する化合物等が挙げられ、2-ノルボルネン(NB)、及び、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン等であってもよい。
【0022】
ノルボルネン系重合体としては、ノルボルネン系単量体の開環重合体(以下、「COP」ともいう。)、ノルボルネン系単量体とエチレン等のα-オレフィンを共重合したノルボルネン系共重合体(以下、「COC」ともいう。)等が挙げられる。また、COP及びCOCの水素添加物も用いることができる。
【0023】
COCとしては、エチレン、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、ヘプテン-1、オクテン-1等のα-オレフィンなどの直鎖状モノマーとテトラシクロドデセン、ノルボルネンなどの環状モノマーとから得られた環状オレフィン共重合体が挙げられる。さらに具体的には上記直鎖状モノマーと炭素数が3~20のモノシクロアルケンやビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン(ノルボルネン)及びこの誘導体、トリシクロ[4.3.0.12,5]-3-デセン及びその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.1.2,5.17,10]-3-ドデセン及びこの誘導体、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]-4-ペンタデセン及びこの誘導体、ペンタシクロ[7.4.0.12,5.19,12.08,13]-3-ペンタデセン及びこの誘導体、ペンタシクロ[8.4.0.12,5.19,12.08,13]-3-ヘキサデセン及びこの誘導体、ペンタシクロ[6.6.1.13,6.02,7.09,14]-4-ヘキサデセン及びこの誘導体、ヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,7.09,14]-4-ヘプタデセン及びこの誘導体、ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.14,7.111,17.03,8.012,16]-5-エイコセン等およびこの誘導体、ヘプタシクロ[8.7.0.13,6.110,17.112,15.02,7.011,16]-4-エイコセン及びこの誘導体、ヘプタシクロ[8.8.0.12,9.14,7.111,18.03,8.012,17]-5-ヘンエイコセン及びこの誘導体、オクタシクロ[8.8.0.12,9.14,7.111,18.113,16.03,8.012,17]-5-ドコセン及びこの誘導体、ノナシクロ[10.9.1.14,7.113,20.115,18.02,10.03,8.012,21.014,19]-5-ペンタコセン及びこの誘導体等の環状オレフィンとの共重合体からなる環状オレフィン共重合体などが挙げられる。直鎖状モノマー及び環状モノマーは、それぞれ、単独でも、2種類以上を併用することもできる。また、このような環状オレフィン共重合体は単独であるいは組み合わせて使用することができる。また、環状オレフィン系樹脂(b)に、前記COPとCOCを併用することもできる。その場合は、COPとCOCのそれぞれの異なった性能を付与することができる。
【0024】
本発明においては、ポリエチレンに対する分散性の理由により、環状オレフィン系樹脂(b)はCOCであることが好ましい。また、COCとしては、直鎖状モノマーがエチレンである、エチレン・環状オレフィン共重合体であることが好ましい。さらには、環状モノマーは、ノルボルネン等であることが好ましい。
【0025】
また、本発明においては、環状オレフィン系樹脂(b)としてエチレン・環状オレフィン共重合体を用いる場合は、エチレン/環状オレフィンの含有割合が重量比で15~40/85~60のものであることが好ましい。より好ましくは30~40/70~60のものである。エチレンが15重量%未満であると、剛性が高くなりすぎ、インフレーション成形性および製袋適性を悪化させる恐れがあるため好ましくない。一方、エチレンが40重量%以上であると、十分な易引裂性、剛性が得られないことがあるため好ましくない。含有比率がこの範囲にあれば、フィルムの剛性、引裂性、加工安定性、衝撃強度が向上するため好ましい。
【0026】
さらにまた、エチレン・環状オレフィン共重合体は、ガラス転移点が60℃以上であることが好ましい。より好ましくは70℃以上のものである。環状オレフィンの含有量が上記範囲を下回ると、ガラス転移点が前記範囲を下回るようになり、例えば、芳香成分のバリアー性が低下するようになる、十分な剛性が得られず、高速包装機械適性に劣る等の恐れがある。一方、環状オレフィンの含有量が上記範囲を上回ると、ガラス転移点が高くなりすぎ、共重合体の溶融成形性やオレフィン系樹脂との接着性が低下する恐れがあり好ましくない。
【0027】
上記のように、環状オレフィン系樹脂(b)はエチレンのような鎖状構造のモノマーをコモノマーとして含有していてもよい。エチレンだけでなく、炭素数3~20のα-オレフィンなどもまた、環状オレフィン系樹脂(b)のコモノマーとして用いることができる。エチレンに代えてそのようなコモノマーを用いる場合の含有割合は、エチレンについての記載に準じた範囲を採用することができる。また、エチレン・環状オレフィン共重合体に加えてそのようなコモノマーを用いることもできる。
【0028】
また、環状オレフィン系樹脂(b)の重量平均分子量は、5,000~500,000が好ましく、より好ましくは7,000~300,000である。
【0029】
環状オレフィン系樹脂(b)として用いることができる市販品として、ノルボルネン系モノマーの開環重合体(COP)としては、例えば、日本ゼオン株式会社製「ゼオノア(ZEONOR)」等が挙げられ、ノルボルネン系共重合体(COC)としては、例えば、三井化学株式会社製「アペル」、ポリプラスチック社製「トパス(TOPAS)」等が挙げられる。本発明においては、ノルボルネン系単量体の含有比率が、前述の範囲にあること、加工性等の理由から、TOPASのグレード8007が好ましい。
【0030】
1-3.ポリオレフィン系樹脂(c)
本発明のフィルムには、前記環状オレフィン系樹脂(b)を含む層に、ポリオレフィン系樹脂(c)を含むことが好ましい。ポリオレフィン系樹脂は、ポリエチレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂のいずれであってもよいが、ポリエチレン系樹脂を用いることがより好ましい。
ポリオレフィン系樹脂が、ポリエチレン系樹脂である場合は、メタロセン触媒、Ziegler触媒、Phillips触媒等により重合されたホモポリエチレンもしくはエチレン・α-オレフィン共重合体、もしくは有機過酸化物を反応開始剤として重合される高圧法低密度ポリエチレン等が挙げられるが、環状オレフィン系樹脂との界面強度の観点から直鎖状の分子構造を有するエチレン・α-オレフィン共重合体(直鎖状低密度ポリエチレン)が好ましい。該ポリエチレン系樹脂の密度は、一般的なポリエチレンの密度範囲である0.800g/cm3~0.970g/cm3であれば特に制限されない。エチレンと共重合するα-オレフィンの種類としては、炭素数3~8のα-オレフィンが挙げられ、具体的にはプロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、ヘプテン-1、オクテン-1、4-メチルペンテン-1などが挙げられる。なお、本発明において密度は、JIS K6922-2に基づいて測定する値である。
【0031】
また、該ポリエチレン系樹脂の190℃におけるメルトフローレイト(MFR)は、製膜安定性の観点から20g/10min以下が好ましい。MFRが20g/10minを上回ると溶融張力の低下により製膜安定性が悪化することがある。
【0032】
また、ポリオレフィン系樹脂が、ポリプロピレン系樹脂の場合は、プロピレン単独重合体、プロピレンとエチレン、ブテン-1等の他のα-オレフィンとのランダム共重合体又はブロック共重合体等が挙げられ、いずれでも用いることができる。上記重合体の1種類もしくは2種類以上のブレンド物であってもよいが、環状オレフィン系樹脂との界面強度の観点から、メタロセン触媒から得られた直鎖状のエチレン・プロピレン・ランダムブロック共重合体を主成分とすることが好ましく、例えば日本ポリプロ株式会社製のウィンテック(登録商標)シリーズ等が挙げられる。
【0033】
また、該ポリプロピレン系樹脂の230℃におけるメルトフローレイト(MFR)は、高温成形下での製膜安定性の観点から15g/10min以下が好ましい。MFRが15g/10minを上回ると溶融張力の低下により製膜安定性が悪化することがある。
【0034】
2.易引裂性低光沢フィルム
本発明の易引裂性低光沢フィルムは、前述の通り、エチレンと官能基含有モノマーを少なくとも含む共重合体(a)と環状オレフィン系樹脂(b)を、いずれかの層に含有することを特徴とするフィルムであって、単層構成又は多層構成のいずれであってもよい。例えば、単層構成であれば、前記共重合体(a)と環状オレフィン系樹脂(b)からなる単層フィルムや、共重合体(a)と環状オレフィン系樹脂(b)とポリオレフィン系樹脂(c)からなる単層フィルムなどが挙げられる。また多層構成であれば、例えば、前記共重合体(a)を主成分とする樹脂層(A)と環状オレフィン系樹脂(b)とポリオレフィン系樹脂(c)を含有する樹脂層(B)から少なくとも構成され、最外層側から、樹脂層(A)/樹脂層(B)/樹脂層(A)の順で積層された3層フィルムや、同様に、ポリオレフィン系樹脂(c)を主成分とする樹脂層(C)を含み、最外層側から樹脂層(A)/樹脂層(C)/樹脂層(B)/樹脂層(C)/樹脂層(A)の順で積層された5層フィルムなどが挙げられる。多層構成の場合は、低光沢性を発現する樹脂層(A)をいずれか一方の最外層に配置していることが好ましい。すなわち、フィルムの表面となる層の少なくともいずれか一方には前記共重合体(a)が含まれていることが好ましい。層の積層数に特段の制限はない。
【0035】
易引裂性低光沢フィルムが単層構成である場合、当該フィルムは、共重合体(a)及び環状オレフィン系樹脂(b)を含有し、さらに場合によりポリオレフィン系樹脂(c)を含有する。共重合体(a)の配合量は、フィルム全体に対して10重量%~99重量%であることが好ましく、15重量%~80重量%であることがより好ましい。環状オレフィン系樹脂(b)の配合量は、フィルム全体に対して1~90重量%であることが好ましく、20重量%~85重量%であることがより好ましい。ポリオレフィン系樹脂(c)の配合量は、共重合体(a)及び環状オレフィン系樹脂(b)の合計量に応じて任意に設計することができるが、環状オレフィン系樹脂(b)を100重量部としたときに40重量部~160重量部の範囲であるとより好ましい。
【0036】
易引裂性低光沢フィルムが多層構成である場合、樹脂層(A)は、上述の共重合体(a)を主成分とする。したがって、樹脂層(A)には、共重合体(a)が50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上含まれる。樹脂層(A)は、共重合体(a)のみからなる層であってもよい。樹脂層(A)が共重合体(a)以外の成分を含有する場合、樹脂層(A)を構成するその他成分としては、前記、環状オレフィン系樹脂(b)やポリオレフィン系樹脂(c)などが挙げられる。特に、ポリオレフィン系樹脂(c)を含有する場合は、共重合体(a)との相溶性の観点からポリエチレン系樹脂が好ましく、好ましくは分岐状ポリオレフィンを添加することが挙げられる。分岐状ポリエチレンとしては、例えば、有機過酸化物を反応開始剤として重合される高圧法低密度ポリエチレンや、特定の触媒重合によって得られる、長鎖分岐を導入した直鎖状低密度ポリエチレンが挙げられるが、より好ましくは高圧法低密度ポリエチレンである。これら分岐状ポリオレフィン、特に好ましくは分岐状ポリエチレンの添加によって、より低光沢性が向上する。また、分岐状ポリオレフィンを用いる場合は樹脂層(A)に配合することが好ましいが、後述のとおり他の樹脂層に配合してもよく、分岐状ポリオレフィンを少なくともいずれかの層に含むことにより低光沢性をより向上させることができる。当該分岐状ポリオレフィン、特に分岐状低密度ポリエチレンの190℃、2.16kg荷重下のMFRは0.05~10g/10min、好ましくは0.1~5.0g/10minであり、より好ましくは、0.1~2.0g/10minである。MFRが0.05g/10minを下回ると押出加工性が悪化することがあるため好ましくなく、またMFRが10g/10minを超えると低光沢性が悪化することがあるため好ましくない。密度は、0.900~0.935g/cm3、好ましくは0.919~0.927g/cm3の範囲が挙げられる。これらの分岐状ポリオレフィンの添加量は、樹脂層(A)を構成する樹脂組成物全体に対して、2~50重量%、好ましくは3~35重量%、より好ましくは5~30重量%である。
【0037】
易引裂性低光沢フィルムが多層構成である場合、樹脂層(B)は、環状オレフィン系樹脂(b)とポリオレフィン系樹脂(c)を含有する。樹脂層(B)中の環状オレフィン系樹脂(b)の濃度としては、10~80重量%が好ましく、より好ましくは、20~60重量%である。環状オレフィン系樹脂の濃度が10重量%未満となると、易引裂性が悪化する恐れがあるため好ましくなく、80重量%を超えると、製膜安定性が悪化することがあるため好ましくない。樹脂層(B)中のポリオレフィン系樹脂(c)の濃度としては、20~90重量%が好ましく、より好ましくは、40~80重量%である。
【0038】
樹脂層(B)には、環状オレフィン系樹脂(b)とポリオレフィン系樹脂(c)以外の樹脂を含有していてもよい。そのような樹脂の例として、前記共重合体(a)又は分岐状ポリオレフィンを配合することができる。共重合体(a)又は分岐状ポリオレフィンの具体的な例は上述のとおりである。このような樹脂の配合量は、1つの樹脂層全体に対して環状オレフィン系樹脂(b)とポリオレフィン系樹脂(c)の合計が30重量%以上となる範囲であれば、特に制限されない。
【0039】
本発明の易引裂性低光沢フィルムには、前記樹脂層(A)及び(B)以外の樹脂層が含まれていてもよい。そのような樹脂層としては、前記環状オレフィン系樹脂(b)のみからなる層や、前記ポリオレフィン樹脂(c)のみからなる層、分岐状ポリオレフィンからなる層などの樹脂層(C)を用いることができる。また、本発明の目的を損なわない限りにおいて、層間の接着層など、当業者に公知であるその他の層を有していてもよい。
【0040】
なお、本発明において、フィルムを構成する各樹脂層には、防曇剤、帯電防止剤、熱安定剤、造核剤、酸化防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤、離型剤、紫外線吸収剤、着色剤、発泡剤等の成分を本発明の目的を損なわない範囲で添加することができる。特に、フィルム成形時の加工適性、充填機の包装適性を付与するため滑剤やアンチブロッキング剤を適宜添加することが好ましい。
【0041】
易引裂性低光沢フィルムの厚みとしては、20~200μmのものが好ましく、30μm~200μmの範囲のものがより好ましい。多層フィルムの厚さが30~200μmの範囲であれば、最表面に露出する層同士をヒートシールすることにより、包装材として使用できる。また、多層フィルムの厚さが50μm以上であれば、優れた二次成形性が得られる。フィルムが多層構造を取る場合、樹脂層(B)の厚さは、フィルム全体を基準として、20~70%であることが好ましい。より好ましくは20~50%である。例えば、樹脂層(A)/樹脂層(B)/樹脂層(A)の3層構造を取る場合、各々の厚みが1:0.5:1の厚さ~1:4:1程度の厚さをとることができる。樹脂層(B)の厚みが全体の20%より薄いと、十分な易引裂性が得られないことがあるので好ましくない。一方、70%より厚いと、剛性が高くなりすぎ、インフレーション成形性および製袋適性を悪化させることがあるため好ましくない。樹脂層(B)の厚みがこの範囲であれば、易引裂性に優れる上に、コスト的に有利であり、好ましい。
【0042】
本発明の易引裂性低反射フィルムは、空冷インフレーションや水冷インフレーション、Tダイ・チルロール法等によりフィルム状及びシート状に成形することで製造される。例えば、単層構成の場合は、少なくとも共重合体(a)と環状オレフィン系樹脂(b)を同一押出機で加熱溶融させ上記加工法によって製造する方法が挙げられる。また、多層構成の場合は、例えば、前述の樹脂層(A)及び樹脂層(B)を、それぞれ別の押出機で加熱溶融させ、共押出多層ダイス法やフィードブロック法等の方法により溶融状態で樹脂層(A)/樹脂層(B)/樹脂層(A)の順の位置関係により積層した後、上記加工法によって製造する共押出法などが挙げられる。この共押出法は、各層の厚さの比率を比較的自由に調整することが可能で、衛生性に優れ、コストパフォーマンスにも優れた多層フィルムが得られるので好ましい。
【0043】
上記製造方法で製造された易引裂性低光沢フィルムは、易引裂性を付与するための一般的な延伸工程などの2次加工を必要とせず、製膜加工のみで易引裂性を発現することが特徴である。これは、例えば、上記特定の原料構成及び層構成にてインフレーション成形により製膜すると、環状オレフィン系樹脂がフィルムの流れ方向(MD)に引き伸ばされた状態で冷却固化された分散構造を形成することに起因する。したがって、押出加工時の加工温度下における環状オレフィン系樹脂の粘度が分散構造に大きく影響するため、特に、加工温度にあわせた最適な環状オレフィン系樹脂を選択する必要がある。例えば、加工温度が170℃~230℃程度の場合は、環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度は60℃~140℃がより好ましい。
【0044】
本発明の易引裂性低光沢フィルムは、MD及びTDともに引裂強度が低く、易開封性等のユーザーフレンドリー化を図ることが可能である。エルメンドルフ引裂強度がMD及びTDともに20N/mm以下であると良好な易引裂性を得る観点から好ましく、エルメンドルフ引裂強度がMD及びTDともに15N/mm以下であると、より好ましい。エルメンドルフ引裂強度は、JIS K7128-2に基づいて測定することができる。
【0045】
本発明の易引裂性低光沢フィルムは、表面の光沢度が低く、意匠性に優れた高級感のあるフィルムとして利用することが可能である。光沢度は入射角及び受光角20°における測定において10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。光沢度は、JIS Z8741に基づいて測定することができる。
【0046】
本発明の易引裂性低光沢フィルムは、インパクト強度が高く、包装袋、保護シートなど種々の用途に適用することが可能である。インパクト強度は、ダートドロップインパクト測定において70μmでのインパクト強度が300g以上であることが好ましく、400g以上であると強度の観点からより好ましい。インパクト強度は、JIS K7124に基づいて測定することができる。
【0047】
3.包装袋
本発明の易引裂性低光沢フィルムからなる包装袋としては、食品、薬品、医療器具、工業部品、雑貨、雑誌等の用途に用いる包装袋、包装容器等が挙げられる。
前記包装袋は、本発明の易引裂性低光沢フィルムの内層又は外層同士を重ねてヒートシールすることにより形成した包装袋が挙げられる。2枚の当該フィルムを所望とする包装袋の大きさに切り出して、それらを重ねて3辺をヒートシールして袋状にした後、ヒートシールをしていない1辺から内容物を充填した後、ヒートシールして密封することで包装袋として用いることができる。さらに、1枚のフィルムを用いて、横ピロー包装、縦ピロー包装の形態でも用いることができる。
【0048】
本発明の易引裂性低光沢フィルムを用いた包装材には、初期の引裂強度を弱め、開封性を向上するためにVノッチ、Iノッチ、ミシン目、微多孔などの任意の引き裂き開始部を形成すると好ましい。ノッチ等の形成部としては、シール部や包装材の上下端部、左右折り目部、ピロー包装の背張り部等が挙げられる。包装材の形態とノッチ形成部に応じて、ノッチ周囲にノッチを囲むようにして三日月状等の形状のシール部を設けることで、内部の密閉性を確保できる。
また、前記包装容器としては、本発明の当該フィルムを二次成形することにより得られる深絞り成形品(上部に開口部がある底材)が挙げられ、代表的なものとして食品用途の真空包装袋のボトム材やブリスターパックの底材などが挙げられる。
上記の二次成形方法としては、例えば、真空成形法、圧空成形法、真空圧空成形法等が挙げられる。これらの中でも、フィルムあるいはシートを包装機上にてインラインで成形し、内容物を充填できるため真空成形が好ましい。
【0049】
なお、一般的に包装袋の流れ方向(MD)は、充填時や製袋時のライン方向に平行な軸であり、且つ原反フィルムの流れ方向(MD)に対応する。例えば、横ピロー包装材であれば、背張りの長尺方向が包装袋の流れ方向(MD)に対応し、且つフィルムの流れ方向(MD)に対応する。
【0050】
4.シート
本発明の易引裂性低光沢フィルムからなるシートとしては、食品、薬品、医療器具、工業部品、雑貨、雑誌、警察鑑識等の用途に用いる保護シート、剥離シート、低反射シートなどが挙げられる。
前記シートは、チューブフィルムもしくはフラットフィルムのいずれの形態であってもよいが、実使用時はフラットフィルム状の形態であることがより好ましい。なお、本発明におけるフラットフィルムとは、Tダイ・チルロール法によって得られる1枚フィルムや、インフレーション法によって得られるチューブ状フィルムの片端もしくは両端をスリット加工して得られる1枚フィルムを意味する。
【0051】
本発明の易引裂性低光沢フィルムからなるシートとしては、低反射性を発現する前述共重合体(a)が少なくとも一方のシート外層面に露出していることが好ましく、層構成としては例えば、樹脂層(A)/樹脂層(B)、樹脂層(A)/樹脂層(B)/樹脂層(A)などが挙げられる。
本発明の易引裂性低光沢フィルムを用いたシートには、初期の引裂強度を弱め、易引裂性を向上するためにVノッチ、Iノッチ、ミシン目、微多孔などの任意の引き裂き開始部を形成すると好ましい。ノッチ等の形成部としては、シート両端部等が挙げられる。
【実施例】
【0052】
以下に本発明の実施例及び比較例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)使用原料
(1-1)共重合体(a)
・日本ポリエチレン株式会社製「レクスパール(登録商標)EMA」、MFR2.0g/10min、密度0.937g/cm3;MA含有量15wt%のエチレン-アクリル酸メチル共重合体
(1-2)環状オレフィン系樹脂(b)
・ポリプラスチックス株式会社製「TOPAS(登録商標) 8007F-600」、ガラス転移温度78℃のエチレン-ノルボルネン共重合体
(1-3)ポリオレフィン系樹脂(c)
・日本ポリエチレン株式会社製「ノバテック(登録商標)LD LF129」、MFR0.3g/10min、密度0.922g/cm3の高圧法低密度ポリエチレン
・日本ポリエチレン株式会社製「ノバテック(登録商標)LL UF320」、MFR0.9g/10min、密度0.922g/cm3の直鎖状低密度ポリエチレン
・日本ポリエチレン株式会社製「ノバテック(登録商標)LD LF240」、MFR0.7g/10min、密度0.924g/cm3の高圧法低密度ポリエチレン
・日本ポリエチレン株式会社製「ノバテック(登録商標)LL UF420」、MFR0.9g/10min、密度0.924g/cm3の直鎖状低密度ポリエチレン
【0053】
(2)インフレーションフィルム成形
(2-1)多層フィルム
成形機:5種5層インフレーション成形機
ダイス径:150mmφ
ダイリップクリアランス:3mm
加工温度:190℃
層比:1/1.4/2.4/1.4/1
ブロー比:1.5
引取速度:10m/min
フィルム厚み:70μm
【0054】
(2-2)単層フィルム
成形機:単層インフレーション成形機
ダイス径:75mmφ
ダイリップクリアランス:1mm
加工温度:150℃
ブロー比:2.0
引取速度:15m/min
フィルム厚み:50μm
【0055】
(3)物性評価方法
(3-1)光沢度
JIS Z8741に基づき、下記装置、条件にて測定した。なお、測定前に黒色標準板(角度20°、光沢度87.8%)で校正を実施した。
装置:スガ試験機株式会社製 UGV-4D
入射光角度:20°
測定環境:温度23℃、湿度50%
【0056】
(3-2)エルメンドルフ引裂強度
JIS K7128-2に基づき、以下の装置を用いてエルメンドルフ引裂強度を評価した。なお、MDはフィルム流れ方向であり、TDはその垂直方向の値である。
装置:デジタルエルメンドルフ引裂試験機 型式SA(株式会社東洋精機製作所製)
測定環境:温度23℃、湿度50%
【0057】
(3-3)ダートドロップインパクト強度
JIS K7124に基づき、A法で測定した。
測定環境:温度23℃、湿度50%
【0058】
(実施例1)
上記原料を用いて、前記(2-1)記載のインフレーション成形法により積層させた2種5層のインフレーションフィルムを得た。中間層の環状オレフィン系樹脂の濃度は49重量%とした。各層を構成する樹脂の種類、その配合は表1に示すとおりである。
【0059】
(実施例2)
実施例1の中間層に、表1中の濃度で共重合体(a)を配合したほかは、実施例1と同様の構成にして、インフレーションフィルムを得た。
【0060】
(比較例1)
共重合体(a)に代えて日本ポリエチレン株式会社製「ノバテック(登録商標)LD LF240」を用いて、前記(2-1)記載のインフレーション成形法により積層させた2種5層のインフレーションフィルムを得た。中間層の環状オレフィン系樹脂の濃度は49重量%とした。
【0061】
(比較例2)
全ての層に日本ポリエチレン株式会社製「ノバテック(登録商標)LD LF240」を用いて、前記(2-1)記載のインフレーション成形法により積層させた1種5層のインフレーションフィルムを得た。環状オレフィン系樹脂は使用していない。
【0062】
(比較例3)
全ての層に日本ポリエチレン株式会社製「ノバテック(登録商標)LL UF420」を用いて、前記(2-1)記載のインフレーション成形法により積層させた1種5層のインフレーションフィルムを得た。環状オレフィン系樹脂は使用していない。
【0063】
(比較例4)
共重合体(a)を用いて、前記(2-2)記載のインフレーション成形法により単層インフレーションフィルムを得た。環状オレフィン系樹脂は使用していない。
【0064】
各々の実施例、比較例で得られた、単層又は多層フィルムにつき、前記(3-1)~(3-3)記載の方法に基づき、光沢度、エルメンドルフ引裂強度、ダートドロップインパクト強度を測定した。結果を以下の表1に記載する。
【0065】
【0066】
表1から明らかなように、比較例1は中間層に環状オレフィン系樹脂を用いているため易引裂性は優れるが、フィルム外面の低光沢性及びインパクト強度は劣る。また比較例2及び比較例3は、いずれも環状オレフィン系樹脂を用いていないため、易引裂性に劣るだけでなく、低光沢性及びインパクト強度も劣る。比較例4はエチレンとアクリル酸メチルからなる共重合体を用いているため、低光沢性及びインパクト強度には優れるが、環状オレフィン系樹脂を用いていないため、易引裂性は劣る。一方で、実施例1及び実施例2は、フィルム両外面にエチレンとアクリル酸メチルからなる共重合体を用い、更に中間層に環状オレフィン系樹脂を用いているため、フィルム外面の低光沢性に優れるだけでなく、易引裂性及びインパクト強度にも優れる。したがって、低光沢性、易引裂性及び高インパクト強度が要求されるフィルム及び包装袋、シート等に好適である。