(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】冷凍パン用油脂組成物および冷凍パン用生地、冷凍パン用生地の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20240814BHJP
A21D 2/16 20060101ALI20240814BHJP
A21D 2/26 20060101ALI20240814BHJP
A21D 2/14 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
A23D7/00 506
A21D2/16
A21D2/26
A21D2/14
(21)【出願番号】P 2020054616
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】難波 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】千葉 啓太
【審査官】二星 陽帥
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/152099(WO,A1)
【文献】特開2005-341857(JP,A)
【文献】特開2017-143747(JP,A)
【文献】特開2016-054680(JP,A)
【文献】福永 健三等,新規製パン用酵素「センシア フォーム (Sensea Form)」の効果と機能,月刊フードケミカル,2019年,Vol.35, No.1,p.72-76
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 2/14 - 7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)食用油脂中に、(B)ブランチングエンザイムを含有し、
前記(A)食用油脂の25℃における固体脂含量は9%以上40%以下であ
り、
(B)ブランチングエンザイムの含有量は、(A)食用油脂100質量部に対して活性量25000u/g基準で0.03~3質量部である、冷凍パン用油脂組成物。
【請求項2】
(C)α-アミラーゼを含有する請求項1記載の冷凍パン用油脂組成物。
【請求項3】
(B)ブランチングエンザイムの活性量に対する(C)α-アミラーゼの活性量の比(C/B)は、0.005~5である請求項2に記載の冷凍パン用油脂組成物。
【請求項4】
穀粉に請求項1~3のいずれかに記載の冷凍パン用油脂組成物を含有する冷凍パン用生地。
【請求項5】
穀粉に請求項1~3のいずれかに記載の冷凍パン用油脂組成物を添加することを特徴とする、冷凍パン用生地の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍パンに使用することで、小麦粉本来のおいしさを感じられ、作業性が向上し、さらに弾力性に優れ、冷凍に伴うボリュームの低下を抑制した冷凍パンが得られる冷凍パン用油脂組成物に関する。また、本発明は、前記の冷凍パン用油脂組成物を含有する冷凍パン用生地及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍パンとは、冷凍保存されたパン生地を、販売前に解凍し、必要に応じて分割、成型をしたのち焼成して提供されるパンであり、材料をミキシング、発酵、フロアタイム、分割、ベンチタイム、成型、ホイロ、焼成といった一連の工程を連続的にとるスクラッチ製法で提供されるパンとは区別される。
様々なパンが製造される中、商品の差別化として小麦粉本来の美味しさを訴求する商品が多く製造されている。小麦粉本来の美味しさを高める方法として、イーストの香りを抑えた短時間発酵であるストレート法を採用する方法、反対に低温長時間発酵させることで小麦粉中の遊離アミノ酸量を増強させ、小麦粉の旨みを高める方法などが挙げられる。しかし、いずれも発酵に特長をもたせたスクラッチ製法により製造されるパンであり、冷凍パンではなしえない製法である。
スクラッチ製法で焼成されるパンに比べて冷凍パンは、短時間でパンを提供できることや、店舗でのパンの売れ行きを見ながらパン生地を解凍し提供できることから食品廃棄を減らすことができ、パン生地を製造する必要がないため店舗ごとに製パン技術者が必ずしも必要ではないことから、人手不足でも対応しやすいことが利点である。一方で、冷凍パンは冷凍期間が長くなるほど冷凍パン用生地に含まれる水が氷結晶となりグルテンを損傷する、すなわち冷凍障害により冷凍パンのボリュームが低下し、さらにパン本来のソフトで弾力ある良好な食感が失われる。
上記課題を解決するために、一般的にパン生地にグルテンを添加する方法や、グルテンを強化するアスコルビン酸などを添加する方法、グルテン損傷の原因となる水の配合量を少なくする方法が取られる。しかしこれらの方法は、冷凍パンのボリュームを向上する効果はあるが、冷凍パン用生地の物性が硬くなることで作業性が低下するとともに冷凍パンのソフトさが失われてしまう。
【0003】
冷凍パンのボリュームと食感を改良する方法として、特許文献1では、L-アスコルビン酸を含有した油脂を使用する方法が提案されているが、パンの食感として弾力が失われ、食感として十分に満足できるものではない。また、特許文献2では、特定の剤を配合することで冷凍パンの食感を改良する方法が提案されているが、冷凍期間が長くなるほど冷凍パンのボリュームが低下するのを抑制する効果はなく、冷凍パンの品質を維持する点において十分な効果は得られない。
【0004】
以上のように、小麦粉本来のおいしさを感じられ、作業性が向上し、さらにソフトさ弾力性に優れ、冷凍に伴うボリュームの低下を抑制した冷凍パンが得られる方法は見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-4780号公報
【文献】特開2010-178723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、小麦粉本来のおいしさを感じられ、作業性が向上し、さらにソフトさ弾力性に優れ、冷凍に伴うボリュームの低下を抑制した冷凍パンが得られる冷凍パン用油脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は鋭意検討を重ねた結果、食用油脂とブランチングエンザイム組み合わせることによって上記課題を解決する知見を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の発明である。
【0008】
〔1〕
(A)食用油脂中に、(B)ブランチングエンザイムを含有する冷凍パン用油脂組成物。
〔2〕
(C)α-アミラーゼを含有する〔1〕記載の冷凍パン用油脂組成物。
〔3〕
(B)ブランチングエンザイムの活性量に対する(C)α-アミラーゼの活性量の比(C/B)は、0.005~5である請求項2に記載の冷凍パン用油脂組成物。
〔4〕
穀粉に〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の冷凍パン用油脂組成物を含有する冷凍パン用生地。
〔5〕
穀粉に〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の冷凍パン用油脂組成物を添加することを特徴とする、冷凍パン用生地の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、作業性が向上し、さらにソフトさ弾力性優れ、小麦粉本来のおいしさを感じられ、冷凍に伴うボリュームの低下を抑制した冷凍パンが得られる冷凍パン用油脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[冷凍パン用油脂組成物]
本発明の冷凍パン用油脂組成物は、(A)食用油脂、(B)ブランチングエンザイムを含有することを特徴とし、(C)α-アミラーゼを含有してもよい。なお、本発明の冷凍パン用油脂組成物はショートニング、油中水型乳化物、水中油型乳化物いずれの形態においてもその効果を発揮することができる。
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0011】
((A)食用油脂)
(A)食用油脂としては、食用に適する油脂が使用でき、具体的には、牛脂、豚脂、魚油、パーム油、パーム核油、菜種油、大豆油、コーン油等の天然の動植物油脂、及びこれらの硬化油、極度硬化油、エステル交換油等が挙げられ、これらを目的に応じて適宜選択され、1種類又は2種類以上組み合わせて用いられる。(A)食用油脂に(B)ブランチングエンザイム、(C)α-アミラーゼを含有させることで、パン生地中にブランチングエンザイムおよびα-アミラーゼを均一に分散させることができ、作業性向上効果、焼成したパンのソフトさ、弾力性向上効果ならびに美味しさ向上効果、冷凍時のボリューム低下抑制効果を十分に発揮させることが出来る。反対に、(B)ブランチングエンザイムおよび(C)α-アミラーゼを(A)食用油脂に含有させず、冷凍生地に単体で添加した場合は、本発明の効果を得ることは期待できない。
【0012】
(A)食用油脂は、冷凍パン製造時にパン生地中のグルテン形成を促し、冷凍パンの内相を細かなものにする。食用油脂は、グルテンに沿って伸びることによりグルテンの形成を促進する。よって、グルテン形成を促すためには、(A)食用油脂が可塑性を有し、グルテンに沿って伸びるという性質を備える必要がある。また、ブランチングエンザイムおよびα-アミラーゼが食用油脂中に沈殿せず分散状態を維持することが望ましい。これらの観点から、(A)食用油脂の25℃におけるSFC(固体脂含量)は4%以上であることが好ましく、9%以上であることがより好ましい。また、パン生地への混合性の観点から、25℃におけるSFCの上限は、40%以下であることが好ましい。
なお、固体脂含量の測定は、基準油脂分析試験法「2.2.9 固体脂含量(NMR法)」に準じて測定する。測定装置は、「SFC-2000R」(アステック株式会社製)を使用し、本発明における固体脂含量は、この測定装置を用いて測定する。
【0013】
((B)ブランチングエンザイム)
本発明において使用される(B)ブランチングエンザイムは、1,4-α-D-グルカン鎖の一部を受容体1,4-α-Dグルカンの6-OH基に転移させ、アミロペクチンまたはグリコーゲンのようなα-1,6結合の枝分かれ構造を生成する酵素(酵素番号:EC2.4.1.18)である。至適温度は60~75℃、好ましくは65~75℃である。至適pHは5~7であり、好ましくは5.5~7である。澱粉構造が変化することにより、冷凍パン用生地の付着性低減により作業性及び歩留まりが向上し、焼成した冷凍パンの弾力性が向上する。また澱粉の構造が変化し、枝分かれ構造が生成されることで、冷凍パン用生地中の水を澱粉が保持する効果が高まり、冷凍期間中に生じる氷結晶によるグルテン損傷を抑制する。その結果、冷凍パンの内相が良好に保たれ、ソフトさを維持した冷凍パンが得られるだけでなく、冷凍パンのボリューム低下を抑制することができる。(A)食用油脂に含有させず、(B)ブランチングエンザイムを単体でパン生地に添加した場合、ブランチングエンザイムがすばやく均一にパン生地中に分散することができず、均一な澱粉構造の変化を促すことができない。そのため、付着性低減効果が得られず、本発明の効果である作業性及び歩留まり向上が得られない。さらにグルテン損傷を抑制する効果が得られない結果、ソフトさに優れた冷凍パンは得られず、またボリューム低下を抑制する効果も得られない。また、均一な澱粉構造の変化を促すことができない結果として、凝集性改善効果は得られるが、本発明の課題とする弾力性向上効果は得られない。
【0014】
本発明における弾力性とは、パン類をレオメーターにて一定の荷重で圧縮した際の変形率を指し、弾力性が向上するとは、変形率が小さいことを示す。一方、凝集性とは、パン類をレオメーターにて一定の距離圧縮することを2回繰り返し、圧縮応力が示す波形の面積比(2回目の圧縮面積/1回目の圧縮面積)を指し、凝集性が改善するとは、一定の距離圧縮した際の復元性が高いことを示す。
本発明において、ブランチングエンザイムを食用油脂に含有させず単体でパン生地に加えた場合、ブランチングエンザイムによる澱粉構造の変化が不均一であるため、凝集性は改善されるが、冷凍パン類の弾力性を向上させる効果はなく、ブランチングエンザイムを食用油脂に含有させることで冷凍パン類の弾力性を飛躍的に向上させることを見出した。また、この際、弾力性向上とともに凝集性の改善効果は消失する。
【0015】
また、(B)ブランチングエンザイムが冷凍パンに含まれる澱粉を均一な澱粉構造に変化させることで、食した際に唾液に含まれるアミラーゼにより、冷凍パン中の澱粉が糖へと分解され易くなる。また、(A)食用油脂を使用することで、冷凍パンの内相が細かくなり、食した際に唾液がパン内部にまで浸透しやすくなる。その結果、(A)食用油脂と(B)ブランチングエンザイムを組み合わせることで、冷凍パンを食した際に小麦粉本来の甘みを強く感じることができることを見出した。(A)食用油脂および(B)ブランチングエンザイムを単体で冷凍パン用生地に添加しても小麦本来の美味しさを向上させる効果は得られない。
【0016】
(B)ブランチングエンザイムの使用は、冷凍パン用生地製造時において、生地のべたつきを抑制し、作業性の向上すなわち歩留まり(容器への生地の付着抑制することによる)を向上させるという効果がある。澱粉を分解する作用がある、α-アミラーゼ等の酵素の使用は、その使用量によっては冷凍パン用生地の製造時における作業性や歩留まりを低下するおそれがあるが、ブランチングエンザイムの使用は、他酵素の使用の利点を活かしつつ、作業性や歩留まりを向上するという効果がある。
【0017】
(B)ブランチングエンザイムの含有量は(A)食用油脂100質量部に対して活性量25000u/g基準で好ましくは0.01~3質量部であり、より好ましくは0.03~0.5質量部である。
また、ブランチングエンザイムが食用油脂に配合されパン生地に投入された後、パン生地へなじみやすく、効果を発揮し易いという点から液状ブランチングエンザイムがより好ましい。
ブランチングエンザイムは、市販されており、例えばナガセケムテックスの「デナチームBBR LIGHT」や、ノボザイムジャパンの「SenseaForm」等が例示できる。
【0018】
ブランチングエンザイムの酵素活性は以下のように定義される。0.08Mリン酸バッファー(pH7.0)に溶解させた0.1%アミロースB(ナカライテスク株式会社製)50μlに、0.1Mリン酸バッファー(pH7.0)に溶解させた酵素溶液50μlを加え、50℃、30分間反応後にヨウ素試薬(0.26gI2と2.6gKIを10mlミリQ水にて溶解した液0.5mlと1N HCl 0.5mlを混ぜ、130mlに希釈した液)2mlを添加し、660nm吸光度の変化を測定する。本反応系で反応1分間に660nm吸光度を1%低下させる酵素量を1u(ユニット)と定義する。
【0019】
((C)α-アミラーゼ)
本発明において使用される(C)α-アミラーゼは、至適温度が45~80℃であることが好ましい。α-アミラーゼとは、α-1,4-グルコシド結合を加水分解することによってデキストリンを生成する酵素であり、Bacillus等の細菌由来、Malt等の穀物由来、及びAspergillus等のカビ由来のいずれも用いることができる。
α-アミラーゼは、冷凍パン用生地に含まれる澱粉のα-1,4-グルコシド結合を加水分解し、焼成中の冷凍パン用生地の粘度が適度に低下する。これにより、グルテンの伸びが適度に向上し、冷凍パンの内相を細かなものにする。これにより、冷凍パンを食した際に小麦本来の甘みをより感じやすくすることができる。(C)α-アミラーゼを(A)食用油脂に含有させず単体で冷凍パン用生地に添加しても冷凍パンの内相を細かくする効果は得られず、その結果、冷凍パンを食した際に小麦本来の甘みをより感じやすくする効果は得られない。
【0020】
(C)α-アミラーゼの含有量は(A)食用油脂100質量部に対して活性量1500u/g基準で0.05~2質量部であり、より好ましくは0.1~0.6質量部である。
α-アミラーゼは、市販されており、例えばノボザイムジャパン(株)の「Fungamyl」、「Novamyl」、「Novamyl-3D」、「Opticake Fresh50B」等が例示できる。
【0021】
α-アミラーゼの酵素活性は以下のように定義される。
(1)サンプル吸光度の測定:5mLの緩衝液(Britton-Robinson Buffer、pH8.5、50mM(阿南功一ら著,「基礎生化学実験法6」,P277,丸善(株)))にネオ.アミラーゼテスト「第一」〔第一化学薬品(株)より入手、製品番号701501-005〕を1錠添加し、約10秒間攪拌した後、2mM塩化カルシウム水溶液で希釈した1mLの酵素溶液を添加して、50℃にて15分間反応させる。1mLの0.5N水酸化ナトリウム水溶液を添加、攪拌することで反応を停止させた後、遠心分離(400×g、5分間)にて不溶成分を沈殿させ、得られた遠心上澄の620nmにおける吸光度を測定する。
(2)ブランク吸光度の測定:5mLの緩衝液(Britton-Robinson Buffer、pH 8.5、50mM(阿南功一ら著,「基礎生化学実験法6」,P277,丸善(株)))にネオ.アミラーゼテスト「第一」を1錠添加し、約10秒間攪拌する。これに1mLの0.5N水酸化ナトリウム水溶液を添加、攪拌した後、1mLの酵素溶液を添加し、50℃にて15分間インキュベートした後、遠心分離(400×g、5分間)を行なう。得られた遠心上澄の620nmにおける吸光度を測定する。
(3)酵素活性の算出:ネオ.アミラーゼテスト「第一」同封の国際単位の検量線を基準とし、これに(1)と(2)の吸光度の差をあてはめることでアミラーゼの活性を算出する。
【0022】
本発明の冷凍パン用油脂組成物において、(B)ブランチングエンザイムの活性量に対する(C)α-アミラーゼの活性量の比(C/B)は、特に制限されないが、例えば0.005~5である。C/Bの下限値は、好ましくは0.01以上である。C/Bの上限値は、好ましくは3以下であり、より好ましくは2以下である。
【0023】
上述したとおり、α-アミラーゼは、グルテンの伸びを適度に向上し、冷凍パンの内相を細かくすることにより、小麦本来の甘みをより感じやすくすることができるという効果を奏する。
一方で、α-アミラーゼの添加量を過大に増加すると、澱粉の分解が促進されるため、弾力性を向上するというブランチングエンザイムの効果が低下する傾向にある。そのため、ブランチングエンザイムの活性量に対するα-アミラーゼの活性量の比を調整することにより、本発明の効果をより一層発揮することができる。α-アミラーゼの効果を得つつ、冷凍パンの弾力性を向上するという観点において、C/Bの下限値としては、好ましくは0.03以上であり、より好ましくは0.08以上であり、上限値としては、好ましくは3以下であり、より好ましくは1.5以下であり、特に好ましくは0.5以下である。
【0024】
また、澱粉の分解が促進されると、生地のべたつきが生じるため、作業性を改善し、歩留まりを向上するというブランチングエンザイムの効果を低下するおそれがある。α-アミラーゼの効果を得つつ、高い歩留まりを得られるという観点において、C/Bの下限値としては、好ましくは0.02以上であり、より好ましくは0.1以上である。上限値としては、好ましくは2以下であり、より好ましくは1以下であり、特に好ましくは0.3以下である。
【0025】
本発明における冷凍パン用油脂組成物には、冷凍パン用生地の伸展性や風味、冷凍パンの外観等を損なわない限りにおいて、冷凍パン用油脂組成物に一般的に使用される添加物である加工澱粉、その他酵素、乳化剤、保存料、pH調整剤、色素、香料等を適宜使用してもよい。
【0026】
本発明における冷凍パン用油脂組成物の製法は、通常のショートニング、マーガリン、水中油型乳化物の製造方法において、ブランチングエンザイムおよびα-アミラーゼを失活しない温度で添加すればよい。例えば以下の製法が挙げられる。
まず油脂および油溶成分を融点温度以上の温度で加熱し、均一溶解後、加温した水および水に十分に溶解した水溶成分を添加し、均一に混合撹拌後、50~55℃まで降温する。次に、酵素を添加し、試作機を用いて急冷可塑化し、30℃以下まで冷却することにより、目的の冷凍パン用油脂組成物を得る。上記製造において、高温状態にある均一混合物を冷却する際には均一混合物を入れている容器自身を外部から冷却しても良いが、一般的にショートニング、マーガリン製造に用いられるチラー、ボテーター、コンビネーター等を用いて急冷する方が性能上好ましい。
【0027】
本発明の冷凍パン用生地において、冷凍パン類調整時に添加する本発明の冷凍パン用油脂組成物の量は、冷凍パン類に使用する穀粉100質量部に対して、2~20質量部、好ましくは2~10質量部である。
【0028】
本発明の冷凍パン用生地を焼成して得られるパン類には、フィリングなどの詰め物をした冷凍パン類も含まれ、食パン、特殊パン、調理パン、菓子パンなどが挙げられる。具体的には食パンとして白パン、黒パン、フランスパン、バラエティブレッド、ロール(テーブルロール、バンズ、バターロール)が挙げられる。特殊パンとしてはマフィンなど、調理パンとしてはホットドック、ハンバーガーなど、菓子パンとしてはジャムパン、あんパン、クリームパン、レーズンパン、メロンパンなどが挙げられる。
【0029】
本発明の冷凍パン用生地に用いる原料としては、主原料の穀粉として小麦粉の他にイースト、イーストフード、乳化剤、油脂類(ショートニング、ラード、マーガリン、バター、液状油糖)、水、加工澱粉、乳製品、食塩、糖類、調味料(グルタミン酸ソーダ類や核酸類)、保存料、ビタミン、カルシウム等の強化剤、蛋白質、アミノ酸、化学膨張剤、フレーバー等が挙げられる。さらに、一般に原料として用いると老化しやすくなる、レーズン等の乾燥果実、小麦粉ふすま、全粒粉等を使用できる。
【0030】
[冷凍パン用生地]
次に本発明の冷凍パン用生地の製造方法について説明する。本発明の冷凍パン用生地の製造方法は、穀粉に本発明の冷凍パン用油脂組成物を添加することを特徴とするものである。
【0031】
より詳細には、本発明の冷凍パン用生地の製造方法は、以下の工程(i)、工程(ii)を備えることを特徴とする。
工程(i):(A)食用油脂中に、(B)ブランチングエンザイムを含有する冷凍パン用油脂組成物を準備する工程。
工程(ii):穀粉に前記冷凍パン用油脂組成物を混練する工程。
【0032】
本発明の冷凍パン用生地の製造方法によれば、ブランチングエンザイムを食用油脂中に含有させた冷凍パン用油脂組成物として準備した後に、穀粉へ混練するため、ブランチングエンザイムがすばやく均一にパン生地中に分散し、均一な澱粉構造の変化が生じる。この均一な澱粉構造の変化により、冷凍パン生地の付着性低減により作業性が向上し、焼成した冷凍パンの弾力性が向上する。また澱粉の構造が変化し、枝分かれ構造が生成されることで、冷凍パン用生地中の水を澱粉が保持する効果が高まり、冷凍期間中に生じる氷結晶によるグルテン損傷を抑制する。その結果、冷凍パンの内相が良好に保たれ、ソフトさを維持した冷凍パンが得られるだけでなく、冷凍パンのボリューム低下を抑制することができる。一方、ブランチングエンザイムと食用油脂をそれぞれ単体で穀粉へ混練した場合には、本発明の効果を得ることができない。
【0033】
工程(i)において、さらに、(A)食用油脂中に、(C)α-アミラーゼを含有することが好ましい。これにより、冷凍パン用生地中のグルテンの伸びが適度に向上し、パンの内相を細かなものにすることができる。また、パンを食した際に小麦本来の甘みをより感じやすくすることができる。(C)α-アミラーゼを(A)食用油脂に含有させず単体で冷凍パン生地に添加してもパンの内相を細かくする効果は得られず、その結果、冷凍パンを食した際に小麦本来の甘みをより感じやすくする効果は得られない。
【0034】
工程(ii)において、冷凍パン用油脂組成物と穀粉との混練は、ストレート法、中種法、ノータイム法等いずれの製パン法においても、例えば、ミキサーボウルなとの練り上げ装置で混練することができる。練り上げの方法は、装置によって異なるが、適度な撹拌条件、酵素反応に十分な温度と時間で設定することができる。例えば、ストレート法では、冷凍パン生地の原料を低速2分、中速2分で混練するなどの条件を挙げることができる。製造された冷凍パン用生地は、例えば、デバイダー等で分割し、モルダー等を通して成形する。その後、ショックフリーザーなどの冷凍機器により-30℃まで冷凍し、袋詰めし-20℃で冷凍保存される。冷凍後、袋から取り出し鉄板もしくは容器に並べ、例えば20℃で2時間解凍後、発酵や焼成がなされる。本発明の製造方法によれば、冷凍パン生地のべたつきを抑えるため、作業性を改善し、また、歩留まりを向上することができる。
【実施例】
【0035】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を制限するものではない。
(実施例1)
表1の配合組成で以下の方法により冷凍パン用油脂組成物を製造した。パーム硬化油(融点42℃)5kg、パーム油30kg、菜種硬化油35kg(融点36℃)、および菜種油30kg、配合し加熱溶解したのち、50~55℃に降温し、ブランチングエンザイム100gを添加後、十分に撹拌を行い、ついでショートニング試作機を用いて急冷練り上げすることで冷凍パン用油脂組成物を得た。なお、酵素の活性u/gは表1に示す通りである。
【0036】
実施例1と同様にして、表1、表2に記した配合にて、実施例2~9、比較例1~7を製造した。さらにそれを用いて、以下の製造方法により冷凍パンを製造した。なお、比較例3、4は食用油脂とブランチングエンザイムおよびα-アミラーゼをそれぞれ単独で(混合した油脂組成物としないで)パン生地へ配合した。また実施例7、比較例5は、(A)食用油脂とその他成分であるモノグリセリンモノ脂肪酸エステル、プロピレングリコールモノ脂肪酸エステルを配合し加熱溶解したのち、70℃に加熱した水を加え十分に攪拌し乳化を行った。その後50~55℃に降温し、ブランチングエンザイム、α-アミラーゼを添加後十分に攪拌を行い、実施例1と同様に急冷練り上げし冷凍パン用油脂組成物を得た。
【0037】
<冷凍パンの製造方法>
強力粉1000g、上白糖180g、イースト60g、脱脂粉乳(製品名:脱脂粉乳 明治製)20g、食塩10g、全卵60g、水500gを投入し冷凍パン用ミキサー AM-20(愛工社製)にて低速2分間中速5分間捏ね上げ、ここで、実施例および比較例において得られた水中油型乳化物である冷凍パン用油脂組成物80g投入し、さらに低速3分、中速3分捏ね上げ、捏ね上げ温度20℃の生地を得た。すぐに70gに分割し、次いでモルダーを通してコッペパン形に成形した。成形された生地を天板に並べて、急速冷凍機にて冷凍(-25℃ 30分間)し、冷凍パン用生地を作製した。冷凍期間1週間後および3ヶ月後の冷凍パン用生地を25℃で70分間解凍した後、温度38℃、湿度85%にて50分間最終発酵を行った。最終発酵後、オーブンにて上火210℃、下火200℃で8分間焼成した。焼成後、室温にて放冷しポリエステル袋に入れた。
なお、比較例7では、成形した生地を冷凍せずに、そのまま発酵(温度38℃、湿度85%、50分間)し、同様に焼成した。
【0038】
得られた冷凍パンについて、製造時の生地のべたつき(付着性)、冷凍パンの弾力性、ソフトさ、美味しさ(甘さ)、ボリューム、歩留まりを評価した。それぞれの評価項目について、評価方法を下記に記す。
【0039】
〔作業性の評価方法〕
冷凍パン製造時、冷凍前のパン生地がべたつくと、ミキシング機への冷凍パン用生地の付着が多くなり次工程へと進む際の作業量が多くなる、もしくはミキシング、デバイダー、モルダーなどの機器への冷凍パン用生地の付着量が多くなり、洗浄作業に対する作業量が多くなることから作業性が低下する。したがって、冷凍パン用生地のべたつきを作業性の評価とした。
(株)山電製「RHEONERII」を用いてフロアタイム終了後の冷凍パン用生地を30gに分割し、15分間ベンチタイムを経た冷凍パン用生地を各10個測定した。
冷凍パン用生地を測定台に置き、直径3cmの円盤型プランジャーにて5mm/secで2cm圧縮し、プランジャーが上昇する際に冷凍パン用生地に引っ張られる最大応力値(N)を測定し付着性の評価を行った。比較例1を使用した場合の応力値を100として、最大応力値(相対値)が110以上を「1」、110未満100以上を「2」、100未満95以上を「3」、95未満90以上を「4」、90未満を「5」として評価した。10個の平均値を作業性の評点とし、3以上を合格とした。
【0040】
〔歩留まりの評価方法〕
冷凍パン製造時、前後の転圧板の高さを4cm、2cmに設定した(株)オシキリ「ワイドファインモルダーWF」を用いて70gの冷凍パン用生地をコッペパン型に成型する際、モルダーから出た冷凍パン用生地の長辺が12cm以上のものは天板に並べた際に隣り合ったパンと焼成後ひっついてしまう、または生地表面が傷ついているものは生地表面の傷つきによるボリューム不良となるためそれらを成型不良とした。成型良好であった生地の割合を歩留まりとした。
歩留まり(%)=(1-成型不良個数/全個数)×100
歩留まり95%以上を合格とした。
【0041】
〔弾力性の評価方法〕
(株)山電製「RHEONERII」を用いて冷凍3か月後に解凍、焼成した冷凍パンを各10個測定した。焼成後1日目の冷凍パンの長径を2分割するようにパンを切断し、切断部位から3cmの幅で再度パンを切断し、3cm幅の輪切りのパンを用意した。その輪切りのパンを、外皮表面が上になるように測定台に置いた。直径3cmの円盤型プランジャーにて1mm/secで0.8(N)の荷重となるまで圧縮し、計測開始から2分間、0.8(N)の荷重となるように圧縮変形させた。2分後の変形(mm)を測定し弾力性の評価を行った。比較例1を使用した場合の変形(mm)を100として、110以上を「1」、110未満100以上を「2」、100未満95以上を「3」、95未満90以上を「4」、90未満を「5」として評価した。10個の平均値を弾力性の評点とし、3以上を合格とした。
【0042】
〔ソフトさの評価方法〕
(株)山電製「RHEONERII」を用いて冷凍3か月後に解凍、焼成した冷凍パン各10個の焼成後1日目のソフトさを測定した。冷凍パン長径を2分割するようにパンを切断し、切断部位から3cmの幅で再度パンを切断し、3cm幅の輪切りのパンを用意した。その輪切りのパンを、外皮表面が上になるように測定台に置いた。直径3cmの円盤型プランジャーにて5mm/secで1.5cm圧縮する際に必要な応力(N)を測定しソフトさの評価を行った。比較例1を使用した場合の応力(N)を100として、105以上を「1」、105未満100以上を「2」、100未満95以上を「3」、95未満90以上を「4」、90未満を「5」として評価した。10個の平均値をソフトさの評点とし、3以上を合格とした。
【0043】
〔ボリュームの評価方法〕
冷凍1週間後および冷凍3か月後に解凍、焼成した冷凍パン各10個の焼成後1日目の比容積を測定し、ボリューム評価の指標とした。パンの比容積は、アステックス(株)製3Dレーザー体積計を用いて測定した。冷凍期間が長いほど冷凍パンのボリュームが低下することから、ボリューム低下抑制効果を以下の式にて評価した。
ボリューム低下抑制効果=
冷凍3か月冷凍パン平均比容積/冷凍1週間冷凍パン平均比容積
比較例1を使用した場合と比較して、ボリューム低下抑制効果が1.15倍以上の場合を「5」、1.10倍以上1.15倍未満の場合を「4」、1.05倍以上1.10倍未満の場合を「3」、1.0倍以上1.05倍未満の場合を「2」、1.0倍未満を「1」として評価を行い、3以上を合格とした。
【0044】
〔美味しさの評価方法〕
冷凍3か月後に解凍、焼成した冷凍パンを焼成後1日目に食した際の美味しさを10人のパネラーにて評価した。比較例1を使用した冷凍パンの美味しさ(甘み)を基準とし、美味しさ(甘み)を非常に強く感じる(5)、美味しさ(甘み)を強く感じる(4)、美味しさ(甘み)をやや強く感じる(3)、比較例1と同等(2)、美味しさ(甘み)が弱い(1)として評価した。10人のパネラーの平均値を美味しさの評点とし、3以上を合格とした。
【0045】
〔使用酵素〕
1)(商品名)「SenseaForm」(ブランチングエンザイム) ノボザイムジャパン(株)製、活性量25000u/g
2)(商品名)「デナチームBBR LIGHT」(ブランチングエンザイム) ナガセケムテックス(株)製、活性量50000u/g
3)(商品名)「Novamyl-3D」(マルトース生成α-アミラーゼ) ノボザイムジャパン(株)製、活性量1500u/g
4)(商品名)「Fungamyl」(α-アミラーゼ) ノボザイムジャパン(株)製、活性量15000u/g
〔使用乳化剤〕
5)(商品名)「エマルジーMS」(モノグリセリンモノ脂肪酸エステル)理研ビタミン(株)
6)(商品名)「リケマールPB100」(プロピレングリコールモノベヘン酸エステル)理研ビタミン(株)
【0046】
【0047】
【0048】
表1及び表2を見ると、食用油脂中にブランチングエンザイムを含有する冷凍パン用油脂組成物は、作業性、弾力性、ソフトさ、ボリューム、美味しさ、歩留まりのいずれの項目においても良好な結果であったことがわかる。
また、実施例1~3を見ると、ブランチングエンザイムの含有量は、食用油脂100gに対して250~75000uとすることにより、本発明の効果が認められた。
また、実施例4~6を見ると、α-アミラーゼを含有することにより、さらに優れた効果が認められ、さらに(B)ブランチングエンザイムの活性量に対する(C)α-アミラーゼの活性量の比(C/B)は、0.005~5の範囲において、特に優れた効果が認められた。
また、実施例8、9を見ると、食用油脂のSFC(25℃)は、4~40%の範囲において、優れた効果が認められた。
【0049】
一方、比較例1、2に示すように、ブランチングエンザイムを含有しない冷凍パン用油脂組成物は、本発明の効果を得ることができない。
また、比較例3、4に示すように、ブランチングエンザイムを食用油脂と別々に添加しても本発明の効果は得られない。比較例5に示すように、ブランチングエンザイムを含有しない場合、O/W乳化といった形態の違いやその他成分としてモノグリセリンモノ脂肪酸エステルやプロピレングリコールモノ脂肪酸エステルといった乳化剤を配合しても本発明の効果を得ることができない。また、比較例6に示すように食用油脂のSFCが極端に低い場合、比較例2と比較して分かるように作業性、弾力、ソフトさ、美味しさに対する効果がさらに低下する。比較例7は生地を冷凍せず焼成した場合であり、比較例2と比較すると、弾力、ソフトさ、ボリューム、美味しさが生地を冷凍することで低下することがわかり、本発明の実施例1~9の油脂組成物は冷凍パンにおいて優れた効果が認められた。