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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】肌貼付用フィルム及び転写シート
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/02 20060101AFI20240814BHJP
   A61K 8/72 20060101ALI20240814BHJP
   A61K 8/85 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
A61K8/02
A61K8/72
A61K8/85
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020082714
(22)【出願日】2020-05-08
(65)【公開番号】P2021176828
(43)【公開日】2021-11-11
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】箕輪 和代
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-177804(JP,A)
【文献】国際公開第2016/204266(WO,A1)
【文献】特開2015-042701(JP,A)
【文献】特開2015-110294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均質量が0.1g/m以上4.0g/m以下である高分子材料から構成されるフィルムであり、
前記フィルムの軟らかさは、1.5μm/mN以上40.0μm/mN以下であり、
前記フィルムは、主成分がDL-ポリ乳酸であることを特徴とする肌貼付用フィルム。
【請求項2】
前記フィルムは、前記主成分に対して0.01質量%以上30.0質量%以下の範囲で油溶性樹脂が含まれていること特徴とする請求項に記載の肌貼付用フィルム。
【請求項3】
前記主成分に対して0.01質量%以上30.0質量%以下の範囲でアシル化アミノ酸またはその誘導体である、Nε-ラウロイルリジン、Nα-ヘキサノイルリジン、Nα-オレイルリジン、Nα-ラウロイルリジン、Nα-ミリストノイルリジン、Nα-パルミトイルリジン、Nα-ステアノイルリジン、Nε-ヘキサノイルリジン、Nε-オレイルリジン、Nε-ミリストノイルリジン、Nε-パルミトイルリジン、Nε-ステアノイルリジン、N-アシル化アミノ酸エステル、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(フィトステリル・ベヘニル・2-オクチルドデシル)、またはN-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(コレステリル・オクチルドデシル)が含まれていることを特徴とする請求項または請求項に記載の肌貼付用フィルム。
【請求項4】
前記主成分に対して1.0質量%以上40.0質量%以下の範囲で被覆粒子が含まれていることを特徴とする請求項または請求項に記載の肌貼付用フィルム。
【請求項5】
請求項1~の何れか一項に記載の肌貼付用フィルムと、
前記肌貼付用フィルムを支持する支持基材と、を備えることを特徴とする転写シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌貼付用フィルム及びこの肌貼付用フィルムを肌に貼り付けるための転写シートに関する。
【背景技術】
【0002】
数nm~数μm程度の厚さを有した薄膜層は、生体器官の表面に対する密着性を有するため、この薄膜層を臓器や皮膚等に貼り付けて利用することが試みられている。例えば、非特許文献1では、薄膜層を創傷の被覆材として利用可能であることが報告されている。またスキンケアやメイクアップの補助のために肌に貼り付けることも提案されている。さらに、特許文献1では、薄膜層を肌に貼り付けた後に、薄膜層の上から化粧料を塗布する美容方法も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2014/058066号
【非特許文献】
【0004】
【文献】T.Fujie et al.,Adv.Funct.Mater .,2009年,19巻,2560~2568頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フィルムは薄膜のため、肌にフィルムを転写しても肌のキメにフィルムが追従し、接着剤なしで貼付することができる。そのフィルム上に化粧料を塗布してもフィルムの形状が目立たず、自然な仕上がりとなる。しかし、化粧料を塗布する際に指や化粧パフなどで擦るとフィルムが肌から浮いたり、剥がれたりする現象が生じることがある。本発明は、密着性が向上し、擦ることで肌から剥がれ難くなる貼付用フィルム及び転写シートを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る肌貼付用フィルムは、平均質量が0.1g/m以上4.0g/m以下である高分子材料から構成されるフィルムであり、前記フィルムの軟らかさは、1.5μm/mN以上40.0μm/mN以下である。
上記構成において、前記フィルムは主成分が生体適合性樹脂であってもよい。
上記構成において、肌貼付用フィルムは前記主成分に対して0.01質量%以上30.0質量%以下の範囲で油溶性樹脂が含まれていてもよい。
上記構成によれば、肌貼付用フィルムに油溶性樹脂を含むことで、軟らかさが向上し、肌との密着性が向上する。
【0007】
上記構成において、肌貼付用フィルムは前記主成分に対して0.01質量%以上30.0質量%以下の範囲でアシル化アミノ酸またはその誘導体が含まれていてもよい。
上記構成において、肌貼付用フィルムは前記主成分に対して1.0質量%以上40.0質量%以下の範囲で被覆粒子が含まれていてもよい。
上記構成によれば、肌貼付用フィルムにアシル化アミノ酸またはその誘導体またはその被覆粒子を加えることで、肌との親和性が向上する。
【0008】
上記課題を解決する転写シートは、上記肌貼付用フィルムと、前記肌貼付用フィルムを支持する支持基材と、を備えてもよい。
上記構成によれば、転写シートの保管時や移動時に、肌貼付用フィルムの変形が抑えられる。また、支持基材に支持されていることにより、肌貼付用フィルムが取り扱いやすくなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、肌のキメへの追従性を高めることができ、また肌と親和性を高めることで密着性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】肌貼付用フィルムの一実施形態の肌貼付用フィルムの断面構造を示す図である。
図2】一実施形態の肌貼付用フィルムの断面構造の他の例を示す図である。
図3】一実施形態の転写シートの断面構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
ここで、図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各層の厚さの比率等は現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造等が下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0012】
(肌貼付用フィルムの構成)
図1は、肌貼付用フィルムの一実施形態について、第1形態の肌貼付用フィルムの断面構造を示す図である。図1に示すように。肌貼付用フィルム10は、一方の面11Fおよび他方の面11Rを備えている。
肌貼付用フィルム10を質量で表すと、肌貼付用フィルム10の単位面積あたりの平均質量は、0.1g/m以上4.0g/m以下である。このときの肌貼付用フィルム10の密度は、例えば1g/cm以上3g/cm以下である。平均質量は、例えば、肌貼付用フィルム10における任意の三箇所の各々を、平面視にて一辺が100mmの正方形形状の膜片に切り出し、三つの膜片の精密天秤で測定した質量の平均値を100倍することにより求められる。
【0013】
平均質量が0.1g/m以上であることにより、肌貼付用フィルム10の強度が十分に確保されるため、肌への貼り付けに際して肌貼付用フィルム10が破れることが抑えられる。また、平均質量が4.0g/m以下であることにより、肌貼付用フィルム10の肌に対する密着性が十分に得られる。そして、肌貼付用フィルム10を肌に貼り付けたときに、肌貼付用フィルム10に皺が発生することや使用者に違和感が生じることが抑えられる。なお、平均質量は、肌貼付用フィルム10が、添加剤として、例えばオイル等の可塑剤として機能する成分や、各種の樹脂成分や、粒子等を含有している場合に大きくなる。添加剤を含有しない場合には、肌貼付用フィルム10の単位面積あたりの平均質量は、0.1g/m以上2.0g/m以下であることが好ましい。
【0014】
肌貼付用フィルム10で、軟らかさが1.5μm/mN以上40.0μm/mN以下にあると、より肌上のキメに追従しやすくなる。ここでの軟らかさは肌に追従する曲がりやすさであり、圧縮荷重に対する変形量であり、ヤング率の逆数と近しい指標である。
軟らかさを付与する方法として、フィルムを薄くする、主剤を変える、添加剤を添加する等の方法がある。本発明では添加剤を用いてフィルムに軟らかさを付与する方法を検討した。また、ここで主剤とは肌貼付用フィルム10の主成分のことを指す。
【0015】
(肌貼付用フィルム10)
肌貼付用フィルム10の主成分としては、生体適合性樹脂が用いられてもよく、例えばポリ乳酸、ポリカプロラクトン、アクリル樹脂、ポリカーボネート等の高分子材料、これらの高分子材料の共重合体、アクリルウレタン共重合体等が挙げられる。肌貼付用フィルム10の材料における分子量の制限は特になく、肌貼付用フィルム10は、所定の平均分子量を有する一種類の材料から構成されていてもよいし、互いに異なる平均分子量を有する複数種類の材料から構成されてもよい。
【0016】
(添加剤)
本実施形態に用いられる添加剤として、油溶性樹脂がでもよい。これらは、生体適合性材料あれば特に制限されず利用することができる。生体適合性材料とは、材料を生体内に使用した際に副作用など有害な影響を与えず、しばしば化粧料などに使用される。例えば、水添ホホバ油、ミツロウ、カルナウバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス、ゲイロウ、モクロウ等のロウ類;マカデミアナッツ油、オリーブ油、ツバキ油、アボガド油、トウモロコシ油、ヒマシ油、ゴマ油、サフラワー油、綿実油、大豆油、ホホバ油、パーム油、ヤシ油、硬化ヤシ油、硬化油、硬化ヒマシ油、卵黄油、ナタネ油、コムギ胚芽油、落花生油、コメヌカ油等の油脂;パラフィンワックス、セレシンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、エチレン・プロピレンコポリマー、モンタンワックス、フィッシャートロプシュックス、流動パラフィン、イソドデカン、水添ポリイソブテン、スクワラン、ワセリン、ポリブテン等の炭化水素類;ステアリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ベヘン酸、オレイン酸、パルミチン酸、イソステアリン酸等の脂肪酸類;ラノリン、酢酸ラノリン、ラノリン脂肪酸イソプロピル、ラノリンアルコール等のラノリン誘導体;トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン、テトラ2-エチルヘキサン酸ペンタエリスリトール、トリポリヒドロキシステアリン酸ジペンタエリスリチルなどの脂肪酸と多価アルコールのエステル;シリコーン樹脂、炭化水素樹脂、酢酸ビニル樹脂、デキストリンと脂肪酸とのエステル化物等の油溶性被膜形成剤等が挙げられる。
【0017】
肌親和性を付与する方法として、アミノ酸由来材料を用いることで肌付着性は向上することが知られており、本発明ではアミノ酸由来材料を用いてフィルムに肌親和性を付与する方法を検討した。
【0018】
(アミノ酸由来材料)
本実施形態に用いられる油溶性樹脂では、アミノ酸由来材料も含まれる。例えばアミノ酸由来として、N-アシル化アミノ酸またはその誘導体を用いても良い。これらは、化粧料に通常使用されるものであれば特に制限されず利用することができる。これらは、添加剤として用いても良いし、粒子への被覆材として用いて良い。本発明において使用する粒子の形態については、特に制限は無く、通常化粧料に使用されるものである。
従来から、肌へのなじみを高めるために、アミノ酸やポリペプチドを使用することが知られている。しかし、アミノ酸の重合度が大きくなると被膜形成能が高くなるが、その一方で肌や髪への親和性や付着性が低くなる。
【0019】
そこで、アミノ酸を炭素数8~22の飽和または不飽和の、アルキル基(アルケニル等炭素-炭素不飽和結合を含んでいてもよい。)または脂環構造の炭化水素基でアシル化することの利点は、高級脂肪酸の特徴である滑らかですべりの良い感触を得ることである。アミノ酸はその分子中に多様な官能基(-COO-、-NH3+、OH-)を有し水分子が吸着する為保水力がある。そして、一般にアミノ酸は親水性のものよりも親油性のものの方が肌や毛髪への親和性が良いと言われている。この為に、高級脂肪酸等でアシル化することで親油性を持たせ肌や毛髪への親和性を高めている。即ち、N-アシル化アミノ酸は肌や毛髪が必要とする水分や油分を同時に補給することが可能となる為、生体への適合性に優れている理由の一つと考えられる。N-アシル化アミノ酸としては、味の素(株)より市販されている商品名「アミホープ(登録商標)LL」のNε-ラウロイルリジンがあるが、他に、Nα-ヘキサノイルリジン、Nα-オレイルリジン、Nα-ラウロイルリジン、Nα-ミリストノイルリジン、Nα-パルミトイルリジン、Nα-ステアノイルリジン、Nε-ヘキサノイルリジン、Nε-オレイルリジン、Nε-ミリストノイルリジン、Nε-パルミトイルリジン、Nε-ステアノイルリジン等が挙げられる。 N-アシル化アミノ酸の誘導体の例としてN-アシル化アミノ酸エステルが考えられ、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(フィトステリル・ベヘニル・2-オクチルドデシル)(商品名:エルデュウ(登録商標)PS-306[味の素社製])、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(コレステリル・オクチルドデシル)(商品名:エルデュウ(登録商標)CL-202[味の素社製])等が挙げられる。
【0020】
本実施形態においては、これらの中から液状脂肪酸、及びそのエステルを選択して用いることが好ましい。また、N-アシル化アミノ酸またはその誘導体を用いても良い。これらの成分の中から、一種または二種以上を組み合わせても良く、配合量は主剤に対して合計で0.01重量%以上30.0重量%以下の範囲であり、好ましくは1.0重量%以上15.0重量%以下の範囲である。この範囲であれば、肌貼付用フィルムが0.1g/m以上2.0g/m以下の時、軟らかさは3.5μm/mN以上40.0μm/mN以下となり、フィルムに軟らかさを付与することでキメへの追従性が向上し肌との密着性が向上したものが得られる。
また、N-アシル化アミノ酸またはその誘導体を用いることで、肌親和性が向上する。
【0021】
図2は、一実施形態の肌貼付用フィルムの断面構造の他の例を示す図である。図2に示すように、第1形態の肌貼付用フィルム10Bは、N-アシル化アミノ酸またはその誘導体被覆粒子12の形状に追従した凹凸を有している。
【0022】
(誘導体被覆粒子12に関して)
従来、肌における化粧料の使用感(伸びや付着性)を出すために、粒子である顔料にN-アシル化アミノ酸またはその誘導体で表面被覆処理することが行われている。被覆材料としてN-アシル化アミノ酸またはその誘導体は、具体的には上述した材料を用いる。
【0023】
被覆粒子は化粧料に使用される粉体である粒子に、被覆材であるアミノ酸由来材料を粒子の周囲あるいは一部周囲を覆った粒子のことであってもよい。被覆材となるものは、上述したアミノ酸由来材料を用いてもよく、例えばN-アシル化アミノ酸またはその誘導体を用いてもよい。被覆処理方法は、特に限定されるものではなく、通常公知の処理方法が用いられる。具体的には、直接粉体と混合する方法(乾式処理法)、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ヘキサン、イソパラフィン、ベンゼン、トルエン等の溶媒を用いる方法(湿式法)、気相法(空気、窒素ガスなどの気体中で表面処理を行う方法)、メカノケミカル法(ボールミル、オングミルなどの機器を用いてメカノケミカル的に表面処理を行う方法)等が例として挙げられる。ここで、被覆粒子とは粒子が上述した方法でN-アシル化アミノ酸またはその誘導体によって被覆されたものである。
【0024】
使用する粒子としては、化粧料に使用される粉体であれば、特に制限はなく、無機化物、有機酸化物、金属酸化物から構成される。
例えば、無機粉体として、マイカ、セリサイト、タルク、カオリン、合成マイカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、リン酸カルシウム、無水ケイ酸、アルミナ、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、チツ化ホウ素等の体質顔料、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム等の白色顔料、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、酸化クロム、水酸化クロム、紺青、群青、等の着色顔料が挙げられる。
【0025】
有機粉体としては、ナイロン粉末、ポリエチレン粉末、ポリウレタン粉末、ポリスチレンパウダー、メチルメタアクリレート、シリコーンパウダー、テフロン(登録商標)パウダー、セルロースパウダー、ポリビニルピロリドンパウダー等が、が挙げられる。
またその他の粉体としては、有機顔料であるタール色素や天然色素、アルミニウムパウダー、ステンレスパウダー等が挙げられる。
パール顔料としては、オキシ塩化ビスマス、雲母チタン、魚鱗箔等が挙げられる。
【0026】
粒子は、化学的に安定な物質から構成されていることが好ましい。粒子の平均粒径は、20μm以下であることが好ましく、粒子12の製造工程での沈降を抑える観点からは、平均粒径は、5μm以下であることが好ましい。肌貼付用フィルム10における粒子の含有量は、肌貼付用フィルム10の形成のための塗液中において、樹脂固形分に対して、1%以上40%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
【0027】
肌貼付用フィルム10は、上記添加剤以外にも所定の機能を発揮する物質である機能性物質を含有していてもよい。機能性物質は、例えば保湿クリームや美容液等のスキンケアに用いられる化粧料あるいは化粧料成分、色素、薬剤、タンパク質、及び酵素等を、本発明の効果を損なわない範囲で適宜含有することでき、肌貼付用フィルム10は、機能性物質を一種類のみ含有していてもよいし、二種類以上を含有していてもよい。また、肌貼付用フィルム10は多層構成でよく、上記添加剤を各層に添加しても良い。その際は、N-アシル化アミノ酸、N-アシル化アミノ酸の誘導体、またはN-アシル化アミノ酸もしくはその誘導体被覆粒子を含有した層は肌側と接することが好ましい。
【0028】
(転写シートの構成)
図3は、一実施形態の転写シートの断面構造を示す図である。肌貼付用フィルム10を肌に貼り付けるための転写シート20について説明する。図3が示すように、転写シート20は、肌貼付用フィルム10と、肌貼付用フィルム10を支持する支持基材21と、を備える。
支持基材21は、肌貼付用フィルム10の一方の面11Fに接しても良いし、他方の面11Rに接しても良い。支持基材21は、転写シート20の保管時や、転写シート20の使用に際して肌貼付用フィルム10を肌上へ移動させるときに、肌貼付用フィルム10の変形を抑える機能を有する。支持基材21に支持されていることにより、肌貼付用フィルム10が取り扱いやすくなる。
【0029】
支持基材21は、多孔質基材であることが好ましい。多孔質基材は、内部に微小な多数の間隙を有する基材であり、液体を浸透あるいは透過させることができる。支持基材21として用いることのできる多孔質基材としては、例えば不織布、紙、編物、織物等の繊維材料からなるシート、メッシュ状のように間隙を含む構造を有する樹脂シートが挙げられる。これらの基材のなかでも、水分を速やかに吸収して拡散できることから、不織布が好適に用いられる。不織布を構成する繊維は、例えば綿、麻、羊毛、パルプ等の天然繊維、レーヨン等の半合成繊維、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸等の合成繊維等である。上記の繊維のなかでも、天然繊維、特にパルプが好適に用いられる。不織布は、一種類の繊維から構成されていてもよいし、二種類以上の繊維から構成されていてもよい。
【0030】
支持基材21として用いる不織布の製造方法は特に限定されず、例えばスパンレース法、スパンボンド法、ニードルパンチ法、メルトブロー法、エアレイ法、フラッシュ紡糸法、及び樹脂接着法のうち、何れかによって製造された不織布であればよい。支持基材21として用いる不織布の目付けは、10g/m以上150g/m以下であることが好ましく、肌触り等の使用感に優れることから、20g/m以上50g/m以下であることがより好ましい。なお、支持基材21は、多孔質基材に限らず、内部に間隙を有さない樹脂シートや金属箔等の基材から構成されてもよい。
【0031】
(肌貼付用フィルム、及び転写シートの製造方法)
肌貼付用フィルム10、及び転写シート20の製造方法の一例を説明する。なお、上述した構成の肌貼付用フィルム10、及び転写シート20を形成可能であれば、肌貼付用フィルム10、及び転写シート20は、下記の製造方法とは異なる方法によって製造されてもよい。
【0032】
まず、成膜用基材の表面に、肌貼付用フィルム10を形成する。成膜用基材としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、水溶性樹脂、金属酸化物、金属等から構成された基材が用いられる。成膜用基材は、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリカーボネート、シクロオレフィン、ポリアミド、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール等の樹脂からなる基材、こうした樹脂基材に対して延伸加工や離型処理やマット加工が施された基材である。あるいは、成膜用基材として、ガラス、石英、アルミニウム等の無機物からなる基材や、こうした無機物からなる基材に対して離型処理やマット加工を施した基材が用いられてもよい。
【0033】
肌貼付用フィルム10の材料が溶媒に溶かされた塗液が、成膜用基材の表面に塗布され、その塗膜が乾燥されることによって、肌貼付用フィルム10が形成される。
樹脂を溶解させた溶液に添加剤を混合し目的の濃度の樹脂と添加剤の塗液を作製するが好ましい。肌貼付用フィルム10の生体適合性樹脂に対する添加剤の配合量は、主剤に対して0.01重量%以上30.0重量%以下の範囲であり、1.0重量%以上15.0重量%以下の範囲がより好ましい。
上記溶媒としては、肌貼付用フィルム10の材料の特性に応じて、酢酸エチルや酢酸ブチル等のエステル系溶剤、アセトンやエチルメチルケトン等のケトン系溶剤、トルエンやヘキサン等の非極性溶剤等が用いられる。溶媒は樹脂及び添加剤に対して相溶性のある溶媒が好ましい。溶媒は単一溶媒でも他種の有機溶剤の混合溶液でもよく特に限定されない。
【0034】
塗液の塗布方法は、塗液の塗布量を精密に制御可能な方法であれば特に限定されない。塗布方法としては、例えばグラビア法、マイクログラビア法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、シルクスクリーン法、ダイコーティング法、及びカーテンコーティング法のいずれかが利用されることが好ましい。
成膜用基材を支持基材21として用いてもよいし、支持基材21とは異なる基材を成膜用基材として用い、成膜用基材上に形成した肌貼付用フィルム10を支持基材21上へ転写してもよい。転写方法としては、吸引による剥離を利用する方法や犠牲膜を利用する方法等、公知の転写方法が用いられればよい。
【0035】
(肌貼付用フィルムの貼付方法)
肌貼付用フィルム10の貼付方法、すなわち、転写シート20を用いた肌貼付用フィルム10の転写方法を説明する。以下では、支持基材21として多孔質基材を用い、支持基材21を湿潤させて肌貼付用フィルム10を肌に転写する方法について説明する。
まず、肌における肌貼付用フィルム10の貼付箇所に、水等の液体を供給する。供給される液体である供給液は、転写シート20に湿潤可能な液体であればよく、具体的には、水を含む液体、あるいはマッサージオイル等の油類であればよい。例えば、供給液としては、水や、化粧水等の化粧料を用いることができる。
【0036】
続いて、転写シート20を、肌貼付用フィルム10を貼付箇所に接するように、肌上に配置する。そして、支持基材21の上から、転写シート20を指等で押圧することにより、供給液を支持基材21にまで浸透させる。
続いて、肌貼付用フィルム10から支持基材21を剥離する。これにより、肌貼付用フィルム10が肌に貼り付けられる。転写シート20が湿潤することによって、多孔質基材である支持基材21が膨張することや、支持基材21と肌貼付用フィルム10との間まで供給液が浸入すること等に起因して、支持基材21が肌貼付用フィルム10から剥がれやすくなると考えられる。
【0037】
なお、上記転写方法においては、肌上に転写シート20を配置する前に、肌に供給液を供給する方法を例示したが、肌上に転写シート20を配置した後に、供給液が転写シート20に対して供給されてもよい。また、転写シート20を湿潤させずに、支持基材21を肌貼付用フィルム10から剥離してもよい。この場合、支持基材21は多孔質基材でなくてもよい。
また、肌貼付用フィルム10は、化粧料が塗布された肌に対して化粧料の上から貼り付けられてもよいし、化粧料が塗布されていない肌に貼り付けられてもよい。さらに、肌貼付用フィルム10が肌に貼り付けられた後に、肌貼付用フィルム10の上から化粧料が塗布されてもよい。肌貼付用フィルム10は、肌の保湿等によりスキンケアを補助し、あるいは、化粧下地等としてメイクアップを補助する。
【実施例
【0038】
上述した肌貼付用フィルム10、及び転写シート20について、具体的な実施例、及び比較例を用いて説明する。
(実施例1)
DL-ポリ乳酸(武蔵野化学研究所社製)を、5質量%となるように酢酸エチルに溶解して、肌貼付用フィルム10の形成のための塗液を生成した。成膜用基材としてシリコーン離型ポリエチレンテレフタレートを用いて、それにワイヤーバーを用いて上記塗液を塗布し、シリコーン離型ポリエチレンテレフタレート上に塗膜を形成した。塗膜をオーブンで加熱して乾燥・固化させることにより、肌貼付用フィルム10を形成した。乾燥時の加熱温度は70℃以上120℃以下の範囲から選択した。以上の工程では、薄膜層を、乾燥後の平均質量が2.60g/mとなるように形成した。続いて、支持基材21として不織布(フタムラ化学社製)を薄膜層に積層し、成膜用基材を剥離して、薄膜層を成膜用基材から支持基材21に転写した。不織布の主成分はセルロースであり、目付けは20g/mである。これにより、軟らかさが1.5μm/mNとなる実施例1の肌貼付用フィルム10、及び転写シート20を得た。
【0039】
(実施例2)
乾燥後の平均質量が2.00g/mとなるように肌貼付用フィルム10を形成したこと以外は、実施例1と同様の工程を用いて、軟らかさが1.9μm/mNとなる実施例2の肌貼付用フィルム10、及び転写シート20を得た。
【0040】
(実施例3)
DL-ポリ乳酸(武蔵野化学研究所社製)とトリポリヒドロキシステアリン酸ジペンタエリスリチルを、5質量%となるように酢酸エチルに溶解して、薄膜層の形成のための塗液を生成した。油溶性樹脂であるトリポリヒドロキシステアリン酸ジペンタエリスリチルは、DL-ポリ乳酸に対して10質量%を混合している。作製工程は、実施例1と同様の工程を用いた。これにより、軟らかさが3.6μm/mNとなる実施例3の肌貼付用フィルム10、及び転写シート20を得た。
【0041】
(実施例4)
乾燥後の平均質量が0.75g/mとなるように肌貼付用フィルムを形成したこと以外は、実施例1と同様の工程を用いて、軟らかさが3.3μm/mNとなる実施例4の肌貼付用フィルム10、及び転写シート20を得た。
【0042】
(実施例5)
乾燥後の平均質量が0.75g/mとなるように肌貼付用フィルムを形成し、且つDL-ポリ乳酸に対して油溶性樹脂であるトリポリヒドロキシステアリン酸ジペンタエリスリチルを0.01質量%混合したこと以外は、実施例3と同様の工程を用いた。これにより、軟らかさが3.4μm/mNとなる実施例5の肌貼付用フィルム10、及び転写シート20を得た。
【0043】
(実施例6)
実施例3とは成分の異なる添加剤を用い、乾燥後の平均質量が0.75g/mとなるように肌貼付用フィルムを形成したこと以外は、実施例3と同様の工程を用いた。添加剤には、イソステアリン酸デキストリンを用いた。これにより、軟らかさが4.3μm/mNとなる実施例6の肌貼付用フィルム10、及び転写シート20を得た。
【0044】
(実施例7)
乾燥後の平均質量が0.75g/mとなるように肌貼付用フィルムを形成したこと以外は、実施例3と同様の工程を用いた。これにより、軟らかさが6.2μm/mNとなる実施例7の肌貼付用フィルム10、及び転写シート20を得た。
【0045】
(実施例8)
添加剤としてイソステアリン酸デキストリンを30質量%混合したこと以外は、実施例7と同様の工程を用いた。これにより、軟らかさが11.3μm/mNとなる実施例8の肌貼付用フィルム10、及び転写シート20を得た。
【0046】
(実施例9)
実施例3とは成分の異なる添加剤を用い、乾燥後の平均質量が0.75g/mとなるように肌貼付用フィルムを形成したこと以外は、実施例3と同様の工程を用いた。添加剤には、Nε-ラウロイルリジンを用いた。これにより、軟らかさが3.8μm/mNとなる実施例9の肌貼付用フィルム10、及び転写シート20を得た。
【0047】
(実施例10)
実施例3とは成分の異なる添加剤を用い、乾燥後の平均質量が0.75g/mとなるように肌貼付用フィルムを形成したこと以外は、実施例3と同様の工程を用いた。添加剤には、N-アシル化アミノ酸またはその誘導体被覆粉体を用い、DL-ポリ乳酸に対して10質量%を混合している。
以下に、表面被覆処理粉体の作製方法の一例を示す。酸化チタン10gと精製水100gに、水酸化ナトリウム2g、Nε-ラウロイルリジンを固形分で5質量%を加え撹拌する。次に適度に希釈した硫酸水溶液を撹拌しながら上記溶液に加え中和させ、これを水洗、ろ過、乾燥、粉砕することで、Nε-ラウロイルリジン被覆粉体を得た。
これにより、軟らかさが2.7μm/mNとなる実施例10の肌貼付用フィルム10、及び転写シート20を得た。
【0048】
(実施例11)
乾燥後の平均質量が0.10g/mとなるように肌貼付用フィルムを形成したこと以外は、実施例1と同様の工程を用いた。これにより、軟らかさが25.0μm/mNとなる実施例11の肌貼付用フィルム10、及び転写シート20を得た。
【0049】
(実施例12)
乾燥後の平均質量が0.10g/mとなるように肌貼付用フィルムを形成したこと以外は、実施例3と同様の工程を用いた。これにより、軟らかさが31.0μm/mNとなる実施例12の肌貼付用フィルム10、及び転写シート20を得た。
【0050】
(実施例13)
乾燥後の平均質量が4.0g/mとなるように肌貼付用フィルムを形成したこと以外は、実施例3と同様の工程を用いた。これにより、軟らかさが2.2μm/mNとなる実施例13の肌貼付用フィルム10、及び転写シート20を得た。
【0051】
(実施例14)
実施例3とは成分の異なる添加剤を用い、乾燥後の平均質量が4.0g/mとなるように肌貼付用フィルムを形成したこと以外は、実施例3と同様の工程を用いた。添加剤には、N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジ(フィトステリル・ベヘニル・2-オクチルドデシル)を用いた。これにより、軟らかさが2.0μm/mNとなる実施例14の肌貼付用フィルム10、及び転写シート20を得た。
【0052】
(比較例1)
乾燥後の平均質量が4.0g/mとなるように肌貼付用フィルムを形成したこと以外は、実施例1と同様の工程を用いた。これにより、軟らかさが1.1μm/mNとなる比較例1の肌貼付用フィルム10、及び転写シート20を得た。
【0053】
(比較例2)
乾燥後の平均質量が0.05g/mとなるように肌貼付用フィルムを形成したこと以外は、実施例1と同様の工程を用いた。これにより、軟らかさが42.0μm/mNとなる比較例2の肌貼付用フィルム10、及び転写シート20を得た。
【0054】
(比較例3)
乾燥後の平均質量が0.05g/mとなるように肌貼付用フィルムを形成したこと以外は、実施例2と同様の工程を用いた。これにより、軟らかさが50.6μm/mNとなる比較例3の肌貼付用フィルム10、及び転写シート20を得た。
【0055】
(評価方法)
(軟らかさについて)
各実施例、及び比較例の肌貼付用フィルムから試験片を形成して、卓上圧縮・引張試験機(島津製作所社製:EZ-Test)を用いて試験片が破断したときの荷重を測定した。
・試験片作製
厚紙台紙の表裏の同じ位置に両面テープ(ニチバン社製:ナイスタック(登録商標)スポンジ両面テープ スポンジタイプ、NW-P15)を貼り、長さが約20mmになるよう切り取った。パンチを使用し、ナイスタック(登録商標)基材の中央にΦ6mmの穴を開けた。台紙の片面の剥離フィルムを剥がし、肌貼付用フィルム10を貼った。
・測定
円筒状サンプル置き台を評価装置に固定し、試験片を円筒状サンプル置き台に設置する。Φ3mm円柱圧子を圧縮速度10mm/minで試験片に突き刺し、Φ3mm円柱圧子を貫通させる。肌貼付用フィルム10の軟らかさは、加重-歪み曲線におけるストローク開始初期の傾き(ストローク0から0.5mmまでの加重変化量)から計算される。すなわち、肌貼付用フィルム10の軟らかさとは、圧縮荷重に対する変形量であり、ヤング率(曲げ弾性率)の逆数と近しい指標である。
【0056】
(密着性)
前腕を水で濡らし、転写シート20を肌貼付用フィルム10が腕と接するように貼った後、静かに支持基材21を取り除き、肌貼付用フィルム10を腕へ貼付した。端部を指で一度擦り、剥がれが起きなかったものを「〇」とし、剥がれが僅かに起きたものを「△」、貼付した面積の3分の1以上剥がれが起きたものを「×」とした。
【0057】
(評価結果)
評価結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1に示すように、実施例1~14において、密着性に問題はなかった。このように、肌貼付用フィルム10の平均質量、及び軟らかさを調整、及び肌親和性を付与することにより、肌への密着性が向上し、剥離が生じにくくなる。
【0060】
以上、限られた数の実施形態を参照しながら説明したが、権利範囲はそれらに限定されるものではなく、上記の開示に基づく実施形態の改変は、当業者にとって自明のことである。
【符号の説明】
【0061】
10…肌貼付用フィルム
11F…一方の面
11R…他方の面
12…誘導体被覆粒子
20…転写シート
21…支持基材
図1
図2
図3