(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】RFタグ
(51)【国際特許分類】
G06K 19/077 20060101AFI20240814BHJP
H01Q 9/26 20060101ALI20240814BHJP
H01Q 1/40 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
G06K19/077 296
G06K19/077 156
G06K19/077 264
G06K19/077 280
G06K19/077 248
H01Q9/26
H01Q1/40
(21)【出願番号】P 2020131870
(22)【出願日】2020-08-03
【審査請求日】2023-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤松 慎也
【審査官】小林 紀和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/018117(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/170750(WO,A1)
【文献】特開2009-135867(JP,A)
【文献】国際公開第2010/119854(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06K 19/077
H01Q 9/26
H01Q 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICチップと、ループ回路アンテナと、放射アンテナと、誘電体の基板と、を備え、
前記ICチップと前記ループ回路アンテナと前記放射アンテナとが、前記基板に実装されるとともに、
前記ループ回路アンテ
ナが、前記ICチップが実装される前記基板の
厚み方向に広がる三次元領域において、前記ICチップ実装面の下方に配置される
ことを特徴とするRFタグ。
【請求項2】
前記放射アンテナと導通しない補助アンテナを備える
ことを特徴とする請求項1記載のRFタグ。
【請求項3】
前記放射アンテナと前記補助アンテナとが、前記基板の同一平面又は異なる複数の積層面に配設されることにより、非導通で電磁結合する
ことを特徴とする請求項2記載のRFタグ。
【請求項4】
前記基板が複数の層を備える
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項記載のRFタグ。
【請求項5】
前記放射アンテナの長辺が、前記ICチップの通信周波数の半波長の長さを有する
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項記載のRFタグ。
【請求項6】
前記ICチップを封止する樹脂封止部を備える
ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項記載のRFタグ。
【請求項7】
前記基板の前記ICチップの実装面又は当該実装面を含む全面を覆うコーティング層又はモールディング層を備える
ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項記載のRFタグ。
【請求項8】
前記基板の前記ICチップの実装面の下層側に全面導体層を備える
ことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項記載のRFタグ。
【請求項9】
前記放射アンテナと前記ループ回路アンテナと前記ICチップが実装された前記基板の全体を収容可能なケースを備える
ことを特徴とする請求項1~8のいずれか一項記載のRFタグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば金属製の物品など、任意の物品や対象物に取り付けられて使用されるRFタグに関し、特に、ICチップに接続されるループ回路アンテナや放射アンテナを外力や衝撃等から保護する環境耐性を備えたRFタグに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、任意の物品や対象物に対して、当該物品や対象物に関する所定情報を読み書き可能に記憶したICチップを内蔵した所謂RFタグが広く使用されている。
RFタグは、RFID(Radio Frequency Identification)タグ,ICタグ,非接触タグ等とも呼ばれ、ICチップと無線アンテナを備えた電子回路が樹脂フィルム等の基材によって封止・コーティングされた所謂インレイ(インレット)が、タグ(荷札)状に形成されてなる超小型の通信端末であり、読取・書込装置(リーダ・ライタ)によってタグ内のICチップに所定の情報が無線で読み取りや書き込み,読み書き(リードオンリー,ライトワンス,リード・ライト)が行えるようになっている。
【0003】
そして、このようなRFタグに所定の情報を書き込んで任意の物品,対象物等に取り付けることにより、RFタグに記録された情報がリーダ・ライタによりピックアップされ、タグに記録された情報を当該物品に関する所定情報として認識,出力,表示,更新等させることができる。
このようなRFタグは、ICチップのメモリに数百ビット~数キロビットのデータが記録可能であり、物品等に関する情報としては十分な情報量を記録でき、また、読取・書込装置側とは非接触で通信が行えるため接点の磨耗や傷、汚れ等の心配もなく、さらに、タグ自体は無電源にすることができるため対象物に合わせた加工や小型化・薄型化が可能となる。
【0004】
このようなRFタグを用いることで、タグを取り付ける物品に関する種々の情報、例えば当該物品の名称や識別記号,内容物,成分,管理者,使用者,使用状態,使用状況などの種々の情報が記録可能となり、ラベル表面に印刷表示される文字やバーコード等では不可能であった多種多様な情報を、小型化・薄型化されたタグを物品に装着するだけで正確に読み書きすることが可能となる。
ここで、このようなRFタグでは、汎用のインレイ(インレット)と呼ばれるICチップとアンテナをフィルムコーティングしただけのRFタグが広く用いられている。この種のインレイは、小さく薄く、どのような対象物にも場所を取らずに容易に装着でき、直ちにRFタグとして使用できることから、近年広く普及している。
【0005】
ところが、このような汎用のインレイは、ICチップとアンテナを単にフィルムコーティングしただけのものであるため、そのままの状態では、外部から加わる衝撃等によって故障や誤動作,破損などが生じる原因となる。例えば貨物用のパレットやコンテナなどは、恒常的に物理的,機械的な外力・衝撃が加わる状態にあり、そのような対象物に取り付けられて用いられるRFタグの場合、インレイのままの状態では容易に故障・破損等してしまうおそれがあった。
また、フィルムコーティングされた汎用インレイでは、環境温度の変化などによるインレイの膨張収縮が繰り返されると、アルミ製のアンテナが破断したり、ICチップとのアンテナ接点の接着剤等が剥離したりする可能性があった。
【0006】
このため、外力が加わり易い状況や温度変化のある環境下などで使用されるRFタグについては、汎用インレイを所定のカバーやケース,筐体などに収納することで、インレイを物理的・機械的な衝撃や温度変化等から保護する環境耐性を付与したRFタグが提案されている。
例えば、特許文献1には、RFタグを構成するICチップとコイル導体を、耐熱性のガラスエポキシ基板に実装・収納することで、RFタグの環境耐性を向上させようとする提案がなされている。
このようにガラスエポキシ基板内にICチップやコイル導体を収納・実装することで、ICチップやアンテナとして機能するコイル導体を周囲の環境から保護し、特に外部から加わる外力や衝撃,温度変化等によっても、RFタグが容易に故障や破損等しないようにすることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に提案されている技術では、汎用のインレイに備えられる基本的な構成要素についての考慮がなされていなかった。
一般に、インレイは、基本的な構成として、ICチップと、ICチップの周囲近傍に配置されるループ回路アンテナと、ICチップの両側(左右)方向に延びる放射アンテナの3つの構成要素を備え、放射アンテナが、ICチップ(ループ回路アンテナ)の左右両方向に伸びる導体からなるダイポールアンテナを構成している。
このようなダイポールアンテナは、アンテナを構成する導体が所定の長さ、例えば1/2波長の長さとなるようにICチップの両側に左右対称となるように形成される。
【0009】
ところが、特許文献1に提案されているRFタグでは、ガラスエポキシ基板の内部に収納されるコイル導体がアンテナとして機能するのみで、これは汎用インレイのループ回路アンテナに相当するとしても、ダイポールアンテナとして機能する放射アンテナは備えられていなかった。
このため、この特許文献1のRFタグは、単体ではほとんど通信ができず、実際には、別途非接触のアンテナによるループ軸の調整等が必要になると考えられた。
したがって、少なくとも汎用インレイと同等の構成(放射アンテナ・ループ回路アンテナ)について、環境耐性を向上させつつ良好な通信特性が得られるようにすることは困難であった。
【0010】
また、特許文献1では、インレイが備える放射アンテナやループ回路アンテナに加えて、更に補助アンテナを備えることについての考慮もなかった。
一般に、汎用インレイについては、放射アンテナ・ループ回路アンテナによる通信特定を維持・向上させるために、放射アンテナ・ループ回路アンテナとは異なる第3のアンテナとして、例えばICチップやループ回路アンテナの近傍に配設される平面状の補助アンテナが備えられる場合がある。
このような補助アンテナを追加実装することにより、RFタグの無線通信距離をより長くしたり、周波数帯域を広げたりすることができる。
【0011】
ところが、特許文献1に提案されているようなRFタグでは、このような補助アンテナについての考慮もなかった。
なお、特許文献1では、RFタグ自体を搭載可能な大型のブースターアンテナを用いることができる旨が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載されているブースターアンテナは、RFタグと比較して非常に長大なアンテナ素子の表面にRFタグを搭載するもので、もはやループ回路アンテナや放射アンテナを補助する「補助アンテナ」ではなく、ブースターアンテナ付きRFタグというべきものであった。
このため、ブースターアンテナの寸法は、中央にRFタグを搭載した両側に伸びるアンテナ長が非常に長大なものとなり(
図9参照)、RFタグの小型化や設計の自由度等を阻害する要因となるおそれがあった。
【0012】
本願の出願人及び発明者は、鋭意研究の結果、汎用のインレイと同様の構成要素のみによって、RFタグの小型化や設計の自由度等が損なわれることなく、RFタグを周囲環境から有効に保護し、さらに、補助アンテナの機能も活用可能として、無線通信を良好に行わせることができる発明に想到するに至ったものである。
【0013】
すなわち、本発明は、上記のような従来の技術が有する課題を解決するために提案されたものであり、RFタグを構成するICチップと放射アンテナとループ回路アンテナを、絶縁性の基板に実装することで、一定の厚みを有する基板の平面方向と厚み方向の三次元領域によって、ICチップやループ回路アンテナ,放射アンテナを有効に保護することができるとともに、基板が有する三次元領域を利用して補助アンテナを含むRFタグのアンテナの設計の自由度や通信特性の向上を図ることができ、環境耐性及び通信特性の双方に優れたRFタグの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明のRFタグは、ICチップと、放射アンテナと、ループ回路アンテナと、絶縁性の基板と、を備え、前記ICチップと前記ループ回路と前記放射アンテナとが、前記基板に実装されるとともに、前記ループ回路アンテナが、前記ICチップが実装される前記基板の厚み方向に広がる三次元領域において、前記ICチップ実装面の下方に配置される構成としてある。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、RFタグを構成するICチップと放射アンテナとループ回路アンテナを、絶縁性の基板に実装することで、一定の厚みを有する基板の平面方向と厚み方向の三次元領域によって、ICチップやループ回路アンテナ,放射アンテナを有効に保護することができる。
また、基板が有する平面方向と厚み方向の三次元領域を利用して、補助アンテナを含むRFタグのアンテナの設計自由度や通信特性の向上を図ることができる。
したがって、本発明によれば、RFタグの小型化や設計の自由度を確保しつつ、外部から物理的な力や衝撃、温度変化などが加わることの多い環境で使用されるRFタグとして好適に用いることができる、環境耐性及び通信特性の双方に優れたRFタグを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係るRFタグを示す外観斜視図であり、(a)はRFタグの完成状態、(b)はRFタグを構成する基板を取り除いて、基板に実装されるICチップ,ループ回路アンテナ,放射アンテナ,補助アンテナのみを示した状態、(c)は(b)に示す各構成要素を分解・離間させた状態を示している。
【
図2】本発明の一実施形態に係るRFタグの、基板を取り除いた各構成要素の配置関係の具体例を模式的に示す斜視図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るRFタグの、基板とICチップ,各アンテナの配置関係の具体例を模式的に示す図であり、(A)は基板が2層の場合、(B)は基板が3層の場合で、それぞれ、(a)は断面図、(b)-(d)は基板の各層の平面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るRFタグの、基板とICチップ,各アンテナの配置関係の具体例を模式的に示す図であり、ループ回路アンテナを3次元の立体構成とした場合で、それぞれ、(a)は断面図、(b)-(d)は基板の各層の平面図、(e)-(f)はループ回路アンテナの斜視図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るRFタグの、基板とICチップ,各アンテナの配置関係の具体例を模式的に示す図であり、(A)は本発明以外の構成の場合、(B)は基板が2層の場合、(C)は基板が3層の場合で、それぞれ、(a)は断面図、(b)-(d)は基板の各層の平面図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係るRFタグの、基板とICチップ,ループ回路アンテナを除く各アンテナの配置関係の具体例を模式的に示す図であり、(A)は放射アンテナのみを折り返し構成とした場合、(B)は補助アンテナのみを折り返し構成とした場合、(C)は放射アンテナと補助アンテナの双方を折り返し構成とした場合で、(a)-(d)はそれぞれ断面図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係るRFタグの、基板に実装されるICチップを保護する構成の具体例を模式的に示すそれぞれ断面図であり、(A)は基板のICチップ実装面のみをコーティングした場合、(B)は基板全体をモールディングした場合、(C)はICチップのみをポッティングした場合、(D)は基板全体をケーシングした場合、(E)はICチップを基板に形成した凹部(溝・穴)に埋設した場合である。
【
図8】本発明の一実施形態に係るRFタグの通信特性を示す、周波数と交信距離の関係を示す折れ線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るRFタグの実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るRFタグ1を示す外観斜視図である。
図2は、本実施形態に係るRFタグ1の、基板20を取り除いたICチップ10とループ回路アンテナ11,放射アンテナ12,補助アンテナ13の各構成要素の配置関係を模式的に示す斜視図である。
図3-7は、本実施形態に係るRFタグ1の、基板20とICチップ10,各アンテナ11,12,13との配置関係の具体例を模式的に示す断面図及び平面図である。
【0018】
これらの図に示すように、本実施形態に係るRFタグ1は、無線通信を行うRFタグを構成する、ICチップ10,ループ回路アンテナ11,放射アンテナ12,補助アンテナ13の各構成要素が、基材となる基板20に実装されて一つのRFタグが構成されるようになっている。
基板20は、RFタグ1の構成要素となるICチップ10,ループ回路アンテナ11,放射アンテナ12,補助アンテナ13を実装・固定する固定手段として機能するものであり、さらに、これら各構成要素を外的環境から保護するための保護手段として機能するようになっている。
【0019】
具体的には、本実施形態では、ICチップ10のアンテナとして機能するループ回路アンテナ11,放射アンテナ12,補助アンテナ13が、それぞれ、基板20のICチップ10が実装される実装面の平面方向(水平方向)及び交差する厚み方向(垂直方向)の三次元領域に実装・配設されることで、基板20を構成する樹脂等によって、ループ回路アンテナ11,放射アンテナ12,補助アンテナ13がそれぞれ外部から隔離・封止されるようになっている。
これによって、RFタグ1に外部から加わる衝撃や圧力,温度変化などの物理的な力に対する耐久性や耐衝撃性,耐圧性,耐熱性等を向上させ、外力や衝撃,環境変化によってループ回路アンテナ11,放射アンテナ12,補助アンテナ13の故障・破損等を有効に防止できるようになっている。
【0020】
また、そのような基板20の平面方向・厚み方向に広がる三次元領域に、ループ回路アンテナ11,放射アンテナ12,補助アンテナ13が立体的に配置させることで、アンテナの配置やデザインなど、設計上の自由度を大きく向上させることができ、例えば、ループ回路アンテナ11及び放射アンテナ12をそれぞれ最大化設計することで、RFタグ1の小型化・薄型化や、通信特性に合わせたアンテナの設定・変更等も任意に行えるようにすることができる。
そして、ループ回路アンテナ11,放射アンテナ12とともに、第3のアンテナとなる補助アンテナ13についても、最適な形状や大きさに構成して適切な位置に配置させることで、補助アンテナ13を、RFタグ1のアンテナとして有効に機能させることができ、RFタグ1の通信特性を良好な状態に維持・向上させることが可能となる。
以下、本実施形態に係るRFタグ1の各部を詳細に説明する。
【0021】
[RFタグ]
RFタグ1は、図示しないリーダ・ライタ(読取・書込装置)との間で無線による所定の情報の読み取りや書き込み,読み書きが行われる無線通信デバイスを構成しており、例えばリードオンリー型,ライトワンス型,リード・ライト型等の種類がある。
具体的には、RFタグ1は、ICチップ10と、ICチップ10に電気的に導通・接続されたループ回路アンテナ11及び放射アンテナ12とを有し、これらICチップ10・ループ回路アンテナ11・放射アンテナ12が、基材となる基板20上に搭載・実装されることで固定・保護されるようになっている。
【0022】
図1に示す例では、基板20の平面(上面)上にICチップ10が搭載・実装されるとともに、基板20の厚み方向に広がる三次元領域において、ICチップ10の下方にループ回路アンテナ11が配置され、また、ループ回路アンテナ11を左右から取り囲むように一対のコ字状の放射アンテナ12が配置されるようになっている。
さらに、
図1に示す例では、放射アンテナ12に取り囲まれた空間内のループ回路アンテナ11の下方には、薄板状の補助アンテナ13が配置されるようになっている。
【0023】
[ICチップ]
ICチップ10は、メモリ等の半導体チップからなり、例えば数百ビット~数キロビットのデータが記録可能となっている。
ICチップ10に記録されるデータとしては、例えば、商品の識別コード、名称、重量、内容量、製造・販売者名、製造場所、製造年月日、使用期限等、任意のデータが記録可能であり、また、書換も可能である。
【0024】
ここで、ICチップ10(RFタグ1)の通信に使用される通信周波数帯としては、本実施形態では、所謂UHF帯に属する900MHz帯を対象としている。
一般にRFタグで使用される周波数帯としては、例えば、135kHz以下の帯域、13.56MHz帯、UHF帯に属する860M~960MHz帯、2.45GHz帯等の数種類の周波数帯がある。そして、使用される周波数帯によって無線通信が可能な通信距離が異なるとともに、周波数帯によって最適なアンテナ長などや配線パターンが異なってくる。
【0025】
本実施形態では、RFタグ1が小型化でき、また、後述するループ回路アンテナ11,放射アンテナ12,補助アンテナ13を所定の三次元サイズに形成可能となることから、波長が短くアンテナを小型化できるUHF帯を対象とするようにしてあり、具体的には900MHz帯を対象として、この900MHz帯において良好な通信特性が得られるようにしている(後述する
図8参照)。
但し、RFタグ1やループ回路アンテナ11,放射アンテナ12,補助アンテナ13の大きさや形状等を変更することにより、本発明に係る技術思想自体は、特定の周波数帯域(900MHz帯を含むUHF帯)以外の周波数帯域についても適用できることは勿論である。
【0026】
[ループ回路アンテナ]
ループ回路アンテナ11は、ICチップ10近傍に配設・接続されるループ状(環状)に形成された導体によって構成されるアンテナである。
このループ回路アンテナ11が備えられることによって、ICチップ10のインピーダンスの整合が図られ、かつ、磁界成分で通信が行えるようになっている。
【0027】
[放射アンテナ]
放射アンテナ12は、ICチップ10の左右両側に配設・接続される導体によって構成されるアンテナである。この放射アンテナ12がICチップ10に対して、直接又はループ回路アンテナ11を経由して間接に接続されることで、ICチップ10の左右両側にダイポールアンテナが構成され、外部との無線通信が行えるようになっている。
そして、この放射アンテナ12や後述する補助アンテナ13を介して、ICチップ10と図示しないリーダ・ライタとの間で無線通信による読み書き(データ呼び出し・登録・削除・更新など)が行われ、ICチップ10に記録されたデータが認識されるようになっている。
また、ループ回路アンテナ11と放射アンテナ12とは、互いに導通・接続されず、近接して配置されることによってインピーダンス整合されるようになる。
【0028】
ここで、放射アンテナ12は、ICチップ10の左右両側に伸びるダイポールアンテナとして機能する部分の長さ(全長)が、RFタグ1の電波周波数の波長の整数分の1、例えば電波周波数の波長の略1/2の長さとなるように形成されることが好ましい(
図3(a)の矢印参照)。
本実施形態では、基板20が形成する平面方向・厚み方向の三次元領域において、放射アンテナ12を任意の形状・大きさ・長さに設定して、実装・配設することができるので、放射アンテナ12の長手方向の全長を、RFタグ1の通信特性の維持・向上に好ましい長さに設定することが可能となる。
【0029】
したがって、放射アンテナ12を、RFタグ1の電波周波数の波長の略1/2の長さのアンテナとして構成することによって、良好な通信特性が得られるようになる。
具体的には、例えば対象とするRFタグ1の通信周波数920MHzの場合には、波長λ≒326mm,λ/2≒163mmとなる。したがって、放射アンテナ12は、ICチップ10の左右両側に伸びる長手方向の全長が、163mm前後となるように形成されることが好ましい。
但し、放射アンテナ12の全長は、RFタグ1の電波周波数の波長の1/2の長さに限定されるものではなく、ICチップ10やループ回路アンテナ11・放射アンテナ12・補助アンテナ13の特性や通信機能などに応じて、最適な長さを選択・設定できることは言うまでもない。
【0030】
[補助アンテナ]
補助アンテナ13は、RFタグ1の通信特性を向上・調整するためのエクストラアンテナとして機能するものであり、
図1及び
図2に示すように、基板20上に搭載・実装されて、例えばループ回路アンテナ11の近傍に配置される面状の導電性部材からなり、基板20を構成する誘電体層によって、他のアンテナ(ループ回路アンテナ11・放射アンテナ12)とは絶縁状態となるように配置される。
すなわち、補助アンテナ13は、基板20によって全体が樹脂封止された状態となり、同じ導電性部材からなるループ回路アンテナ11・放射アンテナ12(及びICチップ10)とは物理的には絶縁状態となっている。
【0031】
このような補助アンテナ13がループ回路アンテナ11の近傍に配置されることで、補助アンテナ13とループ回路アンテナ11(ICチップ10)は、基板20を介して対向配置されるようになり、所謂コンデンサカップリングによって電磁的接続がなされるようになる。
具体的には、
図1に示すように、補助アンテナ13がループ回路アンテナ11の下方近傍などに配置・固定されることで、補助アンテナ13は、ループ回路アンテナ11(ICチップ10)に対して、基板20の厚み方向(高さ方向)の三次元領域において、所定位置に積層配置されるようになる。このような積層配置構成により、補助アンテナ13とループ回路アンテナ11(ICチップ10)とは、基板20を構成する誘電体層を介して対向配置されるようになり(
図2参照)、所謂コンデンサカップリングによって電磁的に接続・結合されるようになる。
【0032】
これによって、補助アンテナ13は、ICチップ10の第3のアンテナ(エクストラアンテナ)として機能するようになる。
すなわち、補助アンテナ13は、ICチップ10に接続された放射アンテナ12とともに(あるいは放射アンテナ12に代えて)、RFタグ1の通信特性を向上・調整するためのアンテナとして機能するものであり、ICチップ10に接続されたループ回路アンテナ11の近傍(下側)に積層配置される面状・板状などの導電性部材によって構成され、ループ回路アンテナ11(ICチップ10)とは、基板20を形成する誘電体によって絶縁状態となって配置される。
【0033】
そして、そのような補助アンテナ13とループ回路アンテナ11(ICチップ10)は、所謂コンデンサカップリングによって電磁的接続がなされるようになる。
これによって、RFタグ1は、補助アンテナ13が縦方向(高さ方向)に積層されることで、ICチップ10に導通するループ回路アンテナ11及び放射アンテナ12とともに(あるいは放射アンテナ12に代えて)、補助アンテナ13により三次元アンテナが構成され、補助アンテナ13が通信電波のブースターとして機能することになり、RFタグ1の通信特性の調整・向上が図られることになる。
【0034】
ここで、補助アンテナ13についても、長手方向の長さ(全長)が、RFタグ1の電波周波数の波長の略1/2の長さ(半波長)となるように形成されることが好ましい。
補助アンテナ13についても、上述した放射アンテナ12と同様に、基板20が形成する平面方向・厚み方向の三次元領域において、任意の形状・大きさ・長さに構成することができ、補助アンテナ13の長手方向の全長も、RFタグ1の通信特性の維持・向上に好ましい長さに設定することができる。
そこで、補助アンテナ13についても、例えばRFタグ1の電波周波数の波長の略1/2の長さに構成することによって、RFタグ1が良好な通信特性が得られるようにすることが可能となる。
【0035】
なお、以上のような放射アンテナ12や補助アンテナ13は、二次元/三次元に広がる金属薄膜の面状部分を、ICチップ10の近傍から長手方向の両端部分まで、長手方向に沿って金属薄膜が存在しない中空・打ち抜き状に形成したり、面状部分を例えばメッシュ(網目)状,格子状等に形成することができる。
ICチップ10に対してデータの読み書きが行われる際に放射アンテナ12や補助アンテナ13に流れる電流は、その大部分が面状のアンテナの周縁部分を流れる(表皮効果)。このため、放射アンテナ12,補助アンテナ13は、所定の大きさ・形状を有していれば、面状部分を例えば打ち抜き状やメッシュ状等に形成することができる。
このように放射アンテナ12や補助アンテナ13を中空・メッシュ状等に形成することで、表皮効果によりアンテナとしての機能は損なわれず、かつ、面状アンテナ全体の導体部分の面積を少なくすることができ、アンテナを形成する銅箔や導電性ぺースト等の導体材料を節減でき、RFタグ1の更なる低コスト化を図ることができるようになる。
【0036】
また、放射アンテナ12や補助アンテナ13は、ICチップ10の左右両側に伸びるダイポールアンテナに限らず、例えば、ICチップ10の左右いずれか一方側のみに伸びるモノポールアンテナとして構成することもできる。
また、ダイポールアンテナやモノポールアンテナを備えないループ回路アンテナ11のみからなるアンテナとして構成することも可能である。
このようにすると、RFタグ1の更なる小型化や低コスト化を図ることが可能となる。
【0037】
[アンテナの形成方法]
以上のような本実施形態に係るループ回路アンテナ11,放射アンテナ12,補助アンテナ13は、基材となる基板20の表面に、例えば金、銀、又は銅などの導電性ペーストや導電性を有する銅などの金属薄膜をエッチング加工やメッキ加工等により所定の形状・大きさ(長さ,面積)に成形することで面方向に形成される。また、スルーホールやビルドアップ法により厚さ方向にも回路を形成可能である。
そして、本実施形態では、このようなエッチングやメッキ加工等によって、ループ回路アンテナ11,放射アンテナ12,補助アンテナ13のうち、ループ回路アンテナ11の少なくとも一部が、ICチップ10が実装される基板20の実装面(
図1(a)参照)とは異なる面に形成・配設されるようになっている。
【0038】
具体的には、例えば
図2に示すように、ループ回路アンテナ11,放射アンテナ12,補助アンテナ13は、基板20の平面方向・厚み方向において形成される三次元領域の範囲内で、立体的に構成・配置させることができる。
図2(a)に示す例では、
図1に示した構成と同様に、ICチップ10の下側にループ回路アンテナ11が配置・導通され、また、ループ回路アンテナ11を左右から取り囲むように一対のコ字状の放射アンテナ12が配置されて、ICチップ10と導通・接続されるようになっている。
【0039】
また、放射アンテナ12に取り囲まれた空間内のループ回路アンテナ11の下方には、薄板状の補助アンテナ13が配置され、ループ回路アンテナ11(ICチップ10)と非接触で、コンデンサカップリングにより電気的に接続されるようになっている。
このような構成により、放射アンテナ12は、基板20の異なる複数の層又は面に折り返される形状に構成され、また、ICチップ10と接続する導体部に導通しない補助アンテナ13を、ループ回路アンテナ11に近接配置させて、インピーダンスを調整することができる。
【0040】
図2(b)に示す例では、上述した
図2(a)と同様に、ICチップ10の下側にループ回路アンテナ11が配置され、また、ループ回路アンテナ11を左右から取り囲むように一対のコ字状の放射アンテナ12が配置されるようになっている。
そして、この
図2(b)に示す例では、
図2(a)の場合とは異なり、補助アンテナ13は備えられておらず、一対コ字状の放射アンテナ12の先端から、それぞれ、逆L字状に放射アンテナ12が曲折・延伸されるようになっている。
ここでは、補助アンテナ13がなくても、放射アンテナ12に補助アンテナの効果を一体化させることができる構成となっており、
図2(a)では補助アンテナ13をループ回路アンテナ11の近傍に積層配置していたのに対して、放射アンテナ12の一部(先端部)をループ回路アンテナ11の近接に配置することで、補助アンテナ13と同様の効果を得ることができるようにするものである。
【0041】
このような構成によっても、放射アンテナ12を、基板20の異なる複数の層又は面に折り返される形状に構成でき、また、ループ回路アンテナ11と放射アンテナ12の一部を、基板20の同一平面又は異なる上下層面において互いに沿って配置させることができ、これによってインピーダンスを調整することができる。
さらに、放射アンテナ12を補助アンテナと同様に機能させることができるようになる。
以上のようなループ回路アンテナ11,放射アンテナ12,補助アンテナ13の、より具体的な配置構成パターンについては、
図3-7を参照しつつ後述する。
【0042】
[基板]
基板20は、RFタグ1を構成するICチップ10,ループ回路アンテナ11,放射アンテナ12,補助アンテナ13が実装・固定される基材層となるとともに、実装された各構成要素を外力や環境変化等か保護する保護層となるものである。
本実施形態では、基板20は、同形・同大の複数枚(2枚以上)の誘電体層が積層されて単一の基板20(RFタグ1)を形成するようになっている。
【0043】
具体的には、基板20は、RFタグ1を構成するICチップ10,ループ回路アンテナ11,放射アンテナ12,補助アンテナ13がはみ出さずに同一平面内に配置・実装できるように、所定の三次元状に配置されたICチップ10,ループ回路アンテナ11,放射アンテナ12,補助アンテナ13の最大外形よりも一回り大きな、面積と厚み(他高さ)の面状・板状等に形成される(
図1(a)参照)。
この基板20によって、RFタグ1の外形の大きさが規定されることになる。
【0044】
このような基板20は、プリント基板(多層基板)の製造方法によって製造することができる。
具体的には、RFタグ1の下層側(底面側)から上層側(平面側)に積層形成され、各層の表面には、ループ回路アンテナ11・放射アンテナ12・補助アンテナ13を形成するアンテナパターンやスルーホールが、エッチングやメッキ加工等により順次形成され、最終的に、複数の樹脂層によって形成される三次元領域内に、所定形状・所定位置に配置されたループ回路アンテナ11・放射アンテナ12・補助アンテナ13が形成され、最後にICチップ10が、基板20の最上面(実装面)に実装・固定されて、ループ回路アンテナ11及び放射アンテナ12と導通・接続されるようになる。
【0045】
このようにして、ICチップ10は、基板20の実装面に固定され、また、ループ回路アンテナ11・放射アンテナ12・補助アンテナ13は、複数層の基板20によって挟持された状態で封止され、外部から保護されるようになる。
このように、本実施形態では、複数層からなる基板20が、実装されたRFタグ1の各構成要素の全体を覆う厚みのある立体状に形成されることで、基板20によってICチップ10及び各アンテナ11,12,13が保護されることにより、RFタグ1としての耐候性や耐熱性・防水性が高められるようになる。
【0046】
ここで、以上のような本実施形態に係る基板20としては、例えば、ガラスエポキシや、紙フェノール、紙エポキシ、ガラスポリイミド、テフロン(登録商標)、ガラスコンポジット基板などや、ポリカーボネート樹脂,アクリロニトリル-エチレン-スチレン共重合体(AES)樹脂,ポリプロピレン樹脂,ポリエチレン樹脂,ポリスチレン樹脂,アクリル樹脂,ポリエステル樹脂,ポリフェレニンサルファイド樹脂,アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)樹脂,ポリ塩化ビニル樹脂,ポリウレタン樹脂,フッ素樹脂,シリコーン樹脂などの熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマー等の樹脂材料、あるいは発泡ポリエチレン,アクリルフォーム、発泡ポリプロピレン等の架橋ポリオレフィン発泡体によって形成することができる。
そして、基板20は、それぞれ上記のような誘電体材料により形成した複数の板状部材・帯状部材を積層することで、一つの基板20(RFタグ1)を構成することができる。
【0047】
また、以上のような本実施形態に係る基板20は、RFタグ1(ICチップ10)の通信特性を調整する所定の比誘電率を有するように形成されることで、基板20を基材として備えるRFタグ1に対する誘電率調整層として機能させることができる。
例えば、基板20は、所定の部材によって、所定の厚みで形成されることにより、RFタグ1の通信特定に対して好適な比誘電率を有する誘電率調整層として形成することができる。
【0048】
このように、基板20が所定の比誘電率・厚みを有することにより、RFタグ1の取付対象となる金属からの影響を基板20によって低減・吸収することができ、RFタグ1を金属板等に取り付けた場合にも、RFタグ1の通信特性として、後述するような良好な通信距離を得ることができるようになる(
図8参照)。
したがって、本実施形態に係るRFタグ1は、使用するRFタグ1の種類や通信特性,RFタグ1を使用する物品・使用環境・使用周波数帯域などの諸条件を考慮して、基板20として適切な材質と厚みを選定し、基板20のみを選択・交換することで、RFタグ1を異なる物品に使用したり、異なる通信周波数に対応させたりすることが可能となる。
また、基板の表面や裏面において、導電パターンを保護・絶縁させるためのレジストを塗布あるいは貼付することが一般的であるが、これを基板の1つの層としてRFタグを成形してもよい。
【0049】
[配置パターン]
次に、本実施形態のRFタグ1の基板20が構成する三次元領域における、ICチップ10・ループ回路アンテナ11・放射アンテナ12・補助アンテナの配置パターンの具体例について、
図3-7を参照しつつ説明する。
【0050】
[垂直ループ]
図3に、ループ回路アンテナ11を垂直に配置させる場合のパターン例を示す。
図3(A)は、基板20が上下2層の場合であり、ループ回路アンテナ11と放射アンテナ12とが、
図2(a)で示した場合と同様に構成・配置される場合である。
なお、
図3(A)では、補助アンテナ13は備えられていない。
具体的には、(a)-(c)に示すように、ループ回路アンテナ11と放射アンテナ12は、まず、基板20の上面のICチップ10の実装面において、それぞれICチップ10と導通・接続されるように配設・実装されている。
【0051】
ループ回路アンテナ11は、基板20の上面から第1層目の厚み方向(垂直方向)に向かって垂直に延伸・配設され、第1層を貫通して第2層目の上面において環状のループが形成・固定されるようになる。
放射アンテナ12は、基板20の上面においてICチップ10の両側に面状に延伸され、基板20の長手方向両端近傍において、第1層目の厚み方向(垂直方向)に向かって垂直に曲折・延伸され、第1層を貫通して第2層目の上面において基板20の内側に向かって曲折され、第2層目に実装されているループ回路アンテナ11を左右から非接触で取り囲むように形成・固定されるようになっている。
【0052】
図3(B)は、基板20が上中下3層の場合であり、ループ回路アンテナ11と放射アンテナ12とが、
図2(b)で示した場合と同様に構成・配置される場合である。
具体的には、(a)-(d)に示すように、ループ回路アンテナ11と放射アンテナ12は、上述した
図3(A)の場合と同様に、基板20の上面のICチップ10の実装面において、それぞれICチップ10と導通・接続されるように配設・実装されている。
ループ回路アンテナ11は、これも
図3(A)の場合とほぼ同様に、基板20の上面から第1層目・第2層目の厚み方向(垂直方向)に向かって垂直に延伸・配設され、第1層・第2層を貫通して第3層目の上面において環状のループが形成・固定されるようになる。
【0053】
一方、放射アンテナ12は、これも
図3(A)の場合とほぼ同様に、基板20の上面においてICチップ10の両側に面状に延伸され、基板20の長手方向両端近傍において、第1層目・第2層目の厚み方向(垂直方向)に向かって垂直に曲折・延伸され、第1層・第2層を貫通して第3層目の上面において基板20の内側に向かって曲折され、第3層目に実装されているループ回路アンテナ11を左右から非接触で取り囲むように形成・固定される。
さらに、この放射アンテナ12は、第3層目の基板20の中央部近傍において、対向する一対の先端のそれぞれ一部(半分)が、第2層目の厚み方向(垂直方向)に向かって垂直に曲折・延伸され、さらに、第2層目の上面(第1層目の底面)において基板20の外側に向かって曲折され、第2層目を貫通・延伸しているループ回路アンテナ11に非接触の位置まで形成・固定されるようになっている。
【0054】
以上のように、ループ回路アンテナ11・放射アンテナ12(及び補助アンテナ13)は、任意の複数層からなる基板20の平面方向・厚み方向に形成される三次元領域の範囲内において、任意の形状・大きさ・方向・長さに形成・延伸され、所望のアンテナパターンとして形成できる。
これによって、放射アンテナ12をループ回路アンテナ11に非接触で近接配置させてインピーダンス整合を図り、また、ループ回路アンテナ11及び放射アンテナ12をそれぞれ最大化設計してRFタグの小型化を図ることが可能となる。
【0055】
[立体ループ]
図4に、ループ回路アンテナ11を立体的に構成して配置させる場合のパターン例を示す。
上述したように、
図3に示すループ回路アンテナ11を垂直配置させる場合では、基板20の厚みが薄いと、ループが小さくなってしまい、十分なインピーダンス調整や通信特性が得られない場合があり得る。
そこで、
図4に示すように、基板20によって構成される三次元領域をより広く活用して、ループ回路アンテナ11を立体的形状にして、ループ面積を大きく、アンテナ長を長くするように調整することができる。
これによって、より良好な通信特性が得られるようにすることができるとともに、基板20(RFタグ1)を可能な限り薄型化・小型化することが可能となる。
【0056】
具体的には、
図4(a)-(e)に示す例では、ループ回路アンテナ11は、基板20の上面から厚み方向(垂直方向)に向かって垂直に延伸・配設されて第1層を貫通するとともに、第2層目の上面において基板20の平面方向(水平方向)にほぼ直角に曲折・延伸され、その第2層面の上面の奥側において環状のループが形成・固定されるようになっている(
図4(e)参照)。
このような構成により、ループ回路アンテナ11は、基板20が形成する三次元領域を垂直方向と水平方向の双方に広がる立体的な構成とすることができ、ループ面積をより大きく、アンテナ長をより長くすることができる。
【0057】
なお、ループ回路アンテナ11の立体的構成は、上記の場合に限定されるものではなく、例えば、
図4(f)に示すような構成とすることもできる。
図4(f)の例では、
図4(e)の場合に基板20の第2層の上面奥側で固定されたループを、さらに第1層に向かって曲折・延伸させて、第1層の上面において環状のループを形成・固定されるようになっている。
このようにすることで、ループ回路アンテナ11のループ面積を更に大きく、アンテナ長を更に長くすることが可能となる。
以上のように、ループ回路アンテナ11の立体的構成は、任意の複数層からなる基板20の平面方向・厚み方向に形成される三次元領域の範囲内において、任意の形状・大きさ・方向・長さに形成・延伸され、所望のアンテナパターンとして形成することができる。
【0058】
[アンテナ構成・積層]
図5に、複数層からなる基板20に各アンテナを配置させる場合のパターン例を示す。
図5(A)は、本発明以外の構成として、基板20の上面にICチップ10・ループ回路アンテナ11・放射アンテナ12を二次元状に配置させた従来のRFタグを示している。
図5(B)は、本実施形態に係るRFタグ1として、基板20が2層の誘電体層などで構成される場合である。
図5(C)は、同様に本実施形態に係るRFタグ1の基板20が3層で構成される場合である。
【0059】
なお、
図5(B)-(C)において、ICチップ10やループ回路アンテナ11・放射アンテナ12・補助アンテナ13の配置パターンについては、上述した
図4及び
図5に示した場合と同様である。
このように、本実施形態に係るRFタグ1では、基板20は、任意の複数層によって構成することができ、基板20に実装するループ回路アンテナ11・放射アンテナ12・補助アンテナ13の数や形状・大きさ・構造などに応じて、基板20を構成する層数を適宜選択・設定することができるものである。
【0060】
[アンテナ構成・折り返し]
図6に、放射アンテナ12・補助アンテナ13を基板20に対して折り返して配置させる場合のパターン例を示す。
上述のとおり、本実施形態に係るRFタグ1では、基板20が任意の複数層で構成されることによって、各層に対してアンテナパターンを折り返すことで、放射アンテナ12や補助アンテナ13の面積やアンテナ長を設定・変更することができるようになっている。
具体的には、
図6(A)-(B)に示すような折り返しパターンを採用することが可能である。
【0061】
図6(A)は、放射アンテナ12のみを折り返し構成とした場合である。
同図(a)は、ICチップ10の両側に伸びる放射アンテナ12のうち、片側のみを1層の基板20の裏面側にコ字状に折り返した場合、同図(b)は、放射アンテナ12の両側を、互いに対向するコ字状に折り返した場合である。
また、同図(c)は、放射アンテナ12の片側のみを、2層の基板20にS字状に折り返した場合である。
さらに、同図(d)は、放射アンテナ12の両側を、2層の基板20のそれぞれ中心側に向かって延伸させた場合である。
【0062】
図6(B)は補助アンテナ13のみを折り返し構成とした場合である。
同図(a)は、2層の基板20の下層側に配設される補助アンテナ13の、片側のみを2層目の基板20の裏面側にコ字状に折り返した場合である。
また、同図(b)は、補助アンテナ13の両側を、2層の基板20の下層側において、互いに対向するコ字状に折り返した場合である。
【0063】
図6(C)は放射アンテナと補助アンテナの双方を折り返し構成とした場合である。
同図(a)は、放射アンテナ12の片側のみを2層の基板20の1層目の裏面側(2層目の上面側)にコ字状に折り返し、また、補助アンテナ13を、2層面の上面側(1層面の裏面側)から裏面側にコ字状に折り返した場合である。この場合、放射アンテナ12と補助アンテナ13とが基板20の1層目の裏面側(2層目の上面側)において直接に接触・導通しないようになっている。
同図(b)は、放射アンテナ12の片側のみを2層の基板20の1層目の裏面側(2層目の上面側)にコ字状に折り返し、また、補助アンテナ13を、1層面の上面側から2層目の裏面側にコ字状に折り返した場合である。この場合も、放射アンテナ12と補助アンテナ13とが基板20の1層目において直接に接触・導通しないようにしてある。
【0064】
なお、放射アンテナ12・補助アンテナ13の折り返しパターンは、上記の場合のみに限定されるものではなく、任意のアンテナパターンに応じて、様々な折り返しパターンを採用することができることは言うまでもない。
以上のように、本実施形態に係るRFタグ1では、放射アンテナ12及び補助アンテナ13を、1層又は2層以上の基板20に対して、任意の折り返しパターンで折り返して、延伸・実装させることができ、それによって、適用するRFタグ1の通信特性の維持・向上や、小型化・薄型化を図るのに最適なアンテナパターンを選択・設定することができるものである。
【0065】
[ICチップの保護]
次に、以上のような本実施形態に係るRFタグ1における、ICチップ10の保護強化の方法について説明する。
上記のように、RFタグ1のICチップ10は、基材となる基板20の実装面(上面)に搭載・実装されており、基板20によって固定されているとは言え、基板20の表面に露出(突出)しているため、外部からの衝撃等を受け易い。
また、ICチップ10は精密部品であり、わずかの衝撃等であっても破損や故障等が生じる可能性が高く、RFタグ1の構成要素の中でも、最も外力に脆い部分とも言える。
そこで、本実施形態では、基板20の実装面に配設されるICチップ10について、更なる保護構造を設けることで、ICチップ10をより有効に保護することができる。
【0066】
図7に、基板20に実装されたICチップ10を保護するための構成・構造の具体例を示す。
まず、
図7(A)に示すように、基板20のICチップ10の実装面を、樹脂材料や接着剤等のコーティング材料31でコーティングすることができる。このようにすれば、基板20の少なくともICチップ10の実装面を保護することができ、コーティング材料も節約することができる。
また、
図7(B)に示すように、ICチップ10の実装面を含めて、基板20の全体を樹脂材料等32によってコーティング(モールディング)することができる。このようにすると、ICチップ10のみならず、基板20の全体を樹脂材料等で覆うことができ、より堅固にRFタグ1の全体を保護することができる。
【0067】
また、
図7(C)に示すように、基板20の実装面のうち、ICチップ10の部分のみを樹脂材料や接着剤等によってコーティング(ポッティング)することができる。このようにすると、ICチップ10のみをコーティングすることで、必要最小限のコーティング材料33によって、効率的にICチップ10を保護することができる。
また、
図7(D)に示すように、基板20全体を、筐体34に収納(ケーシング)して保護することができる。このようにすると、例えば樹脂製や金属製の筐体などにRFタグ1を収納・封止することで、より簡単かつ確実・堅固に、RFタグ1を外力や環境変化から保護することができる。
【0068】
さらに、
図7(E)に示すように、基板20の実装面に、ICチップ10を収納可能な凹部(溝・穴)35を形成し、その凹部内にICチップ10を配設して、樹脂材料等で封止・埋設することもできる。このようにすると、ICチップ10自体が、基板20の実装面内部に埋設されることで、より確実に外力等から保護され、また、使用するコーティング材料も必要最小限の量に抑えることができる。
なお、以上のような
図7に示した例は、ICチップ10の保護構造の一例であり、これら以外にも、ICチップ10を外部からの衝撃や環境変化等から保護できる限り、他の構成・構造等を採用できることは勿論である。
このようにして、RFタグ1に対して外部から外力・衝撃等が加わっても、コーティング材料やケーシングなどによって、少なくともICチップ10に直接的に外力が加わることを回避すること可能となり、破損等し易い精密部品であるICチップ10を有効に保護することができるようになる。
【0069】
[通信特性]
次に、以上のような構成からなる本実施形態に係るRFタグ1の通信特性について、
図8を参照しつつ説明する。
図8は、本実施形態に係るRFタグ1の通信特性を示す、周波数と交信距離(通信距離)の関係を示す折れ線グラフである。
なお、RFタグ1の通信特性の評価は、公知の評価方法・評価システムを用いることができ、以下に示す本実施形態の評価は、評価システムとして、Voyantic社のTagformanceシステムを用いて実施した。
また、評価は、通信距離を直接測定するのではなく、一定距離に置いたときに、電波強度から換算した値によって行った。
また、測定は、RFタグ1のICチップ10の実装面と反対側の下層側に、全面導体層50を配置して評価を行った。この全面導体層50は、RFタグ1の取付対象となる金属板などを想定して、ステンレス板(150*100*t2mm)によって構成したものである。
【0070】
図8に示すグラフは、基板20の上面にICチップ10・ループ回路アンテナ11・放射アンテナ12を二次元状に配置・実装させた従来のRFタグと、本実施形態に係るRFタグ1と、を対比させた場合である。
同図中、薄い実線は従来のRFタグ、濃い実線は本実施形態に係るRFタグ1の場合である。
【0071】
このグラフに示すように、まず、従来のRFタグは、高周波数帯において、特に860~940MHz帯において、長い通信距離が得られていることが分かる。
特に、860~900MHz帯においては、6m以上の通信距離が得られており、880MHz帯において、通信距離のピーク(約8m)が得られている。
これらに対して、本実施形態に係るRFタグ1では、900MHz超の周波数帯域では、従来のRFタグよりも若干通信距離が短くなっているが、800~880MHzの周波数帯域では、常に従来RFタグよりも長い通信距離が得られていることが分かる。
特に、850~880MHz帯においては、8m以上の通信距離が得られており、860MHz帯において、通信距離のピーク(約11m)が得られている。
【0072】
以上の
図8の結果から、本実施形態に係るRFタグ1では、金属板などの全面導体層50に搭載・実装された状態でも通信特性が損なわれることなく、特定の周波数帯域においては、従来の二次元状にアンテナパターンを配置したRFタグと比較して、1~4m程度長い通信距離を得ることができることが分かる。
したがって、
図3-7に示したように、ループ回路アンテナ11・放射アンテナ12・補助アンテナ13の基板20の三次元領域への配置パターンを調整・変更することで、様々な周波数帯域に対応した十分な通信距離が得られる設定・調整を行うことができるようになる。
【0073】
以上説明したように、本実施形態のRFタグ1によれば、無線通信を行うRFタグを構成する、ICチップ10,ループ回路アンテナ11,放射アンテナ12,補助アンテナ13の各構成要素を、それぞれ、基板20の平面方向(水平方向)及びこれと交差する厚み方向(垂直方向)に広がる三次元領域に実装・配設させることができる。
これによって、基板20によって、ループ回路アンテナ11,放射アンテナ12,補助アンテナ13をそれぞれ外部から隔離・封止して、RFタグ1に外部から加わる衝撃や圧力,温度変化などの物理的な力に対する耐久性や耐衝撃性,耐圧性,耐熱性等を向上させ、外力や衝撃,環境変化によってループ回路アンテナ11,放射アンテナ12,補助アンテナ13の故障・破損等を防止することができる。
【0074】
また、基板20の平面方向・厚み方向に広がる三次元領域に、ループ回路アンテナ11,放射アンテナ12,補助アンテナ13が立体的に配置させることにより、アンテナの配置やデザインなど、設計上の自由度を大きく向上させ、アンテナパターンの最大化と、それによるRFタグ1の小型化・薄型化、通信特性に合わせたアンテナの設定・変更等が行えるようになる。
さらに、ループ回路アンテナ11,放射アンテナ12とともに、第3のアンテナとなる補助アンテナ13を、最適な形状や大きさに構成して適切な位置に配置させることが可能となり、補助アンテナ13を、RFタグ1のアンテナとして有効に機能させることで、RFタグ1の通信特性を維持・向上させることができる。
【0075】
このようにして、本発明によれば、RFタグの小型化や設計の自由度を確保しつつ、外部から物理的な力や衝撃、温度変化などが加わることの多い環境で使用されるRFタグとして好適に用いることができる、環境耐性及び通信特性の双方に優れたRFタグを実現することが可能となる。
【0076】
以上、本発明のRFタグについて、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明に係るRFタグは、上述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
【0077】
例えば、上述した実施形態では、本発明に係るRFタグを取り付けて使用する物品・対象物として、例えば金属容器や金属製の筐体などを想定しているが、本発明のRFタグを使用できる物品,対象物としては、金属容器や金属製の筐体に限定されるものではない。
すなわち、RFタグが使用され、リーダ・ライタを介して所定の情報・データが読み書きされる物品,対象物であれば、どのような物品・対象物であっても本発明に係るRFタグを適用することができる。例えば金属容器や金属製の筐体以外では、金属製のヒータや電気製品,食器,調理器具,家具,什器,コンテナ,自動車など、金属製の任意の物品・対象物の他、樹脂製の物品等へも好適に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、例えば貨物用のパレットやコンテナなど、任意の物品や対象物に取り付けられて使用される、耐久性や耐衝撃性等を高めるためにインレイを保護するための構造を備えるRFタグとして好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 RFタグ
10 ICチップ
11 ループ回路アンテナ
12 放射アンテナ
13 補助アンテナ
20 基板