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特許7537169熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法、並びに電子機器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法、並びに電子機器
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240814BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240814BHJP
   C08K 3/20 20060101ALI20240814BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20240814BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20240814BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20240814BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20240814BHJP
   C08L 23/12 20060101ALI20240814BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/013
C08K3/20
C08K3/26
C08K3/34
C08K5/09
C08K5/098
C08L23/12
C08J3/20 B CER
C08J3/20 Z CEZ
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020133737
(22)【出願日】2020-08-06
(65)【公開番号】P2022030029
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2023-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永井 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】間簔 雅
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 健
(72)【発明者】
【氏名】中島 陽
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-099807(JP,A)
【文献】特開平10-237268(JP,A)
【文献】特開2013-072034(JP,A)
【文献】特開2003-119019(JP,A)
【文献】特開2014-162856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と無機微粒子と分散剤とを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、
前記無機微粒子は、平均一次粒子径が0.1~0.5μmの範囲内にあり、
前記熱可塑性樹脂組成物の射出成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像において、150μm×200μmの視野領域を無作為に10か所選択し、前記視野領域内で観察される最大径が5~35μmの前記無機微粒子の凝集粒子の個数が前記10か所の平均で5~20個の範囲内であり、前記視野領域内で観察される全粒子に対する前記最大径が5~35μmの前記無機微粒子の凝集粒子の個数の割合が前記10か所の平均で0.1~1%の範囲内であり、
前記無機微粒子の含有量が、前記熱可塑性樹脂組成物の全量に対して1~50質量%の範囲内にあり、
前記分散剤の含有量が、前記熱可塑性樹脂組成物の全量に対して0.1~10質量%の範囲内にあることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記無機微粒子の構成材料が、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、べーマイト、シリカ及びカオリンから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記分散剤が、脂肪酸又は脂肪酸金属塩であることを特徴とする請求項1又は請求項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物の成形品を機器部品として使用したことを特徴とする電子機器。
【請求項6】
請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物を製造する熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂、前記無機微粒子の一部及び前記分散剤を溶融混練して樹脂混合物を得る第1工程と、
前記第1工程で得られた樹脂混合物及び前記無機微粒子の残部を溶融混練して熱可塑性樹脂組成物を得る第2工程と、
を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂混合物における前記無機微粒子の含有量が、前記熱可塑性樹脂組成物が含有する前記無機微粒子の全量の30~90質量%の範囲内であることを特徴とする請求項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法、並びに電子機器に関する。より詳しくは、本発明は、熱可塑性樹脂組成物において、これを用いて得られる成形品が高い水準で剛性と靭性(耐衝撃強度)を両立することが可能な熱可塑性樹脂組成物、及びその製造方法、並びに当該熱可塑性樹脂組成物を用いて製造された部品を用いた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
事務機器等の内外装材を成形するのに用いられる樹脂組成物としては、得られる樹脂部材が高い剛性と靭性を両立できる樹脂組成物が求められている。特に、事務機器等の小型・軽量化において、樹脂部材の薄肉化が要求される場合、厚さが減少しても剛性及び靭性は、薄肉化前の部材と同様の水準を維持することが必要となる。すなわち、樹脂組成物には、得られる樹脂部材がより高い水準で剛性と靭性を両立できる構成が求められている。
【0003】
このような要求に対して、特許文献1では、ポリプロピレン系樹脂に対して表面修飾された無機物フィラーと特定構造のエラストマーを配合した樹脂組成物が開示されており、これにより得られる成形品の剛性と靭性のバランスを保持することが記載されている。しかしながら、特許文献1に記載の樹脂組成物では、得られる成形品は、フィラーによる靭性の低下及びエラストマーによる剛性の低下が大きく、高い水準で剛性と靭性を両立できているとは言い難い。
【0004】
また、特許文献2には、以下の(イ)~(ハ)を満足する金属水和物粒子と白化防止剤を含有する難燃性樹脂組成物が記載されている。
(イ)レーザ光回折・散乱式粒子径分布測定器により測定された体積基準粒径分布に基づいて算出された平均粒径(算術平均径)が1~10μmの範囲であること
(ロ)走査型電子顕微鏡による形態写真から、一次粒子で形成された凝集体からなる二次粒子が含まれることが観察され、形態写真から測定された一次粒子の長径方向の個数基準粒径分布に基づく長さ平均粒径が0.01~0.5μmの範囲にあり、且つ5μm以上の粒子が0.1%以下であること
(ハ)BET法による比表面積が8.0m/g以上であること
【0005】
特許文献2では、難燃性および機械的特性を維持したまま、優れた易カット性(末端切断処理)と耐傷つき白化性を両立させた難燃性樹脂組成物、特にはポリオレフィン系樹脂組成物を得ることを目的として、樹脂組成物に配合する金属水和物粒子の形状や粒径を3種類の測定方法に基づいて規定している。しかしながら、この構成によって樹脂組成物に高い水準で剛性と靭性の両方を付与できているわけではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-311032号公報
【文献】特開2008-7723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、熱可塑性樹脂組成物において、これを用いて得られる成形品が高い水準で剛性と靭性を両立できる熱可塑性樹脂組成物、及びその製造方法を提供することである。また、上記熱可塑性樹脂組成物を用いて製造された高い水準で剛性と靭性を両立した成形品を具備する電子機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、熱可塑性樹脂組成物に、特定の平均一次粒子径を有する無機微粒子を含有させる際に、当該無機微粒子に由来する特定の最大径を有する凝集粒子を特定の個数かつ、粒子全体に対して特定の割合となるように含有させることで、当該熱可塑性樹脂組成物から得られる成形品は、高い水準で剛性と靭性を両立できることを見出し本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0009】
1.熱可塑性樹脂と無機微粒子と分散剤とを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、
前記無機微粒子は、平均一次粒子径が0.1~0.5μmの範囲内にあり、
前記熱可塑性樹脂組成物の射出成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像において、150μm×200μmの視野領域を無作為に10か所選択し、前記視野領域内で観察される最大径が5~35μmの前記無機微粒子の凝集粒子の個数が前記10か所の平均で5~20個の範囲内であり、前記視野領域内で観察される全粒子に対する前記最大径が5~35μmの前記無機微粒子の凝集粒子の個数の割合が前記10か所の平均で0.1~1%の範囲内であり、
前記無機微粒子の含有量が、前記熱可塑性樹脂組成物の全量に対して1~50質量%の範囲内にあり、
前記分散剤の含有量が、前記熱可塑性樹脂組成物の全量に対して0.1~10質量%の範囲内にあることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【0010】
2.前記無機微粒子の構成材料が、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、べーマイト、シリカ及びカオリンから選択される少なくとも1種であることを特徴とする第1項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0012】
.前記分散剤が、脂肪酸又は脂肪酸金属塩であることを特徴とする第1項又は2項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0014】
.前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン系樹脂であることを特徴とする第1項から第項までのいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0015】
.第1項から第項までのいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物の成形品を機器部品として使用したことを特徴とする電子機器。
【0016】
.第1項から第項までのいずれか一項に記載の熱可塑性樹脂組成物を製造する熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
前記熱可塑性樹脂、前記無機微粒子の一部及び前記分散剤を溶融混練して樹脂混合物を得る第1工程と、
前記第1工程で得られた樹脂混合物及び前記無機微粒子の残部を溶融混練して熱可塑性樹脂組成物を得る第2工程と、
を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【0017】
.前記樹脂混合物における前記無機微粒子の含有量が、前記熱可塑性樹脂組成物が含有する前記無機微粒子の全量の30~90質量%の範囲内であることを特徴とする第項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の上記手段により、熱可塑性樹脂組成物において、これを用いて得られる成形品が高い水準で剛性と靭性を両立できる熱可塑性樹脂組成物、及びその製造方法を提供することができる。また、上記熱可塑性樹脂組成物を用いて製造された高い水準で剛性と靭性を両立した成形品を具備する電子機器を提供することができる。
【0019】
本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0020】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と分散剤と平均一次粒子径が0.1~0.5μmの無機微粒子を含有する。熱可塑性樹脂組成物中には、当該無機微粒子の一次粒子と、この一次粒子が凝集して集合体となった凝集粒子とが混在して分散した状態であり、その状態が成形品にも反映される。
【0021】
本発明の熱可塑性樹脂組成物から得られる成形品においては、衝撃時、上記無機微粒子の一次粒子と熱可塑性樹脂との界面に微小なボイドが形成され、それにより衝撃エネルギーを吸収し衝撃強度が向上されていると考えている。
【0022】
ここで、一般的に、上記無機微粒子より粒径の大きい無機粒子を用いて、熱可塑性樹脂組成物の成形品に剛性を付与することが行われるが、この場合、衝撃時に熱可塑性樹脂の界面が剥離し破壊起点となって、衝撃強度の低下を招くことが知られている。
【0023】
本発明の熱可塑性樹脂組成物から得られる成形品においては、上記粒径の大きい無機粒子に代えて、上記無機微粒子の凝集粒子に剛性付与の役割を担わせている。上記無機微粒子の凝集粒子は、衝撃時に、凝集粒子中の一次粒子同士の衝突による変形及び凝集粒子自身の変形を生じる。これにより、本発明の熱可塑性樹脂組成物から得られる成形品においては、上記粒径の大きい無機粒子を加えた場合に比べて、衝撃時、熱可塑性樹脂の界面の剥離が限定的となり破壊起点になりにくく、衝撃強度の低下を抑制できる。
【0024】
具体的には、熱可塑性樹脂組成物の射出成形品の断面において、150μm×200μmの視野領域に、最大径が5~35μmの凝集粒子を当該視野領域の10か所の平均で5~20個有し、かつ前記視野領域内で観察される全粒子に対する最大径が5~35μmの凝集粒子の個数の割合が当該視野領域の10か所の平均で0.1~1%の範囲内であることで、破壊起点の数、大きさを抑制し衝撃強度を落とすことなく、曲げ強度を向上する(剛性を付与する)ことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例で得られた熱可塑性樹脂組成物1(本発明)の射出成形品の断面を電子顕微鏡(500倍)で撮影した画像
図2】実施例で得られた熱可塑性樹脂組成物1(本発明)の射出成形品の断面を電子顕微鏡(5000倍)で撮影した画像
図3】実施例で得られた熱可塑性樹脂組成物7(比較例)の射出成形品の断面を電子顕微鏡(500倍)で撮影した画像
図4】実施例で得られた熱可塑性樹脂組成物7(比較例)の射出成形品の断面を電子顕微鏡(5000倍)で撮影した画像
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と無機微粒子と分散剤とを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、前記無機微粒子は、平均一次粒子径が0.1~0.5μmの範囲内にあり、前記熱可塑性樹脂組成物の射出成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像において、150μm×200μmの視野領域を無作為に10か所選択し、前記視野領域内で観察される最大径が5~35μmの前記無機微粒子の凝集粒子の個数が前記10か所の平均で5~20個の範囲内であり、前記視野領域内で観察される全粒子に対する前記最大径が5~35μmの前記無機微粒子の凝集粒子の個数の割合が前記10か所の平均で0.1~1%の範囲内であることを特徴とする。この特徴は、下記各実施形態に共通する技術的特徴である。
【0027】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記無機微粒子の構成材料が、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、べーマイト、シリカ及びカオリンから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0028】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記無機微粒子の含有量が、前記熱可塑性樹脂組成物の全量に対して1~50質量%の範囲内にあることが好ましい。
【0029】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記分散剤が、脂肪酸又は脂肪酸金属塩であることが好ましい。
【0030】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記分散剤の含有量が、前記熱可塑性樹脂組成物の全量に対して0.1~10質量%の範囲内にあることが好ましい。
【0031】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の実施態様としては、前記熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン系樹脂であると、本発明の効果がより顕著に発現され好ましい。
【0032】
本発明の電子機器は、上記本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形品を機器部品として使用したことを特徴とする。
【0033】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造する熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、前記熱可塑性樹脂、前記無機微粒子の一部及び前記分散剤を溶融混練して樹脂混合物を得る第1工程と、前記第1工程で得られた樹脂混合物及び前記無機微粒子の残部を溶融混練して熱可塑性樹脂組成物を得る第2工程と、を含むことを特徴とする。
【0034】
上記2回の溶融混練を行うことで、第1工程で投入された上記無機微粒子は分散剤と共に溶融混練されることで概ね一次粒子の状態で分散され、第2工程で投入された上記無機微粒子は分散剤の作用を受けにくく凝集粒子を形成し易くなる。これにより、上記本発明の熱可塑性樹脂組成物を容易に製造できる。
【0035】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法の実施態様としては、前記樹脂混合物における前記無機微粒子の含有量が、前記熱可塑性樹脂組成物が含有する前記無機微粒子の全量の30~90質量%の範囲内であることが好ましい。
【0036】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0037】
[熱可塑性樹脂組成物の概要]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と無機微粒子と分散剤とを含有する熱可塑性樹脂組成物であって、以下の(1)~(3)の要件を満足する。
(1)前記無機微粒子は、平均一次粒子径が0.1~0.5μmの範囲内にある。
(2)前記熱可塑性樹脂組成物の射出成形品の断面を電子顕微鏡で撮影した画像において、150μm×200μmの視野領域を無作為に10か所選択し、前記視野領域内で観察される最大径が5~35μmの前記無機微粒子の凝集粒子の個数が前記10か所の平均で5~20個の範囲内である。
(3)前記視野領域内で観察される全粒子に対する前記最大径が5~35μmの前記無機微粒子の凝集粒子の個数の割合が前記10か所の平均で0.1~1%の範囲内である。
【0038】
上記(1)の要件において、無機微粒子の平均一次粒子径は、体積基準のメジアン径(D50)である。体積基準のメジアン径(D50)は、例えば、レーザ回折・散乱法により、LA-960S2(HORIBA社製)等を用いて計測できる。以下の説明において(1)の条件を満足する無機微粒子を無機微粒子(P)ともいう。
【0039】
上記(2)及び(3)の要件は、具体的には以下の方法で測定される。熱可塑性樹脂組成物の射出成形品の断面は、射出成形機によって任意の形状に加工した試験片の任意の箇所を、ダイヤモンド歯を備えたミクロトームを用いて薄片状のサンプルを切り出すことで形成される。試験片から断面を切り出す位置や方向は特に限定されない。
【0040】
射出成形機としては、例えば、株式会社日本製鋼所製、J55ELIIが用いられる。射出成形時のシリンダ温度は、熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜調整される。試験片の形状は、例えば、衝撃試験等に用いられる試験片、縦80mm、横10mm、厚さ4mmと同様の形状とすることができる。
【0041】
上記(2)については、上記で形成された断面を、透過型電子顕微鏡、例えば、JEM-2000FX(日本電子(株)製)により、加速電圧5.0kVにて500倍で観察し、画像を撮影する。画像中、熱可塑性樹脂はマトリックスとして灰色の部位として特定される。無機微粒子(P)の凝集粒子は白色の部位として特定される。なお、500倍の観察では、無機微粒子(P)は、一次粒子の状態で存在するものは特定が困難である。概ね、最大径が1μm以上の無機微粒子(P)の凝集粒子について特定が可能である。
【0042】
150μm×200μmの大きさの視野領域において、特定された個々の無機微粒子(P)の凝集粒子について、上記視野領域内に全体像が撮影されている凝集粒子の最大径を測定し、最大径が5~35μmの範囲にある無機微粒子(P)の凝集粒子の個数を求める。上記画像解析は、上記の大きさの視野領域(150μm×200μm)を、上記で形成された断面から無作為に10か所選択し、その10か所について行う。以下、無機微粒子(P)の凝集粒子のうち最大径が5~35μmの範囲にある凝集粒子を凝集粒子(A1)ともいう。
【0043】
上記(3)については、(2)が測定された150μm×200μmの大きさの視野領域の各領域について、無機微粒子(P)の一次粒子が観察可能な程度まで倍率を上げて、具体的には、5000倍の倍率として上記視野領域に存在する全粒子の個数を求め、次いで全粒子数に対する凝集粒子(A1)の割合を求め、さらに、視野領域10か所の平均を求める。上記(2)及び(3)における画像の解析は、画像解析ソフトImageJを用いて行うことができる。
【0044】
上記(2)において、凝集粒子(A1)の個数は5~20個であり、好ましくは10~18個である。なお、上記(2)と同様の方法で求められる、上記視野領域内で観察される凝集粒子(A1)より最大径が大きい、すなわち、最大径が35μmを超える凝集粒子(以下、凝集粒子(A2)ともいう。)の数は、10か所の平均で、3個以下が好ましく、存在しないことがより好ましい(以下、凝集粒子(A2)の個数に係る上記要件を要件(4)ともいう)。また、上記視野領域内で観察される凝集粒子(A1)より最大径が小さい、すなわち、最大径が5μm未満の凝集粒子の数は特に制限されない。最大径が1μm以上5μm未満の凝集粒子を、以下、凝集粒子(A3)ともいう。最大径が1μm未満の凝集粒子を、以下、凝集粒子(A4)ともいう。凝集粒子(A3)の個数は、例えば、50~250個の範囲内が好ましく、100~200個の範囲内がより好ましい(以下、凝集粒子(A3)の個数に係る上記要件を要件(5)ともいう)。
【0045】
上記(3)において、全粒子の個数に対する凝集粒子(A1)の個数の割合は0.1~1%であり、好ましくは、0.1~0.5%である。全粒子は、無機微粒子(P)の一次粒子と凝集粒子からなり、凝集粒子は、上記の凝集粒子(A1)、凝集粒子(A2)、凝集粒子(A3)及び凝集粒子(A4)からなる。
【0046】
上記(3)と同様の方法で求められる、上記視野領域内で観察される全粒子の個数に対する凝集粒子(A2)の割合は0.05%以下が好ましく、0%がより好ましい(以下、凝集粒子(A2)の割合に係る上記要件を要件(6)ともいう)。上記視野領域内で観察される全粒子の個数に対する凝集粒子(A3)の割合は0.25~10%が好ましく、0.25~5%がより好ましい(以下、凝集粒子(A3)の割合に係る上記要件を要件(7)ともいう)。一次粒子と凝集粒子(A4)は、同等に扱い、上記視野領域内で観察される全粒子の個数に対する、その合計割合は、90~99%が好ましく、95~99%がより好ましい(以下、一次粒子と凝集粒子(A4)の割合に係る上記要件を要件(8)ともいう)。表Iに、凝集粒子(A1)における(2)に係る個数と、(3)に係る割合[%]とともに、その他の凝集粒子及び一次粒子について、(4)、(5)に係る個数及び(6)~(8)に係る割合[%]の好ましい範囲をまとめた。
【0047】
【表1】
【0048】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(1)の要件を満たす無機微粒子(P)と分散剤とを含有し、(2)及び(3)の要件を満足することで、これを用いて得られる成形品が高い水準で剛性と靭性を両立できるものである。また、(2)及び(3)の要件に加えて、要件(4)~(8)の1以上を満足することが、本発明の効果を高める点で好ましく、要件(4)~(8)の全てを満足することがより好ましい。
【0049】
〔熱可塑性樹脂組成物の組成〕
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と無機微粒子(P)と分散剤とを含有する。無機微粒子(P)は、上記(2)及び(3)の要件を満足するように、本発明の熱可塑性樹脂組成物に含有される。
【0050】
(熱可塑性樹脂)
本発明において、熱可塑性樹脂としては、公知の熱可塑性樹脂が特に制限なく用いられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0051】
熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂を主成分として含有することが好ましい。熱可塑性樹脂におけるポリオレフィン系樹脂の含有量は、熱可塑性樹脂の全量に対して50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。本発明の熱可塑性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂はポリオレフィン系樹脂のみからなるのが特に好ましい。
【0052】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における熱可塑性樹脂の含有量は、熱可塑性樹脂組成物から無機微粒子(P)と分散剤及び任意に含有するその他の各種添加剤の含有量を除いた量である。
【0053】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、熱可塑性樹脂の含有量は、剛性および靭性のバランスの観点から、熱可塑性樹脂組成物の全量に対して40~98質量%程度とすることができ、50~90質量%であることが好ましく、60~80質量%であることがより好ましい。
【0054】
<ポリオレフィン系樹脂>
ポリオレフィン系樹脂は、オレフィンを単量体成分の主成分として重合された単独重合体又は共重合体である。なお、本明細書において、「オレフィン」は、二重結合を1つ有する脂肪族鎖式不飽和炭化水素をいう。
【0055】
ここで、樹脂(重合体)を構成する主成分とは、重合体を構成する全単量体成分中、50質量%以上である成分をいう。ポリオレフィン系樹脂は、オレフィンを全単量体成分中、好ましくは60~100質量%、より好ましくは70~100質量%、さらに好ましくは80~100質量%含んでなる単独重合体又は共重合体である。
【0056】
オレフィン共重合体には、オレフィンと他のオレフィンとの共重合体、又はオレフィンとオレフィンに共重合可能な他の単量体との共重合体が含まれる。ポリオレフィン系樹脂における上記他の単量体の含有量は、全単量体成分中、好ましくは30質量%以下、より好ましくは0~20質量%である。
【0057】
オレフィンとしては、炭素数2~12のα-オレフィンが好ましい。オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン、及び1-デセン等を挙げることができる。ポリオレフィン系樹脂の重合に際して、オレフィンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
オレフィンに共重合可能な他の単量体としては、例えば、シクロペンテン及びノルボルネン等の環状オレフィン、並びに1,4-ヘキサジエン及び5-エチリデン-2-ノルボルネン等のジエン等を挙げることができる。さらに、酢酸ビニル、スチレン、(メタ)アクリル酸及びその誘導体、ビニルエーテル、無水マレイン酸、一酸化炭素、N-ビニルカルバゾール等の単量体を用いてもよい。上記他の単量体は、ポリオレフィン系樹脂の重合に際して、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸及びメタクリル酸の少なくとも一方を意味する。
【0059】
ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、及び直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等のエチレンを主成分とするポリエチレン系樹脂;ポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン共重合体、及びエチレン-プロピレン-ジエン共重合体等のプロピレンを主成分とするポリプロピレン系樹脂;ポリブテン;並びにポリペンテン等を挙げることができる。
【0060】
ポリオレフィン系樹脂の具体例としては、さらに、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体、ポリケトン、メタロセン触媒で製造された共重合体が挙げられる。また、これらの重合体を化学的に反応、変性したもの、具体的にはアイオノマー樹脂、EVAの鹸化物、押出機内で動的加硫を用いて製造されたオレフィン系エラストマーなども含まれる。
【0061】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂が好ましく、ポリプロピレン系樹脂がより好ましい。ポリプロピレン系樹脂におけるプロピレンに由来する構造の立体規則性は、アイソタクチック、シンジオタクチック、及びアタクチックのいずれでもよい。ポリプロピレン系樹脂としては、ポリプロピレンがさらに好ましい。
【0062】
(無機微粒子(P))
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、平均一次粒子径が0.1~0.5μmの範囲内にある無機微粒子(P)を含有する。無機微粒子(P)は、一次粒子と、この一次粒子が凝集して集合体となった凝集粒子とが混在した状態で、上記(2)及び(3)の要件を満足するように熱可塑性樹脂組成物中に分散して存在する。なお、熱可塑性樹脂組成物における無機微粒子(P)の凝集・分散状態は、さらに上記要件(4)~(8)の1以上を満たすことが好ましく、全てを満たすことがより好ましい。
【0063】
無機微粒子(P)は、1種からなってもよく、互いに異なる2種以上からなってもよい。ここで、無機微粒子が異なるとは、構成材料が異なる以外に、構成材料が同じであっても平均一次粒子径が異なる場合を含む。すなわち、無機微粒子(P)は、構成材料が単一の1種又は2種以上からなってもよく、構成材料の異なる2種以上からなってもよい。
【0064】
無機微粒子(P)が2種以上からなる場合、無機微粒子(P)を構成する各無機微粒子の平均一次粒子径は、必ずしも0.1~0.5μmの範囲内になくてもよく、各無機微粒子の混合物としての無機微粒子(P)の平均一次粒子径が0.1~0.5μmの範囲内にあればよい。無機微粒子(P)の平均一次粒子径を規定の範囲内に調整し易い点から、無機微粒子(P)が2種以上からなる場合、無機微粒子(P)を構成する各無機微粒子の平均一次粒子径は、それぞれ0.1~0.5μmの範囲内にあることが好ましい。無機微粒子(P)の平均一次粒子径は、0.2~0.4μmの範囲内にあることがより好ましい。
【0065】
無機微粒子(P)の構成材料としては、無機化合物であれば特に制限されないが、具体的には、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、べーマイト、シリカ、カオリン、水酸化マグネシウム、タルク、マイカ、クレイ、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、ガラス、カーボンブラック及びグラファイト等が挙げられる。これらの中でも、経済性、人体への安全性の観点から、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、べーマイト、シリカ及びカオリンから選択される少なくとも1種であることが好ましい。無機微粒子(P)の構成材料は1種でも2種以上でもよい。無機微粒子(P)の粒子形状は特に制限されず、球状、紡錘状、板状、鱗片状、針状、繊維状等が挙げられる。
【0066】
無機微粒子(P)は、一次粒子の状態で、必要に応じて表面修飾剤により表面修飾されていてもよい。表面修飾に用いる表面修飾剤としては、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)のようなアルキルシラザン系化合物、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシランのようなアルキルアルコキシシラン系化合物、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシランのようなクロロシラン系化合物、シリコーンオイル、シリコーンワニス等を用いることができる。これらの表面修飾剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0067】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、無機微粒子(P)の含有量は、熱可塑性樹脂組成物の全量に対して1~50質量%の範囲内にあることが好ましく、2~35質量%であることがより好ましい。また、熱可塑性樹脂100質量部に対する無機微粒子(P)の含有量は1~120質量部が好ましく、20~85質量部がより好ましい。無機微粒子(P)の含有量が上記範囲内にあれば、上記(2)及び(3)を満足し易く、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いて得られる成形品の剛性と靭性を両立させやすい。
【0068】
(分散剤)
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、分散剤は、熱可塑性樹脂と無機微粒子(P)の界面に作用して、熱可塑性樹脂組成物中での無機微粒子(P)の凝集・分散状態を調整する機能を有する。本発明の熱可塑性樹脂組成物は分散剤を含有することで無機微粒子(P)の過度な凝集が抑制され、上記(2)及び(3)の要件を満たすことを可能としている。
【0069】
分散剤としては、熱可塑性樹脂と無機微粒子(P)の界面に作用して、熱可塑性樹脂への無機微粒子(P)の分散性を向上させる機能を有するものが使用可能である。分散剤は、具体的には、無機微粒子(P)の表面に吸着し、当該表面を疎水性にすることにより、熱可塑性樹脂分子間に無機微粒子(P)を入りやすくして、分散性を向上させるように機能するものが好ましい。分散剤としては、例えば、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル、脂肪酸アマイド、高級アルコール、硬化油、シランカップリング剤、アルコールリン酸エステル等が挙げられる。分散剤は脂肪酸又は脂肪酸金属塩であることが好ましい。分散剤としては、これらの1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
脂肪酸としては、高級脂肪酸が好ましく、例えばステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、リノール酸、ラウリン酸、カプリル酸、ベヘニン酸、モンタン酸等がある。脂肪酸金属塩としては、上記高級脂肪酸の金属塩が好ましく、例えば、ステアリン酸塩、オレイン酸塩、パルミチン酸塩、リノール酸塩、ラウリン酸塩、カプリル酸塩、ベヘニン酸塩、モンタン酸塩等があり、金属の種類には、Li、Na、K、Al、Ca、Mg、Zn、Ba等が挙げられる。
【0071】
脂肪酸エステルとしては、例えば、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、エルカ酸メチル、ベヘニン酸メチル、ラウリン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ヤシ脂肪酸オクチルエステル、ステアリン酸オクチル、特殊牛脂脂肪酸オクチルエステル、ラウリン酸ラウリル、長ステアリン酸ステアリル、長鎖脂肪酸高級アルコールエステル、ベヘニン酸べへニル、ミリスチン酸セチル等のモノエステルが挙げられる。
【0072】
また脂肪酸エステルとして、例えば、ネオペンチルポリオール長鎖脂肪酸エステル、ネオペンチルポリオール長鎖脂肪酸エステルの部分エステル化物、ネオペンチルポリオール脂肪酸エステル、ネオペンチルポリオール中鎖脂肪酸エステル、ネオペンチルポリオールC9鎖脂肪酸エステル、ジペンタエリスリトール長鎖脂肪酸エステル、コンプレックス中鎖脂肪酸エステル等の耐熱性特殊高級脂肪酸エステルの使用が可能である。
【0073】
脂肪酸アマイドとしては、例えば、ステアリン酸アマイド、オレイン酸アマイド、パルミチン酸アマイド、リノール酸アマイド、ラウリン酸アマイド、カプリル酸アマイド、ベヘニン酸アマイド、モンタン酸アマイド等が挙げられる。高級アルコールとして、例えばオクチルアルコール、デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等が挙げられる。硬化油としては、例えば、牛脂硬化油、ヒマシ硬化油等が挙げられる。
【0074】
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、分散剤の含有量は、無機微粒子(P)の凝集・分散状態を上記(2)及び(3)を満足できるように調整するとともに、熱可塑性樹脂組成物から得られる成形品の剛性の低下を誘引しないようにする観点から、熱可塑性樹脂組成物の全量に対して0.1~10質量%の範囲内にあることが好ましく、0.5~5質量%であることがより好ましい。なお、分散剤の含有量は、無機微粒子(P)の100質量部に対して、1~30質量部が好ましく、5~20質量部がより好ましい。
【0075】
(その他の添加剤)
本発明の熱可塑性樹脂組成物は上記熱可塑性樹脂、無機微粒子(P)及び分散剤以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、添加剤として公知の成分を含有することができる。その他の添加剤としては、難燃剤、ドリップ防止剤、酸化防止剤、増靭剤等が挙げられる。
【0076】
<難燃剤>
難燃剤は、有機系難燃剤であっても、無機系難燃剤であってもよい。有機系難燃剤の例には、ブロモ化合物、リン化合物が含まれる。無機系難燃剤の例には、アンチモン化合物や金属水酸化物が含まれる。難燃剤の少なくとも一部はリン系化合物であることが好ましい。リン系化合物は、樹脂組成物に高い難燃性を付与しやすく、かつ環境毒性もないからである。
【0077】
リン系化合物は、典型的にはリン酸エステル化合物であり、リン酸エステルの具体例には、トリフェニルホスフェート、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスフェート、ジステアリルペンタエリスリトールジホスフェート、ビス(2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスフェート、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスフェート、トリブチルホスフェート、ビスフェノールAビス-ジフェニルホスフェート、芳香族縮合リン酸エステルなどが挙げられ、その内、芳香族縮合リン酸エステルが特に好ましい。難燃剤は1種単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0078】
<ドリップ防止剤>
ドリップ防止剤は、燃焼時に樹脂材料の滴下(ドリップ)を防止し、難燃性を向上させる目的で添加されるものであり、ドリップ防止剤としては、フッ素系ドリップ防止剤やシリコンゴム類、層状ケイ酸塩等が挙げられる。ドリップ防止剤は1種単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0079】
<酸化防止剤>
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール類、亜リン酸エステル類酸化防止剤又は両方の混合系が挙げられる。
【0080】
<増靭剤>
増靭剤は、樹脂組成物の柔軟性や加工性、耐衝撃性などを向上させることを目的用いられる、例えば、ゴム弾性を有する樹脂である。上記のとおり、増靭剤を添加すると、その副作用として剛性が低下することが想定される。したがって、使用に際しては、含有量を調整して、本発明の効果を損なわないように留意する。
【0081】
増靭剤は、ブタジエンを含むモノマーの重合体で構成されるソフトセグメントと、スチレンのような芳香族基を有するモノマーの重合体で構成されるハードセグメントとを含む熱可塑性エラストマーであることが好ましく、上記熱可塑性エラストマーの例には、メチルメタアクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、スチレンブタジエンスチレン共重合体(SBS)、及び、ブチルアクリレート-メチルメタアクリレート共重合体、が含まれる。中でも、増靭剤がMBS及びABSからなる群から選ばれる一以上であることは、熱可塑性樹脂組成物の相溶化性及び難燃性や、熱可塑性樹脂組成物における熱可塑性エラストマーの分散性の観点から好ましい。増靭剤は1種単独で用いても2種以上併用してもよい。
【0082】
本発明の熱可塑性樹脂組成物におけるその他の添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲であり、例えば、熱可塑性樹脂組成物の全量に対して、0.1~30質量%程度の範囲内であり、0.1~20質量%の範囲内が好ましい。また、合計で30質量%以下が好ましい。
【0083】
[熱可塑性樹脂組成物の製造方法]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂、無機微粒子(P)及び分散剤、並びに必要に応じて含有されていてもよいその他の添加剤を、無機微粒子(P)の凝集・分散状態が(2)及び(3)の要件を達成するように、溶融混練して得ることができる。
【0084】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、例えば、熱可塑性樹脂、無機微粒子(P)の一部及び分散剤を溶融混練して樹脂混合物を得る第1工程と、第1工程で得られた樹脂混合物及び無機微粒子(P)の残部を溶融混練して熱可塑性樹脂組成物を得る第2工程と、を含む製造方法で製造することが、得られる熱可塑性樹脂組成物において、無機微粒子(P)の凝集・分散状態が(2)及び(3)の要件を達成し易い点から好ましい。
【0085】
なお、熱可塑性樹脂及び分散剤は、最終的に熱可塑性樹脂組成物に含有される熱可塑性樹脂及び分散剤のそれぞれ大部分、例えば、全量に対して95質量%以上が第1工程で溶融混練されることが好ましく、それぞれ全量が第1工程で溶融混練されることが好ましい。
【0086】
また、無機微粒子(P)は第1工程で、最終的に熱可塑性樹脂組成物に含有される無機微粒子(P)の全量の30~90質量%が溶融混練されることが好ましく、その量は45~80質量%がより好ましい。無機微粒子(P)は、第2工程において、第1工程で添加された量の残りの量が樹脂混合物と共に溶融混練される。すなわち、第2工程における無機微粒子(P)の量は、最終的に熱可塑性樹脂組成物に含有される無機微粒子(P)の全量から上記第1の工程で溶融混練される量を引いた量である。第2工程における無機微粒子(P)の量は、具体的には、無機微粒子(P)の全量の10~70質量%が好ましく、20~55質量%がより好ましい。
【0087】
第1工程において、無機微粒子(P)の一部、好ましくは全量に対して上記割合の量が、熱可塑性樹脂及び分散剤と共に溶融混錬されることで、当該無機微粒子(P)の一部が、分散剤の作用により、一次粒子又は十分に小さい最大径の凝集粒子として分散された樹脂混合物が得られる。次いで、第2工程により、無機微粒子(P)の残部、好ましくは全量に対して上記割合の量が、第1工程で得られた樹脂混合物と溶融混錬されることで、当該無機微粒子(P)の残部は、分散剤の作用を殆ど受けることなく、凝集して最大径が大きい、例えば、最大径が5μm以上の凝集粒子を形成する。
【0088】
このようにして得られる熱可塑性樹脂組成物は、無機微粒子(P)の凝集・分散状態が(2)及び(3)の要件を満たすものである。得られる熱可塑性樹脂組成物における、無機微粒子(P)の凝集・分散状態は、さらに上記要件(4)~(8)の1以上を満たすことが好ましく、全てを満たすことがより好ましい。
【0089】
本発明の熱可塑性樹脂組成物がその他の添加物を含有する場合、その他の添加物は、第1工程において、熱可塑性樹脂、無機微粒子(P)の一部及び分散剤と共に溶融混練されてもよく、第2工程において、第1工程で得られた樹脂混合物に無機微粒子(P)の残部と共に添加されて溶融混練されもよい。
【0090】
本発明の製造方法において、第1工程及び第2工程における溶融混練は、例えば、バンバリーミキサー、ロール、プラストグラフ、押出機(単軸押出機、多軸押出機(例えば、二軸押出機)等)、及びニーダー等の混練装置を用いて行われる。これらの中でも、生産効率がよいことから、押出機を用いて溶融混練を行うことが好ましい。さらに、高いせん断性を付与できることから、溶融混練は多軸押出機を用いることが好ましく、二軸押出機を用いることがより好ましい。ここで、押出機の用語は、押出混練機を含む範疇で用いられる。
【0091】
本発明の製造方法において、第1工程と第2工程には異なる混練装置を用いてもよいが、両工程とも押出機、特には二軸押出機を用いることが好ましい。
【0092】
溶融混練の際の温度(溶融混練温度)は、第1工程及び第2工程のいずれも、熱可塑性樹脂の溶融温度以上とする。溶融混練温度は、熱可塑性樹脂がポリオレフィン系樹脂の場合、例えば、150~280℃が好ましく、使用するポリオレフィン系樹脂に応じて適宜選択される。ポリオレフィン系樹脂として、ポリプロピレン系樹脂を用いる場合、溶融混練温度は、180~270℃が好ましく、より好ましくは180~230℃である。上記温度の範囲内であれば、第1工程及び第2工程における溶融混練温度は、同じであっても異なってもよい。溶融混練に押出機を用いる場合、混練溶融温度はシリンダ温度に相当する。
【0093】
溶融混練に押出機を用いる場合、第1工程及び第2工程のいずれも、スクリュー回転数は、50~300rpmの範囲が好ましい。また、第1工程及び第2工程におけるスクリュー回転数は、同じであっても異なってもよい。第1工程及び第2工程における、押出機からの樹脂混合物又は熱可塑性樹脂組成物の吐出量は、それぞれ1~50kg/hrの範囲が好ましい。
【0094】
なお、第1工程の溶融混練を行う前に、各成分を、例えば、タンブラーやヘンシェルミキサーとして知られた高速ミキサー等の各種混合機を用いて予め混合しておいてもよい。
【0095】
本発明の製造方法においては、第2工程で混練物をストランド状に押し出した後、ストランド状に押し出した混練物をペレット状やフレーク状等の形態に加工することができる。
【0096】
なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、粉末状、顆粒状、タブレット(錠剤)状、ペレット状、フレーク状、繊維状、及び液状等の各種形態をとることができる。
【0097】
本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いれば、得られる成形品は、高い水準で剛性と靭性を有するものである。
【0098】
例えば、本発明の熱可塑性樹脂組成物から成形される成形品は、JIS-K7171に準じて実施される曲げ試験において測定される曲げ弾性率が、30MPa以上であることが好ましく、40MPa以上であることがより好ましい。曲げ弾性率が、30MPa以上であれば、成形品の剛性が実用上問題ないと評価できる。
【0099】
例えば、本発明の熱可塑性樹脂組成物から成形される成形品は、JIS-K7111に準じて実施されるシャルピー衝撃試験において測定されるシャルピー衝撃強度が、10kJ/m以上であることが好ましく、15kJ/m以上であることがより好ましい。シャルピー衝撃強度が、10kJ/m以上であれば、成形品の靭性が実用上問題ないと評価できる。
【0100】
(成形品)
本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いて、成形品を作製することができる。この成形品により、高い水準で剛性と靭性を併せ持つ製品を得ることができる。成形品を製造する際には、熱可塑性樹脂組成物を各種成形機内で溶融させ、成形することができる。成形手法としては、成形品の形態及び用途等に応じて適宜選択でき、例えば、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形、カレンダー成形、及びインフレーション成形等を挙げることできる。また、押出成形及びカレンダー成形等で得られたシート状又はフィルム状の成形品について、真空成形や圧空成形等の二次成形を行うこともできる。
【0101】
本発明の熱可塑性樹脂組成物から成形される成形品としては、特に限定されず、例えば、家電製品及び自動車等の分野における電気電子部品、電装部品、外装部品、及び内装部品等、並びに各種包装資材、家庭用品、事務用品、配管、及び農業用資材等を挙げることができる。
【0102】
[電子機器]
本発明は、上記成形品を機械部品として使用したことを特徴とする電子機器を提供できる。電子機器としては特に制限されないが、コンピュータ、スキャナ、複写機、プリンタ、ファクシミリ装置、これらの機能を兼ね備えたMFP(Multi Function Peripheral)と称される復合機等のOA機器等が挙げられる。なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物から成形される成形品は、電子機器の外装部品として好ましく用いられる。
【実施例
【0103】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0104】
[熱可塑性樹脂組成物の調製]
熱可塑性樹脂組成物に含有させる原料成分として、以下の市販品を準備した。なお、原料成分の一般名称の後の括弧内に表IIに記載する際の略号を示す。
<熱可塑性樹脂>
・ポリプロピレン系樹脂(PP):プライムポリプロJ715M(製品名、プライムポリマー社製)
【0105】
<無機微粒子(P)>
・炭酸カルシウム粒子(炭酸Ca):カルシーズP(製品名、神島化学工業社製、平均一次粒子径;0.2μm、脂肪酸による表面修飾あり)
・水酸化アルミニウム粒子(Al(OH)):KH-108(製品名、林化成株式会社製、平均一次粒子径;0.5μm)
・ベーマイト粒子(ベーマイト):BMB-03(製品名、河合石灰工業株式会社製、平均一次粒子径;0.3μm)
・シリカ粒子(シリカ):NAX-50(製品名、エボニック製、平均一次粒子径;0.1μm、HMDSによる表面修飾あり)
・カオリン粒子(カオリン):Hydrite TS90(製品名、林化成株式会社製、平均一次粒子径;0.3μm)
【0106】
<分散剤>
・ステアリン酸マグネシウム(Ste-Mg):ダイワックスM(製品名、大日化学工業株式会社製)
・ステアリン酸カルシウム(Ste-Ca):ダイワックスC(製品名、大日化学工業株式会社製)
・ステアリン酸亜鉛(Ste-Zn):ダイワックスZP(製品名、大日化学工業株式会社製)
・ステアリン酸リチウム(Ste-Li):ダイワックスL(製品名、大日化学工業株式会社製)
【0107】
(熱可塑性樹脂組成物1の製造)
2軸押出混練機「KTX-30」(神戸製鋼所社製)を用いて、ポリプロピレン系樹脂84質量部、炭酸カルシウム粒子7.5質量部、及びステアリン酸マグネシウム1質量部を、シリンダ温度190℃、スクリュー回転数200rpm、吐出量10kg/hrで溶融混練して、樹脂混合物1を作製した(第1工程)。
【0108】
次に、2軸押出混練機「KTX-30」(神戸製鋼所社製)を用いて、樹脂混合物1の92.5質量部と炭酸カルシウム粒子7.5質量部とを、シリンダ温度190℃、スクリュー回転数200rpm、吐出量10kg/hrで溶融混練し(第2工程)、押し出された混練物をペレット化してペレット状の熱可塑性樹脂組成物1を得た。
【0109】
(熱可塑性樹脂組成物2~10の製造)
上記において、熱可塑性樹脂、無機微粒子(P)及び分散剤についてそれぞれ種類と含有量を表IIに示すとおり変更した以外は、熱可塑性樹脂組成物1と同様にして、第1工程及び第2工程の2回の溶融混練を行った後、ペレット化してペレット状の熱可塑性樹脂組成物2~10を製造した。
【0110】
(熱可塑性樹脂組成物11、12の製造)
上記において、熱可塑性樹脂、無機微粒子(P)及び分散剤についてそれぞれ種類と含有量を表IIに示すとおり変更し、2軸押出混練機「KTX-30」(神戸製鋼所社製)を用いて、シリンダ温度190℃、スクリュー回転数200rpm、吐出量10kg/hrの条件で、全ての原料成分を1回で溶融混練した後、ペレット化してペレット状の熱可塑性樹脂組成物11、12を製造した。
【0111】
<無機微粒子(P)の凝集・分散状態の測定>
上記で得られた熱可塑性樹脂組成物1~12について、80℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(J55ELII、株式会社日本製鋼所製)によって、長さ100mm×幅10mm×奥行き1.6mmの短冊型試験片を成形した。得られた試験片の任意の箇所を、ダイヤモンド歯を備えたミクロトームを用いて薄片状のサンプルを切り出して測定断面を作製した。得られた測定断面から無作為に選択された10か所について、透過型電子顕微鏡(JEM-2000FX(日本電子(株)製))により、加速電圧5.0kVにて500倍で150μm×200μmの大きさの視野領域の画像を撮影し、以下の(1)及び(2)の測定・算出を、画像解析ソフトImageJを用いて行った。なお、凝集粒子(A1)~(A4)の分類は上記のとおりである。
【0112】
(1)凝集粒子(A1)~(A3)の個数
上記各視野領域において、特定された個々の無機微粒子(P)の凝集粒子について、視野領域内に全体像が撮影されている凝集粒子の最大径を測定し、凝集粒子(A1)(5μm≦D≦35μm、Dは最大径を示し、以下同様の意味である。)、凝集粒子(A2)(35μm<D)及び凝集粒子(A3)(1μm≦D<5μm)の個数をそれぞれ求め、10か所の平均を求めた。結果を表IIに示す。
【0113】
また、図1に、熱可塑性樹脂組成物1について上記測定断面を透過型電子顕微鏡により500倍で撮影した150μm×200μmの大きさの視野領域の画像の1枚を示す。なお、図1の画像において凝集粒子(A1)の個数は17個、凝集粒子(A2)の個数は0個、凝集粒子(A3)の個数は215個と計測される。図3に、熱可塑性樹脂組成物7について上記測定断面を透過型電子顕微鏡により500倍で撮影した150μm×200μmの大きさの視野領域の画像の1枚を示す。なお、図3の画像において凝集粒子(A1)の個数は0個、凝集粒子(A2)の個数は0個、凝集粒子(A3)の個数は3個と計測される。表IIには、各画像においてこのように計測された凝集粒子(A1)~(A3)の個数の、画像10枚の平均値を示す。
【0114】
(2)凝集粒子(A1)~(A3)及び一次粒子+凝集粒子(A4)の割合
上記各視野領域について、無機微粒子(P)の一次粒子が観察可能な5000倍の倍率として存在する全粒子の個数を求め、全粒子数に対する凝集粒子(A1)~(A3)及び一次粒子+凝集粒子(A4)(一次粒子と凝集粒子(A4)(D<1μm)の合計)の割合をそれぞれ求め、さらに、視野領域10か所の平均を求めた。
【0115】
また、図2及び図4に、熱可塑性樹脂組成物1及び熱可塑性樹脂組成物7について上記(1)が測定される150μm×200μmの視野領域の一部を5000倍の倍率に拡大した画像を示す。画像解析は、上記5000倍の倍率に拡大した画像を組み合わせて150μm×200μmの視野領域全体について行い、当該領域の各粒子の個数を計測し、全粒子数に対する各粒子の個数の割合を算出する。
【0116】
<評価>
上記で得られた熱可塑性樹脂組成物1~12について、以下の評価を行い剛性と靭性を評価した。結果を表IIに示す。
【0117】
(1)剛性評価
各熱可塑性樹脂組成物のペレットを80℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(J55ELII、株式会社日本製鋼所製)によって、80mm×10mm×4mmの角柱型試験片に成形し、JIS-K7171に準拠して3点曲げ試験を行い、曲げ弾性率[MPa]を測定し、以下の基準で評価した。なお、曲げ弾性率が、30MPa以上であれば、成形品の剛性が実用上問題ないと評価できる。
【0118】
(評価基準)
◎:40MPa以上
〇:30MPa以上、40MPa未満
△:20MPa以上、30MPa未満
×:20MPa未満
【0119】
(2)靭性評価
各熱可塑性樹脂組成物のペレットを80℃で4時間乾燥させた後、射出成形機(J1 40AD-110H、株式会社日本製鋼所製)によって、80mm×10mm×4mmの角柱型試験片を作製し、その中央部に深さ2mmのVノッチが付くようにROBOSHOT S-2000i50Bp(ファナック株式会社製)で成形した。得られたVノッチ付き試験片について、JIS-K7111に準拠してシャルピー衝撃試験を行い、シャルピー衝撃強度[kJ/m]を測定し、以下の基準で評価した。なお、シャルピー衝撃強度が10kJ/m以上であれば、成形品の靭性は実用上問題なしとされる。
【0120】
(評価基準)
◎:15kJ/m以上
〇:10kJ/m以上、15kJ/m未満
△:5kJ/m以上、10kJ/m未満
×:5kJ/m未満
【0121】
熱可塑性樹脂組成物1~12について、組成、製造方法の各工程における材料の投入量、無機微粒子(P)の凝集・分散状態、成形品の物性(剛性及び靭性)の評価結果をまとめて表IIに示す。
【0122】
【表2】
【0123】
表IIから、本発明の熱可塑性樹脂組成物から得られる成形品は、高い水準で剛性と靭性を両立していることがわかる。
図1
図2
図3
図4