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特許7537182異常温度検知装置、異常温度検知方法、及び異常温度検知プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】異常温度検知装置、異常温度検知方法、及び異常温度検知プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06N 20/00 20190101AFI20240814BHJP
【FI】
G06N20/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020143271
(22)【出願日】2020-08-27
(65)【公開番号】P2022038659
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【氏名又は名称】佐伯 義文
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100181124
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 壮男
(72)【発明者】
【氏名】古川 靖
【審査官】佐藤 実
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-162778(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0330924(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度データを取得する温度取得部と、
前記温度データの階差数列を示す差分データを算出し、正数である差分データと負数である差分データとの何れか一方を零に置換した置換データを生成し、前記置換データを複数回に亘って平均化した基準データと前記置換データとの類似度を算出する前処理を行う前処理部と、
前記前処理部で算出された前記類似度と、学習用の前記温度データである教師データが正常又は異常であることを示す識別ラベルとを一組として機械学習して識別関数を出力する学習部と、
前記温度取得部で取得され、前記前処理部で前記前処理が行われた検知用の温度データの正常又は異常を、前記識別関数を用いて判定する判定部と、
を備える異常温度検知装置。
【請求項2】
前記前処理部は、前記差分データの算出及び前記置換データの生成を行うデータ処理部と、
前記類似度の算出を行う類似度算出部と、
を備える請求項1記載の異常温度検知装置。
【請求項3】
前記データ処理部は、前記温度データの第一階差数列を示す一階差分データと前記温度データの第二階差数列を示す二階差分データとを算出し、少なくとも前記一階差分データについて、正数である一階差分データと負数である一階差分データとの何れか一方を零に置換した前記置換データを生成する、請求項2記載の異常温度検知装置。
【請求項4】
前記類似度算出部は、動的時間伸縮法を用いて前記類似度の算出を行う、請求項2又は請求項3記載の異常温度検知装置。
【請求項5】
学習用の前記前処理部である第1前処理部と、
検知用の前記前処理部である第2前処理部と、
を備えており、
前記第1前処理部は、前記第1前処理部が生成した前記置換データを用いて前記基準データを生成し、
前記第2前処理部は、前記第1前処理部で生成された前記基準データと、前記第2前処理部が生成した前記置換データとの前記類似度を算出する、
請求項1から請求項4の何れか一項に記載の異常温度検知装置。
【請求項6】
前記第1前処理部は、予め規定した時間の前記置換データを複数回に亘って平均化することによって前記基準データを生成する、請求項5記載の異常温度検知装置。
【請求項7】
前記前処理部、前記学習部、及び前記判定部は、複数設けられており、
複数の前記判定部の結果に基づいて、前記温度データの正常又は異常を判定する総合判定部を備える、
請求項1から請求項6の何れか一項に記載の異常温度検知装置。
【請求項8】
温度データを取得する第1温度取得ステップと、
前記温度データの階差数列を示す差分データを算出し、正数である差分データと負数である差分データとの何れか一方を零に置換した置換データを生成し、前記置換データを複数回に亘って平均化した基準データと前記置換データとの類似度を算出する前処理を行う第1前処理ステップと、
前記第1前処理ステップで算出された前記類似度と、学習用の前記温度データである教師データが正常又は異常であることを示す識別ラベルとを一組として機械学習して識別関数を出力する学習ステップと、
検知用の温度データを取得する第2温度取得ステップと、
前記検知用の温度データに対する前記前処理を行う第2前処理ステップと、
前記前処理が行われた前記検知用の温度データの正常又は異常を、前記識別関数を用いて判定する判定ステップと、
を有する異常温度検知方法。
【請求項9】
コンピュータを、
温度データを取得する温度取得手段と、
前記温度データの階差数列を示す差分データを算出し、正数である差分データと負数である差分データとの何れか一方を零に置換した置換データを生成し、前記置換データを複数回に亘って平均化した基準データと前記置換データとの類似度を算出する前処理を行う前処理手段と、
前記前処理手段で算出された前記類似度と、学習用の前記温度データである教師データが正常又は異常であることを示す識別ラベルとを一組として機械学習して識別関数を出力する学習手段と、
前記温度取得手段で取得され、前記前処理手段で前記前処理が行われた検知用の温度データの正常又は異常を、前記識別関数を用いて判定する判定手段と、
して機能させる異常温度検知プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常温度検知装置、異常温度検知方法、及び異常温度検知プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
居住用建物内における火災、石炭火力発電所における火災、製鉄所における溶鋼の漏出等の事故が発生すると、人命損失や機会損失が生ずる可能性がある。このため、事故の発生によって生ずる異常温度を検知することは、人命損失や機会損失を回避する観点からは極めて重要である。尚、異常温度は、正常時に比べて著しく上昇した温度の意味以外に、正常時に比べて著しく下降した温度の意味で用いられる場合もある。
【0003】
以下の特許文献1~3には、非通常状態(異常温度を含む)を検知する従来の技術が開示されている。例えば、以下の特許文献1に開示された技術は、周期的に繰り返されるデータを周期毎のデータ(周期データ)に分割し、複数の周期データを平均等することによって正常時の状態を示す基準データを作成する。そして、測定される周期データと基準データとの乖離値に基づいて非通常状態を検知している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6076571号公報
【文献】特開2020-071137号公報
【文献】特許第5808605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した特許文献1に開示された技術では、乖離値(相関係数)が所定の許容誤差(閾値)より大きくなったときに非通常状態と判定しており、温度の時間変化(上昇又は下降の方向)を識別できない。このため、上述した特許文献1に開示された技術では、他の乖離値(差の総和)を導入して変化の方向(温度の上昇又は下降)を検知できるように補っている。しかしながら、複数の乖離値間で検知結果が相反する場合、検知アルゴリズムによっては誤検知を生じる可能性がある。
【0006】
また、温度の時間変化は、日内変動や季節変動等の複数の要因によって異なるため、異常温度が生じたことを判定するための適切な閾値も周囲環境等に応じて異なる。上述した特許文献1に開示された技術では、周囲環境に応じて参照する基準データを複数使い分けて閾値を調整する必要があり、周囲環境に応じた適切な閾値を設定すること自体が難しく、異常温度を高い精度で検知することが困難であると考えられる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、周囲環境の影響を排除しつつ温度の時間変化も考慮して、高い精度で異常温度を検知することができる異常温度検知装置、異常温度検知方法、及び異常温度検知プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様による異常温度検知装置(1~3)は、温度データを取得する温度取得部(11)と、前記温度データの階差数列を示す差分データを算出し、正数である差分データと負数である差分データとの何れか一方を零に置換した置換データを生成し、正常又は異常を識別済みの教師データから得られる基準データと前記置換データとの類似度を算出する前処理を行う前処理部(12、17)と、前記前処理部で算出された前記類似度を機械学習して識別関数を出力する学習部(13、18)と、前記温度取得部で取得され、前記前処理部で前記前処理が行われた検知用の温度データの正常又は異常を、前記識別関数を用いて判定する判定部(14、19)と、を備える。
【0009】
また、本発明の一態様による異常温度検知装置は、前記前処理部が、前記差分データの算出及び前記置換データの生成を行うデータ処理部(12a、22a、24、32a、34)と、前記類似度の算出を行う類似度算出部(12b、26a、35a)と、を備える。
【0010】
また、本発明の一態様による異常温度検知装置は、前記データ処理部が、前記温度データの第一階差数列を示す一階差分データと前記温度データの第二階差数列を示す二階差分データとを算出し、少なくとも前記一階差分データについて、正数である一階差分データと負数である一階差分データとの何れか一方を零に置換した前記置換データを生成する。
【0011】
また、本発明の一態様による異常温度検知装置は、前記類似度算出部が、動的時間伸縮法を用いて前記類似度の算出を行う。
【0012】
また、本発明の一態様による異常温度検知装置は、学習用の前記前処理部である第1前処理部(20)と、検知用の前記前処理部である第2前処理部(30)と、を備えており、前記第1前処理部が、前記第1前処理部が生成した前記置換データを用いて前記基準データを生成し、前記第2前処理部が、前記第1前処理部で生成された前記基準データと、前記第2前処理部が生成した前記置換データとの前記類似度を算出する。
【0013】
また、本発明の一態様による異常温度検知装置は、前記第1前処理部が、予め規定した時間の前記置換データを複数回に亘って平均化することによって前記基準データを生成する。
【0014】
また、本発明の一態様による異常温度検知装置は、前記前処理部、前記学習部、及び前記判定部が、複数設けられており、複数の前記判定部の結果に基づいて、前記温度データの正常又は異常を判定する総合判定部(40)を備える。
【0015】
本発明の一態様による異常温度検知方法は、温度データを取得する第1温度取得ステップ(S11)と、前記温度データの階差数列を示す差分データを算出し、正数である差分データと負数である差分データとの何れか一方を零に置換した置換データを生成し、正常又は異常を識別済みの教師データから得られる基準データと前記置換データとの類似度を算出する前処理を行う第1前処理ステップ(S13、S15、S17)と、前記第1前処理ステップで算出された前記類似度を機械学習して識別関数を出力する学習ステップ(S18)と、検知用の温度データを取得する第2温度取得ステップ(S21)と、前記検知用の温度データに対する前記前処理を行う第2前処理ステップと(S23、S25、S26)、前記前処理が行われた前記検知用の温度データの正常又は異常を、前記識別関数を用いて判定する判定ステップ(S27)と、を有する。
【0016】
本発明の一態様による異常温度検知プログラムは、コンピュータを、温度データを取得する温度取得手段(11)と、前記温度データの階差数列を示す差分データを算出し、正数である差分データと負数である差分データとの何れか一方を零に置換した置換データを生成し、正常又は異常を識別済みの教師データから得られる基準データと前記置換データとの類似度を算出する前処理を行う前処理手段(12、17)と、前記前処理手段で算出された前記類似度を機械学習して識別関数を出力する学習手段(13,18)と、前記温度取得手段で取得され、前記前処理手段で前記前処理が行われた検知用の温度データの正常又は異常を、前記識別関数を用いて判定する判定手段(14、19)と、して機能させる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、周囲環境の影響を排除しつつ温度の時間変化も考慮して、高い精度で異常温度を検知することができる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態による異常温度検知装置の要部構成を示すブロック図である。
図2】本発明の第1実施形態による異常温度検知装置1の学習時の動作の概要を示すフローチャートである。
図3】本発明の第1実施形態による異常温度検知装置1の検知時の動作の概要を示すフローチャートである。
図4】本発明の第2実施形態による異常温度検知装置の要部構成を示すブロック図である。
図5】本発明の第2実施形態による異常温度検知装置における識別関数を用いた判定方法を説明するための図である。
図6】本発明の第3実施形態による異常温度検知装置の要部構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態による異常温度検知装置、異常温度検知方法、及び異常温度検知プログラムについて詳細に説明する。以下では、まず本発明の実施形態の概要について説明し、続いて本発明の各実施形態の詳細について説明する。
【0020】
〔概要〕
本発明の実施形態は、周囲環境の影響を排除しつつ温度の時間変化も考慮して、高い精度で異常温度を検知することを可能とするものである。具体的には、日内変動や季節変動等の複数の要因によって温度の時間変化が異なっていても、高い精度で異常温度を検知することを可能とするものである。
【0021】
温度上昇のメカニズムに詳しくない者にとって、異常温度を判定する閾値を設定することは甚だ困難である。このため、上述した特許文献1に開示された技術において、プラント等の設備異常を検知するためには、経験豊富なベテラン作業員が基準データを変更調整して閾値を設定する必要がある。また、上述した特許文献2には、閾値を設定しやすくするために、温度変化率を用いて到達温度を予測する方法が開示されている。上述した特許文献3には、ベテラン作業員の保守履歴情報とセンサデータとを連関するキーワードで紐づけし、クラスタリングと多変量解析とによって異常の予兆を検出する方法が開示されている。
【0022】
しかしながら、上述した特許文献1に開示された技術では、温度の時間変化方向を一つの乖離値(相関関数)だけで識別できないため、火災等における温度上昇を判定するために他の乖離値が必要となる。その場合、複数の乖離値間で検知結果が相反すると、検知アルゴリズムによっては誤検知を生じる可能性がある。そもそも、温度の時間変化は、日内変動や季節変動等の複数の要因によって異なる。このため、上述した特許文献1に開示された基準データの調整では適切な閾値調整を行うことが困難であるし、上述した特許文献2に開示された方法を用いても、異常温度が生じたことを判定するための適切な閾値を設定することが難しい。
【0023】
上述した特許文献3に開示された方法では、ベテラン作業員の保守履歴情報が十分に蓄積されていれば、温度の時間変化を考慮して異常温度を判定することになるため、高い精度で異常温度を検知することが可能であるとも考えられる。しかしながら、ベテラン作業員の保守履歴情報が十分でない場合には、高い精度で異常温度を検知することは困難である。
【0024】
本発明の実施形態では、まず、学習段階において、温度取得部で取得された温度データの階差数列を示す差分データを算出し、正数である差分データと負数である差分データとの何れか一方を零に置換した置換データを生成し、正常又は異常を識別済みの教師データから得られる基準データと置換データとの類似度を算出する前処理を行う。そして、前処理で算出された類似度を機械学習して識別関数を得る。次に、検知段階において、温度取得部で取得され、前処理が行われた検知用の温度データの正常又は異常を、識別関数を用いて判定する。これにより、周囲環境の影響を排除しつつ温度の時間変化も考慮して、高い精度で異常温度を検知することができる。
【0025】
〔第1実施形態〕
〈異常温度検知装置〉
図1は、本発明の第1実施形態による異常温度検知装置の要部構成を示すブロック図である。図1に示す通り、本実施形態の異常温度検知装置1は、温度取得部11(温度取得手段)、前処理部12(前処理手段)、学習部13(学習手段)、判定部14(判定手段)、出力部15、及び入力部16を備えており、異常温度を検知する。ここで、異常温度は、正常時に比べて著しく上昇した温度、或いは、正常時に比べて著しく下降した温度を意味する。本実施形態では、正常時に比べて著しく上昇した温度を異常温度として検知する場合を例に挙げて説明する。尚、正常時の温度及び異常温度は固定されたものではなく、異常温度検知装置1が使用される状況に応じて、任意の温度に変えることができる。
【0026】
温度取得部11は、温度の経時変化を示す時系列データである温度データを取得する。具体的には、温度取得部11は、例えば、熱電対、測温抵抗体、サーミスタ、水晶振動子、赤外線放射温度計、光ファイバ温度センサ等の温度センサから出力される温度データを取得する。温度取得部11は、アナログ/ディジタル変換器(ADC:Analog-to-Digital Converter)を備えており、温度センサからアナログ信号が出力される場合には、ディジタル化したものを温度データとして取得する。温度取得部11が取得する温度データは、ADCのサンプリング周期毎に得られるものであっても良く、ADCのサンプリング周期毎に得られるものを所定の時間間隔で間引いたものであっても良い。
【0027】
尚、上記の温度データは、予め規定した時間(例えば、3~5分程度)で区切って複数回に亘って取得したものを用いることができる。例えば、30分間を3分毎に等分して3分のデータを10回取得したものや、30分間のうちデータ区切りを1分毎にずらして3分のデータを28回取得したものを用いることができる。尚、学習用の温度データ(以下、教師データ)は、温度取得部11が取得する代わりに、異常温度検知装置1のユーザがシミュレーションにより作成した温度データを入力部16から前処理部12へ入力してもよい。
【0028】
前処理部12は、データ処理部12a及び類似度算出部12bを備えており、温度取得部11で取得された温度データに対し、機械学習或いは異常温度の検知を行うために予め必要となる信号処理(前処理)を行う。例えば、前処理部12は、ノイズ除去処理、差分算出処理、単位根確認処理、標準化処理、符号置換処理、類似度算出処理等を行う。これら前処理のうち、差分算出処理及び符号置換処理はデータ処理部12aで行われ、類似度算出処理は類似度算出部12bで行われる。尚、ノイズ除去処理、単位根確認処理、及び標準化処理は、必要なければ省略可能である。
【0029】
ノイズ除去処理は、温度取得部11で取得された温度データに対し、時間軸方向に平均化等のフィルタ処理を施すことによって、温度データに重畳されているノイズを除去する処理である。ここで、上記のフィルタ処理は、単純移動平均フィルタ、ガウシアン等の重み付き移動平均フィルタ、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ、ハイパスフィルタ、インパルス状の雑音に効果的なメジアンフィルタ、非線形フィルタ、その他のフィルタを用いた処理であって良い。但し、フィルタ処理は、温度データに重畳している雑音の特性に合った適切なフィルタを選択するのが望ましい。
【0030】
差分算出処理は、温度データを数列として見た場合に、時間的に隣接する温度データの階差数列(以下、差分データという)を算出する処理である。このような差分データを算出するのは、温度の日内変動や季節変動などの変動要因を除外するためである。単位根確認処理は、例えば、拡張ディッキー・フラー検定(ADF検定)等を用いて、温度データが単位根を有するか否かを確認する処理である。標準化処理は、差分データを標準化(Standardization)する処理(平均を0、分散を1とする処理)である。このような標準化を行うのは、機械学習で扱う複数の異なる特徴量の尺度を揃えること(Feature Scaling)によって、外れ値が学習に与える影響を低減して学習時間を短縮し学習コストを抑えるためである。
【0031】
符号置換処理は、上記の差分データのうち、正数である差分データと負数である差分データとの何れか一方を零に置換した置換データを生成する処理である。正常時に比べて著しく上昇した温度を異常温度として検知する場合には、負数である差分データ(温度下降を示すデータ)が零に置換される。これに対し、正常時に比べて著しく下降した温度を異常温度として検知する場合には、正数である差分データ(温度上昇を示すデータ)が零に置換される。尚、負数である差分データ(温度下降を示すデータ)を零に置換することは、活性化関数のReLU(Rectified Linear Unit)に相当する。
【0032】
このように、上記の差分データのうち、正数である差分データと負数である差分データとの何れか一方を零に置換するのは、温度の上昇分と下降分との何れかの特徴を強調し、学習部13で行われる機械学習における分類の効果を高めるためである。例えば、温度がほぼ一定である状態を正常として学習すると、温度の上昇及び下降は何れも正常状態からの乖離であるから異常として検知される。しかしながら、例えば、火災検知の用途では、温度下降を異常として検知する必要が無いことから、温度下降を無視する(零に置換する)ことで、機械学習における分類の効果を高めるようにしている。
【0033】
類似度算出処理は、符号置換処理によって生成された置換データと、学習時に置換データを複数回に亘って平均して得られる基準データとの類似度を算出する。この類似度を示す指標として、ベクトル間の距離(ユークリッド距離)のほか、動的時間伸縮法(DTW:Dynamic Time Warping)における累積ワープ距離を用いることができる。教師データが正常又は異常であることを示す識別ラベルは、例えば、異常温度検知装置1のユーザが入力部16を操作することによって前処理部12に入力される。学習段階において、識別ラベルが正常の教師データから正常時の基準データが、識別ラベルが異常の教師データから異常時の基準データが算出される。尚、動的時間伸縮法(DTW)の詳細は、第2実施形態で説明するものとする。
【0034】
正常と識別された教師データだけで類似度を算出するか、異常と識別された教師データだけで類似度を算出するか、正常と異常の両方の教師データを用いてそれぞれの類似度を算出するかは、検知しようとする異常温度に応じて任意に選択することができる。例えば、火災検知を行う場合には、温度上昇する方向のみが異常であると予めわかっているため、正常及び異常の両方の教師データを学習することで、より正確に判定することが可能になる。
【0035】
学習部13は、前処理部12の類似度算出部12bで算出された類似度と、教師データの正常又は異常を示す識別ラベルとを一組として機械学習を行う。学習部13は、例えば、サポートベクターマシン(SVM:Support Vector Machine)技術のクラス分類(Classification)を用いるのが望ましい。これは、深層学習に比べて少ない教師データで機械学習できるからである。学習部13は、クラス分類の手法として、ロジスティック回帰(Logistic Regression)、ランダムフォレスト(Random Forest)、決定木(Decision Tree)等の二値分類手法を用いてもよい。学習部13は、クラス分類を可能とする識別関数(Decision Function)を判定部14に提供する(出力する)。
【0036】
判定部14は、温度取得部11で取得され、前処理部12で前処理が行われた検知用の温度データの正常又は異常を、学習部13から出力される識別関数を用いて判定する。ここで、検知用の温度データとは、異常温度であるか否かの判定対象となる温度データであり、識別ラベルは入力されない。判定部14は、検知用の温度データが正常であるか又は異常であるかを示す判定結果を出力部15に出力する。
【0037】
出力部15は、判定部14の判定結果を出力する。出力部15は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display:液晶表示ディスプレイ)等の表示装置を備えており、判定部14の判定結果を視認可能に表示する。出力部15は、LCDに加えて、例えば、赤色警告灯やブザー等の警報器を接続可能な接点端子を備えており、判定部14の判定結果を光や音によって報知するようにしても良い。入力部16は、例えば、キーボードやポインティングデバイス等の入力装置を備えており、入力部16に対する操作に応じた操作信号を前処理部12に出力する。尚、出力部15及び入力部16は、例えば表示機能と操作機能とを兼ね備えるタッチパネル式の液晶表示装置のように一体化されていても良い。
【0038】
このような異常温度検知装置1は、例えば、デスクトップ型、ノート型、又はタブレット型のコンピュータにより実現される。異常温度検知装置1がコンピュータにより実現される場合において、異常温度検知装置1に設けられる各ブロック(前処理部12、学習部13、及び判定部14等)は、各々の機能を実現するためのプログラム(異常温度検知プログラム)が、コンピュータに設けられたCPU(中央処理装置)で実行されることによって実現される。つまり、異常温度検知装置1に設けられる各ブロックは、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することによって実現される。
【0039】
ここで、異常温度検知装置1に設けられる各ブロックの機能を実現するプログラムは、例えばCD-ROM又はDVD(登録商標)-ROM等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録された状態で配布されても良く、或いはインターネット等のネットワークを介して配布されても良い。尚、異常温度検知装置1は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0040】
〈異常温度検知方法〉
次に、異常温度検知装置1の動作について説明する。異常温度検知装置1の動作は、前述した機械学習を行って識別関数を得る学習時の動作と、異常温度を検知する検知時の動作とに大別される。以下では、異常温度検知装置1の学習時の動作と、異常温度検知装置1の検知時の動作とを順に説明する。
【0041】
《学習時の動作》
図2は、本発明の第1実施形態による異常温度検知装置1の学習時の動作の概要を示すフローチャートである。尚、図2に示すフローチャートの処理は、例えば、異常温度検知装置1のユーザが入力部16を操作して、機械学習を開始する旨の指示を行うことによって開始される。
【0042】
処理が開始されると、まず、学習用の温度データを取得する処理が、温度取得部11で行われる(ステップS11:第1温度取得ステップ)。この処理では、温度データは、予め規定した時間(例えば、3~5分程度)に相当する複数個の温度データが1回又は複数回に亘って取得される。実用的には、例えば、100個の温度データが、200回に亘って取得される。或いは、温度取得部11のかわりに、異常温度検知装置1のユーザがシミュレーションにより作成した温度データを入力部16から前処理部12へ入力してもよい。尚、取得された温度データ(学習用の温度データ)が正常又は異常であることを示す識別ラベルは、例えば、異常温度検知装置1のユーザが入力部16を操作することによって前処理部12に入力される。
【0043】
次に、取得された学習用の温度データからノイズを除去する処理が、前処理部12で行われる(ステップS12)。例えば、温度取得部11で取得された温度データに対し、時間軸方向に平均化等のフィルタ処理を行うことによって、温度データに重畳されているノイズを除去する処理が行われる。尚、このフィルタ処理では、温度データに重畳している雑音の特性に合った適切なフィルタが選択される。
【0044】
次いで、差分データを算出する処理が前処理部12のデータ処理部12aで行われる(ステップS13:第1前処理ステップ)。具体的には、時間的に隣接する温度データの階差数列を示す差分データを算出する処理が行われる。尚、学習用の温度データが単位根を有するか否かを確認する単位根確認処理が前処理部12で行われても良い。続いて、算出された差分データを標準化する処理が前処理部12で行われる(ステップS14)。具体的には、算出された差分データの平均を0、分散を1とする処理が行われる。尚、この処理で求められた平均値及び標準偏差は、検知時における標準化処理(図3のステップS24)でも用いられる。
【0045】
続いて、標準化された差分データのうち、正数である差分データと負数である差分データとの何れか一方を零に置換した置換データを生成する処理が、データ処理部12aで行われる(ステップS15:第1前処理ステップ)。本実施形態では、正常時に比べて著しく上昇した温度を異常温度として検知する場合を例に挙げているため、負数である差分データを零に置換した置換データを生成する処理が行われる。
【0046】
続いて、複数回(例えば200回)の置換データを平均して基準データを生成する処理が前処理部12で行われる(ステップS16)。この基準データと置換データとの類似度を算出する処理が、類似度算出部12bで行われる(ステップS17:第1前処理ステップ)。例えば、基準データと置換データとの距離を、動的時間伸縮法(DTW)によって算出することによって上記の類似度を算出する処理が行われる。尚、この処理で求められた基準データは、検知時における類似度算出処理(図3のステップS26)でも用いられる。ここで、上記の基準データとしては、例えば、予め規定された時間(例えば、3~5分程度)に相当する温度データから生成された置換データを、複数回に亘って平均化したものを用いることができる。
【0047】
以上の処理が終了すると、算出された類似度と識別ラベル(入力部16から入力される識別ラベル)とを一組とし、この一組の類似度と識別ラベルとを用いた機械学習が、学習部13で行われる(ステップS18:学習ステップ)。この機械学習が行われると、学習部13から判定部14に対して、識別関数が出力される(ステップS19)。
【0048】
尚、図2に示すフローチャートの処理は、例えば、異常温度検知装置1のユーザによって予め設定された量の学習が行われた後に自動的に終了されて良い。或いは、異常温度検知装置1のユーザによって予め設定された時間の経過後に終了されても良く、異常温度検知装置1のユーザの終了指示によって終了されても良い。或いは、所定の時系列データに対して識別関数の値が所定値以下になったら終了されても良い。
【0049】
《検知時の動作》
図3は、本発明の第1実施形態による異常温度検知装置1の検知時の動作の概要を示すフローチャートである。尚、図3に示すフローチャートの処理は、例えば、異常温度検知装置1のユーザが入力部16を操作して、機械学習を開始する旨の指示を行うことによって開始される。或いは、図3に示すフローチャートの処理は、図2に示すフローチャートの処理が終了したときに自動的に開始されても良い。
【0050】
処理が開始されると、まず、検知用の温度データを取得する処理が、温度取得部11で行われる(ステップS21:第2温度取得ステップ)。この処理では、温度データは、予め規定した時間(例えば、3~5分程度)に相当する教師データと同じデータ長の温度データ(例えば、100個の温度データ)が1回だけ取得される。尚、検知用の温度データは、正常又は異常が不明であるため、識別ラベルは入力されない。
【0051】
次に、取得された検知用の温度データからノイズを除去する処理が、前処理部12で行われる(ステップS22)。例えば、図2に示すステップS13の処理で用いられたフィルタと同様のフィルタを用いて、検知用の温度データに重畳されているノイズを除去する処理が行われる。
【0052】
次いで、差分データを算出する処理が前処理部12のデータ処理部12aで行われる(ステップS23:第2前処理ステップ)。具体的には、時間的に隣接する温度データの階差数列を示す差分データを算出する処理が行われる。続いて、算出された差分データを標準化する処理が前処理部12で行われる(ステップS24)。具体的には、図2に示すステップS14の処理で求められた平均値及び標準偏差を用いて、算出された差分データを標準化する処理が行われる。
【0053】
続いて、標準化された差分データのうち、正数である差分データと負数である差分データとの何れか一方を零に置換した置換データを生成する処理が、データ処理部12aで行われる(ステップS25:第2前処理ステップ)。本実施形態では、正常時に比べて著しく上昇した温度を異常温度として検知する場合を例に挙げているため、図2に示すステップS15の処理と同様に、負数である差分データを零に置換した置換データを生成する処理が行われる。
【0054】
続いて、学習時に得た基準データと検知用の置換データとの類似度を算出する処理が、類似度算出部12bで行われる(ステップS26:第2前処理ステップ)。例えば、基準データと置換データとの距離を、動的時間伸縮法(DTW)によって算出することによって上記の類似度を算出する処理が行われる。ここで、上記の基準データとしては、学習時に図2に示すステップS16の処理で求めたものが用いられる。
【0055】
以上の処理が終了すると、算出された類似度が識別関数に入力され、検知用の温度データの正常又は異常を判定する処理が判定部14で行われる(ステップS27:判定ステップ)。この判定が行われると、判定部14から出力部15に対して判定結果が出力される(ステップS28)。これにより、検知用の温度データの正常又は異常を示す情報が表示装置に視認可能に表示される。或いは、検知用の温度データが異常であると判定された場合には、赤色警告灯やブザー等の警報器によって異常である旨が光や音によって報知される。
【0056】
尚、図3に示すフローチャートの処理は、例えば、検知用の温度データが異常であると判定された場合に、自動的に終了されて良い。或いは、図3に示すフローチャートの処理は、異常温度検知装置1のユーザの指示によって継続されても良く、異常温度検知装置1のユーザの終了指示によって終了されても良い。
【0057】
以上の通り、本実施形態では、まず、学習時において、前処理部12が、温度取得部11で取得された温度データ又は入力部16より与えられた温度データの階差数列を示す差分データを算出し、正数である差分データと負数である差分データとの何れか一方を零に置換した置換データを生成し、置換データを複数回に亘って平均化して基準データを求め、正常又は異常を識別済みの基準データと置換データとの類似度を算出する前処理を行う。そして、学習部13が、前処理で算出された類似度を機械学習して識別関数を得る。次に、検知時において、判定部14が、温度取得部11で取得され、前処理部12で前処理が行われた検知用の温度データの正常又は異常を、識別関数を用いて判定する。これにより、周囲環境の影響を排除しつつ温度の時間変化も考慮して、高い精度で異常温度を検知することができる。
【0058】
〔第2実施形態〕
〈異常温度検知装置〉
図4は、本発明の第2実施形態による異常温度検知装置の要部構成を示すブロック図である。尚、図4においては、図1に示す構成と同様の構成については同じ符号を付してある。図4に示す通り、本実施形態の異常温度検知装置2は、図1に示す異常温度検知装置1の前処理部12、学習部13、及び判定部14を、前処理部17(前処理手段)、学習部18(学習手段)、及び判定部19(判定手段)に代えた構成である。前処理部17は、概ね、図1に示す前処理部12と同様の処理を行うが、学習時に用いられる学習用前処理部20(第1前処理部)と、検知時に用いられる検知用前処理部30(第2前処理部)とに分けられている。
【0059】
学習用前処理部20は、ノイズ除去部21、差分算出部22a,22b、標準化部23a,23b、符号処理部24、平均化部25a,25b、及び類似度算出部26a,26bを備える。この学習用前処理部20には、温度取得部11で予め規定した時間(例えば、3~5分程度)で区切って複数回に亘って取得された温度データと、入力部16から入力された識別ラベル(取得された温度データ(学習用の温度データ)が正常又は異常であることを示すラベル)とが入力される。尚、学習用の温度データは、温度取得部11のかわりに、異常温度検知装置1のユーザがシミュレーションにより作成した温度データを入力部16から学習用前処理部20へ入力してもよい。
【0060】
ノイズ除去部21は、温度取得部11で取得された温度データに対し、時間軸方向に平均化等のフィルタ処理を施すことによって、温度データに重畳されているノイズを除去する。ここで、上記のフィルタ処理は、第1実施形態と同様に、単純移動平均フィルタ、ガウシアン等の重み付き移動平均フィルタ、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタ、ハイパスフィルタ、インパルス状の雑音に効果的なメジアンフィルタ、非線形フィルタ、その他のフィルタを用いた処理であって良い。温度データに重畳している雑音の特性に合った適切なフィルタを選択するのが望ましい。温度測定の場合は、他の物理量に比べて時間的な変化が緩やかであることから、周波数の高い成分を主に雑音として除去するようにしても良い。
【0061】
差分算出部22aは、ノイズ除去部21でノイズが除去された温度データの第一階差数列を示す一階差分データを算出する。ここで、一階差分を算出するのは、第1実施形態と同様に、温度の日内変動や季節変動などの変動要因を除外するためである。例えば、周囲の気温が-10℃であるときに、温度取得部11で取得された温度データが40℃を示すものである場合には、温度上昇が50℃になることから異常と判断され得る。しかしながら、周囲の気温が35℃であるときに、温度取得部11で取得された温度データが40℃を示すものである場合には、温度上昇が僅か5℃であるから正常と判断され得る。このように、周囲温度の絶対値によって正常又は異常の判定結果が変わることから、温度の変動要因を除外するために、一階差分データを算出するようにしている。
【0062】
ここで、差分算出部22aが一階差分データを算出することにより、温度の変動要因を除外することができるとともに、機械学習において障害となる単位根を無くすことにも効果がある。尚、温度取得部11で取得された温度データが単位根を有するか否かは、例えばADF検定等を用いて確認することができる。単位根が無い温度データを学習用のデータとして用いる。
【0063】
差分算出部22bは、ノイズ除去部21でノイズが除去された温度データの第二階差数列を示す二階差分データを算出する。ここで、二階差分を算出するのは、温度の時間変化が急峻であるか又は緩やかであるか等の特徴を得るためである。尚、差分算出部22bは、図4に示す通り、ノイズ除去部21から出力される温度データを用いて二階差分データを算出しても良いが、差分算出部22aで算出された一階差分データを用いて二階差分データを算出しても良い。
【0064】
標準化部23aは、差分算出部22aで算出された一階差分データを標準化する処理(平均を0、分散を1とする処理)を行う。標準化部23bは、差分算出部22bで算出された二階差分データを標準化する処理(平均を0、分散を1とする処理)を行う。ここで、標準化前のデータをxkとし、データxkの平均値をμkとし、データxkの標準偏差をσkとすると、標準化後のデータxk’(平均が0で分散が1であるデータ)は、以下の(1)式で示される。
【0065】
【数1】
【0066】
上記(1)式中の添え字kは、k=1の場合には標準化部23aを表し、k=2の場合には標準化部23bを表すとする。標準化部23aにおけるデータx1の平均値μ1及び標準偏差σ1は、検知用前処理部30の標準化部33aでも用いられ、標準化部23bにおけるデータx2の平均値μ2及び標準偏差σ2は、検知用前処理部30の標準化部33bでも用いられる。
【0067】
符号処理部24は、標準化部23aで標準化された一階差分データのうち、正数である差分データと負数である差分データとの何れか一方を零に置換した置換データを生成する処理を行う。符号処理部24は、正常時に比べて著しく上昇した温度を異常温度として検知する場合には、負数である一階差分データ(温度下降を示すデータ)を零に置換した置換データを生成する。これに対し、正常時に比べて著しく下降した温度を異常温度として検知する場合には、正数である差分データ(温度上昇を示すデータ)を零に置換した置換データを生成する。負数又は正数の何れかを無視することで、温度の異常上昇又は異常下降の特徴を強調し、機械学習における分類の効果を高めることができる。例えば、温度上昇を検知したいときには、温度下降側をマスクして無視することによって、誤検知を減らすことができる。
【0068】
平均化部25aは、符号処理部24で生成された置換データを、複数回に亘って平均化して第1基準データを得る。平均化部25bは、標準化部23bで標準化された二階差分データを、複数回に亘って平均化して第2基準データを得る。平均化部25aで得られた第1基準データは、類似度算出部26a及び検知用前処理部30の類似度算出部35aで用いられる。平均化部25bで得られた第2基準データは、類似度算出部26b及び検知用前処理部30の類似度算出部35bで用いられる。尚、上記の第1基準データ及び第2基準データは、入力部16から入力される識別ラベルによって、正常又は異常が識別される。
【0069】
類似度算出部26aは、平均化部25aで得られた第1基準データと、符号処理部24で生成された置換データとの類似度を算出する。類似度算出部26aは、図1に示す類似度算出部12bと同様に、第1基準データと置換データとの距離を、例えば、動的時間伸縮法(DTW)によって算出することによって上記の類似度を算出する。類似度算出部26bは、平均化部25bで得られた第2基準データと、標準化部23bで標準化された二階差分データとの類似度を算出する。類似度算出部26bは、類似度算出部26aと同様に、第2基準データと標準化された二階差分データとの距離を、例えば、動的時間伸縮法(DTW)によって算出することによって上記の類似度を算出する。これら類似度算出部26a,26bで算出された類似度及び入力部16から入力された識別ラベルは、学習部18に出力される。
【0070】
ここで、上記の動的時間伸縮法(DTW)の詳細について説明する。いま、2つの時間波形f(t),g(t)の類似度を動的時間伸縮法(DTW)で計算する場合を考える。これら時間波形f(t),g(t)をサンプリングして得られる波形データは、N個(Nは2以上の正数)のデータからなる時系列データであるとする。波形f(t)をサンプリングして得られる波形データはfi(i=1,2,…,N)で表され、波形g(t)をサンプリングして得られる波形データはgj(j=1,2,…,N)で表される。尚、波形データfiは、例えば、第1基準データ又は第2基準データであり、波形データgjは、例えば、符号処理部24で生成された置換データ又は標準化部23bで標準化された二階差分データである。
【0071】
動的時間伸縮法(DTW)では、最初に、i軸とj軸との波形間のユークリッド距離d(i,j)を以下の(2)式により算出する。尚、以下の(2)式中の右辺に示されている二本の垂直線からなる数学記号はノルムである。
【0072】
【数2】
【0073】
動的時間伸縮法(DTW)の累積ワープ距離DA(i,j)は以下の(3)式で与えられる。ここで、以下の(3)式中の関数min{}は、括弧内のカンマで区切った変数のなかで、最小値を選択するものである。
【0074】
【数3】
【0075】
累積ワープ距離DA(i,j)の算出は、まず、i=j=1として開始され、次に、i,jを変化させながら順次行われる。具体的には、DA(i,j)は、(i,j)におけるユークリッド距離d(i,j)と、DA(i-1,j)、DA(i-1,j-1)、DA(i,j-1)との最小値とを加算することで算出される。このような演算を順次行っていき、最終的に得られた累積ワープ距離DA(N,N)が、DTWの累積ワープ距離である。DTWの累積ワープ距離は、波形データfi,gjが類似であるほど小さくなり、非類似であるほど大きくなる。
【0076】
検知用前処理部30は、ノイズ除去部31、差分算出部32a,32b、標準化部33a,33b、符号処理部34、及び類似度算出部35a,35bを備える。この検知用前処理部30には、温度取得部11で取得された予め規定した時間(例えば、3~5分程度)に相当する温度データ(検知用の温度データ)が1回だけ入力される。尚、検知用前処理部30には、学習用前処理部20とは異なり、入力部16から識別ラベルは入力されない。
【0077】
ノイズ除去部31は、温度取得部11で取得された温度データに対し、時間軸方向に平均化等のフィルタ処理を施すことによって、温度データに重畳されているノイズを除去する。ノイズ除去部31が施すフィルタ処理は、学習用前処理部20のノイズ除去部21が施すものと同様である。
【0078】
差分算出部32aは、ノイズ除去部31でノイズが除去された温度データの第一階差数列を示す一階差分データを算出する。差分算出部32bは、ノイズ除去部31でノイズが除去された温度データの第二階差数列を示す二階差分データを算出する。差分算出部32a,32bにおける差分の算出方法は、学習用前処理部20に設けられた差分算出部22a,22bにおける差分の算出方法と同様である。
【0079】
標準化部33aは、差分算出部32aで算出された一階差分データを標準化する処理を行う。標準化部33bは、差分算出部32bで算出された二階差分データを標準化する処理を行う。具体的には、標準化部33aは、学習用前処理部20の標準化部23aにおける平均値μ1及び標準偏差σ1を用いて、差分算出部32aで算出された一階差分データを標準化する処理を行う。標準化部33bは、学習用前処理部20の標準化部23bにおける平均値μ2及び標準偏差σ2を用いて、差分算出部32bで算出され二階差分データを標準化する処理を行う。
【0080】
ここで、標準化部33aに入力される標準化前のデータをx3とし、標準化部33bに入力される標準化前のデータをx4とする。標準化部33aから出力される標準化後のデータx3’及び標準化部33bから出力される標準化後のデータx4’は、以下の(4)式で示される。
【0081】
【数4】
【0082】
符号処理部34は、標準化部33aで標準化された一階差分データのうち、正数である差分データと負数である差分データとの何れか一方を零に置換した置換データを生成する処理を行う。符号処理部34は、正常時に比べて著しく上昇した温度を異常温度として検知する場合には、負数である一階差分データ(温度下降を示すデータ)を零に置換した置換データを生成する。これに対し、正常時に比べて著しく下降した温度を異常温度として検知する場合には、正数である差分データ(温度上昇を示すデータ)を零に置換した置換データを生成する。符号処理部34は、学習用前処理部20の符号処理部24と同様のものである。
【0083】
類似度算出部35aは、学習用前処理部20の平均化部25aで得られた第1基準データと、符号処理部34で生成された置換データとの類似度を算出する。類似度算出部35bは学習用前処理部20の平均化部25bで得られた第2基準データと、標準化部33bで標準化された二階差分データとの類似度を算出する。類似度算出部35a,35bにおける類似度の算出方法は、学習用前処理部20の類似度算出部26a,26bにおける類似度の算出方法とそれぞれ同様である。これら類似度算出部35a,35bで算出された類似度は、判定部19に出力される。
【0084】
学習部18は、学習用前処理部20の類似度算出部26a及び類似度算出部26bで算出された類似度と、第1,第2基準データの正常又は異常を示す識別ラベルとを一組として機械学習を行う。学習部18は、図1に示す学習部13で用いられるクラス分類の手法と同様の手法を用いることができる。学習部18は、クラス分類を可能とする識別関数を判定部19に提供する(出力する)。
【0085】
判定部19は、温度取得部11で取得され、前処理部17で前処理が行われた検知用の温度データの正常又は異常を、学習部18から出力される識別関数を用いて判定する。例えば、学習部18が、サポートベクターマシン(SVM)を用いて、正常クラスタを-1、異常クラスタを1として学習したとすると、得られる識別関数は、0を境にして、負側で正常、正側で異常を意味するものになる。判定部19は、例えば、このような識別関数を用いて正常又は異常を判定する。判定部19は、検知用の温度データが正常であるか又は異常であるかを示す判定結果を出力部15に出力する。
【0086】
図5は、本発明の第2実施形態による異常温度検知装置における識別関数を用いた判定方法を説明するための図である。図5に示すグラフは、検知用前処理部30の類似度算出部35aで算出された類似度(累積ワープ距離DA1)を横軸にとり、類似度算出部35bで算出された類似度(累積ワープ距離DA2)を縦軸にとってある。図5に示すグラフにおいて、破線は識別関数の値が-1となる位置を示し、実線は識別関数の値が0となる位置を示し、一点鎖線は識別関数の値が1となる位置を示す。図5中の点C1,C2は、識別関数の値が負側であるため、判定部19によって正常と判定される。これに対し、点C3,C4は、識別関数の値が正側であるため、判定部19によって異常と判定される。
【0087】
尚、サポートベクターマシン(SVM)では、線形カーネル、多項式カーネル、ガウスカーネル(RBFカーネル(Radial Basis Function Kernel))等の数種類のカーネルが存在する。図5に示す例は、線形カーネルを用いた場合のものである。
【0088】
尚、異常温度検知装置2も、図1に示す異常温度検知装置1と同様に、例えば、デスクトップ型、ノート型、又はタブレット型のコンピュータにより実現される。異常温度検知装置2がコンピュータにより実現される場合において、異常温度検知装置2に設けられる各ブロック(前処理部17、学習部18、及び判定部19等)は、各々の機能を実現するためのプログラム(異常温度検知プログラム)が、コンピュータに設けられたCPU(中央処理装置)で実行されることによって実現される。つまり、異常温度検知装置2に設けられる各ブロックは、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することによって実現される。尚、異常温度検知装置2は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0089】
〈異常温度検知方法〉
次に、異常温度検知装置2の動作について説明する。異常温度検知装置2の動作は、異常温度検知装置1と同様に、機械学習を行って識別関数を得る学習時の動作と、異常温度を検知する検知時の動作とに大別される。異常温度検知装置2の動作は、基本的には、異常温度検知装置1の動作と同様である。このため、以下では、図2,3を参照しつつ、異常温度検知装置2の学習時の動作と、異常温度検知装置2の検知時の動作とを順に説明する。
【0090】
《学習時の動作》
処理が開始されると、まず、学習用の温度データを取得する処理が、温度取得部11で行われる(ステップS11:第1温度取得ステップ)。例えば、予め規定した時間(例えば、3~5分程度)に相当する100個の温度データが、200回に亘って取得される。或いは、温度取得部11のかわりに、異常温度検知装置2のユーザがシミュレーションにより作成した温度データを入力部16から学習用前処理部20へ入力してもよい。尚、取得された温度データ(学習用の温度データ)が正常又は異常であることを示す識別ラベルは、第1実施形態と同様に、例えば、異常温度検知装置2のユーザが入力部16を操作することによって、学習用前処理部20に入力される。
【0091】
次に、取得された学習用の温度データからノイズを除去する処理が、学習用前処理部20のノイズ除去部21で行われる(ステップS12)。この処理では、第1実施形態と同様に、温度データに重畳している雑音の特性に合った適切なフィルタが選択される。次いで、一階差分データ及び二階差分データを算出する処理が学習用前処理部20の差分算出部22a,22bでそれぞれ行われる(ステップS13:第1前処理ステップ)。尚、温度データが単位根を有するか否かを確認する単位根確認処理が学習用前処理部20で行われても良い。
【0092】
続いて、算出された一階差分データ及び二階差分データを標準化する処理が標準化部23a,23bでそれぞれ行われる(ステップS14)。具体的には、算出された一階差分データ及び二階差分データの各々の平均を0、分散を1とする処理が、標準化部23a,23bでそれぞれ行われる。尚、標準化部23aで標準化に用いられた平均値μ1及び標準偏差σ1は、検知用前処理部30の標準化部33aに出力され、標準化部23bで標準化に用いられた平均値μ2及び標準偏差σ2は、検知用前処理部30の標準化部33bに出力される。
【0093】
続いて、標準化された一階差分データのうち、正数である一階差分データと負数である一階差分データとの何れか一方を零に置換した置換データを生成する処理が、符号処理部24で行われる(ステップS15:第1前処理ステップ)。本実施形態では、正常時に比べて著しく上昇した温度を異常温度として検知する場合を例に挙げているため、負数である差分データを零に置換した置換データを生成する処理が行われる。
【0094】
続いて、符号処理部24で生成された置換データを、複数回に亘って平均化して第1基準データを得る処理が、平均化部25aで行われる。また、標準化部23bで標準化された二階差分データを、複数回に亘って平均化して第2基準データを得る処理が、平均化部25bで行われる(ステップS16)。尚、平均化部25aで得られた第1基準データは、類似度算出部26a及び検知用前処理部30の類似度算出部35aに出力され、平均化部25bで得られた第2基準データは、類似度算出部26b及び検知用前処理部30の類似度算出部35bに出力される。
【0095】
続いて、平均化部25aで得られた第1基準データと符号処理部24で生成された置換データとの類似度を算出する処理が、類似度算出部26aで行われる。また、平均化部25bで得られた第2基準データと標準化部23bで標準化された二階差分データとの類似度を算出する処理が、類似度算出部26bで行われる(ステップS17:第1前処理ステップ)。これら類似度としては、ベクトル間の距離(ユークリッド距離)のほか、動的時間伸縮法(DTW)による距離の算出を用いてもよい。
【0096】
以上の処理が終了すると、類似度算出部26a及び類似度算出部26bで算出された類似度と、第1,第2基準データの正常又は異常を示す識別ラベルとを一組とし、この一組の類似度と識別ラベルとを用いた機械学習が、学習部18で行われる(ステップS18:学習ステップ)。この機械学習が行われると、学習部18から判定部14に対して、識別関数が出力される(ステップS19)。学習時の動作は、例えば、第1実施形態と同様の方法で終了される。
【0097】
《検知時の動作》
処理が開始されると、まず、検知用の温度データを取得する処理が、温度取得部11で行われる(ステップS21:第2温度取得ステップ)。この処理では、予め規定した時間(例えば、3~5分程度)に相当する第1,第2基準データと同じデータ長の温度データ(例えば、100個の温度データ)が1回だけ取得される。尚、検知用の温度データは、正常又は異常が不明であるため、識別ラベルは入力されない。
【0098】
次に、取得された検知用の温度データからノイズを除去する処理が、検知用前処理部30のノイズ除去部31で行われる(ステップS22)。この処理では、図2に示すステップS12と同様に、温度データに重畳している雑音の特性に合った適切なフィルタが選択される。次いで、一階差分データ及び二階差分データを算出する処理が検知用前処理部30の差分算出部32a,32bでそれぞれ行われる(ステップS23:第2前処理ステップ)。
【0099】
続いて、算出された一階差分データ及び二階差分データを標準化する処理が標準化部33a,33bでそれぞれ行われる(ステップS24)。具体的には、学習用前処理部20の標準化部23aにおける平均値μ1及び標準偏差σ1を用いて、差分算出部32aで算出された一階差分データを標準化する処理が、標準化部33aで行われる。また、学習用前処理部20の標準化部23bにおける平均値μ2及び標準偏差σ2を用いて、差分算出部32bで算出された二階差分データを標準化する処理が、標準化部33bで行われる。
【0100】
続いて、標準化された一階差分データのうち、正数である差分データと負数である差分データとの何れか一方を零に置換した置換データを生成する処理が、符号処理部34で行われる(ステップS25:第2前処理ステップ)。本実施形態では、正常時に比べて著しく上昇した温度を異常温度として検知する場合を例に挙げているため、図2に示すステップS15の処理と同様に、負数である差分データを零に置換した置換データを生成する処理が行われる。
【0101】
続いて、平均化部25aから出力された第1基準データと符号処理部34で生成された置換データとの類似度を算出する処理が、類似度算出部35aで行われる。また、平均化部25bで得られた第2基準データと標準化部33bで標準化された二階差分データとの類似度を算出する処理が、類似度算出部35bで行われる(ステップS26:第2前処理ステップ)。これら類似度としては、ベクトル間の距離(ユークリッド距離)のほか、動的時間伸縮法(DTW)による距離の算出を用いてもよい。
【0102】
以上の処理が終了すると、算出された類似度が識別関数に入力され、検知用の温度データの正常又は異常を判定する処理が判定部19で行われる(ステップS27:判定ステップ)。この判定が行われると、判定部19から出力部15に対して判定結果が出力される(ステップS28)。これにより、検知用の温度データの正常又は異常を示す情報が表示装置に視認可能に表示される。或いは、検知用の温度データが異常であると判定された場合には、赤色警告灯やブザー等の警報器によって異常である旨が光や音によって報知される。検知時の動作は、例えば、第1実施形態と同様の方法で終了される。
【0103】
以上の通り、本実施形態では、まず、学習時において、学習用前処理部20が、温度取得部11で取得された温度データ又は入力部16より与えられた温度データの一階差分データ及び二階差分データを算出し、正数である一階差分データと負数である一階差分データとの何れか一方を零に置換した置換データを生成し、複数回の置換データ及び二階差分データをそれぞれ平均化して第1基準データ及び第2基準データを求め、正常又は異常を識別済みの第1基準データと置換データとの類似度及び第2基準データと置換データとの類似度を算出する前処理を行う。そして、学習部18が、前処理で算出された類似度を機械学習して識別関数を得る。次に、検知時において、判定部19が、温度取得部11で取得され、検知用前処理部30で前処理が行われた検知用の温度データの正常又は異常を、識別関数を用いて判定する。これにより、周囲環境の影響を排除しつつ温度の時間変化も考慮して、高い精度で異常温度を検知することができる。
【0104】
〔第3実施形態〕
〈異常温度検知装置〉
図6は、本発明の第3実施形態による異常温度検知装置の要部構成を示すブロック図である。尚、図6においては、図4に示す構成と同様の構成については同じ符号を付してある。図6に示す通り、本実施形態の異常温度検知装置3は、図4に示す異常温度検知装置2の前処理部17、学習部18、及び判定部19を複数(図6示す例では、3つ)備える構成である。
【0105】
温度取得部11は、取得した温度データを前処理部17の各々(前処理部17A~17C)に出力する。つまり、前処理部17の各々(前処理部17A~17C)には、温度取得部11で取得された同じ温度データが入力される。前処理部17A~17Cは、第2実施形態で説明したものと同様のものであり、学習用前処理部20と検知用前処理部30とを備える。ここで、前処理部17A~17Cは、互いに異なる教師データを用いて類似度を算出するようにしても良い。
【0106】
例えば、前処理部17Aは、急上昇した後に緩やかな上昇へと変わる温度データを教師データに用いて類似度を算出する。前処理部17Bは、一定の傾斜で線形に上昇する温度データを教師データに用いて類似度を算出する。前処理部17Cは、緩やかに上昇を始めたのちに指数関数的に上昇する温度データを教師データに用いて類似度を算出する、といった具合である。このような異なる教師データを用いて類似度を算出することにより、前処理部17A~17Cに対応する学習部18A~18Cでは、互いに異なる識別関数が得られる。また、学習部18A~18Cに対応する判定部19A~19Cでは、互いに異なる識別関数を用いた判定が行われる。
【0107】
総合判定部40は、判定部19A~19Cの判定結果に基づいて、検知用の温度データの正常又は異常を判定する。総合判定部40は、例えば、以下のアルゴリズム(方式)によって検知用の温度データの正常又は異常を判定する。
・多数決方式(重みなし、又は、重み付き)
・ラウンドロビン方式(巡回方式)
・ランダム選択方式
・論理和方式(例えば、判定結果の1つでも異常があれば異常と判定する等)
・論理積方式(例えば、判定結果の1つでも正常があれば正常と判定する等)
・機械学習方式(総合判定部40内に判定結果の機械学習、判定の機能を備える)
先行技術の説明において述べたように、複数の判定部の結果が相反する場合、総合判定部40の検知アルゴリズムによっては誤検知を生じる可能性がある。しかしながら、上記のものは、異常温度上昇を誤検知するものではなく、温度の上昇波形がどのような形状であるかを、より詳細に識別して判定に役立てるための例示である。
【0108】
出力部15は、総合判定部40の判定結果を出力する。出力部15は、総合判定部40の判定結果を表示装置に視認可能に表示する。出力部15は、総合判定部40の判定結果を光や音によって報知するようにしても良い。尚、出力部15は、総合判定部40の判定結果に加えて、判定部19A~19Cの判定結果を合わせて出力しても良い。
【0109】
尚、異常温度検知装置3も、図4に示す異常温度検知装置2と同様に、例えば、デスクトップ型、ノート型、又はタブレット型のコンピュータにより実現される。異常温度検知装置2がコンピュータにより実現される場合において、異常温度検知装置3に設けられる各ブロック(前処理部17、学習部18、及び判定部19等)は、各々の機能を実現するためのプログラム(異常温度検知プログラム)が、コンピュータに設けられたCPU(中央処理装置)で実行されることによって実現される。つまり、異常温度検知装置2に設けられる各ブロックは、ソフトウェアとハードウェア資源とが協働することによって実現される。尚、異常温度検知装置2は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0110】
〈異常温度検知方法〉
次に、異常温度検知装置3の動作について説明する。異常温度検知装置3の動作は、異常温度検知装置2と同様に、機械学習を行って識別関数を得る学習時の動作と、異常温度を検知する検知時の動作とに大別される。但し、異常温度検知装置3では、前処理部17A及び学習部18A、前処理部17B及び学習部18B、及び前処理部17C及び学習部18Cの各々において学習時の動作が並列して行われる。また、異常温度検知装置3では、前処理部17A及び判定部19A、前処理部17B及び判定部19B、及び前処理部17C及び判定部19Cの各々において検知時時の動作が並列して行われる。そして、判定部19A~19Cの判定結果に基づいて検知用の温度データの正常又は異常を判定する処理が総合判定部40で行われる。
【0111】
以上の通り、本実施形態では、まず、学習時において、3つの前処理部17A~17C及び3つの学習部18A~18Cがそれぞれ、第2実施形態と同様に、前処理及び機械学習を行って識別関数を得る。次に、検知時において、3つの前処理部17A~17C及び3つの判定部19A~19Cがそれぞれ、第2実施形態と同様に、前処理及び識別関数を用いた判定を行って検知用の温度データの正常又は異常を判定する。そして、総合判定部40が、判定部19A~19Cの判定結果に基づいて、最終的に、検知用の温度データの正常又は異常を判定する。これにより、周囲環境の影響を排除しつつ温度の時間変化も考慮して、高い精度で異常温度を検知することができる。
【0112】
以上、本発明の実施形態による異常温度検知装置、異常温度検知方法、及び異常温度検知プログラムについて説明したが、本発明は上記実施形態に制限されることなく本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上述した第1~第3実施形態の異常温度検知装置1~3では何れも、学習部(学習部13,18)と判定部(判定部14,19)とを有しているため、検知用の温度データの正常又は異常を判定しつつ、機械学習を行って識別関数を自動的に更新(自動学習)するようにしても良い。このような学習部の自動更新を行うことで、上述した第1~第3実施形態の異常温度検知装置1~3を、現場の環境に合わせて最適化することが可能となる。
【0113】
尚、上記の自動学習は、所定の期間のみに実行されるようにしても良い。例えば、直近1年間における温度データのみを自動学習し、それより過去のデータは学習に用いないようにしても良い。また、上記の自動学習の開始又は停止を、ユーザの指示に基づいて行うようにしても良い。
【0114】
また、上記の第2,3実施形態では、理解を容易にするために、前処理部17が、学習用前処理部20と検知用前処理部30とを備えるものとして説明した。しかしながら、前処理部17は、必ずしも学習用前処理部20と検知用前処理部30とに分けられている必要はなく、学習用前処理部20と検知用前処理部30との重複する構成が1つにまとめられていても良い。例えば、ノイズ除去部21,31が1つにまとめられ、差分算出部22a,32aが1つにまとめられ、差分算出部22b,32bが1つにまとめられ、といった具合である。
【0115】
また、上記の第3実施形態では、前処理部17、学習部18、及び判定部19を3つずつ備える構成を例に挙げて説明した。しかしながら、前処理部17、学習部18、及び判定部19の数は3つに制限される訳ではなく、2つであっても良く、4つ以上であっても良い。また、前処理部17、学習部18、及び判定部19からなる構成は、全て1つの装置に実装されていても良く、異なる装置に実装されていても良い。
【0116】
また、上述した各実施形態の異常温度検知装置1~3は、単体の装置として実現されても良く、ネットワークを介したクラウドコンピューティングによって実現されていても良い。ここで、クラウドコンピューティングは、例えば、以下のURL(Uniform Resource Locator)で特定される文書に記載されている定義(米国国立標準技術研究所によって推奨される定義)に合致するものであっても良い。
http://nvlpubs.nist.gov/nistpubs/Legacy/SP/nistspecialpublication800-145.pdf
https://www.ipa.go.jp/files/000025366.pdf
【符号の説明】
【0117】
1~3 異常温度検知装置
11 温度取得部
12 前処理部
12a データ処理部
12b 類似度算出部
13 学習部
14 判定部
17 前処理部
18 学習部
19 判定部
20 学習用前処理部
22a 差分算出部
24 符号処理部
26a 類似度算出部
30 検知用前処理部
32a 差分算出部
34 符号処理部
35a 類似度算出部
40 総合判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6