(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】パネル接合構造
(51)【国際特許分類】
F16B 11/00 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
F16B11/00 B
(21)【出願番号】P 2020177556
(22)【出願日】2020-10-22
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100182888
【氏名又は名称】西村 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100196357
【氏名又は名称】北村 吉章
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】若林 充
(72)【発明者】
【氏名】宮本 康史
(72)【発明者】
【氏名】中前 隆行
(72)【発明者】
【氏名】河井 範之
(72)【発明者】
【氏名】大江 哲平
(72)【発明者】
【氏名】木村 大樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 研一
(72)【発明者】
【氏名】鍵元 皇樹
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-123958(JP,A)
【文献】特開2016-064702(JP,A)
【文献】特開2010-227981(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 5/00-5/12
F16B 9/00-11/00
B62D 25/08
B23K 11/00-11/36
B23K 20/00-20/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パネル本体部と、該パネル本体部から角部を介して延びる第1フランジ部と、を備える第1パネル部材と、
上記第1フランジ部と対向配置される第2パネル部材と、
上記第1フランジ部と上記第2パネル部材とが接触した状態で、これら両者を接合する接合部と、
上記角部の長手方向に沿って連続して設けられ上記第1フランジ部と上記第2パネル部材とを接着する接着材と、を設け、
上記第1パネル部材は上記パネル本体部と上記第1フランジ部との間に設けられて上記パネル本体部との成す角度が、上記パネル本体部と上記第1フランジ部の短手方向との成す角度よりも大きくなるように設定された荷重伝達部を、上記接合部の近傍に備え、
上記荷重伝達部のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部は、上記第1フランジ部の短手方向において、上記接合部の角部側の端部と当該接合部のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部との間の領域に位置するように設けられ
、
上記接合部は上記第1フランジ部の長手方向に間隔を隔てて複数設けられており、
上記荷重伝達部の上記フランジ末端側の端部は、上記荷重伝達部にフランジ部の長手方向に隣接する上記接合部の中央部同士を結ぶ仮想線上に設けられたことを特徴とする
パネル接合構造。
【請求項2】
上記第2パネル部材には、第2パネル本体部から第2角部を介して延びる第2フランジ部が設けられ、
該第2フランジ部が上記第1フランジ部と対向配置され、
上記第2パネル部材は、上記第2パネル本体部と上記第2フランジ部との間に設けられて上記第2パネル本体部との成す角度が、上記第2パネル本体部と上記第2フランジ部の短手方向との成す角度よりも大きくなるように設定された第2荷重伝達部を、上記接合部の近傍に備え、
上記第2荷重伝達部のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部と、上記第1パネル部材の荷重伝達部の上記フランジ末端側の端部とが略同じ位置に設けられた
請求項
1に記載のパネル接合構造。
【請求項3】
パネル本体部と、該パネル本体部から角部を介して延びる第1フランジ部と、を備える第1パネル部材と、
上記第1フランジ部と対向配置される第2パネル部材と、
上記第1フランジ部と上記第2パネル部材とが接触した状態で、これら両者を接合する接合部と、
上記角部の長手方向に沿って連続して設けられ上記第1フランジ部と上記第2パネル部材とを接着する接着材と、を設け、
上記第1パネル部材は上記パネル本体部と上記第1フランジ部との間に設けられて上記パネル本体部との成す角度が、上記パネル本体部と上記第1フランジ部の短手方向との成す角度よりも大きくなるように設定された荷重伝達部を、上記接合部の近傍に備え、
上記荷重伝達部のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部は、上記第1フランジ部の短手方向において、上記接合部の角部側の端部と当該接合部のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部との間の領域に位置するように設けられ
、
上記荷重伝達部はビードで形成されており、上記接着材は該ビードの内部空間に充填されたことを特徴とする
パネル接合構造。
【請求項4】
パネル本体部と、該パネル本体部から角部を介して延びる第1フランジ部と、を備える第1パネル部材と、
上記第1フランジ部と対向配置される第2パネル部材と、
上記第1フランジ部と上記第2パネル部材とが接触した状態で、これら両者を接合する接合部と、
上記角部の長手方向に沿って連続して設けられ上記第1フランジ部と上記第2パネル部材とを接着する接着材と、を設け、
上記第1パネル部材は上記パネル本体部と上記第1フランジ部との間に設けられて上記パネル本体部との成す角度が、上記パネル本体部と上記第1フランジ部の短手方向との成す角度よりも大きくなるように設定された荷重伝達部を、上記接合部の近傍に備え、
上記荷重伝達部のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部は、上記第1フランジ部の短手方向において、上記接合部の角部側の端部と当該接合部のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部との間の領域に位置するように設けられ
、
上記第2パネル部材には、第2パネル本体部から第2角部を介して延びる第2フランジ部が設けられ、
該第2フランジ部が上記第1フランジ部と対向配置され、
上記第2パネル部材は、上記第2パネル本体部と上記第2フランジ部との間に設けられて上記第2パネル本体部との成す角度が、上記第2パネル本体部と上記第2フランジ部の短手方向との成す角度よりも大きくなるように設定された第2荷重伝達部を、上記接合部の近傍に備え、
上記第2荷重伝達部のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部と、上記第1パネル部材の荷重伝達部の上記フランジ末端側の端部とが略同じ位置に設けられ、
上記荷重伝達部および上記第2荷重伝達部はビードで形成されており、上記接着材は上記両ビードの内部空間に充填された
パネル接合構造。
【請求項5】
上記ビードの内部空間における上記接着材のフランジ末端側の端部は、上記接合部の角部側端部と当該接合部のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部との間の領域に設けられる
請求項
3または
4に記載のパネル接合構造。
【請求項6】
上記ビードは、上記第1フランジ部の短手方向における末端側方向に向かうにつれて上記第2パネル部材に向かう方向に傾斜する傾斜面を備え、
該傾斜面により上記第1パネル部材の上記パネル本体部と上記第1フランジ部とが連結された
請求項
3に記載のパネル接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パネル接合構造に関し、詳しくは、パネル本体部と、該パネル本体部から角部を介して延びる第1フランジ部と、を備える第1パネル部材と、上記第1フランジ部と対向配置される第2パネル部材とを備え、上記第1パネル部材の第1フランジ部と上記第2パネル部材とを接合部および接着材により接合固定するようなパネル接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、接着材による接着と、スポット溶接等による接合部とを併用するフランジ部の接合技術(例えば、ウエルドボンディング)において、接着材の接合強度を確実に保証するためには、特許文献1に開示されているように、接合部を設けつつ、接着材の厚みを確保できる接着材塗布空間を形成することが有効である。
【0003】
一方で、接着材の厚みを確保すると、当該接着材に対し、繰返し荷重に起因して剥離荷重が入力されると、該接着材に応力の集中部が発生し、亀裂の起点となるおそれがある。
接着材に亀裂が生じると、該接着材は亀裂の進展スピードが速く、接着材が強度に対して全く寄与しなくなり、スポット溶接による接合部(ナゲット)に応力が集中し、当該接合部が破断する。
【0004】
このようなパネル接合構造を自動車のパネル接合構造に採用すると、車両の通常走行時に、上記接着材に対して、繰返し荷重に起因して剥離荷重が入力されることになる。
そこで、上記接着材に対する亀裂の発生を抑制することが求められている。
【0005】
ところで、特許文献2には、一方の車室側フランジの角部に、その隆起面が該車室側フランジと平行な隆起部を設け、この車室側フランジと対向して当接する他方のフランジと、上記隆起部との間に接着材を充填する構造が開示されている。
【0006】
しかしながら、該特許文献2に開示された構造では、上記接着材のフランジ角部側端部に対する剥離荷重を低減するという観点で、充分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-82136号公報
【文献】特開2006-213262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、この発明は、剥離荷重が入力された際の接着材のフランジ角部側の端部への応力集中を抑制することができるパネル接合構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明によるパネル接合構造は、パネル本体部と、該パネル本体部から角部を介して延びる第1フランジ部と、を備える第1パネル部材と、上記第1フランジ部と対向配置される第2パネル部材と、上記第1フランジ部と上記第2パネル部材とが接触した状態で、これら両者を接合する接合部と、上記角部の長手方向に沿って連続して設けられ上記第1フランジ部と上記第2パネル部材とを接着する接着材と、を設け、上記第1パネル部材は上記パネル本体部と上記第1フランジ部との間に設けられて上記パネル本体部との成す角度が、上記パネル本体部と上記第1フランジ部の短手方向との成す角度よりも大きくなるように設定された荷重伝達部を、上記接合部の近傍に備え、上記荷重伝達部のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部は、上記第1フランジ部の短手方向において、上記接合部の角部側の端部と当該接合部のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部との間の領域に位置するように設けられ、上記接合部は上記第1フランジ部の長手方向に間隔を隔てて複数設けられており、上記荷重伝達部の上記フランジ末端側の端部は、上記荷重伝達部にフランジ部の長手方向に隣接する上記接合部の中央部同士を結ぶ仮想線上に設けられたものである。
【0010】
上述のパネル部材は、金属部材および繊維強化プラスチックを含み、また、鋼板同士、アルミ板同士のような同材接合と、鋼板とアルミ板との接合のような異材接合と、を含む。
また、上述の接合部は、機械接合、つまり、ボルト、ナット、リベット、セルフピアシング・リベット(self-piercing rivetいわゆるSPR)による接合や片側機械接合を含むうえ、抵抗溶接としてのスポット溶接、摩擦撹拌接合溶接およびレーザ溶接をも含むものである。
【0011】
さらに、上述の角部は、パネル本体部と第1フランジ部とが直角に交わるものだけでなく、成形加工を可能とするために、パネル本体部と第1フランジ部とが湾曲形状部(いわゆるR部)を介して連結するものをも含む。
【0012】
上記構成によれば、次のような効果がある。
すなわち、荷重伝達部を設けることで、接着材の角部側の端部に入力される剥離荷重を、パネル本体部から上記荷重伝達部を介して当該荷重伝達部のフランジ末端側の端部へ伝達し、これにより、接着材の角部側の端部に入力される荷重を低減することができる。ここに、剥離荷重とは、第1フランジ部と第2パネル部材とを離間させる方向の剥離荷重を意味する。
【0013】
また、荷重伝達部のフランジ末端側の端部は変形起点となり、この変形起点が接合部近傍に位置するので、接合部に荷重分散でき、接着材の角部側の端部に入力される剥離荷重を低減することができる。
【0014】
したがって、剥離荷重が入力された際の接着材のフランジ角部側の端部への応力集中を抑制することができる。つまり、剥離荷重を、荷重伝達部を介して上記接合部に応力分散し、これにより、接着材の角部側の端部に入力される荷重の低減を図ることができる。
【0015】
また上述したように、上記接合部は上記第1フランジ部の長手方向に間隔を隔てて複数設けられており、上記荷重伝達部の上記フランジ末端側の端部は、上記荷重伝達部のフランジ部の長手方向に隣接する上記接合部の中央部同士を結ぶ仮想線上に設けられたため、上記接合部に対して確実に荷重を伝達し、荷重分散を図ることができる。
【0016】
この発明の一実施態様においては、上記第2パネル部材には、第2パネル本体部から第2角部を介して延びる第2フランジ部が設けられ、該第2フランジ部が上記第1フランジ部と対向配置され、上記第2パネル部材は、上記第2パネル本体部と上記第2フランジ部との間に設けられて上記第2パネル本体部との成す角度が、上記第2パネル本体部と上記第2フランジ部の短手方向との成す角度よりも大きくなるように設定された第2荷重伝達部を、上記接合部の近傍に備え、上記第2荷重伝達部のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部と、上記第1パネル部材の荷重伝達部の上記フランジ末端側の端部とが略同じ位置に設けられたものである。
【0017】
上記構成によれば、第2パネル部材に入力される剥離荷重も第2荷重伝達部のフランジ末端側の端部に伝達される。第1パネル部材の荷重伝達部のフランジ末端側の端部と、第2パネル部材の第2荷重伝達部のフランジ末端側の端部とが略同じ位置に設けられているので、応力が集中する点を一局に集中させることができ、この結果、接合部に対して確実に荷重分散することができる。
【0018】
またこの発明によるパネル接合構造は、パネル本体部と、該パネル本体部から角部を介して延びる第1フランジ部と、を備える第1パネル部材と、上記第1フランジ部と対向配置される第2パネル部材と、上記第1フランジ部と上記第2パネル部材とが接触した状態で、これら両者を接合する接合部と、上記角部の長手方向に沿って連続して設けられ上記第1フランジ部と上記第2パネル部材とを接着する接着材と、を設け、上記第1パネル部材は上記パネル本体部と上記第1フランジ部との間に設けられて上記パネル本体部との成す角度が、上記パネル本体部と上記第1フランジ部の短手方向との成す角度よりも大きくなるように設定された荷重伝達部を、上記接合部の近傍に備え、上記荷重伝達部のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部は、上記第1フランジ部の短手方向において、上記接合部の角部側の端部と当該接合部のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部との間の領域に位置するように設けられ、上記荷重伝達部はビードで形成されており、上記接着材は該ビードの内部空間に充填されたものである。
【0019】
上記構成によれば、接着材が上記角部のみならず、ビードの内部空間にも充填されているので、当該接着材の角部側の端部に対する応力集中を抑制することができる。
【0020】
またこの発明によるパネル接合構造は、パネル本体部と、該パネル本体部から角部を介して延びる第1フランジ部と、を備える第1パネル部材と、上記第1フランジ部と対向配置される第2パネル部材と、上記第1フランジ部と上記第2パネル部材とが接触した状態で、これら両者を接合する接合部と、上記角部の長手方向に沿って連続して設けられ上記第1フランジ部と上記第2パネル部材とを接着する接着材と、を設け、上記第1パネル部材は上記パネル本体部と上記第1フランジ部との間に設けられて上記パネル本体部との成す角度が、上記パネル本体部と上記第1フランジ部の短手方向との成す角度よりも大きくなるように設定された荷重伝達部を、上記接合部の近傍に備え、上記荷重伝達部のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部は、上記第1フランジ部の短手方向において、上記接合部の角部側の端部と当該接合部のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部との間の領域に位置するように設けられ、上記第2パネル部材には、第2パネル本体部から第2角部を介して延びる第2フランジ部が設けられ、該第2フランジ部が上記第1フランジ部と対向配置され、上記第2パネル部材は、上記第2パネル本体部と上記第2フランジ部との間に設けられて上記第2パネル本体部との成す角度が、上記第2パネル本体部と上記第2フランジ部の短手方向との成す角度よりも大きくなるように設定された第2荷重伝達部を、上記接合部の近傍に備え、上記第2荷重伝達部のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部と、上記第1パネル部材の荷重伝達部の上記フランジ末端側の端部とが略同じ位置に設けられ、上記荷重伝達部および上記第2荷重伝達部はビードで形成されており、上記接着材は上記両ビードの内部空間に充填されたものである。
【0021】
上記構成によれば、第1パネル部材と第2パネル部材との双方にビードより成る荷重伝達部、第2荷重伝達部を備える構成において、接着材が上記角部のみならず、各ビードの内部空間にも充填されているので、接着材の角部側端部に対する応力集中を抑制することができるうえ、接着材による接合強度の向上を図ることができる。
【0022】
この発明の一実施態様においては、上記ビードの内部空間における上記接着材のフランジ末端側の端部は、上記接合部の角部側端部と当該接合部のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部との間の領域に設けられるものである。
上記構成によれば、接着材の厚みが薄くなるフランジ末端側端部を上記範囲内に設けるので、次の如き効果がある。
【0023】
すなわち、接着材のフランジ末端側の端部は、荷重が入力されるパネル本体部からフランジ短手方向におけるフランジ末端側に離れており、入力される曲げモーメントが大きくなるため変形しやすい。この変形しやすいフランジ末端側の端部を、上記領域内に設けることで、荷重伝達部の接合部と対応する領域が変形しやすくなり、接合部に荷重分散することができる。
【0024】
この発明の一実施態様においては、上記ビードは、上記第1フランジ部の短手方向における末端側方向に向かうにつれて上記第2パネル部材に向かう方向に傾斜する傾斜面を備え、該傾斜面により上記第1パネル部材の上記パネル本体部と上記第1フランジ部とが連結されたものである。
【0025】
上記構成によれば、傾斜面により第1フランジ部と鉛直な方向の剥離荷重の成分(フランジ鉛直成分)が低減され、これにより、接着材の角部側の端部に入力される剥離荷重を低減することができる。
【0026】
詳しくは、第1フランジ部と鉛直な方向の成分(フランジ鉛直成分)は、上記傾斜面において、当該傾斜面に沿う方向の分力と、傾斜面に対して直角な方向の分力とに分解でき、傾斜面に対して直角な方向の分力が接着材に入力される実際の剥離荷重となる。この傾斜面に対して直角な方向の分力は、第1パネル部材に入力される剥離荷重よりも小さいので、接着材の角部側端部に入力される剥離荷重を低減することができる。
【発明の効果】
【0027】
この発明によれば、剥離荷重が入力された際の接着材のフランジ角部側の端部への応力集中を抑制することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図3】(a)は
図2のA-A線矢視断面図、(b)は
図2のB-B線矢視断面図
【
図6】パネル接合構造のさらに他の実施例を示す斜視図
【
図8】パネル接合構造のさらに他の実施例を示す斜視図
【
図9】パネル接合構造を車両の前部車体構造に採用した実施例を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0029】
剥離荷重が入力された際の接着材のフランジ角部側の端部への応力集中を抑制するという目的を、パネル本体部と、該パネル本体部から角部を介して延びる第1フランジ部と、を備える第1パネル部材と、上記第1フランジ部と対向配置される第2パネル部材と、上記第1フランジ部と上記第2パネル部材とが接触した状態で、これら両者を接合する接合部と、上記角部の長手方向に沿って連続して設けられ上記第1フランジ部と上記第2パネル部材とを接着する接着材と、を設け、上記第1パネル部材は上記パネル本体部と上記第1フランジ部との間に設けられて上記パネル本体部との成す角度が、上記パネル本体部と上記第1フランジ部の短手方向との成す角度よりも大きくなるように設定された荷重伝達部を、上記接合部の近傍に備え、上記荷重伝達部のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部は、上記第1フランジ部の短手方向において、上記接合部の角部側の端部と当該接合部のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部との間の領域に位置するように設けられ、上記接合部は上記第1フランジ部の長手方向に間隔を隔てて複数設けられており、上記荷重伝達部の上記フランジ末端側の端部は、上記荷重伝達部にフランジ部の長手方向に隣接する上記接合部の中央部同士を結ぶ仮想線上に設けられるという構成にて実現した。
【実施例1】
【0030】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面はパネル接合構造を示し、
図1は当該パネル接合構造を示す斜視図、
図2は
図1の要部拡大斜視図、
図3の(a)は
図2のA-A線矢視断面図、
図3の(b)は
図2のB-B線矢視断面図、
図4は
図2のC-C線矢視断面図である。
【0031】
なお、図中、矢印Xは第1フランジ部15,16の短手方向を示し、矢印Yは第1フランジ部15,16の長手方向を示し、矢印ZはX方向、Y方向の何れに対しても直角に直交する方向を示す。
【0032】
図1に示すように、このパネル接合構造は、第1パネル部材10と第2パネル部材30とを備えている。
第1パネル部材10は、XZ平面(座標面)による断面において、X方向に延びる第1側壁11と、この第1側壁11の一方側端部(図示の左側端部)および他方側端部(図示の右側端部)からZ方向に延びる第2側壁12および第3側壁13と、を備えている。第2側壁12と第3側壁13とは対向しており、上述の各側壁11,12,13によりパネル本体部14が形成されている。
【0033】
また、上述の第2側壁12および第3側壁13の第1側壁11とは反対側の端部から外方に延びる第1フランジ部15,16を一体形成し、パネル本体部14と第1フランジ部15,16とで、断面ハット形状部を構成している。
【0034】
さらに、一側(図示の上側)に第1側壁11が連結された第2側壁12の他側(図示の下側)と、一方側の第1フランジ部15との間には、湾曲形状の角部17を形成している。
同様に、一側(図示の上側)に第1側壁11が連結された第3側壁13の他側(図示の下側)と、他方側の第1フランジ部16との間にも、湾曲形状の角部18を形成している。
【0035】
つまり、一方側の第1フランジ部15は、パネル本体部14の第2側壁12から角部17を介して外方に延びている。また、他方側の第1フランジ部16は、パネル本体部14の第3側壁13から角部18を介して外方に延びている。ここで、上述の第1パネル部材10は第1フランジ部15,16の長手方向であるY方向に延びている。
【0036】
一方、上述の第2パネル部材30は、XZ平面(座標面)による断面において、X方向に延びる第1側壁31と、この第1側壁31の一方側端部(図示の左側端部)および他方側端部(図示の右側端部)からZ方向に延びる第2側壁32および第3側壁33と、を備えている。第2側壁32と第3側壁33とは対向しており、上述の各側壁31,32,33により第2パネル本体部34が形成されている。
【0037】
また、上述の第2側壁32および第3側壁33の第1側壁31とは反対側の端部から外方に延びる第2フランジ部35,36を一体形成し、第2パネル本体部34と第2フランジ部35,36とで、断面ハット形状部を構成している。
図1に示すように、第1パネル部材10の第1側壁11と、第2パネル部材30の第1側壁31とは、Z方向に離間した状態で対向している。
【0038】
さらに、他側(図示の下側)に第1側壁31が連結された第2側壁32の一側(図示の上側)と、一方側の第2フランジ部35との間には、湾曲形状の第2角部37を形成している。
同様に、他側(図示の下側)に第1側壁31が連結された第3側壁33の一側(図示の上側)と、他方側の第2フランジ部36との間にも、湾曲形状の第2角部38を形成している。
【0039】
つまり、一方側の第2フランジ部35は、第2パネル本体部34の第2側壁32から第2角部37を介して外方に延びている。また、他方側の第2フランジ部36は、第2パネル本体部34の第3側壁33から第2角部38を介して外方に延びている。ここで、上述の第2パネル部材30は第2フランジ部35,36の長手方向であるY方向に延びている。
【0040】
図1に示すように、第2パネル部材30は、第1パネル部材10の第1フランジ部15,16と対向配置されている。詳しくは、第2パネル部材30の一方側および他方側の第2フランジ部35,36が、第1パネル部材10の一方側および他方側の第1フランジ部15,16と互いに接触した状態で対向配置されている。
【0041】
また、同図に示すように、第1パネル部材10の第1フランジ部15と、第2パネル部材30の第2フランジ部35とが互いに接触した状態で、これら両者15,35を接合する接合部40を設けている。他方側においても、第1フランジ部16と第2フランジ部36とが互いに接触した状態で、これら両者16,36を接合する接合部40を設けているが、他方側の接合部については図示省略している。
【0042】
上述の接合部40は、
図1に示すように各フランジ部15,35の長手方向つまりY方向に所定間隔を隔てて複数設けられている。
この実施例では、第1パネル部材10および第2パネル部材30を共に鋼板により形成しているので、上述の接合部40は、スポット溶接によるナゲット(nugget、溶融凝固部)40n(
図3、
図4参照)にて形成している。
【0043】
図1~
図3に示すように、対向する角部17,37間および角部18,38間の長手方向(Y方向)に沿って連続して設けられ第1フランジ部15,16と第2パネル部材30とを接着する接着材20を設けている。
【0044】
この実施例1では、上記接着材20により対向する第1フランジ部15の角部17側と、第2フランジ部35の角部37側とを接着すると共に、対向する第1フランジ部16の角部18側と、第2フランジ部36の角部38側とを接着するように構成している。
【0045】
上述の接着材20には、エポキシ系に代表される構造用接着剤が用いられるが、エポキシ系に限らず、ウレタン系、アクリル系、変性シリコーン系等の構造用接着剤を用いてもよく、車体接合に用いられる接着剤であれば、種類は問わない。
【0046】
しかも、
図1~
図4に示すように、上述の第1パネル部材10には、上記接合部40の近傍に位置するように荷重伝達部50が設けられている。
上述の荷重伝達部50はビード50Bにより形成されており、この荷重伝達部50(ビード50B)は、パネル本体部14の第2側壁12と第1フランジ部15との間に設けられている。
【0047】
上述の荷重伝達部50の後述する傾斜面53は、
図3(b)に示すように、パネル本体部14の第2側壁12との成す角度θ2が、パネル本体部14の第2側壁12と、第1フランジ部15の短手方向との成す角度θ1(
図3(a)参照)よりも大きくなるように設定されている。
【0048】
この実施例1では、荷重伝達部50の傾斜面53と第2側壁12との成す角度θ2は、鈍角、具体的には128度に設定されており、第1フランジ部15の短手方向と第2側壁12との成す角度θ1は90度に設定されている。すなわち、θ2>θ1の関係式が成立するように形成されているが、これら各角度θ1,θ2は例示した数値に限定されるものではない。
【0049】
図2、
図4に示すように、上述の荷重伝達部50(ビード50B)は、Y方向に離間した一対の縦壁51,52と、これら縦壁51,52間を連結する傾斜面53と、を備えており、該傾斜面53は、第1フランジ部15の短手方向における末端側方向に向かうにつれて第2パネル部材30の第2フランジ部35に向かう方向に傾斜している。
【0050】
上述の傾斜面53は、相反する方向に傾斜する2つのスラント部53a,53bを有しており、これら各スラント部53a,53b間には、第1フランジ部15の末端側方向に向かうにつれて第2フランジ部35に向かう方向に傾斜する稜線R1が形成されている。
【0051】
このように形成された荷重伝達部50(ビード50B)は、パネル本体部14の第2側壁12と第1フランジ部15との間に設けられると共に、Y方向においては複数の接合部40,40間に設けられている。
【0052】
図3に示すように、上述の荷重伝達部50のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部50a(以下、単にフランジ末端側端部50aと略記する)は、第1フランジ部15の短手方向、つまりX方向において、接合部40の角部側の端部40aと、当該接合部40のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部40b(以下、単に末端側端部40bと略記する)との間の領域α(詳しくは、その延長線上のエリア内)に位置するように設けられている。
【0053】
この実施例では、上記荷重伝達部50のフランジ末端側端部50aは、接合部40であるナゲット40nの中央部40c同士を結ぶ仮想線β上に設けられている。
このように、上述の荷重伝達部50を設けることで、接着材20の角部側の端部に入力される剥離荷重(
図3に示す荷重F1,F2の少なくとも一方、特に荷重F1)を、パネル本体部14から荷重伝達部50を介して当該荷重伝達部50のフランジ末端側端部50aへ伝達する。これにより、接着材20の角部側の端部に入力される荷重を低減するように構成している。
【0054】
また、上記荷重伝達部50のフランジ末端側端部50aは変形起点となり、この変形起点が接合部40近傍に位置することで、接合部40に荷重分散でき、接着材20の角部側の端部に入力される剥離荷重を低減するように構成している。
【0055】
すなわち、変形起点となる荷重伝達部50のフランジ末端側端部50aのY方向の両サイドは接合部40,40により拘束されている。そこで、変形起点が動こうとすると、荷重は接合部40であるナゲット40nに伝達される。これにより、接合部40に荷重分散し、接着材20の角部側の端部に入力される剥離荷重の低減を図るよう構成している。
【0056】
したがって、剥離荷重が入力された際の接着材20のフランジ角部側の端部への応力集中を抑制する。つまり、剥離荷重を、荷重伝達部50を介して上記接合部40に応力分散し、これにより、接着材20の角部側の端部に入力される荷重の低減を図るように構成したものである。
【0057】
特に、荷重伝達部50のフランジ末端側端部50aを、上記荷重伝達部50にフランジ部の長手方向に隣接する接合部40の中央部40c同士を結ぶ仮想線β上に設けることで、接合部40に対して確実に荷重を伝達して、荷重分散を図るように構成している。
【0058】
図2、
図3に示すように、接着材20は角部17,37の長手方向つまりY方向に沿って途切れなく連続して設けられると共に、ビード50Bにて形成された荷重伝達部50の内部空間、つまり、ビード50Bの内部空間54に充填されている。
【0059】
このように、上述の接着材20が角部17,37内のみならず、ビード50Bの内部空間54にも充填されることで、接着材20の角部側端部に対する応力集中を抑制するように構成している。
特に、
図3の(b)に示すように、上述のビード50Bの内部空間54における接着材20のフランジ末端側端部は、上記接合部40の角部側端部40aと当該接合部40のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部40bとの間の領域αに設けられている。この実施例では、上記接着材20は、ビード50Bの内部空間54の全体に充填されている。
【0060】
図3の(b)に示すように、接着材20のフランジ末端側の端部は、荷重が入力されるパネル本体部からフランジ短手方向におけるフランジ末端側に離れており、入力される曲げモーメントが大きくなるため、変形しやすい。この変形しやすいフランジ末端側の端部を、上記領域αとフランジ長手方向にて対応する範囲内に設けることで、荷重伝達部50の接合部40と対応する領域が変形しやすくなり、接合部40に荷重分散を図るように形成したものである。
【0061】
図1~
図3に示すように、上述のビード50Bは上記傾斜面53を備えており、この傾斜面53により上記第1パネル部材10のパネル本体部14における第2側壁12と、第1フランジ部15とが、斜交い状に連結されている。
【0062】
これにより、上記傾斜面53により第1フランジ部15と鉛直な方向の剥離荷重F1の成分が低減されて、接着材20の角部側の端部に入力される剥離荷重を低減するように構成している。
詳しくは、
図3の(b)に示すように、第1フランジ部15と鉛直な方向の成分(フランジ鉛直成分)f0は、上記傾斜面53において、当該傾斜面53に沿う方向の分力f1と、傾斜面53に対して直角な方向の分力f2とに分解できる。傾斜面53に対して直角な方向の分力f2が接着材20に入力される実際の剥離荷重となる。上記傾斜面53に対して直角な方向の分力f2は、第1パネル部材10に入力される剥離荷重F1よりも小さく、これにより、接着材20の角部側端部に入力される剥離荷重の低減を図るように構成したものである。
【0063】
このように、
図1~
図4で示した実施例1のパネル接合構造は、パネル本体部14と、該パネル本体部14から角部17を介して延びる第1フランジ部15と、を備える第1パネル部材10と、上記第1フランジ部15と対向配置される第2パネル部材30と、上記第1フランジ部15と上記第2パネル部材30とが接触した状態で、これら両者15,30を接合する接合部40と、上記角部17の長手方向に沿って連続して設けられ上記第1フランジ部15と上記第2パネル部材30とを接着する接着材20と、を設け、上記第1パネル部材10は、上記パネル本体部14と上記第1フランジ部15との間に設けられて上記パネル本体部14(特に、第2側壁12参照)との成す角度θ2が、上記パネル本体部14と上記第1フランジ部15の短手方向との成す角度θ1よりも大きくなるように設定された荷重伝達部50を、上記接合部40の近傍に備え、上記荷重伝達部50のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側端部50aは、上記第1フランジ部15の短手方向において、上記接合部40の角部側の端部40aと当該接合部40のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部40bとの間の領域α(詳しくは、領域αの延長線上のエリア内)に位置するように設けられたものである(
図1~
図4参照)。
【0064】
この構成によれば、次のような効果がある。
すなわち、荷重伝達部50を設けることで、接着材20の角部側の端部に入力される剥離荷重を、パネル本体部14から上記荷重伝達部50を介して当該荷重伝達部50のフランジ末端側端部50aへ伝達し、これにより、接着材20の角部側端部に入力される荷重を低減することができる。
【0065】
また、荷重伝達部50のフランジ末端側端部50aは変形起点となり、この変形起点が接合部40近傍に位置するので、接合部40に荷重分散でき、接着材20の角部側端部に入力される剥離荷重を低減することができる。
【0066】
したがって、剥離荷重が入力された際の接着材20のフランジ角部側端部への応力集中を抑制することができる。つまり、剥離荷重を、荷重伝達部50を介して上記接合部40に応力分散し、これにより、接着材20の角部側端部に入力される荷重の低減を図ることができる。
【0067】
また、この発明の一実施形態においては、上記接合部40は上記第1フランジ部15の長手方向に間隔を隔てて複数設けられており、上記荷重伝達部50の上記フランジ末端側端部50aは、上記荷重伝達部50にフランジ部の長手方向に隣接する上記接合部40の中央部40c同士を結ぶ仮想線β上に設けられたものである(
図3参照)。
この構成によれば、上記接合部40に対して確実に荷重を伝達し、荷重分散を図ることができる。
【0068】
さらに、この発明の一実施形態においては、上記荷重伝達部50はビード50Bで形成されており、上記接着材20は該ビード50Bの内部空間54に充填されたものである(
図3の(b)参照)。
この構成によれば、接着材20が上記角部17のみならず、ビード50Bの内部空間54にも充填されているので、当該接着材20の角部側の端部に対する応力集中を抑制することができる。
【0069】
さらにまた、この発明の一実施形態においては、上記ビード50Bの内部空間54における上記接着材20のフランジ末端側の端部は、上記接合部40の角部側端部40aと当該接合部40のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部40bとの間の領域αに設けられるものである(
図3参照)。
この構成によれば、接着材20の厚みが薄くなるフランジ末端側端部を上記領域αの範囲内に設けるので、次の如き効果がある。
【0070】
すなわち、接着材20のフランジ末端側端部は、荷重が入力されるパネル本体部からフランジ短手方向におけるフランジ末端側に離れており、入力される曲げモーメントが大きくなるため、変形しやすい。この変形しやすいフランジ末端側端部を、上記範囲内に設けることで、荷重伝達部50の接合部40と対応する領域αが変形しやすくなり、接合部40に荷重分散することができる。
【0071】
加えて、この発明の一実施形態においては、上記ビード50Bは、上記第1フランジ部15の短手方向における末端側方向に向かうにつれて上記第2パネル部材30に向かう方向に傾斜する傾斜面53を備え、該傾斜面53により上記第1パネル部材10の上記パネル本体部14と上記第1フランジ部15とが連結されたものである(
図1~
図4参照)。
【0072】
この構成によれば、傾斜面53により第1フランジ部15と鉛直な方向の剥離荷重F1の成分(フランジ鉛直成分)が低減され、これにより、接着材20の角部側端部に入力される剥離荷重を低減することができる。
【0073】
詳しくは、第1フランジ部15と鉛直な方向の成分(フランジ鉛直成分)f0は、上記傾斜面53において、当該傾斜面53に沿う方向の分力f1と、傾斜面53に対して直角な方向の分力f2とに分解でき、傾斜面53に対して直角な方向の分力f2が接着材20に入力される実際の剥離荷重となる。この傾斜面53に対して直角な方向の分力f2は、第1パネル部材10に入力される剥離荷重F1よりも小さいので、接着材20の角部側の端部に入力される剥離荷重を低減することができる。
【実施例2】
【0074】
図5はパネル接合構造の他の実施例を示す斜視図である。
図5で示す実施例2のパネル接合構造は、第1パネル部材10については実施例1と同様に断面ハット形状に形成されているが、第2パネル部材30はフラットな板材から成るパネル本体部34を用いている。
【0075】
そして、パネル本体部34の一方側部(図示の左側部)および他方側部(図示の右側部)を、第1パネル部材10の各第1フランジ部15,16と対向配置し、第1フランジ部15,16と第2パネル部材30とが接触した状態で、これら両者を接合する接合部40を設けている。
すなわち、この実施例2においては、断面ハット形状の第1パネル部材10と、平板状の第2パネル部材30と、を接合するパネル接合構造である。
【0076】
図5で示す実施例2においても、要部を含むその他の構成および作用、効果については、先の実施例1と同様であるから、
図5において、前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【実施例3】
【0077】
図6はパネル接合構造のさらに他の実施例を示す斜視図、
図7は
図6のD-D線矢視断面図である。
図6、
図7に示すこの実施例3では、
図1~
図4で示した実施例1の構造に加えて、第2パネル部材30側にも、第2ビード60Bによる第2荷重伝達部60を設けたものである。この第2荷重伝達部60は荷重伝達部50と対称または略対称に形成されている。
【0078】
すなわち、
図6、
図7に示すように、上述の第2パネル部材30には、上記接合部40の近傍に位置するように第2荷重伝達部60が設けられている。
上述の第2荷重伝達部60は第2ビード60Bにより形成されており、この第2荷重伝達部60(第2ビード60B)は、第2パネル本体部34の第2側壁32と第2フランジ部35との間に設けられている。
【0079】
上述の第2荷重伝達部60の後述する傾斜面63は、第2パネル本体部34の第2側壁32との成す角度θ3が、第2パネル本体部34の第2側壁32と、第2フランジ部35の短手方向との成す角度(直角)よりも大きくなるように設定されている。
【0080】
この実施例3では、第2荷重伝達部60の傾斜面63と第2側壁32との成す角度θ3は、鈍角、具体的には125度に設定されており、第2フランジ部35の短手方向と第2側壁32との成す角度は90度に設定されている。なお、これら各角度は例示した数値に限定されるものではない。
【0081】
図6、
図7に示すように、上述の第2荷重伝達部60(第2ビード60B)は、Y方向に離間した一対の縦壁61,62と、これら縦壁61,62間を連結する傾斜面63と、を備えており、該傾斜面63は、第2フランジ部35の短手方向における末端側方向に向かうにつれて第1パネル部材10の第1フランジ部15に向かう方向に傾斜している。
【0082】
上述の傾斜面63は、相反する方向に傾斜する2つのスラント部を有しており、これら各スラント部間には、第2フランジ部35の短手方向における末端側方向に向かうにつれて第1フランジ部15に向かう方向に傾斜する稜線R2が形成されている。
【0083】
このように形成された第2荷重伝達部60(第2ビード60B)は、第2パネル本体部34の第2側壁32と第2フランジ部35との間に設けられると共に、Y方向においては複数の接合部40,40間に設けられている。
【0084】
上述の第2荷重伝達部60におけるフランジ末端側の端部60aは、第2フランジ部35の短手方向、つまりX方向において、接合部40の角部側の端部40aと、当該接合部40の末端側の端部40bとの間の領域α(詳しくは、その延長線上のエリア内)に位置するように設けられている(
図3参照)。
【0085】
この実施例では、上記第2荷重伝達部60のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部60aは、当該第2荷重伝達部60にフランジ部の長手方向に隣接する接合部40であるナゲット40nの中央部40c同士を結ぶ仮想線β上に設けられている(
図3参照)。
また、
図6、
図7に示すように、第2荷重伝達部60の上記フランジ末端側端部60aと、上述の第1パネル部材10の荷重伝達部50の上記フランジ末端側端部50aとが略同じ位置に設けられている。
【0086】
さらに、
図7に示すように、第1パネル部材10側の荷重伝達部50および第2パネル部材30側の第2荷重伝達部60も共にビード50B,60Bで形成されており、これらの各ビード50B,60Bの内部空間54,64はX方向およびZ方向に連続している。そして、これらの各内部空間54,64には上述の接着材20が充填されている。
【0087】
このように、
図6、
図7で示した実施例3においては、上記第2パネル部材30には、第2パネル本体部34から第2角部37を介して延びる第2フランジ部35が設けられ、該第2フランジ部35が上記第1フランジ部15と対向配置され、上記第2パネル部材30は、上記第2パネル本体部34と上記第2フランジ部35との間に設けられて上記第2パネル本体部34(第2側壁32参照)との成す角度θ3が、上記第2パネル本体部34(第2側壁32参照)と上記第2フランジ部35の短手方向との成す角度(直角)よりも大きくなるように設定された第2荷重伝達部60を、上記接合部40の近傍に備え、上記第2荷重伝達部60のフランジ部の短手方向におけるフランジ末端側の端部60aと、上記第1パネル部材10の荷重伝達部50のフランジ末端側の端部50aとが略同じ位置に設けられたものである(
図6、
図7参照)。
【0088】
この構成によれば、第2パネル部材30に入力される剥離荷重F2も第2荷重伝達部60のフランジ末端側の端部60aに伝達される。第1パネル部材10の荷重伝達部50のフランジ末端側の端部50aと、第2パネル部材30の第2荷重伝達部60のフランジ末端側の端部60aとが略同じ位置に設けられているので、応力が集中する点を一局に集中させることができ、この結果、接合部40に対して確実に荷重分散することができる。
【0089】
また、この実施例3においては、上記荷重伝達部50および上記第2荷重伝達部60は共にビード50B,60Bで形成されており、上記接着材20は上記両ビード50B,60Bの連続する内部空間54,64に充填されたものである(
図7参照)。
【0090】
この構成によれば、第1パネル部材10と第2パネル部材30との双方にビード50B,60Bより成る荷重伝達部50、第2荷重伝達部60を備える構成において、接着材20が上記角部17,37のみならず、各ビード50B,60Bの内部空間54,64にも充填されているので、接着材20の角部側の端部に対する応力集中を抑制することができるうえ、接着材20による接合強度の向上を図ることができる。
【0091】
図6、
図7で示した実施例3においても、その他の構成および作用、効果については、先の実施例1と同様であるから、
図6、
図7において、前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【実施例4】
【0092】
図8はパネル接合構造のさらに他の実施例を示す斜視図である。
図8に示すこの実施例4では、
図1で示した実施例1、すなわち、ビード50BのY方向中央に稜線R1が形成された傾斜面53を有する荷重伝達部50(ビード50B)に代えて、フラット形状の傾斜面73を有する荷重伝達部70を採用したものである。
【0093】
すなわち、
図8に示すように、上述の第1パネル部材10には、上記接合部40の近傍に位置するように荷重伝達部70が設けられている。
上述の荷重伝達部70はビード70Bにより形成されており、この荷重伝達部70(ビード70B)は、パネル本体部14の第2側壁12と第1フランジ部15との間に設けられている。
【0094】
上述の荷重伝達部70の傾斜面73は、パネル本体部14の第2側壁12との成す角度θ4が、パネル本体部14の第2側壁12と、第1フランジ部15の短手方向との成す角度(直角)θ1よりも大きくなるように設定されている。
【0095】
この実施例4では、荷重伝達部70の傾斜面73と第2側壁12との成す角度θ4は、鈍角に設定されており、第1フランジ部15の短手方向と第2側壁12との成す角度θ1は90度に設定されている。つまり、θ4>θ1の関係式が成立するように形成されている。
【0096】
図8に示すように、上述の荷重伝達部70(ビード70B)は、Y方向に離間した一対の縦壁71,72と、これら縦壁71,72間を連結するフラット形状の傾斜面73と、を備えており、該傾斜面73は、第1フランジ部15の短手方向における末端側方向に向かうにつれて第2パネル部材30の第2フランジ部35に向かう方向に傾斜している。
【0097】
このように形成された荷重伝達部70(ビード70B)は、パネル本体部14の第2側壁12と第1フランジ部15との間に設けられると共に、Y方向においては複数の接合部40,40間に設けられている。
【0098】
図8に示すように、上述の荷重伝達部70におけるフランジ部短手方向のフランジ末端側端部70aは、第1フランジ部15の短手方向、つまりX方向において、接合部40の角部側の端部と、当該接合部40の末端側の端部との間の領域(詳しくは、その延長線上のエリア内)に位置するように設けられている。
この実施例では、上記荷重伝達部70のフランジ末端側の端部70aは、荷重伝達部70にフランジ部の長手方向に隣接する接合部40であるナゲット40n(前図参照)の中央部同士を結ぶ仮想線上に設けられている。
【0099】
また、上述の荷重伝達部70を形成するビード70Bは内部空間を有しており、この内部空間には上述の接着材20が充填されている。
この実施例4においても、剥離荷重を、荷重伝達部70を介して上述の接合部40に応力分散することができ、接着材20の角部側端部に入力される荷重の低減を図ることができる。
図8で示した実施例4においても、その他の構成および作用、効果については、先の実施例1と同様であるから、
図8において、前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【実施例5】
【0100】
図9はパネル接合構造を車両の前部車体構造に採用した実施例を示す斜視図である。
この実施例5において、第1パネル部材10はダッシュアッパパネルであり、第2パネル部材30はダッシュロアパネルである。
【0101】
エンジンルーム(電気自動車の場合は、モータルーム)と車室とを車両前後方向に仕切るダッシュロアパネル(第2パネル部材30)の上端部には、角部37を介して車両前方に延びる第2フランジ部35が形成されている。
一方、ダッシュアッパパネル(第1パネル部材10)のパネル本体部14の下端には、角部17を介して車両前方に延びる第1フランジ部15が形成されている。
【0102】
ダッシュロアパネル(第2パネル部材30)の第2フランジ部35の上部に、ダッシュアッパパネル(第1パネル部材10)の第1フランジ部15を接触させた状態で、これら両者35,15を接合する接合部40を設けている。
上述の接合部40は、各フランジ部35,15の長手方向、すなわち、車幅方向に間隔を隔てて複数設けられている。
【0103】
図9に示すように、ダッシュアッパパネル(第1パネル部材10)の角部17と、ダッシュロアパネル(第2パネル部材30)の角部37の長手方向に沿って連続して接着材20を設け、該接着材20にて第1フランジ部15と第2フランジ部35とを接着している。
【0104】
同図に示すように、ダッシュアッパパネル(第1パネル部材10)のパネル本体部14と第1フランジ部15との間には、ビード50Bにて形成された荷重伝達部50が設けられている。この荷重伝達部50は複数の接合部40,40間に位置するように、接合部40の近傍に設けられている。
【0105】
上述の荷重伝達部50は先の実施例同様に傾斜面53を有しており、この傾斜面53とパネル本体部14との成す角度が、第1フランジ部15の短手方向と、パネル本体部14との成す角度よりも大きくなるように形成されている。
【0106】
すなわち、第1フランジ部15の短手方向と、パネル本体部14との成す角度は約100度に形成されており、荷重伝達部50の傾斜面53と、パネル本体部14との成す角度は約100度よりもさらに大きい134度に形成されている。但し、上記角度の数値は一例であって、これに限定されるものではない。
【0107】
さらに、
図9に示すように、上述の荷重伝達部50のフランジ末端側の端部50aは、第1フランジ部15の短手方向において、接合部40の角部側の端部と、当該接合部40のフランジ短手方向における末端側の端部との間の領域(詳しくは、隣接する接合部40,40の領域同士を結ぶ延長エリア内)に位置するように設けられている。
【0108】
この実施例5では、先の実施例同様に、荷重伝達部50の上記フランジ末端側の端部50aは、荷重伝達部50のフランジ部の長手方向に隣接する接合部40の中央部同士を結ぶ仮想線上に設けられている。
また、上述の接着材20は、ビード50Bの内部空間全体に充填されている。
【0109】
このように、ダッシュアッパパネル(第1パネル部材10)に上記構成を採用している。このため、車両の通常走行時に、フロントサスペンションのダンパトップからダッシュアッパパネル(第1パネル部材10)に繰返し荷重が入力された際、接着材20の角部17側の端部への応力集中を抑制することができる。
すなわち、剥離荷重を、上述の荷重伝達部50を介して接合部40に応力分散することで、接着材20の角部側の端部に入力される荷重の低減を図ることができるものである。
【0110】
図9で示したこの実施例5においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例とほぼ同様であるから、
図9において、前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
なお、
図9において、矢印Fは車両前方を示し、矢印UPは車両上方を示す。
【0111】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明の接合部40は、実施例のスポット溶接によるナゲット40nに対応するが、上記接合部40は、機械接合、つまり、ボルト、ナット、リベット、セルフピアシング・リベット(self-piercing rivet、いわゆるSPR)による接合や片側機械接合、さらには、摩擦撹拌接合溶接およびレーザ溶接を含む。
【0112】
また、上記実施例においては、第1パネル部材10および第2パネル部材30を、スポット溶接が可能なように、共に鋼板製と成したが、パネル部材10,30は金属部材および繊維強化プラスチックを含み、また、鋼板同士、アルミ板同士のような同材接合と、鋼板とアルミ板との接合のような異材接合と、を含む。
【0113】
さらに、角部17は、パネル本体部14と第1フランジ部15とが直角に交わるものだけでなく、成形加工を可能とするために、パネル本体部14と第1フランジ部15とが湾曲形状部(いわゆるR部)を介して連結するものや、テーパ形状部を介して連結するものを含む。
【0114】
加えて、上述の接着材20には、エポキシ系に代表される構造用接着剤が用いられるが、エポキシ系に限らず、ウレタン系、アクリル系、変性シリコーン系等の構造用接着剤を用いてもよく、車体接合に用いられる接着剤であれば、種類は問わない。
この発明は、上述の各実施例の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0115】
以上説明したように、本発明は、パネル本体部と、該パネル本体部から角部を介して延びる第1フランジ部と、を備える第1パネル部材と、上記第1フランジ部と対向配置される第2パネル部材とを備え、上記第1パネル部材の第1フランジ部と上記第2パネル部材とを接合部および接着材により接合固定するようなパネル接合構造について有用である。
【符号の説明】
【0116】
10…第1パネル部材
14…パネル本体部
15…第1フランジ部
17…角部
20…接着材
30…第2パネル部材
34…第2パネル本体部
35…第2フランジ部
37…第2角部
40…接合部
40a…角部側端部
40b…末端側端部
40c…中央部
50,70…荷重伝達部
50a,60a,70a…フランジ末端側端部
50B,70B…ビード
53,63,73…傾斜面
54,64…内部空間
60…第2荷重伝達部
60B…第2ビード