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特許7537227液体吐出ヘッド、液体吐出装置およびアクチュエーター
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】液体吐出ヘッド、液体吐出装置およびアクチュエーター
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
B41J2/14 305
B41J2/14 607
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020178710
(22)【出願日】2020-10-26
(65)【公開番号】P2022069821
(43)【公開日】2022-05-12
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼部 本規
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-065269(JP,A)
【文献】特開2008-273185(JP,A)
【文献】特開2016-078439(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0164650(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板と第1電極と圧電体と第2電極とがこの順に第1方向に積層された液体吐出ヘッ
ドであって、
前記第1電極と前記第2電極との間に介在する前記圧電体の領域を第1領域とし、
前記第1領域以外の前記圧電体の領域を第2領域とし、
前記第1方向にみて前記第1領域と前記第2領域との境界に重なる前記振動板の部分を
第1部分とし、
前記第1部分とは異なり、かつ、前記第1方向にみて前記第1領域に重なる前記振動板
の部分を第2部分とするとき、
前記第1部分の厚さは、前記第2部分の厚さよりも小さ
前記振動板は、
第1層と、
前記第1層よりも前記第1方向に位置する第2層と、を有しており、
前記第1部分の前記第1層の厚さは、前記第2部分の前記第1層の厚さよりも小さく、
前記第1部分の前記第2層の厚さは、前記第2部分の前記第2層の厚さに等しい、
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項2】
振動板と第1電極と圧電体と第2電極とがこの順に第1方向に積層された液体吐出ヘッ
ドであって、
前記第1電極と前記第2電極との間に介在する前記圧電体の領域を第1領域とし、
前記第1領域以外の前記圧電体の領域を第2領域とし、
前記第1方向にみて前記第1領域と前記第2領域との境界に重なる前記振動板の部分を
第1部分とし、
前記第1部分とは異なり、かつ、前記第1方向にみて前記第1領域に重なる前記振動板
の部分を第2部分とするとき、
前記第1部分の厚さは、前記第2部分の厚さよりも小さく、
前記振動板よりも前記第1方向とは反対の第2方向に位置し、配列される複数の圧力室
を区画する圧力室基板をさらに有しており、
前記第1部分および前記第2部分は、前記複数の圧力室の配列方向に対して交差する方
向に互いに隣り合い、
前記第1部分は、前記第1方向にみて前記圧力室に重ならない、
ことを特徴とする液体吐出ヘッド。
【請求項3】
前記第1電極は、前記複数の圧力室に対して個別に設けられ、
前記第2電極は、前記複数の圧力室に対して共通に設けられる、
ことを特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項4】
前記第1電極は、前記複数の圧力室に対して共通に設けられ、
前記第2電極は、前記複数の圧力室に対して個別に設けられる、
ことを特徴とする請求項2に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項5】
前記振動板は、
第1面と、
前記第1面よりも前記第1方向に位置し、前記第1面とは反対側の第2面と、を有して
おり、
前記第1部分の前記第2面は、前記第2部分の前記第2面よりも、前記第1方向とは反
対の第2方向に位置する、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項6】
前記第1部分に対応する前記圧電体の部分の厚さは、前記第2部分に対応する前記圧電
体の部分の厚さよりも大きい、
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項7】
前記圧電体は、
第3面と、
前記第3面よりも前記第1方向に位置し、前記第3面とは反対側の第4面と、を有して
おり、
前記第1部分に対応する前記第3面の部分は、前記第2部分に対応する前記第3面の部
分よりも、前記第1方向とは反対の第2方向に位置する、
ことを特徴とする請求項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項8】
前記第1部分に対応する前記第4面の部分は、前記第2部分に対応する前記第4面の部
分よりも、前記第2方向に位置する、
ことを特徴とする請求項に記載の液体吐出ヘッド。
【請求項9】
請求項1からのいずれか1項に記載の液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドによる液体の吐出動作を制御する制御部と、を有する、
ことを特徴とする液体吐出装置。
【請求項10】
振動板と第1電極と圧電体と第2電極とがこの順に第1方向に積層されたアクチュエー
ターであって、
前記第1電極と前記第2電極との間に介在する前記圧電体の領域を第1領域とし、
前記第1領域以外の前記圧電体の領域を第2領域とし、
前記第1方向にみて前記第1領域と前記第2領域との境界に重なる前記振動板の部分を
第1部分とし、
前記第1部分とは異なり、かつ、前記第1方向にみて前記第1領域に重なる前記振動板
の部分を第2部分とするとき、
前記第1部分の厚さは、前記第2部分の厚さよりも小さ
前記振動板は、
第1層と、
前記第1層よりも前記第1方向に位置する第2層と、を有しており、
前記第1部分の前記第1層の厚さは、前記第2部分の前記第1層の厚さよりも小さく、
前記第1部分の前記第2層の厚さは、前記第2部分の前記第2層の厚さに等しい、
ことを特徴とするアクチュエーター。
【請求項11】
振動板と第1電極と圧電体と第2電極とがこの順に第1方向に積層されたアクチュエー
ターであって、
前記第1電極と前記第2電極との間に介在する前記圧電体の領域を第1領域とし、
前記第1領域以外の前記圧電体の領域を第2領域とし、
前記第1方向にみて前記第1領域と前記第2領域との境界に重なる前記振動板の部分を
第1部分とし、
前記第1部分とは異なり、かつ、前記第1方向にみて前記第1領域に重なる前記振動板
の部分を第2部分とするとき、
前記第1部分の厚さは、前記第2部分の厚さよりも小さく、
前記振動板よりも前記第1方向とは反対の第2方向に位置し、配列される複数の圧力室
を区画する圧力室基板をさらに有しており、
前記第1部分および前記第2部分は、前記複数の圧力室の配列方向に対して交差する方
向に互いに隣り合い、
前記第1部分は、前記第1方向にみて前記圧力室に重ならない、
ことを特徴とするアクチュエーター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体吐出ヘッド、液体吐出装置およびアクチュエーターに関する。
【背景技術】
【0002】
ピエゾ方式のインクジェットプリンター等の液体吐出装置は、圧電体を用いたアクチュエーターを有する。例えば、特許文献1に記載のアクチュエーターユニットは、振動板、下電極層、圧電体層および上電極層を有し、この順でこれらが積層される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-58467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のアクチュエーターユニットでは、圧電体層が下電極層と上電極層との間に挟まれる部分とそうでない部分とを有する。これらの部分の境界では、一方の部分が下電極層と上電極層との間の電界に応じて変形するのに対し、他方の部分が当該電界によりほとんど変形しないため、応力が集中する。従来では、当該応力により圧電体層にクラックが生じやすいという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本発明に係る液体吐出ヘッドの一態様は、振動板と第1電極と圧電体と第2電極とがこの順に第1方向に積層された液体吐出ヘッドであって、前記第1電極と前記第2電極との間に介在する前記圧電体の領域を第1領域とし、前記第1領域以外の前記圧電体の領域を第2領域とし、前記第1方向にみて前記第1領域と前記第2領域との境界に重なる前記振動板の部分を第1部分とし、前記第1部分とは異なり、かつ、前記第1方向にみて前記第1領域に重なる前記振動板の部分を第2部分とするとき、前記第1部分の厚さは、前記第2部分の厚さよりも小さい。
【0006】
本発明に係る液体吐出装置の一態様は、前述の態様の液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドによる液体の吐出動作を制御する制御部と、を有する。
【0007】
本発明に係るアクチュエーターの一態様は、振動板と第1電極と圧電体と第2電極とがこの順に第1方向に積層されたアクチュエーターであって、前記第1電極と前記第2電極との間に介在する前記圧電体の領域を第1領域とし、前記第1領域以外の前記圧電体の領域を第2領域とし、前記第1方向にみて前記第1領域と前記第2領域との境界に重なる前記振動板の部分を第1部分とし、前記第1部分とは異なり、かつ、前記第1方向にみて前記第1領域に重なる前記振動板の部分を第2部分とするとき、前記第1部分の厚さは、前記第2部分の厚さよりも小さい。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る液体吐出装置を模式的に示す構成図である。
図2】第1実施形態に係る液体吐出ヘッドの分解斜視図である。
図3図2中のA-A線断面図である。
図4】第1実施形態に係るアクチュエーターを示す平面図である。
図5図4中のA-A線断面図である。
図6図4中のB-B線断面図である。
図7図4中のC-C線断面図である。
図8図4中のD-D線断面図である。
図9】比較形態のアクチュエーターを振動板の第1部分で切断した断面図である。
図10】第2実施形態に係るアクチュエーターを振動板の第2部分で切断した断面図である。
図11】第2実施形態に係るアクチュエーターを振動板の第1部分で切断した断面図である。
図12】第3実施形態に係るアクチュエーターを振動板の第1部分で切断した断面図である。
図13】第4実施形態に係るアクチュエーターを振動板の第1部分で切断した断面図である。
図14】第5実施形態に係るアクチュエーターを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態を説明する。なお、図面において各部の寸法または縮尺は実際と適宜に異なり、理解を容易にするために模式的に示している部分もある。また、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られない。
【0010】
なお、以下の説明は、互いに交差するX軸、Y軸およびZ軸を適宜に用いて行う。また、X軸に沿う一方向をX1方向といい、X1方向と反対の方向をX2方向という。同様に、Y軸に沿って互いに反対の方向をY1方向およびY2方向という。また、Z軸に沿って互いに反対の方向をZ1方向およびZ2方向という。Z1方向は、「第1方向」の一例である。Z2方向は、「第2方向」の一例である。また、Z軸に沿う方向でみることを「平面視」という。
【0011】
ここで、典型的には、Z軸が鉛直な軸であり、Z2方向が鉛直方向での下方向に相当する。ただし、Z軸は、鉛直な軸でなくともよい。また、X軸、Y軸およびZ軸は、典型的には互いに直交するが、これに限定されず、例えば、80°以上100°以下の範囲内の角度で交差すればよい。
【0012】
1.実施形態
1-1.液体吐出装置の全体構成
図1は、第1実施形態に係る液体吐出装置100を模式的に示す構成図である。液体吐出装置100は、液体の一例であるインクを液滴として媒体12に吐出するインクジェット方式の印刷装置である。媒体12は、典型的には印刷用紙である。なお、媒体12は、印刷用紙に限定されず、例えば、樹脂フィルムまたは布帛等の任意の材質の印刷対象でもよい。
【0013】
図1に示すように、液体吐出装置100には、インクを貯留する液体容器14が装着される。液体容器14の具体的な態様としては、例えば、液体吐出装置100に着脱可能なカートリッジ、可撓性のフィルムで形成された袋状のインクパック、および、インクを補充可能なインクタンクが挙げられる。なお、液体容器14に貯留されるインクの種類は任意である。
【0014】
液体吐出装置100は、制御ユニット20と搬送機構22と移動機構24と液体吐出ヘッド26とを有する。制御ユニット20は、例えば、CPU(Central Processing Unit)またはFPGA(Field Programmable Gate Array)等の処理回路と半導体メモリー等の記憶回路とを含み、液体吐出装置100の各要素の動作を制御する。ここで、制御ユニット20は、「制御部」の一例であり、液体吐出ヘッド26によるインクの吐出動作を制御する。
【0015】
搬送機構22は、制御ユニット20による制御のもとで、媒体12をY2方向に搬送する。移動機構24は、制御ユニット20による制御のもとで、液体吐出ヘッド26をX1方向とX2方向とに往復させる。図1に示す例では、移動機構24は、液体吐出ヘッド26を収容するキャリッジと称される略箱型の搬送体242と、搬送体242が固定される搬送ベルト244と、を有する。なお、搬送体242に搭載される液体吐出ヘッド26の数は、1個に限定されず、複数個でもよい。また、搬送体242には、液体吐出ヘッド26のほかに、前述の液体容器14が搭載されてもよい。
【0016】
液体吐出ヘッド26は、制御ユニット20による制御のもとで、液体容器14から供給されるインクを複数のノズルのそれぞれから媒体12に向けてZ2方向に吐出する。この吐出が搬送機構22による媒体12の搬送と移動機構24による液体吐出ヘッド26の往復移動とに並行して行われることにより、媒体12の表面にインクによる画像が形成される。
【0017】
以上のように、液体吐出装置100は、液体吐出ヘッド26と、液体吐出ヘッド26によるインクの吐出動作を制御する「制御部」の一例である制御ユニット20と、を有する。
【0018】
1-2.液体吐出ヘッドの全体構成
【0019】
図2は、第1実施形態に係る液体吐出ヘッド26の分解斜視図である。図3は、図2のA-A線の断面図である。図2および図3に示すように、液体吐出ヘッド26は、流路基板32と圧力室基板34と振動板36と複数の圧電素子38と筐体部42と封止体44とノズル板46と吸振体48と配線基板50とを有する。なお、圧力室基板34と振動板36と複数の圧電素子38とでアクチュエーター30が構成される。
【0020】
ここで、流路基板32よりもZ1方向に位置する領域には、圧力室基板34と振動板36と複数の圧電素子38と筐体部42と封止体44とが設置される。他方、流路基板32よりもZ2方向に位置する領域には、ノズル板46と吸振体48とが設置される。液体吐出ヘッド26の各要素は、概略的にはY方向に長尺な板状部材であり、例えば接着剤により互いに接合される。
【0021】
図2に示すように、ノズル板46は、Y軸に沿う方向に配列される複数のノズルNが設けられる板状部材である。各ノズルNは、インクを通過させる貫通孔である。ノズル板46は、例えば、ドライエッチングまたはウェットエッチング等の加工技術を用いる半導体製造技術によりシリコン単結晶基板を加工することにより製造される。ただし、ノズル板46の製造には、他の公知の方法および材料が適宜に用いられてもよい。
【0022】
流路基板32は、インクの流路を形成するための板状部材である。図2および図3に示すように、流路基板32には、開口部322と複数の供給流路324と複数の連通流路326と中継流路328とが設けられる。開口部322は、複数のノズルNにわたり連続するように、Z軸に沿う方向でみた平面視で、Y軸に沿う方向に延びる長尺状の貫通孔である。他方、供給流路324および連通流路326それぞれは、ノズルNごとに個別に設けられる貫通孔である。中継流路328は、図3に示すように、流路基板32のZ2方向を向く面に設けられる。中継流路328は、複数の供給流路324にわたり設けられ、開口部322と複数の供給流路324とを連通させる流路である。流路基板32は、前述のノズル板46と同様に、例えば、半導体製造技術によりシリコン単結晶基板を加工することにより製造される。ただし、流路基板32の製造には、他の公知の方法および材料が適宜に用いられてもよい。
【0023】
圧力室基板34は、複数のノズルNに対応する複数の圧力室Cが形成される板状部材である。圧力室Cは、流路基板32と振動板36との間に位置し、当該圧力室C内に充填されるインクに圧力を付与するためのキャビティと称される空間である。複数の圧力室Cは、Y軸に沿う方向に配列される。各圧力室Cは、圧力室基板34の両面に開口する孔341で構成されており、X軸に沿う方向に延びる長尺状をなす。各圧力室CのX2方向での端は、対応する供給流路324に連通する。一方、各圧力室CのX1方向での端は、対応する連通流路326に連通する。圧力室基板34は、前述のノズル板46と同様に、例えば、半導体製造技術によりシリコン単結晶基板を加工することにより製造される。ただし、圧力室基板34のそれぞれの製造には、他の公知の方法および材料が適宜に用いられてもよい。
【0024】
圧力室基板34のZ1方向を向く面には、振動板36が配置される。振動板36は、弾性的に変形可能な板状部材である。図3に示す例では、振動板36は、弾性膜である第1層361と、絶縁膜である第2層362と、を有し、これらがこの順でZ1方向に積層される。なお、振動板36の詳細については、後述の1-3.において説明する。
【0025】
振動板36のZ1方向を向く面には、互いに異なるノズルNまたは圧力室Cに対応する複数の圧電素子38が配置される。各圧電素子38は、駆動信号の供給により変形する受動素子であり、X軸に沿う方向に延びる長尺状をなす。複数の圧電素子38は、複数の圧力室Cに対応するようにY軸に沿う方向に配列される。圧電素子38の変形に連動して振動板36が振動すると、圧力室C内の圧力が変動することにより、インクがノズルNから吐出される。なお、圧電素子38の詳細については、後述の1-3.において説明する。
【0026】
筐体部42は、複数の圧力室Cに供給されるインクを貯留するためのケースであり、流路基板32のZ1方向を向く面に接着剤等により接合される。筐体部42は、例えば、樹脂材料で構成されており、射出成形により製造される。筐体部42には、収容部422と導入口424とが設けられる。収容部422は、流路基板32の開口部322に対応する外形の凹部である。導入口424は、収容部422に連通する貫通孔である。開口部322および収容部422による空間は、インクを貯留するリザーバーである液体貯留室Rとして機能する。液体貯留室Rには、液体容器14からのインクが導入口424を介して供給される。
【0027】
吸振体48は、液体貯留室R内の圧力変動を吸収するための要素である。吸振体48は、例えば、弾性変形可能な可撓性のシート部材であるコンプライアンス基板である。ここで、吸振体48は、流路基板32の開口部322と中継流路328と複数の供給流路324とを閉塞して液体貯留室Rの底面を構成するように、流路基板32のZ2方向を向く面に配置される。
【0028】
封止体44は、複数の圧電素子38を保護するとともに圧力室基板34および振動板36の機械的な強度を補強する構造体である。封止体44は、振動板36の表面に例えば接着剤により接合される。封止体44には、複数の圧電素子38を収容する凹部が設けられる。
【0029】
圧力室基板34または振動板36のZ1方向を向く面には、配線基板50が接合される。配線基板50は、制御ユニット20と液体吐出ヘッド26とを電気的に接続するための複数の配線が形成される実装部品である。配線基板50は、例えば、FPC(Flexible Printed Circuit)またはFFC(Flexible Flat Cable)等の可撓性の配線基板である。配線基板50には、圧電素子38を駆動するための駆動信号が供給される。当該駆動信号は、配線基板50を介して各圧電素子38に供給される。
【0030】
1-3.アクチュエーターの詳細
図4は、第1実施形態に係るアクチュエーター30を示す平面図である。図5は、図4中のA-A線断面図である。図6は、図4中のB-B線断面図である。図7は、図4中のC-C線断面図である。図8は、図4中のD-C線断面図である。これらの図では、アクチュエーター30の構成が前述の図2および図3よりも詳細に示される。
【0031】
図5に示すように、アクチュエーター30は、圧力室基板34、振動板36および複数の圧電素子38のほか、配線層54と錘層55と錘層56とを有する。ここで、アクチュエーター30では、前述のように圧力室基板34、振動板36および複数の圧電素子38がこの順でZ1方向に積層されており、配線層54と錘層55と錘層56は、最もZ1方向に位置する層であり、同一の成膜工程により得られる。
【0032】
図4および図5に示すように、圧力室基板34には、圧力室Cを構成する孔341が設けられる。図4では、孔341の平面視形状が破線で示される。圧力室基板34は、例えば、シリコン単結晶基板を異方性エッチングすることにより形成される。当該異方性エッチングのエッチング液には、例えば、水酸化カリウム水溶液(KOH)等が用いられる。また、当該異方性エッチングでは、振動板36の第1層361がエッチング停止層として用いられる。
【0033】
図4に示す例では、孔341の平面視形状が平行四辺形である。このような平面視形状の孔341は、例えば、面方位(110)のシリコン単結晶基板を異方性エッチングすることにより形成される。なお、孔341の平面視形状は、図4に示す例に限定されず、任意である。
【0034】
図5に示すように、振動板36は、第1層361と第2層362とを有し、これらがこの順でZ1方向に積層される。第1層361は、例えば、酸化シリコン(SiO)で構成される弾性膜である。当該弾性膜は、例えば、シリコン単結晶基板の一方の面を熱酸化することにより形成される。第2層362は、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO)で構成される絶縁膜である。当該絶縁膜は、例えば、スパッタ法によりジルコニウムの層を形成し、当該層を熱酸化することにより形成される。
【0035】
なお、第1層361は、酸化シリコンに限定されず、例えば、シリコン単体等の他の弾性材料で構成されてもよい。第2層362の構成材料は、酸化ジルコニウムに限定されず、例えば、窒化シリコン等の他の絶縁材料でもよい。また、第1層361と第2層362との間には、金属酸化物等の他の層が介在してもよい。言い換えると、第1層361または第2層362が互いに同一または異なる複数の層で構成されてもよい。また、振動板36の一部または全部は、圧力室基板34と同一材料で一体に構成されてもよい。また、振動板36は、単一材料の層で構成されてもよい。
【0036】
以上の基本構成を有する振動板36は、平面視で互いに異なる領域に位置する部分として、図5に示すように、厚さtd1の第1部分PA1と、厚さtd1よりも厚い厚さtd2の第2部分PA2と、を有する。ここで、振動板36は、第1面F1および第2面F2を有しており、第2面F2に部分的な凹部363を設けることにより第1部分PA1が構成される。なお、第1面F1は、振動板36のZ2方向を向く面である。第2面F2は、振動板36のZ1方向を向く面である。
【0037】
本実施形態では、第1層361の厚さを部分的に薄くすることにより、第1部分PA1が構成される。すなわち、第1層361は、厚さtd11の部分と、厚さtd11よりも厚い厚さtd21の部分と、を有する。このような厚さtd11の部分を有する第1層361は、例えば、前述のように熱酸化により形成された弾性膜の一方の面の一部を、フッ酸を用いたエッチングまたはイオンミリング等により除去することにより得られる。
【0038】
一方、本実施形態では、第2層362の厚さは、均一である。このため、第1部分PA1の第2層362の厚さtd12と第2部分PA2の第2層362の厚さtd22とが互いに等しい。なお、振動板36に第1部分PA1および第2部分PA2を設けることができれば、第2層362の厚さは、均一でなくてもよい。
【0039】
第1部分PA1は、平面視で圧電体382の後述の第1領域RE1と第2領域RE2との境界BDに重なる振動板36の部分である。第1部分PA1は、平面視で圧力室Cに重ならない位置に配置される。
【0040】
本実施形態では、図4中の二点鎖線で示すように、第1部分PA1は、第1電極381ごとに分割され、Y軸に沿って並ぶ複数の部分で構成される。後述の第5実施形態のように第1部分PA1が複数の第1電極381に共通した1つの部分で構成されてもよいが、第1部分PA1が当該複数の部分で構成されることにより、ゾルゲル法またはMOD(metal organic decomposition)法を用いて圧電体382を形成する場合、第1部分PA1に対応する圧電体382の部分の厚さtp1を厚くしやすいという利点がある。
【0041】
第2部分PA2は、第1部分PA1とは異なり、かつ、平面視で圧電体382の第1領域RE1に重なる振動板36の部分である。第2部分PA2は、平面視で圧力室Cを包含する範囲にわたり配置される。なお、第2部分PA2は、図4および図5に示す範囲内の一部でもよい。
【0042】
図4に示すように、圧電素子38は、平面視で圧力室Cに重なる。図5に示すように、圧電素子38は、第1電極381と圧電体382と第2電極383とを有し、これらがこの順でZ1方向に積層される。
【0043】
なお、圧電素子38の層間、または圧電素子38と振動板36との間には、密着性を高めるための層等の他の層が適宜介在してもよい。また、第1電極381と圧電体382との間には、シード層が設けられてもよい。当該シード層は、圧電体382を形成する際に、圧電体382の配向性を向上させる機能を有する。当該シード層は、例えば、チタン(Ti)で構成されるか、または、Pb(Fe,Ti)O等のペロブスカイト構造を有する複合酸化物で構成される。当該シード層がチタンで構成される場合、圧電体382を形成する際に、島状のTiが結晶核となって圧電体382の配向性を向上させる。この場合、シード層は、例えば、スパッタ法等の公知の成膜技術、およびフォトリソグラフィおよびエッチング等を用いる公知の加工技術により3nm以上20nm以下程度の厚さで形成される。また、当該シード層が当該複合酸化物で構成される場合、圧電体382を形成する際に、圧電体382がシード層444の結晶構造の影響を受けることにより、圧電体382の配向性が向上する。この場合、シード層は、例えば、ゾルゲル法またはMOD(metal organic decomposition)法により複合酸化物の前駆体層を形成し、その前駆体層を焼成して結晶化することにより形成される。
【0044】
第1電極381は、圧電素子38ごとに互いに離間して配置される個別電極である。具体的には、X軸に沿う方向に延びる複数の第1電極381が、互いに間隔をあけてY軸に沿う方向に配列される。各圧電素子38の第1電極381には、当該圧電素子38に対応するノズルNからインクを吐出するための駆動信号が配線基板50を介して印加される。
【0045】
第1電極381は、例えば、チタン(Ti)で構成される第1層と、白金(Pt)で構成される第2層と、イリジウム(Ir)で構成される第3層と、を有し、これらがこの順でZ1方向に積層される。第1電極381は、例えば、スパッタ法等の公知の成膜技術、およびフォトリソグラフィおよびエッチング等を用いる公知の加工技術により形成される。
【0046】
ここで、前述の第1層は、振動板36に対する第1電極381の密着性を向上させる密着層として機能する。第1層の厚さは、特に限定されないが、例えば、3nm以上50nm以下程度である。なお、第1層の構成材料は、チタンに限定されず、例えば、チタンに代えて、クロムを用いてもよい。
【0047】
また、前述の第2層および第3層を構成する金属は、ともに導電性に優れた電極材料であり、かつ、互いに化学的性質が近い。このため、第1電極381の電極としての特性を優れたものとすることができる。第2層の厚さは、特に限定されないが、例えば、50nm以上200nm以下程度である。第3層の厚さは、特に限定されないが、例えば、4nm以上20nm以下程度である。
【0048】
なお、第1電極381の構成は、前述の例に限定されない。例えば、前述の第2層または第3層のいずれかが省略されてもよいし、前述の第1層と第2層との間に、イリジウムで構成された層がさらに設けられてもよい。また、第2層および第3層に代えて、または、第2層および第3層に加えて、イリジウムおよび白金以外の電極材料で構成された層が用いられてもよい。当該電極材料としては、例えば、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、金(Au)、銅(Cu)等の金属材料が挙げられ、これらのうち、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を積層または合金等の形態で組み合わせて用いてもよい。
【0049】
以上の第1電極381は、圧電体382よりもX1方向の位置に引き出されており、第1電極381には、配線層54が接続される。配線層54は、第1電極381ごとに圧電素子38からX1方向に延びる導電膜であり、第1電極381と配線基板50とを接続する配線として機能する。図5に示す例では、配線層54は、層541と層542とを有し、これらがこの順でZ1方向に積層される。層541は、配線層54と圧電素子38との密着性を高めるための層であり、例えば、ニッケルクロム合金で構成される。層542は、配線層54の導電性を高めるための層であり、例えば、金(Au)で構成される。
【0050】
圧電体382は、第1電極381と第2電極383との間に配置される。圧電体382は、複数の圧電素子38にわたり連続するようにY軸に沿う方向に延びる帯状をなす。図4に示す例では、圧電体382には、互いに隣り合う各圧力室Cの間隙に平面視で対応する領域に、圧電体382を貫通する貫通孔443aがX軸に沿う方向に延びて設けられる。なお、圧電体382は、複数の圧電素子38に個別に設けられてもよい。
【0051】
圧電体382は、一般組成式ABOで表されるペロブスカイト型結晶構造を有する圧電材料で構成される。当該圧電材料としては、例えば、チタン酸鉛(PbTiO)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O)、ジルコニウム酸鉛(PbZrO)、チタン酸鉛ランタン((Pb,La),TiO)、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン((Pb,La)(Zr,Ti)O)、ニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti,Nb)O)、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛(Pb(Zr,Ti)(Mg,Nb)O)等が挙げられる。中でも、圧電体382の構成材料には、チタン酸ジルコン酸鉛が好適に用いられる。なお、圧電体382には、不純物等の他の元素が少量含まれてもよい。また、圧電体382を構成する圧電材料は、チタン酸バリウム等の非鉛材料でもよい。
【0052】
圧電体382は、例えば、ゾルゲル法またはMOD(metal organic decomposition)法等の液相法により圧電体の前駆体層を形成し、その前駆体層を焼成して結晶化することにより形成される。ここで、圧電体382は、単層で構成されてもよいが、複数層で構成される場合、圧電体382の厚さを厚くしても、圧電体382の特性を高めやすいという利点がある。
【0053】
第2電極383は、複数の圧電素子38にわたり連続するようにY軸に沿う方向に延びる帯状の共通電極である。第2電極383には、所定の基準電圧が印加される。
【0054】
第2電極383は、例えば、イリジウム(Ir)で構成される層と、チタン(Ti)で構成される層と、を有し、これらがこの順でZ1方向に積層される。第2電極383は、例えば、スパッタ法等の公知の成膜技術、およびフォトリソグラフィおよびエッチング等を用いる公知の加工技術により形成される。
【0055】
なお、第2電極383の構成材料は、イリジウムおよびチタンに限定されず、例えば、白金(Pt)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、金(Au)または銅(Cu)等の金属材料でもよい。また、第2電極383は、これらの金属材料のうち、1種を単独で用いて構成されてもよいし、2種以上を積層または合金等の形態で組み合わせて用いて構成されてもよい。また、第2電極383が単層で構成されてもよい。ただし、第2電極383としてイリジウム、あるいは化学量論組成よりも酸素の含有量が少ない酸化イリジウムが含まれることが好ましい。
【0056】
以上の第2電極383上には、錘層55および錘層56が配置される。錘層55および錘層56は、振動板36の不要な振動を抑制するための錘である。具体的には、錘層55は、第2電極383のX1方向での端縁に沿ってY軸に沿って延びる帯状の導電膜である。図5に示す例では、錘層55は、層541と同一の成膜工程により得られる層551と、層542と同一の成膜工程より得られる層552と、を有し、これらがこの順でZ1方向に積層される。錘層56は、第2電極383のX2方向での端縁に沿ってY軸に沿って延びる帯状の導電膜である。図5に示す例では、錘層55は、層541と同一の成膜工程により得られる層551と、層542と同一の成膜工程より得られる層552と、を有し、これらがこの順でZ1方向に積層される。
【0057】
以上の基本構成を有する圧電素子38では、圧電体382が、第1電極381と第2電極383との間に介在する第1領域RE1と、第1領域RE1以外の第2領域RE2と、を有する。言い換えると、第1領域RE1は、Z軸に沿った方向において、圧電体382が、第1電極381と第2電極383に挟まれる領域である。また、第2領域RE2は、Z軸に沿った方向において、圧電体382が、第1電極381と第2電極383に挟まれない領域である。
【0058】
ここで、第1電極381、圧電体382および第2電極383のそれぞれのX軸に沿う長さが圧力室CのX軸に沿う長さよりも長く、かつ、第1電極381、圧電体382および第2電極383のそれぞれのX1方向およびX2方向での端が平面視で圧力室Cの外側に位置する。
【0059】
特に、第1電極381のX1方向での端は、前述の配線基板50と接続する必要があることから、圧電体382のX1方向での端よりもX1方向に位置する。また、圧電体382のX1方向での端は、第1電極381と第2電極383との間の絶縁性を確保する必要があることから、第2電極383のX1方向での端よりもX1方向に位置する。さらに、第2電極383のX1方向での端は、圧力室CのX軸に沿う方向での全域にわたり圧電体382に電界を印加する必要があることから、圧力室CのX1方向での端よりもX1方向に位置する。これらのX1方向での端の位置関係から、第1領域RE1と第2領域RE2との境界BDは、振動板36を介した圧力室基板34との接合により変形の拘束を受ける圧電体382の部分に位置する。
【0060】
アクチュエーター30では、前述のように振動板36が第1部分PA1および第2部分PA2を有することにより、振動板36および圧電体382を含む積層体の中立軸が部分的に圧電体382に近づくようにシフトするため、第1領域RE1と第2領域RE2との境界BDに生じる応力集中が低減される。
【0061】
そのうえ、振動板36が第1部分PA1および第2部分PA2を有することに伴い、第1部分PA1に対応する圧電体382の部分の厚さtp1は、第2部分PA2に対応する圧電体382の部分の厚さtp2よりも厚い。このため、第1部分PA1に対応する圧電体382の部分は、第2部分PA2に対応する圧電体382の部分に比べて、第1電極381と第2電極383との間に印加される電界により変形し難い。この結果、境界BDへの応力集中が低減される。また、第1部分PA1に対応する圧電体382の部分は、第2部分PA2に対応する圧電体382の部分に比べて、剛性が高いので、優れた機械的強度を有する。このため、境界BDに応力が集中したとしても、圧電体382にクラックが生じ難い。
【0062】
ここで、第1部分PA1に対応する圧電体382の部分とは、平面視で第1部分PA1に重なる圧電体382の部分である。同様に、第2部分PA2に対応する圧電体382の部分とは、平面視で第2部分PA2に重なる圧電体382の部分である。また、圧電体382は、第3面F3および第4面F4を有しており、第3面F3には、第1部分PA1の第2面F2に形成される凹部363と相補的な形状の凸部が設けられる。すなわち、第1部分PA1に対応する第3面F3の部分は、第2部分PA2に対応する第3面F3の部分よりもZ2方向に位置する。当該凸部により、前述の厚さtp1および厚さtp2の関係が実現される。なお、第3面F3は、圧電体382のZ2方向を向く面である。第4面F4は、圧電体382のZ1方向を向く面である。
【0063】
本実施形態では、図7に示すように、第4面F4には、第1部分PA1の第2面F2に形成される凹部363と平面視で重なる領域に凹部363よりも浅い凹部が設けられる。すなわち、第1部分PA1に対応する第4面F4の部分は、第2部分PA2に対応する第4面F4の部分よりもZ2方向に位置する。このように第4面F4に凹部が形成されることにより、前述の封止体44等の部材と第4面F4とを接合する接着剤の接着力を高めることができる。なお、第4面F4は、前述の凹部を有しなくてもよく、例えば、実質的な平坦面であってもよい。
【0064】
第1部分PA1の厚さtp1と第2部分PA2の厚さtp2との差は、特に限定されないが、本実施形態では、振動板36の厚さよりも小さく、より具体的には、第1層361の厚さよりも小さい。当該差が振動板36の厚さよりも小さくことにより、振動板36の第2面F2に形成される凹部を用いて当該差を実現することができる。また、当該差が第1層361の厚さよりも小さいことにより、第1層361のみの加工により当該差を実現することができる。なお、前述の第4面F4に形成される凹部が微小であるため、当該差は、概略的には、振動板36の第2面F2に形成される凹部363の深さに等しい。
【0065】
以上の第1部分PA1および第2部分PA2の厚さの相違は、例えば、前述のようにゾルゲル法またはMOD(metal organic decomposition)法等の液相法を用いて圧電体382を形成する際、圧電体の前駆体層を形成する液体が振動板36の第2面F2に沿って濡れ拡がることにより実現される。
【0066】
図9は、本実施形態に対する比較形態でのアクチュエーター30Xを示す断面図である。図9では、アクチュエーター30Xが図7に対応する断面で示される。アクチュエーター30Xが有する振動板36Xの厚さtdxは、一定である。このため、振動板36X上にゾルゲル法またはMOD(metal organic decomposition)法等の液相法を用いて圧電体382Xを形成すると、圧電体の前駆体層を形成する液体が振動板36Xの第2面F2に沿って濡れ拡がることにより、第1電極381の厚さに起因して、圧電体382Xの厚さtpxが部分的に薄くなってしまう。このように圧電体382の厚さが薄くなることを低減するべく、第1部分PA1の厚さtp1と第2部分PA2の厚さtp2との差は、第1電極381の厚さよりも大きいことが好ましい。
【0067】
以上のように、液体吐出ヘッド26は、アクチュエーター30を有する。アクチュエーター30では、前述のように、振動板36と第1電極381と圧電体382と第2電極383とが、この順に、「第1方向」の一例であるZ1方向に積層される。
【0068】
特に、振動板36の第1部分PA1の厚さtd1は、振動板36の第2部分PA2の厚さtd2よりも小さい。ここで、第1部分PA1は、Z1方向にみて圧電体382の第1領域RE1と第2領域RE2との境界BDに重なる振動板36の部分である。第2部分PA2は、第1部分PA1とは異なる振動板36の部分である。第1領域RE1は、第1電極381と第2電極383との間に介在する圧電体382の領域である。第2領域RE2は、第1領域RE1以外の圧電体382の領域である。
【0069】
以上のアクチュエーター30または液体吐出ヘッド26では、第1部分PA1の厚さtd1が第2部分PA2の厚さtd2よりも小さいので、厚さtd1が厚さtd2以上である構成に比べて、第1部分PA1および圧電体382を含む積層体の中立軸を圧電体382に近づけることができる。このため、厚さtd1が厚さtd2以上である構成に比べて、当該積層体の圧電体382に生じる応力を低減することができる。この結果、圧電体382の境界BDでのクラックを低減することができる。
【0070】
ここで、前述のように、振動板36は、第1面F1と、第1面F1よりもZ1方向に位置し、第1面F1とは反対側の第2面F2と、を有する。そして、第1部分PA1の第2面F2は、第2部分PA2の第2面F2よりも、「第1方向とは反対の第2方向」の一例であるZ2方向に位置する。言い換えると、第2面F2には、第1部分PA1に、第2部分PA2よりも窪んだ凹部363が設けられる。このため、第1部分PA1の厚さtd1を第2部分PA2の厚さtd2よりも小さくすることができる。
【0071】
なお、第1部分PA1の第1面F1を第2部分PA2の第1面F1よりもZ1方向に位置させることによっても、第1部分PA1の厚さtd1を第2部分PA2の厚さtd2よりも小さくすることができる。ただし、この場合、第1部分PA1の第2面F2が第2部分PA2の第2面F2よりもZ2方向に位置する場合に比べて、振動板36の製造が容易でない。
【0072】
また、前述のように、振動板36は、第1層361と、第1層361よりもZ1方向に位置する第2層362と、を有する。そして、第1部分PA1の第1層361の厚さtd11は、第2部分PA2の第1層361の厚さtd21よりも小さい。このため、第2層362の厚さが均一であっても、第1部分PA1の厚さtd1を第2部分PA2の厚さtd2よりも小さくすることができる。また、厚さtd11と厚さtd21との差に起因して第1層361に形成される段差による角が第2層362に覆われることにより緩和される。この結果、当該角による圧電体382への応力集中を低減することができる。
【0073】
本実施形態では、前述のように、第2層362の厚さが均一である。このため、第1部分PA1の第2層362の厚さtd12は、第2部分PA2の第2層362の厚さtd22に等しい。このため、第2層362に対するエッチング等の加工が不要である。また、厚さtd12が厚さtd22と異なる構成に比べて、第2層362に形成される段差による角を低減することができる。なお、ここで、「等しい」とは、厳密に等しい場合のほか、製造誤差程度の差を有する場合も含む概念である。
【0074】
また、前述のように、第1部分PA1に対応する圧電体382の部分の厚さtp1は、第2部分PA2に対応する圧電体382の部分の厚さtp2よりも大きい。したがって、第1部分PA1に対応する圧電体382の部分を挟む第1電極381と第2電極383との間の距離は、第2部分PA2に対応する圧電体382の部分を挟む第1電極381と第2電極383との間の距離よりも大きい。このため、第1電極381と第2電極383との間に電界が印加されたとき、第1部分PA1に対応する圧電体382の部分の変形を、第2部分PA2に対応する圧電体382の部分の変形よりも小さくすることができる。この結果、圧電体382の第1領域RE1と第2領域RE2との境界BDでのクラックを好適に低減することができる。
【0075】
また、前述のように、圧電体382は、第3面F3と、第3面F3よりもZ1方向に位置し、第3面F3とは反対側の第4面F4と、を有する。そして、第1部分PA1に対応する第3面F3の部分は、第2部分PA2に対応する第3面F3の部分よりも、「第1方向とは反対の第2方向」の一例であるZ2方向に位置する。このため、第4面F4が平坦面またはそれに近い平坦性の面であっても、第1部分PA1に対応する圧電体382の部分の厚さtp1を、第2部分PA2に対応する圧電体382の部分の厚さtp2よりも大きくすることができる。
【0076】
本実施形態では、前述のように、第1部分PA1に対応する第4面F4の部分は、第2部分PA2に対応する第4面F4の部分よりも、Z2方向に位置する。すなわち、第4面F4には、第1部分PA1に対応する部分に、第2部分PA2に対応する部分よりも窪んだ凹部が設けられる。当該凹部は、例えば、第4面F4に前述の封止体44等の部材を接着剤により接合する場合、当該接着剤の接着力を高める。なお、第4面F4は、実質的な凹凸のない平坦面であってもよい。
【0077】
前述のように、液体吐出ヘッド26またはアクチュエーター30は、振動板36よりもZ1方向とは反対のZ2方向に位置し、配列される複数の圧力室Cを区画する圧力室基板34を有する。そして、第1部分PA1および第2部分PA2は、複数の圧力室Cの配列方向であるY1方向またはY2方向に対して交差する方向であるX1方向またはX2方向に互いに隣り合う。
【0078】
本実施形態では、前述のように、第1電極381は、複数の圧力室Cに対して個別に設けられる。これに対し、第2電極383は、複数の圧力室Cに対して共通に設けられる。ここで、X1方向およびX2方向のそれぞれにおいて、第1電極381および第2電極383のそれぞれの端が圧力室Cの外側に位置する。また、第1電極381のX1方向での端は、第2電極383のX1方向での端よりもX1方向に位置する。したがって、境界BDが平面視で圧力室基板34の圧力室Cのない部分に重なる。言い換えると、境界BDが平面視で圧力室Cに重ならない。このため、境界BDが平面視で圧力室Cに重なる構成に比べて、圧電体382の第1領域RE1と第2領域RE2との変形差を低減することができる。このような観点から、前述のように、第1部分PA1は、X1方向にみて圧力室Cに重ならない。
【0079】
2.第2実施形態
以下、本発明の第2実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0080】
図10は、第2実施形態に係るアクチュエーター30Aを振動板36の第2部分PA2で切断した断面図である。図11は、第2実施形態に係るアクチュエーター30Aを振動板36の第1部分PA1で切断した断面図である。アクチュエーター30Aは、圧電素子38に代えて圧電素子38Aを有する以外は、前述の第1実施形態のアクチュエーター30と同様である。圧電素子38Aは、第1電極381および第2電極383に代えて第1電極381Aおよび第2電極383Aを有する以外は、圧電素子38と同様である。
【0081】
図10および図11に示すように、第1電極381Aは、複数の圧電素子38Aにわたり連続するようにY軸に沿う方向に延びる帯状の共通電極である。一方、第2電極383Aは、圧電素子38Aごとに互いに離間して配置される個別電極である。ここで、前述の第1実施形態と同様、第1部分PA1に対応する圧電体382の部分の厚さtp1は、第2部分PA2に対応する圧電体382の部分の厚さtp2よりも厚い。
【0082】
以上の第2実施形態によっても、前述の第1実施形態と同様、圧電体382のクラックを低減することができる。本実施形態では、第1電極381Aは、複数の圧力室Cに対して共通に設けられる。これに対し、第2電極383Aは、複数の圧力室Cに対して個別に設けられる。このため、振動板36の第2面F2に形成される凹部363による角が第2電極383Aに覆われることにより緩和される。この結果、当該角による圧電体382への応力集中を低減することができる。
【0083】
3.第3実施形態
以下、本発明の第3実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0084】
図12は、第3実施形態に係るアクチュエーター30Bを振動板36Bの第1部分PA1で切断した断面図である。アクチュエーター30Bは、振動板36に代えて振動板36Bを有する以外は、前述の第1実施形態のアクチュエーター30と同様である。振動板36Bは、第1層361に代えて層361aおよび層361bを有する以外は、振動板36と同様である。
【0085】
図12に示すように、層361aおよび層361bは、この順でZ1方向に積層される。層361aおよび層361bのそれぞれは、例えば、前述の第1層361と同様、酸化シリコン(SiO)で構成される弾性膜である。ただし、層361aには、第1部分PA1に対応する領域を貫通する開口が設けられる。これに対し、層361bは、一様な厚さで設けられる。このような層361aおよび層361bによっても、第1実施形態と同様に第2面F2に凹部363を設けることができる。また、層361aは、例えば、圧力室基板34をエッチングのストップ層として用いたエッチングにより形成される。なお、層361aおよび層361bからなる積層体は、「第1層」として捉えてもよい。
【0086】
以上の第3実施形態によっても、前述の第1実施形態と同様、圧電体382のクラックを低減することができる。本実施形態では、圧力室基板34をエッチングのストップ層として用いたエッチングにより層361aを形成することにより、第1実施形態のようなハーフエッチングを用いる構成に比べて、第1部分PA1を形成することができる。
【0087】
4.第4実施形態
以下、本発明の第4実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0088】
図13は、第4実施形態に係るアクチュエーター30Cを振動板36Cの第1部分PA1で切断した断面図である。アクチュエーター30Cは、振動板36に代えて振動板36Cを有する以外は、前述の第1実施形態のアクチュエーター30と同様である。振動板36Cは、第1層361および第2層362に代えて第1層361Cおよび第2層362Cを有する以外は、振動板36と同様である。
【0089】
図12に示すように、第1層361Cおよび第2層362Cは、この順でZ1方向に積層される。第1層361Cは、例えば、前述の第1層361と同様、酸化シリコン(SiO)で構成される弾性膜である。ただし、第1層361Cは、一様な厚さで設けられる。これに対し、第2層362Cは、例えば、窒化シリコン(SiN)で構成される絶縁膜である。第2層362Cには、第1部分PA1に対応する領域を貫通する開口が設けられる。このような第1層361Cおよび第2層362Cによっても、第1実施形態と同様に第2面F2に凹部363を設けることができる。また、第2層362Cは、例えば、第1層361Cをエッチングのストップ層として用いたエッチングにより形成される。
【0090】
以上の第4実施形態によっても、前述の第1実施形態と同様、圧電体382のクラックを低減することができる。本実施形態では、第1層361Cをエッチングのストップ層として用いたエッチングにより第2層362Cを形成することにより、第1実施形態のようなハーフエッチングを用いる構成に比べて、第1部分PA1を形成することができる。
【0091】
5.第5実施形態
以下、本発明の第5実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0092】
図14は、第5実施形態に係るアクチュエーター30Dを示す平面図である。アクチュエーター30Dは、第1部分PA1の形状が異なる以外は、前述の第1実施形態のアクチュエーター30と同様である。アクチュエーター30Dは、振動板36および圧電素子38に代えて振動板36Dおよび圧電素子38Dを有する以外は、前述の第1実施形態と同様である。振動板36Dは、凹部363に代えて凹部363Dを有する以外は、振動板36と同様である。圧電素子38Dは、圧電体382に代えて圧電体382Dを有する以外は、圧電素子38と同様である。
【0093】
本実施形態の第1部分PA1は、図14中の二点鎖線で示すように、凹部383Dを設けることにより構成される。ここで、第1部分PA1は、複数の第1電極381に共通して設けられ、Y軸に沿って延びる帯状をなす。このような第1部分PA1に対応する圧電体382Dの部分の厚さは、圧電体382Dの他の部分よりも厚い。
【0094】
以上の第5実施形態によっても、前述の第1実施形態と同様、圧電体382のクラックを低減することができる。本実施形態では、前述の第1実施形態のように第1部分PA1が第1電極381ごとに個別に設けられる構成に比べて、第1部分PA1に要求される位置精度が低いため、アクチュエーター30Dの製造が容易である。
【0095】
6.変形例
以上の例示における各形態は多様に変形され得る。前述の各形態に適用され得る具体的な変形の態様を以下に例示する。なお、以下の例示から任意に選択される2以上の態様は、互いに矛盾しない範囲で適宜に併合され得る。
【0096】
6-1.変形例1
前述の各形態では、第2領域RE2が第1領域RE1よりもX1方向に位置する構成が例示されるが、当該構成に限定されず、第2領域RE2が第1領域RE1よりもX2方向に位置してもよい。この場合、第1部分PA1が第2部分PA2よりもX2方向に位置する。
【0097】
6-2.変形例2
前述の形態では、アクチュエーターが液体吐出ヘッドに搭載される構成が例示されるが、アクチュエーターを搭載する機器等は、液体吐出ヘッドに限定されず、例えば、圧電アクチュエーター等の他の駆動デバイスでもよい。
【0098】
6-3.変形例3
前述の形態では、個別電極と共通電極との間に圧電体が介在する構成が例示されるが、これに限定されず、個別電極と個別電極との間に圧電体が介在する構成でもよい。
【0099】
6-4.変形例4
前述の各形態では、液体吐出ヘッド26を搭載する搬送体242を往復させるシリアル方式の液体吐出装置100を例示するが、複数のノズルNが媒体12の全幅にわたり分布するライン方式の液体吐出装置にも本発明を適用することが可能である。
【0100】
6-5.変形例5
前述の各形態で例示する液体吐出装置100は、印刷に専用される機器のほか、ファクシミリ装置やコピー機等の各種の機器に採用され得る。もっとも、本発明の液体吐出装置の用途は印刷に限定されない。例えば、色材の溶液を吐出する液体吐出装置は、液晶表示装置のカラーフィルターを形成する製造装置として利用される。また、導電材料の溶液を吐出する液体吐出装置は、配線基板の配線や電極を形成する製造装置として利用される。
【符号の説明】
【0101】
20…制御ユニット(制御部)、26…液体吐出ヘッド、30…アクチュエーター、30A…アクチュエーター、30B…アクチュエーター、30C…アクチュエーター、30D…アクチュエーター、30X…アクチュエーター、34…圧力室基板、36…振動板、36B…振動板、36C…振動板、36D…振動板、100…液体吐出装置、361…第1層、361C…第1層、361a…層(第1層)、361b…層(第1層)、362…第2層、362C…第2層、381…第1電極、381A…第1電極、382…圧電体、382D…圧電体、383…第2電極、383A…第2電極、BD…境界、C…圧力室、F1…第1面、F2…第2面、F3…第3面、F4…第4面、PA1…第1部分、PA2…第2部分、RE1…第1領域、RE2…第2領域、td1…厚さ、td11…厚さ、td12…厚さ、td2…厚さ、td21…厚さ、td22…厚さ、tdx…厚さ、tp1…厚さ、tp2…厚さ、tpx…厚さ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14