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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】自動変速機
(51)【国際特許分類】
   F16D 25/12 20060101AFI20240814BHJP
   F16D 25/0638 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
F16D25/12 D
F16D25/0638
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020192614
(22)【出願日】2020-11-19
(65)【公開番号】P2022081212
(43)【公開日】2022-05-31
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100197561
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 三喜男
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 龍彦
(72)【発明者】
【氏名】溝部 龍利
(72)【発明者】
【氏名】中村 惠一
【審査官】鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-516558(JP,A)
【文献】特開2006-071046(JP,A)
【文献】特開平10-339368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00-23/14,
25/00-39/00,
48/00-48/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと変速機構との間に配置されて、前記エンジンと前記変速機構との動力を断接する発進クラッチを備えた自動変速機であって、
前記発進クラッチは、
前記エンジンに接続されて径方向内側に位置する内側円筒部を有するクラッチハブと、
前記変速機構に接続されて前記内側円筒部の前記径方向外側に配置された外側円筒部を有するクラッチドラムと、
前記クラッチハブと前記クラッチドラムとの間で軸方向に摺動可能に設けられた摩擦板と、
前記摩擦板を軸方向の一方側から押圧するピストンとを備え、
前記クラッチドラムの外周には、軸方向に延びると共に周方向に交互に設けられた凹部と凸部によって形成された凹凸部が設けられ、
前記クラッチドラムの径方向外側には、前記凹凸部を検出する回転数センサが設けられ
前記発進クラッチは、前記ピストンを前記摩擦板方向に付勢する作動油が供給される油圧室を備え、
前記クラッチドラムは、前記外側円筒部の前記軸方向の一方側の端部から径方向内側に延びる円板状の第1径方向部と、前記第1径方向部の径方向内側の端部から前記軸方向の他方側に延びる櫛歯状の軸方向部と、前記軸方向部の前記軸方向の他方側の端部から径方向内側に延びる円板状の第2径方向部とを有し、
前記ピストンは、前記第1径方向部と前記摩擦板との間に配置されて前記摩擦板を押圧する円板状の押圧部と、前記押圧部よりも径方向内側に延びる円板状のピストン径方向部とを有し、
前記油圧室は、前記クラッチドラムの前記軸方向部よりも径方向内側、かつ、前記ピストン径方向部の反摩擦板側に設けられ、
前記ピストン径方向部の径方向中間部には櫛歯部が設けられると共に、前記軸方向部と前記ピストン径方向部とが互いに櫛歯状に交差する自動変速機。
【請求項2】
前記クラッチドラムは、プレス加工によって成形されたプレス成形品から成り、
前記外側円筒部の内周面には、前記摩擦板を係合する内側スプライン部が形成され、
前記外側円筒部の外周面には、前記内側スプライン部に対応した外側スプライン部が形成され、
前記凹凸部は、前記外側スプライン部によって形成される請求項1に記載の自動変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に搭載される自動変速機では、一般に、複数の遊星歯車機構を用いた変速機構の動力伝達経路をクラッチやブレーキ等の複数の摩擦締結要素の選択的締結によって切り換え、車両の運転状態に応じた変速段が形成される。
【0003】
エンジンに連結された自動変速機を有する車両では、エンジンの各気筒における間欠的な爆発に起因してエンジンの出力軸にトルク変動が生じ、例えば直列4気筒4サイクルエンジンではエンジンの出力軸が1回転する間に2回のトルク変動が生じ、このトルク変動がエンジンから自動変速機に伝達されることとなる。
【0004】
自動変速機は、エンジンから駆動輪に動力を伝達する動力伝達経路を形成する複数の回転要素のうち、エンジンに接続される入力部材に連結された回転要素と駆動輪に接続される出力部材に連結された回転要素とを除く非拘束状態(フリー状態)とされる複数の回転要素を有している。
【0005】
自動変速機が、複数の摩擦締結要素が解放状態とされてエンジンから駆動輪に動力を伝達しないニュートラル状態にあるときに、非拘束状態とされる複数の回転要素は、停止又は他の回転要素の回転に伴って回転されることとなるが、流体伝動装置を設けることなくエンジンに連結された自動変速機の入力部材側からエンジンのトルク変動が伝達されると回転要素自体もトルク変動されるようになる。
【0006】
近年、自動変速機の変速段が多段化する傾向がある。自動変速機の多段化に伴って遊星歯車機構や摩擦締結要素の数が多くなると、各回転要素の重量が大きくなって自動変速機がニュートラル状態にあるときに非拘束状態とされる回転要素の慣性質量が大きくなることがある。
【0007】
自動変速機がニュートラル状態にあるときに非拘束状態とされる遊星歯車機構の回転要素の慣性質量が大きくなると、自動変速機の入力部材側にある遊星歯車機構の入力要素からエンジンのトルク変動が伝達されるときに前記回転要素が反力要素となって自動変速機の出力部材側にある遊星歯車機構の出力要素にトルク変動が伝達され、自動変速機の出力部材側にトルク変動が伝達されるおそれがある。エンジンのトルク変動が自動変速機の出力部材側に伝達されると、自動変速機の出力部材から駆動輪に伝達されて車体の振動を引き起こすおそれがある。
【0008】
これに対して、特許文献1には、エンジンと変速機構との間に設けられて、エンジンと自動変速機との間の動力を断接する発進クラッチが開示されている。ニュートラル時に発進クラッチを解放状態とすることで、エンジンのトルク変動が変速機構を介して駆動輪側へ伝達されることが抑制されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2013-47571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
自動変速機は、通常、変速機構の入力回転等を用いて変速制御が行われる。発進用クラッチを備えた自動変速機においては、発進用クラッチのクラッチドラム又はクラッチハブのうち変速機構に接続される側の回転数を検出することが考えられる。
【0011】
変速機構の入力回転数を検出するためには、例えば、クラッチドラムの外周部又はクラッチハブの内周部に、磁性体からなると共に磁界の変動を引き起こすための、径方向に突出する歯部が複数配列された円盤状のセンサーロータ等の専用部品を設けることが考えられるが、部品点数が増加するおそれがあり、いかにして簡素な構造で変速機構の入力回転数を検出するかが問題となる。
【0012】
本発明は、駆動源と変速機構との間に発進クラッチを備えた自動変速機において、簡素な構造で変速機構の入力回転数を得ることができる自動変速機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この課題を解決するため、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
【0014】
本発明は、エンジンと変速機構との間に配置されて、前記エンジンと前記変速機構との動力を断接する発進クラッチを備えた自動変速機であって、
前記発進クラッチは、
前記エンジンに接続されて径方向内側に位置する内側円筒部を有するクラッチハブと、
前記変速機構に接続されて前記内側円筒部の前記径方向外側に配置された外側円筒部を有するクラッチドラムと、
前記クラッチハブと前記クラッチドラムとの間で軸方向に摺動可能に設けられた摩擦板と、
前記摩擦板を軸方向の一方側から押圧するピストンとを備え、
前記クラッチドラムの外周には、軸方向に延びると共に周方向に交互に設けられた凹部と凸部によって形成された凹凸部が設けられ、
前記クラッチドラムの径方向外側には、前記凹凸部を検出する回転数センサが設けられ
前記発進クラッチは、前記ピストンを前記摩擦板方向に付勢する作動油が供給される油圧室を備え、
前記クラッチドラムは、前記外側円筒部の前記軸方向の一方側の端部から径方向内側に延びる円板状の第1径方向部と、前記第1径方向部の径方向内側の端部から前記軸方向の他方側に延びる櫛歯状の軸方向部と、前記軸方向部の前記軸方向の他方側の端部から径方向内側に延びる円板状の第2径方向部とを有し、
前記ピストンは、前記第1径方向部と前記摩擦板との間に配置されて前記摩擦板を押圧する円板状の押圧部と、前記押圧部よりも径方向内側に延びる円板状のピストン径方向部とを有し、
前記油圧室は、前記クラッチドラムの前記軸方向部よりも径方向内側、かつ、前記ピストン径方向部の反摩擦板側に設けられ、
前記ピストン径方向部の径方向中間部には櫛歯部が設けられると共に、前記軸方向部と前記ピストン径方向部とが互いに櫛歯状に交差する自動変速機を提供する。
【0015】
本発明によれば、回転数センサによってクラッチドラムの外周に設けられた凹凸部を検出することで変速機構の入力回転数を得ることができる。例えば、クラッチハブの回転数を検出する場合に比べて、クラッチハブの径方向内側の限られたスペースに回転数センサ及び回転数センサ用の配線等を設ける場合に比べて、簡素な構造で変速機構の入力回転数を検出することができる。回転数センサによって検出された変速機構の入力回転数によって、変速機の変速制御等が実行できる。
また、クラッチドラムとピストンとは、軸方向部とピストン径方向部の径方向中間部において互いに櫛歯状に交差するので、外側円筒部と第1径方向部と軸方向部とで囲まれた摩擦板が収容される空間の外側、かつ、軸方向部よりも径方向内側に油圧室を設けることができる。これにより、摩擦板が収容される空間の内側に油圧室を設ける場合に比べて、クラッチドラムの軸方向寸法が短縮できる。
クラッチドラム及びピストンは、互いに櫛歯状に交差する軸方向部とピストン径方向部の径方向中間部に設けられた櫛歯部以外の部分が、周方向に連続する円板状に形成される。これにより、クラッチドラムとピストンとを櫛歯状に交差させる場合においても、クラッチ装置を大型化させることなく、クラッチドラムとピストンの剛性の低下を抑制できる。
【0016】
前記クラッチドラムは、プレス加工によって成形されたプレス成形品から成り、
前記外側円筒部の内周面には、前記摩擦板を係合する内側スプライン部が形成され、
前記外側円筒部の外周面には、前記内側スプライン部に対応した外側スプライン部が形成され、
前記凹凸部は、前記外側スプライン部によって形成されてもよい。
【0017】
この構成によれば、外側円筒部の内周に内側スプライン部を成形すると同時に、外側円筒部の外周には、内側スプライン部に対応した外側スプライン部が形成され、外側スプライン部の凹凸部を用いてクラッチドラムの回転数を検出することによって、変速機構の入力回転数を得ることができる。これにより、クラッチドラムの回転数を検出するためのセンサーロータ等の専用部品を追加することなく、簡素な構造で変速機構の入力回転数をけることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、駆動源と変速機構との間に発進クラッチを備えた自動変速機において、簡素な構造で変速機構の入力回転を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る自動変速機の発進クラッチを示す断面図。
図2図1における矢印IIの拡大断面図。
図3図1における矢印IIIの拡大断面図。
図4】発進クラッチの一部の分解斜視図。
図5】発進クラッチの残余部分の分解斜視図。
図6】バッフル部材の一部拡大斜視図。
図7】バッフル部材の展開図。
図8図7における(a)VIIIa-VIIIa線に沿った断面図、(b)VIIIb-VIIIb線に沿った断面図。
図9】バッフル部材の潤滑作用の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0024】
図1は、本発明の実施形態における自動変速機1の駆動源側の構成とその周辺を示す断面図である。本発明の実施形態に係る自動変速機1は、駆動源としてのエンジン(図示せず)にトルクコンバータなどの流体伝動装置を介することなく連結されている。エンジンは、これに限定されるものではないが、4つの気筒が直列に配置された直列4気筒エンジンであり、エンジンの出力軸3であるクランクシャフトが1回転する間に2回のトルク変動が生じることとなる。
【0025】
自動変速機1は、複数のプラネタリギヤセットとクラッチやブレーキなどの複数の摩擦締結要素とを有する変速機構2と、変速機構2とエンジンとの間に配置された発進クラッチ4とを備える。なお、本実施形態においては、反駆動源側を軸方向一方側、駆動源側を軸方向他方側ともいう。
【0026】
変速機構2は、複数の摩擦締結要素を選択的に締結することにより各プラネタリギヤセットを経由する動力伝達経路を切り換えて車両の運転状態に応じた所定の変速段を達成するように構成されている。自動変速機1が搭載された車両では、変速機構2からの動力が駆動輪に伝達されるようになっている。
【0027】
自動変速機1では、変速機構2と発進クラッチ4とは、変速機ケース10内に収納されて、エンジンの出力軸(クランクシャフト)3と同一軸線O上に並んで配置されている。本実施形態においては、エンジンのトルク変動の自動変速機1側への伝達を抑制するためのフライホイールダンパ5が、エンジンと発進クラッチ4との間に配置されている。
【0028】
変速機ケース10は、変速機構2及び発進クラッチ4を内部に収容すると共に、エンジン側に開口部を有する円筒状のケース本体11と、ケース本体11内を軸方向に仕切る仕切壁12とを備える。ケース本体11内の空間は、仕切壁12によって変速機構2側の空間(変速機構室)Aと発進クラッチ4側の空間(発進クラッチ室)Bとに分けられている。ケース本体11のエンジン側の開口部は、フライホイールダンパ5を内部に収容すると共にエンジン3のシリンダブロック等に連結されるダンパハウジング13によって閉塞されている。ダンパハウジング13は、エンジン側の空間(ダンパ室)Cを発進クラッチ4側の空間(発進クラッチ室)Bに対して閉塞するように構成されている。
【0029】
変速機構2の入力軸9は、仕切壁12を貫通してクラッチ室B内にその先端が突出するように設けられている。変速機構2の入力軸9の駆動源側の端部の外周側には、フライホイールダンパ5に接続される後述のエンジン側入力軸42fが回転可能に接続されている。エンジン側入力軸42fは、ダンパハウジング13を貫通してダンパ室C内にその先端が突出するように設けられている。
【0030】
フライホイールダンパ5は、円板状の入力プレート51、コイルスプリング等の弾性部材52、エンジンのトルク変動を低減するためのフライホイール53及び円板状の出力プレート54を有する。
【0031】
入力プレート51には、エンジンの出力軸3が固定され、出力軸3の回転に伴って入力プレート51が同一軸心O上を回転するように構成されている。入力プレート51には、弾性部材52を保持する保持部(図示せず)が周方向に複数設けられている。
【0032】
出力プレート54は、その外周部が弾性部材52に係合される第1出力プレート54aと、第1出力プレート54aの反駆動源側に配置されると共に径方向内側の端部がエンジン側入力軸42fにスプライン嵌合される第2出力プレート54bとを有する。第1出力プレート54aと第2出力プレート54bとは、第1出力プレート54aの径方向内側の端部と第2出力プレート54bの径方向外側の端部とがリベットピン等の連結部材54cによって結合されている。これにより、エンジンの出力軸3の回転は、弾性部材52を介して自動変速機1のエンジン側入力軸42fに伝達される。なお、第2出力プレート54bの反駆動源側には、円板状のフライホイール53が配置されており、フライホイール53は、内端部において第1出力プレート54aと第2出力プレート54bに対して連結部材54cによって固定されている。
【0033】
次に、図2図4により、発進クラッチ4の構成を説明する。なお、図4及び図5は、発進クラッチ4を構成するクラッチドラム41、クラッチハブ42、ピストン44及び仕切壁12の分解斜視図である。
【0034】
図2に示すように、発進クラッチ4は、クラッチドラム41とクラッチハブ42とこれらの間に軸方向に並べて配設されてクラッチドラム41とクラッチハブ42とに交互にスプライン係合された複数の摩擦板43と、摩擦板43の反駆動源側(軸方向一方側)に配置されたピストン44と、ピストン44の反駆動源側に設けられた油圧室45とを有する。油圧室45に締結圧が供給されたときに、発進クラッチ4のピストン44が摩擦板43を押圧してクラッチドラム41とクラッチハブ42を結合することにより、発進クラッチ4が締結されるようになっている。
【0035】
クラッチドラム41は、例えば、鉄材等の磁性体から成る板部材をプレス加工することによって形成される。クラッチドラム41は、摩擦板43が係合される外側円筒部41aと、外側円筒部41aの軸方向一方側の端部から径方向内側に延びる円板状の第1径方向部41bと、第1径方向部41bの径方向内側の内端部から軸方向の他方側に延びる櫛歯状の軸方向部としての第1軸方向部41cと、第1軸方向部41cの軸方向他方側の端部から径方向内側に伸びる円板状の第2径方向部41dと、第2径方向部41dの径方向内側の内端部から軸方向一方側に延びる第1軸方向部41cとは異なる第2軸方向部41eを備える。
【0036】
外側円筒部41aの内周面には、摩擦板43を係合する内側スプライン部41a1,41a2が設けられている。内側スプライン部41a1,41a2は、軸方向に延びると共に径方向外側に凹む凹部41a1と、軸方向に延びると共に径方向内側に突出する凸部41a2とを備え、凹部41a1と凸部41a2とが周方向に交互に配置されることで形成されている。
【0037】
外側円筒部41aの外周面には、内側スプライン部41a1,41a2に対応した外側スプライン部41a3,41a4が設けられている。外側スプライン部41a3,41a4は、軸方向に延びると共に径方向内側に凹む凹部41a3と、軸方向に延びると共に径方向外側に突出する凸部41a4とを備え、凹部41a3と凸部41a4とが周方向に交互に配置されることで形成されている。
【0038】
内側スプライン部41a1,41a2及び外側スプライン部41a3,41a4は、プレス加工によって形成されている。内側スプライン部41a1,41a2の凹部41a1と、外側スプライン部41a3,41a4の凸部41a4とが、周方向に対応する位置に設けられ、内側スプライン部41a1,41a2の凸部41a2と、外側スプライン部41a3,41a4の凹部41a3とが、周方向に対応する位置に設けられている。
【0039】
外側円筒部41aの外周側には、クラッチドラム41の回転数を検出するための回転数センサSが配置されている。回転数センサSは、クラッチドラム41の回転速度に基づいた検出信号を出力するものであり、例えば、磁気センサを用いることができる。
【0040】
例えば、回転数センサSは、クラッチドラム41の外周面を臨むように、図示しないコントロールバルブ等に固定されており、クラッチドラム41の外周面に形成された外側スプライン部41a3,41a4を検出することで、クラッチドラム41の回転速度に基づいた検出信号を出力するように構成されている。この検出信号に基づいて自動変速機1の変速制御が行われる。なお、回転数センサSは、磁気センサに限定されるものではなく、凹凸41a1を検出するセンサであればよく、例えば、凹凸部41a3,41a4はレーザや画像等を用いて検出されてもよい。この場合、クラッチドラム41をアルミニウム材等で形成することも可能である。
【0041】
第1径方向部41bは、軸方向に対して概ね直交するように仕切壁12に沿って延びている。第1軸方向部41cは、櫛歯状に形成されており、周方向に均等に並べて配置されて、後述のピストン44に設けられた貫通穴44fを軸方向に貫通している(図5参照)。第2軸方向部41eの径方向内側には、スプライン部が形成されており、入力軸9にスプライン嵌合されている。
【0042】
本実施形態において、クラッチドラム41は、外側円筒部41a、第1径方向部41b及び第1軸方向部41cと、第2径方向部41d及び第2軸方向部41eとが別体で構成されている。換言すると、クラッチドラム41は、外側円筒部41a、第1径方向部41b及び第1軸方向部41cを備えた外周側クラッチドラムと、第2径方向部41d及び第2軸方向部41eを備えた内周側クラッチドラムとで構成されている。クラッチドラム41は、第1軸方向部41cに後述のピストン44に設けられた貫通穴44fを軸方向に貫通させた状態で、第1軸方向部41cに設けられた軸方向の他端部から径方向内側に延びるフランジ部41c1と、第2径方向部41dの径方向外側の端部とが溶接によって接合されて一体化されている。
【0043】
第1軸方向部41cの櫛歯状に形成された端部が、円板状の第2径方向部41dによって閉じられることで、櫛歯状のまま入力軸9に連結される場合に比べてクラッチドラム41の剛性が高められている。なお、クラッチドラム41とピストン44の製造方法については、前述の溶接に限られるものではなく、例えば、三次元積層造形法によって成形される三次元積層造形品であってもよい。この場合、クラッチドラム41とピストン44とが一体的に成形される。
【0044】
クラッチハブ42は、摩擦板43が係合される内側円筒部42aと、内側円筒部42aの軸方向他方側の端部から径方向内側に延びる円板状の第1径方向部42bと、第1径方向部42bの内端部から更に径方向内側に延びる第2径方向部42cと、第2径方向部42cの径方向内側の端部から軸方向他方側に伸びる円筒部42dと、円筒部42dの軸方向他方側の端部から更に軸方向に延びる軸部42fとを備える。軸部42fの外周には、フライホイールダンパ5の出力プレート54がスプライン嵌合される。軸部42fは、エンジンの回転を発進クラッチ4に入力するエンジン側入力軸42fとして構成されている。
【0045】
クラッチハブ42は、第2径方向部42cの径方向外側の部位から軸方向他方側に延びるシリンダ部42eが設けられている。シリンダ部42eの外周面には、スプライン部が設けられて、オイルポンプ6を駆動するための駆動側スプロケット61が嵌合されている。シリンダ部42eのスプライン部及び駆動側スプロケット61のスプライン部には、駆動側スプロケット61の軸方向移動を規制するためのスナップリング61a1を係合するための係合部42e1,61aがそれぞれ設けられている。
【0046】
オイルポンプ6は、例えば、ベーンポンプで構成されており、ベーンを備えたロータの駆動軸62には、被駆動側スプロケット63が設けられている。エンジンの回転に伴ってクラッチハブ42が回転すると、駆動側スプロケット61が回転する。駆動側スプロケット61の回転は、駆動側スプロケット61及び被駆動側スプロケット63に巻きかけられたチェーン64を介して被駆動側スプロケット63に伝達されて、オイルポンプ6が駆動される。
【0047】
クラッチハブ42は、円筒部42dの外周面とダンパハウジング13の縦壁部13aの径方向内側の端部に設けられたボス部13bとの間に配置されたベアリング71を介してダンパハウジング13に回転可能に支持されている。ボス部13bは、シリンダ部42eの径方向内側で、シリンダ部42eと軸方向位置がオーバーラップしている。ボス部13bの駆動源側(軸方向他方側)の部位で円筒部42dの外周面との間には、シール部材72が配置されて、ダンパ室Cと発進クラッチ室Bとの間が油密状態で仕切られている。円筒部42dの内周面と入力軸9とは、両者間に配置されたニードルベアリング73によって相対回転可能になっている。
【0048】
内側円筒部42aの内周面には、樹脂等で形成された環状のバッフル部材46が圧入されている。バッフル部材46については詳細を後述する。
【0049】
ピストン44は、クラッチドラム41と摩擦板43との間に配置されて、締結時に摩擦板43を押圧する円板状の押圧部44aと、押圧部44aの内端部から軸方向一方側に延びる円筒部44bと、円筒部44bの軸方向他方側の端部から押圧部44aよりも径方向内側に延びる円板状の径方向部(ピストン径方向部)44cと、油圧室45に供給された油圧を受ける受圧面を備えた円板状の受圧部44dと、径方向部44cと受圧部44dとの間に配置されたベアリング部44eとを有する。
【0050】
押圧部44aは、クラッチハブ42の内側円筒部42aよりも径方向内側まで延びている。押圧部44aの径方向外側には、径方向に突出する突起部44a1が周方向に並べて配置されている。突起部44a1が、クラッチドラム41の外側円筒部41aのスプライン部に係合されることによってピストン44の回り止めが果たされている。
【0051】
円筒部44bは、クラッチドラム41の第1軸方向部41cの径方向外側で、かつ、クラッチハブ42の内側円筒部42aの径方向内側に位置すると共に、内側円筒部42aと第1軸方向部41cと軸方向にオーバーラップして配置されている。円筒部44bには、円筒部44bを径方向に貫通する貫通穴44gが設けられている。貫通穴44gは、後述するバッフル部材46のフランジ部46bに対応した位置に設けられている。
【0052】
径方向部44cは、径方向部44cの径方向中間部において、クラッチドラム41の第1軸方向部41cと互いに櫛歯状に交差して、第2軸方向部41eの径方向外側の位置まで延びている。径方向部44cには、軸方向に貫通する貫通穴44fが設けられている。図5に示すように、貫通穴44fは、櫛歯状の第1軸方向部41cに対応させて周方向に並べて複数設けられている。各貫通穴44fは、第1軸方向部41cが貫通可能に形成されている。
【0053】
径方向部44cは、周方向に並べて設けられた貫通穴44fによって、径方向の中間部に貫通穴44fと周方向に交互に並ぶ残余の部分で成る櫛歯部44hが形成される。貫通穴44fと櫛歯部44hの径方向の内端部には、内端部から径方向内側に延びて円板状に形成されると共に、ベアリング部44eが接続されるベアリング接続部44iが一体的に形成されている。ベアリング接続部44iによって、貫通穴44fと櫛歯部44hの内端部が周方向に連続する円板状に形成されている。
【0054】
径方向部44cの軸方向一方側には、ベアリング部44eが配置されている。より詳しくは、ベアリング部44eのインナレースは、径方向部44cの貫通穴44fよりも径方向内側のベアリング接続部44iに、例えば、溶接等によって接続されている。ベアリング部44eのアウタレースは、受圧部44dの軸方向他方側の面に例えば、溶接等によって接続されている。換言すると、ベアリング部44eは、径方向部44cの径方向中間部よりも径方向内側の部分と受圧部44dとの間に配置されている。受圧部44dとベアリング部44eとは、後述の仕切壁12の第1及び第2シリンダ部12e,12f内に配置されている。受圧部44dとベアリング部44eとは、第1軸方向部41cよりも径方向内側に位置すると共に、第1軸方向部41cと軸方向にオーバーラップして配置されている。さらに、ベアリング部44eは、ピストン44の円筒部44bよりも径方向内側に位置すると共に、押圧部44a及び円筒部44bに対して軸方向にオーバーラップしている。
【0055】
ベアリング部44eは、クラッチドラム41の第1軸方向部41cの径方向内側で、第1軸方向部41cと軸方向にオーバーラップして配置されている。換言すると、ベアリング部44eは、第1軸方向部41cを備えた外周側クラッチドラムの径方向内側で、外周側クラッチドラムと軸方向にオーバーラップして配置されている。ベアリング部44eは、径方向において第1軸方向部41cと第2軸方向部41eとの間に配置されて、第1軸方向部41cと第2軸方向部41eと軸方向にオーバーラップして配置されている。
【0056】
油圧室45は、仕切壁12とピストン44の受圧部44dとによって形成されており、仕切壁12及び油圧室45の構成を説明する。
【0057】
仕切壁12は、ケース本体11の径方向外側の端部に固定される被固定部12aと、被固定部12aから径方向内側に延びる縦壁部12bと、縦壁部12bの径方向内端部において反駆動源側(軸方向一方側)に延びるボス部12cとを備える。入力軸9は、ボス部12cの内周面と入力軸9との間に配置されたニードルベアリング76によって仕切壁12に対して相対回転可能とされている。
【0058】
縦壁部12bの径方向内側の部位には、駆動源側(軸方向他方側)に突出する突出部12dが設けられている。突出部12dは、クラッチドラム41の第1径方向部41bよりも反駆動源側に位置し、突出部12dの反駆動源側の面と第1径方向部41bとの間にはベアリング74が配置されて、両者の相対回転が可能とされている。
【0059】
突出部12dの駆動源側の面におけるベアリング74よりも径方向内側には、軸方向に延びる筒状の第1シリンダ部12eと、第1シリンダ部12eよりも径方向内側に位置する円筒状の第2シリンダ部12fとが設けられている。第1シリンダ部12eの外周面には、クラッチドラム41の第1軸方向部41cがブッシュ75を介して嵌合されている。第1シリンダ部12eは、第1軸方向部41cの櫛歯状に切り欠かれた切欠部41c2の軸方向位置まで延びている。
【0060】
第2シリンダ部12fは、クラッチドラム41の第2軸方向部41eよりも径方向外側に位置すると共に、第2軸方向部41eと軸方向においてオーバーラップしている。第2シリンダ部12fの内周面には、リング状のガイド部材47が圧入されている。ガイド部材47は、第2シリンダ部12fの内周面からピストンの径方向部44cの径方向内側の位置まで延びている。ガイド部材47は、第2シリンダ部12fの内周面に嵌合される嵌合部47aと、嵌合部47aの駆動源側の端部からさらに軸方向に延びると共に嵌合部47aよりも大きな径を有する延設部47bとを有する。延設部47bには、ベアリング部44eに対応する位置に径方向に貫通する貫通穴47cが設けられている。
【0061】
ガイド部材47(嵌合部47a及び延設部47b)の内周面と第2軸方向部41eの外周面との間には、軸方向に延びると共にピストン44の径方向部44cの駆動源側の領域に開放される第1通路S1が設けられている。第2シリンダ部12fの内周面と突出部12dの駆動源側の面とによって形成される角部12d1と、第2軸方向部41eの反駆動源側の端部との間には入力軸9の外周面と仕切壁12の内周面との間の空間と第1通路S1を連通させる第2通路S2が設けられている。
【0062】
突出部12dの駆動源側の面で、第1シリンダ部12eと第2シリンダ部12fとの間には、駆動源側に開口する複数の凹部12d2が周方向に均等に設けられている。凹部12d2には、後述のスプリング45aが配置されている(図4参照)。第1シリンダ部12eの内周面と第2シリンダ部12fの外周面との間には、受圧部44dが嵌合されている。
【0063】
油圧室45は、第1シリンダ部12e内周面と第2シリンダ部12fの外周面と縦壁部12bの駆動源側(軸方向他方側)の面と、受圧部44dの反駆動源側の面とにより油密状態に形成されている。油圧室45は、第1軸方向部41cよりも径方向内側、かつ、ピストン44の径方向部44cの反摩擦板43側に設けられている。なお、縦壁部12bには、油圧室45の上端部に連通すると共に、油圧室45に溜まったエアを抜くためのエア抜き部45cが設けられている。
【0064】
前述のように、自動変速機1は、トルクコンバータを介せずにエンジンに接続されているため、発進クラッチ4は、1速及び後退速における車両発進時にスリップ制御されるように構成されている。具体的には、発進クラッチ4の油圧室45内に、ピストン44を解放位置から摩擦板43がゼロクリアランス状態となるゼロクリアランス位置まで締結方向に付勢するスプリング45aと、スプリング45aを着座させるリング状のシート部材45bが配置されている。
【0065】
これにより、車両発進時にスリップ制御される発進クラッチ4は、ピストン44を解放位置から摩擦板43がゼロクリアランス状態となるゼロクリアランス位置までスプリング45aによって付勢し、ゼロクリアランス位置から締結位置まで締結用油圧によって付勢して摩擦板43を締結するようになっている。
【0066】
図2に示すように、油圧室45には、締結用作動油を供給する締結用作動油供給路80が接続されている。締結用作動油供給路80は、図示しないコントロールバルブユニットから導かれて径方向に延びる締結用径方向油路80aと、突出部12d内に設けられて油圧室45に連通する傾斜油路80bと、突出部12d内に設けられて締結用径方向油路80aと傾斜油路80bとを連通させる締結用連通路80cとを有する。
【0067】
締結用径方向油路80aは、軸方向に直交すると共に仕切壁12の縦壁部12bに沿って径方向に延びると共に、突出部12dの外周面に接続される。締結用連通路80cは、周方向において締結用径方向油路80aに対応した位置に設けられ、突出部12dの外周面から径方向内側に向かって延びている。傾斜油路80bは、油圧室45から反駆動源側に向かって径方向外側に傾斜して設けられて締結用連通路80cに連通する。これにより、締結用径方向油路80aから、締結用連通路80c及び傾斜油路80bを介して発進クラッチ4の油圧室45に通じる締結用作動油供給路80が形成されている。
【0068】
図3に示すように、仕切壁12には、発進クラッチ4を潤滑するための潤滑油を供給する潤滑油供給路90が設けられている。潤滑油供給路90は、図示しないコントロールバルブユニットから導かれて径方向に延びる潤滑用径方向油路90aと、突出部12d内に設けられて径方向に延びる潤滑用連通路90bとを有する。
【0069】
潤滑用径方向油路90aは、軸方向に直交すると共に仕切壁12の縦壁部12bに沿って径方向に延びると共に、突出部12dの外周面に接続される。締結用径方向油路80aと周方向の位置を異ならせて設けられている(図4参照)。潤滑用連通路90bは、周方向において潤滑用径方向油路90aに対応した位置に設けられ、突出部12dの外周面から径方向内側に向かって延びると共に、仕切壁12の内周面に開口している。これにより、潤滑用径方向油路90a及び潤滑用連通路90bによって、潤滑油供給路90が形成されている。
【0070】
図3の矢印に示すように、潤滑油供給路90を介して仕切壁12の内周面側に供給された潤滑油は、自動変速機1の径方向内側から外側に向かって供給されるようになっている。より詳しくは、バルブボディから潤滑用径方向油路90a及び潤滑用連通路90bを介して、仕切壁12の内周面と入力軸9の外周面との間に供給された潤滑油は、第2通路S2及び第1通路S1から、ピストン44の径方向部44cとクラッチドラム41の第2径方向部41dとの間の空間に供給される。
【0071】
径方向部44cと第2径方向部41dとの間の空間に供給された潤滑油は、クラッチドラム41の切欠部41c2を通り抜けて、切欠き部31c2の径方向外側に位置するクラッチハブ42の内側円筒部42aの内周面側に供給され、内側円筒部42aの反駆動源側の端部から摩擦板43間に供給される。これにより、摩擦板43間に供給された潤滑油は、摩擦板43を潤滑すると共に、クラッチドラム41の外側円筒部41a側に供給される。このように、バルブボディから供給された潤滑油は、入力軸9側からクラッチドラム41の外側円筒部41a側に向かって供給されるように構成されている。
【0072】
また、潤滑油供給路90を介して仕切壁12の内周面側に供給された潤滑油は、図3の破線矢印で示すように、第2通路S2及び第1通路S1からガイド部材47の貫通穴47cを通って、ベアリング部44eを潤滑する。ベアリング部44eを潤滑した潤滑油は、クラッチドラム41の切欠部41c2を径方向内側から外側に向かって通り抜け、ピストンの径方向部44cの反駆動源側の面を伝ってピストンの円筒部44bの貫通穴44gを介してクラッチハブ42に供給される。
【0073】
発進クラッチ4は、発進クラッチ4の潤滑を促進するためのオイルダム部材41fと、バッフル部材46とを備えている。図3図6図8を参照しながら、オイルダム部材41fとバッフル部材46について説明する。
【0074】
図3に示すように、クラッチドラム41の外側円筒部41aには、外側円筒部41aの軸方向一方側(駆動源側)の端部から径方向内側に延びるリング状のオイルダム部材41fが配置されている。オイルダム部材41fは、摩擦板43の軸方向他方側に位置すると共に、径方向外側の端部が外側円筒部41aに溶接されることによって外側円筒部41aに対して固定されている。オイルダム部材41fは、径方向内側から外側に向かって供給されるオイルに、発進クラッチ4の潤滑のために摩擦板43を浸漬させる機能を有すると共に、締結時における摩擦板43の軸方向移動を規制する規制部材としての役割を有する。
【0075】
オイルダム部材41fは、外側円筒部41aから内側に向かって、後述するクラッチハブ42の内周側に嵌合されたバッフル部材46よりも径方向内側まで延びている。
【0076】
外側円筒部41aとオイルダム部材41fと第1径方向部41bとによって、径方向外側に底部を有し、径方向内側に開放した凹部41gが形成される。これにより、径方向内側から外側に向かって供給されるオイルがこの凹部41gに貯留される。外側円筒部41aと内側円筒部42aの間には摩擦板43が配置されているので、凹部41g内には、摩擦板43が配置されることになる。凹部41gに配置された摩擦板43は、凹部41gに貯留されたオイルに浸漬する状態となる。
【0077】
図3に示すように、クラッチハブ42の内周面には、バッフル部材46が嵌合されている。図6及び図7に示すように、バッフル部材46は、円筒状の本体部46aと、本体部46aの軸方向一方側の端部から径方向内側に延びるフランジ部46bと、周方向に並べて配置されて本体部46aを径方向に貫通する複数の開口部46cとを備える。周方向に並べて配置された複数の開口部46cが形成されることによって、本体部46aには開口されない残余の部分で構成される陸部46a1が形成される。陸部46a1と開口部46cとは、周方向に交互に並べて設けられている。開口部46cには、クラッチドラム41の凹部41gに貯留されたオイルを径方向外側へガイドするためのガイド部46dが設けられている。
【0078】
図8(a)に示すように、ガイド部46dは、開口部46cの駆動源側(軸方向他方側)の端部から反駆動源側(軸方向一方側)に向かって径方向内側に傾斜して延びる舌片部46eと、舌片部46eの軸方向一方側の端部から舌片部46eに直交すると共に径方向外側に向かって立ち上がるフランジ部46fと、舌片部46eの周方向における中央部からフランジ部46fの延びる方向に向かって立ち上がる壁部46gと、フランジ部46fの径方向外側に配置されたストッパ部46hとを備える。
【0079】
舌片部46eは、陸部46a1(本体部46a)よりも径方向内側に位置するように軸方向一方側から軸方向他方側に向かって径方向内側に傾斜する斜面によって構成されている。舌片部46eは、軸方向に対して所定の傾斜角で傾斜している。フランジ部46fの径方向外側の端部は、本体部46a近傍に位置している。
【0080】
ストッパ部46hは、径方向から見て円板状に形成されると共に、舌片部46eの傾斜に沿って駆動源側から反駆動源側に向かって径方向内側に傾斜した状態で、フランジ部46fの径方向外側の端部に接続されている。ストッパ部46hは、反駆動源側の端部が本体部46aの外周面と略一致するように形成されているので、ストッパ部46hの駆動源側の端部は、本体部46aの外周面よりも径方向外側に突出している。
【0081】
バッフル部材46がクラッチハブ42の内側円筒部42aに嵌合される際に、ストッパ部46hは、内側円筒部42aの内周面によって、駆動源側の端部が径方向内側に押圧されて弾性変形する。弾性変形されたストッパ部46hの復元力によって、バッフル部材46の内側円筒部42aからの離脱が抑制されている。
【0082】
壁部46gは、舌片部46eから本体部46aの外周面まで延びており、駆動源側から反駆動源側に向かって径方向領域が広がるような略三角形状を有する。壁部46gの面積は、舌片部46eの傾斜角を大きくするほど拡大される。
【0083】
図8(b)に示すように、陸部46a1及び舌片部46eの周方向位置は、陸部46a1がクラッチハブ42のスプライン歯の歯先42a1に対応するように、舌片部46eがクラッチハブ42のスプライン歯の歯底42a2に対応するように設定されている。
【0084】
陸部46a1の周方向の幅W1は、クラッチハブ42の隣接する歯底42a2の内周面間の幅W2よりも小さくなるように設定されている。陸部46a1は、クラッチハブ42の隣接する歯底42a2間の中央に位置するように配置されている。陸部46a1の周方向一方側に配置されるクラッチハブ42の歯底42a2の内周面と陸部46a1との間、及び、陸部46a1の周方向他方側に配置されるクラッチハブ42の歯底42a2の内周面と陸部46a1との間には、それぞれ隙間gが設けられている。隙間gによって、バッフル部材46の内周面と、クラッチハブ42の歯先42a1の内周面とが連通するようになっている。
【0085】
舌片部46e及び壁部46gは、バッフル部材46の内周面側に突出すると共に、舌片部46eと壁部46gとは、軸方向視においてT字状となるように形成されている。
【0086】
以上の構成によれば、図3に示すように、クラッチドラム41の外側円筒部41aと第1径方向部41bとオイルダム部材41fとによって、径方向外側に底部を有すると共に径方向内側に開放した凹部41gが形成される。これにより、径方向内側から外側に向かって供給されるオイルが、この凹部41g内に貯留されて、摩擦板43をオイルに浸漬することができる。したがって、車両停車時にクラッチドラムが回転しない場合においても、オイルダム部材41fを備えるのみの簡易な構造で発進クラッチ4の潤滑が実現できる。
【0087】
また、車両発進時には、凹部41gにオイルを溜めた状態でクラッチドラム41が回転するので、より効率的に発進クラッチ4を潤滑することができる。
【0088】
さらに、クラッチハブ42の径方向内側に配置されたバッフル部材46によって、径方向内側から外側に向かって供給されるオイルを内側円筒部42aの径方向外側にガイドされる。これにより、クラッチハブ42の径方向外側に配置されている摩擦板43により効率的にオイルを供給することができる。
【0089】
より具体的には、凹部41gにオイルが貯留された状態でクラッチハブ42が回転方向Rに回転すると、図9(a)及び(b)の白抜き矢印で示すように、オイルは、バッフル部材46の壁部46gによってクラッチハブ42の径方向内側に向かって掬いあげられるように攪拌される。径方向内側に向かって攪拌されたオイルは、重力によって落下し、径方向外側(下方側)に向かうと共に、図9(b)の矢印で示すように、陸部46a1と陸部46a1に隣接する歯底42a2との間の隙間gを介して、クラッチハブ42の歯先42a1によってその内周面側に形成された溝部に供給される。
【0090】
溝部に供給されたオイルは、図9(c)に示すように、内側円筒部42aの反駆動源側の端部から摩擦板43側に供給されて、摩擦板43を潤滑したのちに、オイルダム部材41fの径方向内側から排出される。
【0091】
図3に示すように、オイルダム部材41fは、バッフル部材46のフランジ部46bよりも径方向内側に延びているので、オイルダム部材41fによって形成される凹部41g内に貯留するオイルの液面が、バッフル部材46よりも径方向内側になるので、バッフル部材46をオイルに浸漬させることができる。これにより、バッフル部材46によるオイルを径方向外側にガイドする効果が得られやすくなる。
【0092】
ピストン44の円筒部44bには、貫通穴44gが設けられているので、径方向内側から外側に向かって供給されるオイルが、ピストン44の円筒部44bの貫通穴44gを介して、円筒部44bの外周側に位置するクラッチハブ42に供給される。クラッチハブ42の径方向内側にピストン44の円筒部44bが配置される場合においても、クラッチハブ42にオイルを供給することができる。
【0093】
以上のように、本実施形態の自動変速機1によれば、クラッチドラム41の径方向外側には、クラッチドラム41の外周の外側スプライン部41a3,41a4を検出する回転数センサSが設けられているので、回転数センサSによって、変速機構2の入力回転数を得ることができる。例えば、クラッチハブの回転数を検出するために、クラッチハブの径方向内側の限られたスペースに回転数センサ及び回転数センサ用の配線等を設ける場合に比べて、簡素な構造で変速機構の入力回転数を検出することができる。回転数センサSによって検出された変速機構2の入力回転数によって、変速機の変速制御等が実行できる。
【0094】
クラッチドラム41は、プレスによって成型されるプレス成形品から成り、クラッチドラム41の外側円筒部41aの内周面には、摩擦板43を係合する内側スプライン部41a1,41a2が形成され、外側円筒部41aの外周面には、内側スプライン部41a1,41a2に対応した外側スプライン部41a3,41a4が形成される。この外側スプライン部41a3,41a4を用いてクラッチドラム41の回転数を検出することによって、変速機構2の入力回転数を得ることができる。これにより、クラッチドラム41の回転数を検出するためのセンサーロータ等の専用部品を追加することなく、簡素な構造で変速機構2の入力回転数を得ることができる。
【0095】
クラッチドラム41とピストン44とは、第1軸方向部41cと径方向部44cの径方向中間部において互いに櫛歯状に交差するので、外側円筒部41aと第1径方向部41bと第1軸方向部41cとで囲まれた摩擦板43を収容する空間の外側、かつ、第1軸方向部41cよりも径方向内側に油圧室45を設けることができる。これにより、摩擦板43を収容する空間の内側に油圧室を設ける場合に比べて、クラッチドラム41の軸方向寸法が短縮できる。
【0096】
クラッチドラム41及びピストン44は、互いに櫛歯状に交差する第1軸方向部41cと径方向部44cの径方向中間部以外の部分が、周方向に連続する円板状に形成されるので、クラッチドラム41とピストン44とを櫛歯状に交差させる場合においても、発進クラッチ4を大型化させることなく、クラッチドラム41とピストン44の剛性の低下を抑制できる。
【0097】
以上、上述の実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に記載された本発明の要旨及び範囲から逸脱することなく、各種変形及び変更を行うことも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0098】
以上のように、本発明によれば、エンジンと変速機構との間に配置されると共に変速機構に接続されたクラッチドラムを有する発進クラッチを備えた自動変速機において、簡易な構造で車両停車時における発進クラッチの潤滑を実現できることから、この種の自動変速機を備えた自動変速機の製造産業分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0099】
1 自動変速機
2 変速機構
4 発進クラッチ
41 クラッチドラム
41a 外側円筒部
41a3 凹部(外側スプライン部)
41a4 凸部(外側スプライン部)
41b 第1径方向部
41c 第1軸方向部(軸方向部)
41d 第2径方向部
42 クラッチハブ
42a 内側円筒部
43 摩擦板
44 ピストン
44a 押圧部
44c 径方向部(ピストン径方向部)
44f 貫通穴(櫛歯部)
45 油圧室
S 回転数センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9