(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】3Dプリンター用造形材料及び3Dプリンター用造形材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/118 20170101AFI20240814BHJP
B29C 64/314 20170101ALI20240814BHJP
C08L 1/14 20060101ALI20240814BHJP
C08K 5/3445 20060101ALI20240814BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20240814BHJP
【FI】
B29C64/118
B29C64/314
C08L1/14
C08K5/3445
B33Y80/00
(21)【出願番号】P 2020569608
(86)(22)【出願日】2020-01-27
(86)【国際出願番号】 JP2020002708
(87)【国際公開番号】W WO2020158647
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2019014530
(32)【優先日】2019-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 一史
(72)【発明者】
【氏名】中澤 幸仁
(72)【発明者】
【氏名】後藤 賢治
(72)【発明者】
【氏名】久保 伸夫
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/109350(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/120596(WO,A1)
【文献】特開2009-096955(JP,A)
【文献】特開2006-113175(JP,A)
【文献】国際公開第2008/007566(WO,A1)
【文献】特開2006-124629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00- 64/40
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノフィラメント糸である3Dプリンター用造形材料であって、
セルロースアセテートプロピオネートと、添加剤と、を含有する熱溶融押出方式用材料を含有
し、
前記セルロースアセテートプロピオネートが、アセチル基の置換度をX、プロピオニル基の置換度をYとしたときに、下記式(1)及び式(2)を満たし、
式(1) 2.0≦X+Y≦3.0
式(2) 0.5≦Y≦2.6
前記添加剤が、可塑剤と、NICS値が-14以上-10以下の範囲内の部分構造を有する化合物Aと、を含有し、
前記化合物Aが、下記一般式(2)で表される構造を有する、
【化1】
[一般式(2)中、A
1
~A
6
で形成される環は、ベンゼン環を表す。R
1
は、水素原子を表す。Lは、単結合を表す。環Bは、複素五員環を表す。R
2
は、フェニル基を表す。lは、4又は5を表す。mは、1を表す。nは、1又は2を表す。]
ことを特徴とする3Dプリンター用造形材料。
【請求項2】
前記環Bが、ピラゾール環を表す、
ことを特徴とする請求項1に記載の3Dプリンター用造形材料。
【請求項3】
前記化合物Aの含有量が、0.1~30質量%の範囲内である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の3Dプリンター用造形材料。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の3Dプリンター用造形材料を製造する、3Dプリンター用造形材料の製造方法であって、
前記熱溶融押出方式用材料を溶融押し出しした後、大気中又は水中で冷却・固化して、
前記モノフィラメント糸を形成することを特徴とする
、
3Dプリンター用造形材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱溶融押出方式用材料、3Dプリンター用造形材料、3Dプリンター用造形材料の製造方法及び3次元造形物に関する。より詳しくは、弾性率や、造形物の高温・高湿下での寸法安定性に優れる熱溶融押出方式用材料等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年3Dプリンティング(3次元プリンティングともいう。)技術が注目されており、特にFDM方式(Fused Deposition Modeling:熱溶解積層方式ともいう。)では環境負荷が低いプラスチック材料が求められている。
【0003】
セルロース樹脂は植物由来の原料から成り、エンジニアプラスチックに相当する機械物性をもつことが知られているが、天然セルロースは熱分解温度が溶融温度より低く溶融成形が困難であった。そこで特許文献1にはセルロースのヒドロキシ基の水素原子の一部を修飾したセルロース誘導体を用いて射出成形する方法が開示されている。
【0004】
前記セルロース誘導体をFDM方式の積層造形に適用することを考えた場合、造形に適した条件に適応させるために、可塑剤など種々の添加剤を加えることが想定されるが、その結果、その可塑剤によってセルロース誘導体本来の機械物性、例えば弾性率が低下してしまうとか、造形物の高温・高湿下での寸法安定性が劣化するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、弾性率や、造形物の高温・高湿下での寸法安定性に優れる熱溶融押出方式用材料、3Dプリンター用造形材料、3Dプリンター用造形材料の製造方法及び3次元造形物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、特定のセルロース誘導体と可塑剤と特定のNICS値の範囲内の部分構造を有する化合物とを含有する3Dプリンター用造形材料を、3Dプリンターに適用することで、可塑剤のみで達成することができなかった弾性率や高温・高湿下での寸法安定性を達成できる熱溶融押出方式用材料が得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0012】
1.モノフィラメント糸である3Dプリンター用造形材料であって、
セルロースアセテートプロピオネートと、添加剤と、を含有する熱溶融押出方式用材料を含有
し、
前記セルロースアセテートプロピオネートが、アセチル基の置換度をX、プロピオニル基の置換度をYとしたときに、下記式(1)及び式(2)を満たし、
式(1) 2.0≦X+Y≦3.0
式(2) 0.5≦Y≦2.6
前記添加剤が、可塑剤と、NICS値が-14以上-10以下の範囲内の部分構造を有する化合物Aと、を含有し、
前記化合物Aが、下記一般式(2)で表される構造を有する、
【化2】
[一般式(2)中、A
1
~A
6
で形成される環は、ベンゼン環を表す。R
1
は、水素原子を表す。Lは、単結合を表す。環Bは、複素五員環を表す。R
2
は、フェニル基を表す。lは、4又は5を表す。mは、1を表す。nは、1又は2を表す。]
ことを特徴とする3Dプリンター用造形材料。
2.前記環Bが、ピラゾール環を表す、
ことを特徴とする第1項に記載の3Dプリンター用造形材料。
3.前記化合物Aの含有量が、0.1~30質量%の範囲内である、
ことを特徴とする第1項又は第2項に記載の3Dプリンター用造形材料。
【0013】
4.第1項~第3項のいずれか一項に記載の3Dプリンター用造形材料を製造する、3Dプリンター用造形材料の製造方法であって、
前記熱溶融押出方式用材料を溶融押し出しした後、大気中又は水中で冷却・固化して、前記モノフィラメント糸を形成する、
ことを特徴とする3Dプリンター用造形材料の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の上記手段により、弾性率や、造形物の高温・高湿下での寸法安定性に優れる熱溶融押出方式用材料、3Dプリンター用造形材料、3Dプリンター用造形材料の製造方法及び3次元造形物を提供することができる。
【0016】
本発明の効果の発現機構ないし作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
【0017】
本発明の熱溶融押出方式用材料は、セルロースアセテートプロピオネートであるセルロース誘導体と可塑剤とNICS値が-14以上-10以下の範囲内の部分構造を有する化合物Aを含有することが特徴であるが、前述のとおり、セルロース誘導体と可塑剤のみの組み合わせでは、その可塑剤によってセルロース誘導体本来の機械物性である弾性率が低下してしまうとか、造形物の高温・高湿下での寸法安定性が劣化するという問題があった。
【0018】
本発明の熱溶融押出方式用材料は、特定のセルロース誘導体に、特定のNICS値の範囲を有する添加剤(化合物A)をさらに加えることで、セルロースに含まれるアキシアル位の水素原子と芳香属性の強い添加剤がCH-π相互作用と呼ばれる分子間相互作用を発現し、その結果、固体状態においては分子運動が制限され高強度化し、溶融状態ではガラス転移温度が低下する「反可塑剤効果」を発現させることで、3Dプリンター用造形材料として、弾性率や、造形物の高温・高湿下での寸法安定性に優れる材料を提供できたものと推察される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の熱溶融押出方式用材料は、少なくともセルロース誘導体と添加剤とを含有する熱溶融押出方式用材料であって、前記セルロース誘導体がセルロースアセテートプロピオ
ネートであり、アセチル基の置換度をX、プロピオニル基の置換度をYとしたときに、前記式(1)及び式(2)を満たすセルロース誘導体であり、前記添加剤が、可塑剤と、NICS値が-14以上-10以下の範囲内の部分構造を有する化合物Aとを含有することを特徴とする。この特徴は、下記実施態様に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0020】
本発明の実施態様としては、本発明の効果発現の観点から、前記化合物Aが、構造中にベンゼン環と複素五員環とを有することが、好ましい。これは、反可塑性効果を発現する上で、好ましい態様である。
【0021】
前記化合物の含有量は、0.1~30質量%の範囲内であることが好ましく、1~15質量%であることがより好ましく、5~15質量%でることが、反可塑剤効果を得る観点から、さらに好ましい。
【0022】
本発明の3Dプリンター用造形材料はモノフィラメント糸であることが好ましい。その製造方法は、前記熱溶融押出方式用材料を溶融押し出しした後、大気中又は水中において、冷却・固化して、モノフィラメント糸を形成することが、3Dプリンター用造形材料の製造方法として、本発明の効果及び取り扱い性の観点から好ましい製造方法である。
【0023】
本発明の3次元造形物は、前記熱溶融押出方式用材料を含有する3次元造形物であって、80℃、90%RHの環境下24時間放置後の寸法変化幅が、放置前の寸法に対して±5%以内であることを特徴とする。
【0024】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0025】
≪本発明の熱溶融押出方式用材料の概要≫
本発明の熱溶融押出方式用材料は、少なくともセルロース誘導体と添加剤とを含有する熱溶融押出方式用材料であって、前記セルロース誘導体がセルロースアセテートプロピオネートであり、アセチル基の置換度をX、プロピオニル基の置換度をYとしたときに、下記式(1)及び式(2)を満たすセルロース誘導体であり、前記添加剤が、可塑剤と、NICS値が-14以上-10以下の範囲内の部分構造を有する化合物Aとを含有することを特徴とする。
式(1) 2.0≦X+Y≦3.0
式(2) 0.5≦Y≦2.6
【0026】
本発明に係るセルロース誘導体は、式(1)及び式(2)を満たすことが特徴であるが、置換基がアセチル基のみでは熱溶融性が小さく、炭素数3を超えるアルキル基では、化合物Aとの相互作用が弱くなる。
【0027】
総置換量(X+Y)が2.0~3.0の範囲内が、セルロース誘導体を低温で溶融できる範囲の置換度であり、この範囲から外れるといずれも溶融温度が高くなり、得られるセルロース誘導体の物性が溶融プロセスによって低下してしまう。より好ましくは2.5~2.8の範囲内である。
【0028】
また、プロピオン酸による置換度であるYの値は、0.5~2.6の範囲内であるが、0.5未満ではセルロース誘導体の熱溶融性改善の効果が小さく、2.6より大きいと立体障害となり、化合物Aとの相互作用が弱くなるため、式(2)の範囲であることが必要である。
【0029】
また、セルロースを有機酸が置換する位置は、グルコースユニットの2位、3位、6位があり、2位と3位は2級のヒドロキシ基、6位は1級のヒドロキシ基であり、プロピオン酸がどの位置を置換するかによってセルロース誘導体の高次構造や物性が多少変化することがあるが、本発明の熱溶融押出方式用材料においてはプロピオン酸がいずれの置換位置にあるセルロース誘導体でも好ましく用いることができる。
【0030】
本発明の熱溶融押出方式用材料を用いてFDM方式で積層造形した3次元造形物の弾性率を推定するにあたり、Xplore社製小型混練機を用いて当該材料を射出成形した試験片を、23℃、55%RHの環境下で24時間調湿し、JIS K7127に記載の方法に準じて、引張試験器オリエンテック(株)製テンシロンRTC-1250Aを使用して弾性率を求める。試験片の形状は1号形試験片で、試験速度は10mm/分の条件で、任意方向に対し0°から15°毎の方向に測定し、求めた弾性率のうち最大値のものを弾性率とする。
【0031】
当該弾性率は、2.0GPa以上であることが好ましく、3.0~8.0GPaの範囲が好ましく、3.5~7.0GPaの範囲であることが、強度の高い3次元造形物を形成する上でより好ましい。
【0032】
以下、本発明の構成要素をさらに詳しく説明する。
【0033】
〔1〕セルロース誘導体
本発明に係るセルロース誘導体はセルロースアセテートプロピオネートであり、アセチル基の置換度をX、プロピオニル基の置換度をYとしたときに、下記式(1)及び式(2)を満たすセルロース誘導体であることを特徴とする。
式(1) 2.0≦X+Y≦3.0
式(2) 0.5≦Y≦2.6
【0034】
式(1)及び式(2)についての意義は前述のとおりである。上記アシル基の置換度の測定方法は、ASTM-D817-96に準じて測定することができる。
【0035】
セルロース誘導体の重量平均分子量Mwは、弾性率や寸法安定性を制御する観点から、80000~300000の範囲であることが好ましく、120000~250000の範囲であることがより好ましい。上記範囲mL内であるとFMD方式における積層造形時に弾性率の制御が行いやすく、3次元造形物の寸法安定化や、添加剤の耐染みだし性が向上する。
【0036】
セルロース誘導体の数平均分子量(Mn)は、30000~150000の範囲が得られた3次元造形物の機械的強度が高く好ましい。さらに40000~100000範囲のセルロース誘導体が好ましく用いられる。
【0037】
セルロース誘導体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)の値は、1.4~3.0の範囲であることが好ましい。
【0038】
セルロース誘導体の重量平均分子量Mw、数平均分子量Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定できる。
【0039】
測定条件は以下のとおりである。
【0040】
溶媒: ジクロロメタン
カラム: Shodex K806、K805、K803G(昭和電工(株)製を3
本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度: 0.1質量%
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0mL/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=500~1000000の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
【0041】
本発明で用いられるセルロース誘導体の原料セルロースは、木材パルプでも綿花リンターでもよく、木材パルプは針葉樹でも広葉樹でもよいが、針葉樹の方がより好ましい。製膜の際の剥離性の点からは綿花リンターが好ましく用いられる。これらから作られたセルロース誘導体は適宜混合して、あるいは単独で使用することができる。
【0042】
例えば、綿花リンター由来セルロース誘導体:木材パルプ(針葉樹)由来セルロース誘導体:木材パルプ(広葉樹)由来セルロース誘導体の比率が100:0:0、90:10:0、85:15:0、50:50:0、20:80:0、10:90:0、0:100:0、0:0:100、80:10:10、85:0:15、40:30:30で用いることができる。
【0043】
本発明に係るセルロース誘導体は、公知の方法により製造することができる。一般的には、原料のセルロースと所定の有機酸(酢酸、プロピオン酸など)と酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸など)、触媒(硫酸など)と混合して、セルロースをエステル化し、セルロースのトリエステルができるまで反応を進める。トリエステルにおいてはグルコース単位の三個のヒドロキシ基は、有機酸のアシル酸で置換されている。同時に二種類の有機酸を使用すると、混合エステル型のセルロースエステル、例えばセルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートを作製することができる。次いで、セルロースのトリエステルを加水分解することで、所望のアシル置換度を有するセルロースエステルを合成する。その後、濾過、沈殿、水洗、脱水、乾燥などの工程を経て、セルロース誘導体ができあがる。
【0044】
本発明に係るセルロース誘導体は、20mLの純水(電気伝導度0.1μS/cm以下、pH6.8)に1g投入し、25℃、1hr、窒素雰囲気下にて攪拌したときのpHが6~7の範囲であり、電気伝導度が1~100μS/cmの範囲であることが好ましい。
【0045】
本発明に係るセルロース誘導体は、具体的には特開平10-45804号公報や特開2017-170881号公報に記載の方法を参考にして合成することができる。
【0046】
〔2〕可塑剤
本発明に係る可塑剤は特に限定されるものではなく、ポリエステル化合物、多価アルコールエステル化合物、多価カルボン酸エステル化合物(フタル酸エステル化合物を含む)、グリコレート化合物、及びエステル化合物(脂肪酸エステル化合物やリン酸エステル化合物などを含む)が含まれる。これらは、単独で用いても、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
本発明の熱溶融押出方式用材料に好ましい可塑剤を説明する。
【0048】
ポリエステル化合物を構成するジカルボン酸は、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸又は脂環式ジカルボン酸であり、好ましくは芳香族ジカルボン酸である。ジカルボン
酸は、一種類であっても、二種類以上の混合物であってもよい。
【0049】
ポリエステル化合物を構成するジオールは、芳香族ジオール、脂肪族ジオール又は脂環式ジオールであり、好ましくは脂肪族ジオールであり、より好ましくは炭素数1~4のジオールである。ジオールは、一種類であっても、二種類以上の混合物であってもよい。
【0050】
なかでも、ポリエステル化合物は、少なくとも芳香族ジカルボン酸を含むジカルボン酸と、炭素数1~4のジオールとを反応させて得られる繰り返し単位を含むことが好ましく、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジカルボン酸とを含むジカルボン酸と、炭素数1~4のジオールとを反応させて得られる繰り返し単位を含むことがより好ましい。
【0051】
ポリエステル化合物の分子の両末端は、封止されていても、封止されていなくてもよいが、3次元造形物の透湿性を低減する観点からは、封止されていることが好ましい。
【0052】
ポリエステル化合物は、下記一般式(I)又は(II)で表される構造を有する化合物であることが好ましい。下記式において、nは1以上の整数である。
【0053】
一般式(I)
B-(G-A)n-G-B
一般式(II)
C-(A-G)n-A-C
一般式(I)及び(II)のAは、炭素原子数3~20(好ましくは4~12)のアルキレンジカルボン酸から誘導される2価の基、炭素原子数4~20(好ましくは4~12)のアルケニレンジカルボン酸から誘導される2価の基、又は炭素原子数8~20(好ましくは8~12)のアリールジカルボン酸から誘導される2価の基を表す。
【0054】
Aにおける炭素原子数3~20のアルキレンジカルボン酸から誘導される2価の基の例には、1,2-エタンジカルボン酸(コハク酸)、1,3-プロパンジカルボン酸(グルタル酸)、1,4-ブタンジカルボン酸(アジピン酸)、1,5-ペンタンジカルボン酸(ピメリン酸)、1,8-オクタンジカルボン酸(セバシン酸)などから誘導される2価の基が含まれる。Aにおける炭素原子数4~20のアルケニレンジカルボン酸から誘導される2価の基の例には、マレイン酸、フマル酸などから誘導される2価の基が含まれる。Aにおける炭素原子数8~20のアリールジカルボン酸から誘導される2価の基の例には、1,2-ベンゼンジカルボン酸(フタル酸)、1,3-ベンゼンジカルボン酸、1,4-ベンゼンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸などのナフタレンジカルボン酸などから誘導される2価の基が含まれる。
【0055】
Aは、一種類であっても、二種類以上が組み合わされてもよい。なかでも、Aは、炭素原子数4~12のアルキレンジカルボン酸と炭素原子数8~12のアリールジカルボン酸との組み合わせが好ましい。
【0056】
一般式(I)及び(II)のGは、炭素原子数2~20(好ましくは2~12)のアルキレングリコールから誘導される2価の基、炭素原子数6~20(好ましくは6~12)のアリールグリコールから誘導される2価の基、又は炭素原子数4~20(好ましくは4~12)のオキシアルキレングリコールから誘導される2価の基を表す。
【0057】
Gにおける炭素原子数2~20のアルキレングリコールから誘導される2価の基の例には、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオ
ール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール(3,3-ジメチロールペンタン)、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール(3,3-ジメチロールヘプタン)、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、及び1,12-オクタデカンジオール等から誘導される2価の基が含まれる。
【0058】
Gにおける炭素原子数6~20のアリールグリコールから誘導される2価の基の例には、1,2-ジヒドロキシベンゼン(カテコール)、1,3-ジヒドロキシベンゼン(レゾルシノール)、1,4-ジヒドロキシベンゼン(ヒドロキノン)などから誘導される2価の基が含まれる。Gにおける炭素原子数が4~12のオキシアルキレングリコールから誘導される2価の基の例には、ジエチレングルコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどから誘導される2価の基が含まれる。
【0059】
Gは、一種類であっても、二種類以上が組み合わされてもよい。なかでも、Gは、炭素原子数2~12のアルキレングリコールであることが好ましい。
【0060】
一般式(I)のBは、芳香環含有モノカルボン酸又は脂肪族モノカルボン酸から誘導される1価の基である。
【0061】
芳香環含有モノカルボン酸から誘導される1価の基における芳香環含有モノカルボン酸は、分子内に芳香環を含有するカルボン酸であり、芳香環がカルボキシ基と直接結合したものだけでなく、芳香環がアルキレン基などを介してカルボキシ基と結合したものも含む。芳香環含有モノカルボン酸から誘導される1価の基の例には、安息香酸、パラターシャリブチル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸、フェニル酢酸、3-フェニルプロピオン酸などから誘導される1価の基が含まれる。
【0062】
脂肪族モノカルボン酸から誘導される1価の基の例には、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、カプリル酸、カプロン酸、デカン酸、ドデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸などから誘導される1価の基が含まれる。なかでも、アルキル部分の炭素原子数が1~3であるアルキルモノカルボン酸から誘導される1価の基が好ましく、アセチル基(酢酸から誘導される1価の基)がより好ましい。
【0063】
一般式(II)のCは、芳香環含有モノアルコール又は脂肪族モノアルコールから誘導される1価の基である。
【0064】
芳香環含有モノアルコールは、分子内に芳香環を含有するアルコールであり、芳香環がOH基と直接結合したものだけでなく、芳香環がアルキレン基などを介してOH基と結合したものも含む。芳香環含有モノアルコールから誘導される1価の基の例には、ベンジルアルコール、3-フェニルプロパノールなどから誘導される1価の基が含まれる。
【0065】
脂肪族モノアルコールから誘導される1価の基の例には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロヘキシルアルコール、オクタノール、イソオクタノール、2-エチルヘキシルアルコール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、tert-ノニルアルコール、デカノール、ドデカノール、ドデカヘキサノール、ドデカオクタノール、アリルアルコール、オレイルアルコールなどから誘導される1
価の基が含まれる。なかでも、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素原子数1~3のアルコールから誘導される1価の基が好ましい。
【0066】
ポリエステル化合物の重量平均分子量は、500~3000の範囲であることが好ましく、600~2000の範囲であることがより好ましい。重量平均分子量が上記範囲内であれば、本発明に係るポリエステル化合物の3次元造形物からの耐染みだし性を満たすことができる。重量平均分子量は前記ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定することができる。
【0067】
多価アルコールエステル化合物は、2価以上の脂肪族多価アルコールと、モノカルボン酸とのエステル化合物(アルコールエステル)であり、好ましくは2~20価の脂肪族多価アルコールエステルである。多価アルコールエステル化合物は、分子内に芳香環又はシクロアルキル環を有することが好ましい。
【0068】
脂肪族多価アルコールの好ましい例には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ジブチレングリコール、1,2,4-ブタントリオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、トリメチロールエタン、キシリトール等が含まれる。なかでも、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ソルビトール、トリメチロールプロパン、キシリトールなどが好ましい。
【0069】
モノカルボン酸は、特に制限はなく、脂肪族モノカルボン酸、脂環式モノカルボン酸又は芳香族モノカルボン酸等でありうる。3次元造形物の透湿性を高め、かつ揮発しにくくするためには、脂環式モノカルボン酸又は芳香族モノカルボン酸が好ましい。モノカルボン酸は、一種類であってもよいし、二種以上の混合物であってもよい。また、脂肪族多価アルコールに含まれるOH基の全部をエステル化してもよいし、一部をOH基のままで残してもよい。
【0070】
脂肪族モノカルボン酸は、炭素数1~32の直鎖又は側鎖を有する脂肪酸であることが好ましい。脂肪族モノカルボン酸の炭素数はより好ましくは1~20であり、さらに好ましくは1~10である。脂肪族モノカルボン酸の例には、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、2-エチル-ヘキサン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ヘプタコサン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸等の飽和脂肪酸;ウンデシレン酸、オレイン酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等の不飽和脂肪酸等が含まれる。なかでも、セルロースアセテートとの相溶性を高めるためには、酢酸、又は酢酸とその他のモノカルボン酸との混合物が好ましい。
【0071】
脂環式モノカルボン酸の例には、シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロオクタンカルボン酸などが含まれる。
【0072】
芳香族モノカルボン酸の例には、安息香酸;安息香酸のベンゼン環にアルキル基又はアルコキシ基(例えばメトキシ基やエトキシ基)を1~3個を導入したもの(例えばトルイル酸など);ベンゼン環を2個以上有する芳香族モノカルボン酸(例えばビフェニルカルボン酸、ナフタリンカルボン酸、テトラリンカルボン酸など)が含まれ、好ましくは安息香酸である。
【0073】
多価アルコールエステル化合物の具体例は、特開2006-113239号公報段落〔0058〕~〔0061〕記載の化合物が挙げられる。
【0074】
多価カルボン酸エステル化合物は、2価以上、好ましくは2~20価の多価カルボン酸と、アルコール化合物とのエステル化合物である。多価カルボン酸は、2~20価の脂肪族多価カルボン酸であるか、3~20価の芳香族多価カルボン酸又は3~20価の脂環式多価カルボン酸であることが好ましい。
【0075】
多価カルボン酸の例には、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸のような3価以上の芳香族多価カルボン酸又はその誘導体、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、テトラヒドロフタル酸のような脂肪族多価カルボン酸、酒石酸、タルトロン酸、リンゴ酸、クエン酸のようなオキシ多価カルボン酸などが含まれ、3次元造形物からの揮発を抑制するためには、オキシ多価カルボン酸が好ましい。
【0076】
アルコール化合物の例には、直鎖もしくは側鎖を有する脂肪族飽和アルコール化合物、直鎖もしくは側鎖を有する脂肪族不飽和アルコール化合物、脂環式アルコール化合物又は芳香族アルコール化合物などが含まれる。脂肪族飽和アルコール化合物又は脂肪族不飽和アルコール化合物の炭素数は、好ましくは1~32であり、より好ましくは1~20であり、さらに好ましくは1~10である。脂環式アルコール化合物の例には、シクロペンタノール、シクロヘキサノールなどが含まれる。芳香族アルコール化合物の例には、ベンジルアルコール、シンナミルアルコールなどが含まれる。
【0077】
多価カルボン酸エステル化合物の分子量は、特に制限はないが、300~1000の範囲であることが好ましく、350~750の範囲であることがより好ましい。多価カルボン酸エステル系可塑剤の分子量は、ブリードアウトを抑制する観点では、大きいほうが好ましく;透湿性やセルロースアセテートとの相溶性の観点では、小さいほうが好ましい。
【0078】
多価カルボン酸エステル化合物の例には、トリエチルシトレート、トリブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート(ATEC)、アセチルトリブチルシトレート(ATBC)、ベンゾイルトリブチルシトレート、アセチルトリフェニルシトレート、アセチルトリベンジルシトレート、酒石酸ジブチル、酒石酸ジアセチルジブチル、トリメリット酸トリブチル、ピロメリット酸テトラブチル等が含まれる。
【0079】
多価カルボン酸エステル化合物は、フタル酸エステル化合物であってもよい。フタル酸エステル化合物の例には、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ-2-エチルヘキシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジシクロヘキシルテレフタレート等が含まれる。
【0080】
グリコレート化合物の例には、アルキルフタリルアルキルグリコレート類が含まれる。アルキルフタリルアルキルグリコレート類の例には、メチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレ
ート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が含まれ、好ましくはエチルフタリルエチルグリコレートである。
【0081】
エステル化合物には、脂肪酸エステル化合物、クエン酸エステル化合物やリン酸エステル化合物などが含まれる。
【0082】
脂肪酸エステル化合物の例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、及びセバシン酸ジブチル等が含まれる。クエン酸エステル化合物の例には、クエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、及びクエン酸アセチルトリブチル等が含まれる。リン酸エステル化合物の例には、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、及びトリブチルホスフェート等が含まれ、好ましくはトリフェニルホスフェートである。
【0083】
なかでも、ポリエステル化合物、多価アルコールエステル化合物及びグリコレート化合物が好ましく、ポリエステル化合物及び多価アルコールエステル化合物が特に好ましい。
【0084】
可塑剤の含有量は、熱溶融押出方式用材料に対して好ましくは1~20質量%の範囲であり、より好ましくは1.5~15質量%の範囲である。可塑剤の含有量が上記範囲内であると、可塑性の付与効果が発現でき、3次元造形物からの可塑剤の耐染みだし性にも優れる。
【0085】
〔3〕化合物A
本発明に係る化合物Aは、NICS値が-14以上-10以下の範囲内の部分構造を有する化合物であり、構造中にベンゼン環と複素五員環とを有することが、好ましい。
【0086】
また、分子量は揮発性の観点から250以上であることが好ましく、250~10000の範囲であることがより好ましい。
【0087】
相互作用ユニットを多数持つ、分子量が250~10000の範囲である化合物Aは、相互作用点の数が多くなるため、セルロース誘導体同士を擬似架橋するように働き、セルロース誘導体の分子鎖運動をより抑制することができる。化合物Aの分子量が250未満であると、相互作用点の数が少なく、セルロース誘導体の分子運動を抑制できず、分子量が10000を超えると、化合物Aとセルロース誘導体との相溶性の違いにより化合物Aが凝集し、ヘイズ低下の原因や機械特性低下の要因となる。
【0088】
また、NICS値が-14以上-10以下の範囲内であれば、セルロース誘導体とπ-π相互作用、CH-π相互作用、水素結合等の相互作用力によって物性を良化することができる。化合物AのNICS値が-14未満であると、相互作用力が強く、自身の分子間力により化合物Aの結晶化が進行してしまい、NICS値が-10を超えると、相互作用力が弱く、セルロース誘導体と好適な相互作用ができない。
【0089】
(NICS値)
例えば、芳香族部位を有するセルロース誘導体と化合物Aのπ電子を用いてπ/π相互作用を形成する場合、当然、化合物Aのπ性は強い方がよい。このπ性の強さを端的に表す例としてNICS(nucleus-independent chemical shift)値という指標がある。
【0090】
このNICS値は、磁気的性質による芳香族性の定量化に用いられる指標であり、環が芳香族であれば、その環電流効果によって環の中心が強く遮蔽化され、反芳香族なら逆に
反遮蔽化される(J.Am.Chem.Soc.1996、118、6317)。NICS値の大小により、環電流の強さ、つまり環の芳香族性へのπ電子の寄与度を判断することができる。具体的には、環内部中心に直接配置した仮想リチウムイオンの化学シフト(計算値)を表し、この値が負に大きいほどπ性が強い。
【0091】
NICS値の測定値に関して、いくつか報告されている。例えば、Canadian Journal of Chemistry.,2004,82,50-69やThe Journal of Organic Chemistry.,2000,67,1333-1338等の文献に測定値が報告されている。
【0092】
本発明において、NICS値は、Gaussian09(Revision C.01、米ガウシアン社ソフトウェア)を用いて算出する。具体的には、まず、計算法にB3LYP(密度汎関数法)を、基底関数には6-31G*(スプリットバレンス基底系に分極関数を追加した関数)を用いて構造最適化する。続いて、最適化した構造を用い、NICS値を計算する環の中央にダミー原子を置き、分散関数を加えた基底関数6-311G**でNMR遮蔽定数計算法(GIAO)により1点計算し、得られたダミー原子のNMR遮蔽定数に-1をかけた値をNICS値とする。
【0093】
文献に記載の代表的な環構造におけるNICS値を表Iに示す。
【0094】
【0095】
表Iに示すように、ベンゼン環やナフタレン環のような芳香族炭化水素環よりも、ピロール環、チオフェン環、フラン環などの5員の芳香族複素環の方が、NICS値が大きくなり、このような芳香族5員環を用いることで、π/π相互作用を強めることができるものと予測される。
【0096】
π/π相互作用とは、二つの芳香環の間に働く分子間力であり、芳香環は分極率が大きいため分散力(ロンドン分散力)の寄与が大きい分子間力である。このため、π共役系の広い芳香環は分極率がより大きくなり、π/π相互作用しやすくなる。6π電子系であるベンゼンは、一つのベンゼン環にもう一つのベンゼン環が垂直に配置し、ベンゼン環と水素原子がCH/π相互作用する場合が最も安定な構造であるのに対し、π共役系の広いナフタレン(10π電子)やアントラセン(14π電子)は芳香環同士がπ/π相互作用によって積み重なった場合が最も安定であることからも、π共役系の広い芳香環のπ/π相互作用が強いことが分かる。
【0097】
さらに、本発明者らが検討を進めた結果、π/π相互作用力に加えて、電荷移動相互作用や水素結合等の相互作用も活用すれば、樹脂に対して強く配位させることができると考えた。つまり、芳香族性に加えて、電荷移動相互作用することが可能なドナー性・アクセプター性を有する化合物あるいは水素結合部位を有する化合物を使用することで、パッキングしたセルロース誘導体間に化合物Aが入り込んだ状態で安定化させることが可能となり、凝集構造・配向構造をとることで、高い機械特性等の物性良化に効果的であると考えられる。
【0098】
(一般式(1)で表される構造を有する化合物)
本発明に係る化合物Aは、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物であることが好ましい。
【0099】
【0100】
一般式(1)中、環Aは、5員又は6員の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表す。R1は、水素原子又は置換基を表し、R1が複数ある場合、R1は互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。Lは、単結合、酸素原子、硫黄原子、アミド基、スルホニル基、アミノ基、スルフィド基、カルボニル基、リン酸エステル基、非環式脂肪族炭化水素基、環式脂肪族炭化水素基、脂肪族複素環基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基、又はこれらを組み合わせてなる2価の連結基を表す。環Bは、5員又は6員の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表す。R2は、水素原子又は置換基を表す。L-環B-R2が複数ある場合、L-環B-R2は互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。lは0~5の整数を表し、mは1~5の整数を表し、nは1~6の整数を表す。
【0101】
環A及び環Bで表される5員又は6員の芳香族複素環としては、オキサゾール環、オキサジアゾール環、オキサトリアゾール環、イソオキサゾール環、テトラゾール環、チアジアゾール環、チアトリアゾール環、イソチアゾール環、チオフェン環、フラン環、ピロール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環等が挙げられる。
【0102】
Lで表される非環式脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、s-ブチレン基、t-ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基等のアルキレン基等が挙げられる。その一部が飽和であっても不飽和であってもよく、直鎖状であっても分岐状であってもよく、酸素原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0103】
Lで表される環式脂肪族炭化水素基としては、例えば、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基等のシクロアルキレン基等が挙げられる。その一部が飽和であっても不飽和であってもよく、置換基を有していてもよく、酸素原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0104】
Lで表される脂肪族複素環基としては、2-オキソピロリジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環、テトラヒドロフラン環、テトラヒドロピラン環、テトラヒドロチチオフェン環等から導出される2価の基が挙げられる。
【0105】
R1及びR2で表される置換基としては、本発明の効果を損なわない範囲において特に制限されるものではないが、例えば、水素原子、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、アルキル基(メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基等)、シクロアルキル基(シクロヘキシル基、シクロペンチル基、4-n-ドデシルシクロヘキシル基等)、アルケニル基(ビニル基、アリル基等)、シクロアルケニル基(2-シクロペンテン-1-イル、2-シクロヘキセン-1-イル基等)、アルキニル基(エチニル基、プロパルギル基等)、アリール基(フェニル基、p-トリル基、ナフチル基等)、ヘテロアリール基(2-ピロール基、2-フリル基、2-チエニル基、ピロール基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、2-ベンゾチアゾリル基、ピラゾリノン基、ピリジル基、ピリジノン基、2-ピリミジニル基等)、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシ基、アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、tert-ブトキシ基、n-オクチルオキシ基、2-メトキシエトキシ基等)、アリールオキシ基(フェノキシ基、2-メチルフェノキシ基、4-tert-ブチルフェノキシ基、3-ニトロフェノキシ基、2-テトラデカノイルアミノフェノキシ基等)、アシル基(アセチル基、ピバロイルベンゾイル基等)、アシルオキシ基(ホルミルオキシ基、アセチルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ステアロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、p-メトキシフェニルカルボニルオキシ基等)、アミノ基(アミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、アニリノ基、N-メチル-アニリノ基、ジフェニルアミノ基等)、アシルアミノ基(ホルミルアミノ基、アセチルアミノ基、ピバロイルアミノ基、ラウロイルアミノ基、ベンゾイルアミノ基等)、アルキル及びアリールスルホニルアミノ基(メチルスルホニルアミノ基、ブチルスルホニルアミノ基、フェニルスルホニルアミノ基、2,3,5-トリクロロフェニルスルホニルアミノ基、p-メチルフェニルスルホニルアミノ基等)、メルカプト基、アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基、n-ヘキサデシルチオ基等)、アリールチオ基(フェニルチオ基、p-クロロフェニルチオ基、m-メトキシフェニルチオ基等)、スルファモイル基(N-エチルスルファモイル基、N-(3-ドデシルオキシプロピル)スルファモイル基、N,N-ジメチルスルファモイル基、N-アセチルスルファモイル基、N-ベンゾイルスルファモイル基、N-(N′-フェニルカルバモイル)スルファモイル基等)、スルホ基、カルバモイル基(カルバモイル基、N-メチルカルバモイル基、N,N-ジメチルカルバモイル基、N,N-ジ-n-オクチルカルバモイル基、N-(メチルスルホニル)カルバモイル基等)などが含まれる。これらの基は、更に同様の基で置換されていてもよい。と同様のものを挙げることができる。
【0106】
(一般式(2)で表される構造を有する化合物)
上記一般式(1)で表される構造を有する化合物は、下記一般式(2)で表される構造を有する化合物であることがより好ましい。
【0107】
【0108】
一般式(2)中、A1~A6は、それぞれ独立に、炭素原子又は窒素原子を表すが、A1~A6のうち、少なくとも二つは炭素原子である。R1は、水素原子又は置換基を表し、R1が複数ある場合、R1は互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。Lは、単結合、酸素原子、硫黄原子、アミド基、スルホニル基、アミノ基、スルフィド基、カルボニル基、リン酸エステル基、非環式脂肪族炭化水素基、環式脂肪族炭化水素基、脂肪族複素環基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基、又はこれらを組み合わせてなる2価の連結基を表す。環Bは、5員又は6員の芳香族炭化水素環又は芳香族複素環を表す。R2は、水素原子又は置換基を表す。L-環B-R2が複数ある場合、L-環B-R2は互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。lは0~5の整数を表し、mは1~5の整数を表し、nは1~6の整数を表す。
【0109】
A1~A6で形成される環としては、ベンゼン環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、トリアジン環、テトラジン環等が挙げられる。
【0110】
一般式(2)におけるB、L、R1及びR2は、一般式(1)におけるB、L、R1及びR2と同義である。
【0111】
以下に、本発明に係る化合物Aの具体的な例示化合物1~75を示すが、これに限定されることはない。また、化合物Aは、互変異性体であってもよく、水和物、溶媒和物又は塩を形成していてもよい。
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
(例示化合物65の合成)
例示化合物65は以下のスキームによって合成することができる。
【0121】
【0122】
脱水テトラヒドロフラン520mlにアセトフェノン80g(0.67mol)、イソフタル酸ジメチル52g(0.27mol)を加え、窒素雰囲気下、氷水冷で撹拌しながら、ナトリウムアミド52.3g(1.34mol)を少しずつ滴下した。氷水冷下で3時間撹拌した後、水冷下で12時間撹拌した。反応液に濃硫酸を加えて中和した後、純水及び酢酸エチルを加えて分液し、有機層を純水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。得られた粗結晶にメタノールを加えて懸濁洗浄することにより、中間体Aを55.2g得た。
【0123】
テトラヒドロフラン300mL、エタノール200mLに中間体A55g(0.15mol)を加え、室温で撹拌しながら、ヒドラジン1水和物18.6g(0.37mol)を少しずつ滴下した。滴下終了後、12時間加熱還流した。反応液に純水及び酢酸エチルを加えて分液し、有機層を純水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。得られた粗結晶をシリカゲルクロマトグラフィー(酢酸エチル/ヘプタン)で精製することによって、例示化合物66を27g得た。
【0124】
得られた例示化合物66の1H-NMRスペクトルは以下のとおりである。なお、互変異性体の存在により、ケミカルシフトが複雑化するのを避けるために、測定溶媒にトリフルオロ酢酸を数滴加えて測定を行った。
【0125】
1H-NMR(400MHz、溶媒:重DMSO、基準:テトラメチルシラン)δ(ppm):8.34(1H、s)、7.87~7.81(6H、m)、7.55~7.51(1H、m)、7.48~7.44(4H、m)、7.36~7.33(2H、m)、7.29(1H、s)
その他の化合物についても同様の方法によって合成が可能である。
【0126】
本発明に係る化合物Aは、適宜量を調整して熱溶融押出方式用材料に含有することができるが、添加量としては熱溶融押出方式用材料中に、0.1~30質量%の範囲内で含むことが好ましく、特に、1~15質量%の範囲内で含むことが好ましく、5~15質量%の範囲内で含むことが特に好ましい。添加量はセルロース誘導体の種類、当該化合物の種類によってことなるものであるが、本発明の熱溶融押出方式用材料が所望の物性を示す添加量によって最適値を決定することができる。この範囲内であれば、本発明の熱溶融押出方式用材料の機械強度を損なうことなく、環境温度及び湿度の変化に依存した寸法の変動を低減することができる。
【0127】
また、化合物Aの添加方法としては、粉体で添加しても溶媒に溶解した後添加しても良い。
【0128】
〔4〕他の添加剤
また、本発明の熱溶融押出方式用材料に併用できる各種樹脂添加剤としては、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤、紫外線吸収剤、染顔料、難燃剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤・アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、防菌剤などが挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。以下、本発明の熱溶融押出式用材料に好適な添加剤の一例について具体的に説明する。
【0129】
熱安定剤としては、リン系化合物が挙げられる。リン系化合物としては、従来公知の任意のものを使用できる。具体的には、リン酸、ホスホン酸、亜リン酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸、酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウム等の酸性ピロリン酸金属塩、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族又は第2族金属のリン酸塩、有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられる。前記のリン系化合物の含有量は、本発明に係る熱可塑性樹脂と化合物の合計100質量部に対し、通常0.001~1質量部、好ましくは0.01~0.7質量部、更に好ましくは0.03~0.5質量部である。
【0130】
酸化防止剤は劣化防止剤ともいわれる。高湿高温の状態に液晶画像表示装置などがおかれた場合には、3次元造形物の劣化が起こる場合がある。
【0131】
このような酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の化合物が好ましく用いられ、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6-ヘキサンジオール-ビス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4-ビス-(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、2,2-チオ-ジエチレンビス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N′-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマミド)、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-イソシアヌレイト等を挙げることができる。
【0132】
特に、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また、例えば、N,N′-ビス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジン等のヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト等のリン系加工安定剤を併用してもよい。
【0133】
これらの化合物の添加量は、セルロース誘導体に対して質量割合で1ppm~1.0%の範囲が好ましく、10~1000ppmの範囲が更に好ましい。
【0134】
3次元造形物は、表面の滑り性を高めるため、必要に応じて微粒子(マット剤)をさらに含有してもよい。
【0135】
微粒子は、無機微粒子であっても有機微粒子であってもよい。無機微粒子の例には、二酸化珪素(シリカ)、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムなどが含まれる。なかでも、二酸化珪素や酸化ジルコニウムが好ましく、得られる3次元造形物のヘイズの増大を少なくするためには、より好ましくは二酸化珪素である。
【0136】
二酸化珪素の微粒子の例には、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600、NAX50(以上日本アエロジル(株)製)、シーホスターKE-P10、KE-P30、KE-P50、KE-P100(以上日本触媒(株)製)などが含まれる。なかでも、アエロジルR972V、NAX50、シーホスターKE-P30などが、摩擦係数を低減させるため特に好ましい。
【0137】
微粒子の一次粒子径は、5~50nmの範囲であることが好ましく、7~20nmの範囲であることがより好ましい。一次粒子径が大きいほうが、得られる造形物の滑り性を高める効果は大きいが、透明性が低下しやすい。そのため、微粒子は、粒子径0.05~0.3μmの範囲の二次凝集体として含有されていてもよい。微粒子の一次粒子又はその二次凝集体の大きさは、透過型電子顕微鏡にて倍率50万~200万倍で一次粒子又は二次凝集体を観察し、一次粒子又は二次凝集体100個の粒子径の平均値として求めることができる。
【0138】
微粒子の含有量は、セルロース誘導体全体に対して0.05~1.0質量%の範囲であることが好ましく、0.1~0.8質量%の範囲であることがより好ましい。
【0139】
他には、離型剤としては、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15000の脂肪族炭化水素化合物、ポリシロキサン系シリコーンオイルの群から選ばれる少なくとも1種の化合物が挙げられる。離型剤の含有量は、本発明に係る熱可塑性樹脂と化合物の合計100質量部に対し、通常0.001~2質量部、好ましくは0.01~1質量部である。
【0140】
紫外線吸収剤としては、酸化セリウム、酸化亜鉛などの無機紫外線吸収剤の他、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、トリアジン化合物などの有機紫外線吸収剤が挙げられる。これらの中では有機紫外線吸収剤が好ましい。特に、ベンゾトリアゾール化合物、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール、2-[4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン-2-イル]-5-(オクチロキシ)フェノール、2,2’-(1,4-フェニレン)ビス[4H-3,1-ベンゾキサジン-4-オン]、[(4-メトキシフェニル)-メチレン]-プロパンジオイックアシッド-ジメチルエステルの群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。紫外線吸収剤の含有量は、本発明に係る熱可塑性樹脂と化合物の合計100質量部に対し、通常0.01~3質量部、好ましくは0.1~1質量部である。
【0141】
染顔料としては、無機顔料、有機顔料、有機染料などが挙げられる。無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、カドミウムレッド、カドミウムイエロ-等の硫化物系顔料;群青などのケイ酸塩系顔料;酸化チタン、亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛-鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅-クロム系ブラック、銅-鉄系ブラック等の酸化物系顔料;黄鉛、モリブデートオレンジ等のクロム酸系顔料;紺青などのフェロシアン系顔料が挙げられる。染顔料の含有量は、本発明に係る熱可塑性樹脂と化合物の合計100質量部に対し、通常5質量部以下、好ましくは3質量部以下、更に好ましくは2質量部以下である。
【0142】
難燃剤としては、ハロゲン化ビスフェノールAのポリカーボネート、ブロム化ビスフェノール系エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノール系フェノキシ樹脂、ブロム化ポリスチレン等のハロゲン系難燃剤、リン酸エステル系難燃剤、ジフェニルスルホン-3,3´-ジスルホン酸ジカリウム、ジフェニルスルホン-3-スルホン酸カリウム、パーフルオロブタンスルホン酸カリウム等の有機金属塩系難燃剤、ポリオルガノシロキサン系難燃剤などが挙げられるが、リン酸エステル系難燃剤が好ましい。難燃剤の含有量は、本発明に係る熱可塑性樹脂と化合物の合計100質量部に対し、通常1~30質量部、好ましくは3~25質量部、更に好ましくは5~20質量部である。
【0143】
また、各種充填剤も配合することができる。配合する充填材は、この種の熱溶融押出式用材料一般に用いられるものであれば特に制限は無く、粉末状、繊維状、粒状及び板状の無機充填材が、また、樹脂系の充填材又は天然系の充填材も好ましく使用できる。
【0144】
〔5〕熱溶融押出方式用材料及び造形物の製造方法
本発明の熱溶融押出方式用材料は、例えば、混合機を使用して前記の各成分を混合した後、溶融混練することによって製造することができる。混合機としては、バンバリーミキサー、ロ-ル、ブラベンダ-等が使用され、溶融混練には、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニ-ダ-等が使用される。また、各成分を予め混合せずに、又は、一部の成分のみ予め混合してフィーダーで押出機に供給して溶融混練する方法も採用できる。特に、本発明に係る極性基を有する化合物成分を他の成分を混合せずにフィーダーで押出機に供給して溶融混練する方法は、押出作業性の点で好ましい。
【0145】
本発明の熱溶融押出方式用材料から造形物を製造する方法は、特に限定されず、熱可塑性樹脂について一般に採用されている成形法を採用することもできる。例えば、一般的な射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサ-ト成形、IMC(インモールドコ-ティング成形)成形法、押出成形法、シ-ト成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法などが挙げられる。また、ホットランナ-方式を使用した成形法も採用できる。
【0146】
なかでも、3Dプリンターを用いた製造方法であることは、好ましい実施態様である。
【0147】
特に、本発明に係るセルロース誘導体と、可塑剤及び化合物Aとを含む熱溶融押出方式用材料を溶融押し出しした後、大気中又は水中にて冷却・固化して、モノフィラメント糸を形成することが好ましい。モノフィラメント糸は、連続線状であり、ボビンに巻いて保管したり、又はかせ状にすることにより、コンパクトな形態にできるため好ましい。
【0148】
冷却・固化に使用する液体としては、水、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、シリコーンなどが使用できるが、液体浴を高温にする必要がないため、作業性のよい、環境汚染を起こしにくい水が最も好ましい。水が最も好ましい。
冷却・固化されたモノフィラメント糸は乾燥後、そのまま巻き取ってもよい。あるいは、必要に応じて、温度20~80℃の雰囲気中で延伸してもよい。延伸する場合は、一段または二段以上の多段で行うことができる。
【0149】
本発明の熱溶融押出方式用材料から造形物への製造方法においては、3Dプリンターによる成形方法としては熱溶解積層法(FDM法)、インクジェット方式、光造形方式、石膏パウダー積層方式、レーザー焼結方式(SLS法)等が挙げられ、これらの中でも熱溶解積層法に用いることが好ましい。以下、熱溶解積層法の場合を例示して説明する。
【0150】
3Dプリンターは一般に、チャンバーを有しており、該チャンバー内に、加熱可能な基盤、ガントリー構造に設置された押出ヘッド、加熱溶融器、熱溶融押出式用材料(混練物)のガイド、熱溶融押出式用材料カートリッジ設置部等の原料供給部を備えている。3Dプリンターの中には押出ヘッドと加熱溶融器とが一体化されているものもある。
【0151】
押出ヘッドはガントリー構造に設置されることにより、基盤のX-Y平面上に任意に移動させることができる。基盤は目的の3次元造形物や支持材等を構築するプラットフォームであり、加熱保温することで積層物との密着性を得たり、得られる樹脂造形物を所望の3次元造形物として寸法安定性を改善したりできる仕様であることが好ましい。押出ヘッドと基盤とは、通常、少なくとも一方がX-Y平面に垂直なZ軸方向に可動となっている。
【0152】
3Dプリンター成形用フィラメントは原料供給部から繰り出され、対向する1組のローラー又はギアーにより押出ヘッドへ送り込まれ、押出ヘッドにて加熱溶融され、先端ノズルより押し出される。例えば、CADモデルを基にして発信される信号により、押出ヘッドはその位置を移動しながら熱溶融押出式用材料を基盤上に供給して積層堆積させていく。この工程が完了した後、基盤から積層堆積物を取り出し、必要に応じて支持材等を剥離したり、余分な部分を切除したりして所望の3次元造形物として得ることができる。
【0153】
押出ヘッドへ連続的に熱溶融押出式用材料を供給する手段は、熱溶融押出式用材料を繰り出て供給する方法、粉体又は液体をタンク等から定量フィーダーを介して供給する方法、ペレット又は顆粒を押出機等で可塑化したものを押し出して供給する方法等が例示できるが、工程の簡便さと供給安定性の観点から、熱溶融押出方式用材料を繰り出して供給する方法が最も好ましい。
【0154】
3Dプリンターに熱溶融押出方式用材料を供給する場合、ニップローラーやギアローラー等の駆動ローラーに熱溶融押出方式用材料を係合させて、引き取りながら押出ヘッドへ供給することが一般的である。ここで熱溶融押出方式用材料と駆動ローラーとの係合による把持をより強固にすることで原料供給を安定化させるために、熱溶融押出方式用材料の表面に微小凹凸形状を転写させておいたり、係合部との摩擦抵抗を大きくするための無機添加剤、展着剤、粘着剤、ゴム等を配合したりすることも好ましい。
【0155】
本発明の熱溶融押出方式用材料は、押出しに適当な流動性を得るための温度が、通常190~240℃程度と、汎用的な3Dプリンターが設定可能な設定可能な温度であり、本発明に用いられる製造方法においては、加熱押出ヘッドの温度を通常230℃以下、好ましくは200~220℃とし、また、基盤温度を通常80℃以下、好ましくは50~70℃として安定的に造形物を製造することができる。
【0156】
押出ヘッドから吐出される熱溶融押出方式用材料の温度(吐出温度)は180℃以上であることが好ましく、190℃以上であることがより好ましく、一方、250℃以下であることが好ましく、240℃以下であることがより好ましく、230℃以下であることが更に好ましい。熱溶融押出方式用材料の温度が上記下限値以上であると、耐熱性の高い樹脂を押し出す上で好ましく、また、一般に造形物中に糸引きと呼ばれる、熱溶融押出方式用材料が細く伸ばされた破片が残り、外観を悪化させることを防ぐ観点からも好ましい。一方、熱溶融押出方式用材料の温度が上記上限値以下であると、熱可塑性樹脂の熱分解や焼け、発煙、臭い、べたつきといった不具合の発生を防ぎやすく、また、高速で吐出することが可能となり、造形効率が向上する傾向にあるために好ましい。
【0157】
押出ヘッドから吐出される熱溶融押出方式用材料は、好ましくは直径0.01~1mm、より好ましくは直径0.02~0.5mmのフィラメント状で吐出され、モノフィラメント糸を形成する。このようなモノフィラメント糸で形成されると、汎用性が高い造形物となる。
【0158】
また、本発明の3次元造形物は、セルロースアセテートプロピオネートと、可塑剤と化合物Aとを含有する3次元造形物であって、80℃、90%RHの環境下24時間放置後の寸法変化幅が、放置前の寸法に対して±5%以内であることを特徴とする。
【0159】
3Dプリンター成形用の熱溶融押出式用材料を用いて3Dプリンターにより造形物を製造するにあたり、押出ヘッドから吐出させたモノフィラメント糸状の熱溶融押出方式用材料を積層しながら造形物を作る際に、先に吐出させた熱溶融押出方式用材料のモノフィラメント糸と、その上に吐出させた熱溶融押出方式用材料のモノフィラメント糸との接着性が十分でないことや吐出ムラによって、成形物の表面に凹凸部(段差)が生じることがある。成形物の表面に凹凸部が存在すると、外観の悪化だけでなく、造形物が破損しやすい等の問題が生じることがある。
【0160】
本発明の3Dプリンター成形用の熱溶融押出方式用材料は、成形時の吐出ムラが抑制され、外観や表面性状等に優れた造形物を安定して製造することができる。
【0161】
3Dプリンターによって押出ヘッドから吐出させたモノフィラメント糸の熱溶融押出方式用材料を積層しながら造形物を作る際に、樹脂の吐出を止めた上で次工程の積層箇所にノズルを移動する工程がある。この時、樹脂が途切れずに細い熱溶融押出方式用材料繊維が生じ、糸を引いたように造形物表面に残ることがある。上記の様な糸引きが発生すると造形物の外観が悪化する等の問題が生じることがある。
【0162】
3Dプリンターによって押出ヘッドから吐出させたモノフィラメント糸の熱溶融押出方式用材料を積層しながら造形物を作る際に、押し出しヘッドのノズル部に付着することがあり、さらに付着した熱溶融押出方式用材料が熱によって着色し、黒い異物(黒点や黒条)となることがある。そして、このような異物が造形物中に混入することで、外観の悪化だけでなく、造形物が破損しやすい等の問題が生じることがある。
【0163】
本発明の3Dプリンター用の熱溶融押出方式用材料は、耐熱性に優れ、ノズル部に付着しても熱による着色が生じにくいことから、優れた外観の造形物を安定して製造することができる。
【0164】
また、本発明の好ましい態様においては、造形物は40℃以上かつ熱溶融押出方式用材料のガラス転移温度(Tg)未満の温度条件にてアニール処理されることもできる。アニール処理温度は、上記のTg未満であって、好ましくは60℃以上、更に好ましくは70℃以上である。アニール処理温度が40℃以上の場合は、強度向上の改良効果が見込め、Tg以下の場合は、樹脂が溶融しないことから好ましい。処理時間は、通常5min~200hr、好ましくは1~100hr、更に好ましくは2~48hrの範囲である。アニール処理の方法は、特に限定されず、熱可塑性樹脂について採用される熱風乾燥機の他、遠赤外線による処理方法も採用することができる。アニール処理中、造形物は静置しておいても、ラインで流してもよく、途中で処理温度を変化させてもよい。
〔6〕用途
本発明の熱溶融押出方式用材料は、透明性、高剛性、耐熱性に優れているという特長がある。この様な特長を有する本発明の熱溶融押出方式用材料は、3Dプリンター用の造形物として幅広い分野に使用することが可能であり、電気・電子機器やその部品、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌用部材、医療用器具、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器などの各種用途に有用であり、特に電気・電子機器、車輌用部材及び医療用器具への適用が期待できる。
【0165】
電気・電子機器やOA機器、情報端末機器のハウジング、カバー、キーボード、ボタン、スイッチ部材としては、パソコン、ゲーム機、テレビ等のディスプレイ装置、プリンター、コピー機、スキャナー、ファックス、電子手帳やPDA、電子式卓上計算機、電子辞書、カメラ、ビデオカメラ、携帯電話、記録媒体のドライブや読み取り装置、マウス、テンキー、CDプレーヤー、MDプレーヤー、携帯ラジオ、携帯オーディオプレーヤー等のハウジング、カバー、キーボード、ボタン、スイッチ部材が挙げられる。
【0166】
車輌用部材としては、へッドランプ、ヘルメットシールド等が挙げられる。また、内装部材としては、インナードアハンドル、センターパネル、インストルメンタルパネル、コンソールボックス、ラゲッジフロアボード、カーナビゲーション等のディスプレイハウジング等が挙げられる。
【0167】
医療用器具としては、義手、義足への適用が挙げられる。
【実施例】
【0168】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」又は「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」又は「質量%」を表す。
【0169】
〔実施例1〕
〈セルロース誘導体の分子量測定〉
セルロース誘導体の平均分子量及び分子量分布は、高速液体クロマトグラフィーを用い測定できるので、これを用いて重量平均分子量(Mw)を算出することができる。
【0170】
測定条件は以下の通りである。
【0171】
溶媒:ジクロロメタン
カラム:Shodex K806,K805,K803(昭和電工(株)製を3本接続して使用した)
カラム温度:25℃
試料濃度:0.1質量%
検出器:RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ:L6000(日立製作所(株)製)
流量:1.0mL/min
校正曲線:標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)Mw=500~1000000迄の13サンプルによる校正曲線を使用した。13サンプルは、ほぼ等間隔に用いることが好ましい。
【0172】
〈セルロース誘導体の置換度測定〉
ASTM D817-96に基づき、下記のようにして置換度DSを求めた。
【0173】
乾燥したセルロース誘導体1.90gを精秤し、アセトン70mLとジメチルスルホキシド30mLを加え溶解した後、更にアセトン50mLを加えた。攪拌しながら1N-水酸化ナトリウム水溶液30mLを加え、2時間ケン化した。熱水100mLを加え、フラスコ側面を洗浄した後、フェノールフタレインを指示薬として1N硫酸で滴定した。別に試料と同じ方法で空試験を行なった。滴定が終了した溶液の上澄み液を100倍に希釈し、イオンクロマトグラフを用いて、常法により有機酸の組成を測定した。測定結果とイオンクロマトグラフによる酸組成分析結果から、下記式により置換度を計算した。
【0174】
TA=(B-A)×F/(1000×W)
X=(162.14×TA)/{1-42.14×TA+(1-56.06×TA)×(P/A)}
Y=X×(P/A)
DS=X+Y
A:試料滴定量(mL)
B:空試験滴定量(mL)
F:1N硫酸の力価
W:試料質量(g)
TA:全有機酸量(mol/g)
P/A:イオンクロマトグラフで測定した酢酸とプロピオン酸とのモル比
X:酢酸による置換度
Y:プロピオン酸による置換度
〈セルロースの分取〉
Indian J.Chem.Tech.,vol.3(1996)p333に記載の方法を参考にして分子量の異なるセルロースの分取を行った。
【0175】
ギンネムの木(Leucaena Leucocephala)から抽出したα-セルロース10質量部と、パラホルムアルデヒド12質量部とを、ジメチルスルホキシド(以下DMSOと略)360質量部に100℃で5時間加熱して溶解させたのち、DMSO
620質量部を加えて5℃まで冷却した。
【0176】
このDMSO溶液を攪拌しながら、純水を100質量部添加し、生成した沈殿物をろ過して得られた固形物をセルロースaとした。
【0177】
《セルロース誘導体の合成》
Polymers for Advanced Technologies,vol.14(2003),p478を参考にして、各種のセルロースアセテートプロピオネートを合成した。
【0178】
〈セルロース誘導体A1の合成〉
セルロースaを100質量部(100モル部)と、塩化リチウム420質量部(1600モル部)と、酢酸11質量部(30モル部)、プロピオン酸を130質量部(286モル部)とを、ジメチルアセトアミド1000質量部(体積で10倍)に混合した溶液に、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)を405質量部(320モル部)、ジメチルアミノピリジン130質量部(170モル部)、ジメチルアミノピリジン-トシル酸塩130質量部(70モル部)を室温で加え、DCCが完全に消費されるまで24時間攪拌した。反応終了後、5000質量部の蒸留水を加えて生成した白色沈殿を濾別した。濾別した固形物を純水で数回洗浄した後、メタノールで24時間ソックスレー抽出を行い、最後に70℃で真空乾燥することでセルロース誘導体A1を得た。得られたセルロース誘導体の置換度、分子量は前述の測定法にしたがって実施し、測定結果については表IIに記載した。
【0179】
〈セルロース誘導体A2の合成〉
セルロース誘導体A1の合成において、酢酸11質量部(30モル部)を30質量部(80モル部)に、プロピオン酸130質量部(286モル部)を100質量部(220モル部)に、DCC405質量部(320モル部)を380質量部(300モル部)に変更した以外はセルロース誘導体A1と同様にして合成を行い、セルロース誘導体A2を得た。
【0180】
〈セルロース誘導体A3の合成〉
同様に、酢酸11質量部(30モル部)を70質量部(110モル部)に、プロピオン酸を130質量部(286モル部)を50質量部(110モル部)に、DCC405質量部(320モル部)を279質量部(220モル部)に変更した以外はセルロース誘導体A1と同様にして合成を行い、セルロース誘導体A3を得た。
【0181】
〈セルロース誘導体A4の合成〉
同様に、酢酸11質量部(30モル部)を59質量部(160モル部)に、プロピオン酸を130質量部(286モル部)を50質量部(110モル部)に、DCC405質量部(320モル部)を342質量部(270モル部)に変更した以外はセルロース誘導体A1と同様にして合成を行い、セルロース誘導体A4を得た。
【0182】
〈セルロース誘導体A5の合成〉
同様に、酢酸11質量部(30モル部)を78質量部(210モル部)、プロピオン酸を130質量部(286モル部)を41質量部(90モル部)に、DCC405質量部(320モル部)を380質量部(300モル部)と変更した以外はセルロース誘導体A1と同様にして合成を行い、セルロース誘導体A5を得た。
【0183】
〈セルロース誘導体A6の合成〉
同様に、酢酸11質量部(30モル部)を96質量部(260モル部)に、プロピオン酸を130質量部(286モル部)を23質量部(50モル部)に、DCC405質量部(320モル部)を380質量部(300モル部)に変更した以外はセルロース誘導体A1と同様にして合成を行い、セルロース誘導体A6を得た。
【0184】
〈セルロース誘導体A7の合成〉
同様に、酢酸11質量部(30モル部)を除き、プロピオン酸130質量部(286モル部)を140質量部(308モル部)と変更した以外はセルロース誘導体A1と同様にして合成を行い、セルロース誘導体A7を得た。
【0185】
【0186】
〈可塑剤〉
以下の可塑剤を用いた。
【0187】
【0188】
〈添加剤〉
構造中にベンゼン環と複素五員環とを有する添加剤(化合物A)として以下の化合物を用いた。
【0189】
【0190】
また、比較例の添加剤として以下の化合物を用いた。
【化14】
【0191】
表IIIにおけるNICS値は、上記化合物における芳香環の中でNICS値が一番大き
い環の値を下記基準で分類したものである。
【0192】
A:芳香環の中でNICS値が一番大きい環の値が、-14以上-10以下
B:芳香環の中でNICS値が一番大きい環の値が、14未満、又は-10を超える
【0193】
【0194】
≪熱溶融押出方式用材料含有モノフィラメント糸及び造形物の作製≫
〈熱溶融押出方式用材料含有モノフィラメント糸No.1と造形物No.1の作製〉
熱溶融押出方式用材料として、セルロース誘導体に対して、可塑剤添加量を5.0質量%及び添加剤1を3.0質量%になるように添加して、2軸の混練押出装置((株)プラ
スチック工学研究所社製「BT―30」、L/D=30)にて樹脂と可塑剤及び添加剤と
を複合化し、モノフィラメント糸とした。また、このモノフィラメント糸をストランドカッターにより長さ2mmでペレット化して、Xplore社製小型混練機を用いて、(縦)30×(横)30mm、厚さ100μmになるように、射出成形し、弾性率測定用の造形物No.1の試験片を得た。
【0195】
〈熱溶融押出方式用材料含有モノフィラメント糸No.2~No.23と造形物No.2~No.23の作製〉
同様にして、表IV記載の組成になるように可塑剤添加量、添加剤種類及び添加剤の添加量を変化させて、熱溶融押出方式用材料含有モノフィラメント糸No.2~No.23を作製し、同様にして造形物No.2~No.23の試験片を得た。
【0196】
≪評価≫
(1)弾性率(引っ張り弾性率)
各熱溶融押出方式用材料に対して、上記条件と、その条件において添加剤1~4を含まない条件にて、Xplore社製小型混練機を用いて射出成形した試験片を、テンシロン万能試験機(オリエンテック社製「RTC-1250A型」)にて引張試験し、その弾性率を比較した。
【0197】
引張試験は、上記試験片をJIS K7127に準拠して、上記試験機を用いて、チャック間距離を50mmとし、試験片の射出方向であるMD方向(方向X)に引っ張り、MD方向(方向X)の引張り弾性率を測定した。測定は、23℃、55%RH下で行った。単位はGPaである。
【0198】
弾性率比=弾性率(上記熱溶融押出方式用材料の調製条件)/弾性率(上記熱溶融押出方式用材料から上記添加剤を除いた条件)
但し、熱溶融押出方式用材料No.22は可塑剤のみのため弾性率に関する項目は括弧で×とした。
【0199】
◎:可塑剤と添加剤を含有する試験片が、可塑剤のみの試験片より引張弾性率比が10%以上大きく、弾性率に特に優れる
○:可塑剤と添加剤を含有する試験片が、可塑剤のみの試験片に対して1~10%未満の範囲で引張弾性率比が大きく、弾性率に優れる
×:可塑剤と添加剤を含有する試験片が、可塑剤のみの試験片に対して、引張弾性率が同等又はそれ以下であり弾性率に劣る
(2)高温・高湿時の寸法安定性
上記3Dプリンター用のモノフィラメント糸を用いて、FDMプリンター(Leapfrog社製、Creatr dual)で(縦)30×(横)30×(厚さ)4(mm)の直方体を造形した。高温・高湿条件(80℃、90%RH)下24時間経過前後の前記直方体の正方形部の無作為に選択した4か所の長さを計測し平均の寸法とした。次いで、寸法変化率=(その平均の寸法-30)/30の値を求めた。
【0200】
◎:0~±3%以下であり、寸法安定性に特に優れる
〇:±3%より大きく、±5%以下であり、寸法安定性に優れる
×:±5%より大きく、寸法安定性に劣る
以上の、熱溶融押出方式用材料の構成及び評価結果を、表IVに示した。
【0201】
【0202】
表IVの結果から、本発明の構成であるセルロース誘導体、可塑剤及び特定範囲のNICS値の部分構造を有する化合物Aを含有する熱溶融押出方式用材料は、造形物に加工したときの弾性率及び高温・高湿時の寸法安定性に優れることが明らかである。
【0203】
特に構造中、ピラゾール環を2環有する添加剤1を用いた水準は、弾性率及び寸法安定性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0204】
本発明の熱溶融押出方式用材料は、弾性率や、造形物の高温・高湿下での寸法安定性に優れるため、3Dプリンター用造形材料として好適に利用される。