(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】トランス接続相判定プログラム、装置、及び方法
(51)【国際特許分類】
H02J 3/00 20060101AFI20240814BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J13/00 301A
(21)【出願番号】P 2021022770
(22)【出願日】2021-02-16
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北島 弘伸
(72)【発明者】
【氏名】柏木 哲也
(72)【発明者】
【氏名】河島 沙里
(72)【発明者】
【氏名】是永 由里子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 澪冬
【審査官】山口 大
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-083397(JP,A)
【文献】特開2019-075878(JP,A)
【文献】特開2016-070812(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0097574(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00
H02J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の配電線と、前記複数の配電線のうちの2つの組み合わせに対応した相に接続する1以上のトランスとを含む配電設備の稼働に関する、前記トランスが接続する相のパターン毎のシミュレーションデータに基づいて、前記トランスに流れる電流である相電流と、前記複数の配電線それぞれに流れる電流である線電流との相関関係を特定し、
前記パターン毎のシミュレーションデータと前記相関関係とに基づいて、前記相電流と前記線電流の各々との相関の度合を示す散布図を生成し、
前記パターン毎に、前記散布図内の各位置の確率密度を算出し、
前記散布図に前記配電設備の稼働における前記相電流及び前記線電流の実データをプロットした場合の位置と、前記確率密度の算出結果とに基づいて、前記実データにおける前記トランスの接続相を判定する、
ことを含む処理をコンピュータに実行させるトランス接続相判定プログラム。
【請求項2】
前記シミュレーションデータは、前記トランスに接続された仮想的な需要家で消費される電力に起因する、前記パターンが示す前記トランスが接続された相の前記相電流と、実データである線電流に前記相電流による変動分を反映した前記線電流とを含む請求項1に記載のトランス接続相判定プログラム。
【請求項3】
前記相関関係を特定する処理は、前記仮想的な需要家で消費される電力のデータを、予め用意された電力の標準データを用いて生成し、生成した前記電力のデータに基づいて、前記相電流を算出し、算出した前記相電流及び前記配電設備の回路構成に基づいて、前記線電流を算出することにより、前記シミュレーションデータを生成することを含む請求項2に記載のトランス接続相判定プログラム。
【請求項4】
前記シミュレーションデータを生成する処理は、前記パターン毎のシミュレーションデータの数の配分、前記標準データから前記電力のデータを生成するための係数、及びトランスが接続される相に対応する2つの配電線に対する負荷の配分の少なくとも1つを調整することを含む請求項3に記載のトランス接続相判定プログラム。
【請求項5】
前記調整する処理は、判定対象の前記配電設備について事前に取得可能な情報を統計的に分析した結果に基づいて調整することを含む請求項4に記載のトランス接続相判定プログラム。
【請求項6】
前記散布図を生成する処理は、前記相電流と前記線電流の各々との相関の度合を示す値の各々を要素とするベクトルの分布を、前記相関の度合いを示す値の各々に対応する軸に対して対称なベクトルを法線ベクトルとして持つ平面に射影することを含む請求項1~請求項5のいずれか1項に記載のトランス接続相判定プログラム。
【請求項7】
前記確率密度を算出する処理は、前記平面に射影された前記ベクトルの前記パターン毎の分布に対して、確率密度分布を推定することを含む請求項6に記載のトランス接続相判定プログラム。
【請求項8】
前記確率密度を算出する処理は、前記パターン毎に推定した確率密度分布の混合比を、前記相電流及び前記線電流の実データを用いて推定することを含む請求項7に記載のトランス接続相判定プログラム。
【請求項9】
前記トランスの接続相を判定する処理は、前記散布図において、前記実データをプロットした位置において、算出された確率密度が最も高いパターンに対応する相を、前記トランスの接続相として判定すると共に、最も高い前記確率密度を、判定結果の信頼度として出力することを含む請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のトランス接続相判定プログラム。
【請求項10】
複数の配電線と、前記複数の配電線のうちの2つの組み合わせに対応した相に接続する1以上のトランスとを含む配電設備の稼働に関する、前記トランスが接続する相のパターン毎のシミュレーションデータに基づいて、前記トランスに流れる電流である相電流と、前記複数の配電線それぞれに流れる電流である線電流との相関関係を特定する特定部と、
前記パターン毎のシミュレーションデータと前記相関関係とに基づいて、前記相電流と前記線電流の各々との相関の度合を示す散布図を生成する生成部と、
前記パターン毎に、前記散布図内の各位置の確率密度を算出する算出部と、
前記散布図に前記配電設備の稼働における前記相電流及び前記線電流の実データをプロットした場合の位置と、前記確率密度の算出結果とに基づいて、前記実データにおける前記トランスの接続相を判定する判定部と、
を含むトランス接続相判定装置。
【請求項11】
複数の配電線と、前記複数の配電線のうちの2つの組み合わせに対応した相に接続する1以上のトランスとを含む配電設備の稼働に関する、前記トランスが接続する相のパターン毎のシミュレーションデータに基づいて、前記トランスに流れる電流である相電流と、前記複数の配電線それぞれに流れる電流である線電流との相関関係を特定し、
前記パターン毎のシミュレーションデータと前記相関関係とに基づいて、前記相電流と前記線電流の各々との相関の度合を示す散布図を生成し、
前記パターン毎に、前記散布図内の各位置の確率密度を算出し、
前記散布図に前記配電設備の稼働における前記相電流及び前記線電流の実データをプロットした場合の位置と、前記確率密度の算出結果とに基づいて、前記実データにおける前記トランスの接続相を判定する、
ことを含む処理をコンピュータが実行するトランス接続相判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の技術は、トランス接続相判定プログラム、トランス接続相判定装置、及びトランス接続相判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電力を消費する需要家と二次側で接続されたトランスが、一次側で高圧配電線のいずれの相に接続されているかを判定する技術が提案されている。
【0003】
例えば、正解情報のない条件下で、トランス接続相の判定結果に対する信頼度を算出する接続相判定信頼度算出装置が提案されている。この装置は、複数の配電線の2つの組み合わせに対応した複数の相のいずれかに接続されたトランスに接続された少なくとも1つの需要家で消費された電力に起因する相電流と、複数の配電線の各々を流れる線電流の各々との相関を示す相関値の各々を算出する。そして、この装置は、相関値の各々に基づいて、トランスが接続された相を判定する。さらに、この装置は、相関値の各々を要素とするベクトルの分布を表し、かつ複数の相の各々に対応した複数のコンポーネントを持つ混合分布モデルを推定し、混合分布モデルに基づき、トランスが接続された相の判定結果の信頼度を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術では、需要家で消費された電力のデータのうち、取得可能なデータ数が少ない場合には、精度良くトランスの接続相を判定することができない、という問題がある。また、混合分布モデルの推定において、推定対象のパラメータの初期値が適切に設定されていない場合には、混合分布モデルの推定が不安定となる。そのような混合分布モデルを用いて接続相を判定する場合には、精度良くトランスの接続相を判定することができない、という問題がある。
【0006】
一つの側面として、開示の技術は、トランスの接続相の判定精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一つの態様として、開示の技術は、配電設備の稼働に関するシミュレーションデータに基づいて、トランスに流れる電流である相電流と、複数の配電線それぞれに流れる電流である線電流との相関関係を特定する。配電設備は、複数の配電線と、前記複数の配電線のうちの2つの組み合わせに対応した相に接続する1以上のトランスとを含む。また、シミュレーションデータは、前記トランスが接続する相のパターン毎のシミュレーションデータである。また、開示の技術は、前記パターン毎のシミュレーションデータと前記相関関係とに基づいて、前記相電流と前記線電流の各々との相関の度合を示す散布図を生成し、前記パターン毎に、前記散布図内の各位置の確率密度を算出する。そして、開示の技術は、前記散布図に前記配電設備の稼働における前記相電流及び前記線電流の実データをプロットした場合の位置と、前記確率密度の算出結果とに基づいて、前記実データにおける前記トランスの接続相を判定する。
【発明の効果】
【0008】
一つの側面として、トランスの接続相の判定精度を向上させることができる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】トランス接続相判定装置の機能ブロック図である。
【
図3】配電系統を仮想的な回路構成で表現した図である。
【
図9】相関係数ベクトルの平面πへの射影を説明するための図である。
【
図10】相関係数ベクトルの平面πへの射影を説明するための図である。
【
図11】信頼度マップの一例を概念的に示す図である。
【
図12】トランス接続相判定装置として機能するコンピュータの概略構成を示すブロック図である。
【
図13】マップ生成処理の一例を示すフローチャートである。
【
図14】生成算出処理の一例を示すフローチャートである。
【
図15】接続相判定処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して開示の技術の実施形態の一例を詳細に説明する。
【0011】
まず、
図1を参照し、配電網の一例について説明する。なお、配電網は、開示の技術の配電設備の一例である。
図1に示す配電網100は、三相で高圧(例えば6.6kV)の交流電力を生成する配電変電所102を含んでいる。
図1の例では、配電系統が三相3線式とされ、配電変電所102には3本の高圧配電線104の一端が接続されている。配電変電所102で生成された三相で高圧の交流電力は3本の高圧配電線104を通じて送電される。なお、以下では3本の高圧配電線104を区別する場合に、それぞれをa線、b線、及びc線という。
【0012】
高圧配電線104の途中にはセンサ内蔵開閉器106が設置されており、センサ内蔵開閉器106により、a線の線電流Ia、b線の線電流Ib、及びc線の線電流Icの各々が、例えば30分単位で測定される。以下では、線電流Ia、Ib、及びIcを総称する場合は、線電流Ix(ただし、xはa、b、及びcのいずれか)の符号を用いる。
【0013】
高圧配電線104は、センサ内蔵開閉器106の設置位置よりも交流電力の送電方向下流側の互いに異なる複数の位置に、単相のトランス108の一次側が各々接続されている。高圧配電線104に接続されるトランス108の数は、例えば数十~数百程度である。高圧配電線104は3本であるので、トランス108が接続される高圧配電線104の組み合わせ、すなわち接続相には3つの可能性がある。なお、実際のトランス108の多くは単相であるが、
図1では、トランス108の接続相に3つの可能性があることを表現するために、トランス108を三相で表している。以下では、可能性があるトランス108の接続相を、それぞれab相、bc相、及びca相という。
【0014】
個々のトランス108の二次側には複数本の低圧配電線110の一端が接続されており、トランス108で変換された単相で低圧(例えば105V)の交流電力は複数本の低圧配電線110を通じて送電される。低圧配電線110には、個々の需要家に近接した複数箇所において、個々の需要家に対応する引込線112が各々接続されている。個々の需要家へは、低圧配電線110及び引込線112を介して単相で低圧の交流電力が供給される。なお、1つのトランス108の配下の需要家の数は、例えば5~10程度である。
図1では、対応する引込線112が、1つのトランス108の二次側に接続された同じ低圧配電線110に接続されている需要家の数を表している。
【0015】
また、需要家の一部には通信機能付きの電力メータ(スマートメータ116)が設置されている。スマートメータ116が設置されている需要家における消費電力量Pは、例えば30分単位でスマートメータ116によって計測され、計測結果は図示しない通信線を介して配電事業者等へ送信される。
【0016】
ここで、スマートメータ116が設置されている需要家の数が少ない場合には、需要家の消費電力Pのうち、取得可能なデータ数が少なくなる。従来技術のように、実データから算出した相関値のベクトルの分布から混合分布モデルを推定する場合、実データ数が少ないことにより、精度良く分布を推定できない。また、従来技術では、各ベクトルに対応する正解の接続相が未知のため、推定対象のパラメータの初期値が適切に設定されていない場合には、混合分布モデルの推定が不安定となる。
【0017】
そこで、本実施形態では、シミュレーションデータを用いることで、データ数の問題を解消する。また、本実施形態では、シミュレーションデータにおいて、接続相を設定することができる、すなわち、接続相を既知とすることができる。そのため、相関値のベクトルの分布に基づいて、各相に対応するコンポーネント毎に確率密度分布を推定することで、分布推定が不安定になる問題を解消する。以下、本実施形態に係るトランス接続相判定装置について詳述する。
【0018】
図2に示すように、本実施形態に係るトランス接続相判定装置10は、特定部12と、生成部14と、算出部16と、判定部18とを備える。トランス接続相判定装置10において、トランスの接続相の判定、及び判定結果の信頼度の算出に用いる信頼度マップ30(詳細は後述)を生成する際(以下、「マップ生成時」という)には、特定部12、生成部14、及び算出部16が機能する。また、トランス接続相判定装置10において、対象のトランスについての接続相を判定する際(以下、「接続相判定時」という)には、特定部12及び判定部18が機能する。
【0019】
特定部12は、マップ生成時においては、配電設備の稼働に関する、トランスが接続する相のパターン毎のシミュレーションデータに基づいて、トランスに流れる電流である相電流と、複数の配電線それぞれに流れる電流である線電流との相関関係を特定する。また、特定部12は、接続相判定時においては、相電流及び線電流の実データに基づいて、相電流と線電流との相関関係を特定する。以下、特定部12の処理について具体的に説明する。
【0020】
特定部12は、マップ生成時においては、後述するシミュレーションデータの生成対象のトランスの識別情報であるトランスIDを入力として受け付け、トランスIDに対応した配電区間を選択する。また、特定部12は、接続相判定時においては、接続相の判定を行う対象のトランスのトランスIDを入力として受け付け、トランスIDに対応した配電区間及び需要家を選択する。
【0021】
ここで、配電区間について説明する。例えば、
図3に示すような配電系統を考える。
図3の例は、三相3線式の回路であり、トランス(柱上トランス)は仮想的に三角結線された三相トランスであるとしている。実際の配電系統におけるトランスの多くでは単相3線式又は単相2線式のものが用いられ、利用される相も通常一つだけであるが、
図3では、接続相に複数の可能性があることを扱うために、配電系統を仮想的な回路構成で表現している。本実施形態では、2つのセンサ内蔵開閉器に挟まれた区間を「配電区間」とする。また、上述したように、需要家はトランスの二次側に接続されている。
【0022】
配電区間とその配電区間に属するトランスとの対応関係、及びトランスとそのトランスに接続されている需要家との対応関係は、配電情報として、配電情報DB(database)22に記憶されている。
【0023】
図4に、配電情報DB22の一例を示す。
図4の例では、配電情報DB22には、需要家毎に、「需要家ID」、「トランスID」、「配電区間ID」、及び「データ可用性フラグ」の各情報を含む配電情報が記憶されている。需要家IDは、需要家の識別情報である。トランスIDは、その需要家が接続されているトランスのトランスIDである。配電区間IDは、そのトランスが属する配電区間の識別情報である。ここでは、
図3に示すように、配電系統の上流側と下流側とに設置されたセンサ内蔵開閉器に挟まれた配電区間が、直列にいくつもつながった配電系統を想定している。そして、例えば、センサ内蔵開閉器(S1)とセンサ内蔵開閉器(S2)とに挟まれた配電区間を示す配電区間IDを、「I1-2」のように定めている。データ可用性フラグは、各需要家の消費電力データが利用可能か否かを示すフラグである。例えば、需要家に設置されたスマートメータ等の電力メータが、トランス接続相判定装置10とネットワークを介して接続されている場合には、その需要家の消費電力データが利用可能であるとして、データ可用性フラグが「有」に設定される。
【0024】
従って、特定部12は、配電情報DB22に記憶された配電情報を参照して、受け付けたトランスIDに対応した配電区間、又は配電区間及び需要家を選択する。具体的には、特定部12は、マップ生成時には、受け付けたトランスIDと一致するトランスIDに対応付けられた配電区間IDを選択する。また、特定部12は、接続相判定時には、受け付けたトランスIDと一致するトランスIDに対応付けられた配電区間ID及び需要家IDを選択する。なお、特定部12は、需要家IDを選択する際には、データ可用性フラグが「有」のものを選択する。また、特定部12は、該当の需要家IDが複数存在する場合には、複数の需要家IDを選択する。
【0025】
また、特定部12は、マップ生成時において、受け付けたトランスIDが示すトランスに対して、3種類の相のいずれかを接続相として設定すると共に、トランスに関するシミュレーションデータを生成する。シミュレーションデータには、トランスに接続された仮想的な需要家(以下、「仮想需要家」という)で消費される電力に起因して、設定された接続相に生じる相電流のデータが含まれる。また、シミュレーションデータには、実データである線電流に、シミュレーションにより得られた相電流による変動分を反映した、各配電線についての線電流のデータが含まれる。
【0026】
具体的には、特定部12は、標準電力データDB24に記憶された標準電力データを用いて、仮想需要家で消費される電力のデータ(以下、「消費電力データ」という)を生成する。
図5に、標準電力データDB24の一例を示す。
図5に示すように、標準電力データは、スマートメータ116のサンプリング時間間隔に対応させた時間間隔(
図5の例では30分)毎の消費電力量[kWh]のデータである。
図5の例では、各標準電力データに、標準電力データの識別情報である標準電力データIDが付与されている。標準電力データは、不特定多数の需要家において、スマートメータ116で過去に実際に計測された消費電力量のデータであってもよいし、それらの平均値であってもよいし、人手又は所定のシミュレーション等で作成したデータであってもよい。
【0027】
特定部12は、標準電力データDB24から所定数の標準電力データを取得し、サンプリング時刻毎の消費電力量を加算して、仮想需要家の消費電力データを生成する。また、特定部12は、設定し接続相について、生成した仮想需要家の消費電力に起因する相電流を算出する。例えば、高圧6600Vのトランスを想定する場合、仮想需要家sの消費電力の時系列データP’s(t)に起因する相電流の時系列データI’s
y(t)は、下記(1)式により算出される。
【0028】
I’s
y(t)=P’s(t)/6.6 (1)
y∈{ab,bc,ca}
【0029】
yは、設定された接続相であり、ab相、bc相、及びca相のいずれかである。P’s(t)は、仮想需要家sの消費電力の時系列データ[kWh]であり、I’s
y(t)は、消費電力に起因するy相の相電流の時系列データ[A]である。
【0030】
また、特定部12は、相電流及び配電設備の回路構成に基づいて、配電線毎の線電流を算出する。具体的には、特定部12は、受け付けたトランスIDに基づいて選択した配電区間IDが示す配電区間における3種類の線電流を、線電流データDB26から取得する。
図6に、線電流データDB26の一例を示す。
図6の例では、配電区間IDが示す配電区間のa線、b線、及びc線の各々において、一定のサンプリング時間間隔(
図6の例では30分)で測定された正味の電流値[A]が、線電流の時系列データとして蓄積されている。なお、
図3に示すような各配電区間に正味に流れる線電流I’
x(t)を、センサ内蔵開閉器の測定値から求める際に、線電流の振幅が同相であれば実数として扱える。そこで、下記(2)式のように、上流のセンサ内蔵開閉器(S1)における測定値から下流のセンサ内蔵開閉器(S2)における測定値を減算することにより、線電流I’
x(t)が得られる。なお、センサ内蔵開閉器が一つしかない配電区間の場合は、下記(2)式においてI’
x_S2(t)=0とすればよい。
【0031】
I’x(t)=I’x_S1(t)-I’x_S2(t) (2)
x∈{a,b,c}
【0032】
そして、特定部12は、配電系が対称三相交流であることを仮定し、仮想需要家を追加した場合の新たな線電流の値I’’x(t)を、設定した接続相に応じて、下記(3)次のように近似計算する。
【0033】
【0034】
なお、特定部12は、上記シミュレーシデータの生成において、トランス毎に設定する接続相の配分を調整してもよい。例えば、特定部12は、複数のトランスに3種類の接続相を均等に配分するようにしてもよいし、いずれかの接続相の設定数を多く又は少なくしてもよい。また、特定部12は、標準電力データから仮想需要家の消費電力データを生成するための係数を調整してもよい。例えば、複数の標準電力データを合算して仮想需要家の消費電力データを生成する際に、各標準電力データの重み付き和として生成してもよい。また、標準電力データの特定の時間帯の消費電力のみに係数を乗算して仮想需要家の消費電力データを生成してもよい。また、特定部12は、トランスの接続相に対応する2つの配電線に対する負荷の配分を調整してもよい。特定部12は、これらの調整を、判定対象のトランスが属する配電設備について事前に取得可能な情報を統計的に分析した結果に基づいて行ってもよい。
【0035】
特定部12は、算出した線電流の時系列データI’’x(t)、及び相電流の時系列データI’s
y(t)を、下記(4)式に示すように、時間平均からの変動で表した値に加工して、相関分析を行う。
【0036】
Ix(t)=I’’x(t)-μ(I’’x(t))
x∈{a,b,c}
Is
y(t)=I’s
y(t)-μ(I’s
y(t)) (4)
y∈{ab,bc,ca}
(μ(・)は時間平均)
【0037】
特定部12は、線電流の時系列データIx(t)と、相電流の時系列データIs
y(t)との相関関係を示す指標値として、例えば下記(5)式に示す相関係数ρxs
yを算出する。
【0038】
【0039】
ここで、σxs
yは、Ix(t)とIs
y(t)との共分散、σxは、Ix(t)の標準偏差、σs
yは、Is
y(t)の標準偏差、Tは、時系列データ内のサンプリング点数である。
【0040】
また、特定部12は、接続相判定時において、受け付けたトランスIDに基づいて選択された需要家IDに対応する消費電力データを、実電力データDB28から取得する。
図7に実電力データDB28の一例を示す。実電力データDB28は、データ構造は
図5に示す標準電力データDB24と同様であるが、データ自体は、スマートメータ116で実際に計測された需要家の消費電力の値である。特定部12は、選択した需要家IDが1件の場合には、その需要家IDに対応した消費電力データを、実電力データDB28からそのまま読み込めばよい。また、特定部12は、選択した需要家IDが複数ある場合には、複数の需要家IDに対応する複数の消費電力データを取得し、サンプリング時刻毎の消費電力量を加算して、トランスに接続する実際の需要家(以下、「実需要家」という)の消費電力データを生成する。そして、特定部12は、実需要家dの消費電力の時系列データP
d(t)に起因する相電流の時系列データI
d(t)を、(1)式及び(4)式と同様に算出する。
【0041】
また、特定部12は、受け付けたトランスIDに基づいて選択した配電区間IDに対応する3種類の線電流の時系列データIx(t)(x∈{a,b,c})を、線電流データDB26から取得する。そして、特定部12は、算出した相電流の時系列データId(t)と、取得した相電流の時系列データIx(t)との相関係数ρxdを、(5)式と同様に算出する。なお、(1)式、(4)式、及び(5)式における「s(仮想需要家)」を「d(実需要家)」と読み替える。また、判定対象のトランスの接続相は未知であるため、(1)式、(4)式、及び(5)式の「y」も未知であるため、判定対象のトランスに関する各データの記号からは、添え字「y」を削除している。
【0042】
生成部14は、接続相を設定したトランス毎のシミュレーションデータと、特定部12により特定された相電流と線電流との相関関係とに基づいて、相電流と線電流の各々との相関の度合を示す散布図を生成する。具体的には、生成部14は、トランス毎に算出された相電流及び線電流の各々についての3つの相関係数ρxs
y{x∈a,b,c}を要素とするベクトルの分布を、相関係数の各々に対応する軸に対して対称なベクトルを法線ベクトルとして持つ平面に射影する。
【0043】
より具体的には、生成部14は、3種類の相関係数を要素に持つ相関係数ベクトルρ(数式内では太字)を、下記(6)式で導入される座標系(ρas,ρbs,ρcs)によって表現する。ここで、ea、eb、ec(eは数式内では太字)は、三軸の基底である。
【0044】
【0045】
多数のトランスの各々について得られる相関係数ベクトルを、三次元散布図として描いた例を、
図8に示す。
図8の各点は、選択されたトランスID毎に生成れたシミュレーションデータに基づいて算出された相関係数ベクトルに対応している。また、
図8では、各点の濃淡を、各点に対応するトランスに設定された接続相の種類によって異ならせている。
【0046】
また、生成部14は、
図8に示す相関係数ベクトルの空間中の(1,1,1)方向に法線ベクトルを持つ平面π上に、相関係数ベクトルの全てのサンプルを直交射影する。
図9に示すように、任意の相関係数ベクトルρを、(1,1,1)に平行なベクトルρ
hと、平面πに平行なベクトルρ
vとに分解すると、三次元のベクトルであるρに対応する点を、平面πに直交射影した点は、二次元ベクトルであるρ
v’で表現できる。
【0047】
図9に示すベクトルρ
v’を平面π上の二次元で表現するために、
図10に示すような座標系(x,y)を設定すると、平面πへの直交射影を、下記(7)式のような線形変換で定義することができる。
【0048】
【0049】
すなわち、生成部14は、上記(7)式により、シミュレーションデータである相電流の時系列データと線電流の時系列データとの相関係数の二次元散布図を生成する。
【0050】
算出部16は、接続相のパターン(種類)毎に、生成部14により生成された二次元散布図内の各位置の確率密度を算出する。具体的には、算出部16は、平面πに射影された相関係数ベクトルのパターンに対応するコンポーネント毎の分布に対して、密度関数を推定する。コンポーネントとは、設定された接続相のパターン毎のサンプル点の集合に相当する。なお、
図10の例では、kはコンポーネントの番号であり、k=1,2,3の順にそれぞれ、ab相、bc相、ca相に対応するコンポーネントを示している。
【0051】
より具体的には、生成部14により生成された二次元散布図の各コンポーネントに二次元正規分布を仮定した混合正規分布は、座標(x,y)を使用して表現すると、下記(8)式のようになる。
【0052】
【0053】
ここで、τkは混合比、μk(数式内では太字)は平均ベクトル、Skは分散共分散行列、|・|は行列式である。本実施形態では、シミュレーションにおいて接続相を設定しているため、散布図における各サンプル点が、いずれの相に接続されたトランスについての線電流と相電流との相関係数ベクトルに対応しているかは、既知である。そこで、算出部16は、(8)式中のパラメータであるμk及びSkを、コンポーネント(k=1,2,3)毎に最尤法等で推定し、各コンポーネントの密度関数fk(x,y)を定める。
【0054】
また、算出部16は、各コンポーネントの密度関数fk(x,y)(k=1,2,3)と、線電流及び相電流の実データとに基づいて、上記(8)式中のパラメータである混合比τk(k=1,2,3)をEMアルゴリズム等で推定する。これにより、(8)式のf(x,y)が定まり、二次元散布図内、すなわち平面πの各位置(x,y)における確率密度が算出されたことになる。
【0055】
なお、f(x,y)は、上記(8)式を仮定する場合に限定されず、各コンポーネントに一般の分布を仮定した、下記(9)式に示す式を適用してもよい。本実施形態では、各コンポーネントに属するサンプル点が既知であるため、分布の型を制限しない、ノンパラメトリックな推定の実施も容易である。これにより、二次元散布図におけるサンプル点の分布をより精度良く表した混合分布を推定することができる。
【0056】
【0057】
(9)式の場合、算出部16は、コンポーネント(k=1,2,3)毎に、カーネル密度推定法等で、各コンポーネントの密度関数fk(x,y)を推定する。また、算出部16は、混合比τkについては、(8)式の場合と同様に、線電流及び相電流の実データを用いて、EMアルゴリズム等で推定する。
【0058】
算出部16は、推定したfk(x,y)及びτk(k=1,2,3)を用いて、下記(10)式に示す接続相の判定式、及び下記(11)式に示す信頼度を算出する。
【0059】
【0060】
(10)式は、平面π上の点(x,y)にサンプル点が位置するトランスについて、τ
kf
k(x,y)が最大となるコンポーネントk(k
*)に対応するパターンを、トランスの接続相として判定することを表している。また、(11)式は、コンポーネントk
*を接続相とする判定結果の信頼度である。算出部16は、平面π上の各位置(x,y)について、(10)式により算出したコンポーネントk
*、及び(11)式により算出した信頼度C(x,y,k
*)を、各位置(x,y)に対応付けた信頼度マップ30を生成する。
図11に、信頼度マップ30の一例を概念的に示す。
図11では、平面π上の各位置における信頼度の高低をグレーの濃淡で表現して分布を表している。なお、
図11の例では、二次元散布図のサンプル点(丸印)、混合分布を導入しない場合の判定領域の境界、及び混合分布の密度関数の等高線も示している。
【0061】
判定部18は、信頼度マップ30に、判定対象のトランスに関する相電流及び線電流の実データに基づく点をプロットした場合の位置と、確率密度の算出結果とに基づいて、判定対象のトランスの接続相を判定する。具体的には、判定部18は、接続相判定時において、特定部12により、判定対象のトランスについて算出された3つの相関係数ρxd{x∈a,b,c}を要素とする相関係数ベクトルを上記(7)式により二次元に変換し、信頼度マップ30にプロットする。そして、判定部18は、信頼度マップ30において、プロットした位置(x,y)に対応付けられたコンポーネントk*に基づいて、判定対象のトランスの接続相を判定する。また、判定部18は、信頼度マップ30において、プロットした位置(x,y)に対応付けられたC(x,y,k*)に基づいて、判定結果の信頼度を取得する。
【0062】
判定部18は、接続相の判定結果及び信頼度を、表示装置への表示、印刷装置による印刷等が可能な形式に処理して出力する。
【0063】
トランス接続相判定装置10は、例えば
図12に示すコンピュータ40で実現することができる。コンピュータ40は、CPU(Central Processing Unit)41と、一時記憶領域としてのメモリ42と、不揮発性の記憶部43とを備える。また、コンピュータ40は、入力部、表示部等の入出力装置44と、記憶媒体49に対するデータの読み込み及び書き込みを制御するR/W(Read/Write)部45とを備える。また、コンピュータ40は、インターネット等のネットワークに接続される通信I/F(Interface)46を備える。CPU41、メモリ42、記憶部43、入出力装置44、R/W部45、及び通信I/F46は、バス47を介して互いに接続される。
【0064】
記憶部43は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等によって実現できる。記憶媒体としての記憶部43には、コンピュータ40を、トランス接続相判定装置10として機能させるためのトランス接続相判定プログラム50が記憶される。トランス接続相判定プログラム50は、特定プロセス52と、生成プロセス54と、算出プロセス56と、判定プロセス58とを有する。
【0065】
CPU41は、トランス接続相判定プログラム50を記憶部43から読み出してメモリ42に展開し、トランス接続相判定プログラム50が有するプロセスを順次実行する。CPU41は、特定プロセス52を実行することで、
図2に示す特定部12として動作する。また、CPU41は、生成プロセス54を実行することで、
図2に示す生成部14として動作する。また、CPU41は、算出プロセス56を実行することで、
図2に示す算出部16として動作する。また、CPU41は、判定プロセス58を実行することで、
図2に示す判定部18として動作する。これにより、トランス接続相判定プログラム50を実行したコンピュータ40が、後述するマップ生成処理及び接続相判定処理を実行し、トランス接続相判定装置10として機能することになる。なお、プログラムを実行するCPU41はハードウェアである。
【0066】
なお、トランス接続相判定プログラム50により実現される機能は、例えば半導体集積回路、より詳しくはASIC(Application Specific Integrated Circuit)等で実現することも可能である。
【0067】
次に、本実施形態に係るトランス接続相判定装置10の作用について説明する。トランス接続相判定装置10において、信頼度マップ30の生成が指示され、信頼度マップ30の生成対象のトランスのトランスIDが入力されると、トランス接続相判定装置10が、
図13に示すマップ生成処理を実行する。また、信頼度マップ30が生成された状態で、トランス接続相判定装置10において、トランスの接続相の判定が指示され、判定対象のトランスのトランスIDが入力されると、トランス接続相判定装置10が、
図15に示す接続相判定処理を実行する。なお、マップ生成処理及び接続相判定処理は、開示の技術のトランス接続相判定方法の一例である。以下、マップ生成処理及び接続相判定処理の各々について説明する。
【0068】
まず、
図13に示すマップ生成処理について説明する。
【0069】
ステップS10で、特定部12が、入力されたトランスIDを受け付ける。ここでは、複数のトランスIDが受け付けられる。次に、ステップS12で、特定部12が、受け付けたトランスIDから1つのトランスIDを選択する。次に、ステップS14で、特定部12が、シミュレーションデータの生成のために、選択したトランスIDが示すトランスの接続相yとして、ab相、bc相、及びca相のいずれかの相を設定する。
【0070】
次に、ステップS16で、特定部12が、配電情報DB22から、上記ステップS12で選択したトランスIDと一致するトランスIDに対応付けられた配電区間IDを選択する。
【0071】
次に、ステップS18で、特定部12が、標準電力データDB24から所定数の標準電力データを取得し、サンプリング時刻毎の消費電力量を加算して、仮想需要家sの消費電力の時系列データP’s(t)を生成する。また、特定部12が、例えば(1)式により、仮想需要家sの消費電力の時系列データP’s(t)に起因する相電流の時系列データI’s
y(t)を算出する。
【0072】
次に、ステップS20で、特定部12が、上記ステップS16で選択した配電区間IDが示す配電区間における3種類の線電流の時系列データI’x(t)を、線電流データDB26から取得する。そして、特定部12が、線電流の時系列データI’x(t)に、上記ステップS18で算出した相電流の時系列データI’s
y(t)による変動分を反映した線電流の時系列データI’’x(t)を算出する。特定部12は、配電系が対称三相交流であることを仮定し、例えば(3)式により、線電流の時系列データI’’x(t)を算出する。
【0073】
次に、ステップS22で、特定部12が、例えば(4)式により、I’’x(t)及びI’s
y(t)の各々を時間平均からの変動で表した線電流の時系列データIx(t)、及び相電流の時系列データIs
y(t)を算出する。そして、特定部12が、例えば上記(5)式に示す、線電流の時系列データIx(t)と、相電流の時系列データIs
y(t)との相関係数ρxs
y{x∈a,b,c}を算出する。
【0074】
次に、ステップS24で、特定部12が、上記ステップS10で受け付けたトランスIDの全てを選択済みか否かを判定する。未選択のトランスIDが存在する場合には、ステップS12に戻り、全て選択済みの場合には、ステップS30へ移行する。
【0075】
ステップS30では、生成算出処理が実行される。ここで、
図14を参照して、生成算出処理について説明する。
【0076】
ステップS32で、生成部14が、トランス毎に算出された相電流及び線電流の各々についての3つの相関係数ρxs
y{x∈a,b,c}を要素とする相関係数ベクトルの分布を、相関係数の各々に対応する軸を有する三次元散布図として生成する。そして、生成部14は、(7)式に示す線形変換により、三次元散布図における相関係数ベクトルを、座標系(x,y)の平面πに射影し、二次元散布図を生成する。
【0077】
次に、ステップS34で、算出部16が、二次元散布図における分布のコンポーネントの番号を示す変数kに1を設定する。次に、ステップS36で、算出部16が、例えば(8)式又は(9)式に示すような混合分布のコンポーネントkの密度関数fk(x,y)を推定する。
【0078】
次に、ステップS38で、算出部16が、kを1インクリメントする。次に、ステップS40で、算出部16が、kがコンポーネント数である3を超えたか否かを判定する。k≦3の場合には、ステップS36に戻り、k>3の場合には、ステップS42へ移行する。
【0079】
ステップS42では、算出部16が、各コンポーネントの密度関数fk(x,y)(k=1,2,3)と、線電流及び相電流の実データとに基づいて、混合分布f(x,y)のパラメータである混合比τk(k=1,2,3)をEMアルゴリズム等で推定する。これにより、算出部16は、二次元散布図内の相関係数ベクトルに対応するサンプル点の分布として、混合分布f(x,y)を推定する。
【0080】
次に、ステップS44で、算出部16が、推定したfk(x,y)及びτk(k=1,2,3)を用いて、例えば(10)式により、二次元散布図の各位置(x,y)について、τkfk(x,y)が最大となるコンポーネントk(k*)を算出する。コンポーネントk*に対応する相が、点(x,y)にサンプル点が位置するトランスの接続相となる。また、算出部16が、例えば(11)式により、二次元散布図の各位置(x,y)について、接続相の判定結果の信頼度C(x,y,k*)を算出する。そして、算出部16が、各位置(x,y)に、算出したk*及びC(x,y,k*)を対応付けた信頼度マップ30を生成する。
【0081】
例えば、
図11に示す信頼度マップ30の星印で示す位置(x,y)のτ
1f
1(x,y)が0.80、τ
2f
2(x,y)が0.15、τ
3f
3(x,y)が0.05であるとする。この場合、算出部16は、位置(x,y)に、k
*=1及び信頼度80%を対応付ける。そして、生成算出処理は終了し、マップ生成処理自体も終了する。
【0082】
次に、
図15に示す接続相判定処理について説明する。
【0083】
ステップS60で、特定部12が、入力されたトランスIDを受け付ける。次に、ステップS62で、特定部12が、配電情報DB22から、上記ステップS60で受け付けたトランスIDと一致するトランスIDに対応付けられた配電区間ID及び需要家IDを選択する。
【0084】
次に、ステップS64で、特定部12が、実電力データDB28から、上記ステップS62で選択した需要家IDに対応付けられた、実需要家dの消費電力の時系列データP’d(t)を取得する。また、特定部12が、例えば「s」を「d」に読み替え、「y」を削除した(1)式により、実需要家dの消費電力の時系列データP’d(t)に起因する相電流の時系列データI’d(t)を算出する。
【0085】
次に、ステップS66で、特定部12が、上記ステップS62で選択した配電区間IDが示す配電区間における3種類の線電流の時系列データI’x(t)を、線電流データDB26から取得する。
【0086】
次に、ステップS68で、特定部12が、例えば「s」を「d」に読み替え、「y」を削除した(4)式により、I’x(t)及びI’d(t)の各々を時間平均からの変動で表した線電流の時系列データIx(t)、及び相電流の時系列データId(t)を算出する。そして、特定部12が、例えば「s」を「d」に読み替え、「y」を削除した(5)式に示す、線電流の時系列データIx(t)と、相電流の時系列データId(t)との相関係数ρxd{x∈a,b,c}を算出する。なお、(5)式において、相電流の時系列データId(t)の代わりに実需要家dの消費電力の時系列データP’d(t)の値を用いてもよい。両者の値は定数倍の差しかないため、相関係数等の相関指標の値としては同じになるためである。
【0087】
次に、ステップS70で、判定部18が、上記ステップS68で算出された3つの相関係数ρ
xd{x∈a,b,c}を要素とする相関係数ベクトルを、「s」を「d」に読み替え、「y」を削除した(7)式により二次元の座標値に変換する。判定部18は、変換した二次元の座標値を信頼度マップ30にプロットし、プロットした位置(x,y)に対応付けられたコンポーネントk
*に基づいて、判定対象のトランスの接続相を判定する。また、判定部18は、信頼度マップ30において、プロットした位置(x,y)に対応付けられたC(x,y,k
*)に基づいて、判定結果の信頼度を取得する。例えば、判定部18は、プロットした位置が、
図11に示す信頼度マップ30の星印の位置であった場合、判定対象のトランスの接続相は、コンポーネント1に対応する相(ここでは、ab相)、その判定結果の信頼度は80%であると判定する。そして、判定部18は、接続相の判定結果及び信頼度を、表示装置への表示、印刷装置による印刷等が可能な形式に処理して出力し、接続相判定処理は終了する。
【0088】
以上説明したように、本実施形態に係るトランス接続相判定装置は、複数の配電線と、複数の配電線のうちの2つの組み合わせに対応した相に接続する1以上のトランスとを含む配電設備の稼働に関するシミュレーションデータを生成する。シミュレーションデータは、トランスが接続する相のパターン毎に生成される。また、トランス接続相判定装置は、トランスに流れる電流である相電流と、複数の配電線それぞれに流れる電流である線電流との相関関係を特定する。そして、トランス接続相判定装置は、パターン毎のシミュレーションデータと相関関係とに基づいて、相電流と線電流の各々との相関の度合を示す散布図を生成し、パターン毎に、散布図内の各位置の確率密度を算出する。さらに、トランス接続相判定装置は、散布図に、配電設備の稼働における相電流及び線電流の実データをプロットした場合の位置と、確率密度の算出結果とに基づいて、実データにおけるトランスの接続相を判定する。これにより、取得可能な需要家の電力データが少ない場合や、散布図における各点に対応するトランスの接続相が未知の場合に、散布図を示す混合分布の推定が不安定になり、判定精度が低下する問題を解消し、精度良くトランスの接続相を判定することができる。
【0089】
また、上記実施形態では、トランス接続相判定プログラムが記憶部に予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、これに限定されない。開示の技術に係るプログラムは、CD-ROM、DVD-ROM、USBメモリ等の記憶媒体に記憶された形態で提供することも可能である。
【0090】
以上の実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
【0091】
(付記1)
複数の配電線と、前記複数の配電線のうちの2つの組み合わせに対応した相に接続する1以上のトランスとを含む配電設備の稼働に関する、前記トランスが接続する相のパターン毎のシミュレーションデータに基づいて、前記トランスに流れる電流である相電流と、前記複数の配電線それぞれに流れる電流である線電流との相関関係を特定し、
前記パターン毎のシミュレーションデータと前記相関関係とに基づいて、前記相電流と前記線電流の各々との相関の度合を示す散布図を生成し、
前記パターン毎に、前記散布図内の各位置の確率密度を算出し、
前記散布図に前記配電設備の稼働における前記相電流及び前記線電流の実データをプロットした場合の位置と、前記確率密度の算出結果とに基づいて、前記実データにおける前記トランスの接続相を判定する、
ことを含む処理をコンピュータに実行させるためのトランス接続相判定プログラム。
【0092】
(付記2)
前記シミュレーションデータは、前記トランスに接続された仮想的な需要家で消費される電力に起因する、前記パターンが示す前記トランスが接続された相の前記相電流と、実データである線電流に前記相電流による変動分を反映した前記線電流とを含む付記1に記載のトランス接続相判定プログラム。
【0093】
(付記3)
前記相関関係を特定する処理は、前記仮想的な需要家で消費される電力のデータを、予め用意された電力の標準データを用いて生成し、生成した前記電力のデータに基づいて、前記相電流を算出し、算出した前記相電流及び前記配電設備の回路構成に基づいて、前記線電流を算出することにより、前記シミュレーションデータを生成することを含む付記2に記載のトランス接続相判定プログラム。
【0094】
(付記4)
前記シミュレーションデータを生成する処理は、前記パターン毎のシミュレーションデータの数の配分、前記標準データから前記電力のデータを生成するための係数、及びトランスが接続される相に対応する2つの配電線に対する負荷の配分の少なくとも1つを調整することを含む付記3に記載のトランス接続相判定プログラム。
【0095】
(付記5)
前記調整する処理は、判定対象の前記配電設備について事前に取得可能な情報を統計的に分析した結果に基づいて調整することを含む付記4に記載のトランス接続相判定プログラム。
【0096】
(付記6)
前記散布図を生成する処理は、前記相電流と前記線電流の各々との相関の度合を示す値の各々を要素とするベクトルの分布を、前記相関の度合いを示す値の各々に対応する軸に対して対称なベクトルを法線ベクトルとして持つ平面に射影することを含む付記1~付記5のいずれか1項に記載のトランス接続相判定プログラム。
【0097】
(付記7)
前記確率密度を算出する処理は、前記平面に射影された前記ベクトルの前記パターン毎の分布に対して、確率密度分布を推定することを含む付記6に記載のトランス接続相判定プログラム。
【0098】
(付記8)
前記確率密度を算出する処理は、前記パターン毎に推定した確率密度分布の混合比を、前記相電流及び前記線電流の実データを用いて推定することを含む付記7に記載のトランス接続相判定プログラム。
【0099】
(付記9)
前記トランスの接続相を判定する処理は、前記散布図において、前記実データをプロットした位置において、算出された確率密度が最も高いパターンに対応する相を、前記トランスの接続相として判定すると共に、最も高い前記確率密度を、判定結果の信頼度として出力することを含む付記1~付記8のいずれか1項に記載のトランス接続相判定プログラム。
【0100】
(付記10)
複数の配電線と、前記複数の配電線のうちの2つの組み合わせに対応した相に接続する1以上のトランスとを含む配電設備の稼働に関する、前記トランスが接続する相のパターン毎のシミュレーションデータに基づいて、前記トランスに流れる電流である相電流と、前記複数の配電線それぞれに流れる電流である線電流との相関関係を特定する特定部と、
前記パターン毎のシミュレーションデータと前記相関関係とに基づいて、前記相電流と前記線電流の各々との相関の度合を示す散布図を生成する生成部と、
前記パターン毎に、前記散布図内の各位置の確率密度を算出する算出部と、
前記散布図に前記配電設備の稼働における前記相電流及び前記線電流の実データをプロットした場合の位置と、前記確率密度の算出結果とに基づいて、前記実データにおける前記トランスの接続相を判定する判定部と、
を含むトランス接続相判定装置。
【0101】
(付記11)
前記シミュレーションデータは、前記トランスに接続された仮想的な需要家で消費される電力に起因する、前記パターンが示す前記トランスが接続された相の前記相電流と、実データである線電流に前記相電流による変動分を反映した前記線電流とを含む付記10に記載のトランス接続相判定装置。
【0102】
(付記12)
前記特定部は、前記仮想的な需要家で消費される電力のデータを、予め用意された電力の標準データを用いて生成し、生成した前記電力のデータに基づいて、前記相電流を算出し、算出した前記相電流及び前記配電設備の回路構成に基づいて、前記線電流を算出することにより、前記シミュレーションデータを生成する付記11に記載のトランス接続相判定装置。
【0103】
(付記13)
前記特定部は、前記シミュレーションデータを生成する処理において、前記パターン毎のシミュレーションデータの数の配分、前記標準データから前記電力のデータを生成するための係数、及びトランスが接続される相に対応する2つの配電線に対する負荷の配分の少なくとも1つを調整する付記12に記載のトランス接続相判定装置。
【0104】
(付記14)
前記特定部は、前記調整する処理において、判定対象の前記配電設備について事前に取得可能な情報を統計的に分析した結果に基づいて調整する付記13に記載のトランス接続相判定装置。
【0105】
(付記15)
前記生成部は、前記相電流と前記線電流の各々との相関の度合を示す値の各々を要素とするベクトルの分布を、前記相関の度合いを示す値の各々に対応する軸に対して対称なベクトルを法線ベクトルとして持つ平面に射影する付記10~付記14のいずれか1項に記載のトランス接続相判定装置。
【0106】
(付記16)
前記算出部は、前記確率密度を算出する処理において、前記平面に射影された前記ベクトルの前記パターン毎の分布に対して、確率密度分布を推定する付記15に記載のトランス接続相判定装置。
【0107】
(付記17)
前記算出部は、前記確率密度を算出する処理において、前記パターン毎に推定した確率密度分布の混合比を、前記相電流及び前記線電流の実データを用いて推定する付記16に記載のトランス接続相判定装置。
【0108】
(付記18)
前記判定部は、前記散布図において、前記実データをプロットした位置において、算出された確率密度が最も高いパターンに対応する相を、前記トランスの接続相として判定すると共に、最も高い前記確率密度を、判定結果の信頼度として出力することを含む付記10~付記17のいずれか1項に記載のトランス接続相判定装置。
【0109】
(付記19)
複数の配電線と、前記複数の配電線のうちの2つの組み合わせに対応した相に接続する1以上のトランスとを含む配電設備の稼働に関する、前記トランスが接続する相のパターン毎のシミュレーションデータに基づいて、前記トランスに流れる電流である相電流と、前記複数の配電線それぞれに流れる電流である線電流との相関関係を特定し、
前記パターン毎のシミュレーションデータと前記相関関係とに基づいて、前記相電流と前記線電流の各々との相関の度合を示す散布図を生成し、
前記パターン毎に、前記散布図内の各位置の確率密度を算出し、
前記散布図に前記配電設備の稼働における前記相電流及び前記線電流の実データをプロットした場合の位置と、前記確率密度の算出結果とに基づいて、前記実データにおける前記トランスの接続相を判定する、
ことを含む処理をコンピュータが実行するトランス接続相判定方法。
【0110】
(付記20)
複数の配電線と、前記複数の配電線のうちの2つの組み合わせに対応した相に接続する1以上のトランスとを含む配電設備の稼働に関する、前記トランスが接続する相のパターン毎のシミュレーションデータに基づいて、前記トランスに流れる電流である相電流と、前記複数の配電線それぞれに流れる電流である線電流との相関関係を特定し、
前記パターン毎のシミュレーションデータと前記相関関係とに基づいて、前記相電流と前記線電流の各々との相関の度合を示す散布図を生成し、
前記パターン毎に、前記散布図内の各位置の確率密度を算出し、
前記散布図に前記配電設備の稼働における前記相電流及び前記線電流の実データをプロットした場合の位置と、前記確率密度の算出結果とに基づいて、前記実データにおける前記トランスの接続相を判定する、
ことを含む処理をコンピュータに実行させるためのトランス接続相判定プログラムを記憶した記憶媒体。
【符号の説明】
【0111】
10 トランス接続相判定装置
12 特定部
14 生成部
16 算出部
18 判定部
22 配電情報DB
24 標準電力データDB
26 線電流データDB
28 実電力データDB
30 信頼度マップ
40 コンピュータ
41 CPU
42 メモリ
43 記憶部
49 記憶媒体
50 トランス接続相判定プログラム
100 配電網
102 配電変電所
104 高圧配電線
106 センサ内蔵開閉器
108 トランス
110 低圧配電線
112 引込線
116 スマートメータ