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特許7537306ブレーキシステム、および、電子制御装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】ブレーキシステム、および、電子制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20240814BHJP
   B60T 8/176 20060101ALI20240814BHJP
   B60T 7/06 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
B60T8/17 B
B60T8/176 Z
B60T7/06 E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021029095
(22)【出願日】2021-02-25
(65)【公開番号】P2022130114
(43)【公開日】2022-09-06
【審査請求日】2023-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松 新始
(72)【発明者】
【氏名】柳田 悦豪
(72)【発明者】
【氏名】北斗 大輔
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-88353(JP,A)
【文献】特開2020-117175(JP,A)
【文献】特開2017-144945(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/17
B60T 8/176
B60T 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されるブレーキシステムにおいて、
運転者の踏力により操作されるブレーキペダル(2)、および、前記ブレーキペダルのストローク量に応じた信号を出力するセンサ(3)を有するブレーキ装置(6)と、
前記車両の各車輪(11~14)に配置されるホイールシリンダ(15~18)に液圧を供給することで前記車両を制動する制動力を発生させるブレーキ回路(5)と、
前記センサの出力信号に基づいて検出される前記ブレーキペダルのストローク量(θ)に応じて前記ブレーキ回路が発生する制動力を制御する電子制御装置(4)と、
前記電子制御装置に対して前記運転者が第1モードと第2モードとの選択指示を行うことの可能なユーザインターフェース(7)と、を備え、
前記電子制御装置は、
前記第1モードが選択された場合、ストローク量の増加に応じて制動力を増加させ、ストローク量の減少に応じて制動力を減少させるといったストローク量と制動力との基本的な関係である基本特性により前記ブレーキ回路が発生する制動力を制御する通常制御を実行し、
前記第2モードが選択された場合、ストローク量が増加して所定の設定値(θset)に到達した後、前記設定値より小さい第1閾値(θ1)と前記設定値より大きい第2閾値(θ2)との間にストローク量があるときには前記ブレーキ回路が発生する制動力を予め定められた制動力とする制動力自動制御(S60、S100)を実行し、ストローク量が前記第2閾値より大きくなると前記ブレーキ回路が発生する制動力を前記基本特性による制動力で制御する前記通常制御(S110)を実行することを特徴とするブレーキシステム。
【請求項2】
前記ユーザインターフェースは、前記運転者の操作により、前記設定値および前記制動力自動制御が実行される際の制動力の少なくとも一方を連続的または段階的に調整可能に構成されている、請求項1に記載のブレーキシステム。
【請求項3】
前記電子制御装置は、直接計測もしくは推定された路面摩擦係数に関する情報に基づいて前記各車輪がスリップする可能性があることを判定した場合、前記制動力自動制御を実行する際の制動力を予め定められた制動力より小さい制動力とする制動力変更処理、または、前記第2モードを前記第1モードに変更するモード変更処理の少なくとも一方を実行し、さらに前記制動力変更処理または前記モード変更処理が実行されたことを前記運転者に通知するように構成されている、請求項1または2に記載のブレーキシステム。
【請求項4】
前記運転者が前記ブレーキペダルに印加する踏力に対する反力を前記ブレーキペダルに与える反力発生機構(9)をさらに備え、
前記反力発生機構は、ストローク量と反力との関係を変化させる変曲点を1つまたは複数有しており、少なくとも1つの変曲点は前記設定値に対応したストローク量に設定されている、請求項1ないし3のいずれか1つに記載のブレーキシステム。
【請求項5】
前記電子制御装置は、直接計測もしくは推定された前記車両の上下方向の加速度が所定の加速度閾値より大きく変化する時間帯と、前記第1閾値と前記第2閾値との間の領域からストローク量が逸脱する時間帯とが少なくとも一部で重なっている場合、前記制動力自動制御を維持する、請求項1ないし4のいずれか1つに記載のブレーキシステム。
【請求項6】
前記電子制御装置は、前記第2モードが選択され、ストローク量が増加して前記設定値に到達する前に、単位時間当たりのストローク量の増加率が所定の閾値より大きい場合、前記制動力自動制御を実行することなく前記通常制御に切り替えて実行する、請求項1ないし5のいずれか1つに記載のブレーキシステム。
【請求項7】
車両に搭載されるブレーキシステム(1)に用いられる電子制御装置において、
前記ブレーキシステムは、
運転者の踏力により操作されるブレーキペダル(2)、および、前記ブレーキペダルのストローク量に応じた信号を出力するセンサ(3)を有するブレーキ装置(6)と、
前記車両の各車輪(11~14)に配置されるホイールシリンダ(15~18)に液圧を供給することで前記車両を制動する制動力を発生させるブレーキ回路(5)と、
前記センサの出力信号に基づいて検出される前記ブレーキペダルのストローク量(θ)に応じて前記ブレーキ回路が発生する制動力を制御する電子制御装置(4)と、
前記電子制御装置に対して前記運転者が第1モードと第2モードとの選択指示を行うことの可能なユーザインターフェース(7)と、を備えており、
前記電子制御装置は、
前記第1モードが選択された場合、ストローク量の増加に応じて制動力を増加させ、ストローク量の減少に応じて制動力を減少させるといったストローク量と制動力との基本的な関係である基本特性により前記ブレーキ回路が発生する制動力を制御する通常制御を実行し、
前記第2モードが選択された場合、ストローク量が増加して所定の設定値(θset)に到達した後、前記設定値より小さい第1閾値(θ1)と前記設定値より大きい第2閾値(θ2)との間にストローク量があるときには前記ブレーキ回路が発生する制動力を予め定められた制動力とする制動力自動制御(S60、S100)を実行し、ストローク量が前記第2閾値より大きくなると前記ブレーキ回路が発生する制動力を前記基本特性による制動力で制御する前記通常制御(S110)を実行することを特徴とする電子制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるブレーキシステム、および、それに用いられる電子制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ブレーキペダルのストローク量を検出するセンサの出力信号などに基づき、電子制御装置の指示する制動力(すなわち、ブレーキ力)でブレーキ回路を駆動制御して車両を制動するブレーキバイワイヤシステムが知られている。なお、以下の説明では電子制御装置をECUという。ECUは、Electronic Control Unitの略である。
【0003】
特許文献1に記載のブレーキシステムは、車両を加減速するブレーキ倍力装置と、車両の減速度に応じてブレーキペダルのストローク量の閾値を変更する閾値変更部と、目標減速度となるように制動力を制御するブレーキ制御部を備えている。そのブレーキ制御部は、ストロークセンサの情報に基づいて、ECUが算出した目標減速度に対するブレーキペダルのストローク量の過不足を判定し、予めECUに記憶させた倍力ブレーキ圧要求特性にて車両を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-95008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のブレーキシステムは、ブレーキペダルのストローク量に応じて、ブレーキ回路が発生する制動力が非線形に増加する関係となっている、そのため、運転者の踏力のばらつきによりブレーキペダルのストローク量が変動した場合、車両を安定した制動力で制御することができない。仮に、運転者の踏力のばらつきによりブレーキペダルのストローク量が変動した場合、ブレーキ回路が発生する制動力が変動し、運転者を含む乗員に対して意図しない加減速Gが作用する。そのため、運転者は、車両を一定の制動力で減速させたいときは、その一定の制動力を出力させるために一定のストローク量でブレーキペダルを保持し続けるといった高度なブレーキペダル操作を要求される。したがって、運転者によるブレーキペダル操作の負担が大きくなり、ブレーキペダル操作に伴う運転者のストレスが増大するといった問題がある。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、ブレーキペダルの操作性を向上し、ブレーキペダルの操作に伴う運転者のストレスを低減可能なブレーキシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明によると、車両に搭載されるブレーキシステムは、ブレーキ装置(6)、ブレーキ回路(5)、電子制御装置(4)およびユーザインターフェース(7)を備える。ブレーキ装置は、運転者の踏力により操作されるブレーキペダル(2)、および、そのブレーキペダルのストローク量に応じた信号を出力するセンサ(3)を有する。ブレーキ回路は、車両の各車輪(11~14)に配置されるホイールシリンダ(15~18)に液圧を供給することで車両を制動する制動力を発生させる。電子制御装置は、センサの出力信号に基づいて検出されるブレーキペダルのストローク量(θ)に応じてブレーキ回路が発生する制動力を制御する。ユーザインターフェースは、電子制御装置に対して運転者が第1モードと第2モードとの選択指示を行うことが可能である。
電子制御装置は、第1モードが選択された場合、ストローク量の増加に応じて制動力を増加させ、ストローク量の減少に応じて制動力を減少させるといったストローク量と制動力との基本的な関係である基本特性によりブレーキ回路が発生する制動力を制御する通常制御を実行する。
また、電子制御装置は、第2モードが選択された場合、ストローク量が増加して所定の設定値(θset)に到達した後、その設定値より小さい第1閾値(θ1)と設定値より大きい第2閾値(θ2)との間にストローク量があるときにはブレーキ回路が発生する制動力を予め定められた制動力とする制動力自動制御(S60、S100)を実行し、ストローク量が第2閾値より大きくなるとブレーキ回路が発生する制動力を基本特性による制動力で制御する通常制御(S110)を実行する。
【0008】
これによれば、運転者により第2モードが選択され、且つ、ストローク量が所定の設定値に到達すると、ECUは、ブレーキ回路が発生する制動力を予め定められた制動力とする制動力自動制御を実行する。そのため、制動力自動制御が実行されると、運転者がブレーキペダルに印加する踏力がばらついてストローク量が変動しても、そのストローク量が第1閾値と第2閾値との間にあれば、車両の安定した制動が行われる。したがって、このブレーキシステムは、運転者による簡単なペダル操作で車両の安定した制動を可能にすると共に、ブレーキペダルの操作に伴う運転者のストレスを低減することができる。
さらに、このブレーキシステムでは、第2モードが選択された場合、ストローク量が第2閾値より大きくなると、ECUは、ブレーキ回路が発生する制動力を基本特性に基づく制動力で制御する。そのため、このブレーキシステムは、第2モードの選択時にペダルストローク量が第2閾値を超えた後もブレーキペダルの踏み心地が悪化することなく、且つ、ストローク量が最大のときに最大の制動力を発生させることが可能である。したがって、このブレーキシステムは、運転者の安心感を高めると共に、信頼性および安全性を向上することができる。なお、本明細書において、ブレーキペダルの踏み心地とは、ペダルストローク量と制動力との関係をいう。
【0009】
また、請求項7に係る発明は、車両に搭載されるブレーキシステム(1)に用いられる電子制御装置に関する発明である。ブレーキシステムは、ブレーキ装置(6)、ブレーキ回路(5)、電子制御装置(4)およびユーザインターフェース(7)を備えている。ブレーキ装置は、運転者の踏力により操作されるブレーキペダル(2)、および、そのブレーキペダルのストローク量に応じた信号を出力するセンサ(3)を有する。ブレーキ回路は、車両の各車輪(11~14)に配置されるホイールシリンダ(15~18)に液圧を供給することで車両を制動する制動力を発生させる。電子制御装置は、センサの出力信号に基づいて検出されるブレーキペダルのストローク量(θ)に応じてブレーキ回路が発生する制動力を制御する。ユーザインターフェースは、電子制御装置に対して運転者が第1モードと第2モードとの選択指示を行うことが可能である。
電子制御装置は、第1モードが選択された場合、ストローク量の増加に応じて制動力を増加させ、ストローク量の減少に応じて制動力を減少させるといったストローク量と制動力との基本的な関係である基本特性によりブレーキ回路が発生する制動力を制御する通常制御を実行する。
また、電子制御装置は、第2モードが選択された場合、ストローク量が増加して所定の設定値(θset)に到達した後、その設定値より小さい第1閾値(θ1)と設定値より大きい第2閾値(θ2)との間にストローク量があるときにはブレーキ回路が発生する制動力を予め定められた制動力とする制動力自動制御(S60、S100)を実行し、ストローク量が第2閾値より大きくなるとブレーキ回路が発生する制動力を基本特性による制動力で制御する通常制御(S110)を実行する。
【0010】
これによれば、請求項7に係る発明も、上記請求項1に係る発明と同一の作用効果を奏することができる。
なお、請求項7に係る発明に対し、請求項2~6に記載した発明の内容を従属させることも可能である。
【0011】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態に係るブレーキシステムの構成図である。
図2】第1実施形態に係るブレーキシステムが備えるブレーキ装置の側面図である。
図3】第1モードが選択された場合においてペダルストローク量と制動力との関係を示すグラフである。
図4】第2モードが選択された場合においてペダルストローク量が所定の設定値に到達し、制動力自動制御が実行されるときのペダルストローク量と制動力との関係を示すグラフである。
図5】第2モードが選択された場合において制動力自動制御が実行された後のペダルストローク量と制動力との関係を示すグラフである。
図6】第2モードが選択された場合において時間推移に伴う実ペダルストローク量と補正ペダルストローク量との関係を示すグラフである。
図7】第2モードが選択された場合においてECUが実行する制御処理を説明するためのフローチャートである。
図8】第2実施形態に係るブレーキシステムにおいて第2モードが選択された場合のペダルストローク量と制動力との関係を示すグラフである。
図9】第3実施形態に係るブレーキシステムにおいて第2モードが選択された場合のペダルストローク量と制動力とペダル踏力との関係を示すグラフである。
図10】第4実施形態に係るブレーキシステムにおいて第2モードが選択された場合のペダルストローク量と制動力とペダル踏力との関係を示すグラフである。
図11】第5実施形態に係るブレーキシステムにおいてECUが実行する制御処理を説明するためのフローチャートである。
図12】第5実施形態に係るブレーキシステムにおいて第2モードが選択された場合のペダルストローク量と制動力とペダル踏力との関係を示すグラフである。
図13】第6実施形態に係るブレーキシステムにおいて第2モードが選択された場合のペダルストローク量と制動力とペダル踏力との関係を示すグラフである。
図14】第7実施形態に係るブレーキシステムにおいて第2モードが選択された場合のペダルストローク量と制動力とペダル踏力との関係を示すグラフである。
図15A】第8実施形態に係るブレーキシステムにおいて時間推移に伴って車両に作用する上下方向の加速度を示すグラフである。
図15B図15Aと同一の時間推移において実ペダルストローク量と補正ペダルストローク量との関係を示すグラフである。
図16】第9実施形態に係るブレーキシステムにおいて第2モードが選択された場合の時間推移に伴う実ペダルストローク量と補正ペダルストローク量との関係を示すグラフである。
図17】第9実施形態に係るブレーキシステムが搭載された自車両とその前方を走行する他車両との位置関係を示す図である。
図18】第1比較例のブレーキシステムにおいてペダルストローク量と制動力との関係を示すグラフである。
図19】第2比較例のブレーキシステムにおいてペダルストローク量と制動力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0014】
(第1実施形態)
第1実施形態について図1図7を参照しつつ説明する。本実施形態のブレーキシステム1は、車両に搭載されたブレーキペダル2のストローク量θを検出するセンサ3の出力信号に基づき、電子制御装置4の駆動制御によりブレーキ回路5が車両の制動に必要な制動力を発生させるブレーキバイワイヤシステムである。以下の説明では、電子制御装置4をECU4と表記する。なお、ECUは、Electronic Control Unitの略である。
【0015】
まず、ブレーキシステム1の構成の一例について説明する。
図1に示すように、ブレーキシステム1は、運転者により踏込操作されるブレーキ装置6、車両を制動する制動力を発生するブレーキ回路5、そのブレーキ回路5の駆動を制御するECU4、およびユーザインターフェース7などを備えている。
【0016】
図1および図2に示すように、ブレーキ装置6は、車体に設置される支持体8と、その支持体8に回転可能に設けられるブレーキペダル2と、そのブレーキペダル2のストローク量θに応じた信号を出力するセンサ3などを有している。なお、以下の説明では、ブレーキペダル2のストローク量θを、ペダルストローク量ということがある。
【0017】
支持体8は、車室内前方の車体の一部に取り付けられる。具体的には、支持体8は、例えば車両の車室内のフロアまたはダッシュパネルなどに取り付けられる。なお、ダッシュパネルは、車両のエンジンルーム等の車室外と車室内とを区切る隔壁であり、バルクヘッドと呼ばれることもある。
【0018】
ブレーキペダル2のうち長手方向の一方の端部は、支持体8に回転可能に接続されている。ブレーキペダル2に対して運転者の踏力が印加されると、ブレーキペダル2は支持体8に設けられた回転軸CLを中心として所定の角度範囲で回転動作する。このように、ブレーキペダル2は運転者の踏力により操作される。
【0019】
なお、図1および図2では、ブレーキ装置6として、オルガン式のものを例示しているが、これに限らず、ブレーキ装置6は、例えばペンダント式のものを採用してもよい。なお、オルガン式のブレーキ装置6とは、ブレーキペダル2のうち運転者に踏まれる部位が回転軸CLよりも上方に配置されているものをいう。ペンダント式のブレーキ装置6とは、ブレーキペダル2のうち運転者に踏まれる部位が回転軸CLよりも下方に配置されているものをいう。
【0020】
ブレーキ装置6は、運転者がブレーキペダル2に印加する踏力に対する反力を発生させる反力発生機構9を備えている。反力発生機構9として、例えば、1個または複数個のコイルスプリング、電動アクチュエータ、或いはそれらの組み合わせなどを採用することが可能である。反力発生機構9は、ブレーキペダル2を車室内後方(すなわち、運転席に着座する運転者側)へ付勢している。なお、ブレーキ装置6は、反力発生機構9を備えることで、ブレーキペダル2とマスターシリンダ56との機械的な接続を廃止しても、ブレーキペダル2とマスターシリンダ56とが接続している場合と同様の反力を得ることが可能である。
【0021】
センサ3は、ブレーキペダル2のストローク量θに応じた信号を出力する。センサ3として、例えば、ブレーキペダル2の回転角に応じた電圧信号を出力する角度センサを用いることが可能である。角度センサは、例えばホールICなどを用いた磁気式のものや、機械式または光学式のものなどを採用できる。その場合、ブレーキペダル2の回転角がペダルストローク量に相当する。或いは、センサ3は、ペダルストローク量としてブレーキペダル2の回転角を検出するものに限らず、例えばブレーキペダル2または反力発生機構9などの動作量を検出するものを用いてもよい。
【0022】
センサ3から出力される電気信号は、ECU4に入力される。ECU4は、ブレーキ装置6の有するセンサ3から出力される電気信号および車両の状態に応じてブレーキ回路5の駆動を制御し、ブレーキ回路5が発生する制動力を制御する。ブレーキ回路5は、各車輪11~14に配置されるホイールシリンダ15~18に液圧を供給することで車両を制動する制動力を発生させる機構である。
【0023】
図1に例示したブレーキシステム1では、ECU4が第1ECU41と第2ECU42とで構成されている。また、ブレーキ回路5が第1ブレーキ回路51と第2ブレーキ回路52とで構成されている。
【0024】
ブレーキ装置6の有するセンサ3から出力される電気信号は、第1ECU41と第2ECU42に伝送される。第1ECU41は、図示しないマイコンおよび駆動回路などを有している。第1ECU41は、第1ブレーキ回路51の有するモータ53などに電力を供給し、第1ブレーキ回路51を駆動制御する。また、第2ECU42も図示しないマイコンおよび駆動回路などを有している。第2ECU42は、第2ブレーキ回路52の有する図示しない電磁弁やモータなどを駆動制御する。
【0025】
第1ブレーキ回路51は、リザーバ55、モータ53、ギヤ機構54、マスターシリンダ56などを有している。リザーバ55は、ブレーキ液を貯蔵する。モータ53はギヤ機構54を駆動する。ギヤ機構54は、マスターシリンダ56の有するマスターピストン57を、マスターシリンダ56の軸方向に往復移動させる。マスターピストン57の移動により、リザーバ55からマスターシリンダ56に供給されたブレーキ液の液圧が増加し、その液圧は第1ブレーキ回路51から第2ブレーキ回路52に供給される。
【0026】
第2ブレーキ回路52は、第2ECU42からの制御信号に応じて各ホイールシリンダ15~18に供給する液圧を制御することで、通常制御、ABS制御およびVSC制御などを行うための回路である。なお、ABSはAnti-lock Braking Systemの略であり、VSCはVehicle Stability Controlの略である。なお、各車輪11~14に配置されたホイールシリンダ15~18は、それぞれの車輪11~14に設けられたブレーキバッドを駆動する。
【0027】
ユーザインターフェース7は、ブレーキシステム1に対して運転者が種々の指示をすることを可能とする装置である。ユーザインターフェース7は、例えば、車両に搭載されるスイッチ、タッチパネルなどとしてもよく、または、モバイルデバイスなどの通信機器を利用してもよい。運転者がユーザインターフェース7を操作した情報は、第1ECU41と第2ECU42に伝送される。
【0028】
本実施形態のユーザインターフェース7は、運転者がブレーキシステム1のECU4に対し、第1モードと第2モードの選択指示などを行うことが可能に構成されている。なお、第1モードと第2モードの詳細については後述する。
【0029】
次に、ブレーキシステム1の作動について説明する。
【0030】
車両の運転者がブレーキペダル2に踏力を印加し、ブレーキペダル2を操作すると、そのペダルストローク量に応じた信号がセンサ3から第1ECU41と第2ECU42に出力される。
【0031】
第1ECU41は、車両を減速させるため、モータ53を駆動する。これにより、モータ53の回転数が大きくなると、マスターシリンダ56は、リザーバ55から供給されるブレーキ液の圧力を増加させる。そのブレーキ液の液圧は、第1ブレーキ回路51から第2ブレーキ回路52に伝わる。
【0032】
第2ECU42は、通常制御、ABS制御およびVSC制御などを実行する。例えば、第2ECU42は、運転者によるブレーキペダル2の操作に応じた制動力による制動を行う場合、第2ブレーキ回路52の有する各電磁弁などの駆動を制御し、第1ブレーキ回路51から供給される液圧が第2ブレーキ回路52を介して各ホイールシリンダ15~18に供給されるようにする。したがって、各ホイールシリンダ15~18により駆動されるブレーキパッドがそれに対応するブレーキディスクと摩擦接触し、各車輪11~14が制動されることで車両が減速する。
【0033】
また、例えば、第2ECU42は、車両の各車輪11~14速度および車速に基づいて各車輪11~14のスリップ率を演算し、ABS制御を実行する。また、例えば、第2ECU42は、ヨーレート、操舵角、加速度、各車輪11~14速度および車速等に基づいて車両の横滑り状態を演算し、VSC制御を実行する。なお、第2ECU42は、図示しない他のECU4からの信号に基づき、衝突回避制御および回生協調制御などを行ってもよい。
【0034】
さらに本実施形態では、上述したように、運転者がユーザインターフェース7を使用してブレーキシステム1に対し、第1モードと第2モードの選択指示を行うことが可能に構成されている。ユーザインターフェース7からの信号は第1ECU41と第2ECU42に伝送される。第1ECU41と第2ECU42は、その信号に基づき、ブレーキシステム1の各部を制御する。その制御は、第1ECU41および第2ECU42のいずれか一方または両方で行うことが可能である。そのため、以下の説明では、第1ECU41と第2ECU42を、単にECU4ということとする。
【0035】
図3は、ブレーキペダル2のストローク量θ(すなわち、ペダルストローク量)とブレーキ回路5が発生する制動力との基本的な関係である「基本特性」の一例を示したグラフである。図3では、横軸をペダルストローク量とし、縦軸を制動力としている。図3において、ペダルストローク量が0とは、ブレーキペダル2に運転者の踏力が印加されていない状態を示しており、このときの制動力は0である。一方、ペダルストローク量がθmaxとは、ブレーキペダル2に運転者の踏力が印加され、ブレーキペダル2が最大回転位置θmaxまで移動した状態を示している。このときの制動力は、ブレーキシステム1が搭載される車両が実行可能な最大制動力Gmaxである。
【0036】
運転者によるユーザインターフェース7の操作により第1モードが選択された場合、ECU4は、ペダルストローク量が0からθmaxの範囲において通常制御を実行する。ECU4は、通常制御を実行する際、図3に例示した基本特性に基づいてブレーキ回路5が発生する制動力を制御する。すなわち、ECU4は、ペダルストローク量の増加に応じて制動力を増加させ、ペダルストローク量の減少に応じて制動力を減少させる。なお、ECU4は、ブレーキペダル2が最大回転位置θmaxまで移動したとき、制動力をGmaxとする。
【0037】
図4図6は、運転者によるユーザインターフェース7の操作により第2モードが選択された場合にECU4が実行する制御の一例を表したものである。
【0038】
図4のグラフの矢印Aに示すように、ペダルストローク量が0より大きく、且つ、所定の設定値θsetに到達する前まで、ECU4は、上記の第1モードと同じく基本特性に基づいてブレーキ回路5が発生する制動力を制御する。すなわち、ECU4は、ペダルストローク量が0から設定値θsetに到達するまでは通常制御を実行し、ペダルストローク量の増加に応じて制動力を増加させ、ペダルストローク量の減少に応じて制動力を減少させる。これにより、車両走行中に運転者は、ブレーキペダル2を比較的小さい踏力で操作して車両を減速させ、車両の速度調整を行うことが可能である。なお、図4のグラフの矢印Aはペダルストローク量の増加を表しているが、ECU4は、ペダルストローク量が0から設定値θsetに到達するまでの間では、ペダルストローク量の増加および減少において、基本特性に基づく通常制御を実行する。
【0039】
そして、ペダルストローク量が増加して設定値θsetに到達すると、その後、ECU4は、図4のグラフの矢印BおよびCに示すように、ペダルストローク量が第1閾値θ1と第2閾値θ2との間にあるとき、制動力を予め定められた制動力とする制動力自動制御を実行する。なお、第1閾値θ1は設定値θsetより小さい値に設定され、第2閾値θ2は設定値θsetより大きい値に設定されている。
【0040】
本実施形態では、ECU4は、制動力自動制御の一例として、ペダルストローク量が第1閾値θ1と第2閾値θ2との間にあるとき、制動力を所定の値αで一定とする「制動力一定制御」を実行する。例えば、制動力一定制御では、ECU4は、運転者がブレーキペダル2を操作した実際のペダルストローク量(以下、適宜「実ペダルストローク量」という)に基づき、制御に使用するための補正ペダルストローク量を生成する。そして、ECU4は、その補正ペダルストローク量に応じた制動力を決定する。具体的には、ECU4は、実ペダルストローク量が第1閾値θ1と第2閾値θ2との間にあるときには、補正ペダルストローク量を一定の値で生成し、その間の制動力を一定の値αとする。これにより、車両の制動時に運転者がブレーキペダル2に印加する踏力がばらついて実ペダルストローク量が変動した場合でも、その実ペダルストローク量が第1閾値θ1と第2閾値θ2の範囲内にあれば、車両は予め決められた制動力αで制動される。そのため、運転者がブレーキペダル2を細かく調整しなくても、簡単なペダル操作で滑らかな制動が実現される。なお、制動力が一定とされる所定の値αは、予め設定してECU4に記憶しておいてもよく、或いは、車速または減速加速度の大きさなどに応じてECU4が適切な値を設定してもよい。
【0041】
さらに、図5の実線Dに示すように、ペダルストローク量が第2閾値θ2より大きくなると、ECU4は、上記の第1モードと同じく基本特性に基づいてブレーキ回路5が発生する制動力を制御する。すなわち、ECU4は、ペダルストローク量が第2閾値θ2より大きくなると制動力一定制御を解除して通常制御を実行し、ペダルストローク量の増加に応じて制動力を増加させ、ペダルストローク量の減少に応じて制動力を減少させる。このように、ペダルストローク量が第2閾値θ2より大きいとき、ECU4は、基本特性に基づく通常制御を実行するので、ブレーキペダル2が最大回転位置θmaxのときの制動力はGmaxとなる。これにより、車両制動中に、運転者はブレーキペダル2に印加する踏力を増加し、ペダルストローク量を第2閾値θ2より大きくすることで、任意の停止位置で車両を停止させることが可能である。また、車両走行中または車両制動中に急な飛び出しや他車両の割り込みなど急停止または急減速を必要とする状況が生じた場合にも、運転者はペダルストローク量を第2閾値θ2より大きくすることで、車両を急停止または急減速させることが可能である。
【0042】
さらに、本実施形態では、ペダルストローク量が第2閾値θ2から最大回転位置θmaxの間でブレーキペダル2の踏み心地を悪化させることなく、ペダルストローク量が最大回転位置θmaxのときに最大制動力Gmaxを発生させることが可能である。したがって、このブレーキシステム1は、運転者の安心感を高めると共に、信頼性および安全性を向上することができる。
【0043】
ところで、ペダルストローク量が第2閾値θ2を超える際、制動力が所定の値αから第2閾値θ2に対応する値βに急激に変化すると、運転者を含む乗員に違和感を与える可能性がある。そのため、ペダルストローク量が第2閾値θ2を超えた直後は、制動力を所定の増加率で増加させることが好ましい。そして、その所定の増加率で増加する制動力と、実ペダルストローク量に基づいて算出される制動力とが一致したとき、それ以降の制動力を、実ペダルストローク量に基づいて算出される制動力に移行する。このときの具体的な制御方法の一例を、図6を参照して説明する。
【0044】
図6は、第2モードが選択された場合において、運転者がブレーキペダル2の操作を開始してから経過する時間と、実ペダルストローク量および補正ペダルストローク量との関係を示している。図6では、実線H、Iで示したように、時刻T0~時刻T1、および、時刻T3以降において、実ペダルストローク量と補正ペダルストローク量とは一致している。一方、時刻T1~時刻T3の間では、実ペダルストローク量を一点鎖線Eで示し、その間の補正ペダルストローク量を実線F、Gで示している。
【0045】
実線Hに示したように、時刻T0以降、運転者はブレーキペダル2に対して踏力の印加を開始する。時刻T0から時刻T1までは、ECU4は通常制御を実行するので、運転者がブレーキペダル2を操作した実ペダルストローク量と、ECU4が生成する補正ペダルストローク量とは同一である。そのため、時刻T0から時刻T1までは、実ペダルストローク量の増加に応じて制動力が増加する。
【0046】
時刻T1で実ペダルストローク量が設定値θsetに到達する。その後、一点鎖線Eで示したように、時刻T1から時刻T2までは、実ペダルストローク量が第1閾値θ1と第2閾値θ2との間にある。そのため、実線Fに示したように、ECU4は、時刻T1で制動力一定制御を開始し、その後、時刻T1から時刻T2までは、補正ペダルストローク量を一定の値θsetで生成する。したがって、時刻T1から時刻T2までは、補正ペダルストローク量に基づき、制動力は一定の値αとされる。
【0047】
一点鎖線Eで示したように、時刻T2で実ペダルストローク量が第2閾値θ2より大きくなると、ECU4は、制動力一定制御を解除して通常制御に移行する。このとき、実線Gに示したように、ECU4は、時刻T2以降、予め設定された所定の増加率で補正ペダルストローク量を増加させる。このときの補正ペダルストローク量の単位時間当たりの増加率は、予め実験などにより設定され、ECU4に記憶されているものとする。
【0048】
時刻T3で補正ペダルストローク量と実ペダルストローク量とが一致すると、それ以降、実線Iに示したように、ECU4は、実ペダルストローク量と補正ペダルストローク量とを同一の値とする。そのため、時刻T3以降、実ペダルストローク量に応じて制動力が設定される。
【0049】
このように、本実施形態では、ペダルストローク量が第2閾値θ2を超えた後、制動力一定制御から通常制御に移行する際の移行期間を設け、制動力が所定の値αから実ペダルストロークに対応した値に連続的に変化するようにしている。これにより、運転者を含む乗員に違和感を与えることが防がれている。
【0050】
続いて、本実施形態のECU4が第2モードが選択された場合に実行する制御処理について、図7のフローチャートを参照して説明する。
【0051】
図7のステップS10において、ECU4は、この制御処理を車両走行中に実行する。
【0052】
ステップS20において、運転者は車両を減速または走行停止させるため、ブレーキペダル2に踏力を印加し、ブレーキペダル2の踏み込み操作を開始する。なお、ブレーキペダル2の踏み込み操作を開始したときのペダルストローク量θは、第1閾値θ1より小さい。ブレーキ装置6が有するセンサ3は、ペダルストローク量θに応じた信号をECU4に出力する。
【0053】
ステップS30において、ECU4は、センサ3の出力信号からペダルストローク量θを検出する。
ステップS40において、ECU4は、ペダルストローク量θが設定値θsetに到達したか否かを判定する。ECU4は、ペダルストローク量θが設定値θsetに到達していないことを判定すると(すなわち、ステップS40の判定NO)、処理をステップS50に進める。
【0054】
ステップS50でECU4は、通常制御を実行する。ECU4は、通常制御において、ペダルストローク量θに応じた制動力で車両を減速させる。そして、ECU4は、処理をステップS30に戻す。
【0055】
一方、上記ステップS40の処理でECU4は、ペダルストローク量θが設定値θsetに到達したことを判定すると(すなわち、ステップS40の判定YES)、処理をステップS60に進める。
【0056】
ステップS60でECU4は、制動力を予め定められた制動力とする制動力自動制御を実行する。本実施形態では、ECU4は、制動力自動制御の一例として、制動力を一定とする制動力一定制御を実行する。そして、ECU4は、処理をステップS70に進める。
【0057】
ステップS70において、運転者は車両を減速または走行停止させるため、ブレーキペダル2の踏み込み操作を続ける。
【0058】
ステップS80において、ECU4は、センサ3の出力信号からペダルストローク量θを検出する。
ステップS90において、ECU4は、ペダルストローク量θが第1閾値θ1と第2閾値θ2との間にあるか否かを判定する。ECU4は、ペダルストローク量θが第1閾値θ1と第2閾値θ2との間にあることを判定すると(すなわち、ステップS90の判定YES)、処理をステップS100に進める。
【0059】
ステップS100でECU4は、制動力自動制御を継続して実行する。本実施形態では、ECU4は、制動力自動制御の一例として、制動力一定制御を継続して実行する。そして、ECU4は、処理をステップS80に戻す。
【0060】
一方、上記ステップS90の処理でECU4は、ペダルストローク量θが第1閾値θ1と第2閾値θ2との間に無いことを判定すると(すなわち、ステップS90の判定NO)、処理をステップS110に進める。
【0061】
ステップS110でECU4は、制動力自動制御を解除し、通常制御を実行する。ECU4は、通常制御において、ペダルストローク量θに応じた制動力で車両を減速させる。
【0062】
そして、ステップS120でECU4は、車両が走行停止すると制御処理を一旦終了する。ただし、ECU4は、車両が走行中、且つ、ペダルストローク量θが第1閾値θ1より小さい場合、処理をステップS20に戻す。それに対し、車両が走行中、且つ、ペダルストローク量θが第2閾値θ2より大きい場合、ステップS110の通常制御を継続して実行する。
【0063】
ここで、上述した第1実施形態のブレーキシステム1と比較するため、第1比較例および第2比較例のブレーキシステムについて、図18および図19を参照して説明する。なお、第1比較例および第2比較例のブレーキシステムは本発明の出願人により創作されたものであり、従来技術ではない。
【0064】
図18は、第1比較例において、ペダルストローク量と制動力との関係を示したものである。第1比較例においても、運転者がユーザインターフェース7を操作し、第1モードと第2モードを選択することが可能である。図18の一点鎖線Mは、第1モードが選択されたときのペダルストローク量と制動力との関係を示したものであり、実線Nは、第2モードが選択されたときのペダルストローク量と制動力との関係を示したものである。但し、ペダルストローク量が0~θ1では一点鎖線Mと実線Nとが重なっているものとする。
【0065】
一点鎖線Mに示したように、第1モードが選択された場合、ECU4は、通常制御を実行する。通常制御では、ペダルストローク量が0からθmaxの範囲において、ストローク量と制動力との基本的な関係である基本特性に基づいて、ブレーキ回路5が発生する制動力を制御する。この場合、ブレーキペダル2が最大回転位置θmaxまで移動したときの制動力は、ブレーキシステム1が搭載される車両が実行可能な最大制動力Gmaxである。
【0066】
一方、実線Nに示したように、第2モードが選択された場合、ECU4は、ペダルストローク量が0から第1閾値θ1の範囲において、通常制御を実行する。そして、ECU4は、ペダルストローク量が第1閾値θ1に到達すると、その後、ペダルストローク量が第1閾値θ1と第2閾値θ2との間にあるとき、制動力を予め定められた一定の制動力γとする制動力一定制御を実行する。そして、ECU4は、ペダルストローク量が第2閾値θ2より大きくなると、制動力一定制御を解除し、ペダルストローク量の増減に応じて制動力を増減させる制御を実行する。
【0067】
但し、第1比較例では、ペダルストローク量が第2閾値θ2を跨いで増加する際、制動力一定制御で定められた制動力γを起点として制動力が増加するように設定されている。そのため、第1比較例では、第2モードが選択された場合にブレーキペダル2が最大回転位置θmaxまで移動したときの制動力δは、車両の実行可能な最大制動力Gmaxよりも小さい値となる。
【0068】
次に、図19は、第2比較例において、ペダルストローク量と制動力との関係を示したものである。第2比較例においても、運転者がユーザインターフェース7を操作し、第1モードと第2モードを選択することが可能である。図19の一点鎖線Oは、第1モードが選択されたときのペダルストローク量と制動力との関係を示したものであり、実線Pは、第2モードが選択されたときのペダルストローク量と制動力との関係を示したものである。但し、ペダルストローク量が0~θ1では一点鎖線Oと実線Pとが重なっているものとする。
【0069】
第2比較例においても、一点鎖線Oに示したように、第1モードが選択された場合、ECU4は、第1比較例と同じく、通常制御を実行する。また、実線Pに示したように、第2モードが選択された場合、ECU4は、ペダルストローク量が0から第2閾値θ2の範囲において、第1比較例で説明した制御と同一の制御を行う。そして、ECU4は、ペダルストローク量が第2閾値θ2より大きくなると、制動力一定制御を解除し、ペダルストローク量の増減に応じて制動力を増減させる制御を実行する。
【0070】
但し、第2比較例では、ペダルストローク量が第2閾値θ2~最大回転位置θmaxとの間において、ペダルストローク量の増加に対する制動力の増加率を基本特性よりも大きくしている。そのため、第2比較例では、ブレーキペダル2が最大回転位置θmaxまで移動したときの制動力は、車両の実行可能な最大制動力Gmaxとなっている。しかしながら、第2比較例のように、ペダルストローク量の増加に対する制動力の増加率を基本特性よりも大きくすると、運転者によるブレーキペダル2の踏み心地が悪化するおそれがある。
【0071】
このような第1比較例および第2比較例のブレーキシステムと比較して、上述した第1実施形態のブレーキシステム1は、次の作用効果を奏する。
【0072】
(1)第1実施形態のブレーキシステム1では、運転者により第2モードが選択され、且つ、ペダルストローク量が所定の設定値θsetに到達すると、ECU4は、ブレーキ回路5が発生する制動力を予め定められた制動力とする制動力自動制御を実行する。そのため、制動力自動制御が実行されると、運転者がブレーキペダル2に印加する踏力がばらついてペダルストローク量が変動しても、そのペダルストローク量が第1閾値θ1と第2閾値θ2との間にあれば、車両の安定した制動が行われる。したがって、このブレーキシステム1は、運転者による簡単なペダル操作で車両の安定した制動を可能にすると共に、ブレーキペダル2の操作に伴う運転者のストレスを低減することができる。
【0073】
さらに、第1実施形態では、ECU4は、第2モードの選択時において、ペダルストローク量が第2閾値θ2より大きくなるとブレーキ回路5が発生する制動力を基本特性に基づく制動力で制御する。そのため、このブレーキシステム1は、第2モードの選択時にペダルストローク量が第2閾値θ2を超えた後もブレーキペダル2の踏み心地が悪化せず、且つ、ペダルストローク量が最大回転位置θmaxのときに最大制動力Gmaxを発生させることが可能である。したがって、このブレーキシステム1は、運転者の安心感を高めると共に、信頼性および安全性を向上することができる。
【0074】
(2)第1実施形態では、ECU4が実行する制動力自動制御は、制動力を一定とする制動力一定制御である。
これによれば、運転者がブレーキペダル2に与える踏力が多少変動しても、ペダルストローク量が第1閾値θ1と第2閾値θ2との間にあれば、車両制動時の減速Gが一定に保たれ、滑らかな制動が実現される。したがって、車両制動時の乗り心地を良好なものにすることができる。
【0075】
(第2~第10実施形態)
第2~第10実施形態について説明する。第2~第10実施形態においても、第1実施形態と同様に、運転者がユーザインターフェース7を操作し、第1モードと第2モードを選択することが可能である。第2~第10実施形態においても、第1モードが選択された場合にECU4が実行する通常制御は、第1実施形態で説明した通常制御と同一である。そのため、以下の説明では、主に、第2モードが選択された場合にECU4が実行する制御について説明する。
【0076】
(第2実施形態)
第2実施形態のブレーキシステム1において、第2モードが選択された場合にECU4が実行する制御について図8を参照して説明する。なお、図8のグラフは、第1実施形態で参照した図4図5を合わせたものに相当する。
【0077】
図8のグラフの矢印Aに示すように、ペダルストローク量が0より大きく、且つ、所定の設定値θsetに到達する前まで、ECU4は、基本特性に基づいてブレーキ回路5が発生する制動力を制御する。そして、矢印BおよびCに示すように、ペダルストローク量が設定値θsetに到達した後、ペダルストローク量が第1閾値θ1と第2閾値θ2との間にあるとき、ECU4は、制動力を予め定められた制動力とする制動力自動制御を実行する。第2実施形態においても、ECU4は、制動力自動制御の一例として、制動力を所定の値αで一定とする「制動力一定制御」を実行する。さらに、実線Dに示すように、ペダルストローク量が第2閾値θ2より大きくなると、ECU4は、制動力一定制御を解除して通常制御を実行する。すなわち、ECU4は、ペダルストローク量が第2閾値θ2から最大回転位置θmaxの間では基本特性に基づいてブレーキ回路5が発生する制動力を制御する。このことは、第2実施形態においても、第1実施形態で説明した内容と同一である。
【0078】
ここで、第2実施形態では、図8の横軸および縦軸に示した矢印J、Kに示すように、運転者がユーザインターフェース7を操作することで、制動力一定制御が開始されるペダルストローク量の設定値θset、および、制動力一定制御が実行されるときの制動力αの少なくとも一方を任意の値に調整可能である。ユーザインターフェース7は、例えばダイアルによる連続的な値調整や、UP/DOWNボタンによる段階的な値調整を行えるものを車両に搭載してもよい。或いは、ユーザインターフェース7は、モバイルデバイスなどの通信機器を利用してもよい。運転者がユーザインターフェース7を操作した情報は、ECU4に伝送される。すなわち、運転者は、ユーザインターフェース7を操作することで、ペダルストローク量の設定値θset、および、制動力一定制御が実行されるときの制動力αの少なくとも一方を任意の値に連続的または段階的に調整できる。
【0079】
また、車両およびECU4が運転者を識別可能なシステムを備えている場合、その識別された運転者毎に調整された値をECU4に記録し、次回以降の運転機会では、乗車と同時に自動的に値を設定するように構成してもよい。なお、運転者を識別可能なシステムとして、例えば、ドライバーステータスモニターやモバイルデバイスによる認証を用いることが可能である。
【0080】
以上説明した第2実施形態では、ブレーキシステム1が備えるユーザインターフェース7は、運転者の操作により、ペダルストローク量の設定値θsetおよび制動力自動制御が実行されるときの制動力の少なくとも一方を連続的または段階的に調整可能に構成されている。これによれば、運転者は、ユーザインターフェース7を操作し、自分の好みの運転スタイルに合わせて制動力自動制御の制動力を調整することができる。
【0081】
(第3実施形態)
第3実施形態のブレーキシステム1において、第2モードが選択された場合にECU4が実行する制御と、運転者がブレーキペダル2に印加する踏力との関係について図9を参照して説明する。
【0082】
図9のグラフの矢印A、B、C及び実線Dに示すように、第3実施形態においても、第2モードが選択された場合にECU4が実行する制御は、第1実施形態で説明した内容と同一である。
【0083】
ここで、第3実施形態では、運転者がブレーキペダル2に印加する踏力(すなわち反力発生機構9が発生する反力)とペダルストローク量とを連動させている例である。以下の説明では、運転者がブレーキペダル2に印加する踏力を「ペダル踏力」という。図9のグラフでは、ペダルストローク量に対するペダル踏力を一点鎖線Qで示している。ブレーキペダル2は通常、ペダルストローク量が増える程、運転者がブレーキペダル2に印加する踏力も増加する特性を備えていることが多い。さらには、近年、反力発生機構9として機械的もしくは油圧を用いたものに代えて、またはそれと共にアクチュエータを搭載し、ペダル踏力を可変とする技術も出始めている。この第3実施形態では、アクチュエータでペダル踏力を可変にできるシステムを想定している。図9のグラフの一点鎖線Qで示したように、ペダルストローク量とペダル踏力の関係において、ペダルストロークの増加中に設定値θset付近で一時的にペダル踏力が一時的に減少する箇所(以下、「踏力変化部」という)を持たせている。これにより、運転者は、制御が通常制御から制動力自動制御に切り替わるペダルストローク量(すなわち、設定値θset付近)でペダルストロークを保持しやすくなる。
【0084】
(第4実施形態)
第4実施形態のブレーキシステム1において、第2モードが選択された場合にECU4が実行する制御と、ペダル踏力の関係について図10を参照して説明する。
【0085】
図10のグラフの矢印A1、B1、C1、A2、B2、C2、及び実線D2に示すように、第4実施形態では、第2モードが選択された場合にECU4は、ペダルストロークの複数個所で制動力自動制御(例えば、制動力一定制御)を実行する。具体的には、ペダルストローク量が第1の設定値θset1に到達した後、ペダルストローク量が第1閾値θ1と第2閾値θ2との間にあるとき、ECU4は「第1の制動力自動制御」を実行する。さらに、ペダルストローク量が増加して第2の設定値θset2に到達した後、ペダルストローク量が第3閾値θ3と第4閾値θ4との間にあるとき、ECU4は「第2の制動力自動制御」を実行する。なお、「第1の制動力自動制御」による制動力はα1で一定とされ、「第2の制動力自動制御」による制動力はα2で一定とされる。
【0086】
ここで、図10のグラフの一点鎖線Qで示したように、第4実施形態では、ペダルストロークの途中に複数の踏力変化部を持たせている。複数の踏力変化部はそれぞれ、制御が通常制御から制動力自動制御に切り替わる複数の設定値θset1、θset2に割り当てて設定されている。これにより、運転者は、ペダル踏力の変化により制動力自動制御の直感的な設定が可能となる。
【0087】
なお、上記第4実施形態では、ペダルストロークの途中の2個所に制動力自動制御を設定したが、これに限らず、制動力自動制御は、ペダルストロークの途中の3個所以上に制動力自動制御を設定してもよい。
【0088】
(第5実施形態)
第5実施形態のブレーキシステム1において、ECU4が実行する制御について、図11のフローチャートを参照して説明する。
【0089】
第5実施形態のブレーキシステム1が備えるECU4は、図11のフローチャートに示す制御処理を車両走行中に実行する。
【0090】
ステップS200において、ECU4は、路面摩擦係数を推定する。なお、ECU4は、路面摩擦係数を直接計測してもよい。なお、図11では、摩擦係数をμと表記している。
【0091】
次にステップS210において、ECU4は、制動力一定制御が実行されるときに予め規定された制動力α(以下、適宜「標準制動力α」という)で制動した場合にタイヤスリップの可能性があるか否かを判定する。
【0092】
ステップS210でECU4はタイヤスリップの可能性が殆ど無い又は低いと判定した場合、処理を終了する。
一方、ステップS210でECU4はタイヤスリップの可能性が有る又は高いと判定した場合、処理をステップS220に進める。
【0093】
ステップS220でECU4は、制動力一定制御が実行されるときの制動力を、標準制動力αも小さい制動力ε(以下、「スリップ防止制動力ε」という)に変更する。この処理を、制動力変更処理と呼ぶこととする。
【0094】
続いて、ステップS230でECU4は、制動力変更処理が実行されたことを音声、画面表示または振動など種々の手段により運転者に通知する。これにより、運転者は制動力一定制御で実行される標準制動力αがスリップ防止制動力εに自動で切り替わったことを認識できるので、不安感を覚えることが無い。
【0095】
なお、図11のフローチャートに示した制御処理では、ECU4はタイヤスリップの可能性が有る又は高いと判定した場合、制動力一定制御が実行されるときの制動力を変更する処理を行ったが、そのような処理に代えて、制御を第2モードから第1モードに切り替えてもよい。ECU4は、制御を第1モードに切り替えた後、ペダルストローク量の全域において通常制御を実行する。なお、この場合にも、ECU4は、制御が第2モードから第1モードに切り替わったことを音声、画面表示または振動など種々の手段により運転者に通知する。これにより、運転者は制御が自動で切り替わったことを認識できるので、不安感を覚えることが無い。
【0096】
第5実施形態のブレーキシステム1において、第2モードが選択された場合にECU4が実行する制御とペダル踏力との関係について図12を参照して説明する。
【0097】
図12のグラフの矢印A、B、C及び実線Dは、第5実施形態において踏面摩擦係数からタイヤスリップの可能性が殆ど無い又は低いと判定される場合にECU4が実行する制御である。この場合、制動力が標準制動力αに設定される。
それに対し、矢印S、T、Uは、踏面摩擦係数に基づいてタイヤスリップの可能性が有る又は高いと判定される場合にECU4が実行する制御である。この場合、制動力がスリップ防止制動力εに設定される。
【0098】
さらに、図12のグラフの一点鎖線Vは、踏面摩擦係数からタイヤスリップの可能性が殆ど無い又は低いと判定される場合において、ペダルストローク量に対するペダル踏力を示したものである。
【0099】
それに対し、図12のグラフの二点鎖線Wは、踏面摩擦係数からタイヤスリップの可能性が有る又は高いと判定される場合において、ペダルストローク量に対するペダル踏力を示したものである。この場合、制動力を標準制動力αからスリップ防止制動力εに変更する制動力変更処理と連動し、そのスリップ防止制動力εに相当するペダルストローク量θset2よりも大きいストローク量では反力発生機構9を構成するアクチュエータによって反力を通常より増加させる。これにより、運転者のペダル操作において踏力が増大する感覚(いわゆる壁感)を作ることで、タイヤスリップの可能性があるストローク量まで操作することを困難にする。これにより、システムによって運転者に予防安全的な運転操作を促すことができる。
【0100】
なお、この第5実施形態は、原則タイヤスリップを発生させないことに着眼した制御であり、実際ほぼタイヤスリップが発生していると判断される状況においては、従来車両に採用されているABS制御が優先して作動することを想定している。
【0101】
以上説明した第5実施形態では、ブレーキシステム1の備えるECU4は、直接計測もしくは推定された路面摩擦係数に関する情報に基づいてタイヤスリップの可能性があることを判定した場合、制動力自動制御を実行する際の制動力を予め定められた標準制動力αより小さい制動力εとする制動力変更処理、または、第2モードを第1モードに変更するモード変更処理の少なくとも一方を実行する。さらにECU4は、制動力変更処理またはモード変更処理が実行されたことを運転者に通知するように構成されている。
これによれば、ECU4は、制動力自動制御の実行中にタイヤスリップの可能性を判定し、制動力を標準制動力αよりも小さく設定することで、タイヤスリップを防ぐことができる。さらに、ECU4は、制動力変更処理またはモード変更処理が実行されたことを運転者に通知して運転者に不安を与えないようにすると共に、車間距離を広く取り、ブレーキペダル2を早めに操作するなどの予防運転を推奨することができる。
【0102】
(第6実施形態)
第6実施形態のブレーキシステム1において、第2モードが選択された場合にECU4が実行する制御とペダル踏力との関係について図13を参照して説明する。
【0103】
図13のグラフの矢印A、B、C及び実線Dに示すように、第6実施形態においても、第2モードが選択された場合にECU4が実行する制御は、第1実施形態で説明した内容と同一である。
【0104】
図13のグラフの一点鎖線Qは、ペダルストローク量とペダル踏力の関係(以下、ブレーキペダル2の踏力特性という)を示している。一点鎖線Qの途中の点Rで示されるように、ブレーキペダル2の踏力特性の途中には、ブレーキペダル2の踏力特性が切替わる変曲点が設けられている。第6実施形態では、ブレーキペダルの踏力特性が切替わる変曲点を、制動制御のモードが切替わる設定値θsetと一致させている。これにより、運転者は足の感覚を介して制動制御が切替わったかどうかを直感的に認識することができるようになり、操作の安心感に繋がる。ブレーキペダル2の踏力特性の変曲点は、ブレーキ装置6が備える反力発生機構9により機械的なばね力で形成してもよく、アクチュエータで形成してもよい。
【0105】
以上説明した第6実施形態では、ブレーキ装置6が備える反力発生機構9は、ストローク量と反力との関係を変化させる変曲点を1つまたは複数有しており、少なくとも1つの変曲点は所定の設定値θsetに対応したペダルストローク量に設定されている。
これによれば、ペダルストローク量θが所定の設定値θsetになると変曲点により反力が変化する。そのため、運転者は、制動力自動制御の実行が開始されたことを、ブレーキペダル2から運転者の足に伝わる感覚により直感的に知ることができる。
【0106】
(第7実施形態)
第7実施形態は、第6実施形態の変形例であり、ブレーキ装置6が備える反力発生機構9がアクチュエータで構成されているものとする。
【0107】
図14のグラフの一点鎖線Q1、Q2およびその変曲点に設けた点Rに示すように、第7実施形態においても、ブレーキペダル2の踏力特性が切替わる変曲点を、制動制御のモードが切替わる設定値θsetと一致させている。そして、第7実施形態では、反力発生機構9をアクチュエータで構成することで、図14のグラフ中に一点鎖線Q1とQ2との間にハッチングで示したように、踏力特性を任意に調整することができる。
【0108】
(第8実施形態)
第8実施形態について、図15Aおよび図15Bを参照して説明する。図15Aは、ブレーキシステム1の備えるECU4により制動力一定制御が実行されている最中に、時間推移に伴って車両に作用する上下方向の加速度(以下、「車両上下G」という)を示すグラフである。
【0109】
図15Aに示すように、時刻T11~T14の間では、車両上下Gが大きくなっている。車両上下Gは、例えば車両に搭載した加速度センサで上下方向の加速度を直接計測してもよいし、上下方向ではない別方向の加速度を検出する加速度センサの出力信号から、車両上下Gも大きいかどうかを推定してもよい。また、車軸トルクセンサやタイヤグリップ力センサの出力信号から路面凹凸の大小を判定してもよい。また、前方認識カメラによる画像認識に基づいて路面凹凸の大小を判定することも考えられる。ブレーキシステム1の備えるECU4は、例えば、車両上下Gの値が所定の上加速度閾値TH1および下加速度閾値TH2を超えたときに、車両上下Gが大きく変動していることを判定する。
【0110】
次に、図15Bは、図15Aと同一の時間推移において、実ペダルストローク量と補正ペダルストローク量との関係を示すグラフである。図15Bでは、実ペダルストローク量を一点鎖線E1で示し、補正ペダルストローク量を実線F1で示している。図15Bに示すように、時刻T10~T15の間では、ECU4により制動力一定制御が実行されていることから、補正ペダルストローク量は一定である。ここで、図15Bでは、一点鎖線E1で示した実ペダルストローク量が時刻T12~T13の間で第2閾値θ2を超えており、その前後で第2閾値θ2を下回っている。本実施形態では、ECU4は、車両上下Gが上下加速度閾値TH1、TH2より大きく変化する時間帯と、実ペダルストローク量が第1閾値θ1と第2閾値θ2との間の領域から逸脱する時間帯とが少なくとも一部で重なっている場合、制動力自動制御を維持する。そのため、ECU4は、時刻T12~T13の間においても、制動力一定制御を継続して実行しており、実線F1で示した補正ペダルストローク量を一定にしている。
【0111】
このことは、車両上下Gが大きく変動するような走行シーンでは、運転者自身も着座部から上下に揺らされて意図しないペダルストローク量の変動が発生し、結果第2閾値θ2を超えることも考えらえるからである。演算周期のある一点のみペダルストローク量θがθ2を超え、その前後ではθ2を下回っているというケースにおいて、同タイミングで車両上下Gが大きいならば、ECU4は、それを運転者の意図しない操作、すなわちノイズと判定し、制動制御はモードを切り替えずに継続する。このようにすることで、運転者の意図的な操作ではない制動力変化を抑制し、運転者に違和感を与えないようにできる。
【0112】
以上説明した第8実施形態では、ブレーキシステム1の備えるECU4は、直接計測もしくは推定された車両上下Gが所定の上下加速度閾値より大きく変化する時間帯と、第1閾値θ1と第2閾値θ2との間の領域からペダルストローク量が逸脱する時間帯とが少なくとも一部で重なっている場合、制動力自動制御を維持する。
これによれば、車両が凸凹路を走行中などに第1閾値θ1と第2閾値θ2との間の領域からペダルストローク量が逸脱した場合、運転者の意図的な操作ではないと判定し制動力自動制御を維持することで、運転者の意図しない制動力の変化による違和感を防止することができる。
【0113】
(第9実施形態)
第9実施形態について、図16および図17を参照して説明する。図16は、第9実施形態に係るブレーキシステム1において第2モードが選択された場合の時間推移に伴う実ペダルストローク量と補正ペダルストローク量との関係を示すグラフである。なお、図16では、運転者が通常の操作により車両を停止または減速させるときの状態と、運転者がブレーキペダル2に対して踏力を急激に印加して(すなわち、急ブレーキをかけて)車両を急停止または急減速させるときの状態の両方を記載している。
【0114】
図16の実線H2、F2および一点鎖線E2は、運転者が通常の操作により車両を停止または減速させるときの状態を示したものである。詳細には、実線H2で示したように、時刻T20~時刻T22において、実ペダルストローク量と補正ペダルストローク量とは一致している。また、時刻T22~時刻T23では、実ペダルストローク量を一点鎖線E2で示し、その間の補正ペダルストローク量を実線F2で示している。
【0115】
運転者が通常の操作により車両を停止または減速させる場合、時刻T20以降、運転者はブレーキペダル2に対して踏力の印加を開始する。時刻T20から時刻T22までは、ECU4は通常制御を実行するので、その間の実ペダルストローク量と補正ペダルストローク量とは一致している。
【0116】
時刻T22で実ペダルストローク量が設定値θsetに到達する。一点鎖線E2で示したように、時刻T22~時刻T23は、実ペダルストローク量が第1閾値θ1と第2閾値θ2との間にある。そのため、実線F2に示したように、時刻T22~時刻T23において、ECU4は、制動力一定制御を実行し、補正ペダルストローク量を一定の値θsetで生成する。したがって、時刻T22~時刻T23は、補正ペダルストローク量に基づき、制動力は一定の値とされる。
【0117】
これに対し、図16の実線Xは、運転者がブレーキペダル2に対して踏力を急激に印加して(すなわち、急ブレーキをかけて)車両を急停止または急減速させるときの状態を示したものである。このとき、運転者は、急ブレーキにより、通常時よりも大きな制動力(すなわち、θ>θ2に相当する制動力)を瞬時に要求している。
【0118】
仮に、急ブレーキ時のペダル操作に対する制御の規定が何もない場合、例外なく一旦は「制動力一定制御」に移行し、ペダルストローク量が第2閾値θ2を超えると再び通常制御に切り替わる。これは、θ>θ2に相当する大きな制動力を瞬時に要求するシーンにおいては望ましくない挙動と考えられる。
【0119】
図16の実線Xに示したように、運転者が通常時よりも大きな制動力(すなわち、θ>θ2に相当する制動力)を瞬時に要求しているときのペダル操作は、ペダルストローク量の時間変化率(Δθ/ΔT)が大きいことと、ほぼ等価条件と考えられる。そこで、ペダルストローク量がθsetに到達する前にペダルストローク量の時間変化率(Δθ/ΔT)がある閾値を超えた場合には、ECU4は、第2モードが選択されていても一時的に制動力自動制御の機能をOFFにして、ペダルストローク量の全域で通常制御を実行する。すなわち、図16では、ペダルストローク量がθsetに到達する時刻T21より前にペダルストローク量の時間変化率(Δθ/ΔT)がある閾値を超えているので、ECU4は制動力自動制御の機能をOFFにして通常制御を実行している。こうすることで、θ>θ2に相当する制動力が瞬時に要求されるシーンで、制動力の段付きによる運転者の違和感を防止できる。
【0120】
ペダルストローク量の時間変化率Δθ/ΔTが大きい操作は、多くの場合、自車以外の外部環境が急変したことで、咄嗟の判断でブレーキペダル2を強く踏んだことによると考えらえる。一例だと、図17に示すように、本実施形態に係るブレーキシステム1が搭載された自車両100と、その前方を走行する他車両200との車間距離VDが急激に狭まった場合などがある。この自車両100が、外部環境の影響を識別できるセンサ類を搭載しているならば、ECU4は、そのセンサ類から得られる情報を一時的機能OFFの判定に使うことも可能である。
【0121】
以上説明した第9実施形態では、ブレーキシステム1の備えるECU4は、第2モードが選択され、ペダルストローク量が増加して所定の設定値θsetに到達する前に、単位時間当たりのペダルストローク量の増加率が所定の閾値より大きい場合、制動力自動制御を実行することなく通常制御に切り替えて実行する。
これによれば、第2閾値θ2以上のペダルストローク量に相当する制動力が瞬時に発生することを運転者が所望しているシーンでは制動力自動制御を通常制御に切り替えることで、第2閾値θ2以上で制動力自動制御から通常制御に切り替わる際の制動力の変化による違和感を防ぐことができる。
【0122】
(他の実施形態)
(1)上述した各実施形態では、ペダルストローク量が第1閾値θ1と第2閾値θ2との間にあるときに実行する制動力自動制御として、制動力を一定とする制動力一定制御を例示したが、これに限らない。例えば、制動力自動制御として、制動力を一定に制御している途中で車速が所定の車速閾値より小さくなると(すなわち停車直前になると)制動力を徐々に小さくしていってもよい。これにより、車両停止前後の減速Gを小さくすることができる。
【0123】
(2)また、例えば、制動力自動制御として、制動力を一定に制御している途中で、車両前方に停止線などの車両を停止させる必要のある情報が確認された場合、その手前で車両が停止するように制動力を制御してもよい。
【0124】
(3)また、例えば、制動力自動制御として、時間推移に伴って制動力が次第に小さくなるようにしてもよい。
【0125】
(4)また、例えば、制動力自動制御として、減速Gが一定になるように制動力をフィードバック制御してもよく、または、時間推移に伴って減速Gが次第に小さくなるように制動力をフィードバック制御してもよい。
【0126】
(5)上述した各実施形態では、ECU4が第1ECU41と第2ECU42とで構成されているものを例示したが、それに限らず、例えば、ECU4は単体で構成されていてもよく、3個以上で構成されていてもよい。
【0127】
(6)上述した各実施形態で参照した各図では、ペダルストローク量と制動力との基本的な関係である「基本特性」を線形としたが、それらは例示であり、基本特性は非線形であってもよい。
【0128】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
また、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。
また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。
また、上記各実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されるものではない。
【0129】
本発明に記載の制御装置及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本発明に記載の制御装置及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本発明に記載の制御装置及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0130】
1 ブレーキシステム
2 ブレーキペダル
3 センサ
4 電子制御装置
5 ブレーキ回路
6 ブレーキ装置
7 ユーザインターフェース
11~14 各車輪
15~18 ホイールシリンダ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図16
図17
図18
図19