(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】劣化抑制システム
(51)【国際特許分類】
H01M 10/42 20060101AFI20240814BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240814BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
H01M10/42 P
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02J7/00 Y
(21)【出願番号】P 2021029385
(22)【出願日】2021-02-26
【審査請求日】2023-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001472
【氏名又は名称】弁理士法人かいせい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 諒
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 翔
【審査官】高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-026478(JP,A)
【文献】特開2018-063947(JP,A)
【文献】特開2008-024124(JP,A)
【文献】特開2020-188628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42 -10/48
H02J 7/00 - 7/12
H02J 7/34 - 7/36
G01R 31/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池(22)と、
前記二次電池の使用履歴を示す使用履歴情報を取得する使用履歴取得部(50a)と、
前記使用履歴取得部で取得された前記使用履歴情報を用いて、前記二次電池に生じている劣化量を推定する劣化量推定部(50b)と、
前記劣化量推定部で推定された前記二次電池の劣化量に関し、前記使用履歴情報を用いて、前記二次電池の劣化量に関する複数の劣化要因を特定する劣化要因特定部(50c)と、
前記二次電池の劣化における複数の前記劣化要因の構成に応じて、前記二次電池の劣化を抑制するように、前記二次電池に対する制御を行う抑制制御部(50d)と、を有する劣化抑制システム。
【請求項2】
前記使用履歴取得部で取得された前記使用履歴情報により特定される前記二次電池の劣化特性に従って、前記二次電池の将来的な劣化量を予測する劣化予測部(50e)を有し、
前記抑制制御部は、前記二次電池の劣化における複数の前記劣化要因の構成と、前記劣化予測部により予測される前記二次電池の将来的な劣化量と、を用いて、前記二次電池の劣化を抑制するように、前記二次電池に対する制御を行う請求項1に記載の劣化抑制システム。
【請求項3】
前記二次電池の温度を調整する温度調整部(31)を有し、
前記抑制制御部は、前記二次電池の劣化における複数の前記劣化要因の構成と、前記二次電池の将来的な劣化量から導出され、前記二次電池の将来的な劣化量が小さくなる最適電池温度(TaO)になるように、前記温度調整部の作動を制御する請求項2に記載の劣化抑制システム。
【請求項4】
前記抑制制御部は、
前記使用履歴情報に含まれる前記二次電池の期間平均温度(Ta)と、前記劣化要因特定部により特定された前記二次電池の劣化における複数の前記劣化要因の構成比率と、前記二次電池の劣化を抑制する為の複数の前記劣化要因の構成比率である目標構成比率と、を用いて、前記二次電池の期間平均温度の目標値を導出し、
導出された期間平均温度の目標値を前記最適電池温度(TaO)として、前記温度調整部の作動を制御する請求項3に記載の劣化抑制システム。
【請求項5】
前記抑制制御部は、
前記使用履歴情報に含まれる前記二次電池の期間平均温度(Ta)と、前記二次電池の期間平均温度の目標値との乖離量に応じて、前記最適電池温度(TaO)に近づくように、前記温度調整部の作動を制御する請求項4に記載の劣化抑制システム。
【請求項6】
前記抑制制御部は、前記温度調整部の作動を制御する際に、現在の前記二次電池の電池温度を引数とした温調要求マップに従って、前記温度調整部による温度調整の度合を示す温調要求値を出力する請求項5に記載の劣化抑制システム。
【請求項7】
前記抑制制御部は、前記目標構成比率に関して、前記使用履歴情報に含まれる前記二次電池における放電深度の頻度に応じて、前記目標構成比率を補正する請求項4ないし6の何れか1つに記載の劣化抑制システム。
【請求項8】
前記抑制制御部は、前記二次電池の劣化における複数の前記劣化要因の構成と、前記二次電池の将来的な劣化量から導出され、前記二次電池の将来的な劣化量が小さくなる最適電池温度(TaO)になるように、前記二次電池の入出力に関する制限態様を更新する請求項3に記載の劣化抑制システム。
【請求項9】
前記抑制制御部は、前記最適電池温度となるように前記二次電池の入出力に関する制限態様を更新した場合に、更新された前記二次電池の入出力の制限態様に従うことで、前記二次電池の温度を制御する請求項8に記載の劣化抑制システム。
【請求項10】
前記抑制制御部は、前記二次電池の劣化における複数の前記劣化要因の構成と、前記二次電池の将来的な劣化量から導出され、前記二次電池の将来的な劣化量が小さくなるように定められる前記二次電池の最適入出力条件を導出し、
前記二次電池の利用に際して、前記最適入出力条件を満たすように利用する請求項2に記載の劣化抑制システム。
【請求項11】
前記抑制制御部は、前記最適入出力条件を満たすように、前記二次電池の入出力範囲を更新し、更新された入出力範囲において前記二次電池の入力及び出力を行うように制御する請求項10に記載の劣化抑制システム。
【請求項12】
前記抑制制御部は、供給電力(Pr)と消費電力(Pc)のバランスを調整して、前記二次電池に対する入力又は出力が前記最適入出力条件を満たすように制御する請求項10に記載の劣化抑制システム。
【請求項13】
前記二次電池に対する負荷が前記二次電池に定められている入出力制限を超過している場合に、前記入出力制限を超過する負荷に起因する劣化量である超過劣化量を特定する超過劣化量特定部(S44)と、
前記超過劣化量特定部により特定された前記超過劣化量と、予め定められた許容範囲に従って、前記二次電池に対する負荷の実行を許容するか否かを判定する許容判定部(S45)と、
前記許容判定部で前記二次電池に対する負荷の実行を許容すると判定された場合に、前記二次電池に定められている前記入出力制限を一時的に開放して、前記二次電池に対する負荷の実行を許容する制限開放部(S47)を有し、
前記抑制制御部は、前記入出力制限の一時的な開放による前記二次電池に対する負荷の実行終了に伴って前記入出力制限を回復した後に、前記二次電池の劣化における複数の前記劣化要因の構成と、前記二次電池の将来的な劣化量から導出され、前記二次電池の将来的な劣化量が小さくなる最適条件を満たすように、前記二次電池の劣化を抑制する劣化抑制制御を行う請求項2に記載の劣化抑制システム。
【請求項14】
前記抑制制御部は、
前記制限開放部による前記入出力制限の一時的な開放を伴う前記二次電池に対する負荷の実行を終了して前記劣化抑制制御を行う場合に、前記超過劣化量特定部で特定された前記超過劣化量の大きさに応じた態様で、前記劣化抑制制御を実行する請求項13に記載の劣化抑制システム。
【請求項15】
前記二次電池の温度を調整する温度調整部(31)を有し、
前記抑制制御部は、前記劣化抑制制御として、前記二次電池の劣化における複数の前記劣化要因の構成と、前記二次電池の将来的な劣化量から導出され、前記二次電池の将来的な劣化量が小さくなる最適電池温度になるように、前記温度調整部の作動を制御する請求項14に記載の劣化抑制システム。
【請求項16】
前記抑制制御部は、前記劣化抑制制御として、前記二次電池の劣化における複数の前記劣化要因の構成と、前記二次電池の将来的な劣化量から導出され、前記二次電池の将来的な劣化量が小さくなるように定められる前記二次電池の最適入出力条件を導出し、
前記二次電池の使用に際して、前記最適入出力条件を満たすように使用する請求項14に記載の劣化抑制システム。
【請求項17】
前記二次電池が使用される使用装置(V)と、
前記使用履歴取得部、前記劣化量推定部、前記劣化要因特定部、前記抑制制御部を有し、前記使用装置に対してネットワーク網(N)を介して双方向通信可能に接続されたサーバ(40)と、を有する請求項1ないし16の何れか1つに記載の劣化抑制システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二次電池の劣化を抑制する劣化抑制システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、二次電池の性能をできるだけ活用する為に、二次電池の温度を予め定められた範囲となるように管理する技術として、特許文献1の技術が知られている。特許文献1に記載された技術では、二次電池の現時点における劣化量と、寿命設計ラインから求められる劣化量を比較して、両者の乖離量が閾値以上である場合、冷却を強化して二次電池の温度調整を行うように構成されている。これにより、特許文献1の技術では、二次電池の温度頻度分布が低温側に下がる為、二次電池が高温となることで進行する劣化を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、二次電池の劣化には、高温になる程に劣化が進行するカレンダー劣化と、低温状態での通電により劣化が進行するサイクル劣化とが含まれている。サイクル劣化は、二次電池の通電によって進行する。そして、二次電池の劣化の進行は、二次電池の使われ方に応じて様々な態様を為し、カレンダー劣化とサイクル劣化の割合も大きく異なることが想定される。
【0005】
そうすると、二次電池の劣化において、サイクル劣化が支配的な場合に、特許文献1の技術を適用すると、二次電池の温度が低下することになる為、サイクル劣化の進行が促進され、二次電池の劣化が進行してしまうことになる。即ち、特許文献1の技術では、二次電池の劣化状態に対して、劣化の進行を抑制する為の制御が適切に行われず、二次電池の劣化を促進させてしまう虞がある。
【0006】
本開示は、上記点に鑑み、二次電池の劣化の状態を精度よく把握することで、より適切な態様で二次電池の劣化を抑制することができる劣化抑制システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る劣化抑制システムは、二次電池(22)と、使用履歴取得部(50a)と、劣化量推定部(50b)と、劣化要因特定部(50c)と、抑制制御部(50d)と、を有する。
【0008】
使用履歴取得部は、二次電池の使用履歴を示す使用履歴情報を取得する。劣化量推定部は、使用履歴取得部で取得された使用履歴情報を用いて、二次電池に生じている劣化量を推定する。劣化要因特定部は、劣化量推定部で推定された二次電池の劣化量に関し、使用履歴情報を用いて、二次電池の劣化量に関する複数の劣化要因を特定する。抑制制御部は、二次電池の劣化における複数の劣化要因の構成に応じて、二次電池の劣化を抑制するように、二次電池に対する制御を行う。
【0009】
これによれば、二次電池に生じている劣化量に加えて、二次電池の劣化における複数の劣化要因の構成を考慮した態様で、より適切な態様で二次電池に対する制御を行うことができ、二次電池の劣化を抑制することができる。
【0010】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係る劣化抑制システムの全体構成図である。
【
図2】第1実施形態の劣化抑制処理に関するフローチャートである。
【
図3】第1実施形態における電池状態の算出に関するフローチャートである。
【
図4】劣化前の二次電池の開回路電圧及び閉回路電圧とSOCとの関係を模式的に示す説明図である。
【
図5】劣化後の二次電池の開回路電圧及び閉回路電圧とSOCとの関係を模式的に示す説明図である。
【
図6】劣化の態様が将来的な劣化の進行に与える影響に関する説明図である。
【
図7】第1実施形態における最適平均温度の算出に関する説明図である。
【
図8】第1実施形態における温調要求マップの一例を示す図である。
【
図9】劣化抑制システムにおける劣化抑制制御の効果に関する説明図である。
【
図10】第2実施形態の劣化抑制処理に関するフローチャートである。
【
図11】第2実施形態の劣化抑制制御と二次電池の出力との関係を示す説明図である。
【
図12】第2実施形態の劣化抑制制御と二次電池の電池温度との関係を示す説明図である。
【
図13】第3実施形態の劣化抑制処理に関するフローチャートである。
【
図14】二次電池の劣化量と電流レートとの関係を示す説明図である。
【
図15】第3実施形態に係る劣化抑制制御による入出力範囲の変化を示す説明図である。
【
図16】二次電池に対する冷凍サイクル、インバータの接続態様を示す模式図である。
【
図17】第4実施形態に係る劣化抑制制御を実行しない場合における二次電池の入力電力量に関する説明図である。
【
図18】第4実施形態に係る劣化抑制制御を実行した場合における二次電池の入力電力量に関する説明図である。
【
図19】第5実施形態の劣化抑制処理に関するフローチャートである。
【
図20】第5実施形態における事後処理に関するフローチャートである。
【
図21】第6実施形態に係る劣化抑制システムの全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照しながら本開示を実施するための複数の形態を説明する。各実施形態において、先行する実施形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の実施形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組合せが可能であることを明示している部分同士の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示してなくとも実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0013】
(第1実施形態)
図1~
図4を用いて、本開示の第1実施形態を説明する。本実施形態では、本開示に係る劣化抑制システム1を、二次電池が搭載され、電動モータから走行用の駆動力を得る電気自動車等の車両Vに適用している。第1実施形態に係る劣化抑制システム1は、車両Vに搭載された二次電池22の劣化状態を劣化要因と共に把握して、将来的な劣化の進行を抑制する為の適切な劣化抑制制御を実行するシステムである。
【0014】
二次電池22が搭載される車両Vとしては、電気自動車に限られず、ハイブリッド自動車に対しても適用可能である。第1実施形態において、二次電池22は、車両Vの床下等に配置され、車両Vの各部(例えば、回転電気等)の動力源として利用される。
【0015】
又、二次電池22は、互いに直列に接続された複数の電池セルを有している。二次電池22は、例えば、複数の電池セルを一列に並べてなる電池モジュールを、複数備えた電池パックによって構成されている。電池セルは、例えば、リチウムイオン二次電池で構成されている。
【0016】
二次電池22の負極は、例えば、グラファイト等のリチウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質で構成されている。二次電池22の正極は、例えば、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2等のNi、Mn、Coを含有する三元系電極とすることができる。又、電極は、複合材料からなる電極を採用しても良い。尚、複数の電池セルを互いに並列に接続してセルブロックを構成し、このセルブロックを複数個、互いに直列に接続することにより、二次電池22を構成しても良い。
【0017】
図1に示すように、劣化抑制システム1は、車両ECU10と、BMU21と、二次電池22と、インバータ23と、モータジェネレータ24と、冷凍サイクル装置31と、通信ユニット35を有している。
【0018】
車両ECU10は、プロセッサ11、演算領域として機能する揮発性記憶部12、各種制御プログラムを格納する不揮発性記憶部13、インターフェイス14等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路によって構成されている。プロセッサ11、揮発性記憶部12、不揮発性記憶部13、インターフェイス14は、バス15を介して接続されている。
【0019】
そして、車両ECU10は、プロセッサ11によって、不揮発性記憶部13に格納された制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、インターフェイス14を介して接続された各種機器の作動を制御する。
【0020】
インターフェイス14には、BMU21、二次電池22、インバータ23、モータジェネレータ24が接続されている。BMU21は、いわゆる、Battery Management Unitであり、二次電池22の使用履歴等の管理を行う。又、BMU21は、二次電池22を対象とした電力の入出力に関する管理を行う。
【0021】
そして、インバータ23は、直流電流と交流電流とを変換する。モータジェネレータ24は、電力を供給されることによって走行用の駆動力を出力するとともに、減速時等には回生電力を発生させる。従って、車両Vにおいては、減速時にモータジェネレータ24で発生した回生電力をインバータ23で変換することで、二次電池22に充電しておくことも可能である。
【0022】
図1に示すように、インターフェイス14には、冷凍サイクル装置31と、通信ユニット35が接続されている。冷凍サイクル装置31は、車両Vの車室内空調装置の一部を構成すると共に、二次電池22の温度調整装置を構成している。冷凍サイクル装置31は、圧縮機から吐出された高圧冷媒の圧力が冷媒の臨界圧力を超えない蒸気圧縮式の亜臨界冷凍サイクルを構成している。
【0023】
冷凍サイクル装置31は、圧縮機、凝縮器、減圧部と共に、車室内へ送風される送風空気の熱を低圧冷媒に吸熱させて冷却する為の蒸発器と、二次電池22と低圧冷媒との熱交換により二次電池22を冷却する電池用熱交換器を有している。そして、通信ユニット35は、ネットワーク網Nを介して、車両Vの外部との間でデータの双方向通信を可能としている。
【0024】
又、
図1に示すように、劣化抑制システム1の機能部としては、使用履歴取得部50aと、劣化量推定部50bと、劣化要因特定部50cと、抑制制御部50dと、劣化予測部50eを有している。使用履歴取得部50aは、二次電池22の使用履歴を示す使用履歴情報をBMU21から取得する機能部であり、例えば、後述するステップS1を実行する際の車両ECU10によって構成される。
【0025】
劣化量推定部50bは、二次電池22の使用履歴情報を用いて、二次電池22に生じている劣化量を推定する機能部であり、例えば、後述するステップS3、ステップS4を実行する際の車両ECU10により構成される。
【0026】
劣化要因特定部50cは、劣化量推定部50bで推定された二次電池22の劣化量に関し、使用履歴情報を用いて、劣化量に関する複数の劣化要因(即ち、カレンダー劣化、サイクル劣化)を特定する機能部である。劣化要因特定部50cは、例えば、後述するステップS5を実行する際の車両ECU10により構成される。
【0027】
抑制制御部50dは、二次電池22の劣化における複数の劣化要因の構成に応じて、二次電池22の劣化を抑制するように、二次電池22に対する制御を行う機能部である。抑制制御部50dは、例えば、ステップS6~ステップS8を実行する際の車両ECU10により構成される。
【0028】
劣化予測部50eは、使用履歴取得部50aで取得された使用履歴情報により特定される二次電池22の劣化特性に従って、二次電池22の将来的な劣化量を予測する機能部である。劣化予測部50eは、例えば、ステップS6を実行する際の車両ECU10により構成される。
【0029】
又、車両ECU10の内、BMU21、二次電池22、インバータ23、モータジェネレータ24に関する制御を行う構成は、車両Vの運動機能に関する制御を行う運動マネージャに相当する。更に、車両ECU10の内、冷凍サイクル装置31の制御を行う構成は、車両Vにおける熱管理に関する制御を行う熱マネージャに相当する。
【0030】
尚、劣化抑制システム1の各機能の少なくとも1つは、その機能を果たすための電子回路(即ち、ハードウェア)によって構成されていてもよい。
【0031】
続いて、第1実施形態に係る劣化抑制システム1による劣化抑制処理の処理工程について、
図2のフローチャートを参照して説明する。
【0032】
先ず、ステップS1において、車両Vで使用されている二次電池22の電池負荷履歴がインターフェイス14を介して、車両VのBMU21から取得される。電池負荷履歴は使用履歴情報に相当する。これにより、劣化抑制システム1は、二次電池22(即ち、電池パック)を解体しなくとも二次電池22の電池負荷履歴を取得することができる。
【0033】
又、BMU12の演算機能を車両V以外の装置(例えば、データサーバ等)に付与し、車両V以外の装置を劣化抑制システム1の一部として利用しても良い。ステップS1においては、二次電池22の電池負荷履歴が取得できればよく、BMU21から取得する態様に限定されるものではない。
【0034】
使用履歴情報としての電池負荷履歴には、二次電池22の温度である電池温度T、充放電電流、使用期間等の、二次電池22に作用する負荷の履歴が含まれている。これらの履歴情報は、BMU21から取得した後、揮発性記憶部12又は不揮発性記憶部13に格納される。
【0035】
ステップS2においては、電池負荷履歴に含まれる二次電池22の電池温度Tを用いて、予め定められた所定期間における二次電池22の温度の平均値である電池平均温度Taが算出される。電池平均温度Taは、二次電池22の入出力がある期間と、二次電池22の入出力がない期間を含む全期間における電池温度Tの平均値であり、期間平均温度の一例である。
【0036】
ステップS3に移行すると、取得した電池負荷履歴を用いて、車両Vに搭載されている二次電池22の要素劣化状態SOHQae、SOHQce、SOHQLie、SOHRae、SOHRceを算出する。尚、SOHは、State Of Healthの略である。
【0037】
SOHQaeは、現時点における二次電池22の負極の容量維持率である。SOHQceは、現時点における二次電池22の正極の容量維持率である。SOHQLieは、現時点における二次電池22の電解質の容量維持率である。SOHRaeは、現時点における二次電池22の負極の抵抗増加率である。SOHRceは、現時点における二次電池22の正極の抵抗増加率である。
【0038】
二次電池22の各構成要素(つまり、負極、正極、電解質)の所定時(使用開始後の任意時刻)の容量維持率は、初期状態(例えば、工場出荷時)の二次電池22の各構成要素の容量に対する各構成要素の前記所定時の容量の割合である。負極容量は、リチウムイオンが挿入することができる負極のサイト数に対応している。正極容量は、リチウムイオンが挿入することができる正極のサイト数に対応している。
【0039】
電解質の容量は、正負極SOCずれ容量を用いて表される。正負極SOCずれ容量は、二次電池22における正極と負極の使用容量領域のずれである。正負極SOCずれ容量は、正極と負極との間を移動することができるリチウムイオンの数及びリチウムイオン全体の移動のしやすさに対応している。
【0040】
又、二次電池22の各構成要素の所定時(一時利用開始後の任意時刻)の抵抗増加率は、初期状態の二次電池22の各構成要素の抵抗値に対する各構成要素の前記所定時の抵抗値の割合である。
【0041】
そして、劣化抑制システム1は、各電池構成要素に関する複数の劣化要因に基づいて、要素劣化状態SOHQae、SOHQce、SOHQLie、SOHRae、SOHRceの夫々を算出する。つまり、劣化抑制システム1は、二次電池22の負極の複数の劣化要因に基づいて、負極に関する要素劣化状態SOHQae、SOHRaeを算出する。又、劣化抑制システム1は、正極の複数の劣化要因に基づいて、正極に関する要素劣化状態SOHQce、SOHRceを算出する。更に、劣化抑制システム1は、電解質の複数の劣化要因に基づいて、電解質に関する要素劣化状態SOHQLieを算出する。
【0042】
具体的には、負極容量Qa及び負極抵抗Raのそれぞれは、活物質の表面へ被膜が形成されることに起因する劣化要因、活物質の表面に形成された被膜が割れることに起因する劣化要因、活物質自体が割れることに起因する劣化要因を考慮して算出される。
【0043】
正極容量Qc及び正極抵抗Rcのそれぞれは、活物質の表面の変質に起因する劣化要因、活物質の変質した表面が割れることに起因する劣化要因、活物質自体が割れることを考慮した劣化要因を考慮して算出される。
【0044】
又、電解質の要素劣化状態SOHQLieは、負極の活物質の表面へ被膜が形成されることに起因する劣化要因、負極の活物質の表面に形成された被膜が割れることに起因する劣化要因、負極の活物質自体が割れることに起因する劣化要因を考慮して算出される。更に、電解質の要素劣化状態SOHQLieは、正極の活物質の表面へ被膜が形成されることに起因する劣化要因、正極の活物質の表面に形成された被膜が割れることに起因する劣化要因、正極の活物質自体が割れることに起因する劣化要因を考慮して算出される。
【0045】
尚、各要素劣化状態の詳細な算出の仕方については後述する。
【0046】
ステップS4では、車両Vに搭載されている二次電池22全体の劣化状態である電池状態SOHQBe、SOHRBeが算出される。電池状態SOHQBeは、二次電池22の容量に関する二次電池22全体の劣化状態を示す。電池状態SOHQBeは、ステップS3で算出された要素劣化状態SOHQae、SOHQce、SOHQLieの最小値を取ることで導出される。つまり、SOHQBe=min(SOHQae,SOHQce,SOHQLie)と表すことができる。
【0047】
上述したように、負極容量Qaは、リチウムイオンが挿入することができる負極のサイト数に対応しており、正極容量Qcは、リチウムイオンが挿入することができる正極のサイト数に対応している。そして、正負極SOCずれ容量QLiは、正極と負極との間を移動することができるリチウムイオンの数及びリチウムイオン全体の移動のしやすさに対応している。
【0048】
従って、負極容量Qa、正極容量Qc及び正負極SOCずれ容量QLiのうち最小のものは、二次電池22の電池容量QBに対応する。つまり、要素劣化状態SOHQae、SOHQce、SOHQLieの最小値は、二次電池22全体の電池状態SOHQBeになる。
【0049】
又、電池状態SOHRBeは、抵抗に関する二次電池22全体の劣化状態を示す。電池状態SOHRBeは、要素劣化状態SOHRae、SOHRceの和によって算出される。つまり、SOHRBe=SOHRae+SOHRceと表すことができる。
【0050】
尚、例えば、要素劣化状態において、二次電池22の電極(即ち、負極及び正極)以外の部材(例えば、電解質)の抵抗を考慮した場合は、電池状態SOHRBeを算出する際に、その部材に関する要素劣化状態が考慮される。即ち、前記SOHRBe=SOHRae+SOHRceの右辺に、当該部材に関する要素劣化状態が加算される。
【0051】
ここで、ステップS3における要素劣化状態の算出と、ステップS4における電池状態の算出について、
図3を参照して詳細に説明する。上述したように、ステップS3において、劣化抑制システム1は、二次電池22の電池負荷履歴に基づいて、使用開始時から現時点までの二次電池22の要素劣化状態を逐次算出する。
【0052】
以下、1回分の要素劣化状態の算出動作の開始時刻をts、終了時刻をte、開始時刻tsから終了時刻teまでの時間を実施サイクルと呼ぶこととする。実施サイクルの長さは、要素劣化状態及び電池状態に関する予測の精度と、要素劣化状態及び電池状態の算出に関する計算負荷とを考慮して適宜決定される。
【0053】
ステップS11では、電池負荷履歴として、電池温度T、充放電電流値I、使用期間Timeが取得される。ステップS11の処理内容は、
図2のステップS1に相当する。この時、劣化抑制システム1は、実施サイクル中の二次電池22の温度の分布から、実施サイクルにおける二次電池22の電池温度Tを算出する。電池温度Tは、例えば、実施サイクル中に取得された二次電池22の温度の度数分布から算出した平均値とすることができる。
【0054】
尚、電池温度Tとして、計算負荷低減の為、実施サイクル中に取得された二次電池22の温度の平均値等を採用することも可能である。電池温度Tは、劣化抑制システム1の揮発性記憶部12又は不揮発性記憶部13に格納される。
【0055】
ステップS12では、劣化抑制システム1は、二次電池22の電流値Iの積算値を算出し、算出した積算値に基づいて二次電池22の充電状態を算出する。充電状態は、二次電池22の満充電容量に対する残容量の比が百分率で表されたものであり、いわゆる、SOC(即ち、State Of Charge)である。以後、二次電池22の充電状態をSOCという。劣化抑制システム1は、例えば、電流積算法を用い、二次電池22の電流値の積算値に基づいて二次電池22のSOCを算出する。
【0056】
ステップS13では、劣化抑制システム1は、ΔDODを算出する。ΔDODは、実施サイクルの開始時刻tsにおけるSOCと終了時刻teにおけるSOCとの差分によって算出される。尚、DODは、二次電池22の放電深度を示すDepth Of Dischargeの略である。
【0057】
ステップS14において、劣化抑制システム1は、二次電池22の負極抵抗Ra及び正極抵抗Rcをそれぞれ算出する。負極抵抗Raは、二次電池22の電池温度Tと、二次電池22の電流値Iと、SOCの変化量ΔDODと、二次電池22の負極の閉回路電位とに基づいて算出される。正極抵抗Rcは、二次電池22の電池温度Tと、二次電池22の電流値Iと、SOCの変化量ΔDODと、正極の閉回路電位とに基づいて算出される。
【0058】
ここで、電池温度Tは、ステップS11で算出された二次電池22の電池温度Tである。電流値Iは、ステップS11において算出された二次電池22の電流値Iである。変化量ΔDODは、ステップS13において算出されたΔDODである。
【0059】
二次電池22の負極の閉回路電位及び正極の閉回路電位は、前回の実施サイクルにおいて算出された二次電池22の負極、正極の閉回路電位である。尚、以後、二次電池22の負極の閉回路電位をCCPaといい、二次電池22の正極の閉回路電位をCCPcという。CCPは、Closed Circuit Potentialの略である。
【0060】
負極抵抗Raは、二次電池22の電池温度T、負極側閉回路電位CCPa、変化量ΔDOD、及び充放電電流値Iの関数として表すことができる。正極抵抗Rcは、二次電池22の温度T、正極側閉回路電位CCPc、変化量ΔDOD、及び充放電電流値Iの関数として表すことができる。これについて以下説明する。
【0061】
負極抵抗Raは、二次電池22の電解液やその添加剤の酸化還元分解により負極表面に被膜(SEI:Solid Electrolyte Interface)が形成されることに起因して増加する。被膜は上述した化学反応により生成される為、負極抵抗Raはアレニウス則に従う。この為、負極抵抗Raは、電池温度Tの関数によって表すことができる。
【0062】
又、負極表面の被膜形成は、酸化還元に起因する為、ターフェル則に従う。従って、負極抵抗Raは、負極側閉回路電位CCPaの関数によって表すことができる。
【0063】
そして、二次電池22の充放電サイクルが繰り返されると、負極の活物質の膨張収縮が繰り返され、表面被膜の割れ(クラック)が進む為、やがて負極表面が被膜の割れ目から露出する。割れ目から露出した表面に新たな被膜が形成されることで被膜量が増加する為、負極抵抗Raの更なる増加を引き起こす。そして、変化量ΔDODが大きい程、活物質の膨張収縮の度合いが大きくなる。そのため、負極抵抗Raは、変化量ΔDODの関数によって表すことができる。
【0064】
又、負極においては、活物質の膨張収縮が繰り返されることに起因して、活物質自体が割れて径が小さくなる。活物質自体の割れは、負極抵抗Raを低下させる要素と負極抵抗Raを増加させる要素とを兼ね備える。
【0065】
先ず、活物質自体の割れにより、活物質に新たな面(即ち、被膜が形成されていない面)が形成される為、反応面積が増加する。従って、活物質自体の割れは負極抵抗Raの低下要因となる。一方、活物質に新たな面が形成されると、新たな面において被膜形成が促進される為、被膜量が増加し、負極抵抗Raが増加する。以上を考慮し、負極抵抗Raは、以下に示す理論から変化量ΔDODの関数によって表すことができる。
【0066】
負極の活物質の割れの速度である微粉化速度は、活物質の粒子径をr、時間をtとしたとき、dr/dtにて表される。ここで、微粉化速度dr/dtは、活物質の粒子径rが大きい程、進行しやすいものと考えられる。つまり、微粉化速度dr/dtは、活物質の粒子径rに比例するものと考えることができる。そのため、微粉化速度dr/dtは、次の式(1)のように表すことができる。
【0067】
【数1】
尚、式(1)において、kは定数であり、以後、微粉化係数ということもある。これを解くと、次の式(2)のように表される。
【0068】
【0069】
更に、活物質は、変化量ΔDODが大きい程、活物質の膨張及び収縮の度合いが大きくなる為、微粉化定数は、変化量ΔDODに比例するものと考えられる。そうすると、次の式(3)が成立する。
【0070】
【数3】
尚、式(3)において、β及びγは定数である。そして、これを解くと、次の式(4)のようになる。
【0071】
【数4】
尚、式(4)において、η及びζは定数である。そして、式(2)と式(4)を連成すると、次の式(5)を導くことができる。
【0072】
【数5】
尚、r
0は、初期(即ち、t=0のとき)の活物質の半径であり、A、B及びCは定数である。上述したように、負極抵抗R
aは、負極表面に被膜が形成されることに起因して増加し、負極表面の被膜の形成速度は、負極の活物質の径と相関を有する。従って、負極抵抗R
aは、微粉化関数f(t,ΔDOD)を含む式(即ち、ΔDODの関数)によって表すことができる。尚、式(5)の右辺の夫々の括弧内は、更に定数で加算補正しても良い。
【0073】
又、負極の表面被膜の割れ、及び負極活物質自体の割れは、二次電池22の充放電電流値Iにも依存する。充放電電流値Iが大きい程、電流は活物質の低抵抗部分を集中的に流れるようになる傾向がある為、活物質の部位によって膨張収縮の度合いに差異が生じ得る。これにより、活物質にひずみが発生しやすくなり、負極の表面被膜の割れ及び負極活物質自体の割れを引き起こす。
【0074】
そのため、負極表面被膜の割れ及び負極活物質自体の割れは、充放電電流値Iの関数又は充放電電流値Iと相関のあるCレートの関数で表すことができる。ここで、1Cレートは、定電流充放電測定の場合、電池の定格容量を1時間で完全充電又は完全放電させる電流値を示す。
【0075】
以上をまとめると、負極抵抗Raは、関数gA(T,CCPa)、関数gB(T,CCPa,ΔDOD,I)、関数gC(T,CCPa,ΔDOD,I)を用いて、次の式(7)のように表される。
【0076】
ここで、関数gA(T,CCPa)は、活物質の表面へ被膜が形成されることを考慮した関数である。関数gB(T,CCPa,ΔDOD,I)は、活物質の表面に形成された被膜が割れることを考慮した関数である。関数gC(T,CCPa,ΔDOD,I)は、活物質自体が割れることを考慮した関数である。
【0077】
【数6】
以上のような理論に基づき、負極抵抗R
aは、二次電池22の電池温度T、負極側閉回路電位CCP
a、変化量ΔDOD及び充放電電流値Iの関数として表される。
【0078】
次に、正極抵抗Rcについて説明する。正極抵抗Rcは、正極表面の変質に伴って増加する。正極表面は化学反応により変質する為、正極抵抗Rcはアレニウス則に従う。その為、正極抵抗Rcは、電池温度Tの関数によって表すことができる。
【0079】
又、正極表面の変質は、正極表面の還元分解に起因する為、ターフェル則に従う。その為、正極抵抗Rcは、正極側閉回路電位CCPcの関数によって表すことができる。
【0080】
そして、二次電池22の充放電サイクルが繰り返され、正極の活物質の膨張収縮が繰り返されると、変質した正極活物質の表面に割れが生じ、変質していない新たな正極表面が形成される。新たな正極表面において、やがて変質が生じることで、正極抵抗Rcの更なる増加を引き起こす。変化量ΔDODが大きい程、活物質の膨張収縮の度合いが大きくなるため、正極抵抗Rcは、変化量ΔDODの関数によって表すことができる。
【0081】
又、正極表面の変質は正極の活物質の膨張収縮が繰り返されることで、正極の活物質の割れ(クラック)が進み、活物質の径が小さくなることで促進される。活物質自体の割れは、正極抵抗Rcを低下させる要素と、正極抵抗Rcを増加させる要素とを兼ね備える。
【0082】
先ず、活物質自体の割れにより、活物質に新たな面(即ち、変質前の面)が形成される為、活物質自体の割れは正極抵抗Rcを低下させる要因となる。一方、活物質に新たな面が形成されると、形成された新たな面がやがて変質して、正極抵抗Rcが増加する。以上を考慮し、正極抵抗Rcは、負極抵抗Raと同様の理論から、式(6)の微粉化関数f(t,ΔDOD)を含む式(即ち、ΔDODの関数)によって表すことができる。
【0083】
そして、正極活物質自体の割れは、充放電電流値Iにも依存する。充放電電流値Iが大きい程、電流は活物質の低抵抗部分を集中的に流れる傾向がある為、活物質の部位によって膨張収縮の度合いに差異が生じ得る。これにより、活物質自体にひずみが発生しやすくなり、正極活物質自体の割れを引き起こす。そのため、正極活物質自体の割れは、充放電電流値Iの関数又は充放電電流値Iと相関のあるCレートの関数で表すことができる。
【0084】
以上をまとめると、正極抵抗Rcは、関数hA(T,CCPc)、関数hB(T,CCPc,ΔDOD,I)、hc(T,CCPc,ΔDOD,I)を用いて、次の式(8)のように表せる。
【0085】
ここで、関数hA(T,CCPc)は、活物質の表面の変質を考慮した関数である。関数hB(T,CCPc,ΔDOD,I)は、活物質の変質した表面が割れることを考慮した関数である。関数hc(T,CCPc,ΔDOD,I)は、活物質自体が割れることを考慮した関数である。
【0086】
【数7】
以上のような理論に基づき、正極抵抗R
cは、二次電池22の電池温度T、正極側閉回路電位CCP
c、変化量ΔDOD、及び充放電電流値Iの関数として表される。
【0087】
ここで、ステップS14において、負極抵抗Ra、正極抵抗Rcの算出に用いる負極側閉回路電位CCPa及び正極側閉回路電位CCPcは、今回の実施サイクルの1つ前の実施サイクルにおける負極側閉回路電位CCPa及び正極側閉回路電位CCPcを用いる。負極側閉回路電位CCPa及び正極側閉回路電位CCPcは、直前の実施サイクルにおけるステップS17で算出される。
【0088】
尚、前回の実施サイクルに算出された負極側閉回路電位CCPa及び正極側閉回路電位CCPcがない場合(例えば、システム起動時等)は、次のようにして初期の負極側閉回路電位CCPa及び正極側閉回路電位CCPcを算出する。
【0089】
先ず、ステップS11において算出された電流値Iと負極抵抗Raの初期値との積から初期の負極の分極ΔVaを算出し、ステップS11において算出された電流値Iと正極抵抗Rcの初期値との積から初期の正極の分極ΔVcを算出する。負極抵抗Raの初期値及び正極抵抗Rcの初期値は、例えば、車両Vに搭載されている二次電池22と同型の二次電池において、初期状態(例えば、工場出荷時の状態)の負極抵抗及び正極抵抗の値である。
【0090】
二次電池22の負極抵抗及び正極抵抗の初期値は、例えば、BMU21が保有しており、BMU21から取得することができる。初期状態の負極抵抗Ra及び正極抵抗Rcは、例えば、交流インピーダンス法やIV測定等により決定することができる。或いは、解体された初期状態の二次電池22の正極を用いたハーフセル、負極を用いたハーフセルをそれぞれ作成し、それぞれのハーフセルの抵抗測定を行うことによっても初期状態の負極抵抗Ra及び正極抵抗Rcを決定することができる。
【0091】
そして、後述する初期OCP特性と、ステップS12において算出されたSOCとに基づいて、二次電池の負極、正極の開回路電位をそれぞれ算出する。各開回路電位は、二次電池22と外部回路とが通電していない状態が長期間経過したときの二次電池22の各電極の電位である。以後、二次電池22の負極の開回路電位を負極側開回路電位OCPaといい、二次電池22の正極の開回路電位を正極側開回路電位OCPcという。OCPは、Open Circuit Potentialの略である。
【0092】
初期OCP特性は、初期状態における二次電池22のSOCと負極側開回路電位OCPaとの関係、及び、SOCと正極側開回路電位OCPcとの関係を示すものであり、例えば、BMU21に記憶されている。
【0093】
続いて、負極側開回路電位OCPaと負極側の分極ΔVaを加算することによって、負極側閉回路電位CCPaが得られる。一方、正極側開回路電位OCPcと正極側の分極ΔVcを加算することで、正極側閉回路電位CCPcを得ることができる。
【0094】
前回の実施サイクルに算出された負極側閉回路電位CCPa及び正極側閉回路電位CCPcがない場合(例えば、システム起動時等)は、以上の処理を行うことで、初期の負極側閉回路電位CCPa及び正極側閉回路電位CCPcを算出する。
【0095】
上述した理論に従って、負極抵抗Ra及び正極抵抗Rcを算出して、ステップS15に移行すると、劣化抑制システム1は、負極の分極ΔVa及び正極の分極ΔVcを算出する。負極の分極ΔVaは、ステップS11で算出された二次電池22の電流値Iに対して、ステップS14で算出された負極抵抗Raを乗算して算出される。一方、正極の分極ΔVcは、二次電池22の電流値Iに対して、ステップS14で算出された正極抵抗Rcを乗算して算出される。
【0096】
ステップS16に移行すると、劣化抑制システム1は、負極側開回路電位OCPa及び正極側開回路電位OCPcを算出する。劣化抑制システム1は、ステップS12において算出された二次電池22のSOC、及びBMU12が記憶する前回の実施サイクルの更新OCP特性に基づいて、負極側開回路電位OCPa及び正極側開回路電位OCPcを算出する。更新OCP特性は、劣化後の二次電池22のSOCと負極側開回路電位OCPaとの関係、及び、SOCと正極側開回路電位OCPcとの関係を示す。
【0097】
ここで、更新OCP特性は、次のように取得可能である。先ず、劣化抑制システム1の揮発性記憶部12又は不揮発性記憶部13が予め記憶されている初期OCP特性を、後述のステップS18において算出される負極容量Qa、正極容量Qc、及び正負極SOCずれ容量QLiに基づいて更新する。
【0098】
初期OCP特性は、初期状態の二次電池22におけるSOCと負極側開回路電位OCPaとの関係、及び、SOCと正極側開回路電位OCPcとの関係を示す。初期OCP特性の更新の手法は特に限定されず、例えば公知の手法を採用することが可能である。
【0099】
ステップS17において、劣化抑制システム1は、二次電池22の負極側閉回路電位CCPa及び正極側閉回路電位CCPcを算出する。先ず、劣化抑制システム1は、ステップS15で算出された分極ΔVa及び分極ΔVcを取得すると共に、ステップS16で算出された負極側開回路電位OCPa及び正極側開回路電位OCPcを取得する。
【0100】
負極側閉回路電位CCPaは、負極側開回路電位OCPaと負極の分極ΔVaを加算することによって算出され、負極側開回路電位OCPaを負極側閉回路電位CCPaに書き換えることができる。同様に、正極側閉回路電位CCPcは、正極側開回路電位OCPcと正極の分極ΔVcを加算することで算出され、正極側開回路電位OCPcを正極側閉回路電位CCPcに書き換えることができる。
【0101】
ここで、二次電池22は、劣化によって分極が顕在化する。即ち、分極の発生により、二次電池22の充電時には、二次電池22の閉回路電圧が上昇し、放電時には閉回路電圧が下降する。そして、二次電池22の劣化が進むと、二次電池22の充電時には閉回路電圧が一層上昇し、放電時には閉回路電圧が一層下降する。
【0102】
この点について、
図4、
図5を用いて説明する。
図4は、劣化前の二次電池22に関して、充電時のSOCと電圧との関係を模式的に示し、
図5は、劣化後の二次電池22に関して、充電時のSOCと電圧との関係を模式的に示している。
図4及び
図5において、実線で開回路電圧、破線で閉回路電圧を表しており、縦軸の電圧のスケールが一致しているものとする。
【0103】
尚、以後、開回路電圧はOCVといい、閉回路電圧はCCVという。OCVは、Open Circuit Voltageの略であり、CCVは、Closed Circuit Voltageの略である。
【0104】
図4及び
図5を参照すると、劣化後の二次電池22の分極ΔVの方が、劣化前の分極ΔVよりも大きくなっていることがわかる。劣化抑制システム1は、かかる点に鑑み、二次電池22の劣化量を推定するにあたって、開回路電位OCPを、分極ΔVを考慮した閉回路電位CCPに書き換え、閉回路電位CCPを用いて電池容量Q
Bを予測している。
【0105】
ステップS18において、劣化抑制システム1は、二次電池22の負極容量Qa、正極容量Qc、正負極SOCずれ容量QLiを、それぞれ算出する。劣化抑制システム1は、先ず、ステップS17にて算出された負極側閉回路電位CCPa及び正極側閉回路電位CCPcと、ステップS11で算出された二次電池22の電池温度Tと、ステップS13で算出された変化量ΔDODを取得する。
【0106】
次に、劣化抑制システム1は、二次電池22の負極容量Qa、正極容量Qc、正負極SOCずれ容量QLiの夫々を、負極側閉回路電位CCPa及び正極側閉回路電位CCPcの少なくとも一方と、電池温度Tと、電流値Iと、変化量ΔDODに基づいて算出する。
【0107】
先ず、負極容量Qaの算出について説明する。劣化抑制システム1は、負極抵抗Raを算出する場合と同様の理論で、負極容量Qaを表す。つまり、負極容量Qaは、関数iA(T,CCPa)、関数iB(T,CCPa,ΔDOD,I)、関数iC(T,CCPa,ΔDOD,I)を用いて次の式(9)のように表される。
【0108】
ここで、関数iA(T,CCPa)は活物質の表面へ被膜が形成されることを考慮した関数である。関数iB(T,CCPa,ΔDOD,I)は、活物質の表面に形成された被膜が割れることを考慮した関数である。そして、関数iC(T,CCPa,ΔDOD,I)は、活物質自体が割れることを考慮した関数である。即ち、負極容量Qaは、二次電池22の電池温度T、負極側閉回路電位CCPa、変化量ΔDOD(即ち、微粉化関数f(t,ΔDOD))及び充放電電流値Iの関数によって表される。
【0109】
【数8】
次に、正極容量Q
cの算出について説明する。劣化抑制システム1は、正極抵抗R
cを算出する場合と同様の理論で、正極容量Q
cを表す。つまり、正極容量Q
cは、関数j
A(T,CCP
c)、関数j
B(T,CCP
c,ΔDOD,I)、関数j
C(T,CCP
c,ΔDOD,I)を用いて次の式(10)のように表される。
【0110】
ここで、関数jA(T,CCPc)は、活物質の表面が変質することを考慮した関数である。関数jB(T,CCPc,ΔDOD,I)は、活物質の変質した表面が割れることを考慮した関数である。関数jC(T,CCPc,ΔDOD,I)は、活物質自体が割れることを考慮した関数である。即ち、正極容量Qcは、電池温度T、正極側閉回路電位CCPc、変化量ΔDOD(即ち、微粉化関数f(t,ΔDOD))、及び充放電電流値Iの関数によって表される。
【0111】
【数9】
続いて、正負極SOCずれ容量Q
Liの算出について説明する。正負極SOCずれ容量Q
Liは、負極、正極における被膜(SEI:Solid Electrolyte Interface)の形成によるリチウムイオンの消費と相関する。被膜の形成によるリチウムイオンの消費は化学反応である為、正負極SOCずれ容量Q
Liはアレニウス則に従う。その為、正負極SOCずれ容量Q
Liは、電池温度Tの関数によって表すことができる。
【0112】
負極、正極での被膜形成によるリチウムイオンの消費は、酸化還元反応である為、ターフェル則に従う。その為、正負極SOCずれ容量QLiは、負極側閉回路電位CCPa及び正極側閉回路電位CCPcの関数によって表すことができる。
【0113】
又、二次電池22の充放電サイクルの繰り返しにより、各電極(即ち、正極、負極)の活物質の膨張収縮が繰り返され、各電極における活物質の表面被膜の割れが進む。これにより、やがて各電極表面が被膜の割れ目から露出し、露出面に新たな被膜が形成されることでリチウムイオンの消費量が増える。又、変化量ΔDODが大きい程、活物質の膨張収縮の度合が大きくなる。そのため、正負極SOCずれ容量QLiは、変化量ΔDODの関数によって表すことができる。
【0114】
そして、各電極においては、上述したように、活物質の膨張収縮が繰り返されることに起因して、活物質自体が割れて径が小さくなる。活物質自体の割れは、正負極SOCずれ容量QLiを増加させる要素と、正負極SOCずれ容量QLiを低下させる要素とを兼ね備える。
【0115】
先ず、活物質自体の割れにより、活物質に新たな面(即ち、被膜が形成されていない面)が形成される為、リチウムイオンが各電極の活物質に移動しやすくなり、正負極SOCずれ容量QLiの増加要因となる。一方、活物質に新たな面が形成されると、新たな面において、被膜形成が促進されてリチウムイオンが消費される為、正負極SOCずれ容量QLiの低下要因となる。
【0116】
以上を考慮すると、正負極SOCずれ容量QLiは、負極抵抗Ra及び正極抵抗Rcと同様の理論から、微粉化関数f(t,ΔDOD)を含む式(即ち、変化量ΔDODの関数)で表すことができる。
【0117】
又、各電極における活物質自体の割れは、充放電電流値Iにも依存する。充放電電流値Iが大きい程、電流は活物質の低抵抗部分を集中的に流れるようになる傾向がある為、活物質の部位によって膨張収縮の度合いに差異が生じ得る。これにより、活物質にひずみが発生しやすくなり、活物質自体の割れを引き起こす。そのため、各電極の活物質自体の割れは、充放電電流値Iの関数、又は充放電電流値Iと相関のあるCレートの関数で表すことができる。
【0118】
以上より、正負極SOCずれ容量QLiは、関数kA(T,CCPa)、関数kB(T,CCPa,ΔDOD,I)、kC(T,CCPa,ΔDOD,I)、関数lA(T,CCPc)、関数lB(T,CCPc,ΔDOD,I)、関数lC(T,CCPc,ΔDOD,I)を用いて次の式(11)のように表される。
【0119】
ここで、関数kA(T,CCPa)は、負極の活物質の表面へ被膜が形成されることを考慮した関数である。関数kB(T,CCPa,ΔDOD,I)は、負極の活物質の表面に形成された被膜が割れることを考慮した関数である。関数kC(T,CCPa,ΔDOD,I)は、負極の活物質自体が割れることを考慮した関数である。
【0120】
更に、関数lA(T,CCPc)は、正極の活物質の表面へ被膜が形成されることを考慮した関数である。関数lB(T,CCPc,ΔDOD,I)は、正極の活物質の表面に形成された被膜が割れることを考慮した関数である。関数lC(T,CCPc,ΔDOD,I)は、正極の活物質自体が割れることを考慮した関数である。
【0121】
【数10】
以上のように、正負極SOCずれ容量Q
Liは、電池温度T、負極側閉回路電位CCP
a、正極側閉回路電位CCP
c、変化量ΔDOD、及び充放電電流値Iの関数として表すことができる。
【0122】
ステップS19において、劣化抑制システム1は、ステップS18で算出した負極容量Qa、正極容量Qc、正負極SOCずれ容量QLiを用いて、電池容量QBを求める。具体的には、劣化抑制システム1は、二次電池22の負極容量Qa、正極容量Qc、及び正負極SOCずれ容量QLiのうち、最小のものを二次電池22の電池容量QBと判断する。即ち、劣化抑制システム1は、QB=min(Qa,Qc,QLi)を実行する。
【0123】
上述したように、負極容量Qaは、リチウムイオンが挿入することができる負極のサイト数に対応し、正極容量Qcは、リチウムイオンが挿入することができる正極のサイト数に対応している。正負極SOCずれ容量QLiは、正極と負極との間を移動することができるリチウムイオンの数及びリチウムイオン全体の移動のしやすさに対応している。この為、負極容量Qa、正極容量Qc、及び正負極SOCずれ容量QLiのうち最小のものは、二次電池22の電池容量QBに対応する。
【0124】
又、ステップS19では、劣化抑制システム1は、負極抵抗Ra及び正極抵抗Rcを用いて、二次電池22全体の抵抗値である電池抵抗RBを求める。具体的には、劣化抑制システム1は、二次電池22を構成する各部(負極抵抗Ra及び正極抵抗Rc)の合計を、二次電池22全体の抵抗値と判断する。即ち、劣化抑制システム1は、RB=Ra+Rcを実行する。
【0125】
以上のように、現時点における二次電池22の負極抵抗Ra、正極抵抗Rc、負極容量Qa、正極容量Qc、正負極SOCずれ容量QLi、電池容量QB、及び電池抵抗RBのそれぞれを算出する。そして、劣化抑制システム1は、算出した正極容量Qc等を用いて、要素劣化状態SOHQae、SOHQce、SOHQLie、SOHRae、SOHRceを算出する。
【0126】
例えば、要素劣化状態SOHQaeは、初期の二次電池22の負極容量Qaに対する現時点における二次電池22の負極容量Qaの割合を求めることで算出される。要素劣化状態SOHQceは、初期の二次電池22の正極容量Qcに対する現時点における二次電池22の正極容量Qcの割合を求めることで算出される。要素劣化状態SOHQLieは、初期の二次電池22における正負極SOCずれ容量QLiに対する現時点における二次電池22の正負極SOCずれ容量QLiの割合を求めることで算出される。
【0127】
要素劣化状態SOHRaeは、初期状態の二次電池22における負極抵抗Raに対する現時点における二次電池22の負極抵抗Raの割合を求めることで算出される。要素劣化状態SOHRceは、初期状態の二次電池22における正極抵抗Rcに対する現時点における二次電池22の正極抵抗Rcの割合を求めることで算出される。
【0128】
このように、二次電池22の各構成要素の劣化状態を、各構成要素の複数の劣化要因を考慮して算出することで、二次電池22の各構成要素の劣化状態の予測を高精度に行うことができる。
【0129】
この点について、具体例を挙げると共に、
図6を参照して説明する。具体例として、2つの同型の二次電池22(以下、便宜上、第1電池、第2電池という)を用いて、劣化要因の相違が将来的な劣化の進行に及ぼす影響に関するシミュレーション結果を挙げる。
【0130】
尚、第1電池、第2電池は、互いに同じ型の二次電池である。
図6に示すグラフの横軸は日数の平方根を示しており、縦軸は二次電池22の容量維持率を示している。そして、所定時における二次電池22の容量維持率は、初期状態における二次電池22の容量に対する所定時の二次電池22の容量の割合である。
【0131】
又、
図6において、第1電池に関する実験結果を線L1、第2電池に関する実験結果を線L2で示している。
図6に示す第1電池及び第2電池のそれぞれの結果は、何れも、負極容量Q
a、正極容量Q
c及び正負極SOCずれ容量Q
Liのうち、正負極SOCずれ容量Q
Liが最小である。従って、第1電池及び第2電池の実験結果において、電池容量Q
B=正負極SOCずれ容量Q
Liとなっている。
【0132】
尚、自動車駆動用等の大電流が流れる二次電池22は、二次電池22の負極容量Qa、正極容量Qc、及び正負極SOCずれ容量QLiのうち、正負極SOCずれ容量QLiが最小となる領域でのみ使用されることが多い。即ち、大電流が流れる二次電池22において、電池容量QBは、正負極SOCずれ容量QLiとなることが多い。
【0133】
図6に示す具体例において、第1電池について、容量維持率が100%である状態から、第1電池を45℃の環境下でカレンダー劣化させ、容量維持率を92%まで下げた。このときの第1電池の容量低下は、各電極への被膜形成に起因するものが7.2%、各電極の活物質の表面に形成された被膜が割れることに起因するものが0.4%、各電極の活物質自体が割れることに起因するものが0.4%であった。
【0134】
一方、
図6に示す具体例において、第2電池については、容量維持率が100%である状態から、第2電池を45℃の環境下でサイクル劣化させ、容量維持率を92%まで下げた。このときの第2電池の容量の低下は、各電極への被膜形成に起因するものが4.0%、各電極の活物質の表面に形成された被膜が割れることに起因するものが1.6%、各電極の活物質自体が割れることに起因するものが2.4%であった。
【0135】
つまり、互いに同じ容量維持率、正負極SOCずれ容量QLiの第1電池及び第2電池であっても、それまでの使用状況により、正負極SOCずれ容量QLiに関する式(11)を構成する各関数の値が第1電池と第2電池とで相違することがわかる。
【0136】
そして、容量維持率を92%とした第1電池と第2電池とを、サイクル劣化とカレンダー劣化とを組み合わせて同じ条件で劣化させた。
図6に示すように、容量維持率が92%以下である領域において、第2電池の劣化状態を示す線L2の傾きの方が、第1電池の劣化状態を示す線L1の傾きよりも大きくなっている。即ち、この条件においては、最初にサイクル劣化させた第2電池の方が、最初にカレンダー劣化させた第1電池よりも劣化が早くなっていることがわかる。
【0137】
これにより、互いに同じ容量維持率の二次電池22でも、それまでの二次電池22の使用状況によって、その後の二次電池22の劣化の進行度合いが異なることがわかる。又、正負極SOCずれ容量QLiを、各電極への被膜形成を考慮した関数、各電極の活物質の表面に形成された被膜が割れることを考慮した関数、各電極の活物質自体が割れることを考慮した関数に基づいて算出することで、高精度の電池容量QBを算出できる。尚、電池容量QBが負極容量Qa又は正極容量Qcとなる場合も同様である。
【0138】
又、負極抵抗Ra、正極抵抗Rcについても、それぞれ複数の劣化要因を考慮して算出されている。その為、前述の電池容量QBが高精度に算出される論理と同様の論理から、負極抵抗Ra、正極抵抗Rcについても高精度に算出できる。
【0139】
図2に戻り、ステップS5以後の処理について説明する。ステップS5においては、車両Vに搭載されている二次電池22の電池状態となった複数の劣化要因を抽出する。ここで、初期状態の二次電池22の状態と、現時点における二次電池22の状態との差をトータル劣化量Zという。
【0140】
トータル劣化量Zには、カレンダー劣化に起因するカレンダー劣化量Zaと、サイクル劣化に起因するサイクル劣化量Zbと、その他の劣化要因に起因する劣化量Zcが含まれている。従って、トータル劣化量Zは、次の式(12)のように表される。
【0141】
【数11】
カレンダー劣化量Zaは、カレンダー劣化に起因する二次電池22の劣化量である。カレンダー劣化は、二次電池22に対する通電によらず、時間経過により進行し、二次電池22の電池温度Tを高くすることで、より進行する傾向を示す。又、カレンダー劣化は、活物質の表面に被膜が形成されることによって進行すると考えられる。
【0142】
上述したように、被膜は二次電池22の電解液やその添加剤の酸化還元分解といった化学反応により生成する為、アレニウス則に従って形成される為、カレンダー劣化量Zaは、電池温度Tの関数によって表すことができる。又、被膜形成は酸化還元に起因する為、ターフェル則に従う。従って、カレンダー劣化量Zaは、閉回路電位CCPの関数によって表すことができる。以上より、上述した式(9)~式(11)における被膜の形成を考慮した関数を用いた式(13)によって、カレンダー劣化量Zaを求めることができる。
【0143】
【数12】
サイクル劣化量Zbは、サイクル劣化に起因する二次電池22の劣化量である。サイクル劣化は、二次電池22の通電により進行し、二次電池22の電池温度が低い状態での通電によって、より進行する傾向を示す。又、サイクル劣化は、各電極等の膨張収縮に起因しており、活物質の表面に形成された被膜が割れることによって進行すると考えられる。
【0144】
上述したように、表面被膜の割れ(クラック)は、二次電池22の充放電サイクルの繰り返しに伴い、活物質の膨張収縮が繰り返されることによって進行する。これにより、被膜の割れ目から露出した表面に新たな被膜が形成されることで被膜量が増加する為、更に劣化が進行する。そして、変化量ΔDODが大きい程、活物質の膨張収縮の度合いが大きくなる。その為、サイクル劣化量Zbは、変化量ΔDODの関数によって表すことができる。以上より、上述した式(9)~式(11)における活物質の表面に形成された被膜が割れることを考慮した関数を用いた式(14)によって、サイクル劣化量Zbを求めることができる。
【0145】
【数13】
以上のように、現時点における二次電池22のトータル劣化量Zにおけるカレンダー劣化量Za、サイクル劣化量Zbを、式(13)、式(14)から求めることができる。これにより、現時点における二次電池22の劣化に関して、活物質の表面に被膜が形成されることに起因するカレンダー劣化と、活物質の表面に形成された被膜が割れることに起因するサイクル劣化の何れが強く影響を与えているかを評価することができる。
【0146】
ステップS6に移行すると、劣化抑制システム1は、ステップS5で算出されたトータル劣化量Zにおける各劣化要因の構成を踏まえて、以後の二次電池22の温度調整の目標値である最適平均温度TaOを求める。最適平均温度TaOは、二次電池22の劣化の進行を抑制する為に、将来的な二次電池22の劣化量が最も小さくなるように定められる電池平均温度Taの目標値である。
【0147】
具体的には、劣化抑制システム1は、ステップS5で算出されたカレンダー劣化量Zaと、サイクル劣化量Zbとを用いて、劣化要因の構成比率Zb/Zaを算出する。構成比率Zb/Zaは、電池負荷履歴を用いて算出されたカレンダー劣化量Za、サイクル劣化量Zbを用いて算出される為、電池負荷履歴により特定される二次電池22の劣化特性に従っている。
【0148】
ここで、構成比率Zb/Zaの自然対数と、電池平均温度Taの逆数との関係について、
図7を参照して説明する。構成比率Zb/Zaの自然対数の算出値は、上述したように、電池負荷履歴により特定される二次電池22の劣化特性に従っている。
図7において、構成比率Zb/Zaの自然対数の算出値と、ステップS2で算出された電池平均温度Taの逆数により、現時点における二次電池22の劣化状態を示す点が定められる。
【0149】
構成比率Zb/Zaの自然対数の算出値に係る既知の点を通過する直線L3は、電池負荷履歴により特定される二次電池22の劣化特性に従っている。直線L3の傾きは、二次電池22の諸元や型式等によって定められる定数を示す。
【0150】
従って、現時点における二次電池22の劣化の状態を前提として、将来的な二次電池22の劣化量の予測値は、直線L3上の点によって特定することができる。換言すると、直線L3上の点から、将来的な二次電池22の劣化量の予測値が最小となる点を特定することができる。
【0151】
ここで、構成比率Zb/Zaの自然対数と二次電池22の劣化量との関係において、二次電池22の劣化量が最小となる場合には、二次電池22の諸元や型式等から特定される構成比率Zb/Zaを示すことが分かっている。従って、二次電池22の諸元等から特定される構成比率Zb/Zaは、二次電池22の劣化量を最小とする為に定められる構成比率Zb/Zaの目標値であり、目標構成比率の一例である。
【0152】
そして、二次電池22の諸元等から特定される構成比率Zb/Zaと、二次電池22の劣化特性に従った直線L3から、二次電池22の劣化が最小になる場合における電池平均温度Taの逆数を特定することができる。この二次電池22の劣化が最小になる場合における電池平均温度Taが、電池平均温度Taの目標値である最適平均温度TaOとして定められる。最適平均温度TaOは最適電池温度の一例に相当する。
【0153】
尚、二次電池22の劣化量が最小となる構成比率Zb/Zaの値や、直線L3の傾きの値は、例えば、BMU21において、二次電池22の諸元や型式等に対応付けて格納されている。ステップS6において、劣化抑制システム1は、ステップS1で取得した電池負荷履歴に含まれる放電深度DODの頻度に応じて、二次電池22の劣化量が最小となる構成比率Zb/Zaの値を補正する。
【0154】
具体的には、劣化抑制システム1は、放電深度DODの頻度が大きい程、二次電池22の劣化量が最小となる構成比率Zb/Zaの値が大きくなるように補正を行う。放電深度DODによる二次電池22の劣化へのストレスの大きさを反映させることができるので、より適切な最適電池温度として、最適平均温度TaOを定めることができる。
【0155】
ステップS7では、劣化抑制システム1は、ステップS2で算出した電池平均温度Taと、ステップS6で算出した最適平均温度TaOを用いて、将来的な二次電池22の劣化を最小限に抑制する為に、二次電池22の温調制御の態様を更新する。
【0156】
劣化抑制システム1では、温度調整部である冷凍サイクル装置31の制御に際して、温調要求マップが参照される。
図8に示すように、温調要求マップは、最適平均温度TaOと電池平均温度Taの乖離度と、二次電池22の電池温度Tを引数として、温調開始温度及び温調量を出力するように構成されている。
【0157】
乖離度は、ステップS2で算出した電池平均温度Taと、ステップS6で算出した最適平均温度TaOとの差分によって定められ、差分値の属する数値範囲に応じて、Lv1~Lv3までに区分されている。
【0158】
尚、乖離量は、差分値が小さい方から順に、Lv1、Lv2、Lv3となるように対応付けられている。又、乖離度に関して、Lv1~Lv3の区分を例に挙げているが、電池平均温度Taと最適平均温度TaOの差分を示すものであれば良く、他の実現方法を採用することも可能である。
【0159】
劣化抑制システム1は、電池平均温度Taと、最適平均温度TaOとの大小比較の結果に応じて、温調要求マップに定められている出力値を更新する。例えば、電池平均温度Taが最適平均温度TaOよりも低い場合、将来的な二次電池22の劣化量を抑制する為には、二次電池22の温調制御に関して、二次電池22の加熱制御の頻度を増やしたり、目標温度を高く設定したりする必要がある。この為、劣化抑制システム1は、将来的な二次電池22の使用に関して取得される電池平均温度Taが上がるように、温調要求マップの内容を更新する。
【0160】
一方、電池平均温度Taが最適平均温度TaOよりも高い場合、将来的な二次電池22の劣化量を抑制する為には、二次電池22の温調制御に関して、二次電池22の冷却制御の頻度を増やしたり、目標温度を低く設定したりする必要がある。この為、劣化抑制システム1は、将来的な二次電池22の使用に関して取得される電池平均温度Taが下がるように、温調要求マップの内容を更新する。
【0161】
ステップS8では、劣化抑制システム1は、ステップS7で更新された温調要求マップに従って、冷凍サイクル装置31の作動を制御して、二次電池22の温調制御を行う。これにより、将来的な電池平均温度Taが最適平均温度TaOに近づくように、冷凍サイクル装置31による温調制御が行われる。
【0162】
この結果、劣化抑制システム1は、現時点の二次電池22の劣化における劣化要因の構成に応じた態様で、二次電池22の温調制御を行うことができ、将来的な劣化量が最も小さくなるように抑制することができる。
【0163】
続いて、第1実施形態に係る劣化抑制システム1の効果について、
図9を参照して説明する。
図9において、線Dfは、現時点までの使用に伴う二次電池22の容量維持率の変化を示している。線Dsは、設計段階において定義された二次電池22の容量維持率の変化の想定値を示している。
【0164】
図9における現在において、線Dfで示された現在の二次電池22の容量維持率は、線Dsで示された容量維持率の想定値よりも低い値を示している。現在における容量維持率の差は、二次電池22の使われ方に起因しており、劣化要因の構成の差と相関を有する。
【0165】
ここで、
図9における未来において、線Dpaは、温調制御態様の更新等の劣化抑制制御を行うことなく、そのまま二次電池22を使用した場合の容量維持率の変化を示している。そして、線Dpbは、第1実施形態に係る制御プログラムに従って、劣化抑制制御を行った場合の二次電池22の容量維持率の変化を示している。
【0166】
上述したように、第1実施形態に係る劣化抑制システム1は、
図2に示すフローチャートに従った制御を行うことで、現時点の二次電池22の劣化における劣化要因の構成に応じた態様で、二次電池22の温調制御を行う。これにより、将来的な二次電池22の容量維持率の変化は線Dpbで示す態様に変化して、二次電池22の劣化を抑制することができる。換言すると、劣化抑制システム1は、劣化抑制制御を行うことで、線Dpaで示す実劣化状態から線Dsで示す想定劣化状態に近づけることができる。
【0167】
以上説明したように、第1実施形態に係る劣化抑制システム1によれば、
図2に示すフローチャートの制御を行うことで、現時点における二次電池22の劣化におけるカレンダー劣化、サイクル劣化の構成に応じた劣化抑制制御を行うことができる。
【0168】
これにより、現時点における二次電池22の劣化量に加えて、カレンダー劣化、サイクル劣化の構成といった劣化の詳細を制御内容に反映させることができるので、将来的な二次電池22の劣化を適切に抑制することができる。
【0169】
又、ステップS6において、劣化抑制システム1は、二次電池22の将来的な劣化量を予測して将来的な劣化量が最小となるように、最適平均温度TaOを決定する。これにより、二次電池22の温度調整の将来的な期間に対する傾向に対して、劣化要因の構成と、将来的な劣化量の予測を反映させることができるので、より適切な二次電池22の温度調整を行うことができる。
【0170】
そして、ステップS7、ステップS8では、劣化抑制システム1は、ステップS6で算出された最適平均温度TaOに対して電池平均温度Taが近づくように、将来的な温調制御態様を更新する。又、最適平均温度TaO及び電池平均温度Taは、予め定められた期間における電池温度Tの平均値である。
【0171】
従って、劣化抑制システム1は、冷凍サイクル装置31による二次電池22の加熱及び冷却の頻度や電池温度Tの目標値を適切な態様に変更することができ、二次電池22の将来的な劣化を、より確実に抑制することができる。
【0172】
そして、
図7に示すように、劣化抑制システム1は、電池平均温度Ta、構成比率Zb/Zaの算出値、及び、二次電池22の劣化が最小となる際の構成比率Zb/Zaの目標値と、を用いて、最適平均温度TaOを算出している。
【0173】
これにより、長期的な視野をもって、冷凍サイクル装置31による二次電池22の加熱及び冷却の頻度や電池温度Tの目標値等を変更することができるので、より確実に、二次電池22の将来的な劣化を抑制することができる。
【0174】
ステップS7において、温調制御態様を更新する際に、劣化抑制システム1は、温調要求マップの数値を、電池平均温度Taが最適平均温度TaOに近づくように更新する。
図7に示すように、温調要求マップには、電池平均温度Taと最適平均温度TaOの乖離量により複数レベルに分かれて規定されており、乖離量のレベルに対してそれぞれ出力値が規定されている。
【0175】
ステップS7において、温調要求マップの出力値を更新することで、電池平均温度Taと最適平均温度TaOの乖離量に応じた冷凍サイクル装置31の作動制御を実現でき、電池平均温度Taを最適平均温度TaOに近づけて、二次電池22の劣化を抑制できる。
【0176】
図7に示すように、温調要求マップにおいて、現在の電池温度Tが引数として定められており、電池温度Tと乖離量から定められる温調要求値が出力されるように構成されている。
【0177】
これにより、冷凍サイクル装置31を用いた二次電池22の温度調整に関して、電池温度Tと長期的な視野に立った乖離度を反映させることができるので、より確実に、電池平均温度Taを最適平均温度TaOに近づけて、二次電池22の劣化を抑制できる。
【0178】
ステップS6で最適平均温度TaOを算出する際に、劣化抑制システム1は、電池負荷履歴に含まれる放電深度DODの頻度に応じて、二次電池22の劣化量が最小となる構成比率Zb/Zaの値を補正する。具体的には、劣化抑制システム1は、放電深度DODの頻度が大きい程、二次電池22の劣化量が最小となる構成比率Zb/Zaの値が大きくなるように補正を行う。
【0179】
これにより、最適平均温度TaOの算出に関して、放電深度DODによる二次電池22の劣化へのストレスの大きさを反映させることができるので、より適切な最適平均温度TaOを定めることができ、二次電池22の劣化を抑制することができる。
【0180】
(第2実施形態)
次に、上述した実施形態と異なる第2実施形態について、
図10~
図12を参照して説明する。第2実施形態では、劣化抑制処理の内容の一部が上述した実施形態と相違している。その他の劣化抑制システム1の基本的構成等については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
【0181】
第2実施形態に係る劣化抑制システム1は、
図10に示すフローチャートに従って、劣化抑制処理を実行する。第2実施形態に係る劣化抑制処理のステップS21~ステップS26の処理内容は、第1実施形態におけるステップS1~ステップS6の処理内容と同様である為、再度の説明は省略する。
【0182】
ステップS27においては、ステップS22で算出された電池平均温度TaがステップS26で算出された最適平均温度TaOに近づくように、二次電池22の入出力制限の制限態様として、二次電池22に対して定められている入出力制限を更新する。
【0183】
一般的に、二次電池22は、入出力に伴って発熱する為、入出力制限の制限値を変更することで、二次電池22の電池温度Tを調整することができる。そして、入出力制限における制限値の変更によって、二次電池22の電池温度Tを適宜調整することで、予め定められた期間の電池平均温度Taを最適平均温度TaOに近づけることができる。
【0184】
具体的にステップS27では、劣化抑制システム1は、電池平均温度Taと最適平均温度TaOの比較結果に応じて、二次電池22の入出力制限の有無を変更する。電池平均温度Taが最適平均温度TaOよりも高い場合、劣化抑制システム1は、二次電池22に対して定められている入出力制限の制限値を引き下げる、又は、入出力制限における許容範囲を狭める。一方、電池平均温度Taが最適平均温度TaOよりも低い場合、劣化抑制システム1は、二次電池22に定められている入出力制限の制限値を引き上げる、又は、入出力制限における許容範囲を拡大する。この場合、二次電池22の入出力に関して、制限が介入しないようにすると言い換えることができる。
【0185】
ステップS28に移行すると、劣化抑制システム1は、ステップS27で更新された二次電池22の入出力制限の態様を適用する。これにより、二次電池22の入出力時における発熱量及び電池温度Tが調整されることになる為、劣化抑制システム1は、電池平均温度Taを最適平均温度TaOに近づけることができ、二次電池22の劣化を抑制できる。
【0186】
上述した具体例では、電池平均温度Taが最適平均温度TaOよりも高い場合、二次電池22の入出力制限の制限値が引き下げられる為、入出力時における二次電池22の発熱量が低下する。これにより、入出力制限の更新後における電池平均温度Taが低下し、最適平均温度TaOに近づくことになる為、劣化抑制システム1は、更新後における二次電池22の劣化を適切に抑制することができる。
【0187】
又、電池平均温度Taが最適平均温度TaOよりも低い場合、劣化抑制システム1は、二次電池22に定められている入出力制限の制限値を引き上げる。これにより、入出力制限の更新後における電池平均温度Taが上昇し、最適平均温度TaOに近づくことになる為、劣化抑制システム1は、更新後における二次電池22の劣化を適切に抑制することができる。
【0188】
続いて、第2実施形態に係る劣化抑制システム1の効果について、具体例として、電池平均温度Taが最適平均温度TaOよりも高い場合を挙げ、
図11、
図12を参照して説明する。尚、
図11、
図12においては、入出力制限の更新前の状態を破線で示し、入出力制限の更新後の状態を実線で示す。
【0189】
この具体例におけるステップS27では、劣化抑制システム1は、電池平均温度Taが最適平均温度TaOよりも高い為、二次電池22に定められている入出力制限の制限値を引き下げて、より入出力制限を厳しくする。具体的には、劣化抑制システム1は、現時点で二次電池22に定められている出力制限である更新前制限値Lcを更新して、更新前制限値Lcよりも低い値を示す更新後制限値Lrとする。
【0190】
ステップS28にて、更新前制限値Lcから更新後制限値Lrに変更して、より厳しい入出力制限を適用すると、劣化抑制システム1は、更新後制限値Lrに従った二次電池22の入出力制御を行う。これにより、
図11に示すように、二次電池22の出力は、更新後制限値Lrに従って制限され、入出力制限を更新する前のように、更新後制限値Lrを超える出力になることがなくなる。
【0191】
そして、更新後制限値Lrに変更した場合、二次電池22の出力頻度が低くなる為、
図12に示すように、二次電池22の電池温度Tは、最適平均温度TaOにより定められる基準値Tsよりも低くなる。基準値Tsは、電池平均温度Taが最適平均温度TaOに近づくように定められている為、劣化抑制システム1は、二次電池22の入出力制限に関して、更新後制限値Lrに更新することで、二次電池22の劣化を抑制することができる。
【0192】
以上説明したように、第2実施形態に係る劣化抑制システム1によれば、現時点の二次電池22の劣化量に加え、カレンダー劣化、サイクル劣化の構成といった劣化の詳細を制御内容に反映させることができる。これにより、劣化抑制システム1は、二次電池22の劣化の詳細な態様に応じて、将来的な二次電池22の劣化を適切に抑制できる。
【0193】
又、ステップS26では、ステップS6と同様に、二次電池22の将来的な劣化量を予測して将来的な劣化量が最小となるように、最適平均温度TaOが決定される。これにより、二次電池22の温度調整の将来的な期間に対する傾向に対して、劣化要因の構成と、将来的な劣化量の予測を反映させることができるので、より適切な二次電池22の入出力制限の更新を行うことができる。
【0194】
そして、ステップS27、ステップS28では、劣化抑制システム1は、ステップS26で算出された最適平均温度TaOに対して電池平均温度Taが近づくように、将来的な二次電池22の入出力制限の態様を更新する。従って、劣化抑制システム1は、入出力時における二次電池22の発熱量を適切に制御することにより、二次電池22の将来的な劣化を、より確実に抑制することができる。
【0195】
(第3実施形態)
続いて、上述した実施形態と異なる第3実施形態について、
図13、
図14を参照して説明する。第3実施形態では、劣化抑制処理の内容の一部が上述した実施形態と相違している。その他の劣化抑制システム1の基本的構成等については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
【0196】
第3実施形態に係る劣化抑制システム1は、
図13に示すフローチャートに従って、劣化抑制処理を実行する。第3実施形態に係る劣化抑制システム1では、二次電池22の入出力制限の制限態様として、二次電池22に対して定められている入出力範囲を最適化する。第3実施形態に係る劣化抑制処理のステップS31では、劣化抑制システム1は、上述した実施形態と同様に、電池負荷履歴を取得する。
【0197】
ステップS32では、ステップS31で取得した電池負荷履歴を用いて、電流レート頻度を算出する。具体的には、使用履歴情報としての電池負荷履歴に含まれる充放電電流値Iを用いて、電流レートとその頻度が算出される。
【0198】
ステップS33~ステップS35の処理内容は、上述した実施形態におけるステップS3~ステップS5と同様である。従って、ステップS33~ステップS35の処理内容に関する説明は省略する。
【0199】
ステップS36では、劣化抑制システム1は、二次電池22の将来的な劣化量が最も小さくなる最適入出力条件として、二次電池22の最適入出力範囲を決定する。第3実施形態において、二次電池22の最適入出力範囲は、車両Vを利用するユーザのストレス(例えば、加速の応答性)と、制限する二次電池22の入出力電流値の関係から、最適値となるように定められる。最適入出力範囲の決定に際して、劣化抑制システム1は、電池負荷履歴から算出された電流レート頻度、ステップS35で抽出されたカレンダー劣化量Za、サイクル劣化量Zbの構成比率等を用いて、将来的な二次電池22の劣化量が最小になるように調整する。
【0200】
ステップS38では、劣化抑制システム1は、ステップS27で更新された最適入力条件としての二次電池22の最適入出力範囲を適用する。これにより、最適入出力範囲内で二次電池22の入出力が行われることになる為、劣化抑制システム1は、現時点における二次電池22の劣化量及び劣化要因の構成を反映した態様で、二次電池22の将来的な劣化を適切に抑制できる。
【0201】
続いて、第3実施形態に係る劣化抑制システム1の効果について、
図14、
図15を参照して説明する。
【0202】
図14に示すように、二次電池22の入出力に関して、電流レートが大きい程、二次電池22に生じる劣化量が大きくなる傾向を示す。又、図示は省略するが、放電深度DODや平均SOCについても、その値が大きい程、二次電池22に発生する劣化量は大きくなる傾向を示す。
【0203】
第3実施形態においては、
図15に示すように、二次電池22の劣化量及び劣化要因の構成に応じて、劣化抑制システム1によって、二次電池22の入出力範囲が適切に調整される。これにより、劣化抑制システム1は、二次電池22の入出力範囲を最適入出力範囲に調整することで、将来的な二次電池22の劣化を適切に抑制することができる。
【0204】
第3実施形態に係る劣化抑制システム1によれば、二次電池22の劣化量及び劣化要因の構成に基づいて、最適入力条件としての最適入出力範囲が将来的な二次電池22が最小となるように定められる。劣化抑制システム1によれば、最適入出力範囲を適用することで、二次電池22の将来的な劣化を適切な態様で抑制することができる。
【0205】
又、最適入出力条件として定められた最適入出力範囲において、更新後における二次電池22の入力及び出力が行われる為、入力及び出力による二次電池22の劣化を適切に抑制することができる。
【0206】
尚、第3実施形態においては、電流レート頻度を用いて、最適入出力条件としての最適入出力範囲を定めていたが、この態様に限定されるものではない。上述したように、放電深度DODや平均SOCについても、大きな値を示すほど、二次電池22の劣化が大きく進行する傾向を示す為、放電深度DODや平均SOC等を用いて、最適入出力条件を定めても良い。
【0207】
(第4実施形態)
次に、上述した実施形態と異なる第4実施形態について、図面を参照して説明する。第4実施形態では、第3実施形態におけるステップS36~ステップS38の内容が上述した実施形態と相違している。その他の劣化抑制システム1の基本的構成等については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
【0208】
第4実施形態に係るステップS36では、二次電池22の将来的な劣化量が最も小さくなる最適入出力条件として、二次電池22に対する入力基準値及び出力基準値が定められる。入力上限値及び出力上限値は、入出力範囲の限界値よりも小さな値であり、限界値のようにそれ以上の入出力を制限する機能をもたない値であるが、二次電池22の入出力制限の制限態様の一例である。
【0209】
入力基準値及び出力基準値は、車両Vを利用するユーザのストレス(例えば、加速の応答性)と、制限する二次電池22の入出力電流値の関係から、最適値となるように定められる。入力基準値及び出力基準値の決定に際して、劣化抑制システム1は、電流レート頻度、ステップS35で抽出されたカレンダー劣化量Za、サイクル劣化量Zbの構成比率等を用いて、将来的な二次電池22の劣化量が最小になるように調整する。
【0210】
ステップS37では、劣化抑制システム1は、こうして決定された入力基準値及び出力基準値を、二次電池22に対する入力制御及び出力制御に対して設定する。そして、ステップS38においては、二次電池22の入力制御及び出力制御において、入力基準値、出力基準値を用いた運用を行う。
【0211】
例えば、供給電力Prが大きく、二次電池22に対する入力電力Piが入力基準値を超えている場合、劣化抑制システム1は、適切な電力消費を行い、供給電力Prの一部を消費することで、二次電池22に対する入力電力Piを入力基準値に対応させる。又、消費電力Pcが大きく、二次電池22の出力電力が出力基準値を超えている場合、劣化抑制システム1は、適切な電力供給を行い、消費電力Pcの一部を補うことで、二次電池22の出力電圧を出力基準値に適合させる。
【0212】
これにより、二次電池22に際して、入力基準値及び出力基準値を超える入出力が行われることがなくなる為、入出力に伴う二次電池22の劣化を抑制することができる。上述したように、入力基準値及び出力基準値は、現時点における二次電池22の劣化量及び劣化要因の構成に鑑みて定められている為、劣化抑制システム1は、二次電池22の将来的な劣化が最小となるように、適切な態様で劣化を抑制することができる。
【0213】
続いて、第4実施形態に係る劣化抑制システム1の効果について、
図16~
図18を参照して説明する。
図16に示すように、劣化抑制システム1には、二次電池22、インバータ23、モータジェネレータ24及び冷凍サイクル装置31が搭載されている。
【0214】
従って、車両Vにおいては、モータジェネレータ24及びインバータ23を介して、回生電力を二次電池22に供給して、回生電力を蓄電しておくことが可能である。又、車両Vでは、車室内の空調を行う際に、二次電池22の電力を消費して、冷凍サイクル装置31を作動させる。
【0215】
これらの構成を前提として、第4実施形態の劣化抑制システム1の効果を、具体例を挙げて説明する。具体例としては、モータジェネレータ24及びインバータ23を介した回生電力が、供給電力Prとして二次電池22に対して入力される場合について説明する。尚、
図17は、入力基準値が設定されていない場合の状態を示しており、実際に二次電池22に入力された入力電力をPiとして示している。
【0216】
図17に示す場合、入力基準値が定められていない為、モータジェネレータ24等を介した回生電力である供給電力Prは、入力電力Piとして、二次電池22に対して全て入力される。
【0217】
次に、第4実施形態に係る劣化抑制システム1にて、入力基準値が設けられ、モータジェネレータ24等を介した回生電力が入力基準値を超えている場合について、
図18を参照して説明する。
【0218】
この場合、回生電力を供給電力Prとして二次電池22に入力すると、二次電池22の劣化が想定以上に劣化してしまい、十分に劣化を抑制することができなくなる。この為、劣化抑制システム1は、入力電力Piが入力基準値を超えないように、供給電力Prと消費電力Pcのバランスを調整する。
【0219】
具体的には、劣化抑制システム1は、車室内空調の為に冷凍サイクル装置31を作動させて、供給電力Prの一部を消費させることによって、二次電池22に対する入力電力Piが入力基準値を超えないように調整する。このように構成することで、入力基準値及び出力基準値に従った二次電池22の入出力制御を行うことができ、二次電池22の将来的な劣化を、適切に抑制することができる。
【0220】
第4実施形態に係る劣化抑制システム1によれば、二次電池22の劣化量及び劣化要因の構成に基づいて、最適入力条件としての入力基準値及び出力基準値が将来的な二次電池22が最小となるように定められる。劣化抑制システム1によれば、入力基準値及び出力基準値を適用することで、二次電池22の将来的な劣化を適切な態様で抑制することができる。
【0221】
又、最適入出力条件として定められた入力基準値及び出力基準値に従って、更新後における二次電池22の入力及び出力が行われる為、入力及び出力による二次電池22の劣化を適切に抑制することができる。
【0222】
尚、第4実施形態においては、消費電力Pcとして、冷凍サイクル装置31の運転による消費電力を挙げ、供給電力Prとして、モータジェネレータ24及びインバータ23を介した回生電力を挙げているが、この態様に限定されるものではない。消費電力Pcにおける電力消費の対象として、種々の装置を適用することができる。又、供給電力Prとして、車両V外の電源装置からの電力供給を適用しても良い。
【0223】
(第5実施形態)
続いて、上述した実施形態と異なる第5実施形態について、
図19、
図20を参照して説明する。第5実施形態では、劣化抑制処理の内容が上述した実施形態と相違している。その他の劣化抑制システム1の基本的構成等については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
【0224】
二次電池22は熱マスが大きい為、冷凍サイクル装置31による温調制御を開始した場合であっても、即座に電池温度Tの変化が生じるものではない。又、二次電池22の劣化の進行に関しても、短期間の間、負荷が超過したとしても、致命的なダメージになることはない。
【0225】
二次電池22の電力を使用する装置や設備においては、動作要求に対する即応性が高いものも存在する。例えば、冷凍サイクル装置31による車室内空調の場合、ユーザの要求に対して即座に応答しないと、車室内の快適性が大きく低下して、ユーザの不満を高めてしまう。
【0226】
第5実施形態に係る劣化抑制システム1は、二次電池22における劣化の進行に関する特性と、装置等の動作に関する必要性とのバランスを取り、装置等の動作を優先した場合に、劣化要因等を考慮した事後処理を行うように構成されている。以下、第5実施形態に係る劣化抑制システム1の劣化抑制処理について、
図19、
図20を参照して説明する。
【0227】
図19に示すように、ステップS41では、劣化抑制システム1は、二次電池22に対する電池負荷を予測する。電池負荷は、車両Vに搭載されている各種装置の稼働状況等に基づいて予測される。続くステップS42においては、劣化抑制システム1は、ステップS41で予測した電池負荷を用いて、二次電池22の電池温度T、SOCを予測する。
【0228】
ステップS43に移行すると、劣化抑制システム1は、電池負荷に係る二次電池22の入出力が入出力制限を超過しているか否かが判断される。具体的には、二次電池22に対する入力が入力制限を超過しているか否かと、二次電池22からの出力が出力制限を超過しているか否かが判定される。
【0229】
入出力制限を超過していない場合、劣化抑制システム1は、ステップS41で予測した電池負荷の実行に支障がない為、電池負荷に係る入出力を許容して、劣化抑制処理を終了する。一方、入出力制限を超過している場合は、ステップS44に処理を移行する。
【0230】
ステップS44においては、劣化抑制システム1は、入出力制限を超過した電池負荷を用いて、超過劣化量を算出する。超過劣化量は、入出力制限を超過した負荷に起因して二次電池22に生じる劣化量を意味する。超過劣化量の算出に際し、入出力制限を超過した負荷を用いた関数によって特定しても良いし、上述した実施形態で説明した理論を用いて特定しても良い。ステップS44を実行する車両ECU10は、超過劣化量特定部に相当する。
【0231】
ステップS45では、劣化抑制システム1は、ステップS44で算出した超過劣化量が予め定められた閾値より小さいか否かを判定する。ここで、閾値は、後述する事後処理を実行することで、超過劣化量に対応する二次電池22の劣化を補うことができる劣化量を示しており、超過負荷の実行に関する許容範囲を意味している。
【0232】
超過劣化量が閾値より小さい場合、劣化抑制システム1はステップS47に移行する。一方、超過劣化量が閾値よりも小さくない場合、劣化抑制システム1は、ステップS46に移行する。ステップS45を実行する車両ECU10は、許容判定部に相当する。
【0233】
ステップS46では、劣化抑制システム1は、超過負荷を実行してしまうと、二次電池22の劣化が大きく進行してしまう為、超過負荷の実行(例えば、冷凍サイクル装置31による空調運転)を中止する。超過負荷の実行を中止した後、劣化抑制システム1は、そのまま劣化抑制処理を終了する。
【0234】
ステップS47においては、劣化抑制システム1は、超過負荷の実行を許容することに伴って、二次電池22に定められている入出力制限を一時的に解除する。入出力制限の一時解除により、劣化抑制システム1は、二次電池22対する超過負荷に係る入出力を可能にする。ステップS47を実行する車両ECU10は、制限開放部に相当する。又、入出力制限の一時解除に伴って、劣化抑制システム1は、超過負荷の実行による劣化を補う為の事後処理の実行を示す事後温調フラグをオンに設定する。
【0235】
ステップS48では、劣化抑制システム1は、電池負荷に係る入出力が入出力制限を超過している制限超過状態が解消されているか否かを判断する。換言すると、劣化抑制システム1は、超過負荷の実行が終了しているか否かを判断しているということができる。
【0236】
制限超過状態が解消されている場合、劣化抑制システム1は、入出力制限を有効化し、ステップS45以前の状態に回復させた後に、ステップS49に処理を移行する。一方、制限超過状態が解消されていない場合、劣化抑制システム1は、ステップS47に処理を戻して、入出力制限が一時解除されている状態を維持する。
【0237】
ステップS49では、劣化抑制システム1は、事後温調フラグがオンであるか否かを判断する。事後温調フラグがオンである場合、劣化抑制システム1は、ステップS50に処理を進め、事後処理を行う。一方、事後温調フラグがオンでない場合、劣化抑制システム1は、そのまま劣化抑制処理を終了する。
【0238】
ステップS50に移行すると、劣化抑制システム1は、超過負荷に対応する入出力による二次電池22の劣化を補う為に、事後処理を実行する。具体的には、事後処理は、
図20に示すフローチャートに従って実行される。
【0239】
図20に示すように、事後処理を構成するステップS51~ステップS57は、上述した第1実施形態におけるステップS1~ステップS7と同様である。即ち、超過負荷の実行を終了した時点の二次電池22の状態を基準として、第1実施形態と同様の処理が行われる。従って、ステップS51~ステップS57の処理内容について、詳細な説明を省略する。
【0240】
そして、事後処理では、超過負荷の実行を終了した時点の二次電池22の劣化量及び劣化要因の構成に従って、将来的な二次電池22の劣化量が最も小さくなる最適条件としての最適平均温度TaOが特定される。劣化抑制システム1は、最適平均温度TaOを特定する際に、ステップS44で算出した超過劣化量の大きさに応じて、最適平均温度TaOを補正する。最適平均温度TaOの補正量は、例えば、超過劣化量が大きい程、大きくなるように決定される。
【0241】
ステップS58では、劣化抑制システム1は、事後温調制御として、ステップS57で更新された温調制御態様に従って、電池平均温度Taが最適平均温度TaOに近づくように、冷凍サイクル装置31による温調運転を実行する。
【0242】
これにより、劣化抑制システム1は、超過負荷の実行を含めた二次電池22の劣化量及び劣化要因の構成を反映させた事後温調により、将来的な二次電池22の劣化を抑制することができ、超過負荷の実行に伴う劣化を補うことができる。
【0243】
又、第5実施形態に係る劣化抑制システム1によれば、二次電池22に定められた入出力制限を超える場合であっても、事後処理の実行を条件として、超過負荷の実行を許容することができる。これにより、ユーザの要望に対する即応性が要求される負荷の実行に対応することと、二次電池22の劣化の抑制することを適切なバランスをもって両立させることができる。
【0244】
第5実施形態に係る劣化抑制システム1によれば、ステップS45にて超過劣化量が閾値よりも小さい場合には、ステップS47にて二次電池22の入出力制限を一時的に開放する為、二次電池22の入出力制限を超過する超過負荷の実行を許容することができる。これにより、劣化抑制システム1は、ユーザの要望に対する即応性が要求される負荷にも対応することが可能となる。
【0245】
又、入出力制限を一時的に開放した場合、劣化抑制システム1は、ステップS50にて事後処理を行う。事後処理では、劣化抑制システム1は、超過負荷の実行終了時における二次電池22の劣化量及び劣化要因の構成を用いて定められた最適平均温度TaOに、電池平均温度Taが近づくように、冷凍サイクル装置31を用いた温度調整を実行する。
【0246】
これにより、劣化抑制システム1は、事後処理における事後温調制御によって、超過負荷の実行に起因する劣化を補うことができ、即応性が要求される負荷の実行に対応することと、二次電池22の劣化の抑制することを両立させることができる。
【0247】
図20に示す事後処理において、最適平均温度TaOを特定する際には、劣化抑制システム1は、ステップS44で算出した超過劣化量の大きさに応じて、最適平均温度TaOを補正する。最適平均温度TaOの補正量は、例えば、超過劣化量が大きい程、大きくなるように決定される。
【0248】
これにより、ステップS58で行われる事後温調制御の態様が、超過劣化量の大きさを反映した態様になる為、劣化抑制システム1は、事後温調制御にて、超過負荷に起因する二次電池22の劣化を適切に補うことができる。
【0249】
又、ステップS58で実行される事後温調制御において、電池平均温度Taが最適平均温度TaOに近づくように、冷凍サイクル装置31を用いた温調制御が行われる。最適平均温度は、超過負荷の実行終了後における二次電池22の劣化量及び劣化要因の構成を用いて、将来的な二次電池22の劣化量が小さくなるように定められる。
【0250】
これにより、劣化抑制システム1は、超過負荷の実行終了後の二次電池22の状態を反映した事後温調制御によって、超過負荷に起因する二次電池22の劣化を適切な態様で補い、将来的な二次電池22の劣化を抑制することができる。
【0251】
(第5実施形態の変形例)
上述した第5実施形態においては、事後処理として、超過負荷の実行終了時の二次電池22の状態を基準として、第1実施形態におけるステップS1~ステップS8に相当する内容を行っている。
【0252】
ここで、第5実施形態における事後処理の内容は、超過負荷の実行終了時の二次電池22の状態(即ち、劣化量及び劣化要因の構成)を鑑みて、将来的な二次電池22の劣化を抑制する処理内容であれば、上述した第2実施形態等の内容を適用することができる。
【0253】
例えば、ステップS50における事後処理として、第2実施形態における劣化抑制処理を実行する。この場合、超過負荷の実行終了時における二次電池22の状態を基準として、
図10に示すステップS21~ステップS27に相当する内容の処理が実行される。
【0254】
これにより、第5実施形態の変形例においても、劣化抑制システム1は、上述した第5実施形態と同様の効果を発揮することができる。
【0255】
(第6実施形態)
次に、上述した実施形態と異なる第6実施形態について、
図21を参照して説明する。第6実施形態では、劣化抑制システム1の構成が上述した実施形態と相違している。その他の劣化抑制システム1の基本的構成等については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
【0256】
図21に示すように、第6実施形態に係る劣化抑制システム1は、使用装置としての車両V側と、サーバ40側とを、ネットワーク網Nを介して双方向通信可能に接続して構成されている。第6実施形態に係る劣化抑制システム1では、ネットワーク網Nを介して通信可能に接続された複数台の車両Vに関して、それぞれに搭載された二次電池22の劣化を抑制する為の劣化抑制処理が行われる。第6実施形態において、車両V側の構成は上述した実施形態と同様である。従って、車両V側の構成に関する説明は省略する。
【0257】
サーバ40は、制御部41、データベース42、通信部43等をバス44で接続して構成されている。制御部41は、CPU、ROM、RAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路によって構成されている。
【0258】
制御部41のCPUで、ROMに格納された制御プログラムが実行されることで、第6実施形態に係る劣化抑制システム1の機能部が実現される。即ち、第6実施形態に係る劣化抑制システム1では、サーバ40の制御部41により、使用履歴取得部50a、劣化量推定部50b、劣化要因特定部50c、抑制制御部50d、劣化予測部50eが実現されている。
【0259】
データベース42は、各車両Vに搭載された二次電池22の電池負荷履歴、劣化量、カレンダー劣化量Za、サイクル劣化量Zbの情報により構築されたデータベースである。通信部43は、ネットワーク網Nを介して、各車両Vとの間でデータの双方向通信を可能としている。
【0260】
第6実施形態に係る劣化抑制システム1の動作の一例について説明する。先ず、車両Vの車両ECU10から、車両Vに搭載された二次電池22に関する電池負荷履歴と共に、劣化抑制処理を要求する信号が、ネットワーク網Nを介して、サーバ40に出力される。
【0261】
サーバ40の制御部41は、ネットワーク網Nを介して、劣化抑制処理を要求する信号と共に、電池負荷履歴を受信する。この時の制御部41は使用履歴取得部50aに相当する。
【0262】
次に、制御部41は、受信した電池負荷履歴等を用いて、車両Vの二次電池22に生じている劣化量を推定する。劣化量の推定に関しては、上述した実施形態と同様の理論に基づいて行われる。この時の制御部41は劣化量推定部50bに相当する。
【0263】
続いて、制御部41は、車両Vの二次電池22における劣化量を推定すると、電池負荷履歴を用いて、劣化に関する複数の劣化要因(即ち、カレンダー劣化、サイクル劣化)を特定する。劣化要因の特定についても、上述した実施形態と同様の理論に基づいて行われる。この時の制御部41は劣化要因特定部50cに相当する。
【0264】
そして、制御部41は、電池負荷履歴から特定される二次電池22の劣化特性に従って、二次電池22の将来的は劣化量を予測して、将来的な劣化量が小さくなるように最適平均温度TaO等を定める。この時の制御部41は劣化予測部50eに相当する。
【0265】
次に、制御部41は、電池平均温度Taが最適平均温度TaOに近づくように、冷凍サイクル装置31の温調制御態様を定める。制御部41は、決定した冷凍サイクル装置31の温調制御態様を、ネットワーク網Nを介して、車両Vへ送信する。この時の制御部41は抑制制御部50dの一部に相当する。
【0266】
サーバ40から温調制御態様を受信すると、車両ECU10は、受信した温調制御態様を適用して、冷凍サイクル装置31による二次電池22の温調制御を行う。これにより、第6実施形態に係る劣化抑制システム1においても、車両Vにおける二次電池22の劣化量及び劣化要因の構成に基づく温調制御が行われる為、将来的な二次電池22の劣化を適切に抑制することができる。
【0267】
第6実施形態に係る劣化抑制システム1では、複数の車両Vにおける二次電池22の劣化量や劣化要因の構成等がサーバ40に送信される為、これらの情報をデータベース42に集積し、情報解析を行うことで、より適切な劣化抑制制御の態様を特定できる。例えば、サーバ40の制御部41で最適平均温度TaOを特定する際に、データベース42に集積された各種情報を参照しても良い。
【0268】
第6実施形態に係る劣化抑制システム1によれば、使用装置としての車両Vと、サーバ40とを、ネットワーク網Nで双方向通信可能に接続して構成した場合でも、上述した実施形態と同様の効果を発揮させることができる。
【0269】
尚、第6実施形態においては、使用履歴取得部50a、劣化量推定部50b、劣化要因特定部50c、抑制制御部50d、劣化予測部50eを、サーバ40の制御部41の機能部としていたが、この態様に限定されるものではない。これらの機能部の一部を、車両V側の車両ECU10で実現し、残りをサーバ40の制御部41で実現する構成にすることも可能である。
【0270】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。また、上記各実施形態に開示された手段は、実施可能な範囲で適宜組み合わせてもよい。
【0271】
(a)上述した実施形態の電池平均温度Ta及び最適平均温度TaOにおける予め定められた期間とは、例えば、年単位や季節単位(即ち、数か月単位)であることが望ましいが、この態様に限定されるものではない。劣化量や劣化要因の特定に必要が情報量を確保することができれば、期間の長さは適宜変更することができる。
【0272】
(b)又、上述した実施形態では、温度調整部として、冷凍サイクル装置31を挙げていたが、この態様に限定されるものではない。温度調整部は、二次電池22の電池温度Tを調整することができれば、他の種々の装置を適用することができる。
【0273】
(c)そして、上述した実施形態においては、例えば、劣化抑制処理にて特定された温調制御態様を、そのまま適用していたが、この態様に限定されるものではない。温調制御態様を適用するか否かをユーザに選択させ、ユーザの了承を得たうえで、特定された温調制御態様を適用するように構成することも可能である。
【符号の説明】
【0274】
1 劣化抑制システム
10 車両ECU
22 二次電池
50a 使用履歴取得部
50b 劣化量推定部
50c 劣化要因特定部
50d 抑制制御部