(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】エンジン
(51)【国際特許分類】
F02B 37/02 20060101AFI20240814BHJP
F02B 39/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
F02B37/02 H
F02B39/00 E
(21)【出願番号】P 2021036158
(22)【出願日】2021-03-08
【審査請求日】2023-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】山口 直宏
(72)【発明者】
【氏名】早田 光則
(72)【発明者】
【氏名】今村 悟志
(72)【発明者】
【氏名】小谷 敏正
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-203428(JP,A)
【文献】特開昭63-309724(JP,A)
【文献】特開昭63-314320(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 37/00
F02B 39/00
F02D 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の気筒に、それぞれ吸気ポート、排気ポート、吸気弁および排気弁が設けられたエンジン本体と、前記エンジン本体に接続された吸気通路および排気通路と、前記排気通路に設けられたタービンと前記吸気通路に設けられたコンプレッサを含むターボ過給機とを備えたエンジンであって、
前記各気筒の幾何学的圧縮比は11以上に設定されており、
前記吸気弁の開弁期間は270度クランク角以上に設定されており、
前記排気通路は、1または排気行程が連続しない2以上の前記気筒の排気ポートとそれぞれ連通し且つ前記エンジン本体と前記タービンとをそれぞれ接続する複数の独立排気通路を有する、ことを特徴とするエンジン。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンにおいて、
前記タービンは、排気のエネルギーを受けて回転する複数の翼を備えたタービン本体と、当該タービン本体を収容するタービンハウジングとを備え、
前記タービンハウジングの内側空間は、その上流端から前記タービン本体までの部分において、前記タービン本体の回転軸方向に並び且つ前記タービン本体の外周に沿って形成された複数の吸入通路に区画されており、
複数の前記独立排気通路は、それぞれ異なる前記吸入通路に接続されている、ことを特徴とするエンジン。
【請求項3】
請求項1または2に記載のエンジンにおいて、
前記エンジン本体には、排気行程が連続しない2以上の前記気筒の排気ポートとそれぞれ連通する複数のヘッド内排気通路が形成されており、
複数の前記独立排気通路は、それぞれ異なる前記ヘッド内排気通路に接続されている、ことを特徴とするエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の気筒に、それぞれ吸気ポート、排気ポート、吸気弁および排気弁が設けられたエンジン本体と、エンジン本体に接続された吸気通路および排気通路と、排気通路に設けられたタービンと吸気通路に設けられたコンプレッサを含むターボ過給機とを備えたエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に搭載されたエンジンにおいて、出力性能向上のために、ターボ過給機を設けて吸気を過給することが行われている。また、気筒の幾何学的圧縮比を高めることでエンジンの熱効率を高くし、これによりエンジンの燃費性能を向上させることも知られている。例えば、特許文献1には、気筒の幾何学的圧縮比を14以上にしたエンジンが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
気筒の幾何学的圧縮比が比較的高いエンジンにターボ過給機を設けるという構成を採用すれば、出力を増大させつつ、燃費性能を高めることができると考えられる。しかし、単純にこの構成を採用した場合、想定した時期よりも早いタイミングで混合気が燃焼するプリイグニッション(過早着火)が生じるおそれがある。
【0005】
具体的に、エンジン負荷が高く気筒内の温度が高い場合等において、ターボ過給機により過給されて高温・高圧となった吸気が気筒内で過度に圧縮されると、気筒内の温度が局所的に高くなり混合気が早期に自己着火するおそれがある。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、燃費性能を高めつつプリイグニッションの発生を抑制できるエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明のエンジンは、複数の気筒に、それぞれ吸気ポート、排気ポート、吸気弁および排気弁が設けられたエンジン本体と、前記エンジン本体に接続された吸気通路および排気通路と、前記排気通路に設けられたタービンと前記吸気通路に設けられたコンプレッサを含むターボ過給機とを備えたエンジンであって、前記各気筒の幾何学的圧縮比は11以上に設定されており、前記吸気弁の開弁期間は270度クランク角以上に設定されており、前記排気通路は、1または排気行程が連続しない2以上の前記気筒の排気ポートとそれぞれ連通し且つ前記エンジン本体と前記タービンとをそれぞれ接続する複数の独立排気通路を有する、ことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、各気筒の幾何学的圧縮比が11以上と高い値とされ且つエンジンにターボ過給機が設けられていることで、エンジンの出力を増大させつつ燃費性能を高めることができる。しかも、吸気弁の開弁期間が270度クランク角以上と長い期間に設定されているとともに、排気通路のうちエンジン本体とタービンとを接続する部分が、1または排気行程が連続しない2以上の気筒の排気ポートとそれぞれ連通する複数の独立排気通路により構成されていることでプリイグニッションの発生を抑制できる。
【0009】
具体的に、吸気弁の開弁期間が270度クランク角以上とされていることで、吸気弁の閉弁時期を十分に遅くしつつ、吸気弁の開弁開始時期を排気上死点付近に維持できる。吸気弁の閉弁時期を遅くすれば、気筒の有効圧縮比を下げて気筒内で混合気が過度に圧縮されるのを防止できる。また、吸気弁の開弁開始時期が排気上死点付近に維持すれば、排気弁と吸気弁とがともに所定期間開弁するオーバーラップを実現して気筒の掃気性を高めることが可能になる。気筒の掃気性が高くなれば、気筒内に残留する高温の既燃ガス量を低減して気筒内の温度を低く抑えることができる。さらに、エンジン本体とタービンとを接続する部分が上記のように構成されていることで、独立排気通路間、つまり、排気行程が連続する気筒間での排気干渉を抑制できる。これより、気筒内に残留する既燃ガス量をより確実に低減して気筒内の温度を確実に低くできる。このように、本発明では、気筒内での混合気の過度な圧縮を防止でき、且つ、気筒内の温度を確実に低く抑えることが可能となる。従って、気筒の幾何学的圧縮比を11以上とし且つターボ過給機を設けて燃費性能を高めつつ、プリイグニッションの発生を抑制できる。
【0010】
上記構成において、好ましくは、前記タービンは、排気のエネルギーを受けて回転する複数の翼を備えたタービン本体と、当該タービン本体を収容するタービンハウジングとを備え、前記タービンハウジングの内側空間は、その上流端から前記タービン本体までの部分において、前記タービン本体の回転軸方向に並び且つ前記タービン本体の外周に沿って形成された複数の吸入通路に区画されており、複数の前記独立排気通路は、それぞれ異なる前記吸入通路に接続されている(請求項2)。
【0011】
この構成ではタービンハウジングに形成された異なる吸入通路に各独立排気通路がそれぞれ個別に接続されており、排気行程が連続する気筒から排出された排気ガスをタービン本体まで独立して流通させることができる。従って、気筒間での排気干渉の発生を抑制でき、プリイグニッションの発生をより確実に抑制できる。
【0012】
上記構成において、好ましくは、前記エンジン本体には、排気行程が連続しない2以上の前記気筒の排気ポートとそれぞれ連通する複数のヘッド内排気通路が形成されており、各前記独立排気通路は各前記ヘッド内排気通路にそれぞれ接続されている(請求項3)。
【0013】
この構成によれば、気筒2からタービンまでの排気ガスの流路を短くできる。従って、タービンに高い排気エネルギーを付与して効率よくタービンを駆動し、これにより、燃費性能をより一層高めることが可能になるとともに、エンジンをコンパクトにすることが可能になる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のエンジンによれば、燃費性能を高めつつプリイグニッションの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係るエンジンを示す概略構成図である。
【
図3】エンジンの制御系統を示すブロック図である。
【
図7】吸気弁と排気弁のバルブリフトを模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の一形態について詳述する。
【0017】
(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の一実施形態にかかるエンジンEの概略構成図である。なお、
図1は、エンジンEの構成を説明するための模式図であり、各通路の長さや各装置の配置は実際のものとは異なっている。
図2は、後述するシリンダヘッド3の概略断面図である。エンジンEは、4ストロークのエンジン本体1と、エンジン本体1に導入される空気(吸気)が流通する吸気通路50と、エンジン本体1から導出される排気ガスが流通する排気通路60とを備えている。エンジンEは、エンジン本体1に複数の気筒2が形成された多気筒エンジンである。本実施形態では、エンジン本体1は、
図2に示すように、一列に並ぶ6つの気筒2を有する直列6気筒エンジンである。エンジンEは、例えば車両の駆動源等として車両に搭載される。
【0018】
エンジンEは、ターボ過給機59を有する過給機付きエンジンである。ターボ過給機59は、排気通路60に設けられたタービン61と、吸気通路50に設けられたタービン61とを有する。タービン61は排気ガスにより回転駆動されてコンプレッサ52を回転駆動する。コンプレッサ52は回転駆動されると、吸気通路50内の吸気を過給する。なお、上記のように、
図1は模式図であり、ターボ過給機59は、エンジン本体1の一側面に近接する位置に配設されている。
【0019】
エンジン本体1は、気筒2が内部に形成されたシリンダブロック13と、シリンダブロック13を覆うシリンダヘッド3と、気筒2に往復摺動可能に挿入されたピストン4とを有する。ピストン4はコネクティングロッドを介してクランク軸15と連結されており、ピストン4の往復運動に応じて、クランク軸15はその中心軸回りに回転する。ピストン4の上方には燃焼室5が形成されている。
【0020】
気筒2の幾何学的圧縮比ε、つまり、ピストン4が下死点(シリンダヘッド3から最も離間した位置)にあるときの燃焼室5の容積V1に対する、ピストン4が上死点(ピストン4がシリンダヘッド3に最近接する位置)にあるときの燃焼室5の容積V0の割合(ε=V0/V1)は、11以上に設定されている。本実施形態では、気筒2の幾何学的圧縮比εは12に設定されている。
【0021】
シリンダブロック13には、燃焼室5内に燃料を噴射するためのインジェクタ11が取り付けられている。シリンダヘッド3には、燃焼室5内の混合気(燃料と空気との混合気)に対して火花放電による点火を行う点火プラグ10が取り付けられている。シリンダヘッド3には、各気筒2の燃焼室5に空気を導入するための吸気ポート6と、吸気ポート6を開閉する吸気弁8と、各気筒2の燃焼室5で生成された排気ガスを導出するための排気ポート7と、排気ポート7を開閉する排気弁9とが設けられている。
【0022】
吸気弁8を駆動する動弁機構18には、吸気弁8の開閉時期を変更可能な吸気S-VT18aが内蔵されている。同様に、排気弁9用の動弁機構19には、排気弁9の開閉時期を変更可能な排気S-VT19aが内蔵されている。吸気S-VT18a(排気S-VT19a)は、いわゆる位相式の可変機構であり、吸気弁8(排気弁9)の開弁開始時期IVO(EVO)および閉弁時期IVC(EVC)を同時にかつ同量だけ変更する。つまり、吸気弁8(排気弁9)の開弁開始時期IVO(EVO)および閉弁時期IVC(EVC)は、開弁期間が一定に維持された状態で変更される。本実施形態では、吸気弁8の開弁期間は270°CA(クランク角度)に維持され、排気弁9の開弁期間は250°CAに維持される。
【0023】
吸気通路50には、上流側から順にエアクリーナ51、コンプレッサ52、インタークーラ53、スロットルバルブ54、サージタンク55が設けられており、燃焼室5には、コンプレッサ52で圧縮された後、インタークーラ53で冷やされた空気が導入される。スロットルバルブ54は、吸気通路50を開閉可能なバルブであり、スロットルバルブ54の開度に応じて吸気通路50を流通する吸気の量が調整され得るようになっている。
【0024】
排気通路60には、上流側から順に、タービン61、三元触媒等の触媒が内蔵された触媒コンバータ63が設けられている。タービン61および各気筒2からタービン61までの排気ガスの流通路の詳細構造については後述する。
【0025】
排気通路60には、タービン61をバイパスするためのバイパス通路65が設けられている。バイパス通路65の下流端は、下流側排気通路68のタービン61と触媒コンバータ63との間の部分に接続されている。バイパス通路65の上流端は2つの通路に分岐しており、各分岐通路は、後述する2つの独立排気通路64a、64bにそれぞれ接続されている。バイパス通路65には、これを開閉するウエストゲートバルブ66が設けられている。
図1の例では、各分岐通路が1つのウエストゲートバルブ66によって同時に開閉されるようになっている。
【0026】
エンジンEには、排気ガスの一部を吸気に還流させるEGR装置70が設けられている。EGR装置70は、排気ガスが内側を流通するEGR通路71と、EGR通路71を流通するEGRガスを冷却するEGRクーラ72と、EGR通路71を開閉するEGRバルブ73とを有する。本実施形態では、
図2に示すように、EGR通路71の上流端部を構成するヘッド内EGR通路71aがシリンダヘッド3に形成されている。そして、このヘッド内EGR通路71aと、シリンダヘッド3内に形成された後述する第2ヘッド内排気通路17bであって内側を排気ガスが流通する通路とが連通しており、第2ヘッド内排気通路17bを流通する排気ガスの一部がEGRガスとして吸気通路50に還流するようになっている。
【0027】
エンジンEには、各種センサが設けられている。具体的に、シリンダブロック13には、クランク軸15の回転角度つまりエンジン回転数を検出するためのクランク角センサSN1が設けられている。また、吸気通路50のエアクリーナ51とコンプレッサ52の間の部分には、この部分を通過して各気筒2に導入される吸気の流量を検出するためのエアフローセンサSN2が設けられている。また、吸気通路50のインタークーラ53とスロットルバルブ54の間の部分であってコンプレッサ52よりも下流側の部分には、この部分を通過する吸気の圧力つまり過給圧を検出するための過給圧センサSN3が設けられている。
【0028】
以上のように構成されたエンジンEの各アクチュエータはPCM100により制御される。
図3は、エンジンEの制御系統を示すブロック図である。本図に示されるPCM100は、エンジン等を統括的に制御するためのマイクロプロセッサであり、周知のCPU、ROM、RAM等から構成されている。
【0029】
PCM100には、各種センサによる検出信号が入力される。例えば、PCM100は、上記のクランク角センサSN1、エアフローセンサSN2、過給圧センサSN3と電気的に接続されており、これらのセンサによって検出された情報がPCM100に逐次入力される。また、エンジンEが搭載される車両には、当該車両を運転するドライバーにより操作されるアクセルペダルの開度を検出するアクセル開度センサSN4が設けられており、アクセル開度センサSN4によって検出された情報もPCM100に逐次入力される。
【0030】
PCM100は、上記各センサからの入力情報に基づいて種々の判定や演算等を実行しつつエンジンEの各部を制御する。具体的に、PCM100は、点火プラグ10、インジェクタ11、スロットルバルブ54、後述するウエストゲートバルブ66、吸気S-VT18a、排気S-VT19a、およびEGRバルブ73等と電気的に接続されており、上記演算等の結果に基づいてこれらの機器にそれぞれ制御用の信号を出力する。
【0031】
PCM100は、運転条件毎に設定された点火時期で混合気に点火が行われるように点火プラグ10を制御し、運転条件毎に設定された燃料が気筒2内に噴射されるようにインジェクタ11を制御し、運転条件毎に設定された量の吸気が気筒2に導入されるようにスロットルバルブ54を制御する。また、PCM100は、過給圧が運転条件毎に設定された値になるようにウエストゲートバルブ66の開度を制御し、気筒2内のEGR率が運転条件毎に設定された値になるようにEGRバルブ73を制御する。また、PCM100は、吸気弁8および排気弁9がそれぞれ運転条件毎に設定された時期で開閉するように、吸気S-VT18aおよび排気S-VT19aを制御する。
【0032】
図6は、横軸をエンジン回転数、縦軸をエンジン負荷とするエンジンの運転領域を示したマップである。
図7は、
図6に示す領域A1であってエンジン回転数が所定の基準回転数N1以下かつエンジン負荷が所定の基準負荷T1以上の低速高負荷領域A1における吸気弁8と排気弁9のバルブリフトを模式的に示した図である。基準回転数N1は、1500rpm程度に設定されており、基準負荷T1は、エンジン負荷の最大値近傍つまり全負荷近傍に設定されている。
【0033】
図7に示すように、低速高負荷領域A1において、PCM100は、吸気弁8と排気弁9とが排気上死点(TDC)を挟んで所定の期間ともに開弁するバルブオーバーラップが実現されるように、吸気S-VT18a、排気S-VT19aを制御する。つまり、PCM100は、吸気弁8の開弁開始時期IVOが排気上死点(TDC)よりも進角側の時期になるように吸気S-VT18aを制御し、排気弁9の閉弁時期EVCが排気上死点(TDC)よりも遅角側の時期になるように排気S-VT19aを制御する。例えば、低速高負荷領域A1における吸気弁8の開弁開始時期IVOはBTDC25°CA(排気上死点前25度クランク角)程度とされ、排気弁9の閉弁時期EVCはATDC27°CA(排気上死点後25度クランク角)に設定される。そして、これにより、吸気弁8と排気弁9とがともに開弁する期間であるオーバーラップ期間は50°CA程度とされる。
【0034】
(タービン61および排気ガスの流通路)
次に、タービン61および各気筒2からタービン61までの排気ガスの流通路の構造について説明する。
図4は、タービン61の回転中心線と直交する面でのタービン61の概略断面図である。
図5は、
図4のV-V線における概略断面図である。
【0035】
図1に示すように、本実施形態では、排気通路60の上流側部分が2つの通路に分岐しており、排気通路60は、その上流側部分を構成する第1独立排気通路64aと第2独立排気通路64bとを有する。各独立排気通路64aには、それぞれ、排気行程が互いに連続しない気筒2から導出された排気ガスが導入される。本実施形態では、シリンダヘッド3内で排気行程が互いに連続しない気筒2の排気ポート7が集合しており、各集合部にそれぞれ各独立排気通路64a、64bが接続されている。
【0036】
具体的に、シリンダヘッド3には、気筒2の配列方向に沿ってそれぞれ延びる第1ヘッド内排気通路17aと第2ヘッド内排気通路17bとが形成されている。6つの気筒2をその配列方向の一方側から順に第1気筒2a、第2気筒2b、第3気筒2c、第4気筒2d、第5気筒2e、第6気筒2fとする。第1ヘッド内排気通路17aは、気筒2の配列方向の一方側に位置する3つの気筒2、つまり、第1気筒2a、第2気筒2bおよび第3気筒2cの各排気ポート7と連通しており、これら気筒2a、2b、2cの排気ポート7は第1ヘッド内排気通路17aで集合している。一方、第2ヘッド内排気通路17bは、気筒2の配列方向の他方側に位置する3つの気筒2、つまり、第4気筒2d、第5気筒2eおよび第6気筒2fの各排気ポート7と連通しており、これら気筒2d、2e、2fの排気ポート7は第2ヘッド内排気通路17bで集合している。第1ヘッド内排気通路17aおよび第2ヘッド内排気通路17bはそれぞれ個別にエンジン本体1の一側面に開口している。そして、第1ヘッド内排気通路17aは、第1ヘッド内排気通路17aの開口部分に接続されてこれと連通しており、第2ヘッド内排気通路17bは、第2ヘッド内排気通路17bの開口部分に接続されてこれと連通している。
【0037】
6つの気筒2の点火の順序つまり気筒2内で混合気が燃焼する順序は、第1気筒2a→第5気筒2e→第3気筒2c→第6気筒2f→第2気筒2b→第4気筒2dに設定されており、排気行程もこの順で連続して実施される。これより、第1ヘッド内排気通路17aと連通する第1気筒2a、第2気筒2b、第3気筒2cの排気行程は互いに連続せず、第1独立排気通路64aには、排気行程の連続しない気筒2から排出された排気ガスが導入されることになる。同様に、第4気筒2d、第5気筒2e、第6気筒2fの排気行程は互いに連続せず、第2独立排気通路64bには、排気行程の連続しない気筒2から排出された排気ガスが導入されることになる。
【0038】
タービン61はツインスクロール式のタービンであり、第1独立排気通路64aと第2独立排気通路64bとは、互いに独立した状態でタービン61に接続されている。
【0039】
具体的に、タービン61は、いわゆるラジアルタービンであり、外周に複数の羽根101を有してこれら羽根101に排気ガスが衝突することで回転するタービン本体(いわゆるタービンインペラ)102と、タービン本体102を収容するタービンハウジング103とを有する。タービンハウジング103は、排気ガスを内側に導入するための吸入部104と、吸入部104の下流端からタービン本体102の外周に沿って延びてタービン本体102をその全周にわたって囲むタービンスクロール部105と、タービン本体102で膨張した後の排気ガスを下流側に導出するための導出部106とを有する。タービンスクロール部105の下流端には、タービン本体102に向かって突出して、吸入部104とタービンスクロール部105の下流側部分とを仕切る舌部107が設けられている。タービンスクロール部105は渦巻状を有しており、タービンスクロール部105の流路面積は舌部107に向かって下流側ほど小さくなっている。
【0040】
タービンハウジング103のうち吸入部104とタービンスクロール部105とからなる部分の内側には、タービン61(タービン本体102)の回転軸方向の略中央に位置してタービンハウジング103の外周に沿って延びる隔壁110が設けられている。この隔壁110によって、タービンハウジング103のうち吸入部104とタービンスクロール部105とからなる部分、つまり、タービンハウジング103のうち排気ガスの流れ方向の上流端からタービン本体102までの部分の内側空間は、タービン61(タービン本体102)の回転軸方向について並び且つタービン本体102の外周に沿って延びる2つの吸入通路108に区画されている。すなわち、上記内側空間には、タービン61の回転軸方向の一方側に設けられた第1吸入通路108aと、他方側に設けられた第2吸入通路108bとが設けられている。各吸入通路108a、108bは、タービン本体102の周方向のほぼ全周にわたって互いに独立するように形成されている。
【0041】
上記の第1独立排気通路64aと第2独立排気通路64bとはそれぞれこれら2つの吸入通路108a、108bに接続されている。つまり、第1吸入通路108aに第1独立排気通路64aが接続されて、第2吸入通路108bに第2独立排気通路64bが接続されている。
【0042】
この構成により、本実施形態では、排気行程が連続する2つの気筒2間において、各気筒2から排出された排気ガスは、タービン本体102に到達するまで互いに独立した通路を流通することになる。なお、タービン61の導出部106には、排気通路60の下流側部分を構成する1本の下流側排気通路68が接続されており、各独立排気通路64a、64bからタービンハウジング103に導入された排気ガスはタービン本体102を通過した後、全て共通の下流側通路部56に導入される。
【0043】
(作用等)
以上のように、上記実施形態に係るエンジンEでは、各気筒2の幾何学的圧縮比εが12に設定されている。しかも、エンジンEにターボ過給機59が設けられて吸気が過給されるようになっている。そのため、エンジンEの出力を増大させつつ燃費性能を高めることができる。
【0044】
ただし、このように幾何学的圧縮比εを12という高い値にし、且つ、ターボ過給機59を設けて吸気を過給するように構成すると、混合気が想定したタイミングよりも早いタイミング、具体的には、点火プラグ10による点火が行われる点火時期よりも早いタイミングで、混合気が自己着火するプリイグニッションが生じるおそれがある。
【0045】
ここで、プリイグニッションを防止する構成として、吸気弁8の閉弁時期IVCを吸気下死点(BDC)後の十分に遅角側の時期にして気筒2の有効圧縮比を下げることが考えられる。しかし、吸気弁8の閉弁時期IVCを遅くすると、吸気弁8の開弁開始時期IVOも遅くなり、排気上死点(TDC)付近における吸気弁8と排気弁9のオーバーラップ期間(これらがオーバーラップする期間)が短くなる。そして、これら吸気弁8と排気弁9のオーバーラップ期間がゼロあるいは過度に短くなると、気筒2の掃気性が悪化して気筒2に残留する高温の既燃ガスの量が多くなることで、気筒2内の温度が高くなりプリイグニッションが十分に抑制できなくなる。
【0046】
これに対して、上記実施形態では、吸気弁8の開弁期間が270°CAという長い期間に設定されている。そのため、吸気弁8の閉弁時期IVCを遅くしつつ、吸気弁8の開弁開始時期IVOが過度に遅くなるのを回避できる。つまり、吸気弁8の開弁開始時期IVOを排気上死点付近(TDC)付近に維持できる。そのため、吸気弁8と排気弁9のオーバーラップ期間を確保できる。これより、上記実施形態では、有効圧縮比を低下させつつ気筒2の掃気性の悪化を回避してプリイグニッションの発生を抑制できる。例えば、上記のように、プリイグニッションが発生しやすい低速高負荷領域A1において、排気弁9の閉弁時期EVCがATDC25°CAであるのに対して吸気弁8の開弁開始時期IVOをBTDC25°CAとしてオーバーラップ期間を50°CAという十分な期間確保しつつ、吸気弁8の閉弁時期IVCを吸気下死点後(ABDC)75°CAという十分に遅い時期にすることができる。これより、低速高負荷領域A1でのプリイグニッションの発生を抑制できる。
【0047】
しかも、上記実施形態では、排気通路60のうちエンジン本体1とタービン61との間の部分が2つの第1独立排気通路64a、第2独立排気通路64bで構成され、第1独立排気通路64aが、排気行程が互いに連続しない第1気筒2a、第2気筒2bおよび第3気筒2cの各排気ポート7と連通し、第2独立排気通路64bが、排気行程が互いに連続しない第1気筒2a、第2気筒2bおよび第3気筒2cの各排気ポート7と連通するように構成されている。そのため、排気干渉が生じること、具体的には、所定の気筒2から排出された排気ガスが、この気筒2よりも1つ前に排気行程が実施される気筒2に入り込むことや、所定の気筒2から排出された排気ガスが、この気筒2よりも1つ後に排気行程が実施される気筒2からの排気ガスの導出を妨害することを抑制できる。従って、気筒2内の既燃ガスの残留量を少なく抑えることができ、プリイグニッションをより確実に抑制できる。
【0048】
特に、上記実施形態では、タービンハウジング103のうちその上流端からタービン本体102までの部分の内側空間が、タービン本体102の回転軸方向について並ぶ2つの吸入通路108(108a、108b)に区画され、且つ、各吸入通路108(108a、108b)がタービン本体102の周方向の全周にわたって互いに独立するように構成されている。そして、各吸入通路108(108a、108b)にそれぞれ第1独立排気通路64aと第2独立排気通路64bとが個別に接続されている。そのため、確実に排気干渉を抑制することができ、プリイグニッションをより確実に抑制できる。
【0049】
詳細には、上記のように、タービン本体102を囲むタービンスクロール部105の流路面積は舌部107に向かって下流側ほど小さくなっている。そのため、タービンスクロール部105に導入された排気ガスの流速は舌部107つまりタービン本体102を囲む通路の下流端に向かって高められ、排気ガスはタービン本体102に対して下流向きに高い速度で導出されることになる。これより、上記のように、2つの吸入通路108(108a、108b)がタービン本体102の全周にわたって独立していることで、各吸入通路108(108a、108b)内の排気ガスをタービン本体102に対して下流向きに高速で導出することができる。従って、一方の吸入通路108a(108b)およびこれに接続される一方の独立排気通路64a(64b)を通過した排気ガスが、他の吸入通路108b(108a)およびこれに接続される他方の独立排気通路64b(64a)に回り込むこと、すなわち、排気干渉の発生を確実に抑制できる。
【0050】
しかも、上記実施形態では、排気行程が連続しない2以上の気筒2の排気ポート7と連通するヘッド内排気通路17a、17bが形成されて、これらヘッド内排気通路17a、17bと各独立排気通路64a、64bとがそれぞれ接続されるようになっている。そのため、気筒2からタービン61までの排気ガスの流路を短くできる。具体的には、仮に複数の気筒2から排出された排気ガスの流通通路をシリンダヘッド3の外側で集合させる場合には、各排気ポート7を気筒2からシリンダヘッド3の側面まで延びる形状として各排気ポート7をそれぞれこの側面に開口させ、この開口部に個別に通路を接続した後、これら複数の通路をシリンダヘッド3の外部で集合させねばならない。これより、上記実施形態によれば、この仮の構成に比べて、少なくとも、シリンダヘッド3内における気筒2からシリンダヘッド3の側面までの分、排気ガスの流路を短くできる。
【0051】
そして、上記実施形態によれば、気筒2からタービン61までの排気ガスの流路を短くできることで、タービン61に高い排気エネルギーを付与して効率よくタービン61を駆動して、これにより燃費性能をさらに高めることができるとともに、エンジンEをコンパクトにすることが可能になる。
【0052】
(変形例)
上記実施形態では、各独立排気通路64a、64bとそれぞれ連通する吸入通路108(108a、108b)が、タービン本体102の全周にわたって延びるように形成された場合を説明したが、吸入通路108(108a、108b)は、タービン本体102の全周にわたっていなくてもよい。さらに、タービン61として、その内側空間が複数の通路に区画されていないものを用いてもよい。この構成であっても、タービン61に排気ガスを導入する通路が複数の独立排気通路で構成され、排気行程が互いに連続しない気筒2の排気ポート7と複数の独立排気通路とがそれぞれ個別に連通していることで、排気行程が互いに連続する気筒2間での排気干渉を抑制することができる。ただし、上記のように、タービンハウジング103の上流端からタービン本体102までの内側空間が、タービン本体102の全周にわたって延びる複数の吸入通路で区画されていれば、排気干渉を確実に抑制することができる。
【0053】
上記実施形態では、シリンダヘッド3にヘッド内排気通路17a、17bが形成されて、排気行程が互いに連続しない気筒2の排気ポート7がシリンダヘッド3内で合流する場合を説明したが、これら排気ポート7をシリンダヘッド3およびエンジン本体1の外部で合流させてもよい。ただし、上記のように、各排気ポート7をシリンダヘッド3内で合流させれば、燃費性能のさらなる向上およびエンジンEのコンパクト化を図ることができる。
【0054】
上記実施形態では、各気筒2の幾何学的圧縮比εが12の場合を説明したが、上記のように、各気筒2の幾何学的圧縮比εは11以上であればよく、この値は12に限られない。つまり、ターボ過給機付きエンジンにおいて気筒2の幾何学的圧縮比εが11以上の場合に、プリイグニッションが生じやすいことがわかっており、気筒2の幾何学的圧縮比εが11以上のエンジンにおいて上記の効果を得ることができる。なお、実用性等の観点から気筒2の幾何学的圧縮比εの上限は20とするのが好ましい。すなわち、気筒2の幾何学的圧縮比εは11以上で且つ20以下であるのが好ましい。
【0055】
また、上記実施形態では、吸気弁8の開弁期間が270°CAである場合を説明したが、吸気弁8の開弁期間は270°CA以上であればよい。つまり、吸気弁8の開弁期間が270°CA以上であれば、気筒2の幾何学的圧縮比εが11以上のターボ過給機付きエンジンにおいて、上記のように、各気筒2の有効圧縮比を下げ且つ吸気弁8と排気弁9のオーバーラップ期間を確保してプリイグニッションを回避することができる。なお、吸気弁8とピストンとの干渉を回避する等の実用性の点から吸気弁8の開弁期間の上限は290°CAであるのが好ましい。すなわち、吸気弁8の開弁期間は270°CA以上且つ290°CA以下とするのが好ましい。
【0056】
また、上記実施形態では、エンジン本体1に形成される気筒2が6つの場合を説明したが、エンジンの気筒数はこれに限られない。また、独立排気通路は2つに限られず、気筒数に応じて2つ以上の独立排気通路が設けられてもよい。また、タービン61に設ける吸入通路108の数も2つに限られず、独立排気通路の数に応じた数の吸入通路108が設けられればよい。また、各独立排気通路は排気行程が連続しない気筒の排気ポートと連通していればよく、例えば、所定の独立排気通路が1つの気筒の排気ポートとのみ連通するように構成されてもよい。
【0057】
また、低速高負荷領域A1を規定するエンジン回転数、低速高負荷領域A1における吸気弁8の開弁開始時期IVOや排気弁9の閉弁時期EVCの具体的値は上記に限られない。
【符号の説明】
【0058】
1 エンジン本体
2 気筒
3 シリンダヘッド
7 吸気弁
17a 第1ヘッド内排気通路(ヘッド内排気通路)
17b 第2ヘッド内排気通路(ヘッド内排気通路)
19 排気ポート
59 ターボ過給機(過給機)
60 排気通路
61 タービン
64a 第1独立排気通路(独立排気通路)
64b 第2独立排気通路(独立排気通路)
101 翼
102 タービン本体
103 タービンハウジング
104 タービンスクロール部
108 吸入通路
E エンジン