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特許7537334電池システムおよび二次電池の分極電圧の推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】電池システムおよび二次電池の分極電圧の推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/367 20190101AFI20240814BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240814BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20240814BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20240814BHJP
   B60L 58/10 20190101ALI20240814BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20240814BHJP
【FI】
G01R31/367
H01M10/48 P
H01M10/44 Q
H02J7/00 Q
H02J7/00 P
B60L58/10
B60L3/00 S
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021053161
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2022150523
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅生 雄基
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-102078(JP,A)
【文献】国際公開第2013/054414(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36-31/396
H01M 10/42-10/48
H02J 7/00
B60L 58/10
B60L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電ケーブルのコネクタが接続されるように構成されたインレットを備える車両に搭載された電池システムであって、
二次電池と、
前記二次電池の電圧を検出する電圧センサと、
前記インレットを介して供給される外部電力を用いて前記二次電池を充電するように構成された電力変換装置と、
前記二次電池と前記電力変換装置との間に電気的に接続されたリレーと、
以下の式(A1)に従って前記二次電池の分極電圧を推定するプロセッサとを備え、
Vp=a×{1-exp(-√t/b)} ・・・(A1)
前記式(A1)中、前記分極電圧をVpで表し、前記リレーが開放されてからの経過時間をtで表し、第1および第2の係数をaおよびbでそれぞれ表し、
前記プロセッサは、前記リレーが開放されてから第1期間内に前記電圧センサにより検出された第1電圧と、前記リレーが閉成されるのに先立つ第2期間内に前記電圧センサにより検出された第2電圧とに基づいて、前記第1および第2の係数を特定する、電池システム。
【請求項2】
前記式(A1)の両辺を時間微分することで以下の式(A2)が導かれ、
dVp(t)/dt=a×{exp(-√t/b)}/(2b×√t)
・・・(A2)
前記プロセッサは、
前記第1期間内に複数回検出された前記第1電圧に基づいて算出される前記分極電圧の変化の割合を前記式(A2)に代入することで、前記第1の係数と前記第2の係数との間の関係式を求め、
前記関係式と前記第2電圧とに基づいて前記第1および第2の係数を特定する、請求項1に記載の電池システム。
【請求項3】
記プロセッサは、前記コネクタが前記インレットに接続された時刻に前記電圧センサにより検出された電圧を前記第2電圧として使用する、請求項1または2に記載の電池システム。
【請求項4】
前記第1期間は、前記リレーが開放されてから前記プロセッサが停止するまでの期間であり、
前記第2期間は、前記プロセッサが始動してから前記リレーが閉成されるまでの期間である、請求項1~3のいずれか1項に記載の電池システム。
【請求項5】
マップが格納されたメモリをさらに備え、
前記マップにおいては、指数関数に用いられる指数の複数の位毎に、9通りの数字にそれぞれ対応する9つの数値が定められており、
前記プロセッサは、前記式(A1)中の指数関数を演算する場合に、前記マップを参照することで前記式(A1)中の指数関数の指数の複数の位の各々について、その位の数字に対応する数値を読み出し、読み出された数値を互いに掛け合わせる、請求項1~4のいずれか1項に記載の電池システム。
【請求項6】
二次電池と、
前記二次電池の電圧を検出する電圧センサと、
前記二次電池を流れる電流を検出する電流センサと、
前記二次電池との間で電力を授受するように構成された電力変換装置と、
以下の式(A3)に従って前記二次電池の分極電圧を推定するプロセッサとを備え、
Vp=a×{1-exp(-√t/b)} ・・・(A3)
前記式(A3)中、前記分極電圧をVpで表し、前記電流センサにより検出される電流の大きさが第1所定値を下回ってからの経過時間をtで表し、第1および第2の係数をaおよびbでそれぞれ表し、
前記プロセッサは、前記電流センサにより検出される電流の大きさが前記第1所定値を下回ってから第1期間内に前記電圧センサにより検出された第1電圧と、前記電流センサにより検出される電流の大きさが第2所定値を上回るのに先立つ第2期間内に前記電圧センサにより検出された第2電圧とに基づいて、前記第1および第2の係数を特定する、電池システム。
【請求項7】
前記式(A3)の両辺を時間微分することで以下の式(A4)が導かれ、
dVp(t)/dt=a×{exp(-√t/b)}/(2b×√t)
・・・(A4)
前記プロセッサは、
前記第1期間内に複数回検出された前記第1電圧に基づいて算出される前記分極電圧の変化の割合を前記式(A4)に代入することで、前記第1の係数と前記第2の係数との間の関係式を求め、
前記関係式と前記第2電圧とに基づいて前記第1および第2の係数を特定する、請求項6に記載の電池システム。
【請求項8】
前記電池システムは、車両に搭載され、
前記車両は、充電ケーブルのコネクタが接続されるように構成されたインレットを備え、
前記電力変換装置は、前記インレットを介して供給される外部電力を用いて前記二次電池を充電するように構成され、
前記プロセッサは、前記コネクタが前記インレットに接続された時刻に前記電圧センサにより検出された電圧を前記第2電圧として使用する、請求項6または7に記載の電池システム。
【請求項9】
前記第1期間は、前記電流センサにより検出される電流の大きさが前記第1所定値を下回ってから前記プロセッサが停止するまでの期間であり、
前記第2期間は、前記プロセッサが始動してから前記電流センサにより検出される電流の大きさが前記第2所定値を上回るまでの期間である、請求項6~8のいずれか1項に記載の電池システム。
【請求項10】
マップが格納されたメモリをさらに備え、
前記マップにおいては、指数関数に用いられる指数の複数の位毎に、9通りの数字にそれぞれ対応する9つの数値が定められており、
前記プロセッサは、前記式(A3)中の指数関数を演算する場合に、前記マップを参照することで前記式(A3)中の指数関数の指数の複数の位の各々について、その位の数字に対応する数値を読み出し、読み出された数値を互いに掛け合わせる、請求項6~9のいずれか1項に記載の電池システム。
【請求項11】
充電ケーブルのコネクタが接続されるように構成されたインレットを備える車両において実行される二次電池の分極電圧の推定方法であって、
二次電池と、前記インレットを介して供給される外部電力を用いて前記二次電池を充電する電力変換装置との間に電気的に接続されたリレーが開放されてから第1期間内に電圧センサにより前記二次電池の第1電圧を検出するステップと、
前記リレーが閉成されるのに先立つ第2期間内に前記電圧センサにより前記二次電池の第2電圧を検出するステップと、
以下の式(A5)に従って前記二次電池の分極電圧を推定するステップとを含み、
Vp=a×{1-exp(-√t/b)} ・・・(A5)
前記式(A5)中、前記分極電圧をVpで表し、前記リレーが開放されてからの経過時間をtで表し、第1および第2の係数をaおよびbでそれぞれ表し、
前記推定するステップは、前記第1電圧と前記第2電圧とに基づいて前記第1および第2の係数を特定するステップを含む、二次電池の分極電圧の推定方法。
【請求項12】
電流センサにより検出される、二次電池を流れる電流の大きさが第1所定値を下回ってから第1期間内に電圧センサにより前記二次電池の第1電圧を検出するステップと、
前記電流センサにより検出される電流の大きさが第2所定値を上回るのに先立つ第2期間内に前記電圧センサにより前記二次電池の第2電圧を検出するステップと、
以下の式(A6)に従って前記二次電池の分極電圧を推定するステップとを含み、
Vp=a×{1-exp(-√t/b)} ・・・(A6)
前記式(A6)中、前記分極電圧をVpで表し、前記電流センサにより検出される電流が前記第1所定値を下回ってからの経過時間をtで表し、第1および第2の係数をaおよびbでそれぞれ表し、
前記推定するステップは、前記第1電圧と前記第2電圧とに基づいて前記第1および第2の係数を特定するステップを含む、二次電池の分極電圧の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池システムおよび二次電池の分極電圧の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2019-45419号公報(特許文献1)に開示された電池パックは、電池と、電池の電圧を検出する電圧検出部と、電池の分極解消後の開回路電圧を推定する推定部とを備える。推定部は、電池の放電後、かつ、電池の分極が解消される前の休止期間において、第1の電圧(OCV1)と第2の電圧(OCV2)とを取得する。OCV1は、休止期間開始から第1の所定時間経過後に電圧検出部により検出される電圧である。OCV2は、休止期間開始から第1の所定時間よりも長い第2の所定時間経過後に電圧検出部により検出される電圧である。推定部は、OCV1またはOCV2に、OCV1とOCV2との比(r1=OCV2/OCV1等)と係数とを乗算した値を加算した結果を、電池の分極解消後の開回路電圧として推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-45419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
二次電池の開回路電圧(OCV:Open Circuit Voltage)に基づいて電池特性、具体的には二位電池のSOC(State Of Charge)、満充電容量などを推定する手法が広く用いられている。こららの電池特性の推定精度を向上させるため、二次電池の開回路電圧を高精度に推定する要求が常に存在する。そして、二次電池の開回路電圧を高精度に推定するためには、二次電池の分極電圧を高精度に推定することが求められる。
【0005】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであり、本開示の目的は、二次電池の分極電圧を高精度に推定することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本開示の第1の局面に係る電池システムは、二次電池と、二次電池の電圧を検出する電圧センサと、二次電池との間で電力を授受するように構成された電力変換装置と、二次電池と電力変換装置との間に電気的に接続されたリレーと、以下の式(A1)に従って二次電池の分極電圧を推定するプロセッサとを備える。
Vp=a×{1-exp(-√t/b)} ・・・(A1)
【0007】
式(A1)中、分極電圧をVpで表し、リレーが開放されてからの経過時間をtで表し、第1および第2の係数をaおよびbでそれぞれ表す。プロセッサは、リレーが開放されてから第1期間内に電圧センサにより検出された第1電圧と、リレーが閉成されるのに先立つ第2期間内に電圧センサにより検出された第2電圧とに基づいて、第1および第2の係数を特定する。
【0008】
(2)上記式(A1)の両辺を時間微分することで以下の式(A2)が導かれる。dVp(t)/dt=a×{exp(-√t/b)}/b ・・・(A2)
プロセッサは、第1期間内に複数回検出された第1電圧に基づいて算出される分極電圧の変化の割合を式(A2)に代入することで、第1の係数と第2の係数との間の関係式を求める。プロセッサは、関係式と第2電圧とに基づいて第1および第2の係数を特定する。
【0009】
(3)電池システムは車両に搭載される。車両は、充電ケーブルのコネクタが接続されるように構成されたインレットを備える。電力変換装置は、インレットを介して供給される外部電力を用いて二次電池を充電するように構成されている。プロセッサは、コネクタがインレットに接続された時刻に電圧センサにより検出された電圧を第2電圧として使用する。
【0010】
(4)第1期間は、リレーが開放されてからプロセッサが停止するまでの期間である。第2期間は、プロセッサが始動してからリレーが閉成されるまでの期間である。
【0011】
上記(1)~(4)の構成においては、二次電池の分極電圧を推定するのに上記式(A1)が用いられる。本発明者による鋭意検討の結果、式(A1)が実際の分極電圧の挙動を正確に表現できるとの知見が得られている。よって、上記の構成によれば、二次電池の分極電圧を高精度に推定できる。さらに、上記(2)の構成においては、第1期間内における分極電圧の変化の割合、言い換えると分極電圧の減少速度の検出値を用いて、第1および第2の係数が特定される。これにより、分極電圧の解消が進む様子を式(A1)に正確に反映させることが可能になるので、二次電池の分極電圧を一層高精度に推定できる。
【0012】
(5)電池システムは、マップが格納されたメモリをさらに備える。マップにおいては、指数関数に用いられる指数の複数の位毎に、9通りの数値にそれぞれ対応する9つの値が定められている。プロセッサは、式(A1)中の指数関数を演算する場合に、マップを参照することで式(A1)中の指数関数の指数の複数の位の各々について、その位の数値に対応する値を読み出し、読み出された値を互いに掛け合わせる。
【0013】
上記(5)の構成によれば、指数間数を演算する際のプロセッサの演算負荷を低減できる。
【0014】
(6)本開示の第1の局面に係る電池システムは、二次電池と、二次電池の電圧を検出する電圧センサと、二次電池を流れる電流を検出する電流センサと、二次電池との間で電力を授受するように構成された電力変換装置と、以下の式(A3)に従って二次電池の分極電圧を推定するプロセッサとを備える。
Vp=a×{1-exp(-√t/b)} ・・・(A3)
【0015】
式(A3)中、分極電圧をVpで表し、電流センサにより検出される電流が第1所定値を下回ってからの経過時間をtで表し、第1および第2の係数をaおよびbでそれぞれ表す。プロセッサは、電流センサにより検出される電流が第1所定値を下回ってから第1期間内に電圧センサにより検出された第1電圧と、電流センサにより検出される電流が第2所定値を上回るのに先立つ第2期間内に電圧センサにより検出された第2電圧とに基づいて、第1および第2の係数を特定する。
【0016】
(7)式(A3)の両辺を時間微分することで以下の式(A4)が導かれる。
dVp(t)/dt=a×{exp(-√t/b)}/b ・・・(A4)
【0017】
プロセッサは、第1期間内に複数回検出された第1電圧に基づいて算出される分極電圧の変化の割合を式(A4)に代入することで、第1の係数と第2の係数との間の関係式を求める。プロセッサは、関係式と第2電圧とに基づいて第1および第2の係数を特定する。
【0018】
(8)電池システムは、車両に搭載される。車両は、充電ケーブルのコネクタが接続されるように構成されたインレットを備える。電力変換装置は、インレットを介して供給される外部電力を用いて二次電池を充電するように構成されている。プロセッサは、コネクタがインレットに接続された時刻に電圧センサにより検出された電圧を第2電圧として使用する。
【0019】
(9)第1期間は、電流センサにより検出される電流が第1所定値を下回ってからプロセッサが停止するまでの期間である。第2期間は、プロセッサが始動してから電流センサにより検出される電流が第2所定値を上回るまでの期間である。
【0020】
上記(6)~(9)の構成によれば、上記(1)~(4)の構成と同様に、二次電池の分極電圧を一層高精度に推定できる。
【0021】
(10)電池システムは、マップが格納されたメモリをさらに備える。マップにおいては、指数関数に用いられる指数の複数の位毎に、9通りの数字にそれぞれ対応する9つの数値が定められている。プロセッサは、式(A3)中の指数関数を演算する場合に、マップを参照することで式(A3)中の指数関数の指数の複数の位の各々について、その位の数字に対応する数値を読み出し、読み出された数値を互いに掛け合わせる。
【0022】
上記(10)の構成によれば、上記(5)の構成と同様に、指数間数を演算する際のプロセッサの演算負荷を低減できる。
【0023】
(11)本開示の第3の局面に係る二次電池の分極電圧の推定方法は、第1~第3のステップを含む。第1のステップは、二次電池と電力変換装置との間に電気的に接続されたリレーが開放されてから第1期間内に電圧センサにより二次電池の第1電圧を検出するステップである。第2のステップは、リレーが閉成されるのに先立つ第2期間内に電圧センサにより二次電池の第2電圧を検出するステップである。第3のステップは、以下の式(A5)に従って二次電池の分極電圧を推定するステップである。
Vp=a×{1-exp(-√t/b)} ・・・(A5)
【0024】
上記式(A5)中、分極電圧をVpで表し、リレーが開放されてからの経過時間をtで表し、第1および第2の係数をaおよびbでそれぞれ表す。上記推定するステップ(第3のステップ)は、第1電圧と第2電圧とに基づいて第1および第2の係数を特定するステップを含む。
【0025】
(12)本開示の第4の局面に係る二次電池の分極電圧の推定方法は、第1~第3のステップを含む。第1のステップは、電流センサにより検出される、二次電池を流れる電流が第1所定値を下回ってから第1期間内に電圧センサにより二次電池の第1電圧を検出するステップである。第2のステップは、電流センサにより検出される電流が第2所定値を上回るのに先立つ第2期間内に電圧センサにより二次電池の第2電圧を検出するステップである。第3のステップは、以下の式(A6)に従って二次電池の分極電圧を推定するステップである。
Vp=a×{1-exp(-√t/b)} ・・・(A6)
【0026】
式(A6)中、分極電圧をVpで表し、電流センサにより検出される電流が第1所定値を下回ってからの経過時間をtで表し、第1および第2の係数をaおよびbでそれぞれ表す。上記推定するステップは、第1電圧と第2電圧とに基づいて第1および第2の係数を特定するステップを含む。
【0027】
上記(11),(12)の方法によれば、上記(1),(6)の構成と同様に、二次電池の分極電圧を高精度に推定できる。
【発明の効果】
【0028】
本開示によれば、二次電池の分極電圧を高精度に推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本開示の実施の形態に係る電池システムが搭載された車両の全体構成を概略的に示す図である。
図2】本実施の形態における容量推定処理の処理手順を示すフローチャートである。
図3】本実施の形態における分極電圧推定処理を説明するためのタイムチャートである。
図4】本実施の形態における分極電圧推定処理全体の処理手順を示すフローチャートである。
図5】第1のCCV測定処理の処理手順を示すフローチャートである。
図6】第2のCCV測定処理の処理手順を示すフローチャートである。
図7】分極挙動解析の処理手順を示すフローチャートである。
図8】本変形例において使用されるマップの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0031】
以下では、本開示に係る電池システムが車両に搭載される例について説明する。しかし、本開示に係る電池システムの用途は車両用に限定されるものではなく、たとえば定置用であってもよい。
【0032】
[実施の形態]
<システム構成>
図1は、本開示の実施の形態に係る電池システムが搭載された車両の全体構成を概略的に示す図である。車両1は電池パック2を備える。電池パック2は、本開示に係る「電池システム」に相当する。車両1は、たとえば電気自動車(EV:Electric Vehicle)である。車両1は、外部から供給される電力による「プラグイン充電」が可能に構成されている。
【0033】
ただし、本開示に係る電池システムを搭載可能な車両の種類は特に限定されない。車両は、ハイブリッド車(HV:Hybrid Vehicle)、プラグインハイブリッド車(PHV:Plug-in Hybrid Vehicle)、または、燃料電池車(FCV:Fuel Cell Vehicle)であってもよい。
【0034】
電池パック2はバッテリ10を備える。バッテリ10は、複数のセル20を含む組電池である。電池パック2は、監視ユニット30と、システムメインリレー(SMR:System Main Relay)40と、電池ECU(Electronic Control Unit)50とをさらに備える。車両1は、インレット61と、電力変換装置62と、充電リレー(CHR:Charge Relay)63と、電力制御ユニット(PCU:Power Control Unit)71と、モータジェネレータ72と、動力伝達ギヤ73と、駆動輪74と、パワースイッチ80と、統合ECU90とをさらに備える。
【0035】
バッテリ10は、モータジェネレータ72を駆動するための電力を蓄え、PCU71を通じてモータジェネレータ72へ電力を供給する。また、バッテリ10は、モータジェネレータ72の発電時にPCU71を通じて発電電力を受けて充電される。
【0036】
バッテリ10に含まれる各セル20は、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池等の二次電池である。本実施の形態においてバッテリ10の内部構成は特に問われないため、以下ではバッテリ10を監視単位として説明する。バッテリ10は、本開示に係る「二次電池」に相当する。
【0037】
監視ユニット30は、バッテリ10の状態を監視するための各種センサを含む。具体的には、監視ユニット30は、電圧センサ31と、電流センサ32と、温度センサ33とを含む。電圧センサ31は、バッテリ10の電圧VBを検出する。電流センサ32は、バッテリ10に入出力される電流IBを検出する。温度センサ33は、バッテリ10の温度TBを検出する。各センサは、その検出値を電池ECU50に出力する。
【0038】
SMR40は、バッテリ10とPCU71および電力変換装置62との間を結ぶ電力線上に設けられている。SMR40は、電池ECU50からの指令に従って開閉される。SMR40が開放(オフ)されると、バッテリ10は、PCU71および電力変換装置62から電気的に切り離される。
【0039】
電池ECU50は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ51と、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などのメモリ52と、各種信号が入出力される入出力ポート(図示せず)とを含む。電池ECU50は、各センサから受ける信号ならびにメモリ52に記憶されたプログラムおよびマップに基づいてバッテリ10を管理する。本実施の形態において電池ECU50により実行される処理として、バッテリ10の満充電容量を推定する処理が挙げられる。この処理を「容量推定処理」と称し、後に詳細に説明する。なお、電池ECU50のプロセッサ51は、本開示に係る「プロセッサ」に相当する。
【0040】
インレット61は、充電ケーブルの先端に設けられたコネクタ(図示せず)が機械的な連結を伴って接続されるように構成されている。インレット61とコネクタとが接続されることで、充電設備(図示せず)と車両1との間の電気的な接続が確保される。また、車両1の統合ECU90と充電設備の制御装置(図示せず)とが所定の通信規格に従って各種指令およびデータを相互に送受信することが可能になる。
【0041】
電力変換装置62は、たとえばAC/DC変換器である。電力変換装置62は、充電設備から充電ケーブルを介して供給される交流電力を、バッテリ10を充電するための直流電力に変換する。電力変換装置62は、本開示に係る「電力変換装置」に相当する。
【0042】
充電リレー63は、バッテリ10と電力変換装置62とを結ぶ電力線にSMR40に直列に接続されている。充電リレー63は、たとえば統合ECU90からの指令に従って開閉される。充電リレー63が閉成(オン)され、かつSMR40が閉成されると、インレット61からの電力によりバッテリ10を充電可能な状態となる。
【0043】
なお、SMR40および充電リレー63は、本開示に係る「リレー」に相当する。本開示に係る「リレー」が開放された状態とは、SMR40および充電リレー63のうちの少なくとも一方が開放された状態である。本開示に係る「リレー」が閉成された状態とは、SMR40および充電リレー63の両方が閉成された状態である。
【0044】
PCU71は、SMR40とモータジェネレータ72との間に電気的に接続されている。PCU71は、コンバータおよびインバータ(いずれも図示せず)を含み、統合ECU90からの指令に従ってモータジェネレータ72を駆動する。
【0045】
モータジェネレータ72は、交流回転電機であり、たとえば、永久磁石が埋設されたロータを備える永久磁石型同期電動機である。モータジェネレータ72の出力トルクは、動力伝達ギヤ73を通じて駆動輪74に伝達され、車両1を走行させる。また、モータジェネレータ72は、車両1の制動動作時には、駆動輪74の回転力によって発電することができる。モータジェネレータ72による発電電力は、PCU71によってバッテリ10の充電電力に変換される。
【0046】
パワースイッチ80は、電源ポジションを選択するユーザ操作を受け付ける。ユーザは、パワースイッチ80およびブレーキペダル(図示せず)を操作することによって電源ポジションを選択する。本実施の形態において、電源ポジションは、イグニッションオフ(IG-OFF)ポジションと、ACC(アクセサリー)ポジションと、イグニッションオン(IG-ON)ポジションと、起動ポジションと、Ready-ONポジションとを含む。
【0047】
IG-OFFポジションは、車両1の電源オフ状態に相当する。この電源ポジションでは、車両1に搭載された各機器への電源供給が遮断される。ACCポジションでは、オーディオ類、エアコン等のアクセサリー機器に対して給電される。IG-ONポジションでは、さらに、車両1の走行に必要な機器類に対しても給電される。起動ポジションが選択されると、車両1を走行可能な状態とするようにシステムが起動される。システム起動後にはシステムチェックが実行される。走行条件が成立すると、車両1は、ユーザによるアクセルペダル(図示せず)の操作に応じて走行可能なReady-ONポジションへ移行する。
【0048】
統合ECU90は、電池ECU50と同様に、プロセッサ91と、メモリ92と、入出力ポート(図示せず)とを含む。統合ECU90は、各センサから受ける信号ならびにメモリ92に記憶されたプログラムおよびマップに基づいて、車両1を所望の状態に制御するための各種制御を実行する。たとえば、統合ECU90は、電池ECU50と協調しながらPCU71を制御することによってバッテリ10の充放電を制御する。
【0049】
<満充電容量の推定>
以上のように構成された電池パック2において、電池ECU50は、バッテリ10の開回路電圧(OCV:Open Circuit Voltage)を推定し、さらに、その推定値に基づいてバッテリ10の満充電容量を推定する。以下に説明するように、バッテリ10のOCVを高精度に推定するためには、バッテリ10の分極電圧Vpを高精度に推定することが望ましい。
【0050】
そこで、本実施の形態においては、バッテリ10の分極電圧Vpの挙動をよく表す関係式を採用する。その上で、分極電圧Vpの減少速度(分極解消速度)を電圧センサ31を用いて実測することで、分極電圧Vpの解消が進む様子を上記の関係式に正確に反映させる。以下では、まず、バッテリ10の満充電容量を推定する処理の全体の流れについて説明する。
【0051】
図2は、本実施の形態における容量推定処理の処理手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、たとえば予め定められた条件の成立時(バッテリ10の満充電容量Cの前回推定時から所定の期間が経過した場合など)に実行される。なお、図2に示すフローチャートおよび後述する他のフローチャートに含まれる各ステップは、基本的には電池ECU50によるソフトウェア処理により実現されるが、電池ECU50内に配置されたハードウェア(電気回路)により実現されてもよい。図2に示すフローチャートには、プラグイン充電の開始したり終了したりする処理など、統合ECU90により実行される処理も含まれる。以下、ステップをSと略す。
【0052】
S1において、電池ECU50は、バッテリ10の分極電圧を推定するための「分極電圧推定処理」を実行する。詳細は図3以降で説明するが、分極電圧推定処理においては車両1のIG-OFF操作に伴い、SMR40が開放される。これにより、バッテリ10は、PCU71および電力変換装置62から電気的に遮断される。
【0053】
S91において、電池ECU50は、プラグイン充電の開始条件が成立しているかどうかを判定する。充電ケーブルの先端に設けられたコネクタ(図示せず)がインレット61に接続され、統合ECU90と充電設備の制御装置(図示せず)との間で必要なデータがやり取りされると、プラグイン充電の開始条件が成立する。プラグイン充電の開始条件が成立すると(S91においてYES)、車両1のプラグイン充電が開始する。電池ECU50は、車両1のプラグイン充電開始に伴い、電流積算を開始する(S92)。すなわち、電池ECU50は、電流センサ32の検出値を積算していく。
【0054】
S93において、電池ECU50は、プラグイン充電の終了条件が成立しているかどうかを判定する。たとえば、バッテリ10に所定電力量が充電されたり所定時刻が到来したりした場合にプラグイン充電の終了条件が成立する。プラグイン充電の終了条件が成立すると(S93においてYES)、車両1のプラグイン充電が終了する。電池ECU50は、車両1のプラグイン充電終了に伴い、電流積算を終了する(S94)。
【0055】
S95において、電池ECU50は、電流積算開始時(S92)から電流積算終了時(S94)までの電流積算量ΔAh(単位:Ah)を算出する。
【0056】
S96において、電池ECU50は、S1の分極電圧推定処理の結果に基づいて、電流積算開始時におけるバッテリ10のOCVを推定する。このOCVをOCVと記載する。
【0057】
S97において、電池ECU50は、電流積算終了時におけるバッテリ10のOCVを算出する。このOCVを「OCV」と記載する。OCVは、電流積算終了時において電圧センサ31から取得される電圧VB(「VB」と記載する)と、電流積算終了時におけるバッテリ10の分極電圧Vpと、電流積算終了時において電流センサ32から取得されるIBと、バッテリ10の内部抵抗Rとを用いて、下記式(1)から算出できる。
OCV=VB-Vp-IB×R ・・・(1)
【0058】
分極電圧Vpは、バッテリ10に充電される電流IBに依存するので、分極電圧Vpと電流IBとの間の関係を事前に測定してマップとしてメモリ52に格納しておく。これにより、電流積算終了時において電流センサ32から取得される電流IBに応じた値を分極電圧Vpとして使用できる。一方、内部抵抗Rは温度依存性を有する。そのため、内部抵抗Rの温度依存性を表すマップをメモリ52に格納しておくことで、温度センサ33から取得される温度TBに応じた値を内部抵抗Rとして使用できる。
【0059】
S98において、電池ECU50は、電流積算開始時におけるバッテリ10のOCVと、電流積算終了時におけるバッテリ10のOCVとに基づいて、電流積算中のバッテリ10のSOC変化量ΔSOCを算出する。電池ECU50のメモリ52には、バッテリ10のSOCとOCVとの対応関係を示す曲線(SOC-OCVカーブ)が格納されている。電池ECU50は、SOC-OCVカーブ上においてOCVに対応するSOC(SOCと記載する)とOCVに対応するSOC(SOCと記載する)との差をΔSOCとして算出できる(下記式(2)参照)。
ΔSOC=SOC-SOC ・・・(2)
【0060】
S99において、電池ECU50は、S95にて算出された電流積算値ΔAhと、S98にて算出されたΔSOCとに基づいて、バッテリ10の満充電容量Cを推定する。詳細には、バッテリ10の満充電容量Cは、ΔSOCに対する充電電流値ΔAhとの比率と、ΔSOC=100%に対する満充電容量Cとの比率とが等しいとする下記式(3)に従って算出できる。初期状態における満充電容量C0はバッテリ10の仕様から既知であるため、電池ECU50は、満充電容量Cから容量維持率Qをさらに算出してもよい(Q=C/C0)。
C=ΔAh/ΔSOC×100 ・・・(3)
【0061】
なお、電池ECU50が分極電圧推定処理の結果を用いてバッテリ10の満充電容量を推定することは必須ではない。分極電圧推定処理の結果の用途は特に限定されず、電池ECU50は、分極電圧推定処理の結果を用いて、たとえばバッテリ10のSOCを推定するだけでもよい。あるいは電池ECU50は、単にバッテリ10の分極電圧Vpを推定するだけでもよい。
【0062】
<分極電圧推定処理>
図3は、本実施の形態における分極電圧推定処理を説明するためのタイムチャートである。横軸は経過時間(より詳細には経過時間tの平方根√t)を表す。縦軸は、上半分に電圧(OCVおよび分極電圧Vp)を表す。縦軸の下半分には、電池ECU50の動作(オン)/停止(オフ)、ならびに、SMR40および充電リレー63の閉成(オン)/開放(オフ)を表す。
【0063】
初期時刻t0において、電池ECU50は動作している。また、SMR40が閉成されている一方で、充電リレー63は開放されている。この初期時刻t0において、ユーザがパワースイッチ80を押し込むIG-OFF操作を行う。そうすると、SMR40が開放される。SMR40の開放時刻を時刻0とする。その後(典型的にはSMR40が開放されてから10秒~20秒後)、電池ECU50は、その動作を停止する(時刻t2)。
【0064】
SMR40が開放されると、最初はバッテリ10の分極の解消(緩和)が速やかに進むされるが、その後、時間が経過するに従ってバッテリ10の分極解消は緩やかになる。本発明者は、分極電圧測定を繰り返した結果、下記式(4)に示される近似式が実際の分極電圧Vpの挙動(時間推移)を最もよく表すとの知見を得た(図中のカーブL参照)。
Vp(t)=a×{1-exp(-√t/b)} ・・・(4)
【0065】
式(4)におけるa,bは、いずれも正の係数である。両係数a,bが定まれば、式(4)に従って任意の時刻tにおける分極電圧Vpを推定することが可能になる。係数a,bは、たとえば以下のような演算処理により特定できる。
【0066】
まず、式(4)の両辺を時間微分することで下記式(5)が得られる。
dVp(t)/dt=a×{exp(-√t/b)}/(2b×√t)
・・・(5)
【0067】
SMR40が開放されてから電池ECU50の動作が停止するまでの期間を図中、T1で表す。期間T1は、本開示に係る「第1期間」の一例である。本実施の形態では、期間T1内の任意の時刻t1において式(5)が成立していると考え、式(5)に時刻t1を代入する。これにより、下記式(6)が得られる。式(6)の左辺は、時刻t1におけるカーブLの接線TLの傾きに相当する。
dVp(t1)/dt=a×{exp(-√(t1)/b)}/(2b×√(t1))
・・・(6)
【0068】
本実施の形態では、上記の接線TLの傾きとは別に、同一の時刻t1における電圧VBの変化の割合r(t1)が電圧センサ31の検出値に基づいて算出される。より具体的には、期間T1内の2回以上の電圧VBの検出値(たとえば、時刻t1よりも前の時刻における電圧VB、および、時刻t1よりも後の時刻における電圧VB)に基づいて、時刻t1における電圧VBの変化の割合を算出できる。この変化の割合をr(t1)と記載する。
【0069】
SMR40の開放以降、バッテリ10は充放電されずに放置されているので、バッテリ10のOCVは一定である。そのため、電圧VBの時間変化は、分極電圧Vpの時間変化に由来する。したがって、時間微分の式(5)から得られた時刻t1における接線TLの傾き(dVp(t1))と、電圧センサ31による電圧VBの検出値から得られた時刻t1における電圧VBの変化の割合r(t1)とは、互いに等しいと見做してよい(dVp(t1)/dt=r(t1))。よって、時刻t1における電圧VBの変化の割合r(t1)によって式(6)の左辺を置換できる(下記式(7))。
r(t1)=a×{exp(-√(t1)/b)}/(2b×√(t1))
・・・(7)
【0070】
式(7)を係数aについて解くと、下記式(8)のように整理される。下記(8)は、本開示に係る「関係式」に相当する。
a=r(t1)×(2b×√(t1))/{exp(-√(t1)/b)}
・・・(8)
【0071】
バッテリ10の放置が継続された後、時刻t3において、ユーザによるIG-ON操作が行われる。そうすると、電池ECU50が再び動作し始め、SMR40が閉成される(時刻t4)。そして、時刻t5において、ユーザが充電ケーブルの先端に設けられたコネクタをインレット61に接続する(プラグイン接続)。この例では、電池ECU50は、プラグイン接続時に電圧センサ31から電圧VBを取得する。その後、充電リレー63が閉成される(時刻t6)。
【0072】
任意の時刻tにおける電圧VBは、その時刻tにおける分極電圧VpとOCVとの和であるため、下記式(9)のように表される。
VB(t)=a×{1-exp(-√t/b)}+OCV ・・・(9)
【0073】
式(9)より、プラグイン接続時刻t5における電圧センサ31の電圧VBの検出値について、下記式(10)が成立する。
VB(t5)=a×{1-exp(-√(t5)/b)}+OCV ・・・(10)
【0074】
また、プラグイン接続時刻t5とは異なる時刻(この例では時刻t1)における電圧センサ31の電圧VBの検出値について、下記式(11)が成立する。
VB(t1)=a×{1-exp(-√(t1)/b)}+OCV ・・・(11)
【0075】
式(10)および式(11)の右辺の係数aは、式(8)のように係数bを用いて表される。そのため、ここでは係数bおよびOCVの2つの未知数に対して、式(10)および式(11)の2式が得られていると言える。したがって、式(10)および式(11)を連立させて解くことによって係数bおよびOCVを求めることができる。さらに、式(8)より係数aを求めることができる。
【0076】
このように、本実施の形態では、SMR40が開放されてバッテリ10の分極解消が急激に進んでいる期間T1内の時刻t1において、カーブLの接線TLの傾き(dVp(t1))と、電圧センサ31により検出された電圧VBの変化の割合r(t1)とが互いに等しいとの条件を用いて分極電圧Vpが算出される。接線TLの傾き(dVp(t1)および電圧VBの変化の割合r(t1)は、バッテリ10の分極解消が進む速さ(分極解消速度)を表す指標である。つまり、本実施の形態においては、バッテリ10の分極解消速度を直接的に考慮して分極電圧Vpを算出していると言え、それにより分極解消速度の速さ/遅さを分極電圧Vpに正確に反映できる。その結果、バッテリ10のOCVを高精度に推定することが可能になる。
【0077】
なお、式(10)においてプラグイン接続の時刻t5における電圧センサ31の電圧VBを用いることは一例である。式(10)には、IG-ON操作に伴って電池ECU50の動作が始まる時刻t3から充電リレー63が閉成される時刻t6までの間の期間T2内の任意の時刻を用いることができる。期間T2は、本開示に係る「第2期間」の一例である。式(10)に用いられる時刻は、時刻t6以前であり、かつ、できるだけ遅い時刻とすることが望ましい。式(10)に用いられる時刻と式(11)に用いられる時刻(この例ではt1)との間の時間差をできるだけ長く確保することで、分極電圧Vpを表すカーブLの算出精度を向上させることができるためである。その一方で、充電リレー63の閉成後にはプラグイン充電の実際の電力伝送が始まる可能性があるため、時刻t6よりも後の時刻にはしない方が望ましい。
【0078】
また、図3では、SMR40が開放された時刻を起点(時刻0)とした例、言い換えると、SMR40の開放をトリガとした例について説明した。しかし、分極電圧推定処理は、バッテリ10の電圧がOCVであると判定可能な条件下で実行されればよく、SMR40の開放をトリガとすることは必須ではない。SMR40が開放されると、バッテリ10を流れる電流IBが速やかに減少して0に近付く。したがって、電池ECU50は、電流センサ32により検出される電流IBが第1所定値を下回った場合に、バッテリ10の電圧がOCVであると判定して分極電圧推定処理を実行してもよい。この場合、バッテリ10の分極解消が急激に進む期間T1は、SMR40の開放時刻に代えて、電流IBが第1所定値を下回った時刻に基づいて定めることができる。一方、期間T2は、SMR40および充電リレー63の両方が閉成された時刻に代えて、電流IBが第2所定値を上回った時刻に基づいて定めることができる。なお、第2所定値は、第1所定値と同じであってもよいし、第1所定値よりも小さくてもよい。
【0079】
<分極推定フロー>
図4は、分極電圧推定処理(S1)全体の処理手順を示すフローチャートである。S10において、電池ECU50は、車両1がIG-OFF操作されたかどうかを判定する。ユーザがパワースイッチ80に対してIG-OFF操作を行った場合、その旨が統合ECU90から電池ECU50に通知される。
【0080】
車両1のIG-OFF操作が実行されると(S10においてYES)、電池ECU50は「第1のCCV測定処理」を実行する(S20)。続いて車両1のIG-ON操作が実行されると(S30においてYES)、電池ECU50は「第2のCCV測定処理」を実行する(S40)。そして、電池ECU50は、第1および第2のCCV測定処理により取得された電圧VBに基づいて分極電圧VPの挙動を解析する「分極挙動解析」を実行する(S50)。以下、各処理の詳細について説明する。
【0081】
図5は、第1のCCV測定処理(S20)の処理手順を示すフローチャートである。S21において、電池ECU50は、SMR20を開放(オフ)することでバッテリ10をPCU71および電力変換装置62から電気的に切り離す(図3の時刻0参照)。
【0082】
S22において、電池ECU50は、時刻0から時刻t2までの期間T1内に、バッテリ10の電圧VBを電圧センサ31から複数回取得する。
【0083】
S23において、電池ECU50は、S22にて取得された電圧VBをメモリ52に不揮発的に格納する。その後、電池ECU50は、その動作を停止する(図3の時刻t2参照)。
【0084】
図6は、第2のCCV測定処理(S40)の処理手順を示すフローチャートである。S41において、電池ECU50は、充電ケーブルの先端のコネクタ(図示せず)がインレット61に接続(プラグイン接続)されたかどうかを判定する。電池ECU50は、プラグイン接続が行われるまで待機する(S41においてNO)。プラグイン接続が行われると(S41においてYES)、電池ECU50は、その時刻t5におけるバッテリ10の電圧VBを電圧センサ31から取得する(S42)。そして、電池ECU50は、S42にて取得された電圧VBをメモリ52に格納する(S43)。
【0085】
図7は、分極挙動解析(S50)の処理手順を示すフローチャートである。S51において、電池ECU50は、第1のCCV測定処理により取得された電圧VBに基づいて、時刻t1における電圧VBの変化の割合r(t1)を算出する。変化の割合r(t1)の具体的な算出手法の一例を説明する。
【0086】
電池ECU50は、SMR40が開放される時刻0から電池ECU50が停止する時刻t2までの期間T1内の一定の時間幅Δ毎に、電圧VBの変化の割合r0を算出する。この例では期間T1は約20秒間であり、時間幅Δtは10秒間である。たとえば、電池ECU50は、SMR40が開放されてから1秒後における電圧VB(1)と、SMR40が開放されてから11秒後における電圧VB(11)とについて、電圧VBの変化の割合r0を算出する。
r1={VB(11)-VB(1)}/(√11/√1)
【0087】
さらに、電池ECU50は、SMR40が開放されてから2秒後における電圧VB(2)と、SMR40が開放されてから12秒後における電圧VB(12)とについて、電圧VBの変化の割合r2を算出する。
r2={VB(12)-VB(2)}/(√12/√2)
【0088】
説明は繰り返さないが、以降の電圧VBの変化の割合r3~r9についても同様に算出できる。電池ECU50は、算出された電圧VBの変化の割合r1~r9に対して所定の演算処理(たとえば加重平均または最大値の算出)を行うことで、時刻t1における電圧VBの変化の割合r(t1)を算出できる。これにより、係数aと係数bとの間の関係式である式(8)(再掲)が得られる。
a=r(t1)×b/{exp(-√(t1)/b)} ・・・(8)
【0089】
S52において、電池ECU50は、S51により求められた式(8)と、プラグイン接続時刻t5における電圧VBの検出値に関する下記式(10)と、期間T1内の所定時刻t1における電圧VBの検出値に関する下記式(11)とに基づいて、係数aと、係数bと、バッテリ10のOCVとを算出する。
VB(t5)=a×{1-exp(-√(t5)/b)}+OCV ・・・(10)
VB(t1)=a×{1-exp(-√(t1)/b)}+OCV ・・・(11)
【0090】
これにより、分極電圧Vpが一意に特定される(S53)。算出されたOCVは、容量推定処理のS96における電流積算開始時のOCVとして用いることができる(S54)。本実施の形態における分極推定処理は、電池ECU50が停止されてから再始動されるまでの時間が短く、電流積算開始時に比較的大きな分極が残っている場合に特に有効である。
【0091】
以上のように、本実施の形態においては、本発明者による鋭意検討の結果、実際の分極電圧Vpの挙動を正確に表現できるとの知見が得られた上記式(4)によって分極電圧Vpが記述される。そして、SMR40の開放後、バッテリ10の分極解消が急速に進んでいる期間T1内における分極電圧Vpの時間微分式(5)を用いて、式(4)に含まれる係数a,bが特定される。これにより、バッテリ10の特性毎、および/または、バッテリ10が置かれた状況毎の分極解消速度の違いが分極電圧Vpに正確に反映できる。したがって、本実施の形態によれば、バッテリ10の分極電圧Vpを高精度に推定できる。その結果、バッテリ10のOCVおよび満充電容量を高精度に推定することが可能になる。
【0092】
[変形例]
一般に、ECUなどの演算装置内では演算可能な最小桁数が決まっているため、無理数を高精度に演算するのは困難である。そのため、指数関数の演算はマップを用いて実現されるケースが多い。マップに用いられる数値は不連続(離散的)であり、隣り合う数値間が線形補完される。しかし、指数関数は非線形であるため、隣接する数値間の差が大きい場合(数値の刻みが粗い場合)には演算精度が低下し得る。一方、数値間の差を小さくすると(数値の刻みを密にすると)、マップを読み出すための演算負荷が大きくなる。本変形例においては、以下に説明するマップを準備してメモリ52に予め格納することで、指数関数(上記の各式ではexp)を演算する際の電池ECU50(プロセッサ51)の演算負荷を低減する。
【0093】
図8は、本変形例において使用されるマップの概念図である。このマップにおいては、指数(exp(-x)のxに相当)の位毎に、9通りの数字にそれぞれ対応する9つの数値が規定されている。具体的には、-10の位の指数については、10,20,・・・90の各々に数値が規定されている。-1の位の指数については、1,2,・・・9の各々に数値が規定されている。-0.1の位の指数については、0.1,0.2,・・・0.9の各々に数値が規定されている。-0.01の位の指数、-0.001の位の指数、-0.0001の位の指数についても同様である。
【0094】
下記式(12)に示すように、指数関数の底が共通(この例ではネイピア数e)である場合、指数が複数の値の和(x+y)により表される冪乗(左辺)は、指数x,y毎の冪乗の積(右辺)と等しい。
exp(x+y)=exp(x)×exp(y) ・・・(12)
【0095】
この関係を利用することで、演算対象の指数関数に関し、指数の位毎にマップに規定された数値を読み出し、読み出された数値を互いに掛け合わせることで、指数関数の値を演算できる。
【0096】
具体例を挙げて説明すると、exp(-12.3456)は、exp(-10)×exp(-2)×exp(-0.3)×exp(-0.04)×exp(-0.005)×exp(-0.0006)に等しい。したがって、マップを参照することで、exp(-10)に対応する数値を読み出し、exp(-2)に対応する数値を読み出し、exp(-0.3)に対応する数値を読み出し、exp(-0.04)に対応する数値を読み出し、exp(-0.005)に対応する数値を読み出し、exp(-0.0006)に対応する数値を読み出す。そして、読み出された6つの数値を互いに掛け合わせればよい。
【0097】
図8のマップに示される各数値の桁数(有効桁数)は例示である。桁数は、要求される分極電圧Vp(あるいはOCV、満充電容量など)の算出精度に応じて定めることができる。要求精度が比較的低い場合には、桁数を減らすことで、電池ECU50の演算負荷を一層低減できる。
【0098】
以上のように、本変形例によれば、分極電圧Vpの算出に使用される指数関数を低い演算負荷で算出できるので、電池ECU50の演算負荷を低減できる。
【0099】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0100】
1 車両、2 電池パック、10 バッテリ、20 セル、30 監視ユニット、31 電圧センサ、32 電流センサ、33 温度センサ、40 SMR、50 電池ECU、51 プロセッサ、52 メモリ、61 インレット、62 電力変換装置、63 充電リレー、71 PCU、72 モータジェネレータ、73 動力伝達ギヤ、74 駆動輪、80 パワースイッチ、90 統合ECU、91 プロセッサ、92 メモリ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8