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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】光共振器及び面発光レーザー
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/183 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
H01S5/183
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021112395
(22)【出願日】2021-07-06
(65)【公開番号】P2023008664
(43)【公開日】2023-01-19
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(74)【代理人】
【識別番号】230128026
【弁護士】
【氏名又は名称】駒木 寛隆
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 芙美枝
(72)【発明者】
【氏名】北川 雄真
(72)【発明者】
【氏名】手塚 信一郎
【審査官】百瀬 正之
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-161253(JP,A)
【文献】特開平06-232501(JP,A)
【文献】特表2016-523444(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0010031(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0303487(US,A1)
【文献】特開2004-281733(JP,A)
【文献】特開2005-223111(JP,A)
【文献】特開2018-139268(JP,A)
【文献】特表2015-524619(JP,A)
【文献】特開2015-032739(JP,A)
【文献】特表2002-500446(JP,A)
【文献】特開2017-022290(JP,A)
【文献】特開2014-099486(JP,A)
【文献】特表2016-502288(JP,A)
【文献】特開2020-160312(JP,A)
【文献】特開2010-211032(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流の印加により光を出射する化合物半導体と、
前記化合物半導体から出射した光を共振するための、第1の反射膜及び第2の反射膜と、
前記第1の反射膜及び前記第2の反射膜の間に設けられ、前記光の光路の幅を規制するスリットの一方の縁部を規定する梁部と、
前記スリットを含む層における前記梁部の位置を前記スリットの間隔方向に変化させる駆動部と、
を備える光共振器。
【請求項2】
前記化合物半導体と接合用電極を介して接合されたSOI基板を更に備え、
前記SOI基板は、前記接合用電極に接合する第1のSi層と、SiO2層と、第2のSi層とを積層して備え、
前記第1の反射膜は、前記化合物半導体の内部に設けられた第1の多層反射膜であり、
前記第2の反射膜は、前記第2のSi層の、前記化合物半導体が存在する側の表面に設けられた第2の多層反射膜であり、
前記第1のSi層は、前記第1の多層反射膜及び前記第2の多層反射膜の間の位置に、前記スリットを有し、
前記梁部及び前記駆動部は、前記第1のSi層の一部として設けられる、
請求項1に記載の光共振器。
【請求項3】
前記第1のSi層は、前記スリットの間隔方向に分離した、互いに電気的に分離した第3のSi層及び第4のSi層を備え、
前記梁部及び前記駆動部は、
前記第3のSi層の一部として設けられ、
前記第3のSi層及び前記第4のSi層の間に電圧が印加されたことに応じて、当該電圧に基づき発生する電場に基づき静電力が加えられて、前記電場の方向へ変位する、
請求項2に記載の光共振器。
【請求項4】
前記駆動部は、複数の櫛を有する櫛歯部を備える、請求項3に記載の光共振器。
【請求項5】
前記梁部は、両端を介して、前記第1のSi層の他の部分に接続し、
前記駆動部は、前記梁部に接続する複数の前記櫛歯部を備える、
請求項4に記載の光共振器。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の光共振器を備えた面発光レーザー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光共振器及び面発光レーザーに関する。
【背景技術】
【0002】
光共振器とは、対面させた反射体等の間に光を閉じ込め、光の定常波を作り出すための光学機器をいう。微小光共振器は、微細加工技術により非常に小さく作製された光共振器である。微小光共振器の一つとして、垂直キャビティ面発光レーザー(VCSEL:Vertical Cavity Surface Emitting Laser)にマイクロマシン(MEMS:Micro Electro Mechanical Systems)技術を応用した面発光レーザー(以下、「MEMS-VCSEL」と称する。)が知られている(非特許文献1)。MEMS-VCSELは、一方の誘電体反射膜(ミラー)がない半VCSEL構造チップと、マイクロマシン技術を用いて作製された凹面形状の可動式反射膜を持つSOI(Silicon On Insulator)基板とから構成される。MEMS-VCSELでは、SOI基板の可動式反射膜が形成されたシリコンメンブレン構造とシリコン基板との間に電圧を印加して静電力(クーロン力)により可動式反射膜を変位させることで、レーザー光の発振波長を高速に変化させることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】蒲原敦彦他、他5名、「MEMS技術を用いた高速波長可変面発光レーザー」、横河技報、横河電機株式会社、2008年、第52巻、第4号、p.153-156
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1のMEMS-VCSELを含むVCSEL基板による波長可変レーザーにおいては、結晶及び光共振器の面内対称性により、面内で特定の方向を持たない利得を有する基板が用いられる。そのため、このような面発光レーザー等の光共振器においては、偏光不安定性及び偏光スイッチングが発生し得る。偏光不安定性又は偏光スイッチングが発生すると、発振波長がシフトしたり光パワーが変動したりする現象が生じる。これを防止するために、偏光を制御するためのスリットを光共振器内に導入することも考えられる。
【0005】
しかしながら、偏光制御のための従来のスリットは静的であり、スリットの向き及び形状を動的に制御することができない。すなわち、いったんある方向でスリットを作製した場合、その後、偏光方向を変更することができない。そのため、光共振器にスリットを設けてある従来の光源からは、特定の一つの方向の直線偏光しか得ることができなかった。その結果、例えば直交した二つの偏光についての反射率を測定するような、偏光に依存した測定を行うには、半波長板等の外部素子が必要となった。このような場合、部品が増えるため小型化及び低コスト化の面が課題となり得た。
【0006】
本開示は偏光方向を動的に制御することが可能な光共振器及び面発光レーザーを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
幾つかの実施形態に係る光共振器は、電流の印加により光を出射する化合物半導体と、前記化合物半導体から出射した光を共振するための、第1の反射膜及び第2の反射膜と、前記第1の反射膜及び前記第2の反射膜の間に設けられ、前記光の光路の幅を規制するスリット一方の縁部を規定する梁部と、前記梁部を前記スリットの間隔方向に変位させる駆動部と、を備える。このように、光共振器は、化合物半導体から出射した光を共振する第1の反射膜及び第2の反射膜の間に設けられたスリットの間隔を制御可能な梁部及び駆動部を備える。したがって、このような光共振器によれば、偏光方向を動的に制御することが可能である。
【0008】
一実施形態において、前記化合物半導体と接合用電極を介して接合されたSOI基板を更に備え、前記SOI基板は、前記接合用電極に接合する第1のSi層と、SiO2層と、第2のSi層とを積層して備え、前記第1の反射膜は、前記化合物半導体の内部に設けられた第1の多層反射膜であり、前記第2の反射膜は、前記第2のSi層の、前記化合物半導体が存在する側の表面に設けられた第2の多層反射膜であり、前記第1のSi層は、前記第1の多層反射膜及び前記第2の多層反射膜の間の位置に、前記スリットを有し、前記梁部及び前記駆動部は、前記第1のSi層の一部として設けられる。このような構成によれば、MEMS-VCSELにおいて、偏光方向を動的に制御することが可能である。
【0009】
一実施形態において、前記第1のSi層は、前記スリットの間隔方向に分離した、互いに電気的に分離した第3のSi層及び第4のSi層を備え、前記梁部及び前記駆動部は、前記第3のSi層の一部として設けられ、前記第3のSi層及び前記第4のSi層の間に電圧が印加されたことに応じて、当該電圧に基づき発生する電場に基づき静電力が加えられて、前記電場の方向へ変位する。このように、第3のSi層及び第4のSi層の間に電圧を印加することで、梁部が変位するため、スリットの間隔を制御することが可能である。
【0010】
一実施形態において、前記駆動部は、複数の櫛を有する櫛歯部を備える。このように、光共振器は複数の櫛を有する櫛歯部を備えることで、スリット制御機構の表面積が大きくなり、梁部及び櫛歯部には電場に基づき大きな静電力が加えられる。そのため、小さな電圧でスリットの間隔を変更することが可能である。
【0011】
一実施形態において、前記梁部は、両端を介して、前記第1のSi層の他の部分に接続し、前記駆動部は、前記梁部に接続する複数の前記櫛歯部を備える。このように、梁部に接続する複数の櫛歯部を備えることで、梁部には全体にわたって均等な静電力が加えられる。そのため、電場の発生に応じて梁部はほぼ均等に変位し、スリットの第1、第2の多層反射膜の間で光が共振する範囲において、スリットの縁部をほぼ平行に保つことができる。
【0012】
一実施形態において、面発光レーザーは、上記光共振器を備える。このような構成によれば、スリットの間隔を変更可能な面発光レーザーを提供することができる。
【発明の効果】
【0013】
本開示の一実施形態によれば、偏光方向を動的に制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】比較例に係る光共振器の構成を模式的に示す図である。
図2】本開示の一実施形態に係る面発光レーザーの構成を示すブロック図である。
図3】本開示の一実施形態に係る光共振器の構成を模式的に示す側面断面図である。
図4図3におけるA12断面図である。
図5】数値計算に用いられた光共振器の構成を示す図である。
図6A】スリットがない光共振器のTMモードの電場減衰を示す図である。
図6B】スリットがない光共振器のTEモードの電場減衰を示す図である。
図7A】間隔2μmのスリットを有する光共振器のTMモードの電場減衰を示す図である。
図7B】間隔2μmのスリットを有する光共振器のTEモードの電場減衰を示す図である。
図8A】間隔5μmのスリットを有する光共振器のTMモードの電場減衰を示す図である。
図8B】間隔5μmのスリットを有する光共振器のTEモードの電場減衰を示す図である。
図9A】間隔8μmのスリットを有する光共振器のTMモードの電場減衰を示す図である。
図9B】間隔8μmのスリットを有する光共振器のTEモードの電場減衰を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<比較例>
図1は、比較例に係る光共振器9の構成を模式的に示す図である。図1は、非特許文献1のMEMS-VCSELにおける光共振器9を示している。光共振器9は、誘電体反射膜を持たない半VCSEL構造チップ80、及び、可動式反射膜を有するSOI基板90から成る。
【0016】
半VCSEL構造チップ80は、InP(リン化インジウム)層81、多層反射膜82、及び電極83,84を備える。SOI基板90は、Si(シリコン)層91、SiO2(二酸化ケイ素)層92、Si層93、多層反射膜95、反射防止膜96、及び電極97を備える。図4に示すように、半VCSEL構造チップ80、及び、SOI基板90は、熱圧着により接合することで、一体として形成される。VCSEL駆動用の電流源85により電極83,84の間に電流が供給されると、InP層81において光が生成される。生成された光は多層反射膜82及び多層反射膜95の間で共振し、反射防止膜96を通過して開口部99からレーザー光Lとして出力される。
【0017】
多層反射膜95は誘電体多層構造を有する凹面反射膜(ミラー)であり、Siメンブレン94上に形成される。可動膜としてのSiメンブレン94はSi層91の一部に形成され、Siの薄いメンブレン(膜)構造を有する。Si層91,93は導体であり、SiO2層92は不導体(絶縁体)である。Si層91とSi層93との間には、SiO2層92によりギャップGが存在する。そのため、Si層91に接合している電極84と、Si層93に形成された電極97との間に電圧源98により電圧が印加されると、Siメンブレン94とSi層93との間に電位差が生じ、Siメンブレン94の周辺には電場が発生する。この電場によって、Si層91のSiメンブレン94の部分に静電力が加えられ、Siメンブレン94は、Si層93側へ向かう方向又はその反対方向へ引き寄せられる。その結果、半VCSEL構造チップ80の内部にある多層反射膜82とSiメンブレン94上にある多層反射膜95との間の距離が短く又は長くなり、レーザー光Lの発振波長が短波長側又は長波長側に変化する。したがって、比較例に係る光共振器9によれば、電極84及び電極97の間に電圧を印加することにより、レーザー光Lの波長を広い波長範囲で高速に変化させることができる。
【0018】
比較例に係る光共振器9においては、結晶及び光共振器9の面内対称性により、面内で特定の方向を持たない利得を有する基板が用いられる。そのため、このような光共振器9においては、偏光不安定性及び偏光スイッチングが発生し得る。偏光不安定性又は偏光スイッチングが発生すると、発振波長がシフトしたり光パワーが変動したりする現象が生じる。これを防止するために、偏光を制御するためのスリットを光共振器9内に導入することも考えられる。
【0019】
しかしながら、偏光制御のための従来のスリットは静的であり、スリットの向き及び形状を動的に制御することができない。すなわち、いったんある方向でスリットを作製した場合、その後、偏光方向を変更することができない。そのため、光共振器9に従来のスリットを設けてなる光源からは、特定の一つの方向の直線偏光しか得ることができなかった。その結果、例えば直交した二つの偏光についての反射率を測定するような、偏光に依存した測定を行うには、半波長板等の外部素子が必要となった。このような場合、部品が増えるため小型化及び低コスト化の面が課題となり得た。
【0020】
<実施形態>
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照して説明する。各図面中、同一の構成又は機能を有する部分には、同一の符号を付している。本実施形態の説明において、同一の部分については、重複する説明を適宜省略又は簡略化する場合がある。
【0021】
図2は、本開示の一実施形態に係る光共振器10を含む面発光レーザー1の構成を示すブロック図である。図2に示すように、面発光レーザー1は、光共振器10、電流源71、及び電圧源72を備える。光共振器10は、半VCSEL構造チップ20、及び、SOI基板30を備える。
【0022】
半VCSEL構造チップ20は、発光部及び電極を備える。SOI基板30は、電極及びスリット制御機構を備える。半VCSEL構造チップ20の発光部は化合物半導体であり、半VCSEL構造チップ20の電極を介して電流源71から電流が印加されると、光を発する。半VCSEL構造チップ20及びSOI基板30の各々は反射膜を有する。発光部において発せられた光は、半VCSEL構造チップ20の反射膜とSOI基板30の反射膜との間で共振し、レーザー光として出力される。
【0023】
本実施形態に係るSOI基板30は、各反射膜の間に設けられたスリットの大きさを変更するスリット制御機構を備える。本実施形態では、スリットはSOI活性層で形成される。スリット制御機構は、SOI基板30の電極を介して電圧源72から電圧が印加されると、静電力によりスリットの形状を変化させる。したがって、本開示に係る光共振器10は、レーザー光の偏光状態を動的に制御することが可能である。SOI基板30は、MEMSチップで構成されてもよい。
【0024】
図3は光共振器10の構成を模式的に示す側面断面図である。図4図3におけるA12断面図である。図3及び図4は、半VCSEL構造チップ20がZ軸正方向、SOI基板30がZ軸負方向に位置するように、半VCSEL構造チップ20及びSOI基板30を設けた場合における、光共振器10の鉛直平面B12図4)での断面を示している。図4は、光共振器10を水平平面A12図3)で切断した断面をZ軸正方向からZ軸負方向へ見た様子を示している。
【0025】
図3及び図4に示すように、半VCSEL構造チップ20は、図3正面視方向上から順に、すなわちZ軸正方向から負方向に向かって順に、電極23、InP層21、多層反射膜22、InP層21、及び電極24を備える。SOI基板30は、Z軸正方向から負方向に向かって順に、Si層31、SiO2層32、Si層33を備える。SOI基板30は、Si層31のZ軸正方向の表面に電極36,37を更に備える。図3に示すように、Si層31及びSi層33の間にはSiO2層32が存在しない空間であるギャップG1が存在する。SOI基板30は、ギャップG1と接触するSi層33のZ軸正方向の表面に反射防止膜34及び多層反射膜35を備える。
【0026】
図3に示すように、半VCSEL構造チップ20の第1の反射膜としての多層反射膜22は、化合物半導体である二つのInP層21の間に配置される。InP層21のZ軸正方向側の表面には電極23が設けられる。InP層21のZ軸負方向側の表面には電極24が設けられる。電極23,24は、例えば、金(Au)により構成してもよい。
【0027】
SOI基板30は、第1のSi層としてのSi層31と、第2のSi層としてのSi層33との間に絶縁体であるSiO2層32と、を備え、SiO2層32はSi層31とSi層33とを電気的に切り離す。SOI基板30は、Si層31とSi層33との間に、SiO2層32が存在しない空間であるギャップG1を有する。図4に示すように、半VCSEL構造チップ20及びSOI基板30は、熱圧着により接合することで、一体として形成される。接合用電極としての電極24は、半VCSEL構造チップ20のZ軸負方向側の表面に設けられた電極と、SOI基板30のZ軸正方向側の表面に設けられた電極とを、熱圧着により接合することで形成されてもよい。
【0028】
SOI基板30は、Si層33のZ軸正方向側の表面に第2の反射膜としての多層反射膜35を備える。多層反射膜35は、例えば、凹面形状の誘電体多層構造を有する。Si層33は、多層反射膜35のZ軸負方向側には開口部39を有する。SOI基板30は、多層反射膜35の開口部39側の表面に反射防止膜34を備える。反射防止膜34は、表面反射を軽減するコーティングであり、レーザーの効率を向上させる。VCSEL駆動用の電流源71により電極23,24の間に電流が供給されると、半VCSEL構造チップ20は、InP層21において光を生成する。生成された光は多層反射膜22及び多層反射膜35の間で共振し、反射防止膜34を通過して開口部39からレーザー光Lとして出力される。なお、Siに吸収されない光が出力される場合は、開口部39を設けなくてもよい。
【0029】
図4に示すように、Si層31は、Si層31a及びSi層31bを有する。図4の例では、電極24はSi層31bに接合している。SOI基板30は、第4のSi層としてのSi層31aと、第3のSi層としてのSi層31bとの間にギャップG2を有し、Si層31a及びSi層31bを互いに電気的に絶縁している。SOI基板30は、Si層31bに、多層反射膜35のZ軸正方向の位置にスリット(すき間)Sを備える。スリットSは、多層反射膜22及び多層反射膜35の間で共振する光の光路の幅を規制する。InP層21において生成された光はスリットSを通過して共振することになる。SOI基板30は、Si層31bの一部に形成された、スリットSの形状を制御するためのスリット制御機構40を備える。スリット制御機構40は、櫛歯部41(41a,41b)及び梁部42を備える。スリット制御機構40はSiで形成されており、梁部42の両端の端部42a,42bを介して、Si層31bの他の部分と連続している。図4に示すように、スリット制御機構40の梁部42は、スリットSのY軸正方向側の形状を定める。梁部42は、Y軸正方向に電場が存在すると、静電力によりY軸正方向又はY軸負方向へ変位するような、Y軸方向の厚さを有する。静電気力により変位する際、梁部42は、両端の端部42a,42bにおいてSi層31bの他の部分と接続したまま湾曲する。
【0030】
図4に示すように、SOI基板30は、Si層31aに電極36を備え、Si層31bに電極37を備える。電極36,37は、例えば、金により構成してもよい。電極36と電極37との間に電圧源72により電圧が印加されると、Si層31aとSi層31bとの間に電位差が生じ、梁部42の周辺にはY軸正方向又はY軸負方向の電場が発生する。この電場によって、スリット制御機構40に静電力が加えられ、梁部42は、Y軸正方向又はY軸負方向へ引き寄せられる。したがって、光共振器10は、電極36と電極37との間に電圧が印加されることにより、スリットSの形状を動的に変化させることが可能である。
【0031】
梁部42をスリットSの間隔方向(例えば、Y軸正方向又はY軸負方向)に変位させる駆動部としての櫛歯部41(41a,41b)は、スリット制御機構40の変位方向に延びた複数の櫛43を持つ櫛歯形状を有する。図4の例では、櫛歯部41a,41bはそれぞれ3本の櫛43を有する。Si層31aは、静電力によりスリット制御機構40が変位しても櫛歯部41(41a,41b)に接触しないように構成される。また、Si層31aは、電極36,37の間に電圧が印加された場合にスリット制御機構40対して強い静電力を及ぼすように、櫛歯部41(41a,41b)の櫛歯形状に合わせた形状を有する。このように、スリット制御機構40は櫛歯部41(41a,41b)を備え、Si層31aにも櫛歯部41(41a,41b)に合わせた形状が設けられる。これにより、静電力を及ぼすための表面積が大きくなり、同一の電場においてより強い静電力をスリット制御機構40に加えることができる。したがって、電圧源72の駆動電圧を低減させることが可能である。
【0032】
また、図4の例では、2つの櫛歯部41a,41bが設けられている。このように、スリット制御機構40は、複数の櫛歯部41a,41bを備える。また、前述のように、梁部42は、両端の端部42a,42bを介して、Si層31bの他の部分に接続したまま湾曲する。したがって、スリット制御機構40は、梁部42を、平行に、すなわち、X軸方向の位置にかかわらずほぼ一様に、Y軸正方向又はY軸負方向、すなわち、スリットSの間隔方向へ変位させることが可能である。よって、スリット制御機構40は、光が共振する多層反射膜35のZ軸正方向の部分において、梁部42の縁部をほぼX軸に平行に保つことが可能である。
【0033】
このように、光が共振する範囲において、スリットSの縁部をほぼ平行に保ちつつ、スリットSの間隔を変更することで、レーザー光の偏光の方向を、X軸方向とY軸方向のいずれの方向にも定めることができる。スリットSの間隔に応じて、スリットSの長手方向と、その長手方向に直交する方向との間で、偏光の方向を切り替えることが可能であることを数値解析により確認したので、以下に説明する。
【0034】
図5は、数値計算において前提とされた光共振器60のモデルを示す図である。図5において、反射膜61,62はいずれも理想的な導体である。光源63からは光が出力される。光源63から出力された光は、反射膜61,62の間で往復する。光共振器長は8um、波長は1.6um、光源の半値全幅は8umとした。光が共振する領域には、金等の導体64a,64bにより規定されたスリット65が設けられている。導体64aの幅はW1であり、高さはHである。導体64bの幅はW2であり、高さはHである。スリット65の間隔はMである。2次元で数値計算する場合、導体64a,64bの長さ及びスリット65の長さは無限大と見なせる。図5に示すように、導体64a,64bの長手方向及びスリット65の長手方向はY軸に平行である。W1、W2、及びHは、現実の光共振器の大きさに応じて適宜設定される。
【0035】
図5のような構成をモデルとして、光共振器60のスリット65の効果を有限差分時間領域(FDTD:Finite Difference Time Domain)法を用いた計算により確認した。その結果、以下に説明するように、スリット65の間隔Mに応じて偏光方向を制御可能なことが確認できた。
【0036】
FDTD法を用いた数値計算により、スリット65の間隔Mを変化させた光共振器60のモデル内でTEモード(Ey、スリット平行)の光、及びTM(Ex、スリット垂直)モードの光をZ方向に往復させることで、各モードの回折損失を見積もった。時間経過に伴い、電場は、回折損失により減衰する。この電場の減衰が遅い方のモードが光共振器60内で優勢となり、光共振器60において発振することになる。すなわち、出力されるレーザー光は、電場Ex、Eyのどちらが優勢かに応じて、スリット65の長手方向に垂直な方向と平行な方向とのいずれか一方の偏光方向を有することになる。
【0037】
図6A図9Bは光共振器における電場の減衰を示す図である。図6A図9Bの各々において、横軸は経過時間(単位はピコ秒)、縦軸は電場の大きさ(単位は任意単位)を示す。図6Aは、スリット65がない光共振器のTMモードの電場減衰を示す図である。スリット65がない場合とは、導体64a及び導体64bが設けられない場合、又は、スリットの間隔Mが無限大の長さを有する場合に当たる。図6Bは、スリット65がない光共振器のTEモードの電場減衰を示す図である。スリット65がない場合は、図6A及び図6BのようにTEモードとTMモードの両者における、電場減衰の速度は一致した。
【0038】
これに対し、スリット65を搭載して、スリット65の間隔Mを変えると、偏光選択性が変化した。図7Aは、間隔2μmのスリット65を有する光共振器60のTMモードの電場減衰を示す図である。図7Bは、間隔2μmのスリット65を有する光共振器60のTEモードの電場減衰を示す図である。図8Aは、間隔5μmのスリット65を有する光共振器60のTMモードの電場減衰を示す図である。図8Bは、間隔5μmのスリット65を有する光共振器60のTEモードの電場減衰を示す図である。図9Aは、間隔8μmのスリット65を有する光共振器60のTMモードの電場減衰を示す図である。図9Bは、間隔8μmのスリット65を有する光共振器60のTEモードの電場減衰を示す図である。
【0039】
電場Ex、Eyの減衰をa,bをパラメータとする指数関数の式E=a・exp(-bt)でフィッティングし、減衰率をbにより求めた。その結果、スリット65の間隔M=2umでは、Exのb=20.4、Eyのb=14.7となり、TEモードが優勢となった。スリット65の間隔M=5umの場合はExのb=4.7、Eyのb=2.6となり、TEモードが優勢となった。スリット65の間隔M=8umでは、Exのb=2.2とEyのb=2.9となり、TMモードが優勢となった。このようにスリット65の間隔Mを変えると、Ex、Eyの減衰率のうち優勢な方が切り替わる。そのため、スリット65の間隔Mを変えることで、偏光選択性を制御することが可能になる。
【0040】
FDTD法による数値解析は一定の形状を有する光共振器60のモデルについて行われたが、TEモード及びTMモードの電場減衰の傾向は、本実施形態に係る光共振器10においても同様に当てはまる。したがって、光共振器10においては、電極36,37の間に電圧を印加してスリット制御機構40をY軸方向に変位させてスリットSの間隔を変化させることで、レーザー光の偏光をX軸に平行な方向とY軸に平行な方向との間で切り替えることが可能である。本実施形態に係る光共振器10を用いることにより、スリットSの有無及びその間隔により、互いに直交する2つの偏光を一つの光源により出力するレーザーを作製することが可能である。よって、光共振器10によれば、半波長板等の外部素子を設けなくても、直交した二つの偏光についての反射率を測定するような、偏光に依存した測定を行うことが可能である。本実施形態に係る光共振器10を備えた面発光レーザー1は、偏光依存測定システムの小型化及び低コスト化に寄与することが期待される。
【0041】
以上のように、本実施形態に係る光共振器10は、偏光制御機構としての可動式スリット構造を有する。光共振器10は、InP基板から作製した半VCSEL構造チップ20と、SOI基板30とを、電極24により接合することにより形成される。SOI基板30には予めスリット制御機構40が作製されている。スリット制御機構40は、SOI基板30中に作製した梁部42と、Si層36bに対向した櫛歯部41を有する。電圧源72により電極36,37の間に電圧を印加することで、スリット制御機構40の周辺に電場が発生し、スリット制御機構40に静電力が加えられる。その結果、スリット制御機構40はY軸方向に変位し、スリットSの間隔が変更される。これにより、多層反射膜22及び多層反射膜35の間で共振する光が通過可能なスリットSの間隔を能動的に変化させることができる。よって、印加電圧を変化させることにより、偏光選択性を能動的に制御することが可能となる。
【0042】
なお、上記実施形態に係る光共振器10においては、レーザー光の発振波長は一定であるが、比較例に係る構成と同様にSOI基板30の多層反射膜35をZ軸方向に変位できるようにして、レーザー光の発振波長を動的に変更できるようにしてもよい。例えば、SOI基板30側の多層反射膜35を変位可能なSiメンブレン上に形成し、Siメンブレン周辺においてZ軸方向に電場を生成できるようにしてもよい。これにより、電場の生成に応じて、Siメンブレンは静電力によりZ軸方向に変位し、反射膜間の距離が変更される。したがって、Z軸方向の電場を生成するための電圧の印加により、レーザー光の発振波長を変更することができる。
【0043】
また、上記実施形態においては、MEMS-VCSELのMEMSチップで構成されたSOI基板30に可動式のスリットSを設けた例を説明したが、可動式のスリットSの適用対象はこれに限られない。すなわち、一対の反射膜の間で光が共振する領域において、スリットSの長手方向と直交する方向に静電力により変位するようにスリット制御機構40を設け、スリット間隔を変更できるようにしてもよい。このようなスリット制御機構40を備えた光共振器10によれば、偏光選択性を能動的に制御することが可能である。
【0044】
以上のように、光共振器10は、化合物半導体(例えば、InP)、第1の反射膜(例えば、多層反射膜22)、第2の反射膜(例えば、多層反射膜35)、及びスリット制御機構40を備える。スリット制御機構40は、梁部42及び駆動部(例えば、櫛歯部41(41a,41b))を備える。化合物半導体は、電流の印加により光を出射する。第1の反射膜及び第2の反射膜は、化合物半導体から出射した光を共振する。梁部42は、第1の反射膜及び第2の反射膜の間に設けられ、光の光路の幅を規制するスリットSの一方の縁部を規定する。駆動部は、梁部42をスリットSの間隔方向(例えば、Y軸正方向又はY軸負方向)に変位させる。このように、光共振器10は、化合物半導体から出射した光を共振する第1の反射膜及び第2の反射膜の間に設けられたスリットSの間隔を制御可能なスリット制御機構40を備える。したがって、このような光共振器10によれば、偏光方向を動的に制御することが可能である。なお、電流の印加により光を出射する化合物半導体は、InPに限られず、GaAs、InGaAlP、又はAlGaAs等により実現してもよい。
【0045】
また、光共振器10は、化合物半導体と接合用電極(例えば、電極24)を介して接合されたSOI基板30を更に備える。SOI基板30は、接合用電極に接合する第1のSi層(例えば、Si層31)と、SiO2層(例えば、SiO2層32)と、第2のSi層(例えば、Si層33)とが積層して構成される。第1の反射膜は、化合物半導体の内部に設けられた第1の多層反射膜である。第2の反射膜は、第2のSi層の、化合物半導体が存在する側の表面に設けられた第2の多層反射膜である。第1のSi層は、第1の多層反射膜及び第2の多層反射膜の間の位置に、スリットSを有する。スリット制御機構40(梁部42及び駆動部)は、第1のSi層の一部として設けられる。このような構成によれば、MEMS-VCSELにおいて、偏光方向を動的に制御することが可能である。
【0046】
また、第1のSi層は、スリットSの長手方向と直交する方向(スリットSの間隔方向)に分離した、互いに電気的に分離した第3のSi層(例えば、Si層31b)及び第4のSi層(例えば、Si層31a)を備える。スリット制御機構40は、第3のSi層の一部として設けられる。第3のSi層及び第4のSi層の間に電圧が印加されたことに応じて、スリット制御機構40は、当該電圧に基づき発生する電場に基づき静電力が加えられて、電場の方向へ変位する。このように、第3のSi層及び第4のSi層の間に電圧を印加することで、スリット制御機構40が変位するため、スリットSの間隔を制御することが可能である。
【0047】
また、スリット制御機構40は、複数の櫛(例えば、櫛43)を有する駆動部としての櫛歯部(例えば、櫛歯部41)を備える。このように、スリット制御機構40は複数の櫛を有する櫛歯部を備えることで、スリット制御機構40の表面積が大きくなり、スリット制御機構40には電場に基づき大きな静電力が加えられる。そのため、小さな電圧でスリットSの間隔を変更することが可能である。なお、図4の例では、櫛歯部41(41a,41b)は、それぞれ3本の櫛43を備えるが、櫛歯部41は、2本又は4本以上の櫛43を備えてもよい。
【0048】
また、梁部は、両端(例えば、42a,42b)を介して、第1のSi層の他の部分に接続する。駆動部としての櫛歯部41は、梁部に接続する櫛歯部(例えば、41a,41b)を備える。このように、梁部に接続する複数の櫛歯部を備えることで、梁部には全体にわたって均等な静電力が加えられる。そのため、電場の発生に応じて梁部はほぼ均等に変位し、スリットSの第1、第2の多層反射膜の間で光が共振する範囲において、スリットSの縁部をほぼ平行に保つことができる。なお、図4の例では、スリット制御機構40には2つの櫛歯部41a,41bが設けられているが、スリット制御機構40は、3つ以上の櫛歯部41を備えてもよい。
【0049】
また、面発光レーザー1は、上記のような光共振器10を備える。このような構成によれば、スリットの間隔を変更可能な面発光レーザー1を提供することができる。
【0050】
本開示は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、ブロック図に記載の複数のブロックは統合されてもよいし、又は1つのブロックは分割されてもよい。その他、本開示の趣旨を逸脱しない範囲での変更が可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 面発光レーザー
9 光共振器
10 光共振器
20 半VCSEL構造チップ
21 InP層
22 多層反射膜
23,24 電極
30 SOI基板
31,33 Si層
32 SiO2
34 反射防止膜
35 多層反射膜
36,37 電極
39 開口部
40 スリット制御機構
41 櫛歯部
42 梁部
42a,42b 端部
43 櫛
60 光共振器
61,62 反射膜
63 光源
64a,64b 導体
65 スリット
71 電流源
72 電圧源
80 半VCSEL構造チップ
81 InP層
82 多層反射膜
83,84 電極
85 電流源
90 SOI基板
91,93 Si層
92 SiO2
94 Siメンブレン
95 多層反射膜
96 反射防止膜
97 電極
98 電圧源
99 開口部
G、G1、G2 ギャップ
L レーザー光
M 間隔
S スリット
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B