(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/0285 20060101AFI20240814BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20240814BHJP
A61B 5/1455 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
A61B5/0285 H
A61B10/00 K
A61B5/1455
(21)【出願番号】P 2021528152
(86)(22)【出願日】2020-06-11
(86)【国際出願番号】 JP2020022939
(87)【国際公開番号】W WO2020255840
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2023-04-17
(31)【優先権主張番号】P 2019114591
(32)【優先日】2019-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002185
【氏名又は名称】ソニーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大久保 厚志
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0125376(US,A1)
【文献】特開2015-054219(JP,A)
【文献】国際公開第2009/081883(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/146690(WO,A1)
【文献】特開2017-124153(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
血流量の検出結果に基づいて、心疾患に関する評価値を算出する算出部
を具備
し、
前記算出部は、前記評価値として、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)値、又はNT-proBNP値の少なくとも一方を算出する
情報処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記算出部は、所定の学習アルゴリズムに従って、前記評価値を算出する
情報処理装置。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の情報処理装置であって、
前記血流量の検出結果は、レーザードップラー血流計による検出結果を含む
情報処理装置。
【請求項4】
血流量の検出結果に基づいて、心疾患に関する評価値を算出する算出部
を具備
し、
前記算出部は、血流速度を複数の速度区間に分け、各々の速度区間における血流量に基づいて、前記評価値を算出する
情報処理装置。
【請求項5】
請求項
4に記載の情報処理装置であって、
前記算出部は、前記各々の速度区間における血流量の比率に基づいて、前記評価値を算出する
情報処理装置。
【請求項6】
血流量の検出結果に基づいて、心疾患に関する評価値を算出する算出部
を具備
し、
前記算出部は、血流速度を複数の速度区間に分け、全ての速度区間における血流量に対する、所定の速度区間における血流量の比率に基づいて、前記評価値を算出する
情報処理装置。
【請求項7】
血流量の検出結果に基づいて、心疾患に関する評価値を算出する算出部
を具備
し、
前記算出部は、血流速度を複数の速度区間に分け、所定の速度区間における血流量に基づいて、前記評価値を算出し、
前記所定の速度区間は、前記複数の速度区間のうち低速側の速度区間である
情報処理装置。
【請求項8】
請求項1に記載の情報処理装置であって、
前記算出部は、前記血流量の検出結果の時系列変化に基づいて、前記評価値を算出する
情報処理装置。
【請求項9】
請求項1
から8のうちいずれか1項に記載の情報処理装置であって、さらに、
前記血流量を検出可能な検出装置を具備する
情報処理装置。
【請求項10】
請求項
9に記載の情報処理装置であって、
前記検出装置は、レーザードップラー血流計である
情報処理装置。
【請求項11】
請求項1
から10のうちいずれか1項に記載の情報処理装置であって、さらに、
算出された前記評価値に基づいて、心疾患に関する通知情報を生成する生成部を具備する
情報処理装置。
【請求項12】
請求項1
1に記載の情報処理装置であって、さらに、
生成された前記通知情報をユーザに通知する通知部を具備する
情報処理装置。
【請求項13】
請求項1
から12のうちいずれか1項に記載の情報処理装置であって、
ウェアラブル装置、又は携帯端末として構成される
情報処理装置。
【請求項14】
請求項1
から13のうちいずれか1項に記載の情報処理装置であって、
車載装置、又はロボットの一部として構成される
情報処理装置。
【請求項15】
血流量の検出結果に基づいて、心疾患に関する評価値
として、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)値、又はNT-proBNP値の少なくとも一方を算出する
ことをコンピュータシステムが実行する情報処理方法。
【請求項16】
血流量の検出結果に基づいて、心疾患に関する評価値
として、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)値、又はNT-proBNP値の少なくとも一方を算出するステップ
をコンピュータシステムに実行させるプログラム。
【請求項17】
コンピュータシステムが実行する情報処理方法であって、
血流量の検出結果に基づいて、心疾患に関する評価値を算出する
算出ステップを含み、
前記算出ステップは、血流速度を複数の速度区間に分け、各々の速度区間における血流量に基づいて、前記評価値を算出する
情報処理方法。
【請求項18】
コンピュータシステムに情報処理方法を実行させるプログラムであって、
前記情報処理方法は、
血流量の検出結果に基づいて、心疾患に関する評価値を算出する
算出ステップ
を含み、
前記算出ステップは、血流速度を複数の速度区間に分け、各々の速度区間における血流量に基づいて、前記評価値を算出する
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、心疾患の診断等に適用可能な情報処理装置、情報処理方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
血管中を流れる血流の速度を計測する血流速度センサとして、種々の方式のものが開発されている。例えば特許文献1には、レーザードップラー血流計について開示されている。
レーザードップラー血流計では、生体にレーザー光が照射される。レーザー光は、生体組織によって反射され散乱光が生じる。赤血球のような血流によって移動する粒子により反射された散乱光は、他の移動しない組織により反射される散乱光に対して、ドップラー効果による波長のシフト(ドップラーシフト)が生じる。
散乱光を検出してドップラーシフトに関連した信号変化を得ることにより、赤血球等の血中粒子の移動速度、すなわち血流速度を計測することが可能である。また、この計測原理を用いて、血中粒子以外にも測定対象物内を移動する粒子群の速度を計測することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、心疾患の状態を表すバイオマーカーとして、血液中のBNPやNT-proBNPの値が、広く診断等に用いられている。BNPやNT-proBNPの値を計測するためには血液検査が必要であるので、定期的に医療機関に通うといったことが必要となる。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本技術の目的は、心疾患の状態を簡単に把握することを可能とする情報処理装置、情報処理方法、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本技術に係る情報処理装置は、算出部を具備する。
前記算出部は、血流量の検出結果に基づいて、心疾患に関する評価値を算出する。
【0007】
この情報処理装置では、血流量の検出結果に基づいて、心疾患に関する評価値が算出される。これにより心疾患の状態を簡単に把握することを可能となる。
【0008】
前記算出部は、所定の学習アルゴリズムに従って、前記評価値を算出してもよい。
【0009】
前記算出部は、前記評価値として、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)値、又はNT-proBNP値の少なくとも一方を算出してもよい。
【0010】
前記血流量の検出結果は、レーザードップラー血流計による検出結果を含んでもよい。
【0011】
前記算出部は、血流速度を複数の速度区間に分け、各々の速度区間における血流量に基づいて、前記評価値を算出してもよい。
【0012】
前記算出部は、前記各々の速度区間における血流量の比率に基づいて、前記評価値を算出してもよい。
【0013】
前記算出部は、血流速度を複数の速度区間に分け、所定の速度区間における血流量に基づいて、前記評価値を算出してもよい。
【0014】
前記算出部は、全ての速度区間における血流量に対する、前記所定の速度区間における血流量の比率に基づいて、前記評価値を算出してもよい。
【0015】
前記所定の速度区間は、前記複数の速度区間のうち低速側の速度区間であってもよい。
【0016】
前記算出部は、前記血流量の検出結果の時系列変化に基づいて、前記評価値を算出してもよい。
【0017】
前記情報処理装置は、さらに、前記血流量を検出可能な検出装置を具備してもよい。
【0018】
前記検出装置は、レーザードップラー血流計であってもよい。
【0019】
前記情報処理装置は、さらに、算出された前記評価値に基づいて、心疾患に関する通知情報を生成する生成部を具備してもよい。
【0020】
前記情報処理装置は、さらに、生成された前記通知情報をユーザに通知する通知部を具備してもよい。
【0021】
前記情報処理装置は、ウェアラブル装置、又は携帯端末として構成されてもよい。
【0022】
前記情報処理装置は、車載装置、又はロボットの一部として構成されてもよい。
【0023】
本技術の一形態に係る情報処理方法は、コンピュータシステムにより実行される情報処理方法であって、血流量の検出結果に基づいて、心疾患に関する評価値を算出することを含む。
【0024】
本技術の一形態に係るプログラムは、コンピュータシステムに以下のステップを実行させる。
血流量の検出結果に基づいて、心疾患に関する評価値を算出するステップ。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】一実施形態に係る心疾患チェックシステムの概要を示す模式図である。
【
図2】心疾患チェックシステムの動作例を示すフローチャートである。
【
図3】ドップラーシフト、及びドップラービートを説明するための模式図である。
【
図4】レーザードップラー血流計の原理的な構成例を示す模式図である。
【
図5】散乱体の移動によるドップラーシフトを示す模式図である。
【
図6】レーザードップラー血流計の具体的な構成例を示す模式図である。
【
図7】受光部から出力されるうなり信号の例である。
【
図8】受光部から出力されるうなり信号の信号処理結果の例である。
【
図9】BNP値の算出用の学習済モデルの生成例を説明するための模式図である。
【
図10】血流速度区分に基づいた心疾患評価値の算出を説明するための図である。
【
図11】血流速度区分に基づいた心疾患評価値の算出例を示すフローチャートである。
【
図12】一実施形態に係る心疾患チェック装置の構成例を示す概略図である。
【
図13】評価値算出装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[心疾患チェックシステム]
図1は、本技術の一実施形態に係る心疾患チェックシステムの概要を示す模式図である。
図2は、心疾患チェックシステムの動作例を示すフローチャートである。
心疾患チェックシステムは、本技術に係る情報処理システムの一実施形態に相当する。なお、心疾患チェックは、心疾患簡易診断とも言える。
【0027】
心疾患チェックシステム100は、センサ装置10と、評価値算出装置30と、通知装置40とを有する。
センサ装置10、評価値算出装置30、及び通知装置40は、互いに通信可能に接続される。各デバイスの接続形態は限定されず、有線又は無線により、ネットワーク通信や近距離無線通信が可能に構成される。あるいはケーブル等を介して、各デバイスが直接的に接続されてもよい。
【0028】
センサ装置10は、心疾患チェックシステム100を利用するユーザ1の血流量を検出する(ステップ001)。
センサ装置10の具体的な構成は限定されず、ユーザ1の血流量を検出可能な任意の構成が採用されてよい。また、ユーザ1の血流量を検出するための方法(アルゴリズム等)等も限定されず、任意の技術が用いられてよい。
センサ装置10は、血流量の検出結果として血流量情報を生成し、評価値算出装置30に出力する。なお、血流量情報は、血流量に関する任意の情報を含む。
本実施形態において、センサ装置10は、血流量を検出可能な検出装置として機能する。
【0029】
評価値算出装置30は、センサ装置10から出力される血流量情報に基づいて、心疾患評価値を算出する(ステップ102)。
心疾患評価値は、心疾患に関する評価値であり、心疾患に含まれる任意の病気(症状)に関する評価値を含む。例えば、心不全、狭心症、心筋梗塞、大動脈瘤、大動脈解離、弁膜症、心筋症、心房中隔欠損症、不整脈等に関する評価値が含まれる。
評価の基準としては、例えば心疾患である可能性、心疾患の進行の程度、心疾患の重症度合等が挙げられる。これらに限定されず、心疾患に関する任意の評価基準が含まれる。
【0030】
心疾患評価値を算出する方法は限定されず、任意の技術(アルゴリズム等)が用いられてよい。例えばDNN(Deep Neural Network:深層ニューラルネットワーク)等を用いた任意の機械学習アルゴリズムが用いられてもよい。例えばディープラーニング(深層学習)を行うAI(人工知能)等を用いることで、心疾患評価値の算出精度を向上させることが可能となる。
【0031】
例えば評価値算出装置30に、学習部及び識別部(図示は省略)が備えられる。学習部は、入力された情報(学習データ)に基づいて機械学習を行い、学習結果を出力する。また、識別部は、入力された情報と学習結果に基づいて、当該入力された情報の識別(判断や予測等)を行う。
学習部における学習手法には、例えばニューラルネットワークやディープラーニングが用いられる。ニューラルネットワークとは、人間の脳神経回路を模倣したモデルであって、入力層、中間層(隠れ層)、出力層の3種類の層から成る。
ディープラーニングとは、多層構造のニューラルネットワークを用いたモデルであって、各層で特徴的な学習を繰り返し、大量データの中に潜んでいる複雑なパターンを学習することができる。
ディープラーニングは、例えば画像内のオブジェクトや音声内の単語を識別する用途として用いられる。もちろん、本実施形態に係る心疾患評価値の算出に適用することも可能である。
また、このような機械学習を実現するハードウェア構造としては、ニューラルネットワークの概念を組み込まれたニューロチップ/ニューロモーフィック・チップが用いられ得る。
【0032】
また、機械学習の問題設定には、教師あり学習、教師なし学習、半教師学習、強化学習、逆強化学習、能動学習、転移学習等がある。
例えば教師あり学習は、与えられたラベル付きの学習データ(教師データ)に基づいて特徴量を学習する。これにより、未知のデータのラベルを導くことが可能となる。
また、教師なし学習は、ラベルが付いていない学習データを大量に分析して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいてクラスタリングを行う。これにより、膨大な未知のデータに基づいて傾向の分析や未来予測を行うことが可能となる。
また、半教師学習は、教師あり学習と教師なし学習を混在させたものであって、教師あり学習で特徴量を学ばせた後、教師なし学習で膨大な訓練データを与え、自動的に特徴量を算出させながら繰り返し学習を行う方法である。
また、強化学習は、ある環境内におけるエージェントが現在の状態を観測して取るべき行動を決定する問題を扱うものである。エージェントは、行動を選択することで環境から報酬を習得し、一連の行動を通じて報酬が最も多く得られるような方策を学習する。このように、ある環境における最適解を学習することで、人間の判断力を再現し、また、人間を超える判断力をコンピュータに習得させることが可能となる。
機械学習によって、評価値算出装置30は、仮想的なセンシングデータを生成することも可能である。例えば、評価値算出装置30は、入力された画像情報から位置情報を生成するなど、あるセンシングデータから別のセンシングデータを予測して入力情報として使用することが可能である。
また、評価値算出装置30は、複数のセンシングデータから別のセンシングデータを生成することも可能である。また、評価値算出装置30は、必要な情報を予測し、センシングデータから所定の情報を生成することも可能である。
また、機械学習とは異なる任意の学習アルゴリズム等が用いられてよい。所定の学習アルゴリズムに従って評価値を算出することで、評価値の算出精度を向上させることが可能となる。もちろん学習アルゴリズムが用いられる場合に限定される訳ではない。
なお学習アルゴリズムの適用は、本開示内の任意の処理に対して実行されてよい。
【0033】
評価値算出装置30は、算出した心疾患評価値に基づいて、心疾患に関する通知情報を生成し、通知装置40に出力する。通知情報は、心疾患に関する評価をユーザ1に通知するための任意の情報を含む。例えば「心不全の可能性があります」「症状が進んでいます。病院に行ってください。」等の内容を含む、動画像情報や音声情報等が、通知情報として生成される。
なお、算出された心疾患評価値自体も、心疾患評価情報に含まれる。
【0034】
通知装置40は、評価値算出装置30から出力される通知情報を、ユーザ1に通知する(ステップ103)。
例えば、通知装置40は、ディスプレイやスピーカ等を有し、動画像や音声を介して通知情報を、ユーザ1に通知する。
なお、バイブレーション機能等を用いて、触覚提示により、ユーザ1への通知が実行されてもよい。この場合、評価値算出装置30により、心疾患評価値に基づいた所定の触覚を提示するための情報(例えば振動等を発生させるための情報等)が通知情報として生成され通知装置40に出力される。通知装置40は、バイブレーション機能等により、通知情報に基づいた所定の触覚をユーザ1に提示する。
また、所定の色の光の出射(出射パターン等を含む)により、ユーザ1への通知が実行されてもよい。この場合、評価値算出装置30により、心疾患評価値に基づいた所定の色の光の出射を実行させるための情報が通知情報として生成され通知装置40に出力される。通知装置40は、光源等を制御することで、通知情報に基づいた所定の色の光を出射する。
このように、ユーザ1への通知を実行するための情報も、通知情報に含まれる。また通知情報に基づいて所定のデバイス等を駆動して、ユーザ1への通知を実行することは、通知情報の通知に含まれる。
その他、任意の技術が採用されてよい。
【0035】
センサ装置10、評価値算出装置30、及び通知装置40が1つの装置として一体的に構成されてもよい。また、これらのデバイスのうち、任意の2つのデバイスが、1つの装置として構成される場合もあり得る。
【0036】
[レーザードップラー血流計の原理]
センサ装置10として、レーザードップラー血流計(LDF:Laser Doppler Flowmetry)を用いることが可能である。レーザードップラー血流計は、光のドップラーシフトを利用した計測装置である。
【0037】
図3はドップラーシフト、及びドップラービートを説明するための模式図である。
図3Aに示すように周波数f
0の波が測定点に到達するとする。また同じ周波数f
0の波が移動体により反射され、同じ測定点に到達するとする。
移動体により反射された波では、ドップラー現象による周波数のシフトが発生し、
図3Bに示すように波の周波数がf
0+Δfとなっている。
図1Aに示す元の波と、
図1Bに示すドップラーシフトした波との干渉波は、うなり現象によりΔfの周波数でうなることが知られている。この周波数Δfの波をドップラービートと呼び、周波数Δfをうなり周波数と呼ぶ。
ドップラービートの周波数Δf(うなり周波数)を計測することで、ドップラーシフトした波の周波数f
0+Δfを計測することなく、ドップラーシフトを生じさせた移動体の測定点に対する速度を求めることができる。
【0038】
図4は、レーザードップラー血流計の原理的な構成例を示す模式図である。
図4に示すように、発光部11からレーザー光Lを出射する。レーザー光Lが散乱体Mに入射すると、散乱体Mによって反射され、散乱光Sが生じる。散乱光Sは、受光部12に入射し、検出される。
【0039】
図5は、散乱体の移動によるドップラーシフトを示す模式図である。
図5に示すように、光源から出射される光の中を多数の散乱体M
Aが種々の方向に移動しているとする。図中、散乱体M
Aの速度ベクトルを各散乱体M
Aに付した矢印で示す。矢印のない散乱体M
Aは静止していることを示す。
【0040】
図5Bにおいて、静止している散乱体M
Aによる散乱光のパワースペクトルS
A1と、移動している散乱体M
Aによる散乱光のパワースペクトルS
A2とを示す。
血流計測の例でいえば、静止している散乱体M
Aは体組織などであり、移動している散乱体M
Aは赤血球等である。
図5Bに示すように、各散乱体M
Aの光源に対する移動速度が異なるため、散乱光のパワースペクトルS
A2は、多数の散乱体M
Aによるドップラーシフトの合成波となる。
静止している散乱体M
Aの量の比率が、移動している散乱体M
Aの量の比率よりはるかに高い場合、静止している散乱体M
Aの散乱光は移動している散乱体M
Aの散乱光よりはるかに強度が高い。従って、ドップラービートを生じる散乱光同士の干渉のほとんどは、静止している散乱体M
Aの散乱光と、移動している散乱体M
Aの散乱光との干渉になる。
【0041】
図5Cは、散乱光S
A1と散乱光S
A2の干渉によって生じるドップラービートのパワースペクトルS
A3である。S
A3の周波数は、S
A1の周波数とS
A2の周波数の差分の絶対値である。
このパワースペクトルS
A3の形状が、光源に対する散乱体M
Aの速度分布を示す。このため、散乱体M
Aの移動方向によるドップラーシフト量の減少を加味すると、散乱体M
Aの実際の速度分布を求めることができる。
なお、この各方向に移動する多数の観測物体によるドップラーシフトを計測する技術はDLS(Dynamic Light Scattering)と呼ばれる。
【0042】
図6は、レーザードップラー血流計測の具体的な構成例を示す模式図である。
レーザードップラー血流計(以下、LDFと記載する)20は、互いに通信可能に接続されたセンサヘッド21と、信号処理装置22とを有する。
図6では、信号線23を介して、センサヘッド21と、信号処理装置22とが接続されている。両デバイスの接続形態は限定されず、無線通信等が用いられてもよい。
【0043】
センサヘッド21は、レーザー光Lを出射する発光部11と、散乱光を受光する受光部12とを備える。発光部11は例えば、レーザー光源である。受光部12は、例えばフォトダイオードである。
センサヘッド21は、測定対象である生体2に近接あるいは密着して配置される。生体2は、血管3中を流れる赤血球4及び静止組織5を有する。静止組織5は血液以外の静止している生体組織である。
【0044】
LDF20では、発光部11から生体2にレーザー光Lが照射される。レーザー光Lは、赤血球4及び静止組織5によって散乱され、受光部12によって受光されて、電気信号に変換される。
【0045】
図7は、受光部12から出力される電気信号の例である。
受光部12に入射する散乱光は、血流によって移動する赤血球4による散乱光と、移動しない静止組織5による散乱光を含む。
このため、
図7に示す信号は、両散乱光の干渉によって生じる多数のドップラービートの集合体である。本開示では、このようなドップラービートの集合体を含む信号を、うなり信号と呼ぶ。
信号処理装置22は、信号線23を介して、センサヘッド21からうなり信号を取得する。また信号処理装置22は、受け取ったうなり信号に対して、フーリエ変換等の信号処理を行う。
【0046】
図8は、信号処理結果の例である。
図8Aは、指先において測定されたうなり信号を周波数領域に変換したグラフである。
図8Bは、手首において測定されたうなり信号を周波数領域に変換したグラフである。
これらのグラフに示すパワースペクトルは、各々のうなり周波数に対する強度(パワー)を示しており、うなり周波数に対応した速度で移動する赤血球の分布密度に対応する。またパワースペクトルの形状は、発光部11に対する赤血球の速度分布に対応する。
例えば、うなり周波数が高い成分は、血管中を流れる赤血球のうち高速に移動する赤血球に対応する成分であり、血管3を流れる血液のうち血流速度が高い高速成分に対応する。うなり周波数が低い成分は、血管中を流れる赤血球のうち低速に移動する赤血球に対応する成分であり、血管3を流れる血液のうち血流速度が低い低速成分に対応する。
【0047】
図8Aでは、
図8Bと比較して、うなり周波数の上昇に対する強度の減衰率が低い。この結果、指先の方が、移動速度が高い赤血球の比率が、手首に比べて高いことがわかる。
また
図8Aの方が、
図8Bに比べてパワースペクトルの総面積が広いことから、観察領域内で移動する赤血球は、指先の方が多いことがわかる。
信号処理装置22は、うなり信号のパワースペクトル(以下、うなり信号PSと記載する)に基づいて、血流の平均速度や、血流量等を算出することが可能である。またうなり信号PSの時系列変化に基づいて、血流の平均速度の時間変化(脈拍)や、脈拍数、血液の流速といった高次血流関連情報を算出することが可能である。
上記したように、血流量の検出結果である血流量情報は、血流量に関する任意の情報を含む。例えばLDF20による任意の検出結果は、血流量情報に含まれる。
すなわち
図8等に示す、うなり信号PSや、うなり信号PSの時系列変化は、血流量情報に含まれる。またうなり信号PS、及びうなり信号PSの時系列変化に基づいて算出される任意の情報も、血流量情報に含まれる。
【0048】
[評価値算出装置]
評価値算出装置30は、本技術に係る情報処理装置の一実施形態として機能する。
評価値算出装置30は、例えばCPU、ROM、RAM、及びHDD等のコンピュータの構成に必要なハードウェアを有する(
図13参照)。例えばCPUがROM等に予め記録されている本技術に係るプログラムをRAMにロードして実行することにより、本技術に係る情報処理方法が実行される。
例えばPC(Personal Computer)等の任意のコンピュータにより、評価値算出装置30を実現することが可能である。もちろんGPU、FPGA、ASIC等のハードウェアが用いられてもよい。
本実施形態では、CPUが所定のプログラムを実行することで、機能ブロックとしての算出部及び生成部が構成される。もちろん機能ブロックを実現するために、IC(集積回路)等の専用のハードウェアが用いられてもよい。
プログラムは、例えば種々の記録媒体を介して評価値算出装置30にインストールされる。あるいは、インターネット等を介してプログラムのインストールが実行されてもよい。
プログラムが記録される記録媒体の種類等は限定されず、コンピュータが読み取り可能な任意の記録媒体が用いられてよい。例えば、コンピュータが読み取り可能な非一過性の任意の記憶媒体が用いられてよい。
【0049】
本実施形態では、心疾患評価値として、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)値が算出される。血液中のBNPは、心臓にストレスがかかると、心室から分泌されるホルモンである。BNPの濃度が高い(BNP値が高い)と、心臓の働きが弱っている可能性が高くなる。
例えば、以下のような、評価が可能である。
BNP値0~20 :正常群(心血管系に問題なし)
BNP値20~40 :高リスク群(心不全の可能性は低い)
BNP値40~100 :無症候群1(心不全の可能性がわずかにある)
BNP値100~200:無症候群2(心不全の可能性がある)
BNP値200~ :有症候群1(心不全の可能性が高い)
このように、BNP値は、心不全の可能性(程度)を評価するパラメータとして用いられる。なお、BNP値に基づいた評価が、上記のような分類に限定される訳ではない。
【0050】
例えば、赤血球の変形能が低下してしまうと、毛細血管内を移動する赤血球の流れが悪くなり、毛細血管の血流量が低下する。毛細血管の血流量が低下すると、酸素供給が低下し、心機能の低下につながる。この結果、心臓への負荷(ストレス)が大きくなり、BNP値が増加する。
例えば、血流速度比や流れにくい赤血球の占有割合を測定することで、健常者と、心疾患の患者とを判別することも可能であると考えられる。
このような知見に基づいて、センサ装置10により検出される血流量情報に基づいて、心疾患評価値としてBNP値を算出することを、新たに見出した。例えば、LDF20により検出されるうなり信号PSに基づいて、BNP値を推定することが可能である。
【0051】
図9は、BNP値の算出用の学習済モデルの生成例を説明するための模式図である。
学習用のうなり信号PS群45と、ラベル46とが、学習部47に入力される。
ラベル46は、学習用の各うなり信号PSと関連付けられた情報であり、BNP値である。本実施形態では、うなり信号PSが測定された人物に対して血液検査を行い、BNP値を測定する。測定されたBNP値がラベル46としてうなり信号PSに設定され、学習用のデータセットが生成される。
学習用データセットは、例えば手動により生成される。あるいは、予め生成されている学習用のデータセットを取得して、学習部47に入力してもよい。
学習部47により、学習用のデータセットが用いられ、機械学習アルゴリズムに基づいて学習が実行される。学習により、BNP値を算出するためのパラメータ(係数)が更新され、学習済パラメータとして生成される。生成された学習済パラメータが組み込まれたプログラムが、学習済モデル48として生成される。
学習済モデル48により、うなり信号PSの入力に対してBNP値が算出される。
上記の評価分類にも例示したように、血液検査によりBNP値は高い精度で測定することが可能である。そして、心疾患の症状の進行度合の連続的な定量値として用いることが可能である。従って、精度の高い学習用のデータセットを生成することが可能となる。この結果、非常に高い精度で、うなり信号PSに基づいたBNP値の算出を実行することが可能である。
【0052】
心疾患評価値として、NT-proBNP値を算出することも可能である。以下のように、NT-proBNP値に基づいて、心不全の可能性(程度)を評価することが可能である。
NT-proBNP値0~55 :正常群(心血管系に問題なし)
NT-proBNP値55~125 :高リスク群(心不全の可能性は低い)
NT-proBNP値125~400:無症候群1(心不全の可能性がわずかにある)
NT-proBNP値400~900:無症候群2(心不全の可能性がある)
NT-proBNP値900~ :有症候群1(心不全の可能性が高い)
なお、NT-proBNP値に基づいた評価が、このような分類に限定される訳ではない。
【0053】
BNP値と同様に、血液検査によって、NT-proBNP値を高い精度で測定することが可能である。従って、ラベル46として、測定されたNT-proBNP値を設定することで、精度の高い学習済モデル48を構築することが可能となる。
【0054】
なお、機械学習アルゴリズムに従ったBNP値(NT-proBNP値)の推定について、うなり信号PSを入力とする場合に限定されない。うなり信号PSの時系列変化や、うなり信号PS(うなり信号PSの時系列変化)に基づいて生成される、血流速度や血流量等の任意に血流量情報を入力として、BNP値(NT-proBNP値)を推定することも可能である。
例えば、入力として用いられる血流量情報と、血液検査等により算出されるBNP値(NT-proBNP値)とにより学習用のデータセットを生成し、学習済モデル48を生成する。これにより、高い精度で、血流量情報に基づいたBNP値(NT-proBNP値)の算出を実行することが可能である。
【0055】
[血流速度区分]
図10は、うなり信号PSに対する血流速度区分に基づいた心疾患評価値の算出を説明するための図である。
上記でも述べたが、うなり信号PSは、血液中の赤血球(散乱体)の速度分布に対応する。横軸のうなり周波数は、赤血球の速度に対応する。縦軸は、その速度で移動する赤血球の量(数)に対応し、その速度で流れる血流量に対応する。
うなり周波数の高周波数成分は、高速の血流速度成分となる。うなり周波数の低周波数成分は、低速の血流速度成分となる。
【0056】
図10A及びBに例示するように、血流速度を複数の速度区分S
1~S
Nに分ける。すなわち、うなり信号PSの赤血球の速度に対応する横軸のうなり周波数を、複数の速度区分S
1~S
Nに分ける。うなり信号PSに対する血流速度区分である複数の速度区分S
1~S
Nに基づいて、心疾患評価値を算出する。
例えば、各速度区分における血流量に基づいて、心疾患評価値を算出することが可能である。また各速度区分における血流量の比率に基づいて、心疾患評価値を算出することが可能である。各速度区分における血流量の比率は、血流速度比に対応するパラメータである。
【0057】
例えば、複数の速度区分S1~SNから所定の速度区間が選択され、その所定の速度区間における血流量に基づいて、心疾患評価値を算出することが可能である。なお、所定の速度区間は、1つの速度区間に限定されず、複数の速度区間も含まれる。従って、所定の1以上の速度区間ということも可能である。
所定の速度区間が複数の速度区間である場合、所定の速度区間における血流量は、典型的には、複数の速度区間の各々における血流量の和となる。これに限定される訳ではない。
全ての速度区間における血流量に対する、所定の速度区間における血流量の比率に基づいて、評価値を算出することも可能である。なお、全ての速度区間における血流量は、典型的には、全ての速度区間の各々における血流量の和となる。これに限定される訳ではない。
【0058】
例えば、所定の速度区間として、複数の速度区分S1~SNのうち低速側の速度区分が選択されてもよい。低速側の速度区分における血流量や、全ての速度区間における血流量に対する低速側の速度区間における血流量の比率は、流れにくい赤血球の占有割合に対応するパラメータといえる。
なお低速側の速度区分は、中央の速度区分よりも低速側となる速度区分である。
もちろん、所定の速度区分として、複数の速度区分S1~SNのうち低速側の速度区分が選択されてもよい。あるいは、所定の速度区分として、複数の速度区分S1~SNのうち中央に位置する速度区分が選択されてもよい。その他、低速側の速度区分と、高速側の速度区分とが選択される場合もあり得る。
【0059】
速度区分の間隔(幅)も限定されず、任意に設定されてよい。
【0060】
このように血流速度区分を設定することで、心疾患評価値を算出することが可能である。例えば、学習アルゴリズムの入力に用いられる情報に基づいて学習済モデルを生成することで、精度の高い心疾患評価値の推定が実現される。
【0061】
図11は、血流速度区分に基づいた心疾患評価値の算出例を示すフローチャートである。
図11に示す例では、心疾患評価値としてBNP値が推定されている。
【0062】
LDF20の発光部11からレーザー光が照射される(ステップ201)。例えばレーザパルス光が照射されるが、これに限定される訳ではない。
LDF20により、うなり信号PSが算出される(ステップ202)。算出されたうなり信号PSは、血流量情報として、評価値算出装置30に出力される。
【0063】
評価値算出装置30は、うなり信号PSに対して血流速度区分を設定し、各速度区分S(i)における血流量F(i)を算出する(ステップ203)。
また評価値算出装置30は、低速血流比を算出する(ステップ204)。低速血流比は、全ての速度区間における血流量に対する低速側の速度区間における血流量の比率に相当し、例えば、以下の式により算出される。
【0064】
【0065】
式中のNは、複数の速度区分S1~SNの数であり、最も高速側の速度区間SNの添え字Nに対応する。従って、(数1)式の分母は、全ての速度区間の各々における血流量の和となる。
Mは、低速側の速度区間までの数であり、中央の速度区間よりも低速側の任意の速度区間の添え字に対応する。例えば、M=1ならば、低速側の速度区間は、最も低速側の速度区間S0及S1となる。この場合、(数1)式の分子は、速度区間S0及S1の各々における血流量の和となる。
もちろん低速血流比が、(数1)式に規定される場合に限定される訳ではない。
【0066】
評価値算出装置30により、低速血流比に基づいて、心疾患評価値としてBNP値が算出される(ステップ205)。BNP値は、例えば、所定の機械学習アルゴリズムに従って算出される。
なお、ステップ203及び204がLDF20により実行されてもよい。すなわち各速度区分S(i)における血流量F(i)や、低速血流比が、LDF20により算出され、血流量情報として、評価値算出装置30に送信されてもよい。
【0067】
[心疾患チェック装置の構成]
図12は、本技術の一実施形態に係る心疾患チェック装置の構成例を示す概略図である。
心疾患チェック装置50は、リストバンド型のデバイスであり、ユーザ1の手首に装着されて使用される。すなわち心疾患チェック装置50は、ユーザ1が装着可能なウェアラブル装置として構成されている。
心疾患チェック装置50は、
図1に示すセンサ装置10、評価値算出装置30、及び通知装置40が1つの装置として一体的に構成された装置である。すなわち心疾患チェック装置50は、血流量を検出可能な検出装置を具備する。本実施形態では、検出装置として、LDF20が搭載される。
心疾患チェック装置50は、本技術に係る情報処理装置の一実施形態に相当する。心疾患チェック装置50のことを、生体情報処理装置ということも可能である。
【0068】
図12に示すように心疾患チェック装置50は、装着バンド51と、センサ本体部52とを有する。装着バンド51は、センサ本体部52に接続され、ユーザ1の手首に接触してこれを保持する。装着バンド51の具体的な構成は限定されない。
【0069】
図12Aに模式的に示すように、センサ本体部52は、LDF20の発光部11及び受光部12と、コントローラ53とを有する。発光部11及び受光部12は、ユーザ1の手首に接触する面側に設けられる。
【0070】
図12B及びCに示すように、センサ本体部52は、表示部54を有する。表示部54は、例えば液晶やEL(Electro-Luminescence)等を用いた表示デバイスであり、種々の画像やGUI(Graphical User Interface)等を表示することが可能である。表示部54としてタッチパネルが構成され、ユーザの操作が入力可能であってもよい。
またセンサ本体部52は、音声を出力可能なスピーカ(図示は省略)を有する。
【0071】
コントローラ53は、心疾患チェック装置50が有する各ブロックの動作を制御する。コントローラ53は、例えばCPUやメモリ(RAM、ROM)等のコンピュータに必要なハードウェア構成を有する。CPUがROM等に記憶されているプログラムをRAMにロードして実行することにより、種々の処理が実行される。
コントローラ53として、例えばFPGA等のPLD、その他ASIC等のデバイスが用いられてもよい。
【0072】
コントローラ53は、例えば、
図1に示す評価値算出装置30や
図6に示す信号処理装置22と同様の機能を有する。例えばコントローラ53により、血流量の検出結果である血流量情報が生成される。またコントローラ53により、血流量情報に基づいて、心疾患評価値が算出される。
またコントローラ53は、算出した心疾患評価値に基づいて、心疾患に関する通知情報(動画像情報、音声情報、触覚提示や光出射のための情報等)を生成する。生成された通知情報は、表示部54やスピーカを介して、ユーザ1に通知される。
【0073】
本実施形態では、コントローラ53のCPUが本実施形態に係るプログラムを実行することで、機能ブロックとして算出部及び生成部が実現される。もちろん機能ブロックを実現するために、IC(集積回路)等の専用のハードウェアが用いられてもよい。
また、本実施形態において、表示部54及びスピーカは、心疾患に関する通知情報をユーザ1に通知する通知部として機能する。
なお
図1に示す心疾患チェックシステム100では、通知装置40が、通知部として機能する。
【0074】
図12B及びCに示す例では、通知情報として、心疾患評価値である「BNP値」、「良好」「注意」等の心疾患(心不全)の状態を表現するテキスト、及び顔マークの画像が表示される。
顔マークの画像は、心疾患(心不全)の状態に対応する表情で表示される。例えば「良好」の場合には笑顔のマークが表示され、「注意」の場合にはストレスを感じている表情のマークが表示される。
また通知情報として、「良好な状態です。」「注意が必要です。」といった内容の音声が出力される。
もちろん、通知情報の内容は限定されず、任意に設定されてよい。
【0075】
以上、本実施形態に係る心疾患チェックシステム100及び心疾患チェック装置50では、血流量の検出結果に基づいて、心疾患に関する評価値が算出される。これにより心疾患の状態を簡単に把握することを可能となる。
【0076】
BNP値やNT-proBNP値の計測は、心疾患の状態を表すバイオマーカーとして現在広く診断に用いられている。これらの値の計測の際には血液検査が必要であるため、医療機関でのみ計測が可能である。
心疾患の重篤化予防のためには、心疾患の状態の変化を早期に発見して適切な治療を行う事が重要である。しかしながら、医療機関での血液検査を高頻度に行う事は非常に苦痛や困難を伴うため、状態の悪化を早期発見する事が困難である。
【0077】
本技術では、医療機関での採血検査を必要とせず、非侵襲、非観血にBNP値及びNT-proBNP値を推定する事が可能となる。
医療機関での計測が不要になるため、例えば、自宅等での遠隔モニタリングが可能となり、心疾患の遠隔医療システム構築が可能となる。例えば、算出された心疾患評価値を医療機関のコンピュータに送信し、担当の医者等が確認可能なシステムを容易に構築することが可能となる。
例えば、
図12に例示するようなリストバンド型の心疾患チェック装置50を装着することで、日常生活を行いながら、ユーザ1が計測を意識することなく、高頻度に自動で血中のBNP値やNT-proBNP値を計測することが可能となる。これにより心疾患の状態変化を早期に発見する事が可能となる。
例えば、心疾患チェック装置50を装着し、毎日所定の時間に定期的に自動計測(自動簡易診断ともいえる)を実行するモードを設定する。ある日のユーザ1の状態が
図10Aに示すように、血流速度の低速成分が相対的に少ない状態であったとする。その状態に応じて、例えばBNP値やNT-proBNP値が低い値で計測され、
図12Bに示すような通知情報が通知される。
また別の日では、ユーザ1の状態が
図10Bに示すように、血流速度の低速成分が相対的に多い状態であったとする。その状態に応じて、例えばBNP値やNT-proBNP値が高い値で計測され、
図12Cに示すような通知情報が通知される。
ユーザ1は、毎日定期的に通知される通知情報を確認することで、心疾患の状態を簡単に把握することが可能となる。これにより例えば心疾患の状態に合わせて自身の行動予定等を適正に計画することが可能となる。また心疾患の状態に関する不安を低減することも可能となる。
【0078】
<その他の実施形態>
本技術は、以上説明した実施形態に限定されず、他の種々の実施形態を実現することができる。
上記では、心疾患に関する評価値として、BNP値及びNT-proBNP値を例に挙げた。これに限定されず、心疾患に関する任意の評価値や任意のバイオマーカーに対して、本技術は適用可能である。また心疾患に関する評価値を新たに設定して、本技術を適用することも可能である。
【0079】
上記では、血流量を検出可能な検出装置として、LDFを例に挙げた。これに限定されず、超音波ドップラー血流計等の、他の任意の装置に対しても、本技術は適用可能である。
また、動物等の人間以外の生物に対しても、本技術は適用可能である。
【0080】
上記では、本技術の適用について、リストバンド型のウェアラブル装置を例に挙げた。これに限定されず、上腕に装着する腕輪型、頭に装着するヘッドバンド型(ヘッドマウント型)、首に装着するネックバンド型、胸に装着する胴体用の型、腰に装着するベルト型、足首に装着するアンクレット型、時計型、指輪型、ネックレス型、イヤリング型、ピアス型等の、種々のウェアラブル装置に対して、本技術は適用可能である。
血流量が測定される部位も限定されない。
【0081】
本技術の適用が、ユーザが装着可能なウェアラブル装置に限定される訳ではない。
例えば、スマートフォン、携帯電話、タブレット端末等の、ユーザが携帯可能な携帯端末に対して、本技術を適用することが可能である。すなわち本技術に係る情報処理装置が、携帯端末として構成されてもよい。
例えば、スマーフォン等に本技術に係る心疾患チェック装置が搭載される。ユーザは、スマートフォンを手首等の部位に押し当てる。心疾患チェック装置により血流量が検出され、心疾患に関する評価値が算出される。スマートフォンのタッチパネル等には、心疾患に関する通知情報が表示される。このような実施例も実現可能である。
【0082】
また所定の場所に設置された装置や、移動可能なロボット等に対して、本技術に係る心疾患チェック装置を搭載することも可能である。また、施設内の所定の場所や、車内等の所定の場所に、本技術に係る心疾患チェック装置を構成することも可能である。
例えば、オーディオ機器、TV、プロジェクタ等の電子機器、カーナビ等の車載装置、リモコン等の操作機器、種々のロボット、インターネット等に接続されたIoT機器等に、心疾患チェック装置を搭載することも可能である。
例えば、犬型のロボット装置の手の部分に心疾患チェック装置を搭載する。犬型ロボットに対して、ユーザの手の平にロボットの手を乗せさせる動作(いわゆるお手のポーズ)を取らせる。この際に、ロボットの手の部分に搭載された心疾患チェック装置により、心疾患に関する評価値の測定を実行させる。このような実施例も実現可能である。
また車のハンドルの部分に心疾患チェック装置を搭載することで、運転中のユーザに対して、簡易診断を実行するといったことも可能である。
【0083】
本技術を用いて、心疾患以外の任意の病気(症状)に関する評価値を算出することも可能である。例えば、血流量の検出結果に基づいて、脳卒中や糖尿病等に関する評価値を算出することも可能である。
【0084】
図13は、評価値算出装置30のハードウェア構成例を示すブロック図である。
評価値算出装置30は、CPU201、ROM202、RAM203、入出力インタフェース205、及びこれらを互いに接続するバス204を備える。
入出力インタフェース205には、表示部206、入力部207、記憶部208、通信部209、及びドライブ部210等が接続される。
表示部206は、例えば液晶、EL等を用いた表示デバイスである。
入力部207は、例えばキーボード、ポインティングデバイス、タッチパネル、その他の操作装置である。入力部207がタッチパネルを含む場合、そのタッチパネルは表示部206と一体となり得る。
記憶部208は、不揮発性の記憶デバイスであり、例えばHDD、フラッシュメモリ、その他の固体メモリである。
ドライブ部210は、例えば光学記録媒体、磁気記録テープ等、リムーバブルの記録媒体211を駆動することが可能なデバイスである。
通信部209は、LAN、WAN等に接続可能な、他のデバイスと通信するためのモデム、ルータ、その他の通信機器である。通信部209は、有線及び無線のどちらを利用して通信するものであってもよい。通信部209は、評価値算出装置30とは別体で使用される場合が多い。
上記のようなハードウェア構成を有する評価値算出装置30による情報処理は、記憶部208またはROM202等に記憶されたソフトウェアと、評価値算出装置30のハードウェア資源との協働により実現される。
具体的には、ROM202等に記憶された、ソフトウェアを構成するプログラムをRAM203にロードして実行することにより、本技術に係る情報処理方法が実現される。
プログラムは、例えば記録媒体211を介して評価値算出装置30にインストールされる。あるいは、グローバルネットワーク等を介してプログラムが評価値算出装置30にインストールされてもよい。その他、コンピュータ読み取り可能な非一過性の任意の記憶媒体が用いられてよい。
【0085】
ネットワーク等を介して通信可能に接続された複数のコンピュータにより本技術に係る情報処理装置が構成され、本技術に係る情報処理方法、及びプログラムが実行されてもよい。
すなわち本技術に係る情報処理方法、及びプログラムは、単体のコンピュータにより構成されたコンピュータシステムのみならず、複数のコンピュータが連動して動作するコンピュータシステムにおいても実行可能である。
なお本開示において、システムとは、複数の構成要素(装置、モジュール(部品)等)の集合を意味し、すべての構成要素が同一筐体中にあるか否かは問わない。従って、別個の筐体に収納され、ネットワークを介して接続されている複数の装置、及び、1つの筐体の中に複数のモジュールが収納されている1つの装置は、いずれもシステムである。
【0086】
コンピュータシステムによる本技術に係る情報処理方法、及びプログラムの実行は、例えば血流量情報の取得、心疾患に関する評価値の算出、通知情報の生成、通知情報の通知等が、単体のコンピュータにより実行される場合、及び各処理が異なるコンピュータにより実行される場合の両方を含む。
また所定のコンピュータによる各処理の実行は、当該処理の一部または全部を他のコンピュータに実行させその結果を取得することを含む。
すなわち本技術に係る情報処理方法及びプログラムは、1つの機能をネットワークを介して複数の装置で分担、共同して処理するクラウドコンピューティングの構成にも適用することが可能である。
【0087】
各図面を参照して説明したセンサ装置(検出装置)、評価値算出装置、通知装置、LDF、心疾患チェック装置等の各構成、血流量の検出、血流量情報の取得、心疾患に関する評価値の算出、通知情報の生成、通知情報の通知等の処理フロー等はあくまで一実施形態であり、本技術の趣旨を逸脱しない範囲で、任意に変形可能である。すなわち本技術を実施するための他の任意の構成やアルゴリズム等が採用されてよい。
【0088】
以上説明した本技術に係る特徴部分のうち、少なくとも2つの特徴部分を組み合わせることも可能である。すなわち各実施形態で説明した種々の特徴部分は、各実施形態の区別なく、任意に組み合わされてもよい。また上記で記載した種々の効果は、あくまで例示であって限定されるものではなく、また他の効果が発揮されてもよい。
【0089】
なお、本技術は以下のような構成も採ることができる。
(1)
血流量の検出結果に基づいて、心疾患に関する評価値を算出する算出部
を具備する情報処理装置。
(2)(1)に記載の情報処理装置であって、
前記算出部は、所定の学習アルゴリズムに従って、前記評価値を算出する
情報処理装置。
(3)(1)又は(2)に記載の情報処理装置であって、
前記算出部は、前記評価値として、BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)値、又はNT-proBNP値の少なくとも一方を算出する
情報処理装置。
(4)(1)から(3)のうちいずれか1つに記載の情報処理装置であって、
前記血流量の検出結果は、レーザードップラー血流計による検出結果を含む
情報処理装置。
(5)(1)から(4)のうちいずれか1つに記載の情報処理装置であって、
前記算出部は、血流速度を複数の速度区間に分け、各々の速度区間における血流量に基づいて、前記評価値を算出する
情報処理装置。
(6)(5)に記載の情報処理装置であって、
前記算出部は、前記各々の速度区間における血流量の比率に基づいて、前記評価値を算出する
情報処理装置。
(7)(1)から(6)のうちいずれか1つに記載の情報処理装置であって、
前記算出部は、血流速度を複数の速度区間に分け、所定の速度区間における血流量に基づいて、前記評価値を算出する
情報処理装置。
(8)(7)に記載の情報処理装置であって、
前記算出部は、全ての速度区間における血流量に対する、前記所定の速度区間における血流量の比率に基づいて、前記評価値を算出する
情報処理装置。
(9)(7)又は(8)に記載の情報処理装置であって、
前記所定の速度区間は、前記複数の速度区間のうち低速側の速度区間である
情報処理装置。
(10)(1)から(9)のうちいずれか1つに記載の情報処理装置であって、
前記算出部は、前記血流量の検出結果の時系列変化に基づいて、前記評価値を算出する
情報処理装置。
(11)(1)から(10)のうちいずれか1つに記載の情報処理装置であって、さらに、
前記血流量を検出可能な検出装置を具備する
情報処理装置。
(12)(11)に記載の情報処理装置であって、
前記検出装置は、レーザードップラー血流計である
情報処理装置。
(13)(1)から(12)のうちいずれか1つに記載の情報処理装置であって、さらに、
算出された前記評価値に基づいて、心疾患に関する通知情報を生成する生成部を具備する
情報処理装置。
(14)(13)に記載の情報処理装置であって、さらに、
生成された前記通知情報をユーザに通知する通知部を具備する
情報処理装置。
(15)(1)から(14)のうちいずれか1つに記載の情報処理装置であって、
ウェアラブル装置、又は携帯端末として構成される
情報処理装置。
(16)(1)から(14)のうちいずれか1つに記載の情報処理装置であって、
車載装置、又はロボットの一部として構成される
情報処理装置。
(17)
血流量の検出結果に基づいて、心疾患に関する評価値を算出する
ことをコンピュータシステムが実行する情報処理方法。
(18)
血流量の検出結果に基づいて、心疾患に関する評価値を算出するステップ
をコンピュータシステムに実行させるプログラム。
【符号の説明】
【0090】
S1~SN…速度区分
3…血管
4…赤血球
5…静止組織
10…センサ装置
20…LDF
30…評価値算出装置
40…通知装置
50…心疾患チェック装置
53…コントローラ
100…心疾患チェックシステム