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特許7537433ワックス分散剤および熱可塑性樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】ワックス分散剤および熱可塑性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 23/52 20220101AFI20240814BHJP
   C08F 212/00 20060101ALI20240814BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240814BHJP
   C08L 91/06 20060101ALI20240814BHJP
   C08L 25/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
C09K23/52
C08F212/00
C08L101/00
C08L91/06
C08L25/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021530694
(86)(22)【出願日】2020-07-07
(86)【国際出願番号】 JP2020026514
(87)【国際公開番号】W WO2021006259
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2019129298
(32)【優先日】2019-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】山田 明宏
(72)【発明者】
【氏名】吉村 健司
(72)【発明者】
【氏名】荻 宏行
(72)【発明者】
【氏名】青野 竜也
【審査官】西山 義之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-124419(JP,A)
【文献】特表2008-518052(JP,A)
【文献】特開2011-073341(JP,A)
【文献】特開2017-102382(JP,A)
【文献】特開2006-301177(JP,A)
【文献】特開2006-030299(JP,A)
【文献】特開2014-035506(JP,A)
【文献】特開2007-264621(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 23/00- 23/56
C08F212/00-212/36
C08L 1/00-101/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合前モノマーの質量基準で、芳香族モノマー(A1)に由来する構造単位を40~94質量%、下記一般式(1)で示される(メタ)アクリル酸長鎖アルキルエステル(A2)に由来する構造単位を5~40質量%および下記一般式(2)で示される(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A3)に由来する構造単位を1~20質量%含む共重合組成を有し、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A3)に由来する構造単位は、置換基Rが水素原子であるモノマー(a3-1)に由来する構造単位及び置換基Rがメチル基であるモノマー(a3-2)に由来する構造単位を、(a3-1)と(a3-2)の合計量に対する(a3-1)の比[(a3-1)/{(a3-1)+(a3-2)}×100]が50~90質量%となる割合で含み、重量平均分子量が3,000~50,000である共重合体(A)であることを特徴とする、ワックス分散剤。
【化1】

(一般式(1)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数9~22のアルキル基を示す。)
【化2】

(一般式(2)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数1~8のアルキル基を示す。)
【請求項2】
請求項1記載のワックス分散剤、熱可塑性樹脂およびワックスを含有することを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂に対するワックスの分散性付与効果に優れたワックス分散剤、および当該ワックス分散剤を用いた熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン等の熱可塑性樹脂には、成型加工時における金型からの離型性を向上させ金型の汚染を抑制したり、また熱的或いは機械的負荷に応じて樹脂の軟化性等の物性を調節したりするために、ワックスが添加されている。ワックスとしては、例えば、炭化水素ワックスや脂肪酸エステル等が用いられている。しかしながら、熱可塑性樹脂中でのワックスの分散状態が不十分な場合、離型性の向上や樹脂物性の調節などの効果が不十分になるだけでなく、透明性の低下や、ワックスが樹脂表面へ移行することに起因するブロッキングの発生などの問題が生じる。
特に、上述したワックスの機能を活かした用途としては、熱可塑性樹脂にワックス、着色剤等の成分を配合した熱可塑性樹脂組成物で形成された電子写真用トナーを挙げることができる。一般に、トナー用樹脂組成物では、樹脂の成型加工用途と比較してワックスの添加量が多いため、ワックスの分散性の低下に起因する問題がより発生しやすく、種々の工夫がなされてきた。
特許文献1では、ポリエステル樹脂とカルナウバワックスを含む熱可塑性樹脂組成物に対して、ポリオレフィンワックスをビニルモノマーで変性してなるワックス変性体を分散剤として使用することで、熱可塑性樹脂へのワックスの分散性を向上させることを開示している。同様に特許文献2では、ポリエステル樹脂とモノエステルワックスを含む熱可塑性樹脂組成物に対して特定のモノマー組成からなるアクリル樹脂を分散剤として使用している。
しかしながら、上記のような試みによって、ある程度のワックス分散効果は得られるものの、比較的多量に分散剤を使用してもワックスを十分には微細に分散することができなかったり、軟化性を向上させることができても保存安定性が不十分となり、双方の特性を両立できない場合があったりする問題があり、十分に満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-264621号公報
【文献】特開2018-60056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、熱可塑性樹脂に対しワックスを添加した際に、樹脂組成物の溶融状態での流動性を向上させると同時に、樹脂組成物の透明性を低下させることなく、また樹脂組成物の保存時における安定性を向上させることができるワックス分散剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決すべく検討した結果、特定構造の重合体をワックス分散剤として用いることにより上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明は以下のものである。
【0006】
[1] 重合前モノマーの質量基準で、芳香族モノマー(A1)に由来する構造単位を40~94質量%、下記一般式(1)で示される(メタ)アクリル酸長鎖アルキルエステル(A2)に由来する構造単位を5~40質量%および下記一般式(2)で示される(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A3)に由来する構造単位を1~20質量%含む共重合組成を有し、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A3)に由来する構造単位は、置換基Rが水素原子であるモノマー(a3-1)に由来する構造単位及び置換基Rがメチル基であるモノマー(a3-2)に由来する構造単位を、(a3-1)と(a3-2)の合計量に対する(a3-1)の比[(a3-1)/{(a3-1)+(a3-2)}×100]が50~90質量%となる割合で含み、重量平均分子量が3,000~50,000である共重合体(A)であることを特徴とする、ワックス分散剤。
【0007】
【化1】
【0008】
(一般式(1)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数9~22のアルキル基を示す。)
【0009】
【化2】
【0010】
(一般式(2)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数1~8のアルキル基を示す。)
【0011】
[2] 前記[1]記載のワックス分散剤、熱可塑性樹脂およびワックスを含有することを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明のワックス分散剤を用いることにより、ワックスを含有する熱可塑性樹脂組成物の溶融状態での流動性を向上させると同時に、当該熱可塑性樹脂組成物の透明性を低下させることなく、また保存時における安定性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本発明のワックス分散剤は、重合前モノマーの質量基準で、芳香族モノマー(A1)に由来する構造単位を40~94質量%、下記一般式(1)で示される(メタ)アクリル酸長鎖アルキルエステル(A2)に由来する構造単位を5~40質量%および下記一般式(2)で示される(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A3)に由来する構造単位を1~20質量%含む共重合組成を有し、重量平均分子量が3,000~50,000である共重合体(A)であることを特徴とする。
【0014】
【化3】
【0015】
(一般式(1)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数9~22のアルキル基を示す。)
【0016】
【化4】
【0017】
(一般式(2)中、Rは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素数1~8のアルキル基を示す。)
【0018】
なお、本発明において「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルを包含する総称である。
また、重合体を構成する構造単位とは、当該重合体を合成するために用いたモノマーから重合反応により誘導された化学構造を有し、重合体鎖の連鎖構造を構成する単位のことを意味する。
また、各モノマーに由来する構造単位の重合前モノマーの質量基準での共重合割合とは、重合反応によって共重合体中に組み込まれたモノマーの重合前における全質量に対する、当該共重合体に取り込まれた各モノマーの重合前における質量の割合を意味する。
【0019】
各モノマーに由来する構造単位の重合前モノマーの質量基準での共重合割合は、共重合体を合成する際に用いた各モノマーの仕込み量から計算することができる。
仕込み量から計算する場合には、共重合体を合成する時のモノマーの重合転化率が100%(つまり、未反応状態のまま残存するモノマーの量がゼロ)の場合には、共重合体に組み込まれたモノマーの量は仕込み量と等しいと考える。一方、共重合体を合成する時のモノマーの重合転化率が100%未満の場合には、モノマーの仕込み量から未反応状態のまま残存するモノマーの量を差し引いた値を共重合体に組み込まれたモノマーの量と考える。
先ず、共重合体の合成に用いた各モノマーの仕込み量から、共重合体に組み込まれた各モノマーの量を計算する。次に、共重合体に組み込まれたモノマーの合計量を計算する。そして、共重合体に組み込まれたモノマーの合計量に対する、共重合体に組み込まれた各モノマーの割合を計算する。
【0020】
また、他の方法としては、合成された共重合体中に存在する各モノマーに由来する構造単位の量を、プロトン核磁気共鳴分光法や熱分解ガスクロマトグラフィー等の適切な方法で分析した結果から、各モノマーに由来する構造単位の重合前モノマーの質量基準での共重合割合を特定することができる。
この場合、先ず、共重合体の分析結果から、各モノマーに由来する構造単位の量を測定又は計算する。この段階では、通常、各モノマーに由来する構造単位の量は、モル単位の値として得られる。次に、各モノマーに由来する構造単位の量を、重合前のモノマーの質量に換算する。そして、得られた換算値を用いて、共重合体に組み込まれたモノマーの合計量に対する、共重合体に組み込まれた各モノマーの割合を計算する。
【0021】
〔芳香族モノマー(A1)〕
本発明で用いる芳香族モノマー(A1)としては、芳香族基と重合性不飽和基の両方を有するものであり、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-メトキシスチレン、(メタ)アクリル酸ベンジル、フェニルマレイミドなどを挙げることができる。
モノマー(A1)は、一種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。重合性の観点と熱可塑性樹脂への相溶性の観点から、スチレンおよび(メタ)アクリル酸ベンジルが好ましく、スチレンがより好ましい。
共重合体(A)を構成する構造単位に占める、芳香族モノマー(A1)に由来する構造単位の共重合割合は、重合前モノマーの質量基準で、40~94質量%であり、50~92質量%が好ましく、60~90質量%がより好ましい。芳香族モノマー(A1)の質量比が40質量%より低いと熱可塑性樹脂との親和性が低くなり、また94質量%よりも高いとワックスとの親和性が低くなる。
【0022】
〔(メタ)アクリル酸長鎖アルキルエステル(A2)〕
(メタ)アクリル酸長鎖アルキルエステル(A2)は下記一般式(1)で示される。
【0023】
【化5】
【0024】
一般式(1)中、Rは、水素原子またはメチル基であり、重合性の観点からメチル基が好ましい。
は、炭素数9~22のアルキル基である。炭素数9~22のアルキル基としては、例えば、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ステアリル基などが挙げられる。ワックスとの親和性の観点からRを構成するアルキル基の炭素数は12以上が好ましく、16以上がより好ましい。
は、分岐アルキル基であっても良いが、直鎖アルキル基であることが好ましい。また、Rが分岐アルキル基である場合には、Rの主鎖部分の炭素数が9以上であることが好ましい。
(メタ)アクリル酸長鎖アルキルエステル(A2)は、一種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
共重合体(A)を構成する構造単位に占める、(メタ)アクリル酸長鎖アルキルエステル(A2)に由来する構造単位の共重合割合は、重合前モノマーの質量基準で、5~40質量%であり、6~38質量%が好ましく、7~30質量%がより好ましい。(メタ)アクリル酸長鎖アルキルエステル(A2)の質量比が5質量%より低いとワックスとの親和性が低くなり、また40質量%よりも高いと熱可塑性樹脂との親和性が低くなる。
【0025】
〔(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A3)〕
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A3)は下記一般式(2)で示される。
【0026】
【化6】
【0027】
一般式(2)中、Rは、水素原子またはメチル基であり、重合性の観点からメチル基が好ましい。
は炭素数1~8のアルキル基である。炭素数1~8のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基などが挙げられる。Rを構成するアルキル基の炭素数は2~6が好ましく、より好ましくは3または4であり、さらに好ましくは4である。この範囲の炭素数のアルキル基とすることで、ワックスの分散性を向上させることができる。
は、分岐アルキル基であっても良いが、直鎖アルキル基であることが好ましい。また、Rが分岐アルキル基である場合には、Rの主鎖部分の炭素数が2~6であることが好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A3)は、一種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
共重合体(A)を構成する構造単位に占める、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A3)に由来する構造単位の共重合割合は、重合前モノマーの質量基準で、1~20質量%であり、2~12質量%が好ましく、3~10質量%がより好ましい。この範囲にすることで、ワックスの分散性を向上させることができる。
さらに、熱可塑性樹脂組成物とした際の溶融粘度の観点からは、Rが水素原子のモノマー(a3-1)とRがメチル基のモノマー(a3-2)とを併用することが好ましい。(a3-1)と(a3-2)の合計量に対する(a3-1)の比[(a3-1)/{(a3-1)+(a3-2)}×100]は、1~99質量%であり、50~90質量%が好ましく、60~80質量%がより好ましい。上記範囲とすることで組成物の溶融粘度を下げることができ、成型加工性が良好となる。
【0028】
〔他のモノマー〕
本発明の共重合体(A)は、芳香族モノマー(A1)、(メタ)アクリル酸長鎖アルキルエステル(A2)および(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A3)に由来する構造単位だけで構成されていてよく、あるいはこれらのモノマーと重合可能な他のモノマーに由来する構造単位を、重合前モノマーの質量基準で、更に30質量%以下含有していてもよい。他のモノマーの比率は、30質量%以下とするが、15質量%以下が更に好ましく、5質量%以下がより好ましく、0質量%であってもよい。
こうした他のモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、アクリルアミド、アクリロニトリルなどを挙げることができる。その他のモノマーとして、(メタ)アクリル酸を用いた場合、熱可塑性樹脂へのワックスの分散性をより向上させることができるため好ましい。
【0029】
〔共重合体(A)〕
本発明の共重合体(A)の重量平均分子量、数平均分子量、分散度は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いてポリスチレン換算で求めることができる。重量平均分子量は、3,000~50,000であり、好ましくは4,000~30,000、より好ましくは5,000~10,000である。共重合体の重量平均分子量が低すぎると、熱可塑性樹脂組成物とした際の保存安定性が不足し、重量平均分子量が高すぎると、熱可塑性樹脂組成物とした際の透明性が低下するおそれがある。
本発明の共重合体(A)の分散度[重量平均分子量/数平均分子量]は、分散性の観点から、1.5~4.0であり、2.0~3.0が好ましい。
【0030】
〔共重合体の製造方法〕
次に、本発明の共重合体(A)を製造する方法について説明する。
共重合体(A)は、芳香族モノマー(A1)、(メタ)アクリル酸長鎖アルキルエステル(A2)および(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A3)を少なくとも含有するモノマー混合物をラジカル重合させることにより得ることができる。
重合は公知の方法で行うことができる。例えば、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などが挙げられるが、共重合体(A)の重量平均分子量を上記範囲内に調整しやすいという面で、溶液重合や懸濁重合が好ましい。
重合開始剤は、公知のものを使用することができる。例えば、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物、2,2’-アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系重合開始剤などを挙げることができる。これらの重合開始剤は1種類のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
重合開始剤の使用量は、用いるモノマーの組み合わせや、反応条件などに応じて適宜設定することができる。
なお、重合開始剤を投入するに際しては、例えば、全量を一括仕込みしてもよいし、一部を一括仕込みして残りを滴下してもよく、あるいは全量を滴下してもよい。また、前記モノマーとともに重合開始剤を滴下すると、反応の制御が容易となるので好ましく、さらにモノマー滴下後も重合開始剤を添加すると、残存モノマーを低減できるので好ましい。
溶液重合の際に使用する重合溶媒としては、モノマーと重合開始剤が溶解するものを使用することができ、具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどを挙げることができる。
【0031】
重合溶媒に対するモノマー(合計量)の濃度は、10~60質量%が好ましく、特に好ましくは20~50質量%である。モノマー混合物の濃度が低すぎると、モノマーが残存しやすく、得られる共重合体の分子量が低下するおそれがあり、モノマーの濃度が高すぎると、発熱を制御し難くなるおそれがある。
モノマーを投入するに際しては、例えば、全量を一括仕込みしても良いし、一部を一括仕込みして残りを滴下しても良いし、あるいは全量を滴下しても良い。発熱の制御しやすさから、一部を一括仕込みして残りを滴下するか、または全量を滴下するのが好ましい。
重合温度は、重合溶媒の種類などに依存し、例えば、50℃~110℃である。重合時間は、重合開始剤の種類と重合温度に依存し、例えば、重合開始剤として1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートを使用した場合、重合温度を90℃として重合すると、重合時間は6時間程度が適している。
以上の重合反応を行なうことにより、本発明のワックス分散剤の有効成分である共重合体(A)が得られる。得られた共重合体(A)は、そのまま用いてもよいし、重合反応後の反応液に、脱溶媒、ろ取や精製を施して単離してもよい。
【0032】
〔熱可塑性樹脂組成物〕
本発明の重合体(A)は、熱可塑性樹脂へのワックスの分散剤として好適に用いられる。熱可塑性樹脂中にワックスとともに重合体(A)を共存させると、熱可塑性樹脂のマトリクス中にワックスを微細に分散させることができるため、樹脂組成物の溶融状態での流動性を向上させると同時に、樹脂組成物の透明性を低下させず優れた外観を与え、さらにワックスの分散安定性を向上させ樹脂組成物の保存時における安定性も向上する。
【0033】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂およびワックスとともに、ワックス分散剤として本発明の共重合体(A)を含有する。
こうした熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル樹脂、ポリブタジエン、ポリイソプレン等のゴム状(共)重合体、ポリスチレン、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)等のポリスチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。これらのなかで、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂が好ましく、ポリエステル樹脂がより好ましい。
また、ワックスとしては、例えば、炭化水素系化合物、脂肪酸アミド系化合物、脂肪酸エステル系化合物等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、二種以上を混合して用いてもよい。
炭化水素系化合物としては、例えば、流動パラフィン、パラフィンワックス、マイクロワックス、ポリエチレンワックス等が挙げられる。
脂肪酸アミド系化合物としては、脂肪酸のモノアミド又はビスアミドを用いることができ、例えば、カプリン酸アミド、ラウリン酸アミド、ミリスチン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスヒドロキシステアリン酸アミド等が挙げられる。
脂肪酸エステル系化合物としては、例えば、ブチルステアレート、ブチルラウレート、ブチルパルミテート、ブチルモンタネート、プロピルステアレート、フェニルステアレート、ラウリルアセテート、ステアリルアセテート、ステアリルラウレート、ステアリルステアレート、ベヘニルベヘネート、ベヘニルベンゾエート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート、ペンタエリスリトールテトラベヘネート、グリセリンジラウレート、グリセリンモノベヘネート、ペンタエリスリトールトリラウレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールモノベヘネート等が挙げられる。
これらの中で、脂肪酸アミド化合物および脂肪酸エステル化合物が好ましく、脂肪酸エステル化合物がより好ましい。
【0034】
熱可塑性樹脂組成物中での本発明の共重合体(A)の含有量は、熱可塑性樹脂の質量を100質量部としたとき、0.1質量部~10.0質量部が好ましく、0.3質量部~8.0質量部がより好ましく、0.5質量部~5.0質量部がさらに好ましい。また、熱可塑性樹脂組成物中でのワックスの含有量は、熱可塑性樹脂の質量を100質量部としたとき、0.1質量部~10.0質量部が好ましく、0.5質量部~8.0質量部がより好ましく、1.0質量部~5.0質量部がさらに好ましい。
本発明において、熱可塑性樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)が1.0g/10分以上15.0g/10分以下であることが好ましい。
なお、上記メルトフローレート(MFR)は、JIS K7210-1に準拠して、荷重21.18N、温度150℃の条件で測定した値である。
熱可塑性樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)が15.0g/10分より大きい場合は、熱可塑性樹脂組成物の強度が低下する恐れがある。また、MFRが1.0g/10分より小さい場合は、熱可塑性樹脂組成物の保存安定性や加工性が低下する恐れがある。
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、その目的に応じ、所望の特性を付与する他の成分、例えば、顔料、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤などの一種または二種以上を含有させてもよい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形などの成型原料として、また電子写真用トナーとして使用することが出来る。
【実施例
【0035】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
1.共重合体の製造例
(重合例1:共重合体P1)
撹拌機、温度計、冷却器、滴下ロート及び窒素導入管を取り付けた1Lセパラブルフラスコに、トルエン370gを仕込み、フラスコ内を窒素置換して、窒素雰囲気下にした。
スチレン(製品名:スチレンモノマー、NSスチレン(株)製)272.8g、メタクリル酸ステアリル(製品名:ブレンマーSMA、日油(株)製)77.9g、アクリル酸n-ブチル(製品名:BA、(株)日本触媒製)19.5g、メタクリル酸n-ブチル(製品名:アクリルエステルB、三菱ケミカル(株)製)7.8g、メタクリル酸(製品名:MAA、三菱ケミカル(株)製)11.7gを混合したモノマー溶液、及びt-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート(製品名:パーブチルO、日油(株)製)20.7gとトルエン20gを混合した重合開始剤溶液を、それぞれ調製した。
反応容器内を105℃まで昇温し、モノマー溶液及び重合開始剤溶液を同時にそれぞれ3時間かけて滴下し、その後105℃で3時間反応させた。反応後、減圧留去することでトルエンを約150g留去した。留去後の内容物を箱型真空乾燥機で110℃で8時間減圧乾燥することで、共重合体P1を得た。
【0036】
(重合例2:共重合体P2)
モノマー溶液をスチレン272.9g、メタクリル酸ステアリル78.0g、アクリル酸n-ブチル19.5g、メタクリル酸n-ブチル19.5gに変更したこと以外は重合例1と同様の手法で、共重合体P2を得た。
【0037】
(重合例3:共重合体P3)
モノマー溶液をスチレン272.9g、メタクリル酸ステアリル78.0g、メタクリル酸n-ブチル39.0gに変更したこと以外は重合例1と同様の手法で、共重合体P3を得た。
【0038】
(重合例4:共重合体P4)
撹拌機、温度計、冷却器、滴下ロート及び窒素導入管を取り付けた1Lセパラブルフラスコに、トルエン370g、スチレン272.9g、メタクリル酸ステアリル78.0g、メタクリル酸n-ブチル39.0g、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート5.7gを仕込み、フラスコ内を窒素置換して、窒素雰囲気下にした。反応容器を徐々に加熱し、内温105℃まで昇温し、105℃で3時間反応させた。反応後、重合例1と同様に脱溶剤操作を実施し、共重合体P4を得た。
【0039】
(重合例5:共重合体P5)
モノマー溶液をメタクリル酸ベンジル(製品名:ライトエステルBz、共栄社化学(株))195.0g、アクリル酸ステアリル117.0g、アクリル酸n-ブチル58.5g、アクリロニトリル(製品名:アクリロニトリル、三菱ケミカル(株)製)19.5gに変更したこと以外は重合例1と同様の手法で、共重合体P5を得た。
【0040】
(重合例6:共重合体P6)
モノマー溶液をスチレン284.5g、メタクリル酸ステアリル58.5g、アクリル酸n-ブチル3.9g、メタクリル酸n-ブチル3.9g、メタクリル酸39.0gに変更したこと以外は重合例1と同様の手法で、共重合体P6を得た。
【0041】
(重合例7:共重合体P7)
モノマー溶液をスチレン291.7g、アクリル酸ステアリル77.8g、アクリロニトリル19.4gに、重合開始剤溶液をt-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート22.0gとトルエン20gの混合物に変更したこと以外は重合例1と同様の手法で、共重合体P7を得た。
【0042】
(重合例8:共重合体P8)
モノマー溶液をスチレン290.8g、アクリル酸n-ブチル77.6g、アクリロニトリル19.4gに、重合開始剤溶液をt-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート10.0gとトルエン20gの混合物に変更したこと以外は重合例1と同様の手法で、共重合体P8を得た。
【0043】
〔共重合体の重量平均分子量、分散度の測定〕
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件により、共重合体P1~P8の重量平均分子量および分散度を求めた。
装置:東ソー(株)社製、HLC-8220
カラム:shodex社製、LF-804
標準物質:ポリスチレン
溶離液:THF(テトラヒドロフラン)
流量:1.0ml/min
カラム温度:40℃
検出器:RI(示差屈折率検出器)
【0044】
共重合体P1~P8の共重合組成、重量平均分子量および分散度を表1に示す。共重合体P1~P6は本発明の共重合体(A)であり、共重合体P7およびP8は比較例相当の共重合体である。共重合体P7は、一般式(2)で示される(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A3)に由来する構造単位を有していない。共重合体P8は、一般式(1)で示される(メタ)アクリル酸長鎖アルキルエステル(A2)に由来する構造単位を有していない。
【0045】
【表1】
【0046】
2.ワックスの準備
(ペンタエリスリトールテトラベヘネートの製造例)
温度計、窒素導入管、攪拌ばねおよび冷却管を取り付けた2Lの四つ口フラスコに、ペンタエリスリトール(60g、0.43mol)、ベヘニン酸(612g、1.80mol)を加え、窒素気流下、220℃で22時間反応させた。得られたエステル粗生成物は635gであり、酸価が8.9mgKOH/gであった。
本エステル粗生成物にトルエン130gおよび2-プロパノール67gを入れ、エステル粗生成物の残存酸価の2.0倍当量に相当する量の水酸化カリウムを含む10質量%水酸化カリウム水溶液を加え、70℃で30分間攪拌した。攪拌後、30分間静置して水層部を分離・除去した。排水のpHが中性になるまで水洗を4回繰り返した。残ったエステル層の溶剤を180℃、1kPaの減圧条件下で留去し、ろ過を行い、ペンタエリスリトールテトラベヘネートを540g得た。精製に供したエステル粗生成物に対する収率は85%であった。
得られたペンタエリスリトールテトラベヘネートの酸価は0.2mgKOH/g、水酸基価は3.2mgKOH/g、メトラー・トレド社製MP80により測定した透明融点は82℃であった。
【0047】
(ベヘニルベヘネートの製造例)
温度計、窒素導入管、攪拌ばねおよび冷却管を取り付けた2Lの四つ口フラスコに、ベヘニルアルコール(300g、0.94mol)、ベヘニン酸(337g、0.99mol)を加え、窒素気流下、220℃で18時間反応させた。得られたエステル粗生成物は604gであり、酸価が6.7mgKOH/gであった。
本エステル粗生成物にトルエン62gおよび2-プロパノール49gを入れ、エステル粗生成物の残存酸価の2.0倍当量に相当する量の水酸化カリウムを含む10質量%水酸化カリウム水溶液を加え、70℃で30分間攪拌した。攪拌後、30分間静置して水層部を分離・除去した。排水のpHが中性になるまで水洗を4回繰り返した。残ったエステル層の溶剤を180℃、1kPaの減圧条件下で留去し、ろ過を行い、ベヘニルベヘネートを550g得た。精製に供したエステル粗生成物に対する収率は91%であった。
得られたベヘニルベヘネートの酸価は0.2mgKOH/g、水酸基価は2.6mgKOH/g、前記と同様に測定した透明融点は71℃であった。
【0048】
(炭化水素ワックス)
フィッシャートロプシュワックスであるSASOL C80(:製品名、Sasol社製)を用いた。
【0049】
3.熱可塑性樹脂組成物の評価
(1)熱可塑性樹脂組成物の調製
(a)ポリエステル樹脂組成物の溶融混練(実施例1、3~5、参考例6~8、実施例9、比較例1~4)
各実験例における材料の配合組成を表2に示す。ポリエステル樹脂(製品名FC-2470、三菱レイヨン(株)製)、ワックスおよびワックス分散剤を、ラボプラストミル(型式:4C150-01、(株)東洋精機製作所製)を用いて温度120℃、回転速度60rpm、混練時間5分間の条件で混練して、熱可塑性樹脂組成物のサンプルを得た。
(b)スチレンアクリル樹脂組成物の溶融混練(実施例2)
各実験例における材料の配合組成を表2に示す。スチレンアクリル樹脂(製品名ダイヤナールFB-1157、三菱レイヨン(株)製)、ワックスおよびワックス分散剤を、ラボプラストミル(型式:4C150-01、(株)東洋精機製作所製)を用いて温度120℃、回転速度60rpm、混練時間5分間の条件で混練して、熱可塑性樹脂組成物のサンプルを得た。
【0050】
(2)評価方法
(a)分散性の評価
熱可塑性樹脂組成物のサンプルにガラスナイフを用いて切片面を整える加工を施し、ウルトラミクロトーム(型式:UC7、Leica製)を用いてダイヤモンドナイフで切り出し、厚さ80nm以下の超薄切片を作製した。水面に浮いた超薄切片を、まつげプローブでTEM観察用グリッドメッシュ上に回収し、透過型電子顕微鏡(TEM;型式:JEM-1300、日本電子(株)製)の観察試料とした。
倍率1000倍の視野におけるワックスの分散粒子を10点選び、各分散粒子の長軸と短軸それぞれの径を測定した。長軸径と短軸径との平均値を分散粒径とした。10点について測定した分散粒径の平均値を平均分散粒径とし、ワックス分散性の指標とした。ワックス分散粒子の平均分散径の値が小さいほど、ワックスの分散性に優れることを示す。
平均分散径が90μm未満を非常に良好(◎)、90μm以上110μm未満を良好(〇)、110μm以上130μm未満をやや不良(△)、130μm以上を不良(×)と評価した。
【0051】
(b)透明性の評価
熱可塑性樹脂組成物のサンプルを熱プレスで平板1mmの厚みのシートに成形した。得られたシート状サンプルのヘイズをJIS-K7136に準拠して、分光ヘイズメーター(型式:HSP-150VIR、村上色彩技術研究所製)を用いて測定した。ヘイズ(%)値が小さいほど透明性が優れることを示す。
ヘイズが20%未満を良好(〇)、20%以上25%未満をやや不良(△)、25%以上を不良(×)と評価した。
【0052】
(c)流動性の評価
熱可塑性樹脂組成物のサンプルについて、メルトフローレート(MFR、単位:g/10分)をJIS K7210-1に規定された方法に従い、装置として(株)東洋精機製作所製の型式:F-F01を用い、荷重21.18N、温度150℃の条件で5回測定を行い、平均値をMFR値とした。数値が大きいほど、流動性が大きいことを示す。
MFRが5.0以上15.0未満を非常に良好(◎)、3.5以上5.0未満を良好(〇)、1.0以上3.5未満をやや不良(△)、1.0未満を不良(×)と評価した。
【0053】
(d)保存安定性の評価
熱可塑性樹脂組成物のサンプルについて、機械粉砕を行い目開き75μmの篩を通過させたものを試験サンプルとした。試験サンプル5gをガラス製50ml瓶に入れ、温度55℃/湿度30%で12時間保管し、凝集の程度を目視観察した。粒子が凝集しなかったものを良好(○)、部分的に凝集していたものをやや良好(△)、凝集していたものを不良(×)と評価した。
【0054】
(3)評価結果
熱可塑性樹脂組成物の配合組成および評価結果を、表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
比較例1の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂としてポリエステル樹脂、およびワックスとしてベヘニルベヘネートを含有するが、ワックス分散剤を含有していない。
ワックスの平均分散径は200μmであり分散性が不良、ヘイズは25%であり透明性が不良、メルトフローレートは0.9g/10分であり流動性が不良、および、凝集状態の観察による保存安定性が不良と評価された。比較例1は、全ての評価項目において不良と評価された。
【0057】
比較例2の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂としてポリエステル樹脂、ワックスとしてベヘニルベヘネートおよびワックス分散剤として共重合体P7を含有している。共重合体P7は、比較例相当のワックス分散剤である。
ワックスの平均分散径は173μmであり分散性が不良、ヘイズは21%であり透明性がやや不良、メルトフローレートは2.3g/10分であり流動性がやや不良、および、凝集状態の観察による保存安定性がやや良好と評価された。比較例2は、比較例1と比べてワックスの分散性が若干向上した。しかし、分散性、透明性および流動性について不良またはやや不良と評価され、ワックス分散性の付与効果は不十分であった。
【0058】
比較例3の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂としてポリエステル樹脂、ワックスとしてベヘニルベヘネートおよびワックス分散剤として共重合体P7を比較例2の2倍量含有している。上記したとおり、共重合体P7は、比較例相当のワックス分散剤である。
ワックスの平均分散径は113μmであり分散性がやや不良、ヘイズは20%であり透明性がやや不良、メルトフローレートは3.4g/10分であり流動性がやや不良、および、凝集状態の観察による保存安定性が良好と評価された。比較例3は、比較例2と同じワックス分散剤を多量に使用したため、比較例2よりもワックスの分散性が若干向上した。しかし、分散性、透明性および流動性についてやや不良と評価され、ワックス分散性の付与効果は不十分であった。
【0059】
比較例4の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂としてポリエステル樹脂、ワックスとしてベヘニルベヘネートおよびワックス分散剤として共重合体P8を含有している。共重合体P8は、比較例相当のワックス分散剤である。比較例4における共重合体P8の含有量は、比較例3における共重合体P7の含有量と同じであり、比較的多量である。
ワックスの平均分散径は121μmであり分散性がやや不良、ヘイズは22%であり透明性がやや不良、メルトフローレートは2.8g/10分であり流動性がやや不良、および、凝集状態の観察による保存安定性が良好と評価された。比較例4は、比較例1と比べてワックスの分散性が若干向上した。しかし、分散性、透明性および流動性についてやや不良と評価され、ワックス分散性の付与効果は不十分であった。
【0060】
一方、実施例1~5、参考例6~8、実施例9は、熱可塑性樹脂としてポリエステル樹脂またはスチレンアクリル樹脂、ワックスとしてベヘニルベヘネート、ペンタエリスリトールテトラベヘネートまたは炭化水素ワックス、および、ワックス分散剤として共重合体P1からP6のいずれかを含有している。ワックス分散剤である共重合体の含有量は1.5質量%または2質量%である。
実施例1~5、参考例6~8、実施例9は、ワックスの平均分散径が110μm未満でありワックスが微細に分散されていることが確認された。透明性はヘイズ20%未満で良好であった。流動性はMFRが3.5g/10分以上で良好であった。保存安定性は粉砕された粒子が凝集しなかったことが確認され、その理由はワックスが熱可塑性樹脂組成物の表面に移行しにくいためであると推測された。
以上の結果から、実施例1~5、参考例6~8、実施例9は分散性、透明性、流動性および保存安定性のすべての評価項目において、良好または非常に良好と評価された。
【0061】
実施例のうち、実施例1~5は、ワックス分散剤として共重合体P1またはP2を用いた。共重合体P1およびP2は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(A3)としてRが水素のモノマー(a3-1)と、Rがメチル基のモノマー(a3-2)を用いた結果、MFRが4.4以上と良好であった。
共重合体P1は、モノマー(A3)中のモノマー(a3-1)とモノマー(a3-2)の合計量に対するモノマー(a3-1)の比が、約71質量%(=5/(5+2))である。一方、共重合体P2は、同様の比が、50質量%(=5/(5+5))である。共重合体P1は、共重合体P2と比べて、モノマー(a3-1)とモノマー(a3-2)の合計量に対するモノマー(a3-1)の比が、より好ましい範囲にあるため、共重合体P1を用いた実施例1は、共重合体P2を用いたこと以外は実施例1と同じである実施例5と比べ、MFRが向上した。
【0062】
共重合体P3と共重合体P4は、モノマー組成は同一であるが、重量平均分子量が相違している。共重合体P3の重量平均分子量は9700であり、共重合体P4の重量平均分子量は37500である。
共重合体P3は、共重合体P4と比べて重量平均分子量が、より好ましい範囲にあるため、共重合体P3を用いた参考例6は、共重合体P4を用いたこと以外は実施例1と同じである参考例7と比べ、分散性が若干向上した。