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特許7537435非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、非水電解質二次電池、及び蓄電装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極活物質、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法、非水電解質二次電池用正極、非水電解質二次電池、及び蓄電装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240814BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20240814BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240814BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240814BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G53/00 A
H01M4/505
H01M10/052
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021542593
(86)(22)【出願日】2020-07-03
(86)【国際出願番号】 JP2020026198
(87)【国際公開番号】W WO2021039120
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2019153958
(32)【優先日】2019-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(72)【発明者】
【氏名】吉川 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大谷 眞也
【審査官】高木 康晴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/104736(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/133113(WO,A1)
【文献】特開2014-203509(JP,A)
【文献】国際公開第2017/104688(WO,A1)
【文献】特開2018-41657(JP,A)
【文献】特開2018-206609(JP,A)
【文献】特開2019-149371(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
C01G 53/00
H01M 4/1391
H01M 4/505
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム遷移金属複合酸化物を含有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、
α-NaFeO構造を有し、
遷移金属(Me)としてNi、Co及びMnを含み、
空間群R3-mに帰属可能なエックス線回折パターンを有し、CuKα線を用いたエックス線回折測定によるミラー指数hklにおける(104)面の回折ピークの半値幅に対する(003)面の回折ピークの半値幅比(003)/(104)が0.810から0.865であり、結晶子サイズが410Å以上である、非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記Meに対するNiのモル比Ni/Meが0.35から0.6である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記リチウム遷移金属複合酸化物の全細孔容積が5.0mm/g以上である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、ハロゲンイオン、アンモニウムイオン、及び、遷移金属(Me)としてNi、Co及びMnを含む水溶液を反応槽に供給すること、Ni、Co及びMnを含む炭酸塩前駆体を得ること、及び、前記炭酸塩前駆体をリチウム化合物との混合物を焼成してリチウム遷移金属複合酸化物を得ること、を備える、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の正極活物質を含有する非水電解質二次電池用正極。
【請求項6】
請求項5に記載の正極、負極及び非水電解質を備える非水電解質二次電池。
【請求項7】
請求項6に記載の非水電解質二次電池を複数個備える蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極活物質、前記正極活物質の製造方法、前記正極活物質を含有する非水電解質二次電池用正極、前記正極を備える非水電解質二次電池、及び蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非水電解質二次電池用正極活物質として、α-NaFeO型結晶構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が検討され、LiCoOを用いた非水電解質二次電池が広く実用化されていた。しかし、LiCoOの放電容量は120から130mAh/g程度であった。そこで、CoをNi、Mn、Al等で置換したLiNi1/2Mn1/2やLiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNiCoAl(x+y+z=1)等の150から180mAh/gの放電容量を有するいわゆる「LiMeO型」の活物質が検討、又は実用化されている。
【0003】
これらのリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質として用いた電池の放電容量や充放電サイクル性能等の電池特性は、前記遷移金属を構成する元素の種類及び組成比の他、活物質の結晶性や粉体の物性に左右されることが知られている。
【0004】
特許文献1には、「CuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズαと、2θ=44.6±1°の範囲内のピークにおける結晶子サイズβとの比α/βが1以上1.75以下であり、以下組成式(I)で表されるリチウム二次電池用正極活物質。
Li[Li(NiCoMn1-x]O ・・・(I)
(ここで、0≦x≦0.2、0.3<a<0.7、0<b<0.4、0<c<0.4、0≦d<0.1、a+b+c+d=1、Mは、Fe、Cr、Ti、Mg、AlおよびZrからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属である。)」(請求項1)が記載されている。
また、「本実施形態においては、充電容量が高いリチウム二次電池を得る観点から、α/βは1を超えることが好ましく、1.05以上であることがより好ましく、1.1以上であることがさらに好ましい。また、初回クーロン効率がより高いリチウム二次電池を得る観点から、α/βは1.5以下であることが好ましく、1.4以下であることがより好ましく、1.3以下であることがさらに好ましい。」(段落[0039])と記載され、実施例のうち、α/βが最も小さい実施例1は、x:0.06、a:0.60、b:0.20、c:0.20、α/βが1.04であること、及びα/βが最も大きい実施例20は、x:0.05、a:0.55、b:0.21、c:0.24、α/βが1.67であることが示されている(段落[0129]から[0311])。
【0005】
特許文献2には、「少なくともニッケル、コバルト及びマンガンを含み、層状構造を有するリチウム二次電池用正極活物質であって、下記要件(1)~(3)を満たすリチウム二次電池用正極活物質。
(1)一次粒子径が0.1μm以上1μm以下であり、50%累積体積粒度D50が1μm以上10μm以下
(2)90%累積体積粒度D90と10%累積体積粒度D10との比率D90/D10が2以上6以下
(3)中和滴定により測定された粒子表面の残存アルカリに含まれる炭酸リチウム量が0.1質量%以上0.8質量%以下」(請求項1)、「以下組成式(I)で表される請求項1~7のいずれか1項に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
LiNi1-x-y-zCoMn
・・・(I)
(ここで、0.9≦a≦1.2、0<x<0.4、0<y<0.4、0≦z<0.1、0.5<1-x-y-z≦0.65、Mは、Mg、Al、Zrの内いずれか1種以上の金属である。)」(請求項8)が記載されている。
また、この正極活物質のCuKα線を使用した粉末X線回折測定において、2θ=18.7±1°の範囲内のピーク(ピークA)における結晶子サイズを、2θ=44.6±1°の範囲内のピーク(ピークB)における結晶子サイズで除した値は、実施例1~9において、それぞれ、1.6(ピークA:700Å、ピークB:425Å)、1.6(ピークA:857Å、ピークB:520Å)、1.7(ピークA:789Å、ピークB:464Å)、1.7(ピークA:866、ピークB:520Å)、1.7(ピークA:848Å、ピークB:488Å)、1.7(ピークA:847Å、ピークB:505Å)、1.7(ピークA:848Å、ピークB:496Å)、1.6(ピークA:805Å、ピークB:496Å)、1.5(ピークA:774Å、ピークB:514Å)であることが示され、この正極活物質を用いたリチウム二次電池の放電容量、放電容量維持率が示されている(段落[0120]から[0156]、[0174]から[0225])。
【0006】
特許文献3には、請求項1に記載された「層状結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物からなる粒子の表面に、Al、Ti及びZrからなる群のうちの何れか1種或いは2種以上の組合せ(これを「表面元素A」と称する)が存在する表面部を備えた粒子を含むリチウム金属複合酸化物粉体」に関して、「CuKα1線を用いたX線回折によって得られるX線回折パターンを使ってシェラーの式から計算される、前記リチウム金属複合酸化物の(110)面の結晶子サイズに対する、(003)面の結晶子サイズの比率が1.0より大きくかつ2.5より小さいことを特徴とする、請求項1~6の何れかに記載のリチウム金属複合酸化物粉体。」(請求項7)が記載されている。
また、「本リチウム金属複合酸化物粒子は、一般式(1):Li1+x1-x(式中、Mは、Mn、Co、Ni、周期律表の第3族元素から第11族元素の間に存在する遷移元素、及び、周期律表の第3周期までの典型元素からなる群のうちの何れか1種或いは2種以上の組合せ(これを「構成元素M」と称する))で表される、層状結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物からなる粒子であるのが好ましい。」(段落[0024])、「上記式(1)中の「M」が、Mn、Co及びNiの3元素を含有する場合、Mn、Co及びNiの含有モル比は、Mn:Co:Ni=0.10~0.45:0.03~0.40:0.30~0.75であるのが好ましく、中でもMn:Co:Ni=0.10~0.40:0.03~0.40:0.30~0.75であるのがさらに好ましい。」(段落[0027])と記載されている。
そして、「(110)面の結晶子サイズに対する(003)面の結晶子サイズの比率が1.0に近づくほど、Liの出し入れ時の膨張収縮が等方的になるものと推察される。(110)面の結晶子サイズに対する(003)面の結晶子サイズの比率が2.5より小さければ、膨張収縮の異方性を抑えることができ、サイクル後の容量維持率をより一層維持することができる。・・・」(段落[0040])と記載されている。
【0007】
特許文献4には、「X線回折により測定された(003)面の回折ピーク強度I(003)と(104)面の回折ピーク強度I(104)との比I(003)/(104)が、0.92以上1.02以下であり、かつ、(003)面の回折ピークの半値幅FWHM(003)が、0.13以上0.15以下であり、かつ、(104)面の回折ピークの半値幅FWHM(104)が、0.15以上0.18以下であり、かつ、XAFS解析またはCHNO元素分析により算出された遷移金属の平均価数が2.9以上であるリチウムニッケル複合酸化物を含む、正極活物質。」(請求項1)、「前記リチウムニッケル複合酸化物は、下記一般式(1)で表される組成を有する、請求項1に記載の正極活物質。
LiNiCo ・・・一般式(1)
上記一般式(1)において、
Mは、Al、Mn、…からなる群から選択される1種または2種以上の金属元素であり、
aは、0.20≦a≦1.20であり、
xは、0.80≦x<1.00であり、
yは、0<y≦0.20であり、
zは、0≦z≦0.10であり、
x+y+z=1である。」(請求項2)について記載されている。
そして「本実施形態におけるリチウムニッケル複合酸化物は、X線回折による(104)面の回折ピークの半値幅FWHM(104)が0.15以上0.18以下である。後述する実施例で実証されるように、(104)面の回折ピークの半値幅FWHM(104)がこれらの範囲内の値となる場合、リチウムイオン二次電池10のサイクル特性が向上する。一方、(104)面の回折ピークの半値幅FWHM(104)が0.15未満である場合、サイクル特性が低下するため好ましくない。また、(104)面の回折ピークの半値幅FWHM(104)が0.18を超える場合、放電容量が低下するため好ましくない。」(段落[0030])と記載され、実施例1から9として、LiNiCoのaが1、1.03、1.06、xが0.85、0.9であり、共沈炭酸塩と水酸化リチウムを0.1MPaから0.5MPaの酸素分圧下、770から790℃の焼成温度で焼成して得られた正極活物質が記載されている(段落[0083]から[0107])。
【0008】
特許文献5には、「組成式LiMn0.5-xNi0.5-yx+y(但し0<a<1.3、-0.1≦x-y≦0.1、MはLi,Mn,Ni以外の元素)で表される複合酸化物を含有する正極活物質。」(請求項1)、「前記2θ:18.6±1°における回折ピークの半値幅が0.05°以上0.20°以下であり、かつ、前記2θ:44.1±1°における回折ピークの半値幅が0.10°以上0.20°以下であることを特徴とする請求の範囲第5項または第6項に記載の正極活物質。」(請求項7)が記載されている。そして、請求項7の実施例として、2θ:44.1±1°における回折ピークの半値幅が0.118から0.200°の正極活物質が示され(表2、表5)、その正極活物質を用いた非水電解質二次電池の放電容量、サイクル性能、放電効率が示されている(表8、表9)。
【0009】
また、「組成式LiMn0.5-xNi0.5-yx+y(但し0.98≦a<1.1、-0.1≦x-y≦0.1、M’は、B,Al,Mg及びCoから選択される少なくとも1種の元素)で表される複合酸化物を含有する正極活物質の製造方法であって、『ニッケル(Ni)化合物とマンガン(Mn)化合物とが水に溶解された水溶液、または、Ni化合物とMn化合物とM’化合物(M’は、前記と同様)とが水に溶解された水溶液に、アルカリ化合物と、還元剤と、錯化剤とを添加して前記水溶液のpHを10~13とし、前記水溶液中で、Ni-Mn複合共沈物、または、Ni-Mn-M’複合共沈物を沈殿させる共沈工程』を経由して、前記複合酸化物を作製する製造方法。」(請求項13)、「前記錯化剤が、水溶液中でアンモニウムイオンを解離可能な化合物であることを特徴とする請求の範囲第13項~第16項のいずれかに記載の正極活物質の製造方法。」(請求項17)、「前記『水溶液中でアンモニウムイオンを解離可能な化合物』が、硝酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩酸アンモニウム及びアンモニア水からなる群から選択される1種以上の化合物であることを特徴とする請求の範囲第13項~第17項のいずれかに記載の正極活物質の製造方法。」(請求項18)、「前記M’をCoとすることを特徴とする請求の範囲第13項~第18項のいずれかに記載の正極活物質の製造方法。」が記載されている。
さらに、具体的な共沈工程として、「1.7モル/リットル硫酸ニッケル水溶液、1.1モル/リットル硫酸マンガン水溶液、1.5モル/リットル硫酸コバルト水溶液、6モル/リットル硫酸アンモニウム水溶液、及び4wt%ヒドラジン水溶液をそれぞれ体積比で11:17:5.0:1.4:0.42(リットル)の割合で混合し、Ni/Mn/Co=5/5/2(モル比)の原料溶液とした。この原料溶液を13ml/minの流量で反応槽に連続的に滴下した。・・・原料溶液の投入を開始してから120時間後にオーバーフローパイプ13から連続的に24時間反応晶析物である水酸化物もしくは酸化物と思われるニッケル-マンガン-コバルト複合共沈物のスラリーを採取した。」(段落[0555]から[0559])と記載されている。
【0010】
特許文献6には、「密度の高いニッケルコバルトマンガン複合水酸化物、特に、非水系電解質二次電池の正極活物質の前駆体として用いられるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物とその製造方法」(段落[0001])に関して、「一般式:NiCoMn(OH)2+a(x+y+z+t=1、0.05≦x≦0.3、0.1≦y≦0.4、0.6≦z≦0.8、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Wから選択される1種以上の添加元素)で表されるニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の製造方法であって、少なくとも、ニッケルを含有する金属化合物、コバルトを含有する金属化合物及びマンガンを含有する金属化合物と、12~30g/Lのアンモニウムイオン濃度となるようにアンモニウムイオン供給体とを含む核生成用水溶液を液温25℃基準におけるpH値が11.0~14.0となるように制御して、核生成を行う核生成工程と、前記核生成工程において形成された核を含有する粒子成長用水溶液を液温25℃基準におけるpH値が10.5~12.5となるように制御するとともに、不活性ガスと酸素の混合雰囲気下でアンモニアを添加し、アンモニウムイオン濃度を12~30g/Lの範囲内に維持して、前記核を成長させてニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子を得る粒子成長工程とを有することを特徴とするニッケルコバルトマンガン複合水酸化物の製造方法。」(請求項1)が記載されている。
また、核生成工程では、「アンモニア水溶液を含む反応前水溶液を反応槽内に用意する」一方で、「ニッケルを含有する金属化合物、コバルトを含有する金属化合物及びマンガンを含有する金属化合物を所定の割合で水に溶解させ、混合水溶液を作製」し(段落[0044])、「反応前水溶液を撹拌しながら混合水溶液を反応槽内に供給する」(段落[0046])ことが記載されている。
【0011】
特許文献7には、「リチウム遷移金属複合酸化物を含有するリチウム二次電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、α-NaFeO構造を有し、CuKα線を使用した粉末エックス線回折図の2θ=44±1°における回折ピークの半値幅が0.125~0.145°であり、空隙率が1.5~3.5%である、リチウム二次電池用正極活物質。」(請求項2)、「リチウム遷移金属複合酸化物を含有するリチウム二次電池用正極活物質の製造に用いる前駆体の製造方法であって、フッ素イオンを含有する溶液中で遷移金属化合物を沈殿させて、α-NaFeO構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物の前駆体を製造することを備える、前駆体の製造方法。」(請求項7)、「前記フッ素イオンを含有する溶液が、アンモニウムイオンを含有する、請求項7に記載の前駆体の製造方法。」(請求項8)、「リチウム遷移金属複合酸化物を含有するリチウム二次電池用正極活物質の製造方法であって、請求項7~9のいずれか1項に記載の前駆体の製造方法によって製造された前駆体に、リチウム化合物及び焼結助剤を含有させて焼成し、α-NaFeO構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を製造することを備える、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法。」(請求項10)が記載されている。
また、「リチウム遷移金属複合酸化物の合成工程において、遷移金属水酸化物の共沈前駆体とリチウム水酸化物とを焼結する際に、焼結助剤としてLiFを混合すると、高密度化や充放電に伴う構造安定性をもたらすことも知られている(例えば、非特許文献2~4参照)。」(段落[0015])、「本発明者は、リチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質に用いてリチウム二次電池を作製し、放電末状態における半値幅比FWHM(003)/FWHM(104)と、充電末状態における半値幅比FWHM(003)/FWHM(104)との関係を調べた。すると、第一の実施形態に用いるリチウム遷移金属複合酸化物のように、放電末状態のFWHM(003)/FWHM(104)に対する、直後の充電末状態におけるFWHM(003)/FWHM(104)の比が、0.72以上である場合、すなわち、初期の放電末状態から次の充電末状態にかけて結晶異方性の変化が特定範囲内である場合に、充放電サイクルに伴う活物質粒子の割れの進行が顕著に抑制され、充放電サイクル性能が向上することを知見した。」(段落[0040])、「一般に、活物質の粒子割れや極板膨張を引き起こす原因としては、充放電に伴う格子体積の変化が知られている。しかしながら、正極活物質として用いられているNi、Co、Mnの比率が1/1/1であるLiNi1/3Co1/3Mn1/3等のリチウム遷移金属酸化物では、充放電に伴う格子体積の変化がほとんど生じないことが確認されている(非特許文献1参照)。そこで、本発明者は、『充放電に伴う格子体積の変化』以外の要因が、粒子割れや極板膨張を引き起こす原因として存在すると考え、リチウム遷移金属複合酸化物の各種物性と充放電サイクル性能との関係を調査検討した。その結果、いずれのリチウム遷移金属複合酸化物も、結晶子サイズが、放電末から充電末にかけて減少するものの、充放電サイクルに伴うDCRの上昇が抑制され、優れた充放電性能を示すリチウム遷移金属複合酸化物では、結晶子サイズの減少量が小さいことを知見した。」(段落[0043])と記載されている。
そして、実施例には、リチウム二次電池用正極活物質の作製にあたって、フッ化アンモニウムを溶解させた水溶液の入った反応槽に、ニッケル、コバルト及びマンガンの硫酸塩を含む水溶液を滴下し、共沈させて、水酸化物前駆体を作製することが記載されている(段落[0096])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開2016/060105
【文献】国際公開2015/182665
【文献】国際公開2016/035852
【文献】特開2016-110889号公報
【文献】特開2008-293988号公報
【文献】特開2015-227263号公報
【文献】国際公開2017/104688
【非特許文献】
【0013】
【文献】J. Electrochem. Soc., Yabuuchi et al, 154(4), A314-A321 (2007)
【文献】J. Electrochem. Soc., Kim et al, 152(9), A1707-A1713 (2005)
【文献】J. Electrochem. Soc., Kim et al, 154(6), A561-A565 (2007)
【文献】J. Electrochem. Soc., Jouanneau et al, 151, 1749 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
充放電サイクル性能に影響を与える要因の一つとして、リチウムイオンの挿入・脱離に伴う正極活物質粒子の膨張収縮が挙げられる。充放電サイクルに伴う正極活物質粒子の膨張収縮によって、正極活物質の二次粒子を構成している一次粒子間の界面で割れ(クラック)が発生し得る。
LiMeO型正極活物質の中で、遷移金属元素MeにおけるNi、Co、Mnの含有モル比がほぼ1:1:1である正極活物質(LiNi1/3Co1/3Mn1/3:以下、「NCM111」という。)は、充放電に伴う体積膨張収縮が比較的小さいことが知られている(非特許文献1参照)。しかし、遷移金属元素Meに対するNiの含有モル比がNCM111よりも高いLiMeO型正極活物質では、充放電に伴う体積膨張収縮が大きいことから、充放電サイクルに伴って活物質粒子に割れが生じやすいという問題があった。図3は、市販の遷移金属元素Meに対するNiの含有モル比が高いLiMeO型正極活物質(LiNi0.5Co0.2Mn0.3)を正極に用いた非水電解質二次電池について、60℃で1C、4.25Vまでの定電圧定電流充電を行い、1C、2.75Vまでの定電流放電を行う充放電サイクルを300回繰り返した後の正極活物質粒子の写真を示している。一次粒子の界面に沿って割れが発生していることがわかる。
【0015】
LiMeO型正極活物質の充放電サイクル性能を向上させる技術の一例として、結晶性を高めるために、活物質合成の際に焼成温度を上げること、又は特許文献7及び非特許文献2から4に記載されているように、ハロゲン化リチウム等の焼結剤を加えて焼成することが知られている。しかし、遷移金属元素Meに対するNiの含有モル比がNCM111よりも高い組成に対して、上記の公知の技術を適用すると、構造変化を起こし、容量低下を引き起こすという課題があった。
【0016】
特許文献1から3には、遷移金属元素Meに対するNiの含有モル比がNCM111よりも高いLiMeO型活物質(以下、「ニッケル型活物質」という。)において、(003)面(2θ=18.7±1°)における結晶子サイズを、(104)面(2θ=44.6±1°)又は(110)面における結晶子サイズで除した結晶子サイズ比(003)/(104)、又は(003)/(110)が記載されており、ニッケル型活物質を正極に用いた電池の容量、初回クーロン効率、容量維持率等について記載されている。
特許文献4,5には、(003)面の回折ピークの半値幅(以下、「FWHM(003)」という。)、(104)面の回折ピークの半値幅(以下、「FWHM(104)」という。)、及び半値幅比FWHM(003)/FWHM(104)の1つ以上が特定されたニッケル型活物質を正極に用いた電池のサイクル特性、放電容量等について記載されている。
特許文献7には、放電末状態のFWHM(003)/FWHM(104)に対する、直後の充電末状態におけるFWHM(003)/FWHM(104)の比を特定したリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質に用いたリチウム二次電池は、充放電サイクル性能が向上することが記載されている。
【0017】
また、特許文献5から7には、アンモニアイオンを供給する錯化剤を用いて作製した水酸化物前駆体を正極活物質の製造に用いることが記載されている。
【0018】
本発明は、充放電サイクル性能が優れた非水電解質二次電池用正極活物質、前記正極活物質の製造方法、前記正極活物質を含有する非水電解質二次電池用正極、前記正極を備える非水電解質二次電池、及び蓄電装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の一側面は、リチウム遷移金属複合酸化物を含有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、α-NaFeO構造を有し、遷移金属(Me)としてNi、Co及びMnを含み、R3-mに帰属可能なエックス線回折パターンを有し、CuKα線を用いたエックス線回折測定によるミラー指数hklにおける(104)面の回折ピークの半値幅に対する(003)面の回折ピークの半値幅比(003)/(104)が0.810から0.865であり、結晶子サイズが410Å以上である、非水電解質二次電池用正極活物質である。
【0020】
本発明の他の一側面は、前記非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、ハロゲンイオン、アンモニウムイオン、及び、遷移金属(Me)としてNi、Co及びMnを含む水溶液を反応槽に供給し、Ni、Co及びMnを含む炭酸塩前駆体を沈殿させ、前記炭酸塩前駆体をリチウム化合物と混合し、焼成して、リチウム遷移金属複合酸化物を製造することを備える、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0021】
本発明のさらに他の一側面は、前記一側面に係る正極活物質を含有する非水電解質二次電池用正極である。
【0022】
本発明のさらに他の一側面は、前記正極、負極及び非水電解質を備える非水電解質二次電池である。
【0023】
本発明のさらに他の一側面は、前記非水電解質二次電池を複数個備える蓄電装置である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、充放電サイクル性能が向上した非水電解質二次電池用正極活物質、前記正極活物質の製造方法、前記正極活物質を含有する正極、前記正極を備える非水電解質二次電池、及び蓄電装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態に係る方法で作製したリチウム遷移金属複合酸化物粒子の写真
図2】従来技術に係る方法で作製したリチウム遷移金属複合酸化物粒子の写真
図3】従来技術に係るリチウム遷移金属複合酸化物粒子の充放電サイクル300回後の写真
図4】本発明の実施形態に係る非水電解質二次電池を示す斜視図
図5】本発明の実施形態に係る非水電解質二次電池を複数個備えた蓄電装置を示す概略図
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の構成及び作用効果について、技術思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限しない。なお、本発明は、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、後述の実施形態又は実施例は、あらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内である。
【0027】
本発明の一実施形態(以下、「第一の実施形態」という。)は、リチウム遷移金属複合酸化物を含有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、α-NaFeO構造を有し、遷移金属(Me)としてNi、Co及びMnを含み、R3-mに帰属可能なエックス線回折パターンを有し、CuKα線を用いたエックス線回折測定によるミラー指数hklにおける(104)面の回折ピークの半値幅に対する(003)面の回折ピークの半値幅比(003)/(104)が0.810から0.865であり、結晶子サイズが410Å以上である、非水電解質二次電池用正極活物質である。
【0028】
<リチウム遷移金属複合酸化物の組成>
第一の実施形態に係る非水電解質二次電池用正極活物質は、遷移金属元素(Me)として、Ni、Co及びMnを含むリチウム遷移金属複合酸化物を含有する。このリチウム遷移金属複合酸化物は、典型的には、組成式Li1+xMe1-x(Me:Ni、Co及びMnを含む遷移金属)で表される。エネルギー密度が高い非水電解質二次電池を得るために、遷移金属元素Meに対するLiの含有モル比Li/Me、すなわち(1+x)/(1-x)は1.0以上1.1以下であることが好ましい。
【0029】
このリチウム遷移金属複合酸化物は、例えば、組成式Li(NiCoMn)O(a+b+c=1)と表すこともできる。
このリチウム遷移金属複合酸化物が含有するNi成分は、非水電解質二次電池の放電容量を向上させる性質があるから、Meに占めるNiのモル比Ni/Me、すなわち上記組成式におけるaの値は、0<aであり、0.35以上とすることが好ましく、0.4以上とすることがより好ましい。また、0.7以下とすることが好ましく、0.6以下とすることがより好ましい。上記組成式におけるaの値は、0.58以下であってもよい。
例えば、NCM111のような、Meに占めるNiのモル比Ni/Meが0.33であるリチウム遷移金属複合酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質では、充電上限電位を4.25V(vs.Li/Li)に設定した場合、正極活物質の質量あたりの理論エネルギー密度が約600mWh/gであるのに対し、例えばLiNi0.5Co0.2Mn0.3のような、Meに占めるNiのモル比Ni/Meが0.5であるリチウム遷移金属複合酸化物からなる非水電解質二次電池用正極活物質では、同じく充電上限電位を4.25V(vs.Li/Li)に設定した場合、理論エネルギー密度が約650mWh/gである。これは、電位4.25V(vs.Li/Li)までの充電過程において脱離させることのできるリチウムの量が、NCM111においては、前記リチウム遷移金属複合酸化物をLi1-γMeOと表記した場合のγの値がおよそ0.5であるのに対し、LiNi0.5Co0.2Mn0.3においては、前記γの値がおよそ0.7であるためである。従って、Meに占めるNiのモル比Ni/Meが大きいリチウム遷移金属複合酸化物を非水電解質二次電池用正極活物質として用いると、エネルギー密度の点で優れた非水電解質二次電池が提供できることが期待される。
このリチウム遷移金属複合酸化物が含有するCo成分は、活物質粒子の電子伝導性を高め、非水電解質二次電池の高率放電性能を向上させる作用があるから、Meに占めるCoのモル比Co/Me、すなわち上記組成式におけるbの値は、0.1以上とすることが好ましい。一方、Coは地球資源として希少金属種であるから、材料コストを削減するために、上記bの値は、0.4以下とすることが好ましく、0.3以下とすることがより好ましく、0であってよい。
このリチウム遷移金属複合酸化物が含有するMn成分は、多すぎないものとすることで、非水電解質二次電池の充放電サイクル性能が優れる傾向があるから、Meに占めるMnのモル比Mn/Me、すなわち上記組成式におけるcの値は、0.5以下とすることが好ましく、0.4以下とすることがより好ましい。一方、Mnは地球資源として豊富であり、安価であるから、材料コストの観点から、上記cの値は0超であり、0.2以上とすることが好ましく、0.3以上とすることがより好ましい。
【0030】
また、このリチウム遷移金属複合酸化物は、本発明の効果を損なわない範囲で、Na,K等のアルカリ金属、Mg,Ca等のアルカリ土類金属、Fe,Zn等の3d遷移金属に代表される遷移金属など少量の他の金属を含有することを排除しない。
【0031】
<リチウム遷移金属複合酸化物の結晶構造>
第一の実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、α-NaFeO構造を有している。合成後(充放電を行う前)及び充放電後の上記リチウム遷移金属複合酸化物は、ともに空間群R3-mに帰属される。なお、「R3-m」は本来「R3m」の「3」の上にバー「-」を施して表記する。
【0032】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、エックス線回折(CuKα線源を使用)パターンを元に空間群R3-mを結晶構造モデルに用いたときに、2θ=44±1°において(104)面に指数付けされる回折ピークと、2θ=18.6±1°において(003)面に指数付けされる回折ピークを有しており、(104)面の回折ピークの半値幅であるFWHM(104)に対する(003)面の回折ピークの半値幅であるFWHM(003)の比(「半値幅比(003)/(104)」)が0.810から0.865である。
半値幅比(003)/(104)は、(003)面に垂直な方向の結晶子の大きさと(104)面に垂直な方向の結晶子の大きさとの比に関係する値であるから、結晶の等方性の指標である。この値が0.94でほぼ結晶は等方的であり、これより大きいと(104)面に垂直な方向への成長が大きいことを示し、これより小さいと(003)面に垂直な方向((003)方向)への成長が大きいことを表す。また、FWHM(104)は、結晶学的には立体的な結晶性を示すパラメータであり、FWHM(104)が小さいほど結晶全体の格子歪みが小さいことを示す。
したがって、第一の実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物において、半値幅比(003)/(104)が0.810から0.865であることによって、適度な異方性を具備しつつ、結晶全体の格子歪みが小さいため、割れが生じにくく、充放電サイクル性能に優れた活物質が得られるものと推察される。より高い放電容量を得るためには、半値幅比(003)/(104)が0.83から0.855であることが好ましい。
【0033】
本明細書にいう結晶子サイズは、後述するように、2θが10°から80°の範囲で観測される回折ピークを全パターンフィッティング(WPPF;Whole Powder Pattern Fitting)解析して算出される。前記リチウム遷移金属複合酸化物の結晶子サイズは、410Å以上である。これは、(003)面、(104)面に垂直な方向の結晶成長と合わせて、全体的な結晶成長が良好であることを表し、そのため充放電サイクル性能に良好な影響をもたらすと推察される。しかし、結晶子サイズが大きすぎない方が高い放電容量が得られるから、500Å以下が好ましく、460Å以下がより好ましい。
【0034】
<リチウム遷移金属複合酸化物の全細孔容積>
第一の実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、全細孔容積が5.0mm/g以上であることが好ましい。全細孔容積が大きい方が、充放電に伴う体積変化を吸収することで、充放電サイクル性能を良好にすることができ、また、電解液との接触面積が向上することで、大きな放電容量が得られると考えられる。
なお、本明細書においては、後述する測定条件で得られた細孔分布を評価し、細孔径が2nmから200nmまでの累積細孔容積の値を全細孔容積(mm/g)とする。
【0035】
<リチウム遷移金属複合酸化物の製造方法>
本発明の他の一実施形態(以下、「第二の実施形態」という。)は、前記第一の実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物を含有する非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、ハロゲンイオン、アンモニウムイオン、及び、遷移金属(Me)としてNi、Co及びMnを含む水溶液を反応槽に供給すること、Ni、Co及びMnを含む炭酸塩前駆体を得ること、及び、前記炭酸塩前駆体とリチウム化合物との混合物を焼成してリチウム遷移金属複合酸化物を得ること、を備える、非水電解質二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0036】
リチウム遷移金属複合酸化物は、基本的に、活物質を構成する金属元素(Li、Ni、Co、及びMn)を、目的とする活物質(酸化物)の組成どおりに含有する原料を調製し、これを焼成することによって得ることができる。
目的とする組成の複合酸化物を作製するにあたり、Li、Ni、Co、及びMnのそれぞれの原料粉末を混合・焼成するいわゆる「固相法」や、あらかじめNi、Co、及びMnを一粒子中に存在させた共沈前駆体を作製しておき、これにLi塩を混合・焼成する「共沈法」が知られている。「固相法」による合成過程では、特にMnはNi及びCoに対して均一に固溶しにくいため、各元素が一粒子中に均一に分布した複合酸化物を得ることは困難であり、「共沈法」を選択する方が原子レベルで均一相を得ることが容易である。
【0037】
第二の実施形態においては、「共沈法」を採用し、遷移金属元素であるNi、Co及びMnと共に、アンモニウムイオン、及びハロゲンイオンを含有している原料水溶液を、反応槽に滴下して供給することにより、反応溶液中でNi、Co及びMnを含有する化合物を共沈させて炭酸塩前駆体を作製している。
特許文献7には、共沈水酸化物前駆体の作製において、アンモニウムイオン及びフッ素イオンをあらかじめ反応槽内の溶液に含有させておき、前記反応槽に、遷移金属元素であるNi、Co及びMnを含有している原料水溶液を滴下する製造方法が記載されている。特許文献7に記載の方法では、アンモニア錯体反応の進行とともに反応槽内でハロゲンイオンとアンモニウムイオンが消費されて減少する。
これに対して、本明細書に記載した第二の実施形態によれば、遷移金属元素を含む原料水溶液が、反応槽に滴下する前の段階において、アンモニウムイオン及びハロゲンイオンを含有している。この方法によれば、原料水溶液がアンモニウムイオンを含有しているため、反応槽に滴下する前の原料水溶液中で既にアンモニア錯体形成反応が進行しており、さらに、ハロゲンイオンを含有しているため、アンモニア錯体イオンが凝集した状態になっていると考えられる。この原料水溶液を反応槽に供給することによって、特許文献7に記載の方法のようにアンモニア錯体反応の進行とともに反応槽内でハロゲンイオンとアンモニウムイオンが消費されて減少することがなく、反応終了時まで十分な量のアンモニア錯体イオンを供給することができる。
したがって、従来の方法で作製したものとは結晶成長の方向が異なるとともに、結晶全体の格子歪みの少ない共沈炭酸塩前駆体が得られたと考えられる。
【0038】
なお、特許文献5から7には、水酸化物前駆体を用いるリチウム遷移金属複合酸化物の製造方法が記載されているが、水酸化物前駆体を用いる場合と炭酸塩前駆体を用いる場合とでは、リチウム遷移金属複合酸化物粒子の性状が異なる。図1には、炭酸塩前駆体を用いて作製した(後記の実施例1に係る)リチウム遷移金属複合酸化物粒子を示し、図2には、水酸化物前駆体を用いて作製した(後記の比較例16に係る)粒子を示している。炭酸塩前駆体を用いる場合は、一次粒子の間に空隙を有する全細孔容積が大きな粒子が形成されるので、適度な空隙が充放電に伴う体積変化を吸収することによって、充放電サイクル性能を良好にすることができ、また、電解液との反応性が向上することで、大きな放電容量が得られると考えられる。
これに対して、水酸化物前駆体を用いる場合は、粒子内部に細孔が殆ど確認されない。
【0039】
前記共沈前駆体の原料水溶液に含まれるNi源としては、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、酢酸ニッケル等、Co源としては、硫酸コバルト、硝酸コバルト、酢酸コバルト等、Mn源としては、酸化マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン、酢酸マンガン等を一例として挙げることができる。
【0040】
アンモニウムイオンと、ハロゲンイオンとが共存する原料水溶液とするために、アンモニウムイオンを生成しうるアンモニウム化合物、ハロゲンイオンを生成しうるハロゲン化合物を用いることができる。ハロゲンイオンとしては、フッ化物イオン又は塩化物イオンが好ましい。これらの化合物は、アンモニウムイオン及びハロゲンイオンを同時に生成しうる化合物であってよい。例えば、塩化物イオンとアンモニウムイオンを生じる化合物として、塩化アンモニウム(NHCl)等、フッ化物イオンとアンモニウムイオンを生じる化合物として、フッ化アンモニウム(NHF)等を挙げることができる。
【0041】
原料水溶液に含有されるアンモニウムイオンの濃度は、遷移金属Meに対するアンモニウムイオンの含有モル比NH/Meの下限としては、0.0250が好ましく、0.0625がより好ましい。上限としては、0.2000が好ましく、0.1000であることがより好ましい。
原料水溶液に含有されるハロゲンイオンの濃度は、遷移金属Meに対するハロゲンイオンの含有モル比(例えば、Cl/Me又はF/Me)の下限としては、0.0250が好ましく、0.0625がより好ましい。上限としては、0.2000が好ましく、0.1000であることがより好ましい。
遷移金属Meに対するハロゲンイオンの含有モル比を上記の濃度とすることにより、前駆体中のハロゲンイオンの量が過剰とならず、リチウム化合物と混合して焼成したときに、溶融したリチウム化合物が前駆体内部に入り込んで拡散していく過程がハロゲンイオンにより阻害される虞を低減することができる。このような場合、半値幅比(003)/(104)、及び結晶子サイズを適正な範囲とすることができる。
【0042】
共沈前駆体を作製するにあたって、Ni、Co、及びMnのうちMnは酸化されやすく、Ni、Co、及びMnが2価の状態で均一に分布した共沈前駆体を作製することが容易ではないため、Ni、Co、及びMnの原子レベルでの均一な混合は不十分になりやすい。したがって、共沈前駆体に分布して存在するMnの酸化を抑制するために、反応槽の溶液から溶存酸素を除去しておくことが好ましい。溶存酸素を除去する方法としては、酸素(O)を含まないガスをバブリングする方法が挙げられる。酸素(O)を含まないガスとしては、限定されないが、二酸化炭素(CO)等を用いることができる。
【0043】
反応槽内の溶液中でNi、Co及びMnを含有する化合物を共沈させて炭酸塩前駆体を作製する工程における溶液のpHは、7.5から11とすることができる。pHを9.4以下とすることにより、前駆体のタップ密度を1.25g/cm以上とすることができ、高率放電性能を向上させることができる。さらに、pHを8.0以下とすることにより、粒子成長速度を大きくできるので、原料水溶液滴下終了後の撹拌継続時間を短縮することができる。
【0044】
反応槽内の溶液のpHを一定に保つために、原料水溶液の滴下の開始から終了までの間、反応槽には錯化剤と還元剤を含む混合アルカリ溶液を適宜滴下することが好ましい。
錯化剤としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等を用いることができ、アンモニアが好ましい。錯化剤を用いた晶析反応によって、よりタップ密度の大きな前駆体を作製することができる。
錯化剤は原料水溶液に添加されたアンモニアを生成可能な化合物からも供給されるから、原料水溶液に添加された前記化合物の濃度に合わせて反応槽に滴下される錯化剤の濃度を調整することができる。
【0045】
遷移金属(Me)を含有する原料水溶液とともに、炭酸塩水溶液を含有する混合アルカリ溶液を反応槽に滴下することにより、炭酸塩前駆体を共沈させることができる。炭酸塩水溶液としては、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸リチウム水溶液等が好ましい。
【0046】
前記原料水溶液の滴下速度は、生成する共沈前駆体の1粒子内における元素分布の均一性に大きく影響を与える。好ましい滴下速度については、反応槽の大きさ、攪拌条件、pH、反応温度等にも影響されるが、30mL/min以下が好ましい。放電容量を向上させるためには、滴下速度は10mL/min以下がより好ましく、5mL/min以下が最も好ましい。
【0047】
原料水溶液滴下終了後の好ましい攪拌継続時間については、反応槽の大きさ、攪拌条件、pH、反応温度等にも影響されるが、前駆体粒子を均一な球状粒子として成長させるために0.5h以上が好ましく、1h以上がより好ましい。また、粒子径が大きくなりすぎることで非水電解質二次電池の低SOC(充電深度)領域における出力性能が充分でない虞を低減させるため、24h以下が好ましく、10h以下がより好ましく、5h以下が最も好ましい。
【0048】
撹拌停止後、生成した共沈前駆体を分離し、イオン交換水で洗浄した後、80℃から100℃で、空気雰囲気中、常圧下で乾燥させることが好ましく、必要に応じて粉砕により粒径を揃えてもよい。
【0049】
上記の方法で作製された炭酸塩前駆体と、リチウム化合物を混合し、焼成して、第一の実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物を製造することができる。
この製造方法により、α-NaFeO構造を有し、半値幅比(003)/(104)が0.810から0.865であり、結晶子サイズが410Å以上である、リチウム遷移金属複合酸化物を含有する非水電解質二次電池用正極活物質を得ることができる。
【0050】
リチウム化合物としては、通常使用されている水酸化リチウム、炭酸リチウムとともに、焼結助剤としてフッ化リチウム、硫酸リチウム、又はリン酸リチウムを使用してもよい。フッ化リチウム等の焼結助剤の存在下で焼成することで、より結晶性が高いリチウム遷移金属複合酸化物を得ることができる。これらの焼結助剤の添加比率は、リチウム化合物の総モル量に対して1から10mol%とすることが好ましい。なお、リチウム化合物の総モル量は、焼成中にリチウム化合物の一部が消失することを見込んで、1から5mol%程度過剰に仕込むことが好ましい。これらの焼結助剤を使用して製造されたリチウム遷移金属複合酸化物は、粒子表面にF、S、又はPの元素を含む。リチウム遷移金属複合酸化物が粒子表面にF、S、又はPの元素を含むことは、エネルギー分散型エックス線分析(EDX)によって確認できる。後述する実施例では、フッ化リチウム等の焼結助剤を用いなくても十分に結晶性が高い活物質が得られるため、上記焼結助剤は用いなかった。
【0051】
焼成温度は、活物質の充放電サイクル性能に影響を与える。
焼成温度が低すぎると、結晶化が十分に進まず、充放電サイクル性能が低下する傾向がある。第二の実施形態においては、焼成温度は800℃を超えることが好ましい。800℃を超えることにより、結晶成長を高め、活物質の回折ピークの半値幅FWHM(104)が小さい歪みが除去された結晶とすることができ、また、結晶成長の異方性の指標である半値幅比(003)/(104)を0.810から0.865とすることができ、活物質の割れ発生を抑制して充放電サイクル性能を向上させることができる。
【0052】
一方、焼成温度が高すぎるとα-NaFeO構造から岩塩型立方晶構造へと構造変化がおこり、充放電反応中における活物質中のリチウムイオン移動に不利な状態となるため、充放電サイクル性能が低下する。本実施形態においては、焼成温度は900℃より低くすることが好ましい。900℃より低くすることにより、活物質の割れ発生を抑制して充放電サイクル性能を向上させることができる。
したがって、本実施形態に係るリチウム遷移金属複合酸化物を含有する正極活物質を作製する場合、充放電サイクル性能を向上させるために、焼成温度は800℃を超え900℃未満であることが好ましい。
【0053】
<非水電解質二次電池用正極>
本発明のさらに他の一実施形態は、第一の実施形態に係る正極活物質を含有する非水電解質二次電池用正極(以下、「第三の実施形態」という。)である。
正極活物質の粉体は、平均粒子サイズ(D50)が100μm以下であることが好ましい。特に、非水電解質二次電池の出力性能を向上する目的で50μm以下であることが好ましく、充放電サイクル性能を維持するためには3μm以上であることが好ましい。粉体を所定の形状で得るためには粉砕機や分級機が用いられる。例えば乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェットミル、旋回気流型ジェットミルや篩等が用いられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、特に限定はなく、篩や風力分級機などが、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0054】
正極には、主要構成成分である正極活物質の他に、導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等が、他の構成成分として含有されてもよい。
【0055】
導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば限定されないが、通常、天然黒鉛(鱗状黒鉛,鱗片状黒鉛,土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、金属(銅,ニッケル,アルミニウム,銀,金等)粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を1種またはそれらの混合物として含ませることができる。
【0056】
これらの中で、導電剤としては、電子伝導性及び塗工性の観点よりアセチレンブラックが好ましい。導電剤の添加量は、正極の総重量に対して0.1重量%から50重量%が好ましく、特に0.5重量%から30重量%が好ましい。特にアセチレンブラックを0.1から0.5μmの超微粒子に粉砕して用いると必要炭素量を削減できるため好ましい。これらの混合方法は、物理的な混合であり、均一混合が好ましい。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミルといったような粉体混合機を用いて、乾式、あるいは湿式で混合することが可能である。
【0057】
前記結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリエチレン,ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM),スルホン化EPDM,スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種または2種以上の混合物として用いることができる。結着剤の添加量は、正極の総重量に対して1から50重量%が好ましく、特に2から30重量%が好ましい。
【0058】
フィラーとしては、電池性能に悪影響を及ぼさない材料であれば限定されない。通常、ポリプロピレン,ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、無定形シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が用いられる。フィラーの添加量は、正極の総重量に対して添加量は30重量%以下が好ましい。
【0059】
正極は、前記主要構成成分である正極活物質、及びその他の材料を混練し合剤とし、N-メチルピロリドン,トルエン等の有機溶媒又は水に混合させた後、得られた混合液を下記に詳述する集電体の上に塗布し、または圧着して50℃から250℃程度の温度で、2時間程度加熱処理することにより好適に作製される。前記塗布方法については、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚さ及び任意の形状に塗布することが好ましいが、これらに限定されない。
【0060】
正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はこれらの合金が用いられる。正極基材としてはアルミニウム箔が好ましい。正極基材の厚さは10から30μmが好ましい。また、正極合剤層の厚さはプレス後において、40から150μm(正極基材の厚さを除く)が好ましい。
【0061】
<非水電解質二次電池>
本発明のさらに他の一実施形態は、第三の実施形態に係る正極、負極及び非水電解質を備える非水電解質二次電池(以下、「第四の実施形態」という。)である。以下、正極以外の電池の各要素について詳述する。
【0062】
≪負極≫
負極の主要構成成分である負極材料としては、限定されず、リチウムイオンを放出あるいは吸蔵することのできる形態であればどれを選択してもよい。例えば、Li[Li1/3Ti5/3]Oに代表されるスピネル型結晶構造を有するチタン酸リチウム等のチタン系材料、SiやSb,Sn系などの合金系材料、リチウム金属、リチウム合金(リチウム-シリコン、リチウム-アルミニウム,リチウム-鉛,リチウム-スズ,リチウム-アルミニウム-スズ,リチウム-ガリウム,及びウッド合金等のリチウム金属含有合金)、リチウム複合酸化物(例えばLiTiO等のリチウム-チタン複合酸化物等)、酸化珪素の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えばグラファイト、ハードカーボン、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)等が挙げられる。
【0063】
負極材料は、粉体であることが好ましく、負極には、負極材料以外に導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等が、他の構成成分として含有されてもよいことは正極と同様である。
負極基材としては、金属箔を用いることができ、銅箔が好ましい。
【0064】
≪非水電解質≫
第四の実施形態に係る非水電解質二次電池に用いる非水電解質は、限定されず、一般にリチウム電池等への使用が提案されている非水電解質が使用可能である。非水電解質に用いる非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフランまたはその誘導体;1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソランまたはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0065】
上記の非水電解質には、添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、ビニリデンカーボネート;エチレンスルフィド、1,3-プロペンサルトン、ジグリコールサルフェート、1,3-プロパンスルトン(PS)、1,4-ブタンスルトン、2,4-ブタンスルトン、スルホラン、エチレングリコール環状サルフェート、プロピレングリコール環状サルフェート等の硫黄含有化合物;ジフルオロリン酸リチウム等のリン含有化合物;アジポニトリル、スクチロニトリル等のシアン系化合物などが挙げられる。非水電解質中のこれら化合物の添加量は、0.5から2質量%が好ましい。
【0066】
非水電解質に用いる電解質塩としては、例えば、LiClO,LiBF,LiAsF,LiPF,LiSCN,LiBr,LiI,LiSO,Li10Cl10,NaClO,NaI,NaSCN,NaBr,KClO,KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCFSO,LiN(CFSO,LiN(CSO,LiN(CFSO)(CSO),LiC(CFSO,LiC(CSO,(CHNBF,(CHNBr,(CNClO,(CNI,(CNBr,(n-CNClO,(n-CNI,(CN-maleate,(CN-benzoate,(CN-phthalate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。
【0067】
さらに、LiPF又はLiBFと、LiN(CSOのようなパーフルオロアルキル基を有するリチウム塩とを混合して用いることにより、さらに電解質の粘度を下げることができるので、低温性能をさらに高めることができ、また、自己放電を抑制することができ、より好ましい。
【0068】
また、非水電解質として常温溶融塩やイオン液体を用いてもよい。
【0069】
非水電解質における電解質塩の濃度としては、高い電池性能を有する非水電解質電池を確実に得るために、0.1mol/dmから5mol/dmが好ましく、さらに好ましくは、0.5mol/dmから2.5mol/dmである。
【0070】
≪セパレータ≫
第四の実施形態に係る非水電解質二次電池に用いるセパレータとしては、優れた高率放電性能を示す微多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。非水電解質電池用セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン,ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン共重合体、フッ化ビニリデン-プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。
【0071】
セパレータの空孔率は強度の観点から98体積%以下が好ましい。また、非水電解質二次電池の充放電性能の観点から空孔率は20体積%以上が好ましい。
【0072】
また、セパレータは、例えばアクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタアクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーと電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。非水電解質を上記のようにゲル状態で用いると、漏液を防止する効果がある点で好ましい。
【0073】
さらに、セパレータは、上述したような微多孔膜や不織布等とポリマーゲルを併用して用いると、電解質の保液性が向上するため好ましい。即ち、ポリエチレン微多孔膜の表面及び微孔壁面に厚さ数μm以下の親溶媒性ポリマーを被覆したフィルムを形成し、前記フィルムの微孔内に電解質を保持させることで、前記親溶媒性ポリマーがゲル化する。
【0074】
前記親溶媒性ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデンの他、エチレンオキシド基やエステル基等を有するアクリレートモノマー、エポキシモノマー、イソシアナート基を有するモノマー等が架橋したポリマー等が挙げられる。該モノマーは、ラジカル開始剤を併用して加熱や紫外線(UV)を用いたり、電子線(EB)等の活性光線等を用いて架橋反応を行わせることが可能である。
【0075】
その他の電池の構成要素としては、端子、絶縁板、電池ケース等があるが、これらの部品は従来用いられてきたものをそのまま用いて差し支えない。
【0076】
≪非水電解質二次電池の組み立て≫
第四の実施形態に係る正極活物質を含有する正極を備えた非水電解質二次電池を図4に示す。図4は、矩形状の非水電解質二次電池の容器内部を透視した斜視図である。電極群2が収納された電池容器3内に非水電解質(電解液)を注入することにより非水電解質二次電池1が組み立てられる。電極群2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。
非水電解質二次電池の形状については特に限定されず、円筒型電池、角型電池(矩形状の電池)、扁平型電池等が一例として挙げられる。
【0077】
第四の実施形態に係る非水電解質二次電池は、複数個集合して蓄電装置(以下、「第五の実施形態」という。)とすることができる。第五の実施形態に係る蓄電装置の一例を図5に示す。図5において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質二次電池1を備えている。前記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【0078】
次に、非水電解質二次電池用正極活物質に対する各種測定方法について述べる。
【0079】
<測定対象>
正極作製前のリチウム遷移金属複合酸化物粉末(充放電前粉末)であれば、そのまま測定に供する。
電池を解体して取り出した正極から試料を採取する場合には、電池を解体する前に、当該電池に1時間の定電流通電を行ったときに電池の公称容量と同じ電気量となる電流値の10分の1となる電流値(0.1C)で、指定される電圧の下限となる電池電圧に至るまで定電流放電を行う。解体し、正極を取り出し、金属リチウム電極を対極とした電池を組み立て、正極合剤1gあたり10mAの電流値で、端子間電圧が2.0Vとなるまで定電流放電を行い、完全放電状態に調整する。再解体し、正極を取り出す。取り出した正極は、ジメチルカーボネートを用いて正極に付着した非水電解質を十分に洗浄し室温にて一昼夜の乾燥後、正極基材上の正極合剤を採取する。上記の電池の解体から再解体までの作業、及び正極の洗浄、乾燥作業は、露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中で行う。
【0080】
<エックス線回折測定>
本明細書において、エックス線回折測定及びこれを用いた半値幅の測定は、次の条件にて行う。線源はCuKα、加速電圧は30kV、加速電流は15mAとする。サンプリング幅は0.01deg、走査時間は14分(スキャンスピードは5.0)、発散スリット幅は0.625deg、受光スリットは開放、散乱スリット幅は8.0mmとする。
【0081】
<半値幅比及び結晶子サイズの測定>
当該エックス線回折測定により得られたデータを、エックス線回折装置に付属のソフトウェアであるRigaku社の「PDXL(Ver 1.8.1.0)」を適用して半値幅比及び結晶子サイズを計算する。
空間群R3-mに帰属したときに(003)面に指数付けされるピークである2θ=18.6±1°に存在する回折ピークの半値幅FWHM(003)を、空間群R3-mに帰属したときに(104)面に指数付けされるピークである2θ=44±1°に存在する回折ピークの半値幅FWHM(104)で除算することで、「半値幅比(003)/(104)」を得る。
また、上記の回折ピークを含め、2θが10°から80°の範囲で観測される回折ピークを上記ソフトウェアに読み込ませ、結晶相の同定(指数付け)を行い、WPPF解析を行う。そして、実測パターンと計算パターンの強度誤差が1500以下になるように精密化し、結晶子サイズを算出する。本明細書で「結晶子サイズ」とはここで算出される結晶子サイズを指す。
【0082】
<全細孔容積の測定>
測定対象の粉体(リチウム遷移金属複合酸化物)1.00gを測定用のサンプル管に入れ、次の(1)から(4)の各段階の乾燥工程を連続的に行う。
(1)30℃にて0.5h減圧乾燥、
(2)100℃にて1h減圧乾燥、
(3)120℃にて6h減圧乾燥、
(4)180℃にて6h減圧乾燥。
次に、液体窒素を用いた窒素ガス吸着法により、相対圧力P/P0(P0=約770mmHg)が0から1の範囲内で吸着側及び脱離側の等温線を測定する。そして、脱離側の等温線を用いてBJH法により計算することにより細孔分布を評価する。
細孔分布における細孔径が2nmから200nmまでの累積細孔容積の値を、本明細書でいう「全細孔容積(mm/g)」とする。
【実施例
【0083】
(実施例1)
<前駆体作製工程>
正極活物質の作製にあたって、反応晶析法を用いて炭酸塩前駆体を作製した。まず、硫酸ニッケル6水和物262.9g、硫酸コバルト7水和物112.4g、硫酸マンガン5水和物144.6g、および塩化アンモニウム2.7gを秤量し、これらの全量をイオン交換水2dmに溶解させ、Ni:Co:Mnのモル比が50:20:30となる1.0Mの硫酸塩を含む原料水溶液を作製した。前記原料水溶液中の塩化アンモニウムと遷移金属(Me)のモル比NHCl/Meは0.0250である。次に、5dmの反応槽に2dmのイオン交換水を注ぎ、COを30minバブリングさせることにより、イオン交換水中に含まれる酸素を除去した。反応槽の温度は50℃(±2℃)に設定し、攪拌モーターを備えたパドル翼を用いて反応槽内を1500rpmの回転速度で攪拌しながら、反応槽内に対流が十分おこるように設定した。前記原料水溶液を1.6×10-3dm/minの速度で反応槽に24h滴下した。ここで、滴下の開始から終了までの間、1.0Mの炭酸ナトリウム及び0.175Mのアンモニアからなる混合アルカリ溶液を適宜滴下することにより、反応槽中の反応液のpHが常に8.0(±0.1)を保つように制御すると共に、反応液の一部をオーバーフローにより排出することにより、反応液の総量が常に2dmを超えないように制御した。滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに1h継続した。攪拌の停止後、室温で12h以上静置した。次に、吸引ろ過装置を用いて、反応槽内に生成した炭酸塩前駆体粒子を分離し、さらにイオン交換水を用いて粒子に付着しているナトリウムイオンを洗浄除去し、乾燥機を用いて、空気雰囲気中、常圧下、80℃にて20h乾燥させた。その後、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、炭酸塩前駆体を作製した。
【0084】
<焼成工程>
前記炭酸塩前駆体3.646gに、炭酸リチウム1.259gを加え、瑪瑙製自動乳鉢を用いてよく混合し、Li:(Ni,Co,Mn)のモル比が110:100である混合粉体を調製した。ペレット成型機を用いて、6MPaの圧力で成型し、直径25mmのペレットとした。ペレット成型に供した混合粉体の量は、想定する最終生成物の質量が3gとなるように換算して決定した。前記ペレット1個を全長約100mmのアルミナ製ボートに載置し、箱型電気炉(型番:AMF20)に設置し、空気雰囲気中、常圧下、常温から850℃まで10hかけて昇温し、850℃で4h焼成した。前記箱型電気炉の内部寸法は、縦10cm、幅20cm、奥行き30cmであり、幅方向20cm間隔に電熱線が入っている。焼成後、ヒーターのスイッチを切り、アルミナ製ボートを炉内に置いたまま自然放冷した。この結果、炉の温度は5h後には約200℃程度にまで低下したが、その後の降温速度はやや緩やかであった。一昼夜経過後、炉の温度が100℃以下となっていることを確認してから、ペレットを取り出し、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、実施例1に係るリチウム遷移金属複合酸化物Li1.1(Ni0.5Co0.2Mn0.30.9を作製した。
【0085】
(実施例2)
前記前駆体作製工程において、硫酸塩を含む原料水溶液に添加する塩化アンモニウム量を6.7g(モル比NHCl/Me=0.0625)とし、炭酸ナトリウムを含むアルカリ溶液に添加するアンモニアの濃度を0.1375Mに調製した以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0086】
(実施例3)
前記前駆体作製工程において、硫酸塩を含む原料水溶液に添加する塩化アンモニウム量を10.7g(モル比NHCl/Me=0.1000)とし、炭酸ナトリウムを含むアルカリ溶液に添加するアンモニアの濃度を0.1000Mに調製した以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0087】
(実施例4)
前記前駆体作製工程において、硫酸塩を含む原料水溶液に添加する塩化アンモニウム量を21.4g(モル比NHCl/Me=0.2000)とし、炭酸ナトリウムを含むアルカリ溶液にアンモニアを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0088】
(実施例5)
前記前駆体作製工程において、硫酸塩を含む原料水溶液に、塩化アンモニウムに代えてフッ化アンモニウムを1.85g(モル比NHF/Me=0.0250)添加した以外は、実施例1と同様にして、実施例5に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0089】
(実施例6)
前記前駆体作製工程において、硫酸塩を含む原料水溶液に添加するフッ化アンモニウム量を4.63g(モル比NHF/Me=0.0625)とし、炭酸ナトリウムを含むアルカリ溶液に添加するアンモニアの濃度を0.1375Mに調製した以外は、実施例5と同様にして、実施例6に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0090】
(比較例1から4)
前記焼成工程において、焼成温度をそれぞれ800℃、900℃、950°、1000°に変更した以外は、実施例2と同様にして比較例1から4に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0091】
(比較例5から9)
前記前駆体作製工程において、硫酸塩を含む原料水溶液にNHClを加えず、炭酸ナトリウムを含むアルカリ溶液に添加するアンモニアの濃度を0.2000Mに調製し、前記焼成工程において、焼成温度をそれぞれ800℃、850℃、900℃、950℃、1000℃に変更した以外は実施例1と同様にして、比較例5から10に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0092】
(比較例10)
前記前駆体作製工程において、硫酸塩を含む原料水溶液に添加するフッ化アンモニウム量を7.4g(モル比NHF/Me=0.1000)とし、炭酸ナトリウムを含むアルカリ溶液に添加するアンモニアの濃度を0.1000Mに調製した以外は、実施例5と同様にして、比較例10に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0093】
(比較例11)
前記前駆体作製工程において、硫酸塩を含む原料水溶液に添加するフッ化アンモニウム量を14.8g(モル比NHF/Me=0.2000)とし、炭酸ナトリウムを含むアルカリ溶液にアンモニアを添加しなかった以外は、実施例5と同様にして、比較例11に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0094】
(比較例12から15)
前記焼成工程において、焼成温度をそれぞれ800℃、900℃、950℃、1000℃に変更した以外は、実施例6と同様にして比較例12から15に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0095】
(比較例16)
<前駆体作製工程>
活物質の作製にあたって、反応晶析法をもちいて水酸化物前駆体を作製した。まず、硫酸ニッケル6水和物525.7g、硫酸コバルト7水和物224.9g、硫酸マンガン5水和物289.3g、フッ化アンモニウム9.25gを秤量し、これらの全量をイオン交換水4dmに溶解させ、Ni:Co:Mnのモル比が50:20:30となる1.0Mの硫酸塩、及びモル比NHF/Meが0.0625のフッ化アンモニウムを含む原料水溶液を作製した。次に、5dmの反応槽に2dmのイオン交換水を注ぎ、Nガスを30minバブリングさせることにより、イオン交換水中に含まれる酸素を除去した。反応槽の温度は50℃(±2℃)に設定し、攪拌モーターを備えたパドル翼を用いて反応槽内を1500rpmの回転速度で攪拌しながら、反応層内に対流が十分おこるように設定した。前記原料水溶液を1.3×10-3dm/minの速度で反応槽に50h滴下した。ここで、滴下の開始から終了までの間、4.0Mの水酸化ナトリウム、0.4375Mのアンモニア、及び0.29Mのヒドラジンからなる混合アルカリ溶液を適宜滴下することにより、反応槽中の反応液のpHが常に11.0(±0.1)を保つように制御すると共に、反応液の一部をオーバーフローにより排出することにより、反応液の総量が常に2dmを超えないように制御した。滴下終了後、反応槽内の攪拌をさらに1h継続した。攪拌の停止後、室温で12h以上静置した。次に、吸引ろ過装置を用いて、反応槽内に生成した水酸化物前駆体粒子を分離し、さらにイオン交換水を用いて粒子に付着しているナトリウムイオンを洗浄除去し、電気炉を用いて、空気雰囲気中、常圧下、80℃にて20h乾燥させた。その後、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、水酸化物前駆体を作製した。
【0096】
<焼成工程>
前記水酸化物前駆体2.840gに、水酸化リチウム1水和物1.430gを加え、瑪瑙製自動乳鉢を用いてよく混合し、Li:Me(Ni,Co,及びMn)のモル比が110:100である混合粉体を調製した。ペレット成型機を用いて、6MPaの圧力で成型し、直径30mmのペレットとした。ペレット成型に供した混合粉体の量は、想定する最終生成物の質量が3.0gとなるように換算して決定した。前記ペレット1個を全長約100mmのアルミナ製ボートに載置し、箱型電気炉(型番:AMF20)に設置し、空気雰囲気中、常圧下、常温から850℃まで10hかけて昇温し、850℃で4h焼成した。前記箱型電気炉の内部寸法は、縦10cm、幅20cm、奥行き30cmであり、幅方向20cm間隔に電熱線が入っている。焼成後、ヒーターのスイッチを切り、アルミナ製ボートを炉内に置いたまま自然放冷した。この結果、炉の温度は5h後には約200℃程度にまで低下したが、その後の降温速度はやや緩やかであった。一昼夜経過後、炉の温度が100℃以下となっていることを確認してから、ペレットを取り出し、粒径を揃えるために、瑪瑙製自動乳鉢で数分間粉砕した。このようにして、比較例16に係るリチウム遷移金属複合酸化物Li1.1(Ni0.5Co0.2Mn0.30.9を作製した。
【0097】
(比較例17)
前記前駆体作製工程において、フッ化アンモニウムが添加されていない原料水溶液を使用して水酸化物前駆体を作製し、炭酸ナトリウムを含むアルカリ溶液に添加するアンモニアの濃度を0.5000Mに調製した以外は比較例16と同様にして、比較例17に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。
【0098】
(比較例18)
前記焼成工程において、前記水酸化物前駆体2.840gに加える水酸化リチウム1水和物を1.366gとし、Li:Meのモル比を105:100に変更し、焼成温度を900℃とした以外は、比較例17と同様にして、比較例18に係るリチウム遷移金属複合酸化物Li1.025(Ni0.5Co0.2Mn0.30.975を作製した。
【0099】
(比較例19)
原料水溶液を滴下する前の反応槽中のイオン交換水に、フッ化アンモニウムを添加したこと以外は、比較例18と同様にして、比較例19に係るリチウム遷移金属複合酸化物を作製した。前記イオン交換水中のフッ化アンモニウムと前記原料水溶液中の遷移金属(Me)のモル比NHF/Meは0.0625である。
【0100】
<エックス線回折測定、半値幅比及び結晶子サイズの計算>
実施例1から6及び比較例1から19に係るリチウム遷移金属複合酸化物について、エックス線回折装置(Rigaku社製、型名:MiniFlexII)を用いて、前記の条件で粉末エックス線回折測定を行った。上記した全てのリチウム遷移金属複合酸化物について、付属のソフトウェアである「PDXL」を用いて解析を行い、R3-mに帰属可能なエックス線回折パターンを有し、α-NaFeO構造を有することを確認した。また、(003)面に指数付けされる回折ピークの半値幅FWHM(003)、及び(104)面に指数付けされる回折ピークの半値幅FWHM(104)から半値幅比(003)/(104)を計算した。
さらに、(003)面及び(104)面に指数付けされる回折ピークを含め、2θが10°から80°の範囲で観測される回折ピークを上記ソフトウェアに読み込ませ、結晶相の同定(指数付け)を行い、WPPF解析を行った。そして、実測パターンと計算パターンの強度誤差が1500以下になるように精密化し、結晶子サイズを算出した。
【0101】
<全細孔容積の測定>
実施例及2、6及び比較例6、19に係るリチウム遷移金属複合酸化物について、前述の測定方法にしたがって、全細孔容積を求めた。
【0102】
<非水電解質二次電池の作製>
実施例1から6及び比較例1から19に係るリチウム遷移金属複合酸化物をそれぞれ正極活物質として用い、以下の手順で、非水電解質二次電池を作製した。
N-メチルピロリドンを分散媒とし、正極活物質、アセチレンブラック(AB)及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)が質量比92:4:4の割合(固形分換算)で混練分散されている塗布用ペーストを作製した。該塗布ペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔正極基材の片方の面に塗布、乾燥し、プレスすることで、正極を作製した。なお、全ての実施例及び比較例に係る非水電解質二次電池同士で試験条件が同一になるように、一定面積当たりに塗布されている正極活物質の質量及びプレス後の正極厚さを調整した。
【0103】
負極には、金属リチウム負極、及びグラファイト負極の2種類を用いた。
金属リチウム負極は、正極の理論容量に対して十分に大きい容量を備える金属リチウムをニッケル負極基材に貼り付けて作製した。
グラファイト負極は、水を分散媒とし、グラファイト、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)及びカルボキシメチルセルロース(CMC)が質量比96.7:2.1:1.2の割合で混練分散されている塗布用ペーストを厚さ10μmの銅箔負極基材の片方の面に塗布、乾燥して作製した。一定面積当たりに塗布されている負極活物質の塗布量は、上記正極と組み合わせたときに電池の容量が負極によって制限されないように調整した。
【0104】
非水電解質として、エチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)/ジメチルカーボネート(DMC)が体積比6:7:7である混合溶媒に濃度が1mol/dmとなるようにLiPFを溶解させた溶液を用いた。セパレータとして、ポリアクリレートで表面改質したポリプロピレン製の微多孔膜を用いた。外装体には、金属樹脂複合フィルムを用いた。
前記正極と前記金属リチウム負極又はグラファイト負極を前記セパレータを介して積層し、正極端子及び負極端子の開放端部が外部露出するように前記外装体内に収納し、前記金属樹脂複合フィルムの内面同士が向かい合った融着代を注液孔となる部分を除いて気密封止し、前記非水電解質を注液後、注液孔を封止した。このようにして、各実施例及び比較例について、負極を金属リチウム負極とした非水電解質二次電池、及び負極をグラファイト負極とした非水電解質二次電池をそれぞれ作製した。
【0105】
<初期充放電試験>
それぞれの実施例、比較例に係る正極と、金属リチウム負極を備えた非水電解質二次電池について、25℃にて、2サイクルの初期充放電を行った。充電は、電流0.2C、電圧4.35Vの定電流定電圧充電とし、充電終止条件は電流値が1/6に減衰した時点とした。放電は、電流0.2C、終止電圧2.85Vの定電流放電とした。ここで、充電後及び放電後にそれぞれ10分の休止過程を設け、2サイクル目の放電容量を確認し、正極に含有される正極活物質質量で除して「0.2C放電容量(mAh/g)」とした。
【0106】
<充放電サイクル試験>
充放電サイクル性能を評価するため、それぞれの実施例、比較例に係る正極とグラファイト負極を備えた非水電解質二次電池について、上記と同様の初期充放電を行った後、50サイクルの充放電サイクル試験を行った。充放電サイクル試験の充電は、電流1C、電圧4.25Vの定電流定電圧充電とし、充電終止条件は電流値が1/6に減衰した時点とした。放電は、電流1C、終止電圧2.75Vの定電流放電とした。ここで、充電後及び放電後にそれぞれ10分の休止過程を設けた。上記充放電サイクル試験は60℃に設定した恒温槽にて行った。
上記充放電サイクル試験における1サイクル目の放電容量を正極に含有される正極活物質質量で除して「1C放電容量(mAh/g)」とし、これに対する50サイクル目の放電容量を正極に含有される正極活物質質量で除した値の百分率を算出し、「放電容量保持率(%)」とした。なお、本発明においては、1C放電容量が140mAh/g以上であり、かつ、放電容量維持率が88%以上である場合を、充放電サイクル性能に優れていると判定した。
【0107】
実施例1から6及び比較例1から17に係るリチウム遷移金属複合酸化物のNi、Co、及びMnのモル比Ni/Co/Mn、Meに対するLiのモル比Li/Me、前駆体種、原料水溶液におけるNHX/Meのモル比及びハロゲンイオンXの種類(X=Cl,F)、炭酸ナトリウム水溶液に対するアンモニア添加の有無、焼成温度、半値幅比(003)/(104)、及び結晶子サイズと、それぞれの実施例及び比較例に係る非水電解質二次電池の0.2C放電容量、1C放電容量及び放電容量保持率を表1に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
表1によると、実施例1から6に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、前駆体作製工程において、塩化アンモニウム又はフッ化アンモニウムを添加した原料水溶液を反応槽に供給して炭酸塩前駆体を作製し、焼成工程において、焼成温度を850℃にして作製されている。
いずれも、半値幅比(003)/(104)が0.810から0.865、結晶子サイズが410Å以上と、本発明における特定の範囲を満たしており、89%以上の放電容量保持率を有する電池を得ることができた。
特に、半値幅比(003)/(104)が0.83から0.855である実施例1、2、4、及び6に係るリチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質に用いた電池は、1C放電容量が大きいことがわかった。
【0110】
比較例1から4に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、焼成工程における焼成温度を800℃、900℃、950℃、又は1000℃に変更した以外は実施例2と同様にして作製されている。焼成温度と半値幅比(003)/(104)、及び結晶子サイズとの関係は、高温になるほど、両数値がともに大きくなっており、800℃では、本発明の特定の範囲より小さすぎ、900℃では大きすぎた。比較例1から4に係る電池では実施例2と比較して1C放電容量が小さく、さらに焼成温度が900℃以下の比較例1、及び2に係る電池では実施例2と比較して放電容量保持率が低いことがわかった。
【0111】
比較例5から9に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、原料水溶液に塩化アンモニウム、又はフッ化アンモニウムを添加することなく前駆体を作製し、焼成工程において、焼成温度を800℃、850℃、900℃、950℃、又は1000℃として作製されている。焼結温度が高くなるほど、半値幅比(003)/(104)が上昇し、電池の放電容量保持率は高くなる傾向にあるが、1C放電容量は小さくなる傾向にあることがわかった。
なお、比較例5、及び6から、800℃と850℃の間の焼成温度によっては、半値幅比(003)/(104)が0.810から0865を満たすリチウム遷移金属複合酸化物が得られる可能性が見て取れるが、結晶子サイズは390Åを超えず、電池の放電容量保持率は80%程度と見込まれる。一方、焼成温度が850℃を超えた比較例7から9では、結晶子サイズは410Å以上を満たしたが、電池の1C放電容量は低かった。したがって、実施例1から6と比較例5から9との対比から、原料水溶液に塩化アンモニウム又はフッ化アンモニウムを添加することによって、無添加の場合よりも低い焼成温度で結晶子サイズが増大し、かつ、適度な異方性が達成されたことがわかる。
【0112】
比較例10、及び11に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、前駆体作製工程において、原料水溶液に添加するフッ化アンモニウムの量を実施例5の4倍、及び8倍にそれぞれ増やした例である。
比較例10では、結晶子サイズが本発明の特定する410Å以上を満たさず、比較例11では、半値幅比(003)/(104)が本発明の特定する0.810から0.865を満たさない。そして、比較例10、及び11に係る電池は、放電容量保持率が実施例5、及びフッ化アンモニウム量が実施例5の2.5倍である実施例6と比べて大きく低下しているから、充放電サイクル性能の向上には、適度量のフッ化アンモニウムの添加を要することがわかる。
【0113】
比較例12から15に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、焼成工程における焼成温度を800℃、900℃、950℃、又は1000℃に変更した以外は、実施例6と同様にして作製されている。
比較例12(焼成温度800℃)では、結晶子サイズが小さすぎ、比較例13から15(焼成温度900℃以上)では、半値幅比(003)/(104)が大きすぎる。実施例6(焼成温度850℃)と比べて、比較例12、及び13に係る電池は放電容量保持率が低く、かつ比較例12から15に係る電池は、いずれも1C放電容量が小さいことがわかる。
【0114】
比較例16から19に係るリチウム遷移金属複合酸化物は、水酸化物前駆体を用いて作製されている。
比較例16は、水酸化物前駆体の作製用の原料水溶液にフッ化アンモニウムを添加し、比較例17、及び18は、フッ化アンモニウムを添加しない例であり、いずれも半値幅比(003)/(104)が本発明の特定する範囲より大きく、放電容量保持率が小さい電池しか得ることができなかった。
比較例19は、Li/Me比、焼成温度が比較例18と同じであり、原料水溶液にフッ化アンモニウムを添加しないで、原料水溶液を滴下する前の反応槽中のイオン交換水にフッ化アンモニウムを添加した例である。比較例19は、半値幅比(003)/(104)が本発明の特定する範囲より小さくなるが、放電容量保持率は比較例18と同様に低い電池しか得ることができなかった。
比較例16から19の結果から、原料水溶液にフッ化アンモニウムを添加した場合と、原料水溶液を滴下する前の反応槽中のイオン交換水にフッ化アンモニウムを添加した場合とで、充放電サイクル性能に与える影響を検討すると、原料水溶液にフッ化アンモニウムを添加した比較例16は、フッ化アンモニウムを添加しない比較例17に比べて、放電容量保持率が69.5%から87.5%に向上しているのに対し、原料水溶液を滴下する前の反応槽中のイオン交換水にフッ化アンモニウムを添加した比較例19の放電容量保持率は、フッ化アンモニウムを添加しない比較例18の放電容量保持率とほぼ同等であったことから、充放電サイクル性能に優れた非水電解質二次電池を提供するには、原料水溶液へのフッ化アンモニウムの添加がより効果的であることがわかる。
【0115】
実施例2、実施例6、比較例6、及び比較例19に係るリチウム遷移金属複合酸化物について、測定された全細孔容積の値は次のとおりである。
実施例2 6.6mm/g
実施例6 8.3mm/g
比較例6 8.7mm/g
比較例19 3.9mm/g
【0116】
この結果が示すように、炭酸塩前駆体を用いたリチウム遷移金属複合酸化物の全細孔容積は5.0mm/g以上であり、水酸化物前駆体を用いたリチウム遷移金属複合酸化物の全細孔容積は5.0mm/g未満である。
なお、この結果から、原料水溶液にハロゲンイオンを加えると、全細孔容積がやや減少する傾向にあることがわかる。これは、ハロゲンイオンの添加により、焼成時における結晶成長の度合いが変化(結晶配向性が変化)し、その過程で表面積が減少したためと推測される。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明に係るリチウム遷移金属複合酸化物を含有する正極活物質を用いることにより、充放電サイクル性能に優れた非水電解質二次電池を提供することができるので、この非水電解質二次電池は、ハイブリッド自動車用、プラグインハイブリッド自動車用、電気自動車用の非水電解質二次電池として有用である。
【符号の説明】
【0118】
1 非水電解質二次電池
2 電極群
3 電池容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
図1
図2
図3
図4
図5