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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】二酸化炭素の吸収脱離方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/14 20060101AFI20240814BHJP
   C07D 471/22 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
B01D53/14 210
B01D53/14 220
C07D471/22
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022014888
(22)【出願日】2022-02-02
(65)【公開番号】P2023112883
(43)【公開日】2023-08-15
【審査請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 雅和
(72)【発明者】
【氏名】前川 佳史
(72)【発明者】
【氏名】荒井 健男
(72)【発明者】
【氏名】後藤 康友
(72)【発明者】
【氏名】大橋 雅卓
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/095408(WO,A1)
【文献】特開平07-246321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/00 - 53/96
B01J 20/22
C01B 32/50
C07D 471/00 - 471/22
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリプタンド型アミン化合物と金属イオンと液体とを含む二酸化炭素吸収液と、二酸化炭素と、を接触させることによって前記二酸化炭素を吸収し、前記二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収液に水素イオンを投入することによって前記吸収した二酸化炭素を脱離させることを特徴とする二酸化炭素の吸収脱離方法
【請求項2】
請求項1に記載の二酸化炭素吸収脱離方法であって、
前記クリプタンド型アミン化合物は、下記一般式(1)で示される化合物であることを特徴とする二酸化炭素吸収脱離方法
【化1】
(1)
(式中、Rは、独立して、水素原子、CおよびHから構成される有機基、C、O、およびHから構成される有機基、ClもしくはBrから選択されるハロゲン基、または、-N(R)R(RおよびRは、独立して、水素原子、CおよびHから構成される有機基、またはC、O、およびHから構成される有機基である)であり、Rは、独立して、メチル基、エチル基、またはプロピル基である。)
【請求項3】
請求項2に記載の二酸化炭素吸収脱離方法であって、
前記クリプタンド型アミン化合物におけるRは、水素原子であり、Rは、メチル基であることを特徴とする二酸化炭素吸収脱離方法
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収脱離方法であって、
前記金属イオンは、2価金属イオンおよび3価金属イオンのうちの少なくとも1つであることを特徴とする二酸化炭素吸収脱離方法
【請求項5】
請求項4に記載の二酸化炭素吸収脱離方法であって、
前記金属イオンは、亜鉛イオン、銅イオン、カドミウムイオン、および鉄イオンのうちの少なくとも1つであることを特徴とする二酸化炭素吸収脱離方法
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の二酸化炭素吸収脱離方法であって、
前記液体は、0~60℃の範囲において液状である物質であることを特徴とする二酸化炭素吸収脱離方法
【請求項7】
請求項6に記載の二酸化炭素吸収脱離方法であって、
前記液体は、メタノールおよびプロピオニトリルのうちの少なくとも1つであることを特徴とする二酸化炭素吸収脱離方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素吸収液およびそれを用いる二酸化炭素の吸収脱離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、温室効果ガスである二酸化炭素の排出量を削減するために、二酸化炭素を吸収、回収する技術の開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、マグネシウムイオンおよび2,5-ジヒドロキシテレフタル酸によって構成されるMOF-74結晶構造を有する多孔性配位高分子の細孔表面にカルシウムを存在させた多孔性配位高分子を二酸化炭素吸着剤として用いることが記載されている。特許文献1の多孔性配位高分子は、従来のゼオライト系の吸着剤や、アルキルアミンを含有する多孔性配位高分子を用いた場合、二酸化炭素の有効吸着量を多くするためには脱離圧力を真空近くまで減圧する必要があったが、吸着した二酸化炭素の脱離圧力を真空近くに減圧することなく、二酸化炭素の有効吸着量を多くすることができるとしている。
【0004】
特許文献2には、アミン化合物と触媒としてビス(2,4-ペンタンジオネイト)、ビス[2-(2-ベンズオキサゾリル)フェノレイト]、およびフタロシアニンから選択される配位子を有する金属錯体とを含有する、二酸化炭素を分離回収するための吸収剤、およびそれを用いた二酸化炭素の分離回収方法が記載されている。特許文献2では、従来のアミン化合物を含む水溶液中では、アミン化合物同士が分子間力や水素結合を介して会合体を形成し、これが、アミン化合物と二酸化炭素の反応を妨げ、吸収剤における二酸化炭素吸収および放散能力を低下させるとしている。特許文献2の二酸化炭素の分離回収方法では、アミン化合物と親和性の高い金属錯体を吸収液に投入することによって、上記会合を抑制し、二酸化炭素吸収性能の向上に成功したとしている。さらに、金属錯体に結合した水分子は、アミン化合物をプロトン化し、錯体に残った水酸基が二酸化炭素と反応することによって、カルバメートイオンの生成を促進するとしている。二酸化炭素の吸収温度は、25~60℃が好ましく、脱離温度は、70~150℃が好ましいとしている。
【0005】
特許文献1および特許文献2の技術はいずれも、吸収した二酸化炭素の脱離には、圧力および温度の制御が必要である。圧力の制御の場合には昇圧と減圧において、温度の制御の場合には加熱と冷却においてある程度の時間を要し、その分エネルギー消費量も増大する。加えて、これらの制御には、電源設備以外に別途、専用の機器を付帯させる必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6578704号公報
【文献】特許第6463186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、優れたエネルギーコストで二酸化炭素の吸収および脱離が可能である二酸化炭素吸収液およびそれを用いる二酸化炭素の吸収脱離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、クリプタンド型アミン化合物と金属イオンと液体とを含む二酸化炭素吸収液と、二酸化炭素と、を接触させることによって前記二酸化炭素を吸収し、前記二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収液に水素イオンを投入することによって前記吸収した二酸化炭素を脱離させる、二酸化炭素の吸収脱離方法である。
【0009】
前記二酸化炭素吸収脱離方法において、前記クリプタンド型アミン化合物は、下記一般式(1)で示される化合物であることが好ましい。
【化1】
(1)
(式中、Rは、独立して、水素原子、CおよびHから構成される有機基、C、O、およびHから構成される有機基、ClもしくはBrから選択されるハロゲン基、または、-N(R)R(RおよびRは、独立して、水素原子、CおよびHから構成される有機基、またはC、O、およびHから構成される有機基である)であり、Rは、独立して、メチル基、エチル基、またはプロピル基である。)
【0010】
前記二酸化炭素吸収脱離方法において、前記クリプタンド型アミン化合物におけるRは、水素原子であり、Rは、メチル基であることが好ましい。
【0011】
前記二酸化炭素吸収脱離方法において、前記金属イオンは、2価金属イオンおよび3価金属イオンのうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【0012】
前記二酸化炭素吸収脱離方法において、前記金属イオンは、亜鉛イオン、銅イオン、カドミウムイオン、および鉄イオンのうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【0013】
前記二酸化炭素吸収脱離方法において、前記液体は、0~60℃の範囲において液状である物質であることが好ましい。
【0014】
前記二酸化炭素吸収脱離方法において、前記液体は、メタノールおよびプロピオニトリルのうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、優れたエネルギーコストで二酸化炭素の吸収および脱離が可能である二酸化炭素吸収液およびそれを用いる二酸化炭素の吸収脱離方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】二酸化炭素吸収液Zn3Lを用いた実施例1における静置時間(min)に対する二酸化炭素濃度(vol%)の変化を示すグラフである。
図2】水酸化カリウム水溶液を用いた比較例1における静置時間(min)に対する二酸化炭素濃度(vol%)の変化を示すグラフである。
図3】実施例1と比較例1の二酸化炭素吸収性能の比較を示すグラフである。
図4】クリプタンド型アミン化合物と2価金属イオンとを含有する二酸化炭素吸収液を用いた実施例2,3,4における静置時間(min)に対する二酸化炭素の濃度変化(vol%)を示すグラフである。
図5】実施例5における水素イオン投入による二酸化炭素の放出と、中和による再吸収を示すグラフである。
図6】クリプタンド型アミン化合物と2価金属イオンとを含有する二酸化炭素吸収液を用いた実施例6における静置時間(min)に対する二酸化炭素の濃度変化(vol%)を示すグラフである。
図7】実施例7における水素イオン投入による二酸化炭素の放出と、中和による再吸収を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0019】
<二酸化炭素吸収液およびそれを用いる二酸化炭素の吸収脱離方法>
本発明の実施形態に係る二酸化炭素吸収液は、クリプタンド型アミン化合物と金属イオンと液体とを含む吸収液である。
【0020】
本発明に実施形態に係る二酸化炭素の吸収脱離方法は、上記二酸化炭素吸収液と二酸化炭素とを接触させることによって二酸化炭素を吸収し(吸収工程)、二酸化炭素を吸収した二酸化炭素吸収液に水素イオンを投入することによって吸収した二酸化炭素を脱離させる(脱離工程)方法である。必要に応じて、投入した水素イオンと等量以上の水酸化物イオンを投入し、脱離のときに投入した水素イオンを中和することによって、二酸化炭素吸収液を回復させてもよい(回復工程)。
【0021】
二酸化炭素吸収液中において、クリプタンド型アミン化合物は、金属イオンと配位して錯体(複核錯体)を形成する。この錯体は二酸化炭素を炭酸イオンに変換した後、それを錯体内部に保持する能力を有する。本実施形態に係る二酸化炭素吸収液は、同濃度の水酸化カリウム水溶液よりも優れた二酸化炭素吸収速度を有しており、これは二酸化炭素吸収液として重要な特徴である。
【0022】
吸収した二酸化炭素の脱離および二酸化炭素吸収液の回復には、それぞれ水素イオンおよび水酸化物イオンを投入すればよい。電気化学的に水素イオンおよび水酸化物イオンを投入することも可能であり、この場合、電源操作により、二酸化炭素の吸収と脱離を瞬時に切り替え可能である。熱や圧力の利用に比べて、高い応答性を実現することができ、低エネルギー化も期待することができる。加えて、電気化学反応を採用する場合、溶媒としてイオン液体を選択することができる。イオン液体は、支持電解質として機能するとともに、その低い揮発性により溶媒の蒸発損失も抑えることも可能である。以上より、従来技術より、優れたエネルギーコストで、二酸化炭素の吸収および脱離が可能であると考えられる。
【0023】
具体的には、金属イオンは液体に含まれる水分子と相互作用し、水分子を速やかにヒドロキシ基に変換する。二酸化炭素は、このヒドロキシ基と反応し、炭酸イオンに変換された後、錯体内部に捕捉される。このようにして、二酸化炭素が二酸化炭素吸収液に吸収される(吸収工程)。この金属イオンを介した一連の反応は、酵素反応(炭酸脱水素酵素)にも用いられており、反応速度の速さが特徴である。
【0024】
そして、二酸化炭素を吸収した本吸収液に水素イオンを添加することによって、錯体によって捕捉状態にある炭酸イオンに対して、水素イオン付加が生じるとともに、炭酸イオンと金属イオンとの結合が切れる。金属イオンは、吸収液中に豊富に存在する水素イオンにより、ヒドロキシ基の生成を停止する。炭酸イオンは、水素イオンと反応することによって二酸化炭素に変換され、吸収液外に放出される。このようにして、二酸化炭素が二酸化炭素吸収液から脱離される(脱離工程)。投入した水素イオンと等量以上の水酸化物イオンを投入し、これを中和することによって、錯体は再び二酸化炭素の吸収を開始する。
【0025】
本発明の実施形態に係る二酸化炭素吸収液を用いれば、二酸化炭素の脱離工程および回復工程において、圧力および温度の制御を行わなくてもよい。吸収した二酸化炭素の脱離には水素イオンの投入を行えばよく、常温常圧環境下でも動作する。二酸化炭素吸収液の回復には、脱離のときに投入した水素イオンを中和すればよい。電気化学的手法を用いる場合、二酸化炭素の脱離と吸収液の回復を、電源操作により、瞬時に切り替え可能であり、圧力や温度を利用した従来技術より、高い応答性と、低エネルギー化が期待することができる。
【0026】
クリプタンド型アミン化合物は、下記一般式(1)で示される化学構造式により規定される。
【化2】
(1)
【0027】
二酸化炭素吸収能力として、クリプタンド型アミン化合物の分子構造内にある3か所のピリジン部位と各ピリジン部位に接続した2か所のアミン部位にあるN原子に対して、最大3つの金属イオンが配位することが求められる。したがって、R、R、R、Rは、この配位を阻害しない限りは、限定されるものではない。
【0028】
一般式(1)中、Rは、独立して、水素原子、CおよびHから構成される有機基、C、O、およびHから構成される有機基、ClもしくはBrから選択されるハロゲン基、または、-N(R)R(RおよびRは、独立して、水素原子、CおよびHから構成される有機基、またはC、O、およびHから構成される有機基である)であり、Rは、独立して、メチル基、エチル基、またはプロピル基であることが好ましい。
【0029】
、R、Rで示されるCおよびHから構成される有機基としては、炭素数1~7の直鎖、分岐、環状のアルキル基、ベンジル基、ビニル基等が挙げられる。
【0030】
、R、Rで示されるC、O、およびHから構成される有機基としては、炭素数1~7の直鎖、分岐、環状のアルコキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、エーテル基等が挙げられる。
【0031】
は、これらのうち、二酸化炭素を取り込む際の立体的な障害を鑑みると、水素原子、メチル基、エチル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0032】
は、二酸化炭素を取り込む際の立体的な障害を鑑みると、メチル基が好ましい。
【0033】
、Rは、これらのうち、二酸化炭素を取り込む際の立体的な障害を鑑みると、水素原子、メチル基、エチル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0034】
クリプタンド型アミン化合物は、Rが水素原子であり、Rがメチル基である下記化学構造式で示される化合物であることが好ましい。
【化3】
【0035】
金属イオンは、二酸化炭素を吸収するために、水分子および炭酸イオンのO原子と配位する金属イオンであればよい。したがって、金属イオンは、O原子と配位可能な金属であればよく、特別に限定されるものではないが、2価金属イオンおよび3価金属イオンのうちの少なくとも1つであることが好ましい。一般的に、2価金属イオンであれば、銅イオン、亜鉛イオン、カドミウムイオン、3価金属イオンではあれば、鉄イオンでも、二酸化炭素吸収性能を示すと考えられる。
【0036】
液体は、クリプタンド型アミン化合物および金属イオンを溶解することができるものであればよく、特別に限定されるものではないが、0~60℃の範囲、好ましくは10~30℃の範囲において液状である物質であることが好ましい。
【0037】
このような液体としては、例えば、メタノール、エタノール等のアルコール類、アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類、1,4-ジオキサン等のエーテル類、水等が挙げられる。液体は、これらのうち、溶解性等の点から、メタノールおよびプロピオニトリルのうちの少なくとも1つであることが好ましい。メタノールとプロピオニトリルとを併用する場合は、例えば、体積比率で1:1~1:5の範囲であり、1:1~1:3の範囲であることが好ましい。メタノールとプロピオニトリルとの体積比が1:1未満であると、沈殿を生じる場合があり、1:5を超えると、錯体の形成が阻害される場合がある。
【0038】
イオン液体は、イオンから構成される液体の塩である。イオン液体としては、例えば、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド等が挙げられる。イオン液体を構成するカチオンまたはアニオンは、常温で液状を保つことができればよく、特に限定されない。
【0039】
クリプタンド型アミン化合物と金属イオンとのモル比は、例えば、モル比で1:1~1:3の範囲であり、1:3(三核錯体)であることが好ましい。クリプタンド型アミン化合物と金属イオンとのモル比が1:1未満であると、錯体量が減り、二酸化炭素吸収性能が低下する場合がある。一方、1:3において錯体量は最大となり、これを超えても二酸化炭素吸収性能に変化はほとんど生じない。
【0040】
二酸化炭素吸収液の濃度は、クリプタンド型アミン化合物および金属イオンを溶解することができる量であればよく、特に限定されるものではないが、例えば、クリプタンド型アミン化合物に対して1.0~100mMの範囲であり、10~20mMの範囲であることが好ましい。二酸化炭素吸収液の濃度がクリプタンド型アミン化合物に対して1.0mM未満であると、錯体量が少なく、二酸化炭素吸収性能が低下する場合があり、100mMを超えると、錯体が析出し、二酸化炭素吸収性能が低下する場合がある。
【0041】
二酸化炭素吸収液としては、Rを水素原子(H)、Rをメチル基(CH基)としたクリプタンド型アミン化合物と、金属イオンとして亜鉛イオンと、それらを溶解する液体としてメタノールとプロピオニトリルとを混合した液体とで構成される二酸化炭素吸収液であって、クリプタンド型アミン化合物と亜鉛イオンとのモル比が1:3であり、メタノールとプロピオニトリルとの体積比率が1:1である二酸化炭素吸収液が好ましい。
【0042】
二酸化炭素を二酸化炭素吸収液に吸収させる吸収工程における液温は、特に限定されるものではないが、例えば、0~60℃の範囲、好ましくは10~30℃の範囲である。吸収工程における液温が0℃未満であると、錯体の析出や錯体の反応性の低下等により二酸化炭素吸収性能が低下する場合があり、60℃を超えると、液体の蒸発により錯体が析出し、二酸化炭素吸収性能が低下する場合がある。
【0043】
吸収工程における圧力は、特に限定されるものではないが、常圧を下回り、常温にて液体が蒸発する圧力範囲であると、錯体が析出し、二酸化炭素吸収性能が低下する場合がある。
【0044】
吸収工程における反応時間は、特に限定されるものではないが、例えば、10分~300分の範囲とすればよい。
【0045】
二酸化炭素吸収液から二酸化炭素を脱離させる脱離工程における液温は、特に限定されるものではないが、例えば、0~60℃の範囲、好ましくは10~30℃の範囲である。脱離工程における液温が0℃未満であると、錯体の析出や錯体の反応性の低下等により二酸化炭素吸収性能が低下する場合があり、60℃を超えると、液体の蒸発により錯体が析出し、二酸化炭素吸収性能が低下する場合がある。
【0046】
脱離工程における圧力は、特に限定されるものではないが、常圧を下回り、常温にて液体が蒸発する圧力範囲であると、錯体が析出し、二酸化炭素吸収性能が低下する場合がある。
【0047】
脱離工程における反応時間は、特に限定されるものではないが、例えば、10分~300分の範囲とすればよい。
【0048】
二酸化炭素吸収液を回復させる回復工程における液温は、特に限定されるものではないが、例えば、0~60℃の範囲、好ましくは10~30℃の範囲である。回復工程における液温が0℃未満であると、錯体の析出や錯体の反応性の低下等により二酸化炭素吸収性能が低下する場合があり、60℃を超えると、液体の蒸発により錯体が析出し、二酸化炭素吸収性能が低下する場合がある。
【0049】
回復工程における圧力は、特に限定されるものではないが、常圧を下回り、常温にて液体が蒸発する圧力範囲であると、錯体が析出し、二酸化炭素吸収性能が低下する場合がある。
【0050】
回復工程における反応時間は、特に限定されるものではないが、例えば、10分~300分の範囲とすればよい。
【0051】
二酸化炭素の脱離工程における水素イオンの投入方法は、例えば、塩酸等の酸性物質を投入する化学的手法、または電気化学反応により生成した水素イオンを投入する電気化学的手法等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。下記実施例では、原理確認のため、塩酸および水酸化カリウム水溶液を用いる前者の化学的手法を採用しているが、これに限定されるものではない。
【0052】
二酸化炭素吸収液の回復工程における水素イオンの投入方法は、例えば、脱離工程と同様の化学的手法および電気化学的手法のいずれを用いてもよいが、これらに限定されるものではない。
【0053】
本実施形態における二酸化炭素吸収液および二酸化炭素の吸収脱離方法によって、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を吸収して、回収することができる。処理対象の二酸化炭素を含むガスとしては、例えば、窒素、酸素、アルゴン、水等が挙げられる。
【0054】
処理対象の二酸化炭素を含むガス中の二酸化炭素の濃度は、特に限定されるものではないが、例えば、400ppm以上(大気レベルの濃度)である。処理対象の二酸化炭素を含むガス中には、二酸化炭素の他に、窒素、酸素、アルゴン、水等が含まれていてもよい。
【実施例
【0055】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
[クリプタンド型アミン化合物の合成例]
1,3,5-tris(aminomethyl)-2,4,6-trimethylbenzene(2.47g)をメタノール(200mL)に溶解させた後、メタノール(200mL)に溶かした2,6-pyridinecarboxaldehyde(2.5g)を約2時間かけ滴下し、混合した。生成した白色沈殿をろ取し、メタノールで洗浄後、乾燥させて、前駆体のクリプタンド型イミン化合物を得た。上記工程を4回実施した。収量:15g。収率:89%であった。
【0057】
得られたクリプタンド型イミン化合物(15g)を、ジクロロメタン(800mL)に溶解させた後、水素化ホウ素ナトリウム(6.8g)のエタノール溶液を加え、48時間撹拌した。1M塩酸(100mL)を加え、水素化ホウ素ナトリウムをクエンチした後、pHが12程度になるまで1M水酸化ナトリウム水溶液を加えた。減圧して溶媒を取り除いた後、水層をクロロホルムで抽出した。クロロホルム層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、減圧下でクロロホルムを取り除いた。得られた白色粉末をメタノールとプロピオニトリルで再結晶することによって、クリプタンド型アミン化合物を得た。収量:8.0g、収率:52%であった。
【0058】
<実施例1:クリプタンド型アミン化合物および亜鉛イオンを含有する二酸化炭素吸収液の調製、ならびに二酸化炭素吸収効果の確認>
クリプタンド型アミン化合物(20mg)を溶解させたメタノール溶液(1mL)と、クリプタンド型アミン化合物に対して3等量の過塩素酸亜鉛(27.7mg)を溶解させたプロピオニトリル溶液(1mL)とを混合することによって、二酸化炭素吸収液“Zn3L”を調製した(クリプタンド型アミン化合物の濃度:12.4mM)。
【0059】
得られた二酸化炭素吸収液を密閉可能な容器(容積:22.5mL)に移し、二酸化炭素(0.6mL)を、シリンジを用いて注入した。このときの容器内の二酸化炭素濃度は約3.0vol%(30000ppm)である。容器を規定時間、静置した後、気相から抜き取ったサンプル(1mL)をガスクロマトグラフ(島津製作所製、GC-8A型)に注入し、常温(25℃)、大気圧の条件で気相の二酸化炭素濃度を測定した。クリプタンド型アミン化合物および亜鉛イオン含有の効果を確認するため、同じ割合でメタノールおよびプロピオニトリルのみを容器に入れた場合の二酸化炭素濃度も併せて測定した。結果を図1に示す。
【0060】
二酸化炭素注入から30分経過した時点で、メタノールおよびプロピオニトリルのみでは、二酸化炭素濃度は1.8vol%(18000ppm)であったのに対して、本二酸化炭素吸収液では、二酸化炭素濃度は0.2vol%(2000ppm)となり、投入した二酸化炭素の90%以上が吸収された。なお、亜鉛イオンを入れずにクリプタンド型アミン化合物のみ含有する液体を容器に入れた場合、二酸化炭素注入から60分経過した時点でも、二酸化炭素濃度は1.4vol%(14000ppm)であった。クリプタンド型アミン化合物および亜鉛イオンをともに含有する条件において、高い二酸化炭素吸収性能を発現した。
【0061】
<比較例1:水酸化カリウム水溶液による二酸化炭素吸収効果の確認>
実施例1で調製した二酸化炭素吸収液に含まれるクリプタンド型アミン化合物の濃度と同じになるように、水酸化カリウム水溶液(12.4mM)を調製した。
【0062】
得られた水酸化カリウム水溶液(2mL)を密閉可能な容器(容積:22.5mL)に移し、二酸化炭素(0.6mL)を、シリンジを用いて注入した。このときの容器内の二酸化炭素濃度は、実施例1と同じく約3.0vol%(30000ppm)である。容器を規定時間、静置した後、気相から抜き取ったサンプル(1mL)をガスクロマトグラフに注入し、気相の二酸化炭素濃度を測定した。比較のため、容器内に純水を入れた場合の二酸化炭素濃度を併せて測定した。結果を図2に示す。
【0063】
二酸化炭素注入から30分経過した時点で、純水では、二酸化炭素濃度は2.7vol%(27000ppm)であったのに対して、水酸化カリウム水溶液では、二酸化炭素濃度は1.0vol%(10000ppm)となり、投入二酸化炭素の約66%が吸収された。
【0064】
図3に、実施例1と比較例1の二酸化炭素吸収性能の比較を示す。以上より、実施例1の二酸化炭素吸収液が、同濃度の水酸化カリウム水溶液よりも、素早く二酸化炭素を吸収することが示された。
【0065】
<実施例2:クリプタンド型アミン化合物および銅イオンを含有する二酸化炭素吸収液の調製、ならびに二酸化炭素吸収効果の確認>
クリプタンド型アミン化合物(20mg)を溶解させたメタノール溶液(1mL)と、クリプタンド型アミン化合物に対して3等量の過塩素酸銅(27.6mg)を溶解させたプロピオニトリル溶液(1mL)とを混合することによって、二酸化炭素吸収液“Cu3L”を調製した(クリプタンド型アミン化合物の濃度:12.4mM)。
【0066】
得られた二酸化炭素吸収液を密閉可能な容器(容積:22.5mL)に移し、二酸化炭素(0.6mL)を、シリンジを用いて注入した。このときの容器内の二酸化炭素濃度は約3.0vol%(30000ppm)である。容器を規定時間、静置した後、気相から抜き取ったサンプル(1mL)をガスクロマトグラフに注入し、気相の二酸化炭素濃度を測定した。同じ割合でメタノールおよびプロピオニトリルのみを容器に入れた場合の二酸化炭素濃度も併せて測定した。結果を図4に示す。
【0067】
二酸化炭素注入から30分経過した時点で、メタノールおよびプロピオニトリルのみでは、二酸化炭素濃度は1.8vol%(18000ppm)であったのに対して、本二酸化炭素吸収液では、二酸化炭素濃度は0.9vol%(9000ppm)となり、投入した二酸化炭素の約70%が吸収された。30分経過時点での二酸化炭素吸収量は、比較例1の水酸化カリウム水溶液よりも多かった。
【0068】
<実施例3:クリプタンド型アミン化合物と、2等量の亜鉛イオンおよび1等量の銅イオンとを含有する二酸化炭素吸収液の調製、ならびに二酸化炭素吸収効果の確認>
クリプタンド型アミン化合物(20mg)を溶解させたメタノール溶液(1mL)と、クリプタンド型アミン化合物に対して2等量の過塩素酸亜鉛(18.4mg)および1等量の過塩素酸銅(9.2mg)を溶解させたプロピオニトリル溶液(1mL)とを混合することによって、二酸化炭素吸収液“CuZn2L”を調製した(クリプタンド型アミン化合物の濃度:12.4mM)。
【0069】
得られた二酸化炭素吸収液を密閉可能な容器(容積:22.5mL)に移し、二酸化炭素(0.6mL)を、シリンジを用いて注入した。このときの容器内の二酸化炭素濃度は約3.0vol%(30000ppm)である。容器を規定時間、静置した後、気相から抜き取ったサンプル(1mL)をガスクロマトグラフに注入し、気相の二酸化炭素濃度を測定した。結果を図4に示す。
【0070】
二酸化炭素注入から30分経過した時点で、メタノールおよびプロピオニトリルのみでは、二酸化炭素濃度は1.8vol%(18000ppm)であったのに対して、本二酸化炭素吸収液では、二酸化炭素濃度は0.5vol%(5000ppm)となり、投入した二酸化炭素の約83%が吸収された。30分経過した時点における二酸化炭素吸収量は、比較例1の水酸化カリウム水溶液よりも多かった。
【0071】
<実施例4:クリプタンド型アミン化合物と、1等量の亜鉛イオンおよび2等量の銅イオンを含有する二酸化炭素吸収液の調製、ならびに二酸化炭素吸収効果の確認>
クリプタンド型アミン化合物(20mg)を溶解させたメタノール溶液(1mL)と、クリプタンド型アミン化合物に対して1等量の過塩素酸亜鉛(18.4mg)および2等量の過塩素酸銅(9.2mg)を溶解させたプロピオニトリル溶液(1mL)とを混合することによって、二酸化炭素吸収液“Cu2ZnL”を調製した(クリプタンド型アミン化合物の濃度:12.4mM)。
【0072】
得られた二酸化炭素吸収液を密閉可能な容器(容積:22.5mL)に移し、二酸化炭素(0.6mL)を、シリンジを用いて注入した。このときの容器内の二酸化炭素濃度は約3.0vol%(30000ppm)である。容器を規定時間、静置した後、気相から抜き取ったサンプル(1mL)をガスクロマトグラフに注入し、気相の二酸化炭素濃度を測定した。結果を図4に示す。
【0073】
二酸化炭素注入から30分経過した時点で、メタノールおよびプロピオニトリルのみでは、二酸化炭素濃度は1.8vol%(18000ppm)であったのに対して、本二酸化炭素吸収液では、二酸化炭素濃度は0.6vol%(6000ppm)となり、投入した二酸化炭素の約79%が吸収された。30分経過時点における二酸化炭素吸収量は、比較例1の水酸化カリウム水溶液よりも多かった。
【0074】
<実施例5:吸収した二酸化炭素の脱離、回復および再吸収>
実施例1(Zn3L)および実施例2(Cu3L)にて、二酸化炭素を吸収させた二酸化炭素吸収液に、クリプタンド型アミン化合物に対して10等量分の水素イオンとして、1M塩酸(250μL)を注入した。30分静置した後、気相から抜き取ったサンプル(1mL)をガスクロマトグラフに注入し、気相の二酸化炭素濃度を測定した。結果を図5に示す。
【0075】
Zn3L、Cu3Lいずれも、水素イオン投入後における容器内の気相の二酸化炭素濃度は、メタノールおよびプロピオニトリルのみの場合における濃度と同程度になった。これは、クリプタンド型アミン化合物および金属イオンから形成された錯体によって吸収された分の二酸化炭素が放出されたことを指し示している。
【0076】
二酸化炭素を再吸収させるために、1M水酸化カリウム水溶液(250μL)を注入し、水素イオンを中和した。30分静置した後、気相から抜き取ったサンプル(1mL)をガスクロマトグラフに注入し、気相の二酸化炭素濃度を測定した。結果を図5に示す。
【0077】
再吸収による二酸化炭素濃度の低下が確認された。濃度が一度目の吸収のときよりも高い原因は、塩酸および水酸化カリウム水溶液の注入により、二酸化炭素吸収液の濃度が低下したためである。水溶液を注入するのではなく、直接、水素イオンおよび水酸化物イオンを投入することができれば、このような問題は解決されると考えられる。
【0078】
再吸収した二酸化炭素を再脱離させるため、1M塩酸(250μL)を注入した。30分静置した後、気相から抜き取ったサンプル(1mL)をガスクロマトグラフに注入し、気相の二酸化炭素濃度を測定した。結果を図5に示す。
【0079】
一度目の脱離のときと同じく、メタノールおよびプロピオニトリルのみの場合と同程度の二酸化炭素濃度となった。
【0080】
<実施例6:クリプタンド型アミン化合物およびカドミウムイオンを含有する二酸化炭素吸収液の調製、ならびに二酸化炭素吸収効果の確認>
クリプタンド型アミン化合物(20mg)を溶解させたメタノール溶液(1mL)と、クリプタンド型アミン化合物に対して3等量の過塩素酸カドミウム(31.2mg)を溶解させたプロピオニトリル溶液(1mL)とを混合することによって、二酸化炭素吸収液“Cd3L”を調製した(クリプタンド型アミン化合物の濃度:12.4mM)。
【0081】
得られた二酸化炭素吸収液を密閉可能な容器(容積:22.5mL)に移し、二酸化炭素(0.6mL)を、シリンジを用いて注入した。このときの容器内の二酸化炭素濃度は約3.0vol%(30000ppm)である。容器を規定時間、静置した後、気相から抜き取ったサンプル(1mL)をガスクロマトグラフに注入し、気相の二酸化炭素濃度を測定した。結果を図6に示す。
【0082】
二酸化炭素注入から30分経過した時点で、メタノールおよびプロピオニトリルのみでは、二酸化炭素濃度は1.8vol%(18000ppm)であったのに対して、本二酸化炭素吸収液では、二酸化炭素濃度は0.4vol%(4000ppm)となり、投入した二酸化炭素の約80%が吸収された。30分経過時点での二酸化炭素吸収量は、比較例1の水酸化カリウム水溶液よりも多かった。
【0083】
このように、クリプタンド型アミン化合物および2価金属イオンを含有した二酸化炭素吸収液Zn3L、Cu3L、Cd3Lでは、Zn3Lの二酸化炭素吸収速度が最も速く、続いてCd3Lが速かった。Cu3Lは、これらの中では最も吸収速度が遅かったが、水酸化カリウム水溶液よりは速い吸収速度を示した。
【0084】
<実施例7:イオン液体の利用>
クリプタンド型アミン化合物(20mg)をメタノール(0.1mL)とプロピオニトリル(0.1mL)との混合溶媒に溶解させた後、これをクリプタンド型アミン化合物に対して3等量のビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド亜鉛(46.6mg)を溶解させた1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(EMIM)溶液(1.8mL)と混合することによって、二酸化炭素吸収液“Zn3L-IL”を調製した(クリプタンド型アミン化合物の濃度:12.4mM)。
【0085】
得られたZn3L-ILを密閉可能な容器(容積:22.5mL)に移し、二酸化炭素(0.6mL)を、シリンジを用いて注入した。このときの容器内の二酸化炭素濃度は約3.0vol%(30000ppm)である。30分撹拌した後、気相から抜き取ったサンプル(1mL)をガスクロマトグラフに注入し、気相の二酸化炭素濃度を測定した。結果を図7に示す。
【0086】
二酸化炭素注入から30分経過した時点で、メタノールおよびプロピオニトリルのみでは、二酸化炭素濃度は2.0vol%(20000ppm)であったのに対して、本二酸化炭素吸収液では、二酸化炭素濃度は0.6vol%(6000ppm)となり、投入二酸化炭素の約80%が吸収された。
【0087】
二酸化炭素を吸収させたZn3L-ILに、クリプタンド型アミン化合物に対して10等量分の水素イオンとして、1M塩酸(250μL)を注入した。30分撹拌した後、気相から抜き取ったサンプル(1mL)をガスクロマトグラフに注入し、気相の二酸化炭素濃度を測定した。結果を図7に示す。
【0088】
水素イオン投入後における容器内気相の二酸化炭素濃度は、EMIMのみの場合における濃度と同程度になった。これは、クリプタンド型アミン化合物および金属イオンから形成された錯体によって吸収された分の二酸化炭素が放出されたことを指し示している。
【0089】
二酸化炭素を再吸収させるために、1M水酸化カリウム水溶液(250μL)を注入し、水素イオンを中和した。30分撹拌した後、気相から抜き取ったサンプル(1mL)をガスクロマトグラフに注入し、気相の二酸化炭素濃度を測定した。結果を図7に示す。
【0090】
二酸化炭素濃度は、一度目の吸収のときの濃度と同程度まで低下した。EMIMと水は分離するため、EMIM中に溶解している錯体の濃度低下がほとんど生じず、本来の吸収性能を維持したものと考えられる。
【0091】
再吸収した二酸化炭素を再脱離させるために、1M塩酸(250μL)を注入した。30分撹拌した後、気相から抜き取ったサンプル(1mL)をガスクロマトグラフに注入し、気相の二酸化炭素濃度を測定した。結果を図7に示す。
【0092】
一度目の脱離のときと同じく、EMIMのみの場合と同程度の二酸化炭素濃度となった。
【0093】
以上の通り、実施例の二酸化炭素吸収液によって、優れたエネルギーコストで二酸化炭素の吸収および脱離が可能となった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7