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特許7537455地図データ生成方法、走行計画作成方法、地図データ生成装置及び地図データ生成プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】地図データ生成方法、走行計画作成方法、地図データ生成装置及び地図データ生成プログラム
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/00 20060101AFI20240814BHJP
   B60W 60/00 20200101ALI20240814BHJP
   G01C 21/34 20060101ALI20240814BHJP
   G08G 1/01 20060101ALI20240814BHJP
   G08G 1/0969 20060101ALI20240814BHJP
   G09B 29/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
G08G1/00 A
B60W60/00
G01C21/34
G08G1/01 A
G08G1/0969
G09B29/00 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022040162
(22)【出願日】2022-03-15
(65)【公開番号】P2023135119
(43)【公開日】2023-09-28
【審査請求日】2023-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】保海 佳佑
(72)【発明者】
【氏名】河内 太一
【審査官】宮本 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-144041(JP,A)
【文献】特開2019-197356(JP,A)
【文献】特開2020-060528(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
G01C 21/00-21/36
G01C 23/00-25/00
G09B 29/00
B60W 60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行ログデータ群から複数のデータセットを生成し、
前記複数のデータセットのそれぞれは1又は複数の走行ログデータからなり、
前記走行ログデータ群に含まれるそれぞれの走行ログデータは1又は複数のパラメータで規定され、
前記複数のデータセットのそれぞれから評価用の地図データを生成し、
前記複数のデータセットから生成された複数の評価用の地図データのそれぞれについて評価値を計算し、
前記複数のデータセットのそれぞれと前記複数の評価用の地図データのそれぞれの評価値との対応関係に基づいて前記1又は複数のパラメータの条件の組み合わせと前記評価値との関係を特定し、
前記1又は複数のパラメータの条件の組み合わせ毎に前記評価値が関連付けられた自動運転用の地図データを生成し、
前記評価値を計算することは前記複数の評価用の地図データ間の相対的な評価による相対的な評価値を計算することを含む
ことを特徴とする地図データ生成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の地図データ生成方法において、
前記1又は複数のパラメータは自動運転車両の内部状態を表すパラメータを含む
ことを特徴とする地図データ生成方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の地図データ生成方法において、
前記1又は複数のパラメータは自動運転車両の外部状態を表すパラメータを含む
ことを特徴とする地図データ生成方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の地図データ生成方法により生成された前記自動運転用の地図データを取得し、
自動運転車両における前記1又は複数のパラメータの条件を取得し、
前記自動運転車両における前記1又は複数のパラメータの条件に対応する評価値を前記自動運転用の地図データから取得し、
前記自動運転用の地図データから取得された評価値に基づいて前記自動運転車両の走行計画を作成する
ことを特徴とする走行計画作成方法。
【請求項5】
請求項4に記載の走行計画作成方法において、
前記走行計画を作成することは前記評価値に応じて前記自動運転の継続か中止かを選択することを含む
ことを特徴とする走行計画作成方法。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の走行計画作成方法において、
前記走行計画を作成することは前記評価値に見合った走行モードを選択することを含む
ことを特徴とする走行計画作成方法。
【請求項7】
請求項4乃至6の何れか1項に記載の走行計画作成方法において、
前記走行計画を作成することは前記評価値に見合った経路を選択することを含む
ことを特徴とする走行計画作成方法。
【請求項8】
少なくとも1つのプロセッサと、
前記少なくとも1つのプロセッサと結合され複数の実行可能なインストラクションを記憶したプログラムメモリと、を備え、
前記複数の実行可能なインストラクションは、前記少なくとも1つのプロセッサに、
走行ログデータ群から複数のデータセットを生成させ、
前記複数のデータセットのそれぞれは1又は複数の走行ログデータからなり、
前記走行ログデータ群に含まれるそれぞれの走行ログデータは1又は複数のパラメータで規定され、
前記複数のデータセットのそれぞれから評価用の地図データを生成させ、
前記複数のデータセットから生成された複数の評価用の地図データのそれぞれについて評価値を計算させ、
前記複数のデータセットのそれぞれと前記複数の評価用の地図データのそれぞれの評価値との対応関係に基づいて前記1又は複数のパラメータの条件の組み合わせと前記評価値との関係を特定させ、
前記1又は複数のパラメータの条件の組み合わせ毎に前記評価値が関連付けられた自動運転用の地図データを生成させる、ように構成され
前記評価値を計算させることは前記複数の評価用の地図データ間の相対的な評価による相対的な評価値を計算させることを含む
ことを特徴とする地図データ生成装置。
【請求項9】
走行ログデータ群から複数のデータセットを生成し、
前記複数のデータセットのそれぞれは1又は複数の走行ログデータからなり、
前記走行ログデータ群に含まれるそれぞれの走行ログデータは1又は複数のパラメータで規定され、
前記複数のデータセットのそれぞれから評価用の地図データを生成し、
前記複数のデータセットから生成された複数の評価用の地図データのそれぞれについて評価値を計算し、
前記複数のデータセットのそれぞれと前記複数の評価用の地図データのそれぞれの評価値との対応関係に基づいて前記1又は複数のパラメータの条件の組み合わせと前記評価値との関係を特定し、
前記1又は複数のパラメータの条件の組み合わせ毎に前記評価値が関連付けられた自動運転用の地図データを生成する、ことをコンピュータに実行させるように構成され
前記評価値を計算することは前記複数の評価用の地図データ間の相対的な評価による相対的な評価値を計算することを含む
ことを特徴とする地図データ生成プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動運転用の地図データを生成する方法及びそれを用いて走行計画を作成する方法、並びに、自動運転用の地図データを生成する装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は地図情報システムを開示している。この地図情報システムで用いられる地図情報は、地図情報の確からしさを絶対座標系における位置毎に示す評価値と関連付けられている。地図情報システムは、地図情報に基づいて、車両が走行する目標範囲内の点又は区間毎に評価値を取得する。そして、地図情報システムは、評価値と運転者による介入操作が行われた位置とに基づいて、運転支援制御の許容レベルを目標範囲内の点又は区間毎に決定する。
【0003】
上記の従来技術では、地図情報に一様に評価値が与えられて運転支援制御の許容レベルが決定されている。しかし、センサの状態等のシステムの内部状態や、天候及び時刻を含むシステムの外部状態のようなパラメータの条件は動的に変化する。このため、事前に与えられた一様な評価値をもとに現在の状態における運転支援制御の許容レベルを判断することは難しい。このことは評価値が与えられた地図情報を自動運転で利用する場合にも当てはまる。
【0004】
なお、本開示に関連する技術分野の技術水準を示す文献としては、上述の特許文献1の他にも下記の特許文献2乃至特許文献4を例示することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-076726号公報
【文献】特開2021-076593号公報
【文献】特開2019-203823号公報
【文献】特開2020-038361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、上述のような問題に鑑みてなされたもので、地図データに基づいた自動運転時、自動運転に関連するパラメータの条件の動的な変化に対応することを可能にする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は上記目的を達成するための地図データ生成技術として、地図データ生成方法、地図データ生成装置及び地図データ生成プログラムを提供する。
【0008】
本開示の地図データ生成方法は以下のステップを含む。第1のステップは走行ログデータ群から複数のデータセットを生成することである。上記複数のデータセットのそれぞれは1又は複数の走行ログデータからなる。走行ログデータ群に含まれるそれぞれの走行ログデータは1又は複数のパラメータで規定される。第2のステップは上記複数のデータセットのそれぞれから評価用の地図データを生成することである。第3のステップは上記複数のデータセットから生成された複数の評価用の地図データのそれぞれについて評価値を計算することである。第4のステップは、上記複数のデータセットのそれぞれと上記複数の評価用の地図データのそれぞれの評価値との対応関係に基づいて、上記1又は複数のパラメータの条件の組み合わせと評価値との関係を特定することである。そして、第5のステップは上記1又は複数のパラメータの条件の組み合わせ毎に評価値が関連付けられた自動運転用の地図データを生成することである。
【0009】
本開示の地図データ生成装置は、少なくとも1つのプロセッサと、その少なくとも1つのプロセッサと結合されたプログラムメモリとを備える。プログラムメモリは複数の実行可能なインストラクションを記憶する。上記複数の実行可能なインストラクションは上記少なくとも1つのプロセッサに以下の処理を実行させるように構成されている。第1の処理は走行ログデータ群から複数のデータセットを生成することである。上記複数のデータセットのそれぞれは1又は複数の走行ログデータからなる。走行ログデータ群に含まれるそれぞれの走行ログデータは1又は複数のパラメータで規定される。第2の処理は上記複数のデータセットのそれぞれから評価用の地図データを生成することである。第3の処理は上記複数のデータセットから生成された複数の評価用の地図データのそれぞれについて評価値を計算することである。第4の処理は、上記複数のデータセットのそれぞれと上記複数の評価用の地図データのそれぞれの評価値との対応関係に基づいて、上記1又は複数のパラメータの条件の組み合わせと評価値との関係を特定することである。そして、第5の処理は上記1又は複数のパラメータの条件の組み合わせ毎に評価値が関連付けられた自動運転用の地図データを生成することである。
【0010】
本開示の地図データ生成プログラムは以下の処理をコンピュータに実行させるように構成されている。第1の処理は走行ログデータ群から複数のデータセットを生成することである。上記複数のデータセットのそれぞれは1又は複数の走行ログデータからなる。走行ログデータ群に含まれるそれぞれの走行ログデータは1又は複数のパラメータで規定される。第2の処理は上記複数のデータセットのそれぞれから評価用の地図データを生成することである。第3の処理は上記複数のデータセットから生成された複数の評価用の地図データのそれぞれについて評価値を計算することである。第4の処理は、上記複数のデータセットのそれぞれと上記複数の評価用の地図データのそれぞれの評価値との対応関係に基づいて、上記1又は複数のパラメータの条件の組み合わせと評価値との関係を特定することである。そして、第5の処理は上記1又は複数のパラメータの条件の組み合わせ毎に評価値が関連付けられた自動運転用の地図データを生成することである。なお、本開示の地図データ生成プログラムはコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよいし、ネットワーク経由で提供されてもよい。
【0011】
本開示の地図データ生成技術によれば、走行ログデータを規定する1又は複数のパラメータの条件の組み合わせ毎の評価値が関連付けられた地図データが生成される。このような地図データが自動運転に用いられることで、自動運転車両は、自動運転に関連する現在のパラメータの条件と、それに対応した評価値とを地図データから引き当てて車両挙動を決定することが可能となる。つまり、本開示の地図データ生成技術によれば、地図データに基づいた自動運転時、自動運転に関連するパラメータの条件の動的な変化への対応を可能にする地図データを生成することができる。
【0012】
本開示の地図データ生成技術において、上記1又は複数のパラメータは自動運転車両の内部状態を表すパラメータを含んでもよいし、自動運転車両の外部状態を表すパラメータを含んでもよい。内部状態を表すパラメータが含まれていることで、地図データを用いた自動運転時、車両挙動を内部状態の変化へ対応させることが可能となる。外部状態を表すパラメータが含まれていることで、地図データを用いた自動運転時、車両挙動を外部状態の変化へ対応させることが可能となる。
【0013】
本開示の地図データ生成技術において、評価値を計算することは複数の評価用の地図データ間の相対的な評価による相対的な評価値を計算することを含んでもよい。また、評価値を計算することは定義されている絶対的な基準に基づく絶対的な評価値を計算することを含んでもよい。
【0014】
また、本開示は、上述の地図データ生成技術で生成される地図データを利用した走行計画作成技術、すなわち、走行計画作成方法、走行計画作成装置及び走行計画作成プログラムを提供する。
【0015】
本開示の走行計画作成方法は以下のステップを含む。第1のステップは上記の地図データ生成技術より生成された自動運転用の地図データを取得することである。第2のステップは自動運転車両における上記1又は複数のパラメータの条件を取得することである。第3のステップは自動運転車両における上記1又は複数のパラメータの条件に対応する評価値を自動運転用の地図データから取得することである。そして、第4のステップは自動運転用の地図データから取得された評価値に基づいて自動運転車両の走行計画を作成することである。
【0016】
本開示の走行計画作成装置は、少なくとも1つのプロセッサと、その少なくとも1つのプロセッサと結合されたプログラムメモリとを備える。プログラムメモリは複数の実行可能なインストラクションを記憶する。上記複数の実行可能なインストラクションは上記少なくとも1つのプロセッサに以下の処理を実行させるように構成されている。第1の処理は上記の地図データ生成技術より生成された自動運転用の地図データを取得することである。第2の処理は自動運転車両における上記1又は複数のパラメータの条件を取得することである。第3の処理は自動運転車両における上記1又は複数のパラメータの条件に対応する評価値を自動運転用の地図データから取得することである。そして、第4の処理は自動運転用の地図データから取得された評価値に基づいて自動運転車両の走行計画を作成することである。
【0017】
本開示の走行計画作成プログラムは以下の処理をコンピュータに実行させるように構成されている。第1の処理は上記の地図データ生成技術より生成された自動運転用の地図データを取得することである。第2の処理は自動運転車両における上記1又は複数のパラメータの条件を取得することである。第3の処理は自動運転車両における上記1又は複数のパラメータの条件に対応する評価値を自動運転用の地図データから取得することである。そして、第4の処理は自動運転用の地図データから取得された評価値に基づいて自動運転車両の走行計画を作成することである。なお、本開示の走行計画作成プログラムはコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよいし、ネットワーク経由で提供されてもよい。
【0018】
本開示の走行計画作成技術によれば、上述の地図データ作成技術により作成された地図データが走行計画の作成に用いられるので、自動運転に関連するパラメータの条件の動的な変化に対応した走行計画を作成することができる。
【0019】
本開示の走行計画作成技術において、走行計画を作成することは評価値に応じて自動運転の継続か中止かを選択することを含んでもよい。また、走行計画を作成することは評価値に見合った走行モードを選択することを含んでもよい。さらに、走行計画を作成することは評価値に見合った経路を選択することを含んでもよい。
【発明の効果】
【0020】
上述のように、本開示の地図データ生成技術によれば、地図データに基づいた自動運転時、自動運転に関連するパラメータの条件の動的な変化への対応を可能にする地図データを生成することができる。また、本開示の走行計画作成技術によれば、本開示の地図データ作成技術により作成された地図データを用いることで、自動運転に関連するパラメータの条件の動的な変化に対応した走行計画を作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】地図データに基づく自動運転の課題について説明するための概念図である。
図2図1で説明される課題に対する解決手段を説明するための概念図であって、本発明の実施形態に係る地図データ生成方法の概要を説明するための概念図である。
図3】本発明の実施形態に係る地図データ生成装置と自動運転ECUの各機能を示すブロック図である。
図4】本発明の実施形態に係る地図データ生成装置のハードウェア構成の例を示すブロック図である。
図5】本発明の実施形態に係る自動運転ECUのハードウェア構成の例を示すブロック図である。
図6】本発明の実施形態に係る地図データ生成装置により実施される地図データ生成方法を説明するための概念図であって、走行ログデータデータベースの構成の例を示す概念図である。
図7】本発明の実施形態に係る地図データ生成装置により実施される地図データ生成方法を説明するための概念図であって、ログデータ組み合わせ生成処理について説明するための概念図である。
図8】本発明の実施形態に係る地図データ生成装置により実施される地図データ生成方法を説明するための概念図であって、地図データ生成処理について説明するための概念図である。
図9】本発明の実施形態に係る地図データ生成装置により実施される地図データ生成方法を説明するための概念図であって、地図データ評価処理及びパラメータ評価処理について説明するための概念図である。
図10】地図データ生成処理による地図データの別の計算例を示す図である。
図11】地図データ評価処理及びパラメータ評価処理による地図データ評価値及びパラメータ評価値の別の計算例を示す図である。
図12】本発明の実施形態に係る地図データ生成装置により実施される地図データ生成方法を説明するための図であって、地図データデータベースに登録される自動運転用地図データについて説明するための概念図である。
図13】走行ログデータデータベースに記憶される走行ログデータの形式の一例について説明するための概念図である。
図14】ログデータ組み合わせ生成処理における走行ログデータの組み合わせの一例について説明するための概念図である。
図15】パラメータ評価処理における複数のパラメータの条件の組み合わせと評価値との対応関係の一例について説明するための概念図である。
図16】本発明の実施形態に係る地図データ生成装置による地図データ評価処理の具体例を説明するための概念図であって、SLAMによるポーズでの自己位置推定の一例を説明するための概念図である。
図17】本発明の実施形態に係る地図データ生成装置による地図データ評価処理の具体例を説明するための概念図であって、SLAMによるポーズでの自己位置推定の成功例を説明するための概念図である。
図18】本発明の実施形態に係る地図データ生成装置による地図データ評価処理の具体例を説明するための概念図であって、SLAMによるポーズでの自己位置推定の失敗例を説明するための概念図である。
図19】本発明の実施形態に係る地図データ生成装置による地図データ評価処理の具体例を説明するための概念図であって、評価値としてのp値について説明するための概念図である。
図20】本発明の実施形態に係る地図データ生成装置による地図データ評価処理の具体例を説明するための概念図であって、p値を用いた評価値の一例について説明するための概念図である。
図21】本発明の実施形態に係る地図データ生成装置による地図データ評価処理の具体例を説明するための概念図であって、p値を用いた評価値の一例について説明するための概念図である。
図22】本発明の実施形態に係る地図データ生成装置による地図データ評価処理の具体例を説明するための概念図であって、評価値としての標準偏差について説明するための概念図である。
図23】本発明の実施形態に係る地図データ生成装置による地図データ評価処理の具体例を説明するための概念図であって、路面形状の精度の物体検出に対する影響について説明するための概念図である。
図24】本発明の実施形態に係る地図データ生成装置による地図データ評価処理の具体例を説明するための概念図であって、評価値としての分散について説明するための概念図である。
図25】本発明の実施形態に係る自動運転ECUによる走行計画作成処理の具体例を説明するための概念図であって、走行計画の作成における評価値の一つの活用例を示す概念図である。
図26】本発明の実施形態に係る自動運転ECUにより実行される処理を示すフローチャートであって、図25に示す活用例を実現するための処理を示すフローチャートである。
図27】本発明の実施形態に係る自動運転ECUによる走行計画作成処理の具体例を説明するための概念図であって、走行計画の作成における評価値の別の活用例を示す概念図である。
図28】本発明の実施形態に係る自動運転ECUにより実行される処理を示すフローチャートであって、図27に示す活用例を実現するための処理を示すフローチャートである。
図29】本発明の実施形態に係る自動運転ECUによる走行計画作成処理の具体例を説明するための概念図であって、走行計画の作成における評価値のさらに別の活用例を示す概念図である。
図30】本発明の実施形態に係る自動運転ECUにより実行される処理を示すフローチャートであって、図29に示す活用例を実現するための処理を示すフローチャートである。
図31】地図データに関連付けられたp値とオンラインで計算された評価値との比較に基づいた車両制御の一例を示す図である。
図32】地図データに関連付けられたp値とオンラインで計算された評価値との比較に基づいた車両制御の一例を示す図である。
図33】地図データに関連付けられたp値とオンラインで計算された評価値との比較に基づいた車両制御の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本開示の実施形態について説明する。ただし、以下に示される実施形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、本開示に係る技術思想が限定されるものではない。また、以下に示される実施形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、本開示に係る技術思想に必ずしも必須のものではない。
【0023】
1.地図データ生成方法の概要
本実施形態における地図データとは、特徴量地図(feature map)、路面形状地図(terrain map)、路面輝度地図(intensity map)、静止障害物地図(background knowledge)等、自動運転車両による自動運転用の地図を構成するデータを意味する。特徴量地図は典型的には自動運転車両の自己位置推定に使用される。路面形状地図は自動運転車両が走行する周辺の領域の路面の形状(高さ)がセルで記録された地図である。路面輝度地図は自動運転車両が走行する周辺の領域の路面の輝度がセルで記録された地図である。静止障害物地図は道路構造物等の静止障害物がボクセルで記録された地図である。
【0024】
地図データの作成には、センサ付きの車両を実際に走行させて取得した多数の走行ログデータが使用される。地図データの作成に使用される走行ログデータの全体集合を走行ログデータ群と称する。また、走行ログデータを省略してログデータと呼ぶ場合もある。
【0025】
走行ログデータを用いて作成される地図データを用いた自動運転には一つの課題がある。図1は地図データに基づく自動運転の課題について説明するための概念図である。
【0026】
一般に、地図データ30は最も高い精度が実現されるように、膨大な数の走行ログデータを用いて生成される。走行ログデータは、自動運転車両2の内部状態に関するパラメータと、自動運転車両2の外部状態に関するパラメータとを含む複数のパラメータを用いて規定されている。内部状態に関するパラメータとは、例えば、車両の違い、センサ構成の違い等である。外部状態に関するパラメータとは、例えば、天候、時間帯、道路環境等である。ここでは、最も高い精度の地図データ30が得られるパラメータの条件の組み合わせを条件Aとする。
【0027】
図1の左側に示す例のように、自動運転車両2の自動運転に関連するパラメータの条件の組み合わせが条件Aである場合、自動運転車両2の条件は地図データ30が前提とする条件と整合する。この場合、自動運転車両2は高い精度で作成された地図データ30を十分に利用して自動運転を行うことができる。
【0028】
ところが、自動運転に関連するパラメータの条件は動的に変化する。このため、図1の右側に示す例のように、自動運転車両2の自動運転に関連するパラメータの条件が条件Aとは異なる条件A1になる場合もある。ここで、条件A1は複数のパラメータの条件の組み合わせである条件Aの一部を満たしてない条件であるとする。この場合、自動運転車両2の条件は地図データ30が前提とする条件と整合しない。このため、自動運転車両2は高い精度で作成された地図データ30を十分に利用することができない可能性がある。しかし、自動運転車両2は、パラメータの条件に変化があったことは自身で検知できるものの、地図データ30が前提とする条件と現在の自動運転車両2の条件との不整合がどの程度の影響を及ぼすのかまでは判断することはできない。
【0029】
本実施形態に係る地図データ生成方法は上記の課題に対する解決手段を提供する。図2は本実施形態に係る地図データ生成方法の概要を説明するための概念図である。
【0030】
本実施形態に係る地図データ生成方法によれば、走行ログデータ群から複数のデータセット20A,20B,20Cが生成される。データセット20Aを構成するログデータは条件Aのもとで取得したログデータである。データセット20Bを構成するログデータは条件A1のもとで取得したログデータである。データセット20Cを構成するログデータは条件A2のもとで取得したログデータである。条件A2は条件A1とはパラメータの条件の組み合わせが異なり、且つ、条件A1と同様に条件Aの一部を満たしてない。なお、図2では3組のデータセット20A,20B,20Cのみが生成されているが、実際にはより多数のデータセットが生成される。各データセットを構成するログデータの数は好ましくは複数であるが1つでもよい。また、ログデータの数はデータセット間で同一でもよいし異なっていてもよい。
【0031】
次に、生成されたそれぞれのデータセット20A,20B,20Cから評価用の地図データ30A,30Bが生成される。そして、評価用の地図データ30A,30B,30Cに対する地図データ評価が行われる。地図データ評価では、評価用の地図データ30A,30B,30Cのそれぞれについて評価値が計算される。評価値は地図データの精度を示す指数であって、例えば、地図データ間の相対的な評価に基づいて計算される。ここでは、地図データ30A,30B,30Cのそれぞれについて評価値X,Y,Zが得られたとする。評価値の具体例については後述する。
【0032】
さらに、地図データ30A,30B,30Cの作成に用いられたデータセット20A,20B,20Cと、地図データ30A,30B,30Cの評価値との対応関係に基づくパラメータ評価が行われる。パラメータ評価では、ログデータを規定する複数のパラメータの条件の組みわせと評価値との関係が特定される。この例では、パラメータの条件の組み合わせが条件Aの場合の評価値はX、パラメータの条件の組み合わせが条件A1の場合の評価値はY、パラメータの条件の組み合わせが条件A2の場合の評価値はZである。パラメータ評価により、複数のパラメータの条件の組みわせと評価値との関係を表す関係データ32が得られる。
【0033】
関係データ32は地図データ30に関連付けられる。地図データ30は走行ログデータ群に含まれる全てのログデータを用いて作成された地図データである。ただし、地図データの精度に異常を生じさせるようなログデータは予め走行ログデータ群から除外されているものとする。本実施形態に係る地図データ生成方法では、関係データ32が関連付けられた地図データ30が自動運転用の地図データとして生成される。このような地図データ30が自動運転に用いられることで、自動運転車両2は、自動運転に関連する現在のパラメータの条件に対応した評価値を地図データ30に関連付けられた関係データ32から引き当てることができる。そして、現在のパラメータの条件に対応した評価値に基づき車両挙動を決定することが可能となる。
【0034】
具体的には、自動運転車両2が自動運転を行う際、自動運転車両2は自動運転車両2における現在のパラメータの条件を取得し、地図データ30に関連付けられた関係データ32から現在のパラメータの条件に対応する評価値を取得する。例えば、自動運転車両2の現在の条件が条件Aの場合、自動運転車両2は条件Aに対応する評価値Xを関係データ32から取得することで、評価値Xに相応しい走行計画を作成することができる。そして、自動運転車両2の現在の条件が条件Aから条件A1に変化した場合、自動運転車両2は条件A1に対応する評価値Yを関係データ32から取得することで、評価値Xに相応しい走行計画から評価値Yに相応しい走行計画へ走行計画の変更を行うことができる。
【0035】
以上述べたように、本実施形態に係る地図データ生成方法によれば、自動運転に関連するパラメータの条件の動的な変化への対応を可能にする地図データを生成することができる。
【0036】
2.地図データ生成装置及び自動運転ECU
次に、本実施形態に係る地図データ生成方法を実施するための地図データ生成装置と、地図データ生成装置により生成された地図データを自動運転に利用する自動運転ECUとについて説明する。図3は本実施形態に係る地図データ生成装置100と自動運転ECU200の各機能を示すブロック図である。
【0037】
地図データ生成装置100は走行ログデータデータベース(以下、走行ログデータDBと表記する)110と処理部とを備える。地図データ生成装置100を構成する処理部は、ログデータ組み合わせ生成部120、地図データ生成部130、地図データ評価部140及びパラメータ評価部150である。
【0038】
走行ログデータDB110は多数のログデータが保存されたデータベースである。実際に車両を走行させることで取得されたログデータが走行ログデータDB110に蓄積されて走行ログデータ群を構成する。ログデータの取得に用いられる車両は自動運転車両でもよいし運転者によって運転される車両でもよい。ただし、ログデータの取得に用いられる外部センサ(LiDAR、カメラ、深度センサ等)の種類、型式、個数及び設置位置は、実際の自動運転で地図データが使用される自動運転車両と共通であることが好ましい。
【0039】
ログデータは各種センサのデータと自動運転の各プロセスの出力データとを含む。各種センサには外部センサの他に例えばGPSやIMU(Inertial Measurement Unit)が含まれる。自動運転のプロセスには例えば自己位置推定結果、物体検出結果及び経路計画結果が含まれる。
【0040】
ログデータは複数のパラメータで規定される。ログデータを規定するパラメータとその条件の例は以下の通りである。これらのパラメータのうちの1又は複数がログデータの規定に用いられる。なお、センサに関するパラメータはセンサ毎に設定される。同じ種類のセンサであっても型番が違うものや設置場所が異なるものは異なるセンサとして扱われる。
車種名:「Prius,e-Palette,Aqua,etc.」「8A2B,300C,405D,etc.」
車両名:「1号車,2号車,3号車,etc.」「Alice,Belle,Cindy,etc.」
日時:「2021年8月12日12:00,2021年8月12日14:00,etc.」
総走行距離:「10km,5km,etc.」
時間:「1時間21分14秒,2時間3分43秒,etc.」
天候:「晴れ,雨,曇り,雪,霧,etc.」
気温:「30℃,20℃,etc.」「86°F,68°F,etc.」
日照量:「0MJ/m,1.0MJ/m,etc.」
降雨量:「0mm/h,1mm/h,etc.」「0mm,2mm,etc.」
降雪量:「0mm/h,1mm/h,etc.」「0mm,2mm,etc.」
オペレータ名:「田中太郎,山田花子,etc.」「101番,203番,etc.」
乗車人数:「0人,1人,5人,etc.」「空,有」
車速:「最大車速20km/h,40km/h,etc.」「平均車速10km/h,20km/h,etc.」
センサの有無:「有,無,故障」
センサのバージョン:「Ver.1,Ver.2,etc.」「試作品、品確品、量産品」
自動運転ソフトウェアのバージョン:「Ver.1,Ver.2,etc.」「master, perception_test, planner_test,etc.」
運転方法:「手動,自動,一部自動」
【0041】
ログデータ組み合わせ生成部120は走行ログデータDB110に保存されたログデータから複数のログデータの組み合わせ、すなわち、データセットを生成する。データセットを構成するログデータの組み合わせはデータセット毎に異ならされている。具体的には、一つのデータセットを構成するログデータの間では、ログデータを規定する複数のパラメータの条件の組み合わせは揃えられている。そして、データセット毎にログデータを規定する複数のパラメータの条件の組み合わせは異ならされている。
【0042】
走行ログデータDB110から読み出すログデータは上記のパラメータによってそのデータ範囲を限定することができる。ログデータを限定するデータ範囲の例としては、空間、区間、時間、天候、気温、車両、センサ種別等が挙げられる。例えば、「晴れた日の日中に車両AのセンサDで採られたデータ」にデータ範囲を限定し、そのようなデータ範囲のログデータを組み合わせてデータセットを生成することができる。また、「雨の日の日中に車両AのセンサDで採られたデータ」にデータ範囲を限定し、そのようなデータ範囲のログデータを組み合わせてデータセットを生成することもできる。これらの例のようにデータ範囲を限定する場合、パラメータ“天候”について条件が“晴れ”のデータセットと、条件が“雨”のデータセットとを生成することができる。このように走行ログデータDB110から読み出すログデータのデータ範囲を適宜限定することによって、ログデータ組み合わせ生成部120はパラメータの条件の組み合わせが異なる複数のデータセットを生成する。
【0043】
地図データ生成部130はログデータ組み合わせ生成部120で生成されたデータセットを用いて評価用の地図データを生成する。地図データ生成部130は1つのデータセットに対して1つの評価用の地図データを生成する。これにより、地図データ生成部130では、ログデータ組み合わせ生成部120で生成されたデータセットと同数の複数の評価用の地図データが生成される。
【0044】
地図データ評価部140は地図データ生成部130で生成された複数の地図データを評価する。地図は基本的には実環境に対して1対1の関係であることから、ログデータの組み合わせによらず地図データは一意に収束するはずである。しかし、ログデータ組み合わせ生成部120で生成されるログデータの組み合わせでは、あえてデータセット毎にログデータを規定する複数のパラメータの条件の組み合わせは異ならされている。ログデータの内容は取得されたときのパラメータの条件に依存する。例えば、地図データが特徴量地図である場合、ログデータに含まれる特徴量はパラメータの条件により異なる場合がある。ログデータに含まれる特徴量に差異がある場合、その差異は地図データの精度の差異として現れる可能性がある。つまり、地図データ生成部130で生成された複数の地図データの間には、精度において差異がある可能性が有る。地図データ評価部140は各地図データの精度を評価し、評価値を計算する。評価値の計算方法としては、例えば、地図データ間の相対的な評価によって相対的な評価値を計算する方法と、定義されている絶対的な基準に基づいて絶対的な評価値を計算する方法とが挙げられる。
【0045】
パラメータ評価部150は地図データの評価値に基づいてログデータを規定する複数のパラメータを評価する。具体的には、パラメータ評価部150は、地図データ評価部140から出力された各地図データの評価値と、地図データの作成に用いられたデータセットとの対応関係に基づいて地図データの評価値に影響しているパラメータを特定する。そのようなパラメータの例としては、天候、センサの台数、センサの組み合わせ等が挙げられる。また、パラメータ評価部150は地図データの評価値には影響しないパラメータも特定する。そのようなパラメータの例としては、風速、時間帯等が挙げられる。パラメータ評価部150は、各パラメータの条件の組み合わせが地図データの精度にどのように影響するかを評価し、その評価結果に基づいてログデータを規定する複数のパラメータの条件の組みわせと評価値との関係を表す関係データを生成する。
【0046】
パラメータ評価部150で生成された関係データは地図データ生成部130で生成された自動運転用の地図データに関連付けられる。自動運転用の地図データは走行ログデータDB110に保存されている全てのログデータを用いて生成される。つまり、自動運転用の地図データは最も情報量の多い地図データであり、地図データとしての精度は最も高い。前述のとおり、パラメータ評価部150で生成される関係データは、ログデータを規定する複数のパラメータの条件の組みわせと評価値との関係を表す。この関係データが関連付けられた自動運転用の地図データは、地図データ生成装置100に設けられた図示しないデータベースに保存される。
【0047】
自動運転ECU200は自動運転車両に設けられた自動運転用のECUである。自動運転ECU200は地図データデータベース(以下、地図データDBと表記する)260と処理部とを備える。地図データDB260には、関係データが関連付けられた自動運転用の地図データが保存されている。関係データが関連付けられた自動運転用の地図データは、ネットワークを介して或いはコンピュータ読み取り可能な記憶媒体を介して、地図データ生成装置100から取得される。自動運転ECU200を構成する処理部は、パラメータ判定部210、車両状態・位置推定部220、障害物検出部230、走行計画生成部240及び走行制御部250である。
【0048】
パラメータ判定部210は自車両の自動運転に関連するパラメータの条件を判定する。パラメータ判定部210により条件を判定されるパラメータは、地図データDB260に保存されている地図データの作成に用いられたログデータを規定するパラメータと同種である。パラメータ判定部210はGPS受信部310、内部センサ320及び外部センサ330から取得されるセンサデータを用いてパラメータの条件を判定する。内部センサ320は自車両の走行状態を検出するセンサであて、車速センサ、加速度センサ及びヨーレートセンサのうち少なくとも一つを含む。外部センサ330は自車両の周辺情報である外部状況を検出するセンサであって、LiDAR、カメラ及びレーダのうち少なくとも一つを含む。パラメータ判定部210により条件を判定されるパラメータは、時間帯や天候等の自車両の外部状態を表すパラメータと、センサ構成、センサ故障状態、車両名等の自車両の内部状態を表すパラメータとを含む。
【0049】
車両状態・位置推定部220は内部センサ320のセンサデータに基づいて自車両の走行状態を認識する。内部センサ320のセンサデータとは、例えば車速センサの車速情報、加速度センサの加速度情報、ヨーレートセンサのヨーレート情報等である。また、車両状態・位置推定部220は、GPS受信部310で受信された自車両の現在位置(例えば緯度及び経度)に関する情報及び地図データDB260に保存されている地図データに基づいて、地図上における自車両の位置を推定する。
【0050】
障害物検出部230は、外部センサ330のセンサデータと地図データDB260に保存されている地図データとを用いて、自車両の外部に存在する障害物(車両、バイク、歩行者、動物、落下物等)を検知する。
【0051】
走行計画生成部240は自車両の走行計画を生成する。走行計画には自車両の進路が含まれる。目標ルートにおいて自車両が進む軌跡であって、将来の目標位置と目標位置における目標速度或いは目標加速度で定義される。走行計画の生成には、地図データDB260に保存されている地図データ上の目標ルートが用いられる。また、走行計画の生成には、車両状態・位置推定部220で推定された自車両の車両状態及び車両位置と、障害物検出部230で認識された自車両の外部の障害物に関する情報とが用いられる。
【0052】
さらに、走行計画生成部240は、地図データDB260に保存されている地図データに関連付けられたパラメータの組み合わせ毎の評価値と、パラメータ判定部210で取得された自車両の現状のパラメータの条件とを走行計画の生成に使用する。具体的には、走行計画生成部240は、パラメータ判定部210で取得された自車両の現状のパラメータの条件の組み合わせを地図データDB260に保存されている地図データに照合し、現状のパラメータの条件の組み合わせに対応した評価値を取得する。走行計画生成部240は現状のパラメータの条件の組み合わせに対応した評価値に基づいて自車両の走行計画を作成する。
【0053】
走行制御部250は走行計画生成部240で生成した走行計画に基づいて自車両の走行を自動で制御する。走行制御部250は走行計画に応じた制御信号をアクチュエータ340に出力する。アクチュエータ340が制御信号に従い動作することで、自車両は走行計画に沿って自動走行する。なお、アクチュエータ340は、少なくとも駆動アクチュエータ、制動アクチュエータ及び操舵アクチュエータを含む。
【0054】
次に、上述の機能を実現するための地図データ生成装置100と自動運転ECU200のそれぞれのハードウェア構成の例について説明する。
【0055】
図4は本実施形態に係る地図データ生成装置100のハードウェア構成の例を示すブロック図である。図4に示される例では、地図データ生成装置100はプロセッサ101、メモリ102、ストレージ104、通信モジュール105及びユーザインタフェース106を備えている。地図データ生成装置100を構成するこれらの要素はバス107によって結合されている。
【0056】
プロセッサ101は地図データ生成のための演算を行う。プロセッサ101は地図データ生成装置100に1つ設けられていてもよいし複数設けられていてもよい(ここでは1つのプロセッサが設けられているとする)。
【0057】
メモリ102はプログラム103を記憶する非一時的なプログラムメモリである。プログラム103はプロセッサ101に処理を実行させるための複数のインストラクションを含む。プログラム103は本実施形態に係る地図データ生成方法を実施するためのコンピュータで実行可能なプログラム(地図データ生成プログラム)である。プログラム103は、プロセッサ101で実行されることにより、プロセッサ101をログデータ組み合わせ生成部120、地図データ生成部130、地図データ評価部140及びパラメータ評価部150として機能させる。
【0058】
ストレージ104は例えばフラッシュメモリやSSDやHDDである。ストレージ104には走行ログデータDB110が構築されている。ただし、走行ログデータDB110は地図データ生成装置100の外部に設けられていてもよい。また、ストレージ104には、地図データ生成装置100で生成された自動運転用の地図データを登録するためのデータベースが設けられていてもよい。
【0059】
通信モジュール105は外部装置との通信のために設けられている。通信モジュール105による通信方法は無線通信でもよいし有線通信でもよい。走行ログデータDB110へのログデータの保存と、自動運転用の地図データの読み出しとは通信モジュール105を用いて行われる。
【0060】
ユーザインタフェース106は地図データ生成装置100の操作者による操作の入力と操作者への情報の出力のために設けられている。
【0061】
図5は本実施形態に係る自動運転ECU200のハードウェア構成の例を示すブロック図である。図5に示される例では、自動運転ECU200はプロセッサ201、プログラムメモリ202、DBメモリ204及びインタフェース206を備えている。
【0062】
プロセッサ201は自動運転のための演算と制御とを行う。プロセッサ201はプログラムメモリ202、DBメモリ204及びインタフェース206と結合されている。
【0063】
プログラムメモリ202はプログラム203を記憶する非一時的なメモリである。プログラム203はプロセッサ201に処理を実行させるための複数のインストラクションを含む。プログラム203は本実施形態に係る走行計画作成方法を実施するためのコンピュータで実行可能なプログラム(走行計画作成プログラム)を含む。プログラム203は、プロセッサ201で実行されることにより、プロセッサ201をパラメータ判定部210、車両状態・位置推定部220、障害物検出部230、走行計画生成部240及び走行制御部250として機能させる。
【0064】
DBメモリ204は地図データDB260を記憶した非一時的なメモリである。DBメモリ204とプログラムメモリ202とは物理的に別々のメモリでもよいし、一つのメモリの異なる記憶領域でもよい。
【0065】
インタフェース206はGPS受信部310、内部センサ320、外部センサ330、アクチュエータ340等の装置との間での信号の入出力のために設けられている。インタフェース206とそれら装置とはCAN(Controller Area Network)等の車載ネットワークによって接続されている。
【0066】
3.地図データ生成方法の具体例
次に、本実施形態に係る地図データ生成装置100により実施される地図データ生成方法の具体例について説明する。
【0067】
図6は地図データ生成方法における走行ログデータDB110の構成の例を示す概念図である。この例では、ログデータを規定するパラメータは車両名、日時、時間、センサAのデータの有無、及び、センサBのデータの有無である。走行ログデータDB110には6個のログデータが保存されている。ログデータ1aとログデータ1bとはログデータ1の部分データである。ログデータ1はセンサA及びセンサBの各データを含むのに対し、ログデータ1aはセンサAのデータのみを含み、ログデータ1bはセンサBのデータのみを含む。同様に、ログデータ2aとログデータ2bとはログデータ2の部分データである。ログデータ2はセンサA及びセンサBの各データを含むのに対し、ログデータ2aはセンサAのデータのみを含み、ログデータ2bはセンサBのデータのみを含む。なお、ログデータの内容は最終的に生成される地図データの種類によって異なる。本実施形態に係る地図データ生成方法はログデータから生成される地図データであれば広く適用可能であるため、ここではログデータの内容について限定しない。
【0068】
図7はログデータ組み合わせ生成部120により実施されるログデータ組み合わせ生成処理について説明するための概念図である。ログデータ組み合わせ生成部120は走行ログデータDB110に保存された6つのログデータを組み合わせてデータセットを生成する。この例では、パラメータの条件毎にログデータの組み合わせが行われる。着目されるパラメータはセンサAのデータの有無及びセンサBのデータの有無である。データセット1は、パラメータの条件がセンサAのデータ有り且つセンサBのデータ有りである組み合わせであり、ログデータ1とログデータ2とで構成されている。データセット2は、パラメータの条件がセンサAのデータ有り且つセンサBのデータ無しである組み合わせであり、ログデータ1aとログデータ2aとで構成されている。データセット3は、パラメータの条件がセンサAのデータ無し且つセンサBのデータ有りである組み合わせであり、ログデータ1bとログデータ2bとで構成されている。
【0069】
次に、地図データ生成部130により実施される地図データ生成処理、地図データ評価部140により実施される地図データ評価処理、及び、パラメータ評価部150により実施されるパラメータ評価処理について、2つの計算例を挙げて説明する。
【0070】
まず、第1の計算例について図8及び図9を用いて説明する。図8は地図データ生成部130により実施される地図データ生成処理について説明するための概念図である。地図データ生成部130はログデータ組み合わせ生成部120により生成された3つのデータセットのそれぞれから地図データを生成する。ログデータ1とログデータ2とから地図データ1が生成される。ログデータ1aとログデータ2aとから地図データ2が生成される。そして、ログデータ1bとログデータ2bとから地図データ3が生成される。これら3つの地図データは評価用の地図データである。
【0071】
例えば、地図データが特徴量地図のデータの場合、地図全体の特徴量のばらつき度合いは標準偏差や確率分布で表される。図8に示される例では、地図データのイメージとして地図データを構成する要素データのばらつき度合いが確率分布で表されている。図8に示される地図データの第1の計算例では、地図データ1、地図データ2及び地図データ3の確率分布は正規分布を示し、平均値への収束度合いが概ね一致している。
【0072】
図9は地図データ評価部140により実施される地図データ評価処理とパラメータ評価部150により実施されるパラメータ評価処理とについて説明するための概念図である。地図データ評価部140は地図データ生成部130で生成された地図データを相互に比較し、相対的に評価する。図8に示される地図データの第1の計算例では、地図データ間で収束度合いに差はなくどれもが正規分布を示している。よって、第1の計算例では、地図データ評価部140はそれぞれの地図データに対して評価値1を与える。なお、ここでは評価値は0から1までの数値であり、数値が大きいほど地図データとしての精度が高いことを表している。
【0073】
パラメータ評価部150は地図データ評価部140から受け取った各地図データの評価値に基づきパラメータの各条件を評価する。今回説明されている具体例では、地図データとパラメータの条件とが1対1で紐づいているので、地図データの評価値がそのままパラメータの条件の評価値として採用される。すなわち、第1の計算例では、パラメータ評価部150はパラメータの条件の全ての組み合わせに対して評価値1を与える。このようにして、複数のパラメータの条件の組みわせと評価値との関係を表す関係データが得られる。
【0074】
次に、第2の計算例について図10及び図11を用いて説明する。図10には地図データ生成部130による地図データの第2の計算例が示されている。図10に示される地図データの第2の計算例では、地図データ1及び地図データ2の確率分布は正規分布を示し、平均値への収束度合いが概ね一致している。これに対して地図データ3の収束度合いは地図データ1及び地図データ2の収束度合いとは異なっている。使用されるログデータの精度の違いによって地図データの精度にもこのような違いが生じる。
【0075】
図11には、地図データ評価部140による地図データ評価値の第2の計算例と、パラメータ評価部150によるパラメータ評価値の第2の計算例とが示されている。図10に示される地図データの第2の計算例からは、収束度合いの違いより地図データ3は地図データ1及び地図データ2と比較して精度が低いことが分かる。よって、第2の計算例では、地図データ評価部140は、地図データ1及び地図データ2に対しては評価値1を与えるのに対し、地図データ3に対しては評価値0.6を与える。ただし、評価値の0.6という数値は単なる一例に過ぎない。評価値の具体的な計算方法については後述する。
【0076】
そして、第2の計算例では、パラメータ評価部150は、地図データ1に対応するパラメータの条件の組み合わせと、地図データ2に対応するパラメータの条件の組み合わせとに対して評価値1を与える。一方、地図データ3に対応するパラメータの条件の組み合わせに対しては、パラメータ評価部150は評価値0.6を与える。このようにして、複数のパラメータの条件の組みわせと評価値との関係を表す関係データが得られる。
【0077】
図12は地図データDB260に登録される自動運転用地図データについて説明するための概念図である。図12に示されるように、地図データ生成部130では、走行ログデータDB110に登録されている全てのログデータを用いて自動運転用の地図データが生成される。そして、パラメータ評価部150で得られた関係データ、すなわち、複数のパラメータの条件の組みわせと評価値との関係が自動運転用の地図データに関連付けられる。地図データDB260には、関係データが関連付けられた自動運転用の地図データが登録される。
【0078】
ここで、走行ログデータDB110に記憶されるログデータの形式について説明する。図13は走行ログデータDB110に記憶されるログデータの形式の一例について説明するための概念図である。
【0079】
図13に示される例では、ログデータを規定するパラメータは車両名、日時、時間、天候、センサAのデータの有無、及び、センサBのデータの有無である。走行ログデータDB110には12個のログデータが保存されている。上段の6個のログデータは晴れの日に取得されたログデータであって、センサA及びセンサBの各データを含むログデータ1,2と、センサAのデータのみを含むログデータ1a,2aと、センサBのデータのみを含むログデータ1b,2bとを含む。下段の6個のログデータは雨の日に取得されたログデータであって、センサA及びセンサBの各データを含むログデータ3,4と、センサAのデータのみを含むログデータ3a,4aと、センサBのデータのみを含むログデータ3b,4bとを含む。
【0080】
走行ログデータDB110に記憶されているログデータが図13に示される例の場合、ログデータ組み合わせ生成処理では、図14に示されるとおりログデータの組み合わせが行われる。図14はログデータの組み合わせの形式の一例について説明するための概念図である。
【0081】
図14に示される例では、ログデータ組み合わせ生成部120は走行ログデータDB110に保存された12個のログデータを組み合わせてデータセットを生成する。この例で着目されるパラメータはセンサAのデータの有無、センサBのデータの有無、そして、天候である。データセット1及びデータセット4は、パラメータの条件がセンサAのデータ有り且つセンサBのデータ有りであるログデータの組み合わせである。データセット2及びデータセット5は、パラメータの条件がセンサAのデータ有り且つセンサBのデータ無しであるログデータの組み合わせである。データセット3及びデータセット6は、パラメータの条件がセンサAのデータ無し且つセンサBのデータ有りであるログデータの組み合わせである。そして、データセット1、データセット2及びデータセット3はパラメータの条件が晴れであるログデータの組み合わせであり、データセット4、データセット5及びデータセット6はパラメータの条件が雨であるログデータの組み合わせである。
【0082】
ログデータ組み合わせ生成部120によって図14に示されるデータセットが得られた場合、地図データ評価部140は各データセットから生成される地図データ毎に評価値を計算する。パラメータ評価部150は、地図データ評価部140による地図データ毎の評価値に基づいて、複数のパラメータの条件の組みわせと評価値との関係を表す関係データを生成する。図15はパラメータ評価処理における複数のパラメータの条件の組み合わせと評価値との対応関係の一例について説明するための概念図である。
【0083】
図15に示される例では、表に示すように、評価値は“天候”と“センサA,Bのデータの有無の組み合わせ”のマトリクスで表現される。この表によれば、評価値はセンサA,Bのデータの有無だけでなく天候にも依存することが分かる。ここで、自動運転の継続を可能な評価値が0.5以上であるとする。その場合、表からは、センサAが使用可能であれば、センサBが使用可能かどうかに関わらず、また、天候に関わらず自動運転を継続可能と判断することができる。また、センサAが使用不可でセンサBは使用可能の場合、晴れの場合は自動運転を継続可能であるが、雨が降れば自動運転を継続できないと判断することができる。
【0084】
なお、図15に示される例ではパラメータの条件の組み合わせは2次元で評価されているが、パラメータの条件の組み合わせ数に応じて3次元以上にも拡張することができる。また、パラメータ評価は、複数のパラメータの条件の組み合わせだけでなく、単一のパラメータの条件に対して行われてもよい。例えば、評価対象をパラメータ“天候”のみとし、条件が晴れの場合と雨の場合とでそれぞれ評価値を求めることもできる。
【0085】
4.地図データ評価処理の具体例
4-1.特徴量地図に対する地図データ評価処理
4-1-1.特徴量地図の概要
以上の説明では地図データを構成する要素データのばらつき度合い(地図データの収束度合い)を視覚的に確率分布で表現した。しかし、これは異常のある地図データを特定する上での評価方法の一例であって、必ずしもある統計的な数値の収束度合いだけを見て評価する必要はない。以下では、自動運転システムで実際に使用されている地図の概要を説明し、それぞれの地図に対応した地図データ評価処理の具体例について説明する。図16乃至図24は本実施形態に係る地図データ生成装置100による地図データ評価処理の具体例を説明するための図である。
【0086】
まず、特徴量地図について説明する。特徴量地図とは、自動運転車が自己位置推定のために用いる地図データである。特徴量地図は、LiDAR或いはカメラのセンサデータから取得したユニークな特徴量を重畳し、最適化計算、具体的にはSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)を実施することで生成される。特徴量としては、例えば、白線、縁石(段差)、道路標識、道路標識を支えるポール、建物の凹角等が検出される。自動運転では距離精度が求められることから、LiDARは好ましい外部センサの一例である。以下に説明する例では、LiDARによって特徴量が取得されている。
【0087】
特徴量地図の生成時には、各ログデータから得られた特徴量をロケータ(GPSとIMU)の出力に合わせて重畳することが行われる。ロケータの出力は座標(x,y,z)と姿勢(ロール,ピッチ,ヨー)である。ただし、ロケータの出力に合わせて全ログデータ分の特徴量を単に重畳しただけでは、特徴量ばらついたままとなる。そこで、全ログデータ分の特徴量を重畳したものに対してSLAM、すなわち、最適化計算が実施される。最適化計算を実施することで得られた特徴量地図は、自動運転用の地図データとして地図データDB260に保存され、実際に自動運転車両が走る際の自己位置推定に使用される。
【0088】
4-1-2.自己位置推定の成功度合いに基づく地図データの評価
特徴量地図の生成時には車両の自己位置及び姿勢を示すポーズが用いられる。各時刻における車両のポーズを繋いだ線は車両が通過した経路である。SLAMでは、特徴量が最適化されると同時に、各ポーズもそのポーズで検出された特徴量を用いて最適化される。SLAMによるポーズでの自己位置推定の成功の度合いは、以下に説明する統計的な値から求めることができる。
【0089】
図16はSLAMによるポーズでの自己位置推定の一例を説明するための概念図である。図16には、時刻tにおける車両のポーズXとそのポーズで観測された特徴量F、F及びFが示されている。特徴量Fは白線であり、特徴量Fは道路標識であり、特徴量Fはポールである。LiDARによる各特徴量F、F及びFの計測距離d、d及びdには、所定の計測誤差σ、σ及びσが含まれる。SLAMでは、各特徴量F、F及びFの位置、計測距離及び計測誤差に基づいてポーズXに対する自己位置推定が行われる。
【0090】
図17及び図18はSLAMによるポーズでの自己位置推定の結果を説明するための概念図である。図17及び図18中の帯状の領域B、B及びBは各特徴量F、F及びFの位置、計測距離及び計測誤差から定義される。より詳細には、帯状の領域B、B及びBは、特徴量F、F及びFの位置から計測距離d~dだけ離れており、2σ~2σの幅を有する。3つの領域B、B及びBが重なっている領域Eが自己位置の推定領域である。自己位置の推定領域EとポーズXの周辺の領域Rとが重なる領域が大きいほど、ポーズXでの自己位置推定の成功度合いは高いと判定することができる。図17では自己位置の推定領域EとポーズXの周辺の領域Rとが重なっているので、これはポーズXでの自己位置推定の成功例を示している。一方、図18では自己位置の推定領域EとポーズXの周辺の領域Rとは重なっていないので、これはポーズXでの自己位置推定の失敗例を示している。
【0091】
あるポーズXで観測された特徴量の整合性の判定には一般にはカイ2乗値を計算すればよい。カイ2乗値は、例えば、特徴量の計測距離の期待値と観測値とを用いて計算される。ポーズXにおけるカイ2乗値が統計的にどれくらいの確率で起こりうるのかはp値で表すことができる。カイ2乗値が大きいほどp値は小さくなり、カイ2乗値が小さいほどp値は大きくなる。SLAMによるポーズXでの自己位置推定の成功度合いは、p値によって0(失敗している可能性が高い)から1(成功している可能性が高い)までの範囲の確率で表される。
【0092】
p値は基本的には場所依存である。特徴量が十分に取得できない区間や取得できる特徴量に偏りがある区間ではp値は低くなる。一方、特徴量が充分に検出できる区間ではp値は高くなる。例えば、図19Aに示されるA地点からB地点までの区間で取得されたログデータを用いて地図データが作成されたとする。地図データのp値をA地点からの距離を横軸にとったグラフ上にプロットすることで、図19Bに示されるような位置とp値との関係が得られる。p値は、その位置における地図データが正確に生成された確率を示しているものと考えることができるので、そのまま評価値として使用することができる。例えば、地図データとして、あるいはある区間の評価値をスカラー量として算出するのであれば、地図データ全体或いはある区間のp値の平均値を評価値として採用してもよい。
【0093】
p値を評価値として用いる場合、位置の情報を残したままp値を保持することもできる。一つの方法は、SLAMで補正された走行ログデータのポーズの位置にp値を保存する方法である。別の方法は、p値用の2次元のセルを用意し、各セルにセルから一定距離内のポーズのp値を平均化して保持する方法である。さらに別の方法は、ベースパスの各ウェイポイント(waypoint)にウェイポイントから一定距離内のポーズのp値を平均化して保持する方法である。なお、ベースパスは自動運転で使用される地図データの一種で、地図上で自車両がどこを走るかを軌跡で表現している。ベースパスは他車両がどこを走るかの予測にも活用されている。ベースパスでは、データは一定間隔で置かれたウェイポイントという形で保持されている。
【0094】
特徴量地図におけるp値は、自己位置推定の成功度合いを確率で表現している値である。しかし、p値が低くて自己位置推定が失敗する可能性が高い場所でも、道路幅が極端に広ければ自動運転を継続することは可能である。例えば、自己位置推定で1mは間違える可能性があっても、道路幅が5mもある場合には自動運転の継続は可能である。しかし、自己位置推定が失敗する可能性は高くなくても、自車両の全幅と道路幅の隙間が狭い場合には、自車両が道路を逸脱する可能性が高いため自動運転を継続することはできない。例えば、自己位置推定で間違える可能性が0.2m程度であっても、隙間が0.1mしかない場合には自動運転の継続は不可能である。
【0095】
このように、ポーズのp値だけでなく、ポーズの周辺の最も近い特徴量との距離も参酌して評価値を算出することも可能である。また、p値の定義に立ち返るならば、p値はポーズの距離の誤差に変換することが可能である。したがって、あるポーズについて、そのポーズから最も近い特徴量までの距離と、そのポーズでの自己位置推定に失敗にしそうな距離とで評価値を求めることができる。
【0096】
例えば、図20に示すようにあるp値が記録されたポーズXがあったとする。この場合、p値から計算した距離の誤差をr、ポーズXから最も近い特徴量Fまでの距離をdとすると、評価値eは以下の式で表すことができる。
e=d-r
【0097】
この場合、最も近い特徴量Fとの距離に余裕があるほど評価値eが大きくなることから、評価値eが大きいほど自動運転には適している。一方、評価値eが0以下であることは自車両が最も近い特徴量Fに衝突する可能性があることを意味している。例えば、地点Aから地点Bまでの各ポーズについて、ポーズに記録されたp値とポーズから最も近い特徴量までの距離dとから評価値eを計算することで、図21に示す評価値eと距離との関係が得られたとする。図22に示す例では、A地点から暫くは評価値が0以上であるが、ある地点において評価値が0よりも低くなっている。これは、その地点での自己位置推定の精度では自車両が特徴量に衝突する可能性があることを意味している。
【0098】
4-1-3.地図全体の統計量に基づく地図データの評価
上述のように特徴量地図の生成時には最適化計算が行われる。最適化計算によって特徴量の一致度は高められるものの、必ずしも全てのログデータ間で特徴量が完全に一致することはない。LiDARそのものの検出精度、LiDARのキャリブレーション(取り付け位置及び姿勢)の精度、特徴量検出アルゴリズムの精度、最適化計算の精度等の複数の理由から最適化計算後の特徴量の位置にはばらつきが生じる。
【0099】
例えば、特徴量を白線とする場合、図22に示すように地図データ毎に特徴量の標準偏差に違いが生じる。評価値は必ずしも0(最も悪い)~1(最も良い)と定義する必要はないので、この場合には標準偏差をそのまま評価値とて使用することができる。図22に示す例では、センサAとセンサBの各データがともに有る場合の評価値は0.040、センサAのデータのみが有る場合の評価値は0.042、センサBのデータのみが有る場合の評価値は0.1である。このように標準偏差をそのまま評価値として使用する場合、数値が小さいほど精度が高く、数値が大きいほど精度は悪くなる。なお、p値の場合にはポーズ毎に評価値を設定することが可能であるが、標準偏差や分散等の統計量を用いて算出される評価値は地図データ全体に対する評価値となる。
【0100】
4-2.路面形状地図に対する地図データ評価処理
路面形状地図は、2次元のセルに保持された高さ方向の情報によって路面形状を表現する地図である。路面形状地図では、画像データをx方向とy方向に既定の分解度で分解して得られるそれぞれのセルに情報が格納されている。路面形状地図の各セルには、セルに到達したLiDARの点群の数と、高さの平均値及び分散が格納される。高さの平均値及び分散の計算には、セルに達した全てのLiDARの点群の値(z方向の高さの値)が用いられる。
【0101】
自動運転車における路面形状地図の主な用途は、ベースパスを生成する際の道路勾配の計算と自動運転時の物体検出である。特に後者の場合、路面形状を用いて路面から反射してきた大量のLiDARの点群を後段の物体検出の処理から取り除くことで、物体検出のための計算負荷を低減することができる。しかし、そのためには、検出したい物体の高さに対する路面形状の精度が確保されている必要がある。
【0102】
図23A及び図23Bは路面形状の精度が物体検出にどう影響をもたらすかを説明するための概念図である。各図において横線は地面の高さの平均値を示し、その周辺の帯域は高さ方向の分散を示しているとする。そして、このような路面形状地図を用いて四角で示した検出対象を検出することについて考える。
【0103】
図23Aに示す例では、検出対象の高さの方が路面形状の分散よりも高い。ゆえに、路面形状の分散に基づいてLiDARの点群を除去した場合にも、検出対象にあたる点群は残るために検出対象を検出することができる。しかし、図23Bに示す例では、検出対象が路面形状の分散に埋もれている。路面形状の分散に基づいてLiDARの点群を除去すると、検出対象から反射しているLiDARの点群も除去されてしまう。つまり、路面形状地図では、路面形状の高さ方向の分散は検出対象の高さよりも小さいことが想定されている。
【0104】
路面形状の高さ方向の分散が大きくなる要因には以下の2つが考えられる。第1の要因は、該当箇所のセルの範囲内に実際に凹凸(例えば、縁石、側溝、草むら等)が存在するからである。第2の要因は、該当箇所の地図データの生成に間違いがあるからである。ただし、要因がどちらであったとしても、結果的に自動運転における認識性能が低下する可能性があることには変わりはない。ゆえに、路面形状に基づく地図データの評価では、要因によらず、路面形状の高さ方向の分散を評価値として用いればよい。
【0105】
例えば、A地点からB地点までの区間で取得されたログデータを用いて地図データが作成されたとする。地図データの路面形状の高さ方向の分散σをA地点からの距離を横軸にとったグラフ上にプロットすることで、図24に示されるような分散σと距離との関係が得られる。路面形状の高さ方向の分散σは、ポーズの下、すなわち、車両の真下のセルの高さ方向の分散でもよいし、車両の周辺の複数のセルの高さ方向の分散の平均値でもよいし、車両の周辺の複数のセルのうちの最悪値でもよい。
【0106】
各ポーズに路面形状地図の高さ方向の分散が対応付けられれば、例えばA地点からB地点までの全ポーズの高さ方向の分散の平均値を評価値とすることができる。また、A地点からB地点までの全ポーズの高さ方向の分散の中央値を評価値とすることもできる。さらに、A地点からB地点までの全ポーズの高さ方向の分散の中の最悪値を評価値としてもよい。
【0107】
5.走行計画作成処理の具体例
5-1.第1の具体例
上述のように行われた地図データの評価の結果はパラメータの条件の組み合わせ毎に自動運転用の地図データに関連付けられる。自動運転ECU200はパラメータの条件の組み合わせ毎に評価値が関連付けられた地図データを用いて走行計画を作成する。以下では、自動運転ECU200による走行計画作成処理の具体例について説明する。
【0108】
図25は走行計画の作成における評価値の第1の活用例を示す概念図である。第1の活用例では、自動運転車両(以下、単に車両と言う)が走行する区間1に対してパラメータの条件の組み合わせ毎に地図データに評価値が設定されている。車両はセンサAとセンサBとを備え、センサAのデータの有無とセンサBのデータの有無のそれぞれが評価値を決定するパラメータである。センサAのデータが有り、センサBのデータが有る場合の評価値は1.0である。センサAのデータが有り、センサBのデータが無い場合の評価値は0.4である。センサAのデータが無く、センサBのデータが有る場合の評価値は0.4である。
【0109】
第1の活用例では、評価値は自動運転の継続か中止かの選択に用いられる。例えば、自動運転の継続が可能な評価値は0.5以上であるとする。この場合、センサAとセンサBの両方が正常である場合、車両のパラメータの評価値は1.0であるので、自動運転ECU200は車両に自動運転で区間1を走行させることができる。ところが、車両が区間1を走行中に何らかの理由によってセンサBが故障した場合、車両のパラメータの評価値は1.0から0.4に低下する。評価値が0.5よりも低下してしまうことで、自動運転を継続することができなくなり、自動運転ECU200はその場で車両を停止させる。
【0110】
自動運転を中止して車両を停止させた後の対応としては、車内に運転可能な人間が乗っていれば手動運転に切り替えることが行われる。また、停車した状態から通信を用いて遠隔オペレータに支援を要求することもできる。遠隔オペレータによる支援の方法としては、車両を修理可能なエンジニアを現地に派遣すること、車両を運転可能な運転手を現地に派遣すること、車両をけん引可能なレッカー車を現地に派遣して車両を回収すること等があげられる。また、車両が遠隔操作機能(遠隔運転機能を含む)を備える場合には、遠隔オペレータによる遠隔操作によって車両を操作してもよい。
【0111】
図26は上述の第1の活用例を実現するための処理、つまり、走行計画作成処理の第1の具体例を示すフローチャートである。この処理は走行計画作成プログラムがプロセッサ201で実行されることにより自動運転ECU200により実行される処理である。
【0112】
ステップS101では、内部センサ320のセンサデータに基づいて車両状態が更新される。また、GPS受信部310で受信された車両の位置情報と、地図データDB260に保存されている地図データとに基づいて車両位置が更新される。
【0113】
ステップS102では、GPS受信部310で受信された車両の位置情報と、内部センサ320及び外部センサ330の各センサデータとに基づいて車両の自動運転に関連するパラメータが更新される。
【0114】
ステップS103では、ステップS102で更新されたパラメータに対応した地図データの評価値が地図データDB260から取得される。評価値が位置に紐づけられている場合には、ステップS101で更新された車両位置に対応する評価値が取得される。
【0115】
ステップS104では、ステップS103で取得された評価値は自動運転を継続可能な値以上かどうか判定される。判定結果が肯定の場合、処理はステップS105に進む。判定結果が否定の場合、処理はステップS106に進む。
【0116】
ステップS105では、車両が目的地に到達したかどうか判定される。判定結果が肯定の場合、処理は終了する。判定結果が否定の場合、処理はステップS101に戻る。
【0117】
ステップS106では、車両をその場で停車させる。そして、車両を停車させた後、処理は終了する。
【0118】
5-2.第2の具体例
図27は走行計画の作成における評価値の第2の活用例を示す概念図である。第2の活用例では、車両が走行する区間1に対してパラメータの条件の組み合わせ毎に地図データに評価値が設定されている。地図データに設定されている評価値は第1の活用例と同じである。
【0119】
第2の活用例では、評価値は走行モードの選択に用いられる。走行モードの一例は自動運転時の速度である。例えば、40km/hで自動運転が継続可能な評価値は0.6以上、20km/hで自動運転が継続可能な評価値は0.4以上であるとする。この場合、センサAとセンサBの両方が正常である場合、車両のパラメータの評価値は1.0であるので、自動運転ECU200は車両に40km/hの自動運転で区間1を走行させることができる。ところが、車両が区間1を走行中に何らかの理由によってセンサBが故障した場合、車両のパラメータの評価値が0.6よりも低下してしまうことで、40km/hのままでは自動運転を継続することができなくなる。
【0120】
しかし、センサBが故障した状態での車両のパラメータの評価値は0.4である。評価値が0.4以上であれば速度を20km/hまで落とせば自動運転を継続することができる。自動運転ECU200は車両の速度を20km/hまで落とすことにより自動運転を継続可能とし、車両に自動運転で区間1を通過させる。
【0121】
図28は上述の第2の活用例を実現するための処理、つまり、走行計画作成処理の第2の具体例を示すフローチャートである。この処理は走行計画作成プログラムがプロセッサ201で実行されることにより自動運転ECU200により実行される処理である。
【0122】
ステップS201では、内部センサ320のセンサデータに基づいて車両状態が更新される。また、GPS受信部310で受信された車両の位置情報と、地図データDB260に保存されている地図データとに基づいて車両位置が更新される。
【0123】
ステップS202では、GPS受信部310で受信された車両の位置情報と、内部センサ320及び外部センサ330の各センサデータとに基づいて車両の自動運転に関連するパラメータが更新される。
【0124】
ステップS203では、ステップS202で更新されたパラメータに対応した地図データの評価値が地図データDB260から取得される。評価値が位置に紐づけられている場合には、ステップS201で更新された車両位置に対応する評価値が取得される。
【0125】
ステップS204では、ステップS203で取得された評価値は自動運転を40km/hで継続可能な値以上かどうか判定される。判定結果が肯定の場合、処理はステップS205に進む。判定結果が否定の場合、処理はステップS207に進む。
【0126】
ステップS205では、車速が40km/hに設定される。車速の設定後、処理はステップS206に進む。
【0127】
ステップS207では、ステップS203で取得された評価値は自動運転を20km/hで継続可能な値以上かどうか判定される。判定結果が肯定の場合、処理はステップS208に進む。判定結果が否定の場合、処理はステップS209に進む。
【0128】
ステップS208では、車速が20km/hに設定される。車速の設定後、処理はステップS206に進む。
【0129】
ステップS206では、車両が目的地に到達したかどうか判定される。判定結果が肯定の場合、処理は終了する。判定結果が否定の場合、処理はステップS201に戻る。
【0130】
ステップS209では、車両をその場で停車させる。そして、車両を停車させた後、処理は終了する。
【0131】
5-3.第3の具体例
図29は走行計画の作成における評価値の第3の活用例を示す概念図である。第3の活用例では、車両が走行する区間は4つの区間1-4に区分され、各区間に対してパラメータの条件の組み合わせ毎に地図データに評価値が設定されている。センサAのデータが有り、センサBのデータが有る場合の評価値はどの区間1-4も1.0である。センサAのデータが有り、センサBのデータが無い場合の評価値は区間1,2,4は0,7であるが、区間3のみ0.4である。センサAのデータが無く、センサBのデータが有る場合の評価値は区間1,2,4は0,7であるが、区間3のみ0.4である。ここでは、自動運転を継続可能な評価値を0.5以上とする。
【0132】
第3の活用例では、評価値は経路の選択に用いられる。例えば、車両が区間1から区間4まで最短経路で走行しようとしているものとする。センサAとセンサBの両方が正常である場合、車両のパラメータの評価値は1.0であるので、自動運転ECU200は区間1から区間3を経て区間4まで最短経路で自動運転により車両を走行させることができる。ところが、車両が区間1を走行中に何らかの理由によってセンサBが故障したとする。センサBが故障したとしても区間1の評価値は0.7であるので、区間1を走行している間は自動運転ECU200は車両に自動運転を継続させることができる。
【0133】
しかし、最短経路である区間3は、センサBが故障している場合の評価値は0.4であり、自動運転を継続可能な0.5よりも低い。つまり、センサBが故障している状態では、自動運転により車両に区間3を通過させることができまい。一方、遠回りではあるが 区間3を迂回する区間2を選択した場合には、評価値は自動運転を継続可能な0.5以上に維持される。この場合、自動運転ECU200は経路として区間2を選択し、車両に区間2を経由して区間4へ向かわせる。
【0134】
図30は上述の第3の活用例を実現するための処理、つまり、走行計画作成処理の第3の具体例を示すフローチャートである。この処理は走行計画作成プログラムがプロセッサ201で実行されることにより自動運転ECU200により実行される処理である。
【0135】
ステップS301では、内部センサ320のセンサデータに基づいて車両状態が更新される。また、GPS受信部310で受信された車両の位置情報と、地図データDB260に保存されている地図データとに基づいて車両位置が更新される。
【0136】
ステップS302では、GPS受信部310で受信された車両の位置情報と、内部センサ320及び外部センサ330の各センサデータとに基づいて車両の自動運転に関連するパラメータが更新される。
【0137】
ステップS303では、ステップS302で更新されたパラメータに対応した地図データの評価値が地図データDB260から取得される。評価値が位置に紐づけられている場合には、ステップS301で更新された車両位置に対応する評価値が取得される。
【0138】
ステップS304では、ステップS303で取得された評価値は自動運転を継続可能な値以上かどうか判定される。判定結果が肯定の場合、処理はステップS305に進む。判定結果が否定の場合、処理はステップS311に進む。
【0139】
ステップS305では、この先も自動運転を継続可能な経路が続くかどうか、ステップS302で更新されたパラメータに対応する前方の経路の評価値に基づいて判定される。判定結果が肯定の場合、処理はステップS306に進む。判定結果が否定の場合、処理はステップS307に進む。
【0140】
ステップS307では、別の経路を選択すれば自動運転を継続可能な経路が続くかどうか、ステップS302で更新されたパラメータに対応する別の経路の評価値に基づいて判定される。判定結果が肯定の場合、処理はステップS308に進む。判定結果が否定の場合、処理はステップS309に進む。
【0141】
ステップS308では、車両を走行させる経路が当初の経路からステップS307で選択された経路に更新される。経路の更新後、処理はステップS306に進む。
【0142】
ステップS309では、自動運転を継続可能な経路上に車両を退避させることができる退避エリアが存在するかどうか判定される。判定結果が肯定の場合、処理はステップS310に進む。判定結果が否定の場合、処理はステップS311に進む。
【0143】
ステップS310では、車両の目的地が当初の地点から退避エリアへ変更される。目的地の変更後、処理はステップS306に進む。
【0144】
ステップS306では、車両が目的地に到達したかどうか判定される。判定結果が肯定の場合、処理は終了する。判定結果が否定の場合、処理はステップS301に戻る。
【0145】
ステップS311では、車両をその場で停車させる。そして、車両を停車させた後、処理は終了する。
【0146】
6.評価値のオンライン計算を利用した車両制御
6-1.評価値のオンライン計算
前述のとおり、地図データの作成時にはSLAMによる自己位置推定が行われる。SLAMは大きな計算資源を必要とするためオフラインで計算が行われる。しかし、SLAMの代わりに粒子フィルタを用いれば、オンラインで自己位置推定を行うことができる。そして、自己位置推定の結果に基づき、推定に成功したと言える確率、すなわち、評価値としてのp値を計算することができる。
【0147】
まず、ステップ1として、LiDARから得られる点群が取得される。LiDARから得た3次元の点群を平面にマッピングすることで点群画像が得られる。
【0148】
ステップ2では、LiDARの点群から特徴量が検出される。点群画像を特徴量検出器で処理し、特徴量を検出することで特徴量画像が得られる。ここで使用される特徴量検出のアルゴリズムは特徴量地図を生成する際に使用されるアルゴリズムと同じアルゴリズムであることが好ましい。
【0149】
ステップ3では、ステップ2で検出された特徴量と特徴量地図とのマッチングが行われる。前回推定された自己位置からの移動量がロケータ(IMUとGPS)を用いて推定される。そして、現在自車両が位置している推定された個所の周辺の特徴量地図の特徴量と、ステップ2で取得した特徴量とのマッチングが行われる。オンライン処理ではこの自己位置推定のためのマッチングに粒子フィルタが用いられている。
【0150】
ステップ4では、ステップ3でのマッチングの結果から、地図上における自己位置が更新される。ステップ4の終了後、更新された自己位置(ポーズ)と、その自己位置の推定に用いられた特徴量とから、結果的にその自己位置はどの程度、推定に成功したと言えそうなのかが統計的に求められる。ここで求められる統計的な確率がオンラインで計算されるp値であり、オフラインで計算されるp値、すなわち、SLAMによるポーズでの自己位置推定の成功の度合いと同じ意味を有する数値である。
【0151】
6-2.オンライン計算された評価値に基づく車両制御の具体例
今、評価値としてのp値が書き込まれた地図データ上において、図31Aに示されるようにA地点からB地点へ向けて車両が自動運転で走行しているとする。自動運転ECU200は自己位置推定のたびに、その位置でのp値をオンライン計算している。図31Bには、オフライン計算(ここではSLAM)により計算された地図データ上のp値と、オンライン計算(ここでは粒子フィルタ)により計算された現在位置のp値とが同一グラフ上に表されている。
【0152】
一般的に、オフライン計算よりもオンライン計算の方が精度が劣るため、オンライン計算で得られたp値はオフライン計算で得られたp値よりも低くなる。ただし、オフライン計算で得られたp値に対し、オンライン計算で得られたp値があまりに低い状態が継続して起きた場合、何らかの異常が起こったものと判断することができる。例えば、オンライン計算で得られたp値がオフライン計算で得られたp値よりも0.2以上低い状態が1秒以上連続して起こった場合、車両に異常が起こったものと判定するようにしてもよい。
【0153】
ここでは、図32Aに示される車両の位置において図32Bに示されるようにオンライン計算で得られたp値が低下し、オフライン計算で得られたp値よりも0.2以上低い状態がそのまま1秒以上連続して起こったとする。その場合、自動運転ECU200は自己位置推定に失敗していると判断し、図33Aに示されるように車両をその場で停車させて自動運転を中止する。図33Bにおいてオンライン計算で得られるp値がゼロになっているのは、自動運転が中止されたことによる。
【0154】
車両を停車させた後、自動運転ECU200はマッチングの範囲を広げる等して自己位置推定をやり直し、p値が自動運転可能な値まで回復するかどうか調査する。もし車内に運転可能な人間が乗っているのであれば、自動運転から手動運転に切り替えてもよい。また、停車した状態から通信を用いて遠隔オペレータに支援を要求することもできる。
【0155】
7.その他
地図データ生成装置100による地図データ評価処理は路面輝度地図にも適用することができる。路面輝度地図の各セルには、セルに到達したLiDARの点群の数と、路面輝度の平均値及び分散が格納される。路面輝度の平均値及び分散の計算には、セルに達した全てのLiDARの点群の値(反射強度)が用いられる。路面形状地図の評価値の計算方法において、路面形状地図における高さの分散を路面輝度地図における路面輝度の分散に置き換えることで、路面輝度地図の評価値の計算方法として用いることが可能となる。
【符号の説明】
【0156】
2 自動運転車両
20A,20B,20C データセット
30 自動運転用の地図データ
30A,30B,30C 評価用の地図データ
32 関係データ
100 地図データ生成装置
101 プロセッサ
102 メモリ
103 地図データ生成プログラム
104 ストレージ
110 走行ログデータデータベース
120 ログデータ組み合わせ生成部
130 地図データ生成部
140 地図データ評価部
150 パラメータ評価部
200 自動運転ECU
201 プロセッサ
202 プログラムメモリ
203 走行計画生成プログラム
204 DBメモリ
210 パラメータ判定部
220 車両状態・位置推定部
230 障害物検出部
240 走行計画生成部
250 走行制御部
260 地図データデータベース
310 GPS受信部
320 内部センサ
330 外部センサ
340 アクチュエータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
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図30
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図33