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特許7537462運転支援装置、運転支援方法及び、プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】運転支援装置、運転支援方法及び、プログラム
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20240814BHJP
   B60W 30/09 20120101ALI20240814BHJP
   B60W 30/10 20060101ALI20240814BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20240814BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20240814BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20240814BHJP
【FI】
B62D6/00
B60W30/09
B60W30/10
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022058189
(22)【出願日】2022-03-31
(65)【公開番号】P2023149555
(43)【公開日】2023-10-13
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福地 伸晃
(72)【発明者】
【氏名】安井 大貴
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-018617(JP,A)
【文献】特開2019-043298(JP,A)
【文献】特開2019-206267(JP,A)
【文献】再公表特許第2014/155615(JP,A1)
【文献】特開2020-114710(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0217477(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B60W 10/00- 50/16
B62D 101/00-137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の前方及び前側方の領域に、前記自車両に衝突する可能性が高い障害物を検出した場合に、前記自車両が走行車線を逸脱せずに前記障害物との衝突を回避できる目標軌道に沿って走行するように、前記自車両の舵角を制御する衝突回避制御を実施する運転支援装置において、
前記自車両を前記目標軌道に沿って走行させるのに必要な目標舵角を設定するとともに、前記自車両のドライバによるステアリングホイールの保舵又は操舵操作に伴い発生するドライバ操舵トルクが発生していない状態で前記自車両の舵角を前記目標舵角に一致させる目標操舵トルクを設定する目標操舵トルク設定部と、
前記ドライバ操舵トルクと、該ドライバ操舵トルクに基づいて設定される操舵アシストトルクとを合計した合計操舵トルクを打ち消す方向のトルクであるキャンセルトルクを設定するキャンセルトルク設定部と、
前記目標操舵トルクと前記キャンセルトルクとを加算したトルク制御量に基づいて前記自車両の舵角を制御する操舵制御を実行する操舵制御部と、を備える
運転支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の運転支援装置において、
前記キャンセルトルク設定部は、
前記合計操舵トルクを完全に打ち消すための基本キャンセルトルクを設定する基本キャンセルトルク設定部と、
前記ドライバ操舵トルクの大きさに応じたキャンセルゲインを設定するゲイン設定部と、を備えており、
前記基本キャンセルトルクに前記キャンセルゲインを乗算することにより前記キャンセルトルクを設定する
運転支援装置。
【請求項3】
請求項2に記載の運転支援装置において、
前記ゲイン設定部は、
前記ドライバ操舵トルクが大きくなるに従い前記キャンセルゲインを小さく設定する
運転支援装置。
【請求項4】
請求項2に記載の運転支援装置において、
前記ゲイン設定部は、
前記ドライバ操舵トルクが所定の閾値トルク以上となる状態が所定の閾値時間以上継続した場合、前記キャンセルゲインを0に設定する
運転支援装置。
【請求項5】
請求項2に記載の運転支援装置において、
前記ゲイン設定部は、
前記目標操舵トルクと前記ドライバ操舵トルクとの乖離量が大きくなるに従い前記キャンセルゲインを小さく設定するとともに、前記乖離量が所定の閾値を超えると前記キャンセルゲインを0に設定する
運転支援装置。
【請求項6】
請求項5に記載の運転支援装置において、
前記ゲイン設定部は、
前記乖離量が前記閾値以下となる状態が所定の閾値時間以上継続した場合も前記キャンセルゲインを0に設定する
運転支援装置。
【請求項7】
請求項2に記載の運転支援装置において、
前記ゲイン設定部は、
前記ドライバ操舵トルクが所定のトルク範囲内で増減変化している場合は、前記キャンセルゲインを1に設定する
運転支援装置。
【請求項8】
自車両の前方及び前側方の領域に、前記自車両に衝突する可能性が高い障害物を検出した場合に、前記自車両が走行車線を逸脱せずに前記障害物との衝突を回避できる目標軌道に沿って走行するように、前記自車両の舵角を制御する衝突回避制御を実施する運転支援方法において、
前記自車両を前記目標軌道に沿って走行させるのに必要な目標舵角を設定するとともに、前記自車両のドライバによるステアリングホイールの保舵又は操舵操作に伴い発生するドライバ操舵トルクが発生していない状態で前記自車両の舵角を前記目標舵角に一致させる目標操舵トルクを設定し、
前記ドライバ操舵トルクと、該ドライバ操舵トルクに基づいて設定される操舵アシストトルクとを合計した合計操舵トルクを打ち消す方向のトルクであるキャンセルトルクを設定し、
前記目標操舵トルクと前記キャンセルトルクとを加算したトルク制御量に基づいて前記自車両の舵角を制御する操舵制御を実行する
運転支援方法。
【請求項9】
自車両の前方及び前側方の領域に、前記自車両に衝突する可能性が高い障害物を検出した場合に、前記自車両が走行車線を逸脱せずに前記障害物との衝突を回避できる目標軌道に沿って走行するように、前記自車両の舵角を制御する衝突回避制御を実施する運転支援装置のコンピュータに、
前記自車両を前記目標軌道に沿って走行させるのに必要な目標舵角を設定するとともに、前記自車両のドライバによるステアリングホイールの保舵又は操舵操作に伴い発生するドライバ操舵トルクが発生していない状態で前記自車両の舵角を前記目標舵角に一致させる目標操舵トルクを設定し、
前記ドライバ操舵トルクと、該ドライバ操舵トルクに基づいて設定される操舵アシストトルクとを合計した合計操舵トルクを打ち消す方向のトルクであるキャンセルトルクを設定し、
前記目標操舵トルクと前記キャンセルトルクとを加算したトルク制御量に基づいて前記自車両の舵角を制御する操舵制御を実行する処理を実施させる
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、運転支援装置、運転支援方法及び、プログラムに関し、自車両と障害物との衝突を回避する衝突回避制御の技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、ドライバの操舵を補助するアシストトルクのゲインを自動操舵時には手動操舵時よりも小さく設定し、ドライバの操舵介入を検知した場合には、アシストトルクのゲインを漸次増大させるとともに、自動操舵トルクのゲインを漸次減少させることにより、自動操舵を手動操舵に切り替えるようにする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-256076号公報
【発明の概要】
【0004】
車両に搭載される運転支援装置として、自車両の前方に衝突する可能性の高い障害物を検出した場合に、障害物との衝突を回避するように自車両の舵角を自動的に制御する衝突回避制御を行うものが知られている。衝突回避制御は、自車両が障害物に衝突することを回避するための操舵制御を行った後、自車両が走行車線から逸脱することを防止するための操舵制御を順に行う。このような衝突回避制御において、障害物との衝突回避及び、走行車線からの逸脱防止を達成するには、自動操舵の舵角追従性を向上させることが重要となる。
【0005】
しかしながら、衝突回避制御の実行中に、ドライバが漫然とステアリングホイールを保舵している場合には、ドライバの保舵による保舵トルクと、該保舵トルクに応じたアシストトルクとが、自動操舵の制御トルクに対して逆向きに作用することになる。このような逆向きのトルクが制御トルクに作用すると、自動操舵の舵角追従性が低下し、舵角不足等を生じるといった課題がある。
【0006】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものである。即ち、本開示の目的の一つは、衝突回避制御による自動操舵の舵角追従性を効果的に向上することにある。
【0007】
本開示の装置は、
自車両(100)の前方及び前側方の領域に、前記自車両(100)に衝突する可能性が高い障害物(OB)を検出した場合に、前記自車両(100)が走行車線(LA1)を逸脱せずに前記障害物(OB)との衝突を回避できる目標軌道(Rt)に沿って走行するように、前記自車両(100)の舵角(θs)を制御する衝突回避制御を実施する運転支援装置(1)において、
前記自車両(100)を前記目標軌道(Rt)に沿って走行させるのに必要な目標舵角(θt)を設定するとともに、前記自車両(100)のドライバによるステアリングホイール(SW)の保舵又は操舵操作に伴い発生するドライバ操舵トルク(Tdr)が発生していない状態で前記自車両(100)の舵角(θs)を前記目標舵角(θt)に一致させる目標操舵トルク(Tt)を設定する目標操舵トルク設定部(10)と、
前記ドライバ操舵トルク(Tdr)と、該ドライバ操舵トルク(Tdr)に基づいて設定される操舵アシストトルク(TAS)とを合計した合計操舵トルク(TSUM)を打ち消す方向のトルクであるキャンセルトルク(TCA)を設定するキャンセルトルク設定部(17)と、
前記目標操舵トルク(Tt)と前記キャンセルトルク(TCA)とを加算したトルク制御量に基づいて前記自車両(100)の舵角(θs)を制御する操舵制御を実行する操舵制御部(10,60)と、を備える。
【0008】
本開示の方法は、
自車両(100)の前方及び前側方の領域に、前記自車両(100)に衝突する可能性が高い障害物(OB)を検出した場合に、前記自車両(100)が走行車線(LA1)を逸脱せずに前記障害物(OB)との衝突を回避できる目標軌道(Rt)に沿って走行するように、前記自車両(100)の舵角(θs)を制御する衝突回避制御を実施する運転支援方法において、
前記自車両(100)を前記目標軌道(Rt)に沿って走行させるのに必要な目標舵角(θt)を設定するとともに、前記自車両(100)のドライバによるステアリングホイール(SW)の保舵又は操舵操作に伴い発生するドライバ操舵トルク(Tdr)が発生していない状態で前記自車両(100)の舵角(θs)を前記目標舵角(θt)に一致させる目標操舵トルク(Tt)を設定し、
前記ドライバ操舵トルク(Tdr)と、該ドライバ操舵トルク(Tdr)に基づいて設定される操舵アシストトルク(TAS)とを合計した合計操舵トルク(TSUM)を打ち消す方向のトルクであるキャンセルトルク(TCA)を設定し、
前記目標操舵トルク(Tt)と前記キャンセルトルク(TCA)とを加算したトルク制御量に基づいて前記自車両(100)の舵角(θs)を制御する操舵制御を実行する。
【0009】
本開示のプログラムは、
自車両(100)の前方及び前側方の領域に、前記自車両(100)に衝突する可能性が高い障害物(OB)を検出した場合に、前記自車両(100)が走行車線(LA1)を逸脱せずに前記障害物(OB)との衝突を回避できる目標軌道(Rt)に沿って走行するように、前記自車両(100)の舵角(θs)を制御する衝突回避制御を実施する運転支援装置(1)のコンピュータに、
前記自車両(100)を前記目標軌道(Rt)に沿って走行させるのに必要な目標舵角(θt)を設定するとともに、前記自車両(100)のドライバによるステアリングホイール(SW)の保舵又は操舵操作に伴い発生するドライバ操舵トルク(Tdr)が発生していない状態で前記自車両(100)の舵角(θs)を前記目標舵角(θt)に一致させる目標操舵トルク(Tt)を設定し、
前記ドライバ操舵トルク(Tdr)と、該ドライバ操舵トルク(Tdr)に基づいて設定される操舵アシストトルク(TAS)とを合計した合計操舵トルク(TSUM)を打ち消す方向のトルクであるキャンセルトルク(TCA)を設定し、
前記目標操舵トルク(Tt)と前記キャンセルトルク(TCA)とを加算したトルク制御量に基づいて前記自車両(100)の舵角(θs)を制御する操舵制御を実行する処理を実施させる。
【0010】
以上の構成によれば、運転支援ECU10は、自動操舵の実行中、ドライバの保舵又は操舵操作により発生するドライバ操舵トルク(Tdr)と、ドライバ操舵トルク(Tdr)に応じて発生するアシストトルク(TAS)とを合計したドライバ合計トルク(TSUM)を打ち消すためのキャンセルトルク(TCA)を付与する。これにより、自動操舵の実行中に、ドライバ合計トルク(TSUM)によって引き起こされる実舵角(θs)の目標舵角(θt)に対する舵角不足が抑制されるようになり、舵角追従性の向上を図ることが可能になる。
【0011】
本開示の他の態様において、
前記キャンセルトルク設定部(17)は、
前記合計操舵トルク(TSUM)を完全に打ち消すための基本キャンセルトルク(TCA1)を設定する基本キャンセルトルク設定部(17A)と、
前記ドライバ操舵トルク(Tdr)の大きさに応じたキャンセルゲイン(K)を設定するゲイン設定部(17B)と、を備えており、
前記基本キャンセルトルク(TCA1)に前記キャンセルゲイン(K)を乗算することにより前記キャンセルトルク(TCA)を設定する。
【0012】
本態様によれば、ドライバ操舵トルク(Tdr)の大きさに応じた最適なキャンセルトルク(TCA)を付与することが可能になる。
【0013】
本開示の他の態様において、
前記ゲイン設定部(17B)は、
前記ドライバ操舵トルク(Tdr)が大きくなるに従い前記キャンセルゲイン(K)を小さく設定する。
【0014】
本態様によれば、ドライバに操舵操作を行う操舵意思がある場合に、ドライバの操舵操作が妨げられることを効果的に防止することが可能になる。
【0015】
本開示の他の態様において、
前記ゲイン設定部(17B)は、
前記ドライバ操舵トルク(Tdr)が所定の閾値トルク以上となる状態が所定の閾値時間以上継続した場合、前記キャンセルゲイン(K)を0に設定する。
【0016】
本態様によれば、ドライバに操舵操作を行う操舵意思が明確にある場合に、ドライバの操舵操作が妨げられることを確実に防止することが可能になる。
【0017】
本開示の他の態様において、
前記ゲイン設定部(17B)は、
前記目標操舵トルクと前記ドライバ操舵トルク(Tdr)との乖離量(ΔT)が大きくなるに従い前記キャンセルゲイン(K)を小さく設定するとともに、前記乖離量(ΔT)が所定の閾値を超えると前記キャンセルゲイン(K)を0に設定する。
【0018】
本態様によれば、ドライバの操舵意思の強さ(度合い)に応じた最適なキャンセルトルク(TCA)を付与することが可能になる。
【0019】
前記ゲイン設定部(17B)は、
前記乖離量(ΔT)が前記閾値以下となる状態が所定の閾値時間以上継続した場合も前記キャンセルゲイン(K)を0に設定する。
【0020】
本態様によれば、ドライバの操舵意思が明確となった後に、ドライバの操舵操作が妨げられることを効果的に防止することが可能になる。
【0021】
前記ゲイン設定部(17B)は、
前記ドライバ操舵トルク(Tdr)が所定のトルク範囲内で増減変化している場合は、前記キャンセルゲイン(K)を1に設定する。
【0022】
本態様によれば、ドライバがステアリングホイール(SW)を漫然と保舵しているような場合に、キャンセルゲイン(K)を1に設定、すなわち、合計操舵トルク(TSUM)を完全に打ち消す基本キャンセルトルク(TCA1)を付与することで、自動操舵の舵角追従性を確実に向上することが可能になる。
【0023】
上記説明においては、発明の理解を助けるために、実施形態に対応する発明の構成要件に対して、実施形態で用いた符号を括弧書きで添えているが、発明の各構成要件は、前記符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本実施形態に係る運転支援装置の模式的な全体構成図である。
図2】本実施形態に係る衝突回避制御の作動の概要を説明する模式図である。
図3】本実施形態に係る運転支援ECUの制御ブロック図である。
図4】衝突回避制御の実行中にキャンセルトルクを付与する本実施形態を説明する模式図である。
図5】衝突回避制御の実行中にキャンセルトルクを付与しない比較例を説明する模式図である。
図6】ゲイン設定マップの一例を説明する模式図である。
図7】本実施形態に係る衝突回避制御の処理のルーチンを説明するフローチャートである。
図8】本実施形態に係るキャンセルトルク制御の処理のルーチンを説明するフローチャートである。
図9】変形例1を説明する模式図である。
図10】変形例2を説明する模式図である。
図11】変形例4を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本実施形態に係る運転支援装置、運転支援方法及び、プログラムを説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称及び機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0026】
[全体構成]
図1は、本実施形態に係る運転支援装置1の模式的な全体構成図である。図1に示すように、運転支援装置1は、車両100に搭載されている。運転支援装置1が搭載された車両100は、他車両と区別するために、以下では「自車両」とも称する。運転支援装置1は、運転支援ECU10、駆動源ECU40、ブレーキECU50及び、ステアリングECU60を備えている。各ECU10,40,50,60は、マイクロコンピュータを主要部として備えるとともに、図示しないCAN(Controller Area Network)を介して相互に送受信可能に接続されている。なお、ECUは、Electronic Control Unitの略である。マイクロコンピュータは、CPU、ROM、RAM及びインターフェース等を含み、CPUはROMに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより各種機能を実現するようになっている。ECU10,40,50,60の幾つか又は全ては一つのECUにコントローラとして統合されてもよい。
【0027】
運転支援ECU10は、ドライバの運転支援を行う中枢となる制御装置であって、本実施形態では衝突回避制御を実施する。運転支援ECU10は、車両状態取得装置20及び、周囲認識装置30に接続されており、これらの装置20,30からの出力信号及び検出信号を所定の周期が経過する毎に受信するようになっている。
【0028】
車両状態取得装置20は、車両100の状態を取得するセンサ類である。具体的には、車両状態取得装置20は、車速センサ21、アクセルセンサ22、ブレーキセンサ23、IMU(Inertial Measurement Unit)24等を備えている。
【0029】
車速センサ21は、車両100の走行速度(車速V)を検出する。車速センサ21は、車輪速センサであってもよい。アクセルセンサ22は、ドライバによる不図示のアクセルペダルの操作量を検出する。ブレーキセンサ23は、ドライバによる不図示のブレーキペダルの操作量を検出する。IMU24は、車両100の前後方向、左右方向、上下方向の加速度及び、車両100のロール方向、ピッチ方向、ヨー方向の角速度(ヨーレートYr)をそれぞれ検出する。
【0030】
周囲認識装置30は、車両100の周囲の物標に関する物標情報を取得するセンサ類である。具体的には、周囲認識装置30は、カメラセンサ31、レーダセンサ32、超音波センサ33等を備えている。
【0031】
カメラセンサ31は、例えば、ステレオカメラや単眼カメラであり、CMOSやCCD等の撮像素子を有するデジタルカメラを用いることができる。カメラセンサ31は、車両100の前方及び前側方の領域を撮像し、撮像した画像データを処理することにより、路面標示を認識する。路面標示は区画線を含む。区画線は、車両の通行を方向毎に区分するために道路に標示された線である。区画線は、実線区画線と破線区画線とを含む。本実施形態では、車道に延在する隣接する2つの区画線の間の領域を車線と定義している。カメラセンサ31は、認識した区画線に基づいて車線の形状を演算する。また、カメラセンサは、撮像した画像データに基づいて、車両100の前方及び前側方の領域における立体物の有無、立体物の種類、及び、自車両100と立体物との相対関係を演算する。立体物の種類は、画像データを解析することにより周知のパターンマッチング手法を用いて判別することができる。
【0032】
レーダセンサ32は、例えば、車両100の前方及び前側方の領域に存在する物標を検知する。レーダセンサ32には、ミリ波レーダ及び、又はライダが含まれる。ミリ波レーダは、ミリ波帯の電波(ミリ波)を放射し、放射範囲内に存在する物標によって反射されたミリ波(反射波)を受信する。ミリ波レーダは、送信したミリ波と受信した反射波との位相差、反射波の減衰レベル及び、ミリ波を送信してから反射波を受信するまでの時間等に基づいて、車両100と物標との相対距離、車両100と物標との相対速度等を取得する。ライダは、ミリ波よりも短波長のパルス状のレーザ光を複数の方向に向けて順次走査し、物標により反射される反射光を受光することにより、車両100の前方に検知された物標の形状、車両100と物標との相対距離、車両100と物標との相対速度等を取得する。
【0033】
超音波センサ33は、超音波をパルス状に車両100の周囲の所定の範囲に送信し、立体物によって反射された反射波を受信する。超音波センサ33は、超音波の送信から受信までの時間に基づいて、送信した超音波が反射された立体物上の点である反射点及び、超音波センサ33との距離等を表す物標情報を取得する。
【0034】
駆動源ECU40は、駆動装置41に接続されている。駆動装置41は、車両100の駆動輪に伝達する駆動力を発生させる。駆動装置41としては、例えば、電動機、エンジンが挙げられる。車両100は、エンジン車、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCEV)、電気自動車(BEV)の何れであってもよい。駆動源ECU40は、アクセルセンサ22によって取得されるアクセルペダル操作量等に基づいてドライバ要求駆動トルクを設定し、駆動装置41がドライバ要求駆動トルクを出力するように駆動装置41の作動を制御する。
【0035】
ブレーキECU50は、ブレーキアクチュエータ51に接続されている。ブレーキアクチュエータ51は、ブレーキペダルの踏力によって作動油を加圧するマスタシリンダ(図示略)と、各車輪に設けられたブレーキ機構52との間の油圧回路に設けられる。ブレーキ機構52は、車輪に固定されるブレーキディスク52aと、車体に固定されるブレーキキャリパ52bとを備えている。なお、ブレーキ機構52は、ディスク式ブレーキに限定されず、ドラム式ブレーキなど、車両100の車輪に制動力を付与する他のブレーキ機構であってもよい。
【0036】
ブレーキアクチュエータ51は、ブレーキECU50からの指示に応じてブレーキキャリパ52bに内蔵されたホイールシリンダに供給する油圧を調整し、その油圧によりホイールシリンダを作動させる。これにより、ブレーキアクチュエータ51は、ブレーキパッドをブレーキディスク52aに押し付けて摩擦制動力を発生させる。従って、ブレーキECU50は、ブレーキアクチュエータ51を制御することによって車両100の制動力を制御することができる。
【0037】
ステアリングECU60は、モータドライバ61に接続されている。モータドライバ61は、転舵用モータ62に接続されている。転舵用モータ62は、ステアリングホイールSW、ステアリングシャフトSF等を含むステアリング装置63に組み込まれている。ステアリング装置63は、ラックアンドピニオン式、或は、ステアリングバイワイヤ式の何れであってもよい。転舵用モータ62は、モータドライバ61から供給される電力によって操舵トルクを発生する。この操舵トルクにより、車両100の左右の操舵輪を転舵することができる。すなわち、転舵用モータ62は、車両100の舵角(操舵輪の転舵角)を変更することができる。
【0038】
ステアリングECU60は、舵角センサ64及び、操舵トルクセンサ65に接続されている。舵角センサ64は、ステアリングホイールSW又はステアリングシャフトSFの回転角、すなわち実舵角θsを検出する。操舵トルクセンサ65は、ステアリングホイールSW又はステアリングシャフトSFの回転トルク、すなわちドライバ操舵トルクTdrを検出する。ここで、ドライバ操舵トルクTdrは、ドライバがステアリングホイールSWを回転させる際に発生する操舵トルク及び、ドライバがステアリングホイールSWを保舵する際に発生する保舵トルクの両方を含む概念である。実舵角θs及びドライバ操舵トルクTdrは、例えば、ステアリングホイールSWを所定の基準位置(中立位置)から左方向に回転させた場合に正の値となり、ステアリングホイールSWを所定の基準位置から右方向に回転させた場合に負の値になる。なお、中立位置とは、実舵角θsが略ゼロとなる基準位置であり、車両100が略直進走行する際のステアリングホイールSWの位置である。
【0039】
ステアリングECU60は、舵角センサ64によって検出される実舵角θs、操舵トルクセンサ65によって検出される実操舵トルクTq及び、車速センサ21によって検出される車速Vに基づいて、転舵用モータ62の駆動を制御する。ステアリングECU60は、この転舵用モータ62の駆動により、ステアリング装置63にドライバの操舵操作を補助するためのアシストトルクを付与することができる。
【0040】
また、ステアリングECU60は、衝突回避制御の実行中において、運転支援ECU10から操舵指令を受信した場合、その操舵指令によって特定される目標操舵トルクに基づいてモータドライバ61を介して転舵用モータ62を駆動する。これにより、ステアリングECU60は、目標操舵トルクに一致するように操舵トルクを発生させる。この操舵トルクは、上述のアシストトルクとは異なり、運転支援ECU10からの操舵指令に基づいてステアリング装置63に付与されるトルクである。したがって、運転支援ECU10は、衝突回避制御の実行中、車両100の転舵輪の舵角を、ドライバによる操舵操作を必要とせずに、ステアリングECU60を介して自動的に変更することができる。
【0041】
[衝突回避制御]
次に、図2及び、図3に基づいて、衝突回避制御の作動の概要について説明する。図2に示すように、自車両100が例えば直線路である走行車線LA1を走行している際に、自車両100と衝突する可能性が高い立体物(物標)である障害物OBが存在する状況が生じたと仮定する。この場合、運転支援ECU10は、自車両100が障害物OBに衝突することを回避する衝突回避制御を実行する。衝突回避制御は、自車両100が走行車線LA1を逸脱せずに障害物OBとの衝突を回避するように、自車両100の転舵輪を自動操舵する制御をいう。ここで自動操舵は、自車両100が障害物OBとの衝突を回避するようにドライバの操舵操作を補助する操舵支援を含む概念である。
【0042】
具体的には、運転支援ECU10は、衝突回避制御として、障害物OBとの衝突を回避するための「第1操舵制御」を実行した後、自車両100を走行車線LA1内に留めるための「第2操舵制御」を実行する。第1操舵制御では、舵角を例えば中立位置(舵角が略0の状態)から切り増す「第1切り増し操舵」(区間S1参照)を行う。第2操舵制御では、第1操舵制御によって切り増された舵角を中立位置に戻す「第1切り戻し操舵(区間S2参照)」と、舵角を中立位置から第1操舵制御の操舵方向とは逆方向に切り増す「第2切り増し操舵」(区間S3参照)と、操舵を再度中立位置に戻す「第2切り戻し操舵」(区間S4参照)とを順に行う。
【0043】
図3は、衝突回避制御を実施する運転支援ECU10の制御ブロック図である。運転支援ECU10は、立体物情報取得部11A、障害物判定部11B、衝突判定部11C、目標軌道設定部11D、目標舵角演算部12、FF制御量演算部13、FB制御量演算部14、減算部15、アシストトルク演算部16、キャンセルトルク演算部17及び、加算部18を一部の機能要素として有する。これら機能要素は、一体のハードウェアである運転支援ECU10に含まれるものとして説明するが、これらの何れか一部を運転支援ECU10とは別体の他のECUに設けることもできる。また、運転支援ECU10の各機能要素の全部又は一部は、自車両100と通信可能な施設(例えば、管理センタ等)の情報処理装置に設けることもできる。
【0044】
立体物情報取得部11Aは、周囲認識装置30から送信される左白線WL及び右白線WR(図2参照)の位置情報に基づき、左白線WL及び右白線WRで区画される走行車線LA1を認識する。また、立体物情報取得部11Aは、周囲認識装置30から送信される物標情報に基づき、自車両100の前方及び前側方の領域に立体物が存在しているか否かを判定する。立体物が存在していると判定した場合、立体物情報取得部11Aは、存在していると判定された全ての立体物に関する情報を生成する。具体的には、立体物情報取得部11Aは、自車両100の前端中央位置を原点とし、その原点から左右方向及び前方に拡がる座標系を用いて、各立体物の位置座標が含まれた立体物の座標情報を生成する。
【0045】
障害物判定部11Bは、立体物情報取得部11Aによって取得された全ての立体物のそれぞれについて、立体物が自車両100と衝突する可能性のある障害物OBであるか否かを判定する。具体的には、障害物判定部11Bは、車速センサ21によって検出される車速V、IMU24によって検出されるヨーレートYr及び、舵角センサ64によって検出される実舵角θsに基づいて自車両100の軌道を演算する。
【0046】
また、障害物判定部11Bは、各立体物の座標情報に基づいて各立体物の軌道を演算する。障害物判定部11Bは、自車両100の軌道と各立体物の軌道とに基づいて、自車両100が現在の走行状態を維持して走行するとともに各立体物が現在の移動状態を維持して移動した場合に、自車両100が何れかの立体物に衝突する可能性があるか否かを判定する。なお、立体物が静止している場合、運転支援ECU10は、自車両100の軌道と立体物の現在の位置とに基づいてこの判定処理を行う。障害物判定部10Bは、判定結果に基づいて、自車両100が立体物に衝突する可能性があると判定した場合に、その立体物を障害物OBであると判定する。
【0047】
衝突判定部11Cは、障害物判定部11Bにより立体物が障害物OBであると判定されると、車両100から障害物OBまでの距離L及び、自車両100の障害物OBに対する相対速度Vrに基づいて、自車両100が障害物OBに衝突するまでの予測時間(衝突予測時間(Time To Collision:以下、「TTC」と称する)を演算する。TTCは自車両100が障害物OBに衝突する可能性を示す指標値である。TTCは、自車両100から障害物OBまでの距離Lを相対速度Vrで除することにより求めることができる(TTC=L/vr)。衝突判定部11Cは、TTCが所定の衝突判定閾値TTCth以下である場合、自車両100が障害物OBに衝突する可能性を高いと判定する。
【0048】
目標軌道設定部11Dは、衝突判定部11Cにより自車両100が障害物OBに衝突する可能性が高いと判定されると、周知の手法により、車両100が障害物OBと干渉することなく衝突を回避し得る軌道を演算するとともに、演算した当該軌道を目標軌道Rt(図2参照)として設定する(例えば、特開2017-43262号公報及び、特開2018-106230号公報等を参照)。この場合において、目標軌道Rtは、障害物OBの物標情報及び左右の各白線WL,WRの位置に基づいて、障害物OBの左側又は右側の何れかに設定される回避スペースSP1を通り、且つ、自車両100を走行車線LA1から逸脱させない範囲内にて生成される。
【0049】
具体的には、図2に示されるように、目標軌道Rtは、車両100と障害物OBとの衝突を回避するための第1操舵制御を実行する第1操舵区間S1と、自車両100を走行車線LA1内に留めるための第2操舵制御を実行する第2~第4操舵区間S2~S4とで設定される。第1操舵区間S1では、第1操舵制御の第1切り増し操舵が行われる。第2操舵区間S2では、第2操舵制御の第1切り戻し操舵が行われる。第3操舵区間S3では、第2操舵制御の第2切り増し操舵が行われる。第4操舵区間S4では、第2操舵制御の第2切り戻し操舵が行われる。
【0050】
目標舵角演算部12は、目標軌道設定部11Dにより目標軌道Rtが設定されると、自車両100の現在の車速Vと、自車両100を目標軌道Rtに沿って走行させるのに必要な目標ヨーレートとに基づき、目標ヨーレートが得られる目標舵角θtを演算する。目標舵角演算部12は、演算した目標舵角θtをFF制御量演算部13及び、減算部15に送信する。
【0051】
FF制御量演算部13は、目標舵角θtに基づいてフィードフォワード制御量であるFF目標操舵トルクTFFを演算する。ここで、FF目標操舵トルクTFFは、ドライバの保舵又は操舵操作によるドライバ操舵トルクTdrが発生していない状態で、自車両100を目標軌道Rtに沿って走行させるのに必要なトルク制御量である。FF制御量演算部13は、例えば、予め記憶したFFトルクマップ(不図示)を目標舵角θtに基づいて参照することにより、FF目標操舵トルクTFFを演算する。FFトルクマップは、目標舵角θtが大きくなるに従いFF目標操舵トルクTFFが増加するように設定されている。なお、FF目標操舵トルクTFFの演算は、マップを用いる手法に限定されず、計算式に基づいて演算してもよい。FF制御量演算部13は、演算したFF目標操舵トルクTFFを加算部18に送信する。
【0052】
減算部15は、目標舵角演算部12から送信される目標舵角θtと、舵角センサ64によって検出される実舵角θsとに基づき、これら目標舵角θtと実舵角θsとの偏差Δθを演算する。減算部15は、演算した偏差ΔθをFB制御量演算部14に送信する。
【0053】
FB制御量演算部14は、偏差Δθに基づいて、フィードバック制御量であるFB目標操舵トルクTFBを演算する。FB制御量演算部14は、例えば、偏差Δθを比例項として含んだPID制御式、PI制御式、P制御式等によりFB目標操舵トルクTFBを演算する。FB制御量演算部14は、演算したFB目標操舵トルクTFBを加算部18に送信する。
【0054】
アシストトルク演算部16は、ドライバの操舵操作を補助するためのアシスト制御量であるアシストトルクTASを演算する。アシストトルク演算部16は、例えば、予め記憶したアシストトルクマップ(不図示)をドライバ操舵トルクTdr及び車速Vに基づいて参照することにより、アシストトルクTASを演算する。ドライバ操舵トルクTdrは、操舵トルクセンサ65の検出結果に基づいて取得すればよく、車速Vは、車速センサ21の検出結果に基づいて取得すればよい。アシストトルクマップは、好ましくは、ドライバ操舵トルクTdr(絶対値)が大きくなるに従いアシストトルクTAS(絶対値)が増加するように設定され、車速Vが低くなるに従いアシストトルクTAS(絶対値)が増加するように設定される。なお、アシストトルクTASの演算は、マップを用いる手法に限定されず、計算式に基づいて演算してもよい。アシストトルク演算部16は、演算したアシストトルクTASをキャンセルトルク演算部17及び、ステアリングECU60に送信する。ステアリングECU60は、アシストトルク演算部16からアシストトルクTASを受信すると、転舵用モータ62により生じるトルクがアシストトルクTASに一致するように、転舵用モータ62に供給する電流を制御する。
【0055】
キャンセルトルク演算部17は、衝突回避制御の実行中にドライバ操舵トルクTdr及びアシストトルクTASを打ち消すために付与するキャンセルトルクTCAを演算する。具体的には、キャンセルトルク演算部17は、基本キャンセルトルク演算部17Aと、ゲイン設定部17Bと、乗算部17Cとを備えている。
【0056】
基本キャンセルトルク演算部17Aは、ドライバ操舵トルクTdrと、アシストトルクTASとを合計したドライバ合計トルクTSUM(=Tdr+TAS)を完全に打ち消すための操舵トルクである基本キャンセルトルクTCA1(=-TSUM)を演算する。ここで、ドライバ操舵トルクTdrは、ドライバがステアリングホイールSWを操舵操作することにより発生する操舵トルクと、ドライバがステアリングホイールSWを保舵することにより発生する保舵トルクとの両方を含む概念である。ドライバ操舵トルクTdrは、操舵トルクセンサ65の検出結果に基づいて取得すればよい。
【0057】
基本キャンセルトルク演算部17Aは、ドライバ操舵トルクTdrとアシストトルクTASとの合計値の正負を反転することにより、基本キャンセルトルクTCA1を演算する。すなわち、ドライバ合計トルクTSUMが正の値(左旋回方向)であれば、基本キャンセルトルクTCA1は負の値(右旋回方向)となり、ドライバ合計トルクTSUMが負の値(右旋回方向)であれば、基本キャンセルトルクTCA1は正の値(左旋回方向)となる。基本キャンセルトルク演算部17Aは、演算した基本キャンセルトルクTCA1を乗算部17Cに送信する。
【0058】
ゲイン設定部17Bは、ドライバ合計トルクTSUMを打ち消すキャンセル率に相当する制御ゲインKを設定する。ゲイン設定部17Bは、制御ゲインKを、「0」から「1」の範囲で設定する。制御ゲインKの設定の詳細については後述する。ゲイン設定部17Bは、設定した制御ゲインKを乗算部17Cに送信する。
【0059】
乗算部17Cは、基本キャンセルトルク演算部17Aから送信される基本キャンセルトルクTCA1と、ゲイン設定部17Bから送信される制御ゲインKとを乗算した値(=TCA1×K)を求め、この値を最終的なキャンセルトルクTCAとして加算部18に送信する。
【0060】
加算部18は、FF制御量演算部13から送信されるFF目標操舵トルクTFFに、FB制御量演算部14から送信されるFB目標操舵トルクTFBを加算することにより、目標操舵トルクTt(=TFF+TFB)を演算する。また、加算部18は、目標操舵トルクTtに、乗算部17Cから送信されるキャンセルトルクTCA(=TCA1×K)を加算した値である自動操舵トルク制御量Tc(=TFF+TFB+TCA)を求め、この自動操舵トルク制御量Tcを衝突回避制御の最終的な制御量としてステアリングECU60に送信する。ステアリングECU60は、加算部18から自動操舵トルク制御量Tcを受信すると、転舵用モータ62により生じるトルクが自動操舵トルク制御量TcとアシストトルクTASとを加算した値(=TFF+TFB+TCA+TAS)に一致するように、転舵用モータ62に供給する電流を制御する。これにより、衝突回避制御の実行中にドライバ合計トルクTSUMを打ち消しながら、自車両100を目標軌道Rtに沿って走行させる自動操舵が実現される。
【0061】
次に、図4及び、図5に基づき、衝突回避制御の実行中にキャンセルトルクTCAを付与する場合と、キャンセルトルクTCAを付与しない場合とを比較する。図4は、キャンセルトルクTCAを付与する本実施形態の一例であり、図5はキャンセルトルクTCAを付与しない比較例である。なお、図4,5に示す例では、自車両100は左旋回操舵により障害物OBとの衝突を回避するが、右旋回操舵によって回避する場合は、舵角、操舵トルクの正負が逆になるだけである。このため、以下では右旋回操舵についての説明は省略する。
【0062】
まず、図5に示す比較例から説明する。衝突回避制御の実行中にドライバがステアリングホイールSWを漫然と握りながら保舵している場合、図5(A)に破線で示すように、車両100の転舵輪には、ドライバの保舵に伴い発生するドライバ保舵トルクと、ドライバ保舵トルクに応じたアシストトルクとを合計したドライバ合計トルクTSUMが加わる。このドライバ合計トルクTSUMは、衝突回避制御の自動操舵による制御トルクとは逆向きに作用する。すなわち、ドライバ合計トルクTSUMは、第1操舵制御(区間S1)及び、第2操舵制御の第1切り戻し操舵(区間S2)では、FF目標操舵トルクTFFとは逆向きの負の値となり、第2操舵制御の第2切り増し操舵(区間S3)及び、第2切り戻し操舵(区間S4)では、FF目標操舵トルクTFFとは逆向きの正の値となる。
【0063】
このようなドライバ合計トルクTSUMが衝突回避制御の実行中に加わると、図5(A)に一点鎖線で示す、ドライバ合計トルクTSUMとFF目標操舵トルクTFFとを合成した合成トルクTTAL(絶対値)は、FF目標操舵トルクTFF(絶対値)よりも小さくなる。すなわち、図5(B)に一点鎖線で示すように、実舵角θsが目標舵角θtから乖離する舵角追従性の悪化を引き起こすことになる。その結果、第1操舵制御においては、自車両100と障害物OBとの衝突を回避できなくなる可能性が生じ、第2操舵制御においては、自車両100を走行車線LA1内に確実に留められなくなる可能性が生じる。
【0064】
図4は、キャンセルトルクTCAを付与する本実施形態である。なお、図4に示す例において、制御ゲインKは「1」、すなわち、キャンセル率は100%に設定されているものとする。図4に示す本実施形態において、運転支援ECU10は、衝突回避制御の実行中、ドライバ合計トルクTSUMを完全に打ち消す基本キャンセルトルクTCA1(図中の二点鎖線を参照)を付与する。すなわち、第1操舵制御(区間S1)及び、第2操舵制御の第1切り戻し操舵(区間S2)では、ドライバ合計トルクTSUMとは逆向きの正の値の基本キャンセルトルクTCA1がFF目標操舵トルクTFFに加算され、第2操舵制御の第2切り増し操舵(区間S3)及び、第2切り戻し操舵(区間S4)では、ドライバ合計トルクTSUMとは逆向きの負の値の基本キャンセルトルクTCA1がFF目標操舵トルクTFFに加算されるようになる。
【0065】
このような基本キャンセルトルクTCA1がFF目標操舵トルクTFFに加算されると、図4(A)に一点鎖線で示す、ドライバ合計トルクTSUMとFF目標操舵トルクTFFと基本キャンセルトルクTCA1とを合成した合成トルクTTAL(絶対値)は、FF目標操舵トルクTFF(絶対値)と略一致するようになる。すなわち、図4(B)に破線で示すように、実舵角θsが目標舵角θtに略一致する舵角追従性の向上が図られるようになる。その結果、第1操舵制御においては、自車両100と障害物OBとの衝突を確実に回避できるようになり、第2操舵制御においては、自車両100を走行車線LA1内に確実に留められるようになる。
【0066】
ここで、制御ゲインKを一律に「1」、すなわち、キャンセル率を一律に100%に設定すると、ドライバにステアリングホイールSWを操作する操舵意思がある場合に、ドライバの操舵操作を大きく妨げることになり、車両100の危険挙動を引き起こす虞がある。そこで、本実施形態のゲイン設定部17B(図3に示す)は、ドライバの操舵介入を検知した場合には、制御ゲインKを適宜に小さく設定するようにした。
【0067】
具体的には、運転支援ECU10のメモリには、図6に示すゲイン設定マップMが予め記憶されている。ゲイン設定マップMには、例えば、縦軸に制御ゲインK、横軸にドライバ操舵トルクTdrが規定されている。ゲイン設定部17Bは、操舵トルクセンサ65によって検出されるドライバ操舵トルクTdrに基づいてゲイン設定マップMを参照することにより、ドライバ操舵トルクTdrに応じた制御ゲインKを設定する。
【0068】
本実施形態のゲイン設定マップMには、ドライバの操舵意思の有無を判定するための第1閾値トルクTth1及び、第2閾値トルクTth2が設定されている。これら第1閾値トルクTth1及び、第2閾値トルクTth2は、予め実験やシミュレーション等を行うことにより設定すればよい。
【0069】
第1閾値トルクTth1は、ドライバがステアリングホイールSWを漫然と保舵しているときの操舵トルクの最大値を基準に予め設定される。ドライバ操舵トルクTdrが第1閾値トルクTth1以下の場合(Tdr≦Tth1)、制御ゲインKは「1」(キャンセル率:100%)に設定される。すなわち、衝突回避制御の実行中にドライバが漫然と保舵している場合には、ドライバ保舵トルクTdrとアシストトルクTASとを合算したドライバ合計トルクTSUMを完全に打ち消すキャンセルトルクTCA(=基本キャンセルトルクTCA1×1)が付与されることになる。これにより自動操舵の舵角追従性を確実に向上することが可能になる。
【0070】
第2閾値トルクTth2は、ドライバがステアリングホイールSWを意図して操作するときの操舵トルクの最小値を基準に予め設定される。第2閾値トルクTth2は、第1閾値トルクTth1よりも大きな値である(Tth2>Tth1)。ドライバ操舵トルクTdrが第2閾値トルクTth以上の場合(Tdr≧Tth2)、制御ゲインKは「0」(キャンセル率:0%)に設定される。すなわち、衝突回避制御の実行中にドライバが意図して操舵操作を行った場合には、ドライバ合計トルクTSUMを打ち消すキャンセルトルクTCAは「0」とされる。これにより、ドライバが操舵意思を有している場合に、ドライバの操舵操作が妨げられることを効果的に防止できるようになる。
【0071】
ドライバ操舵トルクTdrが第1閾値トルクTth1から第2閾値トルクTth2の間にある場合(Tth1<Tdr<Tth2)、ドライバが操舵操作を意図している可能性もあれば、ドライバがステアリングホイールSWを漫然と保舵している可能性もある。このような場合、制御ゲインKは、ドライバ操舵トルクTdrが第1閾値トルクTth1から第2閾値トルクTth2に向かうに従い「0」となるように設定される。すなわち、制御ゲインKはドライバ操舵トルクTdrが大きくなるほど小さくなるように設定される。このように、ドライバが操舵意思を有している可能性もあれば、漫然と保舵している可能性もある場合には、ドライバ操舵トルクTdrが大きくなるほど制御ゲインKを「1」から「0」に遷移、すなわち漸減することで、自動操舵の舵角追従性の低下を抑制しつつ、ドライバの操舵操作が大きく妨げられることを効果的に防止できるようになる。
【0072】
次に、図7に示すフローチャートに基づいて、運転支援ECU10による衝突回避制御の処理のルーチンを説明する。運転支援ECU10は、車両100の走行中、図7のステップS100以降の処理を所定周期で繰り返し実行する。
【0073】
ステップS100では、運転支援ECU10は、周囲認識装置30から送信される左白線WL及び右白線WRの位置情報に基づき、左白線WL及び右白線WRで区画される走行車線LA1を認識する。
【0074】
次いで、ステップS105では、運転支援ECU10は、周囲認識装置30から送信される物標情報に基づき、自車両100の前方及び前側方の領域に立体物が存在するか否かを判定する。立体物が存在する場合(Yes)、運転支援ECU10は、ステップS110の処理に進む。一方、立体物が存在しない場合(No)、運転支援ECU10は、本ルーチンを一旦終了(リターン)する。
【0075】
ステップS110では、運転支援ECU10は、立体物の位置情報を取得する。次いで、ステップS115では、運転支援ECU10は、立体物が自車両100と衝突する可能性のある障害物OBであるか否かを判定する。運転支援ECU10は、自車両100が立体物に衝突する可能性がある場合、その立体物を障害物OBであると判定する。立体物を障害物OBであると判定した場合(Yes)、運転支援ECU10は、ステップS120の処理に進む。一方、立体物を障害物OBでないと判定した場合(No)、運転支援ECU10は、本ルーチンを一旦終了(リターン)する。
【0076】
ステップS120では、運転支援ECU10は、TTCを演算する。次いで、ステップS125では、運転支援ECU10は、TTCが所定の衝突判定閾値TTCth以下であるか否かを判定する。TTCが衝突判定閾値TTCth以下の場合(Yes)、運転支援ECU10は、ステップS130の処理に進む。一方、TTCが衝突判定閾値TTCth以下でない場合(No)、運転支援ECU10は、本ルーチンを一旦終了(リターン)する。
【0077】
ステップS130では、運転支援ECU10は、自車両100が障害物OBに衝突する可能性が高いと判定する。次いで、ステップS140では、運転支援ECU10は、自車両100が走行車線LA1を逸脱せずに障害物OBとの衝突を回避することができる目標軌道Rtを設定し、ステップS150の処理に進む。なお、詳細な説明は省略するが、前述の回避スペースSP1(図2参照)がなく、目標軌道Rtを設定できない場合、運転支援ECU10は、制動制御により衝突回避制御を実行すればよい。
【0078】
ステップS150では、運転支援ECU10は、衝突回避制御による自動操舵を開始する。具体的には、運転支援ECU10は、自車両100が目標軌道Rtに沿って走行しながら障害物OBを回避するように、自車両100の舵角を増加させる第1切り増し操舵を行なう第1操舵制御を開始する。ステップS155にて、第1操舵制御の終了条件が成立すると、運転支援ECU10は、ステップS160の処理に進む。第1操舵制御は、例えば、FF目標操舵トルクTFFから得られる舵角のプロファイルに基づき、舵角が最大値から徐々に減少し始める点を制御の終了ポイントとすればよい。
【0079】
ステップS160では、運転支援ECU10は、自車両100が目標軌道Rtに沿って走行しながら走行車線LA1内に留まるよう、自車両100の舵角を増減させる第2操舵制御を開始する。具体的には、第1操舵制御によって切り増された舵角を中立位置に戻す第1切り戻し操舵と、舵角を中立位置から第1操舵制御の操舵方向とは逆方向に切り増す第2切り増し操舵と、操舵を再度中立位置に戻す第2切り戻し操舵とを順に行う。ステップS165にて、第2操舵制御の終了条件が成立すると、運転支援ECU10は、本ルーチンを一旦終了(リターン)する。第2操舵制御は、例えば、車両100のヨー角が走行車線LA1(白線WL,WR)と略平行になった場合、或いは、実舵角θsが所望の角度範囲に収まった場合等に終了すればよい。
【0080】
次に、図8に示すフローチャートに基づいて、運転支援ECU10によるキャンセルトルク制御の処理のルーチンを説明する。車両100の走行中、運転支援ECU10は、図8に示すキャンセルトルク付与制御を、図7に示すルーチンと並行して繰り返し実行する。
【0081】
ステップS200では、運転支援ECU10は、第1操舵制御が開始されたか否かを判定する。第1操舵制御が開始された場合(Yes)、運転支援ECU10は、ステップS210の処理に進む。一方、第1操舵制御が開始されていない場合(No)、運転支援ECU10は、本ルーチンを一旦終了(リターン)する。
【0082】
ステップS210では、運転支援ECU10は、操舵トルクセンサ65によって検出されるドライバ操舵トルクTdrが第1閾値トルクTth1以下か否かを判定する。ドライバ操舵トルクTdrが第1閾値トルクTth1以下の場合(Yes)、運転支援ECU10は、ステップS220の処理に進み、制御ゲインKを「1」に設定し、ドライバ合計トルクTSUM(=Tdr+TAS)を完全に打ち消すキャンセルトルクTCA(=基本キャンセルトルクTCA1×1)を付与する。これにより自動操舵の舵角追従性を向上することができる。一方、ステップS210の判定にて、ドライバ操舵トルクTdrが第1閾値トルクTth1以下でない場合(No)、運転支援ECU10は、ステップS230の処理に進む。
【0083】
ステップS230では、運転支援ECU10は、操舵トルクセンサ65によって検出されるドライバ操舵トルクTdrが第2閾値トルクTth2以上か否かを判定する。ドライバ操舵トルクTdrが第2閾値トルクTth2以上の場合(Yes)、運転支援ECU10は、ステップS240の処理に進み、制御ゲインKを「0」に設定する。すなわち、キャンセルトルクTCAを付与しない。これにより、ドライバが操舵意思を有している場合に、ドライバの操舵操作が妨げられることを効果的に防止できるようになる。一方、ステップS230の判定にて、ドライバ操舵トルクTdrが第2閾値トルクTth2以上でない場合(No)、運転支援ECU10は、ステップS250の処理に進む。
【0084】
ステップS250では、運転支援ECU10は、制御ゲインKを「0」よりも大きく、且つ、「1」よりも小さい範囲(0<K<1)で、ドライバ操舵トルクTdrが大きくなるほど小さくなるように設定する。すなわち、ドライバ操舵トルクTdrが大きくなるほど、制御ゲインKを漸減する。これにより、自動操舵の舵角追従性の低下を抑制しつつ、ドライバの操舵操作が大きく妨げられることを効果的に防止できるようになる。
【0085】
ステップS220、S240、S250からステップS260に進むと、運転支援ECU10は、第2操舵制御が終了したか否かを判定する。第2操舵制御が終了した場合(Yes)、運転支援ECU10は、本ルーチンを一旦終了(リターン)する。一方、第2操舵制御が終了していない場合(No)、運転支援ECU10は、ステップ210の判定に戻る。すなわち、衝突回避制御による自動操舵が終了するまでの間、運転支援ECU10は、上述のステップS210~S260の各処理を繰り返し実行する。
【0086】
以上詳述したように、本実施形態の運転支援ECU10は、自車両100の前方及び前側方の領域に、自車両100に衝突する可能性が高い障害物OBを検出した場合に、自車両100が走行車線LA1を逸脱せずに障害物OBとの衝突を回避できる目標軌道Rtを設定するとともに、自車両100が目標軌道Rtに沿って走行するように、自車両100の舵角を制御する自動操舵を実施する。運転支援ECU10は、自動操舵として、自車両100と障害物OBとの衝突を回避するための第1操舵制御と、自車両100が走行車線LAから逸脱することを防止するための第2操舵制御とを順に実行する。また、運転支援ECU10は、自動操舵の実行中、ドライバの保舵又は操舵により発生するドライバ操舵トルクTdrと、ドライバ操舵トルクTdrに応じて発生するアシストトルクTASとを合算したドライバ合計トルクTSUM(=Tdr+TAS)を打ち消すキャンセルトルクTCAを付与する。これにより、衝突回避制御による自動操舵の実行中に、実舵角θsが目標舵角θtに略一致する舵角追従性の向上が図られるようになる。舵角追従性が向上することで、第1操舵制御においては、自車両100と障害物OBとの衝突を確実に回避することが可能となり、第2操舵制御においては、自車両100を走行車線LA1内に確実に維持することが可能になる。
【0087】
[その他]
以上、本実施形態に係る運転支援装置、運転支援方法及び、プログラムについて説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変形が可能である。
【0088】
[変形例1]
変形例1において、運転支援ECU10は、図9に示すように、自動操舵の実行中に、操舵トルクセンサ65によって検出されるドライバ操舵トルクTdrが所定の閾値トルクTth以上となる状態が所定の閾値時間Sth(又は、閾値距離)以上継続した場合に(時刻t1~t2参照)、ドライバに操舵意思があるものと判定し、制御ゲインKを「1」から「0」に漸減する。一方、運転支援ECU10は、ドライバ操舵トルクTdrが閾値トルクTth以上となる状態が閾値時間Sth以上継続しなかった場合、或は、ドライバ操舵トルクTdrが閾値トルクTth未満の場合、制御ゲインKの設定を「1」に維持する。
【0089】
制御ゲインKを「1」から「0」に漸減する際は、ドライバ操舵トルクTdrの急変を防止すべく、単位時間当たりの制御ゲインKの減少量に制限をかける漸減時間(時刻t2~t3参照)を設定することが好ましい。漸減時間は、ドライバ操舵トルクTdrが大きいほど長く設定すればよい。閾値トルクTth及び閾値時間Sthの組み合わせは1パターンに限定されず、閾値トルクTthが大きい場合は閾値時間Sthを短く、閾値トルクTthが小さい場合は閾値時間Sthを長くするなど、複数パターンで設定してもよい。
【0090】
このように、ドライバ操舵トルクTdrが閾値トルクTth以上となる状態が閾値時間Sth以上継続した場合に、制御ゲインKを「1」から「0」に漸減することで、ドライバに操舵意思がある場合に、ドライバの操舵操作が妨げられることを効果的に防止できるようになる。また、ドライバ操舵トルクTdrが閾値トルクTth以上となる状態が閾値時間Sth以上継続しなかった場合、或は、ドライバ操舵トルクTdrが閾値トルクTth未満にある場合は、制御ゲインKの設定を「1」に維持することで、ドライバが漫然と保舵しているよう状態で、自動操舵の舵角追従性が低下することを効果的に防止することが可能になる。
【0091】
[変形例2]
変形例2において、運転支援ECU10は、図10に示すように、自動操舵のFF目標操舵トルクTFFと、操舵トルクセンサ65によって検出されるドライバ操舵トルクTdrとの乖離量ΔT(=TFF-Tdr)の絶対値に基づき、乖離量ΔT(絶対値)が大きくなるほど制御ゲインKを小さく設定する。具体的には、乖離量ΔTが所定の閾値以下の場合は、乖離量ΔTが大きくなるに従い制御ゲインKを漸減させ、乖離量ΔTが閾値を超えた場合に、制御ゲインKを「0」に設定する。
【0092】
このように、FF目標操舵トルクTFFとドライバ操舵トルクTdrとの乖離量ΔTが大きくなるに従い制御ゲインKを漸減させることで、ドライバの操舵意思の強さ(度合い)に応じた最適なキャンセルトルクTCAを付与できるようになる。これにより、ドライバの操舵意思が強い場合に、ドライバの操舵操作が大きく妨げられることを効果的に防止しつつ、ドライバの操舵意思が弱い場合に、自動操舵の舵角追従性が大きく低下することを効果的に防止することが可能になる。なお、乖離量ΔTは、目標操舵トルクTt(=TFF+TFB)とドライバ操舵トルクTdrとの差であってもよい。
【0093】
[変形例3]
上述の変形例2において、運転支援ECU10は、FF目標操舵トルクTFFとドライバ操舵トルクTdrとの乖離量ΔTが閾値以下であっても、これらFF目標操舵トルクTFFとドライバ操舵トルクTdrとが乖離する状態が所定の閾値時間以上継続した場合は、ドライバに操舵意思があるものと判定し、制御ゲインKを「0」に漸減してもよい。この場合において、制御ゲインKを「0」に漸減する際は、上述の変形例1と同様、ドライバ操舵トルクTdrの急変を防止すべく、単位時間当たりの制御ゲインKの減少量に制限をかける漸減時間を設定することが好ましい。
【0094】
このように、FF目標操舵トルクTFFとドライバ操舵トルクTdrとが乖離する状態が閾値時間以上継続した場合に、制御ゲインKを「0」に漸減することで、ドライバの操舵意思が明確となった後に、ドライバの操舵操作が妨げられることを効果的に防止することが可能になる。また、FF目標操舵トルクTFFとドライバ操舵トルクTdrとが乖離する状態が閾値時間以上継続するまでは、制御ゲインKに基づいたキャンセルトルクTCAを付与することにより、ドライバの操舵意思が明確になるまでの間に、自動操舵の舵角追従性が低下することを効果的に防止することが可能になる。
【0095】
[変形例4]
ドライバがステアリングホイールSWを漫然と保舵している状態は、ドライバ操舵トルクTdrの周期的な変化(揺らぎ)に基づいて判定することもできる。図11に示すように、操舵トルクセンサ65によって検出されるドライバ操舵トルクTdrが、所定のトルク範囲内T1~T2で繰り返し増減変化するような場合は、ドライバの操舵の方向性が定まっていないものと推測される。このような場合、運転支援ECU10は、ドライバがステアリングホイールSWを漫然と保舵していると判定し、制御ゲインKの設定を「1」に維持する。
【0096】
このように、ドライバがステアリングホイールSWを漫然と保舵しているような運転状態を、ドライバ操舵トルクTdrの周期的な増減変化に基づいて判定し、ドライバが漫然と保舵していると判定している間は、制御ゲインKの設定を「1」に維持することで、自動操舵の舵角追従性を効果的に向上することが可能になる。
【0097】
[変形例5]
上記実施形態及び、上記変形例1~4では、操舵トルクセンサ65によって検出されるドライバ操舵トルクTdrに基づき、ドライバの操舵意思の有無などを判定している。しかしながら、衝突回避制御による自動操舵(第1操舵制御)の開始直後は、操舵トルクセンサ65が、ステアリング慣性やドライバの保舵に伴い発生するFF目標操舵トルクTFFとは逆方向の大きな逆トルクを検出することになる。このような逆トルクを含む検出結果に基づいてドライバの操舵意思の有無などを判定すると、誤判定を招く可能性がある。
【0098】
変形例5では、運転支援ECU10は、第1操舵制御の開始から所定時間が経過するまでは、操舵トルクセンサ65の検出結果に基づいた判定を行わないようにする。具体的には、上記実施形態において、運転支援ECU10は、図8に示すフローのステップS200とステップS210との間で、第1操舵制御を開始してからの経過時間が所定時間に達したか否かを判定するステップS205の処理を行う。この場合、経過時間が所定時間に達した場合に、ステップS210の処理に進めばよい。また、上記変形例1において、運転支援ECU10は、第1操舵制御の開始から所定時間が経過すると、ドライバ操舵トルクTdrが所定の閾値トルクTth以上にあるかの判定を開始する。また、上記変形例2及び、上記変形例3において、運転支援ECU10は、第1操舵制御の開始から所定時間が経過すると、FF目標操舵トルクTFFとドライバ操舵トルクTdrとの乖離量ΔTを演算する。また、上記変形例4において、運転支援ECU10は、第1操舵制御の開始から所定時間が経過すると、ドライバ操舵トルクTdrが所定のトルク範囲内T1~T2で増減変化しているかの判定を開始する。このように、第1操舵制御の開始から所定時間が経過すると判定を開始することにより、逆トルクに基づいた誤判定を効果的に防止することが可能性になる。
【符号の説明】
【0099】
1…運転支援装置,10…運転支援ECU,11A…立体物情報取得部,11B…障害物判定部,11C…衝突判定部,11D…目標軌道設定部,12…目標舵角演算部,13…FF制御量演算部,14…FB制御量演算部,15…減算部,16…アシストトルク演算部,17…キャンセルトルク演算部,17A…基本キャンセルトルク演算部,17B…ゲイン設定部,17C…乗算部,18…加算部,20…車両状態取得装置,30…周囲認識装置,60…ステアリングECU,61…モータドライバ,62…転舵用モータ,63…ステアリング装置,64…舵角センサ,65…操舵トルクセンサ,100…自車両,OB…障害物,LA1…走行車線
図1
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図11