(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】リング装着治具およびリング装着方法
(51)【国際特許分類】
B25B 27/28 20060101AFI20240814BHJP
B23P 19/02 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
B25B27/28
B23P19/02 E
(21)【出願番号】P 2022072445
(22)【出願日】2022-04-26
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】淺野 潤司
(72)【発明者】
【氏名】白石 佳弘
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-035451(JP,A)
【文献】特開2000-055199(JP,A)
【文献】特開2022-015190(JP,A)
【文献】特開2007-021694(JP,A)
【文献】特開平08-071946(JP,A)
【文献】実開昭49-042599(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25B25/00-29/02
B25B33/00
B23P19/00
B23P19/02
B23P19/027-19/033
B23P19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端部と、該第1端部よりも外径が大きい第2端部と、前記第1端部および前記第2端部のそれぞれの外周面の周方向に設けられた第1溝および第2溝と、を有するシャフトに対し、拡張前の内径が前記第1端部の外径よりも小さい金属製のリテイニングリングを前記第1端部から前記第1溝に装着することなく前記第2端部の前記第2溝に装着するためのリング装着治具であって、
拡張前の前記リテイニングリングの内径よりも小さい外径を有する小径端と、前記シャフトの前記第2端部の外径に対応する外径を有する拡大部と、前記小径端と前記拡大部とを接続するテーパ面と、前記シャフトの前記第1端部の外径に対応する外径を有する挿入部と、該挿入部と前記拡大部との間に形成された段差部と、を有するリング拡張治具と、
前記シャフトの前記第1端部の外径に対応する内径を有する円筒部と、該円筒部の軸方向の先端に設けられて前記シャフトの前記第2端部の外径に対応する外径を有するリング保持部と、を有するシャフト固定治具と、
円筒状の本体部と、該本体部の先端に設けられ前記リング拡張治具の前記小径端の外径に対応する内径を有する開口部と、前記本体部の先端から前記本体部の軸方向に延びる複数の分割溝と、該複数の分割溝の間に形成され前記本体部の径方向に弾性変形可能な複数の弾性部と、を有するリング押込治具と、
前記シャフト固定治具の前記円筒部の外周に配置されて前記円筒部の軸方向に移動可能に設けられ、前記円筒部に前記シャフトの前記第1端部が挿入および固定されて前記シャフト固定治具の前記リング保持部の外周面と前記シャフトの前記第2端部の外周面とが前記円筒部の軸方向に接続された状態で前記リング保持部の外周面から前記第2端部の前記第2溝まで移動可能な先端部を有するリング嵌装治具と、
を備えることを特徴とするリング装着治具。
【請求項2】
請求項1に記載のリング装着治具を用いて前記リテイニングリングを前記シャフトの前記第1端部から前記第1溝に装着することなく前記第2端部の前記第2溝に装着するリング装着方法であって、
前記シャフト固定治具の前記円筒部に前記リング拡張治具の前記挿入部を挿入して前記シャフト固定治具の前記リング保持部の先端を前記リング拡張治具の前記段差部に当接させることで前記リング保持部の外周面と前記リング拡張治具の前記拡大部の外周面とを前記円筒部の軸方向に接続することと、
前記リテイニングリングの内側に前記リング拡張治具の前記小径端を挿入して前記リング拡張治具の前記テーパ面に前記リテイニングリングを配置することと、
前記リング押込治具の前記開口部に前記リング拡張治具の前記小径端を挿入して前記リング押込治具を前記リング拡張治具に対して押し込むことで、前記テーパ面に配置された前記リテイニングリングを前記リング押込治具の前記複数の弾性部によって前記リング拡張治具の前記拡大部の外周へ移動させて径方向に拡張させることと、
前記シャフト固定治具の前記リング保持部の外周面と前記リング拡張治具の前記拡大部の外周面とを前記円筒部の軸方向に接続させた状態で前記リング押込治具を前記リング拡張治具および前記シャフト固定治具に対して押し込み、前記リング拡張治具の前記拡大部の外周面に配置されて拡張された前記リテイニングリングを前記複数の弾性部によって前記シャフト固定治具の前記リング保持部の外周面へ移動させることと、
前記シャフト固定治具の前記円筒部に前記シャフトの前記第1端部を挿入して固定するとともに前記リング保持部の外周面と前記シャフトの前記第2端部の外周面とを前記円筒部の軸方向に接続させた状態で前記リング嵌装治具を前記円筒部の軸方向に移動させ、前記リング保持部の外周面に配置された前記リテイニングリングを前記リング嵌装治具の前記先端部によって前記第2端部の外周面へ移動させて前記第2溝に嵌装することと、
を含むことを特徴とするリング装着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リング装着治具およびリング装着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からリングをシャフトに装着するためのリング装着治具、リング装着方法、およびシャフトの製造方法に関する発明が知られている。下記特許文献1に記載された従来のリング装着治具は、大径部と、小径部と、接続部とを備えている(特許文献1、要約等)。上記大径部は、第1中心軸を有する。上記小径部は、その第1中心軸に対して偏心された第2中心軸を有し、上記大径部より小径である。上記接続部は、上記大径部と上記小径部との間にあり、上記小径部から上記大径部に向けて傾斜する傾斜面を有する。
【0003】
上記従来のリング装着方法では、上記シャフトの中心軸方向の端部に設けられ、そのシャフトの外周面の全周にわたって形成された溝部に、上記リング装着治具を用いてリングを装着する(特許文献1、請求項5等)。このリング装着方法では、まず、シャフトの外周面と同径に形成された上記大径部を具備する上記リング装着治具を用意する。次に、上記第1中心軸を中心軸と一致させ、上記大径部を上記シャフトの端部に接続させて上記リング装着治具を配置する。
【0004】
さらに、上記小径部上に上記リングを配置する。そして、上記リング装着治具を配置した後に、上記第2中心軸から上記偏心方向にある上記小径部上の位置に配置された上記リングの第1部分を、上記接続部上を摺動させて、上記溝部に係合させる。そして、上記第1部分を上記溝部に係合させた後に、上記リングの上記第1部分以外の第2部分を、上記第1部分に近い位置から順次、上記傾斜面上を摺動させて、上記溝部に係合させる。
【0005】
また、車両用エンジンのミッション組立ラインにおいて、ミッションシャフトの複数段の溝にそれぞれOリングを取り付けるための補助治具に関する発明が知られている。下記特許文献2に記載された従来のOリング取付治具は、ワークの所定部位に当接して位置決めされる治具本体と、この治具本体に対して多段式に位置変更可能なガイド部材を備えている。このガイド部材の外面は、Oリング取り付け用のガイド面にされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-182183号公報
【文献】特開2003-039257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来のリング装着治具およびリング装着方法は、シャフトの外周面に、リングを装着する目的の溝よりも手前に別の溝が形成されている場合、リングが目的の溝の手前の別の溝に嵌まり、リングを目的の溝に装着することができない。また、上記従来のOリング取付治具は、一般にゴム系の材料を素材とする径方向の拡張が容易なOリングを複数段の溝にそれぞれ装着することはできるが、径方向の拡張が困難な金属製のリテイニングリングを装着するのは困難である。
【0008】
本開示は、第1端部と第2端部にそれぞれ第1溝と第2溝を有するシャフトに対し、拡張前の内径が第1端部と第2端部の外径よりも小さい金属製のリテイニングリングを、第1端部から第1溝に装着することなく第2溝に装着可能なリング装着治具およびリング装着方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様は、第1端部と、該第1端部よりも外径が大きい第2端部と、前記第1端部および前記第2端部のそれぞれの外周面の周方向に設けられた第1溝および第2溝と、を有するシャフトに対し、拡張前の内径が前記第1端部の外径よりも小さい金属製のリテイニングリングを前記第1端部から前記第1溝に装着することなく前記第2端部の前記第2溝に装着するためのリング装着治具であって、拡張前の前記リテイニングリングの内径よりも小さい外径を有する小径端と、前記シャフトの前記第2端部の外径に対応する外径を有する拡大部と、前記小径端と前記拡大部とを接続するテーパ面と、前記シャフトの前記第1端部の外径に対応する外径を有する挿入部と、該挿入部と前記拡大部との間に形成された段差部と、を有するリング拡張治具と、前記シャフトの前記第1端部の外径に対応する内径を有する円筒部と、該円筒部の軸方向の先端に設けられて前記シャフトの前記第2端部の外径に対応する外径を有するリング保持部と、を有するシャフト固定治具と、円筒状の本体部と、該本体部の先端に設けられ前記リング拡張治具の前記小径端の外径に対応する内径を有する開口部と、前記本体部の先端から前記本体部の軸方向に延びる複数の分割溝と、該複数の分割溝の間に形成され前記本体部の径方向に弾性変形可能な複数の弾性部と、を有するリング押込治具と、前記シャフト固定治具の前記円筒部の外周に配置されて前記円筒部の軸方向に移動可能に設けられ、前記円筒部に前記シャフトの前記第1端部が挿入および固定されて前記シャフト固定治具の前記リング保持部の外周面と前記シャフトの前記第2端部の外周面とが前記円筒部の軸方向に接続された状態で前記リング保持部の外周面から前記第2端部の前記第2溝まで移動可能な先端部を有するリング嵌装治具と、を備えることを特徴とするリング装着治具である。
【0010】
本開示の別の一態様は、上記一態様に係るリング装着治具を用いて前記リテイニングリングを前記シャフトの前記第1端部から前記第1溝に装着することなく前記第2端部の前記第2溝に装着するリング装着方法であって、前記シャフト固定治具の前記円筒部に前記リング拡張治具の前記挿入部を挿入して前記シャフト固定治具の前記リング保持部の先端を前記リング拡張治具の前記段差部に当接させることで前記リング保持部の外周面と前記リング拡張治具の前記拡大部の外周面とを前記円筒部の軸方向に接続することと、前記リテイニングリングの内側に前記リング拡張治具の前記小径端を挿入して前記リング拡張治具の前記テーパ面に前記リテイニングリングを配置することと、前記リング押込治具の前記開口部に前記リング拡張治具の前記小径端を挿入して前記リング押込治具を前記リング拡張治具に対して押し込むことで、前記テーパ面に配置された前記リテイニングリングを前記リング押込治具の前記複数の弾性部によって前記リング拡張治具の前記拡大部の外周へ移動させて径方向に拡張させることと、前記シャフト固定治具の前記リング保持部の外周面と前記リング拡張治具の前記拡大部の外周面とを前記円筒部の軸方向に接続させた状態で前記リング押込治具を前記リング拡張治具および前記シャフト固定治具に対して押し込み、前記リング拡張治具の前記拡大部の外周面に配置されて拡張された前記リテイニングリングを前記複数の弾性部によって前記シャフト固定治具の前記リング保持部の外周面へ移動させることと、前記シャフト固定治具の前記円筒部に前記シャフトの前記第1端部を挿入して固定するとともに前記リング保持部の外周面と前記シャフトの前記第2端部の外周面とを前記円筒部の軸方向に接続させた状態で前記リング嵌装治具を前記円筒部の軸方向に移動させ、前記リング保持部の外周面に配置された前記リテイニングリングを前記リング嵌装治具の前記先端部によって前記第2端部の外周面へ移動させて前記第2溝に嵌装することと、を含むことを特徴とするリング装着方法である。
【発明の効果】
【0011】
本開示の上記各態様によれば、第1端部と第2端部にそれぞれ第1溝と第2溝を有するシャフトに対し、拡張前の内径が第1端部と第2端部の外径よりも小さい金属製のリテイニングリングを、第1端部から第1溝に装着することなく第2溝に装着可能なリング装着治具およびリング装着方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】本開示に係るリング装着治具の一実施形態を示す分解斜視図。
【
図5】
図4のリング装着治具を構成するリング拡張治具の近傍の拡大図。
【
図6】本開示に係るリング装着方法の実施形態を説明するフロー図。
【
図7】シャフト固定治具にシャフトの第1端部を固定する工程を説明する断面図。
【
図8】シャフトの第2溝にリテイニングリングを嵌装する工程を説明する断面図。
【
図9】リング装着治具およびリング装着方法の変形例を示す分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本開示に係るリング装着治具およびリング装着方法の実施形態を説明する。
【0014】
図1は、本開示に係るリング装着治具およびリング装着方法によって金属製のリテイニングリングRを装着するシャフトSの支持構造の一例を示す断面図である。
図2は、
図1に示すシャフトSの断面図である。
【0015】
シャフトSは、たとえば、円筒状または円柱状の金属製の部材であり、モータやエンジンなどの動力源から動力が伝達され、軸周りに回転する回転体である。シャフトSは、軸方向の一端に第1端部S1を有し、軸方向の他端に第2端部S2を有している。また、シャフトSの第2端部S2の先端には、フランジS3が設けられている。フランジS3は、シャフトSの第2端部S2の外径よりも外径が大きい円板状に設けられ、中央部に開口を有している。
【0016】
また、シャフトSは、たとえば、第1端部S1と第2端部S2との間に、第1端部S1よりも外径が小さい中間部S4を有している。また、シャフトSは、たとえば、第1端部S1を貫通する貫通孔S5を有している。貫通孔S5は、たとえば、第1端部S1の第2端部S2とは反対側の端面と第1溝S11との間に設けられ、シャフトSの中心を通るように、シャフトSの径方向に第1端部S1を貫通している。貫通孔S5は、シャフトSを後述するシャフト固定治具120(
図7参照)に固定する際に使用される。
【0017】
シャフトSは、第1端部S1と第2端部S2が、それぞれ、ベアリングB1,B2を介してハウジングHに回転可能に支持されている。シャフトSの第2端部S2の外径D2は、たとえば、ベアリングB1,B2の組付容易性の観点から、シャフトSの第1端部S1の外径D1よりも大きくされている。シャフトSの第1端部S1の外周面に第1溝S11が設けられ、シャフトSの第2端部S2の外周面に第2溝S21が設けられている。第1溝S11および第2溝S21は、たとえば、シャフトSの第1端部S1と第2端部S2の外周面の全周にわたって設けられている。
【0018】
リテイニングリングRは、拡張前の内径が、第1端部S1の外径D1よりも小さい。リテイニングリングRは、金属製の円環状の部材であり、弾性変形させて径方向に拡張させることが可能である。しかし、リテイニングリングRを径方向に拡張させるためには、ゴム製のOリングなどのシール材と比較して、非常に大きい力が必要となる。リテイニングリングRの種類は、特に限定はされないが、たとえば、二重巻きや多重巻きのスパイラルリングを使用することができる。
【0019】
リテイニングリングRは、径方向外側へ弾性変形させることで拡張され、シャフトSの第1端部S1の第1溝S11と第2端部S2の第2溝S21において復元し、第1溝S11と第2溝S21のそれぞれに嵌め込まれることで、シャフトSに装着される。シャフトSに装着されたリテイニングリングRは、シャフトSのスラスト荷重を受け、シャフトSやベアリングB1,B2がハウジングHに対してシャフトSの軸方向に移動することを防止する。
【0020】
図1および
図2に示す例において、シャフトSは、第1端部S1と第2端部S2にそれぞれ第1溝S11と第2溝S21を有しているが、第2端部S2にフランジS3が設けられている。そのため、第2端部S2の第2溝S21にリテイニングリングRを装着するためには、リテイニングリングRを、シャフトSの第1端部S1から第1溝S11を越えて第2端部S2まで移動させて第2溝S21に嵌め込む必要がある。しかし、拡張前の内径が第1端部S1の外径よりも小さい金属製のリテイニングリングRを、第1端部S1から第1溝S11に装着することなく第2溝S21に装着するのは、容易ではない。
【0021】
すなわち、後述する本実施形態のリング装着治具およびリング装着方法を使用しない場合、次のような課題が発生する。比較的に柔軟なOリング等のシール材と比較して、金属製のリテイニングリングRは、径方向の外側へ拡張させると、径方向の内側へ大きな弾性力が作用する。そのため、リテイニングリングRを径方向の外側へ拡張させてシャフトSの第1溝S11および第2溝S21に装着するのは困難である。
【0022】
また、径方向に拡張させたリテイニングリングRを、シャフトSの第1端部S1から第2端部S2の第2溝S21に装着しようとすると、目的の第2溝S21の手前の第1溝S11に嵌まってしまう場合がある。したがって、リテイニングリングRを確実に拡張させて目的の第2溝S21に嵌装するために、作業のやり直しが繰り返し発生し、リテイニングリングRの装着作業に長時間を要する。
【0023】
また、汎用工具では、リテイニングリングRを径方向に拡張させたり、シャフトSの軸方向に移動させたりするのに必要な力を発生することが困難である。したがって、リテイニングリングRの装着に大きな力と高度な技術が必要となるだけでなく、装着作業の負荷が大きくなり、作業の安全性が低下するおそれがある。以下、前述の課題を解決する本開示に係るリング装着治具およびリング装着方法の実施形態を説明する。
【0024】
図3は、本開示に係るリング装着治具の一実施形態を示す分解斜視図である。
図4は、
図3のリング装着治具100の断面図である。
図5は、
図4のリング装着治具100を構成するリング拡張治具110の近傍の拡大図である。本実施形態のリング装着治具100は、前述のように、第1端部S1と、第1端部S1よりも外径が大きい第2端部S2と、第1端部S1および第2端部S2のそれぞれの外周面の周方向に設けられた第1溝S11および第2溝S21と、を有するシャフトSに対し、金属製のリテイニングリングRを装着するのに使用される。
【0025】
より具体的には、本実施形態のリング装着治具100は、拡張前の内径がシャフトSの第1端部S1の外径よりも小さい金属製のリテイニングリングRを、シャフトSの第1端部S1から第1溝S11に装着することなく第2端部S2の第2溝S21に装着するのに使用される。リング装着治具100は、たとえば、リング拡張治具110と、シャフト固定治具120と、リング押込治具130と、リング嵌装治具140とを備えている。
【0026】
リング拡張治具110は、たとえば、概して円柱状または円筒状の形状を有している。
図3から
図5に示す例において、リング拡張治具110は、たとえば、軸方向の長さが外径よりも小さい円筒状の形状を有し、軸方向の両端に開口を有する金属製の中空の部材である。
図5に示すように、リング拡張治具110は、たとえば、小径端111と、拡大部112と、テーパ面113と、挿入部114と、段差部115とを有している。
【0027】
リング拡張治具110の小径端111は、たとえば、円筒状のリング拡張治具110の軸方向の一方の端部であり、拡張前のリテイニングリングRの内径よりも小さい外径を有している。すなわち、リング拡張治具110の小径端111は、リテイニングリングRの内側に挿入することができるようになっている。また、小径端111の外縁の角部は、面取り加工が施されている。
【0028】
リング拡張治具110の拡大部112は、シャフトSの第2端部S2の外径D2に対応する外径を有している。ここで、シャフトSの第2端部S2の外径D2に対応する外径とは、たとえば、第2端部S2の外径D2に等しい外径と、第2端部S2の外径D2との差が所定の公差の範囲内である外径を含む。換言すると、シャフトSの第2端部S2の外径D2に対応する外径とは、第2端部S2の外径D2と実質的に同一の外径である。拡大部112の外周面は、リング拡張治具110の軸方向に平行な円筒状の面である。
【0029】
リング拡張治具110のテーパ面113は、小径端111と拡大部112とを接続する面である。テーパ面113は、たとえば、リング拡張治具110と中心軸を共有する円錐台の側面であり、拡大部112から小径端111まで一定の割合で外径が減少するテーパ形状を有している。テーパ面113の小径端111と反対側の端部は、拡大部112の外周面に滑らかに接続している。テーパ面113は、後述するように、リテイニングリングRを径方向に拡張させるために使用される。
【0030】
リング拡張治具110の挿入部114は、リング拡張治具110の小径端111と反対側の端部に設けられた円柱状または円筒状の部分である。挿入部114の外周面は、たとえば、リング拡張治具110の中心軸に平行な円筒状の面である。リング拡張治具110の小径端111と反対側の挿入部114の端部において、挿入部114の外縁部の角部には、面取り加工が施されている。リング拡張治具110の挿入部114は、シャフト固定治具120の円筒部121の内側に挿入される。
【0031】
挿入部114は、シャフトSの第1端部S1の外径D1に対応する外径を有している。ここで、シャフトSの第1端部S1の外径D1に対応する外径とは、たとえば、第1端部S1の外径D1に等しい外径と、第1端部S1の外径D1との差が所定の公差の範囲内である外径を含む。換言すると、シャフトSの第1端部S1の外径D1に対応する外径とは、第1端部S1の外径D1と実質的に同一の外径である。すなわち、シャフトSの第1端部S1の外径D1に対応する挿入部114の外径は、シャフトSの第2端部S2の外径D2に対応する拡大部112の外径よりも小さい。
【0032】
リング拡張治具110の段差部115は、挿入部114と拡大部112との間に形成されている。段差部115は、たとえば、拡大部112の外周面とテーパ面113の外周面との間に形成され、リング拡張治具110の軸方向に垂直で、リング拡張治具110の径方向に平行な円環状の面である。段差部115は、リング拡張治具110の挿入部114がシャフト固定治具120の円筒部121に挿入されたときに、シャフト固定治具120のリング保持部122の先端に当接する。
【0033】
シャフト固定治具120は、たとえば、概して円筒状の形状を有する金属製の部材である。シャフト固定治具120は、リング拡張治具110またはシャフトSの一部が挿入されることで、リング拡張治具110またはシャフトSを支持および固定する。シャフト固定治具120は、たとえば、円筒部121と、リング保持部122と、を有している。また、
図3および
図4に示す例において、シャフト固定治具120は、フランジ123と、固定ピン124と、を有している。
【0034】
円筒部121は、シャフトSの第1端部S1の外径D1に対応する内径を有する円筒状の部分である。ここで、シャフトSの第1端部S1の外径D1に対応する内径とは、たとえば、第1端部S1の外径D1から所定の負の公差を有する内径を含む。換言すると、シャフトSの第1端部S1の外径D1に対応する内径とは、円筒部121にシャフトSの第1端部S1が挿入されたときに、第1端部S1の外周面と円筒部121の内周面との間に所定の公差の範囲の隙間が形成される内径である。
【0035】
円筒部121は、軸方向におけるリング保持部122と反対側の端部に、貫通孔121aを有している。貫通孔121aは、円筒部121に挿入されるシャフトSの第1端部S1に設けられた貫通孔S5の位置および大きさに対応して設けられ、固定ピン124を挿通させる。すなわち、円筒部121にシャフトSの第1端部S1を挿入し、第1端部S1の貫通孔S5と円筒部121の貫通孔121aの位置を合わせ、これらの貫通孔S5,121aに固定ピン124を挿通させる。これにより、シャフトSをシャフト固定治具120の円筒部121に固定することができる(
図7参照)。
【0036】
シャフト固定治具120の軸方向における円筒部121とリング保持部122の合計の寸法は、シャフトSの軸方向における第1端部S1の端面から第2端部S2までの寸法に等しくなっている。すなわち、シャフト固定治具120の円筒部121にシャフトSの第1端部S1および中間部S4を挿入して、シャフトSをシャフト固定治具120に固定した状態で、シャフトSの第2端部S2の外周面の全体が、シャフト固定治具120から露出する(
図7参照)。
【0037】
シャフト固定治具120のリング保持部122は、円筒部121の軸方向の先端に設けられ、前述のリング拡張治具110の拡大部112と同様に、シャフトSの第2端部S2の外径に対応する外径を有している。すなわち、リング保持部122の外径は、シャフトSの第2端部S2の外径およびリング拡張治具110の拡大部112の外径と、実質的に同一である。
【0038】
また、リング保持部122は、前述の円筒部121と同様に、リング拡張治具110の挿入部114の外径およびシャフトSの第1端部S1の外径D1に対応する内径を有している。すなわち、リング保持部122の内径は、リング拡張治具110の挿入部114の外径およびシャフトSの第1端部S1の外径D1よりも所定の公差だけ小さく、リング拡張治具110の挿入部114およびシャフトSの第1端部S1を挿入して保持できる内径に設定されている。
【0039】
すなわち、リング保持部122の外径と内径との差である肉厚は、シャフトSの第2端部S2の外径D2と第1端部S1の外径D1との差に実質的に等しい。また、
図5に示すように、リング保持部122の肉厚は、リング拡張治具110の拡大部112と挿入部114との外径の差、すなわち、リング拡張治具110の径方向における段差部115の高さに実質的に等しい。
【0040】
フランジ123は、円筒部121の軸方向において、リング保持部122とは反対側の端部に設けられている。フランジ123は、たとえば、
図3に示すように、円筒部121の外径よりも縦横の寸法が大きい矩形の板状に形成され、
図4に示すように、中央部に開口を有している。フランジ123は、たとえば、円筒部121の軸方向にフランジ123を貫通する複数の貫通孔を有している。シャフト固定治具120は、たとえば、フランジ123に挿通させたボルトを、床に固定された支柱などの支持構造体Fのネジ穴にねじ込んで締結することで、支持構造体Fに固定される。
【0041】
固定ピン124は、シャフト固定治具120の円筒部121に設けられた貫通孔121aと、円筒部121に挿入されるシャフトSの第1端部S1に設けられた貫通孔S5に挿通される丸棒状または円柱状の部材である。固定ピン124は、軸方向の一端と他端に、それぞれ、テーパ形状を有する先端部124aと、径方向の寸法が他の部分よりも拡大された円柱状の基端部124bと、を有している。
【0042】
リング押込治具130は、リング拡張治具110のテーパ面113に配置されたリテイニングリングRを、リング拡張治具110の軸方向に拡大部112へ向けて押し込んで径方向に拡張させるのに使用される。また、リング押込治具130は、リング拡張治具110の拡大部112の外周面に配置された拡張されたリテイニングリングRを、リング拡張治具110の軸方向に押し込んで、シャフト固定治具120のリング保持部122の外周面へ移動させるのに使用される。
【0043】
リング押込治具130は、本体部131と、開口部132と、複数の分割溝133と、複数の弾性部134と、を有している。また、
図3および
図4に示す例において、リング押込治具130は、ハンドル135を有している。本体部131は、たとえば、金属製または樹脂製の有底円筒状の部材である。開口部132は、本体部131の先端131aに設けられ、リング拡張治具110の小径端111の外径に対応する内径を有している。
【0044】
ここで、リング拡張治具110の小径端111の外径に対応する内径とは、所定の公差だけ小径端111の外径よりも大きくされて小径端111を挿入可能な内径であり、小径端111の外径と実質的に同一の内径である。このような構成により、リング押込治具130によってリテイニングリングRを押し込むときに、リング押込治具130の開口部132の内側にリング拡張治具110の小径端111を容易に導入することができる。
【0045】
リング押込治具130の複数の分割溝133は、本体部131の先端131aから本体部131の軸方向に延びている。また、複数の分割溝133は、たとえば、本体部131の周方向において等間隔に設けられている。複数の分割溝133は、たとえば、開口部132が設けられた本体部131の先端131aから、本体部131の底部131bの近傍まで延びている。各々の分割溝133は、たとえば、本体部131の底部131bの近傍の端部に拡張部133aを有している。拡張部133aは、たとえば、各々の分割溝133の幅よりも大きい直径を有する円形の貫通孔である。
【0046】
リング押込治具130の複数の弾性部134は、複数の分割溝133の間に形成され、本体部131の径方向に弾性変形可能な構成を有している。より具体的には、各々の分割溝133の肉厚は、本体部131の開口部132にリング拡張治具110の小径端111を挿入してリング押込治具130を押し込んだときに、テーパ面113の外径の拡大に応じて本体部131の径方向の外側へ容易に弾性変形可能な厚さに設定されている。
【0047】
また、各々の分割溝133が拡張部133aを有することで、本体部131の先端131aとは反対側の各々の弾性部134の固定端の幅が減少し、各々の弾性部134を本体部131の径方向の外側へ容易に弾性変形させることが可能になる。また、複数の弾性部134の自由端である本体部131の先端131aにおいて、各々の弾性部134の肉厚が他の部分よりも増加している。本体部131の先端131aにおける各々の弾性部134の肉厚は、たとえば、リテイニングリングRの径方向の幅、すなわち、リテイニングリングRの外径と内径との差とおおむね等しくなっている。
【0048】
リング嵌装治具140は、シャフト固定治具120の円筒部121の外周に配置されて円筒部121の軸方向に移動可能に設けられている。後述するように、シャフト固定治具120は、円筒部121にシャフトSの第1端部S1が挿入および固定されて、リング保持部122の外周面とシャフトSの第2端部S2の外周面とが円筒部121の軸方向に接続された状態になる(
図7参照)。この状態で、リング嵌装治具140は、シャフト固定治具120のリング保持部122の外周面からシャフトSの第2端部S2の第2溝S21まで移動可能に設けられた先端部141aを有している(
図7および
図8参照)。
【0049】
より詳細には、
図3に示すように、リング嵌装治具140は、たとえば、円筒状の本体部141と、その本体部141の両側に取り付けられたハンドル142とを有している。本体部141は、たとえば、
図4に示すように、シャフト固定治具120の円筒部121の外径に対応する内径を有し、シャフト固定治具120の円筒部121の周囲に配置され、軸方向に移動可能に設けられている。
【0050】
ここで、シャフト固定治具120の円筒部121の外径に対応する内径とは、円筒部121の外径よりも所定の公差だけ大きい内径である。本体部141がこのような内径を有することで、本体部141の先端部141aと反対側の端部の開口からシャフト固定治具120の円筒部121を挿入し、シャフト固定治具120の円筒部121の周囲にリング嵌装治具140の本体部141を配置することができる。
【0051】
また、リング嵌装治具140の本体部141がシャフト固定治具120の円筒部121の外径に対応する内径を有することで、シャフト固定治具120の円筒部121とリング嵌装治具140の本体部141とを軸方向に相対的に移動させることができる。
図5に示すように、リング嵌装治具140の本体部141の先端部141aに設けられた開口部141bの内径は、本体部141の内径よりも小さくされ、シャフト固定治具120のリング保持部122の外径よりもわずかに大きくされている。
【0052】
これにより、本体部141の先端部141aは、本体部141の径方向の外側から内側へ延びる円環状の壁を形成している。この先端部141aの内側の壁面が、シャフト固定治具120の円筒部121とリング保持部122との間の段差に当接することで、本体部141の軸方向において支持構造体Fへ近づく方向のリング嵌装治具140の移動が規制される。また、本体部141の先端部141aの外側の壁面が、シャフト固定治具120のリング保持部122の外周面に配置されたリテイニングリングRに当接するようになっている(
図7参照)。
【0053】
本体部141の軸方向における先端部141aと反対側の端部には、たとえば、
図3に示すように、本体部141の外径よりも外径が大きいフランジ141cが設けられている。この本体部141のフランジ141cの両側に、ボルトなどの締結部材によってハンドル142が取り付けられている。このハンドル142を把持して、本体部141の軸方向において支持構造体Fから遠ざかる方向に力を加える。これにより、前述のように、本体部141の先端部141aを、シャフト固定治具120のリング保持部122の外周面からシャフトSの第2端部S2の第2溝S21まで移動させることができる(
図7および
図8参照)。
【0054】
次に、
図6から
図8までを参照して、本開示に係るリング装着方法の実施形態を説明する。
図6は、本開示に係るリング装着方法の実施形態を説明するフロー図である。本実施形態のリング装着方法Mは、前述のリング装着治具100を用いてリテイニングリングRをシャフトSの第1端部S1から第1溝S11に装着することなく第2端部S2の第2溝S21に装着する方法である。
【0055】
図6に示すように、本実施形態のリング装着方法Mでは、たとえば、シャフト固定治具120にリング拡張治具110を挿入する工程P1を実施する。この工程P1では、
図5に示すように、シャフト固定治具120の円筒部121に、リング拡張治具110のリング嵌装治具140を挿入する。そして、シャフト固定治具120のリング保持部122の先端を、リング拡張治具110の段差部115に当接させることで、リング保持部122の外周面と、リング拡張治具110の拡大部112の外周面とを、円筒部121の軸方向に接続する。
【0056】
次に、リング拡張治具110のテーパ面113にリテイニングリングRを配置する工程P2を実施する。この工程P2では、
図5に示すように、リテイニングリングRの内側にリング拡張治具110の小径端111を挿入して、リング拡張治具110のテーパ面113にリテイニングリングRを配置する。
【0057】
次に、リング拡張治具110の拡大部112の外周面にリテイニングリングRを移動させる工程P3を実施する。この工程P3では、リング押込治具130の開口部132にリング拡張治具110の小径端111を挿入してリング押込治具130をリング拡張治具110に対して押し込む。これにより、リング拡張治具110のテーパ面113に配置されたリテイニングリングRを、リング押込治具130の複数の弾性部134によって、リング拡張治具110の拡大部112の外周へ移動させて径方向に拡張させる。
【0058】
このとき、リング押込治具130は、リング拡張治具110に対して本体部131の軸方向に相対的に移動する。すると、リング押込治具130の複数の弾性部134は、本体部131の開口部132の内側のリング拡張治具110の外径がテーパ面113によって増加するのに応じて、本体部131の径方向外側へ弾性変形する。それと同時に、リング押込治具130の複数の弾性部134は、先端131aがリテイニングリングRに当接して、リテイニングリングRをリング拡張治具110の軸方向へ押し込む。これにより、リテイニングリングRをリング拡張治具110のテーパ面113に沿って滑らせて拡大部112の外周面に移動させることができる。
【0059】
次に、リング拡張治具110の拡大部112の外周面からシャフト固定治具120のリング保持部122の外周面へリテイニングリングRを移動させる工程P4を実施する。この工程P4は、
図5に示すように、シャフト固定治具120のリング保持部122の外周面と、リング拡張治具110の拡大部112の外周面とが、本体部141の軸方向に接続された状態で実施される。
【0060】
また、この工程P4は、前の工程P3によってリテイニングリングRがリング拡張治具110のテーパ面113によって拡張されて拡大部112の外周面に配置された状態で開始される。このとき、リング押込治具130の複数の弾性部134は、先端131aが拡大部112の外周面に位置し、本体部131の径方向の外側に弾性変形した状態にされる。この状態で、リング押込治具130の複数の弾性部134の先端131aを拡大部112の外周面上のリテイニングリングRに押し当て、リング押込治具130をリング拡張治具110およびシャフト固定治具120に対して押し込む。
【0061】
これにより、リテイニングリングRは、リング押込治具130の複数の弾性部134によってリング拡張治具110の軸方向に押され、
図5に示すリング拡張治具110の拡大部112の外周面からシャフト固定治具120のリング保持部122の外周面上へ、各外周面上を滑りながら移動する。その後、リテイニングリングRをシャフト固定治具120のリング保持部122の外周面に保持させた状態で、シャフト固定治具120の円筒部121からリング拡張治具110の挿入部114を抜き取って、シャフト固定治具120からリング拡張治具110を取り外す。
【0062】
次に、シャフト固定治具120にシャフトSの第1端部S1を挿入して固定する工程P5を実施する。
図7は、工程P5の終了時のリング装着治具100およびシャフトSの断面図である。この工程P5の開始時には、シャフト固定治具120のリング保持部122の外周面上に拡張されたリテイニングリングRが保持され、シャフト固定治具120からリング拡張治具110が取り外された状態になっている。
【0063】
この状態で、シャフト固定治具120の貫通孔121aから固定ピン124を抜き取り、シャフト固定治具120のリング保持部122の内側の開口にシャフトSの第1端部S1を挿入する。そして、シャフトSの第1端部S1が円筒部121の奥のフランジ123に突き当たるまで、シャフトSを円筒部121へ挿入していく。
【0064】
これにより、リテイニングリングRを径方向に拡張させた状態で、シャフトSの第1端部S1から第1溝S11に装着することなく、第2端部S2の近傍まで移動させることができる。その後、シャフトSの貫通孔S5と円筒部121の貫通孔121aの位置を合わせ、これらの貫通孔S5,121aに固定ピン124を挿通させ、シャフトSの第1端部S1をシャフト固定治具120の円筒部121に固定する。
【0065】
次に、シャフトSの第2端部S2の第2溝S21にリテイニングリングRを嵌装する工程P6を実施する。この工程P6の開始時には、
図7に示すように、シャフト固定治具120のリング保持部122の外周面とシャフトSの第2端部S2の外周面とが、シャフト固定治具120の円筒部121の軸方向に接続された状態になっている。すなわち、シャフト固定治具120の円筒部121とリング保持部122の軸方向における合計の長さは、シャフトSの第1端部S1と中間部S4の長さに等しくなっている。
【0066】
そのため、前の工程P5でシャフトSの第1端部S1をシャフト固定治具120の円筒部121に挿入して固定すると、シャフトSの第2端部S2の全体がシャフト固定治具120から露出する。そして、シャフトSの第2端部S2の外周面とシャフト固定治具120のリング保持部122の外周面とが円筒部121の軸方向に接続された状態になる。工程P6では、この状態で、リング嵌装治具140をシャフト固定治具120の円筒部121の軸方向に移動させる。
【0067】
図8は、工程P6の終了時のリング装着治具100およびシャフトSの断面図である。この工程P6では、たとえば、リング嵌装治具140の両側のハンドル142を把持し、支持構造体Fから離れる方向に力を加える。これにより、リング嵌装治具140の本体部141の先端部141aが、シャフト固定治具120のリング保持部122の外周面からシャフトSの第2端部S2の第2溝S21まで移動する。
【0068】
その結果、リテイニングリングRが、リング嵌装治具140の本体部141の先端部141aに押され、シャフト固定治具120のリング保持部122の外周面と、シャフトSの第2端部S2の外周面の上を滑りながら移動して、第2溝S21に嵌装される。以上により、リング装着治具100を用いて、リテイニングリングRを、シャフトSの第1端部S1から、第1溝S11に装着することなく、第2端部S2の第2溝S21に装着することができる。
【0069】
以上のように、本実施形態のリング装着治具100によってリテイニングリングRが装着されるシャフトSは、第1端部S1と、その第1端部S1よりも外径が大きい第2端部S2と、それら第1端部S1および第2端部S2のそれぞれの外周面の周方向に設けられた第1溝S11および第2溝S21と、を有する。リング装着治具100は、拡張前の内径が第1端部S1の外径よりも小さい金属製のリテイニングリングRを第1端部S1から第1溝S11に装着することなく第2端部S2の第2溝S21に装着するために用いられる。リング装着治具100は、リング拡張治具110と、シャフト固定治具120と、リング押込治具130と、リング嵌装治具140とを備えている。リング拡張治具110は、拡張前のリテイニングリングRの内径よりも小さい外径を有する小径端111と、シャフトSの第2端部S2の外径に対応する外径を有する拡大部112と、これら小径端111と拡大部112とを接続するテーパ面113と、シャフトSの第1端部S1の外径に対応する外径を有する挿入部114と、その挿入部114と拡大部112との間に形成された段差部115と、を有する。シャフト固定治具120は、シャフトSの第1端部S1の外径に対応する内径を有する円筒部121と、その円筒部121の軸方向の先端に設けられてシャフトSの第2端部S2の外径に対応する外径を有するリング保持部122と、を有する。リング押込治具130は、円筒状の本体部131と、その本体部131の先端に設けられリング拡張治具110の小径端111の外径に対応する内径を有する開口部132と、本体部131の先端131aから本体部131の軸方向に延びる複数の分割溝133と、その複数の分割溝133の間に形成され本体部131の径方向に弾性変形可能な複数の弾性部134と、を有する。リング嵌装治具140は、シャフト固定治具120の円筒部121の外周に配置されて円筒部121の軸方向に移動可能に設けられている。リング嵌装治具140は、円筒部121にシャフトSの第1端部S1が挿入および固定されてシャフト固定治具120のリング保持部122の外周面とシャフトSの第2端部S2の外周面とが円筒部121の軸方向に接続された状態でリング保持部122の外周面から第2端部S2の第2溝S21まで移動可能な先端部141aを有する。
【0070】
また、本実施形態のリング装着方法Mは、前述のリング装着治具100を用いてリテイニングリングRをシャフトSの第1端部S1から第1溝S11に装着することなく第2端部S2の第2溝S21に装着する方法であり、以下の作業、手順、または工程を含む。シャフト固定治具120の円筒部121にリング拡張治具110の挿入部114を挿入してシャフト固定治具120のリング保持部122の先端をリング拡張治具110の段差部115に当接させる。そして、リング保持部122の外周面とリング拡張治具110の拡大部112の外周面とを円筒部121の軸方向に接続する(工程P1)。リテイニングリングRの内側にリング拡張治具110の小径端111を挿入してリング拡張治具110のテーパ面113にリテイニングリングRを配置する(工程P2)。リング押込治具130の開口部132にリング拡張治具110の小径端111を挿入してリング押込治具130をリング拡張治具110に対して押し込む。そして、テーパ面113に配置されたリテイニングリングRをリング押込治具130の複数の弾性部134によってリング拡張治具110の拡大部112の外周へ移動させて径方向に拡張させる(工程P3)。シャフト固定治具120のリング保持部122の外周面とリング拡張治具110の拡大部112の外周面とを円筒部121の軸方向に接続させた状態でリング押込治具130をリング拡張治具110およびシャフト固定治具120に対して押し込む。そして、リング拡張治具110の拡大部112の外周面に配置されて拡張されたリテイニングリングRを複数の弾性部134によってシャフト固定治具120のリング保持部122の外周面へ移動させる(工程P4)。シャフト固定治具120の円筒部121にシャフトSの第1端部S1を挿入して固定するとともにリング保持部122の外周面とシャフトSの第2端部S2の外周面とを円筒部121の軸方向に接続させた状態にする(工程P5)。この状態で、リング嵌装治具140を円筒部121の軸方向に移動させ、リング保持部122の外周面に配置されたリテイニングリングRをリング嵌装治具140の先端部141aによってシャフトSの第2端部S2の外周面へ移動させて第2溝S21に嵌装する(工程P6)。
【0071】
このような構成により、本実施形態のリング装着治具100およびリング装着方法Mによれば、拡張前の内径がシャフトSの第1端部S1の外径よりも小さく、径方向に拡張させるのが困難な金属製のリテイニングリングRを、リング拡張治具110とリング押込治具130によって容易に拡張させることができる。また、拡張されたリテイニングリングRを、シャフトSの第2端部S2の外径に対応する外径を有するリング拡張治具110の拡大部112の外周面に保持することができる。
【0072】
さらに、リング拡張治具110の拡大部112の外周面と、その拡大部112と同様にシャフトSの第2端部S2の外径に対応する外径を有するシャフト固定治具120のリング保持部122の外周面とを、円筒部121の軸方向に接続することができる。これにより、拡大部112の外周面に保持された拡張されたリテイニングリングRを、リング押込治具130によって押し込んで、シャフト固定治具120のリング保持部122の外周面へ、容易に移動させることができる。
【0073】
そのため、リング保持部122の外周面に拡張されたリテイニングリングRを保持した状態で、シャフト固定治具120の円筒部121にシャフトSの第1端部S1を挿入して固定することができる。これにより、拡張されたリテイニングリングRを、シャフトSの第1端部S1から、第1溝S11に装着することなく、第2端部S2の近傍まで容易に移動させることができ、作業のやり直しをなくして作業時間を短縮することができる。
【0074】
また、シャフトSの第2端部S2の外径に対応する外径を有するリング保持部122の外周面と、シャフトSの第2端部S2の外周面とを、シャフトSの軸方向に接続することができる。さらに、リング嵌装治具140の先端部141aをシャフト固定治具120の円筒部121の外周面からシャフトSの第2端部S2の外周面の第2溝S21まで移動させることで、リテイニングリングRを第2溝S21に装着することができる。これにより、リテイニングリングRの装着に大きな力と高度な技術が不要になり、装着作業の負荷を軽減して、作業の安全性を向上させることができる。
【0075】
以上のように、本実施形態によれば、第1端部S1と第2端部S2にそれぞれ第1溝S11と第2溝S21を有するシャフトSに対し、拡張前の内径が第1端部S1と第2端部S2の外径よりも小さい金属製のリテイニングリングRを、第1端部S1から第1溝S11に装着することなく、第2溝S21に装着可能なリング装着治具100およびリング装着方法Mを提供することができる。
【0076】
なお、本開示に係るリング装着治具およびリング装着方法は、前述の実施形態に限定されない。以下、前述の実施形態に係る
図1から
図8までを用い、
図9を参照して、前述の実施形態に係るリング装着治具100およびリング装着方法Mの変形例を説明する。本変形例のリング装着治具100は、前述のリング拡張治具110、シャフト固定治具120、リング押込治具130、およびリング嵌装治具140に加えて、
図9に示す補助治具150を備えている。
【0077】
補助治具150は、たとえば、リング拡張治具110の拡大部112の外径よりも大きい外径を有する円板状または円筒状の部材である。補助治具150は、中央部にリング拡張治具110の挿入部114の外径および軸方向の長さに対応する内径および深さを有し、挿入部114を挿入可能な貫通孔を有している。
【0078】
本変形例のリング装着方法Mは、
図6に示す工程P1の前に、工程P2および工程P3を実施する点で、前述の実施形態に係るリング装着方法Mと異なっている。より具体的には、工程P2において、
図9に示すように、補助治具150を床面に配置して、補助治具150の貫通孔にリング拡張治具110の挿入部114を挿入し、リング拡張治具110の小径端111を上に向けて配置する。そして、リング拡張治具110の小径端111をリテイニングリングRの内側に挿入してリング拡張治具110のテーパ面113の上にリテイニングリングRを配置する。
【0079】
次に、工程P3において、下に向けたリング押込治具130の開口部132にリング拡張治具110の小径端111を挿入し、リング押込治具130のハンドル135に下方へ向けて力をかけて、リテイニングリングRを拡大部112の外周面まで移動させる。これにより、作業員は、自身の体重を利用してリング押込治具130のハンドル135に力をかけることができ、より容易にリテイニングリングRを径方向に拡張させることができる。その後、
図6に示す工程P1および工程P4から工程P6までを実施する。
【0080】
本変形例の実施形態のリング装着治具100およびリング装着方法Mによれば、前述の実施形態のリング装着治具100およびリング装着方法Mと同様の効果を奏することができるだけでなく、より容易にリテイニングリングRを径方向に拡張させることができる。
【0081】
以上、図面を用いて本開示に係るリング装着治具およびリング装着方法の実施形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本開示に含まれるものである。
【符号の説明】
【0082】
M リング装着方法
R リテイニングリング
S シャフト
S1 第1端部
S11 第1溝
S2 第2端部
S21 第2溝
100 リング装着治具
110 リング拡張治具
111 小径端
112 拡大部
113 テーパ面
114 挿入部
115 段差部
120 シャフト固定治具
121 円筒部
122 リング保持部
130 リング押込治具
131 本体部
131a 先端
132 開口部
133 分割溝
134 弾性部
140 リング嵌装治具
141a 先端部