(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】電気電子包装材用熱可塑性樹脂組成物および電気電子包装材
(51)【国際特許分類】
H01L 21/673 20060101AFI20240814BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20240814BHJP
C08L 57/00 20060101ALI20240814BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240814BHJP
B65D 85/38 20060101ALI20240814BHJP
B65D 85/30 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
H01L21/68 T
C08L101/00
C08L57/00
C08K3/04
B65D85/38 310
B65D85/30 500
(21)【出願番号】P 2023134784
(22)【出願日】2023-08-22
【審査請求日】2024-04-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大川 萌
(72)【発明者】
【氏名】小林 悠太
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 将史
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2023/0193003(US,A1)
【文献】特開2020-123720(JP,A)
【文献】特許第6781998(JP,B1)
【文献】国際公開第2015/087416(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/029152(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/013536(WO,A1)
【文献】特開2021-150476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/673
C08L 101/00
C08L 57/00
C08K 3/04
B65D 85/38
B65D 85/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料と熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物であって、
炭素材料はカーボンナノチューブ(A1)とカーボンブラック(A2)を含み、
熱可塑性樹脂はシクロオレフィンポリマー(B1)とエラストマー(B2)を含み、
カーボンナノチューブ(A1)は、下記(1)および(2)を満たし、
熱可塑性樹脂組成物は、下記式(I)で表される成形収縮率差ΔTが0.10%以下であることを特徴とする、
電気電子包装材用熱可塑性樹脂組成物。
式(I) ΔT=|T
1-T
0|
(式(I)中、
T
1は、熱可塑性樹脂組成物を射出成形した際の成形収縮率(%)であり、
T
0は、シクロオレフィンポリマー(B1)を射出成形した際の成形収縮率(%)である。)
(1)平均直径が1~50nmである。
(2)ラマンスペクトルにおける1560~1600cm
-1の範囲内での最大ピーク強度G、1310~1350cm
-1の範囲内での最大ピーク強度Dの比率(G/D比)が0.5~2.0である。
【請求項2】
カーボンナノチューブ(A1)とカーボンブラック(A2)の含有率の合計が、熱可塑性樹脂組成物100質量%を基準として、13質量%以下である、請求項1記載の電気電子包装材用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
エラストマー(B2)の含有率が、熱可塑性樹脂組成物100質量%を基準として、4質量%以下である、請求項1記載の電気電子包装材用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
エラストマー(B2)は、オレフィン系エラストマーおよびスチレン系エラストマーの少なくともいずれかである、請求項1記載の電気電子包装材用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
カーボンブラック(A2)のBET比表面積が1000m
2/g以下である、請求項1記載の電気電子包装材用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
シクロオレフィンポリマー(B1)の引張破断歪みが5%以上である、請求項1記載の電気電子包装材用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
ISO3167に準拠して熱可塑性樹脂組成物から多目的試験片A型を成形し、さらにISO2818に準拠して加工して得られたノッチ付きの成形体を用いて、ISO179-1に準拠して測定されたシャルピー衝撃強度が、2.0kJ/m
2以上である、請求項1記載の電気電子包装材用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
熱可塑性樹脂組成物を用いて形成した、厚み3mmの成形体の表面の最大高さSzが、50μm以下である、請求項1記載の電気電子包装材用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8いずれか1項記載の電気電子包装材用熱可塑性樹脂組成物から形成してなる電気電子包装材。
【請求項10】
表面抵抗率が1×10
4~1×10
12Ω/□である、請求項9記載の電気電子包装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気電子部品用の包装材を形成するために用いられる熱可塑性樹脂組成物、および電気電子包装材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、OA機器や電子機器等の小型軽量化や高集積化、高精度化が進んでいる。これらに用いられる電気電子部品は、塵やほこりが付着すると、接点不良や読みとりエラー等の問題を起こしてしまう。そのため、塵やほこりの付着を極力低減させる必要があり、さらなる小型軽量化や高集積化、高精度化に伴い、その要求が一層厳しくなっている。例えば、半導体に使われるICチップや、ウエハー、コンピューターに使われるハードディスクの内部部品等はその最たる例である。通常、これらの部品の製造や組立ては、塵やほこりの極めて少ない、いわゆるクリーンルーム内で行われているが、搬送時には外気にさらされるため、ここでの塵やほこりの付着が問題となる。
【0003】
そのため、これら電気電子部品の搬送等に用いられる電気電子包装材にも高い帯電防止性が要求される。
電気電子包装材としては、例えばシリコンウェーハを安全でクリーンに保持、搬送するFOUP(Front-Opening Unified Pod)やFOSB(Front Opening Shipping Box)、ICチップ等の半導体を搬送する際に用いられるICトレイやエンボスキャリアテープ、電子部品の回路パターン等を被転写対象に転写する際の原版となるフォトマスクを搬送するフォトマスクケース、半導体製造の前工程にて使用されるレチクルを収納しておくRSP(Reticle SMIF Pod)などが挙げられる。
【0004】
このような、電気電子部品を収納あるいは運搬するために使用される電気電子包装材を形成するための熱可塑性樹脂組成物として、特許文献1には、ポリカーボネート樹脂と、導電性カーボンブラックを用いた熱可塑性樹脂組成物が、特許文献2には、芳香族ポリカーボネート樹脂と、カーボンナノチューブを用いた樹脂組成物が、特許文献3、4、5には環状オレフィン樹脂とカーボンブラック、炭素繊維、またはグラフェンを用いた樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-141130号公報
【文献】特開2010-155929号公報
【文献】特開2011-006534号公報
【文献】特開2013-231171号公報
【文献】特開2020-123720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これら従来の熱可塑性樹脂組成物による電気電子包装材では、近年のOA機器や電子機器等の小型軽量化や高集積化、高精度化に対応できるだけの、帯電防止性、高クリーン性、さらに生産性向上と成形性等の製品性能との全てを兼ね備えているとは言えない。
【0007】
例えば、特許文献1のように、導電性のカーボンブラックとポリカーボネート樹脂を用いた場合、カーボンブラックにより電気抵抗を下げることができるが、一般に求められる帯電防止性を叶えるために、高導電性を有するためには、カーボンブラックだけではある程度多くの添加量が必要となる。それにより、耐衝撃性等の機械的強度の低下、成形性の低下、カーボンブラックの露出による外観の悪化といった問題がおこる。また、成形条件やリサイクルによる導電性のバラつきが大きく、さらに接触・摩擦時の摩耗によるカーボンブラックの脱離が発生し、脱離したカーボンブラックが、ICチップや、ウエハー、コンピューターに使われるハードディスクの内部部品といった電気電子部品に付着して、誤作動を引き起こす場合がある。
【0008】
特許文献2のように、カーボンナノチューブを用いる場合、カーボンナノチューブを熱可塑性樹脂に練り込む際、カーボンナノチューブによる増粘効果により、熱可塑性樹脂組成物の流動性が低下することで分配不良が発生し、均一な帯電防止性を達成することが難しいという問題がある。さらに、帯電防止性能を上げようとすると、カーボンナノチューブの含有濃度を高くする必要があり、それにより吸水率の増加、耐衝撃性の低下、成形性の低下が問題となる。
【0009】
特許文献3、4、5では、電気電子包装材の吸水性を改善するために、ポリカーボネート樹脂に代わる樹脂として、ポリカーボネート樹脂よりも吸水率の低い、環状オレフィン樹脂が用いられている。しかし、この場合には、含有する導電性フィラーの特性の違いによって樹脂組成物の成形収縮率が大きく異なり、成形時の残留応力や熱応力により変形が発生することがあり、このような変形を抑制することが可能な成形性が要求される。
【0010】
さらにこれに加えて、電気電子包装材の中でも、FOUP、FOSB、フォトマスクケース、およびRSP等では、通常、射出成形機等により成形体を形成し、その得られた成形体を嵌合することで製造されることが多い。そのため、とくに成形体の嵌合部分の寸法が、製品を製造する際の不良率や汚染性、製品の耐久性に大きく影響する。さらにこれらの電気電子包装材は、用途に応じて透明性や、より高い帯電防止性が要求される場合などがあり、異なる組成の熱可塑性樹脂組成物を用いて成形した成形体を嵌合して製造されることもあり、より高い成形性が必要となり、成形体同士の高い嵌合性が必要である。
【0011】
これに対して、熱可塑性樹脂組成物のそれぞれの成形収縮率に合わせて金型を設計したとしても、熱可塑性樹脂の成形収縮率の違いにより、成形時の残留応力や熱応力により変形が発生することがあり、嵌合性の悪化や、嵌合した後の製品のクリーン性、または耐久性の悪化が起こる場合がある。
【0012】
また、電気電子包装材を使用する過程では、洗浄乾燥工程を繰り返し行う場合が多く、電気電子包装材は乾燥状態を維持する必要性が高い。しかし、熱可塑性樹脂組成物中の材料自体の吸水率が大きいため、低湿度を維持できる時間が短く、製造コストが上昇することも問題である。帯電防止性を上げるために、カーボンブラックの代わりに炭素繊維を用いた場合でも、炭素繊維の含有濃度を高くする必要があり、それによって、吸水率の増加や成形体の反り等の成形性が問題になっている。
【0013】
電気電子包装材が乾燥状態を維持する必要性としては、例えば、FOUP、FOSB、SMIFPODなど、半導体運搬用として使用する場合、包装材は使用前後に洗浄を行う必要があるが、中に入れるウエハーに水分がつくとその水分と反応してウエハー表面が参加してしまったり、シミ(ウォーターマーク)が発生してしまったりするため、よく乾燥させる必要がある。
熱可塑性樹脂組成物および電気電子包装材の吸水率が小さいと、電気電子包装材を成形する前後に乾燥のための熱をかける必要がなく、成形後の変形や不要な熱劣化が防げ、寸法が安定化できる。また、洗浄した電気電子包装材の乾燥時間を短縮でき、不要な熱劣化を防ぐことができるため、電気代等のコストも抑えられることが期待できる。
【0014】
よって本発明は、帯電防止性、成形性、機械物性、およびクリーン性優れ、さらに長時間の低吸水率を保つことが可能な熱可塑性樹脂組成物、ならびに該熱可塑性樹脂組成物により形成される、電気電子包装材の提供を目的とする。
さらには、高い嵌合性を有する熱可塑性樹脂組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち本発明は、以下の実施形態を含む。本発明の実施形態は以下に限定されない。
〔1〕炭素材料と熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物であって、
炭素材料はカーボンナノチューブ(A1)とカーボンブラック(A2)を含み、
熱可塑性樹脂はシクロオレフィンポリマー(B1)とエラストマー(B2)を含み、
カーボンナノチューブ(A1)は、下記(1)および(2)を満たし、
熱可塑性樹脂組成物は、下記式(I)で表される成形収縮率差ΔTが0.10%以下であることを特徴とする、
電気電子包装材用熱可塑性樹脂組成物。
式(I) ΔT=|T1-T0|
(式(I)中、
T1は、熱可塑性樹脂組成物を射出成形した際の成形収縮率(%)であり、
T0は、シクロオレフィンポリマー(B1)を射出成形した際の成形収縮率(%)である。)
(1)平均直径が1~50nmである。
(2)ラマンスペクトルにおける1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度G、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度Dの比率(G/D比)が0.5~2.0である。
〔2〕カーボンナノチューブ(A1)とカーボンブラック(A2)の含有率の合計が、熱可塑性樹脂組成物100質量%を基準として、13質量%以下である、〔1〕記載の電気電子包装材用熱可塑性樹脂組成物。
〔3〕エラストマー(B2)の含有率が、熱可塑性樹脂組成物100質量%を基準として、4質量%以下である、〔1〕または〔2〕記載の電気電子包装材用熱可塑性樹脂組成物。
〔4〕エラストマー(B2)は、オレフィン系エラストマーおよびスチレン系エラストマーの少なくともいずれかである、〔1〕~〔3〕いずれか記載の電気電子包装材用熱可塑性樹脂組成物。
〔5〕カーボンブラック(A2)のBET比表面積が1000m2/g以下である、〔1〕~〔4〕いずれか記載の電気電子包装材用熱可塑性樹脂組成物。
〔6〕シクロオレフィンポリマー(B1)の引張破断歪みが5%以上である、〔1〕~〔5〕いずれか記載の電気電子包装材用熱可塑性樹脂組成物。
〔7〕ISO3167に準拠して熱可塑性樹脂組成物から多目的試験片A型を成形し、さらにISO2818に準拠して加工して得られたノッチ付きの成形体を用いて、ISO179-1に準拠して測定されたシャルピー衝撃強度が、2.0kJ/m2以上である、〔1〕~〔6〕いずれか記載の電気電子包装材用熱可塑性樹脂組成物。
〔8〕熱可塑性樹脂組成物を用いて形成した、厚み3mmの成形体の表面の最大高さSzが、50μm以下である、〔1〕~〔7〕いずれか記載の電気電子包装材用熱可塑性樹脂組成物。
〔9〕〔1〕~〔8〕いずれか記載の電気電子包装材用熱可塑性樹脂組成物から形成してなる電気電子包装材。
〔10〕表面抵抗率が1×104~1×1012Ω/□である、〔9〕記載の電気電子包装材。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、面内バラつきなく塵やほこりの付着を防ぐことが可能な帯電防止性、成形時の残留応力や熱応力による変形を抑制できる成形性、製品の組み立てや使用時の摩擦や衝撃に耐えうる機械物性、低アウトガスや摩擦による汚染性がないクリーン性、および長時間の低吸水率の維持に優れた熱可塑性樹脂組成物、ならびに該熱可塑性樹脂組成物により形成される、電気電子包装材の提供が可能となる。
【0017】
さらには、高い嵌合性を有する熱可塑性樹脂組成物の提供が可能となることで、様々な電気電子包装材のなかでも、成形後に嵌合を必要とする場合が多い、FOUP、FOSB、フォトマスクケース、RSPとしての利用も大きく期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
また、本明細書において「~」を用いて特定される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値の範囲として含むものとする。
「カーボンナノチューブ」を「CNT」、「カーボンブラック」を「CB」、「電気電子包装材用熱可塑性樹脂組成物」を「熱可塑性樹脂組成物」と表すことがある。
また、「主成分」とは、その成分中最も配合量が多い成分であることをいう。
本明細書中に出てくる各種成分は特に注釈しない限り、それぞれ独立に一種単独でも二種以上を併用してもよい。
本明細書において特定する数値は、実施形態または実施例に開示した方法により求められる値である。
本発明においてTgは、示差走査型熱量計(DSC)によって測定された値である。
【0020】
《電気電子包装材用熱可塑性樹脂組成物》
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、電気電子部品用の包装材(電気電子包装材と称する。)を形成するために用いられ、炭素材料と熱可塑性樹脂を含み、炭素材料はカーボンナノチューブ(A1)とカーボンブラック(A2)を含み、熱可塑性樹脂はシクロオレフィンポリマー(B1)とエラストマー(B2)を含み、カーボンナノチューブ(A1)は、下記(1)および(2)を満たし、下記式(I)で表される成形収縮率差ΔTが、0.10%以下である。
式(I) ΔT=|T1-T0|
(式(I)中、
T1は、熱可塑性樹脂組成物を射出成形した際の成形収縮率(%)であり、
T0は、シクロオレフィンポリマー(B1)を射出成形した際の成形収縮率(%)である。)
(1)平均直径が1~50nmである。
(2)ラマンスペクトルにおける1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度G、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度Dの比率(G/D比)が0.5~2.0である。
【0021】
なお、本願における成形収縮率とは、金型寸法と得られた成形体の寸法から、下記式(II)により求めた値である。
式(II) 成形収縮率(T)(%)=100×(金型寸法-成形体寸法)/金型寸法
【0022】
よって、T1は、熱可塑性樹脂組成物を射出成形して得られる成形体から、T0は、シクロオレフィンポリマー(B1)を射出成形して得られる成形体を用いて求めることができる。
【0023】
具体的には例えば、射出成形機でJISK7139に記載のダンベル形状の試験片を作製し、JISK7152-4に準拠して、成形収縮率を求めることができる。
【0024】
成形収縮率差ΔTが、0.10%以下であることにより、帯電防止性と成形性の両立が可能となり、クリーン性と耐久性も向上でき、さらに電気電子部品を収納あるいは運搬するための容器として使用する際の嵌合性にも優れる。帯電防止性、耐久性、およびクリーン性の観点から、成形収縮率差ΔTは、0に近いほど好ましく、ΔТは0~0.09%であることが好ましく、0~0.06%がさらに好ましい。
なお、シクロオレフィンポリマー(B1)が混合物である場合、混合後のシクロオレフィンポリマーの成形収縮率をT0として、成形収縮率差ΔTを求めることができる。
【0025】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成形収縮率差ΔTが上記要件を満たし、かつ平均直径、およびラマンスペクトルにおけるG/D比が特定の範囲にあるカーボンナノチューブ(A1)、カーボンブラック(A2)、シクロオレフィンポリマー(B1)、およびエラストマー(B2)を用いることで、成形性が高く、面内バラつきなく塵やほこりの付着を防ぐことが可能な帯電防止性に優れ、製品の組み立てや使用時の摩擦や衝撃に耐えうる機械物性を有し、低アウトガスや摩擦による汚染性もない高クリーン性を有し、さらに低吸水率性を長時間維持することができる、優れた熱可塑性樹脂組成物とすることができる。
【0026】
<炭素材料>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、炭素材料として、カーボンナノチューブ(A1)とカーボンブラック(A2)を含む。
【0027】
カーボンナノチューブ(A1)とカーボンブラック(A2)の合計の含有率は、熱可塑性樹脂組成物100質量%を基準として、13質量%以下であることが好ましい。成形収縮率と導電性の観点から3~10質量%であることがより好ましい。含有率が小さすぎると帯電防止性を満足することが難しくなることがあるため、3質量%以上であることが好ましい。13質量%以下であれば、成形性、吸水性がより良好となるために好ましい。
【0028】
カーボンナノチューブ(A1)とカーボンブラック(A2)は、炭素材料の主成分であることが好ましい。
炭素材料100質量%中の、カーボンナノチューブ(A1)とカーボンブラック(A2)の合計の含有率は、100質量%であってよく、50質量%以上であることが好ましい。70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。
【0029】
(カーボンナノチューブ(A1))
カーボンナノチューブ(A1)は、下記(1)および(2)を満たす。
(1)平均直径が1~50nmである。
(2)ラマンスペクトルにおける1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度G、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度Dの比率(G/D比)が0.5~2.0である。
【0030】
カーボンナノチューブは、グラフェンシートを丸めて円筒状にしたような構造をしており、それが単層の場合は単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、多層の場合は多層カーボンナノチューブ(MWCNT)と呼ばれ、電子顕微鏡等で1本1本のカーボンナノチューブを確認することができる。カーボンナノチューブは、カーボンナノチューブ繊維同士で一次凝集して、絡み合ったり、バンドル状の一次凝集体を形成したりするが、一次凝集体が凝集して二次以上の凝集体を形成することもある。
【0031】
[平均直径]
カーボンナノチューブ(A1)は、帯電防止性と成形性の観点から、平均直径が1~50nmである。好ましくは5nm以上である。また、20nm以下であることが好ましい。平均直径が1nm未満であると分散が困難になり、成形収縮率を維持して良好な成形性を保ちつつ、充分な帯電防止性を有することができなくなる。また平均直径が50nmを超えると成形性が悪化し、吸水性も悪化してしまう。
【0032】
[ラマンスペクトルのG/D比]
カーボンナノチューブ(A1)は、ラマンスペクトルにおいて1560~1600cm-1の範囲内での最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内での最大ピーク強度をDとした際にG/D比が0.5~2.0である。好ましくは、0.6~1.0である。ラマンスペクトルにおいて1590cm-1付近に見られるラマンシフトは、グラファイト由来のGバンドと呼ばれ、1350cm-1付近に見られるラマンシフトはアモルファスカーボンやグラファイトの欠陥に由来のDバンドと呼ばれる。このG/D比が高いカーボンナノチューブほど、グラファイト化度が高い。G/D比が0.5未満では、アモルファスなカーボンナノチューブが多くなることで、カーボンナノチューブの帯電防止性能が低下する。G/D比が2.0よりも大きいと、カーボンナノチューブの結晶性が高いことで、樹脂中への分散性が低下し、結果として帯電防止性能が低下する。
【0033】
G/D比は、顕微レーザーラマン分光光度計(日本分光(株)NRS-3100)に粉末試料を設置し、532nmのレーザー波長を用いて行う測定をもとに、1590cm-1付近のグラファイト構造由来のGバンドと1350cm-1付近の構造欠陥由来のDバンドのピークの積分値から算出できる。
【0034】
[体積抵抗率]
さらに、カーボンナノチューブ(A1)は、体積抵抗率が1.2×10-4~1.5×10-2Ω・cmであることが好ましく、体積抵抗率が1.0×10-3~1.0×10-2Ω・cmであることがより好ましい。カーボンナノチューブ(A1)の体積抵抗率が上記範囲内にあることで、帯電防止性がより良好となる。カーボンナノチューブ(A1)の体積抵抗率が1.0×10-2Ω・cm以下であることで、流動性が良好な状態で十分な帯電防止性能を付与するができるため好ましい。
体積抵抗率は、粉体抵抗率測定装置((株)三菱化学アナリテック社製:ロレスタGP粉体抵抗率測定システムMCP-PD-51))を用いて測定することができる。
【0035】
[嵩密度]
カーボンナノチューブ(A1)は、嵩密度が0.002~0.5g/mLであることが好ましく、嵩密度が0.005~0.2g/mLであることがより好ましい。上記範囲の嵩密度を有するカーボンナノチューブを使用した場合、熱可塑性樹脂に対する分散性が良好となり、混練時の生産性により優れるものとできる。
【0036】
なお、ここでいう嵩密度とは、測定装置としてスコットボリュームメータ(筒井理化学器機社製)を用い、カーボンナノチューブ粉末を測定装置上部より直円筒容器に流し入れ、山盛りになったところですり切った一定容積の試料質量を測定し、この質量と容器容積の比であり、下記式(III)に基づいて算出される値である。
式(III)嵩密度(g/mL)=
(すり切った一定容積のカーボンナノチューブの質量(g))÷(容器容積(mL))
【0037】
カーボンナノチューブ(A1)は単層カーボンナノチューブ、2層またはそれ以上で巻いた多層カーボンナノチューブでも、これらが混在するものであってもよいが、コスト面および強度面から多層カーボンナノチューブであることが好ましい。また、カーボンナノチューブの側壁がグラファイト構造ではなく、アモルファス構造をもったカーボンナノチューブを用いても構わない。
【0038】
カーボンナノチューブ(A1)は、一般にレーザーアブレーション法、アーク放電法、化学気相成長法(CVD)、燃焼法などで製造できるが、どのような方法で製造したカーボンナノチューブでも構わない。特にCVD法は、通常、400~1000℃の高温下において、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、珪酸塩、珪藻土、アルミナシリカ、シリカチタニア、およびゼオライトなどの担体に鉄やニッケルなどの金属触媒を担持した触媒微粒子と、原料の炭素含有ガスとを接触させることにより、カーボンナノチューブを安価に、かつ大量に生産することができる方法であり、本発明に使用するカーボンナノチューブを製造する方法として好ましい。
【0039】
カーボンナノチューブ(A1)の含有率は特に制限されないが、生産性、帯電防止性、成形性、クリーン性、吸水性の観点から、熱可塑性樹脂組成物100質量%を基準として、1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上がより好ましい。また、5質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましい。
【0040】
(カーボンブラック(A2))
カーボンブラック(A2)は、導電性を有する無定形炭素であり、油やガスを不完全燃焼させたり、炭化水素を熱分解したりして製造できる。本発明におけるカーボンブラック(A2)の役割は、射出成形や押出成形後、成形体内部に取り込まれたカーボンナノチューブ(A1)表面との間に導電パスを形成することである。導電性材料としてカーボンナノチューブ(A1)のみを配合した導電性樹脂組成物は、射出成形をして成形体を製造した場合、組成物中に十分にカーボンナノチューブが分散された状態であっても、導電性が発現し難い場合がある。その理由としては、成形体表面に、樹脂の存在比率が高くカーボンナノチューブ(A1)が低濃度の層(いわゆる「スキン層」)が形成されてしまうことが要因と考えられる。つまり、樹脂組成物中に、樹脂の存在比率が高く、カーボンナノチューブ(A1)が低濃度の部分と、樹脂の存在比率が低くカーボンナノチューブ(A1)が高濃度の部分とが共存すると、各々の部分で溶融時の粘度(溶融粘度) が異なるため、例えば射出成形する場合、粘度が低く流動性の高い樹脂の存在比率が高い部分が成形時に先に押し出されることとなり、成形体表面がスキン層に覆われて、成形体の導電性が低下するものと考えられる。
【0041】
一方、カーボンブラック(A2)は、カーボンナノチューブ(A1)と比較して、一般的に比表面積や吸油量が低いため、カーボンブラック(A2)を含む樹脂組成物は、カーボンナノチューブ(A1)のみを含む樹脂組成物よりも、溶融粘度が高くなりにくく、成形体表面にスキン層が形成されにくい。また、カーボンブラック(A2)はカーボンナノチューブ(A1)との親和性も良好なため、カーボンナノチューブ(A1)が成形体内部に取り込まれても、成形体表面に存在するカーボンブラック(A2)との間に導電パスを形成できるため、本発明の成形体は高い導電性を発現することができる。
【0042】
カーボンブラック(A2) としては、気体若しくは液体の原料を反応炉中で連続的に熱分解し製造するファーネスブラック、特にエチレン重油を原料としたケッチェンブラック、原料ガスを燃焼させて、その炎をチャンネル鋼底面にあて急冷し析出させたチャンネルブラック、ガスを原料とし燃焼と熱分解を周期的に繰り返すことにより得られるサーマルブラック、及び、特にアセチレンガスを原料とするアセチレンブラック等の各種のものを単独で、若しくは2 種類以上併せて使用することができる。又、通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、中空カーボン等も使用できる。
【0043】
カーボンブラック(A2)のBET比表面積は、1000m2/g以下であることが好ましく、より好ましくは10~800m2/g、更に好ましくは10~500m2/gである。BET比表面積は、窒素吸着によりBET法で測定された比表面積を指し、このBET比表面積はカーボンブラックの表面積に対応しており、BET比表面積をこの範囲とすることでカーボンブラック(A2)の熱可塑性樹脂組成物中での分散性をより向上できる。
【0044】
カーボンブラック(A2)のDBP吸油量は、100~300mL/100gであることが好ましく、更には100~200mL/100gであることが好ましい。DBP吸油量が、100~300mL/100gの範囲内であることで、カーボンブラック(A2)の熱可塑性樹脂に対する分散性をより向上できる。なおDBP吸油量とは、空隙容積を測定することでカーボンブラックのストラクチャーを間接的に定量化するもので、JIS K6217-4に準拠して測定した数値である。尚、「DBP」とは、Dibutylphtalateの略称である。
【0045】
カーボンブラック(A2)の一次粒子径は、分散性、および導電性の観点から0.005~1μmが好ましく、0.01~0.2μmがより好ましい。ここでいう一次粒子径とは、電子顕微鏡等で測定された粒子20個の平均値である。
【0046】
市販のカーボンブラックとしては、例えば、ニテロン#10、#200及び#300等の新日化カーボン社製ファーネスブラック、トーカブラック#4300、#4400、#4500、及び#5500等の東海カーボン社製ファーネスブラック、プリンテックスL等のデグサ社製ファーネスブラック、Raven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA、ConductexSCULTRA、975ULTRA、PUERBLACK100、115、及び205等のコロンビヤン社製ファーネスブラック、#2350、#2400B、#2600B、#30050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、及び#5400B等の三菱化学社製ファーネスブラック、MONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、及びBlackPearls2000等のキャボット社製ファーネスブラック、Ensaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、及びSuperP-Li等のTIMCAL社製ファーネスブラック、ケッチェンブラックEC-300J、及びEC-600JD等のアクゾ社製ケッチェンブラック、デンカブラックHS-100、FX-35等の電気化学工業社製アセチレンブラック等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
カーボンブラック(A2)の含有率は特に制限されないが、生産性や導電性、成形性の観点から熱可塑性樹脂組成物100質量%を基準として、2~8質量%であることが好ましく、3~6質量%であることがより好ましい。
【0048】
<熱可塑性樹脂>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂として、シクロオレフィンポリマー(B1)とエラストマー(B2)を含む。
【0049】
シクロオレフィンポリマー(B1)とエラストマー(B2)の合計の含有率は、熱可塑性樹脂組成物100質量%を基準として、87質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。低吸水率とアウトガスの観点から97質量%以下であることが好ましい。含有量が少なすぎると成形性の悪化も起こり、87質量%以上であれば、成形性や吸水性がより良好となるために好ましい。
【0050】
シクロオレフィンポリマー(B1)およびエラストマー(B2)が、熱可塑性樹脂の主成分であることが好ましい。
熱可塑性樹脂中のシクロオレフィンポリマー(B1)とエラストマー(B2)の合計100質量%中の含有率は、100質量%であってよく、50質量%以上であることが好ましい。70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。
【0051】
(シクロオレフィンポリマー(B1))
シクロオレフィンポリマー(B1)は、環状オレフィンや環状ジエンの付加重合体およびその水素添加物などが挙げられ、加熱溶融により成形可能な樹脂であれば特に制限されるものではない。シクロオレフィンポリマー(A)はシクロオレフィンコポリマーであってもよい。
なお、本明細書においては、シクロオレフィンポリマーであっても、エラストマーである場合は、エラストマー(B2)であると定義する。
【0052】
シクロオレフィンポリマーとしては、ノルボルネン類あるいはシクロテトラドデセン類等の開環重合可能なシクロオレフィン系のモノマーを開環重合し水素添加した重合体が好適に用いられる。具体的には例えば、日本ゼオン株式会社製のゼオネックス(ZEONEX:登録商標)やゼオノア(ZEONOR:登録商標)を用いることができる。
【0053】
シクロオレフィンコポリマーとしては、ノルボルネン類とエチレン等のオレフィン類を原料とする共重合体、テトラシクロドデセン類とエチレン等のオレフィン類を原料とする共重合体が好適に用いられる。具体的には例えば、三井化学株式会社製のアペル(APEL:登録商標) やTicona社製のトパス(TOPAS:登録商標)を用いることができる。
【0054】
シクロオレフィンポリマー(B1)の重量平均分子量は、汎用性、機械物性の点で3,000~500,000であることが好ましく、より好ましくは8,000~200,000である。
なお、重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC法)により測定された値(標準物質としてイソプレン、溶離液としてシクロヘキサンを用いて得られた測定値)である。
【0055】
シクロオレフィンポリマー(B1)のガラス転移温度(Тg)は、モノマーの種類、共重合する場合のコモノマーの割合や、分子量、水素添加率などによって異なるが、本発明においては、電気電子包装材とする際の成形性や耐衝撃性の観点から、好ましくは30℃~300℃、より好ましくは50℃~200℃である。
【0056】
シクロオレフィンポリマー(B1)のメルトフローレート(MFR)は、電気電子包装材とする際の成形性や耐衝撃性の観点から、1~100g/10分であることが好ましい。より好ましくは5~80g/10分である。
なお、本発明において、メルトフローレート(MFR)は、JISK7210により、280℃、荷重2.16kgfにて測定したメルトフローレート値である。
【0057】
シクロオレフィンポリマー(B1)の引張破断歪みは5%以上であることが好ましい、さらに好ましくは8%である。また、200%以下であることが好ましく、100%以下であることがより好ましい。この範囲であることで、樹脂組成物を電気電子包装材とした際の耐久性や成形性、嵌合性がより良くなる。
なお引張破断歪み(%)は、JISK7161準拠し、測定することができる。
【0058】
シクロオレフィンポリマー(B1)の荷重たわみ温度は、電気電子包装材とする際の成形性や耐衝撃性の観点から、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃~200℃である。
なお、本発明において荷重たわみ温度は、3点曲げ法で、120℃/hで徐々に温度を上げつつ、荷重1.80MPaの負荷をかけ、曲げ歪みの増加分が0.2%になったときの温度である。
【0059】
シクロオレフィンポリマー(B1)の含有率は特に制限されないが、低吸水率、アウトガス、成形性の観点から、熱可塑性樹脂組成物100質量%を基準として、80~95質量%であることが好ましく、83~90質量%であることがさらに好ましい。
【0060】
(エラストマー(B2))
エラストマーとは、常温(25℃)で弾性体である高分子物質を意味し、天然高分子物質であっても、合成の高分子物質であってもよく、主として衝撃強度の向上に寄与する。エラストマーは、適当な温度に加熱すると軟化して可塑性をもち、冷却すると弾性を示し、DSC法にて融点を示さない。
【0061】
エラストマー(B2)は、エラストマーであれば特に制限されず、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、などが挙げられるが、シクロオレフィンポリマー(B1)との相溶性の観点から、成形体の機械物性に優れることより、オレフィン系エラストマーまたはスチレン系エラストマーであることが好ましい。
また、酸変性エラストマーであってもよい。
【0062】
酸変性エラストマーとは、エラストマーにグラフト重合等で酸性官能基を導入したものをいう。酸変性エラストマーの好適例として、酸変性されたスチレン系エラストマー、酸変性されたオレフィン系エラストマーが例示できる。酸変性とは、例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水フタル酸等の環状酸無水物などで共重合体側鎖に環状酸無水物基やカルボン酸基を導入することをいう。
【0063】
オレフィン系エラストマーとは、オレフィンをモノマーとし、前記オレフィンを重合して得られる、炭素原子及び水素原子から構成され、常温(25℃)で弾性体である高分子物質をいう。
オレフィン系エラストマーのモノマーとしては、エチレン、プロピレン、ブテンのようなオレフィンをベースにコモノマーとして、エチレン、プロピレン、ブテンを重合したものが好ましく、なかでもガラス転移温度の低いオレフィン系エラストマーがより好ましい。また、ガラス転移温度(Tg)は、-100~-10℃であることが好ましく、-65℃~-50℃であることがより好ましい。
【0064】
市販のオレフィン系エラストマーとしては例えば、東洋紡績株式会社製のサーリンク(商標登録)、三菱化学株式会社製のサーモラン(商標登録)、三井化学株式会社製のタフマー(商標登録)やミラストマー(商標登録)を用いることができる。中でも、三井化学株式会社製のタフマー、ミラストマーが好ましい。
【0065】
スチレン系エラストマーとは、スチレンをベースにブタジエンやブチレン等をモノマーとし、前記モノマーを重合して得られる、主鎖に芳香環を有し、常温(25℃)で弾性体である高分子物質をいい、芳香族ビニル-共役ジエンブロック共重合体に代表される。すなわち、スチレン系エラストマーとしては、スチレン/ブタジエン/スチレン(SBS)、スチレン/ブタジエン/ブチレン/スチレン(SBBS)、スチレン/エチレン/ブチレン/スチレン(SEBS)が好ましく、なかでも相溶性の観点からSEBSがより好ましい。また、酸変性していてもよい。変性されたスチレン系エラストマーの中では、マレイン酸変性スチレン系エラストマーが好ましい。
【0066】
市販のスチレン系エラストマーとしては例えば、旭化成株式会社製のタフプレン(商標登録)やタフテック(商標登録)、クレイトンポリマージャパン株式会社製のクレイトン(商標登録)、住友化学株式会社製のエスポレックスSB(商標登録)、三菱化学株式会社製のラバロン(商標登録)、株式会社クラレ製のセプトン(商標登録)を用いることができる。中でも、旭化成株式会社製のタフテックが好ましい。
【0067】
エラストマー(B2)の含有率は、成形性や吸水性、耐衝撃性の観点から、熱可塑性樹脂組成物100質量%と基準として、4質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。また、耐衝撃性の観点から2質量%以上が好ましい。エラストマー(B2)の含有率がこの範囲であることで、成形性や吸水性の悪化、およびアウトガスの発生などを抑制することができるために好ましい。また、複数種類のエラストマーを用いてもよい。
【0068】
<任意成分>
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、必要に応じてカーボンナノチューブ(A1)およびカーボンブラック(A2)以外の炭素材料等の帯電防止材料、耐候安定剤、カップリング剤、結晶造核剤、樹脂充填材、染料、顔料等の着色剤等の添加剤を、樹脂組成物の耐候性や成形性、生産性を向上する目的で添加することができる。
帯電防止材料としては、炭素繊維、黒鉛、グラフェンなどの炭素材料、金属粒子、およびイオン液体等があげられる。
カーボンナノチューブ(A1)およびカーボンブラック(A2)以外の帯電防止材料の含有率は、熱可塑性樹脂組成物の質量を基準(100質量%)として、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0069】
熱可塑性樹脂組成物は、揮発成分を含まないことが好ましい。
熱可塑性樹脂組成物100質量%中、溶剤や低分子量成分等の揮発成分は5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0070】
<熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではない。
例えば、カーボンナノチューブ(A1)、カーボンブラック(A2)、シクロオレフィンポリマー(B1)、エラストマー(B2)と、更に必要に応じて添加剤等を加え、ヘンシェルミキサーやタンブラー、ディスパー等で混合しニーダー、ロールミル、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、シュギミキサー、バーティカルグラニュレーター、ハイスピードミキサー、ファーマトリックス、ボールミル、スチールミル、サンドミル、振動ミル、アトライター、バンバリーミキサーのような回分式混練機、二軸押出機、単軸押出機、ローター型二軸混練機等で混合や溶融混練し、ペレット状、粉体状、顆粒状あるいはビーズ状等の形状の樹脂組成物を得ることができる。
本発明では、溶融混錬に二軸押出機、または単軸押出機を用いることが好ましく、炭素材料の分散性の観点から、二軸押出機を用いることがより好ましい。二軸押出機であると、アウトガスの発生をより抑制でき、クリーン性に優れたものとすることができる。
【0071】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、カーボンナノチューブ(A1)とカーボンブラック(A2)を用いることで、溶融混錬により、シクロオレフィンポリマー(B1)とエラストマー(B2)中に、カーボンナノチューブが均一に分配され、面内バラつきのない、帯電防止能に優れた成形体が形成可能となる。
【0072】
[表面粗さ]
熱可塑性樹脂組成物は、厚み3mmの成形体を形成した際の、成形体の表面の最大高さSzが50μm以下であることが好ましい。これによりシクロオレフィンポリマー(B1)に充分な導電性を付与し、かつ成形性や耐衝撃性、および低吸水率を維持できる成形体となるために好ましい。さらに、熱可塑性樹脂組成物への吸水を抑えることで、より寸法安定性にも優れた成形体を形成することが可能となる。
最大高さSzは、小さいほど好ましく、より好ましくは30μm以下である。
【0073】
成形体表面の最大高さSzは、カーボンナノチューブの分散性により大きく変化し、成形性や耐衝撃性、吸水性などの点において重要である。この範囲にするためには、本発明のカーボンナノチューブ(A1)、カーボンブラック(A2)と、シクロオレフィンポリマー(B1)、エラストマー(B2)を用いることに加え、それぞれの種類、配合量と、成形体を形成するための樹脂の溶融混錬時の分散条件等により、カーボンナノチューブを高分散することで制御することが可能である。本発明のカーボンナノチューブ(A1)、カーボンブラック(A2)と、シクロオレフィンポリマー(B1)、エラストマー(B2)を用いることによって、成形性および耐衝撃性に加えて、低吸水率を維持しつつ、導電性を保持することができる。さらに表面が平滑であり、面内バラツキのない帯電防止性能に優れた成形体を形成できるものとなる。
【0074】
成形体表面の最大高さSzを測定するための、成形体の形成方法は、厚み3mmの成形体を形成することができれば、どのような方法であっても制限されない。
例えば、実施例に記載の方法により成形し、測定することができる。
具体的には、例えば、本発明の電気電子包装材用熱可塑性樹脂組成物を加熱溶融し、射出成形機により成形体を成形することができ、シクロオレフィンポリマー(B1)の融点より30℃程度高い温度にて射出成形機を使用することにより厚み3mmの成形体を作製することができる。
【0075】
成形体表面の最大高さSzは、二次元の粗さパラメーターである最大高さRzを三次元に拡張したパラメーターであり、測定表面の最も高い点から最も低い点までの距離を表す。
最大高さSzは、ISO25178に準拠して測定し、求めることができる。
なお、ある表面について、その断面を抜き出し、粗さを議論する際には、SzとRzは同義とみなすことができる。
【0076】
作製した厚み3mmの成形体を、例えばTaylor/Hobson社製、タリサーフCCI MP-HSを使用し、測定長が2.5mm×2.5mm、ロバストガウシアンフィルタが0.08mm、とした際の最大高さSz(μm)から求められる。
【0077】
[シャルピー衝撃強度]
熱可塑性樹脂組成物は、ISO3167に準拠して多目的試験片A型を成形し、さらにISO2818に準拠して加工して得られたノッチ付きの成形体を用いて、ISO179-1に準拠して測定されたシャルピー衝撃強度が2.0kJ/m2以上であることが好ましい。これにより、電気電子包装材を成形した時の嵌合性が向上し不良率が下がり、または電気電子包装材として使用する時の衝撃に耐え長期的に使用することが可能となる。
シャルピー衝撃強度は、嵌合性、耐久性の観点から、2.5kJ/m2以上であることがより好ましい。また、45kJ/m2以下が好ましく、30kJ/m2以下がより好ましい。
【0078】
《電気電子包装材》
本発明の電気電子包装材は、電気電子部品用の包装材であって、電気電子包装材用熱可塑性樹脂組成物から形成される。
電気電子包装材は、電気電子部品包装材用熱可塑性樹脂組成物から、成形機により直接形成した成形体そのものであってもよく、または射出成形機や押出成形機などの成形機から得られた成形体の2つ以上を嵌合し、組み合わせて電気電子部品包装材としてもよい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、嵌合性も高いため、嵌合して得られた容器等の電気電子部品包装材であってもクリーン性および耐久性に優れ、製品の不良率も抑えることが可能である。
【0079】
成形体の形成は、熱可塑性樹脂組成物である、コンパウンドまたはマスターバッチと希釈樹脂を、通常50℃~350℃に設定した成形機にて溶融混合後に成形体の形状を形成し冷却することで得ることができる。成形機の温度は、熱可塑性樹脂が軟化する温度であれば問題ないが、好ましくは主成分となる熱可塑性樹脂の軟化点より30℃以上高い温度である。
【0080】
成形方法は、例えば、押出成形、射出成形、ブロー成形、圧縮成形、トランスファー成形、T-ダイ成形やインフレーション成形のようなフィルム成形、カレンダー成形、紡糸等を用いることができる。射出成形が任意の形状に成形できる点で好ましい。
【0081】
成形体の形状は特に制限されないが、板状、棒状、繊維、チューブ、パイプ、ボトル、フィルムなどが挙げられる。得られた成形体の2つ以上を嵌合し、組み合わせて電気電子部品包装材とすることもできる。
【0082】
電気電子部品としては、シリコンウェーハ、ハードディスク、ディスク基板、ICチップ、光磁気ディスク、LCD用高機能基板ガラス、LCDカラーフィルター、ハードディスクの磁気抵抗ヘッド等の半導体関連部品、レチクル等の半導体製造用の部品、またはフォトマスク等の電子回路製造用の部品等が挙げられる。
【0083】
電気電子包装材は、これらの電気電子部品の収納、または運搬等に用いられる包装材であって、包装材自体に導電性を付与することで帯電防止性能を有し、摩擦等による電子の偏在化や蓄積を防ぎ、静電気の蓄積を防止することができる。
電気電子包装材として具体的には、例えばシリコンウェーハを安全でクリーンに保持、搬送するFOUP(Front-Opening Unified Pod)やFOSB(Front Opening Shipping Box)、またはICチップを搬送する際に用いられるICトレイやエンボスキャリアテープといった半導体関連部品に用いられる包装材、電子部品の回路パターン等を被転写対象に転写する際の原版となるフォトマスクを搬送するフォトマスクケース、半導体製造の前工程にて使用されるレチクルを収納しておくレクチル搬送容器、RSP(Reticle SMIF Pod)などに用いられる。FOUP、FOSB、フォトマスクケース、RSPは嵌合が必要な場合が多く、
ICトレー、インボスキャリアテープは嵌合が不要な場合が多い。
なかでも、本発明の熱可塑性樹脂組成物から形成した成形体は嵌合性に優れるため、嵌合して得られた容器の材料として好適に使用でき、具体的にはFOUP、FOSB、フォトマスクケース、RSP等の材料として特に好適に使用できる。
【0084】
[表面抵抗値]
電気電子包装材は、塵やほこりの付着を極力低減させることができ、OA機器や電子機器等の小型軽量化や高集積化、高精度化に対応できるだけの充分な帯電防止性能を有することが要求される。
これを達成するために、電気電子包装材の表面抵抗値は、電子機器を静電気障害から保護し、塵やほこりを寄せ付けずに高いクリーン度を保つという、クリーン性の観点から、帯電防止性領域である1×104~1×1012Ω/□の範囲内であることが好ましく、1×106~1×1010Ω/□の範囲内であることがより好ましい。
表面抵抗値が、1×1012Ω/□以下であることにより、電気電子部品の摩擦帯電の影響による、電子機器の帯電をより抑制できる。帯電して静電気を蓄積した電子機器は、静電気の放電により損傷を受けたり、空中に浮遊している塵やほこりを静電吸着したりすることが原因となって、トラブルを発生することがあるが、これを防止することができるために好ましい。1×104Ω/□以上であることにより、電気電子部品中での電荷の移動速度が速すぎて、静電気の放電の際に発生する強い電流や高い電圧により、電子機器に障害を与えることを、より抑制することができる。
なかでも、1×106~1×1010Ω/□の範囲である場合、帯電圧半減期が大幅に短縮され、優れた帯電防止性能を発揮することが可能になるために好ましい。
【実施例】
【0085】
以下に、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例は本発明を何ら制限するものではない。なお、実施例中の「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。
【0086】
なお、カーボンナノチューブの粉末ラマン分光分析、平均直径、カーボンブラックのBET比表面積と、シクロオレフィンポリマーの引張破断歪みは次の方法で測定した。
【0087】
<カーボンナノチューブの粉末ラマン分光分析>
顕微レーザーラマン分光光度計(日本分光(株)NRS-3100)にカーボンナノチューブを設置し、532nmのレーザー波長を用いて測定を行った。測定条件は取り込み時間60秒、積算回数2回、減光フィルタ10%、対物レンズの倍率20倍、コンフォーカスホール500、スリット幅100μm、測定波長は100~3000cm-1とした。測定用のカーボンナノチューブはスライドガラス上に分取し、スパチュラを用いて平坦化した。得られたピークの内、スペクトルで1560~1600cm-1の範囲内で最大ピーク強度をG、1310~1350cm-1の範囲内で最大ピーク強度をDとし、G/Dの比をカーボンナノチューブのG/D比とした。
【0088】
<カーボンナノチューブの平均直径および繊維長>
カーボンナノチューブの平均直径は、走査型電子顕微鏡(日本電子(JEOL)社製、JSM-6700M))を用いて加速電圧5kVにてカーボンナノチューブを観察し、5万倍の画像(画素数1024×1280)を撮影する。次いで、撮影された画像にて任意のカーボンナノチューブ20個について、各々の短軸長と長軸長を測定し、得られた短軸長の数平均値をカーボンナノチューブの平均直径とし、得られた長軸長の数平均値をカーボンナノチューブの繊維長とした。
【0089】
<カーボンナノチューブの体積抵抗率>
カーボンナノチューブの体積抵抗率は、粉体抵抗率測定装置((株)三菱化学アナリテック社製:ロレスターGP粉体抵抗率測定システムMCP-PD-51)を用い、試料質量1.2gとし、粉体用プローブユニット(四探針・リング電極、電極間隔5.0mm、電極半径1.0mm、試料半径12.5mm)により、印加電圧リミッタを90Vとして、種々加圧下の導電性粉体の体積抵抗率[Ω・cm]を測定した。
【0090】
<カーボンナノチューブの嵩比重>
カーボンナノチューブの嵩密度とは、測定装置としてスコットボリュームメータ(筒井理化学器機社製)を用い、カーボンナノチューブ粉末を測定装置上部より直円筒容器に流し入れ、山盛りになったところですり切った一定容積の試料質量を測定し、この質量と容器容積の比であり、下記の(式2)に基づいて算出された値である。
(式2)嵩密度(g/mL)=
(すり切った一定容積のカーボンナノチューブの質量(g))÷(容器容積(mL))
【0091】
<カーボンブラックのBET比表面積>
カーボンブラックを電子天秤(sartorius社製、MSA225S100DI)を用いて、0.03g計量した後、110℃で15分間、脱気しながら乾燥させた。その後、全自動比表面積測定装置(MOUNTECH社製、HM-model1208)を用いて、カーボンブラックの比表面積を測定した。
【0092】
<シクロオレフィンポリマーの引張破断歪み>
シクロオレフィンポリマーの引張破断歪みは、JISK7161準拠し、射出成形機でJISK7139(プラスチック―試験片)に記載のダンベル形状の試験片を作製し、引張試験機(島津製作所社製、Autograph AGS-H)を用いて引張試験を行い、破断時の歪み(%)を測定した。
【0093】
実施例で使用した材料は以下のとおりである。
<カーボンナノチューブ(A1)等>
・(A1-1)CM-130(Hanhwa Chemical hanos社製、平均直径15nm、繊維長10~50μm、G/D比0.94、体積抵抗率2.0×10-2Ω・cm、嵩比重0.03(g/cc))
・(A1-2)Flotube7000(CNano社製、平均直径6nm、繊維長50~150μm、G/D比0.76、体積抵抗率1.5×10-2Ω・cm、嵩比重0.007(g/cc))
・(A1-3)0555CA(コアフロント株式会社製、平均直径45nm、繊維長5~20μm、G/D比0.98、体積抵抗率2.0×10-2Ω・cm、嵩比重0.06(g/cc))
・(A’1-1)VGCF-H(昭和電工社製、平均直径150nm、繊維長5μm、G/D比7.23、体積抵抗率1.5×10-2Ω・cm、嵩比重0.08(g/cc))
【0094】
<カーボンブラック(A2)>
・(A2-1)デンカブラック(デンカ株式会社製、粒径35μm、DBP吸油量160ml/100g、比表面積69m2/g)
・(A2-2)バルカンXC72(キャボット・スペシャルティ・ケミカルズ・インク株式会社製、粒径30μm、DBP吸油量173ml/100g、比表面積254m2/g)
・(A2-3)ケッチェンブラックEC300J(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、粒径40μm、DBP吸油量365ml/100g、比表面積800m2/g)
【0095】
<CNF(カーボンナノファイバー)>
・(A3-1)EPU-LCL(炭素繊維、日本ポリマー株式会社製、直径7μm、繊維長6mm、体積抵抗率1.0×100Ω・cm)
【0096】
<シクロオレフィンポリマー(B1)>
・(B1-1)ZEONOR1020R(日本ゼオン社製、引張破断歪み100%、Tg105℃、荷重たわみ温度101℃、MFR20g/10分、成形収縮率0.20%)
・(B1-2)ZEONOR1600R(日本ゼオン社製、引張破断歪み10%、Tg163℃、荷重たわみ温度161℃、MFR7g/10分、成形収縮率0.45%)
・(B1-3)APL6509T(三井化学社製) 、引張破断歪み6%、Tg80℃、荷重たわみ温度70℃、MFR30g/10分、成形収縮率0.55%)
・(B1-4)TOPAS5013L-10(ポリプラスチックス社製、引張破断歪み2%、Tg127℃、荷重たわみ温度134℃、MFR48g/10分、成形収縮率0.55%)
なお、シクロオレフィンポリマーの成形収縮率は、後述する成形体の成形収縮率の測定方法に記載の方法を用いて求めた値である。
【0097】
<エラストマー(B2)>
・(B2-1)タフマーPN2060(三井化学株式会社製、オレフィン系エラストマー)
・(B2-2)タフテックH1221(旭化成社製、スチレン系エラストマー)
・(B2-3)タフテックM1943(旭化成社製、酸変性スチレン系エラストマー)
・(B2-4)ハイトレル5557(東レセラニーズ社製、ポリエステル系エラストマー)
【0098】
(実施例1)
(熱可塑性樹脂組成物の製造)
カーボンナノチューブ(A1-1)3部、カーボンブラック(A2-1)4部、シクロオレフィンポリマー(B1-2)89部、およびエラストマー(B2-1)4部を混合して溶融混錬し、二軸押出機(日本製鋼所社製)にて240℃で押出し、造粒して熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0099】
(実施例2~8、比較例1~6)
表1に示す材料と配合量(質量部)にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物をそれぞれ得た。
【0100】
(実施例9)
カーボンナノチューブ(A1-1)3部、カーボンブラック(A2-1)4部、シクロオレフィンポリマー(B1-2)89部、およびエラストマー(B2-1)4部を混合して溶融混錬し、単軸押出機(日本製鋼所社製)にて240℃で押出し、造粒して熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0101】
<成形収縮率の測定>
得られた熱可塑性樹脂組成物およびシクロオレフィンポリマー(B1)の成形収縮率を、下記の方法で求め、式(I)で表される成形収縮率差ΔTを算出した。結果を表1に示した。
式(I) ΔT=|T1-T0|
T1は、熱可塑性樹脂組成物を射出成形した際の成形収縮率(%)
T0は、シクロオレフィンポリマー(B1)を射出成形した際の成形収縮率(%)
【0102】
成形体の成形収縮率は、熱可塑性樹脂組成物、またはそれぞれの熱可塑性樹脂組成物に用いたシクロオレフィンポリマーを用いて、射出成形機のシリンダー温度を270℃、金型温度95℃にし、JISK7139(プラスチック―試験片)に記載のダンベル形状の試験片を作製し、以下の方法にて算出した。
(1)試験片を室温(23℃)で24時間静置したのち、ノギスで寸法を測定した。測定は同じ条件で作製した3個の試験片について行い、平均値を成形体寸法(mm)とした。
(2)室温で金型をノギスで測定し、その値を金型寸法(mm)とした。
(3)それぞれの値をもとに、式(1)により成形収縮率(%)を計算した。
式(II) 成形収縮率(T)(%)=100×(金型寸法-成形体寸法)/金型寸法
熱可塑性樹脂組成物を射出成形した成形体の成形収縮率がT1(%)であり、それに用いたシクロオレフィンポリマー(B1)を射出成形した成形体の成形収縮率がT0(%)である。
【0103】
【0104】
《熱可塑性樹脂組成物および成形体の物性値測定と評価》
熱可塑性樹脂組成物および成形体の物性値測定と評価を下記の方法で行った。結果を表2に示す。
【0105】
<表面の最大高さSz測定>
熱可塑性樹脂組成物を用いて、シリンダー温度270℃、金型温度95℃の射出成形機により射出成形し、縦90mm×横110mm×厚み3mmの成形体を作製した。
得られた厚さ3mmの成形体の平面を、Taylor/Hobson社製、タリサーフCCI MP-HSを用い、測定長が2.5mm×2.5mm、ロバストガウシアンフィルタが0.08mm、とした際の最大高さSz(μm)を測定した。
【0106】
<シャルピー衝撃強度>
熱可塑性樹脂組成物を用いて、ISO3167に準拠して多目的試験片A型(縦80mm、横10mm、厚み4mm)を成形し、さらにISO2818に準拠して加工して得られた2mmのノッチ付きの成形体を作製した。
得られたノッチ付きの成形体を用いて、ISO179-1に準拠してハンマー容量2Jにてシャルピー衝撃強度を測定した。
【0107】
<成形性評価>
熱可塑性樹脂組成物の成形性を、嵌合性により評価した。
熱可塑性樹脂組成物を用いて、射出成形機のシリンダー温度を270℃、金型温度95℃にし、
図1に示す嵌合評価試験片1および3をそれぞれ20ショット成形した。
成形性は、
図1に示す通り、嵌合部2をもつ嵌合性評価試験片1と、幅1cmの挿入部を有する嵌合性評価試験片3を成形し、嵌合する際の挿入による試験片の割れ、クラック、嵌合後の抜け等により評価した。評価基準は以下の通りである。
[評価基準]
++ 嵌合する際に余分な力が不要であり、
嵌合した際に割れやクラック、抜け等の不良数が0である。(優良)
+ 嵌合した際に割れやクラック、抜け等の不良数が1以上5未満である。(良)
NG 嵌合した際に割れやクラック、抜け等の不良数が5以上である。
【0108】
<吸水性>
吸水性は、JISK7209を参考に、浸水時間を192時間に増やして、以下の手順にて吸水試験を行い、吸水率を算出し、長時間、湿度の高い状態にあっても低い吸水率を保ち続けることができるかにより評価した。
電気電子包装材として使用するために、吸水率は少ない方がよく、0.02%以下であることが好ましい。
[評価基準]
1.射出成形機にて、試験片(縦80mm、横10mm、厚み4mm)を作製した。
2.50℃のオーブンに試験片を24時間静置後、試験片の質量(m1)を測定した。
3.23℃の純水に試験片を192時間浸漬させた後、試験片の質量(m2)を測定した。
4.50℃のオーブンに試験片を24時間静置後、試験片の質量(m3)を測定した。
以下の式に従い、吸水率を算出した。
(吸水率[%])=(m2-m3)/m1×100
【0109】
<帯電防止性>
帯電防止性は、成形体の表面抵抗率により評価した。
熱可塑性樹脂組成物を用いて射出成形機のシリンダー温度を270℃、金型温度95℃にし、JISK7139(プラスチック―試験片)に記載のダンベル形状の試験片を作製した。
得られたダンベル形状の試験片を用いて、抵抗率計(ハイレスタUX MCP-HT800型抵抗率計、JISK7194準拠4端子4探針法定電流印加方式、三菱化学アナリテック社製)(0.5cm間隔の4端子プローブ)を用い、成形体の表面抵抗率[Ω/□]を測定した。
【0110】
<成形体の機械物性評価>
機械物性は、衝撃試験により評価した。
熱可塑性樹脂組成物を用いて射出成形機のシリンダー温度を270℃、金型温度95℃にし、縦300mm×横300mm×厚み3mmの成形体を作製した。
得られた成形体を用いて、5mの高さから20回落下させた際の、割れやクラックの発生確認し、以下のようにして、成形体の機械物性を評価した。
[評価基準]
+++ 20回落下させても割れやクラックが生じない。(優良)
++ 15回落下させると割れやクラックが生じる。(良)
+ 10回落下させると割れやラックが生じる。(可)
NG 5回落下させると割れやクラックが生じる。
【0111】
<クリーン性>
アウトガス試験およびカーボン脱落性試験を行い、総合的なクリーン性を以下のように評価した。
(アウトガス試験)
熱可塑性樹脂組成物を用いて射出成形機のシリンダー温度を270℃、金型温度95℃にし、縦300mm×横300mm×厚み3mmの成形体を作製し、試験片として使用した。
アウトガス特性の測定方法としては、85℃で60分間熱処理した時に発生する試験片のアウトガスを、吸着剤を充填した吸着管に捕集し、パージ&トラップ装置を具備するGC-MSを用いて測定した。アウトガス濃縮装置としては、ジーエルサイエンス製MSTD-2 58Mを用いた。アウトガスの捕集条件としては、チャンバーパージガス流量は、N2ガス340mL/分、捕集時間30分間として実施した。分析方法としては、分析装置のGC―MSを用い、分析条件としては、カラムにJ&WキャピラリーカラムDB-5MSを用い、カラム温度は、40℃とし、3分間ホールド後、220℃ までは昇温速度9℃/分で20分間昇温し、更に300℃まで昇温速度10℃/分で8分間昇温し、300℃で3分間保持した。注入口の温度は280℃とした。キャリアガスはHeを用い、流速1.5mL/分で、スプリット比を1:10とした。MS分析(質量分析)は、分析装置(Agilent社製 HP6890/5973-GC/MS)を用いて、エレクトロンイオン化法により行った。検出器の温度は250℃とした。
[評価基準]
++ アウトガス量は5ppm未満。(優良)
+ アウトガス量は5ppm以上10ppm未満。(良)
NG アウトガス量が10ppm以上。
【0112】
(カーボン脱落性試験)
熱可塑性樹脂組成物を用いて射出成形機のシリンダー温度を270℃、金型温度95℃にし、縦90mm×横110mm×厚み3mmの成形体を作製した。
得られた成形体の平面を、摩耗試験機を使用し、PPC用紙(50×75mm)に荷重(500g)を加え、90mmの移動距離を100往復こすり、用紙に付着したカーボンの汚れの有無を目視で確認した。
【0113】
[評価基準]
++ カーボン脱落が確認されない。
+ カーボン脱落がうっすらと確認される。
NG カーボン脱落が確認できる。
【0114】
【0115】
上記の評価結果より、導電性に優れ、かつ面内バラつきもなく、塵やほこりの付着を防ぐことが可能な帯電防止性能を有し、さらに樹脂組成物への長時間の吸水を抑え、かつ成形性に優れた成形体を形成可能な電気電子包装材用熱可塑性樹脂組成物であることが確認できた。嵌合性がよいことから、成形時の残留応力や熱応力による変形を抑制できていることがわかり、成形性に優れることも確認できた。
【符号の説明】
【0116】
1 嵌合性評価試験片
2 嵌合部
3 幅1cmの挿入部をもつ嵌合性評価試験片
【要約】
【課題】導電性に優れ、かつ面内バラつきもなく、塵やほこりの付着を防ぐことが可能な帯電防止性能を有し、さらに樹脂組成物への長時間の吸水を抑え、かつ成形性に優れた成形体を形成可能な電気電子包装材用熱可塑性樹脂組成物、ならびに、該熱可塑性樹脂組成物により形成される、帯電防止性能に優れた成形体を提供すること。
【解決手段】
炭素材料と熱可塑性樹脂を含む熱可塑性樹脂組成物であって、 炭素材料はカーボンナノチューブ(A1)とカーボンブラック(A2)を含み、 熱可塑性樹脂はシクロオレフィンポリマー(B1)とエラストマー(B2)を含み、 カーボンナノチューブ(A1)は、(1)および(2)を満たし、熱可塑性樹脂組成物は、成形収縮率差ΔTが0.10%以下であることを特徴とする、電気電子包装材用熱可塑性樹脂組成物により解決される。
【選択図】
図1