IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ TOTO株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-静電チャック 図1
  • 特許-静電チャック 図2
  • 特許-静電チャック 図3
  • 特許-静電チャック 図4
  • 特許-静電チャック 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】静電チャック
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20240814BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20240814BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H01L21/302 101G
H01L21/31 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023175472
(22)【出願日】2023-10-10
【審査請求日】2024-01-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100121843
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 賢郎
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 拓真
(72)【発明者】
【氏名】池口 雅文
(72)【発明者】
【氏名】小林 幸太
(72)【発明者】
【氏名】籾山 大
【審査官】渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-165184(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2022/0270864(US,A1)
【文献】特開2006-013256(JP,A)
【文献】特開2017-059771(JP,A)
【文献】特開2021-158334(JP,A)
【文献】特開2020-053559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H01L 21/3065
H01L 21/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックにより形成された部材であって、温度調整用のガスを供給するための複数の貫通穴が形成された誘電体基板と、
金属材料により形成されたベースプレートと、
前記誘電体基板と前記ベースプレートとの間を接合する接合層と、を備え、
前記接合層の-60℃におけるヤング率をE(MPa)とし、
前記誘電体基板の中心軸と前記貫通穴の中心軸との間の距離をX(mm)としたときに、
複数の前記貫通穴のうち、前記誘電体基板の中心軸から最も遠い位置にある前記貫通穴について、
X≧75mmであり、且つ、
E≦0.2063×X-59.3887×X+4278.8065
が成り立つことを特徴とする静電チャック。
【請求項2】
前記誘電体基板の中心軸から最も遠い位置にある前記貫通穴のうち、前記接合層とは反対側の端部における直径が0.2mm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の静電チャック。
【請求項3】
前記接合層はシリコーン接着剤を硬化させたものであることを特徴とする、請求項1に記載の静電チャック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は静電チャックに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばエッチング装置等の半導体製造装置には、処理の対象となるシリコンウェハ等の基板を吸着し保持するための装置として、静電チャックが設けられる。静電チャックは、吸着電極が設けられた誘電体基板と、誘電体基板を支持するベースプレートと、を備え、これらが互いに接合された構成を有する。吸着電極に電圧が印加されると静電力が生じ、誘電体基板上に載置された基板が吸着され保持される。
【0003】
処理中においては、プラズマに曝されることにより基板の温度は上昇し、誘電体基板の温度も上昇する。一方、ベースプレートには低温の冷媒が供給されるため、ベースプレートの温度は-60℃もしくはそれ以下の温度まで低下することもある。基板の処理に伴う各部の温度変化や、誘電体基板とベースプレートとの間の温度差等に起因して、誘電体基板には大きな熱応力が加わる。
【0004】
熱応力による誘電体基板の破損を防止するためには、誘電体基板とベースプレートとの間を繋ぐ接合層の材料として、適切な物性を有する材料を選定する必要がある。例えば下記特許文献1では、-60℃における接合層(接着部材)の貯蔵弾性率を100MPa以下とすること、等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-23088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
接合層の材料として、可能な限りヤング率の小さな材料を用いれば、誘電体基板に加わる熱応力を小さく抑えることができる。しかしながら、接合層に求められる伝熱性能等に鑑みれば、接合層のヤング率をいくらでも小さくできるわけではない。接合層の材料は、ヤング率が所定の上限値以下であるという条件の下で、求められる伝熱性能等を考慮して適宜選定する必要がある。
【0007】
ところで、誘電体基板には、冷却用のガスの供給等を目的とした貫通穴が形成されている。本発明者らが行った実験等によれば、誘電体基板に加わる熱応力は、貫通穴の部分において特に大きくなり、その大きさは貫通穴の位置に応じて変化する、という知見が得られている。具体的には、誘電体基板の中心軸と貫通穴の中心軸との間の距離をXとしたときに、Xの値が大きくなるほど、当該貫通穴の部分に加わる熱応力は大きくなる。つまり、Xの値が大きくなるほど、接合層のヤング率について許容し得る範囲の上限値は狭くなる。
【0008】
このため、伝熱性能等の要求仕様を満たしつつ、誘電体基板に加わる熱応力を抑えるためには、「誘電体基板の中心軸と貫通穴の中心軸との間の距離」と、「接合層のヤング率の上限値」と、の相関を考慮しながら、それぞれのパラメータを適切に設定する必要がある。しかしながら、これらの相関をどのように考慮すべきか等について、これまでに具体的な検討は行われていなかった。
【0009】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、接合層のヤング率の値を適切なものとし、誘電体基板に加わる熱応力を低減することのできる静電チャック、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係る静電チャックは、貫通穴が形成された誘電体基板と、金属材料により形成されたベースプレートと、誘電体基板とベースプレートとの間を接合する接合層と、を備える。この静電チャックでは、接合層のヤング率をE(MPa)とし、誘電体基板の中心軸と貫通穴の中心軸との間の距離をX(mm)としたときに、誘電体基板の中心軸から最も遠い位置にある貫通穴について、E≦0.2063×X-59.3887×X+4278.8065 が成り立つ。
【0011】
誘電体基板の中心軸から最も遠い位置にある貫通穴は、多くの場合、誘電体基板のうち最も大きな熱応力が加わる部分である。本発明者らが行った実験等によれば、E≦0.2063×X-59.3887×X+4278.8065 の条件を満たすように、貫通穴の位置(X)及び接合層のヤング率(E)をそれぞれ設定しておけば、誘電体基板の当該貫通穴部分における熱応力を十分に低減できるという知見が得られている。静電チャックを上記構成とすることで、接合層のヤング率の値等を適切なものとしながら、誘電体基板に加わる熱応力を低減することが可能となる。
【0012】
接合層のヤング率に関する上記の式は、誘電体基板の中心軸から最も遠い位置にある貫通穴のみならず、誘電体基板に形成された全ての貫通穴について成立してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、接合層のヤング率の値を適切なものとし、誘電体基板に加わる熱応力を低減することのできる静電チャック、を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係る静電チャックの構成を模式的に示す断面図である。
図2図1の静電チャックが備える誘電体基板の構成を示す図である。
図3】本実施形態に係る静電チャックの実際の形状を示す図である。
図4】接合層のヤング率と、誘電体基板で生じる最大応力との関係を示す図である。
図5】貫通穴の位置と、許容ヤング率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0016】
本実施形態に係る静電チャック10は、例えばエッチング装置のような不図示の半導体製造装置の内部において、処理対象となる基板Wを静電力によって吸着し保持するものである。基板Wは、例えばシリコンウェハである。静電チャック10は、半導体製造装置以外の装置に用いられてもよい。
【0017】
図1には、基板Wを吸着保持した状態の静電チャック10の構成が、模式的な断面図として示されている。静電チャック10は、誘電体基板100と、ベースプレート200と、接合層300と、を備える。
【0018】
誘電体基板100は、セラミック焼結体からなる略円盤状の部材である。誘電体基板100は、例えば高純度の酸化アルミニウム(Al)を含むが、他の材料を含んでもよい。誘電体基板100におけるセラミックスの純度や種類、添加物等は、半導体製造装置において誘電体基板100に求められる耐プラズマ性等を考慮して、適宜設定することができる。
【0019】
誘電体基板100のうち図1における上方側の面110は、基板Wが載置される「載置面」となっている。また、誘電体基板100のうち図1における下方側の面120は、後述の接合層300を介してベースプレート200に接合される「被接合面」となっている。面110に対し垂直な方向に沿って、面110側から静電チャック10を見た場合の視点のことを、以下では「上面視」のようにも表記する。誘電体基板100の厚さ、すなわち、面110と面120との間の距離は、本実施形態では0.9mmであるが、これとは異なる厚さであってもよい。
【0020】
誘電体基板100の内部には吸着電極130が埋め込まれている。吸着電極130は、例えばタングステン等の金属材料により形成された薄い平板状の層であり、面110に対し平行となるように配置されている。吸着電極130の材料としては、タングステンの他、モリブデン、白金、パラジウム等を用いてもよい。給電路13を介して外部から吸着電極130に電圧が印加されると、面110と基板Wとの間に静電力が生じ、これにより基板Wが吸着保持される。吸着電極130は、本実施形態のように所謂「双極」の電極として2つ設けられていてもよいが、所謂「単極」の電極として1つだけ設けられていてもよい。
【0021】
図1においては、給電路13の全体が簡略化して描かれている。給電路13のうち誘電体基板100の内部の部分は、例えば、導電体の充填された細長いビア(穴)として構成されており、その下端には不図示の電極端子が設けられている。給電路13のうち後述のベースプレート200を貫いている部分は、上記の電極端子に一端が接続された導電性の金属部材(例えばバスバー)である。ベースプレート200には、給電路13を挿通するための不図示の貫通穴が形成されている。当該貫通穴の内面と給電路13との間には、例えば円筒状の絶縁部材が設けられていてもよい。
【0022】
図1に示されるように、誘電体基板100と基板Wとの間には空間SPが形成されている。半導体製造装置においてエッチング等の処理が行われる際には、空間SPには、後述の貫通穴140等を介して外部から温度調整用のヘリウムガスが供給される。誘電体基板100と基板Wとの間にヘリウムガスを介在させることで、両者間の熱抵抗が調整され、これにより基板Wの温度が適温に保たれる。尚、空間SPに供給される温度調整用のガスは、ヘリウムとは異なる種類のガスであってもよい。
【0023】
図2は、誘電体基板100を上面視で描いた図である。同図に示されるように、載置面である面110上にはシールリング111やドット112が設けられており、上記の空間SPはこれらの周囲に形成されている。
【0024】
シールリング111は、空間SPを区画する壁であり、上面視において同心円状に並ぶように複数設けられている。それぞれのシールリング111の上端は、面110の一部となっており、基板Wに当接する。本実施形態では、計4つのシールリング111が設けられており、これにより空間SPは4つに分けられている。このような構成とすることで、それぞれの空間SPにおけるヘリウムガスの圧力を個別に調整し、処理中における基板Wの表面温度分布を均一に近づけることが可能となる。
【0025】
図1図2において符号「116」が付されている部分は、空間SPの底面である。以下では、当該部分のことを「底面116」とも称する。シールリング111は、次に述べるドット112と共に、面110の一部を底面116の位置まで掘り下げた結果として形成されている。
【0026】
ドット112は、底面116から突出する円形の突起である。図2に示されるように、ドット112は複数設けられており、誘電体基板100の載置面において略均等に分散配置されている。それぞれのドット112の上端は、面110の一部となっており、基板Wに当接する。このようなドット112を複数設けておくことで、基板Wの撓みが抑制される。
【0027】
空間SPの底面116には、溝113が形成されている。溝113は、底面116から更に面120側へと後退させるように形成された溝である。溝113は、貫通穴140から供給されるヘリウムガスを、空間SP内に素早く拡散させ、空間SP内の圧力分布を短時間のうちに略均一とすることを目的として形成されている。尚、貫通穴140の数や配置によっては溝113を不要とすることもできる。
【0028】
誘電体基板100には、面120から面110側に向かって垂直に伸びる貫通穴140が形成されている。図2に示されるように、貫通穴140のうち面110側の端部は、溝113の底面において開口している。誘電体基板100において、貫通穴140は複数形成されており、これらが溝113に沿って並んでいる。本実施形態では、4つに区分された空間SPのそれぞれに対して、貫通穴140が複数個ずつ繋がっている。
【0029】
尚、図2においては図示の便宜上、貫通穴140の直径が溝113の幅よりも大きくなっているように描かれているが、図1に示されるように、実際の貫通穴140の直径は溝113の幅よりも小さい。貫通穴140が溝113の内側に収まるように、貫通穴140の位置において、溝113の幅が局所的に大きくなっていてもよい。貫通穴140のうち、接合層300とは反対側の端部(つまり面110側の端部)における直径は、本実施形態では0.2mm以下となっている。
【0030】
図1に示されるように、貫通穴140のうち面120側の部分は、面110側の部分に比べて拡径されており、その内側には通気プラグ145が配置されている。通気プラグ145は、例えばアルミナにより形成された多孔質体であり、全体が通気性を有している。このような通気プラグ145を貫通穴140の内側に配置することで、貫通穴140におけるガスの流れを確保しながらも、貫通穴140を通じた経路での絶縁破壊の発生を抑制することができる。尚、絶縁破壊を十分に防止し得る場合には、貫通穴140に通気プラグ145が配置されていない構成としてもよい。この場合、貫通穴140の内径を、上下方向の全体で均一としてもよい。
【0031】
図2において符号「115」が付されているのは、半導体製造装置に設けられた不図示のリフトピンが挿通される貫通穴である。当該貫通穴のことを、以下では「貫通穴115」とも称する。貫通穴115は、上記の貫通穴140と同様に、面120から面110側に向かって垂直に伸びるように形成されている。貫通穴115は計3つ形成されており、これらが120度等配となるように配置されている。貫通穴115を通じて上下に移動するリフトピンにより、誘電体基板100の面110に対する基板Wの着脱が行われる。
【0032】
ベースプレート200は、誘電体基板100を支持する略円盤状の部材である。ベースプレート200は、例えばアルミニウムのような金属材料により形成されている。ベースプレート200のうち、図1における上方側の面210は、接合層300を介して誘電体基板100に接合される「被接合面」となっている。
【0033】
図1に示されるように、ベースプレート200には、面210から、その反対側の面220側に向かって垂直に伸びる貫通穴240が形成されている。貫通穴240は、上面視において誘電体基板100の貫通穴140と重なる位置、のそれぞれに形成されており、接合層300に設けられた貫通穴310を介して貫通穴140に連通されている。貫通穴240は、誘電体基板100の貫通穴140と共に、空間SPに向けてヘリウムガスを供給するための経路の一部となっている。
【0034】
図1に示されるように、貫通穴240のうち面210側の部分は、面220側の部分に比べて拡径されており、その内側には通気プラグ245が配置されている。通気プラグ245は、例えばアルミナにより形成された多孔質体であり、全体が通気性を有している。このような通気プラグ245を貫通穴240の内側に配置することで、貫通穴240におけるガスの流れを確保しながらも、貫通穴240を通じた経路での絶縁破壊の発生を抑制することができる。尚、絶縁破壊を十分に防止し得る場合には、貫通穴240に通気プラグ245が配置されていない構成としてもよい。この場合、貫通穴240の内径を、上下方向の全体で均一としてもよい。
【0035】
貫通穴240は、本実施形態のように全体が直線状に伸びるように形成されていてもよいが、面220に向かう途中で屈曲するように形成されていてもよい。また、面210側の複数の貫通穴240を、ベースプレート200の内部において少数の流路に集約した上で、当該流路を面220側まで伸ばすような構成としてもよい。
【0036】
ベースプレート200の内部には、冷媒を流すための冷媒流路250が形成されている。半導体製造装置において成膜等の処理が行われる際には、外部から冷媒が冷媒流路250に供給され、これによりベースプレート200が冷却される。処理中において基板Wで生じた熱は、空間SPのヘリウムガス、誘電体基板100、及びベースプレート200を介して冷媒へと伝えられ、冷媒と共に外部へと排出される。
【0037】
ベースプレート200のうち、上面視において貫通穴115と重なる位置のそれぞれには、リフトピンを通すための不図示の貫通穴が形成されている。
【0038】
ベースプレート200の表面には絶縁膜が形成されていてもよい。絶縁膜は、ベースプレート200の表面のうち、少なくとも面210の全体を含む範囲に形成されることが好ましい。絶縁膜としては、例えば、溶射により形成されたアルミナの膜を用いることができる。ベースプレート200の表面を絶縁膜で覆っておくことにより、ベースプレート200の絶縁耐圧を高めることができる。
【0039】
尚、図1においては、誘電体基板100の面120の直径と、ベースプレート200の面210の直径と、が互いに等しくなるように模式的に描かれているが、両者は互いに異なる場合が多い。図3には、静電チャック10の実際の構成が示されている。同図に示されるように、本実施形態の静電チャック10では、誘電体基板100の面120の直径が、ベースプレート200の面210の直径よりも僅かに大きくなっている。このため、誘電体基板100の外周側部分は、ベースプレート200よりも外側に向けて突出しており、下方側から支持されていない。ただし、このような構成はあくまで一例であって、それぞれの上記直径が互いに一致しているような構成としてもよい。
【0040】
接合層300は、誘電体基板100とベースプレート200との間に設けられた層であって、両者を接合している。接合層300は、絶縁性の材料からなる接着材を硬化させたものである。本実施形態では、上記接着剤としてシリコーン接着剤を用いている。ただし、接合層300は、他の種類の接着剤を硬化させたものであってもよい。いずれの場合であっても、誘電体基板100とベースプレート200との間の熱抵抗が小さくなるように、接合層300の材料としては、可能な限り熱伝導率が高い材料を用いるのが好ましい。接合層300の内部に、熱伝導率を高めるための粒子状の充填剤(フィラー)が複数配置されている構成としてもよい。充填剤としては、例えばアルミナを主成分とする粒子を用いることができる。
【0041】
接合層300の厚さは、接合層300に求められる伝熱性能等に応じて適宜設定することができる。本実施形態では、接合層300の厚さは250μmであるが、これとは異なる厚さであってもよい。尚、誘電体基板100の面120側に電極端子が埋め込まれている場合や、ベースプレート200の面210の一部に溝が形成されている場合等のように、接合層300の厚さが全体で均等とはなっていない場合もあり得る。その場合における「接合層300の厚さ」とは、上記のように局所的に厚さが他と異なっている部分を除外した範囲の厚さのことである。
【0042】
接合層300は、誘電体基板100やベースプレート200に比べると小さなヤング率(縦弾性係数)を有している。誘電体基板100とベースプレート200との間で熱膨張差が生じても、接合層300が変形し熱膨張差を吸収するため、誘電体基板100等における熱応力を小さく抑えることができる。
【0043】
接合層300のヤング率は、接合層300の温度に応じて変化する。接合層300の温度が-60℃となっているときにおける接合層300のヤング率を、「MPa」の単位で表した数値のことを、以下では「E」と表記する。例えば、-60℃における接合層300のヤング率が0.01GPaである場合には、E=10である。尚、上記における「-60℃」という温度は、接合層300の物性(ヤング率)を特定するための便宜上の基準に過ぎず、冷媒流路250に実際に供給される冷媒の温度等について何ら限定するものではない。
【0044】
近年では、処理中において基板Wに入射するエネルギーの増大等に伴って、ベースプレート200には従来よりも高い冷却性能が求められる傾向がある。例えば、ベースプレート200の冷媒流路250には、-60℃もしくはそれ以下の温度の冷媒が供給されることもある。プラズマの高出力化等に伴って冷媒の温度は更に低くなるので、将来的には-100℃程度の冷媒が供給されるようになる可能性もある。
【0045】
基板Wの処理の開始に伴う各部の温度変化や、誘電体基板100とベースプレート200との間の温度差等に起因して、誘電体基板100には大きな熱応力が加わる。本発明者らが行った実験等によれば、誘電体基板100に加わる熱応力は、貫通穴の部分(例えば貫通穴140の出口部分)において特に大きくなり、その大きさは当該貫通穴の位置に応じて変化する、という知見が得られている。
【0046】
説明の便宜上、誘電体基板100の中心軸のことを、以下では「中心軸AX0」とも称する(図1を参照)。中心軸AX0は、上面視において円形である誘電体基板100の中心を通り、且つ、面110に対して垂直な軸である。尚、例えば誘電体基板100の外周側の一部にオリフラ等が形成されており、上面視における誘電体基板100の形状が厳密には円形ではない場合もあり得る。この場合、上記のオリフラ等が形成されていないものと仮定し、誘電体基板100の全体の形状を円形とみなした上で、当該円形の中心を通る軸として中心軸AX0を定義するものとする。
【0047】
また、貫通穴140の中心軸のことを、以下では「中心軸AX1」とも称する(図1を参照)。先に述べたように、貫通穴140は、面120から面110側に向かって垂直に伸びるように形成された穴である。このため、中心軸AX1は、中心軸AX0と同様に面110に対して垂直な軸となる。中心軸AX1は、複数ある貫通穴140のそれぞれについて個別に定義される。
【0048】
誘電体基板100の中心軸AX0から、貫通穴140の中心軸AX1までの距離を、「mm」の単位で表した数値のことを、以下では「X」もしくは「距離X」と表記する。距離Xは、複数ある貫通穴140のそれぞれについて個別に定義される。本発明者らが行った実験等によれば、中心軸AX0から貫通穴140の中心軸AX1までの距離Xが大きくなるほど、当該貫通穴140の部分に加わる熱応力の大きさも大きくなる傾向がある。換言すれば、誘電体基板100のうち最も大きな熱応力が加わるのは、多くの場合、最外周に形成された貫通穴140の部分ということになる。
【0049】
接合層300の材料として、可能な限りヤング率の小さな材料を用いれば、誘電体基板100に加わる熱応力を小さく抑えることができる。しかしながら、接合層300に求められる伝熱性能等に鑑みれば、接合層300のヤング率をいくらでも小さくできるわけではない。接合層300の材料は、ヤング率が所定の上限値以下であるという条件の下で、求められる伝熱性能等を考慮して適宜選定する必要がある。
【0050】
誘電体基板100の中心軸AX0から、貫通穴140の中心軸AX1までの距離Xが小さいほど、当該貫通穴140の部分に加わる熱応力は小さくなるので、許容され得るヤング率(E)の上限値は大きくなる。このように、貫通穴140の位置(X)と、接合層300のヤング率(E)の上限値とは、互いに相関のあるパラメータとなっている。本発明者らは、種々の実験及び解析等を行うことにより、上記の相関について以下に示すような新たな知見を得ることができた。
【0051】
図4に示される4つのグラフは、-60℃における接合層300のヤング率(横軸)と、誘電体基板100で生じる最大応力(縦軸)との関係を表すものである。
【0052】
例えば、右側に「X1」が付されたグラフは、中心軸AX0から最も遠い位置(つまり最外周)にある貫通穴140がX=X1となっている誘電体基板100について、接合層300のヤング率(具体的には、-60℃におけるヤング率)の値を変化させながら都度解析を行い、低温時において誘電体基板100で生じる熱応力の最大値(以下では「最大応力」ともいう)をプロットして行くことにより得られたものである。
【0053】
上記の「低温時」とは、具体的には、静電チャック10全体の温度が40℃の状態で接合層300を硬化させた後に、静電チャック10全体の温度を-60℃まで低下させた時のことである。尚、いずれの解析においても、「誘電体基板100で生じる応力の最大値」とは、最外周に配置された貫通穴140(つまり、X=X1の貫通穴140)の、面110側の端部近傍の部分で生じた応力の値であった。
【0054】
右側に「X2」乃至「X4」が付されたそれぞれのグラフも、上記と同様の解析に基づいて得られたものである。X2はX1よりも大きな距離であり、X3はX2よりも大きな距離であり、X4はX3よりも大きな距離である。
【0055】
図4の各グラフを見ると、接合層300のヤング率が大きくなるに従って、低温時に誘電体基板100で生じる最大応力は大きくなることがわかる。また、接合層300のヤング率を同一とした条件の下で比較すると、最外周に配置された貫通穴140の距離Xが大きくなるほど、低温時に誘電体基板100で生じる最大応力も大きくなる傾向があることがわかる。
【0056】
ただし、X=X4のときの最大応力は、X=X3のときの最大応力よりも僅かに小さくなっており、上記の傾向とは逆になっている。これは、X4に対応する貫通穴140の位置が、ベースプレート200の面210よりも外周側となる位置、すなわち、誘電体基板100の下方側がベースプレート200によって支持されていない位置であることに起因している。実際には、このような位置に貫通穴140が形成される可能性は低いと思われる。
【0057】
図4の縦軸に示される「閾値」は、誘電体基板100において破損が生じることの無い最大応力の範囲、の上限値のことである。
【0058】
図4の「E1」は、最外周にある貫通穴140の距離XがX1となっている誘電体基板100において、最大応力の値が上記閾値となるようなヤング率(E)の値である。「E2」は、最外周にある貫通穴140の距離XがX2となっている誘電体基板100において、最大応力の値が上記閾値となるようなヤング率(E)の値である。「E3」、「E4」についてもこれらと同様である。E1乃至E4のそれぞれは、誘電体基板100の破損を生じさせないために、接合層300のヤング率(E)の値として許容し得る範囲の上限値、ということができる。このようなヤング率の上限値のことを、以下では「許容ヤング率」とも称する。図4から明らかなように、許容ヤング率(E1乃至E4)は、最外周にある貫通穴140の距離X(X1乃至X4)に応じて異なる値となる。
【0059】
最外周にある貫通穴140の距離X(横軸)と、許容ヤング率(縦軸)との対応関係は、図5のグラフの通りとなる。同図に示されるように、両者の間には概ね二字曲線状の相関があることがわかる。距離Xが増加するに伴って許容ヤング率は次第に小さくなる。ただし、距離Xがある程度大きくなると、距離Xが増加するに伴って許容ヤング率は逆に増加する。このような増加傾向が生じるのは、誘電体基板100のうち最外周の部分が、下方からベースプレート200によって支持されていないことに起因している。図5に示される両者の関係は、以下の式(1)で表すことができる。
許容ヤング率=0.2063×X-59.3887×X+4278.8065・・・(1)
【0060】
従って、接合層300のヤング率であるEと、最外周にある貫通穴140の距離Xとが、以下の式(2)で示される条件を満たすのであれば、誘電体基板100で生じる最大応力の値は図4の「閾値」以下に収まり、誘電体基板100の破損は確実に防止されることとなる。
E≦0.2063×X-59.3887×X+4278.8065・・・(2)
【0061】
尚、例えば誘電体基板100の外径が本実施形態と異なる場合には、それに応じて、上記の方法で算出される式(1)や式(2)の各係数も、厳密には上記とは異なる値となる。しかしながら、図4に示される「閾値」はある程度のマージンを考慮して設定されているので、静電チャック10の構成が本実施形態とは多少異なる場合でも、式(2)をそのまま用いて判定を行うことができる。
【0062】
以上のように、本発明者らが今般行った解析等により、最外周にある貫通穴140の距離X及び接合層300のヤング率Eを適切なものとするための条件として、上記の式(2)を得ることができた。上記の式(2)の条件を満たすように、貫通穴140の位置及び接合層300のヤング率Eを選定しておけば、基板Wの処理中等における誘電体基板100の熱応力を、破損が生じない程度に低減することができる。具体的なEやXの値は、接合層300に求められる伝熱性能等の要求仕様を満たしつつ、且つ上記(2)の条件を満たす範囲内の値として、適宜設定すればよい。
【0063】
尚、上記の式(2)の条件を満たすような一群の貫通穴140は、少なくとも、誘電体基板100の中心軸AX0から最も遠い位置にある貫通穴140を含んでいればよいが、それ以外の貫通穴140を含んでいてもよい。好ましくは、誘電体基板100に形成された全ての貫通穴140が、式(2)の条件を満たしていればよい。このような構成とすることで、熱応力による誘電体基板100の破損をより確実に防止することができる。
【0064】
尚、貫通穴140等のうち、接合層300とは反対側の端部(つまり面110側の端部)における直径が小さくなる程、誘電体基板100で生じる熱応力は大きくなることが判明している。貫通穴140のように、不活性ガスの供給を目的とする貫通穴は、絶縁破壊を防止するために、直径が0.2mm以下の小さな穴とされることが多い。上記の式(2)の条件を満たすように接合層300の厚さ及びヤング率を設定しておけば、貫通穴の直径が0.2mm以下となっている場合であっても、誘電体基板100の破損が生じない程度に熱応力を抑制できることが、解析等により確認されている。尚、上記の記載は、貫通穴の直径を0.2mm以上とすることについて何ら否定するものではない。
【0065】
接合層300としては、上記の式(2)の条件を満たし得るものであれば、様々な種類の接着剤を用いることができる。例えば、本実施形態のようなシリコーン接着剤のほか、エポキシ、ポリイミド、アクリル、変性シリコーン樹脂等の様々な接着剤を用いて接合層300を形成することができる。ただし、シリコーン接着剤は硬化後におけるヤング率が比較的小さいので、様々な種類のシリコーン接着剤の中から、上記の式(2)の条件を満たすものを容易に選定することができる。このため、本実施形態のように、接合層300はシリコーン接着剤を硬化させたものであることが好ましい。
【0066】
接合層300を形成するための接着剤としては、市販されている既存の接着剤をそのまま用いてもよいが、式(2)の条件を満たすように、既存の接着剤に対しヤング率の調整を施したものを用いてもよい。接着剤のヤング率を調整する方法としては、公知となっている種々の方法を採用することができる。例えば、接着剤に対し官能基やフィラーを添加することとし、それぞれの種類や添加量を調整することで、-60度のような低温域におけるヤング率を変化させ所望の値とすることができる。一例として、接着剤がシリコーン樹脂の場合には、フェニル基の添加量を調整することで、特に低温域でのヤング率を調整することができる。また無機フィラーの添加量を減らすことでヤング率を低下させることもできる。
【0067】
上記のように、貫通穴140の距離Xが大きくなるほど、当該貫通穴140の部分に加わる熱応力は大きくなる。少なくとも一つの貫通穴140が、X≧75mmとなるような外周側部分に形成されている誘電体基板100においては、当該貫通穴140の部分に加わる熱応力は、無視できない程度に大きくなることが多い。しかしながら、上記の式(2)の条件を満たすように接合層300の材料を選定しておけば、誘電体基板100の破損が生じない程度に熱応力を抑制することができる。
【0068】
本実施形態では、誘電体基板100に形成された複数の貫通穴のうち最も外周側に形成されているものが、(貫通穴115ではなく)貫通穴140となっている。当該貫通穴140よりも更に外側となる位置に、別の貫通穴が形成されている場合には、当該貫通穴の位置(X)が式(2)条件を満たすように、接合層300のヤング率(E)を設定すればよい。
【0069】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0070】
10:静電チャック
100:誘電体基板
140:貫通穴
200:ベースプレート
300:接合層
AX0,AX1:中心軸
【要約】
【課題】接合層のヤング率の値を適切なものとし、誘電体基板に加わる熱応力を低減することのできる静電チャック、を提供する。
【解決手段】静電チャック10は、貫通穴140が形成された誘電体基板100と、金属材料により形成されたベースプレート200と、誘電体基板100とベースプレート200との間を接合する接合層300と、を備える。接合層300のヤング率をE(MPa)とし、誘電体基板100の中心軸AX0と貫通穴140の中心軸AX1との間の距離をX(mm)としたときに、中心軸AX0から最も遠い位置にある貫通穴140について、E≦0.2063×X-59.3887×X+4278.8065 が成り立つ。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5