(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】回転電機及び回転電機の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/2786 20220101AFI20240814BHJP
H02K 15/03 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
H02K1/2786
H02K15/03 Z
(21)【出願番号】P 2023502347
(86)(22)【出願日】2022-02-18
(86)【国際出願番号】 JP2022006600
(87)【国際公開番号】W WO2022181473
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2021027628
(32)【優先日】2021-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100207859
【氏名又は名称】塩谷 尚人
(72)【発明者】
【氏名】福島 明
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕樹
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-141527(JP,A)
【文献】特開昭63-099748(JP,A)
【文献】特開2015-228762(JP,A)
【文献】特開2019-140368(JP,A)
【文献】特開2009-177919(JP,A)
【文献】特開2011-045156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K1/17
1/27-1/2798
15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に極性が交互となる複数の磁極を含む磁石部(1000)を有する界磁子(20)と、径方向において前記磁石部に対向して配置される電機子(60)と、を備え、前記界磁子及び前記電機子のうちいずれかを回転子とする回転電機(10)において、
前記磁石部は、周方向に並べて配置されている複数の磁石(1001,1002)と、複数の前記磁石が内周面又は外周面に固定される磁石ヨーク(2000)と、を備え、
前記複数の磁石における磁化容易軸は、その向きが磁極境界であるq軸の側に比べて磁極中心であるd軸の側において、磁極中心であるd軸に平行となるように配向され、当該磁化容易軸に沿って磁石磁路が形成されており、
当該磁石磁路の長さに基づいて算出される前記複数の磁石のパーミアンス係数が、周方向において、磁極境界であるq軸から磁極中心であるd軸に近づくほど大きくなるように、前記複数の磁石の反電機子側周面(1004)において、磁極境界であるq軸側に凹部(1004b)が設けられており
、
前記複数の磁石の反電機子側周面において、磁極境界であるq軸側には、前記反電機子側周面の前記凹
部に対して周方向に係合するとともに、前記複数の磁石の極性の異なる磁極間で磁束を授受するための軟磁性材からなる係合部(2001)が設けられ、
前記磁石に設けられている前記凹
部は、前記磁石においてパーミアンス係数が同じとなるパーミアンス係数の等高線を分断するように、設けられている、回転電機。
【請求項2】
前記複数の磁石は、磁化容易軸が円弧状に配向され、
当該円弧状に配向された磁化容易軸の配向中心は、周方向において磁極境界であるq軸側であって、径方向において、当該複数の磁石の電機子側周面(1003)、または、当該複数の磁石の電機子側周面よりも前記電機子の側に設定されている請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記複数の磁石における磁化容易軸は、径方向に対する傾斜角度を有する直線状磁化容易軸であって、周方向の位置により当該傾斜角度が徐変するものであり、
周方向において、磁極境界であるq軸側から磁極中心であるd軸側に近づくにつれて、前記直線状磁化容易軸が磁極中心であるd軸に平行となるように、各々の当該直線状磁化容易軸の傾斜角度が径方向に対して小さくなるように設定されている請求項1に記載の回転電機。
【請求項4】
周方向に極性が交互となる複数の磁極を含む磁石部(1000)を有する界磁子(20)と、径方向において前記磁石部に対向して配置される電機子(60)と、を備え、前記界磁子及び前記電機子のうちいずれかを回転子とする回転電機(10)において、
前記磁石部は、周方向に並べて配置されている複数の磁石(1001,1002)と、複数の前記磁石が内周面又は外周面に固定される磁石ヨーク(2000)と、を備え、
前記複数の磁石における磁化容易軸は、その向きが径方向に対して一定の傾斜角度を有して直線状となるようにパラレル配向され、当該磁化容易軸に沿って磁石磁路が形成されており、
当該磁石磁路の長さに基づいて算出される前記複数の磁石のパーミアンス係数が、周方向において、磁極境界であるq軸から磁極中心であるd軸に近づくほど大きくなるように、前記複数の磁石の反電機子側周面(1004)において、磁極境界であるq軸側に凹部(1004b)が設けられており、又は磁極中心であるd軸側に凸部が設けられており、若しくは、磁極境界であるq軸側に凹部が設けられるとともに磁極中心であるd軸側に凸部が設けられており、
前記複数の磁石の反電機子側周面において、磁極境界であるq軸側には、前記反電機子側周面の前記凹部又は前記凸部に対して周方向に係合するとともに、前記複数の磁石の極性の異なる磁極間で磁束を授受するための軟磁性材からなる係合部(2001)が設けられた回転電機。
【請求項5】
前記係合部は、前記磁石ヨークの内周面又は外周面から突出するように前記磁石ヨークに一体形成されている請求項1~4のうちいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項6】
前記磁石ヨークは、細長い薄板状の帯部材が螺旋状に巻回されて積層されることにより筒状に構成されたヘリカルコア(2200)である請求項1~5のうちいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項7】
各々の前記磁石(1001,1002)は、周方向において隣り合う磁極中心であるd軸と磁極境界であるq軸との間に設けられ、磁極境界であるd軸及び磁極境界であるq軸において端面(1005)がそれぞれ形成されており、
周方向における前記磁石のd軸側端面(1005a)同士の隙間が、q軸側端面(1005b)同士の隙間よりも狭くなるように、周方向において隣り合う前記係合部の間隔が設定されている請求項1~6のうちいずれか1項に記載の回転電機。
【請求項8】
周方向に極性が交互となる複数の磁極を含む磁石部(1000)を有する界磁子(20)と、径方向において前記磁石部に対向して配置される電機子(60)と、を備え、前記界磁子及び前記電機子のうちいずれかを回転子とする回転電機(10)の製造方法であって、
前記磁石部は、周方向に並べて配置されている複数の磁石(1001,1002)を備え、
前記複数の磁石における磁化容易軸は、その向きが磁極境界であるq軸の側に比べて磁極中心であるd軸の側において、d軸に平行となるように配向され、又は、磁化容易軸が、径方向に対して一定の傾斜角度を有して直線状になるようにパラレル配向され、当該磁化容易軸に沿って磁石磁路が形成されており、
当該磁石磁路の長さに基づいて算出される前記複数の磁石のパーミアンス係数が、周方向において、磁極境界であるq軸から磁極中心であるd軸に近づくほど大きくなるように、反電機子側周面(1004)において、磁極境界であるq軸側に凹部(1004b)が設けられており
、
前記磁石の反電機子側周面において、磁極境界であるq軸側には、前記反電機子側周面の前記凹
部に対して周方向に係合するとともに、前記複数の磁石の極性の異なる磁極間で磁束を授受するための軟磁性材からなる係合部(2001)が設けられた回転電機の製造方法において、
細長い直線状の板部材(4001)に対して曲げ加工を行うことにより、細長い薄板状の帯部材を螺旋状に巻回して積層された筒状の磁石ヨーク(2200)を形成する曲げ加工ステップと、
前記磁石ヨークに前記複数の磁石を固定する固定ステップと、を有し、
前記曲げ加工ステップの実行前において、前記板部材には、前記係合部がその幅方向に突出するように予め一体形成されているとともに、当該係合部には、前記曲げ加工による変形を吸収する凹凸(4002)が設けられ、
前記磁石に設けられている前記凹
部は、前記磁石においてパーミアンス係数が同じとなるパーミアンス係数の等高線を分断するように、設けられている、回転電機の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2021年2月24日に出願された日本出願番号2021-027628号に基づくもので、ここにその記載内容を援用する。
【技術分野】
【0002】
この明細書における開示は、回転電機及び回転電機の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、磁石の背面(反電機子側周面)に凹凸を設け、磁石を保持する磁石保持部の内周面に設けられた係合部に係合させることにより、磁石の固定と回動防止を適切に行う回転電機が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
ところで、高トルク、低振動の回転電機を実現させる場合、磁石の表面磁束密度を、正弦波状にすることが望ましい。特許文献1の回転電機において、磁石の表面磁束密度を正弦波状に近づけるためには、磁石の配向状態と形状について、さらなる工夫の余地があることがわかった。
【0006】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、磁石の配向状態と形状について工夫を施すことにより、磁石の表面磁束密度を正弦波状に近づけることができ、併せて磁石の位置決めと回動防止もできる回転電機及び回転電機の製造方法を提供することにある。
【0007】
上記課題を解決するための第1の手段は、周方向に極性が交互となる複数の磁極を含む磁石部を有する界磁子と、径方向において前記磁石部に対向して配置される電機子と、を備え、前記界磁子及び前記電機子のうちいずれかを回転子とする回転電機において、前記磁石部は、周方向に並べて配置されている複数の磁石と、複数の前記磁石が内周面又は外周面に固定される磁石ヨークと、を備え、前記複数の磁石における磁化容易軸は、その向きが磁極境界であるq軸の側に比べて磁極中心であるd軸の側において、磁極中心であるd軸に平行となるように配向され、当該磁化容易軸に沿って磁石磁路が形成されており、当該磁石磁路の長さに基づいて算出される前記複数の磁石のパーミアンス係数が、周方向において、磁極境界であるq軸から磁極中心であるd軸に近づくほど大きくなるように、前記複数の磁石の反電機子側周面において、磁極境界であるq軸側に凹部が設けられており、又は磁極中心であるd軸側に凸部が設けられており、若しくは、磁極境界であるq軸側に凹部が設けられるとともに磁極中心であるd軸側に凸部が設けられており、前記複数の磁石の反電機子側周面において、磁極境界であるq軸側には、前記反電機子側周面の前記凹部又は前記凸部に対して周方向に係合するとともに、前記複数の磁石の極性の異なる磁極間で磁束を授受するための軟磁性材からなる係合部が設けられた。
【0008】
複数の磁石における磁化容易軸は、その向きが磁極境界であるq軸の側に比べて磁極中心であるd軸の側において、磁極中心であるd軸に平行となるように配向され、当該磁化容易軸に沿って磁石磁路が形成されている。このため、径方向に沿って直線状に磁石磁路を形成する場合に比較して、磁石磁極間の漏れ磁束を少なくし、磁石部の表面磁束密度を正弦波状に近づけることができる。
【0009】
ところで、磁石の製法都合上、磁束密度に密接に関係する磁石磁路の長さや方向を微調整することは難しく、上記のように構成した場合であっても、径方向における磁石の厚さ寸法が一定の場合、表面磁束密度が完全に正弦波状とすることは難しいという課題があった。
【0010】
そこで、上記手段では、磁石のパーミアンス係数が、周方向において、磁極境界であるq軸から磁極中心であるd軸に近づくほど大きくなるように、複数の磁石の反電機子側周面において、磁極境界であるq軸側に凹部を設けた、又は磁極中心であるd軸側に凸部を設けた、若しくは、磁極境界であるq軸側に凹部を設けるとともに磁極中心であるd軸側に凸部を設けた。すなわち、反電機子側周面に凹凸を設けて磁石磁路の長さを調整し、パーミアンス係数が、周方向において、磁極境界であるq軸から磁極中心であるd軸に近づくほど大きくなるにした。これにより、磁化容易軸の方向や長さを調整する磁石配向の効果に磁石形状の効果を好適に重畳させることにより、磁石部の表面磁束密度を正弦波状に近づけることが可能となる。
【0011】
また、複数の磁石の反電機子側周面において、磁極境界であるq軸側には、反電機子側周面の凹部又は凸部に対して周方向に係合するとともに、複数の磁石の極性の異なる磁極間で磁束を授受するための軟磁性材からなる係合部が設けられた。これにより、磁石磁極間の磁束漏れを抑制することができ、磁石部の表面磁束密度を正弦波状に近づけることができる。また、磁石の位置決めと回動防止を行うことができる。
【0012】
第2の手段は、第1の手段において、前記複数の磁石は、磁化容易軸が円弧状に配向され、当該円弧状に配向された磁化容易軸の配向中心は、周方向において磁極境界であるq軸側であって、径方向において、当該複数の磁石の電機子側周面、または、当該複数の磁石の電機子側周面よりも前記電機子の側に設定されている。
【0013】
これにより、磁束密度を向上させつつ、より正弦波状に近づけることができる。
【0014】
第3の手段は、第1又は第2の手段において、前記複数の磁石における磁化容易軸は、径方向に対する傾斜角度を有する直線状磁化容易軸であって、周方向の位置により当該傾斜角度が徐変するものであり、周方向において、磁極境界であるq軸側から磁極中心であるd軸側に近づくにつれて、前記直線状磁化容易軸が磁極中心であるd軸に平行となるように、各々の当該直線状磁化容易軸の傾斜角度が径方向に対して小さくなるように設定されている。
【0015】
これにより、磁束密度を向上させつつ、より正弦波状に近づけることができる。
【0016】
第4の手段は、第1~第3のうちいずれかの手段において、周方向に極性が交互となる複数の磁極を含む磁石部を有する界磁子と、径方向において前記磁石部に対向して配置される電機子と、を備え、前記界磁子及び前記電機子のうちいずれかを回転子とする回転電機において、前記磁石部は、周方向に並べて配置されている複数の磁石と、複数の前記磁石が内周面又は外周面に固定される磁石ヨークと、を備え、前記複数の磁石における磁化容易軸は、その向きが径方向に対して一定の傾斜角度を有して直線状となるようにパラレル配向され、当該磁化容易軸に沿って磁石磁路が形成されており、当該磁石磁路の長さに基づいて算出される前記複数の磁石のパーミアンス係数が、周方向において、磁極境界であるq軸から磁極中心であるd軸に近づくほど大きくなるように、前記複数の磁石の反電機子側周面において、磁極境界であるq軸側に凹部が設けられており、又は磁極中心であるd軸側に凸部が設けられており、若しくは、磁極境界であるq軸側に凹部が設けられるとともに磁極中心であるd軸側に凸部が設けられており、前記複数の磁石の反電機子側周面において、磁極境界であるq軸側には、前記反電機子側周面の前記凹部又は前記凸部に対して周方向に係合するとともに、前記複数の磁石の極性の異なる磁極間で磁束を授受するための軟磁性材からなる係合部が設けられた。
【0017】
上記構成により、第1の手段と同様の効果を得ることができる。
【0018】
第5の手段は、第1~第4のうちいずれかの手段において、前記係合部は、前記磁石ヨークの内周面又は外周面から突出するように前記磁石ヨークに一体形成されている。
【0019】
係合部を磁石ヨークに一体化させたことにより、精度よく係合部を形成することが可能となり、位置決め精度を向上させることができる。また、一体化させることにより、係合部や磁石ヨークの剛性を向上させることが可能となる。
【0020】
第6の手段は、第1~第5のうちいずれかの手段において、前記磁石ヨークは、細長い薄板状の帯部材が螺旋状に巻回されて積層されることにより筒状に構成されたヘリカルコアである。
【0021】
これにより、材料の歩留まりを向上させることができる。また、磁石ヨークの軸方向の長さ寸法を容易に変更することが可能となる。
【0022】
第7の手段は、第1~第6のうちいずれかの手段において、各々の前記磁石は、周方向において隣り合う磁極中心であるd軸と磁極境界であるq軸との間に設けられ、磁極境界であるd軸及び磁極境界であるq軸において端面がそれぞれ形成されており、周方向における前記磁石のd軸側端面同士の隙間が、q軸側端面同士の隙間よりも狭くなるように、周方向において隣り合う前記係合部の間隔が設定されている。
【0023】
各磁石を、周方向において隣り合う磁極中心であるd軸と磁極境界であるq軸との間に設けた場合、d軸端面は同極となり、反発するため、q軸側端面に比較して隙間が形成されやすい。そこで、磁石と周方向に係合する係合部の間隔を調整し、周方向における磁石のd軸側端面同士の隙間が、q軸側端面同士の隙間よりも狭くなるようにした。これにより、d軸側端面同士の隙間が、q軸側端面同士の隙間よりも狭くなるように、磁石の位置決めを容易に行うことが可能となる。そして、d軸側端面同士の隙間を抑制することができるため、隙間に起因する磁束密度の急激な変化を抑制し、トルク脈動を抑制することができる。
【0024】
第8の手段は、周方向に極性が交互となる複数の磁極を含む磁石部を有する界磁子と、径方向において前記磁石部に対向して配置される電機子と、を備え、前記界磁子及び前記電機子のうちいずれかを回転子とする回転電機の製造方法であって、前記磁石部は、周方向に並べて配置されている複数の磁石を備え、前記複数の磁石における磁化容易軸は、その向きが磁極境界であるq軸の側に比べて磁極中心であるd軸の側において、d軸に平行となるように配向され、又は、磁化容易軸が、径方向に対して一定の傾斜角度を有して直線状になるようにパラレル配向され、当該磁化容易軸に沿って磁石磁路が形成されており、当該磁石磁路の長さに基づいて算出される前記複数の磁石のパーミアンス係数が、周方向において、磁極境界であるq軸から磁極中心であるd軸に近づくほど大きくなるように、反電機子側周面において、磁極境界であるq軸側に凹部が設けられており、又は磁極中心であるd軸側に凸部が設けられており、若しくは、磁極境界であるq軸側に凹部が設けられるとともに磁極中心であるd軸側に凸部が設けられており、前記磁石の反電機子側周面において、磁極境界であるq軸側には、前記反電機子側周面の前記凹部又は前記凸部に対して周方向に係合するとともに、前記複数の磁石の極性の異なる磁極間で磁束を授受するための軟磁性材からなる係合部が設けられた回転電機の製造方法において、細長い直線状の板部材に対して曲げ加工を行うことにより、細長い薄板状の帯部材を螺旋状に巻回して積層された筒状の磁石ヨークを形成する曲げ加工ステップと、前記磁石ヨークに前記複数の磁石を固定する固定ステップと、を有し、前記曲げ加工ステップの実行前において、前記板部材には、前記係合部がその幅方向に突出するように予め一体形成されているとともに、当該係合部には、前記曲げ加工による変形を吸収する凹凸が設けられている。
【0025】
第1の手段と同様の効果に加えて、上記構成により、曲げ加工による変形を吸収することができるため、係合部の形状精度を向上させることができる。これにより、磁石に確実に係合させ、また、磁石の位置決め精度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
本開示についての上記目的およびその他の目的、特徴や利点は、添付の図面を参照しながら下記の詳細な記述により、より明確になる。その図面は、
【
図1】
図1は、第1実施形態における回転電機の全体を示す斜視図であり、
【
図7】
図7は、磁石ユニットの断面構造を示す部分横断面図であり、
【
図8】
図8は、実施形態の磁石について電気角と磁束密度との関係を示す図であり、
【
図9】
図9は、比較例の磁石について電気角と磁束密度との関係を示す図であり、
【
図12】
図12は、コアアセンブリを軸方向一方側から見た斜視図であり、
【
図13】
図13は、コアアセンブリを軸方向他方側から見た斜視図であり、
【
図16】
図16は、3相の各相巻線における部分巻線の接続状態を示す回路図であり、
【
図17】
図17は、第1コイルモジュールと第2コイルモジュールとを横に並べて対比して示す側面図であり、
【
図18】
図18は、第1部分巻線と第2部分巻線とを横に並べて対比して示す側面図であり、
【
図19】
図19は、第1コイルモジュールの構成を示す図であり、
【
図22】
図22は、第2コイルモジュールの構成を示す図であり、
【
図25】
図25は、各コイルモジュールを周方向に並べた状態でのフィルム材のオーバーラップ位置を示す図であり、
【
図26】
図26は、コアアセンブリに対する第1コイルモジュールの組み付け状態を示す平面図であり、
【
図27】
図27は、コアアセンブリに対する第1コイルモジュール及び第2コイルモジュールの組み付け状態を示す平面図であり、
【
図28】
図28は、固定ピンによる固定状態を示す縦断面図であり、
【
図30】
図30は、バスバーモジュールの縦断面の一部を示す断面図であり、
【
図31】
図31は、固定子ホルダにバスバーモジュールを組み付けた状態を示す斜視図であり、
【
図32】
図32は、バスバーモジュールを固定する固定部分における縦断面図であり、
【
図33】
図33は、ハウジングカバーに中継部材を取り付けた状態を示す縦断面図であり、
【
図35】
図35は、回転電機の制御システムを示す電気回路図であり、
【
図36】
図36は、制御装置による電流フィードバック制御処理を示す機能ブロック図であり、
【
図37】
図37は、制御装置によるトルクフィードバック制御処理を示す機能ブロック図であり、
【
図38】
図38は、変形例において磁石ユニットの断面構造を示す部分横断面図であり、
【
図39】
図39は、インナロータ構造の固定子ユニットの構成を示す図であり、
【
図40】
図40は、コアアセンブリに対するコイルモジュールの組み付け状態を示す平面図であり、
【
図41】
図41は、変形例2における磁石ユニットの横断面図であり、
【
図42】
図42は、変形例2における磁石ユニットの磁石磁路を示す図であり、
【
図43】
図43は、磁石ユニットの磁石磁路とパーミアンス係数の等高線との関係を示す図であり、
【
図44】
図44は、パーミアンス係数の等高線と、反固定子側q軸凹部との関係を示す図であり、
【
図47】
図47は、変形例2の別例における磁石ユニットを示す図であり、
【
図48】
図48は、変形例2の別例における磁石ユニットを示す図であり、
【
図49】
図49は、変形例2の別例における磁石ユニットを示す図であり、
【
図50】
図50は、変形例2の別例における磁石ヨークを示す図であり、
【
図51】
図51は、変形例2の別例における磁石ヨークの製造方法を示す図であり、
【
図52】
図52は、変形例2の別例における係合部の製造方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図面を参照しながら、複数の実施形態を説明する。複数の実施形態において、機能的におよび/または構造的に対応する部分および/または関連付けられる部分には同一の参照符号、または百以上の位が異なる参照符号が付される場合がある。対応する部分および/又は関連付けられる部分については、他の実施形態の説明を参照することができる。
【0028】
本実施形態における回転電機は、例えば車両動力源として用いられるものとなっている。ただし、回転電機は、産業用、車両用、家電用、OA機器用、遊技機用などとして広く用いられることが可能となっている。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一又は均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0029】
(第1実施形態)
本実施形態に係る回転電機10は、同期式多相交流モータであり、アウタロータ構造(外転構造)のものとなっている。回転電機10の概要を
図1~
図5に示す。
図1は、回転電機10の全体を示す斜視図であり、
図2は、回転電機10の平面図であり、
図3は、回転電機10の縦断面図(
図2の3-3線断面図)であり、
図4は、回転電機10の横断面図(
図3の4-4線断面図)であり、
図5は、回転電機10の構成要素を分解して示す分解断面図である。以下の記載では、回転電機10において、回転軸11が延びる方向を軸方向とし、回転軸11の中心から放射状に延びる方向を径方向とし、回転軸11を中心として円周状に延びる方向を周方向としている。
【0030】
回転電機10は、大別して、回転子20、固定子ユニット50及びバスバーモジュール200を有する回転電機本体と、その回転電機本体を囲むように設けられるハウジング241及びハウジングカバー242とを備えている。これら各部材はいずれも、回転子20に一体に設けられた回転軸11に対して同軸に配置されており、所定順序で軸方向に組み付けられることで回転電機10が構成されている。回転軸11は、固定子ユニット50及びハウジング241にそれぞれ設けられた一対の軸受12,13に支持され、その状態で回転可能となっている。なお、軸受12,13は、例えば内輪と外輪とそれらの間に配置された複数の玉とを有するラジアル玉軸受である。回転軸11の回転により、例えば車両の車軸が回転する。回転電機10は、ハウジング241が車体フレーム等に固定されることにより車両に搭載可能となっている。
【0031】
回転電機10において、固定子ユニット50は回転軸11を囲むように設けられ、その固定子ユニット50の径方向外側に回転子20が配置されている。固定子ユニット50は、固定子60と、その径方向内側に組み付けられた固定子ホルダ70とを有している。回転子20と固定子60とはエアギャップを挟んで径方向に対向配置されており、回転子20が回転軸11と共に一体回転することにより、固定子60の径方向外側にて回転子20が回転する。回転子20が「界磁子」に相当し、固定子60が「電機子」に相当する。
【0032】
図6は、回転子20の縦断面図である。
図6に示すように、回転子20は、略円筒状の回転子キャリア21と、その回転子キャリア21に固定された環状の磁石ユニット22とを有している。回転子キャリア21は、円筒状をなす円筒部23と、その円筒部23の軸方向一端に設けられた端板部24とを有しており、それらが一体化されることで構成されている。回転子キャリア21は、磁石保持部材として機能し、円筒部23の径方向内側に環状に磁石ユニット22が固定されている。端板部24には貫通孔24aが形成されており、その貫通孔24aに挿通された状態で、ボルト等の締結具25により端板部24に回転軸11が固定されている。回転軸11は、軸方向に交差(直交)する向きに延びるフランジ11aを有しており、そのフランジ11aと端板部24とが面接合されている状態で、回転軸11に回転子キャリア21が固定されている。
【0033】
磁石ユニット22は、円筒状の磁石ホルダ31と、その磁石ホルダ31の内周面に固定された複数の磁石32と、軸方向両側のうち回転子キャリア21の端板部24とは逆側に固定されたエンドプレート33とを有している。磁石ホルダ31は、軸方向において磁石32と同じ長さ寸法を有している。磁石32は、磁石ホルダ31に径方向外側から包囲された状態で設けられている。磁石ホルダ31及び磁石32は、軸方向一方側の端部においてエンドプレート33に当接した状態で固定されている。磁石ユニット22が「磁石部」に相当する。
【0034】
図7は、磁石ユニット22の断面構造を示す部分横断面図である。
図7には、磁石32の磁化容易軸の向きを矢印にて示している。
【0035】
磁石ユニット22において、磁石32は、回転子20の周方向に沿って極性が交互に変わるように並べて設けられている。これにより、磁石ユニット22は、周方向に複数の磁極を有する。磁石32は、極異方性の永久磁石であり、固有保磁力が400[kA/m]以上であり、かつ残留磁束密度Brが1.0[T]以上である焼結ネオジム磁石を用いて構成されている。
【0036】
磁石32において径方向内側の周面が、磁束の授受が行われる磁束作用面34である。磁石32では、d軸側(d軸寄りの部分)とq軸側(q軸寄りの部分)とで磁化容易軸の向きが相違しており、d軸側では磁化容易軸の向きがd軸に平行する向きとなり、q軸側では磁化容易軸の向きがq軸に直交する向きとなっている。この場合、磁化容易軸の向きに沿って円弧状の磁石磁路が形成されている。要するに、磁石32は、磁極中心であるd軸の側において、磁極境界であるq軸の側に比べて磁化容易軸の向きがd軸に平行となるように配向がなされて構成されている。
【0037】
磁石32において、磁石磁路が円弧状に形成されていることにより、磁石32の径方向の厚さ寸法よりも磁石磁路長が長くなっている。これにより、磁石32のパーミアンスが上昇し、同じ磁石量でありながら、磁石量の多い磁石と同等の能力を発揮させることが可能となっている。
【0038】
磁石32は、周方向に隣り合う2つを1組として1磁極を構成するものとなっている。つまり、磁石ユニット22において周方向に並ぶ複数の磁石32は、d軸及びq軸にそれぞれ割面を有するものとなっており、それら各磁石32が互いに当接又は近接した状態で配置されている。磁石32は、上記のとおり円弧状の磁石磁路を有しており、q軸では周方向に隣り合う磁石32どうしでN極とS極とが向かい合うこととなる。そのため、q軸近傍でのパーミアンスの向上を図ることができる。また、q軸を挟んで両側の磁石32は互いに吸引し合うため、これら各磁石32は互いの接触状態を保持できる。そのため、やはりパーミアンスの向上に寄与するものとなっている。
【0039】
磁石ユニット22では、各磁石32により、隣接するN,S極間を円弧状に磁束が流れるため、例えばラジアル異方性磁石に比べて磁石磁路が長くなっている。このため、
図8に示すように、磁束密度分布が正弦波に近いものとなる。その結果、
図9に比較例として示すラジアル異方性磁石の磁束密度分布とは異なり、磁極の中心側に磁束を集中させることができ、回転電機10のトルクを高めることが可能となっている。また、本実施形態の磁石ユニット22では、従来のハルバッハ配列の磁石と比べても、磁束密度分布の差異があることが確認できる。なお、
図8及び
図9において、横軸は電気角を示し、縦軸は磁束密度を示す。また、
図8及び
図9において、横軸の90°はd軸(すなわち磁極中心)を示し、横軸の0°,180°はq軸を示す。
【0040】
つまり、上記構成の各磁石32によれば、磁石ユニット22においてd軸での磁石磁束が強化され、かつq軸付近での磁束変化が抑えられる。これにより、各磁極においてq軸からd軸にかけての表面磁束変化がなだらかになる磁石ユニット22を好適に実現することができる。
【0041】
磁束密度分布の正弦波整合率は、例えば40%以上の値とされていればよい。このようにすれば、正弦波整合率が30%程度であるラジアル配向磁石、パラレル配向磁石を用いる場合に比べ、確実に波形中央部分の磁束量を向上させることができる。また、正弦波整合率を60%以上とすれば、ハルバッハ配列のような磁束集中配列と比べ、確実に波形中央部分の磁束量を向上させることができる。
【0042】
図9に示すラジアル異方性磁石では、q軸付近において磁束密度が急峻に変化する。磁束密度の変化が急峻なほど、後述する固定子60の固定子巻線61において渦電流が増加してしまう。また、固定子巻線61側での磁束変化も急峻となる。これに対し、本実施形態では、磁束密度分布が正弦波に近い磁束波形となる。このため、q軸付近において、磁束密度の変化が、ラジアル異方性磁石の磁束密度の変化よりも小さい。これにより、渦電流の発生を抑制することができる。
【0043】
磁石32には、径方向外側の外周面に、d軸を含む所定範囲で凹部35が形成されているとともに、径方向内側の内周面に、q軸を含む所定範囲で凹部36が形成されている。この場合、磁石32の磁化容易軸の向きによれば、磁石32の外周面においてd軸付近で磁石磁路が短くなるとともに、磁石32の内周面においてq軸付近で磁石磁路が短くなる。そこで、磁石32において磁石磁路長が短い場所で十分な磁石磁束を生じさせることが困難になることを考慮して、その磁石磁束の弱い場所で磁石が削除されている。
【0044】
なお、磁石ユニット22において、磁極と同じ数の磁石32を用いる構成としてもよい。例えば、磁石32が、周方向に隣り合う2磁極において各磁極の中心であるd軸間を1磁石として設けられるとよい。この場合、磁石32は、周方向の中心がq軸となり、かつd軸に割面を有する構成となっている。また、磁石32が、周方向の中心をq軸とする構成でなく、周方向の中心をd軸とする構成であってもよい。磁石32として、磁極数の2倍の数の磁石、又は磁極数と同じ数の磁石を用いる構成に代えて、円環状に繋がった円環磁石を用いる構成であってもよい。
【0045】
図3に示すように、回転軸11の軸方向両側のうち回転子キャリア21との結合部の逆側の端部(図の上側の端部)には、回転センサとしてのレゾルバ41が設けられている。レゾルバ41は、回転軸11に固定されるレゾルバロータと、そのレゾルバロータの径方向外側に対向配置されたレゾルバステータとを備えている。レゾルバロータは、円板リング状をなしており、回転軸11を挿通させた状態で、回転軸11に同軸に設けられている。レゾルバステータは、ステータコアとステータコイルとを有し、ハウジングカバー242に固定されている。
【0046】
次に、固定子ユニット50の構成を説明する。
図10は、固定子ユニット50の斜視図であり、
図11は、固定子ユニット50の縦断面図である。なお、
図11は、
図3と同じ位置での縦断面図である。
【0047】
固定子ユニット50は、その概要として、固定子60とその径方向内側の固定子ホルダ70とを有している。また、固定子60は、固定子巻線61と固定子コア62とを有している。そして、固定子コア62と固定子ホルダ70とを一体化してコアアセンブリCAとして設け、そのコアアセンブリCAに対して、固定子巻線61を構成する複数の部分巻線151を組み付ける構成としている。なお、固定子巻線61が「電機子巻線」に相当し、固定子コア62が「電機子コア」に相当し、固定子ホルダ70が「電機子保持部材」に相当する。また、コアアセンブリCAが「支持部材」に相当する。
【0048】
ここではまず、コアアセンブリCAについて説明する。
図12は、コアアセンブリCAを軸方向一方側から見た斜視図であり、
図13は、コアアセンブリCAを軸方向他方側から見た斜視図であり、
図14は、コアアセンブリCAの横断面図であり、
図15は、コアアセンブリCAの分解断面図である。
【0049】
コアアセンブリCAは、上述したとおり固定子コア62と、その径方向内側に組み付けられた固定子ホルダ70とを有している。言うなれば、固定子ホルダ70の外周面に固定子コア62が一体に組み付けられて構成されている。
【0050】
固定子コア62は、磁性体である電磁鋼板からなるコアシート62aが軸方向に積層されたコアシート積層体として構成されており、径方向に所定の厚さを有する円筒状をなしている。固定子コア62において回転子20側となる径方向外側には固定子巻線61が組み付けられている。固定子コア62の外周面は凹凸のない曲面状をなしている。固定子コア62はバックヨークとして機能する。固定子コア62は、例えば円環板状に打ち抜き形成された複数枚のコアシート62aが軸方向に積層されて構成されている。ただし、固定子コア62としてヘリカルコア構造を有するものを用いてもよい。ヘリカルコア構造の固定子コア62では、帯状のコアシートが用いられ、このコアシートが環状に巻回形成されるとともに軸方向に積層されることで、全体として円筒状の固定子コア62が構成されている。
【0051】
本実施形態において、固定子60は、スロットを形成するためのティースを有していないスロットレス構造を有するものであるが、その構成は以下の(A)~(C)のいずれかを用いたものであってもよい。
(A)固定子60において、周方向における各導線部(後述する中間導線部152)の間に導線間部材を設け、かつその導線間部材として、1磁極における導線間部材の周方向の幅寸法をWt、導線間部材の飽和磁束密度をBs、1磁極における磁石32の周方向の幅寸法をWm、磁石32の残留磁束密度をBrとした場合に、Wt×Bs≦Wm×Brの関係となる磁性材料を用いている。
(B)固定子60において、周方向における各導線部(中間導線部152)の間に導線間部材を設け、かつその導線間部材として、非磁性材料を用いている。
(C)固定子60において、周方向における各導線部(中間導線部152)の間に導線間部材を設けていない構成となっている。
【0052】
また、
図15に示すように、固定子ホルダ70は、外筒部材71と内筒部材81とを有し、外筒部材71を径方向外側、内筒部材81を径方向内側にしてそれらが一体に組み付けられることにより構成されている。これら各部材71,81は、例えばアルミニウムや鋳鉄等の金属、又は炭素繊維強化プラスチック(CFRP)により構成されている。
【0053】
外筒部材71は、外周面及び内周面をいずれも真円状の曲面とする円筒部材であり、軸方向一端側には、径方向内側に延びる環状のフランジ72が形成されている。このフランジ72には、周方向に所定間隔で、径方向内側に延びる複数の突出部73が形成されている(
図13参照)。また、外筒部材71において軸方向一端側及び他端側には、それぞれ内筒部材81に軸方向に対向する対向面74,75が形成されており、その対向面74,75には、環状に延びる環状溝74a,75aが形成されている。
【0054】
また、内筒部材81は、外筒部材71の内径寸法よりも小さい外径寸法を有する円筒部材であり、その外周面は、外筒部材71と同心の真円状の曲面となっている。内筒部材81において軸方向一端側には、径方向外側に延びる環状のフランジ82が形成されている。内筒部材81は、外筒部材71の対向面74,75に軸方向に当接した状態で、外筒部材71に組み付けられるようになっている。
図13に示すように、外筒部材71及び内筒部材81は、ボルト等の締結具84により互いに組み付けられている。具体的には、内筒部材81の内周側には、周方向に所定間隔で、径方向内側に延びる複数の突出部83が形成されており、その突出部83の軸方向端面と外筒部材71の突出部73とが重ね合わされた状態で、その突出部73,83どうしが締結具84により締結されている。
【0055】
図14に示すように、外筒部材71と内筒部材81とが互いに組み付けられた状態において、外筒部材71の内周面と内筒部材81の外周面との間には環状の隙間が形成されており、その隙間空間が、冷却水等の冷媒を流通させる冷媒通路85となっている。冷媒通路85は、固定子ホルダ70の周方向に環状に設けられている。より詳しくは、内筒部材81には、その内周側において径方向内側に突出し、かつその内部に入口側通路86と出口側通路87とが形成された通路形成部88が設けられており、それら各通路86,87は内筒部材81の外周面に開口している。また、内筒部材81の外周面には、冷媒通路85を入口側と出口側とに仕切るための仕切り部89が設けられている。これにより、入口側通路86から流入する冷媒は、冷媒通路85を周方向に流れ、その後、出口側通路87から流出する。
【0056】
入口側通路86及び出口側通路87は、その一端側が径方向に延びて内筒部材81の外周面に開口するとともに、他端側が軸方向に延びて内筒部材81の軸方向端面に開口するようになっている。
図12には、入口側通路86に通じる入口開口86aと、出口側通路87に通じる出口開口87aとが示されている。なお、入口側通路86及び出口側通路87は、ハウジングカバー242に取り付けられた入口ポート244及び出口ポート245(
図1参照)に通じており、それら各ポート244,245を介して冷媒が出入りするようになっている。
【0057】
外筒部材71と内筒部材81との接合部分には、冷媒通路85の冷媒の漏れを抑制するためのシール材101,102が設けられている(
図15参照)。具体的には、シール材101,102は例えばOリングであり、外筒部材71の環状溝74a,75aに収容され、かつ外筒部材71及び内筒部材81により圧縮された状態で設けられている。
【0058】
また、
図12に示すように、内筒部材81は、軸方向一端側に端板部91を有しており、その端板部91には、軸方向に延びる中空筒状のボス部92が設けられている。ボス部92は、回転軸11を挿通させるための挿通孔93を囲むように設けられている。ボス部92には、ハウジングカバー242を固定するための複数の締結部94が設けられている。また、端板部91には、ボス部92の径方向外側に、軸方向に延びる複数の支柱部95が設けられている。この支柱部95は、バスバーモジュール200を固定するための固定部となる部位であるが、その詳細は後述する。また、ボス部92は、軸受12を保持する軸受保持部材となっており、その内周部に設けられた軸受固定部96に軸受12が固定されている(
図3参照)。
【0059】
また、
図12,
図13に示すように、外筒部材71及び内筒部材81には、後述する複数のコイルモジュール150を固定するために用いる凹部105,106が形成されている。
【0060】
具体的には、
図12に示すように、内筒部材81の軸方向端面、詳しくは端板部91においてボス部92の周囲となる軸方向外側端面には、周方向に等間隔で複数の凹部105が形成されている。また、
図13に示すように、外筒部材71の軸方向端面、詳しくはフランジ72の軸方向外側の端面には、周方向に等間隔で複数の凹部106が形成されている。これら凹部105,106は、コアアセンブリCAと同心の仮想円上に並ぶように設けられている。凹部105,106は、周方向において同一となる位置にそれぞれ設けられ、その間隔及び個数も同じである。
【0061】
ところで、固定子コア62は、固定子ホルダ70に対する組み付けの強度を確保すべく、固定子ホルダ70に対する径方向の圧縮力を生じる状態で組み付けられている。具体的には、焼きばめ又は圧入により、固定子ホルダ70に対して所定の締め代で固定子コア62が嵌合固定されている。この場合、固定子コア62及び固定子ホルダ70は、そのうち一方による他方への径方向の応力が生じる状態で組み付けられていると言える。また、回転電機10を高トルク化する場合には、例えば固定子60を大径化することが考えられ、かかる場合には固定子ホルダ70に対する固定子コア62の結合を強固にすべく固定子コア62の締め付け力が増大される。しかしながら、固定子コア62の圧縮応力(換言すれば残留応力)を大きくすると、固定子コア62の破損が生じることが懸念される。
【0062】
そこで本実施形態では、固定子コア62及び固定子ホルダ70が互いに所定の締め代で嵌合固定されている構成において、固定子コア62及び固定子ホルダ70における径方向の互いの対向部分に、周方向の係合により固定子コア62の周方向の変位を規制する規制部を設ける構成としている。つまり、
図12~
図14に示すように、径方向において固定子コア62と固定子ホルダ70の外筒部材71との間には、周方向に所定間隔で、規制部としての複数の係合部材111が設けられており、その係合部材111により、固定子コア62と固定子ホルダ70との周方向の位置ずれが抑制されている。なおこの場合、固定子コア62及び外筒部材71の少なくともいずれかに凹部を設け、その凹部において係合部材111を係合させる構成とするとよい。係合部材111に代えて、固定子コア62及び外筒部材71のいずれかに凸部を設ける構成としてもよい。
【0063】
上記構成では、固定子コア62及び固定子ホルダ70(外筒部材71)は、所定の締め代で嵌合固定されることに加え、係合部材111の規制により相互の周方向変位が規制された状態で設けられている。したがって、仮に固定子コア62及び固定子ホルダ70における締め代が比較的小さくても、固定子コア62の周方向の変位を抑制できる。また、締め代が比較的小さくても所望の変位抑制効果が得られるため、締め代が過剰に大きいことに起因する固定子コア62の破損を抑制できる。その結果、固定子コア62の変位を適正に抑制することができる。
【0064】
内筒部材81の内周側には、回転軸11を囲むようにして環状の内部空間が形成されており、その内部空間に、例えば電力変換器としてのインバータを構成する電気部品が配置される構成としてもよい。電気部品は、例えば半導体スイッチング素子やコンデンサをパッケージ化した電気モジュールである。内筒部材81の内周面に当接した状態で電気モジュールを配置することにより、冷媒通路85を流れる冷媒による電気モジュールの冷却が可能となっている。なお、内筒部材81の内周側において、複数の突出部83を無くし、又は突出部83の突出高さを小さくし、これにより内筒部材81の内周側の内部空間を拡張することも可能である。
【0065】
次に、コアアセンブリCAに対して組み付けられる固定子巻線61の構成を詳しく説明する。コアアセンブリCAに対して固定子巻線61が組み付けられた状態は、
図10,
図11に示すとおりであり、コアアセンブリCAの径方向外側、すなわち固定子コア62の径方向外側に、固定子巻線61を構成する複数の部分巻線151が周方向に並ぶ状態で組み付けられている。
【0066】
固定子巻線61は、複数の相巻線を有し、各相の相巻線が周方向に所定順序で配置されることで円筒状(環状)に形成されている。本実施形態では、U相、V相及びW相の相巻線を用いることで、固定子巻線61が3相の相巻線を有する構成となっている。
【0067】
図11に示すように、固定子60は、軸方向において、回転子20における磁石ユニット22に径方向に対向するコイルサイドCSに相当する部分と、そのコイルサイドCSの軸方向外側であるコイルエンドCEに相当する部分とを有している。この場合、固定子コア62は、軸方向においてコイルサイドCSに相当する範囲で設けられている。
【0068】
固定子巻線61において各相の相巻線は各々複数の部分巻線151を有しており(
図16参照)、その部分巻線151は個別にコイルモジュール150として設けられている。つまり、コイルモジュール150は、各相の相巻線における部分巻線151が一体に設けられて構成されており、極数に応じた所定数のコイルモジュール150により固定子巻線61が構成されている。各相のコイルモジュール150(部分巻線151)が周方向に所定順序で並べて配置されることで、固定子巻線61のコイルサイドCSにおいて各相の導線部が所定順序に並べて配置されるものとなっている。
図10には、コイルサイドCSにおけるU相、V相及びW相の導線部の並び順が示されている。本実施形態では、磁極数を24としているが、その数は任意である。
【0069】
固定子巻線61では、相ごとに各コイルモジュール150の部分巻線151が並列又は直列に接続されることにより、各相の相巻線が構成されている。
図16は、3相の各相巻線における部分巻線151の接続状態を示す回路図である。
図16では、各相の相巻線における部分巻線151がそれぞれ並列に接続された状態が示されている。
【0070】
図11に示すように、コイルモジュール150は固定子コア62の径方向外側に組み付けられている。この場合、コイルモジュール150は、その軸方向両端部分が固定子コア62よりも軸方向外側(すなわちコイルエンドCE側)に突出した状態で組み付けられている。つまり、固定子巻線61は、固定子コア62よりも軸方向外側に突出したコイルエンドCEに相当する部分と、それよりも軸方向内側のコイルサイドCSに相当する部分とを有している。
【0071】
コイルモジュール150は、2種類の形状を有するものとなっており、その一方は、コイルエンドCEにおいて部分巻線151が径方向内側、すなわち固定子コア62側に折り曲げられた形状を有するものであり、他方は、コイルエンドCEにおいて部分巻線151が径方向内側に折り曲げられておらず、軸方向に直線状に延びる形状を有するものである。以下の説明では、便宜を図るべく、軸方向両端側に屈曲形状を有する部分巻線151を「第1部分巻線151A」、その第1部分巻線151Aを有するコイルモジュール150を「第1コイルモジュール150A」とも称する。また、軸方向両端側の屈曲形状を有していない部分巻線151を「第2部分巻線151B」、その第2部分巻線151Bを有するコイルモジュール150を「第2コイルモジュール150B」とも称する。
【0072】
図17は、第1コイルモジュール150Aと第2コイルモジュール150Bとを横に並べて対比して示す側面図であり、
図18は、第1部分巻線151Aと第2部分巻線151Bとを横に並べて対比して示す側面図である。これら各図に示すように、各コイルモジュール150A,150B、各部分巻線151A,151Bは、軸方向長さが互いに異なり、かつ軸方向両側の端部形状が互いに異なるものとなっている。第1部分巻線151Aは、側面視において略C字状をなし、第2部分巻線151Bは、側面視において略I字状をなしている。第1部分巻線151Aには、軸方向両側に「第1絶縁カバー」としての絶縁カバー161,162が装着され、第2部分巻線151Bには、軸方向両側に「第2絶縁カバー」としての絶縁カバー163,164が装着されている。
【0073】
次に、コイルモジュール150A,150Bの構成を詳しく説明する。
【0074】
ここではまず、コイルモジュール150A,150Bのうち第1コイルモジュール150Aについて説明する。
図19(a)は、第1コイルモジュール150Aの構成を示す斜視図であり、
図19(b)は、第1コイルモジュール150Aにおいて構成部品を分解して示す斜視図である。また、
図20は、
図19(a)における20-20線断面図である。
【0075】
図19(a),(b)に示すように、第1コイルモジュール150Aは、導線材CRを多重巻にして構成された第1部分巻線151Aと、その第1部分巻線151Aにおいて軸方向一端側及び他端側に取り付けられた絶縁カバー161,162とを有している。絶縁カバー161,162は合成樹脂等の絶縁材料により成形されている。
【0076】
第1部分巻線151Aは、互いに平行でかつ直線状に設けられる一対の中間導線部152と、一対の中間導線部152を軸方向両端でそれぞれ接続する一対の渡り部153Aとを有しており、これら一対の中間導線部152と一対の渡り部153Aとにより環状に形成されている。一対の中間導線部152は、所定のコイルピッチ分を離して設けられており、周方向において一対の中間導線部152の間に、他相の部分巻線151の中間導線部152が配置可能となっている。本実施形態では、一対の中間導線部152は2コイルピッチ分を離して設けられ、一対の中間導線部152の間に、他2相の部分巻線151における中間導線部152が1つずつ配置される構成となっている。
【0077】
一対の渡り部153Aは、軸方向両側でそれぞれ同じ形状となっており、いずれもコイルエンドCE(
図11参照)に相当する部分として設けられている。各渡り部153Aは、中間導線部152に対して直交する向き、すなわち軸方向に直交する方向に折り曲がるようにして設けられている。
【0078】
図18に示すように、第1部分巻線151Aは、軸方向両側に渡り部153Aを有し、第2部分巻線151Bは、軸方向両側に渡り部153Bを有している。これら各部分巻線151A,151Bの渡り部153A,153Bはその形状が互いに異なっており、その区別を明確にすべく、第1部分巻線151Aの渡り部153Aを「第1渡り部153A」、第2部分巻線151Bの渡り部153Bを「第2渡り部153B」とも記載する。
【0079】
各部分巻線151A,151Bにおいて、中間導線部152は、コイルサイドCSにおいて周方向に1つずつ並ぶコイルサイド導線部として設けられている。また、各渡り部153A,153Bは、コイルエンドCEにおいて、周方向に異なる2位置の同相の中間導線部152どうしを接続するコイルエンド導線部として設けられている。
【0080】
図20に示すように、第1部分巻線151Aは、導線集合部分の横断面が四角形になるように導線材CRが多重に巻回されて形成されている。
図20は、中間導線部152の横断面を示しており、その中間導線部152において周方向及び径方向に並ぶように導線材CRが多重に巻回されている。つまり、第1部分巻線151Aは、中間導線部152において導線材CRが周方向に複数列で並べられ、かつ径方向に複数列で並べられることで、横断面が略矩形状となるように形成されている。なお、第1渡り部153Aの先端部では、径方向への折れ曲がりにより、導線材CRが軸方向及び径方向に並ぶように多重に巻回される構成となっている。本実施形態では、導線材CRを同心巻により巻回することで第1部分巻線151Aが構成されている。ただし、導線材CRの巻き方は任意であり、同心巻に代えて、アルファ巻により導線材CRが多重に巻回されていてもよい。
【0081】
第1部分巻線151Aでは、軸方向両側の第1渡り部153Aのうち、一方の第1渡り部153A(
図19(b)の上側の第1渡り部153A)から導線材CRの端部が引き出されており、その端部が巻線端部154,155となっている。巻線端部154,155は、それぞれ導線材CRの巻き始め及び巻き終わりとなる部分である。巻線端部154,155のうち一方が電流入出力端子に接続され、他方が中性点に接続されるようになっている。
【0082】
第1部分巻線151Aにおいて各中間導線部152には、シート状の絶縁被覆体157が被せられた状態で設けられている。なお、
図19(a)には、第1コイルモジュール150Aが、中間導線部152に絶縁被覆体157が被せられ、かつ絶縁被覆体157の内側に中間導線部152が存在する状態で示されているが、便宜上、その該当部分を中間導線部152としている(後述する
図22(a)も同様)。
【0083】
絶縁被覆体157は、軸方向寸法として少なくとも中間導線部152における軸方向の絶縁被覆範囲の長さを有するフィルム材FMを用い、そのフィルム材FMを中間導線部152の周囲に巻装することで設けられている。フィルム材FMは、例えばPEN(ポリエチレンナフタレート)フィルムよりなる。より具体的には、フィルム材FMは、フィルム基材と、そのフィルム基材の両面のうち片面に設けられ、発泡性を有する接着層とを含む。そして、フィルム材FMは、接着層により接着させた状態で、中間導線部152に対して巻装されている。なお、接着層として非発泡性の接着剤を用いることも可能である。
【0084】
図20に示すように、中間導線部152は、導線材CRが周方向及び径方向に並ぶことで横断面が略矩形状をなしており、中間導線部152の周囲には、フィルム材FMがその周方向の端部をオーバーラップさせた状態で被せられていることで、絶縁被覆体157が設けられている。フィルム材FMは、縦寸法が中間導線部152の軸方向長さよりも長く、かつ横寸法が中間導線部152の1周長さよりも長い矩形シートであり、中間導線部152の断面形状に合わせて折り目を付けた状態で中間導線部152に巻装されている。中間導線部152にフィルム材FMが巻装された状態では、中間導線部152の導線材CRとフィルム基材との間の隙間が接着層での発泡により埋められるようになっている。また、フィルム材FMのオーバーラップ部分OLでは、フィルム材FMの周方向の端部どうしが接着層により接合されている。
【0085】
中間導線部152では、2つの周方向側面及び2つの径方向側面においてそれらの全てを覆うようにして絶縁被覆体157が設けられている。この場合、中間導線部152を囲う絶縁被覆体157には、他相の部分巻線151における中間導線部152との対向部分、すなわち中間導線部152の2つの周方向側面のうち一方に、フィルム材FMがオーバーラップするオーバーラップ部分OLが設けられている。本実施形態では、一対の中間導線部152において、周方向の同じ側にオーバーラップ部分OLがそれぞれ設けられている。
【0086】
第1部分巻線151Aでは、中間導線部152から、軸方向両側の第1渡り部153Aにおいて絶縁カバー161,162により覆われた部分(すなわち絶縁カバー161,162の内側となる部分)までの範囲で、絶縁被覆体157が設けられている。
図17で言えば、第1コイルモジュール150AにおいてAX1の範囲が絶縁カバー161,162により覆われていない部分であり、その範囲AX1よりも上下に拡張した範囲で絶縁被覆体157が設けられている。
【0087】
次に、絶縁カバー161,162の構成を説明する。
【0088】
絶縁カバー161は、第1部分巻線151Aの軸方向一方側の第1渡り部153Aに装着され、絶縁カバー162は、第1部分巻線151Aの軸方向他方側の第1渡り部153Aに装着される。このうち絶縁カバー161の構成を
図21(a),(b)に示す。
図21(a),(b)は、絶縁カバー161を異なる二方向から見た斜視図である。
【0089】
図21(a),(b)に示すように、絶縁カバー161は、周方向の側面となる一対の側面部171と、軸方向外側の外面部172と、軸方向内側の内面部173と、径方向内側の前面部174とを有している。これら各部171~174は、それぞれ板状に形成されており、径方向外側のみが開放されるようにして立体状に互いに結合されている。一対の側面部171はそれぞれ、コアアセンブリCAへの組み付け状態においてコアアセンブリCAの軸心に向けて延びる向きで設けられている。そのため、複数の第1コイルモジュール150Aが周方向に並べて配置された状態では、隣り合う各第1コイルモジュール150Aにおいて絶縁カバー161の側面部171どうしが当接又は接近状態で互いに対向する。これにより、周方向に隣接する各第1コイルモジュール150Aにおいて相互の絶縁が図られつつ好適なる環状配置が可能となっている。
【0090】
絶縁カバー161において、外面部172には、第1部分巻線151Aの巻線端部154を引き出すための開口部175aが設けられ、前面部174には、第1部分巻線151Aの巻線端部155を引き出すための開口部175bが設けられている。この場合、一方の巻線端部154は外面部172から軸方向に引き出されるのに対し、他方の巻線端部155は前面部174から径方向に引き出される構成となっている。
【0091】
また、絶縁カバー161において、一対の側面部171には、前面部174の周方向両端となる位置、すなわち各側面部171と前面部174とが交差する位置に、軸方向に延びる半円状の凹部177が設けられている。さらに、外面部172には、周方向における絶縁カバー161の中心線を基準として周方向両側に対称となる位置に、軸方向に延びる一対の突起部178が設けられている。
【0092】
絶縁カバー161の凹部177について説明を補足する。
図20に示すように、第1部分巻線151Aの第1渡り部153Aは、径方向内外のうち径方向内側、すなわちコアアセンブリCAの側に凸となる湾曲状をなしている。かかる構成では、周方向に隣り合う第1渡り部153Aの間に、第1渡り部153Aの先端側ほど幅広となる隙間が形成される。そこで本実施形態では、周方向に並ぶ第1渡り部153Aの間の隙間を利用して、絶縁カバー161の側面部171において第1渡り部153Aの湾曲部の外側となる位置に凹部177を設ける構成としている。
【0093】
なお、第1部分巻線151Aに温度検出部(サーミスタ)を設ける構成としてもよく、かかる構成では、絶縁カバー161に、温度検出部から延びる信号線を引き出すための開口部を設けるとよい。この場合、絶縁カバー161内に温度検出部を好適に収容できる。
【0094】
図示による詳細な説明は割愛するが、軸方向他方の絶縁カバー162は、絶縁カバー161と概ね同様の構成を有している。絶縁カバー162は、絶縁カバー161と同様に、一対の側面部171と、軸方向外側の外面部172と、軸方向内側の内面部173と、径方向内側の前面部174とを有している。また、絶縁カバー162において、一対の側面部171には前面部174の周方向両端となる位置に半円状の凹部177が設けられるとともに、外面部172に一対の突起部178が設けられている。絶縁カバー161との相違点として、絶縁カバー162は、第1部分巻線151Aの巻線端部154,155を引き出すための開口部を有していない構成となっている。
【0095】
絶縁カバー161,162では、軸方向の高さ寸法(すなわち一対の側面部171及び前面部174における軸方向の幅寸法)が相違している。具体的には、
図17に示すように、絶縁カバー161の軸方向の高さ寸法W11と絶縁カバー162の軸方向の高さ寸法W12は、W11>W12となっている。つまり、導線材CRを多重に巻回する場合には、巻線巻回方向(周回方向)に直交する向きに導線材CRの巻き段を切り替える(レーンチェンジする)必要があり、その切り替えに起因して巻線幅が大きくなることが考えられる。補足すると、絶縁カバー161,162のうち絶縁カバー161は、導線材CRの巻き始め及び巻き終わりを含む側の第1渡り部153Aを覆う部分であり、導線材CRの巻き始め及び巻き終わりを含むことにより、他の部分よりも導線材CRの巻き代(重なり代)が多くなり、その結果として巻線幅が大きくなることが生じうる。この点を加味して、絶縁カバー161の軸方向の高さ寸法W11が、絶縁カバー162の軸方向の高さ寸法W12よりも大きくなっている。これにより、絶縁カバー161,162の高さ寸法W11,W12が互いに同じ寸法である場合とは異なり、絶縁カバー161,162により導線材CRの巻き数が制限されるといった不都合が抑制されるようになっている。
【0096】
次に、第2コイルモジュール150Bについて説明する。
【0097】
図22(a)は、第2コイルモジュール150Bの構成を示す斜視図であり、
図22(b)は、第2コイルモジュール150Bにおいて構成部品を分解して示す斜視図である。また、
図23は、
図22(a)における23-23線断面図である。
【0098】
図22(a),(b)に示すように、第2コイルモジュール150Bは、第1部分巻線151Aと同様に導線材CRを多重巻にして構成された第2部分巻線151Bと、その第2部分巻線151Bにおいて軸方向一端側及び他端側に取り付けられた絶縁カバー163,164とを有している。絶縁カバー163,164は合成樹脂等の絶縁材料により成形されている。
【0099】
第2部分巻線151Bは、互いに平行でかつ直線状に設けられる一対の中間導線部152と、一対の中間導線部152を軸方向両端でそれぞれ接続する一対の第2渡り部153Bとを有しており、これら一対の中間導線部152と一対の第2渡り部153Bとにより環状に形成されている。第2部分巻線151Bにおいて一対の中間導線部152は、第1部分巻線151Aの中間導線部152と構成が同じである。これに対して、一対の第2渡り部153Bは、第1部分巻線151Aの第1渡り部153Aとは構成が異なっている。第2部分巻線151Bの第2渡り部153Bは、径方向に折り曲げられることなく、中間導線部152から直線状に軸方向に延びるようにして設けられている。
図18には、部分巻線151A,151Bの違いが対比して明示されている。
【0100】
第2部分巻線151Bでは、軸方向両側の第2渡り部153Bのうち、一方の第2渡り部153B(
図22(b)の上側の第2渡り部153B)から導線材CRの端部が引き出されており、その端部が巻線端部154,155となっている。そして、第2部分巻線151Bでも、第1部分巻線151Aと同様に、巻線端部154,155のうち一方が電流入出力端子に接続され、他方が中性点に接続されるようになっている。
【0101】
第2部分巻線151Bでは、第1部分巻線151Aと同様に、各中間導線部152に、シート状の絶縁被覆体157が被せられた状態で設けられている。絶縁被覆体157は、軸方向寸法として少なくとも中間導線部152における軸方向の絶縁被覆範囲の長さを有するフィルム材FMを用い、そのフィルム材FMを中間導線部152の周囲に巻装することで設けられている。
【0102】
絶縁被覆体157に関する構成も、各部分巻線151A,151Bで概ね同様である。つまり、
図23に示すように、中間導線部152の周囲には、フィルム材FMがその周方向の端部をオーバーラップさせた状態で被せられている。中間導線部152では、2つの周方向側面及び2つの径方向側面においてそれらの全てを覆うようにして絶縁被覆体157が設けられている。この場合、中間導線部152を囲う絶縁被覆体157には、他相の部分巻線151における中間導線部152との対向部分、すなわち中間導線部152の2つの周方向側面のうち一方に、フィルム材FMがオーバーラップするオーバーラップ部分OLが設けられている。本実施形態では、一対の中間導線部152において、周方向の同じ側にオーバーラップ部分OLがそれぞれ設けられている。
【0103】
第2部分巻線151Bでは、中間導線部152から、軸方向両側の第2渡り部153Bにおいて絶縁カバー163,164により覆われた部分(すなわち絶縁カバー163,164の内側となる部分)までの範囲で、絶縁被覆体157が設けられている。
図17で言えば、第2コイルモジュール150BにおいてAX2の範囲が絶縁カバー163,164により覆われていない部分であり、その範囲AX2よりも上下に拡張した範囲で絶縁被覆体157が設けられている。
【0104】
各部分巻線151A,151Bでは、いずれにおいても絶縁被覆体157が渡り部153A,153Bの一部を含む範囲で設けられている。すなわち、各部分巻線151A,151Bには、中間導線部152と、渡り部153A,153Bのうち中間導線部152に引き続き直線状に延びる部分とに、絶縁被覆体157が設けられている。ただし、各部分巻線151A,151Bではその軸方向長さが相違していることから、絶縁被覆体157の軸方向範囲も異なるものとなっている。
【0105】
次に、絶縁カバー163,164の構成を説明する。
【0106】
絶縁カバー163は、第2部分巻線151Bの軸方向一方側の第2渡り部153Bに装着され、絶縁カバー164は、第2部分巻線151Bの軸方向他方側の第2渡り部153Bに装着される。このうち絶縁カバー163の構成を
図24(a),(b)に示す。
図24(a),(b)は、絶縁カバー163を異なる二方向から見た斜視図である。
【0107】
図24(a),(b)に示すように、絶縁カバー163は、周方向の側面となる一対の側面部181と、軸方向外側の外面部182と、径方向内側の前面部183と、径方向外側の後面部184とを有している。これら各部181~184は、それぞれ板状に形成されており、軸方向内側のみが開放されるようにして立体状に互いに結合されている。一対の側面部181はそれぞれ、コアアセンブリCAへの組み付け状態においてコアアセンブリCAの軸心に向けて延びる向きで設けられている。そのため、複数の第2コイルモジュール150Bが周方向に並べて配置された状態では、隣り合う各第2コイルモジュール150Bにおいて絶縁カバー163の側面部181どうしが当接又は接近状態で互いに対向する。これにより、周方向に隣接する各第2コイルモジュール150Bにおいて相互の絶縁が図られつつ好適なる環状配置が可能となっている。
【0108】
絶縁カバー163において、前面部183には、第2部分巻線151Bの巻線端部154を引き出すための開口部185aが設けられ、外面部182には、第2部分巻線151Bの巻線端部155を引き出すための開口部185bが設けられている。
【0109】
絶縁カバー163の前面部183には、径方向内側に突出する突出部186が設けられている。突出部186は、絶縁カバー163の周方向一端から他端までの間の中央となる位置に、第2渡り部153Bよりも径方向内側に突出するように設けられている。突出部186は、平面視において径方向内側ほど先細りになるテーパ形状をなしており、その先端部に、軸方向に延びる貫通孔187が設けられている。なお、突出部186は、第2渡り部153Bよりも径方向内側に突出し、かつ絶縁カバー163の周方向一端から他端までの間の中央となる位置に貫通孔187を有するものであれば、その構成は任意である。ただし、軸方向内側の絶縁カバー161との重なり状態を想定すると、巻線端部154,155との干渉を回避すべく周方向に幅狭に形成されていることが望ましい。
【0110】
突出部186は、径方向内側の先端部において軸方向の厚さが段差状に薄くなっており、その薄くなっている低段部186aに貫通孔187が設けられている。この低段部186aは、コアアセンブリCAに対する第2コイルモジュール150Bの組み付け状態において、内筒部材81の軸方向端面からの高さが、第2渡り部153Bの高さよりも低くなる部位に相当する。
【0111】
また、
図23に示すように、突出部186には、軸方向に貫通する貫通孔188が設けられている。これにより、絶縁カバー161,163が軸方向に重なる状態において、貫通孔188を通じて、絶縁カバー161,163の間への接着剤の充填が可能となっている。
【0112】
図示による詳細な説明は割愛するが、軸方向他方の絶縁カバー164は、絶縁カバー163と概ね同様の構成を有している。絶縁カバー164は、絶縁カバー163と同様に、一対の側面部181と、軸方向外側の外面部182と、径方向内側の前面部183と、径方向外側の後面部184とを有するとともに、突出部186の先端部に設けられた貫通孔187を有している。また、絶縁カバー163との相違点として、絶縁カバー164は、第2部分巻線151Bの巻線端部154,155を引き出すための開口部を有していない構成となっている。
【0113】
絶縁カバー163,164では、一対の側面部181の径方向の幅寸法が相違している。具体的には、
図17に示すように、絶縁カバー163における側面部181の径方向の幅寸法W21と絶縁カバー164における側面部181の径方向の幅寸法W22は、W21>W22となっている。つまり、絶縁カバー163,164のうち絶縁カバー163は、導線材CRの巻き始め及び巻き終わりを含む側の第2渡り部153Bを覆う部分であり、導線材CRの巻き始め及び巻き終わりを含むことにより、他の部分よりも導線材CRの巻き代(重なり代)が多くなり、その結果として巻線幅が大きくなることが生じうる。この点を加味して、絶縁カバー163の径方向の幅寸法W21が、絶縁カバー164の径方向の幅寸法W22よりも大きくなっている。これにより、絶縁カバー163,164の幅寸法W21,W22が互いに同じ寸法である場合とは異なり、絶縁カバー163,164により導線材CRの巻き数が制限されるといった不都合が抑制されるようになっている。
【0114】
図25は、各コイルモジュール150A,150Bを周方向に並べた状態でのフィルム材FMのオーバーラップ位置を示す図である。上述したとおり各コイルモジュール150A,150Bでは、中間導線部152の周囲に、他相の部分巻線151における中間導線部152との対向部分、すなわち中間導線部152の周方向側面でオーバーラップするようにしてフィルム材FMが被せられている(
図20,
図23参照)。そして、各コイルモジュール150A,150Bを周方向に並べた状態では、フィルム材FMのオーバーラップ部分OLが、周方向両側のうちいずれも同じ側(図の周方向右側)に配置されるものとなっている。これにより、周方向に隣り合う異相の部分巻線151A,151Bにおける各中間導線部152において、フィルム材FMのオーバーラップ部分OLどうしが周方向に重ならない構成となっている。この場合、周方向に並ぶ各中間導線部152の間には、いずれも最多で3枚のフィルム材FMが重なる構成となっている。
【0115】
次に、コアアセンブリCAに対する各コイルモジュール150A,150Bの組み付けに関する構成を説明する。
【0116】
各コイルモジュール150A,150Bは、軸方向長さが互いに異なり、かつ部分巻線151A,151Bの渡り部153A,153Bの形状が互いに異なっており、第1コイルモジュール150Aの第1渡り部153Aを軸方向内側、第2コイルモジュール150Bの第2渡り部153Bを軸方向外側にした状態で、コアアセンブリCAに取り付けられる構成となっている。絶縁カバー161~164について言えば、各コイルモジュール150A,150Bの軸方向一端側において絶縁カバー161,163が軸方向に重ねられ、かつ軸方向他端側において絶縁カバー162,164が軸方向に重ねられた状態で、それら各絶縁カバー161~164がコアアセンブリCAに対して固定されるようになっている。
【0117】
図26は、コアアセンブリCAに対する第1コイルモジュール150Aの組み付け状態において複数の絶縁カバー161が周方向に並ぶ状態を示す平面図であり、
図27は、コアアセンブリCAに対する第1コイルモジュール150A及び第2コイルモジュール150Bの組み付け状態において複数の絶縁カバー161,163が周方向に並ぶ状態を示す平面図である。また、
図28(a)は、コアアセンブリCAに対する各コイルモジュール150A,150Bの組み付け状態において固定ピン191による固定前の状態を示す縦断面図であり、
図28(b)は、コアアセンブリCAに対する各コイルモジュール150A,150Bの組み付け状態において固定ピン191による固定後の状態を示す縦断面図である。
【0118】
図26に示すように、コアアセンブリCAに対して複数の第1コイルモジュール150Aを組み付けた状態では、複数の絶縁カバー161が、側面部171どうしを当接又は接近状態としてそれぞれ配置される。各絶縁カバー161は、側面部171どうしが対向する境界線LBと、内筒部材81の軸方向端面の凹部105とが一致するようにして配置される。この場合、周方向に隣り合う絶縁カバー161の側面部171どうしが当接又は接近状態となることで、それら絶縁カバー161の各凹部177により、軸方向に延びる貫通孔部が形成され、その貫通孔部と凹部105の位置が一致する状態とされる。
【0119】
また、
図27に示すように、コアアセンブリCA及び第1コイルモジュール150Aの一体物に対して、さらに第2コイルモジュール150Bが組み付けられる。この組み付けに伴い、複数の絶縁カバー163が、側面部181どうしを当接又は接近状態としてそれぞれ配置される。この状態では、各渡り部153A,153Bは、周方向に中間導線部152が並ぶ円上で互いに交差するように配置されることとなる。各絶縁カバー163は、突出部186が絶縁カバー161に軸方向に重なり、かつ突出部186の貫通孔187が、絶縁カバー161の各凹部177により形成された貫通孔部に軸方向に連なるようにして配置される。
【0120】
このとき、絶縁カバー163の突出部186が、絶縁カバー161に設けられた一対の突起部178により所定位置に案内されることで、絶縁カバー161側の貫通孔部と内筒部材81の凹部105とに対して絶縁カバー163側の貫通孔187の位置が合致するようになっている。つまり、コアアセンブリCAに対して各コイルモジュール150A,150Bを組み付けた状態では、絶縁カバー163の奥側に絶縁カバー161の凹部177が位置するために、絶縁カバー161の凹部177に対して突出部186の貫通孔187の位置合わせを行うことが困難になるおそれがある。この点、絶縁カバー161の一対の突起部178により絶縁カバー163の突出部186が案内されることで、絶縁カバー161に対する絶縁カバー163の位置合わせが容易となる。
【0121】
そして、
図28(a),(b)に示すように、絶縁カバー161と絶縁カバー163の突出部186との重なり部分においてこれらに係合する状態で、固定部材としての固定ピン191による固定が行われる。より具体的には、内筒部材81の凹部105と、絶縁カバー161の凹部177と、絶縁カバー163の貫通孔187とを位置合わせした状態で、それら凹部105,177及び貫通孔187に固定ピン191が差し入れられる。これにより、内筒部材81に対して絶縁カバー161,163が一体で固定される。本構成によれば、周方向に隣り合う各コイルモジュール150A,150Bが、コイルエンドCEでコアアセンブリCAに対して共通の固定ピン191により固定されるようになっている。固定ピン191は、熱伝導性の良い材料で構成されていることが望ましく、例えば金属ピンである。
【0122】
図28(b)に示すように、固定ピン191は、絶縁カバー163の突出部186のうち低段部186aに組み付けられている。この状態では、固定ピン191の上端部は、低段部186aの上方に突き出ているが、絶縁カバー163の上面(外面部182)よりも上方に突き出ないものとなっている。この場合、固定ピン191は、絶縁カバー161と絶縁カバー163の突出部186(低段部186a)との重なり部分の軸方向高さ寸法よりも長く、上方に突き出る余裕代を有しているため、固定ピン191を凹部105,177及び貫通孔187に差し入れる際(すなわち固定ピン191の固定作業時)にその作業を行いやすくなることが考えられる。また、固定ピン191の上端部が絶縁カバー163の上面(外面部182)よりも上方に突き出ないため、固定ピン191の突き出しに起因して固定子60の軸長が長くなるといった不都合を抑制できるものとなっている。
【0123】
固定ピン191による絶縁カバー161,163の固定後には、絶縁カバー163に設けた貫通孔188を通じて、接着剤の充填が行われる。これにより、軸方向に重なる絶縁カバー161,163が互いに強固に結合されるようになっている。なお、
図28(a),(b)では、便宜上、絶縁カバー163の上面から下面までの範囲で貫通孔188を示すが、実際には肉抜き等により形成された薄板部に貫通孔188が設けられた構成となっている。
【0124】
図28(b)に示すように、固定ピン191による各絶縁カバー161,163の固定位置は、固定子コア62よりも径方向内側(図の左側)の固定子ホルダ70の軸方向端面となっており、その固定子ホルダ70に対して固定ピン191による固定が行われる構成となっている。つまり、第1渡り部153Aが固定子ホルダ70の軸方向端面に対して固定される構成となっている。この場合、固定子ホルダ70には冷媒通路85が設けられているため、第1部分巻線151Aで生じた熱は、第1渡り部153Aから、固定子ホルダ70の冷媒通路85付近に直接的に伝わる。また、固定ピン191は、固定子ホルダ70の凹部105に差し入れられており、その固定ピン191を通じて固定子ホルダ70側への熱の伝達が促されるようになっている。かかる構成により、固定子巻線61の冷却性能の向上が図られている。
【0125】
本実施形態では、コイルエンドCEにおいて18個ずつの絶縁カバー161,163が軸方向内外に重ねて配置される一方、固定子ホルダ70の軸方向端面には、各絶縁カバー161,163と同数の18箇所に凹部105が設けられている。そして、その18箇所の凹部105で固定ピン191による固定が行われる構成となっている。
【0126】
不図示としているが、軸方向逆側の絶縁カバー162,164についても同様である。すなわち、まず第1コイルモジュール150Aの組み付けに際し、周方向に隣り合う絶縁カバー162の側面部171どうしが当接又は接近状態となることで、それら絶縁カバー162の各凹部177により、軸方向に延びる貫通孔部が形成され、その貫通孔部と、外筒部材71の軸方向端面の凹部106の位置が一致する状態とされる。そして、第2コイルモジュール150Bの組み付けにより、絶縁カバー163側の貫通孔部と外筒部材71の凹部106とに対して絶縁カバー164側の貫通孔187の位置が合致し、それら凹部106,177、貫通孔187に固定ピン191が差し入れられることで、外筒部材71に対して絶縁カバー162,164が一体で固定される。
【0127】
コアアセンブリCAに対する各コイルモジュール150A,150Bの組み付け時には、コアアセンブリCAに対して、その外周側に全ての第1コイルモジュール150Aを先付けし、その後に、全ての第2コイルモジュール150Bの組み付けと、固定ピン191による固定とを行うとよい。又は、コアアセンブリCAに対して、先に、2つの第1コイルモジュール150Aと1つの第2コイルモジュール150Bとを1本の固定ピン191で固定し、その後に、第1コイルモジュール150Aの組み付けと、第2コイルモジュール150Bの組み付けと、固定ピン191による固定とをこの順序で繰り返し行うようにしてもよい。
【0128】
次に、バスバーモジュール200について説明する。
【0129】
バスバーモジュール200は、固定子巻線61において各コイルモジュール150の部分巻線151に電気的に接続され、各相の部分巻線151の一端を相ごとに並列接続するとともに、それら各部分巻線151の他端を中性点で接続する巻線接続部材である。
図29は、バスバーモジュール200の斜視図であり、
図30は、バスバーモジュール200の縦断面の一部を示す断面図である。
【0130】
バスバーモジュール200は、円環状をなす環状部201と、その環状部201から延びる複数の接続端子202と、相巻線ごとに設けられる3つの入出力端子203とを有している。環状部201は、例えば樹脂等の絶縁部材により円環状に形成されている。
【0131】
図30に示すように、環状部201は、略円環板状をなし軸方向に多層(本実施形態では5層)に積層された積層板204を有しており、これら各積層板204の間に挟まれた状態で4つのバスバー211~214が設けられている。各バスバー211~214は、いずれも円環状をなしており、U相用のバスバー211と、V相用のバスバー212と、W相用のバスバー213と、中性点用のバスバー214とからなる。これら各バスバー211~214は、環状部201内において、板面を対向させるようにして軸方向に並べて配置されるものとなっている。各積層板204と各バスバー211~214とは、接着剤により互いに接合されている。接着剤として接着シートを用いることが望ましい。ただし液状又は半液状の接着剤を塗布する構成であってもよい。そして、各バスバー211~214には、それぞれ環状部201から径方向外側に突出させるようにして接続端子202が接続されている。
【0132】
環状部201の上面、すなわち5層に設けられた積層板204の最も表層側の積層板204の上面には、環状に延びる突起部201aが設けられている。
【0133】
なお、バスバーモジュール200は、各バスバー211~214が環状部201内に埋設された状態で設けられるものであればよく、所定間隔で配置された各バスバー211~214が一体的にインサート成形されるものであってもよい。また、各バスバー211~214の配置は、全てが軸方向に並びかつ全ての板面が同方向を向く構成に限られず、径方向に並ぶ構成や、軸方向に2列でかつ径方向に2列に並ぶ構成、板面の延びる方向が異なるものを含む構成などであってもよい。
【0134】
図29において、各接続端子202は、環状部201の周方向に並び、かつ径方向外側において軸方向に延びるように設けられている。接続端子202は、U相用のバスバー211に接続された接続端子と、V相用のバスバー212に接続された接続端子と、W相用のバスバー213に接続された接続端子と、中性点用のバスバー214に接続された接続端子とを含む。接続端子202は、コイルモジュール150における各部分巻線151の巻線端部154,155と同数で設けられており、これら各接続端子202には、各部分巻線151の巻線端部154,155が1つずつ接続される。これにより、バスバーモジュール200が、U相の部分巻線151、V相の部分巻線151、W相の部分巻線151に対してそれぞれ接続されるようになっている。
【0135】
入出力端子203は、例えばバスバー材よりなり、軸方向に延びる向きで設けられている。入出力端子203は、U相用の入出力端子203Uと、V相用の入出力端子203Vと、W相用の入出力端子203Wとを含む。これらの入出力端子203は、環状部201内において相ごとに各バスバー211~213にそれぞれ接続されている。これらの各入出力端子203を通じて、固定子巻線61の各相の相巻線に対して、不図示のインバータから電力の入出力が行われるようになっている。
【0136】
なお、バスバーモジュール200に、各相の相電流を検出する電流センサを一体に設ける構成であってもよい。この場合、バスバーモジュール200に電流検出端子を設け、その電流検出端子を通じて、電流センサの検出結果を不図示の制御装置に対して出力するようになっているとよい。
【0137】
また、環状部201は、固定子ホルダ70に対する被固定部として、内周側に突出する複数の突出部205を有しており、その突出部205には軸方向に延びる貫通孔206が形成されている。
【0138】
図31は、固定子ホルダ70にバスバーモジュール200を組み付けた状態を示す斜視図であり、
図32は、バスバーモジュール200を固定する固定部分における縦断面図である。なお、バスバーモジュール200を組み付ける前の固定子ホルダ70の構成は、
図12を参照されたい。
【0139】
図31において、バスバーモジュール200は、内筒部材81のボス部92を囲むようにして端板部91上に設けられている。バスバーモジュール200は、内筒部材81の支柱部95(
図12参照)に対する組み付けにより位置決めがなされた状態で、ボルト等の締結具217の締結により固定子ホルダ70(内筒部材81)に固定されている。
【0140】
より詳しくは、
図32に示すように、内筒部材81の端板部91には軸方向に延びる支柱部95が設けられている。そして、バスバーモジュール200は、複数の突出部205に設けられた貫通孔206に支柱部95を挿通させた状態で、支柱部95に対して締結具217により固定されている。本実施形態では、鉄等の金属材料よりなるリテーナプレート220を用いてバスバーモジュール200を固定することとしている。リテーナプレート220は、締結具217を挿通させる挿通孔221を有する被締結部222と、バスバーモジュール200の環状部201の上面を押圧する押圧部223と、被締結部222と押圧部223との間に設けられるベンド部224とを有している。
【0141】
リテーナプレート220の装着状態では、リテーナプレート220の挿通孔221に締結具217が挿通された状態で、締結具217が内筒部材81の支柱部95に対して螺着されている。また、リテーナプレート220の押圧部223がバスバーモジュール200の環状部201の上面に当接した状態となっている。この場合、締結具217が支柱部95にねじ入れられることに伴いリテーナプレート220が図の下方に押し込まれ、それに応じて押圧部223により環状部201が下方に押圧されている。締結具217の螺着に伴い生じる図の下方への押圧力は、ベンド部224を通じて押圧部223に伝わるため、ベンド部224での弾性力を伴う状態で、押圧部223での押圧が行われている。
【0142】
上述したとおり環状部201の上面には環状の突起部201aが設けられており、リテーナプレート220の押圧部223側の先端は突起部201aに当接可能となっている。これにより、リテーナプレート220の図の下方への押圧力が径方向外側に逃げてしまうことが抑制される。つまり、締結具217の螺着に伴い生じる押圧力が押圧部223の側に適正に伝わる構成となっている。
【0143】
なお、
図31に示すように、固定子ホルダ70に対するバスバーモジュール200の組み付け状態において、入出力端子203は、冷媒通路85に通じる入口開口86a及び出口開口87aに対して周方向に180度反対側となる位置に設けられている。ただし、これら入出力端子203と各開口86a,87aとが同位置(すなわち近接位置)にまとめて設けられていてもよい。
【0144】
次に、バスバーモジュール200の入出力端子203を回転電機10の外部装置に対して電気的に接続する中継部材230について説明する。
【0145】
図1に示すように、回転電機10では、バスバーモジュール200の入出力端子203がハウジングカバー242から外側に突出するように設けられており、そのハウジングカバー242の外側で中継部材230に接続されている。中継部材230は、バスバーモジュール200から延びる相ごとの入出力端子203と、インバータ等の外部装置から延びる相ごとの電力線との接続を中継する部材である。
【0146】
図33は、ハウジングカバー242に中継部材230を取り付けた状態を示す縦断面図であり、
図34は、中継部材230の斜視図である。
図33に示すように、ハウジングカバー242には貫通孔242aが形成されており、その貫通孔242aを通じて入出力端子203の引き出しが可能になっている。
【0147】
中継部材230は、ハウジングカバー242に固定される本体部231と、ハウジングカバー242の貫通孔242aに挿し入れられる端子挿通部232とを有している。端子挿通部232は、各相の入出力端子203を1つずつ挿通させる3つの挿通孔233を有している。それら3つの挿通孔233は、断面開口が長尺状をなしており、長手方向がいずれも略同じとなる向きで並べて形成されている。
【0148】
本体部231には、相ごとに設けられた3つの中継バスバー234が取り付けられている。中継バスバー234は、略L字状に屈曲形成されており、本体部231にボルト等の締結具235により固定されるとともに、端子挿通部232の挿通孔233に挿通された状態の入出力端子203の先端部にボルト及びナット等の締結具236により固定されている。
【0149】
なお、図示は略しているが、中継部材230には外部装置から延びる相ごとの電力線が接続可能となっており、相ごとに入出力端子203に対する電力の入出力が可能となっている。
【0150】
次に、回転電機10を制御する制御システムの構成について説明する。
図35は、回転電機10の制御システムの電気回路図であり、
図36は、制御装置270による制御処理を示す機能ブロック図である。
【0151】
図35に示すように、固定子巻線61はU相巻線、V相巻線及びW相巻線よりなり、その固定子巻線61に、電力変換器に相当するインバータ260が接続されている。インバータ260は、相数と同じ数の上下アームを有するフルブリッジ回路により構成されており、相ごとに上アームスイッチ261及び下アームスイッチ262からなる直列接続体が設けられている。これら各スイッチ261,262はドライバ263によりそれぞれオンオフされ、そのオンオフにより各相の相巻線が通電される。各スイッチ261,262は、例えばMOSFETやIGBT等の半導体スイッチング素子により構成されている。また、各相の上下アームには、スイッチ261,262の直列接続体に並列に、スイッチング時に要する電荷を各スイッチ261,262に供給する電荷供給用のコンデンサ264が接続されている。
【0152】
上下アームの各スイッチ261,262の間の中間接続点に、それぞれU相巻線、V相巻線、W相巻線の一端が接続されている。これら各相巻線は星形結線(Y結線)されており、各相巻線の他端は中性点にて互いに接続されている。
【0153】
制御装置270は、CPUや各種メモリからなるマイコンを備えており、回転電機10における各種の検出情報や、力行駆動及び発電の要求に基づいて、各スイッチ261,262のオンオフにより通電制御を実施する。回転電機10の検出情報には、例えば、レゾルバ等の角度検出器により検出される回転子20の回転角度(電気角情報)や、電圧センサにより検出される電源電圧(インバータ入力電圧)、電流センサにより検出される各相の通電電流が含まれる。制御装置270は、例えば所定のスイッチング周波数(キャリア周波数)でのPWM制御や、矩形波制御により各スイッチ261,262のオンオフ制御を実施する。制御装置270は、回転電機10に内蔵された内蔵制御装置であってもよいし、回転電機10の外部に設けられた外部制御装置であってもよい。
【0154】
ちなみに、本実施形態の回転電機10は、スロットレス構造(ティースレス構造)を有していることから、固定子60のインダクタンスが低減されて電気的時定数が小さくなっており、その電気的時定数が小さい状況下では、スイッチング周波数(キャリア周波数)を高くし、かつスイッチング速度を速くすることが望ましい。この点において、各相のスイッチ261,262の直列接続体に並列に電荷供給用のコンデンサ264が接続されていることで配線インダクタンスが低くなり、スイッチング速度を速くした構成であっても適正なサージ対策が可能となる。
【0155】
インバータ260の高電位側端子は直流電源265の正極端子に接続され、低電位側端子は直流電源265の負極端子(グランド)に接続されている。直流電源265は、例えば複数の単電池が直列接続された組電池により構成されている。また、インバータ260の高電位側端子及び低電位側端子には、直流電源265に並列に平滑用のコンデンサ266が接続されている。
【0156】
図36は、U,V,W相の各相電流を制御する電流フィードバック制御処理を示すブロック図である。
【0157】
図36において、電流指令値設定部271は、トルク-dqマップを用い、回転電機10に対する力行トルク指令値又は発電トルク指令値や、電気角θを時間微分して得られる電気角速度ωに基づいて、d軸の電流指令値とq軸の電流指令値とを設定する。なお、発電トルク指令値は、例えば回転電機10が車両用動力源として用いられる場合、回生トルク指令値である。
【0158】
dq変換部272は、相ごとに設けられた電流センサによる電流検出値(3つの相電流)を、界磁方向(direction of an axis of a magnetic field,or field direction)をd軸とする直交2次元回転座標系の成分であるd軸電流とq軸電流とに変換する。
【0159】
d軸電流フィードバック制御部273は、d軸電流をd軸の電流指令値にフィードバック制御するための操作量としてd軸の指令電圧を算出する。また、q軸電流フィードバック制御部274は、q軸電流をq軸の電流指令値にフィードバック制御するための操作量としてq軸の指令電圧を算出する。これら各フィードバック制御部273,274では、d軸電流及びq軸電流の電流指令値に対する偏差に基づき、PIフィードバック手法を用いて指令電圧が算出される。
【0160】
3相変換部275は、d軸及びq軸の指令電圧を、U相、V相及びW相の指令電圧に変換する。なお、上記の各部271~275が、dq変換理論による基本波電流のフィードバック制御を実施するフィードバック制御部であり、U相、V相及びW相の指令電圧がフィードバック制御値である。
【0161】
操作信号生成部276は、周知の三角波キャリア比較方式を用い、3相の指令電圧に基づいて、インバータ260の操作信号を生成する。具体的には、操作信号生成部276は、3相の指令電圧を電源電圧で規格化した信号と、三角波信号等のキャリア信号との大小比較に基づくPWM制御により、各相における上下アームのスイッチ操作信号(デューティ信号)を生成する。操作信号生成部276にて生成されたスイッチ操作信号がインバータ260のドライバ263に出力され、ドライバ263により各相のスイッチ261,262がオンオフされる。
【0162】
続いて、トルクフィードバック制御処理について説明する。この処理は、例えば高回転領域及び高出力領域等、インバータ260の出力電圧が大きくなる運転条件において、主に回転電機10の高出力化や損失低減の目的で用いられる。制御装置270は、回転電機10の運転条件に基づいて、トルクフィードバック制御処理及び電流フィードバック制御処理のいずれか一方の処理を選択して実行する。
【0163】
図37は、U,V,W相に対応するトルクフィードバック制御処理を示すブロック図である。
【0164】
電圧振幅算出部281は、回転電機10に対する力行トルク指令値又は発電トルク指令値と、電気角θを時間微分して得られる電気角速度ωとに基づいて、電圧ベクトルの大きさの指令値である電圧振幅指令を算出する。
【0165】
dq変換部282は、dq変換部272と同様に、相ごとに設けられた電流センサによる電流検出値をd軸電流とq軸電流とに変換する。トルク推定部283は、d軸電流とq軸電流とに基づいて、U,V,W相に対応するトルク推定値を算出する。なお、トルク推定部283は、d軸電流、q軸電流及び電圧振幅指令が関係付けられたマップ情報に基づいて、電圧振幅指令を算出すればよい。
【0166】
トルクフィードバック制御部284は、力行トルク指令値又は発電トルク指令値にトルク推定値をフィードバック制御するための操作量として、電圧ベクトルの位相の指令値である電圧位相指令を算出する。トルクフィードバック制御部284では、力行トルク指令値又は発電トルク指令値に対するトルク推定値の偏差に基づき、PIフィードバック手法を用いて電圧位相指令が算出される。
【0167】
操作信号生成部285は、電圧振幅指令、電圧位相指令及び電気角θに基づいて、インバータ260の操作信号を生成する。具体的には、操作信号生成部285は、電圧振幅指令、電圧位相指令及び電気角θに基づいて3相の指令電圧を算出し、算出した3相の指令電圧を電源電圧で規格化した信号と、三角波信号等のキャリア信号との大小比較に基づくPWM制御により、各相における上下アームのスイッチ操作信号を生成する。操作信号生成部285にて生成されたスイッチ操作信号がインバータ260のドライバ263に出力され、ドライバ263により各相のスイッチ261,262がオンオフされる。
【0168】
ちなみに、操作信号生成部285は、電圧振幅指令、電圧位相指令、電気角θ及びスイッチ操作信号が関係付けられたマップ情報であるパルスパターン情報、電圧振幅指令、電圧位相指令並びに電気角θに基づいて、スイッチ操作信号を生成してもよい。
【0169】
(変形例)
以下に、上記実施形態に関する変形例を説明する。
【0170】
・磁石ユニット22における磁石の構成を以下のように変更してもよい。
図38に示す磁石ユニット22では、磁石32において磁化容易軸の向きが径方向に対して斜めであり、その磁化容易軸の向きに沿って直線状の磁石磁路が形成されている。本構成においても、磁石32の磁石磁路長を径方向の厚さ寸法よりも長くすることができ、パーミアンスの向上を図ることが可能となっている。
【0171】
・磁石ユニット22においてハルバッハ配列の磁石を用いることも可能である。
【0172】
・各部分巻線151において、渡り部153の折り曲げの方向は径方向内外のうちいずれであってもよく、コアアセンブリCAとの関係として、第1渡り部153AがコアアセンブリCAの側に折り曲げられていても、又は第1渡り部153AがコアアセンブリCAの逆側に折り曲げられていてもよい。また、第2渡り部153Bは、第1渡り部153Aの軸方向外側でその第1渡り部153Aの一部を周方向に跨ぐ状態になっているものであれば、径方向内外のいずれかに折り曲げられていてもよい。
【0173】
・部分巻線151として2種類の部分巻線151(第1部分巻線151A、第2部分巻線151B)を有するものとせず、1種類の部分巻線151を有するものとしてもよい。具体的には、部分巻線151を、側面視において略L字状又は略Z字状をなすように形成するとよい。部分巻線151を側面視で略L字状に形成する場合、軸方向一端側では、渡り部153が径方向内外のいずれかに折り曲げられ、軸方向他端側では、渡り部153が径方向に折り曲げられることなく設けられている構成とする。また、部分巻線151を側面視で略Z字状に形成する場合、軸方向一端側及び軸方向他端側において、渡り部153が径方向に互いに逆向きに折り曲げられている構成とする。いずれの場合であっても、上述のように渡り部153を覆う絶縁カバーによりコイルモジュール150がコアアセンブリCAに対して固定される構成であるとよい。
【0174】
・上述した構成では、固定子巻線61において、相巻線ごとに全ての部分巻線151が並列接続される構成を説明したが、これを変更してもよい。例えば、相巻線ごとの全ての部分巻線151を複数の並列接続群に分け、その複数の並列接続群を直列接続する構成でもよい。つまり、各相巻線における全n個の部分巻線151を、n/2個ずつの2組の並列接続群や、n/3個ずつの3組の並列接続群などに分け、それらを直列接続する構成としてもよい。又は、固定子巻線61において相巻線ごとに複数の部分巻線151が全て直列接続される構成としてもよい。
【0175】
・回転電機10における固定子巻線61は2相の相巻線(U相巻線及びV相巻線)を有する構成であってもよい。この場合、例えば部分巻線151では、一対の中間導線部152が1コイルピッチ分を離して設けられ、一対の中間導線部152の間に、他1相の部分巻線151における中間導線部152が1つ配置される構成となっていればよい。
【0176】
・回転電機10を、アウタロータ式の表面磁石型回転電機に代えて、インナロータ式の表面磁石型回転電機として具体化することも可能である。
図39(a),(b)は、インナロータ構造とした場合の固定子ユニット300の構成を示す図である。このうち
図39(a)はコイルモジュール310A,310BをコアアセンブリCAに組み付けた状態を示す斜視図であり、
図39(b)は、各コイルモジュール310A,310Bに含まれる部分巻線311A,311Bを示す斜視図である。本例では、固定子コア62の径方向外側に固定子ホルダ70が組み付けられることでコアアセンブリCAが構成されている。また、固定子コア62の径方向内側に、複数のコイルモジュール310A,310Bが組み付けられる構成となっている。
【0177】
部分巻線311Aは、概ね既述の第1部分巻線151Aと同様の構成を有しており、一対の中間導線部312と、軸方向両側においてコアアセンブリCAの側(径方向外側)に折り曲げ形成された渡り部313Aとを有している。また、部分巻線311Bは、概ね既述の第2部分巻線151Bと同様の構成を有しており、一対の中間導線部312と、軸方向両側において渡り部313Aを軸方向外側で周方向に跨ぐように設けられた渡り部313Bとを有している。部分巻線311Aの渡り部313Aには絶縁カバー315が装着され、部分巻線311Bの渡り部313Bには絶縁カバー316が装着されている。
【0178】
絶縁カバー315には、周方向両側の側面部に、軸方向に延びる半円状の凹部317が設けられている。また、絶縁カバー316には、渡り部313Bよりも径方向外側に突出する突出部318が設けられ、その突出部318の先端部に、軸方向に延びる貫通孔319が設けられている。
【0179】
図40は、コアアセンブリCAに対してコイルモジュール310A,310Bを組み付けた状態を示す平面図である。なお、
図40において、固定子ホルダ70の軸方向端面には周方向に等間隔で複数の凹部105が形成されている。また、固定子ホルダ70は、液状冷媒又は空気による冷却構造を有しており、例えば空冷構造として、外周面に複数の放熱フィンが形成されているとよい。
【0180】
図40では、絶縁カバー315,316が軸方向に重なる状態で配置されている。また、絶縁カバー315の側面部に設けられた凹部317と、絶縁カバー316の突出部318において絶縁カバー316の周方向一端から他端までの間の中央となる位置に設けられた貫通孔319とが軸方向に連なっており、それら各部で、固定ピン321による固定がなされている。
【0181】
また、
図40では、固定ピン321による各絶縁カバー315,316の固定位置が、固定子コア62よりも径方向外側の固定子ホルダ70の軸方向端面となっており、その固定子ホルダ70に対して固定ピン321による固定が行われる構成となっている。この場合、固定子ホルダ70には冷却構造が設けられているため、部分巻線311A,311Bで生じた熱が固定子ホルダ70に伝わり易くなっている。これにより、固定子巻線61の冷却性能を向上させることができる。
【0182】
・回転電機10に用いられる固定子60は、バックヨークから延びる突起部(例えばティース)を有するものであってもよい。この場合にも、固定子コアに対するコイルモジュール150等の組み付けがバックヨークに対して行われるものであればよい。
【0183】
・回転電機としては、星形結線のものに限らず、Δ結線のものであってもよい。
【0184】
・回転電機10として、界磁子を回転子、電機子を固定子とする回転界磁形の回転電機に代えて、電機子を回転子、界磁子を固定子とする回転電機子形の回転電機を採用することも可能である。
【0185】
(変形例2)
上記実施形態又は上記変形例において、次のように構成を変更してもよい。以下、本変形例2では、主に、上記各実施形態及び各変形例等で説明した構成に対する相違部分について説明する。また、本変形例2では、回転電機10の基本構成として、第1実施形態のものを例に説明する。以下、この変形例2における磁石部としての磁石ユニット1000の構成を中心に詳しく説明する。
【0186】
図41,
図42に示すように、磁石ユニット1000は、周方向に並べて配置されている複数の磁石1001,1002と、これらの磁石1001,1002を保持する磁石ヨーク2000と、を有している。磁石1001,1002は、接着剤などを介して磁石ヨーク2000に固定されている。この変形例2では、磁石ヨーク2000の内周面が磁石固定面に相当する。
【0187】
まず、各磁石1001,1002の形状について説明する。各磁石1001,1002は、磁極中心であるd軸と当該磁極中心であるd軸に対して周方向に隣接する磁極境界であるq軸との間にそれぞれ設けられている。そして、磁石1001と磁石1002は、磁極中心であるd軸又は磁極境界であるq軸を中心として周方向に左右対称に設けられている。この変形例2では、
図41、
図42において磁極中心であるd軸よりも左側の磁石を磁石1001と示し、右側の磁石を磁石1002と示す。そして、磁石ユニット1000は、磁石1001,1002を周方向に並べて配置することにより、円環状に設けられている。
【0188】
図41に示すように、各磁石1001,1002は、径方向内側(固定子60側)に固定子側周面1003(電機子側周面)を有し、径方向外側(磁石ヨーク2000側)に反固定子側周面1004(反電機子側周面)を有し、周方向の両端部に径方向に沿った平面である周方向端面1005をそれぞれ有する。各磁石1001,1002は、軸方向において所定の高さ寸法を有するように設けられている。なお、各磁石1001,1002の横断面形状は、軸方向においていずれの箇所でも同じとされている。また、各磁石1001,1002は、左右対称のため、以下では、磁石1001を中心に説明する。
【0189】
各周方向端面1005は、それぞれ固定子側周面1003の周方向における端部と、反固定子側周面1004の周方向における端部を繋ぐように設けられている。各磁石1001,1002は、それぞれ磁極中心であるd軸側における周方向端面1005であるd軸側端面1005aと、磁極境界であるq軸側における周方向端面1005であるq軸側端面1005bと、を有する。
【0190】
各磁石1001の固定子側周面1003は、周方向に沿って略円弧状に形成されている。
【0191】
そして、各磁石1001の反固定子側周面1004のうち、径方向において最も外側の面は、周方向に沿って略円弧状に形成されており、磁石ヨーク2000の内周面に当接している。
【0192】
また、各磁石1001の反固定子側周面1004において、磁極境界であるq軸側の端部には反固定子側q軸凹部1004bが設けられている。反固定子側q軸凹部1004bにより、反固定子側周面1004とq軸側端面1005bとの間における角部は、径方向内側に凹んだ状態となっている。反固定子側q軸凹部1004bは、その開口部(径方向外側部分)が底部(径方向内側部分)に比較して広くなっている略台形形状とされており、側面が径方向に対して傾斜している傾斜面とされている。なお、どの範囲で反固定子側q軸凹部1004bが設けられているかについては後述する。
【0193】
以上、説明したように、各磁石1001,1002の反固定子側周面1004は、径方向において凹凸形状が形成されている。なお、本実施形態では、磁石ヨーク2000の内周面を基準として、磁極境界であるq軸側に反固定子側q軸凹部1004bが形成されているとしたが、反固定子側q軸凹部1004bの底部を基準としてもよい。つまり、反固定子側q軸凹部1004bの底部を基準とした場合、磁石1001には、磁極中心であるd軸側に径方向に突出するd軸側凸部が形成されているともいえる。
【0194】
次に、各磁石1001,1002における磁石磁路について
図42に基づいて説明する。これらの磁石1001,1002における磁化容易軸は、その向きが磁極境界であるq軸の側に比べて磁極中心であるd軸の側において、磁極中心であるd軸に平行となるように配向され、磁化容易軸に沿って磁石磁路が形成されている。具体的には、各磁石1001,1002には、
図42に示すようにq軸上に設定される中心点(配向中心)を中心として、円弧状の磁石磁路が複数形成されている。なお、磁石磁路の形状は、真円の一部である円弧状であっても、楕円の一部である円弧状であってもよい。また、円弧の中心は、q軸上としたが、d軸よりもq軸側であれば、q軸上でなくてもよい。また、円弧の中心は、径方向において、当該複数の磁石1001,1002の固定子側周面1003上、または、当該複数の磁石1001,1002の固定子側周面1003よりも固定子60(電機子)側に設定されていればよい。
【0195】
したがって、各磁石1001,1002の磁化容易軸は、磁極中心であるd軸寄りの部分において磁極中心であるd軸に平行又は磁極中心であるd軸に平行に近い向きとなり、かつ磁極境界であるq軸寄りの部分において磁極境界であるq軸に直交又は磁極境界であるq軸に直交に近い向きとなる。
【0196】
また、磁石1001の磁石磁路は、磁極中心であるd軸を中心として周方向に隣接する磁石1002の磁石磁路に対して、磁極中心であるd軸を中心として周方向に左右対称に形成されている。ここで、磁石1001と、磁極中心であるd軸を中心として当該磁石1001に対して周方向に隣接する磁石1002とを、1対の磁石1001,1002と示す。
【0197】
そして、磁石ユニット1000は、周方向において隣り合う磁極中心であるd軸の極性を異ならせるように、磁石1001,1002の磁化方向(着磁方向)を、対となる磁石1001,1002毎に反対(逆)にしている。すなわち、
図42に示すように、極性が正極(N極)となる磁極中心であるd軸を中心として対となる磁石1001,1002の磁化方向(着磁方向)は、磁束線が磁極中心であるd軸に向かい収束するように設定されている。一方、極性が負極(S極)となる磁極中心であるd軸を中心として対となる磁石1001,1002の磁化方向(着磁方向)は、磁束線が磁極中心であるd軸から逆に拡がるように設定されている。
【0198】
次に、磁石1001,1002の製造方法の概略について説明する。各磁石1001,1002は、焼結法により製造される焼結磁石である。すなわち、生成したネオジム、ホウ素、鉄などの原料を溶解し、合金化する(第1工程)。次に、第1工程で得られた合金を粒子状に粉砕する(第2工程)。そして、金型の中に第2工程で得られた粉体を入れて、磁界中で加圧成形する(第3工程)。加圧成形された後、成形物は、焼結され(第4工程)、焼結終了後、熱処理される(第5工程)。熱処理においては何回か加熱冷却が行われる。そして、研削などの機械加工や表面加工が行われた後(第6工程)、着磁されることにより(第7工程)、各磁石1001,1002が完成する。
【0199】
次に、磁石ヨーク2000について
図41に基づいて説明する。磁石ヨーク2000は、軟磁性材により構成されており、円筒形状に形成されている。そして、磁石ヨーク2000の内周面には、径方向内側に突出する係合部2001が周方向において一定間隔ごとに設けられている。この係合部2001は、磁石ヨーク2000に一体形成されており、軟磁性材により構成されている。
【0200】
この係合部2001は、各々の磁石1001,1002の反固定子側q軸凹部1004bに収容されるように、反固定子側q軸凹部1004bの形状に合わせて、反固定子側q軸凹部1004bを埋めるように形成されている。すなわち、係合部2001は、その底辺(径方向外側の部分)が上辺(径方向内側の部分)よりも広くなるような略台形形状に形成されており、磁石1001,1002との間に隙間が極力形成されないように、つまり、当接するように、構成されている。そして、係合部2001は、その側面において、反固定子側q軸凹部1004bの側面と係合し、磁石1001,1002の周方向への移動を規制する。このため、磁石1001,1002の位置決め部材として機能するとともに、周り止めとして機能する。
【0201】
ここで、係合部2001の配置間隔について説明する。上述したように、各磁石1001,1002における磁化容易軸は、その向きが磁極境界であるq軸の側に比べて磁極中心であるd軸の側において、磁極中心であるd軸に平行となるように配向され、当該磁化容易軸に沿って磁石磁路が形成されている。このような磁石磁路を有する磁石1001,1002を容易に製造するためには、各磁石1001,1002を磁極中心であるd軸と当該磁極中心であるd軸に隣接する磁極境界であるq軸との間に設けることが望ましい。つまり、磁極中心であるd軸及び磁極境界であるq軸において磁石を分割して製造することが好ましい。一方で、磁石1001,1002を磁極中心であるd軸と当該磁極中心であるd軸に隣接する磁極境界であるq軸との間に設ける場合、磁極中心であるd軸における磁束密度を向上させつつ、表面磁束密度を正弦波状に近づけるためには、周方向における隙間をなるべく小さくして周方向に磁石を配置することが好ましい。
【0202】
しかしながら、上述したように、磁石1001,1002の製法の都合上、磁石1001,1002を寸法通りに製造することは難しく、若干の隙間が生じる。また、磁石1001,1002を磁極中心であるd軸と磁極境界であるq軸との間に設けた場合、隣り合うd軸側端面1005aは同極となり、反発しやすいため、q軸側端面1005bに比較して隙間が形成されやすい。
【0203】
そこで、磁石1001,1002のd軸側端面1005a同士の隙間が、q軸側端面1005b同士の隙間よりも狭くなるように、周方向において隣り合う係合部2001の間隔を設定した。具体的には、反固定子側q軸凹部1004bの側面(係合部2001との係合位置)から磁極中心であるd軸までの距離L21が、係合部2001の間隔L20の半分と同じ、若しくはわずかに小さくなるように、設定されている。言い換えると、反固定子側q軸凹部1004bの側面から磁極中心であるd軸までの距離L21が、係合部2001の間隔L20の半分と同じ、若しくはわずかに小さくなるように、磁石1001,1002の形状(反固定子側q軸凹部1004b又はd軸側端面1005a)が調整されているともいえる。例えば、d軸側端面1005aの間における隙間が、q軸側端面1005bの間における隙間の1/4以下であればよい。
【0204】
なお、磁極境界であるq軸側に隙間ができたとしても、軟磁性材により構成されている係合部2001により、磁束漏れを抑制することが可能となっている。また、磁極境界であるq軸側において磁束密度が低下しても、磁極中心であるd軸側において磁束密度が低下する場合に比較して、性能への影響は小さい。このため、磁極中心であるd軸側に比較して、磁極境界であるq軸側の隙間はある程度許容されている。
【0205】
また、
図41に示すように、周方向において、隣り合う係合部2001同士の間隔は、径方向外側ほど狭くなるように構成されている。このため、回転電機10が回転すると、磁石1001,1002に加えられる径方向外側への遠心力の一部が、係合部2001により周方向d軸側への応力に変換される。すなわち、磁石1001,1002が磁極中心であるd軸側に接近する方向へ力が加えられ、d軸側端面1005a同士の隙間が広くなることを抑制することができる。
【0206】
ところで、各磁石1001,1002における磁化容易軸は、その向きが磁極境界であるq軸の側に比べて磁極中心であるd軸の側において、磁極中心であるd軸に平行となるように配向され、当該磁化容易軸に沿って磁石磁路が形成されている。このため、径方向に沿って直線状に磁石磁路を形成する場合に比較して、磁石磁極間の漏れ磁束を少なくし、磁石1001,1002の表面磁束密度を正弦波状(磁極中心であるd軸において極値となる正弦波状)に近づけることができる。つまり、本実施形態のように、円弧状に磁石磁路が形成されると、磁石磁極間の漏れ磁束を少なくし、磁石1001,1002の表面磁束密度を正弦波状に近づけることができる。
【0207】
しかしながら、磁石1001,1002の製法の都合上、磁束密度に密接に関係する磁石磁路の長さや方向などの形状を微調整することは難しく、上記のように構成した場合であっても、径方向における磁石1001,1002の厚さ寸法が一定の場合、表面磁束密度が完全に正弦波状とすることは難しいという課題があった。そこで、本実施形態では、磁石1001,1002の形状を次のように構成している。以下、説明する。
【0208】
上述した磁石1001,1002の周方向(より詳しくは、固定子側周面1003)におけるパーミアンス係数Pcを算出すると、磁石磁路の長さに比例することがわかる。パーミアンス係数Pcとは、磁界強度(磁石内部の磁界)に対する磁束密度の比のことである。磁石の材質などがわかっていれば、磁石形状(磁化方向における長さや断面積)により算出可能である。一般的には、磁化方向における長さ(磁石磁路の長さ)が長くなると、パーミアンス係数Pcが大きくなり、自己減磁しにくくなることや、磁束密度が大きくなりやすくなることがわかっている。
【0209】
つまり、磁石1001,1002が、磁石磁路に沿った薄い磁石の集まりであると仮定すると、
図43に示すように、反固定子側q軸凹部1004bが設けられていない状態における磁石1001,1002のパーミアンス係数Pcは、磁石磁路の長さにほぼ比例する。このため、
図43に示すように、反固定子側q軸凹部1004bが設けられていない状態における磁石1001,1002では、周方向において、磁極境界であるq軸から磁極中心であるd軸側に近づくほどパーミアンス係数Pcが大きくなる。なお、上記仮定は、磁石1001,1002は、一様に磁化されており、磁化方向(磁石磁路の方向)と垂直な断面積(ここでは、軸方向の断面積)が同じ磁石であることを前提としている。また、パーミアンス係数Pcを算出する際、磁石1001,1002の所定厚み(径方向の幅)の平均値を用いるとよい。
【0210】
ここで、
図43の一点鎖線に示すように、反固定子側q軸凹部1004bが設けられていない状態の磁石1001,1002において、仮想的にパーミアンス係数Pcの等高線L11~L13を引くことができる。パーミアンス係数Pcの等高線L11~L13とは、この等高線L11~L13に沿ってパーミアンス係数Pcが同じ値となる線のことである。なお、磁石磁路の長さの違いから、反固定子側に近い等高線L13は、固定子側に近い等高線L11に比較して、パーミアンス係数Pcが高い等高線となっている。本実施形態では、
図43において等高線L11が最もパーミアンス係数Pcが低く、等高線L12、等高線L13の順にパーミアンス係数Pcが高くなっている。
【0211】
この
図43の等高線L11~L13に示すように、本実施形態のように磁石磁路が円弧状に形成されている場合、径方向における磁石1001,1002の厚さ寸法は、磁極中心であるd軸側において厚くする必要がある一方、磁極境界であるq軸側では薄くてもよいことがわかる。
【0212】
また、磁石ユニット1000の表面磁束密度を正弦波状に近づける場合、磁極境界であるq軸から磁極中心であるd軸側に周方向に近づくにつれてパーミアンス係数Pcを大きくすることが望ましい。そこで、等高線L11~L13を参照すると、磁極境界であるq軸から磁極中心であるd軸側に近づくにつれてパーミアンス係数Pcを大きくするには、
図44の破線に示すようにして、磁石磁路の長さを調整すればよい。つまり、磁極中心であるd軸側の厚さ寸法をより厚くする必要がある一方で、磁極境界であるq軸側の厚さ寸法をさらに薄くすることで、磁極境界であるq軸から磁極中心であるd軸側に近づくにつれてパーミアンス係数Pcを大きくすることが可能であることがわかる。
【0213】
そこで、本実施形態では、
図41、
図44に示すように、磁石磁路の長さに基づいて算出される各磁石1001,1002のパーミアンス係数Pcが、周方向において、磁極境界であるq軸から磁極中心であるd軸に近づくほど大きくなるように、反固定子側周面1004において、磁極境界であるq軸側に反固定子側q軸凹部1004bを設けた。すなわち、
図44の破線に沿うように、反固定子側周面1004に凹凸を設けて磁石磁路の長さを調整し、各磁石1001,1002のパーミアンス係数Pcが、磁極境界であるq軸から磁極中心であるd軸に近づくほど大きくなるにした。なお、
図44の破線と完全に一致するように反固定子側q軸凹部1004bを設けることが望ましいが、製造の都合上、完全に一致させることが難しいため、近似するように反固定子側q軸凹部1004bが設けられている。
【0214】
ここで、磁石1001,1002の寸法について説明する。磁石1001,1002の径方向における厚さの最大寸法を寸法Taとする(
図41参照)。この寸法Taは、固定子側周面1003のうち径方向において最も内側の部分から、反固定子側周面1004のうち径方向において最も外側の部分までの寸法に相当する。なお、反固定子側d軸凹部1004aが設けられていない場合において、磁石1001,1002の磁極中心であるd軸側の厚さ寸法に相当する。
【0215】
また、磁石1001,1002の径方向における厚さ寸法において、磁極境界であるq軸側の厚さ寸法を寸法Tbとする(
図41参照)。この寸法Tbは、固定子側周面1003のうち径方向において最も内側の部分から、反固定子側q軸凹部1004bの底部までの寸法に相当する。このように寸法Ta,Tbを設定したとき、Ta/Tb=1.3~2.0となるように各厚さ寸法が設定されている。
【0216】
次に、本実施形態のように反固定子側周面1004に凹凸を設けた場合における作用について説明する。比較例として
図45に示すような形状を有する磁石3000を想定する。
図45に示す磁石3000の磁石磁路は、本実施形態と同様に円弧状に形成されているものとする。また、固定子側周面1003の形状も同様であるとする。一方で、反固定子側周面において磁極境界であるq軸側には反固定子側q軸凹部1004bが設けられていないものとして説明する。つまり、磁石3000の径方向の厚さは一様であるものとして説明する。ただし、磁石3000の径方向の厚さは、磁石1001,1002の磁極中心であるd軸側の寸法Taよりも薄く、磁極境界であるq軸側の寸法Tbよりも厚いものとする。
【0217】
このように形成された磁石3000より構成される磁石ユニットの表面磁束密度は、
図46の実線で示すとおりである。径方向に沿った直線状の磁石磁路が設けられた磁石に比較して、正弦波状に近づくものの、改善の余地があることがわかる。
【0218】
ここで、
図41,
図42に示す磁石1001,1002のように、反固定子側q軸凹部1004bを設けることにより、
図46に示す矢印Y1のように、磁極境界であるq軸側付近における表面磁束密度を低下させ、正弦波状(一点鎖線で示す)に近づけることができる。また、
図41に示す磁石1001,1002のように、磁極境界であるq軸側の寸法Tbに比較して磁極中心であるd軸側の寸法Taを大きくすることにより、
図46に示す矢印Y2のように、磁極中心であるd軸側付近における表面磁束密度を向上させ、正弦波状に近づけることができる。
【0219】
以上のように構成された変形例2における有利な効果について説明する。
【0220】
上記変形例2では、
図42に示すように、磁石磁路の長さに基づいて算出される複数の磁石1001,1002のパーミアンス係数Pcが、周方向におけて磁極境界であるq軸から磁極中心であるd軸に近づくほど大きくなるように、反固定子側周面1004において、磁極境界であるq軸側に反固定子側q軸凹部1004bを設けた。すなわち、反固定子側周面1004に凹凸を設けて磁石磁路の長さを調整し、パーミアンス係数Pcが、周方向において、磁極境界であるq軸から磁極中心であるd軸に近づくほど大きくなるにした。これにより、磁化容易軸の方向や長さを調整する場合に比較して、簡単に磁石ユニット1000の表面磁束密度を正弦波状に近づけることが可能となる。
【0221】
また、
図42に示すように、複数の磁石1001,1002の反固定子側周面1004において、磁極境界であるq軸側には、反固定子側周面1004の反固定子側q軸凹部1004bに対して周方向に係合するとともに、磁石1001,1002の極性の異なる磁極間で磁束を授受するための軟磁性材からなる係合部2001を設けた。これにより、異なる極性の磁石間(磁石磁極間)の磁束漏れを抑制することができる。また、磁石1001,1002の固定と回動防止を適切に行うことができる。
【0222】
また、
図42に示すように、複数の磁石1001,1002は、磁化容易軸が円弧状に配向され、当該円弧状に配向された磁化容易軸の配向中心は、周方向において磁極中心であるd軸よりも磁極境界であるq軸側であって、径方向において複数の磁石1001,1002の固定子側周面1003、または、複数の磁石1001,1002の固定子側周面1003よりも固定子60の側に設定されている。これにより、磁石磁極間の磁束漏れを抑制し、磁束密度を向上させつつ、より正弦波状に近づけることができる。また、各磁石1001,1002の平均厚さ寸法を抑制し、磁石使用量を少なくすることができる。
【0223】
図42に示すように、係合部2001を磁石ヨーク2000に一体化させたことにより、精度よく係合部2001を形成することが可能となり、位置決め精度を向上させることができる。また、一体化させることにより、係合部2001や磁石ヨーク2000の剛性を向上させることが可能となる。
【0224】
図41、
図42に示すように、磁石1001及び磁石1002を、それぞれ磁極中心であるd軸と磁極境界であるq軸との間に設けた場合、d軸側端面1005aは同極となり、反発するため、q軸側端面1005bに比較して隙間が形成されやすい。そこで、磁石1001,1002のd軸側端面1005a同士の隙間が、q軸側端面1005b同士の隙間よりも狭くなるように、周方向において隣り合う係合部2001の間隔L20を設定した。つまり、磁石1001,1002と周方向に係合する係合部2001の間隔L20を調整し、周方向における磁石1001,1002のd軸側端面1005a同士の隙間が、q軸側端面1005b同士の隙間よりも狭くなるようにした。これにより、磁石1001,1002の位置決めを容易に精度よく行うことが可能となる。そして、d軸側端面1005a同士の隙間を抑制することができるため、隙間に起因する磁束密度の急激な変化を抑制し、トルク脈動やコギングトルクを抑制することができる。
【0225】
図42に示すように、磁石1001,1002における磁化容易軸は、その向きが磁極境界であるq軸の側に比べて磁極中心であるd軸の側において、磁極中心であるd軸に平行となるように配向され、当該磁化容易軸に沿って磁石磁路が形成されている。このため、磁極中心であるd軸における磁束密度を向上させつつ、表面磁束密度を正弦波状に近づけることができる。そして、このような磁石磁路を有する磁石1001,1002を容易に製造するためには、磁極中心であるd軸と当該磁極中心であるd軸に隣接する磁極境界であるq軸との間に磁石1001,1002を設けることが望ましい。
【0226】
一方で、磁石1001,1002を磁極中心であるd軸と当該磁極中心であるd軸に隣接する磁極境界であるq軸との間に設ける場合、磁極中心であるd軸における磁束密度を向上させつつ、表面磁束密度を正弦波状に近づけるためには、周方向における隙間をなるべく小さくして周方向に磁石1001,1002を配置することが好ましい。したがって、磁石1001,1002の間に十分な幅寸法、つまり、強度を有するまわり止め部材を設けることは困難となっている。
【0227】
ちなみに、ラジアル配向磁石を周方向に隙間なく並べた場合、
図9に示すように、磁極境界であるq軸付近において磁束密度が急峻に変化することとなる。このため、ラジアル配向磁石を採用する場合、通常、所定間隔を空けて配置される。
【0228】
そこで、
図41に示すように、磁石1001,1002の反固定子側周面1004に凹凸を形成するとともに、磁石固定面としての磁石ヨーク2000の内周面には、反固定子側周面1004に応じた形状を有し、反固定子側周面1004に係合する係合部2001を設けた。これにより、磁石1001,1002の反固定子側周面1004が係合部2001に対して周方向に係合するため、まわり止めを好適に行うことができる。
【0229】
また、周方向において、隣り合う係合部2001同士の間隔は、径方向外側ほど狭くなるように構成されている。このため、回転電機10が回転すると、磁石1001,1002に加えられる径方向外側への遠心力の一部が、係合部2001により周方向において磁極中心であるd軸側への応力に変換される。すなわち、磁石1001,1002が磁極中心であるd軸側に接近する方向へ力が加えられ、d軸側端面1005a同士の隙間が広くなることを抑制することができる。
【0230】
(変形例2における別例)
上記変形例2における磁石ユニット1000を、以下に説明するように変更してもよい。
【0231】
・上記変形例2では、アウタロータ型の回転子を採用したが、
図47に示すように、インナロータ型の回転子を採用してもよい。以下に回転子について詳しく説明すると、
図47に示す磁石ユニット1000は、周方向に並べて配置されている複数の磁石1011,1012と、これらの磁石1011,1012を保持する磁石ヨーク2010と、を有している。磁石1011,1012は、接着剤などを介して磁石ヨーク2010の外周面に固定されている。
【0232】
図47に示すように、各磁石1011,1012は、変形例2と同様に、磁極中心であるd軸と当該磁極中心であるd軸に対して周方向に隣接する磁極境界であるq軸との間にそれぞれ設けられている。そして、磁石1011と磁石1012は、磁極中心であるd軸又は磁極境界であるq軸を中心として周方向に左右対称に設けられている。そして、
図47に示す磁石ユニット1000は、磁石1011,1012を周方向に並べて配置することにより、円環状に設けられている。
【0233】
図47に示すように、各磁石1011,1012は、径方向外側(固定子60側)に固定子側周面1003(電機子側周面)を有し、径方向内側(磁石ヨーク2010側)に反固定子側周面1004(反電機子側周面)を有し、周方向の両端部に径方向に沿った平面である周方向端面1005をそれぞれ有する。
【0234】
各磁石1011,1012の固定子側周面1003は、周方向に沿って略円弧状に形成されている。各磁石1011,1012の反固定子側周面1004のうち、径方向において最も内側の面は、周方向に沿って略円弧状に形成されており、磁石ヨーク2010の外周面に当接している。また、各磁石1011,1012の反固定子側周面1004において、磁極境界であるq軸側の端部には反固定子側q軸凹部1004bが設けられている。
【0235】
変形例2と同様に、磁石1011,1012における磁化容易軸は、その向きが磁極境界であるq軸の側に比べて磁極中心であるd軸の側において、磁極中心であるd軸に平行となるように配向され、磁化容易軸に沿って磁石磁路が形成されている。具体的には、各磁石1001,1002には、磁極境界であるq軸上に設定される中心点(配向中心)を中心として、磁石磁路が、円弧状に複数形成されている。
【0236】
磁石ヨーク2010は、軟磁性材により構成されており、円筒形状に形成されている。そして、磁石ヨーク2010の外周面には、径方向外側に突出する係合部2011が周方向において一定間隔ごとに設けられている。この係合部2011は、磁石ヨーク2010に一体形成されており、軟磁性材により構成されている。
【0237】
この係合部2011は、各磁石1011,1012の反固定子側q軸凹部1004bに収容されるように、反固定子側q軸凹部1004bの形状に合わせて、反固定子側q軸凹部1004bを埋めるように形成されている。
【0238】
また、変形例2と同様に、磁石1011,1012のd軸側端面1005a同士の隙間が、q軸側端面1005b同士の隙間よりも狭くなるように、周方向において隣り合う係合部2011の間隔を設定している。
【0239】
また、
図47においても、変形例2と同様に、磁石1011,1012のパーミアンス係数Pcが、周方向において、磁極境界であるq軸から磁極中心であるd軸に近づくほど大きくなるように、反固定子側周面1004において、磁極境界であるq軸側に反固定子側q軸凹部1004bを設けている。つまり、磁石1011,1012の径方向における寸法Taと、寸法Tbは、Ta/Tb=1.3~2.0となるように各厚さ寸法が設定されている。なお、インナロータ型回転子では、
図47に示すように、磁石1011,1012の脱落防止のため、磁石1011,1012の固定子側周面1003(外周面)を覆うカバー部材2100が設けられている。
【0240】
さらに、インナロータ型回転子ではアウタロータ型に対し、磁石配置の幾何学的差から磁石磁極間の漏れ磁束が少ない。このため、
図47に示すように各磁石1011,1012の磁極境界であるq軸側端面1005bは、q軸から少し離してもよい。すなわち、極性の異なる磁石1011,1012のq軸側に周方向の所定隙間を設けてもよい。これにより磁石量を減らしてもトルク低下への影響が少なく、省磁石にできる効果がある。
【0241】
・上記変形例2において、磁石1001,1002の反固定子側q軸凹部1004bの形状は、任意に変更してもよい。円弧状に凹むような形状であってもよいし、階段状に形成されていてもよい。同様に、磁石1001,1002の反固定子側q軸凹部1004bの側面は、傾斜面としたが、任意に変更してもよい。例えば、反固定子側q軸凹部1004bの側面を、曲面としてもよいし、径方向に沿った側面にして、階段状に構成してもよい。
【0242】
・上記変形例2において、磁石磁路の方向や形状を変更してもよい。例えば、
図48に示すように、各磁石1001,1002における磁化容易軸は、その向きが径方向に対して一定の傾斜角度を有して直線状となるようにパラレル配向されていてもよい。つまり、径方向に対して斜めとなるように複数の磁化容易軸が平行に配向され、当該磁化容易軸に沿って径方向に対して斜めとなるように複数の磁石磁路が平行に形成されていてもよい。
【0243】
また、例えば、
図49に示すように、各磁石1001,1002における磁化容易軸は、径方向に対する傾斜角度を有する直線状磁化容易軸であって、周方向の位置により当該傾斜角度が徐変するものであってもよい。この場合、
図49に示すように、周方向において、磁極境界であるq軸側から磁極中心であるd軸側に近づくにつれて、直線状磁化容易軸が磁極中心であるd軸に平行となるように、各々の当該直線状磁化容易軸の傾斜角度が、径方向に対して小さくなるように設定されていればよい。つまり、磁極中心であるd軸を中心とする放射状に磁化容易軸が配向され、当該磁化容易軸に沿って放射状に磁石磁路が形成されていてもよい。
【0244】
このように磁石磁路を変更する場合も変形例2と同様に、磁石1001,1002の反固定子側周面1004に凹凸が形成されていることが望ましい。つまり、磁石磁路の長さに基づいて算出される磁石1001,1002のパーミアンス係数Pcが、周方向において、磁極境界であるq軸から磁極中心であるd軸に近づくほど大きくなるように、反固定子側周面1004において、磁極境界であるq軸側に凹部が設けられており、又は磁極中心であるd軸側に凸部が設けられており、若しくは、磁極境界であるq軸側に凹部が設けられるとともに磁極中心であるd軸側に凸部が設けられていることが望ましい。
【0245】
・上記変形例2のアウタロータ型、及びインナロータ側の何れにおいても、係合部2001は、磁石ヨーク2000とは別に設けられ、磁石ヨーク2000に接着剤やネジなどにより固定されるようにしてもよい。これにより、磁石ヨーク2000を、係合部2001とは別の材料、例えば、樹脂などにより構成し、軽量化することが可能となる。このように本開示の磁石ヨークとは、ある磁極の磁石と隣り合う磁極の磁石を繋ぐものであり、材質は磁性材に鉄に限定するものではない。
【0246】
・上記変形例2において、
図50に示すように、細長い薄板状の帯部材が螺旋状に巻回されて積層されることにより筒状に構成されたヘリカルコア2200を磁石ヨークにしてもよい。これにより、材料の歩留まりを向上させることができる。また、磁石ヨークの軸方向の長さ寸法を容易に変更することが可能となる。
【0247】
また、ヘリカルコア2200の内周面又は外周面に係合部2001が一体形成されていてもよい。この場合、ヘリカルコア2200も軟磁性材により構成されることとなる。
【0248】
ここで、回転電機10の製造方法、特に、ヘリカルコア2200の製造方法について
図51に基づいて説明する。
【0249】
まず、細長い直線状の板部材に対して曲げ加工を行うことにより、細長い薄板状の帯部材を螺旋状に巻回して積層された筒状のヘリカルコア2200を形成する曲げ加工ステップ(ステップS101)と、ヘリカルコア2200に磁石1001,1002を固定する固定ステップ(ステップS102)と、を有する。
【0250】
ところで、ヘリカルコア2200の内周面又は外周面に係合部2001を一体形成する場合、曲げ加工ステップの実行前において、板部材には、係合部2001がその幅方向に突出するように予め一体形成する必要がある。しかしながら、直線状の板部材に対して曲げ加工を行う場合、変形による歪みが生じ、加工後において係合部2001の形状が歪になり、磁石1001,1002に適切に当接しない可能性がある。
【0251】
そこで、ヘリカルコア2200の内周面又は外周面に係合部2001を一体形成する場合、曲げ加工ステップの実行前において、
図52(a)に示すように、板部材4001には、係合部2001がその幅方向に突出するように予め一体形成されているとともに、加工前の係合部2001には、曲げ加工による変形を吸収する凹凸4002が設けられている。つまり、円環状に曲げられた後の形状から曲げ加工による変形量を織り込んだインバース形状としている。これにより、
図52(b)に示すように、曲げ加工した際、曲げ加工による変形が凹凸4002により吸収され、係合部2001の形状精度を安定させることができる。これにより、磁石に確実に係合させ、また、磁石の位置決め精度を向上させることが可能となる。
【0252】
・上記変形例2において、以下のように構成してもよい。
【0253】
周方向に極性が交互となる複数の磁極を含む磁石部(1000)を有する界磁子(20)と、径方向において前記磁石部に対向して配置される電機子(60)と、を備え、前記界磁子及び前記電機子のうちいずれかを回転子とする回転電機(10)において、
前記磁石部は、周方向に並べて配置されている複数の磁石(1001,1002)と、複数の前記磁石が内周面又は外周面に固定される磁石ヨーク(2000)と、を備え、
各々の前記磁石は、周方向において隣り合うd軸とq軸との間に設けられ、d軸及びq軸において端面がそれぞれ形成されており、
前記磁石の反電機子側周面(1004)には、q軸側に凹部(1004b)が設けられており、又はd軸側に凸部が設けられており、若しくは、q軸側に凹部が設けられるとともにd軸側に凸部が設けられており、
前記磁石の反電機子側周面において、q軸側には、前記反電機子側周面の前記凹部又は前記凸部に対して周方向に係合する係合部(2001)が設けられており、
周方向における前記磁石のd軸側端面同士の隙間が、q軸側端面同士の隙間よりも狭くなるように、周方向において隣り合う前記係合部の間隔が設定されている回転電機。
【0254】
・上記実施形態及び変形例において、本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0255】
この明細書における開示は、例示された実施形態に制限されない。開示は、例示された実施形態と、それらに基づく当業者による変形態様を包含する。例えば、開示は、実施形態において示された部品および/または要素の組み合わせに限定されない。開示は、多様な組み合わせによって実施可能である。開示は、実施形態に追加可能な追加的な部分をもつことができる。開示は、実施形態の部品および/または要素が省略されたものを包含する。開示は、ひとつの実施形態と他の実施形態との間における部品および/または要素の置き換え、または組み合わせを包含する。開示される技術的範囲は、実施形態の記載に限定されない。開示されるいくつかの技術的範囲は、請求の範囲の記載によって示され、さらに請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものと解されるべきである。
【0256】
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。