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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】ステータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 3/34 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
H02K3/34 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023510157
(86)(22)【出願日】2021-04-02
(86)【国際出願番号】 JP2021014400
(87)【国際公開番号】W WO2022208892
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 真秀
(72)【発明者】
【氏名】今井 達矢
(72)【発明者】
【氏名】平岡 知康
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 和裕
(72)【発明者】
【氏名】内田 俊一
【審査官】津久井 道夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-44831(JP,A)
【文献】特開2020-92482(JP,A)
【文献】特開2006-94622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スロットを有するステータコアと、前記スロットに挿入される巻線と、前記スロットと前記巻線との間に介装され、前記スロットの内壁と前記巻線とを電気的に絶縁する絶縁シートと、を備えるステータであって、
前記絶縁シートは、絶縁紙と、前記絶縁紙の前記スロットの内壁に対向する表面の全面に配置される第1接着剤層と、前記絶縁紙の前記巻線に対向する裏面の全面に配置される第2接着剤層と、からなり、
前記第1接着剤層には、加熱により発泡しながら熱硬化する発泡接着剤が配置され、
前記第2接着剤層には、未加熱時の粘着性が前記発泡接着剤よりも低く、加熱により発泡しない非発泡接着剤が配置され、前記非発泡接着剤は、前記発泡接着剤が発泡しながら熱硬化する温度よりも高い温度で熱硬化する、
ステータ。
【請求項2】
請求項1に記載のステータであって、
前記絶縁シートは、前記第1接着剤層の全てに前記発泡接着剤が配置され、前記第2接着剤層の全てに前記非発泡接着剤が配置される、
ステータ。
【請求項3】
スロットを有するステータコアと、前記スロットに挿入される巻線と、前記スロットと前記巻線との間に介装され、前記スロットの内壁と前記巻線とを電気的に絶縁する絶縁シートと、を備えるステータであって、
前記絶縁シートは絶縁紙及び接着剤層を有し、前記スロット内で対向する二面において、一方の面における前記絶縁紙の表面及び裏面の接着剤層には加熱により発泡しながら熱硬化する発泡接着剤が配置され、他方の面における前記絶縁紙の表面及び裏面の接着剤層には未加熱時の粘着性が前記発泡接着剤よりも低く、加熱により発泡しない非発泡接着剤が配置され、前記非発泡接着剤は、前記発泡接着剤が発泡しながら熱硬化する温度よりも高い温度で熱硬化する、
ステータ。
【請求項4】
請求項3に記載のステータであって、
前記巻線は、前記スロット内で前記ステータの径方向に一列に配置される複数の平角線からなり、
前記絶縁シートは、複数の前記平角線のうち、少なくとも一つの平角線において、当該一つの平角線を挟んで対向する前記絶縁紙の表面及び裏面の接着剤層には、それぞれ前記発泡接着剤と前記非発泡接着剤とが配置され、前記径方向に隣接する他の平角線とは前記発泡接着剤と前記非発泡接着剤の配置が異なる、
ステータ。
【請求項5】
スロットを有するステータコアと、前記スロットに挿入される巻線と、前記スロットと前記巻線との間に介装され、前記スロットの内壁と前記巻線とを電気的に絶縁する絶縁シートと、を備えるステータであって、
前記絶縁シートは絶縁紙及び接着剤層を有し、前記スロットの内壁のうち、前記スロットの内壁の一方の側面に当接する第1絶縁シートと、前記スロットの内壁の他方の側面に当接する第2絶縁シートとからなり、
前記第1絶縁シートの絶縁紙の表面及び裏面の接着剤層には、加熱により発泡しながら熱硬化する発泡接着剤が配置され、前記第2絶縁シートの絶縁紙の表面及び裏面の接着剤層には、未加熱時の粘着性が前記発泡接着剤よりも低く、加熱により発泡しない非発泡接着剤が配置され、前記非発泡接着剤は、前記発泡接着剤が発泡しながら熱硬化する温度よりも高い温度で熱硬化する、
ステータ。
【請求項6】
請求項1に記載のステータであって、
前記絶縁シートには、前記第1接着剤層及び前記第2接着剤層に、前記発泡接着剤と前記非発泡接着剤とが、分散して配置される、
ステータ。
【請求項7】
請求項6に記載のステータであって、
前記絶縁シートは、非加熱時において、前記発泡接着剤が配置される箇所の厚さが、前記非発泡接着剤が配置される箇所の厚さより薄く形成される、
ステータ。
【請求項8】
スロットを有するステータコアと、前記スロットに挿入される巻線と、前記スロットと前記巻線との間に介装され、前記スロットの内壁と前記巻線とを電気的に絶縁する絶縁シートと、を備えるステータであって、
前記絶縁シートは、絶縁紙と、前記絶縁紙の前記スロットの内壁に対向する表面の全面に配置される第1接着剤層と、前記絶縁紙の前記巻線に対向する裏面の全面に配置される第2接着剤層と、からなり、
前記第1接着剤層には、非加熱時に前記スロットの内壁に密着する粘着性を有し、加熱により発泡しながら熱硬化する発泡接着剤が配置され、
前記第2接着剤層には、未加熱時の粘着性が前記スロットの内壁に密着しないように前記発泡接着剤よりも低く、加熱により発泡しない非発泡接着剤が配置され、前記非発泡接着剤は、前記発泡接着剤が発泡しながら熱硬化する温度よりも高い温度で熱硬化する、
ステータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機のステータに関する。
【背景技術】
【0002】
電動モータ等の回転電機において、ステータと巻線とを絶縁するために絶縁シートが用いられている。絶縁シートの表面には、ステータと巻線との双方に密着させる樹脂性等の接着剤が配置される。
【0003】
JP2011-244596Aには、表面が発泡樹脂により構成された絶縁シートをステータコアの内壁面と巻線との間に挟んだ状態で加熱し膨張させるステータが開示されている。このように構成することで、ステータと巻線とをより密着させることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術のように絶縁シートに発泡樹脂を用いた場合、発泡樹脂の粘着性によって巻線をステータのスロットに挿入する際の抵抗が大きく、作業性が低下する。これを改善すべくスロットと巻線との間のクリアランスを大きくすると、コイルとステータとにより構成される磁気回路の設計に制約が生じるほか、コイルとステータとの熱伝導率も低下するという問題がある。
【0005】
本発明は、熱伝導率を低下することなく、ステータに巻線を挿入する作業性を向上できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施態様は、スロットを有するステータコアと、スロットに挿入される巻線と、スロットと巻線との間に介装され、スロットの内壁と巻線とを電気的に絶縁する絶縁シートと、を備えるステータに適用される。絶縁シートは、絶縁紙と、絶縁紙のスロットの内壁に対向する表面に配置される第1接着剤層と、絶縁紙の巻線に対向する裏面に配置される第2接着剤層と、からなる。第1接着剤層には、加熱により発泡しながら熱硬化する発泡接着剤が配置される。第2接着剤層には、未加熱時の粘着性が発泡接着剤よりも低い非発泡接着剤が配置される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、絶縁シートのスロットの内壁に対向する面に発泡接着剤が配置され、巻線側に対向する面に粘着性が低い非発泡接着剤が配置されるので、スロットに巻線を挿入する際の作業性の低下を抑制できる。組み付け後、発泡接着剤の発泡により巻線とスロットとが密着するので、巻線とスロットとの間の熱伝導率の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の実施形態のステータの説明図である。
図2図2は、ステータのスロットの拡大図である。
図3図3は、ステータの組立方法のフローチャートである。
図4図4は、変形例のステータのスロットの拡大図である。
図5図5は、変形例のステータのスロットの拡大図である。
図6図6は、変形例のステータのスロットの拡大図である。
図7図7は、変形例のステータのスロットの拡大図である。
図8図8は、変形例のステータのスロットの拡大図である。
図9図9は、変形例のステータのスロットの拡大図である。
図10図10は、変形例の絶縁シートの説明図である。
図11図11は、変形例のステータのスロットの拡大図である。
図12A図12Aは、変形例の絶縁シートの説明図である。
図12B図12Bは、変形例の絶縁シートの説明図である。
図12C図12Cは、変形例の絶縁シートの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面等を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0010】
図1は、本発明の実施形態に係る絶縁シートが適用されるモータ(回転電機)のステータ10を、回転軸方向から観察した場合の説明図である。
【0011】
ステータ10は、複数のスロット12が形成されたステータコア11と、スロット12に挿入される巻線30と、ステータコア11と巻線30との間を電気的に絶縁する絶縁シート20(図2参照)とを備えて構成される。
【0012】
ステータコア11は、円環状に打ち抜かれた電磁鋼板が回転軸方向に積層して構成される。ステータコア11には、円環状のバックヨーク13と、バックヨーク13から内周側に突出する複数のティース14と、が形成される。
【0013】
ティース14とティース14との間に形成される空隙がスロット12を構成し、スロット12の内部に巻線30(図1にハッチングで示す)が挿入される。
【0014】
ステータ10の内周側には図示しないロータが配置される。ステータ10の巻線30に電流を流すことで、ロータに備えられる永久磁石との作用によってロータが回転する。
【0015】
なお、図1に示すステータコア11は、48個のスロット12が形成された例を示すが、スロット12の数はこれに限られるものではない。
【0016】
本実施形態のモータは、例えば電動自動車に搭載され、車輪を駆動する電動機として機能する。また、モータは、車輪の回転による駆動力を受けて発電(回生)を行なう発電機としても機能する。なお、モータは、自動車以外の装置、例えば各種電気機器又は産業機械の駆動装置として用いられてもよい。
【0017】
次に、ステータ10のスロット12の構成を説明する。
【0018】
図2は、本実施形態のステータ10のスロット12の部分拡大図である。図2は、図1における複数のスロット12の一つを代表して説明するが、他のスロット12の構成も同一である。
【0019】
スロット12は、ステータ10において、ティース14とティース14との間に形成された間隙である。ティース14の先端には、周方向に突出する突起部14aが形成されており、突起部14aと突起部14aとの間隙15によりスロット12がステータ10の内周側に開口する。
【0020】
スロット12には巻線30が挿入され、スロット12の内壁12aと巻線30との間には、絶縁シート20が介装される。
【0021】
絶縁シート20は、ステータコア11と巻線30との間を電気的に絶縁する。絶縁シート20は、表面に発泡性の接着剤を備え、これが加熱により発泡することにより、スロット12の内壁12aと巻線30とが密着固定される。
【0022】
巻線30は、絶縁被膜を有する複数の平角線31により構成される。図2に示す例では、一つのスロット12内に、径方向に6つの平角線31が並列に収装されている。なお、巻線30の数及び形状はこれに限られるものではない。
【0023】
次に、絶縁シート20の構成を説明する。
【0024】
従来、スロット12と巻線30との間に配置される絶縁シート20は、その両面に熱硬化性の接着剤が予め塗布されている。これをスロット12の内壁に組み付けた後、巻線30を挿入し、加熱することで接着剤が溶融後硬化し、スロット12の内壁12aと巻線30とが密着するように構成されている。
【0025】
ここで、スロット12と巻線30とがより密着するように、熱によりその体積が膨張する発泡接着剤を用いた場合は、表面の粘着度が非発泡接着剤よりも大きいため、スロット12に絶縁シート20を組み付ける工程や、巻線30をスロットに挿入する工程において、絶縁シート20が粘着し、作業性が低下する場合がある。
【0026】
これを防ぐためにスロット12の内壁と巻線30とのクリアランスを大きくすると、スロット12の内壁と巻線30との距離が大きくなり、ステータコア11と巻線30とで形成される磁気回路設計の制約が生じる。さらに、巻線30からステータ10への熱伝導率が低下することで熱処理に制約が生じ、その結果、モータ効率が低下する。
【0027】
そこで本実施形態では、絶縁シート20を次のように構成することで、モータ効率を低下させることなく、組立時の作業性を向上させている。
【0028】
図2に示すように、絶縁シート20は、スロット12の内壁12aの全周に渡って、巻線30を取り囲んで配置される。スロット12において径方向外側に位置する底部では、絶縁シート20の始点と終点とが重ねて配置される。
【0029】
絶縁シート20は、絶縁紙21と、絶縁紙21の表面に備えられる第1接着剤層22と、絶縁紙21の裏面に備えられる第2接着剤層23と、から構成される。絶縁紙21の表面は絶縁シート20におけるスロット12の内壁12a側の面であり、絶縁紙21の裏面は絶縁シート20における巻線30側の面である。
【0030】
絶縁紙21は、紙、不織布又は樹脂等からなる絶縁性の材料によりシート状に形成される。
【0031】
第1接着剤層22には、加熱により発泡してその体積を膨張させた後に硬化する発泡接着剤が所定の厚みで塗布されている。第2接着剤層23には、加熱によっては発泡することなく硬化する非発泡接着剤が所定の厚みで塗布されている。
【0032】
発泡接着剤は、例えば熱により発泡する微小なバインダーが接着剤中に分散混合されており、加熱により発泡接着剤が溶融するときにバインダーが発泡し、その体積(厚さ)が増加するように構成されている。発泡接着剤は、更なる加熱によってその厚さを保って硬化する。
【0033】
非発泡接着剤は、発泡性の材料を含んでいない。非発泡接着剤は、加熱によって溶融し、その体積(厚さ)はほとんど変化することなく硬化する。なお、非発泡接着剤は、非加熱状態での表面の粘着性が発泡接着剤と比較して低く構成されている。
【0034】
また、非発泡接着剤は、その硬化温度が、発泡接着剤の硬化温度以上に設定されている。なお、発泡接着剤は、例えばウレタン樹脂により構成される。非発泡接着剤は、例えばエポキシ樹脂により構成される。
【0035】
次に、このように構成されたステータ10の組立方法を説明する。
【0036】
図3は、本実施形態の絶縁シート20を用いたステータ10の組立方法を示すフローチャートである。
【0037】
まず、ステップS10において、ステータコア11の全てのスロット12内に、それぞれ絶縁シート20を取り付ける。例えば、治具等により、絶縁シート20の第1表面をスロット12の内壁12aに密着させる。
【0038】
絶縁紙21の表面は粘着性が高い発泡接着剤が全面に塗布された第1接着剤層22であり、絶縁シート20がスロット12の内壁12aに容易に密着できる。また、絶縁紙21の裏面の第2接着剤層23は、粘着性が低い非発泡接着剤が全面に塗布されていので、作業時に非発泡接着剤が作業者の手や治具に粘着することがなく、作業の邪魔とならない。
【0039】
次に、ステップS20において、各スロット12に巻線30を挿入する。
【0040】
巻線30は、U字形状を有する複数の平角線31により構成される。平角線31を開放端からスロット12の軸方向に挿入する。このとき、スロット12の内壁12aと絶縁シート20とは、粘着性が高い発泡接着剤により密着している。また、巻線30側は粘着性が低い非発泡接着剤が配置されているので、巻線30の挿入時に絶縁シート20がずれにくい。
【0041】
次に、ステップS30において、スロット12内に取り付けられた絶縁シート20を、硬化温度に昇温させる。
【0042】
例えば、ステータ10全体を炉に入れ、絶縁シート20を硬化温度に昇温させた後、発泡接着剤及び非発泡接着剤が十分に硬化するまでの所定時間、絶縁シート20が硬化温度となるように維持する。
【0043】
ステップS30の工程において、昇温により、まず発泡接着剤が溶融する。発泡接着剤は、溶融により発泡して体積が増加する。これにより、図4に示すように、発泡接着剤の厚さが増して、スロット12の内壁12aと巻線30との間の空隙が埋められる。その後、この厚さを保って発泡接着剤が硬化する。それと同時、または、発泡接着剤の硬化後に、非発泡接着剤が溶融して、硬化する。
【0044】
このような処理により、第1接着剤層22に配置された発泡接着剤が発泡することで第1接着剤層の厚さが増し、スロット12の内壁12aと巻線30との間の隙間が埋められ、巻線30がスロット12内で固定される。
【0045】
以上説明したように、本実施形態のステータ10は、スロット12を有するステータコア11と、スロット12に挿入される巻線30と、スロット12と巻線30との間に介装され、スロット12の内壁12aと巻線30とを電気的に絶縁する絶縁シート20と、を備える。絶縁シート20は、絶縁紙21と、絶縁紙21のスロット12の内壁12aに対向する表面に配置される第1接着剤層22と、絶縁紙21の巻線30に対向する裏面に配置される第2接着剤層23と、からなる。第1接着剤層22には、加熱により発泡しながら熱硬化する発泡接着剤が配置され、第2接着剤層23には、未加熱時の粘着性が第1接着剤よりも低い非発泡接着剤が配置される。
【0046】
このような構成により、絶縁シート20のうち、スロット12の内壁12aに対向する表面に発泡接着剤が配置され、巻線30側に対向する裏面に粘着性が低い非発泡接着剤が配置されるので、スロット12に巻線30を挿入する際に巻線30の挿入抵抗が少なくなり、絶縁シート20がずれる等による作業性の低下を抑制できる。さらに、組み付け後、加熱により発泡接着剤が発泡することで絶縁シート20の厚さが増加し、巻線30とスロット12とが密着するので、ステータコア11と巻線30との間の熱伝導率の低下を抑制できる。さらに、スロット12と巻線30との間のクリアランスを最小限とすることができ、スロット12と巻線30とで構成される磁気回路設計の制約がなくなる。これらにより、モータ効率を向上できる。
【0047】
また、本実施形態では、絶縁シート20は、第1接着剤層22の全てに発泡接着剤が配置され、第2接着剤層23の全てに非発泡接着剤が配置される。
【0048】
このような構成により、巻線30の周囲に絶縁シート20を配置することで、発泡接着剤により巻線30をスロット12の内壁12aに、より密着させることができる。
【0049】
また、本実施形態では、非発泡接着剤の硬化温度は、発泡接着剤の硬化温度以上(同じか高い)とした。このように構成することで、発泡接着剤が発泡してその厚さが増した後に、発泡接着剤と非発泡接着剤とが硬化するので、スロット12の内壁12aと巻線30との間の隙間が埋められ、巻線30がスロット12内で固定される。
【0050】
次に、本実施形態の変形例について説明する。
【0051】
前述のように、本実施形態では、絶縁シート20のスロット12の内壁12a側の面に少なくとも発泡接着剤が配置され、絶縁シート20の巻線30側の面に少なくとも非発泡接着剤が配置されればよく、次のような変形例を採用することができる。
【0052】
図5は、本実施形態の変形例のスロット12の部分拡大図である。
【0053】
図5に示す例では、絶縁シート20は、スロット12内に配置された状態において対向する二面のうち、一方の面における第1接着剤層22及び第2接着剤層23に、発泡接着剤を配置した。また、他方の面における第1接着剤層22及び第2接着剤層23に、非発泡接着剤を配置した。
【0054】
より具体的には、スロット12の内壁12aのうち、図5中の左側の全面に発泡接着剤を配置し、これに対向する図5中の右側の全面に発泡接着剤を配置した。さらに、スロット12の内壁12aのうち、スロット12の間隙15付近の内側面全体に発泡接着剤を配置し、ステータ10の径方向奥側の外側面全体に非発泡接着剤を配置した。スロット12の間隙15付近では、絶縁シート20の始点と終点とが重ねて配置されている。
【0055】
このようなステータが、加熱されると発泡接着剤の厚さが増加し、巻線30が図5中の白抜き矢印で示す方向に押圧され、スロット12の内壁12a付近へと移動して固定されるので、巻線30とスロット12の内壁12aとを絶縁シート20を介してより確実に密着させることができる。
【0056】
図6は、本実施形態の他の変形例のスロット12の部分拡大図である。
【0057】
図6に示す例では、巻線30を構成する平角線31それぞれについて、平角線31を挟んで対向する絶縁シート20の第1接着剤層22及び第2接着剤層23に配置される接着剤を、それぞれ異ならせた。
【0058】
図6において、巻線30は、径方向に一列に配置される六つの平角線31(31A、31B、31C、31D、31E、31F)から構成される。
【0059】
平角線31のうち、一の平角線31Aでは、スロット12の一方の側面(図6中左側)に対向する絶縁シート20の第1接着剤層22及び第2接着剤層23には、発泡接着剤が配置され、他方の側面(図6中右側)に対向する絶縁シート20の第1接着剤層22及び第2接着剤層23には、非発泡接着剤が配置される。
【0060】
そして、一の平角線31Aの径方向に隣接する他の平角線31Bでは、一の平角線31Aとは、発泡接着剤と非発泡接着剤との配置が異なる。すなわち、他の平角線31Bでは、一方の側面(図6中左側)に対向する絶縁シート20の第1接着剤層22及び第2接着剤層23には非発泡接着剤が配置され、他方の側面(図6中右側)に対向する絶縁シート20の第1接着剤層22及び第2接着剤層23には発泡接着剤が配置される。
【0061】
このように、平角線31それぞれについて、平角線31を挟んで対向する絶縁シート20の第1接着剤層22及び第2接着剤層23の発泡接着剤と非発泡接着剤とを異ならせ、さらに、径方向に隣接する複数の平角線31について、径方向で発泡接着剤と非発泡接着剤とが互い違いとなるように配置した。また、スロット12の径方向についても、一列に配置された複数の平角線31を挟んで対向する絶縁シート20の第1接着剤層22及び第2接着剤層23の発泡接着剤と非発泡接着剤とを異ならせるように配置した。
【0062】
このような構成により、加熱によって発泡接着剤の厚さが増加すると、平角線31が図6中の白抜き矢印で示す方向に互い違いに押圧され、スロット12の内壁12a付近へと移動して固定されるので、巻線30とスロット12の内壁12aとを絶縁シート20を介してより確実に密着させることができる。
【0063】
図7は、本実施形態のさらに別の変形例のスロット12の部分拡大図である。
【0064】
図7に示す変形例は、図6に示す変形例に類似しているが、複数の平角線31を一つのグループとして、このグループごとに絶縁シート20の第1接着剤層22及び第2接着剤層23に配置される接着剤を、それぞれ異ならせた。
【0065】
図7に示すように、巻線30の平角線31のうち、径方向奥側の二つの平角線31に対向する位置の絶縁シート20(内壁12aの両側)を第1グループ311とする。同様に、第1グループ311に隣接する位置の二つの平角線31に対向する位置の絶縁シート20(内壁12aの両側)を第2グループ312とする。同様に、径方向外側の二つの平角線31に対向する位置の絶縁シート20(内壁12aの両側)を第3グループ313とする。
【0066】
第1グループ311では、一方の側面(図7中左側)に対向する絶縁シート20の第1接着剤層22及び第2接着剤層23には、発泡接着剤が配置され、他方の側面(図7中右側)に対向する絶縁シート20の第1接着剤層22及び第2接着剤層23には、非発泡接着剤が配置される。
【0067】
第1グループ311に隣接する第2グループ312では、発泡接着剤と非発泡接着剤との配置を異ならせた。すなわち、第2グループ312では、一方の側面(図7中左側)に対向する絶縁シート20の第1接着剤層22及び第2接着剤層23には非発泡接着剤が配置され、他方の側面(図7中右側)に対向する絶縁シート20の第1接着剤層22及び第2接着剤層23には発泡接着剤が配置される。第2グループ312に隣接する第3グループ313においても同様に、第2グループ312とは発泡接着剤と非発泡接着剤との配置を異ならせた。また、スロット12の径方向についても、一列に配置された複数の平角線31を挟んで対向する絶縁シート20の第1接着剤層22及び第2接着剤層23の発泡接着剤と非発泡接着剤とを異ならせるように配置した。
【0068】
このように構成した場合にも、加熱によって発泡接着剤の厚さが増加すると、各グループに配置される平角線31が図7中の白抜き矢印で示す方向に互い違いに押圧され、スロット12の内壁12a付近へと移動して固定されるので、巻線30とスロット12の内壁12aとを絶縁シート20を介してより確実に密着させることができる。
【0069】
図8は、本実施形態のさらに別の変形例のスロット12の部分拡大図である。
【0070】
図8に示す変形例では、絶縁シート20を複数の絶縁シート(第1絶縁シート20A、第2絶縁シート20B)から構成した。
【0071】
図8に示すように、スロット12の一方の側面(図8中左側)には、第1接着剤層22及び第2接着剤層23に発泡接着剤を配置した第1絶縁シート20Aが挿入される。スロット12の他方の側面(図8中右側)には、第1接着剤層22及び第2接着剤層23に非発泡接着剤を配置した第2絶縁シート20Bが挿入される。
【0072】
また、第1絶縁シート20Aと第2絶縁シート20Bとは、スロット12の径方向奥側の底面と、径方向手前側の間隙15部分で、それぞれ重なり合わせられ、この重なり部分では、第2絶縁シート20Bが巻線30側に配置される。
【0073】
このように構成した場合は、特に、発泡接着剤のみが配置される第1絶縁シート20Aと、非発泡接着剤のみが配置される第2絶縁シート20Bとを別部品として構成したので、絶縁シート20A、20Bにおいて第1接着剤層22及び第2接着剤層23を形成する際の処理が簡略化され、絶縁シート20の製造コストを抑えることができる。
【0074】
さらに、前述の図5に示す変形例と同様に、加熱によって第1絶縁シート20Aの発泡接着剤の厚さが増加すると、巻線30が図8中の白抜き矢印で示す方向に押圧され、スロット12の内壁12a付近へと移動して固定されるので、巻線30とスロット12の内壁12aとを絶縁シート20を介してより確実に密着させることができる。
【0075】
なお、図8に示す変形例では、スロット12の径方向奥側の底面と、径方向手前側の間隙15部分で第1絶縁シート20Aと第2絶縁シート20Bとを重ねたが、これに限られず他の位置で重なるように配置してもよい。
【0076】
図9は、本実施形態のさらに別の変形例のスロット12の部分拡大図であり、図10はその絶縁シート20の加熱前及び加熱後の説明図である。
【0077】
図9に示す変形例では、図7に示す変形例と同様に、絶縁シート20の第1接着剤層22及び第2接着剤層23にそれぞれ発泡接着剤又は非発泡接着剤を配置するが、その位置を、巻線30の平角線31に位置とは関連しない位置に分散して(ランダムに)配置した。
【0078】
そしてさらに、絶縁シート20に配置される発泡接着剤が塗布される箇所の厚さが、非発泡接着剤が塗布される箇所の厚さと比較して、非加熱時で小さく、硬化温度に加熱した後に大きくなるように構成した。
【0079】
図10に示すように、非加熱時では、絶縁シート20の発泡接着剤が塗布される箇所の厚さが、非発泡接着剤が塗布される箇所の厚さよりも小さい。この構成により、巻線30を挿入するとき(図3のステップS20)に、巻線30が絶縁シート20の発泡接着剤に触れないため、巻線30が発泡接着剤に粘着することがなく、スロット12の内壁12aに固定されている絶縁シート20がずれにくい。
【0080】
さらに、加熱によって発泡接着剤の厚さが増加すると、発泡接着剤が配置されている箇所で巻線30が押圧され、スロット12の内壁12aと巻線30とを絶縁シート20を介して確実に固定させることができる。
【0081】
図11は、本実施形態のさらに別の変形例のスロット12の部分拡大図である。
【0082】
図11に示す変形例では、図9に示す変形例と同様に、絶縁シート20に配置する発泡接着及び非発泡接着剤の位置を、巻線30の平角線31に位置とは関連しない位置(ランダムに)配置した。そして、絶縁シート20に配置される発泡接着剤が塗布される箇所の厚さが、非発泡接着剤が塗布される箇所の厚さと比較して、非加熱時で小さく、硬化温度に加熱した後に大きくなるように構成した。
【0083】
そしてさらに、表裏で対応する位置における絶縁シート20の第1接着剤層22に配置する接着剤と第2接着剤層23に配置する接着剤とを異ならせた。すなわち、絶縁シート20のある箇所では、第1接着剤層22には発泡接着剤が配置され、その裏側の第2接着剤層23には非発泡接着剤が配置される。別の箇所では、第1接着剤層22には非発泡接着剤が配置され、その裏側の第2接着剤層23には発泡接着剤が配置される。
【0084】
このように構成した場合も、図9に示す変形例と同様に、巻線30を挿入するときに、巻線30が絶縁シート20の発泡接着剤に触れないため、巻線30が発泡接着剤に粘着することがなく、スロット12の内壁12aに固定されている絶縁シート20がずれにくい。さらに、加熱によって発泡接着剤の厚さが増加すると、発泡接着剤が配置されている箇所で巻線30が押圧され、スロット12の内壁12aと巻線30とを絶縁シート20を介して確実に固定させることができる。
【0085】
図12A図12B図12Cは、図11に示す変形例における、絶縁シート20の発泡接着及び非発泡接着剤の配置の一例を示す説明図である。
【0086】
図12A図12B図12Cは、絶縁シート20の表面に配置される第1接着剤層22を示す。絶縁シート20の裏面に配置される第2接着剤層23は、これら図12A図12B図12Cに示す配置とは、発泡接着及び非発泡接着剤の位置が逆となる。
【0087】
図12Aは、発泡接着剤と非発泡接着剤とが帯状に交互に配置される例を示す。
【0088】
図12Bは、円形状の発泡接着剤が非発泡接着剤の中に分散して配置される例を示す。
【0089】
図12Cは、発泡接着剤と非発泡接着剤とが、格子状に互い違いに配置される例を示す。
【0090】
なお、いずれの場合であっても、絶縁シート20の発泡接着剤が塗布される箇所の厚さが、非発泡接着剤が塗布される箇所の厚さよりも小さく設定する。
【0091】
このように、絶縁シート20の発泡接着及び非発泡接着剤を配置することで、絶縁シート20に第1接着剤層22及び第2接着剤層23を形成する際の自由度が増し、絶縁シート20の製造コストを抑えることができる。
【0092】
以上、本発明の実施形態、及びその変形例について説明したが、上記実施形態及び変形例は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。上述した各実施形態は、それぞれ単独の実施形態として説明したが、適宜組み合わせてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C