(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】生体情報測定装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/332 20210101AFI20240814BHJP
A61B 5/361 20210101ALI20240814BHJP
A61B 5/304 20210101ALI20240814BHJP
A61B 5/256 20210101ALI20240814BHJP
【FI】
A61B5/332
A61B5/361
A61B5/304
A61B5/256 220
(21)【出願番号】P 2023534554
(86)(22)【出願日】2021-07-15
(86)【国際出願番号】 JP2021026694
(87)【国際公開番号】W WO2023286254
(87)【国際公開日】2023-01-19
【審査請求日】2023-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健司
(72)【発明者】
【氏名】川端 康大
(72)【発明者】
【氏名】松村 直美
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 晃人
(72)【発明者】
【氏名】阪口 裕暉
(72)【発明者】
【氏名】岡 大蔵
(72)【発明者】
【氏名】吉田 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】福永 誠治
(72)【発明者】
【氏名】岡 達朗
【審査官】外山 未琴
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-43041(JP,A)
【文献】特開2010-94236(JP,A)
【文献】特表2010-539617(JP,A)
【文献】特表2016-505297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/332
A61B 5/361
A61B 5/304
A61B 5/256
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の器官に係る所定の生体情報を検出するセンサ部と、
前記センサ部から出力される測定信号をデジタル信号に変換するA/D変換部と、
前記A/D変換部から出力される前記測定信号に係るデジタル信号を含む情報を記憶する記憶部と、
前記デジタル信号を解析することにより、前記器官の異常の疑いの有無を判定する解析処理部と、
前記解析処理部が前記器官に異常の疑いが有ると判定した場合に、前記測定信号のA/D変換に係るサンプリング周波数を所定の条件で変更する測定制御部と、
を有しており、
前記器官は心臓であり、前記測定信号は心電信号であって、
前記解析処理部は、前記デジタル信号が所定の第二条件を満たす場合に前記心臓に異常の疑いが有ると判定し、
前記測定制御部は、
前記解析処理部が前記心臓に異常の疑いが有ると判定した場合、予め定められた所定時間に亘って、又は、前記第二条件が満たされている間、前記サンプリング周波数を所定の第一周波数から、該第一周波数よりも高い値に設定される所定の第二周波数に変更し、
前記解析処理部が前記心臓の異常の疑いが有ると判定していない場合には、前記第一周波数でサンプリングされた前記デジタル信号から得られる心拍間隔を前記記憶部に記憶し、前記解析処理部が前記心臓の異常の疑いが有ると判定した場合には、前記第二周波数でサンプリングされた前記デジタル信号から得られる心電波形を前記記憶部に記憶する制御を行い、
前記心拍間隔のデータは、前記解析処理部が前記異常の疑いの判定のために必要な分の最新の前記心拍間隔のデータを残して最も古いデータが常時前記記憶部から削除され、前記心電波形のデータは非一時的に前記記憶部に記憶される、
ことを特徴とする、生体情報測定装置。
【請求項5】
前記解析処理部は、前記デジタル信号に基づいて算出される心拍間隔に基づいて前記心臓の異常の疑いの有無を判定する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の生体情報測定装置。
【請求項6】
前記第二条件は、前記心拍間隔の変動値が所定の閾値を逸脱することである、
請求項5に記載の生体情報測定装置。
【請求項7】
前記生体情報測定装置は、前記生体に常時装着可能に構成されたウェアラブル装置である、
ことを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の生体情報測定装置。
【請求項8】
前記解析処理部が前記器官に異常の疑いが有ると判定した場合に、その旨の情報を報知する報知手段をさらに有する、
ことを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の生体情報測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘルスケア関連の技術分野に属し、特に生体情報の測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、血圧値、心電波形などの、個人の身体・健康に関する情報(以下、生体情報ともいう)を測定装置によって測定し、当該測定結果を情報処理端末で記録、分析することで、健康管理を行うことが普及しつつある。
【0003】
上記のような測定装置の一例として、診断目的に応じて生体情報検出のサンプリング周期を変更可能に構成された生体情報測定装置が提案されている(特許文献1)。特許文献1には、光電脈波計を備える測定ユニットと、解析ユニットを有する生体情報測定装置において、測定ユニットと解析ユニットの接続状態に応じて、光電脈波計によるセンシングのサンプリング周期を変更することが記載されている。このような構成によれば、1台の測定装置により、測定(診断)の目的に合致した異なるサンプリング周期で生体情報を取得することが可能になる。
【0004】
ところで、近年は、日常生活において常時身体に測定機器を装着し、継続的に生体情報を取得することで、疾患の早期発見や適切な治療を行うことのニーズが高まっている。このようなニーズを満たすいわゆるウェアラブルデバイスの場合、装着性の観点からできる限り小型化されることが望ましく、バッテリー容量、メモリ容量などに制約があることが通常である。このため、常時測定・記録するデータについては必要最低限のものにしつつ、異常発生時については診断のために必要十分なデータが測定・記録されることが望ましい。
【0005】
この点、上記特許文献1の技術によれば、測定ユニットと解析ユニットを接続することで測定データのサンプリング周期を変更させることができ、通常測定時は長いサンプリング周期(低いサンプリング周波数)で測定し、解析時には解析ユニットを接続して短いサンプリング周期(高いサンプリング周波数)でデータを取得することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特許文献1に記載の技術によれば、サンプリング周波数を変更するためには、接続ユニットを接続する(解析ボタンを押下する)などの操作が必要となり、手動でサンプリング周期を切り換える必要がある。このため、サンプリング周期の切り換えにはその都度手間がかかるという問題があった。また、ユーザーが自覚をもって手動でサンプリング周期を切り換える必要があるため、例えば心臓の心房細動などの異常(或いはその予兆)を捉え、適切なタイミングでサンプリング周期を切り換えることは困難である。
【0008】
上記のような問題に鑑み、本発明は、生体情報測定装置において測定した生体情報に基づいて測定対象の器官の異常の疑いの有無を判定するとともに、当該判定結果に応じて自動的に測定データのサンプリング周波数を切り換えることが可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明に係る生体情報測定装置は以下の構成を採用する。即ち、
生体の器官に係る所定の生体情報を検出するセンサ部と、
前記センサ部から出力される測定信号をデジタル信号に変換するA/D変換部と、
前記A/D変換部から出力される前記測定信号に係るデジタル信号を含む情報を記憶する記憶部と、
前記デジタル信号を解析することにより、前記器官の異常の疑いの有無を判定する解析処理部と、
前記解析処理部が前記器官に異常の疑いが有ると判定した場合に、前記測定信号のA/D変換に係るサンプリング周波数を所定の条件で変更する測定制御部と、
を有することを特徴とする、生体情報測定装置である。
【0010】
このような構成によれば、例えば正常時と異常の疑いが有る時(以下、単に異常時ともいう)でA/D変換部におけるサンプリング周波数を自動的に変更することが可能になる。これにより、例えば、正常時には低サンプリング周波数で消費電力を抑えることにより長時間の連続測定を可能としつつ、異常時には自動的に診断に必要なデータが得られるように高サンプリング周波数での測定に切り換えることが可能な生体情報測定装置を提供することが可能になる。
【0011】
また、前記解析処理部は、前記デジタル信号が所定の第二条件を満たす場合に前記器官に異常の疑いが有ると判定し、前記測定制御部は、前記解析処理部が器官に異常の疑いが有ると判定した場合に、予め定められた所定時間に亘って、前記サンプリング周波数を所定の第一周波数から、該第一周波数よりも高い値に設定される所定の第二周波数に変更する、ものであってもよい。なお、ここでいう第二条件とは、前記生体情報に係る所定の指標が所定の閾値を逸脱すること、などとすることができる。このような構成によれば、異常が疑われる場合には、診断を行うために必要十分なデータを得るために設定された高サンプリング周波数で、必要十分な時間の生体情報を取得することができる。
【0012】
また、前記解析処理部は、前記デジタル信号が所定の第二条件を満たしている場合に前記器官に異常の疑いが有ると判定し、前記測定制御部は前記第二条件が満たされている間、前記サンプリング周波数を所定の第一周波数から、該第一周波数よりも高い値に設定される所定の第二周波数に変更する、ようにしてもよい。このような構成によれば、異常の疑いが継続する限りにおいて、診断を行うために必要十分なデータを得るために設定された高サンプリング周波数で生体情報を取得し続けることが可能になる。
【0013】
また、前記器官は心臓であり、前記測定信号は心電信号であって、前記解析処理部が前記心臓の異常の疑いが有ると判定していない場合には、前記第一周波数でサンプリングされた前記デジタル信号から得られる心拍間隔を前記記憶部に記憶し、前記解析処理部が前記心臓の異常の疑いが有ると判定した場合には、前記第二周波数でサンプリングされた前記デジタル信号から得られる心電波形を前記記憶部に記憶するものであってもよい。ここで、心拍間隔とは例えば心電信号から取得できる波形のR-R間隔とすることができる。このような構成であれば、正常時と異常時とで、記憶部に記憶するデータの内容をユーザーの操作を要することなく自動的に切り換えることができるようになる。具体的には、例えば、正常時には低いサンプリング周波数のデータに基づいて心拍間隔を連続的に記憶するとともに、異常有無の判定のために必要な量のデータのみを残して古いものから順に連続してデータを削除することができる(即ち、異常有無の判定のために必要な情報が一時的に記憶される)。一方、異常が疑われる場合には、高サンプリング周波数で取得したデータ、具体的には診断を行うために必要十分な質及び量の心電波形を、意図的に削除されるまで(即ち、非一時的に)記憶することができる。これによれば、異常時の高サンプリング周波数で取得したデータのみを非一時的に記憶部に記憶させるようにでき、記憶容量を節約することが可能になる。
【0014】
また、前記器官は心臓であり、前記測定信号は心電信号であり、前記解析処理部は、前記デジタル信号に基づいて算出される心拍間隔により前記心臓の異常の疑いの有無を判定する、のであってもよい。例えば、心電信号から取得できる波形のR-R間隔を心拍間隔として検出して一時的に保存し、該心拍間隔のばらつきに基づいて、心臓の異常の疑いの有無を判定することができる。
【0015】
また、前記解析処理部は、前記心拍間隔の変動値が所定の閾値を逸脱した場合に前記異常の疑いが有ると判定するのであってもよい。即ち、上述の第二条件が「心拍間隔の変動値が所定の閾値を逸脱すること」であってもよい。このような構成によれば、容易かつ確実に異常の疑いの有無を判定することができる。
【0016】
また、前記生体情報測定装置は、前記生体に常時装着可能に構成されたウェアラブル装置であってもよい。本発明は、電池容量、記憶容量の制約が大きいこのような装置にとって好適である。
【0017】
また、前記解析処理部が前記器官に異常の疑いが有ると判定した場合に、その旨の情報を報知する報知手段をさらに有するものであってもよい。このような構成であれば、ユーザーは異常の疑いが有る場合にその旨を知ることができ、例えば安静な態勢になるなど、異常時の生体情報の取得にとって望ましい対応を取ることが可能になる。
【0018】
なお、上記構成及び処理の各々は技術的な矛盾が生じない限り互いに組み合わせて本発明を構成することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、生体情報測定装置において測定した生体情報に基づいて測定対象の器官の異常の疑いの有無を判定するとともに、当該判定結果に応じて自動的に測定データのサンプリング周波数を切り換えることが可能な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1Aは、本発明の実施形態に係るウェアラブル心電計の概略を示す外観斜視図である。
図1Bは、本発明の実施形態に係るウェアラブル心電計の概略を示す正面図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るウェアラブル心電計の機能構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係るウェアラブル心電計による心電測定処理の流れを示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、実施形態に係るウェアラブル心電計による心電測定処理におけるサブルーチンの流れを示すフローチャートである。
【
図5】
図5Aは、心電波形と心拍間隔の関係を示す第1の説明図である。
図5Bは、心電波形と心拍間隔を示す第2の説明図である。
【
図6】
図6は、実施形態の変形例に係る心電測定処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<実施形態1>
以下、本発明の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。ただし、この実施形態に記載されている構成の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0022】
(心電波形測定装置)
図1は、本実施形態におけるウェアラブル心電計1の構成を示す概略図であり、
図1Aはウェアラブル心電計1の外観斜視図を、
図1Bはウェアラブル心電計1の正面図を示している。
【0023】
図1に示すように、ウェアラブル心電計1は概略、制御部(
図1では図示せず)、操作部107、表示部106などを備える本体部10と、複数の電極21a、21b、21c、21d、21e、21fからなる電極部21を備えるベルト部20とを有する構成となっている。電極部21の各電極はベルト部20内部に配置される導電線(図示せず)などを介して本体部10と電気的に接続されており、ユーザーは例えば左上腕部に、ベルト部20を用いて電極部21の各電極が皮膚表面に接触するようにしてウェアラブル心電計1を装着することにより、常時、連続的に心電測定を行うことが可能になる。
【0024】
操作部107は、複数の操作ボタン(選択ボタン、決定ボタン、電源ボタンなど)によって構成される。表示部106は、例えば複数のLEDによるインジケータ(異常通知、通信状態表示、電池状態表示、など)として構成される。
【0025】
図2にはウェアラブル心電計1の機能構成を示すブロック図が記載されている。
図2に示すように、ウェアラブル心電計1は制御部101、電極部21、アンプ部102、A/D(Analog to Digital)変換部103、記憶部105、表示部106、操作部107、電源部108、通信部109、解析処理部110、測定制御部111、の各機能部を備える構成となっている。
【0026】
制御部101は、ウェアラブル心電計1の制御を司る手段であり、例えば、CPU(Central Processing Unit)などを含んで構成される。制御部101は、操作部107を介してユーザーの操作を受け付けると、所定のプログラムに従って心電測定、情報通信など各種の処理を実行するようにウェアラブル心電計1の各構成要素を制御する。なお、所定のプログラムは後述の記憶部105に保存され、ここから読み出される。また、制御部101は、機能モジュールとして、心電信号の解析を行う解析処理部110と、測定制御部111を備えている。これらの機能部については後に詳述する。
【0027】
電極部21は、6つの電極21a、21b、21c、21d、21e、21fを備えており、心電信号を検出するセンサ部として機能する。具体的には、ウェアラブル心電計1が装着された状態において、対向する位置関係になる2つの電極がそれぞれ対となり、対となる2つの電極の電位差に基づいて心電信号が検出される。即ち、3対の電極から同時に3通りの心電信号を検出することができる。また、アンプ部102は、電極部21から出力された信号を増幅する機能を有している。
【0028】
A/D変換部103は、アンプ部102で増幅されたアナログ信号を、測定制御部111の制御に従い所定のサンプリング周波数でデジタル信号に変換して出力する。なお、出力された信号は、測定制御部111の制御に従って処理され、記憶部105へと保存される。なお、後に詳述するように、A/D変換部103におけるサンプリング周波数及び、記憶部105に記憶される情報の内容は、測定制御部111の制御によって変更可能となっている。
【0029】
タイマ部104は図示しないRTC(Real Time Clock)を参照して、時間を計測する機能を有している。例えば、後述するように、所定のイベント発生時における時間をカウントし、これをアウトプットする。
【0030】
記憶部105は、RAM(Random Access Memory)などの主記憶装置(図示せず)を含んで構成され、アプリケーションプログラム、A/D変換部103から伝送されたデータ(心拍情報、心電波形)などの各種の情報を記憶する。また、RAMに加えて、例えばフラッシュメモリなどの長期記憶媒体を備えている。
【0031】
表示部106は、LEDなどの発光素子を含んで構成され、LEDの点灯、点滅などによって装置の状態、所定のイベントの発生などをユーザーに伝達する。また、操作部107は、複数の操作ボタンを含み、該操作ボタンを介してユーザーからの入力操作を受け付け、当該操作に応じた処理を制御部101に実行させるための機能を有する。
【0032】
電源部108は、装置の稼働に必要な電力を供給するバッテリー(図示せず)を含んで構成される。バッテリーは、例えばリチウムイオンバッテリーなどの二次電池であってもよいし、一次電池としてもよい。また、二次電池を備える構成の場合には、充電端子などを備える構成であってもよい。通信部109は、無線通信用のアンテナ、有線通信端子(いずれも図示せず)などを含み、情報処理端末などの他の機器と通信する機能を有する。なお、通信部109が充電端子を兼ねる構成であってもよい。
【0033】
解析処理部110は、記憶部105に記憶されたデータを解析し、当該データから求められる心拍間隔に基づいて、心臓(或いはその挙動)に異常の疑いが有るか否かを判定その結果を出力する。具体的には、例えば、心拍間隔の変動値が所定の閾値(上下限値)を逸脱した場合には、心臓に異常の疑いありと判定する。
【0034】
測定制御部111は、所定の条件に基づいて、A/D変換部103のサンプリング周波数、及び記憶部105に記憶されるデータの内容を制御する。具体的には、心臓に異常の疑いがない正常時(解析処理部110が異常の判定結果を出力していないとき)には、正常時用の低いサンプリング周波数(例えば、30Hz~50Hz)で心電信号をデジタル変換(サンプリング)し、当該信号による波形から心拍間隔を抽出し(以下、心拍間隔に係る情報を心拍間隔データともいう)、該心拍間隔データを記憶部105へ保存するように制御を行う。以下では、正常時のサンプリング周波数を単に低周波数ともいう。なお、心拍間隔は例えば、心電波形において振幅のピーク(心電図のR波に相当)を抽出し、隣接するピーク間の時間間隔を求めることで得ることができる。心拍間隔データの記憶部105への保存は一時的なものであり、解析処理部110が異常判定を行うために必要な分の(まとまりのある)心拍間隔データを残して、最も古いデータが常時消去されるようになっている。
【0035】
一方、心臓に異常の疑いが有る異常時(解析処理部110が異常の判定結果を出力したとき)には、測定制御部111は、サンプリング周波数を心電図として用いることが可能な心電波形が得られる程度の高い値(例えば、250Hz~1000Hz)に変更する。以下、異常時のサンプリング周波数を単に高周波数ともいう。その後、所定の条件が満たされると、サンプリング周波数を再び低周波数へと変更する。なお、異常時に高周波数でデジタル変換された心電信号から得られる波形データ(以下、心電波形データという)は、非一時的なデータとして記憶部105に保存される。
【0036】
(ウェアラブル心電計を用いた心電測定処理)
次に、心電測定を行う際のウェアラブル心電計1の動作について、
図3に基づいて説明する。
図3は、本実施形態に係るウェアラブル心電計1を用いて心電測定を行う際の処理の手順を示すフローチャートである。
【0037】
心電測定に先立ち、ユーザーは例えば左上腕部に、ベルト部20を用いて電極部21の各電極が皮膚表面に接触するようにしてウェアラブル心電計1を装着する。そして、操作ボタンを操作することにより、心電測定を開始する。
【0038】
心電測定が開始されると、制御部101(測定制御部111)はまず、A/D変換部103のサンプリング周波数を低周波数に設定する(S101)。そして、電極部21から心電信号を取得し(S102)、A/D変換部103において低周波数でデジタル変換して、当該信号による波形から心拍間隔を抽出し(S103)、心拍間隔データを記憶部105に保存する(S104)。続けて、解析処理部110により、心臓に異常の疑いが有るか否かの異常有無判定が行われる(S105)。
【0039】
図4に、ステップS105で行われる異常有無判定処理のサブルーチンの流れを示す。
図4に示すように、まず、解析処理部110は異常の有無判定に必要な量の心拍間隔データが記憶部105に保存されているかを確認する(S201)。ここで、必要な量の心拍間隔データが保存されていないと判定された場合には、ステップS201の処理を繰り返す。一方、必要な量のデータが保存されていると判断された場合には、当該データに基づいて、心拍間隔の変動値が、所定の上下限閾値を逸脱しているか否かを判定する(S202)。
【0040】
図5に、異常のない正常時の心拍間隔データと、異常時の心拍間隔データを表すグラフを示す。
図5Aは正常時の心拍間隔のデータを、X軸に時間、Y軸に心拍間隔の値を取ったグラフとして、対応する心電波形のグラフとともに示す図である。
図5Bは異常時の心拍間隔のデータを、X軸に時間、Y軸に心拍間隔の値を取ったグラフとして、対応する心電波形のグラフとともに示す図である。図中の破線は異常有無判定の上下限閾値を示しており、閾値は例えば、平均心拍間隔の±25msの値とすることができる。
【0041】
ステップS202において、心拍間隔の変動値が上下限閾値を逸脱していなければ、解析処理部110は心臓(その挙動)は正常であると判断して(S203)サブルーチンを終了する。一方、心拍間隔が上下限閾値を逸脱している場合には、心臓に異常の疑いが有ると判断して(S204)、サブルーチンを終了する。
【0042】
説明を
図3に示す心電測定全体のフローに戻すと、ステップS105で心臓に異常の疑いなし(正常)と判断された場合には、ステップS102に戻って以降の処理を繰り返す。一方、ステップS105で、異常の疑い有りと判断された場合には、測定制御部111がA/D変換部103におけるサンプリング周波数を高周波数に変更する(S106)。そして、当該高周波数でサンプリングされた信号は、心電図用の心電波形データとして記憶部105に保存される(S107)。
【0043】
その後、測定制御部111は、タイマ部104を参照して所定の時間(例えば30秒)が経過したか否かを判定する(S108)。ここで、所定の時間が経過していないと判定された場合には、ステップS107にもどり、以降の処理を繰り返す。一方、ステップS108で所定の時間が経過したと判定された場合には、ステップS109に進み、測定終了の条件(終了ボタンが押下されている、記憶容量が十分に残っていない、など)を満たすか否かを判定する(S109)。ここで、測定終了条件を満たしていない場合には、ステップS101に戻って、以降の処理を繰り返す。一方、ステップS109で測定終了条件を満たすと判定された場合には、測定を終了する。
【0044】
以上のようなウェアラブル心電計1によれば、通常時には低周波数で、異常有無の判定に必要な分の心拍間隔データのみを取得しつつ、異常の疑いが生じた場合には、高周波数で診断に用いることができる心電波形データを取得して非一時的に記憶する処理を、自動で行うことができる。このため、サンプリング周波数の切り換えの手間を無くすとともに、異常の疑いがある場合には、適時にサンプリング周波数を変更して診断に必要なデータが保存されるウェアラブル心電計を提供することができる。これにより、電源(電池容量)や記憶容量に制約のあるウェアラブルデバイスであっても、長時間連続測定することにより、心臓の異常を捉えられる可能性を高めることが可能になる。
【0045】
(変形例)
なお、上記の構成、処理は適宜変更することが可能である。例えば、上記の実施形態1では、異常時の心電波形データの取得を所定時間の経過により終了したが、これ以外の方法により、心電波形データの取得を終了するタイミングを決めるものであってもよい。
図6にこのような変形例の心電測定処理のフローチャートを示す。なお、変形例においては、上記実施形態1の場合と同様の処理については同一の符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0046】
変形例の処理であっても、概ね実施形態1の心電測定処理と同様の流れとなる。即ち、測定を開始するとともに、サンプリング周波数を低周波数に設定し(S101)、心電信号を取得して(S102)、該心電信号から心拍間隔を抽出し(S103)、心拍間隔データを保存したうえで(S104)、心臓の異常判定処理を行う(S105)。
【0047】
ここで、心臓に異常の疑いがあると判定された場合には、本変形例においては、続けて当該異常の怖れがある旨をユーザーに報知する処理を行う(S301)。具体的には、例えば、表示部106のLEDを点灯・点滅させることにより報知するのであってもよいし、ブザーなどを備える構成にしたうえで、音により報知を行ってもよい。このようにすることで、ユーザーは安静な状態を保つなど、正確な心電波形の測定のために望ましい対応を取ることが可能になる。
【0048】
制御部101は、ステップS301の処理を行うとともに、サンプリング周波数を高周波数に変更し(S106)、心電波形データを記憶部105へ保存する(S107)。そして、解析処理部110により、心電波形データに基づく心臓の異常有無判定処理が行われる(S302)。なおステップS302の判定処理において行う処理はS105におけるサブルーチンの処理と同様である。心拍間隔データは、高周波数でサンプリングされたデジタル信号からも当然に取得することができる。
【0049】
ステップS302で異常の疑いありと判断された場合には、ステップS107に戻って、以降の処理を繰り返す。一方、ステップS302で正常であると判断された場合には、ステップS109に進む。その後の処理は実施形態1の場合と同様である。
【0050】
以上のような変形例によれば、異常の疑いがある場合にユーザーがそれを知ることができるとともに、異常の疑いが継続する限り途切れることなく心電波形データを保存することが可能になる。
【0051】
<その他>
上記の各例の説明は、本発明を例示的に説明するものに過ぎず、本発明は上記の具体的な形態には限定されない。本発明は、その技術的思想の範囲内で種々の変形及び組み合わせが可能である。例えば、上記の実施形態では、表示部106はLEDのインジケータによって構成されているが、液晶画面などを備える構成としてもよいし、操作部107と表示部を兼ねるタッチパネルディスプレイを兼ねる構成としてもよい。逆に、表示部や操作部を備えない構成とすることも可能である。
【0052】
また、上記の心電測定装置はウェアラブル型のものであったが、ウェアラブル以外の装置にも本発明は適用可能である。さらに、心電測定装置以外の生体情報測定装置(例えば脈波測定装置など)にも、本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0053】
1・・・ウェアラブル心電計
10・・・本体部
101・・・制御部
102・・・アンプ部
103・・・A/D変換部
104・・・タイマ部
105・・・記憶部
106・・・表示部
107・・・操作部
108・・・電源部
109・・・通信部
110・・・解析処理部
111・・・測定制御部
20・・・ベルト部
21a、21b、21c、21d、21e、21f・・・電極