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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】フェライト焼結体および積層コイル部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/34 20060101AFI20240814BHJP
   C04B 35/26 20060101ALI20240814BHJP
   C04B 35/30 20060101ALI20240814BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20240814BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
H01F1/34 140
C04B35/26
C04B35/30
H01F17/00 D
H01F17/04 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023552802
(86)(22)【出願日】2022-09-26
(86)【国際出願番号】 JP2022035603
(87)【国際公開番号】W WO2023058479
(87)【国際公開日】2023-04-13
【審査請求日】2023-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2021165462
(32)【優先日】2021-10-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】杉井 一星
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-123616(JP,A)
【文献】特開2020-121916(JP,A)
【文献】特開2016-196397(JP,A)
【文献】特開2010-103266(JP,A)
【文献】特開2004-296865(JP,A)
【文献】特開平08-51012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/34
C04B 35/26
C04B 35/30
H01F 17/00
H01F 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分および副成分を含むフェライト焼結体であって、
前記主成分は、
FeをFeに換算して4mol%以上、13mol%以下、
ZnをZnOに換算して47mol%以上、58mol%以下、
CuをCuOに換算して1mol%以上、4mol%以下、
NiをNiOに換算して2mol%以上、8mol%以下、
SiをSiOに換算して28mol%以上、36mol%以下含有し、
前記副成分は、前記主成分100重量部に対し、
BiをBiに換算して0.8重量部以上、3重量部以下、
MnをMnに換算して0.003重量部以上、0.1重量部以下、
CrをCrに換算して0.003重量部以上、0.1重量部以下含有する、フェライト焼結体。
【請求項2】
前記主成分は、
FeをFeに換算して4mol%以上、9mol%以下、
ZnをZnOに換算して52mol%以上、58mol%以下、
CuをCuOに換算して1mol%以上、3mol%以下、
NiをNiOに換算して2mol%以上、5mol%以下、
SiをSiOに換算して31mol%以上、36mol%以下含有する、請求項1に記載のフェライト焼結体。
【請求項3】
平均結晶粒径が0.2μm以上、0.8μm以下である、請求項1または2に記載のフェライト焼結体。
【請求項4】
少なくともFe、Ni、ZnおよびCuを含有する磁性相と、少なくともSiおよびZnを含有する非磁性相とを含む、請求項1または2に記載のフェライト焼結体。
【請求項5】
請求項1または2に記載のフェライト焼結体から構成される絶縁層と、コイル導体とが交互に積層された積層体を備える、積層コイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト焼結体および積層コイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、フェライト組成物と、珪酸亜鉛とを含む複合磁性材料であって、上記フェライト組成物は、スピネル系フェライトおよび該スピネル系フェライト中に存在する酸化ビスマスで構成され、上記複合磁性材料全体の重量に対する上記酸化ビスマスの重量の割合が0.025重量%以上0.231重量%以下であり、上記珪酸亜鉛の重量と上記スピネル系フェライトの重量の合計に対する上記珪酸亜鉛の重量の割合は、8重量%以上76重量%以下である、複合磁性材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-210204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によれば、複合磁性材料全体の重量に対する酸化ビスマスの重量の割合が0.025重量%以上0.231重量%以下であると、複合磁性材料の焼結性が向上し、かつ、高い比抵抗を確保することができるとされている。さらに、珪酸亜鉛の重量とスピネル系フェライトの重量の合計に対する珪酸亜鉛の重量の割合が8重量%以上76重量%以下であると、高い透磁率と良好な直流重畳特性を両立することができるとされている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の複合磁性材料において、直流重畳特性の向上のために珪酸亜鉛の含有量を増やすと、焼結性が低下するおそれがある。一方、焼結性の改善のために酸化ビスマスの含有量を増やすと、積層コイル部品などの電子部品の外部電極を構成するめっき電極が下地電極に対して伸びる「めっき伸び」と呼ばれる不具合が発生することにより、電子部品の信頼性が低下する懸念がある。
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、直流重畳特性および焼結性が良好で、かつ、めっき伸びが抑制されたフェライト焼結体を提供することを目的とする。さらに、本発明は、上記フェライト焼結体から構成される絶縁層を備える積層コイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のフェライト焼結体は、主成分および副成分を含む。上記主成分は、FeをFeに換算して4mol%以上、13mol%以下、ZnをZnOに換算して47mol%以上、58mol%以下、CuをCuOに換算して1mol%以上、4mol%以下、NiをNiOに換算して2mol%以上、8mol%以下、SiをSiOに換算して28mol%以上、36mol%以下含有する。上記副成分は、上記主成分100重量部に対し、BiをBiに換算して0.8重量部以上、3重量部以下、MnをMnに換算して0.003重量部以上、0.1重量部以下、CrをCrに換算して0.003重量部以上、0.1重量部以下含有する。
【0008】
本発明の積層コイル部品は、本発明のフェライト焼結体から構成される絶縁層と、コイル導体とが交互に積層された積層体を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、直流重畳特性および焼結性が良好で、かつ、めっき伸びが抑制されたフェライト焼結体を提供することができる。さらに、本発明によれば、上記フェライト焼結体から構成される絶縁層を備える積層コイル部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の積層コイル部品の一例を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、図1に示す積層コイル部品を構成する積層体の内部構造の一例を模式的に示す分解平面図である。
図3図3は、図2に示す積層体を備える積層コイル部品の一例を模式的に示す断面図である。
図4図4は、図3においてIVで示す部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のフェライト焼結体および積層コイル部品について説明する。
しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する本発明の個々の望ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0012】
[フェライト焼結体]
本発明のフェライト焼結体は、主成分および副成分を含む。
【0013】
主成分は、FeをFeに換算して4mol%以上、13mol%以下、ZnをZnOに換算して47mol%以上、58mol%以下、CuをCuOに換算して1mol%以上、4mol%以下、NiをNiOに換算して2mol%以上、8mol%以下、SiをSiOに換算して28mol%以上、36mol%以下含有する。ただし、Fe、ZnO、CuO、NiOおよびSiOの合計が100mol%である。
【0014】
副成分は、主成分100重量部に対し、BiをBiに換算して0.8重量部以上、3重量部以下、MnをMnに換算して0.003重量部以上、0.1重量部以下、CrをCrに換算して0.003重量部以上、0.1重量部以下含有する。
【0015】
フェライト焼結体の組成を上記の範囲とすることで、直流重畳特性および焼結性が良好で、かつ、めっき伸びが抑制された磁器組成物を得ることができる。例えば、初期の透磁率から-10%となる印加磁界が15000A/m以上であり、920℃での3時間の焼成でも充分に焼結し、かつ、めっき伸びが抑制された磁器組成物を得ることができる。
【0016】
各元素の含有量は、誘導結合プラズマ発光/質量分光法(ICP-AES/MS)を用いて、焼結体の組成を分析することにより求めることができる。
【0017】
本発明のフェライト焼結体では、主成分は、FeをFeに換算して4mol%以上、9mol%以下、ZnをZnOに換算して52mol%以上、58mol%以下、CuをCuOに換算して1mol%以上、3mol%以下、NiをNiOに換算して2mol%以上、5mol%以下、SiをSiOに換算して31mol%以上、36mol%以下含有することが好ましい。ただし、Fe、ZnO、CuO、NiOおよびSiOの合計が100mol%である。
【0018】
Fe、Zn、Cu、NiおよびSiの含有量を上記の範囲とすることで、直流重畳特性をさらに高めることができる。例えば、初期の透磁率から-10%となる印加磁界が18000A/m以上である磁器組成物を得ることができる。
【0019】
本発明のフェライト焼結体では、平均結晶粒径が0.2μm以上、0.8μm以下であることが好ましい。
【0020】
フェライト焼結体の平均結晶粒径が小さいほど、結晶粒子に対する粒界の割合が大きくなる。例えば、フェライト焼結体に非磁性相が含まれている場合には、磁気飽和が抑制されやすくなるため、直流重畳特性が向上し得る。したがって、フェライト焼結体の平均結晶粒径が上記の範囲にあると、非磁性相が粒界に入りやすくなるため、直流重畳特性がさらに向上し得る。
【0021】
本明細書において、フェライト焼結体の平均結晶粒径とは、結晶粒子の面積円相当径の累積分布において個数基準で累積50%となる面積円相当径(D50)を意味する。結晶粒子の面積円相当径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてフェライト焼結体の断面を観察することにより測定することができる。
【0022】
本発明のフェライト焼結体は、少なくともFe、Ni、ZnおよびCuを含有する磁性相と、少なくともSiおよびZnを含有する非磁性相とを含むことが好ましい。
【0023】
フェライト焼結体に非磁性相が含まれていると、上述したように磁気飽和が抑制されやすくなるため、直流重畳特性が向上し得る。
【0024】
磁性相および非磁性相は、以下のようにして区別される。まず、フェライト焼結体の断面に対して、走査型透過電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析(STEM-EDX)で元素マッピングを行う。そして、Feが存在する領域を磁性相、Siが存在する領域を非磁性相として、両相を区別することができる。
【0025】
[積層コイル部品]
本発明の積層コイル部品は、本発明のフェライト焼結体から構成される絶縁層と、コイル導体とが交互に積層された積層体を備える。
【0026】
図1は、本発明の積層コイル部品の一例を模式的に示す斜視図である。
【0027】
図1に示す積層コイル部品1は、積層体10を備える。積層コイル部品1は、さらに、積層体10の外表面に設けられた外部電極21および22を備える。積層コイル部品の種類によって、外部電極の数、外部電極が設けられる位置などは適宜変更される。
【0028】
積層体10は、例えば、直方体状または略直方体状である。図1には、長さ方向L、幅方向Wおよび高さ方向Tを示している。長さ方向Lと幅方向Wと高さ方向Tとは、互いに直交している。
【0029】
図2は、図1に示す積層コイル部品を構成する積層体の内部構造の一例を模式的に示す分解平面図である。図3は、図2に示す積層体を備える積層コイル部品の一例を模式的に示す断面図である。なお、図3は、図1に示す積層コイル部品のIII-III線に沿った断面図に対応する。
【0030】
図2および図3に示す例では、積層体10は、絶縁層11a、11b、11c、11d、11e、11f、11gおよび11hと、コイル導体12a、12b、12c、12d、12e、12fおよび12gとが交互に積層されている。コイル導体12a、12b、12c、12d、12e、12fおよび12gがビア導体13a、13b、13c、13d、13eおよび13fを介して電気的に接続されることでコイルが形成されている。図2および図3に示す例では、積層コイル部品1は、コイル導体が高さ方向Tに積層された縦巻き構造を有するが、コイル導体が長さ方向Lまたは幅方向Wに積層された横巻き構造を有してもよい。
【0031】
絶縁層11a、11b、11c、11d、11e、11f、11gおよび11hは、各々、本発明のフェライト焼結体から構成される。
【0032】
コイル導体12a、12b、12c、12d、12e、12fおよび12gは、各々、例えば、Ag等により構成される。同様に、ビア導体13a、13b、13c、13d、13eおよび13fは、各々、例えば、Ag等により構成される。
【0033】
図3に示す例では、外部電極21は、積層体10側から順に、下地電極21aと、下地電極21a上に設けられためっき電極21b、とを含む。同様に、外部電極22は、積層体10側から順に、下地電極22aと、下地電極22a上に設けられためっき電極22b、とを含む。
【0034】
下地電極21aおよび22aは、各々、Agを含むことが好ましい。
【0035】
めっき電極21bおよび22bは、各々、単層構造であってもよく、複層構造であってもよい。めっき電極21bが複層構造である場合、めっき電極21bは、下地電極21a側から順に、Niめっき電極と、Snめっき電極と、を含むことが好ましい。同様に、めっき電極22bが複層構造である場合、めっき電極22bは、下地電極22a側から順に、Niめっき電極と、Snめっき電極と、を含むことが好ましい。
【0036】
図4は、図3においてIVで示す部分の拡大図である。
【0037】
外部電極21では、下地電極21aの先端から伸びているめっき電極21bの長さ(図4中、aで示す寸法)が30μm以下であることが好ましい。下地電極21aの先端から伸びているめっき電極21bの長さは、0μmであってもよく、0μmより大きくてもよい。
【0038】
同様に、外部電極22では、下地電極22aの先端から伸びているめっき電極22bの長さが30μm以下であることが好ましい。下地電極22aの先端から伸びているめっき電極22bの長さは0μmであってもよく、0μmより大きくてもよい。
【0039】
本発明のフェライト焼結体から構成される絶縁層を備える積層コイル部品は、好ましくは、以下のように製造される。
【0040】
<磁性材料作製工程>
Fe、ZnO、CuOおよびNiOを所定の組成になるように秤量する。この配合原料を純水およびPSZ(部分安定化ジルコニア)ボールとともにボールミルに入れ、湿式で所定の時間(例えば、4時間以上、8時間以下)混合粉砕する。水分を蒸発乾燥させた後、所定の温度(例えば、700℃以上、800℃以下)で所定の時間(例えば、2時間以上、5時間以下)仮焼する。これにより、磁性材料、具体的にはNi-Cu-Zn系フェライト粉末を作製する。
【0041】
仮焼物である磁性材料については、再度、平均粒径D50が0.1μm以上、0.2μm以下程度になるように粉砕することが好ましい。
【0042】
仮焼後に得られるNi-Cu-Zn系フェライト粉末は、FeをFe換算で40mol%以上、49.5mol%以下、ZnをZnO換算で2mol%以上、35mol%以下、CuをCuO換算で6mol%以上、13mol%以下、NiをNiO換算で10mol%以上、45mol%以下含有することが好ましい。Ni-Cu-Zn系フェライト粉末は、Co、Bi、Sn、Mn等の添加物や、不可避不純物などを含有してもよい。
【0043】
<非磁性材料作製工程>
SiOおよびZnOを所定の組成になるように秤量する。その際、SiOに対するZnOのモル比が1.8以上、2.2以下になるように配合することが好ましい。この配合原料を純水およびPSZボールとともにボールミルに入れ、湿式で所定の時間(例えば、4時間以上、8時間以下)混合粉砕する。水分を蒸発乾燥させた後、所定の温度(例えば、1000℃以上、1300℃以下)で所定の時間(例えば、2時間以上、5時間以下)仮焼する。これにより、非磁性材料、具体的には珪酸亜鉛粉末を作製する。
【0044】
仮焼物である非磁性材料については、再度、平均粒径D50が0.1μm以上、0.2μm以下程度になるように粉砕することが好ましい。
【0045】
別途、非磁性材料として、平均粒径D50が0.1μm以上、0.2μm以下程度のSiO粉末を準備する。
【0046】
上述した磁性材料および非磁性材料の平均粒径D50は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法を用いて得られる体積累積50%相当径である。
【0047】
<グリーンシート作製工程>
上記の工程で作製した磁性材料および非磁性材料を所定の割合になるように配合する。さらに、所定量のBi、MnおよびCrを添加する。これらの配合物をPSZメディアとともにボールミルに入れ、さらに、ポリビニルブチラール系樹脂等の有機バインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤と、等を入れて混合することにより、スラリーを作製する。得られたスラリーを、ドクターブレード法等で、所定の厚み(例えば、20μm以上、30μm以下)のシート状に成形加工する。その後、所定の形状(例えば、矩形状)に打ち抜くことにより、グリーンシートを作製する。
【0048】
<コイル導体パターン形成工程>
作製したグリーンシートにレーザー照射を行うことにより、所定の箇所にビアホールを形成する。次に、Ag等を主成分とする導電性ペーストを、スクリーン印刷法等により、ビアホールに充填するとともに、グリーンシートの表面に塗工する。これにより、グリーンシートにコイル導体パターンを形成する。
【0049】
<積層体ブロック作製工程>
コイル導体パターンが形成されたグリーンシートおよびコイル導体パターンが形成されていないグリーンシートを、所定の順序(例えば、図2に示す順序)で積層する。積層したグリーンシートを熱圧着することにより、積層体ブロックを作製する。
【0050】
<個片化工程>
必要に応じて、積層体ブロックをダイサー等で所定の大きさに切断することにより、個片化されたチップを作製する。
【0051】
<焼成工程>
個片化されたチップに対して、所定の温度(例えば、900℃以上、920℃以下)で所定の時間(例えば、2時間以上、4時間以下)焼成する。
【0052】
焼成により、グリーンシートは、フェライト焼結体から構成される絶縁層となり、コイル導体パターンは、コイル導体またはビア導体となる。その結果、絶縁層とコイル導体とが交互に積層された積層体が作製される。
【0053】
<研磨工程>
焼成後の積層体に対しては、例えば、バレル研磨を施すことにより、積層体の角部および稜線部に丸みを付けてもよい。角部は、積層体の3面が交わる部分であり、稜線部は、積層体の2面が交わる部分である。
【0054】
<外部電極形成工程>
積層体の側面でコイル導体が引き出されている端面に、導電性ペーストを塗布する。導電性ペーストは、例えば、Agおよびガラスを含む。所定の温度(例えば、800℃以上、820℃以下)で導電性ペーストの焼き付けを行うことにより、外部電極の下地電極を形成する。下地電極の厚みは、例えば、5μm程度である。
【0055】
その後、電解めっき等により、下地電極の上に、例えばNiめっき電極とSnめっき電極とを順に形成する。このようにして、外部電極を形成する。
【0056】
以上により、積層コイル部品が製造される。積層コイル部品のサイズは、例えば、長さ方向Lの寸法が0.6mm、幅方向Wの寸法が0.3mm、高さ方向Tの寸法が0.3mmである。
【実施例
【0057】
以下、本発明のフェライト焼結体および積層コイル部品をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0058】
(試料の作製)
Feを48mol%、ZnOを10mol%、NiOを28mol%、CuOを14mol%の割合で配合した。この配合物を湿式で混合、粉砕した後、乾燥することで水分を除去した。得られた乾燥物を800℃の温度で2時間仮焼した。得られた仮焼物を湿式で平均粒径D50が0.2μmになるまで粉砕した。このようにして、磁性材料としてのフェライト粉末を作製した。
【0059】
また、ZnO:SiOのモル比が2:1の割合でZnOとSiOを配合した。この配合物を湿式で混合、粉砕した後、乾燥することで水分を除去した。得られた乾燥物を1100℃の温度で2時間仮焼した。得られた仮焼物を湿式で平均粒径D50が0.2μmになるまで粉砕した。このようにして、珪酸亜鉛粉末を作製した。さらに、平均粒径D50が0.2μmのSiO粉末を準備した。これらの珪酸亜鉛粉末およびSiO粉末を非磁性材料とした。
【0060】
上記の磁性材料および非磁性材料を、磁性材料:非磁性材料の体積比で35:65~5:95の比率になるように秤量し、さらに所定量のBi、MnおよびCrを添加した。所定量の有機バインダ、有機溶剤および可塑剤をボールミルに入れて混合することにより、スラリーを作製した。得られたスラリーを、ドクターブレード法で、厚みが約25μmのシート状に成形加工した後、矩形状に打ち抜くことにより、グリーンシートを作製した。
【0061】
作製したグリーンシートを複数枚重ね合わせて圧着することで積層体ブロックを作製した。この積層体ブロックをリング形状に打ち抜いた後、920℃にて3時間の焼成をすることにより、外径が20mm、内径が12mm、厚みが1.5mmのリング状の試料を作製した。
【0062】
同じく作製したグリーンシートを用いて、上述の<コイル導体パターン形成工程>から<外部電極形成工程>で説明した手順により積層コイル部品を作製した。
【0063】
(組成)
リング状の試料について、誘導結合プラズマ発光/質量分光法(ICP-AES/MS)を用いて組成を分析した。結果を表1に示す。
【0064】
(透磁率)
リング状の試料をアジレント・テクノロジー社製の磁性体測定冶具(型番16454A)にセットし、アジレント・テクノロジー社製のインピーダンスアナライザ(型番E4991A)を用いて、10MHzでの透磁率μ’を測定した。結果を表1に示す。
【0065】
(直流重畳特性)
リング状の試料に60ターンの巻線を施し、Agilent社製のLCRメータ4284Aを用いて直流電流を印加し、算出される印加磁界およびそのときの透磁率を測定し、初期の透磁率から-10%となる印加磁界を求めた。結果を表1に示す。
【0066】
(めっき伸び)
各試料について、積層コイル部品5個を樹脂で固め、研磨機により試料の幅方向(W方向)に研磨を行った。試料の略中央部が露出する深さで研磨を終了した。その断面に集束イオンビーム(FIB)加工を行うことにより、SEM観察用の断面を得た。FIB加工は、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製のFIB加工装置SMI3050Rを用いた。下地電極の先端部のSEM写真を撮り、そのSEM写真から、下地電極の先端から伸びているめっき電極の長さ(図4中、aで示す寸法)を測定した。下地電極の先端から伸びているめっき電極の長さが30μmを超えた試料が5個中1個でもある場合を×(不良)、0個である場合を○(良)と評価した。結果を表1に示す。
【0067】
(平均結晶粒径)
各試料について、積層コイル部品の略中央部のSEM写真を撮り、フェライト焼結体の平均結晶粒径D50を測定した。観察領域は8μm×8μmとした。平均結晶粒径D50は、測定した結晶粒子の面積円相当径の累積分布において個数基準で累積50%となる面積円相当径である。結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1において、*印を付した試料は、本発明の範囲外となる比較例である。
【0070】
表1より、主成分がFeをFeに換算して4mol%以上、13mol%以下、ZnをZnOに換算して47mol%以上、58mol%以下、CuをCuOに換算して1mol%以上、4mol%以下、NiをNiOに換算して2mol%以上、8mol%以下、SiをSiOに換算して28mol%以上、36mol%以下含有し、副成分が主成分100重量部に対し、BiをBiに換算して0.8重量部以上、3重量部以下、MnをMnに換算して0.003重量部以上、0.1重量部以下、CrをCrに換算して0.003重量部以上、0.1重量部以下含有する試料2~6、9~11、14~17および20~22では、透磁率μ’が1.2以上、直流重畳特性が15000A/m以上であり、920℃での3時間の焼成でも充分に焼結し、かつ、めっき伸びが抑制されたフェライト焼結体が得られている。
【0071】
特に、主成分がFeをFeに換算して4mol%以上、9mol%以下、ZnをZnOに換算して52mol%以上、58mol%以下、CuをCuOに換算して1mol%以上、3mol%以下、NiをNiOに換算して2mol%以上、5mol%以下、SiをSiOに換算して31mol%以上、36mol%以下含有する試料4~6、9~11、14~17および20~22では、直流重畳特性が18000A/m以上であるフェライト焼結体が得られている。
【0072】
試料1では、直流重畳特性が14000A/mであり、15000A/mを下回った。
【0073】
試料7および8では、焼結性が劣り、920℃での3時間の焼成では充分に焼結しなかった。
【0074】
Biの添加量が多い試料12、Mnが添加されていない試料13、および、Crが添加されていない試料19では、めっき伸びが発生した。
【0075】
Mnの添加量が多い試料18、および、Crの添加量が多い試料23では、焼結性が劣り、920℃での3時間の焼成では充分に焼結しなかった。
【符号の説明】
【0076】
1 積層コイル部品
10 積層体
11a、11b、11c、11d、11e、11f、11g、11h 絶縁層
12a、12b、12c、12d、12e、12f、12g コイル導体
13a、13b、13c、13d、13e、13f ビア導体
21、22 外部電極
21a、22a 下地電極
21b、22b めっき電極
a 下地電極の先端から伸びているめっき電極の長さ
L 長さ方向
T 高さ方向
W 幅方向

図1
図2
図3
図4