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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】積層体及び包装袋
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20240814BHJP
   B32B 15/20 20060101ALI20240814BHJP
   B32B 27/10 20060101ALI20240814BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240814BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240814BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
B32B15/08 F
B32B15/20
B32B27/10
B32B27/32 101
B32B27/30 102
B65D65/40 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024506666
(86)(22)【出願日】2023-10-13
(86)【国際出願番号】 JP2023037251
【審査請求日】2024-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2022167515
(32)【優先日】2022-10-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】神永 純一
(72)【発明者】
【氏名】若林 寛之
(72)【発明者】
【氏名】越山 良樹
(72)【発明者】
【氏名】小島 裕美子
(72)【発明者】
【氏名】石井 里佳
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/202168(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/009610(WO,A1)
【文献】特開2004-204366(JP,A)
【文献】特開2005-187969(JP,A)
【文献】特開2003-291296(JP,A)
【文献】特開昭62-101428(JP,A)
【文献】特開2019-151031(JP,A)
【文献】特開平11-279306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
B65D65/00-65/46
C23C14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも紙基材と、アンカーコート層と、アルミニウム蒸着層と、オーバーコート層と、がこの順で積層された構造を有する積層体であって、
前記アルミニウム蒸着層は、X線回折測定におけるアルミニウムの(111)結晶面のピークの半値幅が1.6°以上15.0°以下である、積層体。
【請求項2】
前記アンカーコート層が、極性基を有するポリオレフィン又はポリビニルアルコール系樹脂を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記オーバーコート層が、極性基を有するポリオレフィンを含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項4】
前記積層体の厚み方向の断面においてナノインデンテーション法により測定される前記アンカーコート層の硬さが0.3GPa以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
前記積層体の厚み方向の断面においてナノインデンテーション法により測定される前記オーバーコート層の硬さが0.3GPa以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項6】
前記アルミニウム蒸着層の厚さが20nm以上100nm以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項7】
前記アルミニウム蒸着層は、X線回折測定におけるアルミニウムの(111)結晶面のピークの半値幅が2.0°以上15.0°以下である、請求項1に記載の積層体。
【請求項8】
前記アルミニウム蒸着層は、アイオノマー又はけん化度95%以上のポリビニルアルコール系樹脂を含む樹脂層と接する、請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の積層体を含む包装袋。
【請求項10】
折り曲げ部を有する、請求項9に記載の包装袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層体及び包装袋に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、飲料、医薬品及び化学品等の多くの分野では、それぞれの内容物に応じた包装材が使用されている。包装材は、内容物の変質の原因となる水蒸気等の透過防止性(ガスバリア性)が求められる。また、包装材には、その内容物によって、内容物に含まれる油の染み出しを防ぐために耐油性が求められる。
【0003】
近年、海洋プラスチックごみ問題等に端を発する環境意識の高まりから、脱プラスチックの機運が高まっている。プラスチック材料の使用量削減の観点から、種々の分野において、プラスチック材料の代わりに、紙を使用することが検討されている。例えば下記特許文献1では、紙にバリア層を積層した積層体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-69783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
紙は、折り目保持性(デッドホールド性とも称される)を有することから、加工がしやすいという特徴を有する。しかしながら、本発明者らの検討によれば、より鋭角な折り目がある包装袋(ピロー包装、三方シール包装及びガゼット包装)とする場合、バリア層にクラックが生じて耐油性が低下する点において、未だ改善の余地があることが判明した。
【0006】
また、資源有効利用促進法の観点から、積層体においてもプラスチック材料の使用量を削減することが求められている。
【0007】
そこで、本開示は、紙を使用した積層体であって、初期の耐油性だけでなく、折り曲げられた後であっても十分な耐油性を有する積層体、及びこれを含む包装袋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示は、以下の積層体及び包装袋を提供する。
[1]少なくとも紙基材と、アンカーコート層と、アルミニウム蒸着層と、オーバーコート層と、がこの順で積層された構造を有する積層体であって、上記アルミニウム蒸着層は、X線回折測定におけるアルミニウムの(111)結晶面のピークの半値幅が1.6°以上である、積層体。
[2]上記アンカーコート層が、極性基を有するポリオレフィン又はポリビニルアルコール系樹脂を含む、上記[1]に記載の積層体。
[3]上記オーバーコート層が、極性基を有するポリオレフィンを含む、上記[1]又は[2]に記載の積層体。
[4]上記積層体の厚み方向の断面においてナノインデンテーション法により測定される上記アンカーコート層の硬さが0.3GPa以下である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の積層体。
[5]上記積層体の厚み方向の断面においてナノインデンテーション法により測定される上記オーバーコート層の硬さが0.3GPa以下である、上記[1]~[4]のいずれかに記載の積層体。
[6]上記アルミニウム蒸着層の厚さが20nm以上100nm以下である、上記[1]~[5]のいずれかに記載の積層体。
[7]上記アルミニウム蒸着層は、X線回折測定におけるアルミニウムの(111)結晶面のピークの半値幅が2.0°以上15.0°以下である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の積層体。
[8]上記アルミニウム蒸着層は、アイオノマー又はけん化度95%以上のポリビニルアルコール系樹脂を含む樹脂層と接する、上記[7]に記載の積層体。
[9]上記[1]~[8]のいずれかに記載の積層体を含む包装袋。
[10]折り曲げ部を有する、上記[9]に記載の包装袋。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、紙を使用した積層体であって、初期の耐油性だけでなく、折り曲げられた後であっても十分な耐油性を有する積層体、及びこれを含む包装袋を提供することができる。上記積層体は、紙を使用しているため、紙の特徴である折り目保持性を有すると共に、プラスチック材料の使用量削減に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の一実施形態に係る積層体を示す模式断面図である。
図2】本開示の一実施形態に係る包装袋を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、場合により図面を参照しながら、本開示の実施形態について詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0012】
<積層体>
本実施形態に係る積層体は、少なくとも紙基材と、アンカーコート層と、アルミニウム蒸着層と、オーバーコート層と、がこの順で積層された構造を有する積層体であって、上記アルミニウム蒸着層は、X線回折測定におけるアルミニウムの(111)結晶面のピークの半値幅が1.6°以上である、積層体である。ここで、アルミニウム蒸着層のX線回折における上記半値幅は、アルミニウムの結晶構造の格子歪みの程度を表す。歪みが大きいと半値幅は大きくなり、歪が小さいと半値幅は小さくなる。また、歪が小さいほど、アルミニウムの結晶構造が緻密であることを意味する。上記積層体において、アルミニウム蒸着層の上記半値幅が1.6°以上であることにより、アルミニウムの結晶構造の緻密さを適度に低下させて疎な状態とすることができる。これによって積層体の折り曲げ時にアルミニウム蒸着層にかかる応力が層全体に分散され、折り曲げ時にアルミニウム蒸着層にクラックが発生することを抑制すること、及び、アルミニウム蒸着層に発生するクラックを小さくすることができる。そのため、上記積層体によれば、初期の耐油性だけでなく、折り曲げられた後であっても十分な耐油性を得ることができる。また、上記積層体によれば、アルミニウム蒸着層の上記半値幅を上記範囲内とすることで、初期の水蒸気バリア性だけでなく、折り曲げられた後であっても十分な水蒸気バリア性を得ることができる。更に、上記積層体によれば、酸素バリア性を有する材料をアンカーコート層に用いた場合、アルミニウム蒸着層の上記半値幅を上記範囲内とすることで、初期の酸素バリア性だけでなく、折り曲げられた後であっても十分な酸素バリア性を得ることができる。本実施形態に係る積層体は、耐油性積層体又はガスバリア積層体として有用である。
【0013】
また、従来のガスバリア積層体は、高温高湿下に保管されていると水蒸気バリア性が劣化してしまう点で改善の余地があった。高温高湿下(40℃90%環境下)に保管して水蒸気バリア性が劣化したガスバリア積層体に対して、透過光で顕微鏡観察したところ、微小な輝点が多数確認されたことから、アルミニウム蒸着層に透過欠陥が生じることで、水蒸気バリア性が劣化したと考えられる。これに対し、本実施形態に係る積層体は、X線回折測定におけるアルミニウムの(111)結晶面のピークの半値幅が1.6°以上であるアルミニウム蒸着層を備えることにより、高温高湿下に保管してもアルミニウム蒸着層に透過欠陥が生じることを抑制でき、水蒸気バリア性の劣化を抑制することができる。かかる効果が得られる理由について、本発明者らは以下のように推察する。
【0014】
アルミニウム蒸着層における透過欠陥の生成には、腐食性イオンによるアルミニウムの孔食と、紙基材の吸脱湿に伴う寸法変化による伸縮応力とが作用している。アルミニウム蒸着層の結晶性の観点から、腐食性イオンに対する耐性の点では結晶性が高い方が優れると言えるが、応力耐性に関しては伸縮に追従し易い非晶質の方が優れると考えられる。ここで、アルミニウム蒸着層は、結晶子の周りを非晶部が埋めた構造になっていると考えられる。また、アルミニウムのX線回折線幅の広がりは、結晶子の径や結晶の歪みに由来する。X線回折線幅が狭い状態は、理想結晶格子からなる結晶子と非晶部とに明確に分かれた状態であると考えられる。そのため、X線回折線幅が狭い場合、非晶部での孔食や伸縮応力による理想結晶格子又は結晶/非晶間の破壊が起き易くなるものと推察される。一方、X線回折線幅が広い状態は、歪んだ結晶構造を取り、結晶部/非晶部の分離が曖昧な状態であると考えられる。そのため、X線回折線幅が広い場合、孔食や伸縮応力による破壊が抑制されて、透過欠陥が生じにくくなっているものと推察される。以上の理由から、アルミニウム蒸着層のX線回折における上記半値幅が1.6°以上であることで、積層体が高温高湿下に保管された場合でも、アルミニウム蒸着層に透過欠陥が生じることを抑制でき、水蒸気バリア性の劣化を抑制することができるものと考えられる。かかる効果は、上記半値幅が2.0°以上である場合に、より顕著に奏される。
【0015】
図1は、一実施形態に係る積層体を示す模式断面図である。一実施形態に係る積層体10は、紙基材1と、アンカーコート層2と、アルミニウム蒸着層3と、オーバーコート層4とをこの順に備える。
【0016】
積層体10の厚さは、20~100μmであってよく、30~80μmであってよく、40~60μmであってよい。積層体10の厚さが上記範囲内であると、積層体10は、初期だけでなく折り曲げられた後であっても、より良好な水蒸気バリア性及び耐油性を得ることができる。
【0017】
[紙基材]
紙基材1は、植物由来のパルプを主成分としている紙であってよい。紙基材1の具体例としては、上質紙、特殊上質紙、コート紙、アート紙、キャストコート紙、模造紙、クラフト紙、及びグラシン紙等が挙げられる。紙基材1の坪量は、20~500g/m、又は、30~100g/mであってよい。
【0018】
紙基材1には、紙基材1の少なくともアンカーコート層2と接する側にコート層を設けてあってもよい。紙基材1がコート層を備える場合、紙基材1は少なくとも紙層とコート層とを備えていてよい。コート層は、紙基材1の両方の表面に設けられていてもよい。コート層を設けることで、紙にアンカーコート層2が染み込むことを防ぐことができるほか、紙の凹凸を埋める目止めの役割を果たすこともでき、アンカーコート層2を欠陥なく均一に製膜することができる。コート層には、例えば、バインダー樹脂として、スチレン・ブタジエン系、スチレン・アクリル系、エチレン・酢酸ビニル系、などの各種共重合体、ポリビニルアルコール系樹脂、セルロース系樹脂、パラフィン(WAX)等を用い、填料としてクレー、カオリン、炭酸カルシウム、タルク、マイカ等が含まれていてもよい。コート層は、少なくとも填料としてクレーを含有するクレーコート層であってもよい。
【0019】
紙基材1がコート層を備える場合、コート層の厚さは、1.5μm以上15μm以下であってよい。コート層の厚さは、1.8μm以上であってもよく、3μm以上であってもよく、5μm以上であってもよく、6μm以上であってもよい。コート層の厚さは、12μm以下であってもよく10μm以下であってもよい。コート層の厚さが上記範囲内であると、積層体10は、初期だけでなく折り曲げられた後であっても、より良好な水蒸気バリア性及び耐油性を得ることができる。
【0020】
紙基材1の厚さは、20~100μmであってよく、30~80μmであってよく、40~60μmであってよい。紙基材1の厚さが上記範囲内であると、積層体10は、初期だけでなく折り曲げられた後であっても、より良好な水蒸気バリア性及び耐油性を得ることができる。
【0021】
紙基材1の厚さに占めるコート層の厚さの割合は、3~25%であってよく、5~20%であってよい。この割合が上記範囲内であると、積層体10は、初期だけでなく折り曲げられた後であっても、より良好な水蒸気バリア性及び耐油性を得ることができる。
【0022】
紙の重量は、積層体全体を基準として、50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましい。紙の重量が積層体全体を基準として、50質量%以上であれば、プラスチック材料の使用量を十分に削減することができ、積層体全体として紙製であるということができるとともに、リサイクル性に優れる。
【0023】
[アンカーコート層]
アンカーコート層2は、紙基材1の表面上に設けられ、紙基材1と後述するアルミニウム蒸着層3との間の密着性向上や、積層体のガスバリア性及び耐油性の向上のために設けられるものである。アンカーコート層2は、極性基を有するポリオレフィン又はポリビニルアルコール系樹脂を含んでいてよい。
【0024】
アンカーコート層2が極性基を有するポリオレフィンを含む場合、アンカーコート層2は柔軟性に優れ、屈曲後(折り曲げ後)に後述するアルミニウム蒸着層3の割れを抑制することができるとともに、アンカーコート層2とアルミニウム蒸着層3との密着性を向上させることができる。さらに、極性基を有するポリオレフィンを含むことで、ポリオレフィンの結晶性による緻密な膜の形成が可能であり、水蒸気バリア性及び耐油性が発現する。ポリオレフィンの結晶性により水蒸気バリア性及び耐油性が発現し、極性基を有することでアルミニウム蒸着層3との密着が発現する。
【0025】
極性基を有するポリオレフィンは、カルボキシル基、カルボキシル基の塩、カルボン酸無水物基及びカルボン酸エステルより選ばれる少なくとも1種を有していてもよい。
【0026】
極性基を有するポリオレフィンとして、エチレンやプロピレンに、不飽和カルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸等カルボキシル基を有する不飽和化合物)や、不飽和カルボン酸エステルを共重合したもの、及びカルボン酸を塩基性化合物で中和した塩などを用いてもよく、その他、酢酸ビニル、エポキシ系化合物、塩素系化合物、ウレタン系化合物、ポリアミド系化合物等と共重合したものなどを用いてもよい。
【0027】
極性基を有するポリオレフィンとして、具体的には、アクリル酸エステルと無水マレイン酸との共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体等が挙げられる。
【0028】
一方、アンカーコート層2がポリビニルアルコール系樹脂を含む場合、ポリビニルアルコール系樹脂は極性基(水酸基)を有し、この極性基がアルミニウム蒸着層3中のアルミニウム等の金属と結合しやすくなるため、アルミニウム蒸着層3とアンカーコート層2との間の密着性を向上させやすくすることができる。また、このようなアンカーコート層2は、柔軟性に優れ、屈曲後(折り曲げ後)にアルミニウム蒸着層3の割れを抑制することができる。また、アンカーコート層2がポリビニルアルコール系樹脂を含むことで、積層体の酸素バリア性を向上させることができる。
【0029】
ポリビニルアルコール系樹脂はビニルアルコールを構成単位として含む樹脂であり、ポリビニルアルコール系樹脂としては、例えば、完全けん化のポリビニルアルコール樹脂、部分けん化のポリビニルアルコール樹脂、変性ポリビニルアルコール樹脂、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂が挙げられる。酸素バリア性の観点から、ポリビニルアルコール樹脂のけん化度は高い方が好ましく、95%以上であってよく、98%以上であってよい。
【0030】
アンカーコート層2は、極性基を有するポリオレフィン及びポリビニルアルコール系樹脂の両方を含んでいてもよい。
【0031】
アンカーコート層2には、上記極性基を有するポリオレフィン及びポリビニルアルコール系樹脂のほかに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、上記極性基を有するポリオレフィン以外のポリオレフィン、シランカップリング剤、有機チタネート、ポリアクリル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリウレア、ポリアミド、ポリイミド、メラミン、フェノール等が挙げられる。
【0032】
アンカーコート層2における上記極性基を有するポリオレフィン又はポリビニルアルコール系樹脂の含有量は、例えば、50質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、100質量%であってよい。
【0033】
アンカーコート層2の厚さは、例えば、0.5μm以上であってよく、1μm以上であってよく、2μm以上であってよく、20μm以下であってよく、10μm以下であってよく、5μm以下であってよい。アンカーコート層2の厚さが0.5μm以上であれば、上述した紙基材の凹凸を効率的に埋めることができ、後述するアルミニウム蒸着層を均一に積層させることができる。また、アンカーコート層2の厚さが20μm以下であれば、コストを抑えつつアルミニウム蒸着層を均一に積層させることができる。
【0034】
アンカーコート層2は、積層体10の厚み方向の断面においてナノインデンテーション法により測定される硬さが0.3GPa以下であってよい。このようなアンカーコート層2は柔軟性に優れ、屈曲後(折り曲げ後)に後述するアルミニウム蒸着層3の割れを抑制することができるとともに、アンカーコート層2とアルミニウム蒸着層3との密着性を向上させることができる。
【0035】
アンカーコート層2の塗液に含まれる溶媒としては、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、n-ペンチルアルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸ブチルが挙げられる。これらの溶媒は一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、特性の観点から、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、水が好ましい。また環境の観点から、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、水が好ましい。
【0036】
アンカーコート層2を設ける方法としては、紙基材上に、上述した極性基を有するポリオレフィン又はポリビニルアルコール系樹脂、及び溶媒等を含む塗液を塗布し、乾燥させることで得ることができる。
【0037】
[アルミニウム蒸着層]
アルミニウム蒸着層3は、アルミニウム又はアルミニウム化合物を蒸着した層である。アルミニウム蒸着層としては、アルミニウムを蒸着して得られたものであってもよく、酸化アルミニウム(AlO)、酸化ケイ素(SiO)等を含むものであってもよい。
【0038】
アルミニウム蒸着層3の厚さは、使用用途によって適宜設定すればよいが、好ましくは10~300nmであり、より好ましくは20~100nmであり、更に好ましくは30~100nmである。アルミニウム蒸着層3の厚さを10nm以上とすることでアルミニウム蒸着層3の連続性を十分なものとしやすく、300nm以下とすることでカールやクラックの発生を十分に抑制でき、十分なガスバリア性能、耐油性及び可撓性を達成しやすい。また、アルミニウム蒸着層の厚さを20nm以上100nm以下とすることで、アルミニウム蒸着層がより割れにくくなり、折り曲げ後であっても十分な水蒸気バリア性及び耐油性を得ることができる。高温高湿下に保管された場合に積層体10の水蒸気バリア性が劣化することをより抑制する観点からは、アルミニウム蒸着層3の厚さは、50~300nmであってもよく、60~150nmであってもよく、60~100nmであってもよい。
【0039】
アルミニウム蒸着層3は、真空成膜手段によって成膜することが、水蒸気及び酸素ガスバリア性能や耐油性、及び膜均一性の観点から好ましい。成膜手段には、真空蒸着法、スパッタリング法、化学的気相成長法(CVD法)などの公知の方法があるが、成膜速度が速く生産性が高いことから真空蒸着法が好ましい。また真空蒸着法の中でも、特に電子ビーム加熱による成膜手段は、成膜速度を照射面積や電子ビーム電流などで制御しやすいことや蒸着材料への昇温降温が短時間で行えることから有効である。
【0040】
アルミニウム蒸着層3は、X線回折測定におけるアルミニウムの(111)結晶面のピークの半値幅が1.6°以上である層である。上記半値幅は、1.8°以上であってよく、2.0°以上であってよく、2.1°以上であってよい。この半値幅が1.6°以上であると、積層体10を折り曲げた際にアルミニウム蒸着層3にクラックが発生することを抑制でき、折り曲げ後のガスバリア性及び耐油性の低下を抑制することができる。かかる効果は、上記半値幅が2.0°以上である場合に、より顕著に奏される。また、上記半値幅が1.6°以上であると、積層体10を高温高湿下(例えば40℃90%環境下)に保管した場合でも、アルミニウム蒸着層3に透過欠陥が生じることを抑制でき、積層体10の水蒸気バリア性の劣化を抑制することができる。かかる効果も、上記半値幅が2.0°以上である場合に、より顕著に奏される。上記半値幅の上限値は、アルミニウム結晶構造の緻密さの観点から、例えば、15.0°以下であってよく、10.0°以下であってよい。アルミニウム蒸着層と接する樹脂層がアイオノマーやけん化度95%以上のポリビニルアルコール系樹脂を含むと、アルミニウム蒸着層は腐食されやすい。アルミニウム蒸着層の結晶性が低いと、かかる問題が発生しやすくなる。上記半値幅が15.0°以下であると、アルミニウム蒸着層と接する樹脂層がアイオノマーやけん化度の高いポリビニルアルコール系樹脂を含んでいても、アルミニウム蒸着層の腐食は起きにくくなる。かかる効果も上記半値幅が10.0°以下である場合により顕著に奏される。上記効果を両立するために、上記半値幅は、1.6°以上15.0°以下、1.6°以上10.0°以下、1.6°以上7.0°以下、1.6°以上5.0°以下、2.0°以上15.0°以下、2.0°以上10.0°以下、2.0°以上7.0°以下、又は、2.0°以上5.0°以下であると好ましい。
【0041】
アルミニウム蒸着層3におけるアルミニウムの(111)結晶面のピークの半値幅(2θ)は、X線回折装置を用いて測定する。X線回折装置としては、例えば、リガク電機株式会社製のATX-G(商品名)等を用いることができる。測定は、積層体を試料とし、それをスライドガラス上に固定して、オーバーコート層4上から行うことができる。アルミニウムのX線回折として、(111)面(d=2.34)に対応する2θ=38.5°のピークにおける半値幅を計測する。測定条件は以下の通りである。
光源:CuKα線
管電圧:50kV
管電流:300mA
光学系:平行ビーム光学系
スキャン方法:2θ/θ法
測定範囲:30°~50°
サンプリングステップ:0.02°
スキャン速度:2°/min
スリット
S1:10.0mm×1.0mm
S2:10.0mm×0.5mm
Sollar(res):0.4mm
【0042】
上記半値幅は、アルミニウム蒸着層3の成膜時の条件を調整することにより制御することができる。例えば、アルミニウム蒸着層3の成膜時における蒸着室内の圧力を調整することにより、上記半値幅を制御することができる。ここで、蒸着室内の圧力を高くすれば上記半値幅を高くすることができ、蒸着室内の圧力を低くすれば上記半値幅を低くすることができる。アルミニウム蒸着層3の成膜時における蒸着室内の圧力は、上記半値幅を1.6°以上に調整しやすいことから、0.05Pa以上であってよく、0.10Pa以上であってよく、0.20Pa以上であってよい。圧力の上限値は、アルミニウム蒸着層3の成膜が可能な範囲であれば特に限定されないが、例えば0.50Pa以下であってよく、0.40Pa以下であってよい。
【0043】
[オーバーコート層]
オーバーコート層4は、アルミニウム蒸着層3の表面上に、アルミニウム蒸着層3に接するように設けられる。オーバーコート層は、極性基を有するポリオレフィンを含んでいてよい。
【0044】
極性基を有するポリオレフィンは、カルボキシル基、カルボキシル基の塩、カルボン酸無水物基及びカルボン酸エステルより選ばれる少なくとも1種を有していてもよい。
【0045】
極性基を有するポリオレフィンとして、エチレンやプロピレンに、不飽和カルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸等カルボキシル基を有する不飽和化合物)や、不飽和カルボン酸エステルを共重合したもの、及びカルボン酸を塩基性化合物で中和した塩などを用いてもよく、その他、酢酸ビニル、エポキシ系化合物、塩素系化合物、ウレタン系化合物、ポリアミド系化合物等と共重合したものなどを用いてもよい。
【0046】
極性基を有するポリオレフィンとして、具体的には、アクリル酸エステルと無水マレイン酸との共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-グリシジルメタクリレート共重合体等が挙げられる。
【0047】
極性基を有するポリオレフィンを含むことで、オーバーコート層4は、柔軟性に優れ、屈曲後(折り曲げ後)にアルミニウム蒸着層の割れを抑制することができるとともに、アルミニウム蒸着層との密着性に優れる。さらに、上述した極性基を有するポリオレフィンを含むことで、ポリオレフィンの結晶性による緻密な膜の形成が可能であり、水蒸気バリア性及び耐油性が発現する。また、極性基を有することでアルミニウム蒸着層との密着が発現する。また、オーバーコート層4は、上記極性基を有するポリオレフィンを含むことで、ヒートシール層としての役割も兼ねることができるため、ヒートシール層を別途設けなくともよい。
【0048】
オーバーコート層4には、上記極性基を有するポリオレフィンのほかに他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、シランカップリング剤、有機チタネート、ポリアクリル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリウレア、ポリアミド、ポリオレフィン系エマルジョン、ポリイミド、メラミン、フェノール等が挙げられる。
【0049】
オーバーコート層4における極性基を有するポリオレフィンの含有量は、例えば、50質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、90質量%以上であってよく、100質量%であってよい。
【0050】
オーバーコート層4の厚さは、例えば、0.05μm以上であってよく、0.5μm以上であってよく、1μm以上であってよく、2μm以上であってよく、20μm以下であってよく、10μm以下であってよく、5μm以下であってよい。オーバーコート層4の厚さが0.05μm以上であれば、上述したヒートシール層としての役割を十分に発揮することができる。また、オーバーコート層4の厚さが20μm以下であれば、コストを抑えつつアルミニウム蒸着層との密着性やバリア性を十分に発揮することができる。また、オーバーコート層4の厚さを2μm以上10μm以下とすることで、アルミニウム蒸着層がより割れにくくなり、折り曲げ後であっても十分な水蒸気バリア性及び耐油性を得ることができる。
【0051】
積層体10において、オーバーコート層4に極性基を有するポリオレフィンを含有させ、オーバーコート層4の厚さを2μm以上10μm以下とし、且つ、アルミニウム蒸着層3の厚さを20nm以上100nm以下とした場合に、アルミニウム蒸着層3が割れにくくなり、折り曲げ後であっても十分な水蒸気バリア性及び耐油性を得ることができるという効果が特に顕著に奏される。
【0052】
オーバーコート層4は、積層体10の厚み方向の断面においてナノインデンテーション法により測定される硬さが0.3GPa以下であってよい。このようなオーバーコート層4は柔軟性に優れ、屈曲後(折り曲げ後)にアルミニウム蒸着層3の割れを抑制することができ、ガスバリア性及び耐油性の低下を抑制することができる。
【0053】
オーバーコート層4の塗液に含まれる溶媒としては、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、n-ペンチルアルコール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸ブチルが挙げられる。これらの溶媒は一種を単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、特性の観点から、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、トルエン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、水が好ましい。また環境の観点から、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、水が好ましい。
【0054】
オーバーコート層4を設ける方法としては、アルミニウム蒸着層上に上述した極性基を有するポリオレフィン及び溶媒等を含む塗液を塗布し、乾燥させることで得ることができる。塗液中における極性基を有するポリオレフィンの融点は、70~160℃が好ましく、80~120℃がより好ましい。極性基を有するポリオレフィンの融点が低ければヒートシール時の立ち上がり温度を低くできるメリットがある。極性基を有するポリオレフィンの融点が低いと高温環境下においてブロッキングする恐れが高まる。なお、ブロッキングを防止する観点から、接触面積が小さくなるよう、粒径は大きい方がよい。特に限定されるものではないが、粒径は具体的には1nm以上であってよく、0.1μm以上であってよく、1μm以下、0.7μm以下、0.5μm以下であってよい。
【0055】
(ナノインデンテーション法による測定試料の断面加工方法)
ナノインデンテーション法による測定は、積層体10の断面よりアンカーコート層2及びオーバーコート層4の測定を実施する。アンカーコート層2及びオーバーコート層4を含む積層体試料を短冊型、またはくさび型となるようにカミソリで裁断し、樹脂に包埋する。包埋用樹脂としては光硬化樹脂(例えば、東亜合成社製のD-800)を用い、包埋後に光照射にて硬化する。硬化後のサンプル包埋樹脂をAFM試料ホルダー用インサートで固定し、常温(25℃)においてガラスナイフでトリミングと積層体の断面切削を行い、鏡面になるまでダイヤモンドナイフで切削スピード1.0mm/s、切削膜厚200nm設定で断面切削を実施する。断面出ししたサンプルは、AFM試料ホルダー用インサートで固定した状態でナノインデンテーション法による測定に用いる。断面切削装置としては、例えば、ライカ社製のウルトラミクロトームEMUC7を用いることができる。また、切削向きは、層界面に対し平行な方向とする。
【0056】
(ナノインデンテーション法による測定方法)
アンカーコート層及びオーバーコート層の硬さ及び複合弾性率は、ナノインデンテーション法にて算出された硬さ及び複合弾性率を表す。ナノインデンテーション法とは、目的の測定対象に対して準静的な押し込み試験を行い、試料の機械特性を取得する測定法である。測定装置は、例えばブルカージャパン株式会社製のHysitron TI-Premier(商品名)を用いることができる。圧子はブルカージャパン株式会社製のバーコビッチ型ダイヤモンド圧子を用いることができる。ナノインデンテーション法による測定は、まず、ダイヤモンド圧子にて試料断面上を走査することで試料の形状像を取得し、所望層の測定位置を指定する。その後、常温(25℃)において変位制御モードにて、押し込み速度80nm/秒にて深さ80nmまで押し込みを行った後、最大深さにて1秒間保持後、80nm/秒の速度にて除荷する。硬さ及び複合弾性率の算出方法は、標準試料となる溶融石英を予め試験し、圧子と試料の接触深さと接触投影面積の関係を校正する。その後、除荷時の最大荷重に対して60~95%領域の除荷曲線をOliver-Pharr法にて解析し、硬さ及び複合弾性率を算出する。
【0057】
積層体10の厚み方向の断面においてナノインデンテーション法により測定されるアンカーコート層2及びオーバーコート層4の硬さは、0.3GPa以下であってよい。これにより、積層体の屈曲によって生じる紙基材の変形応力がアルミニウム蒸着層に直接伝わることを緩和して、アルミニウム蒸着層に欠陥が発生することを防止することができるため、屈曲後のガスバリア性及び耐油性の劣化を抑えることができる。この観点から、アンカーコート層2及びオーバーコート層4の硬さは0.25GPa以下であってよく、0.2GPa以下であってよい。硬さの下限は特に限定されないが、ガスバリア性及び耐油性を保つための十分な強度を得る観点から、0.05MPa以上とすることができる。
【0058】
積層体10の厚み方向の断面において、ナノインデンテーション法により測定される硬さが0.3GPa以下である柔軟なアンカーコート層2及びオーバーコート層4を形成するためには、その乾燥皮膜のJIS K7161に準じて20℃65%RHの雰囲気で測定される破断点伸度が、好ましくは150%以上、より好ましくは200%以上である樹脂材料を用いて、アンカーコート層2及びオーバーコート層4を形成するとよい。
【0059】
<包装袋>
図2は、積層体10からなるガゼット袋20を示す斜視図である。ガゼット袋20の上部の開口部をシールすることで包装袋が製造される。ガゼット袋20は積層体10が折り曲げられている箇所(折り曲げ部B1,B2)を有する。折り曲げ部B1は、最内層側からみて積層体10が谷折りされている箇所であり、他方、折り曲げ部B2は、最内層側からみて積層体10が山折りされている箇所である。
【0060】
包装袋は、1枚の積層体をオーバーコート層4が対向するように二つ折りにした後、所望の形状になるように適宜折り曲げてヒートシールすることによって袋形状としたものであってもよく、2枚の積層体をオーバーコート層4が対向するように重ねた後、ヒートシールすることによって袋形状としたものであってもよい。
【0061】
本実施形態に係る包装袋において、ヒートシール強度は、2N以上であってよく、4N以上であってよい。なお、ヒートシール強度の上限値は特に制限されるものではないが、例えば10N以下であってよい。
【0062】
包装袋は、内容物として、食品、医薬品等の内容物を収容することができる。特に食品として、お菓子等を収容するのに適している。本実施形態に係る包装袋は、折り曲げ部を有する形状であっても高いガスバリア性及び耐油性を維持することができる。
【0063】
なお、本実施形態においては、包装袋の一例としてガゼット袋を挙げたが、本実施形態に係る積層体を使用して、例えば、ピロー袋、三方シール袋又はスタンディングパウチを作製してもよい。
【実施例
【0064】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、本開示はこれらの例に限定されるものではない。
【0065】
<積層体の作製>
(実施例1)
厚さ5μmのクレーコート層を有する紙基材(クレーコート層を含めた厚さ:55μm)のクレーコート層側の表面上に、カルボキシル基の塩を含むポリオレフィンの水分散液(住友精化株式会社製、商品名:ザイクセンAC、粒径:0.2μm未満、溶媒:水/IPA=1/1(質量比)、固形分濃度:22.5質量%)をバーコーターで塗工し、オーブンで乾燥させ、厚さ3μmのアンカーコート層を形成した。
【0066】
続いて、アンカーコート層上に真空蒸着法にてAl蒸着を施し、厚さ50nmのAl蒸着層(アルミニウム蒸着層)を形成した。アルミニウムの蒸着時における蒸着室内の圧力は、表1に示す値に調整した。
【0067】
次に、Al蒸着層上にカルボキシル基の塩を含むポリオレフィンの水分散液(三井化学株式会社製、商品名:ケミパールS100、粒径:0.1μm未満、溶媒:水/IPA=1/1(質量比)、固形分濃度:20.0質量%)をバーコーターで塗工し、オーブンで乾燥させ、厚さ3μmのオーバーコート層を形成した。これにより、積層体を得た。
【0068】
(実施例2)
Al蒸着層を形成する際の蒸着室内の圧力を、表1に示す値に変更したこと以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。
【0069】
(実施例3)
紙基材を、厚さ5μmのクレーコート層を有する紙基材(クレーコート層を含めた厚さ:50μm)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。
【0070】
(実施例4)
アンカーコート層を以下の方法で形成したこと以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。すなわち、紙基材(クレーコート層を含めた厚さ:55μm)のクレーコート層側の表面上に、カルボキシル基の塩を含むポリオレフィンの水分散液(三井化学株式会社製、商品名:ケミパールS100、粒径:0.1μm未満、溶媒:水/IPA=1/1(質量比)、固形分濃度:20.0質量%)をバーコーターで塗工し、オーブンで乾燥させ、厚さ3μmのアンカーコート層を形成した。
【0071】
(実施例5)
オーバーコート層を以下の方法で形成したこと以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。すなわち、Al蒸着層上にカルボキシル基の塩を含むポリオレフィンの水分散液(三井化学株式会社製、商品名:ケミパールS500、粒径:0.7μm、溶媒:水/IPA=1/1(質量比)、固形分濃度:20.0質量%)をバーコーターで塗工し、オーブンで乾燥させ、厚さ3μmのオーバーコート層を形成した。
【0072】
(実施例6~7)
Al蒸着層を形成する際の蒸着室内の圧力を表1に示す値に変更し、Al蒸着層の厚さを表1に示す値に変更したこと以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。
【0073】
(実施例8)
アンカーコート層を以下の方法で形成したこと以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。すなわち、紙基材(クレーコート層を含めた厚さ:55μm)のクレーコート層側の表面上に、ケン化度98%、重合度500のポリビニルアルコール(PVA)樹脂を水/IPA=8/2(質量比)の溶媒に固形分濃度10質量%で溶解した溶液を、バーコーターで塗布し、オーブンで乾燥させ、厚さ3μmのアンカーコート層を形成した。
【0074】
(実施例9)
Al蒸着層を形成する際の蒸着室内の圧力を、表2に示す値に変更したこと以外は実施例8と同様にして、積層体を得た。
【0075】
(比較例1~2)
Al蒸着層を形成する際の蒸着室内の圧力を、表2に示す値に変更したこと以外は実施例1と同様にして、積層体を得た。
【0076】
(比較例3)
Al蒸着層を形成する際の蒸着室内の圧力を、表2に示す値に変更したこと以外は実施例8と同様にして、積層体を得た。
【0077】
<紙基材の準備>
紙基材として以下のクレーコート紙1~3及び非コート紙4を準備した。
クレーコート紙1:温度40℃、相対湿度20%RHから、温度40℃、相対湿度90%RHに変更したときの寸法変化率が、CD=0.75%、MD=0.13%、坪量:60g/m
クレーコート紙2:温度40℃、相対湿度20%RHから、温度40℃、相対湿度90%RHに変更したときの寸法変化率が、CD=0.55%、MD=0.07%、坪量:60g/m
クレーコート紙3:温度40℃、相対湿度20%RHから、温度40℃、相対湿度90%RHに変更したときの寸法変化率が、CD=0.35%、MD=0.15%、坪量:60g/m
非コート紙4:温度40℃、相対湿度20%RHから、温度40℃、相対湿度90%RHに変更したときの寸法変化率が、CD=1.34%、MD=0.03%、坪量:62g/m
【0078】
<積層体の作製>
(実施例10)
紙基材として、クレーコート紙1を用意した。紙基材のクレーコート層側の表面上に、カルボキシル基の塩を含むポリオレフィンの水分散液(住友精化株式会社製、商品名:ザイクセンAC、粒径:0.2μm未満、溶媒:水/IPA=1/1(質量比)、固形分濃度:22.5質量%)をグラビアコーターで塗工し、オーブンで乾燥させ、厚さ3μmのアンカーコート層を形成した。
【0079】
続いて、ロールtoロールの誘導加熱方式の真空蒸着装置にて、アンカーコート層上にAl蒸着層を形成した。Al蒸着時の蒸着室内の圧力及びAl蒸着層の厚さは、表3に示す値に調整した。
【0080】
次に、Al蒸着層上にカルボキシル基の塩を含むポリオレフィンの水分散液(三井化学株式会社製、商品名:ケミパールS100、粒径:0.1μm未満、溶媒:水/IPA=1/1(質量比)、固形分濃度:20.0質量%)をグラビアコーターで塗工し、オーブンで乾燥させ、厚さ3μmのオーバーコート層を形成した。これにより、積層体を得た。
【0081】
(実施例11)
紙基材を、クレーコート紙2に変更し、Al蒸着層を形成する際の蒸着室内の圧力及びAl蒸着層の厚さを、表3に示す値に変更したこと以外は実施例10と同様にして、積層体を得た。
【0082】
(実施例12)
Al蒸着層を以下の方法で形成したこと以外は実施例10と同様にして、積層体を得た。すなわち、ロールtoロールのEB加熱方式の真空蒸着装置にて、アンカーコート層上にAl蒸着層を形成した。Al蒸着時の蒸着室内の圧力及びAl蒸着層の厚さは、表3に示す値に調整した。
【0083】
(実施例13)
紙基材を、クレーコート紙2に変更したこと以外は実施例12と同様にして、積層体を得た。
【0084】
(実施例14)
紙基材を、クレーコート紙3に変更したこと以外は実施例12と同様にして、積層体を得た。
【0085】
(実施例15)
紙基材として、クレーコート紙2を用意した。紙基材のクレーコート層側の表面上に、ケン化度98%、重合度500のポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名:ポバール5-98)を水/IPA=8/2(質量比)の溶媒に固形分濃度10質量%で溶解した溶液をグラビアコーターで塗工し、オーブンで乾燥させ、厚さ4μmのアンカーコート層を形成した。
【0086】
続いて、ロールtoロールのEB加熱方式の真空蒸着装置にて、アンカーコート層上にAl蒸着層を形成した。Al蒸着時の蒸着室内の圧力及びAl蒸着層の厚さは、表3に示す値に調整した。
【0087】
次に、Al蒸着層上にカルボキシル基の塩を含むポリオレフィンの水分散液(三井化学株式会社製、商品名:ケミパールS500、粒径:0.7μm、溶媒:水/IPA=1/1(質量比)、固形分濃度:20.0質量%)をグラビアコーターで塗工し、オーブンで乾燥させ、厚さ3μmのオーバーコート層を形成した。これにより、積層体を得た。
【0088】
(実施例16)
紙基材を、クレーコート紙1に変更し、Al蒸着層を形成する際の蒸着室内の圧力及びAl蒸着層の厚さを、表3に示す値に変更したこと以外は実施例15と同様にして、積層体を得た。
【0089】
(実施例17)
紙基材として、非コート紙4を用意した。紙基材の一方の表面上に、ケン化度98%、重合度500のポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名:ポバール5-98)を水/IPA=8/2(質量比)の溶媒に固形分濃度10質量%で溶解した溶液をグラビアコーターで塗工し、オーブンで乾燥させ、厚さ3μmのアンカーコート層を形成した。
【0090】
続いて、ロールtoロールのEB加熱方式の真空蒸着装置にて、アンカーコート層上にAl蒸着層を形成した。Al蒸着時の蒸着室内の圧力及びAl蒸着層の厚さは、表4に示す値に調整した。
【0091】
次に、Al蒸着層上にエチレン-アクリル酸共重合樹脂の水分散液(MICHELMAN社製、商品名:MC9100、固形分濃度:20質量%)をグラビアコーターで塗工し、オーブンで乾燥させ、厚さ3μmのオーバーコート層を形成した。これにより、積層体を得た。
【0092】
(比較例4~6)
Al蒸着層を形成する際の蒸着室内の圧力及びAl蒸着層の厚さを、表4に示す値に変更したこと以外は実施例10と同様にして、積層体を得た。
【0093】
(比較例7)
Al蒸着層を形成する際の蒸着室内の圧力及びAl蒸着層の厚さを、表4に示す値に変更したこと以外は実施例12と同様にして、積層体を得た。
【0094】
(比較例8)
Al蒸着層を形成する際の蒸着室内の圧力及びAl蒸着層の厚さを、表4に示す値に変更したこと以外は実施例15と同様にして、積層体を得た。
【0095】
<Al蒸着層の膜厚測定>
積層体をUV硬化樹脂で包埋し、クライオミクロトームにより断面切削して、断面観察試料を作製した。この試料の断面を、電子顕微鏡にて50,000倍の倍率で観察し、SEM画像を取得した。得られたSEM画像からAl蒸着層の厚さを測長した。結果を表1~表4に示す。
【0096】
<X線回折測定>
Al蒸着層におけるアルミニウムの(111)結晶面のピークの半値幅の測定を、以下の手順で行った。半値幅の測定には、リガク電機株式会社製のX線回折装置(商品名:ATX-G)を用いた。光源にはCuKα線を用い、管電圧を50kV、管電流を300mA、光学系を平行ビーム光学系、スキャン方法を2θ/θ法、測定範囲を30°~50°、スキャン速度を2°/minとした。また、サンプリングステップは0.02°、スリットは、S1:10.0mm×1.0mm、S2:10.0mm×0.5mm、Sollar(res):0.4mmとした。実施例及び比較例で得られた積層体を試料とし、その紙基材側をスライドガラス上に両面テープで貼り付けてX線回折測定を行った。アルミニウムのX線回折として、(111)面(d=2.34)に対応する2θ=38.5°のピークにおける半値幅を計測した。結果を表1~表4に示す。
【0097】
<試料断面加工方法>
実施例及び比較例で得られた積層体の断面よりアンカーコート層及びオーバーコート層の硬さ及び複合弾性率を測定するための試料を、以下の手順で作製した。まず、アンカーコート層及びオーバーコート層を含む試料が短冊型又はくさび型となるようにカミソリで積層体を裁断し、得られた試料を樹脂に包埋した。包埋用樹脂としては東亜合成社製のD-800光硬化樹脂を用い、包埋後に光照射にて硬化した。硬化後のサンプル包埋樹脂をAFM試料ホルダー用インサートで固定し、常温(25℃)においてガラスナイフでトリミングとフィルムの断面切削を行い、鏡面になるまでダイヤモンドナイフで切削スピード1.0mm/秒、切削膜厚200nm設定で断面切削を実施した。断面出ししたサンプルは、AFM試料ホルダー用インサートで固定した状態でナノインデンテーション法による測定に用いた。断面切削装置として、ライカ社製のウルトラミクロトームEMUC7を用いた。また、切削向きは、層界面に対し平行な方向とした。
【0098】
<硬さ及び複合弾性率の測定>
アンカーコート層及びオーバーコート層の硬さ及び複合弾性率は、ナノインデンテーション法にて算出された硬さ及び複合弾性率を表す。ナノインデンテーション法とは、目的の測定対象に対して準静的な押し込み試験を行い、試料の機械特性を取得する測定法である。測定装置はブルカージャパン株式会社製のHysitron TI-Premier(商品名)を用いた。圧子はブルカージャパン株式会社製のバーコビッチ型ダイヤモンド圧子を用いた。ナノインデンテーション法による測定は、まず、ダイヤモンド圧子にて試料断面上を走査することで試料の形状像を取得し、所望層の測定位置を指定した。その後、常温(25℃)において変位制御モードにて、押し込み速度80nm/秒にて深さ80nmまで押し込みを行った後、最大深さにて1秒間保持後、80nm/秒の速度にて除荷した。硬さ及び複合弾性率の算出方法は、標準試料となる溶融石英を予め試験し、圧子と試料の接触深さと接触投影面積の関係を校正した。その後、除荷時の最大荷重に対して60~95%領域の除荷曲線をOliver-Pharr法にて解析し、硬さ及び複合弾性率を算出した。結果を表1~表4に示す。
【0099】
<破断点伸度の測定>
アンカーコート層及びオーバーコート層の破断点伸度の測定は、支持基材上にアンカーコート層及びオーバーコート層を形成する塗液を塗布・乾燥させたものを支持基材から剥離して、1A型のダンベル形状に打ち抜いて試験片とし、JIS K7161に記載の方法に基づいて測定した。装置として、オートグラフ試験機AGS-X(島津製作所製)を使用し、引張試験速度は50mm/分とし、温度20℃、湿度65%の環境下で測定した。結果を表1~表4に示す。
【0100】
<KIT値の測定>
実施例及び比較例で得られた積層体のオーバーコート層側の表面について、TAPPI UM-557法(キット法)によって耐油度(KIT値)を測定した。また、1500gのローラーを300mm/分の速さで転がしながら、紙基材側からみて積層体が谷折りとなるように(オーバーコート層が外面になるように)積層体にMD方向と平行な折り目を付け、開いた後の積層体の折り目部分の耐油度(KIT値)も同様に測定した。KIT値は0級~12級で示され、番号が高いほど耐油度が高い。浸透を示さないKIT試験液が与える耐油度の最高点を評価結果とした。KIT値は6以上であることが好ましく、6より小さいと、食品包装における耐油性を充足しない場合がある。結果を表1~表4に示す。
【0101】
<水蒸気透過度の測定>
実施例及び比較例で得られた積層体について、40℃90%RHの雰囲気下での水蒸気透過度(g/m/day)を、JIS K7129-2に準拠し、モコン法により測定した。測定には、水蒸気透過度測定装置(MOCON社製、商品名:PERMATRAN-W3/34G)を用いた。更に、積層体を40℃90%RHの恒温恒湿槽内に1週間保管した後に、同様の測定を行った。初期及び40℃90%保管後の水蒸気透過度を表1~表4に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
【表3】
【0105】
【表4】
【0106】
表1~表4に示される通り、実施例の積層体は、初期だけでなく折り曲げ後も耐油度(KIT値)が良好であった。また、表1~表4に示される通り、実施例の積層体は、40℃90%RHで1週間保管後も水蒸気透過度が6g/m/d以下であり、良好な水蒸気バリア性を維持できることが確認された。
【符号の説明】
【0107】
1…紙基材、2…アンカーコート層、3…アルミニウム蒸着層、4…オーバーコート層、10…積層体、20…ガゼット袋、B1,B2…折り曲げ部。
【要約】
少なくとも紙基材と、アンカーコート層と、アルミニウム蒸着層と、オーバーコート層と、がこの順で積層された構造を有する積層体であって、アルミニウム蒸着層は、X線回折測定におけるアルミニウムの(111)結晶面のピークの半値幅が1.6°以上である、積層体。
図1
図2