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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】昇降移動補助装置
(51)【国際特許分類】
   B66D 1/46 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
B66D1/46 E
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020058500
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021155200
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000110022
【氏名又は名称】トーヨーコーケン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001890
【氏名又は名称】三和テッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110559
【弁理士】
【氏名又は名称】友野 英三
(72)【発明者】
【氏名】日隈 一臣
(72)【発明者】
【氏名】名取 一敏
(72)【発明者】
【氏名】川崎 伯晃
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 寛之
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-527284(JP,A)
【文献】特開昭59-039696(JP,A)
【文献】特開平08-310787(JP,A)
【文献】特開2014-126321(JP,A)
【文献】特開2001-270682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66D 1/00- 5/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を回転させるモータと、
一端が前記回転軸に取り付けられた懸吊ロープと、
前記モータの回転軸の回転方向と回転速度を制御し、前記モータに前記懸吊ロープの巻き取りと巻き出しとを行わせる制御装置と、
が設けられた装置本体を有し、
前記モータから前記懸吊ロープを懸垂させて下端を補助対象者に取り付け、前記補助対象者に上方に向く力を印加する、前記補助対象者が梯子を昇降移動するのを補助する昇降移動補助装置であって、
高所に懸架される重量検出装置と、
基準重量値と前記基準重量値よりも軽い不感下限値とが記憶された記憶装置と、
記憶ボタンを備え前記制御装置との間で通信可能なリモコン装置であって、前記記憶ボタンが押下されることによって前記制御装置が前記記憶装置に所定値を記憶させる、リモコン装置と
を有し、
前記基準重量値は、前記補助対象者が前記懸吊ロープを把持しつつ前記梯子の踏桟に乗った状態において前記記憶ボタンが押下されたときに前記重量検出装置によって検出された重量値であり、
前記重量検出装置に前記装置本体が懸吊され、前記重量検出装置によって前記装置本体の重量値と前記懸吊ロープに懸吊される重量値とを合計した検出重量値が検出され、前記検出重量値が前記不感下限値よりも軽いときには前記制御装置は前記回転軸の回転によって、前記補助対象者に上向きの加速度を印加する昇降移動補助装置。
【請求項2】
前記重量検出装置が検出した前記検出重量値が前記不感下限値よりも軽いときには、前記制御装置によって、前記不感下限値と前記検出重量値との差の大きさに比例した大きさの目標上昇速度が決定され、前記補助対象者が前記目標上昇速度で上昇するように、前記補助対象者に上向きの加速度が印加される請求項1記載の昇降移動補助装置。
【請求項3】
前記制御装置によって、前記補助対象者には上向きの等加速度が印加される請求項2記載の昇降移動補助装置。
【請求項4】
前記記憶装置には最大上昇速度が記憶されており、決定された前記目標上昇速度の絶対値が前記最大上昇速度の絶対値よりも大きいときには、前記目標上昇速度は前記最大上昇速度にされる請求項2又は請求項3のいずれか1項記載の昇降移動補助装置。
【請求項5】
前記記憶装置には、前記基準重量値よりも重い不感上限値が記憶され、
前記検出重量値が前記不感上限値よりも重いときには前記制御装置は前記回転軸の回転によって、前記補助対象者に下向きの加速度を印加する請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の昇降移動補助装置。
【請求項6】
前記重量検出装置が検出した前記検出重量値が前記不感上限値よりも重いときには前記制御装置によって、前記不感上限値と前記検出重量値との差の大きさに比例した大きさの目標下降速度が決定され、前記補助対象者が前記目標下降速度で下降するように、前記補助対象者に下向きの加速度が印加される請求項5記載の昇降移動補助装置。
【請求項7】
前記制御装置によって、前記補助対象者には下向きの等加速度が印加される請求項6記載の昇降移動補助装置。
【請求項8】
前記記憶装置には最大下降速度が記憶されており、決定された前記目標下降速度の絶対値が前記最大下降速度の絶対値よりも大きいときには、前記目標下降速度は前記最大下降速度にされる請求項6又は請求項7のいずれか1項記載の昇降移動補助装置。
【請求項9】
前記装置本体と無線通信可能なリモコン装置を有し、
前記リモコン装置を操作すると、前記モータの回転を停止させることができる請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の昇降移動補助装置。
【請求項10】
前記モータの回転を停止させた状態で、リモコン装置を操作すると、前記制御装置は、前記重量検出装置が検出した前記検出重量値が前記基準重量値として前記記憶装置に記憶される請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の昇降移動補助装置。
【請求項11】
前記重量検出装置が検出した前記検出重量値が前記不感上限値と前記不感下限値の間の大きさの場合は、前記制御装置は前記懸吊ロープの巻き取りと巻き出しとを停止させる請求項5乃至請求項8のいずれか1項記載の昇降移動補助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梯子の昇降移動を容易にする技術であり、特に、不快感を無くし、安全感を高めた昇降移動補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄塔上等の高所で作業をするためには、鉄塔等に設けられた梯子を昇降移動する必要があり、従来より、梯子からの墜落を防止するために、色々な安全装置が開発されている。
【0003】
しかしながら法面の昇降移動を移動補助する装置は開発されているが、作業者が梯子を登るときに登るために必要な力を軽減する装置は見当たらない。
【0004】
荷物を昇降させるウィンチの巻き上げ速度と作業者の登る速度とは一致しないのでウィンチを昇降移動補助装置に用いることができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、梯子を登攀と降下する補助対象者を補助する昇降移動補助装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は、回転軸を回転させるモータと、一端が前記回転軸に取り付けられた懸吊ロープと、前記モータの回転軸の回転方向と回転速度を制御し、前記モータに前記懸吊ロープの巻き取りと巻き出しとを行わせる制御装置と、が設けられた装置本体を有し、前記モータから前記懸吊ロープを懸垂させて下端を補助対象者に取り付け、前記補助対象者に上方に向く力を印加する昇降移動補助装置であって、高所に懸架される重量検出装置と、基準重量値と前記基準重量値よりも軽い不感下限値とが記憶された記憶装置と、を有し、前記重量検出装置に前記装置本体が懸吊され、前記重量検出装置によって前記装置本体の重量値と前記懸吊ロープに懸吊される重量値とを合計した検出重量値が検出され、前記検出重量値が前記不感下限値よりも軽いときには前記制御装置は前記回転軸の回転によって、前記補助対象者に上向きの加速度を印加する昇降移動補助装置である。
本発明は、前記重量検出装置が検出した前記検出重量値が前記不感下限値よりも軽いときには、前記制御装置によって、前記不感下限値と前記検出重量値との差の大きさに比例した大きさの目標上昇速度が決定され、前記補助対象者が前記目標上昇速度で上昇するように、前記補助対象者に上向きの加速度が印加されて移動速度が変更される昇降移動補助装置である。
本発明は、前記制御装置によって、前記補助対象者には上向きの等加速度が印加されて前記移動速度が変更される昇降移動補助装置である。
本発明は、前記記憶装置には最大上昇速度が記憶されており、決定された前記目標上昇速度の絶対値が前記最大上昇速度の絶対値よりも大きいときには、前記目標上昇速度は前記最大上昇速度にされる昇降移動補助装置である。
本発明は、前記記憶装置には、前記基準重量値よりも重い不感上限値が記憶され、前記検出重量値が前記不感上限値よりも重いときには前記制御装置は前記回転軸の回転によって、前記補助対象者に下向きの加速度を印加する昇降移動補助装置である。
本発明は、前記重量検出装置が検出した前記検出重量値が前記不感上限値よりも重いときには前記制御装置によって、前記不感上限値と前記検出重量値との差の大きさに比例した大きさの目標下降速度が決定され、前記補助対象者が前記目標下降速度で下降するように、前記補助対象者に下向きの加速度が印加されて前記移動速度が変更される昇降移動補助装置である。
本発明は、前記制御装置によって、前記補助対象者には下向きの等加速度が印加されて前記移動速度が変更される昇降移動補助装置である。
本発明は、前記記憶装置には最大下降速度が記憶されており、決定された前記目標下降速度の絶対値が前記最大下降速度の絶対値よりも大きいときには、前記目標下降速度は前記最大下降速度にされる昇降移動補助装置である。
本発明は、前記装置本体と無線通信可能なリモコン装置を有し、前記リモコン装置を操作すると、前記モータの回転を停止させることができる昇降移動補助装置である。
本発明は、前記モータの回転を停止させた状態で、リモコン装置を操作すると、前記制御装置は、前記重量検出装置が検出した前記検出重量値が前記基準重量値として前記記憶装置に記憶される昇降移動補助装置である。
本発明は、前記重量検出装置が検出した前記検出重量値が前記不感上限値と前記不感下限値の間の大きさの場合は、前記制御装置は前記懸吊ロープの巻き取りと巻き出しとを停止させる昇降移動補助装置である。
【発明の効果】
【0007】
補助対象者の登攀を補助することができる。また、補助対象者の降下を補助することができる。
【0008】
補助対象者が梯子上を早く移動するときには大きな力で補助対象者を補助し、補助対象者が梯子上をゆっくり移動するときは小さな力で補助対象者を補助するから、補助対象者が違和感なく移動することができる。
【0009】
補助対象者の移動速度が変化するときに、補助対象者の移動を等加速度で変化させると、補助対象者が違和感なく移動することができる。
【0010】
補助対象者の移動速度が変化するときに、目標移動速度を設定し、現状の移動速度を目標移動速度に変化させれば細かい振動が発生せず、補助対象者が不快になることはない。
【0011】
検出重量値が不感上限値と不感下限値の間の大きさの場合は、懸吊ワイヤーの巻き取りと巻き出しとを停止させると補助対象者は梯子上で小さな力で静止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の昇降移動補助装置を説明するための図
図2】設定モードを説明するための図
図3】本発明の昇降移動補助装置の回路ブロック図
図4】リモコンを説明するための図
図5】差重量と目標上昇速度と目標下降速度との関係を説明するためのグラフ
図6】上側:差重量の経時変化を示すグラフ 下側:目標上昇速度と補助対象者の上昇速度との経時変化を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0013】
<装置の概要>
図1を参照し、符号2は本発明の一例の昇降移動補助装置であり、重量検出装置11と装置本体9とを有している。符号23は不図示の鉄塔の一部によって構成される支持体であり、鉄塔は、地面上に堅固に設置されているものとする。
【0014】
この支持体23は高所に位置しており、重量検出装置11が懸架されている。
装置本体9は重量検出装置11に懸吊され、装置本体9の重量は重量検出装置11によって検出されるように構成されている。
【0015】
装置本体9は、上側フック12と、上側フック12に取り付けられた筺体10とを有しており、筺体10は上側フック12によって重量検出装置11に懸吊されている。
【0016】
筺体10には、モータ13と制御装置17とが設けられている。図1では、制御装置17の筺体が示されており、筺体の内部に電子回路である制御装置17が配置されている。
【0017】
モータ13は回転軸15を有しており、供給された電力によって回転軸15を順逆いずれの方向にも回転させる。
【0018】
モータ13の回転軸15には、懸吊ロープ14の一端が取り付けられており懸吊ロープ14はモータ13から垂下されている。
【0019】
モータ13によって回転軸15が所定方向に回転すると、懸吊ロープ14はモータ13に巻き取られ、回転軸15が逆方向に回転すると、巻き取られた懸吊ロープ14はモータ13から巻き出される。
【0020】
垂下された懸吊ロープ14の下端には取付具26が設けられており、取付具26には下側フック18が取り付けられている。取付具26は懸吊ロープ14に固定されており、その結果、下側フック18は、懸吊ロープ14によって鉛直に懸吊されており、懸吊ロープ14が巻き取られると下側フック18は上方に移動し、懸吊ロープ14が巻き出されると、下側フック18は下方に移動する。
【0021】
図2を参照し、符号5は、昇降移動補助装置2によって昇降移動を補助すべき補助対象者であり、補助対象者5には、ハーネス25が脱落しないように装着されている。
【0022】
下側フック18は、ハーネス25に取り付けられた連結ロープ20と連結されており、補助対象者5と懸吊ロープ14との間は補助対象者5の意思に反して分離されないようになっている。
【0023】
図3は、昇降移動補助装置2の回路ブロック図である。
装置本体9の内部には、制御装置17に接続された本体側無線送受信機22が配置されている。
【0024】
図4の符号50はリモコン装置であり、リモコン装置50の内部にはリモコン側無線送受信機が内蔵されている。リモコン装置50と本体側無線送受信機22とは無線通信可能で有り、ここでは無線通信状態によって通信されているものとする。
【0025】
リモコン装置50には、開始ボタン52と、停止ボタン53、記憶ボタン54と、昇降ボタン55とが設けられている。
【0026】
これらボタン52~55が押下されると、押下されたボタンの種類と押下回数や押下時間等の操作結果を示す信号がリモコン側無線送受信機から無線送信される。
【0027】
無線送信された信号は本体側無線送受信機22によって受信され、受信した操作信号は本体側無線送受信機22から制御装置17に有線送信される。
【0028】
重量検出装置11は、アンプ16を介して制御装置17に電気的に接続されており、重量検出装置11が検出した重量値を示す信号はアンプ16に有線送信され、アンプ16によって増幅され制御装置17に有線送信されている。アンプ16は重量検出装置11から離間した位置に配置されており、図1中の符号19は重量検出装置11とアンプ16とを電気的に接続して信号を伝送させる信号線である。
【0029】
<設定モード>
図2の符号30は梯子であり、梯子30は、平行に配置された二本の支柱31a、31bの間に、複数の踏桟32が、支柱31a、31bとは垂直に等間隔に配置されている。踏桟32の両端は、それぞれ支柱31a、31bに固定されている。
【0030】
梯子30は、上述した鉄塔に固定されており、補助対象者5は、この梯子30を登攀して高所で作業した後、降下する。
【0031】
昇降移動補助装置2による補助を受けながら登攀、降下するために、先ず、補助対象者5は、梯子30の下方の踏桟32に足を乗せた状態で昇降ボタン55のうちの上方ボタン55a又は下降ボタン55bとを押下し、下側フック18を昇降移動させて、懸吊ロープ14や連結ロープ20がたるまない位置に配置させた状態でリモコン装置50の停止ボタン53を押下し、制御装置17にモータ13の動作を停止させる。
【0032】
モータ13が停止した状態では懸吊ロープ14は巻き取りと巻き出しとがされず、静止するようになっており、補助対象者5は、両手又は片手で懸吊ロープ14を把持した状態で梯子30の踏桟32に乗り、補助対象者5の体重の一部を懸吊ロープ14に懸吊させ、体重の残りの部分は梯子30によって支持させる。
【0033】
この状態では、重量検出装置11によって、懸吊ロープ14を下向きに引く補助対象者5の体重の一部が重量値として検出され、制御装置17に入力されている。
【0034】
ここで、重量検出装置11が検出する重量値である検出重量値Waは、装置本体9の重量値である装置本体重量値Whと、懸吊ロープ14に懸吊された重量である懸吊重量値Wmとを加算した値であり、次式で表される。
Wa=Wh+Wm
【0035】
制御装置17には、記憶装置21が接続されている。
補助対象者5がリモコン装置50の記憶ボタン54を押下すると、制御装置17は、記憶ボタン54を押下したときの検出重量値Waを基準重量値Wrとして記憶装置21に記憶させる。
【0036】
検出重量値Waから装置本体重量値Whを差し引いた値が、基準重量値Wrを記憶したときの懸吊重量値Wmになる。
【0037】
装置本体重量値Whは予め測定されており、記憶装置21に記憶されている。補助作業が行われるときには装置本体重量値Whには変化が無いから、制御装置17は、基準重量値Wrから装置本体重量値Whを差し引き、得られた懸吊重量値Wmを設定重量値Wkとして記憶装置21に記憶させる。設定重量値Wkは、記憶ボタン54が押下されたときの懸吊対象者5の体重の一部である。
【0038】
基準重量値Wrは、設定重量値Wkと装置本体9の装置本体重量値Whとを加算した値であり、次式で表すことができる。
Wr=Wh+Wk
【0039】
次いで、補助対象者5はリモコン装置50の開始ボタン52を押下して設定モードを終了させ、モータ13の停止を解除する。
【0040】
昇降移動補助装置2は、検出重量値Waの大きさにより、補助対象者5が梯子30を用いた昇降移動を補助する上昇モード、下降モード又は静止モードに移行する。
【0041】
<上昇モード、下降モード、静止モード>
設定モードが終了すると、モータ13は、回転軸15に懸吊ロープ14を巻き取る方向の回転力を印加する。懸吊ロープ14が巻き取られる力を巻取力と呼ぶと、巻取力は懸吊ロープ14に上向きの力を印加する。巻取力の大きさは、制御装置17によって制御されている。
【0042】
昇降移動補助装置2の動作には、設定モードの他、上昇モードと下降モードと静止モードとが設けられており、昇降移動補助装置2は、それら三個のモードのうちのいずれかのモードで動作する。
【0043】
記憶装置21には、基準重量値Wrよりも軽い不感下限値Wlowerと、基準重量値Wrよりも重い不感上限値Wupperとが記憶されており、検出重量値Waが不感下限値Wlowerよりも軽い場合は上昇モードとなって、制御装置17は、懸吊重量値Wmによる下向きの力よりも大きな上向きの力をモータ13に発生させ、懸吊ロープ14に印加すると、上向きの力と懸吊重量値Wmによる下向きの力との差は上向きの上昇力となり、上昇力は登攀移動中の補助対象者5を補助し、登攀が楽になる。
【0044】
反対に、検出重量値Waが不感上限値Wupperよりも大きい場合には下降モードになって、制御装置17は懸吊重量値Wmによる下向きの力よりも小さな上向きの力をモータ13に発生させ、懸吊ロープ14に印加させる。その結果、懸吊重量値Wmによる下向きの力と上向きの力との差は下向きの下降力となって懸吊対象者5に印加されたことになり、下降力は梯子30を降下移動する補助対象者5への補助となり、降下が楽になる。
【0045】
検出重量値Waが不感下限値Wlower以上であって且つ不感上限値Wupper以下の場合には静止モードになって、制御装置17はモータ13に懸吊重量値Wmと同じ大きさの上向きの力を発生させて懸吊ロープ14に印加させる。検出重量値Waによる下向きの力とモータ13による上向きの力とは等しくなるから懸吊ロープ14は静止し、補助対象者5も梯子30と懸吊ロープ14とに支えられながら静止することができる。
【0046】
懸吊重量値Wmと同じ大きさではなく基準重量値Wrを懸吊する上向きの力を懸吊ロープ14に印加するようにしてもよい。
【0047】
補助対象者5は、梯子30から落下しないように梯子30の踏桟32や支柱31a、31b等を把持しながら、踏桟32に足を乗せて静止しており、懸吊ロープ14には補助対象者5の体重の一部は懸吊ロープ14に印加され、残りの重量が梯子30によって支持されている。
【0048】
開始ボタン52が押下されたときには、モータ13は、設定重量値Wkと同じ大きさの上向きの力を懸吊ロープ14に印加させており、懸吊ロープ14によって設定重量値Wkを支持するように動作している。
【0049】
補助対象者5は記憶ボタン54を押下したときと同様の姿勢にあるものとすると、懸吊ロープ14には、設定重量値Wkと同じか又は設定重量値Wkに近い重量値が印加されており、このときの検出重量値Waは不感下限値Wlower以上であって且つ不感上限値Wupper以下であるから懸吊ロープ14と補助対象者5とは静止される。
【0050】
このような静止状態から補助対象者5が梯子30の登攀を開始した場合は、補助対象者5の上昇に伴って下側フック18と懸吊ロープ14とは上方に押し上げられて懸吊ロープ14は巻き取られる。
【0051】
巻き取りが発生すると、検出重量値Waは基準重量値Wrよりも軽い値になり、登攀する速度が大きくなって検出重量値Waが不感下限値Wlowerよりも軽くなると、昇降移動補助装置2は上昇モードになって補助対象者5には上昇力が印加される。
【0052】
他方、補助対象者5が梯子30の降下を開始すると、補助対象者5の降下に伴って下側フック18は下方に引かれ、懸吊ロープ14は巻き出される。
【0053】
巻き出しが発生すると、検出重量値Waは基準重量値Wrよりも重い値になり、降下する速度が大きくなって検出重量値Waが不感上限値Wupperよりも重くなると、昇降移動補助装置2は下降モードになって補助対象者5には下降力が印加される。
【0054】
<移動速度>
次に、補助対象者5の上昇速度と下降速度について説明する。
【0055】
不感下限値Wlowerと基準重量値Wrとの差を上昇時不感帯荷重W1(W1=Wr-Wlower>0)とし、不感上限値Wupperと基準重量値Wrとの差を下降時不感帯荷重W2(W2=Wr-Wupper<0)とする。また、検出重量値Waと基準重量値Wrとの間の差を差重量ΔW(ΔW=Wr-Wa)とする。
【0056】
検出重量値Waが不感下限値Wlowerよりも軽い場合(Wa<Wlower)は、補助対象者5に上昇力が印加される場合であり、差重量ΔWは、正であって(0<ΔW)上昇時不感帯荷重W1よりも大きくなる(W1<ΔW)。
【0057】
検出重量値Waが不感上限値Wupperよりも重い場合(Wupper<Wa)は、補助対象者5に下降力が印加される場合であり、差速度ΔWは、負であって(ΔW<0)、下降時不感帯荷重W2よりも小さくなる(ΔW<W2)。
【0058】
上昇力が継続して補助対象者5に印加される場合は補助対象者5は上方に加速され、補助対象者5の上向きの上昇速度Vx1(>0)は次第に大きくなる。
【0059】
逆に、下降力が継続して補助対象者5に印加される場合は補助対象者5は下方に加速され、補助対象者5の下向きの下降速度Vx2(<0)は次第に大きくなる。
【0060】
記憶装置21には、上昇速度Vt1の最大値である最大上昇速度Vmax1(>0)と、下降速度Vt2の最大値である最大下降速度Vmax2(<0)とが記憶されている。
【0061】
回転軸15の回転方向と回転速度とは、モータ13に内蔵されたセンサーによって検出され、制御装置17によって補助対象者5の上昇速度と下降速度とが求められている。懸吊ロープ14の移動方向と移動速度を検出するセンサーを設けて、制御装置17が補助対象者5の上昇速度と下降速度と求めてもよい。
【0062】
重量検出装置11は、一秒間に十回以上の頻度で検出重量値Waを検出し、制御装置17に出力しており、制御装置17は入力された検出重量値Waから差重量ΔWを求めている。差重量ΔWの符号により、制御装置17は、補助対象者5が、上昇と下降のいずれの方向に移動中かを求めることができる。
【0063】
上昇モードでは、補助対象者5は、目標上昇速度Vt1(>0)で上昇するように加減速され、下降モードでは、補助対象者5は目標下降速度Vt2(<0)で移動するように加減速される。
【0064】
目標上昇速度Vt1と目標下降速度Vt2とは、差重量ΔWの大きさに従って決定されており、ここで、目標上昇速度Vt1が最大上昇速度Vmax1に設定されるときの差重量ΔWの値をW3(>0)とし、目標下降速度Vt2が最大下降速度Vt1に設定されるときの差重量ΔWの値をW4(<0)とすると、検出重量値Waが制御装置17に入力されたときに、上昇モードでは、下記(1)式によって差重量ΔWに応じて目標上昇速度Vt1が決定され、また、上昇モードでは、下記(2)式によって差重量ΔWに応じて目標下降速度Vt2が決定される。
【0065】
Vt1=Vmax1×(ΔW-W1)/(W3-W1)……(1)
Vt2=Vmax2×(ΔW-W2)/(W4-W2)……(2)
図5は、差重量ΔWと移動速度との関係を示すグラフである。
【0066】
補助対象者5が、上昇速度Vx1又は下降速度Vx2で現在移動中であるものとすると、上昇速度Vx1又は下降速度Vx2が、目標上昇速度Vt1又は目標下降速度Vt2と等しくなるように、補助対象者5に、上向きの一定加速度又は下向きの一定加速度が印加されて上昇速度Vx1又は下降速度Vx2の大きさが変化するようになっており、補助対象者5の移動速度が、目標上昇速度Vt1又は目標下降速度Vt2と等しくなると、補助対象者5は目標上昇速度Vt1又は目標下降速度Vt2で等速移動するようになる。
【0067】
なお、補助対象者5が上方に向けて加速移動しているときに速度差ΔWの符号が反転し、下向きの移動に変更する場合は、下向きの等加速度が印加され、例えば上昇速度Vx1が減速されてゼロになった後、下方への移動が開始され、そして下降速度Vx2の値が増加して目標下降速度Vt2に等しくなると等速移動する。
【0068】
補助対象者5が下方に向けて加速移動しているときに速度差ΔWの符号が反転し、上向きの移動に変更される場合は、上向きの等加速度が印加され、例えば、下降速度Vx2が減速されてゼロになった後、上方への移動を開始し、上昇速度Vx1の値が増加し、目標上昇速度Vt1に等しくなると等速移動する。
【0069】
図6は、差重量ΔWと、目標上昇速度Vt1と、補助対象者5の上昇速度Vx1との経時変化の関係を示すグラフである。
【0070】
この図6では、初期状態では、差重量ΔWが上昇時不感帯荷重W1よりも小さく、目標上昇速度Vt1はゼロであり、また、補助対象者5は静止しており、補助対象者5の上昇速度Vx1もゼロである。
【0071】
時間が経過して差重量ΔWが次第に増加し、第一の時刻t1になると差重量ΔWが上昇時不感帯荷重W1よりも大きくなり、目標上昇速度Vt1が決定され、補助対象者5には所定の加速度が印加され、目標上昇速度Vt1よりも遅い上昇速度Vx1で上昇を開始する。
【0072】
第一時刻t1の後、差重量ΔWは増加し、差重量ΔWの増加に伴って目標上昇速度Vt1と上昇速度Vx1とが増加し、第二時刻t2において差重量ΔWが減少を開始すると、目標上昇速度Vt1は第二時刻t2から減少を開始するが、上昇速度Vx1は、目標上昇速度Vt1よりも小さいので、第二時刻t2の後も増加を維持する。上昇速度Vx1は第二時刻t2の前後で等加速度で増加している。
【0073】
上昇速度Vx1と目標上昇速度Vt1とが等しくなった時刻を第三時刻t3とすると、第三時刻t3後は目標上昇速度Vt1が上昇速度Vx1よりも小さくなるから、上昇速度Vx1は第三時刻t3から減少を開始する。
【0074】
第四時刻t4において、差重量ΔWが減少から増加に転じると、目標上昇速度Vt1も第四時刻t4において減少から増加に転じるが、上昇速度Vx1は第四時刻t4では目標上昇速度Vt1よりも大きいので減少が維持される。
【0075】
第五時刻t5において、上昇速度Vx1と目標上昇速度Vt1とが等しくなるとすると、第五時刻t5後では、上昇速度Vx1は増加中の目標上昇速度Vt1よりも小さくなるので、上昇速度Vx1は増加に転じる。
【0076】
このように目標上昇速度Vt1と上昇速度Vx1とは変化しており、第六時刻t6において差重量ΔWが上昇時不感帯荷重W1以下になると、目標上昇速度Vt1はゼロになるが、上昇速度Vx1はゼロになっていないので減少して第六時刻t6よりも遅い第七時刻t7においてゼロになる。
【0077】
差重量ΔWと、目標下降速度Vt2と、補助対象者5の下降速度Vx1との経時変化も同じ関係にある。
【0078】
ここで、増加から減少に転じ、又は減少から増加に転じることを増減の反転と呼ぶと、差重量ΔWの増減の反転によって、目標上昇速度Vt1又は目標下降速度Vt2は、直ちに増減を反転させ、それに対し、上昇速度Vx1と下降速度Vx2の増減の反転は、目標上昇速度Vt1と目標下降速度Vt2との増減の反転に遅れる。
【0079】
従って、差重量ΔWの増減が反転しても、直ちに上昇速度Vx1や下降速度Vx2は反転せず、現状を維持するようになっており、上昇速度Vx1や下降速度Vx2が短時間で繰り返し反転することによる振動は生じないようになっている。
【0080】
なお、上記上昇時不感帯荷重W1と、下降時不感帯荷重W2の絶対値は5kg程度が適当である。また、懸吊ロープ14にはたるみが無く、補助対象者5の移動速度(上昇速度又は下降速度)は、回転軸15の回転速度の定数倍の値になっているものとする。
【符号の説明】
【0081】
2……昇降移動補助装置
9……装置本体
11……重量検出装置
13……モータ
14……懸吊ロープ
17……制御装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6