(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】フライホイールを用いた無停電電源装置
(51)【国際特許分類】
H02J 3/30 20060101AFI20240814BHJP
H02J 15/00 20060101ALI20240814BHJP
H02P 9/04 20060101ALI20240814BHJP
F03G 3/08 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
H02J3/30
H02J15/00 A
H02P9/04 Z
F03G3/08 D
(21)【出願番号】P 2023077062
(22)【出願日】2023-05-09
【審査請求日】2024-04-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)刊行物等1 ▲1▼発行者名 一般社団法人電気学会 ▲2▼刊行物名 2022年12月12日-2022年12月13日半導体電力変換/家電・民生/自動車合同研究会-1 「フライホイール電動発電機の各種電源への応用」 ▲3▼巻数 号数 41-44頁 ▲4▼発行年月日 令和4年12月9日(金) ※PDFファイルにてダウンロード方式で頒布。 (2)刊行物等2 ▲1▼発行者名 一般社団法人電気学会 ▲2▼刊行物名 2023年3月17日 令和5年電気学会全国大会 セッション番号222-C1産業システム 制御理論・計測技術の産業応用 発表番号4-180「遊星歯車機構を備えたフライホイール電動発電機のリングギア回転速度制御による充放電装置」 ▲3▼発行年月日 発行日を特定することは困難であるが、電気学会の「令和5年電気学会全国大会」のHPによれば、上記全国大会の参加者に対してはダウンロード方式で頒布されている。また、不参加者に対してはDVD-ROMにて有償販売。販売申込受付けは、令和5年2月1日から開始されていると記載されている。https://www.iee.jp/blog/taikai2023/ したがって、発行年月日は、2月1日から3月17日までの間であることは確実であり、本出願の出願日である5月9日の前から1年以内であることは論を俟たない。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(73)【特許権者】
【識別番号】520032099
【氏名又は名称】株式会社シグマエナジー
(74)【代理人】
【識別番号】100114269
【氏名又は名称】五十嵐 貞喜
(72)【発明者】
【氏名】加藤修平
(72)【発明者】
【氏名】川口卓志
(72)【発明者】
【氏名】塩島大輔
【審査官】早川 卓哉
(56)【参考文献】
【文献】特表昭57-501359(JP,A)
【文献】特開2018-007500(JP,A)
【文献】特開2018-203059(JP,A)
【文献】特開2008-263739(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0205553(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0190346(US,A1)
【文献】中国実用新案第216121814(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J3/00-5/00
H02J15/00
H02J7/00-7/12
H02J7/34-7/36
H02J9/00-11/00
H02P9/00-9/48
F03G1/00-7/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統の電圧低下又は停電等の電力障害時に、電気負荷に対して交流電力を継続して供給するフライホイールを用いた無停電電源装置(以下
この項において単に「無停電電源装置」という。)において、該無停電電源装置は、
前記電力障害の発生を検知する電力障害検知手段と、
前記電力障害検知手段が電力障害を検知した時に前記電力系統と前記電気負荷との接続を遮断する遮断器と、
前記電力系統からの電力の供給を受けて回転駆動され、電動機と発電機の両方の機能を有する誘導電動機又は同期電動機(以下
この項において「電動発電機」という。)と、
前記電動発電機と並列に接続される電圧発生用コンデンサと、
前記電動発電機と前記フライホイールとの間に配置される遊星歯車と、
前記フライホイールの回転速度を検出する速度センサと、
前記遊星歯車のリングギアの回転を制御する制御用モータと、
制御手段と、を備えるとともに、
前記遊星歯車のサンギアは前記フライホイールの回転軸に接続され、
前記遊星歯車の遊星キャリアは前記電動発電機の回転軸に接続され、さらに、
前記制御手段は、
前記電力障害検知手段が電力障害を検知すると、前記遮断器を開極して前記電力系統と前記電気負荷との接続を遮断し、
前記速度センサが検出した前記フライホイールの回転速度と前記電動発電機の回転速度の目標値に基づいて所定の式により前記リングギアの回転数をリアルタイムで算出し、前記算出したリングギアの回転数になるように前記制御用モータを制御することにより、前記電動発電機の回転速度を前記目標値に維持して、前記電力障害が継続している間に前記電動発電機で発電した電力の電圧と周波数をほぼ一定に保ち、
前記電力障害検知手段が電力障害の解除を検知すると、前記遮断器を閉極して前記電力系統と前記電気負荷とを再接続することを特徴とする無停電電源装置。
【請求項2】
電力系統の電圧低下又は停電等の電力障害時に、電気負荷に対して交流電力を継続して供給する
フライホイールを用いた無停電電源装置
(以下この項において単に「無停電電源装置」という。)において、該無停電電源装置は、
前記電力障害の発生を検知する電力障害検知手段と、
前記電力障害検知手段が電力障害を検知した時に前記電力系統と前記電気負荷との接続を遮断する遮断器と、
前記電力系統からの電力の供給を受けて回転駆動され、電動機と発電機の両方の機能を有する
誘導電動機又は同期電動機(以下この項において「電動発電機
」という。)と、
前記電動発電機と並列に接続される電圧発生用コンデンサと、
前記電動発電機と前記フライホイールとの間に配置される遊星歯車と、
前記電動発電機の回転速度を検出する速度センサと、
前記遊星歯車のリングギアの回転を制御する制御用モータと、
制御手段と、を備えるとともに、
前記遊星歯車のサンギアは前記フライホイールの回転軸に接続され、
前記遊星歯車の遊星キャリアは前記電動発電機の回転軸に接続され、さらに、
前記制御手段は、
前記電力障害検知手段が電力障害を検知すると、前記遮断器を開極して前記電力系統と前記電気負荷との接続を遮断し、
前記速度センサが検出した前記電動発電機の回転速度が所定の目標値に保たれるように、前記リングギアの回転数を前記制御用モータでフィードバック制御することにより、前記電動発電機の回転速度を前記目標値に維持して、前記電力障害が継続している間に前記電動発電機で発電した電力の電圧と周波数をほぼ一定に保ち、
前記電力障害検知手段が電力障害の解除を検知すると、前記遮断器を閉極して前記電力系統と前記電気負荷とを再接続することを特徴とする無停電電源装置。
【請求項3】
電力系統の電圧低下又は停電等の電力障害時に、電気負荷に対して交流電力を継続して供給する
フライホイールを用いた無停電電源装置
(以下この項において単に「無停電電源装置」という。)において、該無停電電源装置は、
前記電力障害の発生を検知する電力障害検知手段と、
前記電力障害検知手段が電力障害を検知した時に前記電力系統と前記電気負荷との接続を遮断する遮断器と、
前記電力系統からの電力の供給を受けて回転駆動され、電動機と発電機の両方の機能を有する
誘導電動機又は同期電動機(以下この項において「電動発電機
」という。)と、
前記電動発電機と並列に接続される電圧発生用コンデンサと、
前記電動発電機と前記フライホイールとの間に配置される遊星歯車と、
前記フライホイールと前記電動発電機の回転速度を検出する速度センサと、
前記遊星歯車のリングギアの回転を制御する制御用モータと、
制御手段と、を備えるとともに、
前記遊星歯車のサンギアは前記フライホイールの回転軸に接続され、
前記遊星歯車の遊星キャリアは前記電動発電機の回転軸に接続され、さらに、
前記制御手段は、
前記電力障害検知手段が電力障害を検知すると、前記遮断器を開極して前記電力系統と前記電気負荷との接続を遮断し、
前記速度センサが検出した前記フライホイールの回転速度と前記電動発電機の回転速度の目標値に基づいて所定の式により前記リングギアの回転数をリアルタイムで算出し、前記算出したリングギアの回転数をフィードフォワード項とし、かつ、前記電動発電機の回転数の目標値とリアルタイムの回転数との偏差をPID補償した値を前記算出したリングギアの回転数に加算して最終的なリングギアの回転数を決めるフィードバックループを備え、前記最終的なリングギアの回転数になるように前記制御用モータを制御することにより、前記電動発電機の回転速度をほぼ一定に維持して、前記電力障害が継続している間に前記電動発電機で発電した電力の電圧と周波数をほぼ一定に保ち、
前記電力障害検知手段が電力障害の解除を検知すると、前記遮断器を閉極して前記電力系統と前記電気負荷とを再接続することを特徴とする無停電電源装置。
【請求項4】
さらに遊星歯車を1個追加し(以下元からある遊星歯車を「主遊星歯車」、後から追加した遊星歯車を「副遊星歯車」という。)、前記主遊星歯車のリングギアは前記副遊星歯車の遊星キャリアに連結されており、両方のサンギアは直結されていて前記フライホイールに接続されており、かつ、前記主遊星歯車の遊星キャリアは前記電動発電機の回転軸に接続されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の無停電電源装置。
【請求項5】
前記電力障害検知手段が前記電力系統の電圧をリアルタイムで計測する電圧センサを備え、前記電力障害検知手段における電力障害発生の判定条件が、前記電圧センサで計測した電圧が予め設定した所定の電圧以下になったときに電力障害が発生したと判定し、前記電圧が予め設定した所定の電圧を超えた時に電力障害が解除されたと判定することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の無停電電源装置。
【請求項6】
前記電力障害検知手段が瞬時電力計測手段を備えるとともに、該瞬時電力の計測結果に基づいて逆潮流の発生を検出し、該逆潮流が所定のサイクル数連続して発生した時に電力障害が発生したと判定することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の無停電電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統の電圧の瞬時低下(瞬低)や停電などの電源異常時に、フライホイールに貯蔵された機械エネルギーを放出し電気エネルギーに変換して電源に電力を無停電・無瞬断で供給するフライホイールを用いた無停電電源装置に関し、特に、フライホイールの回転数が低下しても、持続して一定の周波数で電力を供給することが可能なフライホイールを用いた無停電電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、
図9に示すような従来のフライホイールを用いた無停電電源装置が開示されている。すなわち、電力系統より供給される電力の電圧を検出する電圧検出器と、電力系統からの電力の供給を受けて回転駆動され、電動機と発電機の両方の機能を有するかご型誘導電動機12と、かご型誘導電動機12の回転軸に結合され、かご型誘導電動機12の電気エネルギーを機械エネルギーとして蓄えるフライホイール13と、かご型誘導電動機12と並列に接続される電圧発生用コンデンサ14と、電力系統から負荷への電力供給のON/OFFを行う逆流防止スイッチSW1と、かご型誘導電動機12と電力系統との接続のON/OFFを行う再接続スイッチSW2と、電圧検出器の電圧を監視し、所定の電圧になったときに逆流防止スイッチSW1及び再接続スイッチSW2のON/OFFを制御する制御手段15と、を備えるとともに、制御手段15が、電圧が瞬間的に低下し所定の電圧以下となった時に、逆流防止スイッチSW1をOFFにすると同時に、既にONになっている再接続スイッチSW2を通して負荷に対して発電した電力を供給し、電圧が復帰して所定の電圧を超えた時に逆流防止スイッチSW1をONにすると同時に再接続スイッチSW2をOFFにし、その後、電力系統が安定した後に位相を合わせて再接続スイッチSW2をONに切り換えるように制御することを特徴とするフライホイールを利用した無停電電源装置である。
【0003】
一方、下記特許文献2にはフライホイールの回転周波数を一定に保つための無停電電源装置が開示されている。特許文献2の
図1に示すように、電力系統1の異常時に制御手段11によって電磁クラッチ7を接続させて、フライホイール6の慣性力によって原動機8を慣性起動させ、原動機8の回転トルクによりフライホイール6を再加速させることで、フライホイール6に接続された誘導電動機(この時は発電機になる。)4により発電した電力を一定の周波数で電気負荷3に供給できるようにする無停電電源装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-235179号公報
【文献】特許第7067729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載のフライホイールを用いた無停電電源装置は、周波数は安定化させずに、電圧のみを負荷が許容する範囲に維持するだけの機能を持つ、小型、シンプルな、低価格の無停電電源装置であり、出力される電力の周波数がフライホイールの周波数に依存してしまうため、周波数を厳密に一定に保たなければならない負荷に電力を供給するためには、インバータなどで周波数変換を行ない、出力される周波数を一定に保つ必要がある。
しかし、インバータなどの機器は高価になり、フライホイール無停電電源装置の経済的な利点が損なわれてしまう。
一方、上記特許文献2に記載の発明のように、フライホイールを再加速させる装置であっても、一時的(短時間)にはフライホイールの回転数が低下するために、周波数の変化が致命的になるような負荷への電力を補償することができないという問題がある。
【0006】
本発明は、かかる従来のフライホイールを用いた無停電電源装置の問題点を解決するためになされたものであり、電力系統の異常時においてフライホイールの回転数が一時的に低下しても、継続して一定の(電力系統の)周波数で電力を供給することが可能なフライホイールを用いた無停電電源装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、電力系統からの電力供給に障害が生じた際に、電気負荷に対して一定の周波数で交流電力を継続して供給するフライホイールを用いた無停電電源装置(以下単に「無停電電源装置」)という)に関し、本発明の上記目的は、前記電力障害の発生を検知する電力障害検知手段と、前記電力障害検知手段が電力障害を検知した時に前記電力系統と前記電気負荷との接続を遮断する遮断器と、前記電力系統からの電力の供給を受けて回転駆動され、電動機と発電機の両方の機能を有する誘導電動機又は同期電動機(以下この段落において「電動発電機」という。)と、前記電動発電機と並列に接続される電圧発生用コンデンサと、前記電動発電機と前記フライホイールとの間に配置される遊星歯車と、前記フライホイールの回転速度を検出する速度センサと、前記遊星歯車のリングギアの回転を制御する制御用モータと、制御手段と、を備えるとともに、
前記遊星歯車のサンギアは前記フライホイールの回転軸に接続され、前記遊星歯車の遊星キャリアは前記電動発電機の回転軸に接続され、さらに、前記制御手段は、前記電力障害検知手段が電力障害を検知すると、前記遮断器を開極して前記電力系統と前記電気負荷との接続を遮断し、前記速度センサが検出した前記フライホイールの回転速度と前記電動発電機の回転速度の目標値に基づいて所定の式により前記リングギアの回転数をリアルタイムで算出し、前記算出したリングギアの回転数になるように前記制御用モータを制御することにより、前記電動発電機の回転速度を前記目標値に維持して、前記電力障害が継続している間に前記電動発電機で発電した電力の電圧と周波数をほぼ一定に保ち、
前記電力障害検知手段が電力障害の解除を検知すると、前記遮断器を閉極して前記電力系統と前記電気負荷とを再接続することを特徴とする無停電電源装置によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る無停電電源装置によれば、遊星歯車機構を用いることによって、インバータなどの電気的な周波数変換器を用いることなく、フライホイールの回転数が変化しても誘導電動機の回転数を一定に保つことが可能になり、無停電電源装置から出力される電力の周波数を一定に保つことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る無停電電源装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】遊星歯車の構造(一例)を示す斜視図である。
【
図3】制御手段における制御フローを示すフローチャートの一例である。
【
図4】本発明に係る無停電電源装置の試作機の外観を示す写真である。
【
図5】本発明に係る無停電電源装置の試作機の諸元表である。
【
図6】本発明に係る無停電電源装置の試作機による実験結果を示すデータである。
【
図7】本発明に係る無停電電源装置の構成の変形例を示すブロック図である。
【
図8】制御手段における制御の他の例を示すブロック図である。
【
図9】従来のフライホイールを用いた無停電電源装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る無停電電源装置について詳細に説明する。
図1は、本発明に係る無停電電源装置の構成の一例を示すブロック図である。電力系統1に、半導体を用いた遮断器(以下「遮断器」という。)2を介して電気負荷(以下「負荷」という。)3が接続されている。また、電力系統1には、遮断器2を介して電動機と発電機の両方の機能を有する誘導電動機4が接続され、電力系統1からの電力の供給を受けて回転駆動される。なお、ここでは誘導電動機を例として説明しているが、誘導電動機に替えて同期電動機でも構わない。
【0011】
さらに、誘導電動機4と並列に電圧発生用コンデンサ5が接続されている。
誘導電動機4の回転軸4aは、遊星歯車7を介して電気エネルギーを機械エネルギーとして蓄えるフライホイール6と結合されている。
ここで、遊星歯車7について、
図2を参照しつつ詳細に説明する。遊星歯車7の中心にある太陽歯車(サンギア)7aは入力軸を介してフライホイール6の回転軸と結合されている。
また、サンギア7aの周りを回る3個の遊星歯車(プラネタリギア)7dは遊星キャリア7bに固定され、遊星キャリア7bに結合された出力軸が誘導電動機4の回転軸4aと結合されている。さらに、プラネタリギア7dは内歯車(リングギア)7cとギア結合されている。この構成により、リングギア7cの回転を外部から制御することにより、フライホイールの回転数変化(=入力軸の回転数変化)にかかわらず、誘導電動機4(=誘導発電機)の回転軸4aの回転数(=出力軸の回転数)を一定に保つことが可能となる。
具体的に言えば、リングギア7cをサンギア7aと逆方向に回すと、サンギア7aの回転速度が増し、その逆に、リングギア7cをサンギア7aと同じ方向に回すと、サンギア7aの回転速度が減る。
【0012】
再び
図1に戻ると、リングギア7cには小型の制御用モータ8によって回転駆動される補助ギア8aが結合され、制御用モータ8によってリングギア7cの回転を制御するように構成されている。なお、制御用モータ8の電力は、電力系統1が正常時は電力系統からの電力でまかなわれ、電力系統1の異常時は誘導電動機4が発電した電力によってまかなわれる。
【0013】
さらに、電力系統1の電圧をリアルタイムで監視する電圧センサ9と、フライホイール6の回転速度(毎分の回転数rpm)をリアルタイムで検出する速度センサ10が備えられている。
さらにまた、遮断器2の開閉と、リングギア6が結合されている制御用モータ8の制御を行なう制御手段11が備えられている。
制御手段11は、後述のように、電圧センサ9で計測した電圧(V)や速度センサ10で計測したフライホイールの回転速度(Ns)に基づいて、遮断器2の開閉を行ったり、制御用モータ8の回転を制御したりすることによりリングギア7cの回転数を制御する。
電圧センサ9は電力障害検知手段の一例である。制御手段11としては、汎用のパソコン、又はマイクロプロセッサを備えた専用の電子回路を用いることが可能である。
また、遮断器2としては、高速スイッチングが可能な半導体式スイッチが好ましい。例えば、サイリスタやパワーMOSFET等である。
【0014】
次に、
図1に記載した無停電電源装置の制御手段11による制御フローについて、
図3に示すフローチャートを参照しつつ詳細に説明する。
制御手段11の電源ON等のトリガ等の入力により制御がスタートすると、電圧センサ9で計測された電力系統1の電圧V(以下「電圧V」という。)及び速度センサ10で計測されたフライホイール6の回転速度Ns(以下「回転速度Ns」という。)がリアルタイムに制御手段11に入力される(ステップS1)。
【0015】
このとき、誘導電動機4の回転によってFWも加勢されて回転するが、リングギアが固定であると、後述の遊星歯車の減速率により、FWの回転数は誘導電動機4の回転数の3倍の同期速度で待機状態となる。しかし、停電後のFWの回転数の自然低下を考慮すると、同期速度よりも少し高い速度で待機するのが好ましい。今迄は、誘導電動機4とフライホイール6が軸直結されている都合上、これは不可能であった。
そこで、下記の式1によりリングギア7cの回転数Nrを算出して、制御モータ8によってリングギア7cの回転を制御してFWの回転数を同期速度よりもやや高い回転数に維持して待機する(ステップS2)。
【0016】
具体的には、誘導電動機4の極数を6とすると、同期速度(すべりを0とした場合)は1,000rpm(50Hz時)となる。また、後述のように、λ=0.5とすると、減速率=(1+λ)/λ=3だから、正常時のフライホイールの待機速度は3,000rpmになるが、停電後の自然速度低下の余裕を持たせるために、少し高め(3,400rpm)にして待機させるのがよい。すなわち、フライホイールを同期速度で待機させるのであれば、Ns=3,000になるので、式1より、Nr=0、すなわち、リングギアは固定でよいが、少し高めにして待機させるためには、Nr=-200、すなわち、サンギアと逆方向に200rpm回転させて待機する。
【0017】
電圧Vが所定値E(例えばAC90V)以上の場合(S3がYESの場合)は正常と判断してステップS1に戻って、電圧Vの監視を続けるとともに、リングギアの回転を制御してFWを所定の回転速度で待機させる(ステップS2)。
ステップS3において、電圧Vが所定値E未満に下がった場合は(S3がNOの場合)、電力障害が発生したと判定し、遮断器2を開極して電力系統1と負荷3(及び誘導電動機4)との接続を遮断する(ステップS4)。
【0018】
そうすると、誘導電動機4は自動的に発電機に切り替わり、発電を開始して負荷3に電力を供給する(ステップS5)。
誘導電動機4はフライホイール6の慣性力で回転して発電しているので、フライホイール6が時間とともに回転速度Nsが落ちると、誘導電動機4の発電電圧及び周波数が低下する。
このため、フライホイール6の回転速度Nsが低下しても誘導電動機4の回転速度(=遊星キャリア7bの回転速度Ncに等しい。)が目標速度(例えば同期速度)に維持されるようにリングギア7cの回転速度を制御する必要がある。
【0019】
そこで、速度センサ10で計測した回転数Nsを取得し(ステップS6)、次の式1に基づいてリングギアの回転数(Nr)を算出し、その回転数になるように制御用モータ8の回転数Nmを制御する(ステップS7)。
すなわち、
Nr=(1+λ)×Nc-λ×Ns…(式1)
ここに、λ=(サンギアの歯数)/(リングギアの歯数)である。
例えば、サンギアの歯数を48,リングギアの歯数を96とすると、λ=0.5となる。
【0020】
もし、この間に電力系統1の電力障害が解除になれば、発電機4から負荷3へ電力を供給する必要はなくなるので、電力系統1が復帰したか否かを判定する必要がある。これは、電圧Vが所定値E以上になったか否かで判断する(ステップS8)。
系統電圧が所定値以上にならない場合(=異常が継続。ステップS8のNO)は、ステップS6に戻って、S6→S7の処理を繰り返す。これにより、FWの回転数が時間とともに低下するにもかかわらず、誘導電動機4の回転速度は目標値のNc(1,000rpm)に維持され、発電電圧及び周波数がほぼ一定に保たれる。
【0021】
なお、この実施例では、リングギアの回転は、それとギア結合している補助ギア8aを制御用モータ8により回転させることにより制御しているので、制御用モータ8の回転数Nmは、リングギア7cの外歯車の歯数(n1)と補助ギア8aの歯数(n2)の比(n1/n2)で決まる。すなわち、式1で求めたNrに(n1/n2)を掛けたものになる。
∴Nm=(n1/n2)×Nr
【0022】
一方、系統電圧Vが所定値以上になった場合(ステップS8のYES)、電力系統が正常に復帰したと判断して、制御手段11が遮断器2を閉極して電力系統に再接続する(ステップS9)。すると、誘導電動機4は電動機に戻り、そのトルクでFWを回して同期速度よりも少し高い回転数(3,400rpm)で待機させるために、式1に、Nc=1,000、Ns=3,400を代入して求めたNr=-200、すなわち、サンギアと逆方向に200rpm回転させて待機する(ステップS10)。そして、ステップS1に戻って処理を繰り返す。
【0023】
上記式1のリングギア回転数Nrをフィードフォワード項とし、停電中に誘導電動機4の現在の回転数(発電周波数)を微調整するフィードバックループ(偏差=目標周波数-現在の周波数、出力=リングギア回転数微調整項、最終的なリングギア回転数=前記の出力+式1の結果)を設けても良い。というのは、発電周波数は誘導発電機の場合は発電出力に僅かに依存するためである。
図8はこの制御のブロック図の例を示したものである。
さらに言えば、実験例では周波数は一定で保たれているが、50Hzではなく49Hzとなっている。つまり式1による制御によってリングギアを回転させても、電動発電機(誘導機)の「回転数」が目標値に保たれるだけで、実際の「発電周波数」はそれより若干低下してしまう。誘導発電機には「すべり」があるためである。
つまり、停電時に50Hzちょうどで発電するには、電動発電機(誘導機)の目標回転数を若干高めに設定する必要がある。若干とはどの程度かというと0~5%ほどである。ただ、その程度は接続されている電気負荷や電動発電機の電気特性に依存する。
そのため、「発電周波数」を50Hzちょうどにすべく、式1で求まるNrを「かさ増し」する。かさ増しする量は、フィードバック制御で決めるのがよいという趣旨である。
【0024】
また、速度センサ10が誘導電動機4の回転数Ncをモニタリングして、フィードバック制御により制御用モータ8を制御することもできる。すなわち、Ncをモニタリングし、Ncが一定になるようにNrをフィードバック制御すればよい。具体的には、Ncが目標値よりも低下したらリングギア7cをサンギア7aと逆方向に回して目標値に戻し、Ncが目標値よりも高くなったらリングギア7cをサンギア7aと同じ方向に回して目標値に戻す。
【0025】
本発明に係る無停電電源装置の動作確認および有用性の検証のため、新たに小容量システムの設計・試作を行った。
図4は試作機の外観を示す写真であり、
図5は各構成要素の諸元一覧表である。
図4において、主電動発電機として三相誘導発電機を採用しているが、同期発電機でも構わない。
また、リングギアを外力により回転させるために、リングギアの外周にも歯車が切られており、その歯車と結合する補助ギアを制御用モータで回転制御している。また、プラネタリギアは3個の歯車で構成されている。また、フライホイールの慣性は無限である。
図5から分かるように、上述のλは、λ=48/96=0.5である。また、電動発電機の同期速度(定格速度)は1,000rpmである。
【0026】
図6は、
図4に示した試作機を用い、上記式1による制御を行った実験結果を示す図である。横軸はFWの回転速度(rpm)であり、縦軸はそれぞれ発電機端子電圧(左)と発電機周波数(右)を表している。
図中、「▲」で示したのは、電力系統に異常が発生して遮断器2が開極した後、FWの回転速度が待機速度(3,400rpm)から徐々に低下して行った場合に、本発明による制御を適用したときの発電機の発電電圧の変化を表したものであり、「×」で示したのはその周波数の変化を表したものである。
図から分かるように、本発明に係る無停電電源装置の場合は、電力系統の異常発生によりFWの回転数が待機状態(3,400rpm)から約2600rpmまで低下したとしても、発電電圧(▲)は、ほぼ195Vの辺りで一定に保たれている。また、周波数(×)も約49Hzでほぼ一定である。
これで、制御用モータ8を用いてリングギア7cの回転速度を制御すれば、誘導電動機4の回転速度を一定に保つことができ、発電電圧及び周波数を一定に保つことができることを実証したことになる。
【0027】
一方、図中、「●」で示したのは、電力系統に異常が発生して遮断器2が開極した後、FWの回転速度が同期速度(3,000rpm)から徐々に低下して行った場合の従来の発電機の発電電圧の変化を表したものであり、「◎」で示したのはその周波数の変化を表したものである。すなわち、FWの回転数低下がそのまま発電機の回転数低下に直結する。
図から分かるように、従来の無停電電源装置の場合は、電力系統の異常発生によりFWの回転数が待機状態(3,000rpm)から約2,900rpmまで低下する間に、発電電圧(●)は、約195Vから一気に約120Vまで低下し、周波数(◎)も約49Hzから約47.5Hzまで低下してしまうが、本発明はこのような問題を解決することができる。
【0028】
図7は、本発明に係る無停電電源装置の構成の変形例を示すブロック図である。
図1と違う点は、遊星歯車が二連になっていることである。すなわち、主遊星歯車に加えて副遊星歯車を使う点である。主遊星歯車のリングギアは副遊星歯車の遊星キャリアに連結されており、両方のサンギアは直結されていてフライホイール6に接続されている。主遊星歯車の遊星キャリア7bは主電動発電機(誘導電動機)に接続されている。こうすることで、リングギア制御のための制御用モータ8のパワーが少なくて済むという利点がある。
【0029】
以上で実施形態の説明を終了するが、この発明において、装置の具体的な構成は実施形態で説明したものに限るものではない。
例えば、上述の実施形態では電力障害の発生を電圧Vの低下で判断しているが、電力系統の瞬時電力を計測(算出)することによって、瞬時電力の計測結果に基づいて逆潮流の発生を検出し、逆潮流が所定のサイクル数(例えば10サイクル)連続した時に電力障害が発生したと判定して遮断器2を開極するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0030】
1:電力系統
2:遮断器
3:電気負荷
4:誘導電動機(又は同期電動機)
5:電圧発生コンデンサ
6:フライホイール
7:遊星歯車
7a:サンギア
7b:遊星キャリア
7c:リングギア
7d:プラネタリギア
7e:副遊星歯車
8:制御用モータ
8a:補助ギア
9:電圧センサ
10:速度センサ
11:制御手段
【要約】
【課題】発電電力の電圧及び周波数を一定に保持することが可能な、フライホイールを用いた無停電電源装置を提供すること。
【解決手段】電力系統1の電圧低下又は停電等の電力障害時に、電気負荷3に対して交流電力を継続して供給するフライホイールを用いた無停電電源装置において、フライホイール6の回転数低下時に、遊星歯車7のリングギア7cの回転速度を制御することによって、電力系統1に接続された誘導電動機4を一定の回転数で回転させることで、発電した電力の電圧と周波数を一定に保持する。
【選択図】
図1