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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】増幅装置、送受信システム
(51)【国際特許分類】
   H03F 1/32 20060101AFI20240814BHJP
   H03F 3/24 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
H03F1/32
H03F3/24
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020013786
(22)【出願日】2020-01-30
(65)【公開番号】P2021121054
(43)【公開日】2021-08-19
【審査請求日】2022-09-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1) 発行日 2019年1月30日 刊行物 IEICE Communications Express,Vol.8,No.4 pp87-92
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 イノベーションハブ構築支援事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(73)【特許権者】
【識別番号】314012087
【氏名又は名称】株式会社光電製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】林 大介
(72)【発明者】
【氏名】濱田 憲人
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 繁男
【審査官】及川 尚人
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-153175(JP,A)
【文献】特開平08-274560(JP,A)
【文献】特開平08-279768(JP,A)
【文献】国際公開第2000/027038(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2003/0040290(US,A1)
【文献】特開平02-116769(JP,A)
【文献】特開2005-109768(JP,A)
【文献】実開平05-023614(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/00-3/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時間間隔を有して連続するパルス信号をパルス信号ごとに増幅対象の所望信号として取得するパルス信号取得部と、
前記所望信号と分離可能なダミー信号を生成するダミー信号生成部と、
前記所望信号の前後に前記ダミー信号を合成し、合成信号を出力する合成部と、
前記合成信号を増幅し、増幅合成信号を出力する増幅器と、
前記増幅合成信号から前記ダミー信号が増幅された信号を除去して前記所望信号が増幅された信号である増幅所望信号を取り出し、出力する分離部と
を備え、
前記合成信号のパワーは、前記増幅器が非線形動作するパワーであり、
前記ダミー信号生成部は、前記所望信号が存在する時間の前後にあらかじめ定めた時間を付加した時間の範囲では、前記合成信号のパワーが一定となるようにダミー信号を生成し、
前記あらかじめ定めた時間は、前記増幅器の非線形性と過渡応答の影響を前記所望信号が受けないようにする時間であり、所望信号同士の時間間隔よりも小さい
ことを特徴とする増幅装置。
【請求項2】
増幅装置を有し、増幅合成信号を送信する送信装置と、
前記送信装置が送信した増幅合成信号を受信する受信装置を備える送受信システムであって、
前記増幅装置は、
時間間隔を有して連続するパルス信号をパルス信号ごとに増幅対象の所望信号として取得するパルス信号取得部と、
ダミー信号を生成するダミー信号生成部と、
前記所望信号の前後に前記ダミー信号を合成し、合成信号を出力する合成部と、
前記合成信号を増幅し、増幅合成信号を出力する増幅器と、
を備え、
前記ダミー信号は、前記所望信号と分離可能な信号であり、
前記合成信号のパワーは、前記増幅器が非線形動作するパワーであり、
前記ダミー信号生成部は、前記所望信号が存在する時間の前後にあらかじめ定めた時間を付加した時間の範囲では、前記合成信号のパワーが一定となるようにダミー信号を生成し、
前記あらかじめ定めた時間は、前記増幅器の非線形性と過渡応答の影響を前記所望信号が受けないようにする時間であり、所望信号同士の時間間隔よりも小さく、
前記受信装置は、受信した増幅合成信号から前記ダミー信号が増幅された信号を除去して前記所望信号が増幅された信号である増幅所望信号を取り出し、出力する分離部を備える
ことを特徴とする送受信システム
【請求項3】
時間間隔を有して連続するパルス信号をパルス信号ごとに増幅対象の所望信号として取得するパルス信号取得部と、
前記所望信号と分離可能なダミー信号を生成するダミー信号生成部と、
前記所望信号の前後に前記ダミー信号を合成し、合成信号を出力する合成部と、
前記合成信号を増幅し、増幅合成信号を出力する増幅器と、
前記増幅合成信号から前記ダミー信号が増幅された信号を除去して前記所望信号が増幅された信号である増幅所望信号を取り出し、出力する分離部と
前記所望信号のパワーを検知するパワー検知部と、
を備え、
前記合成信号のパワーは、前記増幅器が非線形動作するパワーであり、
前記ダミー信号生成部は、前記パワー検知部が検知したパワーに基づいて、前記所望信号が存在する時間の前後にあらかじめ定めた時間を付加した時間の範囲は、前記合成信号のパワーが一定となるようにダミー信号を生成する
ことを特徴とする増幅装置。
【請求項4】
増幅装置を有し、増幅合成信号を送信する送信装置と、
前記送信装置が送信した増幅合成信号を受信する受信装置を備える送受信システムであって、
前記増幅装置は、
時間間隔を有して連続するパルス信号をパルス信号ごとに増幅対象の所望信号として取得するパルス信号取得部と、
ダミー信号を生成するダミー信号生成部と、
前記所望信号の前後に前記ダミー信号を合成し、合成信号を出力する合成部と、
前記合成信号を増幅し、増幅合成信号を出力する増幅器と、
前記所望信号のパワーを検知するパワー検知部と、
を備え、
前記ダミー信号は、前記所望信号と分離可能な信号であり、
前記合成信号のパワーは、前記増幅器が非線形動作するパワーであり、
前記ダミー信号生成部は、前記パワー検知部が検知したパワーに基づいて、前記所望信号が存在する時間の前後にあらかじめ定めた時間を付加した時間の範囲は、前記合成信号のパワーが一定となるようにダミー信号を生成すし、
前記受信装置は、受信した増幅合成信号から前記ダミー信号が増幅された信号を除去して前記所望信号が増幅された信号である増幅所望信号を取り出し、出力する分離部を備える
ことを特徴とする送受信システム
【請求項5】
請求項1または3記載の増幅装置であって、
前記増幅器は、GaN増幅器である
ことを特徴とする増幅装置。
【請求項6】
請求項2または4記載の送受信システムであって、
前記増幅器は、GaN増幅器である
ことを特徴とする送受信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス信号を増幅する高出力な増幅装置、および増幅装置を用いた送受信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
パルス信号を増幅する高出力な増幅装置としては、レーダの送信信号を生成する増幅装置などが従来技術として知られている。例えば、半導体増幅器を用いた多くのレーダでは、送信信号としてパルス信号区間内で周波数を直線的に変化させたチャープ信号を用い、受信側でパルス圧縮処理を施して電子管に匹敵する探知距離性能を得ている。半導体増幅器には、熱伝導率、バンドギャップ、耐圧等に優れ、GaAsと同等のサイズでも大きな電力を扱えるGaN(Gallium Nitride)が用いられることが多い。このようなGaNを用いた増幅装置に関する文献には、非特許文献1~4などがある。
【0003】
また、パルス送信装置として特許文献1の技術も知られており、パルスの振幅歪みと位相歪みを低減するように、パルス列内のパルス間の間隙または先頭のパルスの直前またはその両方にダミーパルスを挿入することが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平2-116769号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】S. C. Cripps, RF Power Amplifiers for Wireless Communications. Artech House, Boston, London, 2006.
【文献】H. Chen, L.J. Jiang, X. F. Ji, Y.X. Zhang, “Design of an X-band pulsed SSPA based on a cascade technique”, Proc. IEEE Int. Conf. Microw. Technol. Comput. Electromagn, pp. 152-155, May 2011.
【文献】C. K. Chu, H. K. Huang, H. Z. Liu, C. H. Lin, C. H. Chang, C. L. Wu, C. S. Chang, Y. H. Wang, “An X-band high-power and high-PAE PHEMT MMIC power amplifier for pulse and CW operation”, IEEE Microw. Wireless Compon. Lett., vol. 18, no. 10, pp. 707-709, Oct. 2008.
【文献】C. Wang, Y. Xu, X. Yu, C. Ren, Z. Wang, H. Lu, T. Chen, B. Zhang, and R. Xu, “An electrothermal model for empirical large-signal modeling of AlGaN/GaN HEMTs including self-heating and ambient temperature effects,” IEEE Trans. Microwave Theory Tech., vol. 62, no. 12, pp. 2878-2887, Dec. 2014.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、GaNを用いた半導体増幅素子では出力電力に応じて利得や効率などが変化する(非特許文献1参照)。GaN増幅器に特徴的な大電力動作は非線形領域での動作となり、その最大電力出力時には線形領域と比較して3dB以上の利得低下が生じていることも珍しくはない(非特許文献2,3参照)。また、電力効率の変化はデバイス周辺の発熱量の変化となる。この温度変化は、半導体デバイスの構造によって決まり、RF信号のエンベロープとは一致しない。そのためGaN増幅器ではヒステリシスが発生し、それはメモリー効果と呼ばれ、出力信号の線形性に影響を与える(非特許文献4参照)。複数素子の動作における各素子間の個体差、および信号諸元、周囲温度の変化などもこれらの特性に影響を与えると考える。
【0007】
また、高い出力電力を扱う増幅装置では発熱量も大きくなるため、パルス同士の間全体にダミー信号を挿入すると発熱の問題が深刻になるので、特許文献1の技術は使えない。
【0008】
本発明は、パルス信号を非線形領域で増幅するような増幅装置において、波形の歪みを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の増幅装置は、パルス信号取得部、ダミー信号生成部、合成部、増幅器、分離部を備える。パルス信号取得部は、増幅対象のパルス信号である所望信号を取得する。ダミー信号生成部は、ダミー信号を生成する。合成部は、所望信号の前後にダミー信号を合成し、合成信号を出力する。増幅器は、合成信号を増幅し、増幅合成信号を出力する。分離部は、増幅合成信号から所望信号が増幅された信号である増幅所望信号を取り出し、出力する。なお、合成信号のパワーは、増幅部が非線形動作するパワーである。また、所望信号が存在する時間に、あらかじめ定めた時間を付加した時間の範囲は、合成信号のパワーが一定である。
【0010】
本発明の第2の増幅装置は、パルス信号取得部、ダミー信号生成部、合成部、増幅器を備える。パルス信号取得部は、増幅対象のパルス信号である所望信号を取得する。ダミー信号生成部は、ダミー信号を生成する。合成部は、所望信号の前後にダミー信号を合成し、合成信号を出力する。増幅器は、合成信号を増幅し、増幅合成信号を出力する。なお、ダミー信号は、所望信号と分離可能な信号である。合成信号のパワーは、増幅部が非線形動作するパワーである。また、所望信号が存在する時間に、あらかじめ定めた時間を付加した時間の範囲は、合成信号のパワーが一定である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の増幅装置によれば、非線形性と過渡応答の影響によってパルス信号の形状に影響が出る部分にはダミー信号を配置し、増幅後にダミー信号を除去するので、パルス信号の歪みを低減して増幅できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】増幅器にパルス信号を入力したときの入出力特性の実験結果を示す図。
図2図1の特性を有する増幅器にパルス信号を入力した際の出力の実測結果を示す図。
図3図2の立ち上がりと立下りの部分の横軸を拡大した図。
図4】非線形性のみを考慮したシミュレーションと実験の測定結果との違いを示す図。
図5図2の信号にパルス圧縮を行った実験結果を示す図。
図6】実施例1の増幅装置の機能構成例を示す図。
図7】本発明の増幅装置の動作のイメージを示す図。
図8】本発明の増幅装置でパルス信号を増幅した結果を示す図。
図9図8の立ち上がりと立下りの部分の横軸を拡大した図。
図10】本発明の適用前(図3)と適用後(図9)の違いを示す図。
図11図8の信号にパルス圧縮を行った実験結果を示す図。
図12】変形例2の送受信システムの機能構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【実施例1】
【0014】
<分析>
図1に増幅器にパルス信号を入力したときの入出力特性の実験結果を示す。横軸は入力信号のパワー、縦軸は出力信号のパワーである。実験では、プリアンプはGaAs増幅素子、ドライバーアンプとパワーアンプはGaN増幅素子とし、これらを直列に3段接続した増幅器を用いた。パルス信号は、中心周波数が9.41GHz、パルス幅が4μ秒、掃引周波数幅(Sweep Frequency Width)が15MHz、繰り返し周波数が2600Hz、立ち上がり時間と立下り時間が0.4μ秒である。入力パワーが-23dBmのときは、出力パワーは43dBmであり、利得は66dBである。この付近では増幅器は線形に動作していることが分かる。入力パワーが-15dBmのときは、出力パワーは50dBmであり、利得は65dBである。入力パワーが-10dBmのときは、出力パワーは51dBmであり、利得は61dBである。この付近では増幅器は非線形に動作していることが分かる。入力パワーが-10dBmのときは、線形領域での動作に比べ、5dB利得が下がっている。
【0015】
図2は、図1の特性を有する増幅器にパルス信号を入力した際の出力の実測結果である。横軸は時間、縦軸は正規化した振幅(その信号の最大値を0dBとした振幅)を示している。細かい点線(図中では“Amp In”と示されている)は、入力信号の包絡線を示している。長い点線(図中では“Out(50 dBm)”と示されている)は、出力信号のパワーが50dBmのときの出力信号の包絡線を示している。実線(図中では“Out(51 dBm)”と示されている)は、出力信号のパワーが51dBmのときの出力信号の包絡線を示している。なお、以下の説明では、「包絡線」という記載を省略することもあるが、信号の形状とは包絡線の形状を、信号の歪みとは包絡線の歪みを意味している。図3は、図2の立ち上がりと立下りの部分の横軸を拡大した図である。図3(A)は立ち上がり部分、図3(B)は立下り部分を示している。立ち上がりと立下りにおいて、振幅の変化が急峻になっていることが分かる。また、振幅の最大値よりも6dB小さい振幅でのパルス幅は、出力信号のパワーが51dBmのときが最も広い。つまり、非線形領域で動作させると、増幅器は、パルス幅が広くなる挙動になることが分かる。
【0016】
図4に非線形性のみを考慮したシミュレーションと実験の測定結果との違いを示す。横軸は時間、縦軸は正規化した振幅である。細かい点線(図中では“Amp In”と示されている)は、入力信号の包絡線を示している。一点鎖線(図中では“Out(43 dBm)”と示されている)は、出力信号のパワーが43dBmのときの出力信号の包絡線を示している。長い点線(図中では“Out(50 dBm)”と示されている)は、出力信号のパワーが50dBmのときの出力信号の包絡線を示している。図4(A)は、図1に示した非線形性に関する特性のみを考慮したシミュレーション結果である。図4(B)は、図3(A)に示した立ち上がりの特性に関する分析を示している。なお、図4(A)では入力信号の包絡線(細かい点線)は、出力信号のパワーが43dBmのときの出力信号の包絡線(一点鎖線)と重なってしまい、認識できない。図4(B)では、非線形の影響と過渡応答を説明するため、入力信号の包絡線(細かい点線)と、出力信号のパワーが51dBmのときの出力信号の包絡線(実線)のみを示している。非線形の影響のみを考えた場合、出力パワーが大きくなると振幅の立ち上がりが急峻になり、パルス幅が広くなる傾向は生じる。しかし、入力信号に対する遅延は生じない。一方、遅延のみを考慮したのでは、パルス幅が広くなる現象を説明できない。図4(B)に示した測定結果となるのは、非線形の影響と過渡応答の両方が影響したものと考えられる。
【0017】
図5は、図2の信号にパルス圧縮を行った実験結果を示す。パルス圧縮では、参考文献1(J. E. Cilliers, J. C. Smit, “Pulse Compression Sidelobe Reduction by Minimization of Lp-Norms”, IEEE Trans. AERO, Vol. 43, No. 3, pp. 1238-1247, July 2007.)に基づいたミスマッチドフィルタを用いた。パルス圧縮は、レーダの場合は受信器が行う処理である。増幅器で生じたパルス波形の歪みは、パルス圧縮の出力のSN比(SNR:Signal to Noise Ratio)を劣化させる。図5の例では、SN比は45dB程度である。また、非線形領域では入力信号のパワーが大きいほど、劣化することも分かった。
【0018】
<本発明>
図6に本発明の増幅装置の機能構成例を示す。増幅装置100は、パルス信号取得部110、ダミー信号生成部120、合成部130、増幅器140、分離部150を備える。図7に本発明の増幅装置の動作のイメージを示す。図中で示している波形は、横軸は時間、縦軸は最大値で正規化した振幅である。図中の波形は、実線が所望信号または増幅所望信号、細かい点線がダミー信号または増幅ダミー信号、一点鎖線が合成信号または増幅合成信号をイメージしている。ただし、増幅後の信号と分離後のでは、参考情報として入力された所望信号を2点鎖線で示している。
【0019】
パルス信号取得部110は、増幅対象のパルス信号である所望信号を取得する。「取得する」とは、何らかの方法で所望信号を取得すればよいという意味であり、パルス信号取得部110が外部から所望信号を受信することと、パルス信号取得部110が所望信号を生成することの両方を含んでいる。
【0020】
ダミー信号生成部120は、ダミー信号を生成する。ダミー信号は、所望信号と合成しても、分離可能な信号である。ダミー信号は例えば、所望信号とは周波数が十分に離れた信号にすればよい。この場合は、所望信号とダミー信号が合成された信号からローパスフィルタまたはハイパスフィルタを利用することで、所望信号のみを取り出すこと(ダミー信号と分離すること)ができる。また、変調方式を所望信号とダミー信号で変えてもよい。例えば、所望信号は直交波周波数分割多重(OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)の変調方式で変調し、ダミー信号は四位相偏移変調(QPSK:Quadrature Phase Shift Keying)で変調してもよい。この場合も、所望信号とダミー信号が合成された信号から直交波周波数分割多重の変調方式を利用して所望信号を取り出すこと(ダミー信号と分離すること)ができる。
【0021】
合成部130は、所望信号の前後にダミー信号を合成し、合成信号を出力する。合成信号のパワーは、増幅器140が非線形動作するパワーである。また、所望信号が存在する時間に、あらかじめ定めた時間を付加した時間の範囲は、合成信号のパワーが一定である。つまり、ダミー信号生成部120は、所望信号の前後に配置されるタイミングで、合成信号のパワーが一定となるようにダミー信号を生成する。例えば、パルス信号取得部110が所望信号を取得するタイミングと所望信号のパワーをあらかじめ定めておき、そのタイミングとパワーに基づいて、ダミー信号生成部120がダミー信号を生成すればよい。なお、増幅装置100に求められる歪み低減の要求を満たせる程度に一定となっていればよい。図7の増幅器140の入力側の合成信号(1点鎖線)は、所望信号が存在する時間よりも広い範囲でパワーが一定になっている。例えば、図1に特性を示した増幅器であれば、所望信号のパワーは-10dBm程度(非線形領域)であり、その前後にダミー信号を付加することで、広い範囲で-10dBmとなるように合成信号を生成する。
【0022】
増幅器140は、合成信号を増幅し、増幅合成信号を出力する。図7の増幅器140の出力側の増幅合成信号(1点鎖線)では、立ち上がりと立下りの部分に図3に示したような歪みが生じる。この歪みが生じる部分はダミー信号が増幅された増幅ダミー信号の部分である。一方、非線形領域で増幅していても、パワーが一定の部分は、利得と発熱量は一定なので歪みが生じない。したがって、所望信号が存在する範囲では歪みは生じない。上述の所望信号が存在する時間に付加する「あらかじめ定めた時間」は、非線形性と過渡応答の影響を所望信号が受けないようにする時間とすれば十分であり、適宜定めればよい。例えば、図3の例の場合、「あらかじめ定めた時間」は1μ秒程度で十分である。このように、「あらかじめ定めた時間」は、増幅器140の非線形動作が安定するために付加された時間とすればよい。あらかじめ定めた時間を、増幅器140の非線形動作が安定するために付加された時間とすれば、ダミー信号を増幅するために増幅器140から発生する熱を少なくできる効果もある。増幅器140には、半導体増幅素子を用いればよいが、GaN増幅器を用いれば、非線形領域を利用して高出力のパルス信号を出力しやすい。なお、「GaN増幅器」とは、GaN増幅素子が含まれている増幅器を意味している。例えば、実験で用いたようなプリアンプはGaAs増幅素子、ドライバーアンプとパワーアンプはGaN増幅素子とし、これらを直列に3段接続した増幅器は、「GaN増幅器」に含まれる。
【0023】
分離部150は、増幅合成信号から所望信号が増幅された信号である増幅所望信号を取り出し、出力する。所望信号の周波数よりもダミー信号の周波数を高くしている場合は、分離部150はローパスフィルタとすればよい。所望信号の周波数よりもダミー信号の周波数を低くしている場合は、分離部150はハイパスフィルタとすればよい。所望信号を変調している場合は、分離部150は変調方式にしたがって増幅所望信号を取り出せばよい。
【0024】
本発明の増幅装置によれば、非線形性と過渡応答の影響によってパルス信号の形状に影響が出る部分にはダミー信号を配置し、増幅後にダミー信号を除去するので、パルス信号の歪みを低減して増幅できる。
【0025】
<実証実験>
図8は、本発明の増幅装置でパルス信号を増幅した結果を示す図である。横軸は時間、縦軸は正規化した振幅(その信号の最大値を0dBとした振幅)を示している。細かい点線(図中では“Amp In”と示されている)は、入力信号の包絡線を示している。長い点線(図中では“Out(50 dBm)”と示されている)は、出力信号のパワーが50dBmのときの出力信号の包絡線を示している。実線(図中では“Out(51 dBm)”と示されている)は、出力信号のパワーが51dBmのときの出力信号の包絡線を示している。実験では、図1の特性を有する増幅器を増幅器140とし、図2に示した分析の実験と同じパルス信号をパルス信号取得部110が取得した。この実験では、ダミー信号は所望信号と中心周波数が異なる無変調パルス信号を用い、分離部150では帯域フィルタによりダミー信号を除去した。図9は、図8の立ち上がりと立下りの部分の横軸を拡大した図である。図9(A)は立ち上がり部分、図9(B)は立下り部分を示している。
【0026】
図10に、本発明の適用前(図3)と適用後(図9)の違いを示す。図10(A)は立ち上がり部分、図10(B)は立下り部分を示している。細かい点線(図中では“Amp In”と示されている)は、入力信号の包絡線を示している。長い点線(図中では“Before(51 dBm)”と示されている)は、図3の出力信号のパワーが51dBmのときの出力信号の包絡線を示している。実線(図中では“Proposed(51 dBm)”と示されている)は、図9の出力信号のパワーが51dBmのときの出力信号の包絡線を示している。本発明を適用すると、立ち上がりでも、立下りでも、振幅の変化が入力信号に近いことが分かる。
【0027】
図11は、図8の信号にパルス圧縮を行った実験結果を示す。パルス圧縮では、分析と同様に参考文献1に基づいたミスマッチドフィルタを用いた。図11の例ではSN比は50dB程度であり、図5の例に比べると5dB程度SN比が改善していることが分かる。
【0028】
本発明によればパルス波形の歪みを低減した増幅ができることを、実験においても示した。本発明は、増幅器自体の構成を変更、追加する必要が無い。また、信号緒元や周囲温度の変化があっても、本発明の構成を変更する必要はない。これらの点も本発明が有利な点である。
【0029】
[変形例1]
実施例1では、所望信号のパワーはあらかじめ定められていることを前提としていた。本変形例では、所望信号は、時間間隔を有して連続するパルス信号とする。パルス信号のパワーは温度変化などによって微妙に変化する。そこで、本変形例の増幅装置100は、パワー検知部160も備える。パワー検知部160は、所望信号のパワーを検知する。ダミー信号生成部120は、パワー検知部160が検知したパワーに基づいて、ダミー信号を生成すればよい。例えば、ダミー信号生成部120は、直近のあらかじめ定めた数の所望信号のパワーに基づいてパワーを調整してダミー信号を生成すればよい。このように直近の所望信号のパワーに基づけば、温度変化によるパワーの変動のように緩やかに変化するパワーの変動に対応できる。
【0030】
[変形例2]
実施例1では、増幅装置100が分離部150を備えていた。しかし、レーダのように送信装置と受信装置がある場合、受信装置に分離部を備えさせてもよい。図12に変形例2の送受信システムの機能構成例を示す。送受信システム230は、レーダのように送信装置210と受信装置220を備える。送信装置210は、増幅装置101と送信部180を備える。受信装置220は、受信部190と分離部150を備える。増幅装置101は、パルス信号取得部110、ダミー信号生成部120、合成部130、増幅器140を備える。パルス信号取得部110、ダミー信号生成部120、合成部130、増幅器140は実施例1と同じである。送信部180は、増幅合成信号を送信する。受信部190は、増幅合成信号を受信する。レーダの場合であれば、受信部190は、反射した増幅合成信号を受信する。分離部150は、受信した増幅合成信号から増幅所望信号を取り出す。なお、パルス信号取得部110が所望信号を取得する前の処理、分離部150が増幅所望信号を取り出した後の処理は、送受信システムごとの固有の処理を適宜行えばよい。したがって、図12にはそれらの処理を行う構成は示していない。また、変形例1と組み合わせてもよい。
【0031】
本変形例でも、非線形性と過渡応答の影響によってパルス信号の形状に影響が出る部分にはダミー信号を配置し、増幅後にダミー信号を除去するので、パルス信号の歪みを低減して増幅できる。
【符号の説明】
【0032】
100,101 増幅装置 110 パルス信号取得部
120 ダミー信号生成部 130 合成部
140 増幅器 150 分離部
160 パワー検知部 180 送信部
190 受信部 210 送信装置
220 受信装置 230 送受信システム
図1
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図5
図6
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図10
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図12