(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】沸騰冷却装置
(51)【国際特許分類】
F28D 15/02 20060101AFI20240814BHJP
H01L 23/427 20060101ALI20240814BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
F28D15/02 M
F28D15/02 102B
H01L23/46 A
H05K7/20 Q
(21)【出願番号】P 2021083732
(22)【出願日】2021-05-18
【審査請求日】2023-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】516319500
【氏名又は名称】株式会社ロータス・サーマル・ソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】井手 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】村上 政明
(72)【発明者】
【氏名】沼田 富行
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-204882(JP,A)
【文献】特開2013-243249(JP,A)
【文献】特開2015-197245(JP,A)
【文献】特開2019-204899(JP,A)
【文献】特開2001-068611(JP,A)
【文献】実開昭61-109143(JP,U)
【文献】特開昭61-176141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/02
H01L 23/427
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却対象物が取り付けられる受熱部、および放熱部を有し、受熱部に接した冷媒液が沸騰、蒸発して放熱部に熱を輸送する沸騰冷却装置であって、
前記受熱部が、
前記冷却対象物が取り付けられる取り付け面、および該取り付け面を除く領域に設けられた
互いに独立して平行に延びる複数の凹条からなる凹凸面を有する伝熱壁と、
該伝熱壁の前記凹凸面の上に重ねるように取り付けられる金属製多孔体であって、複数の貫通孔が形成され、該貫通孔の一方の開口が前記凹凸面に対面し、他方の開口が該凹凸面と反対側の空間に開放された金属製多孔体とより構成され、
少なくとも前記伝熱壁の凹凸面および前記金属製多孔体は前記冷媒液に浸漬されており、
前記伝熱壁の凹凸面は、前記凹条の延びる方向に沿って高さ位置が一方向に変化する傾斜面または垂直面であり、且つ各凹条の前記延びる方向の両端
部が開放された状態に、前記金属製多孔体が取り付けられ、
前記金属製多孔体が、金属凝固法で成形された一方向に延びた複数の気孔を有するロータス型ポーラス金属成形体であることを特徴とする沸騰冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒を用いた沸騰冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰冷却装置は、冷却対象物が取り付けられる受熱部、および放熱部を有し、受熱部に接した冷媒液が沸騰、蒸発して放熱部に熱を輸送する装置である。沸騰、蒸発が効率よく生じることで熱伝達率、すなわち冷却効率が向上する。
【0003】
従来から、受熱部に、多数の穴を形成し、凹凸粗面にすることで沸騰・蒸発を促進することが提案されている(例えば、特許文献1~3参照。)。とくに特許文献3は、伝熱壁の凹凸面の上に、さらに金属製多孔体を重ねるように取り付けて構成したものであり、互いに交差する凹凸空間が形成され、沸騰・蒸発がより促進され、冷却性能が向上することが確認されている。
【0004】
しかしながら、サーバコンピュータや電気自動車のインバータ等の近年の電子機器の発熱密度はとどまるところを知らず上昇を続けており、冷却効率の更なる向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-13396号公報
【文献】特開2017-15269号公報
【文献】特開2018-204882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、さらに冷却性能を高めることが可能な沸騰冷却装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上述の特許文献3に係る沸騰冷却装置の更なる冷却性能の向上について検討を進める中で、金属製多孔体の貫通孔、および凹凸面の凹条を通じたこれら部材の間の空間への冷媒液の供給、蒸気(気泡)の排出が、とくに蒸気量が多くなってくると互いに干渉しあう等によって流体抵抗が大きくなり、スムーズに循環できず、これが冷却性能に限界を与える要因になっているのではないかと考えた。
【0008】
そして、さらに鋭意検討した結果、凹凸面を、凹条の延びる方向に沿って高さ位置が一方向に変化する傾斜面または垂直面とすることで、発生した蒸気(気泡)を浮力の力で前記凹条に沿ってスムーズに移動、排出させることができ、これによりポンピング作用が生じ、前記金属製多孔体の貫通孔を通じた冷媒液の供給も促進され、冷媒の供給・蒸発・排出の循環が促進される結果、冷却性能を更に高めることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下の発明を包含する。
(1) 冷却対象物が取り付けられる受熱部、および放熱部を有し、受熱部に接した冷媒液が沸騰、蒸発して放熱部に熱を輸送する沸騰冷却装置であって、前記受熱部が、前記冷却対象物が取り付けられる取り付け面、および該取り付け面を除く領域に設けられた複数の凹条からなる凹凸面を有する伝熱壁と、該伝熱壁の前記凹凸面の上に、前記凹条の少なくとも一部が開放された状態で重ねるように取り付けられる金属製多孔体であって、複数の貫通孔が形成され、該貫通孔の一方の開口が前記凹凸面に対面し、他方の開口が該凹凸面と反対側の空間に開放された金属製多孔体とより構成され、少なくとも前記伝熱壁の凹凸面および前記金属製多孔体は前記冷媒液に浸漬されており、前記伝熱壁の凹凸面は、前記凹条の延びる方向に沿って高さ位置が一方向に変化する傾斜面または垂直面であり、且つ該凹条の前記延びる方向の両端部のうち少なくとも高さの高い位置である上側の端部が開放されていることを特徴とする沸騰冷却装置。
【0010】
(2) 前記凹凸面が、平行に延びる複数の前記凹条より構成されており、各凹条の両端部が開放された状態に、前記金属製多孔体が取り付けられる(1)記載の沸騰冷却装置。
【0011】
(3) 前記金属製多孔体が、金属凝固法で成形された一方向に延びた複数の気孔を有するロータス型ポーラス金属成形体である(1)又は(2)記載の沸騰冷却装置。
【発明の効果】
【0012】
以上にしてなる本願発明に係る沸騰冷却装置によれば、とくに蒸気の発生量が多くなった場合でも発生した蒸気(気泡)を浮力の力で凹条に沿ってスムーズに移動、排出させることができ、これによるポンピング作用によって金属製多孔体の貫通孔を通じた冷媒液の供給も促進され、全体として冷媒の供給・蒸発・排出の循環が促進される結果、冷却性能を更に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の代表的実施形態にかかる沸騰冷却装置を正面から見た説明図。
【
図3】同じく沸騰冷却装置の伝熱壁及び金属製多孔体からなる受熱部を示す斜視図。
【
図5】同じく受熱部における冷媒の移動を示した説明図。
【
図6】本発明の受熱部の変形例による冷媒の移動を示す説明図。
【
図7】同じく変形例の受熱部における冷媒の移動を示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
【0015】
図1及び
図2に示すように、本発明の沸騰冷却装置1は、冷却対象物9が取り付けられる受熱部11と、放熱部12と、冷媒液10とを備え、受熱部11に接した冷媒液10が沸騰・蒸発し、気泡となって潜熱として放熱部12に熱を輸送する装置である。本例では、冷媒液10が内部に封入された収納容器7に、受熱部11と放熱部12が内装され、受熱部11に冷却対象物9が取り付けられている。
【0016】
本例の受熱部11は、収納容器7の内側の冷媒液10に完全に浸漬される冷却対象物9に取り付ける形で(浸漬型)、同じく冷媒液10に完全に浸漬された状態に設けられているが、冷却対象物9を収納容器7の容器壁(側壁)の外面に取り付けるようにし(非浸漬型)、当該容器壁自体を受熱部11として構成して、当該受熱部(の内面側)のみを冷媒液10に接触させるようにしてもよい。
【0017】
受熱部11は、
図3~
図5にも示すように、冷却対象物9が取り付けられるとともに、冷媒液10が接する凹凸面21を有する伝熱壁2と、伝熱壁2の凹凸面21の上に重ねるように取り付けられる金属製多孔体3とより構成されている。
【0018】
受熱部11と放熱部12は、一つの収納容器7内に設けられているが、互いに連通した内部空間を備えたものであれば、各部を構成する各容器が配管等で連結されたものでもよい。この場合、受熱部11から放熱部12に向けて気化した冷媒が通る流路と放熱部12で液体に戻った冷媒が受熱部11に還流する流路の2流路で連通したものでもよい。その他、従来から公知の沸騰冷却装置の連通形態を広く適用できる。
【0019】
放熱部12は、
図1及び
図2に示すように、本例では、内部に冷却水が流れる凝縮パイプ8が設けられ、気化(蒸発)した冷媒がこの凝縮パイプ8に接して熱を奪われ、液化するように構成されている。ただし、本発明はこのような放熱形態に何ら限定されず、放熱部の外壁に送風等で放熱される放熱フィンを設け、内壁を通じて冷媒から熱を吸熱するものなど、従来から公知の沸騰冷却装置の放熱形態を広く採用できる。
【0020】
冷媒(冷媒液)についても、冷却対象物9を浸漬させる浸漬型と浸漬させない非浸漬型の違いや、浸漬型で構成する場合も冷却対象物9の構造、素材、その他、受熱部11や放熱部12の素材等に応じて、水、アルコール、炭化フッ素系冷媒などの従来から公知の冷媒から適宜選択して用いることができる。
【0021】
伝熱壁2は、
図4に示すように、良熱伝導性材料より構成され、冷却対象物9が取り付けられる取り付け面20と、該取り付け面20を除く領域に設けられた複数の凹条22の溝からなる前記凹凸面21とを有している。本例では、前面側に前記凹凸面21が形成され、後面側に前記取り付け面20が形成された板体より構成されている。
【0022】
伝熱壁2の凹凸面21は、凹条22の延びる方向に沿って高さ位置が一方向に変化する傾斜面または垂直面(本例では垂直面)とされている。凹凸面21は、互いに独立した溝で平行に延びる複数の凹条22より構成されており、各凹条22が上下方向に延びている。
【0023】
また、凹条22の延びている方向の両端部のうち、少なくとも高さの高い位置である上端部22aは、当該伝熱壁2の上端2aから外部(容器内部空間)に開放されており、冷媒の蒸気が当該上端部22aから抜けやすくなっている。本例では、下端部22bも下方に開放されており、冷媒液10が凹条22内に供給されやすくなるように構成されている。
【0024】
金属製多孔体3は、複数の貫通孔30が形成されており、伝熱壁2の凹凸面21の上(図面では前面)に重ねるように取り付けられ、貫通孔30の一方の開口が凹凸面21に対面し、他方の開口が該凹凸面21と反対側の空間に開放された状態とされている。金属製多孔体3は、凹凸面21と同じ外形、寸法で凹凸面21の上に完全に重なるように設けられているが、凹凸面21より大きい又は小さい寸法に設定されてもよい。
【0025】
本実施形態の沸騰冷却装置1では、冷媒の沸騰は、凹凸面21と金属製多孔体3との接触部、すなわち凹条22間の接触部で主に発生し、貫通孔30の凹凸面21と反対側の開口部の冷媒液との界面となるエッジでも発生する。そして、
図5に示すように、金属製多孔体3の貫通孔30や凹条22の上端部の開放部から外部に排出される。冷媒液は、金属製多孔体3の貫通孔30や凹条22の上下端部の開放部から供給される。
【0026】
処理熱量が小さく、蒸気の発生量が少ない場合は、蒸気は凹条22の長い流路を抜けるより、直近の貫通孔30から外部に抜ける方が流体抵抗が小さいため貫通孔30から抜けていき、凹条22は主に冷媒液の供給路として機能する。これに対し、処理熱量が大きくなり、蒸気の発生が多くなると、蒸気は貫通孔30および凹条22の両方から抜ける方が流体抵抗が小さくなるので、凹条22も徐々に蒸気排出の役割も兼ねるように変化することになる。
【0027】
一旦、凹条22に蒸気粒の上昇が起こると、浮力によるポンピング作用も合いまり、冷媒液の供給と蒸気の排出が激しく行われるようになり、全体として冷媒の供給・蒸発・排出の循環が促進される結果、冷却性能を更に高めることができる。また、貫通孔30は、処理熱量にかかわらず冷媒液の供給、蒸気の排出の双方を担うが、とくに後述するロータス型ポーラス金属成形体の多孔材によると、孔径のばらつきがあるため、上記冷媒液の供給/蒸気の排出を内径の異なる貫通孔3同士で役割分担され、効率よく機構する。
【0028】
金属製多孔体3に用いる材料としては、アルミニウムや鉄、銅など従来の熱交換器の配管やフィンに使用される良熱伝導性の金属材料を広く適用できる。一方向に延びる貫通孔は、ドリル加工やレーザ加工など公知の方法で形成することができるが、本例では、貫通孔を有する金属製多孔体は、金属凝固法で成形された一方向に延びた複数の気孔を有するロータス型ポーラス金属成形体を、気孔の延びる方向に交差する方向に切断加工してなる多孔材で構成されている。
【0029】
このようなロータス型ポーラス金属成形体は、高圧ガス法(Pressurized Gas Method)(例えば特許第4235813号公報開示の方法)や、熱分解法(Thermal Decomposition Method)など、公知の方法で成形することができる。貫通孔30は、前記切断により分断された前記気孔である。このようにロータス型ポーラス金属成形体から切り出した多孔材を用いることで、一方向に延びる多数の貫通孔を有する金属製多孔体6を低コスト且つ容易に得ることができる。
【0030】
金属製多孔体3の形状は、貫通孔30の延びている方向の寸法が比較的小さい扁平な板状とされているが、その他の種々の形状に構成しても勿論よい。
【0031】
金属製多孔体3は、凹凸面21に対して凹条22の両端を解放させた状態でその他の部位をすべて覆うように一つのみ設けられているが、
図6及び
図7に示すように、隙間40をあけて複数並設したものでもよい。これにより、凹条22の開放部を両端のみでなく途中の隙間40にも設けることができ、冷媒液の供給や蒸気の排出をスムーズに行わせて冷却効率を高めることが可能となる。
【0032】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0033】
1 沸騰冷却装置
10 冷媒液
11 受熱部
12 放熱部
2 伝熱壁
2a 上端
20 取り付け面
21 凹凸面
22 凹条
22a 上端部
22b 下端部
3 金属製多孔体
30 貫通孔
7 収納容器
8 凝縮パイプ
9 冷却対象物