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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】ロウ付け方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 37/02 20060101AFI20240814BHJP
   B23K 1/19 20060101ALI20240814BHJP
   B23K 1/20 20060101ALI20240814BHJP
   B23K 26/342 20140101ALI20240814BHJP
【FI】
C04B37/02 B
B23K1/19 Z
B23K1/20 G
B23K1/19 J
B23K26/342
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020125347
(22)【出願日】2020-07-22
(65)【公開番号】P2022021640
(43)【公開日】2022-02-03
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(73)【特許権者】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000157072
【氏名又は名称】関東冶金工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮沢 靖幸
(72)【発明者】
【氏名】薩田 寿隆
(72)【発明者】
【氏名】神田 輝一
(72)【発明者】
【氏名】江口 広輝
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-023554(JP,A)
【文献】特開平10-212638(JP,A)
【文献】特開2014-067575(JP,A)
【文献】内堀宗民, 宮沢靖幸, 佐々木俊哉,C/CコンポジットとSUS304とのろう付時の界面反応,溶接学会全国大会講演概要(Web) ,2019年,104号,P.118-119
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/00-37/04
B23K 1/19、1/20、26/342
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料と炭素繊維強化炭素複合材料とをロウ材で接合するロウ付け方法であって、
前記金属材料の上面に沿って前記ロウ材からなるロウ材部を複数配置するロウ材部配置工程と、
前記ロウ材部に当接するように前記炭素繊維強化炭素複合材料を配置して、前記金属材料の上面に前記ロウ材部を介して前記炭素繊維強化炭素複合材料が配置された中間体を作製する中間体作製工程と、
前記中間体を加熱し、その後、冷却して溶融した前記ロウ材部を硬化させ、前記金属材料と前記炭素繊維強化炭素複合材料とをロウ付けするロウ付け工程と、を含み、
前記ロウ材部配置工程は、前記金属材料の上面に沿って前記ロウ材部間に空間部が形成されるように複数の前記ロウ材部を配置し、
前記ロウ付け工程は、前記中間体上部側を覆う誘電率の低い炭化ケイ素からなる被覆材を設置すると共に、前記中間体の側部側の四方を囲み活性ガスを吸引するゲッター材とを配置してマイクロ波炉を用い、硬化した前記ロウ材部間に前記空間部が残る程度の時間として10分以上20分未満の加熱を行い、前記中間体の前記炭素繊維強化炭素複合材料と前記金属材料の接合部において前記空間部の領域に比べて前記金属材料と前記ロウ材部とが当接している領域のほうが強く加熱されるように選択的に加熱することを特徴とするロウ付け方法。
【請求項2】
前記金属材料は、ステンレス鋼材であることを特徴とする請求項1に記載のロウ付け方法。
【請求項3】
前記ロウ材部配置工程において、複数の前記ロウ材部は、前記金属材料の上面に沿って線状に配置することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のロウ付け方法。
【請求項4】
前記ロウ材部配置工程は、レーザー粉体肉盛溶接法を用いて粉末ロウ材から複数の前記ロウ材部を配置することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のロウ付け方法。
【請求項5】
前記ロウ材は、JIS規定の銅・黄銅ロウ、リン銅ロウ、銀ロウ、アルミニウムロウ、ニッケルロウ、金ロウ、パラジウムロウのいずれか一つである請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のロウ付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料と炭素繊維強化炭素複合材料とのロウ付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、炭素繊維強化炭素複合材料を他の材料と接合する技術はほとんど無く、炭素繊維強化炭素複合材料は単体で使用される事が多かった。炭素繊維強化炭素複合材料の軽量高強度、高耐熱性などの特性をさらに活用するためには、炭素繊維強化炭素複合材料と金属材料との接合が必要であった。しかし、融点が極端に高い炭素繊維強化炭素複合材料をアーク溶接に代表される溶融溶接技術で金属材料と接合する事は不可能であった。
【0003】
炭素繊維強化炭素複合材料を冶金的に金属材料と接合する場合、ロウ付けが有効であると言われてきた。一方、ロウ付けの場合、炭素繊維強化炭素複合材料の濡れ性を改善するために活性金属であるTiを含有する特殊なロウ材が必要であった。また、炭素繊維強化炭素複合材料と金属材料とは熱膨張係数が大きく異なるため、熱収縮の度合が異なる。したがって、ロウ付け界面で健全な接合が得られても、冷却時、熱膨張係数差に起因して、熱膨張係数が小さい炭素繊維強化炭素複合材料に残留応力によるクラックが発生し、接合に至らない場合が多かった。
【0004】
このような問題を解決するため、特許文献1には、金属材料と接合させる面及びその近傍における接合面方向の繊維含有率を下げて、接合面方向における熱膨張率を増加・調整された炭素繊維強化炭素複合材料が開示されている。また、このような炭素繊維強化炭素複合材料と金属材料とをロウ付けするロウ付け方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-212638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のロウ付け方法では、炭素繊維強化炭素複合材料の繊維含有率の調整が必要で、汎用の炭素繊維強化炭素複合材料を用いることが出来ず、材料選定に自由度が無かった。そのため、汎用の炭素繊維強化炭素複合材料と金属材料とのロウ付けの際には、ロウ付け時の冷却速度を遅く、例えば1K/minする事で、炭素繊維強化炭素複合材料での残留応力によるクラックの発生を防止している。この場合、冷却速度が遅いため、ロウ付け工程において長時間の冷却が必要となる。特に、連続加熱炉の場合は冷却ゾーンが長尺となり、生産性が低く、工業的に利用する事が難しいという問題がある。
そこで、本発明はこのような問題を解決すべく創案されたもので、その課題は炭素繊維強化炭素複合材料と金属材料とのロウ付けの際、短時間の冷却でも、残留応力によるクラックの発生を防止でき、かつ、生産性が高く工業的に利用可能なロウ付け方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明に係るロウ付け方法は、金属材料と炭素繊維強化炭素複合材料とをロウ材で接合するロウ付け方法であって、前記金属材料の上面に沿って前記ロウ材からなるロウ材部を複数配置するロウ材部配置工程と、前記ロウ材部に当接するように前記炭素繊維強化炭素複合材料を配置して、前記金属材料の上面に前記ロウ材部を介して前記炭素繊維強化炭素複合材料が配置された中間体を作製する中間体作製工程と、前記中間体を加熱し、その後、冷却して溶融した前記ロウ材部を硬化させ、前記金属材料と前記炭素繊維強化炭素複合材料とをロウ付けするロウ付け工程と、を含み、前記ロウ材部配置工程は、前記金属材料の上面に沿って前記ロウ材部間に空間部が形成されるように複数の前記ロウ材部を配置し、前記ロウ付け工程は、硬化した前記ロウ材部間に前記空間部が残るように、前記中間体の前記炭素繊維強化炭素複合材料を選択的に加熱することを特徴とする。
また、本発明に係るロウ付け方法は、前記金属材料がステンレス鋼材であることが好ましい。さらに、本発明に係るロウ付け方法は、前記ロウ材部配置工程において、複数の前記ロウ材部は、前記金属材料の上面に沿って線状に配置することが好ましい。
【0008】
本発明に係るロウ付け方法によれば、ロウ材部配置工程とロウ付け工程とによって、炭素繊維強化炭素複合材料が選択的に加熱されるため、金属材料および複数配置されたロウ材部の加熱が抑制される。それにより、溶融したロウ材部がロウ材部間に形成された空間部を残して濡れ拡がる。これにより、炭素繊維強化炭素複合材料、金属材料およびロウ材が均一に加熱される従来法に比べて、冷却の際、熱収縮によって収縮する領域が小さくなるため、残留応力によるクラックが炭素繊維強化炭素複合材料に発生することを防止できる。その結果、冷却速度を速くして冷却時間を短縮することが可能となり、生産性の向上、工業的な利用が可能となる。
【0009】
本発明に係るロウ付け方法は、前記ロウ材部配置工程が、レーザー粉体肉盛溶接法を用いて粉末ロウ材から複数の前記ロウ材部を配置することが好ましい。
本発明に係るロウ付け方法によれば、レーザー粉体肉盛溶接法を用いることによって、ロウ材部間に空間部が形成された複数のロウ材部を金属材料の上面に配置しやすくなる。
【0010】
本発明に係るロウ付け方法は、前記ロウ付け工程が、マイクロ波炉を用いて、前記中間体を加熱して冷却することが好ましい。
本発明に係るロウ付け方法によれば、マイクロ波炉を用いることによって、炭素繊維強化炭素複合材料を不均一に加熱しやすくなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るロウ付け方法によれば、炭素繊維強化炭素複合材料と金属材料とのロウ付けの際、短時間の冷却でも、残留応力によるクラックの発生を防止できる生産性が高く、工業的に利用可能なロウ付け方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係るロウ付け方法のフローチャートである。
図2A】本発明に係るロウ付け方法のロウ材部配置工程において金属材料の上面へ配置された複数のロウ材部を示す平面図である。
図2B図2AのIIB-IIB線における断面図である。
図2C】レーザー粉体肉盛溶接法におけるロウ材部の配置方法を説明する説明図である。
図3A】本発明に係るロウ付け方法の中間体作製工程において金属材料の上面へロウ材部を介して配置された炭素繊維強化炭素複合材料を示す平面図である。
図3B図3AのIIIB-IIIB線における断面図である。
図4A】本発明に係るロウ付け方法のロウ付け工程においてマイクロ波炉内に配置された中間体を示す断面図である。
図4B】本発明に係るロウ付け方法のロウ付け工程においてロウ付け体のロウ材部を示す部分拡大断面図である。
図4C】本発明に係るロウ付け方法のロウ付け工程において中間体を覆うように配置された被覆材及びゲッター材を示す平面図である。
図4D図4CのIVD-IVD線における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るロウ付け方法の実施形態について詳細に説明する。
本発明のロウ付け方法は、金属材料と炭素繊維強化炭素複合材料とをロウ材で接合するロウ付け方法である。
【0014】
炭素繊維強化炭素複合材料は、母材を繊維で強化した繊維強化複合材料の一種で、繊維として炭素繊維を、母材(充填材)としても炭素を用いたものである。そして、炭素繊維強化炭素複合材料は、例えば、炭素繊維とプラスチック(主に熱硬化性樹脂、例えばエポキシ樹脂)による炭素繊維強化プラスチックを成形硬化後、不活性雰囲気中で熱処理し、母材のプラスチックを炭化させて製造される。
【0015】
炭素繊維強化炭素複合材料の形状は、炭素繊維強化炭素複合材料と金属材料とをロウ付けした製品の使用目的に対応して適宜選定され、平面視形状が円形、矩形等の板状であることが好ましい。また、炭素繊維強化炭素複合材料の大きさについても、製品の使用目的に対応して適宜設定される。
【0016】
金属材料は、炭素繊維強化炭素複合材料と熱膨張係数が異なる金属から構成される。金属の種類は、製品の使用目的に対応して適宜設定され、ステンレス鋼が好ましいが、純銅を含む銅合金等であってもよい。また、金属材料の形状は、製品の使用目的に対応して適宜設定され、平面視形状が円形、矩形等の板状であることが好ましい。さらに、金属材料の大きさについても、製品の使用目的に対応して適宜設定される。
【0017】
ロウ材は、JIS規定の銅・黄銅ロウ、リン銅ロウ、銀ロウ、アルミニウムロウ、ニッケルロウ、金ロウ、パラジウムロウが用いられ、金属材料の金属種に対応して適宜設定される。金属材料がステンレス鋼の場合には、銀ロウを用いることが好ましく、銀・銅共晶合金ロウを用いてもよい。金属材料が純銅の場合には、銅・黄銅ロウ又はリン銅ロウを用いることが好ましい。また、ロウ材は、金属材料の上面にロウ材部を配置しやすいことから、粉末状又は箔状のロウ材が好ましい。
【0018】
本発明に係るロウ付け方法は、図1に示すように、ロウ材部配置工程S1と、中間体作製工程S2と、ロウ付け工程S3と、を含む。以下、各工程について説明する。
【0019】
(ロウ材部配置工程)
図2A図2Bに示すように、ロウ材部配置工程S1は、金属材料2の上面に沿ってロウ材からなるロウ材部3を、ロウ材部3間に空間部3aが形成されるように、複数配置する工程である。ロウ材部3の大きさ及び個数、空間部3aの大きさは、炭素繊維強化炭素複合材料1の大きさ、すなわち、ロウ材部3と当接する炭素繊維強化炭素複合材料1の下面の大きさに対応して適宜設定する。
【0020】
ロウ材部配置工程S1において、複数のロウ材部3の配置形態は、金属材料2の上面に沿って線状に配置することが好ましい。これによって、炭素繊維強化炭素複合材料1とロウ材部3との当接状態が良好となり、炭素繊維強化炭素複合材料1と金属材料2とのロウ付け状態が良好となる。なお、複数のロウ材部3の配置形態は、線状の形態に限定されるものではなく、例えば、同心円状、十字状の形態であってもよい。
【0021】
ロウ材部配置工程S1において、複数のロウ材部3の配置方法は、図2Cに示すように、レーザー粉体肉盛溶接法が好ましく、粉末ロウ材を用いてロウ材部3を複数配置することが好ましい。レーザー粉体肉盛溶接法で用いる加工ヘッドのノズル100の先端には、金属材料2に対してレーザー光Lが出射されるレーザー出射口101と、レーザー出射口101の周囲に120度の等間隔で、レーザー光Lの照射位置に対して粉末状のロウ材を含むパウダーガスPGが出射されるパウダー出射口102と、を備える。また、加工ヘッドのノズル100は、図示しないが、ロウ付け部が酸素と反応して発生するスパッタの発生を防止するシールドガスを供給するシールドガスノズルを備えてもよい。シールドガスノズルは、パウダー出射口102の外周面を覆うように同軸に備えることが好ましい。パウダーガスPG及びシールドガスとしては、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスを用いることが好ましい。
【0022】
レーザー粉体肉盛溶接法における溶接条件、例えば、レーザー出力、レーザービーム径、レーザーノズル送り速度、ロウ材供給量、ロウ材メッシュ数等は、ロウ材の種類、ロウ材部3の大きさに対応して適宜設定する。また、レーザー粉体肉盛溶接法に変えて、箔状のロウ材を例えば線状に加工して、金属材料2の上面に配置する方法を用いてもよい。
【0023】
ロウ材部配置工程S1では、図2A図2Bに示すように、ロウ材部3を配置した後に、ロウ材部3の間の空間部3aにワイヤー5を配置し、その後、ロウ材部3及びワイヤー5を囲うようにストップオフ材4を配置してもよい。ワイヤー5は、タングステン等の金属ワイヤーであって、ロウ材部3が溶融した際、炭素繊維強化炭素複合材料1と金属材料2との接触を防止して、両者間の距離を一定に保つために配置する。ストップオフ材4は、アルミナ又はジルコニア等のセラミック粉末とバインダ剤とを混合したもので、ロウ材部3が溶融した際に金属材料2の上面で過剰に濡れ拡がることを防止する。
【0024】
(中間体作製工程)
中間体作製工程S2は、図3A図3Bに示すように、ロウ材部3に当接するように炭素繊維強化炭素複合材料1を配置して、金属材料2の上面にロウ材部3を介して炭素繊維強化炭素複合材料1が配置された中間体10を作製する工程である。また、中間体作製工程S2では、Ti等からなる金属箔6を介して、炭素繊維強化炭素複合材料1の下面をロウ材部3の上面に配置してもよい。金属箔6は、ロウ材と炭素繊維強化炭素複合材料1の濡れ性を改善し、炭素繊維強化炭素複合材料1と金属材料2とのロウ付けを促進させる。なお、金属箔6は、後記するロウ付け工程S3では、ロウ材部3に溶融する。
【0025】
中間体作製工程S2では、炭素繊維強化炭素複合材料1の下面が、2つ以上のロウ材部3に当接することが好ましい。これによって、炭素繊維強化炭素複合材料1の平行が維持され、炭素繊維強化炭素複合材料1と金属材料2とのロウ付け状態が良好となる。1つのロウ材部3しか下面に当接しないと、ロウ材部3が溶融した際、炭素繊維強化炭素複合材料1の自重によって炭素繊維強化炭素複合材料1の下面が金属材料2の上面に対して平行ではなく傾斜する可能性が高い。その結果、両者のロウ付け状態が不良となりやすい。
【0026】
(ロウ付け工程)
ロウ付け工程S3は、中間体10を加熱し、その後、冷却して溶融したロウ材部3を硬化させ、金属材料2と炭素繊維強化炭素複合材料1とをロウ付けしてロウ付け体11(図4B参照)を作製する工程である。また、ロウ付け工程S3は、硬化したロウ材部3の間に空間部3aが残るように、中間体10を加熱して冷却する工程である。また、ロウ付け工程S3において、ロウ付け条件(加熱条件、冷却条件、装置内の環境等)は、中間体10の大きさ、ロウ材の種類、加熱・冷却装置の仕様(出力等)などによって、適宜設定される。
【0027】
ロウ付け工程S3では、硬化したロウ材部3の間に空間部3aが残るように中間体10を加熱・冷却する。そのため、マイクロ波炉200により選択的に加熱された炭素繊維強化炭素複合材料1によって、溶融したロウ材部3が、空間部3aを残すように濡れ拡がり、金属材料2の界面を不均一に加熱する。それにより、界面全体が均一に加熱される従来法に比べて、冷却の際、熱収縮によって収縮する金属材料2の領域2aが小さくなる。そのため、金属材料2と炭素繊維強化炭素複合材料1の熱収縮量の差が小さくなり、炭素繊維強化炭素複合材料1では、残留応力によるクラックが発生しにくくなる。
【0028】
界面を不均一に加熱して冷却する方法としては、図4Aに示すように、上部にマイクロ波源201を備えたマイクロ波炉200を用いて中間体10を加熱して冷却する方法が好ましい。マイクロ波は材料によって吸収効率が異なり、中間体10においては、炭素繊維強化炭素複合材料1はマイクロ波を吸収するため加熱され、金属材料2はマイクロ波を吸収しないため加熱されない。図4Bに示すように、金属材料2は、炭素繊維強化炭素複合材料1の熱がロウ材部3を伝わることで加熱される。金属材料2とロウ材部3との界面においては、ロウ材部3が当接している領域2aが、ロウ材部3が当接していない領域2b(空間部3a)に比べて、強く加熱される。その結果、溶融したロウ材部3が空間部3aを残すように濡れ拡がり、その後、ロウ材部3の間に空間部3aが残るように硬化する。
【0029】
マイクロ波炉200を用いて加熱して冷却する方法では、マイクロ波炉200内に収納される中間体10は、図4C図4Dに示すように、中間体10の上部側を覆う被覆材8と、中間体10の側部側の四方を囲むゲッター材7と、が設けられていることが好ましい。被覆材8は、炭化ケイ素等の誘電率の低い材料から構成され、炭素繊維強化炭素複合材料1の上面に配置することが好ましい。ゲッター材7は、グラファイト等の酸素等の活性ガスを吸収する材料から構成されることが好ましい。
【0030】
被覆材8を設けることによって、マイクロ波炉200で中間体10を加熱する際、マイクロ波を、誘電率の低い被覆材8で被覆された炭素繊維強化炭素複合材料1に集中させることができ、炭素繊維強化炭素複合材料1を選択的に加熱することができる。ゲッター材7を設けることによって、マイクロ波炉200内の真空度等の環境条件を一定に維持することができる。また、ゲッター材7を設けることによって、金属材料2へのマイクロ波の照射量を減少させることができるため、マイクロ波の異常放電を減少させることができる。
【実施例
【0031】
本発明に係るロウ付け方法の実施例及び比較例について説明する。
(実施例1)
図2A図2Cに示すように、40mm×40mm×5mmのステンレス鋼製の金属材料2の上面に、レーザー粉体肉盛溶接装置100(トルンプ社製、TruDisk3006)を用いて、以下のロウ材配置条件1で線状のロウ材部3を空間部3a(幅:5mm)で3本部分配置した。その後、ロウ材部3の間に外径:50μmφのタングステンからなるワイヤー5を配置し、ロウ材部3及びワイヤー5を囲うようにストップオフ材4( Wall Colmonoy社製、Green Stop-Off )を塗布した。
(ロウ材配置条件1)
粉末ロウ材:JIS規定のBAg-8(田中貴金属社製、Ag-Cu共晶合金ロウ材)
粉末ロウ材の供給量:5.4g/min
粉末ロウ材のメッシュ数:106μm以下
レーザー粉体肉盛溶接装置の出力:1KW
レーザー粉体肉盛溶接装置のビーム径:4.3mm
レーザー粉体肉盛溶接装置の送り速度:0.015m/sec
【0032】
次に、図3A図3Bに示すように、板状(10mmφ×5mm)の炭素繊維強化炭素複合材料(以下、C/C材と称す)1をロウ材部3の上に配置し、中間体10とした。また、C/C材1は、板状(10mmφ×5μm)のTiからなる金属箔6を介して、ロウ材部3の上に配置する。
【0033】
次に、図4Aに示すように、中間体10をマイクロ波炉(ミクロ電子株式会社社製、1.5kWマイクロ波加熱装置)200内に収納し、表1に示す条件で加熱・冷却し、C/C材1と金属材料2とがロウ付けされたロウ付け体11を作製した。作製したロウ付け体11のロウ付け状態を、以下の手順で確認し、その結果を表1に示す。なお、図4C図4Dに示すように、中間体10をマイクロ波炉200内に収納する際、炭化ケイ素からなる被覆板8(株式会社クラタ耐火物社製、SICAR-1110)で中間体10の上面を覆うと共に、グラファイトからなるゲッター材7で中間体10の四方を囲った。
【0034】
(ロウ付け状態)
ロウ付け体11のロウ材部3を実体顕微鏡(倍率:200倍)で観察し、ロウ材部3間に空間部3aが残っているものを良好(〇)とし、ロウ材部3間に空間部3aが残っていないものを不良(×)とした。
【0035】
作製したロウ付け体11について、クラック発生の有無について、以下の手順で確認した。その結果を表1に示す。
【0036】
(クラック発生の有無)
ロウ付け体11のC/C材1を電子顕微鏡(倍率:2000倍)で観察し、クラックが認められないものを良好(〇)とし、クラックが認められるものを不良(×)とした。
【0037】
(比較例1)
マイクロ波炉200での加熱時間を長時間としたこと以外は、実施例1と同様にしてロウ付け体11を作製し、ロウ付け状態を確認した。その結果を表1に示す。また、作製したロウ付け体11について、クラック発生の有無について、実施例1と同様にして確認した。その結果を表1に示す。
【0038】
(比較例2)
実施例1と同様にして中間体10を作製し、中間体10を従来法で用いられている加熱炉(バッチ炉)内に収納し、表1に示す条件で加熱・冷却し、ロウ付け体11を作製した。作製したロウ付け体11について、ロウ付け状態を実施例1と同様にして確認した。その結果を表1に示す。また、作製したロウ付け体11について、クラック発生の有無について、実施例1と同様にして確認した。その結果を表1に示す。
【0039】
(比較例3)
金属材料2の上面に、レーザー粉体肉盛溶接装置100(トルンプ社製、TruDisk3006)を用いて、以下のロウ材配置条件2で線状のロウ材部3を空間部3a(幅:4mm)で4本部分配置したこと、中間体10の加熱・冷却に比較例1と同様の加熱炉(バッチ炉)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてロウ付け体11を作製し、ロウ付け状態を確認した。その結果を表1に示す。また、作製したロウ付け体11について、クラック発生の有無について、実施例1と同様にして確認した。その結果を表1に示す。
(ロウ材配置条件2)
粉末状ロウ材:JIS規定のBAg-8(田中貴金属社製、Ag-Cu共晶合金ロウ材)
粉末状ロウ材の供給量:5.4g/min
粉末状ロウ材のメッシュ数:106μm以下
レーザー粉体肉盛溶接装置の出力:1KW
レーザー粉体肉盛溶接装置のビーム径:4.3mm
レーザー粉体肉盛溶接装置の送り速度:0.025m/sec
【0040】
(比較例4)
ロウ材部3を金属材料2の上面全体に配置して中間体10を作製すること以外は、比較例2と同様ようにしてロウ付け体11を作製し、ロウ付け状態を確認した。その結果を表1に示す。また、作製したロウ付け体11について、クラック発生の有無について、実施例1と同様にして確認した。その結果を表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1の結果から、実施例1のロウ付け方法では、比較例1のロウ付け方法と同様の冷却時間、比較例2~4のロウ付け方法よりも短い冷却時間であっても、C/C材1にクラックが発生しなかった。
これに対して、比較例1~4のロウ付け方法では、C/C材1にクラックが発生した。
【0043】
以上、本発明に係るロウ付け方法について、実施形態および実施例によって詳細に説明したが、本発明の主旨はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲に基づいて広く解釈されなければならない。
【符号の説明】
【0044】
1 炭素繊維強化炭素複合材料
2 金属材料
3 ロウ材部
4 ストップオフ材
5 ワイヤー
6 金属箔
7 ゲッター材
8 被覆材
10 中間体
11 ロウ付け体
100 レーザー粉体肉盛溶接装置
200 マイクロ波炉
201 マイクロ波源
S1 ロウ材部配置工程
S2 中間体作製工程
S3 ロウ付け工程
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図4D