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特許7537684生物活性Ganoderma lucidum化合物および抗がん誘導体の合成;細胞の局在のためのエルゴステロールペルオキシドプローブ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】生物活性Ganoderma lucidum化合物および抗がん誘導体の合成;細胞の局在のためのエルゴステロールペルオキシドプローブ
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/575 20060101AFI20240814BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240814BHJP
   A61K 36/074 20060101ALN20240814BHJP
【FI】
A61K31/575
A61P35/00
A61K36/074
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2021569252
(86)(22)【出願日】2020-02-06
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-28
(86)【国際出願番号】 US2020017053
(87)【国際公開番号】W WO2020163626
(87)【国際公開日】2020-08-13
【審査請求日】2022-12-26
(31)【優先権主張番号】62/802,525
(32)【優先日】2019-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521353366
【氏名又は名称】ウニベルシダッド セントラル デル カリベ
(73)【特許権者】
【識別番号】517439719
【氏名又は名称】セイント ジュード チルドレンズ リサーチ ホスピタル、インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】ST.JUDE CHILDREN’S RESEARCH HOSPITAL,INC.
【住所又は居所原語表記】262 Danny Thomas Place,Memphis,TN 38105,U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】マルティネス-モンテマヨール ミシェル エム.
(72)【発明者】
【氏名】リバス, ファティマ
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/133983(WO,A1)
【文献】Nutr. Cancer,2011年,63, [7],p.1085-1094
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/074
A61K 31/575
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるがんに関係する症状を改変するための医薬組成物であって、Ganoderma lucidum成分を含み、前記がんに関係する症状の改変が、活性酸素種(ROS)の誘導、がん細胞生存率の阻害、がん細胞の抗増殖活性の誘導、がん細胞の細胞周期停止の誘導、がん細胞のアポトーシスの誘導、がん細胞のPARP切断の誘導、がん細胞遊走の低減、がん細胞浸潤性の低減、腫瘍体積の減少、またはこれらのいずれかの組み合わせであり、
前記Ganoderma lucidum成分が、エルゴステロールスルホンアミド、5-6-ジヒドロエルゴステロールスルホンアミド、エルゴステロールペルオキシドスルホンアミド、ガノデリン酸A-メチルエステル、3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3h、3i、3j、3k、3l、3m、および3nからなる群から選択される化合物、またはそれらのいずれかの組み合わせを含み、
前記化合物が以下の構造を有し、

R’が

であり、前記対象が乳がんを有する、医薬組成物。
【請求項2】
前記がんに関係する症状の改変が、活性酸素種(ROS)の誘導である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記がんに関係する症状の改変が、がん細胞生存率の阻害である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記がんに関係する症状の改変が、がん細胞の抗増殖活性の誘導である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記がんに関係する症状の改変が、がん細胞の細胞周期停止の誘導である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記がんに関係する症状の改変が、がん細胞のアポトーシスの誘導である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記がんに関係する症状の改変が、がん細胞のPARP切断の誘導である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記がんに関係する症状の改変が、がん細胞遊走の低減である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記がんに関係する症状の改変が、がん細胞浸潤性の低減である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記がんに関係する症状の改変が、腫瘍体積の減少である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記Ganoderma lucidum成分が、エルゴステロールスルホンアミドである、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記Ganoderma lucidum成分が、5-6-ジヒドロエルゴステロールスルホンアミドである、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記Ganoderma lucidum成分が、エルゴステロールペルオキシドスルホンアミドである、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記Ganoderma lucidum成分が、3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3h、3i、3j、3k、3l、3m、および3nからなる群より選択される化合物である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記乳がんが、炎症性乳がんである、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
対象におけるがんを処置するための医薬組成物であって、Ganoderma lucidum成分を含み、前記Ganoderma lucidum成分が、エルゴステロールスルホンアミド、5-6-ジヒドロエルゴステロールスルホンアミド、エルゴステロールペルオキシドスルホンアミド、ガノデリン酸A-メチルエステル、3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3h、3i、3j、3k、3l、3m、および3nからなる群から選択される化合物、またはそれらのいずれかの組み合わせを含み、
前記化合物が以下の構造を有し、

R’が

であり、前記対象が乳がんを有する、医薬組成物。
【請求項17】
前記乳がんが、炎症性乳がんである、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記Ganoderma lucidum成分が、エルゴステロールスルホンアミドである、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記Ganoderma lucidum成分が、5-6-ジヒドロエルゴステロールスルホンアミドである、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記Ganoderma lucidum成分が、エルゴステロールペルオキシドスルホンアミドである、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記Ganoderma lucidum成分が、3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3h、3i、3j、3k、3l、3m、および3nからなる群より選択される化合物である、請求項16に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2019年2月7日出願の米国仮特許出願第62/802,525号の利益を主張するものであり、その全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
真菌または植物などの様々な供給源由来の天然産物は、潜在的な抗がん可能性を有するヒット化合物を提供し続けている。GLE由来の二次代謝産物には、ガノデリン酸ファミリーに属するトリテルペノイド、ステロール(すなわちラノステロール、エルゴステロール、エルゴステロールペルオキシド)、脂質、フラボノイド、およびリグナンが含まれる。ガノデリン酸およびステロールは、類似の分子足場を共有しており、後者の化合物の方がわずかに高い酸化状態を呈する。
【0003】
従来の(医薬)治療による毒性効果の増大、ならびに「自然」治療の有効性を証明する近年の報告からの証拠は、がん患者による「自然」治療の使用の高まりを引き起こしてきた。これらの治療には、丸ごとの薬用キノコであるGanoderma lucidumがあり、これは、2千年を超えて伝統的な漢方薬において使用されてきた。Ganoderma lucidum抽出物(GLE)を摂取しているがん患者は、患者の従来の治療への干渉なしに、クオリティ・オブ・ライフの改善および生存期間の延長を呈している。商業的に入手可能なGLEについて最も一般的な使用には、高血圧、がん、および免疫学的障害の防止および処置が含まれる。Ganoderma lucidumの子実体は、数十年間、伝統的な薬として使用されてきたが、ごく最近になって、胞子も研究の対象となってきた。胞子は、主に、ラノスタン型トリテルペンおよび子実体に見出されるものに類似の多糖類を含有しており、それらはGLEの抗がん活性に寄与する主な化合物である。
【0004】
GLEによるがん防止の機構は、いくつかの報告にまとめられている。商業的に入手可能な丸ごとのキノコのGLEは、乳がん細胞の生存を選択的に阻害し、様々なヒトのがんモデルにおいてアポトーシスを誘導し、浸潤を低下し、主要シグナル伝達分子を制御する。さらに、GLEは、マウス異種移植において単独でまたは従来の治療と組み合わせて投与される場合、マウスの腫瘍体積を約50%減少する。
【0005】
エルゴステロールペルオキシド(EP)天然産物(NP)は、植物、藻類、地衣類、アネモネ(anemonae)、珊瑚、およびキノコ、例えば中でもGanoderma lucidumから単離された化合物である。エルゴステロールペルオキシドは、抗腫瘍剤として報告されており、アポトーシス促進性の抗炎症性/免疫抑制効果、抗マイコバクテリア、およびがん細胞系に対する抗増殖活性を呈する。
【0006】
Ganoderma lucidumのEPに富んだ抽出物の生物活性は、がん細胞モデルに対して用量依存的にアポトーシスを誘導する。EPは、ステロイド系ファミリーのNPに属しており、それらは、エンドペルオキシド架橋を有するコレステロールコアを、その分子の反応性中心として共有する。活性の供給源は、おそらくこの官能性から生じており、いくつかの研究により、その潜在的な作用機序に関して報告されているが、がんにおけるEPの根本的な分子機構は、完全には理解されていない。
【0007】
トリプルネガティブ乳がん(TNBC)は、エストロゲン、プロゲステロンおよびホルモン上皮増殖因子受容体2(HER-2)の3種の一般的なタイプのタンパク質受容体について、乳がん細胞が検査でネガティブを示す場合に診断される。TNBCは、診断時に、疾患進行期の悪性度が高い腫瘍と関連し、再発リスクが高く、5年生存率が低い(他の乳がんサブタイプに対して)ことと関連する。がんに関係するほとんどの死亡は、転移の結果であり、したがって、治療のために新しい生物学的標的を特定することの重要性は、TNBCなどの侵襲性がんについては計り知れない。
【0008】
機構的に、転移性腫瘍細胞は遺伝的に不安定であり、ほとんどのがんにおいて、転移を調節する可能性が高い単一の優勢な経路はなく、したがって、がん依存性シグナル伝達経路において混線する一次分子および二次分子を介してその効果を誘導するのではなく、単一生物学的標的には影響を及ぼさないと思われるNPから生じる、新しい薬理学的処置の開発への関心が高まっている。EPは、がんのサブタイプにわたっていくつかの経路を標的にしている文献においては、優先順位が高い。がんモデルにおいてEPが細胞死を誘導することは異議のない同意であるが、特異的な生物学的標的は、依然として捕らえることが困難である。Wuおよび本発明者らは、EPが、電子の最外殻に不対電子を1つだけ有するラジカルである活性酸素種(ROS)を誘導することを示した。したがって、ROSを解毒する抗酸化タンパク質の発現は、正常細胞と比較してがん細胞において変化する。しかしROSは、他の機構の中でも、細胞増殖を低減し、DNAに損傷を与え、アポトーシスを誘導することによって、抗がん特性を呈する。
【0009】
エンドペルオキシドは、ラジカルを発生することが公知である。予測されるオキシルラジカルを発生させるためには、ペルオキシドの均等な切断が生じると思われ、それが、おそらく特異的タンパク質に結合すると思われる、より安定な炭素-炭素ラジカルを最終的にもたらすと仮定される。このような反応性は、EPと鉄の同時処置研究時に、その媒介作用について鉄依存性または鉄によって媒介されると予測され得る。EPは、TNBC細胞においてROSを誘導するが、EPの細胞蓄積部位およびその特異的生物学的標的は、未知である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
丸ごとのキノコであるGanoderma lucidumの最も豊富な化学的構成成分の構造的解明、およびトリプルネガティブ炎症性乳がん(IBC)の処置におけるそれらの有効性が開示される。IBCは、研究頻度の低い、乳がんの稀な独特の侵襲性サブタイプである。
【0011】
生理活性化合物である5,6-デヒドロエルゴステロール(dehydroergosterol)の特徴および構造を、炎症性乳がん(SUM-149)および非がん(BJ)細胞において試験した。5,6-デヒドロエルゴステロールを、Ganoderma lucidum抽出物から精製し、その構造を開示する。
【0012】
Ganoderma lucidum由来の5,6-デヒドロエルゴステロールのX線結晶についての詳細な報告が提供される。
【0013】
単一成分としてのエルゴステロールペルオキシド(EP)は、IBCモデルに対して低マイクロモル濃度範囲の有望なEC50値を有し(SUM-149)、正常細胞(BJ、HMEC)において十分な治療指数を有する、最も生物活性が高い化合物である。
【0014】
改善されたGA-01の誘導体(GA-01-ME)、エルゴステロールの誘導体(エルゴステロールスルホンアミド)、5,6-デヒドロエルゴステロールの誘導体(5,6-デヒドロエルゴステロールスルホンアミド)およびEPの誘導体(EPスルホンアミド)を、それらの溶解度を改善するように合成した。
【0015】
GA-01、エルゴステロール、5,6-デヒドロエルゴステロールおよびEPは、TNBCおよびIBC細胞モデルにおいてROSを誘導する。
【0016】
抗がん効果を有するが、正常細胞には影響を及ぼさない化合物が開示される。
【0017】
化合物が細胞内の細胞内小器官と共局在することを特定するためのツール(プローブ)を作製した。
【0018】
これらの化学的ツールは、がん細胞におけるエルゴステロールペルオキシドの作用機構を描くための生細胞イメージング研究のために使用することができる。エルゴステロールペルオキシドプローブを合成するための、短い合成経路が開示される。これらのプローブは、細胞内特異性でサイトゾルに蓄積する。
【0019】
2種のTNBC細胞系において、親和性ベースのプロテオミクス標的の特定を通じて標的を特定するために、ビオチン-EPプローブ(3k)を使用した。SUM-149およびMDA-MB-231細胞系の両方において2種の標的、つまりRab相互作用リソソームタンパク質様1(RIPL1)およびE3ユビキチン-タンパク質リガーゼ(UBR4)の2種の潜在的な生物学的標的が特定された。これらのタンパク質は、サイトゾルおよび原形質膜にわたって分布することが公知であり、そのことは共局在化の結果と一致する。RIPL1は、細胞タンパク質輸送を介して細胞形状および極性の制御に関与する。UBR4は、ある特定のタンパク質のユビキチン化およびその後の分解に関与し、核内の網膜芽細胞腫関連タンパク質と相互作用するが、カルシウムと結合したカルモジュリンは、細胞質内に存在し、インテグリン媒介性シグナル伝達を制御する。
【0020】
蛍光色素のエルゴステロールペルオキシドコンジュゲートにより、生細胞イメージングがそれらの細胞内相互作用を探索できるようになる。さらに、蛍光プローブを、蛍光顕微鏡法を使用する共局在化研究のために、細胞内小器官-蛍光トラッカーにスペクトル的に直交するように合理的にデザインした。
【0021】
可能な場合には、細胞内小器官(小胞体、ミトコンドリア、およびリソソーム)を染色する、生細胞のための商業的に入手可能な化学的プローブを使用した。しかし、ゴルジ装置またはペルオキシソームを研究するためのプローブには、直交性色素は利用不可能である。したがって、赤色蛍光タンパク質(RFP)または緑色蛍光タンパク質(GFP)を一過的にトランスフェクトした、細胞内小器官を標識された細胞モデルを作製した。また、mRuby-ペルオキシソーム-2プラスミド23bをトランスフェクトした、安定に形質転換したがん細胞系を作製した。
【0022】
実質的な共局在化は、プローブ3mと共に青色/白色小胞体トラッカーを使用して、小胞体を用いて検出した。MDA-MB-231およびSUM-149がん細胞系の両方について、一貫した観察が記録された。
【0023】
プローブ3mの抗増殖活性は、エルゴステロールペルオキシドの抗増殖活性に匹敵していた。
【0024】
ボランコアとエルゴステロールペルオキシドの間により長いリンカーを有するプローブ3nは、ミトコンドリアへの蓄積を示した。
【0025】
プローブの化学修飾は、特異的細胞内小器官への蓄積を引き起こして、より大きい細胞損傷を誘導することによって、優れた効力をもたらす。
【0026】
化合物(スルホンアミド)、タグ付きプローブ/エステルは、プロドラッグとみなされ、EPの低い溶解度を克服するために使用される。エステルおよびケトン誘導体は、がん細胞に対して親化合物に由来する改善された効果を有することを「当業者の知識によって明らかに予測する」ことができない。
【0027】
以下の付番された実施形態(節)が意図されるが、それらは非限定的である。
【0028】
1.対象におけるがんに関係する症状を改変する方法であって、Ganoderma lucidum成分を含む医薬組成物を対象に投与するステップを含み、医薬組成物が、がんに関係する症状を改変する、方法。
【0029】
2.がんに関係する症状の改変が、活性酸素種(ROS)の誘導である、節1の方法。
【0030】
3.がんに関係する症状の改変が、がん細胞生存率の阻害である、節1の方法。
【0031】
4.がんに関係する症状の改変が、がん細胞の抗増殖活性の誘導である、節1の方法。
【0032】
5.がんに関係する症状の改変が、がん細胞の細胞周期停止の誘導である、節1の方法。
【0033】
6.がんに関係する症状の改変が、がん細胞のアポトーシスの誘導である、節1の方法。
【0034】
7.がんに関係する症状の改変が、がん細胞のPARP切断の誘導である、節1の方法。
【0035】
8.がんに関係する症状の改変が、がん細胞のアポトーシスの誘導である、節1の方法。
【0036】
9.がんに関係する症状の改変が、がん細胞遊走の低減である、節1の方法。
【0037】
10.がんに関係する症状の改変が、がん細胞浸潤性の低減である、節1の方法。
【0038】
11.がんに関係する症状の改変が、腫瘍体積の減少である、節1の方法。
【0039】
12.Ganoderma lucidum成分が、5,6-ジヒドロエルゴステロール、エルゴステロール、エルゴステロールペルオキシド、およびそれらの任意の組合せからなる群より選択される、節1の方法。
【0040】
13.Ganoderma lucidum成分が、5,6-ジヒドロエルゴステロールである、節1の方法。
【0041】
14.Ganoderma lucidum成分が、エルゴステロールである、節1の方法。
【0042】
15.Ganoderma lucidum成分が、エルゴステロールペルオキシドである、節1の方法。
【0043】
16.Ganoderma lucidum成分が、Ganoderma lucidum誘導体である、節1の方法。
【0044】
17.Ganoderma lucidum誘導体が、エルゴステロールスルホンアミドである、節16の方法。
【0045】
18.Ganoderma lucidum誘導体が、5-6-ジヒドロエルゴステロールスルホンアミドである、節16の方法。
【0046】
19.Ganoderma lucidum誘導体が、エルゴステロールペルオキシドスルホンアミドである、節16の方法。
【0047】
20.Ganoderma lucidum成分が、3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3h、3i、3j、3k、3l、3m、および3nからなる群より選択される化合物である、節1の方法。
【0048】
21.対象が、乳がんを有する、節1の方法。
【0049】
22.乳がんが、炎症性乳がんである、節21の方法。
【0050】
23.対象におけるがんを処置する方法であって、Ganoderma lucidum成分を含む医薬組成物を対象に投与するステップを含む、方法。
【0051】
24.がんが、乳がんである、節23の方法。
【0052】
25.乳がんが、炎症性乳がんである、節24の方法。
【0053】
26.Ganoderma lucidum成分が、5,6-ジヒドロエルゴステロール、エルゴステロール、エルゴステロールペルオキシド、およびそれらの任意の組合せからなる群より選択される、節23の方法。
【0054】
27.Ganoderma lucidum成分が、5,6-ジヒドロエルゴステロールである、節23の方法。
【0055】
28.Ganoderma lucidum成分が、エルゴステロールである、節23の方法。
【0056】
29.Ganoderma lucidum成分が、エルゴステロールペルオキシドである、節23の方法。
【0057】
30.Ganoderma lucidum成分が、Ganoderma lucidum誘導体である、節23の方法。
【0058】
31.Ganoderma lucidum誘導体が、エルゴステロールスルホンアミドである、節30の方法。
【0059】
32.Ganoderma lucidum誘導体が、5-6-ジヒドロエルゴステロールスルホンアミドである、節30の方法。
【0060】
33.Ganoderma lucidum誘導体が、エルゴステロールペルオキシドスルホンアミドである、節30の方法。
【0061】
34.Ganoderma lucidum成分が、3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3h、3i、3j、3k、3l、3m、および3nからなる群より選択される化合物である、節23の方法。
【0062】
35.Ganoderma lucidum成分および標識化プローブを含む、組成物。
【0063】
36.Ganoderma lucidum成分が、5,6-ジヒドロエルゴステロールである、節35の組成物。
【0064】
37.Ganoderma lucidum成分が、エルゴステロールである、節35の組成物。
【0065】
38.Ganoderma lucidum成分が、エルゴステロールペルオキシドである、節35の組成物。
【0066】
39.Ganoderma lucidum成分が、Ganoderma lucidum誘導体である、節35の組成物。
【0067】
40.Ganoderma lucidum誘導体が、エルゴステロールスルホンアミドである、節39の組成物。
【0068】
41.Ganoderma lucidum誘導体が、5-6-ジヒドロエルゴステロールスルホンアミドである、節39の組成物。
【0069】
42.Ganoderma lucidum誘導体が、エルゴステロールペルオキシドスルホンアミドである、節39の組成物。
【0070】
43.Ganoderma lucidum成分が、3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3h、3i、3j、3k、3l、3m、および3nからなる群より選択される化合物である、節35の組成物。
【0071】
44.標識化プローブが、蛍光色素である、節35の組成物。
【0072】
45.蛍光色素が、TAMRA(テトラメチルローダミン)、FITC(フルオレセインイソチオシアネート誘導体)、およびBODIPY(ホウ素-ジピロメテン(dipyrromethne)誘導体)からなる群より選択される、節44の組成物。
【0073】
46.蛍光色素が、TAMRA(テトラメチルローダミン)である、節44の組成物。
【0074】
47.蛍光色素が、FITC(フルオレセインイソチオシアネート誘導体)である、節44の組成物。
【0075】
48.蛍光色素が、BODIPY(ホウ素-ジピロメテン誘導体)である、節44の組成物。
【0076】
49.プローブが、標的を特定するためのプルダウン実験のために使用されるビオチン化EPである、節35の組成物(図12を参照されたい)。
【0077】
50.細胞における生物学的標的を評価する方法であって、
(a)Ganoderma lucidum成分および標識化プローブを含む組成物を、生物学的標的に接触させるステップと、
(b)標識された標的の性質を決定するステップと
を含む、方法。
【0078】
51.生物学的標的が、細胞内標的である、節50の方法。
【0079】
52.生物学的標的が、サイトゾルである、節50の方法。
【0080】
53.生物学的標的が、小胞体(ER)である、節50の方法。
【0081】
54.生物学的標的が、ミトコンドリアである、節50の方法。
【0082】
55.Ganoderma lucidum成分が、5,6-ジヒドロエルゴステロールである、節50の方法。
【0083】
56.Ganoderma lucidum成分が、エルゴステロールである、節50の方法。
【0084】
57.Ganoderma lucidum成分が、エルゴステロールペルオキシドである、節50の方法。
【0085】
58.Ganoderma lucidum成分が、Ganoderma lucidum誘導体である、節50の方法。
【0086】
59.Ganoderma lucidum誘導体が、エルゴステロールスルホンアミドである、節58の方法。
【0087】
60.Ganoderma lucidum誘導体が、5-6-ジヒドロエルゴステロールスルホンアミドである、節58の方法。
【0088】
61.Ganoderma lucidum誘導体が、エルゴステロールペルオキシドスルホンアミドである、節58の方法。
【0089】
62.Ganoderma lucidum成分が、3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3h、3i、3j、3k、3l、3m、および3nからなる群より選択される化合物である、節58の方法。
【0090】
63.標識化プローブが、蛍光色素である、節50の方法。
【0091】
64.蛍光色素が、TAMRA(テトラメチルローダミン)、FITC(フルオレセインイソチオシアネート誘導体)、およびBODIPY(ホウ素-ジピロメテン誘導体)からなる群より選択される、節63の方法。
【0092】
65.蛍光色素が、TAMRA(テトラメチルローダミン)である、節63の方法。
【0093】
66.蛍光色素が、FITC(フルオレセインイソチオシアネート誘導体)である、節63の方法。
【0094】
67.蛍光色素が、BODIPY(ホウ素-ジピロメテン誘導体)である、節63の方法。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
対象におけるがんに関係する症状を改変する方法であって、Ganoderma lucidum成分を含む医薬組成物を前記対象に投与するステップを含み、前記医薬組成物が、前記がんに関係する症状を改変する、方法。
(項目2)
前記がんに関係する症状の改変が、活性酸素種(ROS)の誘導である、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記がんに関係する症状の改変が、がん細胞生存率の阻害である、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記がんに関係する症状の改変が、がん細胞の抗増殖活性の誘導である、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記がんに関係する症状の改変が、がん細胞の細胞周期停止の誘導である、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記がんに関係する症状の改変が、がん細胞のアポトーシスの誘導である、項目1に記載の方法。
(項目7)
前記がんに関係する症状の改変が、がん細胞のPARP切断の誘導である、項目1に記載の方法。
(項目8)
前記がんに関係する症状の改変が、がん細胞のアポトーシスの誘導である、項目1に記載の方法。
(項目9)
前記がんに関係する症状の改変が、がん細胞遊走の低減である、項目1に記載の方法。
(項目10)
前記がんに関係する症状の改変が、がん細胞浸潤性の低減である、項目1に記載の方法。
(項目11)
前記がんに関係する症状の改変が、腫瘍体積の減少である、項目1に記載の方法。
(項目12)
前記Ganoderma lucidum成分が、5,6-ジヒドロエルゴステロール、エルゴステロール、エルゴステロールペルオキシド、およびそれらの任意の組合せからなる群より選択される、項目1に記載の方法。
(項目13)
前記Ganoderma lucidum成分が、5,6-ジヒドロエルゴステロールである、項目1に記載の方法。
(項目14)
前記Ganoderma lucidum成分が、エルゴステロールである、項目1に記載の方法。
(項目15)
前記Ganoderma lucidum成分が、エルゴステロールペルオキシドである、項目1に記載の方法。
(項目16)
前記Ganoderma lucidum成分が、Ganoderma lucidum誘導体である、項目1に記載の方法。
(項目17)
前記Ganoderma lucidum誘導体が、エルゴステロールスルホンアミドである、項目16に記載の方法。
(項目18)
前記Ganoderma lucidum誘導体が、5-6-ジヒドロエルゴステロールスルホンアミドである、項目16に記載の方法。
(項目19)
前記Ganoderma lucidum誘導体が、エルゴステロールペルオキシドスルホンアミドである、項目16に記載の方法。
(項目20)
前記Ganoderma lucidum成分が、3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3h、3i、3j、3k、3l、3m、および3nからなる群より選択される化合物である、項目1に記載の方法。
(項目21)
前記対象が、乳がんを有する、項目1に記載の方法。
(項目22)
前記乳がんが、炎症性乳がんである、項目21に記載の方法。
(項目23)
対象におけるがんを処置する方法であって、Ganoderma lucidum成分を含む医薬組成物を前記対象に投与するステップを含む、方法。
(項目24)
前記がんが、乳がんである、項目23に記載の方法。
(項目25)
前記乳がんが、炎症性乳がんである、項目24に記載の方法。
(項目26)
前記Ganoderma lucidum成分が、5,6-ジヒドロエルゴステロール、エルゴステロール、エルゴステロールペルオキシド、およびそれらの任意の組合せからなる群より選択される、項目23に記載の方法。
(項目27)
前記Ganoderma lucidum成分が、5,6-ジヒドロエルゴステロールである、項目23に記載の方法。
(項目28)
前記Ganoderma lucidum成分が、エルゴステロールである、項目23に記載の方法。
(項目29)
前記Ganoderma lucidum成分が、エルゴステロールペルオキシドである、項目23に記載の方法。
(項目30)
前記Ganoderma lucidum成分が、Ganoderma lucidum誘導体である、項目23に記載の方法。
(項目31)
前記Ganoderma lucidum誘導体が、エルゴステロールスルホンアミドである、項目30に記載の方法。
(項目32)
前記Ganoderma lucidum誘導体が、5-6-ジヒドロエルゴステロールスルホンアミドである、項目30に記載の方法。
(項目33)
前記Ganoderma lucidum誘導体が、エルゴステロールペルオキシドスルホンアミドである、項目30に記載の方法。
(項目34)
前記Ganoderma lucidum成分が、3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3h、3i、3j、3k、3l、3m、および3nからなる群より選択される化合物である、項目23に記載の方法。
(項目35)
Ganoderma lucidum成分および標識化プローブを含む、組成物。
(項目36)
前記Ganoderma lucidum成分が、5,6-ジヒドロエルゴステロールである、項目35に記載の組成物。
(項目37)
前記Ganoderma lucidum成分が、エルゴステロールである、項目35に記載の組成物。
(項目38)
前記Ganoderma lucidum成分が、エルゴステロールペルオキシドである、項目35に記載の組成物。
(項目39)
前記Ganoderma lucidum成分が、Ganoderma lucidum誘導体である、項目35に記載の組成物。
(項目40)
前記Ganoderma lucidum誘導体が、エルゴステロールスルホンアミドである、項目39に記載の組成物。
(項目41)
前記Ganoderma lucidum誘導体が、5-6-ジヒドロエルゴステロールスルホンアミドである、項目39に記載の組成物。
(項目42)
前記Ganoderma lucidum誘導体が、エルゴステロールペルオキシドスルホンアミドである、項目39に記載の組成物。
(項目43)
前記Ganoderma lucidum成分が、3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3h、3i、3j、3k、3l、3m、および3nからなる群より選択される化合物である、項目35に記載の組成物。
(項目44)
前記標識化プローブが、蛍光色素である、項目35に記載の組成物。
(項目45)
前記蛍光色素が、TAMRA(テトラメチルローダミン)、FITC(フルオレセインイソチオシアネート誘導体)、およびBODIPY(ホウ素-ジピロメテン誘導体)からなる群より選択される、項目44に記載の組成物。
(項目46)
前記蛍光色素が、TAMRA(テトラメチルローダミン)である、項目44に記載の組成物。
(項目47)
前記蛍光色素が、FITC(フルオレセインイソチオシアネート誘導体)である、項目44に記載の組成物。
(項目48)
前記蛍光色素が、BODIPY(ホウ素-ジピロメテン誘導体)である、項目44に記載の組成物。
(項目49)
前記プローブが、標的を特定するためのプルダウン実験のために使用されるビオチン化EPである、項目35に記載の組成物。
(項目50)
細胞における生物学的標的を評価する方法であって、
(a)Ganoderma lucidum成分および標識化プローブを含む組成物を、前記生物学的標的に接触させるステップと、
(b)標識された前記標的の性質を決定するステップと
を含む、方法。
(項目51)
前記生物学的標的が、細胞内標的である、項目50に記載の方法。
(項目52)
前記生物学的標的が、サイトゾルである、項目50に記載の方法。
(項目53)
前記生物学的標的が、小胞体(ER)である、項目50に記載の方法。
(項目54)
前記生物学的標的が、ミトコンドリアである、項目50に記載の方法。
(項目55)
前記Ganoderma lucidum成分が、5,6-ジヒドロエルゴステロールである、項目50に記載の方法。
(項目56)
前記Ganoderma lucidum成分が、エルゴステロールである、項目50に記載の方法。
(項目57)
前記Ganoderma lucidum成分が、エルゴステロールペルオキシドである、項目50に記載の方法。
(項目58)
前記Ganoderma lucidum成分が、Ganoderma lucidum誘導体である、項目50に記載の方法。
(項目59)
前記Ganoderma lucidum誘導体が、エルゴステロールスルホンアミドである、項目58に記載の方法。
(項目60)
前記Ganoderma lucidum誘導体が、5-6-ジヒドロエルゴステロールスルホンアミドである、項目58に記載の方法。
(項目61)
前記Ganoderma lucidum誘導体が、エルゴステロールペルオキシドスルホンアミドである、項目58に記載の方法。
(項目62)
前記Ganoderma lucidum成分が、3a、3b、3c、3d、3e、3f、3g、3h、3i、3j、3k、3l、3m、および3nからなる群より選択される化合物である、項目58に記載の方法。
(項目63)
前記標識化プローブが、蛍光色素である、項目50に記載の方法。
(項目64)
前記蛍光色素が、TAMRA(テトラメチルローダミン)、FITC(フルオレセインイソチオシアネート誘導体)、およびBODIPY(ホウ素-ジピロメテン誘導体)からなる群より選択される、項目63に記載の方法。
(項目65)
前記蛍光色素が、TAMRA(テトラメチルローダミン)である、項目63に記載の方法。
(項目66)
前記蛍光色素が、FITC(フルオレセインイソチオシアネート誘導体)である、項目63に記載の方法。
(項目67)
前記蛍光色素が、BODIPY(ホウ素-ジピロメテン誘導体)である、項目63に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0095】
図1図1は、GLEの選択された化学的構成成分を示す。Ganoderma lucidumから抽出された化合物には、1.ガノデリン酸A、2~3.ガノデレン酸AおよびD、4.エルゴステロール、5.5,6-ジヒドロエルゴステロール、6.エルゴステロールペルオキシド、および7.パルミチン酸が含まれる。
【0096】
図2図2A~2Bは、ORTEP構造を示す。図2A.エルゴステロール。図2B.5,6-ジヒドロエルゴステロール。
【0097】
図3図3A~3Cは、乳がん細胞系および正常線維芽細胞におけるGA-01、エルゴステロール、5,6-ジヒドロエルゴステロール、およびエルゴステロールペルオキシドの効果を示す。材料および方法のセクションに記載される通り、SUM-149、MDA-MB-231、SUM-190、およびBJ細胞を播種し、処理した。図3A.GA-01は、様々な乳がん細胞系においてEC50>50μMを有していた。図3B.エルゴステロールおよび5,6-ジヒドロエルゴステロールは、EC50>50μMを有しており、エルゴステロールは、SUM-149細胞生存率を64μMで著しく低下した。図3C.BJ細胞生存率は、試験された濃度の化合物によって影響を受けなかった。バーは、少なくとも3回の生物学的反復の平均±SEMを表す。ビヒクルと比較して**P<0.01。
【0098】
図4図4A~4Eは、乳がん細胞系におけるエルゴステロールペルオキシド(EP)の効果を示す。材料および方法のセクションに記載される通り、SUM-149、MDA-MB-231、およびSUM-190細胞を播種し、処理した。図4A、4B.EPで24時間処理したSUM-149細胞は、細胞生存率が著しく低減した。図4C、4D.EPを用いる72時間の処理では、SUM-149細胞生存率を、8μMで始めてEC50=20μMで著しく低下した。図4E.EPを用いる処理後のSUM-149、MDA-MB-231、およびSUM-190細胞生存率の比較は、すべての乳がん細胞の生存率の低下を示す。バーは、少なくとも3回の生物学的反復の平均±SEMを表す。ビヒクルと比較してP<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001。
【0099】
図5-1】図5A~5Gは、SUM-149乳がん細胞に対するEPの効果を示す。図5A.P1=ビヒクル、P2=EP(20μM)。EPで48時間処理した細胞の細胞周期進行アッセイは、G1における細胞の百分率の増大およびG2/Mにおける細胞の百分率の低減を示す。図5B図5Aの結果のグラフ。図5C.細胞死アッセイは、EP処理の48時間後に、生細胞の低減、および初期アポトーシスの細胞の百分率の増大を示す。図5D.グラフは、EPが生存率を低減し、アポトーシス活性を増大することを示す。図5E~5F.EPは、乳がん細胞においてカスパーゼ3/7活性を介してアポトーシスを誘導する。Triplex Gloアッセイを使用して、生存細胞(GF-AFC、閉じた灰色の円)、膜完全性による化合物の細胞傷害(ビス-AAF-RF110、閉じた灰色の四角)またはアポトーシス細胞(カスパーゼ3/7活性、黒色の三角)を決定した。図5E.SUM-149細胞。図5F.MDA-MB-231細胞。図5G.EPで72時間処理した細胞におけるコロニー形成アッセイ。事前処理した細胞をグラフの200細胞/mLで播種した10日後に、写真を撮影した。バーは、平均±SEMを表す。ビヒクルと比較してP<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001。
図5-2】同上。
図5-3】同上。
【0100】
図6図6A~6Cは、MDA-MB-231乳がん細胞における、新規タンパク質合成に対するEPの効果を示すクリックアッセイを示す。図6Ai、6Aii、6Aiii、DMSO。図6Bi、6Bii、6Biii、シクロヘキシミド(1μM)。図6Ci、6Cii、6Ciii、EP、20μM、2時間、i=DNA染料(緑色)、ii=新しいタンパク質(赤色)、iii=マージ(20倍)。
【0101】
図7図7A~7Bは、MDA-MB-231およびSUM-149細胞における活性酸素種(ROS)の形成を示す。図7A.MDA-MB-231乳がん細胞、または図7B.SUM-149乳がん細胞を、材料および方法のセクションに記載される通り、EP(20μM)または陽性対照としてのメナジオン(10μM)で処理した。N-アセチルシステイン(500μM)を添加して、ROSの形成を阻害した。バーは、三連のもの平均±SEMを図示する。ビヒクルと比較して****P<0.0001、***P<0.001。NACと比較して####P<0.0001。
【0102】
図8-1】図8A~8Gは、EPが、乳がん細胞の遊走および浸潤に影響を及ぼし、がん細胞のシグナル伝達をモジュレートすることを示す。SUM-149細胞を、材料および方法のセクションに記載される通り、様々な濃度のEPで72時間処理した。図8A.EPは、がん細胞遊走を低減する。図8B.がん細胞の浸潤が、濃度依存的に低減する。図8C.EPは、乳がん細胞におけるがん細胞の生存、細胞死、および増殖シグナル伝達経路をモジュレートする。β-アクチンまたはβ-チューブリンをローディング対照として使用した。図8D.濃度測定分析を、Image Jソフトウェアを使用して行った。図8E.EP(30μM)は、EP処理後24時間目にPARP切断を誘導する。図8F.Image Jソフトウェアを使用する全PARPの濃度測定分析。図8G.Image Jソフトウェアを使用する切断されたPARPの濃度測定分析。提示されたすべてのウエスタンブロットを、明りょうさを改善するためにトリミングした。バーは、三連のもの平均±SEMを表す。ビヒクルと比較して****P<0.0001、***P<0.001、**P<0.01、P<0.05。ビヒクルと比較して24時間での切断されたPARPにおけるP=0.03。
図8-2】同上。
【0103】
図9図9は、GA-01、エルゴステロール、5,6-ジヒドロエルゴステロールおよびエルゴステロールペルオキシドから、GA-01-ME(化合物1a)、エルゴステロールスルホンアミド(化合物4a)、5,6-ジヒドロエルゴステロールスルホンアミド(化合物5a)およびエルゴステロールペルオキシドスルホンアミド(化合物6a)への化学変換を示す。
【0104】
図10図10A~10Bは、図10AではSUM-149乳がん細胞生存率における、図10Bでは正常BJ線維芽細胞生存率における、誘導体GA-01-ME、エルゴステロールスルホンアミド、5,6-ジヒドロエルゴステロールスルホンアミドおよびエルゴステロールペルオキシドスルホンアミドの効果を示す。細胞を、材料および方法のセクションに記載される通り播種し、処理した。バーは、少なくとも3回の生物学的反復の平均±SEMを表す。ビヒクルと比較して****P<0.0001、***P<0.001、**P<0.01、P<0.05。
【0105】
図11図11~15は、エルゴステロールペルオキシド(EP)類似体およびプローブに関する。
【0106】
図11は、EPおよびその類似体の合成を示す。
【0107】
図12図12は、EP類似体(3a~3k)に関する。
【0108】
図13図13A~13Cは、一過性の安定な、細胞内小器官を標識されたMDA-MB-231を示す。図13A.核青色染料を用いた、ペルオキシソームC末端標的化配列に融合した一過性トランスフェクトGFP細胞。図13B.核青色染料を用いた、ゴルジ装置に存在する酵素であるN-アセチルガラクタミニル(galactaminyl)トランスフェラーゼに融合した一過性トランスフェクトRFP細胞。図13C.安定なmRuby-ペルオキシソーム標的化シグナル1細胞。
【0109】
図14-1】図14A~14Eは、MDA-MB-231における3mの共局在研究を示す。図14A.ペルオキシソーム。図14B.ゴルジ。図14C.リソソーム。図14D.ミトコンドリア。図14E.小胞体。
図14-2】同上。
【0110】
図15図15A~15Cは、3l~3nプローブの合成のための試薬および条件を示す。図15A.1.(a)PyBOP、DMSO、ヒューニッヒ塩基、25℃、(b)アスコルビン酸ナトリウム(0.2当量)、CuSO、7HO(0.1当量)、t-BuOH:HO-1:1(viv)。図15B.(a)2,4,6-トリクロロベンゾイルクロリド、EtN、25℃、CHCl、1時間。2.(b)EP、DMAP、CHCl、25℃、10時間。図15C.(a)BDY 630-X-NHS、EP、EtN、25℃、CHCl
【0111】
図16図16A~16Bは、MDA-MB-231-GFP細胞(5.0×105)を、雌の無毛重症複合免疫不全マウスの右下乳房脂肪体に注射したことを示す。図16A.注射当日(1週目)から開始する原発腫瘍の生体内蛍光画像分析。処理[ビヒクルまたはエルゴステロールペルオキシド(EP)を、週3回i.p.投与した]は6週目に開始した(赤色の四角)。画像は、処置群当たり8匹のうち代表マウス1匹の腫瘍進行を示す。図16B.乳房腫瘍成長を、5週目に対するGFP蛍光の集積密度の変化として定量した。結果は、EPが腫瘍成長速度を著しく低減することを示している(P<0.04)。処置当たり代表的なマウス3匹の平均±SEM。
【0112】
図17図17A~17Bは、プローブ3nの評価を示す。図17A.cell lightペルオキシソーム-GFP/MDA-MB-231。図17B.MitoTracker Greenおよび3n。
【0113】
図18図18A~18Bは、3kの潜在的タンパク質標的の、p値に対するスペクトルカウント(SC)を呈する散布図である。図18A.SUM-149。図18B.MDA-MB-231。
【0114】
図19図19A~19Bは、MDA-MB-231細胞モデルおよび核染色剤Hoechst 33342を使用する、共に1μMにおけるBodipFlメチルエステル対照およびエルゴステロールペルオキシド-BodipyFlプローブ3mの洗い流し実験の代表的画像である。図19A.対照化合物の蛍光は、洗浄後には観察されない。図19B.化合物3mの蛍光は、洗浄後に観察され、細胞内蓄積を示す。
【0115】
図20図20A~20Fは、プローブ3m(EP-BodipyFl)を用いるSUM-149細胞における共局在化研究の代表的画像である。図20A.一過的にトランスフェクトされたゴルジ-RFP SUM-149細胞。図20B.安定なmRuby-ペルオキシソーム-2 SUM-149。図20C.BodipyFl。図20D.3mと共局在している、ペルオキシソームが安定にトランスフェクトされた細胞。図20E.3mと共局在している、RFP-ゴルジがトランスフェクトされた細胞。図20F.3mと共局在している、小胞体トラッカー。
【発明を実施するための形態】
【0116】
本開示は、GLEの生物活性に関与するGLEの化学的構成成分に関し、様々ながん細胞モデル、特に炎症性乳がんにおける単剤としてのそれらの有効性を特徴付ける。本明細書では、NMR研究、X線結晶学および類似体誘導体化による、GLE(丸ごとのキノコであるReishiMax(登録商標))の7種の最も豊富な化学成分の構造が開示される。トリテルペンおよびステロールを含むこれらの化合物のin vitro有効性は、様々ながんモデルにおいて実証される。低い溶解度特性を克服するために、乳がんの侵襲性モデルに対して優れた効力を呈する改善された誘導体を合成した。
【0117】
修飾され、したがって自然には存在しない化合物には、スルホンアミド誘導体が含まれる。EPを含めたすべての誘導体を、合成的に作出した。
【0118】
7種の化合物のうちの3種(エルゴステロール、5,6-デヒドロエルゴステロールおよびエルゴステロールペルオキシド)は、著しいin vitro抗がん活性を示した。TNBC/IBC細胞において、エルゴステロールペルオキシド(EP)は、G1期の細胞周期停止、カスパーゼ3/7活性化を介するアポトーシス誘導、およびPARP切断を通じて、抗増殖効果を呈する。EPは、試験したIBC細胞における全AKT1、AKT2、BCL-XL、サイクリンD1およびc-Mycの発現を阻害すると同時に、がん細胞の遊走および浸潤的効果を低減した。これらの化合物は、細胞の運命を損なう活性酸素種を誘導する。さらに、優れた誘導体であるエルゴステロールペルオキシドスルホンアミドを作製した。この化合物は、IBC細胞における効力が改善されており、正常細胞と比較して十分な治療指数(TI>10)を有する。組合せ研究では、Ganoderma lucidum抽出物由来のEPが、抗がん剤としてのさらなる探索に有望な分子足場となることが示される。過去の報告は、Ganoderma lucidum抽出物(GLE)が、トリプルネガティブ炎症性乳がんモデルに対して著しい抗がん活性を実証したことを示している。本明細書では、この抗がん活性に関与するGLEの生理活性化合物を特定した。
【0119】
プロドラッグの使用の背後にある理論的根拠は、親化合物の吸収、分布、代謝、排出、および望ましくない毒性を最適化することであった。スルホンアミドの選択は、溶解度特性を克服するための明白な手法ではなかったが、このような化合物の特性に関する内部情報が、細胞モデルにおいて発見された。
【0120】
正常細胞に対して最小限の効果を有し、侵襲性悪性疾患、例えばトリプルネガティブおよび炎症性乳がんのための潜在的治療として働く、抗がん活性を有する化合物が開示される。侵襲性腫瘍を有する患者は、特にこの発見から利益を得ることが予測される。また、化合物の細胞内小器官特定のための、ツール化合物を作製した。
【0121】
乳がん(SUM-149)および正常(BJ)細胞において試験した生理活性化合物である5,6-デヒドロエルゴステロールの特徴および構造が開示される。改善された誘導体には、ガノデリン酸A-メチルエステル、エルゴステロールスルホンアミド、5,6-ジヒドロエルゴステロールスルホンアミド、およびEPスルホンアミドが含まれる。5,6-デヒドロエルゴステロールを、Ganoderma lucidum抽出物から精製し、その化学的構造を提供する。エルゴステロールペルオキシド(EP)の細胞内小器官の局在、ならびに固形腫瘍および血液腫瘍に対する有効性が実証される。本明細書に記載される化合物は、抗がん効果を有するが、正常細胞には影響を及ぼさない。
【0122】
丸ごとのキノコであるGanoderma lucidumの最も豊富な化学的構成成分の構造の解明を行い、がんモデルにおけるそれらの有効性を試験した。GLEの単離された化合物は、複数のがん細胞系にわたってある度合いの効力と共に生物活性を呈する。ここでの結果は、i)GLEの単一成分としてのEPが、侵襲性炎症性乳がんモデルに対して最も生物活性が高い化合物であり、低マイクロモル濃度範囲の有望なEC50値および正常細胞における十分な治療指数を有すること、ii)Ganoderma lucidum由来の5,6-デヒドロエルゴステロールのX線結晶、ならびにiii)溶解度によって対処された、GA-01、エルゴステロール、5,6-デヒドロエルゴステロールおよびEPの改善された誘導体が開発されたことを、初めて実証する。多くの天然産物とは異なり、GA-01およびEPは、タンパク質合成を阻害することによって細胞増殖に対して作用するのではない。むしろ、がん依存機構(例えば、AKT生存促進経路)のモジュレーションを通じるカスパーゼ活性化によって、細胞死が媒介される。データは、GA-01、エルゴステロール、5,6-デヒドロエルゴステロールおよびEPが、乳がん細胞モデルにおいてROSを誘導したことを示しており、そのことは、ROS媒介性機構が、細胞死シグナル伝達経路の開始に寄与することを示唆している。シグナル伝達事象のカスケードをよりよく理解するために、結果により、EPがAKTをモジュレートし、その後、がん細胞の生存、増殖、および進行に関与するタンパク質(例えば、サイクリンD1、c-Myc)を減少することが実証される。最後に、EPスルホンアミドなどのより強力な化合物を開発した。
【0123】
エルゴステロールペルオキシド(EP)は、広範な疾患に対して細胞傷害を選択的に呈する。しかし、その作用機序は、依然として未知である。EPの効率的な合成は、生細胞研究およびプロテオミクスプロファイリングのための化学的プローブへのアクセスを提供した。EP類似体は、乳がん細胞モデルに対して有望な抗増殖活性を示し、優れた類似体を開発するための、この天然産物の構造と活性の関係に関する情報を提供する。本明細書における本発明の結果は、EPが、サイトゾルにわたって分布し、がん細胞系のERに著しく蓄積することを実証している。また、これらのEP化学的ツールは、乳がん細胞系におけるその潜在的な生物学的標的の発見を可能にする。
【0124】
乳がん細胞モデルにおける特異的標的に対処するための取り組みが開示される。したがって、本開示では、乳がん細胞モデルにおけるEPの潜在的機構を回復するために、EP化学的プローブを作製して、細胞内共局在を研究した。EPおよびエルゴステロール由来のその類似体の効率的な合成手法を開発した。結果として得られたEP化合物を、CellTiterGloアッセイ、およびヨウ化プロピジウムアッセイにより、細胞傷害/アポトーシスについて評価した。
【0125】
EPプローブの合成を実施して、潜在的な生物学的標的を評価した。EP類似体は、改善されたエルゴステロールペルオキシド誘導体の開発を助ける、構造と活性の関係に関する情報を提供した。これらの化学的ツールは、細胞系にわたる生細胞の研究にとって、またがん細胞におけるEPの正確な作用機構を描くために有用であり、これらの化学的プローブは、潜在的な抗がん剤のための理想的な分子足場となる。生細胞研究のためのEPプローブの短い合成を開示した。EPは、サイトゾルにわたって分布して、ERに著しく蓄積することが見出された。EPプローブは、固形腫瘍細胞モデルに対して有望な抗増殖活性を示し、この天然産物の構造と活性の関係および潜在的な生物学的標的に関する情報を提供する。
【0126】
構築されたプローブは、蛍光源としてBodipy発色団を用いる、EPのエステル化による蛍光プローブの「慣例的化学」合成を使用すると思われる。しかし、本発明の手法は、リンカーのサイズを戦略的に減少して、Bodipyタグの潜在的効果を最小限に抑えた(細胞へのEPの細胞蓄積に影響を及ぼす)。結果は、そのプローブがこの蛍光タグによっては方向付けられなかったことを実証するための、対応するBodipyタグ対照の作製を含む。対応する細胞モデル(安定に一過的にトランスフェクトされた)を、蛍光プローブに対して直交するように作製すると、その手法は、ユニークで非慣例的なものになった。得られた結果は、EPが、ERおよびサイトゾルに蓄積することを示している。EPの親供給源であるエルゴステロールは、本来、内部の細胞内小器官膜を含めた細胞膜にわたってそれ自体を組み込むことができるので、これにより細胞内の潜在的標的が絞り込まれる。
【0127】
GLEの化学的構成成分
ほとんどのキノコは、約90重量%の水を含有しており、残りの10%は、タンパク質、脂肪、炭水化物、繊維、ビタミン、およびミネラルからなる。Ganoderma lucidumなどの薬用キノコは、様々な生理活性分子、すなわちトリテルペン、ステロイド、フェノール、ヌクレオチド、糖タンパク質、および多糖類も含有する。トリテルペン、多糖類、およびペプチドグリカンは、Ganoderma lucidumにおける3種の主な生理的に活性な構成成分である。初期のスクリーニングでは、ごくわずかな画分が、がん細胞系において選択的細胞死を誘導したことが明らかになった。しかし、微量の画分の未特定のさらなる化合物も、抗がん活性を有し、または特定化合物と相乗的に相互作用すると思われる。それらの初期スクリーニングでは、単一分子の抗がん活性ではなく、各画分(すなわち画分A~F)の総抗がん活性をモニタリングした。生理活性成分のさらなる特徴付けおよび精製によって、合計100の画分からいくつかの豊富な化合物が得られた。GLEを、Soxhlet抽出器で、イソプロパノール(1mL/10mg)中、24時間抽出した。バイオアッセイにより導かれた粗製抽出物の分別は、ガノデリン酸およびエルゴステロール(化合物1~6)シリーズ由来の四環系トリテルペン(TLCおよびMSによる)、ならびに脂質(化合物7)の存在を示した。
【0128】
化合物1~7のさらなる特徴付け(図1)では、パルミチン酸(化合物7)が、重量により抽出物において最も豊富な化合物であったことが明らかになった。これらの化合物は文献に報告されているが、それらの精製は、特に保持時間が類似しているガノデリン酸については困難が伴う。実際、純粋なガノデリン酸A(GA-01、化合物1)を得るためには、未特定化合物から容易に分離され得るガノデリン酸Aのメチルエステル(GA-01-ME)(図9、化合物1aを参照)を作製することに頼る必要があった。塩基を用いるメチルエステルの加水分解により、報告された特徴付けデータと一致して、GA-01が非晶質固体として提供された。ガノデレン酸Aおよびガノデレン酸D(それぞれ化合物2~3)は、他の異性体とオーバーラップしており、シリカゲルカラムにおいて同時溶離し、その後の生物学的研究のために十分な材料をもたらさなかったので、微量で単離された。カラムクロマトグラフィーの繰返しによって、3種のステロールが提供され、それらの分光学的特性(H-および13C-NMR)により、エルゴステロール(化合物4)、5,6-デヒドロエルゴステロール(化合物5)、およびエルゴステロールペルオキシド(化合物6)であることが確認された。図1を参照されたい。
【0129】
エルゴステロールは、流動性、ならびに原形質膜の生合成および機能を制御する、主な真菌膜ステロールである。重要なことに、エルゴステロールおよび5-6-ジヒドロエルゴステロールの構造が、それらをX線結晶学の供することによってさらに確認された。エルゴステロールについてはいくつかのX線結晶構造が報告されていたが、本明細書に記載される結果は、5-6-ジヒドロエルゴステロールのX線構造を報告しており、これは過去に報告されていなかった。二量体単位格子のORTEP構造は、図2に図示されている。X線分子構造の球棒表示を、詳細なパラメータによってまとめた結晶学的データに示す。
【0130】
最も生物活性が高い化合物であるエルゴステロールペルオキシド(EP、化合物6)の構造的解明を、2D NMR実験と組み合わせた質量分析、すなわちCOSY(H-H相関)、HMQC(H-13C相関)、HMBC(H-13C相関)、およびNOESYによって確認し、それによってエルゴステロールペルオキシド(EP)の構造を特定した。EPの物理的データおよび分光学的データの両方は、エルゴステロールペルオキシドについて過去に報告された他のデータと完全に一致する。
【実施例
【0131】
実施例は、例示目的で提供され、本開示の範囲を制限することを企図されない。
(実施例1:in vitroでのがん細胞に対するGLE化合物の効果)
GLE化学的構成成分はがん細胞生存率を低減する
精製されたGLE化合物が抗がん活性を発揮するかどうかを調査するために、乳がん(MDA-MB-231およびMCF-7)および炎症性乳がん(IBC、SUM-149およびSUM-190)モデルで細胞生存アッセイを実施した。化合物の活性を、ヒトおよびマウス白血病(KOPN8、BCR-ABL、UoCB-1、SUP-B15、NALM06)細胞系でも評価した。対照として、正常ヒト皮膚線維芽細胞(BJ)細胞および非がん乳房上皮細胞(MCF10A)を使用した。
【0132】
GLEから抽出された異なる濃度の生理活性化学成分を、72時間の処理期間で試験した。CellTiter-GloまたはPI染色生存アッセイを使用する、GLEから抽出された特定化学成分の用量依存性研究では、GA-01および5-6-ジヒドロエルゴステロールの中程度の活性が示された。それらの有効性は、試験条件下で様々な乳がん細胞系についてより高いマイクロモル濃度範囲(>50μM)のものである(図3A)。エルゴステロールは、乳がん細胞モデルにおいて64μMで開始してがん細胞生存率を著しく低下した(図3B)。重要なことに、GA-01、5,6-デヒドロエルゴステロール、エルゴステロールまたはEPは、正常BJ細胞においては細胞傷害効果を誘導しなかった(図3C)。さらに、パルミチン酸は、評価した細胞系において、試験された濃度では活性を示さなかった。
【0133】
7種の単離された生理活性化合物から、EPが、最大の抗がん活性を示した。EPは、SUM-149 TNBC/IBC細胞の生存率の時間依存的および濃度依存的な低減を誘導する(P<0.05)ことが初めて実証され、24時間目および72時間目にそれぞれ34μMおよび20μMのEC50値が報告された(図4A~D)。さらに、MDA-MB-231 TNBC細胞およびSUM-190 IBC細胞についてのこれらの結果は、やはりEPによる濃度依存的な生存率の阻害を示し、EC50はそれぞれ19μMおよび43μMである(図4E)。これらの結果は、TNBC細胞が、EPに対してより高い感受性を呈し得ることを示唆している。EP処理時にSUM-149細胞数が減少すると同時に、その形態が影響を受け、液胞の存在が検出された。EPはまた、さらなるがん細胞モデルにおいて生存率の低下を呈し、報告されたEC50値は7μM~22μMの範囲であったが、正常ヒト線維芽細胞であるBJ細胞(図3C)およびMCF10A非がん乳房上皮細胞においては、EPは細胞傷害を誘導しなかった。したがって、EPは、丸ごとのキノコ抽出物(GLE)を用いて得られた効果に類似の、がん細胞生存率に対する選択的効果を発揮し、この化合物についての十分な治療ウインドウを示す。
【0134】
EPは細胞周期停止およびアポトーシスを誘導する
EPによって誘導された細胞生存率の阻害が、細胞周期進行に対する効果に起因するものかどうかを決定するために、SUM-149 TNBC/IBC細胞における化合物の効果を調査した。結果は、SUM-149細胞における細胞周期段階に対するEPの著しい効果を示している(図5A)。具体的には、G1期において細胞の百分率の有意な(P<0.001)増大(約20%)が検出され、G2/Mにおいては細胞の百分率が有意に低下し(P<0.05)(約10%)、G1における停止を示した。
【0135】
細胞は、一般に、変異またはDNA損傷に起因して周期のG1期を迂回できず、それによってアポトーシスが生じ得る。したがって、EPが、SUM-149細胞においてプログラム細胞死を誘導するかどうかを決定するために、処理した細胞をアネキシンVおよび7-AAD色素で二重染色して、初期対後期アポトーシスの細胞の百分率、ならびに生存細胞の百分率を決定した。図5Bに示される通り、初期アポトーシスの細胞の百分率(アネキシン+、7AAD-)は、有意に増大し(P<0.0001)、48時間のEP処理後の生細胞の百分率は、低減し(約15%;アネキシン-、7AAD-)(P<0.0001)、アポトーシス誘導の予想が確認された。さらに、カスパーゼ3/7活性アッセイを、アポトーシス検出の代替法として実施した。GA-01およびEPは(図5C)、共にカスパーゼ3/7活性を増大し、SUM-149およびMDA-MB-231 TNBC細胞の両方の生存率を低減し、GLEの化学的生理活性構成成分の死滅誘導効果を実証している。最後に、SUM-149細胞のEP処理時に、形成されたコロニーの数およびサイズの濃度依存的低減(図5D)が示され、EPの細胞周期停止および死滅誘導効果がさらに確認された。
【0136】
タンパク質合成およびROS形成に対するEP効果
過去には、丸ごとのキノコのGLEの24時間の処理が、SUM-149 TNBC細胞において約50%のタンパク質合成阻害を誘導することが示された。GLEから誘導されたGA-01またはEPが、新規タンパク質合成阻害を誘導するかどうかを試験するために、それらを、TNBCモデルにおいて細胞内クリック新規タンパク質合成アッセイに従って、公知のタンパク質合成阻害剤であるシクロヘキシミドのために使用される条件と同じ条件下で細胞を2時間処理することによって試験した。結果は、EPおよびGA-01が、これらの実験条件下で新規タンパク質合成を阻害しないことを示している(図6)。
【0137】
個々の化合物がSUM-149、MDA-MB-231においておよびMCF-7乳がん細胞において活性酸素種(ROS)形成に影響を及ぼすかどうかについて決定した。酸化ストレス検出のための生細胞CellROX(登録商標)アッセイを実行して、GA-01、エルゴステロール、5-6-ジヒドロエルゴステロールおよびEPが、ROSを誘導することによって内因性アポトーシス経路を誘発するかどうかを評価した。CellRox(登録商標)緑色試薬は、還元状態でも弱い蛍光を有する透過性色素であり、ROSによる酸化時に明るい緑色の光安定性の蛍光を示す。メナジオンまたはt-ブチルヒドロゲンペルオキシド(TBHP)は、陽性対照であり(図7およびS5)、N-アセチルシステイン(NAC)と同時処理して、シグナルが化合物によって誘導されたROS形成に起因していることを確認した。MDA-MB-231およびSUM-149細胞において、メナジオン処理は類似の効果を引き起こし、NACの存在下でROS形成が有意に約20%低下したが(P<0.0001)、このことは、グルタチオンレベルの増大、システインジスルフィド分子を発生するROSとの直接相互作用、または化合物への直接的な妨害を示すと思われる。EPは、MDA-MB-231については2倍のROS形成(P<0.001)(図7A)およびSUM-149細胞においては4倍のROS形成(P<0.0001)(図7B)を、有意に誘導した。重要なことに、NACの存在下では、SUM-149細胞におけるROS形成が有意に約20%低下し(P<0.001)、EPの効果が、SUM-149細胞において最も顕著であることを示唆している。MCF-7乳がん細胞において、TBHP処理は、NACの存在下でROS形成をほぼ50%低下した。GA-01、エルゴステロール、5-6-ジヒドロエルゴステロールおよびEPは、少なくとも2倍のROSの増大を誘導したが、TBHPとは異なり、NACと同時処理した場合、わずか9~25%しかROS形成の低下が観察されず、これらの結果のいずれも、統計的に有意ではなかった。さらに、エンドペルオキシドモチーフがNACと反応する可能性を評価した。EPを、DMSO中NACと共に37℃で24時間インキュベートした。反応混合物を、NMRおよびLC-MSによってモニタリングしたが、観察できるほどのオレフィン移動もエンドペルオキシドの開環も検出されなかった。したがって、ROSを誘導するEPの能力は、潜在的に、MCF-7細胞におけるTBHPの能力とは異なる機構によるものであり得る。
【0138】
EPは乳がん細胞における細胞遊走、浸潤、および主要シグナル伝達経路を低下する
過去には、SUM-149細胞における丸ごとのキノコのGLEの抗遊走性活性が報告された。細胞遊走に対するEPの効果を調査するために、Boydenチャンバアッセイを使用し、浸潤を調査するために、Transwellチャンバを使用した。本発明者らの結果は、EPが、報告されたEC50よりも低用量(10μM)でがん細胞遊走を低減することを示している(図8A)。10μMで処理すると浸潤細胞の有意な低下(P<0.05)が観察されたので、EPは、がん細胞の浸潤の濃度依存的な低減を示す。さらに、細胞を非致死性用量の15μMのEPで処理すると、さらなる低減(43%)が見られた(P<0.01)(図8B)。これらの結果は、SUM-149 IBC細胞におけるEPの抗遊走性効果を実証する最初のものである。
【0139】
がん細胞の生存および浸潤シグナル伝達の駆動因子に焦点を合わせた研究では、乳がんにおけるAKTアイソフォームの重要な役割が示される。AKT1およびAKT3は、乳がん浸潤と関連しており、PTEN欠損腫瘍は、維持および生存のためにAKT2に依存する。開示された結果は、EP処理が、SUM-149細胞(S6)においてp-AKT1の発現を有意に低減し(Ser473、P<0.01)、全AKT1(P<0.05)およびAKT2レベル(P<0.001)を低減するが(図8Cおよび8D)、AKT3レベルには影響を及ぼさないことを示している。EPによるAKTアイソフォームの発現の制御は、同じ乳がん細胞系において丸ごとのキノコのGLEを用いて本発明者らが報告したものに極めて類似している。
【0140】
EPはアポトーシスを誘導したので、ミトコンドリアからのチトクロムCの放出をブロックする、抗アポトーシスタンパク質BCL-2およびBCL-XLの発現に対するその効果を調査した。図8Cおよび8Dに示される通り、EPは、乳がん細胞における細胞周期進行および増殖に関与するシグナル伝達分子である、BCL-XLの発現(P<0.001)、ならびにサイクリンD1(P<0.05)およびc-Myc(P<0.001)の発現を有意に低下する。SUM-149細胞におけるEPのアポトーシス誘導効果を、PARP切断をモニタリングすることによって調査した。本明細書で開示される結果は、EPが、SUM-149細胞における24時間の処理後に、全PARPレベルを有意に低下し(P<0.0001)、PARP切断を誘導する(P<0.02)ことを実証する。この結果の組合せは、遊走および死滅誘導プロセスに影響を及ぼす、がん細胞に対するEPの阻害効果、ならびにがん進行において極めて重要な役割を果たす主要タンパク質の発現を実証する。
【0141】
(実施例2:有効性を改善するための化合物の修飾)
EP誘導体
化学修飾が、エルゴステロール、5-6-ジヒドロエルゴステロールおよびEPの生物活性を改善し得るかどうかを調査するために、それらの対応する中性C-3ベンゼンスルホニルカルバメート誘導体をデザインし、合成した。これらの化合物の観察された中程度の生理活性は、化合物の溶解度または膜透過性に部分的に起因していた。したがって、プロドラッグ戦略としてカルバメート官能基の導入を使用して、細胞活性を改善した。これらの誘導体の合成が示され(図9)、その合成は、ベンゼンスルホニルクロリド(1.1当量)を、THF中エルゴステロール(化合物4a、エルゴステロールスルホンアミド)、5-6-ジヒドロエルゴステロール(化合物5a、5-6-ジヒドロエルゴステロールスルホンアミド)およびEP(化合物6a、エルゴステロールペルオキシドスルホンアミド)にRTで添加することを含んでいた。反応は、良好から優れた収率(87~93%)で完了した。弱塩基性化合物は、それらの環境のpHおよび官能基(-OH、-COH)のpKaに応じて、非イオン化またはイオン化形態で存在することができる。イオン化化合物は、脂質二重層にわたって、非イオン化化合物の透過性と比較して低い透過性を有することができる。中性カルバメート誘導体であるエルゴステロールスルホンアミド、5-6-ジヒドロエルゴステロールスルホンアミド、およびEPスルホンアミドは、改善された溶解度を有し、細胞膜を通過し、好ましい緩慢な細胞内蓄積を生じさせるはずである。
【0142】
乳がん細胞における化合物の細胞傷害評価では、それらの対応する親構造の効果を上回る改善された細胞傷害効果が示された(図10A)。EPスルホンアミドは、がん細胞生存率の有意な低下を示し(P<0.0001)、EC50=12μMである。これらの細胞をEPスルホンアミドで処理した場合、ヒト正常BJ線維芽細胞に対する毒性は最小限であり、この化合物ががん細胞を選択的に標的にすることを示した(図10B)。一般に、プロドラッグの使用の背後にある理論的根拠は、親化合物と同じ生物学的プロファイルを維持しながら、化合物の生理化学的特性を最適化することである。
【0143】
本願では、GLEにおけるトリテルペン含量は、1~3%の範囲であったが、脂質含量は3つの異なるバッチで依然として一貫していた。トリテルペン含量の変動は、キノコによるテルペン生成の差または抽出方法に起因して起こり得る。本明細書では、GLEにおける7種の最も豊富な化合物が提示され、それには、ガノデリン酸(GA-01)、ガノデレン酸A、ガノデレン酸D、エルゴステロール、5,6-デヒドロエルゴステロール、エルゴステロールペルオキシド(EP)、およびパルミチン酸が含まれていた。過去には、エルゴステロールの結晶構造が報告されていたが、本発明の研究では、Ganoderma lucidum由来の5-6-ジヒドロエルゴステロールのX線構造が初めて提供された。
【0144】
がんの病理生物学の潜在的な差を捉えるために、単離された化合物の効果を、乳がん細胞モデルの代表的パネルで試験した。MDA-MB-231およびSUM-149は、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)細胞であり、すなわちそれらは、エストロゲン受容体(ER)、プロゲステロン受容体(PR)、およびヒト上皮増殖因子受容体2(HER2)が欠けており、それぞれ間葉系様乳がんおよび上皮様炎症性乳がんの2種の別個の乳がんサブタイプを表す。SUM-190は、ER/PR-ネガティブであるがHER2がん遺伝子を発現するIBC細胞系であり、MCF-7細胞は、ER/PR受容体(ER/PR-ポジティブ/HER2-ネガティブ)を発現する。最も侵襲性が高い乳がんの患者コホートにおいて処置を成功させるための治療剤が欠けているため、調査は、最も侵襲性が高い乳がんモデル(TNBCおよびIBC)に対して化合物を試験することに焦点を当てた。
【0145】
7種の単離された化合物のうち、エルゴステロールは、HEPG2、MCF-7およびMDA-MB-231細胞系における過去のエルゴステロール研究と一致して、SUM-149細胞に対して中程度の生物活性を呈した。EPは、試験した細胞系において最大の選択的抗がん活性を呈した。EPは、環式ペルオキシド(-O-O-)を特徴とし、これらの化合物は、まとめてエンドペルオキシドとして公知である。このクラスの化合物の典型的な例は、薬物耐性寄生虫の拡散の低下を助け、細胞傷害活性が実証された抗マラリア薬物であるアルテミシニンにおいて特徴付けられる。EPは、肝細胞癌細胞モデルにおいて、様々なシグナル伝達経路(例えば、AKTおよびc-myc)の制御により抗がん細胞成長特性を有することが示されている。同様に、本発明の結果は、EPが、様々ながんモデルにおいてがん細胞生存率に選択的に影響を及ぼし、ここでは、SUM-149 IBC細胞が最も高い感受性を呈することを示している。興味深いことに、正常BJおよび非がん乳房上皮MCF10A細胞において、EP処理は著しい細胞傷害を示さなかった。本明細書で報告された研究では、EPが、細胞周期におけるG1停止を誘導し、それには、サイクリンD1およびc-myc発現の低減、ならびにSUM-149細胞の初期アポトーシスの増大が伴うことが明らかになった。同等の制御的な結果が、結腸直腸および肝細胞がん細胞モデルにおいてEP処理時に得られ、ほとんどの細胞が周期の初期段階で停止した。さらに、EPは、生存促進性p-AKT1の発現、ならびに全AKT1およびAKT2のレベルを、p-AKT2に影響を及ぼさずに低下する。EPは、全タンパク質に対して得られた阻害効果を克服するためのシグナルを誘導するフィードバック機構を介して、p-AKT2に影響を及ぼさずに全AKT2を低減することが可能である。p-AKT2は、著しく上方制御されないが、リン酸化レベルは、全AKT2の喪失を相殺するように安定化されると思われる。EPの細胞シグナル伝達制御効果を理解するためのさらなる研究が進行中である。
【0146】
SUM-149細胞のEP処理は、細胞生存率を低下し、24時間の処理後に、カスパーゼ-3/7活性およびPARP切断の増大によって検出されたアポトーシスを誘導した。SUM-149(TNBC/IBC)細胞におけるEPの細胞傷害プロファイルは、細胞周期停止および初期アポトーシスを誘導する化合物に曝露した細胞のものと一致する。それとは対照的に、EPは、がん細胞生存率を低減すると同時に、カスパーゼ3/7活性化を介してアポトーシスを誘導し、MDA-MB-231 TNBC細胞の細胞傷害を増大した。結果の組合せは、2種のTNBC細胞系に対するEPの死滅誘導効果が、異なる機構によって起こることを示唆している。試験したすべての化合物は、レベルが異なっていても、乳がん細胞においてROSを誘導する。具体的には、EPは、SUM-149細胞においてより高い能力でROSの形成を増大し、その効果は、NACと同時処理すると低下した。したがって、細胞内ROSは、EPの観察されたアポトーシス効果のさらなる寄与因子であると思われる。重要なことに、結果は、過去に別個の供給源から得られた、結腸直腸、前立腺、および白血病細胞を含む様々なin vitroがんモデルにおいて実証されたEPのアポトーシス誘導効果と一致する。
【0147】
それらの病原性を増大するさらなるがん細胞特性には、遠隔臓器部位に遊走し、浸潤するそれらの能力が含まれる。したがって、SUM-149細胞の運動性および浸潤に対する非致死用量のEPの制御効果を調査した。EPは、細胞遊走および浸潤の低下を呈し、これらの結果は、乳がん細胞の浸潤能力の低下が実証されたGLEの過去の研究と一致する。さらに、本発明の結果は、SUM-149乳がん細胞におけるEPの抗遊走効果を実証し、乳がん系において文献で報告された投薬量よりも低い投薬量で抗浸潤効果を実証する、最初のものである。
【0148】
EPに伴う傾向の1つは、部分的に水溶性であり、部分的に水不溶性の特徴を有する両親媒性分子であるコレステロールと、そのコアを共有することである。したがって、細胞膜を容易に透過できる一方、純粋化合物を送達する能力は、課題に直面する。DMSOまたは水へのEPの溶解度特性は、30℃まで加温されない限り低い。しかし、この報告では、EPの誘導体であるEPスルホンアミドは、DMSOに10mMで可溶性であった。したがって、EPよりも高い効力およびBJ正常細胞と比較して十分な治療ウインドウを有する選択的抗がん化合物の作製を達成した。
【0149】
(実施例3:プローブの構築)
まず、EPを、出発材料としてのエルゴステロールから、MeOH中ラジカル開始剤(触媒作用的)の存在下で酸素を用いて処理することによって、ヘテロディールス・アルダー反応を介して、精製後に単一化合物として優れた収率(収率93%、SI参照)で作製した。C3における遊離ヒドロキシル基は、さらなる官能化のための手段を提供する。したがって、いくつかのEP類似体(3a~3k)(図12)を作製して、細胞傷害に関してC3-ヒドロキシル基とのリンカーの長さおよび性質(極性基)の影響を評価した。過去には、EPのベンジルカルバメートが、おそらくは溶解度特性の改善に起因して、改善された生物学的活性を呈することが観察された。
【0150】
化合物3をTPAP/NMOでRTにおいて酸化して、エノン系3aを提供した。並行して、3b~3c、3h、3i、3jおよび3kの合成では、EPを対応するカルボン酸、塩化アシル、または無水物でエステル化した(詳細な情報についてはSIを参照)。3d~3gの合成は、S2タイプの反応を含んでいた。ビオチン化化合物の合成は、EPを、良好な収率でビオチンの混合無水物とカップリングすることを含んでいた。合成した化合物を、Hおよび13C(1Dおよび2D)NMR、ならびに質量分析によって特徴付けた。次に、EP蛍光プローブ(3l~3n)の作製を、細胞内小器官の検出および機能に関する研究を含む生細胞分析のために作製した(図15)。EPと、蛍光色素、例えばTAMRA(テトラメチルローダミン)、FITC(フルオレセインイソチオシアネート誘導体)、およびBODIPY(ホウ素-ジピロメテン誘導体)とのコンジュゲーションが意図された。これらの蛍光プローブは、蛍光顕微鏡を使用する共局在研究中、他の細胞内小器官-蛍光トラッカーに対して直交性でなければならない。Buらは、ミトコンドリアに蓄積することが公知のEPのクマリン蛍光プローブを作製した。本明細書で開示される不偏性蛍光EPプローブは、蛍光タグの影響なしに特異的部位へのEPの蓄積を明らかにする(undercover)ことを企図されたものであり、EPの機構への洞察を提供する。蛍光試薬は、親化合物の運動性および蓄積部位に影響を及ぼす場合があり、リンカーのサイズの最小化を、親EPと比較して分子量範囲を維持するために最小化した。ローダミンプローブ(テトラメチルローダミン、TAMRA)の構造は、図15に示される。
【0151】
商業的に入手可能な5-TAMRA(5-カルボキシテトラメチルローダミン)、プロパルギルアミン(2当量)をPypOPおよびヒューニッヒ塩基で処理することにより、対応するFITC-プロパルギルアミドを得られた(収率90%)。次に、EP-アジドの合成を、(a)EPを塩化アシルでアシル化し、続いて(b)塩基条件下でアジドを置き換えることによって達成した。銅触媒アジド-アルキン環化付加(CuAAC)を、t-BuOHおよび水中アスコルビン酸ナトリウムの存在下で触媒作用的な硫酸銅によって媒介して、3Iを68%で提供した。BODIPYに由来するプローブを、BODIPYプロピオネート(propianate)をEtNの存在下で活性化2,4,6-トリクロロベンゾイルクロリドで処理し、その後EPを付加して化合物3mを生じることによって作製した。BODIPYディープレッド蛍光試薬の対応するN-ヒドロキシスクシンイミドエステルの単一ステップによる縮合により、3nが収率60%で得られた。
【0152】
EPの構造と活性の関係をより良く理解するために、そのコアを、ステロイド骨格のC3位置で修飾した。エルゴステロールの評価から、エンドペルオキシドは、がん細胞モデルに対する強力な活性に必要な官能基であることが、本発明者らに明らかになっていた。これらの化合物の細胞傷害を評価するために、CTG(CellTiterGloアッセイ)を、表1に示される通り72時間使用した。トリプルネガティブ乳がん細胞系:MDA-MB-231、SUM-149、およびERポジティブ細胞T47D。正常細胞系であるHMECおよびBJ細胞の両方も評価して、治療指数を決定した。結果は、TNBCモデルであるSUM-149が、すべての化合物に対して最も感受性が高い細胞系であり、一方、MDA-MB-231は応答性が少なかったことを示した。ERポジティブ細胞系であるT47Dは、研究条件下では応答性が最も低かった。EP(化合物3)は、がん細胞系にわたって様々な効力を有することが報告されており、それはその溶解度が低いことに直接的に起因し得る。3は、驚くべきことに安定であると同時に、ほんの一報の報告が、おそらくは逆(retro)-ディールス・アルダー反応(react)を介する3からエルゴステロールへの変換を開示した。PBS中MS/MSによる分解は、37℃で72時間にわたって観察されなかった。しかし、化合物3の沈殿がRTで168時間にわたって形成され、モル濃度に影響を及ぼす。さらに、作製された化合物の一部は、やはり低い溶解度特性を呈し、この潜在的傾向を克服するために、リポソーム送達が好適な将来的戦略になることを示している。
【0153】
注目すべきことには、酸化した化合物3aは、改善された活性を呈し、それが溶解度特性の改善に部分的に起因した。対応するアミン(3b)、クロリド(3c)、アジド(3d)は、SUM-149に対して有望な活性を示し、MDA-MB-231およびT47Dにおいては、試験された濃度において活性はほとんどまたは全く観察されなかった。対応するアルキニルエーテル3eは、より良好な活性を示したが、より長い鎖を含有する化合物3jは、細胞系にわたって優れた活性を示した。ホスホン酸エステル3fは、改善された活性を示したが、対応するホスホン酸(3g)、ホスホコリン(3h)およびグルタル酸エステル(3i)は低い活性を呈し、これは、おそらくこれらの化合物の帯電性質に起因していた。ビオチン化化合物3kは、親化合物3に匹敵する細胞傷害を示した。TAMRA-プローブ3lは、低い溶解度特性を示し、DMSOまたはPBS中で容易に沈殿した。洗い流し実験では、化合物3lが、細胞に全く蓄積しなかったことが明らかになった。観察された細胞傷害は、あるとしても短い細胞内滞在時間に起因して、アポトーシスによるものではなく栄養素摂取の妨害から生じている可能性がある。最後に、蛍光プローブ3mは、親化合物3に匹敵する細胞傷害を実証した。しかし、3nは、優れた活性を示した。化合物3およびその化学的な類似体は、試験された濃度において、FDA承認薬物(カペシタビン)に匹敵する中程度の治療指数を呈し、特に化合物3k、3m~3nが有望であったことを強調しておくことも重要である。これらの化合物の抗増殖効果だけでなく、アポトーシスを誘導する能力も、3k、3m~3nについて、ヨウ化プロピジウムアッセイにより妥当性を検証した。
【0154】
次に、EPの細胞内共局在を評価するために、作出された直交性細胞モデルを作製した。合成化学的プローブは、細胞の遺伝子操作よりも費用効率が高く、より多量に入手可能である。それらのプローブはまた、広範な報告および標的化一体型の特色を有することができ、それによってプローブは多目的な調査ツールになる。細胞におけるそれらの使用は、細胞の形質転換または操作を必要としない。化学的プローブは、商業的に入手可能な色素と共に使用されたが、ゴルジおよびペルオキシソームを研究するための本発明者らの化学的プローブに利用可能な直交性色素はなかった。したがって、一過的にトランスフェクトされた細胞モデルについて、MDA-MB-231およびSUM-149のためにBacMam技術を適用した(図3A~3Bに示される通り)。
【0155】
Ruby-ペルオキシソームタグ付き細胞内小器官のために、安定なMDA-MB-231細胞を作製した(図13)。
【0156】
EPは、エンドペルオキシドであり、ペルオキシソームに蓄積する可能性が高いと思われる。まず、プローブ3lを評価したが、前述の通り、その化合物は細胞への透過に困難を有するので、細胞染色は観察されなかった。プローブ3mの洗い流し実験に示される通り、その化合物は、サイトゾルにわたって分布することが示された。次に、化合物3mを、Ruby-赤色ペルオキシソームが安定にトランスフェクトされた細胞で評価したが(図14A)、共局在は観察されなかった。同じ観察を、ゴルジ-RFP細胞について決定した(図14B)。3mがリソソームに蓄積したかどうかを評価するために、lysotrackerを使用したが(図14C)、共局在は記録されなかった。次に、ディープレッドmitotrackerを使用して、ミトコンドリアの共局在を評価したが、オーバーラップは検出されなかった(図14D)。最後に、3mとともに青色/白色ERトラッカーを使用することによって、良好な共局在が記録された(図14E)。MDA-MB-231およびSUM-149がん細胞の両方において、観察の一致が記録された。この化学的プローブは、細胞においてEPと類似の有効性を有していたので、結果の組合せは、EPが細胞のサイトゾルに存在し、ERに部分的に共局在する可能性が高いことを示唆している。
【0157】
また、ディープレッドEPプローブ(3n)を作製し、評価して、類似の局在パターンが観察され得るかどうかを決定した。GFP-ペルオキシソーム細胞系において、図5Aに示される通り、3mから異なるパターンが観察された。蓄積は全く異なるように見えたので、緑色mitotrackerを使用して、細胞内の化合物分布を調査した。予想外に、3nは、ミトコンドリアに選択的に蓄積した。このような知見は、この化合物が、ミトコンドリアに存在する場合にはより大きい細胞損傷を誘導し得るので、細胞系にわたって評価したすべての誘導体のうち最も強力な化合物であったという本発明者らの知見と合致した。
【0158】
NPおよび薬物の作用機序を研究するための標的デコンボリューションは、依然として、今日の化学生物学において最も困難なものの1つである。しかし、親和性ベースのプロテオミクスは、今もなお、薬物の発見における生物学的標的の特定を加速する最も一般的で有力な方法である。したがって、プルダウン実験を、EPに類似の有効性を示したビオチン化プローブ3kを用いてデザインした。ビーズに結合したビオチン化プローブを細胞溶解物と共にインキュベーションすることにより、化合物の溶解度と関係する問題の一部および細胞死中の二次的効果が回避される。対照としての非細胞傷害性ビオチン化コレステロールプローブは、優れたプローブであると証明され、すべての非選択的タンパク質を標的とする著しい利点を付加した。成果は、潜在的なタンパク質相互作用物質への洞察を提供する。SUM-149およびMDA-MB-231細胞モデルにおいて3kと相互作用する潜在的な生物学的標的の分布は、図18に示される。潜在的標的の有意なp値を十分に呈するスペクトルカウントを実施した。SUM-149およびMDA-MB-231細胞系の両方において、2種の標的(RIPL2およびUBR4)が特定されたが、それらは共に、サイトゾルおよび原形質膜にわたって分布し、そのことは本発明者らの共局在研究と合致すると思われる。Rab相互作用リソソームタンパク質様1(RLP1、またRILPL1として公知)は、細胞タンパク質輸送におけるその役割に起因して、細胞形状および極性を制御する上である役割を果たす。E3ユビキチン-タンパク質リガーゼ(UBR4)は、核内で網膜芽細胞腫関連タンパク質と相互作用し、細胞質内でカルシウム結合カルモジュリンと相互作用する。UBR4は、N末端則経路の成分でもあり、不安定化しつつある特異的N-末端残基を担持するタンパク質を、N末端則に従って認識し、それに結合して、それらをユビキチン化し、その後分解する。クラスリンとカップリングしたこのタンパク質は、膜の形態形成および細胞骨格の組織化に関与する網目構造を形成し、インテグリン媒介性シグナル伝達を制御する。この天然産物の正確な作用機序を解明するために、さらなる検証研究は当然である。EPは、さらなる治療開発のためのヒット化合物としての潜在可能性を有しており、化学修飾は、特異的な細胞内小器官に蓄積して、より高い細胞効果を誘導することによって、優れた効力をもたらすことができる。
【0159】
(実施例4:腫瘍進行生成におけるエルゴステロールペルオキシドの有効性のin vivo研究)
1.実験デザイン
雌の重症複合免疫不全(SCID)マウス(21日齢)を、Charles River Laboratories International Inc.(Wilmington、MA)から購入し、特定病原体除去条件下で収容した。マウスには、フィトエストロゲンを含まないオートクレーブしたAIN76-A餌(Tek Global、Harlan Teklad、Madison、WI)および水を、自由に摂取させた。このプロトコールは、Universidad Central del Caribe IACUCによって承認された。細胞接種は、本発明者らが過去に記載した通り実施した(PMID:20517637、PMID:23468988、PMID:26958085、PMID:30542507、PMID:31658643)。マトリゲル(BD Biosciences、San Jose、CA)中MDA-MB-231 GFP細胞(5×10)を、乳房脂肪体に注射した。腫瘍確立後に、動物を、対照群および実験群に無作為に分けた。処置は、接種後、腫瘍が約100mmになった5週目に開始した。SCIDマウス(n=8匹/群)に、ビヒクル(1×PBS中10%ETOH)、100uL体積中100mg/kgのBWエルゴステロールペルオキシドを週3回i.p.注射した。
【0160】
2.生体内イメージング
マウスを、腫瘍確立後およびその後週1回、画像化した。腫瘍進行を、UVP iBox Explorer(Analytik Jena、Upland、CA)で撮影した蛍光画像分析によってモニタリングし、PMID:20517637の通り定量した。相対的な腫瘍成長を、イメージング当日に各腫瘍の蛍光強度として計算した。腫瘍進行についての定量化を、ImageJソフトウェア(National Institutes of Health、Bethesda、MD)を使用し、処置投与の01日目(5週目)の同じ腫瘍の蛍光強度に対する、処置した各腫瘍の蛍光強度を使用して計算した。
【0161】
3.統計的分析
統計単位としての計画対象期間(time horizon)を説明するために、一般線形モデル反復測定ANOVA手法を使用した。Bonferroni事後試験を多重比較のために使用し、有意レベル(α)は≦0.05に設定した。
【0162】
結果については、図16(A、B)を参照されたい。
【0163】
材料および方法
A.実験化学手順
1.一般情報:
粉末化Ganoderma lucidum抽出物(GLE)子実体および破砕した胞子からなる、商業的に入手可能な丸ごとのキノコであるReishiMax GLp(商標)(Pharmanex Inc.、Provo、UT)のカプセル(500mg)を使用した[12~14]。すべての操作を、別段の注記がない限り、不活性ガス雰囲気下で行った。無水テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル(EtO)、ジクロロメタン(CHCl)、トルエン(PhCH)、アセトニトリル(CHCN)、メタノール(MEOH)、およびジメチルホルムアミド(DMF)を、溶媒乾燥系から得た。入手可能な最高の質の試薬を、商業的に購入し、別段記述されない限りさらなる精製なしに使用した。標題化合物を、フラッシュカラムクロマトグラフィーによって、E.Merckのシリカゲル(60、粒径0.040~0.063mmol)またはBiotage Isolera Fourと共に順相シリカゲルを使用して精製した。反応を、薄層クロマトグラフィー(TLC)によって、0.25mmolのE.Merckのシリカゲルプレート(60F-254)上で、可視化のためのUV光およびアニスアルデヒドのエタノール溶液、またはPMA、CAM溶液および展開剤としての熱を使用してモニタリングした。また、反応を、Agilent 1100シリーズLCMSおよび低共鳴エレクトロスプレーイオン化(ESI)モデルと共に254nmにおけるUV検出を使用することによってモニタリングした。合成した化合物の構造を、400または500MHzのBruker AVANCE III HD NMRで記録したHおよび13C-NMRによって確認した。化学シフトを、溶媒残留ピークに対してppmで報告した(CHClHについて7.26ppm、13Cについて77.2ppm;アセトン-dHについて2.05ppm、13Cについて29.9ppm;ピリジンdHについて2.50ppm、13Cについて39.5ppm)。データを、以下の通り報告する。化学シフト、多重度(s=一重線、d=二重線、t=三重線、q=四重線、quint=五重線、m=多重線、br=ブロード)、カップリング定数(Hz)、および積分値。データを、MestReNovaを使用することによって処理した。旋光度を、DCIF偏光計(JASCO P-1010)で、経路長100mmを有する2mLセルを使用して測定した。高分解能質量スペクトル(HRMS)を、Agilent ESI-TOF(飛行時間)質量分析計で、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)もしくはエレクトロスプレーイオン化(ESI)を使用して、またはWaters Xevo G2 Q-ToF質量分析計で記録した。化合物を、ESIをポジティブイオンモードで使用することによって分析した。合成した各化合物の純度を、Waters ACQUITY UPLC-PDA-ELSD-MSシステムで、C18逆相カラムを使用し、0.1%ギ酸/水-0.1%ギ酸/アセトニトリルを溶媒として使用して決定した。合成したすべての化合物は、分析用HPLCおよびNMRに基づいて、少なくとも95%純粋であった。化学的収率は、精製した化合物について言及するものである(H-NMR)。
【0164】
2.GLEからの生理活性の分別(画分1~100)
Tuによって過去に記載された通り[15]、分取HPLCによる分離を、Gemini 5μm C18 110Aカラム(30×50mm、5μm、Phenomenex,Inc.、Torrance、CA)で実施した。Shimadzu LC-8Aバイナリ分取ポンプと共にShimadzu SCL-10A VPシステムコントローラーを、Gilson 215オートサンプラーおよびGilson 215画分収集器(Gilson,Inc.、Middleton、WI)に接続した。検出は、Shimadzu SPD-M20Aダイオード-アレイ検出器およびShimadzu ELSD-LT II蒸発光散乱検出器(Shimadzu Corp.、Kyoto、Japan)によって実施した。移動相は、水(A)およびアセトニトリル(B):0分、98:2;0.5分、98:2;6.5分、0:100;12.3分、0:100;12.5分、98:2;12.95分、停止からなっていた。流量は25mL/分であった。簡潔には、画分(A-画分1~6、B-画分7~9、C-画分10~17、D-画分18~31、E-画分32~41、F-画分42~100)を収集し、質量スペクトルデータに基づいて組み合わせ、それらのTLCプロファイルおよび生物学的特性を評価した。
【0165】
3.エルゴステロール(化合物4)および5,6-デヒドロエルゴステロール(化合物5)の結晶構造
画分98および99(収集した103の画分のうち)が沈殿し、結晶を、Cu Kα放射線(λ=1.5478)を備えたBruker Kappa APEX-II CCD回折計で実行される単結晶回折研究のために収集した。対象化合物の結晶を、酢酸エチル350μLに試料およそ1mgを溶解することによって成長させ、次に、それを数日にわたってペンタンと共に蒸気拡散させた。0.114×0.085×0.076mmの無色ブロック片を、Paratone油でCryoloopにマウントした。データを、φおよびω走査を使用して、窒素ガスストリーム中100(2)Kで収集した。結晶と検出器の間の距離は40mmとし、θに応じて様々な曝露時間(10秒~60秒)を使用し、走査幅1.0°を用いた。データ収集は、67.614°のθまでで96.2%完了した(0.83Å)。指数-12≦h≦12、-8≦k≦8、-40≦l≦40をカバーする、合計37758の反射を収集した。合計8970の反射が、Rint0.0582で対称独立であることが見出された。指数付けおよび単位格子の精密化により、基本単斜格子が示された。空間群はP2であることが見出された。データを、Bruker SAINTソフトウェアプログラムを使用することによって積分し、SADABSソフトウェアプログラムを使用することによって調整した(scale)。直接法(SHELXT)によって解くと、提唱された構造と一致する完全位相モデルが生成された。
【0166】
すべての非水素原子を、完全行列最小二乗法(SHELXL-2014)によって異方的に精密化した。すべての水素原子を、騎乗モデル(riding model)を使用して置いた。それらの位置を、SHELXL-2014において適したHFIXコマンドを使用することによって、それらの親原子に対して拘束した。分子の絶対立体化学を、Parsonの方法を使用し、Flackパラメータ0.002(230)を用いて異常分散によって確立した。結晶学的データは、Cambridge Crystallographic Data Center(CCDC番号1442028)で保管された。
【0167】
B.細胞実験手順
1.細胞培養:
細胞系を、American Type Culture Collection(ATCC)またはLeibniz-Institute Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)から購入し、抗生物質なしに、または供給者によって特定される通り培養した。すべての細胞系を37℃でインキュベートし、適切な無菌細胞培養術に従って、5%COを含有する雰囲気中で維持した[16]。患者由来のトリプルネガティブIBC細胞系SUM-149[17]およびER/PR-ネガティブ/HER2-ポジティブSUM-190細胞系(Dr.Steven Ethier、Medical University of South Carolinaによって寄贈された;共にAsterand Bioscience、Detroit、MIで入手可能)を、それぞれ、[12、14]の通り10%ウシ胎仔血清(FBS)を含むハムF12培地(Life Technologies、Carlsbad、CA)および2%FBSを含むハムF12培地で培養した。接着細胞を、別段特定されない限り80%~90%コンフルエンスまで成長させ、懸濁細胞を、使用前にAsterand、ATCC、またはDSMZによって推奨される密度まで成長させた。BJ(CRL-2522、正常ヒト包皮線維芽細胞)、MCF-7(HTB-22、ヒト乳癌)を、10%FBSを含むEMEM培地(Life Technologies、Carlsbad、CA)で培養し、MDA-MB-231(HTB-26、ヒト乳癌、トリプルネガティブ乳がん)細胞を、10%FBSを補充したDMEM培地(Life Technologies、Carlsbad、CA)で培養した。懸濁細胞KOPN8(MLL-MLLt1/ENL融合を伴う乳幼児ヒトB細胞前駆体急性リンパ芽球性白血病)、UoC-B1(St.Jude Children’s Research HospitalのDr.William Evansによって寄贈された)、SUP-B15(ACC389)、NALM-06(ACC128)またはBCR-ABL(BCR-ABL融合を伴う小児再発ALLのマウスB細胞前駆体急性リンパ芽球性白血病)細胞を、10%FBSを補充したRPMI培地で培養した。細胞を、MycoAlert(商標)マイコプラズマ検出キット(Lonza)を用いて製造者の条件を使用することによって試験し、それらはネガティブとみなされた。細胞系は、IDEXX BioResearch(Columbia、MO)によって認証された。
【0168】
2.CellTiter-Glo生存アッセイ(CTG)
1×10~4.8×10または4×10~1.2×10の細胞のいずれかを、それぞれ、96ウェルまたは384ウェル白色ポリスチレン平底プレート(3610または8804BC、Corning)の各ウェルの、1ウェル当たり100μLまたは30μLの培地に播種した。使用した濃度は、実験期間中に対数成長を確保し、DMSO曝露による細胞成長に対する有害効果を防止することが実験的に決定された。プレートを、処理前に5%CO中37℃で24時間インキュベートした。9つの3倍系列希釈の試験化合物のストック溶液(DMSO中10mM)を、ピンツール(Biomek)により分注した。DMSOの最終濃度は、各ウェル中0.3%(v/v)であった。プレートを、5%CO中、37℃で72時間インキュベートし、次にCellTiter-Glo(登録商標)試薬(96ウェルプレート中50μL/ウェル、384ウェルプレート中30μL/ウェル)でRTにおいてクエンチした。陽性対照には、スタウロスポリン(10μM)、ガンボギン酸(10μM)、および社内で作製した毒性キノリンが含まれていた。次に、プレートをRTで20分間インキュベートし、1000rpmで1分間遠心分離した。細胞傷害アッセイを、CellTiterGlo発光細胞生存アッセイキット(G7570、Promega、Madison、WI)を使用することによって、製造者の指示に従って実施した。発光を、Envisionプレートリーダー(Perkin Elmer)で記録した。
【0169】
3.ApoTox-Glo(商標)Triplexアッセイ
細胞(新しい培地75μL中9.5×10/ウェル)を、96ウェル黒色平底(8807BC、Corning)プレートに分注した。細胞を、37℃で12時間インキュベートし、次に化合物(25μL)で24時間処理した。DMSOを陰性対照として使用し、スタウロスポリンを陽性対照として使用した。生存/細胞傷害試薬を添加することによって実験を停止し、オービタルシェーカーによって簡潔に混合した(300~500rpmで約30秒間)。プレートを、37℃で30分間インキュベートし、蛍光を、Envisionプレートリーダーで、以下の2つの波長の組:400Ex/505Em(生存)485Ex/520Em(細胞傷害)において測定した。次に、Caspase-Glo(登録商標)3/7試薬を添加し、プレートを、オービタルシェーカーによって簡潔に混合し(300~500rpmで約30秒間)、次にRTでさらに30分間インキュベートした。次に、カスパーゼ3/7活性化と相関する発光を、プレートリーダーで記録して、アポトーシス誘導を決定した。
【0170】
4.細胞生存アッセイ:
SUM-149、SUM-190、MDA-MB-231、およびMCF10A細胞において、本発明者らが過去に記載した通り[14]、細胞生存アッセイ(MTTまたはPI染色アッセイ)を実施した。
【0171】
5.コロニー形成アッセイ:
SUM-149細胞(1.5×10細胞/ウェル)を、6ウェルプレートに蒔いた。2日後、細胞培地を5%FBSに変更し、細胞を5%CO雰囲気中37℃で1時間インキュベートした後、ビヒクル(0.1%DMSO)またはEP(5~40μM)を添加した。72時間の処理後に、細胞をトリプシン処理し、24ウェルプレート中1ウェル当たり200細胞/mLで再び播種した。10日間培養した後、コロニーを、クリスタルバイオレット染色によって可視化し、コロニー数を、顕微鏡下でカウントした。
【0172】
6.新規細胞内タンパク質合成:
まず、2.5×10細胞/ウェルを、8ウェルのμ-スライド(Ibidi(登録商標)、番号80826)に播種し、37℃で12時間インキュベートした。細胞を、ビヒクル、化合物ガノデリン酸A、すなわちEP、またはシクロヘキシミド(陽性対照)で2時間処理して、BiovisionのEZClick(商標)Global Protein Synthesis Assay Kit(番号K715-100、Milpitas、CA)を使用して作製した新生タンパク質としてタンパク質合成を決定した。アッセイは、アルキンを含有するo-プロパルギル-ピューロマイシン(OP-puro)プローブに基づくロバストな化学的方法を含み、それによって、新生ポリペプチド鎖と共有結合性コンジュゲートを形成することによって翻訳を停止させる。トランケートされたポリペプチドは、プロテアソームによって急速にターンオーバーし、その後の蛍光性アジドとのクリック反応に基づいて検出することができる。反応は、製造者のプロトコールに従って実行した。細胞を、Nikon C2走査型共焦点顕微鏡を用いて20倍で画像化し、画像モンタージュ全体を、Gen5ソフトウェアおよびLionheart(商標)FX自動化顕微鏡(BioTek、Winooski、VT)を使用することによって定量した。
【0173】
7.活性酸素種(ROS)測定:
SUM-149またはMDA-MB-231を、黒色96ウェル透明底組織培養プレート中、それぞれ2×10および1×10細胞/ウェルの密度で96ウェルプレートに蒔き、37℃で24時間インキュベートした。mRuby-Mito-7プラスミドは、Addgeneから得た(Michael Davidsonから番号55874)。MCF-7の安定なクローンを、Fugene 6(Roche)を使用することによって作製して、ネオマイシン選択下で細胞(2×10)にプラスミド(2.0μg)をトランスフェクトした。安定な細胞系を、G418(300μg/mL)を使用して2週間にわたって選択し、フローサイトメトリーによって分類し、その後G418の下で維持した。トランスフェクトされたMCF-7細胞を、黒色96ウェル透明底組織培養プレート中、2×10細胞/ウェルの密度で蒔き、37℃で一晩インキュベートした。ROSの形成について試験し、バックグラウンドを除去するために、細胞に、2%FBSを含む新しいPBSを供給し、所望の化合物で37℃において1時間処理した。DMSO(0.5%)を陰性対照として使用する一方で、メナジオン(Mena、10μMにおける)または100μM最終濃度におけるt-ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)を陽性対照として使用した。ROS形成阻害に対する化合物の効果を評価するために、フリーラジカルスカベンジャーであるN-アセチルシステイン(NAC)を使用した。細胞を、NAC(500μMまたは100μM)と共に、またはそれなしに1時間処理し、次にCellROX(登録商標)緑色試薬(Molecular Probes番号C10444)を、最終濃度5μMまで添加し、細胞を、37℃でさらに30分間インキュベートした。次に、細胞をPBSで2回洗浄し、続いて4%パラホルムアルデヒド(v/v)で15分間固定し、PBSでさらに2回洗浄した。蛍光強度を、Clariostar(登録商標)プレートリーダー(BMG LABTECH、Cary、NC)で535nmにおいて測定した。
【0174】
8.細胞周期アッセイ:
SUM-149細胞を、EPで48時間処理し、次に収集し、1×PBSで洗浄した。細胞(5×10)を固定し、さらに分析するまで、70%エタノール中で-20℃において透過処理した。DNA含量を測定するために、細胞を洗浄し、PBS緩衝液150μLに再懸濁させ、次に100μg/mLのRNase A(MilliporeSigma、Burlington、MA)100μL中でRTにおいて15分間インキュベートし、次に50μg/mLのヨウ化プロピジウム(MilliporeSigma)250μLを添加した。試料をRTで10分間インキュベートし、BD FACS Canto IIフローサイトメーター(BD Biosciences、San Jose、CA)で分析した。データを、FlowJoソフトウェア(V10、FlowJo LLC、Ashland、OR)を使用して分析した。
【0175】
9.アネキシンVアポトーシス検出:
SUM-149細胞(5×10)を播種し、ビヒクル(0.1%DMSO)、または20μMのEPもしくは陽性対照としてのピューロマイシン(200ng/mL)のいずれかで48時間処理した。処理後に浮遊細胞を収集し、すべての細胞を回収し、カウントした。処理した細胞を、FITCアネキシン-V/7AADアポトーシス検出キット(製品番号640922、Biolegend、San Diego、CA)を製造者の指示に従って使用することによって、細胞死について分析した。簡潔には、細胞を、アネキシン結合緩衝液に再懸濁させ、アネキシンV-FITCおよび/または7-AADで染色し、4℃で30分間インキュベートした。データを、BD FACS Canto II血球計数器(BD Biosciences、San Jose、CA)で取得し、FlowJoソフトウェア(V10、FlowJo LLC、Ashland、OR)を使用することによって分析した。
【0176】
10.遊走および浸潤アッセイ:
細胞遊走および浸潤を、[12、14]に記載される通り、Corning(登録商標)FluoroBlok(商標)細胞培養インサートを使用し、BD BioCoatマトリゲル浸潤アッセイ(BD Biosciences、San Jose、CA)を実施することによって測定した。
【0177】
11.免疫ブロット:
ビヒクルまたはEPで処理した乳がん細胞を溶解し、等しい全タンパク質を、SDS-PAGEにより分離し、過去に記載される通り[12、14、18]、示された抗体(Cell Signaling Technologies、Abcam、Sigma)で免疫ブロットした。
【0178】
C.統計的分析:
CTGアッセイについては、実験条件ごとに3回反復または4回反復アッセイを実行し、細胞アッセイのために最低3回の独立した実験を実行した。各実験処理群の平均発光を、未処理対照の平均強度の百分率として正規化した。EC50値(μM)を、Pipeline Pilotソフトウェア(Accelrys、Enterprise Platform、CA、USA)によって計算した。生存アッセイからのEC50値(μM)を、GraphPad Prism(Version 7.0 San Diego、CA)を使用することによって、用量反応曲線フィットから非線形回帰により計算した。細胞生存率、コロニー形成、細胞周期進行、細胞死、およびウエスタンブロットアッセイについては、分析は、GraphPad Prismを使用することによって、条件(濃度、細胞周期段階、アポトーシス事象、細胞系)ごとに事後検定を用いて一元または二元ANOVAにより実施した。
【0179】
表1.CTGアッセイによるEPプローブの細胞傷害。EC50値は3回の独立した実験の平均±SDとして表される。
【表1】
引用された刊行物
これらの刊行物は、本明細書に開示される材料および方法に関する範囲で、参照により組み込まれる。
GLC化合物
【化1】
【化2】
【化3】
EPプローブ
【化4】
【化5】
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図6
図7
図8-1】
図8-2】
図9
図10
図11
図12
図13
図14-1】
図14-2】
図15
図16
図17
図18
図19
図20