(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】石油プロセスにおける熱交換器の汚れ防止方法
(51)【国際特許分類】
C10G 75/04 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
C10G75/04
(21)【出願番号】P 2022511489
(86)(22)【出願日】2020-04-03
(86)【国際出願番号】 JP2020015373
(87)【国際公開番号】W WO2021199439
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】505112048
【氏名又は名称】ナルコジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】錦織 弘宜
(72)【発明者】
【氏名】甲田 浩気
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/022979(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/207708(WO,A1)
【文献】特表2010-523816(JP,A)
【文献】特表2008-519166(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102260873(CN,A)
【文献】特開2019-137816(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 75/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油プロセスにおける熱交換器の汚れ防止方法であって、
付着した汚れの洗浄処理が行われた熱交換器に、油溶性のリン酸エステル化合物及び亜リン酸エステル化合物の少なくとも一方を含有
し、かつ分散剤を含まない薬剤を添加したプロセス流体を送液する第1の処理と、
前記第1の処理を行った熱交換器に、分散剤を含有する薬剤を添加したプロセス流体を送液する第2の処理とを含み、
前記第1の処理のプロセス流体中の
前記リン酸エステル化合物及び亜リン酸エステル化合物の濃度(ppm)が、第2の処理のプロセス流体中の
前記分散剤の濃度(ppm)よりも高い濃度となるように、前記第1の処理において前記薬剤をプロセス流体に添加することを含む、汚れ防止方法。
【請求項2】
前記分散剤は、コハク酸イミド化合物及びコハク酸エステル化合物からなる群から選択される少なくとも一つである、請求項1記載の汚れ防止方法。
【請求項3】
第2の処理においてプロセス流体に添加する
前記分散剤の濃度(ppm)と前記第1の処理においてプロセス流体に添加する
前記リン酸エステル化合物及び亜リン酸エステル化合物の濃度(ppm)との比が1/20~1/2となるように、第2の処理において前記薬剤をプロセス流体に添加することを含む、請求項1又は2に記載の汚れ防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、石油プロセスにおける熱交換器の汚れ防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原油を精製するための石油精製プラントの蒸留工程では、熱交換器及び加熱炉において原油が加熱された後、蒸留塔に送られ蒸留操作が行われる。熱交換器内や加熱炉内では原油が熱履歴を受け、多量の汚れが付着する。汚れ成分の一形態として、アスファルテンやスラッジ等の有機系高分子成分が混合された形態がある。汚れの付着は、熱交換器や加熱炉の熱交換率の低下を引き起こし、出口温度を維持するための燃料使用量を増大させる結果となっている。
【0003】
特許文献1は、デソルター前のプロセス流体に添加する熱交換器及び加熱炉の汚れ防止剤及び汚れ防止方法を開示する。特許文献2は、リン酸エステル系防食剤と分散剤とを用いて石油プロセスにおける予熱交のアスファルテン由来の汚れを防止する方法を開示する。特許文献3は、亜リン酸エステル系防食剤と分散剤とを用いて石油プロセスにおける予熱交のアスファルテン由来の汚れを防止する方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-163539号公報
【文献】WO2015/022979
【文献】WO2018/207708
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、一態様において、石油プロセスにおける熱交換器の汚れを、効率よく防止可能な新たな方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、一態様において、石油プロセスにおける熱交換器の汚れ防止方法であって、
付着した汚れの洗浄処理が行われた熱交換器に、油溶性のリン酸エステル化合物及び亜リン酸エステル化合物の少なくとも一方を含有する薬剤を添加したプロセス流体を送液する第1の処理と、
前記第1の処理を行った熱交換器に、分散剤を含有する薬剤を添加したプロセス流体を送液する第2の処理とを含み、
前記第1の処理のプロセス流体中の薬剤の有効成分の濃度(ppm)が、第2の処理のプロセス流体中の薬剤の有効成分の濃度(ppm)よりも高い濃度となるように、前記第1の処理において前記薬剤をプロセス流体に添加することを含む、汚れ防止方法に関する。
【0007】
本開示は、その他の態様において、洗浄処理が行われた石油プロセスにおける熱交換器の初期処理方法であって、
油溶性のリン酸エステル化合物及び亜リン酸エステル化合物の少なくとも一方を含有する薬剤を、プロセス流体に添加すること、及び
前記薬剤を添加したプロセス流体を、洗浄処理が行われた清浄な熱交換器に送液することを含む、石油プロセスにおける熱交換器の初期処理方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本開示の方法によれば、石油プロセスにおける熱交換器の汚れを、効率よく防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、常圧蒸留塔を備える石油精製処理装置の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、汚れ防止試験に用いた加熱管の断面図である。
【
図3】
図3は、汚れ防止試験において加熱管を加熱管保持器に挿入した状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示は、定期清掃後(運転再開時)の熱交換器(初期状態の熱交換器)と定常運転時の熱交換器とでは、プロセス流体が接触する熱交換器の表面の状態(汚れの付着しやすさ)が異なることから、定期清掃後(運転再開時)の処理と運転再開後の定常運転時の処理とを、異なる条件で行うことによって、熱交換器の汚れを効率よく防止できる、という知見に基づく。
また、本開示は、その他の態様として、定期清掃後(運転再開時)の熱交換器は、定常運転時の熱交換器と比較して汚れが付着しやすく熱交換器の性能低下が引き起こされることから、例えば、定期清浄後に熱交換器に、油溶性のリン酸エステル化合物/亜リン酸エステル化合物を含有する薬剤を高濃度で含有するプロセス流体を供給することにより、熱交換器の汚れを効率よく防止できる、という知見に基づく。
【0011】
本開示によれば、一又は複数の実施形態において、熱交換器の熱交換率の向上/維持が可能となり、燃料コストを抑制でき、また定期清掃の頻度及び/又は定期清掃に係る清掃コストを抑制できる。
本開示によれば、一又は複数の実施形態において、汚れ防止に係るコストを低減することができうる。
【0012】
本開示において「石油プロセス」とは、原油等の炭化水素を原料とし、これらから各種石油製品が製造されるまでの工程の全部又は一部をいう。石油プロセスは、一又は複数の実施形態において、原油等の炭化水素を加熱すること、加熱したこれらの炭化水素を常圧蒸留装置において沸点の差を利用してLPG、ナフサ等の揮発油及び軽油等といった各種成分に分離することを少なくとも含みうる。本開示における石油プロセスは、一又は複数の実施形態において、石油精製プロセスを含みうる。
【0013】
本開示の汚れ防止方法において「汚れ」は、限定されない一又は複数の実施形態において、アスファルテン(asphaltene)やスラッジ等の有機系高分子成分を含むものをいい、又は、熱交換器内で付着及び/又は蓄積するアスファルテンやスラッジ等の有機系高分子成分を含む汚れをいう。本開示の汚れ防止方法は、特に限定されない一又は複数の実施形態において、薬剤によって熱交換器を処理することにより、熱交換器の鉄系金属表面を被膜化することでこれらの汚れが熱交換器に付着することを防止することを含みうる。
【0014】
本開示の汚れ防止方法において「熱交換器」は、石油プロセスに使用される熱交換器である。熱交換器としては、限定されない一又は複数の実施形態において、予熱交(予備加熱熱交又は予熱交換器ともいう)、プレヒーター、及びリボイラー等が挙げられる。これらの熱交換器において、特に汚れが発生し蓄積しやすいのは、約200℃以上の高温部分である。本開示の汚れ防止方法は、一又は複数の実施形態において、処理時に約200℃付近、例えば、180℃以上、190℃以上、200℃以上、210℃以上、又は220℃以上となる高温部分がある熱交換器の汚れ防止方法である。本開示の汚れ防止方法は、一又は複数の実施形態において、約200℃以上になった部分での汚れ防止効果をより効果的に発揮する。
石油プロセスにおける熱交換器としては、一又は複数の実施形態において、石油精製プロセスの熱交換器、又は石油プロセスの予熱交等が挙げられる。
【0015】
本開示において「プロセス流体」とは、石油プロセスにおいて供される液体又は気体をいう。プロセス流体としては、一又は複数の実施形態において、石油プロセスにおいて処理される原油又はこれら由来の炭化水素等が挙げられる。プロセス流体としては、特に限定されない一又は複数の実施形態において、石油精製プロセスにおいて予熱交に供給される液体、又は予熱交内の液体等が挙げられる。
【0016】
本開示における「油溶性」とは、リン酸エステル化合物又は亜リン酸エステルが、油が使用される環境において意図された効果を発揮するのに十分な程度に、油(例えば、プロセス流体)中に可溶性又は溶解性であることをいう。また、一又は複数の実施形態において、油溶性とは、水(20℃)への溶解度が1重量%以下であり、トルエンへの溶解度が1重量%以上であることが挙げられる。
【0017】
[汚れ防止方法]
本開示は、一態様において、石油プロセスにおける熱交換器の汚れ防止方法に関する。本開示の汚れ防止方法は、付着した汚れの洗浄処理が行われた熱交換器に、油溶性のリン酸エステル化合物及び亜リン酸エステル化合物の少なくとも一方を含有する薬剤を添加したプロセス流体を送液する第1の処理と、第1の処理を行った熱交換器に、分散剤を含有する薬剤を添加したプロセス流体を送液する第2の処理とを含み、第1の処理のプロセス流体中の薬剤の有効成分の濃度(ppm)が、第2の処理のプロセス流体中の薬剤の有効成分の濃度(ppm)よりも高い濃度となるように、前記第1の処理において前記薬剤をプロセス流体に添加することを含む。
【0018】
本開示の汚れ防止方法によれば、一又は複数の実施形態において、定期清掃を行った後の運転再開時に上記の第1の処理を行うことから、運転再開後の初期汚れによる性能低下を抑制できるという効果を奏しうる。また、運転再開時に第1の処理を行うことにより、熱交換器が定常運転に移行した後に使用する汚れ防止剤の量を抑制できるという効果を奏しうる。
本開示の汚れ防止方法によれば、一又は複数の実施形態において、運転再開後に生じうる熱交換器における熱交換率の低下率を低減でき、またより短い時間熱交換器での熱交換率を一定に保つことができるようになるため、運転再開から定常運転に移行するまでの時間を短縮することができるという効果を奏しうる。
【0019】
<第1の処理>
本開示の汚れ防止方法は、付着した汚れの洗浄処理が行われた熱交換器に、油溶性のリン酸エステル化合物及び亜リン酸エステル化合物の少なくとも一方を含有する薬剤を添加したプロセス流体を送液する第1の処理を含み、第1の処理においてプロセス流体に添加する薬剤の有効成分の濃度(ppm)が、第2の処理においてプロセス流体に添加する薬剤の有効成分の濃度(ppm)よりも高い濃度となるように、前記薬剤をプロセス流体に添加することを含む。
【0020】
本開示において、第2の処理よりも高い濃度としては、一又は複数の実施形態において、第1の処理におけるプロセス流体中の有効成分の濃度(ppm)が、第2の処理におけるプロセス流体中の有効成分の濃度の濃度(ppm)の1.5倍以上、2倍以上及び3倍以上であることが挙げられる。その上限は特に限定されないが、処理コストの点から、20倍以下、10倍以下又は9.5倍以下であることが挙げられる。
【0021】
本開示の汚れ防止方法における第1の処理としては、一又は複数の実施形態において、定期清掃後の運転再開時に行う処理、及び緊急停止後の運転再開時に行う処理等が挙げられる。また、第1の処理は、一又は複数の実施形態において、運転再開(運転立ち上がり)から熱交換器が定常運転に至るまでの期間に行う処理、又は熱交換器が定常運転に移行するまでの期間に行う処理ともいうことができる。
本開示において「付着した汚れの洗浄処理」としては、一又は複数の実施形態において、定期清掃、及び緊急清掃等が挙げられる。定期清掃としては、一又は複数の実施形態において、石油精製プラント等における石油プロセスを停止して行われる洗浄作業が挙げられる。該洗浄作業としては、一又は複数の実施形態において、熱交換器内に滞留するプロセス流体を系外に排出し、薬剤等を用いて熱交換器等の汚れを洗浄することが挙げられる。
定常運転としては、一又は複数の実施形態において、当該石油プロセス(石油精製プロセス)において、定常的に所望の生産量で石油精製を行うことができる運転状態が挙げられる。定常運転としては、一又は複数の実施形態において、常圧蒸留装置(常圧蒸留塔)又は減圧蒸留装置において、定常的に所望の量の原油を精製(蒸留)できることが挙げられる。
【0022】
第1の処理に使用する薬剤は、油溶性のリン酸エステル化合物及び亜リン酸エステル化合物の少なくとも一方を含有する。第1の処理に使用する薬剤は、有効成分として、油溶性のリン酸エステル化合物及び亜リン酸エステル化合物の少なくとも一方を含有する。
本開示において「有効成分」としては、薬剤が目的とする主たる作用を発揮する成分のことをいう。本開示における薬剤の目的とする主たる作用の一つとしては、一又は複数の実施形態において、熱交換器の表面への汚れの付着の抑制等が挙げられる。
【0023】
油溶性のリン酸エステル化合物としては、一又は複数の実施形態において、リン酸メチル、リン酸エチル、リン酸n-プロピル、リン酸イソ-プロピル、リン酸ブチル、リン酸ペンチル、リン酸ヘキシル、リン酸シクロヘキシル、リン酸ヘプチル、リン酸ノニル、リン酸デシル、リン酸ラウリル、リン酸セチル、リン酸オクタデシル、リン酸ヘプタデシル、リン酸フェニル、リン酸ベンジル、リン酸トリル、リン酸メチルフェニル、及びリン酸アミルフェニル等が挙げられる。油溶性のリン酸エステル化合物のその他の例としては、一又は複数の実施形態において、ビスアルキルリン酸エステル等が挙げられる。
【0024】
亜リン酸エステル化合物としては、特に限定されない一又は複数の実施形態において、式(I)~(IV)で表される亜リン酸エステル化合物、式(II)の構造を2つ含むもの、又は式(II)の化合物の二量体(二量化物)等が挙げられる。
【化1】
【0025】
式(I)において、R1及びR2は1~30個の炭素原子を有する基である。R1及びR2は、互いに同一でも異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0026】
式(II)において、R3、R4及びR5は1~30個の炭素原子を有する基である。R3、R4及びR5は、互いに同一でも異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。
【0027】
式(III)において、R6、R7、R8及びR9は1~30個の炭素原子を有する基であり、R10及びR11は1~30個の炭素原子を有する二価の置換基であり、X1は酸素原子、炭素原子又は1~5個の炭素原子を有する二価の置換基である。R6、R7、R8及びR9は、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。R10及びR11は、それぞれ互いに同一でも異なっていてよい。
【0028】
式(IV)において、R12及びR13は1~30個の炭素原子を有する基であり、R14、R15、R16及びR17は1~30個の炭素原子を有する二価の置換基であり、X2は炭素原子である。R12及びR13は、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。R14、R15、R16及びR17は、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。
【0029】
1~30個の炭素原子を有する基としては、一又は複数の実施形態において、炭素数1以上30以下のアルキル基、炭素数1以上30以下のアルケニル基、炭素数6以上30以下のアリール基、炭素数7以上30以下のアルアルキル基、又は炭素数7以上30以下のアルキルアリール基が挙げられる。アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルアルキル基、及びアルキルアリール基は、一又は複数の実施形態において、置換基を有していてもよい。アルキル基は、一又は複数の実施形態において、直鎖アルキル基であってもよいし、分岐鎖アルキル基であってもよい。
1~30個の炭素原子を有する二価の置換基としては、一又は複数の実施形形態において、炭素数1以上30以下のアルキレン基等が挙げられる。アルキレン基は、一又は複数の実施形態において、置換基を有していてもよい。アルキレン基は、一又は複数の実施形態において、直鎖アルキレン基であってもよいし、分岐鎖アルキレン基であってもよい。
【0030】
式(I)で表される亜リン酸エステル化合物としては、一又は複数の実施形態において、ビス(2-エチルヘキシル)ハイドロゲンホスファイト、ビス(トリデシル)ハイドロゲンホスファイト、ジラウリルハイドロゲンホスファイト、及びジオレイルハイドロゲンホスファイト、及びジフェニルハイドロゲンホスファイト等が挙げられる。
【0031】
式(II)で表される亜リン酸エステル化合物としては、一又は複数の実施形態において、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリス(2-エチルヘキシル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリオレイルホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルモノ(2-エチルヘキシル)ホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、及びトリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト等が挙げられる。
【0032】
式(III)で表される亜リン酸エステル化合物としては、一又は複数の実施形態において、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、及びテトラ(C12-15アルキル)-4,4'-イソプロピリデンジフェニルジホスファイト等が挙げられる。
【0033】
式(IV)で表される亜リン酸エステル化合物としては、一又は複数の実施形態において、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイトとビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトとの混合物、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(デシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、及びジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、テトラフェニル(テトラトリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、及び水添ビスフェノールA・ペンタエリスリトールホスファイトポリマー等が挙げられる。
【0034】
亜リン酸エステル化合物としては、一又は複数の実施形態において、石油プロセスにおける熱交換器のさらなる汚れ防止、及び/又は貯蔵タンクや薬注設備のさらなる腐食抑制の観点から、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリクレジルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリス(2-エチルヘキシル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリラウリルホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリオレイルホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルモノ(2-エチルヘキシル)ホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2-エチルヘキシル)ハイドロゲンホスファイト、ビス(トリデシル)ハイドロゲンホスファイト、ジラウリルハイドロゲンホスファイト、ジオレイルハイドロゲンホスファイト又はこれらの組み合わせが好ましい。同様の観点から、亜リン酸エステル化合物としては、ホスホン酸型亜リン酸エステル化合物(式(I)で表される亜リン酸エステル化合物)が好ましく、ビス(2-エチルヘキシル)ハイドロゲンホスファイト、ビス(トリデシル)ハイドロゲンホスファイト、ジラウリルハイドロゲンホスファイト、ジオレイルハイドロゲンホスファイト又はこれらの組み合わせがより好ましい。
【0035】
本開示において亜リン酸エステル化合物は、一又は複数の実施形態において、油溶性の亜リン酸エステル化合物であってもよい。
【0036】
リン酸エステル化合物及び亜リン酸エステル化合物は、一又は複数の実施形態において、一種類で使用しもよいし、複数種類を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
第1の処理において、プロセス流体に添加する薬剤の有効成分の濃度としては、一又は複数の実施形態において、2~100ppm、3~80ppm、又は5~50ppmが挙げられる。
【0038】
本開示の汚れ防止方法において、第1の処理に使用する薬剤は、一又は複数の実施形態において、亜リン酸エステル化合物及びリン酸エステル化合物以外の有効成分を含有していてもよいし、有効成分が実質的に亜リン酸エステル化合物及び/又はリン酸エステル化合物からなる薬剤であってもよい。第1の処理に使用する薬剤は、一又は複数の実施形態において、有効成分として、後述する分散剤を含有していてもよい。
【0039】
第1の処理の時間は、一又は複数の実施形態において、定期清掃後の運転再開から定常運転に達する又は移行するまでの時間が挙げられる。
第1の処理の時間は、石油精製プラントの規模等に応じて適宜決定でき、一又は複数の実施形態において、2日以上、3日以上若しくは14日以下であり、又は7日以下である。
また、熱交換器が定常運転に達した又は移行したかどうかは、一又は複数の実施形態において、総括伝熱係数が所定値以上でほぼ一定になったこと等により確認できる。
【0040】
<第2の処理>
本開示の汚れ防止方法は、第1の処理によるプロセス流体の送液が行われた熱交換器に、分散剤を含有する薬剤を添加したプロセス流体を送液する第2の処理を含む。
【0041】
本開示の汚れ防止方法における第2の処理は、一又は複数の実施形態において、定常運転時に行う処理のことをいう。本開示の汚れ防止方法は、一又は複数の実施形態において、定期清掃後の運転再開から定常運転に移行若しくは達した後、又は定常運転に移行する若しくは達する段階で、第1の処理に代えて、第2の処理を行うことを含む。
【0042】
第2の処理に使用する薬剤は、分散剤を含有する。第2の処理に使用する薬剤は、一又は複数の実施形態において、有効成分として分散剤を含有する。
【0043】
分散剤としては、一又は複数の実施形態において、石油プロセス又は石油プロセスの熱交換器の汚れ防止として従来使用され、或いは今後使用されうるものが挙げられる。分散剤としては、一又は複数の実施形態において、コハク酸イミド化合物、コハク酸エステル化合物等が挙げられる。
【0044】
コハク酸イミド化合物は、一又は複数の実施形態において、アルケニル基及びアルキル基の少なくとも一方を有する。
【0045】
アルケニル基を有するコハク酸イミド化合物としては、一又は複数の実施形態において、コハク酸イミド基の少なくとも一つの炭素原子が長鎖アルケニル基で置換されたコハク酸イミド化合物、コハク酸イミド基の少なくとも一つの炭素原子が長鎖アルケニル基で置換され、かつ該コハク酸イミド基の窒素原子がアルキレンイミン基又はアミノアルキレン基で置換されたコハク酸イミド化合物、2つの長鎖アルケニル基置換コハク酸イミドのそれぞれの窒素原子が炭化水素鎖又は含窒素炭化水素鎖を介して結合したコハク酸イミド化合物等が挙げられる。長鎖アルケニル基としては、一又は複数の実施形態において、炭素数が8以上、9以上、10以上、12以上、15以上又は16以上のアルケニル基が挙げられる。炭化水素鎖としては、炭素数が2以上、4以上、10以上、12以上、15以上又は16以上の直鎖アルキレン基が挙げられる。含窒素炭化水素鎖としては、1以上又は2以上の窒素原子と、2以上、4以上、10以上、12以上、15以上又は16以上の炭素原子とを有する二価の置換基が挙げられる。含窒素炭化水素鎖としては、ジエチレンアミノ基、及びエチレンポリエチレンイミン基等が挙げられる。
【0046】
アルキル基を有するコハク酸イミド化合物としては、一又は複数の実施形態において、コハク酸イミド基の少なくとも一つの炭素原子が長鎖アルキル基で置換されたコハク酸イミド化合物、コハク酸イミド基の少なくとも一つの炭素原子が長鎖アルキル基で置換され、かつ該コハク酸イミド基の窒素原子がアルキレンイミン基又はアミノアルキレン基で置換されたコハク酸イミド化合物、2つの長鎖アルキル基置換コハク酸イミドのそれぞれの窒素原子が炭化水素鎖又は含窒素炭化水素鎖を介して結合したコハク酸イミド化合物等が挙げられる。長鎖アルキル基としては、一又は複数の実施形態において、炭素数が8以上、9以上、10以上、12以上、15以上又は16以上のアルキル基が挙げられる。
【0047】
アルケニル基及びアルキル基の少なくとも一方を有するコハク酸イミド化合物としては、一又は複数の実施形態において、下記式(V)~(VIII)で表される化合物が挙げられる。
【化2】
【0048】
式(V)において、R21及びR22は、数平均分子量300以上7000以下のアルキル基、又は数平均分子量300以上7000以下のアルケニル基を示し、nは0~8の整数を示す。R21及びR22は、互いに同一でも異なっていてよい。
【0049】
式(VI)において、R23は、数平均分子量300以上7000以下のアルキル基、又は数平均分子量300以上7000以下のアルケニル基を示し、mは0~8の整数を示す。
【0050】
式(VII)において、R24、R26及びR27は、数平均分子量300以上7000以下のアルキル基、又は数平均分子量300以上7000以下のアルケニル基を示し、R25は、炭素数1~5のアルキレン基である。R26及びR27は、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0051】
式(VIII)において、R28は、数平均分子量300以上7000以下のアルキル基、又は数平均分子量300以上7000以下のアルケニル基を示し、R29は、炭素数1~5のアルキレン基である。
【0052】
アルキル基及びアルケニル基の数平均分子量は、一又は複数の実施形態において、500以上5000以下、500以上5000未満、500以上4000以下、700以上4000以下、又は800以上3500以下である。
【0053】
アルキル基及びアルケニル基は、一又は複数の実施形態において、直鎖であってもよいし、分岐鎖であってもよい。R21、R22、R23、R24及びR28としては、一又は複数の実施形態において、ポリエチレン基、ポリイソプロピル基、ポリイソプレン基、ポリブテン基、ポリイソブテン基、ポリブテニル基、及びポリイソブテニル基等が挙げられ、好ましくはポリブテニル基及びポリイソブテニル基等である。
【0054】
R25及びR29としては、一又は複数の実施形態において、メチレン基、エチレン基、プロピル基、及びイソプロピル基等が挙げられる。
【0055】
n及びmは、一又は複数の実施形態において、0、1、2、3、又は4である。式(V)における“-CH2CH2-[NHCH2CH2]n-”及び式(VI)における“-CH2CH2-[NHCH2CH2]m-”としては、エチレン基、ジエチレンアミノ基、及びエチレンポリエチレンイミン基等が挙げられる。
【0056】
本開示の汚れ防止方法において使用されうるコハク酸イミド化合物の重量平均分子量は、一又は複数の実施形態において、3,000~15,000、又は5,000~12,000である。コハク酸イミド化合物の重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィーによるものであり、具体的には、実施例に記載の方法により測定できる。
【0057】
コハク酸エステル化合物は、一又は複数の実施形態において、置換基としてアルケニル基を有する。
【0058】
アルケニル基を有するコハク酸エステル化合物は、一又は複数の実施形態において、長鎖アルケニル置換コハク酸エステル化合物等が挙げられる。長鎖アルケニル置換コハク酸エステル化合物は、一又は複数の実施形態において、長鎖アルケニル基を有する無水コハク酸とアルコール又は芳香族ヒドロキシル化合物とを酸性の触媒存在下で縮合反応させることにより調製できる。
【0059】
長鎖アルケニル基としては、一又は複数の実施形態において、炭素数が8以上、9以上、10以上、12以上、15以上、16以上又は20以上のアルケニル基が挙げられる。長鎖アルケニル基としては、一又は複数の実施形態において、ポリエチレン基、ポリプロピレン基、ポリイソブチレン基、及びポリブテン基等が挙げられる。
アルコールとしては、一又は複数の実施形態において、ヒドロキシル基を1~6個を有する炭素数が1~10のアルコール等が挙げられる。アルコールとしては、一又は複数の実施形態において、一価アルコール、及び多価アルコール等が挙げられる。アルコールとしては、一又は複数の実施形態において、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソブタノール、ベンジルアルコール、オクタデカノール、エイコサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、グリセロール、エリスリトール、ソルビトール、マニトール、グルコース、ガラクトース、1,1,1-トリメチロールエタン、1,1,1-トリメチロールプロパン、1,1,1-トリメチロールブタン、ペンタエリトリトール及びジペンタエリトリトール等が挙げられる。
芳香族ヒドロキシル化合物としては、一又は複数の実施形態において、フェノール、及びナフトール等が挙げられる。
【0060】
長鎖アルケニル置換コハク酸エステル化合物としては、一又は複数の実施形態において、ポリイソブテニルコハク酸エステル等が挙げられる。ポリイソブテニルコハク酸エステルにおけるポリイソブテニル基の炭素数としては、一又は複数の実施形態において、20~250、50~100又は60~90である。ポリイソブテニルコハク酸エステルの調製に使用するポリイソブテニル無水コハク酸の平均分子量としては、一又は複数の実施形態において、400~3000、600~1500又は800~1300である。
ポリイソブテニルコハク酸エステルとしては、一又は複数の実施形態において、ポリイソブテニルペンタエリスリトールコハク酸エステル等が挙げられる。
【0061】
コハク酸イミド化合物及びコハク酸エステル化合物は、一又は複数の実施形態において、一種類で使用してもよいし、複数種類を組み合わせて使用してもよい。
【0062】
第2の処理において、プロセス流体に添加する薬剤の有効成分の濃度としては、一又は複数の実施形態において、1~50ppm、1~25ppm、又は1~10ppmが挙げられる。
【0063】
本開示の汚れ防止方法は、一又は複数の実施形態において、第2の処理においてプロセス流体に添加する薬剤の有効成分の濃度(ppm)が、第1の処理においてプロセス流体に添加する薬剤の有効成分の濃度(ppm)よりも少なくなるように、第2の処理において上記の薬剤をプロセス流体に添加することを含んでいてもよい。本開示の汚れ防止方法は、一又は複数の実施形態において、第2の処理においてプロセス流体に添加する薬剤の有効成分の濃度(ppm)が、第1の処理においてプロセス流体に添加する薬剤の有効成分の濃度(ppm)の60%以下、50%以下、40%以下若しくは30%以下、又は5%以上若しくは10%以上となるように、第2の処理において上記の薬剤をプロセス流体に添加することを含んでいてもよい。
【0064】
本開示の汚れ防止方法は、一又は複数の実施形態において、第2の処理においてプロセス流体に添加する薬剤の有効成分の濃度(ppm)が、第1の処理においてプロセス流体に添加する薬剤の有効成分の濃度(ppm)に対する比(第2の処理の薬剤/第1の処理の薬剤)が1/20~1/2、1/10~1/2又は1/7~1/3となるように、第2の処理において上記の薬剤をプロセス流体に添加することを含んでいてもよい。
【0065】
本開示の汚れ防止方法において、第2の処理に使用する薬剤は、一又は複数の実施形態において、分散剤以外の有効成分を含有していてもよいし、有効成分が実質的に分散剤からなる薬剤であってもよい。第2の処理に使用する薬剤は、一又は複数の実施形態において、有効成分として、上記の亜リン酸エステル化合物及びリン酸エステル化合物の少なくとも一方を含有していてもよい。
【0066】
第1の処理及び第2の処理において、薬剤をプロセス流体に添加する場所は特に限定されない。薬剤の添加箇所は、一又は複数の実施形態において、上記の濃度の有効成分が、汚れ防止の対象の熱交換器に導入されうる場所が挙げられ、又は、対象の熱交換器の手前が挙げられる。第1の処理及び第2の処理において、薬剤の添加箇所は同じであってもよいし異なってもよい。
第1の処理及び第2の処理において、薬剤は、一又は複数の実施形態において、連続添加であってもよいし、間欠添加であってもよい。
【0067】
本開示の汚れ防止方法において、第1の処理と第2の処理との間は、本開示による汚れ防止効果を著しく損なわない範囲で第1の処理から第2の処理に移行するための移行時間(期間)があってもよいし、第1の処理と第2の処理とを速やかに切り替えてもよい。移行時間(期間)では、特に限定されない一又は複数の実施形態において、第1の処理と第2の処理とが同時に行われる期間(重なる期間)があってもよい。
【0068】
図1は、常圧蒸留塔を備える石油精製処理装置の一例を示すブロック図である。この石油精製処理装置では、ポンプ9を介して供給された原油は、予熱交1(熱交換器1)で110~140℃に加熱され、脱塩装置2で脱塩される。その後、予熱交3(熱交換器3)で150~180℃に加熱された後、プレフラッシュタワー4へ送られ低沸点ガス分が分離される。そして、予熱交5(熱交換器5)及び予熱交6(熱交換器6)によって240~280℃に加熱され、加熱炉7で350~380℃に加熱されて、常圧蒸留塔8に導入される。常圧蒸留塔8の塔底から缶出液はポンプ10を介して熱交換器5及び6に熱源として送られる。
【0069】
本開示の汚れ防止方法は、一又は複数の実施形態において、
図1に示す石油精製処理装置における予熱交3(熱交換器3)、予熱交5(熱交換器5)及び/又は予熱交6(熱交換器6)の汚れの防止に用いることができる。
【0070】
図1の石油プロセスの熱交換器5及び6において本開示の汚れ防止方法を行う場合、薬剤の添加場所としては、限定されない一又は複数の実施形態において、熱交換器5及び6の手前である
図1の矢印Aで示す場所が挙げられるが、さらに手前の矢印Cで示す場所であってもよい。
図1の熱交換器5及び6において、加熱側で本開示の汚れ防止方法を行う場合、薬剤の添加場所としては、限定されない一又は複数の実施形態において、熱交換器5及び6の手前である
図1の矢印Bで示す場所が挙げられる。本開示における薬剤の添加場所は、上記個所に限定されず、例えば、脱塩装置2の前(例えば、脱塩装置2の前に配置された熱交換器1の前)である
図1の矢印Dで示す場所であってもよい。
【0071】
[初期処理方法]
本開示は、その他の態様において、洗浄処理が行われた石油プロセスにおける熱交換器の初期処理方法に関する。本開示の初期処理方法は、油溶性のリン酸エステル化合物及び亜リン酸エステル化合物少なくとも一方を含有する薬剤を、プロセス流体に添加すること、及び、前記薬剤を添加したプロセス流体を、洗浄処理が行われた清浄な熱交換器に送液することを含む。
【0072】
本開示の初期処理方法における薬剤、その添加方法等は、本開示の汚れ防止方法における第1の処理と同様に行うことができる。
【0073】
[石油精製プラント制御システム]
本開示は、その他の態様において、石油精製プラント制御システムに関する。
本開示の石油精製プラント制御システムは、石油精製プラントに設置されたセンサで測定されたプロセス変数の測定値を取得するデータ取得部と、前記測定値を統計処理した結果を記憶する記憶部と、前記測定値及び前記統計処理した結果に基づいて熱交換器の表面の状態を解析する解析部と、前記測定値及び解析した結果に基づいてプロセス流体に添加する薬剤を決定する薬剤制御部とを備える。
薬剤制御部は、一又は複数の実施形態において、熱交換器の表面が定期清掃後の状態である場合は、油溶性のリン酸エステル化合物及び亜リン酸エステル化合物の少なくとも一方を含有する薬剤を添加することを決定し、熱交換器の表面が定常運転に達した状態である場合、分散剤を含有する薬剤を添加することを決定することを含む。薬剤制御部は、一又は複数の実施形態において、熱交換器の表面が定期清掃後の状態である場合は、添加する薬剤の濃度を高めに設定し、熱交換器の表面が定常運転に達した状態である場合、添加する薬剤の濃度を低めに設定することを含む。
【0074】
本開示は、その他の態様として、石油精製プラント制御システムに関し、該制御システムは、石油精製プラントに設置されたセンサでプロセス変数を測定するステップと、測定したプロセス変数に基づいて、該運転が非定常運転(例えば、定期清掃後の運転再開時)であるか又は定常運転に達したかを解析するステップと、該解析に基づいて、プロセス流体に添加する薬剤を決定するステップを含み、該決定ステップは、非定常運転であると解析された場合、油溶性のリン酸エステル化合物及び亜リン酸エステル化合物の少なくとも一方を含有する薬剤を添加することを決定し、定常運転に達したと解析された場合、分散剤を含有する薬剤を添加することを決定することを含む。
本態様の制御システムは、一又は複数の実施形態において、測定したプロセス変数に基づいて、薬剤の投与量の変更を行うステップを含んでいてもよい。本態様の制御システムは、一又は複数の実施形態において、測定したプロセス変数に基づいて、石油プロセスにおける熱交換器の汚れのモニタリング及び/又は分析を行うステップを含んでいてもよい。
【0075】
本開示の汚れ防止方法及び本開示の初期処理方法は、一又は複数の実施形態において、本開示の石油精製プラント制御システムを用いて行うことができる。
【0076】
プロセス変数としては、一又は複数の実施形態において、プロセスストリーム流速、温度、圧力、プロセス流体中の薬剤の濃度、pH、酸化還元電位、及び原油中のアスファルテンの濃度等が挙げられる。
【0077】
本開示はさらに以下の一又は複数の実施形態に関する。
[1] 石油プロセスにおける熱交換器の汚れ防止方法であって、
付着した汚れの洗浄処理が行われた熱交換器に、油溶性のリン酸エステル化合物及び亜リン酸エステル化合物の少なくとも一方を含有する薬剤を添加したプロセス流体を送液する第1の処理と、
前記第1の処理を行った熱交換器に、分散剤を含有する薬剤を添加したプロセス流体を送液する第2の処理とを含み、
前記第1の処理のプロセス流体中の薬剤の有効成分の濃度(ppm)が、第2の処理のプロセス流体中の薬剤の有効成分の濃度(ppm)よりも高い濃度となるように、前記第1の処理において前記薬剤をプロセス流体に添加することを含む、汚れ防止方法。
[2] 前記分散剤は、コハク酸イミド化合物及びコハク酸エステル化合物からなる群から選択される少なくとも一つである、[1]記載の汚れ防止方法。
[3] 第2の処理においてプロセス流体に添加する薬剤の有効成分の濃度(ppm)と前記第1の処理においてプロセス流体に添加する薬剤の有効成分の濃度(ppm)との比が1/20~1/2となるように、第2の処理において前記薬剤をプロセス流体に添加することを含む、[1]又は[2]に記載の汚れ防止方法。
[4] 洗浄処理が行われた石油プロセスにおける熱交換器の初期処理方法であって、
油溶性のリン酸エステル化合物及び亜リン酸エステル化合物の少なくとも一方を含有する薬剤を、プロセス流体に添加すること、及び
前記薬剤を添加したプロセス流体を、洗浄処理が行われた清浄な熱交換器に送液することを含む、石油プロセスにおける熱交換器の初期処理方法。
【0078】
以下、実施例を用いて本開示をさらに説明する。ただし、本開示は以下の実施例に限定して解釈されない。
【実施例】
【0079】
[薬剤]
亜リン酸エステル:式(I)で表される亜リン酸エステル化合物(油溶性)
リン酸エステル:ビスアルキルリン酸エステル化合物(油溶性)
コハク酸イミド:式(V)で表されるコハク酸イミド化合物、分子量10,000
コハク酸エステル:ポリアルケニル置換コハク酸エステル化合物、分子量10,000
1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸(HEDP、水溶性防食剤)
【0080】
上記化合物の分子量は重量平均分子量であって、サイズ排除クロマトグラフィーによって測定できる。測定条件は以下のとおりである。
測定条件
カラム:スチレン-ジビニルベンゼン架橋ゲル
溶離液:テトラヒドロフラン
流量:0.7ml/min
カラム温度:40℃
【0081】
[薬剤の調製]
薬剤1:
有効成分である亜リン酸エステル(式(I)で表される亜リン酸エステル化合物)の濃度が10重量%となるように溶媒(トルエン)に希釈して薬剤1を調製した。
薬剤2:
有効成分であるリン酸エステル(ビスアルキルリン酸エステル化合物)の濃度が10重量%となるように溶媒(トルエン)に希釈して薬剤2を調製した。
薬剤3:
有効成分であるコハク酸イミド(式(V)で表されるコハク酸イミド化合物、分子量10,000)の濃度が10重量%となるように溶媒(トルエン)に希釈して薬剤3を調製した。
薬剤4:
有効成分であるコハク酸エステル(ポリアルケニル置換コハク酸エステル化合物、分子量10,000)の濃度が10重量%となるように溶媒(トルエン)に希釈して薬剤4を調製した。
薬剤5:
有効成分であるHEDPの濃度が10重量%となるように溶媒(水)に希釈して薬剤5を調製した。
薬剤6:
有効成分である亜リン酸エステル(式(I)で表される亜リン酸エステル化合物)及びコハク酸イミド(式(V)で表されるコハク酸イミド化合物、分子量10,000)の濃度が、それぞれ10重量%及び20重量%となるようにこれらを溶媒(トルエン)に希釈して薬剤6を調製した。
【0082】
[汚れ(ファウリング)防止試験]
汚れ(ファウリング)防止試験は、石油精製用薬剤の汚れ防止効果を調べたるための試験であり、汚れを付着させるための試験部材として、
図2に示す加熱管(ヒートロッド)21を用い、加熱管を油に接触させて、その汚れの付着状況を測定することにより行うものである。この加熱管21は、JISK2276に規定された熱安定度試験器に使用されるものであり、軟鋼製で端部21a、21bが大径とされ、中間部21cが小径とされた、くびれた管形状をなしている。この加熱管21を
図3に示す管形状の加熱管保持器22の中へ挿入する。加熱管保持器22の上部及び下部には流入管23aと流出管23bとが接続されており、加熱管21の中央部には熱電対24が挿入されており、図示しない温度調節器により、熱電対24によって感知される温度が所定の温度となるように、加熱管21の両部21a、21bから電流を流すことが可能とされている。流入管23aは、評価を行うサンプルが入ったタンク(図示せず)と接続されている。試験装置は、上述の加熱管21を備えたアルコア(Alcor)社製のHotLiquidProcessSimurator試験器を用いた。
【0083】
[サンプル調製]
下記表1に示す薬剤を、有効成分の量が表1に記載の濃度になるように原油に添加することによりサンプルを調製した。サンプルとしては、同じ原油に第1の処理用薬剤及び第2の処理用薬剤をそれぞれ添加した第1の処理用サンプルと第2の処理用サンプルとを準備した。
【0084】
前記試験装置により、下記条件のように加熱管21を加熱し、タンク内のサンプルを流入管23aから導入して、試験を行った。なお、タンク内で仕切られているため戻ったサンプルは混合しない。
[第1の処理]
第1の処理用サンプル(200ml)をタンク内に入れ、流入管23aから導入した。20分かけて360℃に昇温した後、サンプル導入をさらに30分間継続して行いその時間を試験時間とした。
[第2の処理]
第1の処理を行った後、タンク内のサンプルを第2の処理用サンプルに入れ替え、その後、流入管23aから導入した。第1の処理と同様に20分かけて360℃に昇温した後、サンプル導入をさらに4時間30分継続して行いその時間を試験時間とした。
[加熱条件]
加熱管21の温度:360℃(20分かけて昇温)
タンク、ライン、ポンプの温度:100℃
サンプル導入流速:1ml/分
系内圧力:500~600psi(窒素で圧力調整)
【0085】
汚れ防止効果は、サンプルの出口温度変化(Δt)に基づき、下記の評価基準で評価した。その結果を下記表2に示す。
〔サンプルの出口温度変化:Δt〕
流出管23b(加熱部出口)における試験開始後最高温度のサンプル温度と、5時間経過後のサンプル温度の温度変化(Δt)を測定した。加熱管21に汚れが付着するほど、Δtが大きくなる。
評価基準 A:Δtが5以下
B:Δtが5を超え8未満
C:Δtが8以上15未満
D:Δtが15以上
【0086】
【0087】
表1に示すように、亜リン酸エステル又はリン酸エステルを用いた第1の処理(清浄状態)を行った後、上記の分散剤を用いて第2の処理を行うことにより(実施例1~3)、第1の処理及び第2の処理を同じ薬剤(分散剤単独又は亜リン酸エステル化合物単独)で行った比較例1~3及び第1の処理を水溶性のHEDPで行った比較例5及び6と比べて汚れの付着を抑制できた。また、実施例1~3の汚れ防止効果は、第1の処理及び第2の処理を、亜リン酸エステル及びコハク酸イミドを含む薬剤を同じ濃度で使用した参考例1と同等又はそれ以上であった。
また、第2の処理に先立ち管が清浄な状態で行われる第1の処理を亜リン酸エステル又はリン酸エステルを含有する薬剤を使用して行うことによって、第2の処理に使用する薬剤をより少ない量(低濃度)にでき、かつ十分な汚れ防止効果が得られることが確認できた。
上記表1に示す結果が得られた理由として以下のことが推察される。
油溶性のリン酸エステル化合物及び亜リン酸エステル化合物は、防食効果を有することが知られている一方で、それ単独では十分な汚れ防止効果が得られないため、汚れ防止効果の点からは分散剤と併用することが提案されている(例えば、特許文献2及び3)。
一方、実施例1~3では、汚れの洗浄処理が行われた清浄な状態の熱交換器に対する第1の処理とその後の第2の処理とにおいて薬剤を異なる濃度で使用し、かつ、清浄な状態の熱交換器に対して行う第1の処理では油溶性のリン酸エステル化合物及び/又は亜リン酸エステル化合物を使用し、第2の処理では分散剤を使用している。それにより、実施例1~3では、併用の場合(参考例1)よりも薬剤の濃度が少ないにもかかわらず、それと同等又はそれ以上の汚れ防止効果が得られている。これは、清浄な状態の熱交換器に対する第1の処理では、油溶性のリン酸エステル化合物及び/又は亜リン酸エステル化合物を所定の濃度で添加したプロセス流体を送液させることによって、油溶性のリン酸エステル化合物及び/又は亜リン酸エステル化合物と熱交換器表面の接触頻度を向上でき、清浄な状態の熱交換器の表面により緻密な汚れ防止被膜を形成でき、その後の第2の処理の分散剤によって、プロセス流体に発生しうる汚れを分散させて汚れ(例えば、アスファルテンやスラッジ等の有機高分子成分を含む汚れ)の付着及び/又は蓄積をさらに抑制できたと考えられる。
また、第1の処理で水溶性のHEDPを含む薬剤を使用した比較例5及び6では、金属は親水性であるため水溶性のHEDPは油溶性の薬剤と比較して金属表面への吸着が強くなると想定されるが、プロセス流体自体が疎水性であるため水溶性の防食成分は金属表面に均一に接触することができず、形成される防食被膜は不均一となり十分な汚れ防止効果が発揮されなかったものと推察される。