(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】合成繊維用処理剤及び合成繊維
(51)【国際特許分類】
D06M 13/17 20060101AFI20240814BHJP
D06M 15/53 20060101ALI20240814BHJP
D06M 13/224 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
D06M13/17
D06M15/53
D06M13/224
(21)【出願番号】P 2020149263
(22)【出願日】2020-09-04
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】藤井 裕子
【審査官】緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-183124(JP,A)
【文献】国際公開第2001/032800(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/17
D06M 15/53
D06M 13/224
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数4~18の1価脂肪族アルコール1モルに対し、炭素数2~3のアルキレンオキサイドを合計で1~40モルの割合で付加させたポリオキシアルキレン誘導体(A)を含有する合成繊維用処理剤であって、前記ポリオキシアルキレン誘導体(A)の
1H-NMRスペクトルにおける、1.05ppm~1.16ppmの範囲に検出されるシグナルの積分値(X)と、1.20ppm~1.35ppmの範囲に検出されるシグナルの積分値(Y)との比率が、X/Y=1/3~1/20であ
り、
前記ポリオキシアルキレン誘導体(A)を形成することとなる前記アルキレンオキサイドが、エチレンオキサイドのみであることを特徴とする合成繊維用処理剤
(ポリフルオルロアルキル基を有する(メタ)アクリレート、又はポリフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートとポリフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレート以外の重合性単量体とからなる重合性単量体、芳香族性基を含まない非フッ素系界面活性剤からなり、界面活性剤中のノニオン性界面活性剤量が60~100質量%である界面活性剤、並びに、水、及び25℃における粘性率が3cP以上である溶媒からなる水系媒体を含む組成物を除く)。
【請求項2】
前記ポリオキシアルキレン誘導体(A)が、炭素数4~18の1価脂肪族アルコール1モルに対し、
エチレンオキサイドを合計で1~20モルの割合で付加させたものである請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項3】
前記ポリオキシアルキレン誘導体(A)を形成することとなる前記1価脂肪族アルコールが、炭素数10~18の2級アルコールを含むものである請求項1
又は2に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
前記ポリオキシアルキレン誘導体(A)を形成することとなる前記1価脂肪族アルコールが、炭素数12~16の2級アルコールを含むものである請求項1~
3のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項5】
更に、多価アルコールエステル化合物(B)として、多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物1モルに対し、炭素数2~3のアルキレンオキサイドを合計で1~100モルの割合で付加させた化合物、及び多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物1モルに対し、炭素数2~3のアルキレンオキサイドを合計で1~100モルの割合で付加させた化合物と、脂肪酸とを縮合して得られる化合物から選ばれる少なくとも1つを含有する請求項1~
4のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項6】
前記ポリオキシアルキレン誘導体(A)の含有量と多価アルコールエステル化合物(B)の含有量との質量比が、ポリオキシアルキレン誘導体(A)/多価アルコールエステル化合物(B)=5/95~70/30である請求項
5に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項7】
前記繊維が、短繊維である請求項1~
6のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項8】
前記合成繊維が、ポリエステルである請求項1~
7のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする合成繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のポリオキシアルキレン誘導体を含有する合成繊維用処理剤、及びかかる合成繊維用処理剤が付着している合成繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、合成繊維の紡糸延伸工程において、摩擦を低減し、糸切れ等の繊維の損傷を低減させる観点から、合成繊維の表面に合成繊維用処理剤を付着する処理が行われることがある。
【0003】
従来、特許文献1~3に開示される合成繊維用処理剤が知られている。特許文献1は、グリセライド誘導体、アニオン界面活性剤及び/又はカチオン界面活性剤と含む合成短繊維用処理剤について開示する。特許文献2は、特定の有機燐酸化合物と特定のポリオキシアルキレン化合物とを特定の比率で含有する短繊維用繊維処理剤について開示する。特許文献3は、平均重合度が500~3000のポリビニルアルコール及び/又はその誘導体からなるA成分と、炭素数6~22のアルキル基を有するジアルキルスルホサクシネート塩であるB成分とを必須成分として含む不織布製造用繊維処理剤について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6080331号公報
【文献】特開2016-65322号公報
【文献】特開2012-229506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、これら従来の合成繊維用処理剤では、繊維に処理剤を均一に付与するために必要な濡れ性のさらなる向上が求められていた。
本発明が解決しようとする課題は、濡れ性を向上できる合成繊維用処理剤を提供する処にある。また、この合成繊維用処理剤が付着した合成繊維を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、合成繊維用処理剤において、所定のポリオキシアルキレン誘導体を含むことが正しく好適であることを見出した。
上記課題を解決するための合成繊維用処理剤は、炭素数4~18の1価脂肪族アルコール1モルに対し、炭素数2~3のアルキレンオキサイドを合計で1~40モルの割合で付加させたポリオキシアルキレン誘導体(A)を含有する合成繊維用処理剤であって、前記ポリオキシアルキレン誘導体(A)の1H-NMRスペクトルにおける、1.05ppm~1.16ppmの範囲に検出されるシグナルの積分値(X)と、1.20ppm~1.35ppmの範囲に検出されるシグナルの積分値(Y)との比率が、X/Y=1/3~1/20であり、前記ポリオキシアルキレン誘導体(A)を形成することとなる前記アルキレンオキサイドが、エチレンオキサイドのみであることを特徴とする合成繊維用処理剤(ポリフルオルロアルキル基を有する(メタ)アクリレート、又はポリフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートとポリフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレート以外の重合性単量体とからなる重合性単量体、芳香族性基を含まない非フッ素系界面活性剤からなり、界面活性剤中のノニオン性界面活性剤量が60~100質量%である界面活性剤、並びに、水、及び25℃における粘性率が3cP以上である溶媒からなる水系媒体を含む組成物を除く)であることを特徴とする。
【0007】
上記合成繊維用処理剤において、前記ポリオキシアルキレン誘導体(A)が、炭素数4~18の1価脂肪族アルコール1モルに対し、エチレンオキサイドを合計で1~20モルの割合で付加させたものであることが好ましい。
【0008】
上記合成繊維用処理剤において、前記ポリオキシアルキレン誘導体(A)を形成することとなる前記1価脂肪族アルコールが、炭素数10~18の2級アルコールを含むものであることが好ましい。
【0009】
上記合成繊維用処理剤において、前記ポリオキシアルキレン誘導体(A)を形成することとなる前記1価脂肪族アルコールが、炭素数12~16の2級アルコールを含むものであることが好ましい。
【0010】
上記合成繊維用処理剤において、更に、多価アルコールエステル化合物(B)として、多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物1モルに対し、炭素数2~3のアルキレンオキサイドを合計で1~100モルの割合で付加させた化合物、及び多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物1モルに対し、炭素数2~3のアルキレンオキサイドを合計で1~100モルの割合で付加させた化合物と、脂肪酸とを縮合して得られる化合物から選ばれる少なくとも1つを含有することが好ましい。
【0011】
上記合成繊維用処理剤において、前記ポリオキシアルキレン誘導体(A)の含有量と多価アルコールエステル化合物(B)の含有量との質量比が、ポリオキシアルキレン誘導体(A)/多価アルコールエステル化合物(B)=5/95~70/30であることが好ましい。
【0012】
上記合成繊維用処理剤において、前記繊維が、短繊維であることが好ましい。
上記合成繊維用処理剤において、前記合成繊維が、ポリエステルであることが好ましい。
【0013】
上記課題を解決するための合成繊維は、前記合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、濡れ性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
先ず、本発明に係る合成繊維用処理剤(以下、処理剤ともいう)を具体化した第1実施形態について説明する。本実施形態の処理剤は、ポリオキシアルキレン誘導体(A)を含み、さらに所定の多価アルコールエステル化合物(B)を含んでもよい。
【0016】
本実施形態の処理剤に供されるポリオキシアルキレン誘導体(A)は、炭素数4~18の1価脂肪族アルコール1モルに対し、炭素数2~3のアルキレンオキサイドを合計で1~40モルの割合で付加させたポリオキシアルキレン誘導体であって、所定の1H-NMRスペクトルによって検出されるシグナルの積分値を有する。かかる化合物を使用することにより、繊維に処理剤を均一に付与するために必要な濡れ性を向上させる。
【0017】
ポリオキシアルキレン誘導体(A)は、1H-NMRスペクトルにおける、1.05ppm~1.16ppmの範囲に検出されるシグナルの積分値(X)と、1.20ppm~1.35ppmの範囲に検出されるシグナルの積分値(Y)との比率が、X/Y=1/3~1/20の範囲にある。かかる比率の範囲内にある化合物として、前記1価脂肪族アルコールのβ位に水酸基を有する2級アルコールから構成される化合物が挙げられる。
【0018】
なお、1H-NMRスペクトルは、重クロロホルムに溶解させて、室温下で、1H-NMR測定される。また、重クロロホルム中のCHCl3に基づく溶媒シグナル(7.26ppm)をリファレンスとした。
【0019】
これらの中でも、ポリオキシアルキレン誘導体(A)として、炭素数4~18の1価脂肪族アルコール1モルに対し、炭素数2~3のアルキレンオキサイドを合計で1~20モルの割合で付加させたものであることが好ましい。かかる範囲に規定することにより、濡れ性をより向上させる。
【0020】
また、ポリオキシアルキレン誘導体(A)として、本発明においては、アルキレンオキサイドが、エチレンオキサイドのみで構成される。かかる構成により、処理剤をエマルションとした際の起泡抑制効果を向上させる。
【0021】
また、ポリオキシアルキレン誘導体(A)として、1価脂肪族アルコールが、炭素数10~18の2級アルコールを含むものであることが好ましい。かかる構成により、濡れ性及び処理剤をエマルションとした際の起泡抑制効果を向上させる。
【0022】
また、ポリオキシアルキレン誘導体(A)として、1価脂肪族アルコールが、炭素数12~16の2級アルコールを含むものであることが好ましい。かかる構成により、濡れ性及び処理剤をエマルションとした際の起泡抑制効果を向上させる。
【0023】
上記ポリオキシアルキレン誘導体(A)の具体例としては、例えば2-ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを3モル付加させた化合物、2-ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物、2-ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを7モル付加させた化合物、2-ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物、2-ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを30モル付加させた化合物、2-トリデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを3モル付加させた化合物、2-トリデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物、2-トリデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを12モル付加させた化合物、2-テトラデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを3モル付加させた化合物、2-テトラデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを7モル付加させた化合物、2-テトラデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを15モル付加させた化合物、2-トリデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを15モル付加させた化合物、2-テトラデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを30モル付加させた化合物、2-トリデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを7モル付加させた化合物、2-テトラデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物、2-ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを12モル付加させた化合物、2-テトラデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを12モル付加させた化合物、2-ヘキサデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを7モル付加させた化合物、2-デカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物、2-オクタデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物、2-ノナノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物、2-ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを7モル、プロピレンオキサイドを3モル付加させた化合物等が挙げられる。これらのポリオキシアルキレン誘導体(A)は、1種のポリオキシアルキレン誘導体を単独で使用してもよく、2種以上のポリオキシアルキレン誘導体を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
本実施形態の処理剤は、下記に示される多価アルコールエステル化合物(B)を含んでもよい。処理剤中にかかる化合物が含まれることにより、濡れ性及び処理剤をエマルションとした際の起泡抑制効果を向上させる。
【0025】
本実施形態に供される多価アルコールエステル化合物(B)は、多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物1モルに対し、炭素数2~3のアルキレンオキサイドを合計で1~100モルの割合で付加させた化合物、及び多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物1モルに対し、炭素数2~3のアルキレンオキサイドを合計で1~100モルの割合で付加させた化合物と、脂肪酸とを縮合して得られる化合物から選ばれる少なくとも1つである。
【0026】
多価アルコールエステル化合物(B)を構成する多価アルコールの具体例としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、グリセリン、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0027】
多価アルコールとのエステル結合に用いられる脂肪酸としては、ヒドロキシ基を有する脂肪酸であるヒドロキシ脂肪酸を含むことが好ましい。ヒドロキシ脂肪酸の具体例としては、例えば12-ヒドロキシドデカン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、9,10-ジヒドロキシステアリン酸、リシノール酸等が挙げられる。また、ヒドロキシ脂肪酸を含む脂肪酸類、例えばヒマシ油脂肪酸、硬化ヒマシ油脂肪酸等が適用されてもよい。
【0028】
炭素数2~3のアルキレンオキサイドの具体例としては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドが挙げられる。アルキレンオキサイドの付加モル数は、1~100モル、好ましくは1~50モル、より好ましくは2~40モルである。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中における多価アルコールと脂肪酸とのエステル化合物1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。
【0029】
縮合に用いられる脂肪酸としては、炭素数8~24の脂肪酸が好ましい。炭素数8~24の脂肪酸としては、公知のものを適宜採用でき、飽和脂肪酸であっても、不飽和脂肪酸であってもよい。また、1価脂肪酸であっても2価以上の多価脂肪酸であってもよい。
【0030】
上記の飽和脂肪酸の具体例としては、例えばオクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、エイコサン酸(アラキジン酸)、ドコサン酸(ベヘン酸)、テトラコサン酸等が挙げられる。上記不飽和脂肪酸の具体例としては、例えばミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、エイコセン酸、リノール酸、αリノレン酸、γリノレン酸、アラキドン酸等が挙げられる。
【0031】
多価アルコールエステル化合物(B)の具体例としては、例えばヒマシ油1モルに対しエチレンオキサイド20モル付加させた化合物、硬化ヒマシ油1モルに対しエチレンオキサイド10モル付加させた化合物、ヒマシ油1モルに対しエチレンオキサイド15モルとプロピレンオキサイド6モル付加させた化合物、硬化ヒマシ油1モルに対しエチレンオキサイド9モルとプロピレンオキサイド9モル付加させた化合物、ヒマシ油1モルに対しエチレンオキサイド15モル付加させた化合物とラウリン酸とのトリエステル化合物、硬化ヒマシ油1モルに対しエチレンオキサイド40モル付加させた化合物とラウリン酸とのトリエステル化合物、硬化ヒマシ油1モルに対しエチレンオキサイド20モル付加させた化合物とオレイン酸とのトリエステル化合物、ヒマシ油1モルに対しエチレンオキサイド12モルとプロピレンオキサイド5モル付加させた化合物とオレイン酸とのトリエステル、硬化ヒマシ油1モルに対しエチレンオキサイド30モルとプロピレンオキサイド5モル付加させた化合物とオレイン酸とのトリエステル等が挙げられる。これらの多価アルコールエステル化合物(B)は、1種の多価アルコールエステル化合物を単独で使用してもよく、2種以上の多価アルコールエステル化合物を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
処理剤中において、上記のポリオキシアルキレン誘導体(A)の含有量と多価アルコールエステル化合物(B)の含有量との質量比は、適宜設定されるが、ポリオキシアルキレン誘導体(A)/多価アルコールエステル化合物(B)=5/95~70/30であることが好ましい。かかる範囲に規定されることにより、濡れ性及び処理剤をエマルションとした際の起泡抑制効果をより向上させる。
【0033】
本実施形態の処理剤は、さらに必要により非イオン界面活性剤、イオン界面活性剤を配合してもよい。これらの界面活性剤は、1種の界面活性剤を単独で使用してもよく、2種以上の界面活性剤を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
本実施形態に供される非イオン界面活性剤としては、上述した(A)(B)成分以外の公知のものを適宜採用できる。非イオン界面活性剤の具体例としては、例えば(1)有機酸、有機アルコール、有機アミン及び/又は有機アミドに炭素数2~4のアルキレンオキサイドを付加した化合物、例えばポリオキシエチレンジラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンオレイン酸ジエステル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシブチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンノニルエーテル、ポリオキシプロピレンノニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレン2-エチル-1-ヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル、ポリオキシエチレンラウロアミドエーテル、ポリオキシエチレントリスチレン化フェニルエーテル等のポリエーテル型非イオン界面活性剤、(2)ポリオキシアルキレンソルビタントリオレアート、ポリオキシアルキレンヤシ油、ポリオキシアルキレンヒマシ油、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油トリオクタノアート、ポリオキシアルキレン硬化ヒマシ油のマレイン酸エステル、ステアリン酸エステル、又はオレイン酸エステル等のポリオキシアルキレン多価アルコール脂肪酸エステル型非イオン界面活性剤等が挙げられる。
【0035】
本実施形態に供されるイオン界面活性剤としては、公知のものを適宜採用できる。イオン界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。
【0036】
アニオン界面活性剤の具体例としては、例えば(1)ブチルリン酸エステル塩、ラウリルリン酸エステル塩、セチルリン酸エステル塩、オクチルリン酸エステル塩、オレイルリン酸エステル塩、ステアリルリン酸エステル塩等の脂肪族アルコールのリン酸エステル塩、(2)ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸エステル塩等の脂肪族アルコールにエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも一種のアルキレンオキサイドを付加したもののリン酸エステル塩、(3)ラウリルスルホン酸塩、ミリスチルスルホン酸塩、セチルスルホン酸塩、オレイルスルホン酸塩、ステアリルスルホン酸塩、テトラデカンスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、2級アルキルスルホン酸(C13~15)塩等の脂肪族スルホン酸塩又は芳香族スルホン酸塩、(4)ラウリル硫酸エステル塩、オレイル硫酸エステル塩、ステアリル硫酸エステル塩等の脂肪族アルコールの硫酸エステル塩、(5)ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン)ラウリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸エステル塩等の脂肪族アルコールにエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイドから選ばれる少なくとも一種のアルキレンオキサイドを付加したものの硫酸エステル塩、(6)ひまし油脂肪酸硫酸エステル塩、ごま油脂肪酸硫酸エステル塩、トール油脂肪酸硫酸エステル塩、大豆油脂肪酸硫酸エステル塩、なたね油脂肪酸硫酸エステル塩、パーム油脂肪酸硫酸エステル塩、豚脂脂肪酸硫酸エステル塩、牛脂脂肪酸硫酸エステル塩、鯨油脂肪酸硫酸エステル塩等の脂肪酸の硫酸エステル塩、(7)ひまし油の硫酸エステル塩、ごま油の硫酸エステル塩、トール油の硫酸エステル塩、大豆油の硫酸エステル塩、菜種油の硫酸エステル塩、パーム油の硫酸エステル塩、豚脂の硫酸エステル塩、牛脂の硫酸エステル塩、鯨油の硫酸エステル塩等の油脂の硫酸エステル塩、(8)ラウリン酸塩、オレイン酸塩、ステアリン酸塩、ドデセニルコハク酸塩等の脂肪酸塩、(9)ジオクチルスルホコハク酸塩等の脂肪族アルコールのスルホコハク酸エステル塩等が挙げられる。アニオン界面活性剤の対イオンとしては、例えばカリウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン塩等が挙げられる。
【0037】
カチオン界面活性剤の具体例としては、例えばラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0038】
両性界面活性剤の具体例としては、例えばベタイン型両性界面活性剤等が挙げられる。
処理剤中において上述した界面活性剤の含有量は、適宜設定されるが、ポリオキシアルキレン誘導体(A)及び多価アルコールエステル化合物(B)の含有量の合計を100質量部とすると、好ましくは1~50質量部、より好ましくは2~40質量部である。かかる範囲に規定されることにより、処理剤をエマルションにした際の乳化安定性を向上できる。
【0039】
(第2実施形態)
次に、本発明による合成繊維を具体化した第2実施形態を説明する。本実施形態の合成繊維は、第1実施形態の処理剤が付着している合成繊維である。処理剤を合成繊維に付着させる際の形態としては、希釈溶媒で希釈した希釈溶液、例えば有機溶媒溶液、水性液等として付与してもよい。水性液等の希釈溶液を、例えば紡糸又は延伸工程等において合成繊維に付着させる工程を経て得られる合成繊維である。合成繊維に付着した希釈液は、乾燥工程により水分を蒸発させてもよい。
【0040】
本実施形態の処理剤は、短繊維及び長繊維のいずれの繊維用途としても適用できるが、短繊維に適用されることが好ましい。短繊維は、一般にステープルと呼ばれるものが該当し、一般にフィラメントと呼ばれる長繊維を含まないものとする。また、本実施形態における短繊維の長さは、本技術分野において短繊維に該当するものであれば特に限定されないが、例えば100mm以下であることが好ましい。
【0041】
本実施形態の処理剤が付与される合成繊維の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、これらのポリエステル系樹脂を含有して成る複合繊維等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維等が挙げられる。これらの中で濡れ性の向上により処理剤を均一に付与する効果の発揮に優れる観点からポリエステルに適用されることが好ましい。
【0042】
処理剤を合成繊維に付着させる割合に特に制限はないが、処理剤を合成繊維に対し0.1~3質量%(水等の溶媒を含まない)の割合となるよう付着させることが好ましい。かかる構成により、本発明の効果をより向上させる。また、処理剤を付着させる方法は、特に制限はなく、例えばローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法、浸漬給油法、スプレー給油法等の公知の方法を採用できる。
【0043】
上記実施形態の処理剤及び合成繊維によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)上記実施形態の処理剤では、炭素数4~18の1価脂肪族アルコール1モルに対し、炭素数2~3のアルキレンオキサイドを合計で1~40モルの割合で付加させたポリオキシアルキレン誘導体であって、所定の1H-NMRスペクトルによって検出されるシグナルの積分値を有するポリオキシアルキレン誘導体(A)を配合した。したがって、繊維に対して濡れ性を向上できる。それにより、特にエマルションの形態で処理剤を繊維に均一に付与できる。
【0044】
また、処理剤を特にエマルションとして調製した際の泡立ちを少なくすることができる。それにより操業性を向上できる。また、乳化安定性を向上でき、均一なエマルションを作成しやすくなる。それによりスカム、腐敗の発生等を抑制することができる。
【0045】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・本実施形態の処理剤は、水を含有させた水性液の形態で保存してもよい。処理剤及び水の含有割合は、特に限定されない。処理剤の含有割合を100質量部とすると、水が5~30質量部の割合で含有するものが好ましく、5~20質量部の割合で含有するものがより好ましい。かかる配合割合に規定することにより、乳化安定性を向上させる。
【0046】
・本実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定化剤、制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤等の通常処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例】
【0047】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0048】
試験区分1(合成繊維用処理剤の調製)
各実施例、各比較例に用いた処理剤は、表1~4に示される各成分を使用し、下記調製方法により調製した。
【0049】
ポリオキシアルキレン誘導体(A)として2-ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物(A-2)30部(%)及び多価アルコールエステル化合物(B)としてヒマシ油1モルに対しエチレンオキサイド20モル付加させた化合物(B-1)70部(%)をよく混合して均一にすることで実施例1の処理剤を調製した。
【0050】
実施例2~29,31~34、参考例30、比較例1~4は、実施例1と同様にしてポリオキシアルキレン誘導体(A)、必要により多価アルコールエステル化合物(B)及びアニオン界面活性剤(C)を表1に示した割合で混合することで処理剤を調製した。なお、各処理剤をイオン交換水に撹拌下で加えて、処理剤の10%水溶液を調製した。
【0051】
表1に各例で使用したポリオキシアルキレン誘導体A-1~22及びa-1~7の種類を「ポリオキシアルキレン誘導体(A)」欄にそれぞれ示す。
表2に各例で使用した多価アルコールエステル化合物B-1~9の種類を「多価アルコールエステル化合物(B)」欄にそれぞれ示す。
【0052】
表3に各例で使用したアニオン界面活性剤C-1~10の種類を「アニオン界面活性剤(C)」欄にそれぞれ示す。
各例の処理剤中におけるポリオキシアルキレン誘導体(A)及び多価アルコールエステル化合物(B)の各成分の種類、各成分の含有割合の合計を100%とした場合における各成分の比率を、表4の「ポリオキシアルキレン誘導体(A)」欄、「多価アルコールエステル化合物(B)」欄にそれぞれ示す。
【0053】
また、各例の処理剤中におけるアニオン界面活性剤(C)の種類、ポリオキシアルキレン誘導体(A)及び多価アルコールエステル化合物(B)の含有割合の合計を100部とした場合におけるアニオン界面活性剤(C)の比率(部)を、表4の「アニオン界面活性剤(C)」欄に示す。
【0054】
また、ポリオキシアルキレン誘導体(A)の1H-NMRスペクトルにおける、1.05ppm~1.16ppmの範囲に検出されるシグナルの積分値(X)と、1.20ppm~1.35ppmの範囲に検出されるシグナルの積分値(Y)との比率(X/Y)を、表4の「ポリオキシアルキレン誘導体(A)の1H-NMRスペクトルにおけるシグナルの積分値の比率X/Y」欄に示す。なお、1H-NMRスペクトルは、装置名Oxford 300MHz(VARIAN社製)を用い、重クロロホルムに溶解させて、室温下で、1H-NMRを測定し、重クロロホルム中のCHCl3に基づく溶媒シグナル(7.26ppm)をリファレンスとした。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【表4】
表4中において、「-」の*は、1.05ppm~1.16ppmの範囲でシグナルが検出されなかったことを示す。
【0059】
試験区分2(処理剤の評価)
上記のように得られた10%水溶液を、さらに希釈して所定の濃度とした各水溶液を用いて濡れ性、起泡抑制、乳化安定性について次の方法で評価した。
【0060】
・濡れ性の評価
処理剤の付与されていないポリエステル不織布を20℃で相対湿度60%の恒温室内にて24時間温調した。この不織布上に各処理剤の1%水溶液を5μL滴下し、液滴が完全に内部に浸透するまでの時間を記録した。結果を表4の「濡れ性」欄に示す。
【0061】
◎(良好):10秒未満で浸透する場合
〇(可):10秒以上且つ60秒未満で浸透する場合
×(不良):60秒以上で浸透する場合
・起泡抑制の評価
各処理剤の0.5%水溶液を調製した。この水溶液10gを25mL共栓付きメスシリンダーに入れ、30秒間強く振った。5分間静置した後、水面から泡の最上面までの高さを測り、下記の評価基準で起泡抑制を評価した。結果を表4の「起泡抑制」欄に示す。
【0062】
◎(良好):泡立ちが10mm未満の場合
○(可):泡立ちが10mm以上且つ30mm未満の場合
×(不良):泡立ちが30mm以上の場合
・乳化安定性の評価
各処理剤の10%水溶液を、所定の透明ガラス瓶に充填し、30℃で24時間温調した。各処理剤の10%水溶液の状態を目視で観察し、以下の評価基準で乳化安定性を評価した。結果を表4の「乳化安定性」欄に示す。
【0063】
◎(良好):分離無しの場合
×(不良):分離有りの場合
表4の結果からも明らかなように、本発明によれば、濡れ性、起泡抑制効果、及び乳化安定性を向上できる。