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  • 特許-レーダ受信機、サイドローブ抑圧装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】レーダ受信機、サイドローブ抑圧装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/28 20060101AFI20240814BHJP
   G01S 7/32 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
G01S13/28 200
G01S7/32 230
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021029914
(22)【出願日】2021-02-26
(65)【公開番号】P2022131134
(43)【公開日】2022-09-07
【審査請求日】2023-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】314012087
【氏名又は名称】株式会社光電製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】林 大介
(72)【発明者】
【氏名】濱田 憲人
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 寛治
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-128278(JP,A)
【文献】特開2010-014664(JP,A)
【文献】特開2012-220449(JP,A)
【文献】特開2018-159552(JP,A)
【文献】特開2014-020795(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0259618(US,A1)
【文献】米国特許第04566010(US,A)
【文献】特許第5553463(JP,B1)
【文献】特開2013-130527(JP,A)
【文献】特開2012-052964(JP,A)
【文献】特開2009-294120(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103344944(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 7/52- 7/64
G01S13/00-13/95
G01S15/00-15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号に含まれるパルスを圧縮して圧縮パルス信号を出力するパルス圧縮部と、
前記パルス圧縮部の処理で発生するサイドローブを模倣したレプリカ信号をあらかじめ記録しておき、前記パルス圧縮部から圧縮パルス信号が出力されるタイミングでレプリカ信号を出力するレプリカ信号生成部と、
圧縮パルス信号とレプリカ信号の相互相関を計算して相互相関信号を出力する相互相関部と、
相互相関信号とあらかじめ設定した設定ノイズフロアレベルとを比較し、サイドローブを抽出するサイドローブ抽出部と、
抽出されたサイドローブ減衰量する減衰量算出部と、
前記圧縮パルス信号を前記減衰量に基づいて減衰させサイドローブ抑圧信号を出力する減衰部と
を備えるレーダ受信機。
【請求項2】
請求項1記載のレーダ受信機であって、
前記圧縮パルス信号は、あらかじめ定めた数からなるデータで構成された信号であり、
圧縮パルス信号内の圧縮されたパルスの幅を示すデータの数に対応して、前記レプリカ信号は記録されている
ことを特徴とするレーダ受信機。
【請求項3】
受信信号に含まれるパルスを圧縮した圧縮パルス信号を取得し、前記圧縮パルス信号に含まれるサイドローブを抑圧するサイドローブ抑圧装置であって、
前記パルス圧縮する処理で発生するサイドローブを模倣したレプリカ信号をあらかじめ記録しておき、前記圧縮パルス信号が出力されるタイミングでレプリカ信号を出力するレプリカ信号生成部と、
圧縮パルス信号とレプリカ信号の相互相関を計算して相互相関信号を出力する相互相関部と、
相互相関信号とあらかじめ設定した設定ノイズフロアレベルとを比較し、サイドローブを抽出するサイドローブ抽出部と、
抽出されたサイドローブ減衰量する減衰量算出部と、
前記圧縮パルス信号を前記減衰量に基づいて減衰させサイドローブ抑圧信号を出力する減衰部と
を備えるサイドローブ抑圧装置。
【請求項4】
請求項3記載のサイドローブ抑圧装置であって、
前記圧縮パルス信号は、あらかじめ定めた数からなるデータで構成された信号であり、
圧縮パルス信号内の圧縮されたパルスの幅を示すデータの数に対応して、前記レプリカ信号は記録されている
ことを特徴とするサイドローブ抑圧装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルスを圧縮する機能を有するレーダ受信機とパルス圧縮に伴って生じるサイドローブを抑圧するサイドローブ抑圧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダの送信信号の生成に、マグネトロン等の電子管ではなく送信機と半導体増幅器を用いるレーダにおいては、最大探知距離と距離分解能の向上を両立させる目的でパルス圧縮方式が用いられる。基本的なものとして、送信信号に線形周波数変調のパルス波を用い、受信側で送信信号と受信信号の相互相関関数を計算する方式があるが、この方式では対象物体からの反射信号の前後の時間(距離)に大きな信号レベルの不要波(レンジサイドローブ)が発生し、対象物体周辺の小型物体の識別に影響を及ぼすという問題がある。この解決方法としては特許文献1~3、非特許文献1などの技術が従来技術として知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-85167号公報
【文献】特開2008-175552号公報
【文献】特開2011-247615号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】J. E. Cilliers, J. C. Smit: Pulse Compression Sidelobe Reduction by Minimization of Lp-Norms, IEEE Trans. AERO, Vol. 43, No. 3, pp. 1238-1247, July 2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術はシミュレーションでは大きな改善効果を得ることができるが、実環境においては対象物体の移動に伴うドップラー周波数偏移やハードウェアの不完全性などにより受信信号が理想的なものではなくなることから改善効果に制限が生じる。この制限は対象物体からの反射信号レベルが小さいときには問題とならないが、大きいときにはレーダ受信機のノイズフロアを超えるレベルとなってレーダ画像に表示されるため視認性が劣化する。
【0006】
図1を用いて具体的に説明する。図1は反射信号とノイズフロアとの関係を示す図である。図1(A)は反射信号のレベルが小さい場合を示しており、図1(B)は反射信号のレベルが大きい場合を示している。サイドローブ抑圧比Xは、どちらも同じとしている。反射信号のレベルが小さい場合、図1(A)に示しているように、反射信号だけがノイズフロアのレベルよりも高いレベルに現れる。しかし、反射信号のレベルが大きい場合、図1(B)に示しているように、圧縮する前のパルス幅に依存したサイドローブがノイズフロアのレベルよりも高いレベルに現れてしまう。
【0007】
そこで、本発明は、レーダ受信機においてパルス圧縮を行う際に生じるサイドローブを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のレーダ受信機は、パルス圧縮部、レプリカ信号生成部、相互相関部、サイドローブ抽出部、減衰量算出部、減衰部を備える。本発明のサイドローブ抑圧装置は、レプリカ信号生成部、相互相関部、サイドローブ抽出部、減衰量算出部、減衰部を備える。パルス圧縮部は、受信信号に含まれるパルスを圧縮して圧縮パルス信号を出力する。レプリカ信号生成部は、パルス圧縮部の処理で発生するサイドローブを模倣したレプリカ信号をあらかじめ記録しておき、パルス圧縮部から圧縮パルス信号が出力されるタイミングでレプリカ信号を出力する。相互相関部は、圧縮パルス信号とレプリカ信号の相互相関を計算して相互相関信号を出力する。サイドローブ抽出部は、相互相関信号とあらかじめ設定した設定ノイズフロアレベルとを比較し、サイドローブを抽出する。減衰量算出部は、抽出されたサイドローブから減衰量を算出する。減衰部は、圧縮パルス信号を減衰量に基づいて減衰させサイドローブ抑圧信号を出力する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のレーダ受信機及びサイドローブ抑圧装置によれば、あらかじめ記録しておいたレプリカ信号との相互相関を利用してサイドローブを抑圧できる減衰量を算出する。したがって、パルス圧縮を行う際に生じるサイドローブを抑圧できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】反射信号とノイズフロアとの関係を示す図。
図2】本発明のレーダ受信機の構成例を示す図。
図3】圧縮パルス信号、レプリカ信号、相互相関信号の例を示す図。
図4】減衰量、サイドローブ抑圧信号の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【実施例1】
【0012】
図2に本発明のレーダ受信機の構成例を示す。レーダ受信機100は、パルス圧縮部110とサイドローブ抑圧装置200を有する。パルス圧縮部110は、受信信号と送信信号とを入力とし、受信信号に含まれるパルスを圧縮して圧縮パルス信号を出力する。パルス圧縮部110は、例えば、レンジサイドローブ低減信号生成手段111、畳み込み部112,113を備えればよい。この場合、レンジサイドローブ低減信号生成手段111は、パルス圧縮とレンジサイドローブの低減を両立させる信号であるレンジサイドローブ低減信号を生成する。畳み込み部112は、送信信号とレンジサイドローブ低減信号とを畳み込む。畳み込み部113は、畳み込み部112の出力信号と受信信号とを畳み込む。このように圧縮パルス信号を生成すればよい。ただし、この方法に限定する必要はなく、特許文献1~3、非特許文献1に示された方法などで圧縮パルス信号を生成してもよい。上述のサイドローブが生じる問題は、既存のパルス圧縮技術で生じる問題である。パルス圧縮部110には、既存の技術を利用すればよい。
【0013】
図3は、圧縮パルス信号、レプリカ信号、相互相関信号の例を示す図である。図4は、減衰量、サイドローブ抑圧信号の例を示す図である。図3(A)が圧縮パルス信号、図3(B)がレプリカ信号、図3(C)が相互相関信号、図4(A)が減衰量、図4(B)がサイドローブ抑圧信号を示している。どの図も横軸は時間(距離)に対応するデータポイント(データの番号)を示しており、縦軸は電力の絶対値もしくは相対値を示している。図3(A)に示されている圧縮パルス信号は、512個のデータで構成されている。例えば、1km分を512個のデータで表現することもあるし、5km分を2048個のデータで表現することもある。どの程度の距離を計測するか、データポイント数(距離分解能)をどの程度に設定するかは、適宜定めればよい。図3(A)の例では、200番目~310番目のデータの位置に圧縮されたパルスと、抑圧の対象となるサイドローブが存在している。圧縮されたパルスの幅は、10データ分程度である。
【0014】
サイドローブ抑圧装置200は、レプリカ信号生成部120、相互相関部130、サイドローブ抽出部140、減衰量算出部150、減衰部160を備える。レプリカ信号生成部120は、パルス圧縮部110の処理で発生するサイドローブを模倣したレプリカ信号としてあらかじめ記録しておき、パルス圧縮部110から圧縮パルス信号が出力されるタイミングでレプリカ信号を出力する。レプリカ信号は、圧縮パルス信号を生成する際に生じてしまうサイドローブを模倣した信号であり、あらかじめ圧縮パルス信号のサンプルから作成しておけばよい。例えば、図3(A)のデータポイント200番目~310番目くらいの、およそ110データ分の幅に圧縮されたパルスとサイドローブが存在する場合、レプリカ信号は110個のデータで作成しておけばよい。図3(B)はレプリカ信号の例であり、圧縮パルス信号のサンプルから圧縮されたパルスの部分を削除して作成している。縦軸は、正規化振幅(dB)であり、例えば圧縮されたパルスの電力の最大値を0dBとすればよい。レプリカ信号は、圧縮パルス信号を構成するデータの数と、圧縮されたパルスの幅を示すデータの数に対応して記録しておけばよい。さらに、パルスの幅が示す距離分解能ごとにも対応させてレプリカ信号を記録してもよい。どの程度の数のレプリカ信号を記録しておくかは、パルスを圧縮する際に生じてしまうサイドローブの形状がどの程度類似するかを考慮して決めればよい。また、レプリカ信号は、波形を一般化するためにスムージングの処理を施してもよい。
【0015】
相互相関部130は、圧縮パルス信号とレプリカ信号の相互相関を計算して相互相関信号を出力する。図3(C)は、図3(A)の圧縮パルス信号と図3(B)のレプリカ信号の相互相関を計算した相互相関信号の例である。図3(C)の200番目~310番目のデータからは圧縮されたパルスは削除され、サイドローブだけが残っていることが分かる。この図の縦軸は、図3(A)と同じ電力(dBm)である。図3(A)から、-100dBmのあたりがノイズフロアであることが分かる。そこで、サイドローブ抽出部140は、-100dBmを設定ノイズフロアレベルに設定しておく。そして、サイドローブ抽出部140は、相互相関信号とあらかじめ設定した設定ノイズフロアレベルとを比較し、サイドローブを抽出する。図3(C)の例では、200番目~310番目のデータの中で-100dBmよりも大きいデータを抽出する。
【0016】
減衰量算出部150は、抽出されたサイドローブから減衰量を算出する。図4(A)は、減衰量算出部が出力する減衰量の例である。図3(C)の設定ノイズフロアレベルを0dBとし、-100dBmよりも大きいデータに対する減衰量を求めている。
【0017】
減衰部160は、圧縮パルス信号を減衰量に基づいて減衰させサイドローブ抑圧信号を出力する。図3(A)の圧縮パルス信号を図4(A)の減衰量に基づいて減衰させた信号が、図4(B)に示すサイドローブ抑圧信号である。図4(B)に示された信号では、サイドローブが抑圧されていることが分かる。
【0018】
本発明のレーダ受信機及びサイドローブ抑圧装置によれば、あらかじめ記録しておいたレプリカ信号との相互相関を利用してサイドローブを抑圧できる減衰量を算出する。したがって、パルス圧縮を行う際に生じるサイドローブを違和感なく抑圧できる。よって、目標とする物体の認識向上に寄与できる。
【符号の説明】
【0019】
100 レーダ受信機 110 パルス圧縮部
111 レンジサイドローブ低減信号生成手段 112,113 畳み込み部
120 レプリカ信号生成部 130 相互相関部
140 サイドローブ抽出部 150 減衰量算出部
160 減衰部 200 サイドローブ抑圧装置
図1
図2
図3
図4