(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】改変ノイラミニダーゼ
(51)【国際特許分類】
C12N 9/24 20060101AFI20240814BHJP
C12N 15/56 20060101ALI20240814BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20240814BHJP
C12N 15/57 20060101ALI20240814BHJP
A61K 38/47 20060101ALI20240814BHJP
A61K 38/48 20060101ALI20240814BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240814BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240814BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20240814BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
C12N9/24
C12N15/56 ZNA
C12N15/864 100Z
C12N15/57
A61K38/47
A61K38/48
A61K35/76
A61K48/00
A61P3/00
A61P43/00
(21)【出願番号】P 2021530672
(86)(22)【出願日】2020-07-03
(86)【国際出願番号】 JP2020026174
(87)【国際公開番号】W WO2021006202
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2019126376
(32)【優先日】2019-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 孝司
(72)【発明者】
【氏名】月本 準
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】月本準ほか,アミノ酸置換によるヒトノイラミニダーゼ1(NEU1)の細胞内結晶化の抑制と医療応用,第41回日本分子生物学会年会 要旨集,2018年,[3P-0079]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/00- 9/99
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS (STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号:1に示されるアミノ酸配列において:
(i)W173NおよびK175S変異、または
(ii)K358N変異、を含み、
配列番号:1に示されるアミノ酸配列と
90%以上の配列同一性を有する配列を含み
、配列番号:1で示される野生型ノイラミニダーゼと比較して細胞内での結晶化が低下している、改変ノイラミニダーゼ。
【請求項2】
配列番号:2または配列番号:3に示される配列を有する、改変ノイラミニダーゼ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の改変ノイラミニダーゼをコードする核酸。
【請求項4】
請求項3に記載の核酸を含む、ベクター。
【請求項5】
AAVベクターである、請求項4に記載のベクター。
【請求項6】
さらに、カテプシンAをコードする核酸を含む、請求項4または5に記載のベクター。
【請求項7】
請求項1または2に記載の改変ノイラミニダーゼ、または請求項4~6のいずれか1項に記載のベクターを含む、医薬組成物。
【請求項8】
ノイラミニダーゼ1活性の欠失または減弱に関連する疾患の治療のための、請求項7に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
この出願は、令和1年7月5日に日本国特許庁に出願された出願番号2019-126376号の優先権の利益を主張する。優先権基礎出願はその全体について、出典明示により本明細書の一部とする。
【0002】
本発明は、改変ノイラミニダーゼ、改変ノイラミニダーゼをコードする遺伝子に関する。本発明はまた、改変ノイラミニダーゼとカテプシンAとの組み合わせ、改変ノイラミニダーゼをコードする遺伝子とカテプシンAをコードする遺伝子の組み合わせに関する。本発明はまた、これらの遺伝子を含むベクターにも関する。本発明はさらに、これらを含む医薬組成物にも関する。
【背景技術】
【0003】
ノイラミニダーゼ(N-アセチル-α-ノイラミニダーゼ、リソソームシアリダーゼともいう)は、糖鎖の末端シアル酸残基を加水分解により除去するグリコシダーゼの一種である。4種類のノイラミニダーゼがヒトの細胞内に存在することが知られている。なかでも、ノイラミニダーゼ1(以下、NEU1とも称する)は、2つの臨床的に類似する神経変性的リソソーム蓄積症:シアリドーシスおよびガラクトシアリドーシスの標的酵素として精力的に研究されている。また、特許文献1には、NEU1欠損がアミロイドーシスにも関連すること、非特許文献1には、NEU1ががんの転移・浸潤にも関連すること、が開示されている。
【0004】
リソソーム蓄積症(リソソーム病、ライソゾーム病ともいう)は、細胞内外の生体分子の分解代謝を行う細胞内小器官(オルガネラ)であるリソソームに含まれる酸性加水分解酵素(リソソーム酵素)または補助因子をコードする遺伝子の変異に基づく、一群の先天性代謝異常症である。かつては治らない病であったが、1990年以降、動物又は植物培養細胞への正常ヒトリソソーム酵素遺伝子導入株から分泌・精製される組換え酵素製剤を患者の静脈内に定期的(1-2週間隔)に継続投与する、酵素補充療法(enzyme replacement therapy;ERT)が実用化され、主に末梢症状を伴う9種の疾患に対して臨床応用されている(非特許文献2)。しかしながら、酵素補充療法は適用できる疾患が限られているといった問題がある。このため、リソソーム蓄積症のさらなる治療法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】生化学、第80巻、第1号、13-23、2008
【文献】薬学雑誌、Vol.138,No.7(2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、ヒトノイラミニダーゼ1を用いた遺伝子治療を検討したところ、ヒトノイラミニダーゼ1を過剰発現させると細胞内結晶を生じ、細胞が破れることを見出した。このため、ヒトノイラミニダーゼ1を遺伝子治療に応用することは、細胞を損傷することとなり、危険を伴うことを見出した。本発明の目的の一つは、細胞内で結晶化せず、遺伝子治療に用いることが可能な改変型ノイラミニダーゼを提供することである。また、本発明のさらなる目的の一つは、ノイラミニダーゼ1をリソソームに共局在させる手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ある種の改変ノイラミニダーゼ1が、細胞内で過剰発現させても結晶化しないことを見出した。また、カテプシンA(CTSA)を過剰発現させることにより、ノイラミニダーゼ1がリソソームと共局在することを見出した。本発明は、上記知見により完成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)配列番号:1に示されるアミノ酸配列において:
(i)W173NおよびK175S変異、または
(ii)K358N変異、を含み、
配列番号:1に示されるアミノ酸配列と80%の配列同一性を有する配列を含む、改変ノイラミニダーゼ、
(2)配列番号:2または配列番号:3に示される配列を有する、改変ノイラミニダーゼ、
(3)(1)または(2)の改変ノイラミニダーゼをコードする核酸、
(4)(3)の核酸を含む、ベクター、
(5)AAVベクターである、(4)のベクター、
(6)さらに、カテプシンAをコードする核酸を含む、(4)または(5)のベクター、
(7)(1)または(2)の改変ノイラミニダーゼ、または(4)~(6)のいずれかのベクターを含む、医薬組成物、
(8)ノイラミニダーゼ1活性の欠失または減弱に関連する疾患の治療のための、(7)の医薬組成物、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、過剰発現させても結晶化しない、または結晶化がごくわずかである改変ノイラミニダーゼ1を提供することができる。また、カテプシンAとの併用により、ノイラミニダーゼ1をリソソームと共局在させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】NEU1改変型を発現するプラスミドの一例を示す図である。
【
図2】野生型NEU1と比較した、NEU1改変型1、2のノイラミニダーゼ活性を示す図である。
【
図3】野生型NEU1を過剰発現させたときの免疫染色結果を示す図である。A:NEU1、B:リソソーム、C:AとBを重ね合わせた図である。核はHoechst 33258、NEU1は抗NEU1、リソソームはLysotrackerを用いて染色した。
【
図4】NEU1改変型1を過剰発現させたときの免疫染色結果を示す図である。A:NEU1、B:リソソーム、C:AとBを重ね合わせた図である。核はHoechst 33258、NEU1は抗NEU1、リソソームはLysotrackerを用いて染色した。
【
図5】CTSA過剰発現細胞を作製する際に使用したプラスミドを示す図である。
【
図6】CTSA過剰発現細胞においてNEU1改変型1を過剰発現させたときの免疫染色結果を示す図である。A:NEU1、B:リソソーム、C:AとBを重ね合わせた図である。核はHoechst 33258、NEU1は抗NEU1、リソソームはLysotrackerを用いて染色した。
【
図7】CTSA+NEU1改変型同時発現プラスミドの一例を示す図である。
【
図8】ネガティブコントロールとして使用したEGFPを発現するプラスミドを示す図である。
【
図9】各プラスミドをNEU1ノックアウトHEK293細胞に導入した際のノイラミニダーゼ活性を示す図である。
【
図10】各プラスミドをNEU1ノックアウトHEK293細胞に導入した際のカルボキシペプチダーゼ活性を示す図である。
【
図11】各プラスミドをCTSAノックアウトHEK293細胞に導入した際のノイラミニダーゼ活性を示す図である。
【
図12】各プラスミドをCTSAノックアウトHEK293細胞に導入した際のカルボキシペプチダーゼ活性を示す図である。
【
図13】CTSA+NEU1改変型同時発現AAVベクター作製の手順を示す図である。
【
図14】CTSA+NEU1改変型同時発現AAVベクター作製の手順を示す図である。
【
図15】CTSA+NEU1改変型同時発現AAVベクター増幅の際に使用したベクターを示す図である。
【
図16】EGFP発現ベクター(ネガティブコントロール)、CTSA+NEU1改変型同時発現AAVベクターを各種HEK293細胞に投与した際のノイラミニダーゼ活性を示す図である。
【
図17】EGFP発現ベクター(ネガティブコントロール)、CTSA+NEU1改変型同時発現AAVベクターを各種HEK293細胞に投与した際のカルボキシペプチダーゼ活性を示す図である。
【
図18】健常者の皮膚繊維芽細胞のノイラミニダーゼ活性、およびガラクトシアリドーシス患者由来の皮膚繊維芽細胞にEGFP発現ベクター(ネガティブコントロール)、またはCTSA+NEU1改変型同時発現AAVベクターを投与した際のノイラミニダーゼ活性を示す図である。
【
図19】健常者の皮膚繊維芽細胞のノイラミニダーゼ活性、およびシアリドーシス患者由来の皮膚繊維芽細胞にEGFP発現ベクター(ネガティブコントロール)、またはCTSA+NEU1改変型同時発現AAVベクターを投与した際のノイラミニダーゼ活性を示す図である。
【
図20】NEU1改変型導入CHO細胞の培養上清のノイラミニダーゼ活性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ある態様において、改変ノイラミニダーゼを提供する。本発明は、さらなる態様において、改変ノイラミニダーゼをコードする核酸を提供する。
【0013】
本態様の改変ノイラミニダーゼは、配列番号:1で示される野生型ノイラミニダーゼ1のアミノ酸位置173のWおよび175のKが変異した配列、またはアミノ酸位置358のKが変異した配列を含む。より具体的には、W173NおよびK175S変異、またはK358N変異を含む。ある実施形態において、本態様の改変ノイラミニダーゼは、上記変異を有し、配列番号:1で示されるアミノ酸配列と約75%以上、例えば約80%以上、約85%以上、約90%以上、約91%以上、約92%以上、約93%以上、約94%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、約99%以上の配列同一性を有する配列を含む、またはからなる。ある実施形態において、本態様の改変ノイラミニダーゼは、上記変異を有し、さらに配列番号:1で示されるアミノ酸配列において1個もしくは複数個、例えば1個~約40個、1個~約30個、1個~約20個、1個~約10個、1個~約5個、例えば1個、2個、3個、4個もしくは5個、または1個~4個、例えば1個、2個、3個もしくは4個のアミノ酸が置換、挿入、欠失および/または付加したアミノ酸配列を含む、またはからなる。さらなる実施形態において、本態様の改変ノイラミニダーゼは、配列番号:2または配列番号:3に示されるアミノ酸配列を含む、またはからなる。
【0014】
本態様の改変ノイラミニダーゼをコードする核酸として、上記の改変ノイラミニダーゼをコードする核酸が挙げられる。より具体的な例として、配列番号:4で示される野生型ノイラミニダーゼ1をコードする核酸の、位置517~519の変異および位置523~525のうち2つ以上の位置での変異、または位置1074の変異を含む核酸が挙げられる。さらに具体的には、位置517~519がAATまたはAAC、位置523~525がTCT、TCC、TCA、TCG、AGT、AGCであるか、または位置1074がTまたはCである変異を含む核酸が挙げられる。ある実施形態において、本態様の改変ノイラミニダーゼをコードする核酸は、上記変異を有し、配列番号:4で示される核酸配列と約75%以上、例えば約80%以上、約85%以上、約90%以上、約91%以上、約92%以上、約93%以上、約94%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、約99%以上の配列同一性を有する配列を含む、またはからなる。ある実施形態において、本態様の改変ノイラミニダーゼをコードする核酸は、上記変異を有し、さらに配列番号:4で示される核酸配列において1個もしくは複数個、例えば1個~約40個、1個~約30個、1個~約20個、1個~約10個、1個~約5個、例えば1個、2個、3個、4個もしくは5個、または1個~4個、例えば1個、2個、3個もしくは4個のアミノ酸が置換、挿入、欠失および/または付加した核酸配列を含む、またはからなる。さらなる実施形態において、本態様の改変ノイラミニダーゼをコードする核酸は、配列番号:5または配列番号:6に示される核酸配列を含む、またはからなる。
【0015】
塩基配列やアミノ酸配列の同一性の決定は、インターネットを利用したホモロジー検索サイトを利用して行うことができる(例えば、European Bioinformatics Institute(EBI)のウェブサイトにおいて、FASTA、BLAST、PSI-BLAST、およびSSEARCH等の相同性検索が利用できる:http://www.ebi.ac.uk/Tools/sss/)。また、National Center for Biotechnology Information(NCBI)において、BLASTを用いた検索を行うことができる(例えば、NCBIのウェブサイトにおけるBLASTのページ;https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi; Altschul, S.F. et al., J. Mol. Biol., 1990, 215(3):403-10; Altschul, S.F. & Gish, W., Meth. Enzymol., 1996, 266:460-480; Altschul, S.F. et al., Nucleic Acids Res., 1997, 25:3389-3402)。
【0016】
本明細書において、「核酸」とは、ヌクレオチドが重合した分子であり、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド等を含む。また、一本鎖または二本鎖のDNA等を含む。さらに、天然のヌクレオチドのみで形成されたもの、および非天然の塩基、ヌクレオチド、ヌクレオシドを一部に含むもの、あるいは合成核酸も含む。典型的には、核酸はDNAである。
【0017】
本態様の改変ノイラミニダーゼは、糖鎖等の生理的な修飾、蛍光や放射性物質のような標識、あるいは他のタンパク質との融合といった各種の修飾を加えたタンパク質であってもよい。また、製造および精製時におけるタンパク質の性質および構造の安定化や、分子間ジスルフィド結合の抑制等を目的として、システイン残基における-SH基の酸化(例えばスルホ基への変換)、グルタチオン化、ニトロシル化、アルキル化、マレイミドとの結合等を行ったものでもよい。これらのいずれも、機能的に同等である限り、本態様の改変ノイラミニダーゼとして使用できる。
【0018】
本態様の改変ノイラミニダーゼの作製方法は特に限定されず、組換え発現(哺乳類細胞、酵母、大腸菌、昆虫細胞等)、無細胞系を用いた合成などが例示できる。例えば、宿主に応じたシグナル配列をコードする核酸配列および本態様の改変ノイラミニダーゼをコードする核酸配列を有する核酸を宿主細胞に導入し、組換え発現後の培養上清から回収する方法や、宿主細胞に改変ノイラミニダーゼをコードする核酸配列を有する核酸を導入し、組換え発現後に細胞を破砕して回収する方法、改変ノイラミニダーゼをコードする核酸配列を有する核酸を鋳型として無細胞系で合成するなどの方法が挙げられる。これらに使用される細胞は特に限定されず、例えばHEK293細胞が挙げられる。
【0019】
得られた改変ノイラミニダーゼは、宿主細胞内または細胞外(培地など)から単離し、実質的に純粋で均一なタンパク質として精製することができる。タンパク質の分離、精製は、通常のタンパク質の精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択および/または組み合わせることによりタンパク質を分離、精製することができる。
【0020】
本発明は、他の態様において、改変ノイラミニダーゼをコードする核酸を含むベクターを提供する。ベクターとしては、プラスミドベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノアソシエートウイルスベクター、センダイウイルスベクター、センダイウイルスエンベロープベクター、パピローマウイルスベクター、などが例示できるが、これらに限定されるものではない。好ましい例として、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノアソシエートウイルス(AAV)ベクターが挙げられる。より具体的な実施形態において、該ベクターはAAVベクターである。AAVには、AAV1型、AAV2型、AAV3型(3A型および3B型を含む)、AAV4型、AAV5型、AAV6型、AAV7型、AAV8型、AAV9型、AAV10型、AAV11型、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAVならびにヒツジAAV、ならびに未知のまたは後に発見される任意の他のAAVが含まれるがこれらに限定されない。ある実施形態において、AAVベクターはAAV2型である。該ベクターには、遺伝子発現を効果的に誘導するプロモーターDNA配列や、遺伝子発現を制御する因子、DNAの安定性を維持するために必要な分子が含まれてもよい。
【0021】
ある実施形態において、本態様のベクターは、カテプシンAをコードする核酸をさらに含む。具体的には、配列番号:13で示されるアミノ酸配列と約75%以上、例えば約80%以上、約85%以上、約90%以上、約91%以上、約92%以上、約93%以上、約94%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、約99%以上の配列同一性を有する配列を含む、またはからなる配列をコードする核酸、配列番号:13で示されるアミノ酸配列において1個もしくは複数個、例えば1個~約40個、1個~約30個、1個~約20個、1個~約10個、1個~約5個、例えば1個、2個、3個、4個もしくは5個、または1個~4個、例えば1個、2個、3個もしくは4個のアミノ酸が置換、挿入、欠失および/または付加したアミノ酸配列を含む、またはからなる配列をコードする核酸、配列番号:3に示されるアミノ酸配列を含む、またはからなる配列をコードする核酸、配列番号:14で示される核酸配列と約75%以上、例えば約80%以上、約85%以上、約90%以上、約91%以上、約92%以上、約93%以上、約94%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、約99%以上の配列同一性を有する核酸、配列番号:14で示される核酸配列において1個もしくは複数個、例えば1個~約40個、1個~約30個、1個~約20個、1個~約10個、1個~約5個、例えば1個、2個、3個、4個もしくは5個、または1個~4個、例えば1個、2個、3個もしくは4個の核酸が置換、挿入、欠失および/または付加した配列を含む、またはからなる核酸、配列番号:14で示される核酸配列を含む、またはからなる核酸、が挙げられる。
【0022】
本発明は、さらなる態様において、改変ノイラミニダーゼを分泌する細胞を提供する。ある実施形態において、改変ノイラミニダーゼを分泌する細胞は、さらにカテプシンAも分泌する。本態様の改変ノイラミニダーゼを分泌する細胞は、例えば上記核酸配列を有する細胞である。本態様の改変ノイラミニダーゼを分泌する細胞は、例えば上記ベクターを導入することにより作製できる。
【0023】
本発明はまた、さらなる態様において、上記改変ノイラミニダーゼ、改変ノイラミニダーゼとカテプシンAの組み合わせ、改変ノイラミニダーゼをコードする核酸、改変ノイラミニダーゼをコードする核酸とカテプシンAをコードする核酸の組み合わせ、改変ノイラミニダーゼをコードする核酸を含むベクター、または改変ノイラミニダーゼを分泌する細胞を含む、医薬組成物を提供する。
【0024】
本態様の医薬組成物は、常法に従って製剤化することができ(例えば、Remington’s Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, U.S.A参照)、医薬的に許容される担体や添加物を共に含むものであってもよい。例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられるが、これらに制限されず、その他常用の担体が適宜使用できる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。
【0025】
本態様の医薬組成物の投与方法として、経口投与または非経口投与が挙げられ、係る投与方法としては具体的には、注射投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられる。注射投与の例としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などによって本態様の医薬組成物を全身または局部的(例えば、皮下、皮内、皮膚表面、眼球あるいは眼瞼結膜、鼻腔粘膜、口腔内および消化管粘膜、膣・子宮内粘膜、腹腔内、髄腔内(例えば大槽内または腰髄内)、または脳室内など)に投与できる。
【0026】
また、患者の年齢、症状等により適宜投与方法を選択することができる。改変ノイラミニダーゼを投与する場合、例えば、一回の投与につき、体重1kgあたり約0.0000001mgから約1000mgの範囲で投与量が選択できる。あるいは、例えば、患者あたり約0.00001から約100000mg/bodyの範囲で投与量が選択できる。改変ノイラミニダーゼを分泌する細胞や改変ノイラミニダーゼをコードするDNAが挿入された遺伝子治療用ベクターを投与する場合も、対象となる組織において、改変ノイラミニダーゼの量が上記範囲内となるように投与することができる。しかしながら、本組成物はこれらの投与量に制限されるものではない。
【0027】
本態様の医薬組成物は、ノイラミニダーゼ1活性の欠失または減弱による疾患の治療に使用できる。疾患の例として、リソソーム蓄積症、アミロイドーシス、がん等が挙げられる。より具体的な例として、本態様の医薬組成物はガラクトシアリドーシスまたはシアリドーシスの治療に使用できる。
【0028】
本明細書において使用される用語、「患者」または「対象」は、ヒトまたは非ヒト動物が挙げられ、例えば、ヒト、マウス、ラット、サル、ブタ、イヌ、ウサギ、ハムスター、モルモットなどが例示できるが、これらに制限されない。
【0029】
本明細書で使用される用語、「治療」は、例えば、症状の緩和、改善、および/または除去、軽減および/または安定化(例えばより進んだ段階へと進行しないこと)のいずれかを指す。
【0030】
本発明は、さらに以下の態様も提供する:
(1)必要とする対象に、上記改変ノイラミニダーゼ、改変ノイラミニダーゼとカテプシンAの組み合わせ、改変ノイラミニダーゼをコードする核酸、改変ノイラミニダーゼをコードする核酸とカテプシンAをコードする核酸の組み合わせ、改変ノイラミニダーゼをコードする核酸を含むベクター、または改変ノイラミニダーゼを分泌する細胞を投与することを含む、リソソーム蓄積症、アミロイドーシスまたはがん、好ましくはリソソーム蓄積症、より好ましくはガラクトシアリドーシスまたはシアリドーシスの治療方法;
(2)必要とする対象に、上記改変ノイラミニダーゼ、改変ノイラミニダーゼとカテプシンAの組み合わせ、改変ノイラミニダーゼをコードする核酸、改変ノイラミニダーゼをコードする核酸とカテプシンAをコードする核酸の組み合わせ、改変ノイラミニダーゼをコードする核酸を含むベクター、または改変ノイラミニダーゼを分泌する細胞を含む組成物を投与することを含む、リソソーム蓄積症、アミロイドーシスまたはがん、好ましくはリソソーム蓄積症、より好ましくはガラクトシアリドーシスまたはシアリドーシスの治療方法;
(3)リソソーム蓄積症、アミロイドーシスまたはがん、好ましくはリソソーム蓄積症、より好ましくはガラクトシアリドーシスまたはシアリドーシスの治療のための、上記改変ノイラミニダーゼ、改変ノイラミニダーゼとカテプシンAの組み合わせ、改変ノイラミニダーゼをコードする核酸、改変ノイラミニダーゼをコードする核酸とカテプシンAをコードする核酸の組み合わせ、改変ノイラミニダーゼをコードする核酸を含むベクター、または改変ノイラミニダーゼを分泌する細胞の使用;
(4)リソソーム蓄積症、アミロイドーシスまたはがん、好ましくはリソソーム蓄積症、より好ましくはガラクトシアリドーシスまたはシアリドーシスの治療のための医薬の製造における、上記改変ノイラミニダーゼ、改変ノイラミニダーゼとカテプシンAの組み合わせ、改変ノイラミニダーゼをコードする核酸、改変ノイラミニダーゼをコードする核酸とカテプシンAをコードする核酸の組み合わせ、改変ノイラミニダーゼをコードする核酸を含むベクター、または改変ノイラミニダーゼを分泌する細胞の使用、も提供する。
【0031】
これらの態様における、改変ノイラミニダーゼ、改変ノイラミニダーゼをコードする核酸、改変ノイラミニダーゼをコードする核酸を含むベクター、改変ノイラミニダーゼを分泌する細胞、それらの形態、製剤化、投与方法、および投与量についての説明や他の実施形態は上記のとおりである。
【0032】
また、改変ノイラミニダーゼとカテプシンAの組み合わせの場合、同時投与、逐次投与のいずれでもよく、また両者を一つの製剤としてもよい。
【0033】
本明細書において引用された先行技術文献は、その全文が参照により本明細書に組み込まれる。本明細書と引用文献の記載に不一致がある場合、本明細書の記載により調整される。また、本明細書において、「約」なる用語は、±10%、好ましくは±5%、より好ましくは±1%の範囲を意味する。また、その範囲の境界値となる数値は、本明細書に記載されているものとみなされる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本実施例は必ずしも本発明の範囲を限定するものではない。
【0035】
(各種測定方法)
<ノイラミニダーゼ活性測定>
1.細胞破砕液の作製
培地を除去した後、PBSで細胞を剥がし、1.5mLチューブに回収する。これを500×g、4℃で5分間遠心分離し、上清を除去して1mLのPBSで再懸濁し、再度遠心分離した。上清を除去し、250μの溶解バッファー(1% Triton X-100/150mM NaCl/50mM酢酸ナトリウムバッファー(pH4.5)/1μMペプスタチンA(ペプチド研究所)/2mM EDTA)を加え、ピペッティングにより細胞破砕液を得る。
【0036】
2.細胞破砕液のタンパク質定量
溶解バッファーで希釈した細胞破砕液を96ウェルプレートに5μLずつ分注する。下表の濃度の検量線を96ウェルプレート内に作製する。
【表1】
DC Protein Assay Reagent(Bio-Rad)のA液とS液を50:1で混合し、各ウェルに25μLずつ加えた後、B液を200μLずつ加え、15分間、室温で反応させる。750nmの吸光度をプレートリーダー(Tecan)で測定し、タンパク質定量を行う。
【0037】
3.ノイラミニダーゼ活性測定
細胞破砕液を20μLずつ分注し、20μLの基質溶液(0.2M酢酸ナトリウムバッファー(pH4.5):8μL、Mili-Q水:5μL、50mg/mL BSA(Sigma Aldrich):2μL、2mM 4-MU-NANA(Carbosynth):5μL)を加え、37℃で30分間反応させる。その後、0.2Mグリシン-NaOHバッファー(pH10.7)を370μL加え、反応を停止させる。下表の濃度の検量線を作製する。
【表2】
励起波長355nm、蛍光波長460nmで蛍光強度を測定し、比活性を算出する。
【0038】
<カルボキシペプチダーゼ活性測定>
上記細胞破砕液を12000×g、4℃、5分間遠心し、上清を回収して細胞抽出液とする。Bio-Rad DC Protein assay reagentでタンパク定量を行っておく。
【0039】
1.1次反応
1.5mLチューブ3本に細胞抽出液25μLを加える。基質MIXとして、0.2M NaOAcバッファー(pH5.6):12.5μL、3mM Z-Phe-Leu(Sigma Aldrich):12.5μLを混合したものをチューブ2本に加え、3mM Z-Phe-Leuの代わりに水を12.5μL混合したものを基質(-)としてチューブ1本に加える。30分間、25℃で反応させた後、100℃の沸騰水に3分間浸し、反応を停止させる。
【0040】
2.2次反応
下表のとおり、検量線のスタンダードを調製する。
【表3】
チューブ1本あたり、0.1Mリン酸カリウムバッファー(pH7.0):500μL、0.2M N-エチルマレイミド(Sigma Aldrich):1.25μL、L-アミノ酸オキシダーゼ(Corotalus atrox由来、Sigma Aldrich)/20mMリン酸カリウム(pH7.0):1μL、ペルオキシダーゼ(Sigma Aldrich):0.5μL、10mg/mL o-Dianisidine(Sigma Aldrich)溶液:15μLを混合した2次反応液を調製し、各サンプル、スタンダードに加え、37℃、40分間インキュベートする。40分後、6M HClを500μLずつ各サンプル、スタンダードに加え、反応を停止させる。各サンプルおよびスタンダードを96ウェルプレートに200μLずつ加え、540nmの吸光度を測定する。
【0041】
<免疫蛍光染色>
1.8ウェルチャンバースライドへの継代
最終濃度10%になるようウシ胎児血清(Biosera)を加えたF-10 Ham(Sigma Aldrich)、およびPBSを温めておく。トランスフェクションを24時間行い、培地交換後さらに24時間後のCHOの培地をアスピレーターで吸引し、1×PBS 1mLで洗浄する。0.05%トリプシン-1mM EDTA/PBS 1mLを加え、37℃、2分間培養する。F-10 Ham 1mLを加え、細胞を剥がし、15mLチューブに全量回収する。200×g、室温で5分間遠心し、上清を除いてF-10 Ham 1mLで懸濁、30μLを取って1.5mLチューブに加える。0.3%トリパンブルー30μLを加え、混合して細胞を染色する。血球計数版を用いて、セルカウントを行う。8ウェルチャンバースライド(Thermo)に1×104細胞/ウェル加え、F-10 Hamで300μLにメスアップする。
【0042】
2.免疫蛍光染色
Lysotrackerで染色する場合は、Lysotracker Red DND-99(Thermo)を最終濃度1μMになるようにF-10 Hamで希釈し、Lysotracker入りの培地に交換して1時間培養する。培地を除き、PBS 500μM/ウェルで1回洗浄後に4%PFA/PBSを200μL加え、室温で30分間固定する。500μL/ウェルで3回洗浄する。5%ヤギ血清(Cedarlane)、1%BSA(Sigma Aldrich)/PBSを200μL/ウェル加え、室温、1時間ブロッキングする。1次抗体(抗NEU1 F-8(Santa Cruz、100倍希釈)、または抗LAMP1(abcam、300倍希釈))で処理(150μL/ウェル)し、4℃、16時間置く。1次抗体液を除き、0.1%Tween20/PBS 500μLで洗浄する(×5回)。PBS 500μLで洗浄する(×1回)。2次抗体(Alexa Fluor 488 conjugated anti-mouse IgG (H+L) F(ab’)2(CST、1000倍希釈)またはAlexa Fluor 555 conjugated anti-rabbit IgG (H+L) F(ab’)2(CST、1000倍希釈))およびHoechst 33258での処理(150μL/ウェル)を、室温、1時間行う。0.1%Tween20/PBS 500μL/ウェルで洗浄する(×5回)。PBS 500μL/ウェルで洗浄する(×2回)。50%グリセロール/PBSで封入し、共焦点レーザー顕微鏡LSM700で観察する。
【0043】
<SDS-PAGE>
1.分離用ゲルの作成
30%アクリルアミド:3.125mL、4×下層バッファー(1.5M Tris-HCl、pH8.8):1.875mL、MilliQ水:2.425mL、10%SDS:75μL、10%APS:25μL、TEMED:5μLを混合し、ゲル板に流し込んで、上に水飽和ブタノールを積層し、室温で固めて分離用ゲル(12.5%)を作製する。
【0044】
2.濃縮用ゲルの作成
30%アクリルアミド:0.65mL、4×上層バッファー(0.5M Tris-HCl、pH6.8):1.25mL、MilliQ水:3.02mL、10%SDS:50μL、10%APS:25μL、TEMED:5μLを混合し、ゲル板に流し込んで、コームを差し込み、室温で固めて濃縮用ゲルを作製する。
【0045】
3.サンプル調製
6×サンプルバッファー(0.3M Tris-HCl、pH6.8、36%グリセロール、24%SDS、1.2%2-メルカプトエタノール、0.012%ブロモフェノールブルー)を20μLにメスアップした細胞破砕液40μg分に4μL加え、3分間煮沸する。ビオチン化マーカー、またはプレステインドマーカー5μLに6×サンプルバッファーを4μL加え、24μLにMilli-Q水でメスアップする。サンプルを100℃の湯浴に3分間浸ける。
【0046】
4.泳動
泳動槽を泳動バッファー(25mM Tris、192mMグリシン、0.1%SDS)で満たし、ゲル板をセットしてカソード側にも泳動バッファーを入れる。コームを抜き、ウェルを整えてサンプルを全量アプライする。20mA定電流でSDS-PAGEを行う。
【0047】
<ウェスタンブロッティング>
泳動後のゲルから濃縮用ゲルを切り取り、ブロッティングバッファー(48mM Tris、39mMグリシン、20%メタノール)に15分程浸す。PVDF膜をメタノールに浸し、さらにブロッティングバッファーに15分間浸す。ろ紙(6枚)をブロッティングバッファーに15分間浸す。トランスブロッターを転写バッファーで湿らせ、ろ紙(3枚)、PVDF膜、ゲル、ろ紙(3枚)の順にセットし、転写を開始する。15V、約1時間行う。転写が終わったPVDF膜を取り出し、50%Blocking ONE/TBSを加えて1時間、ブロッキングする。1次抗体溶液をアプライし、4℃で一晩反応させる。PBS-Tで洗浄し(5分×3回)、その後、PBSで2回洗浄する。二次抗体溶液をPVDF膜に付ける。PBS-Tで洗浄し(5分×3回)、PBSで1回洗浄し、TBSで1回洗浄する。その後、HRP標識の場合はWestern lightning Ultra(PerkinElmer)に浸し、Bio-Rad Chemi Doc RXS+で検出する。AP標識の場合は、BCIP/NBT(Wako)/50mM MgSO4/TBSに浸し、検出する。
【0048】
実施例1.改変ノイラミニダーゼの作製および活性確認
1.野生型ヒトノイラミニダーゼ1をコードする遺伝子の増幅
ヒトノイラミニダーゼ1をコードする遺伝子(配列番号:4)を、以下のプライマー
フォワードプライマー:TTTTTCTAGACACCATGACTGGGGAGCGAC(配列番号:7)
リバースプライマー:ATATAAGCTTTCAGAGTGTCCCATAGA(配列番号:8)、
を用いて94℃2分間を1回、94℃30秒間、57℃30秒間、68℃60秒間のサイクルを35サイクル行うPCR反応により増幅した。PCR反応液は、フォワードプライマー:1μL(50pmol)、リバースプライマー:1μL(50pmol)、テンプレートプラスミド(pcDNA3.1 Hygro (-) NEU1):1μL(10ng)、10×KODバッファー:5μL、25mM MgSO4:2μL、2mM dNTPs:5μL、KOD plus(Toyobo):1μLを、Milli-Q水で50μLにメスアップして調製した。
【0049】
2.改変型1および2の作製および増幅
上述のプライマーに加えて、改変型1の作製のため、以下のプライマー、
フォワードプライマー:CTACCATGTTGGTAAACAGCAGCGATGATGGTGTTTC(配列番号:9)
リバースプライマー:GAAACACCATCATCGCTGCTGTTTACCAACATGGTAG(配列番号:10)、
および改変型2の作製のため、以下のプライマー、
フォワードプライマー:CTCATGGCGGAACGAGACAGTCC(配列番号:11)
リバースプライマー:GGACTGTCTCGTTCCGCCATGAG(配列番号:12)、
を使用した。
上記1.と同様にPCR増幅した後、エタノール125μL、2M NaCl 5μLを加え、18000×g、4℃、30分間遠心した。上清を除き、DNAサンプルバッファー(10mM Tris-HCl(pH8.0)、50mM EDTA、33%グリセロール、0.3%ブロモフェノールブルー)で溶解した。全量を1%アガロースゲルで泳動した。Gel Extraction kit(Qiagen)で主要バンドを切り出し、DNAを精製した。得られたDNAフラグメントを当モル混合した。25mM MgSO4 2μL、2mM dNTPs 5μL、KOD plusバッファー5μL、KOD plus 1μLを加え、水で50μLにメスアップした。これを、94℃2分間を1回、94℃30秒間、57℃30秒間、68℃80秒間のサイクルを35サイクル行うPCR反応により増幅した。
【0050】
3.制限酵素処理
PCR後の反応液にTE飽和フェノールとCIA(クロロホルムとイソアミルアルコールを24:1で混合したもの)を25μLずつ加え、よく振った。4℃、20000×g、5分間遠心分離した。上清を新しい1.5mLチューブに回収し、CIAを50μL加えた。4℃、20000×g、5分間遠心分離した。上清を新しい1.5mLチューブに回収し、エタノール125μLと2M NaClを5μL加えた。20000×g、4℃、20分間遠心分離した。上清を捨て、ペレットを風乾した。Milli-Q水を10μL加え、ペレットを溶解した。下表のとおり制限酵素反応液を調製し、37℃、16時間反応させた。
【表4】
【0051】
4.ライゲーション
制限酵素反応液を全量、1%アガロースゲルで泳動した。主要バンドを切り出し、Gel Extraction kitでDNAを精製した。プラスミド25fmol、インサート125fmolを混合し、同体積のDNA Ligation kit mighty mix(Takara)を加え、16℃、16時間反応させた。
【0052】
5.大腸菌の形質転換
ライゲーション産物をDH5αコンピテントセル(ニッポンジーン)100μLに加え、30分間氷上に置いた。60秒間、42℃でヒートショックを加えた。SOC培地を300μL加え、37℃、1時間インキュベートした。LB(100μg/mLアンピシリン入り)に全量塗った。37℃、14時間インキュベートした。
【0053】
6.ミニプレップ
LB培地2mLに100mg/mLアンピシリンを2μL加えた。コロニーを爪楊枝で拾って培地に入れ、37℃、16時間振とうした。菌液1mLをとり、室温、1000×g、5分間遠心分離した。上清を除き、氷冷したSolI(50mMスクロース、25mM Tris-HCl(pH8.0)、10mM EDTA)を100μL加え、再懸濁した。SolII(0.2M NaOH、1%SDS)を200μL加え、転倒混和して氷上で5分間放置した。氷冷したSolIII(3M酢酸カリウム、2M酢酸)を150μL加え、転倒混和した。12000×g、4℃、5分間遠心分離した。上清を取り、10mg/mL RNase A(Sigma Aldrich)を1μL入れ、37℃、1時間インキュベートした。TE飽和フェノールとCIAを255μLずつ加え、よく振り混ぜた。12000×g、5分間、4℃遠心分離した。上清を回収し、CIA 450μLを加え、よく振り混ぜた。12000×g、5分間、4℃遠心分離した。上清を取り、2-プロパノールを450μL加え、よく混ぜた。18000×g、20分間、4℃遠心分離した。上清を除き、75%エタノールを1mL加えた。18000×g、4℃、5分間遠心分離した。上清を除き、ペレットを風乾した。TEバッファー(pH8.0)10μLでペレットを溶かした。各DNA溶液1μL、10×Mバッファー2μL、0.1%BSA 2μL、Milli-Q水14μL、Xba I 0.5μL、Hind III 0.5μLをそれぞれ混合し、37℃、1時間、インキュベートした。6×DNAサンプルバッファーを4μL加え、1%アガロースゲルで泳動した。
【0054】
7.ミディプレップ
ミニプレップで、インサートが正確に挿入されているプラスミドを持つコロニーを1mLのLB培地(100μg/mLアンピシリン入り)に入れ、12時間、37℃で培養した。200mLのLB培地(100μg/mLアンピシリン入り)に移し、37℃で16時間培養した。Hipure plasmid midiprep kit(Thermo)を用いて、DNAを抽出・精製した。得られたプラスミドに目的の変異が入っているか、配列を確認した(NEU1改変型導入プラスミドについて、
図1)。
【0055】
8.HEK293細胞へのトランスフェクション
最終濃度10%になるよう、ウシ胎児血清(Biosera)を加えたDMEM(4500mg/mLグルコース)(Sigma Aldrich)、PBSを温めておいた。10cmディッシュ(Iwaki Collagen typeIcoated)で培養したHEK293の培地をアスピレーターで吸引し、1×PBS 4mLで洗浄した。0.05%トリプシン-1mM EDTA/PBS 1mLを加え、37℃、2分間培養した。DMEM 1mLを加え、細胞を剥がし、15mLチューブに全量回収した。200×g、室温で5分間遠心し、上清を除いてDMEM 1mLで懸濁、30μLを取って1.5mLチューブに加えた。0.3%トリパンブルー30μLを加え、混合して細胞を染色した。血球計数版を用いて、セルカウントを行った。35mmディッシュ(Iwaki Collagen typeIcoated)に細胞を1×106個撒いた。最終1.5mLになるようにDMEMを加えた。5%CO2、37℃で24時間培養した。Opti-MEM(Thermo)を150μL×2×プラスミド数分注した。一方に各プラスミド2.5μg、P3000(Thermo)を5μL加えた。もう一方にLipofectamine 3000(Thermo)を7.5μL加えた。両液を混ぜて15分間、室温に置いた。混合液を細胞にかけ、24時間、培養した。培地を新しいDMEM 2mLに交換した。
【0056】
9.NEU1の活性確認
上記<ノイラミニダーゼ活性測定>に記載の方法に従って、野生型NEU1、NEU1改変型1、2のノイラミニダーゼ活性を測定した。得られた測定値から、NEU1未導入細胞のノイラミニダーゼ活性の測定値を差し引いた値をノイラミニダーゼ活性とした。結果を下表、および
図2に示す。改変型1、2とも、野生型NEU1よりは低いものの、比較的高い活性を示した。
【0057】
【0058】
実施例2.改変ノイラミニダーゼの結晶化の有無の確認
1.CHO細胞へのトランスフェクション
上記野生型NEU1およびNEU1改変型1(以下、特に断らない場合はNEU1改変型1を単にNEU1改変型とも称する)をコードする遺伝子を組み込んだプラスミドで、CHO細胞をトランスフェクトした。具体的には、以下の手順で実施した。最終濃度10%になるよう、ウシ胎児血清(Biosera)を加えたF-10 Ham(Sigma Aldrich)、PBSを温めておいた。10cmディッシュ(Greiner)で培養したCHOの培地をアスピレーターで吸い、1×PBS 5mLで洗浄した。0.05%トリプシン-1mM EDTA/PBS 1mLを加え、37℃、2分間培養した。F-10 Ham 1mLを加え、細胞を剥がし、15mLチューブに全量回収した。200×g、室温で5分間遠心分離し、上清を除いてF-10 Ham 1mLで懸濁、30μLを取って1.5mLチューブに加えた。0.3%トリパンブルー30μLを加え、混合して細胞を染色した。血球計数版を用いて、セルカウントを行った。35mmディッシュ(Greiner)に細胞を1×106個撒いた。最終1.5mLになるようにF-10 Hamを加えた。5%CO2、37℃で24時間培養した。Opti-MEM(Thermo)を150μL×2×プラスミド数分注した。一方に各プラスミド2.5μg、P3000(Thermo)を5μL加えた。もう一方にLipofectamine 3000(Thermo)を7.5μL加えた。両液を混ぜて15分間、室温に置いた。混合液を細胞にかけ、24時間培養した。培地を新しいF-10 Ham 2mLに交換した。
【0059】
2.細胞内結晶化確認
上記<免疫蛍光染色>に記載の方法に従って、遺伝子導入して4日後に、NEU1については抗NEU1抗体、リソソームについては抗LAMP1を用いて免疫染色を行った。
【0060】
野生型での結果を
図3、改変型1での結果を
図4に示す。
図3に示すとおり、野生型ではNEU1の結晶化が観察された。
図4に示すとおり、改変型1ではNEU1の結晶化は観察されなかった。なお、改変型2については、若干の結晶化が確認されたものの、野生型に比べてごくわずかであった。また、図に示すとおり、NEU1はリソソームとはほとんど共局在が見られなかった。
【0061】
実施例3.カテプシンA過剰発現細胞におけるNEU1のリソソームとの共局在
公知の方法に従って形質転換を行い、ヒトカテプシンA(CTSA)cDNA(配列番号:14)の全長を有するpCXN
2プラスミド(pCXN
2 CTSAという)を作成した(
図5)。上記の方法に従い、CHO細胞をpCXN
2 CTSAでトランスフェクトした。培地交換24時間後、新しい培地2mLに交換した。選択薬剤として400μg/mL G418(Invivogen)を加え、3日間培養した。培地交換し、再度選択薬剤を加え、さらに1週間培養した。選択薬剤無しの培地に交換し、細胞を増やした。得られたCTSA過剰発現細胞に、上記のNEU1改変型1を上記の方法に従い導入、免疫染色を行った。結果を
図6に示す。図に示されるとおり、CTSA過剰発現細胞において、NEU1改変型はリソソームと共局在した。このことは、CTSAが十分にあれば、NEU1がリソソームへ輸送されることを示す。
【0062】
実施例4.2つの遺伝子(CTSAおよびNEU1改変型)を同時発現するベクターの作製
1.NEU1改変型1(mod NEU1)のcDNA増幅、ベクターへの組み込み
以下のプライマー
フォワードプライマー:TTTTGAATTCCACCATGACTGGGGAGCGACC(配列番号:15)
リバースプライマー:AAAAAGATCTTCAGAGTGTCCCATAGACAC(配列番号:16)、
を用いて、上記実施例1.1と同様の手順で調製した。
【0063】
2.制限酵素処理
下表のとおり制限酵素反応液を調製した以外は、実施例1.3と同様の手順で処理した。
【表6】
【0064】
3.ライゲーション、4.大腸菌の形質転換、5.ミニプレップ
制限酵素としてEcoR I 0.5μL、Bgl II 0.5μLを使用する以外は、実施例1.4~6と同様の手順で処理した。得られたインサートが正確に組み込まれているプラスミドをpBI-CMV1 mod NEU1とし、次のCTSA cDNA組み込みに用いた。
【0065】
6.CTSA cDNA増幅
CTSA cDNAをコードする遺伝子(配列番号:14)を、以下のプライマー
フォワードプライマー:TTTTAGATCTCACCATGATCCGAGCCGCGCC(配列番号:17)
リバースプライマー:AAAAGCGGCCGCTCAGTATGGCTGCTTGTTC(配列番号:18)、
テンプレートプラスミドとしてpCXN2 CTSAを用いて、実施例1.1と同様の手順で処理した。
【0066】
7.制限酵素処理
下表のとおり制限酵素反応液を調製した以外は、実施例1.3と同様の手順で処理した。
【表7】
【0067】
8.ライゲーション、9.大腸菌の形質転換、10.ミニプレップ
制限酵素としてBgl II 0.5μL、Not I 0.5μLを使用する以外は、実施例1.4~6と同様の手順で処理した。得られたインサートが正確に組み込まれているプラスミドをpBI-CMV1 CTSA+mod NEU1(
図7)とし、以降の実験に用いた。
【0068】
11.ミディプレップ
実施例1.7と同様の手順で処理した。
【0069】
実施例5.各種プラスミドを導入した細胞における酵素活性
上記のCTSA+mod NEU1に加え、EGFP(ネガティブコントロール、
図8)、CTSA(
図5)、mod NEU1(
図1)の各プラスミドを、上述の方法に従い、それぞれCTSAノックアウト(KO)またはNEU1ノックアウトHEK293細胞に導入した。導入後、界面活性剤で細胞を溶解し、上記の方法に従い、ノイラミニダーゼ活性およびカルボキシペプチダーゼ活性をそれぞれ測定した。結果を
図9~12に示す。両酵素を同時に発現するプラスミドを導入した細胞は、CTSA KO、NEU1 KO細胞の両方で、ノイラミニダーゼ活性とカルボキシペプチダーゼ活性が上昇した。また、ノイラミニダーゼのみを発現するプラスミドを導入した細胞は、NEU1 KO細胞では通常のHEK293細胞と同程度のノイラミニダーゼ活性を示したが、CTSA KO細胞では通常のHEK293細胞よりも低いノイラミニダーゼ活性を示した。これにより、ノイラミニダーゼ活性には、CTSA活性が重要であることが明らかとなった。mod NEU1のみを導入したプラスミドであっても、通常と同程度のNEU1活性を示しており、結晶化しないことを考慮すれば、野生型NEU1よりも有効であると考えられる。また、CTSAとNEU1を同時発現するベクターは、リソソーム蓄積症、特にガラクトシアリドーシス、シアリドーシスの遺伝子治療に有効である可能性が高いことが示された。
【0070】
実施例6.CTSA+mod NEU1同時発現AAV2の作製
1.テンプレート用pBI-CMV1 CTSA+mod NEU1 NV 作成
下表のとおり制限酵素反応液を調製し、風乾したペレットの溶解に使用するMilli-Q水を10μLから8μLに変更し、制限酵素としてEcoR V 0.5μL、Xho I(Takara)0.5μLを使用する以外は、実施例1.3~6と同様の手順で処理した。バンドが1本のものを、pBI-CMV1 CTSA+mod NEU1 NVとして、AAV製造用ベクター作製用テンプレートとして用いた(
図13)。
【表8】
【0071】
2.CTSA、mod NEU1同時発現ユニットおよびEGFP cDNA増幅
以下のプライマー
フォワードプライマー:TTTTAAGCTTGAGTCAGTGAGCGAGGAAGC(配列番号:19)、
TTTTGAATTCCACCATGGTGAGCAAGGG(配列番号:20)、
リバースプライマー:TTTTTCTAGATCAGAGTGTCCCATAGACACTG(配列番号:21)、
AAAAAGATCTTTACTTGTACAGCTCGTCCATGC(配列番号:22)、
テンプレートプラスミドとしてpBI-CMV1 CTSA+mod NEU1 NV、およびpEGFP-N1(Takara)を用いて、実施例1.1と同様の手順で処理した。
3.制限酵素処理
下表のとおり制限酵素反応液を調製した以外は、実施例1.3と同様の手順で処理した。
【表9】
【表10】
【0072】
4.ライゲーション、5.大腸菌の形質転換、6.ミニプレップ
制限酵素としてBgl II 0.5μL、Not I 0.5μLを使用する以外は、実施例1.4~6と同様の手順で処理した。得られたインサートが正確に組み込まれているベクターをpAAV-CMV CTSA+mod NEU1(
図14)あるいはpAAV-CMV EGFPとし、以降の実験に用いた。
【0073】
7.ミディプレップ
実施例1.7と同様の手順で処理した。
【0074】
実施例7.CTSA+mod NEU1同時発現AAV2のHEK293細胞へのトランスフェクション
1.HEK293FT播種
最終濃度10%になるよう、ウシ胎児血清(Biosera)を加えたDMEM(4500mg/mLグルコース)(Sigma Aldrich)、PBSを温めておいた。10cmディッシュ(Iwaki Collagen typeIcoated)で培養したHEK293の培地をアスピレーターで吸引し、1×PBS 4mLで洗浄した。0.05%トリプシン-1mM EDTA/PBS 1mLを加え、37℃、2分間培養した。DMEM 1mLを加え、細胞を剥がし、15mLチューブに全量回収した。200×g、室温で5分間遠心し、上清を除いてDMEM 3mLで懸濁、30μLを取って1.5mLチューブに加えた。0.3%トリパンブルー30μLを加え、混合して細胞を染色した。血球計数版を用いて、セルカウントを行った。10cmディッシュ(Greiner)に細胞を4×106個撒いた。最終10mLになるようにDMEMを加えた。5%CO2、37℃で24時間培養した。
【0075】
2.トランスフェクション
CalPhos Transfection Reagent(Takara)を使用した。Calcium Solutionを滅菌水で6倍希釈した。希釈したCalcium Solution 1000μLにプラスミド3種類(pAAV-CMV EGFPまたはpAAV CTSA+mod NEU1;pRC2-mi342;pHelper、各TEバッファー(pH8.0)中1μg/μL、
図15)を6μLずつ加えた。2×HBSを1018μL加え、15回激しく振って混合した。室温で3分間静置し、細胞に全量加えた。12時間後、DMEM(2%ウシ胎児血清)8mLに全量培地交換した。
【0076】
3.AAVの抽出
細胞に0.5M EDTA-NaOH(pH8.0)を100μL加え、10分間、室温に置いた。細胞をはがし、15mLチューブに回収した。ディッシュを2mLのDMEM+25μLの0.5M EDAT-NaOH(pH8.0)で洗いこみ、上記のチューブに回収した。1700×g、4℃、10分間遠心分離した。可能な限り上清を除き、ボルテックスで細胞をほぐした。500μLのAAV Extraction Solution A(Takara)を加えた。15秒間ボルテックスした。1.5mLチューブに中身を移し、10000×g、4℃、10分間遠心分離した。再度、15秒間のボルテックス~遠心分離を行った。上清を新しい1.5mLチューブに移し、AAV Extraction Solution B(Takara)を50μL加え、混合した。100μLずつ分注し、-80℃で保存した。
【0077】
4.AAV定量
AAV溶液:5μL、水:12μL、10×DNaseバッファー:2μL、DNase I(Takara):1μLを、ピペッティングで穏やかに混ぜてDNase反応液を調製し、7℃、30分間→95℃、10分間反応させた。以下のプライマー、
フォワードプライマー:5'-GGAACCCCTAGTGATGGAGTT(配列番号:23)
リバースプライマー:5'-CGGCCTCAGTGAGCGA(配列番号:24)、
を使用して、iQ CYBR Green supermix(2×)(Bio-Rad):10μL、100μMフォワードプライマー:0.1μL、100μMリバースプライマー:0.1μL、Nuclease free water:4.8μLを混合し、全量で15μL/サンプルのマスターミックスを調製した。pAAV-CMVを2×10
9 moles/μLに希釈した。
下表のようにプラスミドを段階希釈した。
【表11】
次のようにサンプルを希釈した。
1:20希釈:サンプル5μL+水95μL、
1:100希釈:1:20希釈を20μL+水80μL、
1:500希釈:1:100希釈を20μL+水80μL、
1:2500希釈:1:500希釈を20μL+水80μL、
各サンプルとスタンダードを5μLずつ96ウェルプレートにアプライし、マスターミックスを15μLずつ加え、ピペッティングして混ぜた。95℃3分間/95℃15秒間/60℃60秒間/read plate/ステップ3から40サイクル/融解曲線55℃→95℃の条件でPCRを行った。解析にはBio-Rad CFX ConnectリアルタイムPCR解析システムを用いた。
【0078】
5.ノイラミニダーゼ活性およびカルボキシペプチダーゼ活性の測定
ウイルスを含む抽出液を1×10
5vg/細胞でNEU1ノックアウト(KO)あるいはCTSA KO HEK293に添加し、1週間培養した。界面活性剤で細胞を溶解し、4-MU-NANAでノイラミニダーゼ活性を、Z-Phe-Leu-OHでカルボキシペプチダーゼ活性を測定した。結果を
図16、17に示す。図に示すとおり、CTSA KO、NEU1 KO HEK293の両方で、AAV2 CTSA+mod NEU1を添加するとノイラミニダーゼ活性、およびカルボキシペプチダーゼ活性が上昇した
【0079】
実施例7.CTSA+mod NEU1同時発現AAV2の感染
ウイルスを含む抽出液を2×10
5vg/細胞あるいは1×10
5vg/細胞でガラクトシアリドーシス(GS)、またはシアリドーシス(SD)患者由来皮膚繊維芽細胞に添加し、1週間培養した。ガラクトシアリドーシス患者由来皮膚繊維芽細胞F598、シアリドーシス患者由来皮膚繊維芽細胞F643、およびポジティブコントロールとして健常者由来皮膚繊維芽細胞F258、を使用した。界面活性剤で細胞を溶解し、4-MU-NANAでノイラミニダーゼ活性を測定した。結果を
図18、19に示す。GS患者由来、SD患者由来皮膚繊維芽細胞の両方で、AAV2 CTSA+mod NEU1を添加するとノイラミニダーゼ活性が上昇した。
【0080】
実施例8.NEU1改変型はCHO細胞上清に分泌される
実施例2.1と同様の手順でトランスフェクトしたCHO細胞を、無血清培地で培養し、培養上清を回収し、精製CTSAを加えて上記の方法に従い、ノイラミニダーゼ活性を測定した。結果を
図20に示す。培地1Lあたり、1.18mgのNEU1改変型1が分泌されていた。
【0081】
実施例9.CTSA+mod NEU1同時発現AAV2ベクターの精製
Zolotukhin et. al. Gene Ther., 6, 973-985 (1999)に記載される非連続グラジエント法に基づいてベクターを精製する。凍結保存していた細胞に1mM塩化マグネシウム入りPBS(PBS-MK)を加え、融解する。DNase I、およびRNase Aを加え、37℃、1時間反応させる。10000×g、10℃、5分間遠心し、上清を0.45μmフィルターでフィルトレーションする。また、PBS-MKをフィルターに通し、フィルター内に残った液を押し出す。超遠心チューブにサンプルを加え、長い針を付けたシリンジで、15%イオジキサノール/1MNaCl/PBS-MKをサンプルの下にアプライする。次いで、25%イオジキサノール/フェノールレッド/PBS-MKを下層にアプライする。また、40%イオジキサノール/PBS-MKを下層にアプライする。さらに、54%イオジキサノール/PBS-MKを下層にアプライする。50000rpm(使用ローターは70.1 Ti、200000×g)、18℃、2時間遠心する。遠心終了後、40%イオジキサノール層を回収する。100kDa cut Amicon Ultra でPBSにバッファー交換する。
【0082】
実施例10.in vivo脳室内投与プロトコール
CTSA mutantマウスを麻酔し、頭皮を切り開く。ブレグマから右に1mm、尾の方に0.5mmの位置に二段針を差し込み、AAV溶液を25μL投与する。カイロの上にマウスを置き、麻酔から覚めるまで体温を維持する。1週間後、解剖して大脳と小脳に分け、酵素活性を測定する。
【配列表】