(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】リチウム2次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0569 20100101AFI20240814BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240814BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20240814BHJP
【FI】
H01M10/0569
H01M10/052
H01M10/0568
(21)【出願番号】P 2022547396
(86)(22)【出願日】2021-05-21
(86)【国際出願番号】 JP2021019331
(87)【国際公開番号】W WO2022054343
(87)【国際公開日】2022-03-17
【審査請求日】2023-01-25
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/034710
(32)【優先日】2020-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2021/014610
(32)【優先日】2021-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】522369728
【氏名又は名称】TeraWatt Technology株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】新井 寿一
(72)【発明者】
【氏名】緒方 健
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0161706(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0214672(US,A1)
【文献】特表2019-501480(JP,A)
【文献】HAGOS, Tesfaye Teka,Developing High-voltage carbonate-ether mixed electrolyte via anode-free cell configuration,Journal of Power Sources,2020年06月15日,461,228053
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0569
H01M 10/052
H01M 10/0568
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、セパレータと、負極活物質を有しない負極と、電解液と、を備え、
前記電解液が、
FIPME/TTFE、FIPFME/TTFE、DTFEOM/TTFE、DHFPOM/TTFE、FIPME/TFEE、FIPFME/TFEE、DTFEOM/TFEE、及びDHFPOM/TFEEから選択されるフッ素化エーテル混合溶媒を含む、
リチウム2次電池。
(
但し、TTFE、TFEE、FIPME、FIPFME、DTFEOM、DHFPOMは、下記化学構造式で示される化合物である。)
【化1】
【請求項2】
前記電解液が、フッ素原子を有しないエーテル化合物である非フッ素溶媒を1つ以上含む、
請求項
1に記載のリチウム2次電池。
【請求項3】
前記電解液が、フッ素原子を有しないエーテル化合物である非フッ素溶媒を2種類以上含む、
請求項1
又は2に記載のリチウム2次電池。
【請求項4】
前記フッ素原子を有しないエーテル化合物が、エーテル結合を2つ以上5つ以下で含む化合物である、請求項
2又は
3に記載のリチウム2次電池。
【請求項5】
前記電解液が、LiN(SO
2F)
2をリチウム塩として含む、
請求項1~
4のいずれか一項に記載のリチウム2次電池。
【請求項6】
前記フッ素
化エーテル混合溶媒の合計の含有量が、前記電解液の溶媒成分の総量に対して、20体積%以上である、
請求項1~
5のいずれか一項に記載のリチウム2次電池。
【請求項7】
前記フッ素
化エーテル混合溶媒の合計の含有量が、前記電解液の溶媒成分の総量に対して、50体積%以上である、
請求項
6に記載のリチウム2次電池。
【請求項8】
前記非フッ素溶媒の含有量が、前記電解液の溶媒成分の総量に対して、10体積%以上50体積%以下である、請求項
2~
4のいずれか1項に記載のリチウム2次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム2次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光又は風力等の自然エネルギーを電気エネルギーに変換する技術が注目されている。これに伴い、安全性が高く、かつ多くの電気エネルギーを蓄えることができる蓄電デバイスとして、様々な2次電池が開発されている。
【0003】
その中でも、正極及び負極の間をリチウムイオンが移動することで充放電を行うリチウム2次電池は、高電圧及び高エネルギー密度を示すことが知られている。典型的なリチウム2次電池として、正極及び負極にリチウム元素を保持することのできる活物質を有し、当該正極活物質及び負極活物質の間でのリチウムイオンの授受によって充放電をおこなうリチウムイオン2次電池(LIB)が知られている。
【0004】
また、高エネルギー密度化の実現を目的として、負極活物質として、炭素材料のようなリチウムイオンを挿入することができる材料に代えて、リチウム金属を用いるリチウム2次電池(リチウム金属電池、LMB)が開発されている。例えば、特許文献1には、負極としてリチウム金属をベースとする電極を用いる充電型電池が開示されている。
【0005】
また、更なる高エネルギー密度化や生産性の向上等を目的として、炭素材料やリチウム金属といった負極活物質を有しない負極を用いるリチウム2次電池が開発されている。例えば、特許文献2には、正極、負極、これらの間に介在された分離膜及び電解質を含むリチウム2次電池において、負極は、負極集電体上に金属粒子が形成され、充電によって正極から移動され、負極内の負極集電体上にリチウム金属を形成する、リチウム2次電池が開示されている。特許文献2は、そのようなリチウム2次電池は、リチウム金属の反応性による問題と、組み立ての過程で発生する問題点を解決し、性能及び寿命が向上されたリチウム2次電池を提供することができることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2006-500755号公報
【文献】特表2019-505971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らが、上記特許文献に記載のものを始めとする従来の電池を詳細に検討したところ、エネルギー密度、及びサイクル特性の少なくともいずれかが十分でないことがわかった。
【0008】
例えば、負極活物質を有する負極を備えるリチウム2次電池は、その負極活物質の占める体積や質量に起因して、エネルギー密度及び容量を十分高くすることが困難である。また、負極活物質を有しない負極を備えるアノードフリー型リチウム2次電池についても、従来型のものは、充放電を繰り返すことにより負極表面上にデンドライト状のリチウム金属が形成されやすく、短絡及び容量低下が生じやすいため、サイクル特性が十分でない。
【0009】
また、アノードフリー型のリチウム2次電池において、リチウム金属析出時の不均一な成長を抑制するために、電池に大きな物理的圧力をかけて負極とセパレータとの界面を高圧に保つ方法も開発されている。しかしながら、そのような高圧の印加には大きな機械的機構が必要であるため、電池全体としては、重量及び体積が大きくなり、エネルギー密度が低下する。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、エネルギー密度が高く、サイクル特性に優れる、リチウム2次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態に係るリチウム2次電池は、正極と、セパレータと、負極活物質を有しない負極と、電解液と、を備え、前記電解液が、化学式(A)-(D)で表されるエーテル化合物から選ばれるフッ素溶媒を1つ以上含む。
【化1】
(式中、
Rは、それぞれ独立して、H、F、又は完全に又は部分的にフッ素化され炭素数1-3のフッ素化アルキル基のいずれかを示し、
Xは、一価の基を示す。)
【0012】
そのようなリチウム2次電池は、負極活物質を有しない負極を備えることにより、リチウム金属が負極の表面に析出し、及び、その析出したリチウム金属が電解溶出することによって充放電が行われるため、エネルギー密度が高い。
【0013】
また、本発明者らは、電解液中に上記の化学式(A)-(D)で表されるフッ素溶媒を含有するリチウム2次電池は、負極表面に固体電解質界面層(以下、「SEI層」ともいう。)が形成されやすいことを見出した。SEI層はイオン伝導性を有するため、SEI層が形成された負極表面におけるリチウム析出反応の反応性は、負極表面の面方向について均一なものとなる。したがって、上記リチウム2次電池は、負極上にデンドライト状のリチウム金属が成長することが抑制され、サイクル特性に優れたものとなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、エネルギー密度が高く、サイクル特性に優れるリチウム2次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。
【
図2】本実施形態に係るリチウム2次電池の使用の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0017】
(リチウム2次電池)
図1は、本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。本実施形態のリチウム2次電池100は、正極120と、負極活物質を有しない負極130とを備える。また、リチウム2次電池100において、正極120の負極130に対向する面とは反対側に正極集電体110が配置され、正極120と負極130との間に、セパレータ140が配置されている。
以下、リチウム2次電池100の各構成について説明する。
【0018】
(負極)
負極130は、負極活物質を有しないものである。本明細書において、「負極活物質」とは、負極において電極反応、すなわち酸化反応及び還元反応を生じる物質である。具体的には、負極活物質としては、リチウム金属、及びリチウム元素(リチウムイオン又はリチウム金属)のホスト物質が挙げられる。リチウム元素のホスト物質とは、リチウムイオン又はリチウム金属を負極に保持するために設けられる物質を意味する。そのような保持の機構としては、特に限定されないが、例えば、インターカレーション、合金化、及び金属クラスターの吸蔵等が挙げられ、典型的には、インターカレーションである。
【0019】
本実施形態のリチウム2次電池は、電池の初期充電前に負極が負極活物質を有しないため、負極上にリチウム金属が析出し、及び、その析出したリチウム金属が電解溶出することによって充放電が行われる。したがって、本実施形態のリチウム2次電池は、負極活物質を有するリチウム2次電池と比較して、負極活物質が占める体積及び負極活物質の質量が削減され、電池全体の体積及び質量が小さくなるため、エネルギー密度が原理的に高い。
【0020】
本実施形態のリチウム2次電池は、電池の初期充電前に負極が負極活物質を有せず、電池の充電により負極上にリチウム金属が析出し、電池の放電によりその析出したリチウム金属が電解溶出する。したがって、本実施形態のリチウム2次電池は、電池の放電終了時にも、負極が負極活物質を実質的に有しない。したがって、本実施形態のリチウム2次電池において、負極は負極集電体として働く。
【0021】
本実施形態のリチウム2次電池をリチウムイオン電池(LIB)及びリチウム金属電池(LMB)と比較すると、以下の点で異なるものである。
リチウムイオン電池(LIB)において、負極はリチウム元素(リチウムイオン又はリチウム金属)のホスト物質を有し、電池の充電によりかかる物質にリチウム元素が充填され、ホスト物質がリチウム元素を放出することにより電池の放電が行われる。LIBは、負極がリチウム元素のホスト物質を有する点で、本実施形態のリチウム2次電池とは異なる。
リチウム金属電池(LMB)は、その表面にリチウム金属を有する電極か、あるいはリチウム金属単体を負極として用いて製造される。すなわち、LMBは、電池を組み立てた直後、すなわち電池の初期充電前に、負極が負極活物質であるリチウム金属を有する点で、本実施形態のリチウム2次電池とは異なる。LMBは、その製造に、可燃性及び反応性が高いリチウム金属を含む電極を用いるが、本実施形態のリチウム2次電池は、リチウム金属を有しない負極を用いるため、より安全性及び生産性に優れるものである。
【0022】
本明細書において、負極が「負極活物質を有しない」とは、負極が負極活物質を有しないか、実質的に有しないことを意味する。負極が負極活物質を実質的に有しないとは、負極における負極活物質の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であることを意味する。負極における負極活物質の含有量は、負極全体に対して、好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよい。負極が負極活物質を有せず、又は、負極における負極活物質の含有量が上記の範囲内にあることにより、リチウム2次電池100のエネルギー密度が高いものとなる。
【0023】
本明細書において、「リチウム金属が負極上に析出する」とは、負極の表面、又は負極の表面に形成された後述する固体電解質界面(SEI)層の表面の少なくとも1箇所に、リチウム金属が析出することを意味する。例えば、
図1において、リチウム金属は、負極130の表面(負極130とセパレータ140との界面)に析出する。
【0024】
本明細書において、電池が「初期充電前である」とは、電池が組み立てられてから第1回目の充電をするまでの状態を意味する。また、電池が「放電終了時である」とは、それ以上電池の電圧を低下させても放電が生じない状態を意味し、その際の電池の電圧は、例えば1.0V以上3.8V以下、好ましくは1.0V以上3.0V以下である。
【0025】
本明細書において、「負極活物質を有しない負極を備えるリチウム2次電池」とは、電池の初期充電前又は放電終了時に、負極が負極活物質を有しないことを意味する。したがって、「負極活物質を有しない負極」との句は、「電池の初期充電前又は放電終了時に負極活物質を有しない負極」、「電池の充電状態に依らずリチウム金属以外の負極活物質を有せず、かつ、初期充電前又は放電終了時においてリチウム金属を有しない負極」、又は「初期充電前又は放電終了時においてリチウム金属を有しない負極集電体」等と換言してもよい。あるいは、上記の句において、「初期充電前又は放電終了時」は、「初期充電前」との句に置き換えてもよい。また、「負極活物質を有しない負極を備えるリチウム2次電池」は、アノードフリーリチウム電池、ゼロアノードリチウム電池、又はアノードレスリチウム電池と換言してもよい。
【0026】
本実施形態の負極は、電池の充電状態によらず、リチウム金属以外の負極活物質の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であり、好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよい。
また、本実施形態の負極は、初期充電前又は放電終了時において、リチウム金属の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であり、好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよい。負極は、初期充電前及び放電終了時において、リチウム金属の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であると好ましい(その中でも好ましくは、リチウム金属の含有量が、負極全体に対して5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよい。)
【0027】
本実施形態のリチウム2次電池は、電池の電圧が1.0V以上3.5V以下である場合において、リチウム金属の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であってもよく(好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよい。);電池の電圧が1.0V以上3.0V以下である場合において、リチウム金属の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であってもよく(好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよい。);又は、電池の電圧が1.0V以上2.5V以下である場合において、リチウム金属の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であってもよい(好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよい。)。
【0028】
また、本実施形態のリチウム2次電池において、電池の電圧が4.2Vの状態において負極上に析出しているリチウム金属の質量M4.2に対する、電池の電圧が3.0Vの状態において負極上に析出しているリチウム金属の質量M3.0の比M3.0/M4.2は、好ましくは20%以下であり、より好ましくは15%以下であり、更に好ましくは10%以下である。比M3.0/M4.2は、8.0%以下であってもよく、5.0%以下であってもよく、3.0%以下であってもよく、1.0%以下であってもよい。
【0029】
負極活物質の例としては、リチウム金属及びリチウム金属を含む合金、炭素系物質、金属酸化物、並びにリチウムと合金化する金属及び該金属を含む合金等が挙げられる。上記炭素系物質としては、特に限定されないが、例えば、グラフェン、グラファイト、ハードカーボン、メソポーラスカーボン、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノホーン等が挙げられる。上記金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、酸化チタン系化合物、酸化スズ系化合物、及び酸化コバルト系化合物等が挙げられる。上記リチウムと合金化する金属としては、例えば、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、アルミニウム、及びガリウムが挙げられる。
【0030】
本実施形態の負極としては、負極活物質を有せず、集電体として用いることができるものであれば特に限定されないが、例えば、Cu、Ni、Ti、Fe、及び、その他Liと反応しない金属、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなるものが挙げられる。なお、負極にSUSを用いる場合、SUSの種類としては従来公知の種々のものを用いることができる。上記のような負極材料は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。なお、本明細書中、「Liと反応しない金属」とは、リチウム2次電池の動作条件においてリチウムイオン又はリチウム金属と反応して合金化することがない金属を意味する。
【0031】
本実施形態の負極は、好ましくはCu、Ni、Ti、Fe、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなるものであり、より好ましくは、Cu、Ni、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなるものである。負極は、更に好ましくは、Cu、Ni、これらの合金、又は、ステンレス鋼(SUS)である。このような負極を用いると、電池のエネルギー密度、及び生産性が一層優れたものとなる傾向にある。
【0032】
本実施形態の負極の平均厚さは、好ましくは4μm以上20μm以下であり、より好ましくは5μm以上18μm以下であり、更に、好ましくは6μm以上15μm以下である。そのような態様によれば、電池における負極の占める体積が減少するため、電池のエネルギー密度が一層向上する。
【0033】
(正極)
正極120としては、一般的にリチウム2次電池に用いられるものであれば特に限定されず、リチウム2次電池の用途によって、公知の材料を適宜選択することができる。電池の安定性及び出力電圧を向上させる観点から、正極120は、正極活物質を有することが好ましい。
【0034】
本明細書において、「正極活物質」とは、正極において電極反応、すなわち酸化反応及び還元反応を生じる物質である。具体的には、本実施形態の正極活物質としてはリチウム元素(典型的には、リチウムイオン)のホスト物質が挙げられる。
【0035】
そのような正極活物質としては、特に限定されないが、例えば、金属酸化物及び金属リン酸塩が挙げられる。金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、酸化コバルト系化合物、酸化マンガン系化合物、及び酸化ニッケル系化合物が挙げられる。上記金属リン酸塩としては、特に限定されないが、例えば、リン酸鉄系化合物、及びリン酸コバルト系化合物が挙げられる。典型的な正極活物質としては、LiCoO2、LiNixCoyMnzO(x+y+z=1)、LiNixCoyAlzO(x+y+z=1)、LiNixMnyO(x+y=1)、LiNiO2、LiMn2O4、LiFePO、LiCoPO、LiFeOF、LiNiOF、及びLiTiS2が挙げられる。上記のような正極活物質は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0036】
正極120は、上記の正極活物質以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、特に限定されないが、例えば、公知の導電助剤、バインダー、及びポリマー電解質が挙げられる。
【0037】
正極120における導電助剤としては、特に限定されないが、例えば、カーボンブラック、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)、カーボンナノファイバー(CF)、及びアセチレンブラック等が挙げられる。また、バインダーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリビニリデンフロライド、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエンゴム、アクリル樹脂、及びポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0038】
正極120における、正極活物質の含有量は、正極120全体に対して、例えば、50質量%以上100質量%以下であってもよい。導電助剤の含有量は、正極120全体に対して、例えば、0.5質量%30質量%以下あってもよい。バインダーの含有量は、正極120全体に対して、例えば、0.5質量%30質量%以下であってもよい。ポリマー電解質の含有量は、正極120全体に対して、例えば、0.5質量%30質量%以下であってもよい。
【0039】
(正極集電体)
正極120の片側には、正極集電体110が配置されている。正極集電体110は、電池においてリチウムイオンと反応しない導電体であれば特に限定されない。そのような正極集電体としては、例えば、アルミニウムが挙げられる。
【0040】
正極集電体110の平均厚さは、好ましくは4μm以上20μm以下であり、より好ましくは5μm以上18μm以下であり、更に、好ましくは6μm以上15μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池100における正極集電体110の占める体積が減少するため、リチウム2次電池100のエネルギー密度が一層向上する。
【0041】
(セパレータ)
セパレータ140は、正極120と負極130とを隔離することにより電池が短絡することを防ぎつつ、正極120と負極130との間の電荷キャリアとなるリチウムイオンのイオン伝導性を確保するための部材であり、電子導電性を有せず、リチウムイオンと反応しない材料により構成される。また、セパレータ140は電解液を保持する役割も担う。セパレータを構成する材料自体にイオン伝導性はないが、セパレータが電解液を保持することにより、電解液を通じてリチウムイオンが伝導する。セパレータ140は、上記役割を担う限りにおいて限定はないが、例えば、多孔質の有機膜、好ましくは多孔質のポリマー膜、例えば、ポリエチレン(PE)膜、ポリプロピレン(PP)膜、又はこれらの積層構造により構成される。
【0042】
セパレータ140は、セパレータ被覆層により被覆されていてもよい。セパレータ被覆層は、セパレータ140の両面を被覆していてもよく、片面のみを被覆していてもよい。セパレータ被覆層は、リチウムイオンと反応しない部材であれば特に限定されないが、セパレータ140と、セパレータ140に隣接する層とを強固に接着させることができるものであると好ましい。そのようなセパレータ被覆層としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロースの合材(SBR-CMC)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(Li-PAA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、及びアラミドのようなバインダーを含むものが挙げられる。セパレータ被覆層は、上記バインダーにシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、硝酸リチウム等の無機粒子を添加させてもよい。なお、セパレータ140は、セパレータ被覆層を有しないセパレータであってもよく、セパレータ被覆層を有するセパレータであってもよい。
【0043】
セパレータ140の平均厚さは、好ましくは30μm以下であり、より好ましくは25μm以下であり、更に好ましくは20μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池100におけるセパレータ140の占める体積が減少するため、リチウム2次電池100のエネルギー密度が一層向上する。また、セパレータ140の平均厚さは、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは7μm以上であり、更に好ましくは10μm以上である。そのような態様によれば、正極120と負極130とを一層確実に隔離することができ、電池が短絡することを一層抑止することができる。
【0044】
(電解液)
リチウム2次電池100は、電解液を有する。電解液は、電解質及び溶媒を含有し、イオン伝導性を有する溶液であり、リチウムイオンの導電経路として作用する。リチウム2次電池100において、電解液は、セパレータ140に浸潤させてもよく、正極集電体110と、正極120と、セパレータ140と、負極130との積層体と共に密閉容器に封入してもよい。電解液は、電解質及び溶媒を含有し、イオン伝導性を有する溶液であり、リチウムイオンの導電経路として作用する。このため、電解液を含む態様によれば、電池の内部抵抗が一層低下し、エネルギー密度、容量、及びサイクル特性が一層向上する。
【0045】
電解液を有するアノードフリー型のリチウム2次電池において、電解液中の溶媒等が分解されることにより、負極等の表面に固体電解質界面層(SEI層)が形成される。SEI層は、リチウム2次電池において、電解液中の成分が更に分解されること、並びにそれに起因する非可逆的なリチウムイオンの還元、及び気体の発生等を抑制する。また、SEI層はイオン伝導性を有するため、SEI層が形成された負極表面において、リチウム金属析出反応の反応性が負極表面の面方向について均一なものとなる。リチウム2次電池100において、特定のフッ素溶媒を用いると、負極表面にSEI層が形成されやすく、負極上にデンドライト状のリチウム金属が成長することが一層抑制され、その結果、サイクル特性が一層向上する傾向にある。
【0046】
なお、本明細書において、化合物が「溶媒として含まれる」とは、リチウム2次電池の使用環境において、当該化合物単体又は他の化合物との混合物が液体であればよく、さらには、電解質を溶解させて溶液相にある電解液を作製できるものであればよい。
【0047】
本実施形態では、電解液は、下記化学式(A)-(D)で表されるエーテル化合物から選ばれるフッ素溶媒を1つ以上含む。
【化2】
式中、
Rは、それぞれ独立して、H、F、又は完全に又は部分的にフッ素化され炭素数1-3のフッ素化アルキル基のいずれかを示し、
Xは、一価の基を示す。
【0048】
Xは、炭素数1-7のアルキル基、又は、完全にあるいは部分的にフッ素化された炭素数1-7のフッ素化アルキル基のいずれかであることが好ましい。
【0049】
化学式(A)-(D)で表されるフッ素化エーテル化合物により、負極表面にSEI層が形成されやすく、負極上にデンドライト状のリチウム金属が成長することが一層抑制され、その結果、サイクル特性が向上する理由は、必ずしも明らかではないが、以下の理由が考えられる。
【0050】
フッ素化エーテル化合物(溶媒)はLiイオンの析出反応と競争して還元されたり、Liと反応したりすることで負極表面に反応生成物として連続、不連続のSEI層を形成する。このSEI層は、Liイオンが溶媒和する炭化水素溶媒に対して斥力的に作用すると考えられ、炭化水素溶媒の連続、断続的な分解を抑制するとともに、Liイオンの析出時の離脱をスムーズにし、Li金属の溶出反応時の溶媒和ポテンシャルを緩和するものと推察される。
【0051】
また、驚くべきことに、上記フッ素化合物を含有するリチウム2次電池100に形成されるSEI層は、従来のリチウム2次電池に形成されるSEI層に比べて、イオン伝導性が高いことが見出された。これは、形成されるSEI層のフッ素含有率が高いものとなり、SEI層におけるリチウムイオンの移動経路が増加、ないし拡張するためであると推定される。ただし、その要因は上記に限られない。
【0052】
化学式(A)及び(B)の双方の構造を有するエーテル化合物としては、例えば、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(TTFE)、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジエトキシメタン、及び1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジエトキシプロパン等が挙げられる。上記のフッ化アルキル化合物の効果を有効かつ確実に奏する観点から、フッ素溶媒ABとしては、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテルが好ましい。
【0053】
化学式(A)で表されるエーテル化合物としては、例えば、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル(TFEE)、メチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、エチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、プロピル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、1H,1H,5H-パーフルオロペンチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、及び1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル等が挙げられる。上記のフッ化アルキル化合物の効果を有効かつ確実に奏する観点から、フッ素溶媒Aとしては、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、メチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、エチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、及び1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテルが好ましい。
【0054】
化学式(B)で表されるエーテル化合物としては、例えば、ジフルオロメチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、トリフルオロメチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、フルオロメチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、及びメチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル等が挙げられる。上記のフッ化アルキル化合物の効果を有効かつ確実に奏する観点から、フッ素溶媒Bとしては、ジフルオロメチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテルが好ましい。
【0055】
化学式(A)で表されるエーテル化合物又は化学式(B)で表されるエーテル化合物として好ましく用いることができるTTFE及びTFEEの化学式を以下に示す。
【化3】
【0056】
化学式(C)で表されるエーテル化合物としては、下記化学式(C1)~(C5)で示される化合物のいずれかを用いることができる。化学式(1)のフッ素化エーテル溶媒として、特に、分岐鎖を有するフッ素化エーテル溶媒が好ましく、例えば、下記化学式(C1)又は(C2)で示されるフッ素化エーテル溶媒を用いることが好ましい。
【化4】
【0057】
化学式(D)のフッ素化ジエーテル溶媒として、下記化学式(D1)~(D2)で示されるフッ素化ジエーテル溶媒のいずれかを用いることができる。
【化5】
【0058】
電解液は、その他のフッ素溶媒を含んでいてもよい。このようなフッ素溶媒として、メチルノナフルオロブチルエーテル、エチルノナフルオロブチルエーテル、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-4-トリフルオロメチルペンタン、メチル-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルエーテル、1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルメチルエーテル、エチル-1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルエーテル、及びテトラフロロエチルテトラフロロプロピルエーテル等が挙げられる。
【0059】
電解液は、少なくとも1種のフッ素溶媒を含有していればよい。電解液における電解質の溶解度を一層向上させる観点、及びSEI層が一層形成されやすくなる観点から、電解液は、2種以上のフッ素溶媒を含有することが好ましい。
【0060】
上述したフッ素溶媒の含有量(フッ素溶媒の総計)は、特に限定されないが、電解液の溶媒成分の総量に対して、20体積%以上、30体積%以上であり、好ましくは40体積%以上であり、より好ましくは50体積%以上であり、更に好ましくは60体積%以上であり、更により好ましくは70体積%以上である。フッ素溶媒の含有量が上記の範囲内にあると、SEI層が一層形成されやすくなるため、電池のサイクル特性が一層向上する傾向にある。フッ素溶媒の含有量の上限は特に限定されず、フッ素溶媒の含有量は、電解液の溶媒成分の総量に対して、100体積%以下であってもよく、95体積%以下であってもよく、90体積%以下であってもよく、80体積%以下であってもよい。
【0061】
2種のフッ素溶媒を組合わせて用いる場合、化学式(A)又は(B)で表されるエーテル化合物から選ばれるフッ素溶媒と、化学式(C)又は(D)で表されるエーテル化合物から選ばれるフッ素溶媒を好ましく組み合わせることができる。化学式(A)又は(B)で表されるエーテル化合物と、化学式(C)又は(D)で表されるエーテル化合物を組み合わせる場合の割合は、1:10~10:1であり、1:5~5:1、1:3~3:1、1:2~2:1、1:1であることが好ましい。
【0062】
電解液が、フッ素原子を有しないエーテル化合物である非フッ素溶媒を含むことが好ましい。非フッ素溶媒を含むことにより、電解液における電解質の溶解度が一層向上するため、電解液におけるイオン伝導性が向上し、その結果、リチウム2次電池のサイクル特性を向上できる。非フッ素溶媒として、フッ素原子を有しないエーテル化合物を2種類以上含んでいてもよい。フッ素原子を有しないエーテル化合物が、エーテル結合を2つ以上5つ以下で含むポリエーテル化合物であることがさらに好ましい。そのようなエーテル化合物としては、特に限定されないが、例えば、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,2-ジメトキシプロパン(DMP)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(TGM)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(DGM)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TetGM)、1,2-ジメトキシブタン、2,3-ジメトキシブタン、1,2-ジエトキシプロパン、1,2-ジエトキシブタン、2,3-ジエトキシブタン、ジエトキシエタン、ジメチルエーテル、アセトニトリル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、メチルアセテート、エチルアセテート、プロピルアセテート、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、リン酸トリメチル、及びリン酸トリエチル等が挙げられる。
【0063】
非フッ素溶媒の含有量(フッ素溶媒の総計)は、特に限定されないが、電解液の溶媒成分の総量に対して、5体積%以上であり、好ましくは10体積%以上であり、より好ましくは15体積%以上であり、更により好ましくは20体積%以上であり、30体積%以下であることが好ましい。
【0064】
電解液に含まれる電解質として、リチウム塩であれば特に限定されないが、LiI、LiCl、LiBr、LiF、LiBF4、LiPF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2CF3CF3)2、LiBF2(C2O4)、LiB(O2C2H4)2、LiB(O2C2H4)F2、LiB(OCOCF3)4、LiNO3、及びLi2SO4等が挙げられる。リチウム2次電池100のエネルギー密度、及びサイクル特性が一層優れる観点から、リチウム塩としては、LiN(SO2F)2、LiPF6及びLiBF2(C2O4)が好ましい。また、電解液がLiN(SO2F)2、LiPF6及びLiBF2(C2O4)のうち少なくとも1種以上を含有すると、負極表面におけるSEI層の形成及び成長が一層促進され、サイクル特性が一層優れたリチウム2次電池100を得ることができる傾向にある。なお、上記のリチウム塩は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
電解液は、リチウム塩以外の塩を電解質として更に含んでいてもよい。そのような塩としては、例えば、Na、K、Ca、及びMgの塩等が挙げられる。
【0065】
電解液におけるリチウム塩の濃度は特に限定されないが、好ましくは0.5M以上であり、より好ましくは0.7M以上であり、更に好ましくは0.9M以上であり、更により好ましくは1.0M以上である。リチウム塩の濃度が上記の範囲内にあることにより、SEI層が一層形成されやすくなり、また、内部抵抗が一層低くなる傾向にある。特に、フッ素化合物を溶媒として含むリチウム2次電池100は、電解液中におけるリチウム塩の濃度を高くすることができるため、サイクル特性及びレート性能を一層向上させることができる。リチウム塩の濃度の上限は特に限定されず、リチウム塩の濃度は10.0M以下であってもよく、5.0M以下であってもよく、2.0M以下であってもよい。
【0066】
本実施形態のリチウム2次電池は、液体以外の状態で電解液又は電解液の成分を含んでいてもよい。例えば、後述するセパレータを調製する際に電解液を添加することにより固体状又は半固体状(ゲル状)の部材中に電解液を含む電池とすることができる。また、電解液は電解質と換言することができる。
【0067】
なお、電解液にフッ素溶媒、及び非フッ素溶媒が含まれることは、従来公知の種々の方法により確かめることができる。そのような方法としては、例えば、NMR測定法、HPLC-MS等の質量分析法、及びIR測定法等が挙げられる。
【0068】
(リチウム2次電池の使用)
図2に本実施形態のリチウム2次電池の1つの使用態様を示す。リチウム2次電池200は、リチウム2次電池100において、正極集電体110及び負極130に、リチウム2次電池を外部回路に接続するための正極端子220及び負極端子210がそれぞれ接合されている。リチウム2次電池200は、負極端子210を外部回路の一端に、正極端子220を外部回路のもう一端に接続することにより充放電される。外部回路とは、例えば抵抗、電源、装置、又はポテンショスタット等である。
【0069】
正極端子220及び負極端子210の間に、負極端子210から外部回路を通り正極端子220へと電流が流れるような電圧を印加することでリチウム2次電池200が充電される。リチウム2次電池200を充電することにより、負極上にリチウム金属の析出が生じる。
【0070】
リチウム2次電池200は、電池の組み立て後の第1回目の充電(初期充電)により、負極130の表面(負極130とセパレータ140との界面)に固体電解質界面層(SEI層)が形成されていてもよい。形成されるSEI層としては、特に限定されないが、例えば、リチウムを含む無機化合物、又はリチウムを含む有機化合物等を含んでいてもよい。SEI層の典型的な平均厚さとしては、1nm以上10μm以下である。
【0071】
充電後のリチウム2次電池200について、正極端子220及び負極端子210を、必要に応じて外部回路を介して接続するとリチウム2次電池200が放電される。これにより、負極上に生じたリチウム金属の析出が電解溶出する。
【0072】
(リチウム2次電池の製造方法)
図1に示すようなリチウム2次電池100の製造方法としては、上述の構成を備えるリチウム2次電池を製造することができる方法であれば特に限定されないが、例えば以下のような方法が挙げられる。
【0073】
まず、正極120を公知の製造方法により、又は市販のものを購入することにより準備する。正極120は例えば以下のようにして製造する。上述した正極活物質、公知の導電助剤、及び公知のバインダーを混合し、正極混合物を得る。その配合比は、例えば、上記正極混合物全体に対して、正極活物質が50質量%以上99質量%以下、導電助剤が0.5質量%30質量%以下、バインダーが0.5質量%30質量%以下であってもよい。得られた正極混合物を、所定の厚さ(例えば、5μm以上1mm以下)を有する正極集電体としての金属箔(例えば、Al箔)の片面に塗布し、プレス成型する。得られた成型体を、打ち抜き加工により、所定のサイズに打ち抜き、正極集電体110上に形成された正極120を得る。
【0074】
次に、負極130は、上述した負極材料、例えば1μm以上1mm以下の金属箔(例えば、電解Cu箔)を、スルファミン酸を含む溶剤で洗浄することで準備することができる。
【0075】
次に、上述した構成を有するセパレータ140を準備する。セパレータ140は従来公知の方法で製造してもよく、市販のものを用いてもよい。電解液は、上記の溶媒に上記の電解質(典型的には、リチウム塩)を溶解させることにより調製すればよい。
【0076】
次に、以上のようにして得られた、正極120が形成された正極集電体110、セパレータ140、及び負極130を、この順に積層することで
図1に示されるような積層体を得る。以上のようにして得られた積層体を、電解液と共に密閉容器に封入することでリチウム2次電池100を得ることができる。密閉容器としては、特に限定されないが、例えば、ラミネートフィルムが挙げられる。
【0077】
なお、本明細書において、「エネルギー密度が高い」又は「高エネルギー密度である」とは、電池の総体積又は総質量当たりの容量が高いことを意味するが、好ましくは800Wh/L以上又は350Wh/kg以上であり、より好ましくは900Wh/L以上又は400Wh/kg以上であり、更に好ましくは1000Wh/L以上又は450Wh/kg以上である。
【0078】
また、本明細書において、「サイクル特性に優れる」とは、通常の使用において想定され得る回数の充放電サイクルの前後において、電池の容量の減少率が低いことを意味する。すなわち、初期充電の後の1回目の放電容量と、通常の使用において想定され得る回数の充放電サイクル後の放電容量とを比較した際に、充放電サイクル後の放電容量が、初期充電の後の1回目の放電容量に対してほとんど減少していないことを意味する。ここで、「通常の使用において想定され得る回数」とは、リチウム2次電池が用いられる用途にもよるが、例えば、20回、30回、50回、70回、100回、300回、又は500回である。また、「充放電サイクル後の放電容量が、初期充電の後の1回目の放電容量に対してほとんど減少していない」とは、リチウム2次電池が用いられる用途にもよるが、例えば、充放電サイクル後の放電容量が、初期充電の後の1回目の放電容量に対して、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、又は85%以上であることを意味する。
【0079】
上記本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその本実施形態のみに限定する趣旨ではなく、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な変形が可能である。例えば、正極集電体、正極、セパレータ、及び負極の積層体の間に追加の機能層を挿入してもよい。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0081】
[実施例]
以下のようにしてリチウム2次電池を作製した。
まず、厚さ8μmの電解Cu箔を、スルファミン酸を含む溶剤で洗浄した後、水洗した。続いて、電解Cu箔を、負極コーティング剤としての1H-benzotriazole(1H-ベンゾトリアゾール)を含有する溶液に浸漬した後、乾燥させ、更に水洗することにより、負極コーティング剤がコーティングされたCu箔を得た。得られたCu箔を所定の大きさ(45mm×45mm)に打ち抜くことにより負極を得た。
【0082】
セパレータとして、12μmのポリエチレン微多孔膜の両面に2μmのポリビニリデンフロライド(PVdF)がコーティングされた、厚さ16μm、所定の大きさ(50mm×50mm)のセパレータを準備した。
【0083】
正極は以下のようにして作製した。正極活物質としてLiNi0.85Co0.12Al0.03O2を96質量部、導電助剤としてカーボンブラックを2質量部、及びバインダーとしてポリビニリデンフロライド(PVdF)を2質量部混合したものを、正極集電体としての12μmのAl箔の片面に塗布し、プレス成型した。得られた成型体を、打ち抜き加工により、所定の大きさ(40mm×40mm)に打ち抜き、正極集電体に形成された正極を得た。
【0084】
フッ素溶媒と非フッ素溶媒の混合溶媒に、リチウム塩としてLiN(SO2F)2(LiFSI)を溶解させて、1.2M FSI溶液からなる電解液を調製した。フッ素溶媒と非フッ素溶媒の組合せのマトリックスを表1に示す。実施例では、フッ素化エーテル溶媒として、TTFE、TFEE、化学式(C1)で表されるエーテル化合物(FIPME)、化学式(C2)で表されるエーテル化合物(FIPFME)、化学式(D1)で表されるエーテル化合物(DEFEOM)、化学式(D2)で表されるエーテル化合物(DHFPOM)のうちの1種又は2種を使用した。非フッ素溶媒として、1,2-ジメトキシエタン(DME)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(TGM)、1,2-ジメトキシプロパン(DMP)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(DGM)、テトラエチレングリコールジメチルエーテル(TetGM)のいずれかを用いた。フッ素溶媒と非フッ素溶媒の混合比は、容量比で80:20とした。
【0085】
以上のようにして得られた正極が形成された正極集電体、セパレータ、及び負極を、この順に、正極がセパレータと対向するように積層することで積層体を得た。更に、正極集電体及び負極に、それぞれ100μmのAl端子及び100μmのNi端子を超音波溶接で接合した後、ラミネートの外装体に挿入した。次いで、上記のようにして調製した電解液を上記の外装体に注入した。外装体を封止することにより、リチウム2次電池を得た。
【0086】
[サイクル特性の評価]
以下のようにして、各実施例で作製したリチウム2次電池のサイクル特性を評価した。
【0087】
作製したリチウム2次電池(25℃、32mAhのセル)を、0.1Cの充電レートでCC充電した後、0.3Cの放電レートでCC放電するサイクルを、温度25℃の環境で繰り返した。各例について、その放電容量が初期容量の80%になったときのサイクル回数(表中、「サイクル回数」という。)を表1に示す。なお、表1では、混合溶媒を使用している場合には、混合溶媒中の溶媒の割合(容量比)を括弧書きで明記してある(例えば、50/50)。
【表1】
【0088】
表1では、フッ素溶媒6種と非フッ素溶媒4種の組合せによる24種類の電解液をそれぞれ備えるリチウム2次電池のサイクル特性をしている。例えば、フッ素溶媒DTFEOMと非フッ素溶媒DMEの混合溶媒を含む電解液を使用したリチウム2次電池のサイクル特性は162回である。
【0089】
次に、フッ素化エーテル溶媒と他のフッ素溶媒とを混合して用い、さらに、非フッ素溶媒についても混合溶媒を使用して電解液を調製し、これらの電解液を使用したリチウム2次電池のサイクル特性を上記と同様の方法で評価した。表2にサイクル特性の評価結果を示す。フッ素化エーテル溶媒と混合するフッ素溶媒として、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル(TTFE、フッ素溶媒ABに相当)、又は、TFEE(1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、フッ素溶媒Aに相当)を用いた。表2,3では、表1と同様に、混合溶媒中の溶媒の割合(容量比)を括弧書きで明記してある。
【0090】
【0091】
表2,3では、フッ素溶媒の混合溶媒10種と非フッ素溶媒の混合溶媒4種の組合せによる40種類の電解液をそれぞれ備えるリチウム2次電池のサイクル特性をしている。
【0092】
[比較例]
比較例1として、エチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)(30体積%/70体積%)の混合溶媒に、リチウム塩としてLiPF6を溶解させて、1M LiPF6溶液からなる電解液を使用した点を除いて、実施例と同様にリチウム2次電池を作製し、サイクル特性を評価した。
【0093】
比較例2として、1,2-ジメトキシエタン(DME)からなる溶媒に、リチウム塩としてLiN(SO2F)2(LiFSI)を溶解させて、5M LiFSI溶液からなる電解液を使用した点を除いて、実施例と同様にリチウム2次電池を作製し、サイクル特性を評価した。
【0094】
【0095】
表1~4に示すように、いずれの実施例も、比較例に比べてサイクル特性を向上できた。また、表2,3に示した、非フッ素溶媒の混合系及びフッ素化エーテル溶媒の混合系を用いることにより、さらなるサイクル特性の向上効果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明のリチウム2次電池は、エネルギー密度が高く、サイクル特性に優れるため、様々な用途に用いられる蓄電デバイスとして、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0097】
100,200,300…リチウム2次電池、110…正極集電体、120…正極、130…負極、140…セパレータ、210…負極端子、220…正極端子。