(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】リチウム2次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0569 20100101AFI20240814BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240814BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20240814BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20240814BHJP
H01M 4/66 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
H01M10/0569
H01M10/052
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M4/66 A
(21)【出願番号】P 2022561798
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(86)【国際出願番号】 JP2020042366
(87)【国際公開番号】W WO2022102072
(87)【国際公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】522369728
【氏名又は名称】TeraWatt Technology株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】新井 寿一
(72)【発明者】
【氏名】緒方 健
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/213743(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0569
H01M 10/052
H01M 4/134
H01M 4/38
H01M 4/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、セパレータと、負極活物質を有しない負極と、電解液と、を備え、
前記電解液が、式(1)~(4)で表される化合物のうち少なくともいずれかを溶媒として含有
し、
前記電解液が、下記式(1)~(4)で表される化合物以外のフッ素溶媒を更に含有する、
リチウム2次電池。
【化1】
(式中、R
1~R
4は、水素、ハロゲン、又は、フッ素置換若しくは部分置換若しくは無置換の炭化水素基を示し、nは1以上であり、Rは、フッ素置換又は部分置換又は無置換の炭化水素基を示す。)
【請求項2】
正極と、セパレータと、負極活物質を有しない負極と、電解液と、を備え、
前記電解液が、式(1)~(4)で表される化合物のうち少なくともいずれかを溶媒として含有
し、
エネルギー密度が350Wh/kg以上である、
リチウム2次電池。
【化2】
(式中、R
1~R
4は、水素、ハロゲン、又は、フッ素置換若しくは部分置換若しくは無置換の炭化水素基を示し、nは1以上であり、Rは、フッ素置換又は部分置換又は無置換の炭化水素基を示す。)
【請求項3】
前記式(1)~(4)で表される化合物の含有量が、前記電解液の溶媒成分の総量に対して、30体積%以上である、請求項1
又は2に記載のリチウム2次電池。
【請求項4】
前記電解液が、非フッ素溶媒を更に含有する、請求項1~3のいずれかに記載のリチウム2次電池。
【請求項5】
前記リチウム2次電池は、リチウム金属が前記負極の表面に析出し、及び、その析出したリチウムが電解溶出することによって充放電が行われるリチウム2次電池である、請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウム2次電池。
【請求項6】
前記負極は、Cu、Ni、Ti、Fe、及び、その他Liと反応しない金属、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなる電極である、請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウム2次電池。
【請求項7】
初期充電の前に、前記負極の表面にリチウム箔が形成されていない、請求項1~6のいずれか1項に記載のリチウム2次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム2次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光又は風力等の自然エネルギーを電気エネルギーに変換する技術が注目されている。これに伴い、安全性が高く、かつ多くの電気エネルギーを蓄えることができる蓄電デバイスとして、様々な2次電池が開発されている。
【0003】
その中でも、正極及び負極の間をリチウムイオンが移動することで充放電を行うリチウム2次電池は、高電圧及び高エネルギー密度を示すことが知られている。典型的なリチウム2次電池として、正極及び負極にリチウム元素を保持することのできる活物質を有し、正極活物質及び負極活物質の間でのリチウムイオンの授受によって充放電をおこなうリチウムイオン2次電池が知られている。
【0004】
また、高エネルギー密度化を目的として、負極活物質に、炭素系材料のようなリチウム元素を挿入することができる材料ではなく、リチウム金属を用いるリチウム2次電池が開発されている。例えば、特許文献1には、室温で少なくとも1Cのレートでの放電時に、1000Wh/Lを越える体積エネルギー密度及び/又は350Wh/kgを越える質量エネルギー密度を実現するために、極薄リチウム金属アノードを備えるリチウム2次電池が開示されている。特許文献1は、かかるリチウム2次電池において、負極活物質としてのリチウム金属上に更なるリチウム金属が直接析出することにより充電がされる旨を開示している。
【0005】
また、更なる高エネルギー密度化や生産性の向上等を目的として、負極活物質を用いないリチウム2次電池が開発されている。例えば、特許文献2には、正極、負極、これらの間に介在された分離膜及び電解質を含むリチウム2次電池において、前記負極は、負極集電体上に金属粒子が形成され、充電によって前記正極から移動され、負極内の負極集電体上にリチウム金属を形成する、リチウム2次電池が開示されている。特許文献2は、そのようなリチウム2次電池は、リチウム金属の反応性による問題と、組み立ての過程で発生する問題点を解決し、性能及び寿命が向上されたリチウム二次電池を提供することができることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2019-517722号公報
【文献】特表2019-537226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らが、上記特許文献に記載のものを始めとする従来の電池を詳細に検討したところ、エネルギー密度及びサイクル特性の少なくともいずれかが十分でないことがわかった。
【0008】
例えば、負極活物質を有する負極を備えるリチウム2次電池は、その負極活物質の占める体積や質量に起因して、エネルギー密度及び容量を十分高くすることが困難である。また、従来型の負極活物質を有しない負極を備えるアノードフリー型リチウム2次電池は、充放電を繰り返すことにより負極表面上にデンドライト状のリチウム金属が形成されやすく、短絡及び容量低下が生じやすいため、サイクル特性が十分でない。
【0009】
また、リチウム金属2次電池において、リチウム金属析出時の離散的な成長を抑制するために、電池に大きな物理的圧力をかけて負極とセパレータとの界面を高圧に保つ方法も開発されている。しかしながら、そのような高圧の印加には大きな機械的機構が必要であるため、電池全体としては、重量及び体積が大きくなり、エネルギー密度が低下する。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、エネルギー密度が高く、サイクル特性に優れるリチウム2次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態に係るリチウム2次電池は、正極と、セパレータと、負極活物質を有しない負極と、電解液と、を備え、前記電解液が、式(1)~(4)で表される化合物のうち少なくともいずれかを溶媒として含有する。
【化1】
(式中、R
1~R
4は、水素、ハロゲン、又は、フッ素置換若しくは部分置換若しくは無置換の炭化水素基を示し、nは1以上であり、Rは、フッ素置換又は部分置換又は無置換の炭化水素基を示す。)
【0012】
そのようなリチウム2次電池は、負極活物質を有しない負極を備えることにより、リチウム金属が負極の表面に析出し、及び、その析出したリチウム金属が電解溶出することによって充放電が行われるため、エネルギー密度が高い。
【0013】
また、本発明者らは、電解液中に上記の化合物(1)~(4)を溶媒として含有するリチウム2次電池は、負極表面に固体電解質界面層(以下、「SEI層」ともいう。)が形成されやすいことを見出した。SEI層はイオン伝導性を有するため、SEI層が形成された負極表面におけるリチウム析出反応の反応性は、負極表面の面方向について均一なものとなる。したがって、上記リチウム2次電池は、負極上にデンドライト状のリチウム金属が成長することが抑制され、サイクル特性に優れたものとなる。なお、化合物を溶媒として含有することによりSEI層が形成されやすくなる要因は、必ずしも明らかではないが、発明を実施するための形態において後述する要因が考えられる。
【0014】
上記電解液の溶媒成分の総量に対して、化合物の含有量は、好ましくは30体積%以上である。そのような態様によれば、SEI層が一層形成されやすくなるため、リチウム2次電池はサイクル特性に一層優れたものとなる。
【0015】
上記電解液は、フッ素溶媒を更に含有してもよい。そのような態様によれば、電解液における電解質の溶解度が一層向上するか、又はSEI層が一層形成されやすくなる傾向にあり、リチウム2次電池はサイクル特性に一層優れたものとなる。
【0016】
上記電解液は、非フッ素溶媒を更に含有してもよい。そのような態様によれば、電解液における電解質の溶解度が一層向上するか、又はSEI層が一層形成されやすくなる傾向にあり、リチウム2次電池はサイクル特性に一層優れたものとなる。
【0017】
上記リチウム2次電池は、好ましくは、リチウム金属が負極の表面に析出し、及び、その析出したリチウムが溶解することによって充放電が行われるリチウム2次電池である。そのような態様によれば、エネルギー密度が一層高まる。
【0018】
上記負極は、好ましくは、Cu、Ni、Ti、Fe、及び、その他Liと反応しない金属、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなる電極である。そのような態様によれば、製造の際に可燃性の高いリチウム金属を用いなくてよいため、一層安全性及び生産性に優れるものとなる。また、そのような負極は安定であるため、リチウム2次電池のサイクル特性は一層向上する。
【0019】
上記リチウム2次電池は、好ましくは、初期充電の前に、上記負極の表面にリチウム箔が形成されていない。そのような態様によれば、製造の際に可燃性の高いリチウム金属を用いなくてよいため、一層安全性及び生産性に優れるものとなる。
【0020】
上記リチウム2次電池は、好ましくは、エネルギー密度が350Wh/kg以上である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、エネルギー密度が高く、サイクル特性に優れるリチウム2次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施の形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るリチウム2次電池の使用の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付することとし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0024】
[本実施形態]
(リチウム2次電池)
図1は、本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。
図1に示すように、本実施形態のリチウム2次電池100は、正極120と、負極活物質を有しない負極140と、正極120と負極140との間に配置されているセパレータ130と、
図1には図示されていない電解液とを備える。正極120は、セパレータ130に対向する面とは反対側の面に正極集電体110を有する。
【0025】
(負極)
負極140は、負極活物質を有さず、すなわち、リチウム及びリチウムのホストとなる活物質を有しないものである。したがって、リチウム2次電池100は、負極活物質を有する負極を備えるリチウム2次電池と比較して、電池全体の体積及び質量が小さく、エネルギー密度が原理的に高い。ここで、リチウム2次電池100は、リチウム金属が負極140上に析出し、及び、その析出したリチウム金属が電解溶出することによって充放電が行われる。
【0026】
本実施形態において、「リチウム金属が負極上に析出する」とは、負極の表面、及び、負極の表面に形成された後述する固体電解質界面(SEI)層の表面の少なくとも1箇所に、リチウム金属が析出することを意味する。本実施形態のリチウム2次電池において、リチウム金属は、主として、SEI層の表面に析出すると考えられるが、析出する箇所はこれに限られない。
【0027】
本明細書において、「負極活物質」とは、リチウムイオン、又はリチウム金属を負極140に保持するための物質を意味し、リチウム元素(典型的にはリチウム金属)のホスト物質と換言してもよい。そのような保持の機構としては、特に限定されないが、例えば、インターカレーション、合金化、及び金属クラスターの吸蔵等が挙げられ、典型的には、インターカレーションである。
【0028】
そのような負極活物質としては、特に限定されないが、例えば、リチウム金属及びリチウム金属を含む合金、炭素系物質、金属酸化物、並びにリチウムと合金化する金属及び該金属を含む合金等が挙げられる。上記炭素系物質としては、特に限定されないが、例えば、グラフェン、グラファイト、ハードカーボン、メソポーラスカーボン、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノホーン等が挙げられる。上記金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、酸化チタン系化合物、酸化スズ系化合物、及び酸化コバルト系化合物等が挙げられる。上記リチウムと合金化する金属としては、例えば、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、アルミニウム、及びガリウムが挙げられる。
【0029】
本明細書において、負極が「負極活物質を有しない」とは、負極における負極活物質の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であることを意味する。負極における負極活物質の含有量は、負極全体に対して、好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよい。負極が負極活物質を有さず、又は、負極における負極活物質の含有量が上記の範囲内にあることにより、リチウム2次電池100のエネルギー密度が高いものとなる。
【0030】
より詳細には、負極140は、電池の充電状態によらず、リチウム金属以外の負極活物質の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であり、好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよい。また、負極140は、初期充電前、及び/又は放電終了時において、リチウム金属の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であり、好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよい。
【0031】
したがって、「負極活物質を有しない負極を備えるリチウム2次電池」は、アノードフリー2次電池、ゼロアノード2次電池、又はアノードレス2次電池と換言することができる。また、「負極活物質を有しない負極を備えるリチウム2次電池」は、「リチウム金属以外の負極活物質を有さず、初期充電前及び/又は放電終了時においてリチウム金属を有しない負極を備えるリチウム2次電池」や「初期充電前及び/又は放電終了時においてリチウム金属を有しない負極集電体を備えるリチウム2次電池」と換言してもよい。
【0032】
本明細書において、電池が「初期充電前である」とは、電池が組み立てられてから第1回目の充電をするまでの状態を意味する。また、電池が「放電終了時である」とは、電池の電圧が1.0V以上3.8V以下である状態を意味する。
【0033】
また、リチウム2次電池100において、電池の電圧が4.2Vの時の負極140上に析出しているリチウム金属の質量M4.2に対する、電池の電圧が3.0Vの時の負極140上に析出しているリチウム金属の質量M3.0の比M3.0/M4.2は、好ましくは20%以下であり、より好ましくは15%以下であり、更に好ましくは10%以下である。
【0034】
典型的なリチウム2次電池において、負極の容量(負極活物質の容量)は、正極の容量(正極活物質の容量)と同程度となるように設定されるが、リチウム2次電池100において、負極130はリチウム元素のホスト物質である負極活物質を有しないため、その容量を規定する必要がない。したがって、リチウム2次電池100は、負極による充電容量の制限をうけないため、原理的にエネルギー密度を高くすることができる。
【0035】
負極140としては、負極活物質を有さず、集電体として用いることができるものであれば特に限定されないが、例えば、Cu、Ni、Ti、Fe、及び、その他Liと反応しない金属、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなるものが挙げられる。なお、負極140にSUSを用いる場合、SUSの種類としては従来公知の種々のものを用いることができる。上記のような負極材料は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。なお、本明細書中、「Liと反応しない金属」とは、リチウム2次電池の動作条件においてリチウムイオン又はリチウム金属と反応して合金化することがない金属を意味する。
【0036】
負極140は、好ましくはCu、Ni、Ti、Fe、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなるものであり、より好ましくは、Cu、Ni、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなるものである。負極140は、更に好ましくは、Cu、Ni、これらの合金、又は、ステンレス鋼(SUS)である。このような負極を用いると、電池のエネルギー密度、及び生産性が一層優れたものとなる傾向にある。
【0037】
負極140は、リチウム金属を含有しない電極である。したがって、製造の際に可燃性及び反応性の高いリチウム金属を用いなくてよいため、リチウム2次電池100は、安全性、生産性、及びサイクル特性に優れるものである。
【0038】
負極140の平均厚さは、好ましくは4μm以上20μm以下であり、より好ましくは5μm以上18μm以下であり、更に、好ましくは6μm以上15μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池100における負極140の占める体積が減少するため、リチウム2次電池100のエネルギー密度が一層向上する。
【0039】
(電解液)
電解液は、電解質及び溶媒を含有し、イオン伝導性を有する溶液であり、リチウムイオンの導電経路として作用する。電解液は、セパレータ130に浸潤させてもよく、正極120とセパレータ130と負極140との積層体と共に密閉容器に封入してもよい。
【0040】
下記式(1)~(4)で表される化合物のうち少なくともいずれかを溶媒として含有する。
【化2】
(式中、R
1~R
4は、水素、ハロゲン、又は、フッ素置換若しくは部分置換若しくは無置換の炭化水素基を示し、nは1以上であり、Rは、フッ素置換又は部分置換又は無置換の炭化水素基を示す。)
【0041】
一般的に、電解液を有するアノードフリー型のリチウム2次電池において、電解液中の溶媒等が分解されることにより、負極等の表面にSEI層が形成される。SEI層は、リチウム2次電池において、電解液中の成分が更に分解されること、並びにそれに起因する非可逆的なリチウムイオンの還元、及び気体の発生等を抑制する。また、SEI層はイオン伝導性を有するため、SEI層が形成された負極表面において、リチウム析出反応の反応性が負極表面の面方向について均一なものとなる。したがって、SEI層の形成を促進することは、アノードフリー型のリチウム2次電池の性能を向上させるために、非常に重要である。本発明者らは、上記の化合物を溶媒として含有するリチウム2次電池において、負極表面にSEI層が形成されやすく、負極上にデンドライト状のリチウム金属が成長することが抑制され、その結果、サイクル特性が向上することを見出した。その要因は、必ずしも明らかではないが、以下の要因が考えられる。
【0042】
リチウム2次電池100の充電時、特に初期充電時において、リチウムイオンだけでなく、溶媒である上記化合物も負極上で還元されると考えられる。そして、化合物(1)~(4)中の下記式(A)で表される部分、及び下記式(B)で表される部分は、多数のフッ素に置換されていることに起因して、酸素原子の反応性が高く、式(A)で表される部分、及び式(B)で表される部分は、その一部、又は全部が脱離しやすいと推察される。その結果、リチウム2次電池100の充電時において、式(A)で表される部分、及び式(B)で表される部分の、一部、又は全部が負極表面に吸着し、当該吸着した部分を起点としてSEI層が生じるため、リチウム2次電池100はSEI層が形成されやすいと推察される。ただし、その要因は上記に限られない。
【化3】
【0043】
また、驚くべきことに、上記化合物(1)~(4)のいずれかを含有するリチウム2次電池100に形成されるSEI層は、従来のリチウム2次電池に形成されるSEI層に比べて、イオン伝導性が高いことが見出された。これは、上記式(A)で表される部分、及び上記式(B)で表される部分がフッ素により置換されていることにより、形成されるSEI層のフッ素含有率が高いものとなり、SEI層におけるリチウムイオンの移動経路が増加、ないし拡張するためであると考えられる。ただし、その要因はこれに限定されない。
【0044】
したがって、リチウム2次電池100は、SEI層が形成されやすいにも関わらず、電池の内部抵抗が低く、レート性能に優れる。すなわち、リチウム2次電池100は、サイクル特性及びレート性能に優れるものである。なお、「レート性能」とは、大電流にて充放電ができる性能を意味し、レート性能は、電池の内部抵抗が低い場合に優れることが知られている。
【0045】
なお、本明細書において、化合物が「溶媒として含まれる」とは、リチウム2次電池の使用環境において、当該化合物単体又は他の化合物との混合物が液体であればよく、さらには、電解質を溶解させて溶液相にある電解液を作製できるものであればよい。
【0046】
本発明形態において使用される化合物(1)~(4)は、1,1,2,2-テトラフルオロエチル基を骨格に有するエーテルである化合物(1)、1,1,2,2-テトラフルオロエチル基を骨格に有するエステルである化合物(2)、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル基を骨格に有するエーテルである化合物(3)、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル基を骨格に有するエステルである化合物(4)に分けられる。
【0047】
電解液における化合物(1)~(4)の含有量は、特に限定されないが、電解液の溶媒成分の総量に対して、好ましくは30体積%以上であり、より好ましくは40体積%以上であり、更に好ましくは50体積%以上であり、更に好ましくは60体積%以上であり、更により好ましくは70体積%以上である。化合物の含有量が上記の範囲内にあることにより、SEI層が一層形成されやすくなるため、リチウム2次電池100はサイクル特性に一層優れたものとなる。化合物の含有量の上限は特に限定されず、化合物の含有量は、100体積%以下であってもよく、95体積%以下であってもよく、90体積%以下であってもよく、80体積%以下であってもよい。
【0048】
電解液は、化合物(1)~(4)以外のフッ素溶媒を含んでいてもよい。フッ素溶媒とは、フッ素置換されているアルキル基を有する化合物からなる溶媒を意味する。フッ素溶媒としては、さらに好ましくは、式(A)又は(B)の構造を含むエーテル又はエステルであることが好ましい。このようなフッ素溶媒としては、例えば、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、メチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、エチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、プロピル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、1H,1H,5H-パーフルオロペンチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、及び1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、ジフルオロメチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、トリフルオロメチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、フルオロメチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、及びメチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、メチルノナフルオロブチルエーテル、エチルノナフルオロブチルエーテル、メチル-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルエーテル、1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルメチルエーテル、エチル-1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルエーテル、及びテトラフロロエチルテトラフロロプロピルエーテル等が挙げられる。
【0049】
電解液は、副溶媒として、非フッ素溶媒を更に含んでいてもよい。非フッ素溶媒とは、フッ素置換されているアルキル基を有しない化合物からなる溶媒を意味する。非フッ素溶媒としては、例えば、ジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、メチルアセテート、エチルアセテート、プロピルアセテート、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、リン酸トリメチル、及びリン酸トリエチル等が挙げられる。電解液における電解質の溶解度を一層向上させる観点から、副溶媒としては、エーテル化合物又はエステル化合物が好ましい。
【0050】
電解液の溶媒として、上記化合物(1)~(4)と副溶媒とを自由に組み合わせて用いることができ、化合物(1)~(4)は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いてもよい。電解液において、副溶媒は、含まれていても、含まれなくてもよい。
【0051】
電解液が副溶媒を含有する場合、副溶媒の含有量は、特に限定されないが、電解液の溶媒成分の総量に対して、好ましくは0体積%超であり、より好ましくは5体積%以上であり、更に好ましくは10体積%以上である。副溶媒の含有量が上記の範囲内にあることにより、電解液における電解質の溶解度が一層向上する傾向にある。副溶媒の含有量は、20体積%以上であってもよく、30体積%以上であってもよい。また、副溶媒の含有量は、60体積%以下であってもよく、50体積%以下であってもよく、40体積%以下であってもよく、30体積%以下であってもよい。
【0052】
電解液に含まれる電解質としては、塩であれば特に限定されないが、例えば、Li、Na、K、Ca、及びMgの塩等が挙げられる。電解質としては、好ましくはリチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、特に限定されないが、LiI、LiCl、LiBr、LiF、LiBF4、LiPF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2CF3CF3)2、LiBF2(C2O4)、LiB(O2C2H4)2、LiB(O2C2H4)F2、LiB(OCOCF3)4、LiNO3、及びLi2SO4等が挙げられる。リチウム2次電池100のエネルギー密度、及びサイクル特性が一層優れる観点から、リチウム塩としては、LiN(SO2F)2及びLiBF2(C2O4)が好ましい。また、電解液がLiN(SO2F)2及びLiBF2(C2O4)のうち少なくとも1種以上を含有すると、負極表面におけるSEI層の形成及び成長が一層促進され、サイクル特性が一層優れたリチウム2次電池100を得ることができる傾向にある。なお、上記のリチウム塩は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0053】
電解液における電解質の濃度は特に限定されないが、好ましくは0.5M以上であり、より好ましくは0.7M以上であり、更に好ましくは0.9M以上であり、更により好ましくは1.0M以上である。電解質の濃度が上記の範囲内にあることにより、SEI層が一層形成されやすくなり、また、内部抵抗が一層低くなる傾向にある。特に、化合物(1)~(4)を溶媒として含むリチウム2次電池100は、電解液中における電解質の濃度を高くすることができるため、サイクル特性及びレート性能を一層向上させることができる。電解質の濃度の上限は特に限定されず、電解質の濃度は10.0M以下でであってもよく、5.0M以下でであってもよく、2.0M以下でであってもよい。
【0054】
なお、電解液に化合物が含まれることは、従来公知の種々の方法により確かめることができる。そのような方法としては、例えば、NMR測定法、HPLC-MS等の質量分析法、及びIR測定法等が挙げられる。
【0055】
(固体電解質界面層)
リチウム2次電池100において、充電、特に初期充電により、負極140の表面に固体電解質界面層(SEI層)が形成されると推察されるが、リチウム2次電池100は、SEI層を有しなくてもよい。形成されるSEI層は、上記化合物(1)~(4)の上記式(A)で表される部分、及び上記式(B)で表される部分の少なくとも一方に由来する有機化合物を含むと推察されるが、例えば、その他の、リチウムを含有する無機化合物、及びリチウムを含有する有機化合物等を含んでいてもよい。
【0056】
リチウムを含有する有機化合物及びリチウムを含有する無機化合物としては、従来公知のSEI層に含まれるものであれば特に限定されない。限定することを意図するものではないが、リチウムを含有する有機化合物としては、炭酸アルキルリチウム、リチウムアルコキシド、及びリチウムアルキルエステルのような有機化合物が挙げられ、リチウムを含有する無機化合物としては、LiF、Li2CO3、Li2O、LiOH、リチウムホウ酸化合物、リチウムリン酸化合物、リチウム硫酸化合物、リチウム硝酸化合物、リチウム亜硝酸化合物、及びリチウム亜硫酸化合物等が挙げられる。
【0057】
リチウム2次電池100は、溶媒として化合物(1)~(4)を含有するため、SEI層の形成が促進される。SEI層はイオン伝導性を有するため、SEI層が形成された負極表面におけるリチウム析出反応の反応性は、負極表面の面方向について均一なものとなる。したがって、リチウム2次電池100は、負極上にデンドライト状のリチウム金属が成長することが抑制され、サイクル特性に優れたものとなる。
【0058】
SEI層の典型的な平均厚さとしては、1nm以上10μm以下である。リチウム2次電池100にSEI層が形成されている場合、電池の充電により析出するリチウム金属は負極140とSEI層との界面に析出してもよく、SEI層とセパレータとの界面に析出してもよい。
【0059】
(正極)
正極120としては、一般的にリチウム2次電池に用いられるものであれば、特に限定されないが、リチウム2次電池の用途によって、公知の材料を適宜選択することができる。リチウム2次電池100の安定性及び出力電圧を高める観点から、正極120は、好ましくは正極活物質を有する。
【0060】
本明細書において、「正極活物質」とは、電池においてリチウム元素(典型的には、リチウムイオン)を正極に保持するための物質を意味し、リチウム元素(典型的には、リチウムイオン)のホスト物質と換言してもよい。そのような正極活物質としては、特に限定されないが、例えば、金属酸化物及び金属リン酸塩が挙げられる。上記金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、酸化コバルト系化合物、酸化マンガン系化合物、及び酸化ニッケル系化合物等が挙げられる。上記金属リン酸塩としては、特に限定されないが、例えば、リン酸鉄系化合物、及びリン酸コバルト系化合物が挙げられる。典型的な正極活物質としては、LiCoO2、LiNixCoyMnzO2(x+y+z=1)、LiNixMnyO2(x+y=1)、LiNiO2、LiMn2O4、LiFePO4、LiCoPO4、FeF3、LiFeOF、LiNiOF、及びTiS2が挙げられる。
【0061】
上記のような正極活物質は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。正極120は、上記の正極活物質以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、特に限定されないが、例えば、公知の導電助剤、バインダー、固体ポリマー電解質、及び無機固体電解質が挙げられる。
【0062】
正極120における導電助剤としては、特に限定されないが、例えば、カーボンブラック、シングルウォールカーボンナノチューブ(SW-CNT)、マルチウォールカーボンナノチューブ(MW-CNT)、カーボンナノファイバー、及びアセチレンブラック等が挙げられる。また、バインダーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリビニリデンフロライド、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエンゴム、アクリル樹脂、及びポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0063】
正極120における、正極活物質の含有量は、正極120全体に対して、例えば、50質量%以上100質量%以下であってもよい。導電助剤の含有量は、正極120全体に対して、例えば、0.5質量%30質量%以下あってもよい。バインダーの含有量は、正極120全体に対して、例えば、0.5質量%30質量%以下であってもよい。固体ポリマー電解質、及び無機固体電解質の含有量の合計は、正極120全体に対して、例えば、0.5質量%30質量%以下であってもよい。
【0064】
(正極集電体)
正極120の片側には、正極集電体110が形成されている。正極集電体110は、電池においてリチウムイオンと反応しない導電体であれば特に限定されない。そのような正極集電体としては、例えば、アルミニウムが挙げられる。
【0065】
正極集電体110の平均厚さは、好ましくは4μm以上20μm以下であり、より好ましくは5μm以上18μm以下であり、更に、好ましくは6μm以上15μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池100における正極集電体110の占める体積が減少するため、リチウム2次電池100のエネルギー密度が一層向上する。
【0066】
(セパレータ)
セパレータ130は、正極120と負極140とを隔離することにより電池が短絡することを防ぎつつ、正極120と負極140との間の電荷キャリアとなるリチウムイオンのイオン伝導性を確保するための部材であり、電子導電性を有さず、リチウムイオンと反応しない材料により構成される。また、セパレータ130は電解液を保持する役割も担う。セパレータ130は、上記役割を担う限りにおいて限定はないが、例えば、多孔質のポリエチレン(PE)膜、ポリプロピレン(PP)膜、又はこれらの積層構造により構成される。
【0067】
セパレータ130は、セパレータ被覆層により被覆されていてもよい。セパレータ被覆層は、セパレータ130の両面を被覆していてもよく、片面のみを被覆していてもよい。セパレータ被覆層は、イオン伝導性を有し、リチウムイオンと反応しない部材であれば特に限定されないが、セパレータ130と、セパレータ130に隣接する層とを強固に接着させることができるものであると好ましい。そのようなセパレータ被覆層としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロースの合材(SBR-CMC)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(Li-PAA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、及びアラミドのようなバインダーを含むものが挙げられる。セパレータ被覆層は、上記バインダーにシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、硝酸リチウム等の無機粒子を添加させてもよい。なお、セパレータ130は、セパレータ被覆層を有するセパレータを包含するものである。
【0068】
セパレータ130の平均厚さは、好ましくは20μm以下であり、より好ましくは18μm以下であり、更に好ましくは15μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池100におけるセパレータ130の占める体積が減少するため、リチウム2次電池100のエネルギー密度が一層向上する。また、セパレータ130の平均厚さは、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは7μm以上であり、更に好ましくは10μm以上である。そのような態様によれば、正極120と負極140とを一層確実に隔離することができ、電池が短絡することを一層抑止することができる。
【0069】
(リチウム2次電池の使用)
図2に本実施形態のリチウム2次電池の1つの使用態様を示す。リチウム2次電池200は、正極集電体110及び負極140に、リチウム2次電池200を外部回路に接続するための正極端子210及び負極端子220がそれぞれ接合されている。リチウム2次電池200は、負極端子220を外部回路の一端に、正極端子210を外部回路のもう一端に接続することにより充放電される。
【0070】
正極端子210及び負極端子220の間に、負極端子220から外部回路を通り正極端子210へと電流が流れるような電圧を印加することでリチウム2次電池200が充電される。リチウム2次電池200は、初期充電により、負極140の表面(負極140とセパレータ130との界面)に固体電解質界面層(SEI層)が形成されると推察されるが、リチウム2次電池200はSEI層を有していなくてもよい。リチウム2次電池200を充電することにより、負極140とSEI層との界面、負極140とセパレータ130との界面、及び/又はSEI層とセパレータ130との界面にリチウム金属の析出が生じる。
【0071】
充電後のリチウム2次電池200について、正極端子210及び負極端子220を接続するとリチウム2次電池200が放電される。これにより、負極上に生じたリチウム金属の析出が電解溶出する。リチウム2次電池200にSEI層が形成されている場合、負極140とSEI層との界面、及び/又はSEI層とセパレータ130との界面の少なくともいずれかに生じたリチウム金属の析出が電解溶出する。
【0072】
(リチウム2次電池の製造方法)
図1に示すようなリチウム2次電池100の製造方法としては、上述の構成を備えるリチウム2次電池を製造することができる方法であれば特に限定されないが、例えば、以下のような方法が挙げられる。
【0073】
正極集電体110及び正極120は例えば以下のようにして製造する。上述した正極活物質、公知の導電助剤、及び公知のバインダーを混合し、正極混合物を得る。その配合比は、例えば、上記正極混合物全体に対して、正極活物質が50質量%以上99質量%以下、導電助剤が0.5質量%30質量%以下、バインダーが0.5質量%30質量%以下であってもよい。得られた正極混合物を、所定の厚さ(例えば、5μm以上1mm以下)を有する正極集電体としての金属箔(例えば、Al箔)の片面に塗布し、プレス成型する。得られる成型体を、打ち抜き加工により、所定のサイズに打ち抜き、正極集電体110及び正極120を得る。
【0074】
次に、上述した負極材料、例えば1μm以上1mm以下の金属箔(例えば、電解Cu箔)を、スルファミン酸を含む溶剤で洗浄した後に所定の大きさに打ち抜き、更に、エタノールで超音波洗浄した後、乾燥させることにより負極140を得る。
【0075】
次に、上述した構成を有するセパレータ130を準備する。セパレータ130は従来公知の方法で製造してもよく、市販のものを用いてもよい。
【0076】
次に、少なくとも1種の上記化合物(1)~(4)と、必要に応じて上記の副溶媒とを混合することにより得られる溶液を溶媒として、当該溶液にリチウム塩等の電解質を溶解させることにより、電解液を調製する。各溶媒、及び電解質の、種類、及び電解液における含有量又は濃度が上述した範囲内となるように、適宜、溶媒及び電解質の混合比を調整すればよい。
【0077】
以上のようにして得られる正極120が形成された正極集電体110、セパレータ130、及び負極140を、正極120とセパレータ130とが対向するように、この順に積層することで積層体を得る。得られた積層体を、電解液と共に密閉容器に封入することでリチウム2次電池100を得ることができる。密閉容器としては、特に限定されないが、例えば、ラミネートフィルムが挙げられる。
【0078】
[変形例]
上記本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその本実施形態のみに限定する趣旨ではなく、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な変形が可能である。
【0079】
例えば、本実施形態のリチウム2次電池100において、各構成要素を積層体とせず、距離をおいて固定し、その間に電解液を充填してもよい。
【0080】
また、例えば、リチウム2次電池100において、セパレータ130と負極140との間に、充放電の際に、リチウム金属が析出、及び/又は溶出することを補助する補助部材を配置してもよい。そのような補助部材としては、リチウム金属と合金化する金属を含有する部材が挙げられ、例えば、負極140の表面に形成される金属層であってもよい。そのような金属層としては、例えば、Si、Sn、Zn、Bi、Ag、In、Pb、Sb、及びAlからなる群より選択される少なくとも1種を含有する層が挙げられる。金属層の平均厚さとしては、例えば、5nm以上500nm以下であってもよい。
【0081】
リチウム2次電池100が上記のような補助部材を有する態様によれば、負極と負極上に析出するリチウム金属との親和性が一層向上するため、負極上に析出したリチウム金属が剥がれ落ちることが一層抑制され、サイクル特性が一層向上する傾向にある。なお、補助部材は、リチウム金属と合金化する金属を含有しうるが、その容量は正極の容量に比べて十分小さいものである。典型的なリチウムイオン2次電池において、負極が有する負極活物質の容量は、正極の容量と同程度となるように設定されるが、当該補助部材の容量は正極の容量に比べて十分小さいため、そのような補助部材を備えるリチウム2次電池100は、「負極活物質を有しない負極を備える」ということができる。したがって、補助部材の容量は、正極120の容量に対して十分小さく、例えば、20%以下、15%以下、10%以下、又は5%以下である。
【0082】
本実施形態のリチウム2次電池は、初期充電の前に、セパレータと、負極との間にリチウム箔が形成されていないものである。本実施形態のリチウム2次電池は、初期充電の前に、セパレータと、負極との間にリチウム箔が形成されていない場合、製造の際に可能性の高いリチウム金属を用いなくてよいため、一層安全性及び生産性に優れるリチウム2次電池となる。
【0083】
リチウム2次電池100は、正極集電体及び/又は負極に、外部回路へと接続するための端子を取り付けてもよい。例えば10μm以上1mm以下の金属端子(例えば、Al、Ni等)を、正極集電体及び負極の片方又は両方にそれぞれ接合してもよい。接合方法としては、従来公知の方法を用いればよく、例えば超音波溶接を用いてもよい。
【0084】
なお、本明細書において、「エネルギー密度が高い」又は「高エネルギー密度である」とは、電池の総体積又は総質量当たりの容量が高いことを意味するが、好ましくは800Wh/L以上又は350Wh/kg以上であり、より好ましくは900Wh/L以上又は400Wh/kg以上であり、更に好ましくは1000Wh/L以上又は450Wh/kg以上である。
【0085】
また、本明細書において、「サイクル特性に優れる」とは、通常の使用において想定され得る回数の充放電サイクルの前後において、電池の容量の減少率が低いことを意味する。すなわち、初期充放電の後の1回目の放電容量と、通常の使用において想定され得る回数の充放電サイクル後の容量とを比較した際に、充放電サイクル後の容量が、初期充放電の後の1回目の放電容量に対してほとんど減少していないことを意味する。ここで、「通常の使用において想定され得る回数」とは、リチウム2次電池が用いられる用途にもよるが、例えば、30回、50回、70回、100回、300回、又は500回である。また、「充放電サイクル後の容量が、初期充放電の後の1回目の放電容量に対してほとんど減少していない」とは、リチウム2次電池が用いられる用途にもよるが、例えば、充放電サイクル後の容量が、初期充放電の後の1回目の放電容量に対して、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、又は85%以上であることを意味する。
【実施例】
【0086】
以下、本発明の実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0087】
[実施例1]
以下のようにして、リチウム2次電池を作製した。
まず、10μmの電解Cu箔を、スルファミン酸を含む溶剤で洗浄した後に所定の大きさ(45mm×45mm)に打ち抜き、更に、エタノールで超音波洗浄した後、乾燥させた。その後、Cu箔を脱脂し、純水で洗浄した後、Sbイオンを含むめっき浴に浸漬した。Cu箔を水平に静置したままCu箔表面を電解めっきすることにより、Cu箔の表面に金属層として100nm厚のSbをめっきした。Cu箔をめっき浴から取り出し、エタノールで洗浄、純水で洗浄した。Sb薄膜がコーティングされたCu箔を負極として用いた。
【0088】
次に、正極を作製した。正極活物質としてLiNi0.85Co0.12Al0.03O2を96質量部、導電助剤としてカーボンブラックを2質量部、及びバインダーとしてポリビニリデンフロライド(PVDF)を2質量部混合したものを、12μmのAl箔の片面に塗布し、プレス成型した。得られた成型体を、打ち抜き加工により、所定の大きさ(40mm×40mm)に打ち抜き、正極を得た。
【0089】
セパレータとして、12μmのポリエチレン微多孔膜の両面に2μmのポリビニリデンフロライド(PVDF)がコーティングされた所定の大きさ(50mm×50mm)のセパレータを準備した。
【0090】
電解液を以下のようにして調製した。実施例1では、第1溶媒(主溶媒)として、1,1,2,2-テトラフルオロエトキシメトキシエタンのみを使用した。この溶媒に、電解質としてモル濃度が1.25MとなるようにLiN(SO2F)2を溶解させることにより電解液を得た。
【0091】
以上のようにして得られた正極が形成された正極集電体、セパレータ、及び負極を、この順に、正極がセパレータと対向するように積層することで積層体を得た。更に、正極集電体及び負極に、それぞれ100μmのAl端子及び100μmのNi端子を超音波溶接で接合した後、ラミネートの外装体に挿入した。次いで、上記のようにして得られた電解液を上記の外装体に注入した。外装体を封止することにより、リチウム2次電池を得た。
【0092】
[実施例2~24]
表1に記載の溶媒及び電解質(リチウム塩)を用いて電解液を調製したこと以外は、実施例1と同様にしてリチウム2次電池を得た。
【0093】
なお、表1~14において、「TTFE」は1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテルを、「TFEE」は1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテルを、「DME」はジメトキシエタンを、「TGM」はトリエチレングリコールジメチルエーテルを、「EA」はエチルアセテートを表す。
【0094】
また、表1中、第1溶媒(主溶媒)は、上記した化合物(1)~(4)に該当する化合物であり、第2溶媒は、副溶媒としての非フッ素溶媒であり、第3溶媒は副溶媒としての化合物(1)~(4)以外のフッ素溶媒である。また、表中、副溶媒については、その種類と共に、含有量が体積%で記載され、各リチウム塩は、その種類と共に、濃度が体積モル濃度(M)で記載されている。なお、主溶媒である第1溶媒の含有量は表中に記載していないが、第1溶媒の含有量は、100%から第2溶媒及び第3溶媒の含有量を差し引いた含有量(残部)に相当する。
【0095】
[比較例1~2]
表1に記載の溶媒を用いて電解液を調製したこと以外は、実施例1と同様にしてリチウム2次電池を得た。なお、比較例1及び2は、化合物(1)~(4)を含有しない溶媒を使用したものである。
【0096】
以下のようにして、各実施例及び比較例で作成したリチウム2次電池の特性を評価した。
【0097】
[容量及びサイクル特性]
作製したリチウム2次電池を、3.2mAで、電圧が4.2VになるまでCC充電した(初期充電)後、3.2mAで、電圧が3.0VになるまでCC放電した(以下、「初期放電」という。)。次いで、13.6mAで、電圧が4.2VになるまでCC充電した後、20.4mAで、電圧が3.0VになるまでCC放電するサイクルを、温度25℃の環境で繰り返した。各例について、初期放電から求められた容量(以下、「初期容量」という。)を表1~14に示す。また、各例について、その放電容量が初期容量の80%になったときのサイクル回数(表中、「サイクル」という。)を表1に示す。
【0098】
[直流抵抗(DCR)]
作製したリチウム2次電池を、5.0mAで4.2VまでCC充電した後、30mA、60mA、及び90mAでそれぞれ30秒間CC放電した。なお、この時、下限電圧は2.5Vに設定したが、これは設置値で実際はここまでは到達しない。また、各放電と放電の間は、5.0mAで再度4.2VまでCC充電し、充電完了後に次のCC放電を実施した。以上のようにして得られる電流値Iと電圧降下Vをプロットし、各点を直線近似することにより得られるI-V特性の傾きから直流抵抗(DCR)(単位:Ω)を求めた。
【0099】
【0100】
表1中、「Non」は、該当する成分を有しないことを意味する。
【0101】
表1から、式(1)~(4)で表される化合物を溶媒として含有する実施例1~24は、そうでない比較例1及び2と比較して、サイクル数が非常に高く、サイクル特性に優れることが分かった。また、実施例1~24は、非常に高いサイクル特性から予測される直流抵抗値よりも低い直流抵抗値を有しており、比較例1及び2の直流抵抗値と同等の直流抵抗値を有することが分かった。このことから、実施例1~24は、サイクル特性に優れると共に、レート性能にも優れることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明のリチウム2次電池は、エネルギー密度が高く、サイクル特性に優れるため、様々な用途に用いられる蓄電デバイスとして、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0103】
100,200…リチウム2次電池、110…正極集電体、120…正極、130…セパレータ、140…負極、210…正極端子、220…負極端子。