(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】防蟻用硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
E04B 1/72 20060101AFI20240814BHJP
A01M 29/34 20110101ALI20240814BHJP
【FI】
E04B1/72
A01M29/34
(21)【出願番号】P 2023142555
(22)【出願日】2023-09-01
【審査請求日】2023-09-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390039295
【氏名又は名称】株式会社コシイプレザービング
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 涼平
(72)【発明者】
【氏名】奥埜 佑馬
(72)【発明者】
【氏名】久保 友治
(72)【発明者】
【氏名】辻本 吉寛
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-176634(JP,A)
【文献】特開2015-231969(JP,A)
【文献】特開2008-121200(JP,A)
【文献】特開2006-288323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62-1/99
A01M 29/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機物粒子をバインダー樹脂で固めて構成され、
前記無機物粒子のうち、粒径が0.6mm以上、4.75mm以下のものが60質量%以上含まれ、
山中式土壌硬度計により測定される硬度が40kg/cm
2以上、150kg/cm
2以下である防蟻用硬化性組成物。
【請求項2】
無機物粒子をバインダー樹脂で固めて構成され、
前記無機物粒子のうち、粒径0.6mm未満のものが40質量%以上含まれ、
山中式土壌硬度計により測定される硬度が40kg/cm
2
以上、150kg/cm
2
以下である防蟻用硬化性組成物。
【請求項3】
前記無機物粒子は、転炉スラグである請求項
1又は2に記載の防蟻用硬化性組成物。
【請求項4】
前記バインダー樹脂は、アクリル系樹脂である請求項
1又は2に記載の防蟻用硬化性組成物。
【請求項5】
前記アクリル系樹脂は、アクリル酸エステルスチレン共重合樹脂である
請求項4に記載の防蟻用硬化性組成物。
【請求項6】
左右方向をX、前後方向をY、上下方向をZとしたとき、X方向長さが50mm、Y方向長さが20mm、Z方向長さが32mmで、かつ、上面と下面それぞれの前記X方向の中央部にて前記Y方向に貫通する幅及び深さ1mmのスリットが形成された防蟻用硬化性組成物の試験体に、前記Z方向に荷重を掛けるせん断試験を行った場合に、前記Z方向の変位8mmから12mmにおける単位変位(mm)当たりの荷重変動率A(%/mm)が、-5以上で15以下の範囲にある請求項
1又は2に記載の防蟻用硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の躯体や構造体の表面に塗布する防蟻手段として好適な防蟻用硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
白蟻は、建物の外部から地中を建物内地下に向けて進み、コンクリート間の隙間や割れ目を縫って建物内部に侵入し、支柱となる木材、断熱材等の建築物を食い荒らすため、種々の防蟻手段が開発されている。
【0003】
一般的な防蟻手段としては、特許文献1に示されるように、薬剤である防蟻剤の塗布や散布が挙げられる。この場合、建築時から経年後における居住中の再防蟻処理時には、防蟻剤の匂い等の問題がある。
【0004】
特許文献2に示されるように、防蟻剤に代えてヒバ油、木酢液、或いは液状の炭など、自然素材による防蟻処理も試されてきている。ヒバ油は、シロアリに強い樹種である青森ヒバから抽出したものであり、また、木酢液は炭を作る時にできる液であって、いずれも虫を寄せ付け難い効果を有している。しかしながら、これらの自然素材は、効果が限定的であったり、大量に生産される化学物質である防蟻剤に比べて価格が高いという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-331367号公報
【文献】特開2019-98724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、鋭意研究により、コスト高を招くことがないようにしながら、薬剤による問題も軽減又は解消されるように、新たな防蟻用硬化性組成物を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]本発明は、防蟻用硬化性組成物において、無機物粒子をバインダー樹脂で固めて構成されることを特徴とする。
【0008】
[2]第2の本発明は、[1]に記載の防蟻用硬化性組成物において、山中式土壌硬度計により測定される硬度が40kg/cm2以上であることを特徴とする。
【0009】
[3]第3の本発明は、[1]または[2]に記載の防蟻用硬化性組成物において、山中式土壌硬度計により測定された硬度が150kg/cm2以下であることを特徴とする。
【0010】
[4]第4の本発明は、[1]~[3]のいずれかに記載の防蟻用硬化性組成物において、前記無機物粒子のうち、粒径4.75mm以下のものが50質量%以上含まれていることを特徴とする。
【0011】
[5]第5の本発明は、[1]~[4]のいずれかに記載の防蟻用硬化性組成物において、前記無機物粒子100重量部に対して、前記バインダー樹脂が15重量部以上、55重量部以下となる範囲で配合されていることを特徴とする。
【0012】
[6]第6の本発明は、[1]~[5]のいずれかに記載の防蟻用硬化性組成物において、前記無機物粒子は、転炉スラグであることを特徴とする。
【0013】
[7]第7の本発明は、[1]~[6]のいずれかに記載の防蟻用硬化性組成物において、前記バインダー樹脂は、アクリル系樹脂であることを特徴とする。
【0014】
[8]第8の本発明は、[7]に記載の防蟻用硬化性組成物において、前記アクリル系樹脂は、アクリル酸エステルスチレン共重合樹脂であることを特徴とする。
【0015】
[9]第9の本発明は、[1]~[8]のいずれかに記載の防蟻用硬化性組成物において、左右方向をX、前後方向をY、上下方向をZとしたとき、X方向長さが50mm、Y方向長さが20mm、Z方向長さが32mmで、かつ、上面と下面それぞれの前記X方向の中央部にて前記Y方向に貫通する幅及び深さ1mmのスリットが形成された防蟻用硬化性組成物の試験体に、前記Z方向に荷重を掛けるせん断試験を行った場合に、前記Z方向の変位8mmから12mmにおける単位変位(mm)当たりの荷重変動率A(%/mm)が、-5以上で15以下の範囲にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の防蟻用硬化性組成物によれば、無機物粒子がバインダー樹脂で固められることで防蟻層が形成され、当該防蟻層においては、隣り合う無機物粒子がバインダー樹脂により固められて一体化されるようになる。
【0017】
つまり、隣り合う無機物粒子どうしの間の狭い隙間がバインダー樹脂によって維持されるので、白蟻は隣り合う無機物粒子どうしの狭い隙間を白蟻は通過することができなくなる。このように、無機物粒子バリアとバインダー樹脂の密着性とが合わさって、白蟻の侵入を物理的に防止することができる。
【0018】
その結果、例えば薬剤を使わずに防蟻可能であり、無機物粒子やバインダー樹脂は量産可能であるから、薬剤による問題が解消又は軽減され、かつ、コスト高を招くこともないようになり、改善された新たな防蟻用硬化性組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明による防蟻用硬化性組成物により白蟻が侵入できない様を示す模式図
【
図5】せん断試験による試験結果の一例を示す「荷重L-変位H」グラフ
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る防蟻用硬化性組成物に関して、図面を参照しつつ具体的に説明するが、本発明はもとより図示例に限定される訳ではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0021】
[防蟻用硬化性組成物]
本発明による防蟻用硬化性組成物は、無機物粒子をバインダー樹脂で固めて構成されるものである。1つの実施形態としては、無機物粒子の一例である転炉スラグとバインダー樹脂の一例であるアクリル酸エステルスチレン共重合樹脂とを混ぜ合わせることで防蟻層としての防蟻用硬化性組成物を開発した。
【0022】
図1に示されるように、転炉スラグ1の粒子バリアとアクリル酸エステルスチレン共重合樹脂2の密着性とが合わさって、白蟻tの侵入を物理的に防ぐことが可能な防蟻用硬化性組成物Cである。加えて、バインダー樹脂2の粘性が高いことで防蟻層に靭性が付与されるので、力が掛かっても破壊され難くなる。
【0023】
本発明による防蟻用硬化性組成物により形成される硬化物は、外力を掛けてもひび割れることなく、防蟻剤を使用しなくても建築物の種々の構造に長期かつ安定に防蟻性を付与し得る。そして、本発明による防蟻用硬化性組成物は、新築時の建築物のみならず、経年した建築物の再施工にも好適に用いることが可能である。
【0024】
[無機物粒子]
防蟻用硬化性組成物を構成する無機物粒子の一例は転炉スラグ(以下、単に「スラグ」と呼ぶ)であって、製鉄所で銑鉄から鋼を製造するための転炉で副生される資材であり、転炉さいとも呼ばれている。原料は全て天然物(鉄鉱石・石灰岩・コークス)で、1600℃の高温で生産されるので、カドミウムやヒ素などは含まれていないか、含まれるにしてもごく微量である。スラグは、水分と接触することで硬化する水硬性であり、防蟻できる範囲を拡張させることができる。
【0025】
無機物とは、二酸化炭素など簡単な炭素化合物と、水や金属などのように炭素以外の元素で構成されている無機化合物であって、有機物以外のすべての物質である。スラグは、鉄鋼スラグの1つであり、鉄鋼スラグは、炉の種類や冷却方法の違いにより、高炉徐冷スラグや高炉水砕スラグなどの高炉スラグ、転炉スラグや電気炉スラグなどの製鋼スラグを含んでおり、これらの各スラグも無機物粒子である。スラグは、1種又は2種以上で使用してもよい。
【0026】
防蟻用硬化性組成物に用いる無機物粒子としてのスラグは、粒径が4.75mm以下のものが50質量%以上含まれているものが好ましく、60質量%以上含まれているものがより好ましい。より好適な例として、スラグの粒径が0.6mm以上、4.75mm以下のものが60質量%以上含まれているものがある。その理由は、粒径が4.75mmより大きくなると、粒子どうしの間の隙間が大きくなって白蟻が通過できてしまうおそれがあるとともに、0.6mmよりも小さいと、白蟻が運び出してしまうおそれが生じるからである。
【0027】
例えば、スラグのうち、粒径が0.6mm未満のものを20%まで含み、残りは粒径0.6~4.75mmのものを60質量%以上含む構成である。他の例としては、粒径が1.18mm~4.75mmのものが50質量%以上含まれているもの、粒径が0.6mm~2.36mmのものが50質量%以上含まれているもの、或いは、粒径が1.18mm~2.36mmのものが40質量%以上含まれているものでもよい。さらに、粒径が4.75mm以下のものが70質量%以上、或いは80質量%以上含まれるものでもよい。
【0028】
別例として、防蟻用硬化性組成物に用いる無機物粒子としてのスラグは、粒径0.6mm未満のものが40質量%以上含まれているものでもよい。粒径が小さく、粒子どうしの間の隙間が小さくて白蟻が通過できないとともに、適度な硬度及びじん性を有するバインダー樹脂で固められることにより、白蟻が運び出すおそれも回避されるようになる。この、粒径が0.6mm未満の無機物粒子、を「微粉」と呼んでもよい。無機物粒子のうち、粒径が0.6mm未満のものが50~100質量%含まれているものでもよいし、60~95又は100質量%含まれているものは好都合であり、70~95又は100質量%含まれていればさらに好都合である。
【0029】
[バインダー樹脂]
溶媒を混ぜたりすることで硬化液として機能することになるバインダー樹脂としては、アクリル系樹脂が挙げられ、好ましくはアクリル酸エステルスチレン共重合樹脂が用いられる。アクリル系樹脂は合成樹脂の中で極めて高い耐候性と透明性を持つ素材であり、基本的な骨格はアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルの重合体である。
【0030】
アクリル系樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリロニトリル、ポリアクリルアミド、アクリルブタジエン、その他のものが挙げられる。
【0031】
[配合比について]
防蟻用硬化性組成物Cにおけるスラグなどの無機物粒子とバインダー樹脂との配合比について、無機物粒子100重量部に対して、バインダー樹脂が15重量部以上、55重量部以下となる範囲で配合されたものが好ましい。その理由は、バインダー樹脂が15重量部より少ないと、バインダー樹脂による無機物粒子の固まる力が弱くなって無機物粒子どうしの隙間が拡がり易くなり、隙間を白蟻が通過できてしまうおそれが生じるとともに、55重量部よりも多いと、無機物粒子どうしの間にバインダー樹脂が多く入って隙間が拡がり、その隙間が拡がった箇所のバインダー樹脂を白蟻が食い破ってしまうおそれが生じるからである。無機物粒子100重量部に対して、バインダー樹脂が15重量部以上、45重量部以下となる範囲であれば好都合であり、バインダー樹脂が17重量部以上、42重量部以下の範囲であればより好都合である。
【0032】
スラグのうち、粒径が0.6mm以上、4.75mm以下のものが60質量%以上含まれているスラグ(以下、スラグA)を用いる防蟻用硬化性組成物Cにおけるスラグとバインダー樹脂との配合比については、種々の比率が考えられるが、後述する各種の試験においては、スラグA100重量部に対してバインダー樹脂10~60重量部の割合で行われた。なお、これらの条件における好適な配合比は、スラグA100重量部に対してバインダー樹脂が、15重量部以上、55重量部以下、の中間領域である30~40重量部であると考えられる。
【0033】
スラグのうち、粒径0.6mm未満のものが40質量%以上含まれているスラグ(以下、スラグB)を用いる防蟻用硬化性組成物Cにおけるスラグとバインダー樹脂との配合比については、後述する各種の試験においては、スラグB100重量部に対してバインダー樹脂20~60重量部の割合で行われた。
【0034】
[性能を評価するための各種試験について]
本発明による防蟻用硬化性組成物の性能を測る試験として、防蟻試験、硬度測定試験、及びせん断試験が行われた。次に、それぞれの試験の内容について説明する。なお、各試験の試験結果については後述する。
【0035】
[防蟻試験]
図2に示されるように、中空の第1ケース3と、中空の第2ケース4と、第1ケース3と第2ケース4とを連通接続する連結パイプ5と、を有してなる防蟻試験装置Bが作製されて用意されている。第1ケース3は、透明などの内部を透視可能な円筒状で合成樹脂製のものに形成されており、底部には無処理土壌6が敷かれ、上部はアルミ箔による蓋7で塞がれている。第2ケース4は、第1ケース3と同様に、透明など内部透視可能な円筒状で合成樹脂製のものであって、底部に無処理土壌8が敷かれ、上部はアルミ箔による蓋9で塞がれ、かつ、矩形のスギ辺材10が無処理土壌8に置かれている。連結パイプ5は、その内部が防蟻用硬化性組成物Cで充填されており、各ケース3,4の下部どうしに亘って互いに連通状態で架設されている。連結パイプ5も、透明などの内部透視可能な材料製が望ましいが、それ以外でもよい。
【0036】
この防蟻試験装置Bによる防蟻試験は、第1ケース3の中に白蟻tを300匹入れ、かつ、連結パイプ5に、防蟻用硬化性組成物Cによる試験体cを充填させた状態で行われる。つまり、白蟻tが連結パイプ5に詰められた試験体cを食い破って通過し、スギ辺材10のある第2ケース4に移動できるかどうか、を試す試験である。
【0037】
[硬度測定試験]
防蟻用硬化性組成物Cの「硬度」を測り、防蟻作用との関係について調べることとした。具体的には、防蟻用硬化性組成物Cによる硬度測定試験用の試験体s(
図3参照)を作製して、硬度計を用いて測定し、防蟻性能の有無と硬度との相関を取り、防蟻ができる硬度範囲を推定する。
【0038】
防蟻用硬化性組成物Cの硬度測定に用いる硬度計として、標準型又はポケット型の「山中式土壌硬度計」を用いた。株式会社藤原製作所、No351による山中式土壌硬度計は、土壌の理学的性質を表すものの一つ土壌硬度を測定する計器であって、土壌以外の一般の軟物質に対しても用いることができる。山中式土壌硬度計による一般的な試験方法は次の通りである。
【0039】
[硬度測定の試験例]
山中式土壌硬度計Aによる硬度測定のやり方について説明する。
図3に示されるように、まず、防蟻用硬化性組成物Cから、直径35mm、厚さ10mmの扁平な円筒状の試験体sを作製して用意する。次いで、鉛直姿勢とされた山中式土壌硬度計Aのコーン11を、水平に置かれた試験体sに上から当てて、つば(鍔)12が試験体sに当たるまで山中式土壌硬度計Aをゆっくり押し込む。そして、一例として40mm押し切った後に山中式土壌硬度計Aの目盛り13を読み取り、バネの伸縮距離から支持強度を計算する、というものである。
【0040】
つまり、防蟻用硬化性組成物Cの平らに削られた断面に対して、山中式土壌硬度計Aの先端のコーン11を垂直に押し込むと、コーン11の入り込み深さとそのときの山中式土壌硬度計Aのバネの圧縮による反力との双方が同時に測定される。従って、入り込み深さと反力とにより支持強度、即ち硬度(単位:kg/cm2)が算出される。
【0041】
[せん断試験]
防蟻用硬化性組成物Cによるせん断試験用の試験体d(
図4参照)を作製し、その試験体を用いてせん断試験機でせん断試験を行う。試験体にせん断荷重を掛け続け、荷重と試験体の変位とを測る、というものである。次に、せん断試験用の試験体とせん断試験について説明する。
【0042】
図4に示されるように、左右方向をX、前後方向をY、上下方向をZとしたとき、X方向長さが50mm、Y方向長さが20mm、Z方向長さが32mmで、かつ、上面と下面それぞれのX方向の中央部にてY方向に貫通する幅及び深さ1mmのスリット14が形成された矩形の防蟻用硬化性組成物Cの試験体dを用意する。上下の各スリット14,14は、左右中心線Pに互いに対向するように、スリット14の溝幅分(1mm)左右に位置ずれさせて形成するのが望ましいが、この限りではない。そして、せん断試験用の試験体dに、その左右中心線Pに沿ってZ方向に荷重を掛ける(
図4参照)せん断試験を行い、せん断荷重である荷重と変位との関係を調べた。なお、せん断試験機は、例えば、日本農林規格協会(JAS協会)、詳しくは集成材の日本農林規格で用いられるものがある。
【実施例】
【0043】
[実施例1]
実施例1の防蟻用硬化性組成物Cは、スラグAとバインダー樹脂との配合比を、スラグA100重量部に対してバインダー樹脂20重量部としたものである。実施例1による防蟻用硬化性組成物Cの防蟻試験用、硬度試験用、及びせん断試験用のそれぞれの試験体をc1,s1,d1とする。
【0044】
防蟻試験装置Bによる第1試験体c1の防蟻試験結果は、表1に示されるように、試験の回数を分母とし、白蟻が第1ケース3から第2ケース4に侵入できた回数を分子としたとき、0/3移動という良好なものであった。
【0045】
[実施例2]
実施例2の防蟻用硬化性組成物Cは、スラグAとバインダー樹脂との配合比を、スラグA100重量部に対してバインダー樹脂30重量部としたものである。実施例2による防蟻用硬化性組成物Cの防蟻試験用、硬度試験用、及びせん断試験用のそれぞれの試験体をc2,s2,d2とする。
【0046】
防蟻試験装置Bによる第2試験体c2の防蟻試験結果は、表1に示されるように、0/3移動、という良好なものであった。
【0047】
[実施例3]
実施例3の防蟻用硬化性組成物Cは、スラグAとバインダー樹脂との配合比を、スラグA100重量部に対してバインダー樹脂40重量部としたものである。実施例3による防蟻用硬化性組成物Cの防蟻試験用、硬度試験用、及びせん断試験用のそれぞれの試験体をc3,s3,d3とする。
【0048】
防蟻試験装置Bによる第3試験体c3の防蟻試験結果は、表1に示されるように、0/3移動、という良好なものであった。
【0049】
[実施例4]
実施例4の防蟻用硬化性組成物Cは、スラグAとバインダー樹脂との配合比を、スラグA100重量部に対してバインダー樹脂50重量部としたものである。実施例4による防蟻用硬化性組成物Cの防蟻試験用、硬度試験用、及びせん断試験用のそれぞれの試験体をc4,s4,d4とする。
【0050】
防蟻試験装置Bによる第4試験体c4の防蟻試験結果は、表1に示されるように、0/3移動、という良好なものであった。
【0051】
[実施例5]
実施例5の防蟻用硬化性組成物Cは、スラグBとバインダー樹脂との配合比を、スラグB100重量部に対してバインダー樹脂30重量部としたものである。実施例5による防蟻用硬化性組成物Cの防蟻試験用、硬度試験用、及びせん断試験用のそれぞれの試験体をc5,s5,d5とする。
【0052】
防蟻試験装置Bによる第5試験体c5の防蟻試験結果は、表1に示されるように、0/3移動、という良好なものであった。
【0053】
[実施例6]
実施例6の防蟻用硬化性組成物Cは、スラグBとバインダー樹脂との配合比を、スラグB100重量部に対してバインダー樹脂40重量部としたものである。実施例6による防蟻用硬化性組成物Cの防蟻試験用、硬度試験用、及びせん断試験用のそれぞれの試験体をc6,s6,d6とする。
【0054】
防蟻試験装置Bによる第6試験体c6の防蟻試験結果は、表1に示されるように、0/3移動、という良好なものであった。
【0055】
[実施例7]
実施例7の防蟻用硬化性組成物Cは、スラグBとバインダー樹脂との配合比を、スラグB100重量部に対してバインダー樹脂50重量部としたものである。実施例7による防蟻用硬化性組成物Cの防蟻試験用、硬度試験用、及びせん断試験用のそれぞれの試験体をc7,s7,d7とする。
【0056】
防蟻試験装置Bによる第7試験体c7の防蟻試験結果は、表1に示されるように、0/3移動、という良好なものであった。
【0057】
[実施例a]
実施例aの防蟻用硬化性組成物Cは、スラグAとバインダー樹脂との配合比を、スラグA100重量部に対してバインダー樹脂10重量部としたものである。実施例aによる防蟻用硬化性組成物Cの防蟻試験用、硬度試験用、及びせん断試験用のそれぞれの試験体をca,sa,daとする。
【0058】
防蟻試験装置Bによる第a試験体caの防蟻試験結果は、表1に示されるように、2/3移動、というものであった。
【0059】
[実施例b]
実施例bの防蟻用硬化性組成物Cは、スラグAとバインダー樹脂との配合比を、スラグA100重量部に対してバインダー樹脂60重量部としたものである。実施例bによる防蟻用硬化性組成物Cの防蟻試験用、硬度試験用、及びせん断試験用のそれぞれの試験体をcb,sb,dbとする。
【0060】
防蟻試験装置Bによる第b試験体cbの防蟻試験結果は、表1に示されるように、1/3移動、というものであった。
【0061】
[実施例c]
実施例cの防蟻用硬化性組成物Cは、スラグBとバインダー樹脂との配合比を、スラグB100重量部に対してバインダー樹脂20重量部としたものである。実施例cによる防蟻用硬化性組成物Cの防蟻試験用、硬度試験用、及びせん断試験用のそれぞれの試験体をcc,sc,dcとする。
【0062】
防蟻試験装置Bによる第c試験体ccの防蟻試験結果は、表1に示されるように、2/3移動、というものであった。
【0063】
[実施例d]
実施例dの防蟻用硬化性組成物Cは、スラグBとバインダー樹脂との配合比を、スラグB100重量部に対してバインダー樹脂60重量部としたものである。実施例dによる防蟻用硬化性組成物Cの防蟻試験用、硬度試験用、及びせん断試験用のそれぞれの試験体をcd,sd,ddとする。
【0064】
防蟻試験装置Bによる第d試験体cdの防蟻試験結果は、表1に示されるように、1/3移動、というものであった。
【0065】
[防蟻試験結果について]
防蟻試験装置Bを用いた防蟻試験結果を表1に示す。実施例1~7と実施例a~dの第1~7及びa~d試験体c1~c7,ca~cdはN数が3、即ち、各3つずつで測定された。
【0066】
【0067】
表1に示されるように、白蟻tは、実施例a~dによる第a~d試験体ca~cdを食い破って第2ケース4に侵入可能な場合があったが、実施例1~7による第1~7試験体c1~c7は食い破って移動することができなかった。つまり、スラグAを用いる防蟻用硬化性組成物Cでは、バインダー樹脂が20~50重量部となる範囲ではより良好な防蟻試験結果が得られ、スラグBを用いる防蟻用硬化性組成物Cでは、バインダー樹脂が30~50重量部となる範囲ではより良好な防蟻試験結果が得られている。
従って、無機物粒子をバインダー樹脂で固めてなる防蟻用硬化性組成物Cにより、無薬剤でありながら物理バリアとして防蟻できており、無機物粒子100重量部に対して、バインダー樹脂が15重量部以上、55重量部以下となる範囲で配合されている実施例1~7による防蟻用硬化性組成物Cでは、より良好に防蟻できていると言える。
【0068】
[硬度測定結果について]
表2に、山中式土壌硬度計Aによる硬度の測定結果を示す。実施例1~7と実施例a~dの計11種の第1~7及びa~d試験体s1~s7及びsa~sdが用いられた。
硬度試験用の第1~7,a~d試験体s1~s7,sa~sdは、表1に記載された防蟻試験用の第1~7,a~d試験体c1~c7,ca~cdにそれぞれ対応しており、各試験体はN数が3、即ち、それぞれ3つずつで測定された。
【0069】
【0070】
表2に示す硬度測定結果と表1に示す防蟻試験結果とから、次のことが考察される。即ち、表1の防蟻試験結果における、白蟻tが全く移動できなかった優良品の第1~7試験体、及び白蟻tが殆ど移動できない良品の第a~d試験体c1~c7,ca~cdは、それぞれ表2の第1~7及び第a~d試験体s1~s7,sa~sdに対応しており、平均支持強度は44kg/cm
2
以上を示している。それに対して、第a~d試験体ca~cdは、それぞれ表2の第a~d試験体sa~sdに対応しており、平均支持強度は37kg/cm2以下を示している。これらの結果より、防蟻用硬化性組成物Cの硬度は、実施例1~7のように、40kg/cm2以上あると、より有効な防蟻作用が発揮されると考えられる。
【0071】
無機物粒子1としてスラグBを用いた防蟻用硬化性組成物Cにおいては、バインダー樹脂30~50重量部のものは非常に良好であり、かつ、バインダー樹脂20,60重量部のものは良好である、という表1と表2との試験結果から、「粒径が0.6mm未満のスラグ100重量部に対して、バインダー樹脂が23重量部以上、55重量部以下となる範囲で配合されている」とより良好な防蟻用硬化性組成物Cが構成されると考えられる。
粒径の比較的大きい0.6~4.75スラグを用いる実施例1~4の防蟻用硬化性組成物Cのバインダー樹脂2の配合比が15~55重量部であるに対して、粒径の小さい0.6未満スラグを用いる実施例5~7の防蟻用硬化性組成物Cのバインダー樹脂2の配合比は23~55重量部であって、下限が若干大きい側にずれることを示している。
【0072】
[せん断試験結果について]
せん断試験用の試験体d(
図4参照)は、表1に示す防蟻試験結果及び表2に示す硬度測定試験結果の双方においてより良好な結果を得た実施例1~7のそれぞれと互いに同じ防蟻用硬化性組成物Cを用いて、せん断試験用の第1~7試験体d1~d7とした。せん断試験の結果、7つ全ての試験体d1~d7において、試験体の変位が14~16mmになるまでせん断試験を続けたが、破断に至るものは無かった。
【0073】
図5に、せん断試験結果による荷重-変位グラフであるL-Hグラフの一例を示しており、Lは荷重(単位:kgf)を、Hは変位(単位:mm)をそれぞれ表す。各試験体d1~d7のせん断試験によるL-Hグラフは、荷重の値自体には多少の変動は見られるが、全て
図5に示される変化曲線、即ち、破断に至らない変化曲線を示した。従って、実施例1~7による各試験体d1~d7による防蟻用硬化性組成物Cは、豊富なじん性を持っているものと推測することができる。
【0074】
[荷重変動率]
せん断試験による試験結果から各試験体d1~d7を評価する手段として荷重変動率を用いた。荷重変動率Rは、せん断試験による変位Hが8mmのときの荷重Lをm(単位:kgf)、変位Hが12mmのときの荷重Lをn(単位:kgf)としたとき、
式(1):R=(n-m)/m÷(12-8)×100(単位:%/mm)
で表される。つまり、単位変位である1mm当たりの荷重変動率Rは、Z方向の変位Hが8mmから12mmになるに要した荷重Lの値(n-m)を、変位Hが8mmのときの荷重Lの値(m)で除し、その除された値(n-m)/mを4mm(12mm-8mm)で除し、かつ、100を乗じたもの(単位:%/mm)である。せん断試験によって得られたデータから算出された各試験体d1~d7の荷重変動率Rを表3に示す。
【0075】
【0076】
実施例1~7による防蟻用硬化性組成部Cのせん断試験による各試験体d1~d7の荷重変動率R(%/mm)を算出したところ、全ての荷重変動率Rは、-5以上で15以下の範囲にあることが分かった。
図5及び表3から、せん断試験では、荷重変動率Rが-5以上で15以下という低い値の範囲であること、即ち、変位量が増えても破断には至らず、荷重が若干増減するだけであり、従って、防蟻用硬化性組成物Cは優れたじん性を有していると考えられる。優れたじん性を有することにより、多少の地震があっても防蟻用硬化性組成物Cにヒビが入らないので、白蟻がヒビから侵入するおそれが生じない。
【0077】
[防蟻作用について]
防蟻用硬化性組成物Cは、スラグの粒子1がひしめき合って並ぶ状態が、バインダー樹脂2によって固められることによって維持されている。例えば、
図1に示されるように、スラグ粒子1どうしの隙間にバインダー樹脂2が充填されて維持される構成などが考えられる。隣り合うスラグ粒子1,1どうしの間の隙間は非常に狭く、白蟻tの大きさよりも小さいものとなっている。また、スラグ粒子1のうち、スラグ粒子1の大きさが0.6~4.75mmのものを60%質量部以上含むものや、0.6mm未満のものが40質量%以上含まれているものが使用され、かつ、バインダー樹脂2で各スラグ粒子1は密着されて強力に位置保持されているとより好都合であり、白蟻tが取り除けないものとなる。
【0078】
図1に示されるように、防蟻用硬化性組成物Cに直面した白蟻tは、各粒子1を取り除くことができず、かつ、隣り合う粒子1,1どうしの間を通り抜けることもできない。つまり、「スラグの粒子バリア」と「バインダー樹脂による密着性で隙間を作らない」と「防蟻層の持つじん性により変形を防ぐ」との相乗作用により、防蟻用硬化性組成物Cによって物理的にそれ以上進めなくなる、という防蟻作用が生じる。
【0079】
上述の防蟻作用は、無機物粒子1をバインダー樹脂2で固めて構成される防蟻用硬化性組成物Cにおいて、有効に発揮される。なお、防蟻用硬化性組成物Cが硬過ぎると、脆くなってじん性も不足気味になると考えられるため、硬度は150kg/cm2以下が望ましい。従って、防蟻用硬化性組成物Cの硬度は、40~150kg/cm2の範囲にあると好ましく、50~130kg/cm2の範囲であれば好都合であり、50~100kg/cm2の範囲であればより好都合である。また、0.6mm未満などのスラグの粒径が小さい場合には、「バインダー樹脂による密着性で隙間を作らない」と「防蟻層の持つじん性により変形を防ぐ」と「バインダー樹脂の適度な硬度」との相乗作用で有効な防蟻作用が生じると考えられる。
【0080】
本発明による無機物粒子の位置保持力、即ち、バインダー樹脂2で固められたことによるスラグ粒子1の位置保持作用は、スラグの持つ性質である「水分による自己硬化」による位置保持作用よりも明確に強い。従って、スラグ粒子1の自己硬化による防蟻範囲の拡張と、バインダー樹脂2による強固な接着によるスラグ粒子の優れた位置保持作用との相乗により、強い防蟻作用を発揮する防蟻用硬化性組成物Cが実現されている。
【0081】
[別実施例]
例えば、防蟻用硬化性組成物に用いる無機物粒子は、白蟻が取り除けない大きさで、かつ、通り抜けれない隙間になるように、粒径が1.4~2.8mmのものを60~80重量部含むものでも良い。
【符号の説明】
【0082】
1 無機物粒子:転炉スラグ
2 バインダー樹脂:アクリル系樹脂
14 スリット
A 山中式土壌硬度計
C 防蟻用硬化性組成物
R 荷重変動率
t 白蟻
【要約】
【課題】コスト高を招くことがないようにしながら、薬剤による問題も軽減又は解消されるように改善された、新たな防蟻用硬化性組成物を提供する。
【解決手段】無機物粒子1をバインダー樹脂2で固めて構成されるとともに、前記無機物粒子のうち、粒径0.6~4.75mmのものが60質量%以上含まれており、山中式土壌硬度計により測定される硬度が40kg/cm
2以上、150kg/cm
2以下であると好ましい防蟻用硬化性組成物C。
【選択図】
図1