(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】カーボンナノチューブの包装方法およびカーボンナノチューブ包装体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B65D 85/07 20170101AFI20240814BHJP
C01B 32/168 20170101ALI20240814BHJP
【FI】
B65D85/07
C01B32/168
(21)【出願番号】P 2024001263
(22)【出願日】2024-01-09
【審査請求日】2024-01-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501016733
【氏名又は名称】中谷産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼村 修七
(72)【発明者】
【氏名】山本 宏史
【審査官】種子島 貴裕
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-518727(JP,A)
【文献】特開2012-184025(JP,A)
【文献】特開2006-131295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 85/07
C01B 32/168
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブと、前記カーボンナノチューブを内部に収容するための開口、および前記内部と外部とを連絡する通気口を有する収容体とを準備する工程と、
前記開口から前記カーボンナノチューブを前記収容体の前記内部に収容した上で、前記開口を閉口する工程と、
前記通気口を通じて前記内部の空気を前記外部へ排出し、かつ前記内部に圧力を付与して前記カーボンナノチューブを分散配置することにより、カーボンナノチューブ包装体を得る工程とを含
み、
前記カーボンナノチューブ包装体を得る工程において、前記通気口を通じ、0.007MPa以上0.01MPa以下の圧力で30秒以上60秒以下の時間をかけて前記内部の空気を前記外部へ排出し、かつ前記内部に0.08MPa以上0.1MPa以下の圧力を付与して前記カーボンナノチューブを分散配置する、カーボンナノチューブの包装方法。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブ包装体を加圧することにより前記内部を減容する工程を含む、請求項1に記載のカーボンナノチューブの包装方法。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1または請求項2に記載のカーボンナノチューブの包装方法。
【請求項4】
前記通気口は、網目を有するフィルターを有し、
前記網目のメッシュサイズは、150メッシュ以上350メッシュ以下である、請求項1または請求項2に記載のカーボンナノチューブの包装方法。
【請求項5】
カーボンナノチューブと、前記カーボンナノチューブを内部に収容するための開口、および前記内部と外部とを連絡する通気口を有する収容体とを準備する工程と、
前記開口から前記カーボンナノチューブを前記収容体の前記内部に収容した上で、前記開口を閉口する工程と、
前記通気口を通じて前記内部の空気を前記外部へ排出し、かつ前記内部に圧力を付与して前記カーボンナノチューブを分散配置することにより、カーボンナノチューブ包装体を得る工程とを含
み、
前記カーボンナノチューブ包装体を得る工程において、前記通気口を通じ、0.007MPa以上0.01MPa以下の圧力で30秒以上60秒以下の時間をかけて前記内部の空気を前記外部へ排出し、かつ前記内部に0.08MPa以上0.1MPa以下の圧力を付与して前記カーボンナノチューブを分散配置する、カーボンナノチューブ包装体の製造方法。
【請求項6】
前記カーボンナノチューブ包装体を加圧することにより前記内部を減容する工程を含む、
請求項5に記載のカーボンナノチューブ包装体の製造方法。
【請求項7】
前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブからなる群より選ばれる少なくとも1種である、
請求項5または請求項6に記載のカーボンナノチューブ包装体の製造方法。
【請求項8】
前記通気口は、網目を有するフィルターを有し、
前記網目のメッシュサイズは、150メッシュ以上350メッシュ以下である、
請求項5または請求項6に記載のカーボンナノチューブ包装体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブの包装方法およびカーボンナノチューブ包装体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(以下、「CNT」とも記す)は、嵩密度が低く、多量の空気を含むことから飛散性が高い等の特徴を有するため、取扱いの難しさが従来から指摘されている。また、この取扱いの難しさが、CNTの実用化を進展させる障害になっているとされる。特開2021-031514号公報(特許文献1)は、CNTの実用化を進展させることを目的として、嵩密度が高く飛散性の低いカーボンナノチューブ配合凝集物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
CNTの実用化が進展することによって大量に取引される状況を鑑みたとき、CNTの嵩高さは、CNTの効率的な輸送、つまり物流コストを低減する観点から不利である。一方、CNTの嵩高さは、電気伝導性、硬さ、弾性、熱伝導性等の優れた各機能を発揮させるための特徴的な構造に基づくため、上記構造を破壊して嵩高さを解消することは、上述の各機能が失われることを意味する。したがってCNTが有する構造を破壊することなく、効率的な輸送を実現するための技術開発が要請されている。
【0005】
上記実情に鑑み、本発明の目的は、構造を破壊することなくカーボンナノチューブの嵩高さに基づく不都合を解消して包装することが可能なカーボンナノチューブの包装方法およびカーボンナノチューブ包装体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ね、本発明に到達した。本発明者らは、具体的にはCNTを収容した収容体内を脱気し、CNTの構造を破壊することなく上記収容体内を減容することによって、段ボール等の容器に効率的にCNT包装体を収納することに注目した。とりわけ本発明者らは、CNTを収容した収容体内の脱気時に、CNTが収容体内で分散配置されるような操作を併せて行うことにより、CNT包装体を所望の形状に成形し、もって上記容器に効率的にCNT包装体を収納できることを知見し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明は、以下に説明されるカーボンナノチューブの包装方法およびカーボンナノチューブ包装体の製造方法に係る。
〔1〕 カーボンナノチューブと、上記カーボンナノチューブを内部に収容するための開口、および上記内部と外部とを連絡する通気口を有する収容体とを準備する工程と、上記開口から上記カーボンナノチューブを上記収容体の上記内部に収容した上で、上記開口を閉口する工程と、上記通気口を通じて上記内部の空気を上記外部へ排出し、かつ上記内部に圧力を付与して上記カーボンナノチューブを分散配置することにより、カーボンナノチューブ包装体を得る工程とを含む、カーボンナノチューブの包装方法。
〔2〕 上記カーボンナノチューブ包装体を加圧することにより上記内部を減容する工程を含む、〔1〕に記載のカーボンナノチューブの包装方法。
〔3〕 上記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブからなる群より選ばれる少なくとも1種である、〔1〕または〔2〕に記載のカーボンナノチューブの包装方法。
〔4〕 上記通気口は、網目を有するフィルターを有し、上記網目のメッシュサイズは、150メッシュ以上350メッシュ以下である、〔1〕から〔3〕のいずれかに記載のカーボンナノチューブの包装方法。
〔5〕 上記カーボンナノチューブ包装体を得る工程において、上記通気口を通じ、0.007MPa以上0.01MPa以下の圧力で30秒以上60秒以下の時間をかけて上記内部の空気を上記外部へ排出し、かつ上記内部に0.08MPa以上0.1MPa以下の圧力を付与して上記カーボンナノチューブを分散配置する、〔1〕から〔4〕のいずれかに記載のカーボンナノチューブの包装方法。
〔6〕 カーボンナノチューブと、上記カーボンナノチューブを内部に収容するための開口、および上記内部と外部とを連絡する通気口を有する収容体とを準備する工程と、上記開口から上記カーボンナノチューブを上記収容体の上記内部に収容した上で、上記開口を閉口する工程と、上記通気口を通じて上記内部の空気を上記外部へ排出し、かつ上記内部に圧力を付与して上記カーボンナノチューブを分散配置することにより、カーボンナノチューブ包装体を得る工程とを含む、カーボンナノチューブ包装体の製造方法。
〔7〕 上記カーボンナノチューブ包装体を加圧することにより上記内部を減容する工程を含む、〔6〕に記載のカーボンナノチューブ包装体の製造方法。
〔8〕 上記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブからなる群より選ばれる少なくとも1種である、〔6〕または〔7〕に記載のカーボンナノチューブ包装体の製造方法。
〔9〕 上記通気口は、網目を有するフィルターを有し、上記網目のメッシュサイズは、150メッシュ以上350メッシュ以下である、〔6〕から〔8〕のいずれかに記載のカーボンナノチューブ包装体の製造方法。
〔10〕 上記カーボンナノチューブ包装体を得る工程において、上記通気口を通じ、0.007MPa以上0.01MPa以下の圧力で30秒以上60秒以下の時間をかけて上記内部の空気を上記外部へ排出し、かつ上記内部に0.08MPa以上0.1MPa以下の圧力を付与して上記カーボンナノチューブを分散配置する、〔6〕から〔9〕のいずれかに記載のカーボンナノチューブ包装体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、構造を破壊することなくカーボンナノチューブの嵩高さに基づく不都合を解消して包装することが可能なカーボンナノチューブの包装方法およびカーボンナノチューブ包装体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るCNTの包装方法およびCNT包装体の製造方法を説明するフローチャートである。
【
図2】
図2は、本実施形態に係るCNTの包装方法およびCNT包装体の製造方法を説明する画像であって、(a)は、閉口工程において収容体内にCNTが収容された状態を説明する画像であり、(b)は、CNT包装体形成工程において所定の圧力等で内部が脱気されることにより、収容体内でCNTが分散配置される状態を説明する画像であり、(c)は、減容工程において減容されたCNT包装体を説明する画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る一実施形態(以下、「本実施形態」とも記す)がさらに詳細に説明されるが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下では、図面が参照されながら説明される場合があるが、本明細書および図面において同一または対応する要素に同一の符号が付されるものとし、それらについて同じ説明は繰り返されない。
【0011】
本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。本明細書において示される圧力は、特段の説明がない場合、絶対圧を意味する。
【0012】
〔カーボンナノチューブ(CNT)の包装方法〕
図1は、本実施形態に係るCNTの包装方法およびCNT包装体の製造方法を説明するフローチャートである。本実施形態に係るCNTの包装方法は、
図1に示されるように、CNTと、上記CNTを内部に収容するための開口、および上記内部と外部とを連絡する通気口を有する収容体とを準備する工程(以下、「準備工程」とも記す)S10と、上記開口から上記CNTを上記収容体の上記内部に収容した上で、上記開口を閉口する工程(以下、「閉口工程」とも記す)S20と、上記通気口を通じて上記内部の空気を上記外部へ排出し、かつ上記内部に圧力を付与して上記カーボンナノチューブを分散配置することにより、カーボンナノチューブ包装体を得る工程(以下、「CNT包装体形成工程」とも記す)S30とを含む。このような特徴を有するCNTの包装方法により、構造を破壊することなく上記CNTの嵩高さに基づく不都合を解消して上記CNTを包装することが可能となる。これにより、段ボール等の容器に効率的にCNT包装体が収納され得るため、上記CNTの効率的な輸送を実現できる可能性がある。
【0013】
上記CNTの包装方法は、
図1に示されるように、上記カーボンナノチューブ包装体を加圧することにより上記内部を減容する工程(以下、「減容工程」とも記す)S40を含むことが好ましい。減容工程S40においては、上記CNT包装体に対し、0.1MPa以上1MPa未満で加圧することが好ましい。この場合、上記CNTの嵩高さに基づく不都合がより解消される可能性がある。以下、上記CNTの包装方法に含まれる各工程が、より具体的に説明される。
【0014】
<CNTと収容体とを準備する工程(準備工程)S10>
上記CNTの包装方法は、CNTと、上記CNTを内部に収容するための開口、および上記内部と外部とを連絡する通気口を有する収容体とを準備する工程(準備工程)S10を含む。準備工程S10の目的は、構造が破壊されることなくCNTが包装されたCNT包装体を得るために、適切なCNTおよび収容体を準備することである。
【0015】
上記CNTは、単層CNT、多層CNT、二層CNTからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。つまり本実施形態に係るCNTの包装方法に適用されるCNTの種類は、特段限定されない。上記CNTは、単層CNTであってもよく、多層CNTであってもよく、または二層CNTであってもよい。さらに上記CNTの包装方法は、上記の群より選ばれるいずれか1種のCNTが単独で用いられてもよく、2種以上のCNTが併用されてもよい。
【0016】
さらに上記CNTは、繊維状の各個体が集合した粉体であってもよく、良分散性の機能が付与された凝集体または造粒体(特開2021-031514号公報参照、たとえばDurobeads(登録商標))であってもよい。
【0017】
上記収容体は、上記CNTを内部に収容するための開口、および上記内部と外部とを連絡する通気口を有し、本発明の効果が得られる収容体である限り、材質、大きさ、および形状などは特に制限されない。たとえば上記収容体として用いられる材質として、柔軟性がある合成樹脂体が挙げられる。このような合成樹脂体として、たとえば各種の熱可塑性樹脂が例示され、具体的にはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)等の汎用性プラスチック、あるいは低結晶性1,2-ポリブタジエン(RB)等のポリブタジエン系合成樹脂等が上記収容体として適用され得る。
【0018】
上記開口は、特段制限されないが、上記収容体をたとえば袋体とすることにより形成される。上記開口の大きさは、上記収容体の大きさ、および上記収容体の上記内部への上記CNTの収容量に応じて適宜選択される。たとえば15Lの容積を有する収容体の場合、上記開口は、たとえば460mm×50mmの矩形の開口であり得る。上記通気口は、特段制限されないが、たとえば袋体とした上記収容体の上記内部と外部とを連絡するのに適した大きさとすることが好ましい。上記通気口は、たとえば直径1~2cm程度の円形とし、後述するCNT包装体を得る工程において上記内部の空気を外部へ排出するのに適した大きさであってもよい。
【0019】
とりわけ上記通気口は、網目を有するフィルターを有することが好ましい。上記網目のメッシュサイズは、150メッシュ以上350メッシュ以下であることが好ましい。上記網目のメッシュサイズは、150メッシュ以上であることにより、上記CNTが外部へ漏れ出ることが防止され得る。上記網目のメッシュサイズは、350メッシュ以下であることにより、上記CNTによって目詰まりすることが防止され得る。上記網目のメッシュサイズは、200メッシュ以上300メッシュ以下であることがより好ましい。上記フィルターの材質は、特段制限されず、金属製、合成樹脂製、布製、および紙製のものがいずれも適用可能である。
【0020】
準備工程S10において上記CNTおよび収容体は、公知の製造方法によって準備されてもよく、あるいは市場から入手することによって準備されてもよい。
【0021】
<開口を閉口する工程(閉口工程)S20>
上記CNTの包装方法は、上記開口から上記CNTを上記収容体の上記内部に収容した上で、上記開口を閉口する工程(閉口工程)S20を含む。閉口工程S20の目的は、上記収容体の開口を閉口することにより、上記収容体の上記内部に収容した上記CNTを外部へ漏れ出ないようにすることである。
【0022】
閉口工程S20では、上記収容体の開口が公知の手段により閉口される。たとえば閉口工程S20において上記開口を閉口する方法は、接着剤を用いた接合、熱圧着による接合などの公知の方法である場合がある。
【0023】
図2は、本実施形態に係るCNTの包装方法およびCNT包装体の製造方法を説明する画像であって、(a)は、閉口工程において収容体内にCNTが収容された状態を説明する画像である。
図2(a)に示されるように、閉口工程S20によれば、上記収容体の上記内部に上記CNTが収容された後、上記収容体の上記開口は閉口される。
【0024】
上記収容体の上記内部に収容する上記CNTの量(質量または容積)は、特段制限されないが、たとえば上記収容体の容積1L当たりの上記CNTの質量は30~150gであってもよく、好ましくは65~135gであってもよい。これにより上記内部にて適切に分散配置され、かつ輸送コストの低減を図ることができる量の上記CNTが、上記収容体に収容され得る。
【0025】
<CNT包装体を得る工程(CNT包装体形成工程)S30>
上記CNTの包装方法は、上記通気口を通じて上記内部の空気を上記外部へ排出し、かつ上記内部に圧力を付与して上記カーボンナノチューブを分散配置することにより、カーボンナノチューブ包装体を得る工程(CNT包装体形成工程)S30を含む。とりわけCNT包装体形成工程S30において、上記通気口を通じ、0.007MPa以上0.01MPa以下の圧力で30秒以上60秒以下の時間をかけて上記内部の空気を上記外部へ排出し、かつ上記内部に0.08MPa以上0.1MPa以下の圧力を付与して上記カーボンナノチューブを分散配置することが好ましい。CNT包装体形成工程S30の目的は、上記CNTを上記収容体の上記内部で分散配置させることによって上記収容体の外観形状を調整しながら、上記内部の空気を外部へ排出して上記収容体内を減容することにより、段ボール等の容器に効率的に収納可能なCNT包装体を形成することである。
【0026】
CNT包装体形成工程S30において、上記CNTを上記収容体の上記内部で分散配置させるための具体的な手段は、次のとおりである。すなわち上記手段は、上記通気口を通じ、0.007MPa以上0.01MPa以下の圧力で30秒以上60秒以下の時間をかけて上記内部の空気を上記外部へ排出することである。同時に、上記内部に0.08MPa以上0.1MPa以下の圧力を付与して上記カーボンナノチューブを分散配置することである。上記手段は、より具体的には、上述した圧力および時間で上記内部の空気を、上記通気口を通じて上記外部へ排出しながら、上記内部のゲージ圧を-0.1MPaG以上-0.08MPaG以下とすることによって、上記内部のCNTに対し0.08MPa以上0.1MPa以下の圧力を加えることである。これにより上記内部で全体として凹凸形状を呈して収容されていたCNTは、個々のCNTが上下左右に移動すること等によって全体として平坦化される。もって上記CNTを上記内部で局在させることなく分散配置させることができる。この場合において上記CNTは、過大な応力が付与されていないことから、上記内部で上記CNTの特徴的な構造が破壊されることなく維持される。
【0027】
上記通気口を通じて上記内部の空気を上記外部へ排出する圧力は、効率性の観点から0.008MPa以上0.01MPa以下であることが好ましく、0.009MPa以上0.01MPa以下であることがより好ましい。上記通気口を通じて上記内部の空気を上記外部へ排出する時間は、効率性の観点から30秒以上50秒以下であることが好ましく、30秒以上40秒以下であることがより好ましい。CNT包装体形成工程S30において、上記内部のゲージ圧を-0.1MPaG以上-0.095MPaG以下とすることが好ましく、-0.1MPaG以上-0.09MPaG以下とすることがより好ましい。
【0028】
図2(b)は、CNT包装体形成工程において所定の圧力等で内部が脱気されることにより、収容体内でCNTが分散配置される状態を説明する画像である。
図2(b)に示されるように、CNT包装体形成工程S30によれば、上記CNTは、所定の脱気および加圧を通じ、上記内部で上記CNTが全体として平坦化されることにより、上記内部で上記CNTが分散配置される。
【0029】
なお、CNT包装体形成工程S30の完了後において、外部の空気等が上記内部へ入ることを防ぐために、上記通気口を閉口(封止)する必要がある。しなしながら上記CNTの包装方法によれば、CNT包装体形成工程S30の完了後、直ちに上記通気口を封止することまでは要しない。CNT包装体の内部と外部との間に圧力差が生じていても、上記CNTが有する個々の繊維状の形状等に起因して上記外部の空気等が上記内部へ入ることがある程度、阻害されるためである。とりわけ上記CNTの包装方法によれば、後述する減容工程S40の完了後に、上記通気口を封止することができる。
【0030】
<作用>
本実施形態に係るCNTの包装方法は、上述のような準備工程S10、閉口工程S20、およびCNT包装体形成工程S30を含むことにより、上記収容体の上記内部で上記CNTの特徴的な構造が破壊されることなく維持されたCNT包装体が得られる。もって本実施形態に係るCNTの包装方法は、CNT包装体を段ボール等の容器に効率的に収納可能とすることにより、CNTの輸送コストを減ずることができる。
【0031】
<内部を減容する工程(減容工程)S40>
上記CNTの包装方法は、上記CNT包装体を加圧することにより上記内部を減容する工程(減容工程)S40を含むことが好ましい。とりわけ減容工程S40においては、上記CNT包装体に対し、0.1MPa以上1MPa未満で加圧することが好ましい。減容工程S40の目的は、上記CNT包装体に対し上記CNTの構造を破壊しない程度の圧力を付与することにより、上記内部をより一層減容し、段ボール等の容器により効率的に収納可能なCNT包装体を形成することである。これにより上記CNTの嵩高さに基づく不都合をより解消することができる可能性がある。
【0032】
減容工程S40の具体的な方法は、0.1MPa以上1MPa未満というCNT包装体に対してCNTの構造を破壊しない程度の圧力を付与することのできる方法であれば、特段制限されない。上記CNT包装体に対して人手を用いて加圧することにより上記内部が減容されてもよく、圧力を付与できる公知の装置、設備等を用いて加圧することにより上記内部が減容されてもよい。
【0033】
図2(c)は、減容工程において減容されたCNT包装体を説明する画像である。
図2(c)に示されるように、減容工程S40によれば、上記CNT包装体は、上記収容体の上記内部が減容されることによって、段ボール等の容器により効率的に収納可能な形状となる。
【0034】
〔CNT包装体の製造方法〕
本実施形態に係るCNT包装体の製造方法は、
図1に示されるように、CNTと、上記CNTを内部に収容するための開口、および上記内部と外部とを連絡する通気口を有する収容体とを準備する工程(準備工程)S10と、上記開口から上記CNTを上記収容体の上記内部に収容した上で、上記開口を閉口する工程(閉口工程)S20と、上記通気口を通じて上記内部の空気を上記外部へ排出し、かつ上記内部に圧力を付与して上記カーボンナノチューブを分散配置することにより、カーボンナノチューブ包装体を得る工程(CNT包装体形成工程)S30とを含む。
【0035】
上記CNT包装体の製造方法は、具体的には上述したCNTの包装方法と同じ要領で、準備工程、閉口工程、およびCNT包装体形成工程を経ることによってCNT包装体を得ることができる。したがって上記CNT包装体の製造方法により、構造を破壊することなくCNTの嵩高さに基づく不都合を解消しながらCNTが包装されたCNT包装体が得られる。これにより上記CNT包装体が段ボール等の容器に効率的に収納されることによって、CNTの効率的な輸送が実現される可能性がある。
【0036】
上記CNT包装体の製造方法に関し、上記CNTの包装方法と重複する説明は繰り返されない。上記CNT包装体の製造方法は、減容工程S40を含むことにより、CNTの嵩高さに基づく不都合がより解消され得ることも、上述したCNTの包装方法と同じである。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明がさらに詳細に説明されるが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されない。以下の説明において試料1~試料2は、実施例であり、試料A~試料Bは、比較例である。
【0038】
〔CNT包装体の製造〕
<試料1>
(準備工程)
CNTとして、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を含む造粒体(商品名:「Durobeads 1102」、中谷産業株式会社製)を準備した。収容体として、長さ460mm×幅640mm×高さ50mmの大きさ(容積約15L)を有し、ポリエチレンからなる直方体の袋体を作製することにより準備した。上記収容体は、幅640mm×奥行き50mmの開口を有していた。さらに収容体は、表面に直径10mmの通気口を有していた。この通気口には、ナイロン製で、200メッシュからなる網目を有するフィルターが設けられていた。
【0039】
(閉口工程)
上記開口から上記CNT1kgを上記収容体の上記内部に収容した上で、上記開口を熱圧着することにより閉口した。
【0040】
(CNT包装体形成工程)
上記CNTを収容した上記収容体の上記通気口を通じ、0.085MPa以下の圧力で45秒の時間をかけて上記内部の空気を上記外部へ排出した。さらに上記内部のゲージ圧を-0.1MPaG以上-0.08MPaG以下とすることにより、上記CNTを加圧した。これにより上記CNTは上記収容体の上記内部において局在することなく分散配置された。以上より、試料1のCNT包装体を必要数得た。
【0041】
<試料2>
準備工程において、CNTとして多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を97質量%含み、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を3質量%含む造粒体(中谷産業株式会社製)を準備すること以外、試料1と同じ要領によって試料2のCNT包装体を必要数得た。
【0042】
<試料A>
CNT包装体形成工程を実行しなかったこと以外、試料1と同じ要領によって試料AのCNT包装体を必要数得た。
【0043】
<試料B>
(減容工程)
試料1のCNT包装体に対し、市販の卓上プレス機を用いて1MPaで加圧することにより上記内部の容積を試料AのCNT包装体の容積に比べ40体積%に減容することにより、試料BのCNT包装体を必要数得た。
【0044】
〔CNT包装体の評価〕
(効率性評価)
試料1~試料2、および試料A~試料BのCNT包装体を、それぞれ長さ450mm×幅600mm×高さ450mmの段ボール箱にいくつ収納することができるか評価した。その結果、試料1~試料2は、上記段ボール箱に15個収納された。一方、試料Aは、上記段ボール箱に6個収納された。試料Bは、上記段ボール箱に14個収納された。
【0045】
(CNTの構造が維持されているか否かの評価)
1) 有効解繊指数(EDI)を用いた評価
試料1~試料2、および試料A~試料BのCNT包装体に収容されているCNTについて、その構造が破壊されずに維持されているか否かを、有効解繊指数(EDI)を用いることにより評価した。上記EDIは、本発明者らが開発した指数であって、CNTの解繊しやすさ(解きやすさ)を表す指標である。本発明者らの研究により、CNTの構造が破壊されずに維持されているほど、CNTの解繊しやすさ(すなわち上記EDIの値)が向上することが明らかにされている。本実施例では、上記EDIが70以上である場合、被評価試料のCNTは、構造が破壊されずに維持されていると評価された。上記EDIを算出する手順は次の通りとした。上記EDIの単位は、質量%である。
【0046】
各試料(試料1~試料2、および試料A~試料B)において、それぞれCNTを約100g秤量し、各試料の第1試料を得た。当該第1試料を目開き2000μmの篩にかけ、当該篩に残ったCNTの質量(A(2000))を測定した。次に、目開き2000μmの篩を通過したCNTを目開き1000μmの篩にかけ、当該篩に残ったCNTの質量(A(1000))を測定した。続いて、目開き1000μmの篩を通過したCNTを目開き500μmの篩にかけ、当該篩に残ったCNTの質量(A(500))を測定した。最後に、目開き500μmの篩を通過したCNTの質量(A(FN))を測定した。またA(2000)、A(1000)、A(500)、およびA(FN)の合計を第1試料の総質量(A(ttl))とした。
【0047】
次に、各試料の上記第1試料のうち、目開き1000μmの篩上に残存したCNTから、それぞれ5gを秤量することにより、各試料の第2試料を得た。当該第2試料を新たに準備した目開き1000μmの篩に直径2mmのガラスビーズ45g上とともに投入した。この状態で当該篩を、振幅0.5mmおよび振動時間1分の条件で振とうし、当該篩を通過したCNTの質量(AR(1000))を測定した。さらにAR(1000)を100で除算することにより、第1粉化率(F(1000))を求めた。
【0048】
各試料の上記第1試料のうち、目開き500μmの篩上に残存したCNTから、それぞれ5gを秤量することにより、各試料の第3試料を得た。当該第3試料を新たに準備した目開き500μmの篩に直径2mmのガラスビーズ45g上とともに投入した。この状態で当該篩を、振幅0.5mmおよび振動時間1分の条件で振とうし、当該篩を通過したCNTの質量(AR(500))を測定した。さらにAR(500)を100で除算することにより、第2粉化率(F(1000))を求めた。
【0049】
以上の要領により求めたA(2000)、A(1000)、A(500)、A(ttl)、F(1000)、およびF(500)の値を、下記の式(1)に代入することにより、EDI(質量%)を求めた。
【0050】
【0051】
2) N-メチル-2-ピロリドン(NMP)分散粒度を用いた評価
各試料(試料1~試料2、および試料A~試料B)のCNT包装体に収容されているCNTについて、その構造が破壊されずに維持されているか否かを、N-メチル-2-ピロリドン(NMP、三菱ケミカル株式会社製)を使用し、ヘグマン式粒度計モデル232(DKSHジャパン製)で分散粒度を測定することにより、下記の基準に基づいて評価した。
A:NMP分散粒度が20μm未満であって分散性が良好である。
B:NMP分散粒度が60μm以上であって分散性が劣る。
【0052】
各試料(試料1~試料2、および試料A~試料B)において用いたCNTの種別、および各試料の評価結果の一覧が、表1に示される。
【0053】
【0054】
〔考察〕
表1から理解されるように、試料AのCNT包装体に比べ、試料1~試料2のCNT包装体は、段ボール箱により多くの個数が収納された。その場合において試料1~試料2のCNT包装体に包装されたCNTは、試料Aと同様に、EDIおよびNMP分散粒度の値が高く、構造が維持されていることも確認された。試料BのCNT包装体は、試料Aに比べ段ボール箱により多くの個数が収納されたが、CNTの少なくとも一部の構造が破壊されていることが推測された。以上から、試料1~試料2のCNT包装体は、CNTの効率的な輸送を実現できることが示唆された。
【0055】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行ったが、上述の各実施の形態および実施例の構成が適宜組み合わされることも当初から予定されている。
【0056】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0057】
S10 準備工程、S20 閉口工程、S30 CNT包装体形成工程、S40 減容工程。
【要約】
【課題】カーボンナノチューブの嵩高さに基づく不都合を、その構造を破壊することなく解消しながら包装することが可能なカーボンナノチューブの包装方法を提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブの包装方法は、カーボンナノチューブと、前記カーボンナノチューブを内部に収容するための開口、および前記内部と外部とを連絡する通気口を有する収容体とを準備する工程と、前記開口から前記カーボンナノチューブを前記収容体の前記内部に収容した上で、前記開口を閉口する工程と、前記通気口を通じて前記内部の空気を前記外部へ排出し、かつ前記内部に圧力を付与して前記カーボンナノチューブを分散配置することにより、カーボンナノチューブ包装体を得る工程とを含む。
【選択図】
図1