(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-13
(45)【発行日】2024-08-21
(54)【発明の名称】軸受機構
(51)【国際特許分類】
F16C 29/02 20060101AFI20240814BHJP
F16C 29/04 20060101ALI20240814BHJP
F16N 9/04 20060101ALI20240814BHJP
F16C 19/26 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
F16C29/02
F16C29/04
F16N9/04
F16C19/26
(21)【出願番号】P 2024010606
(22)【出願日】2024-01-26
【審査請求日】2024-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】521352266
【氏名又は名称】風間 豊司
(74)【代理人】
【識別番号】110003096
【氏名又は名称】弁理士法人第一テクニカル国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】風間 豊司
【審査官】鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-217652(JP,A)
【文献】特開平08-177863(JP,A)
【文献】国際公開第2010/038588(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00-19/56,
29/00-31/06,
33/30-33/66
F16N 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軌道台と、
前記第1軌道台に対して移動する、前記第1軌道台よりも短い第2軌道台と、
前記第1軌道台と前記第2軌道台との間に配置された転がり軸受部と、
前記第1軌道台と前記第2軌道台との間に、前記転がり軸受部の軸方向に配置された滑り軸受部と、
前記転がり軸受部による前記第2軌道台の移動に連動して潤滑剤を前記滑り軸受部に供給する潤滑剤供給部と、
を有
し、
前記転がり軸受部は、
前記第1軌道台及び前記第2軌道台に形成された案内溝に接触する複数の転動体を有し、
前記潤滑剤供給部は、
前記第2軌道台の移動に連動して前記案内溝の内部を移動する前記転動体が、前記案内溝の内部に収容された前記潤滑剤を前記第2軌道台の移動方向側に位置する前記滑り軸受部に圧送するように構成されている
ことを特徴とする軸受機構。
【請求項2】
前記転がり軸受部は、
前記第1軌道台と前記第2軌道台との間に前記軸方向に移動可能に配置され、前記第2軌道台よりも短く形成された、前記複数の転動体を保持するリテーナ
を有する
ことを特徴とする請求項
1に記載の軸受機構。
【請求項3】
前記滑り軸受部は、
前記第1軌道台と当接する軸方向両端部に前記転がり軸受部の変形量に応じたR面取り及びクラウニング加工が施されている
ことを特徴とする請求項1
又は2に記載の軸受機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受及び滑り軸受により第1軌道台と第2軌道台とが相対移動する軸受機構に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受機構は、ボールやコロなどの転動体の転がり運動を用いた転がり軸受を備える機構と、滑り運動を用いた滑り軸受を備える機構に大別される。転がり軸受を用いた軸受機構は、高精度でステックスリップのない軽い摺動抵抗、油管理が容易、寿命計算ができるなどの特徴から軽負荷及び中負荷で多用される一方で、転動体の変形、転動体の出入り振動、剛性の低さなどの特徴から、超高精度の機器や研削加工、重切削加工には不適な場合がある。一方、滑り軸受を用いた軸受機構は、高剛性、高減衰性などの長所を有するが、ステックスリップの発生、多量の油膜が必要で摩耗が大きいなどの短所も併せ持っている。
【0003】
そこで、転がり軸受と滑り軸受の両方を備えることで、双方の短所を補うことが可能な軸受機構が提唱されている。例えば特許文献1には、リニアボールベアリングをハウジング内に収容し、ハウジング内の両端にリニアボールベアリングを挟んで一対の滑り軸受を収容したリニアベアリングが記載されている。このリニアベアリングでは、軸線上に2個のリニアボールベアリングが連設されており、各リニアボールベアリングの間に軸外周を囲繞する環状の油溝が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
転がり軸受部と滑り軸受部の両方を備えた軸受機構を円滑に動作させるには、滑り軸受部における油膜形成が非常に重要となる。上記従来技術では、油溝から軸を介してリニアボールベアリング及び滑り軸受部に給油が行われるため、滑り軸受部への給油が十分ではないという課題があった。
【0006】
本発明の目的は、転がり軸受部と滑り軸受部を備え、滑り軸受部に十分な潤滑剤を供給することが可能な軸受機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本願発明の軸受機構は、第1軌道台と、前記第1軌道台に対して移動する、前記第1軌道台よりも短い第2軌道台と、前記第1軌道台と前記第2軌道台との間に配置された転がり軸受部と、前記第1軌道台と前記第2軌道台との間に、前記転がり軸受部の軸方向に配置された滑り軸受部と、前記転がり軸受部による前記第2軌道台の移動に連動して潤滑剤を前記滑り軸受部に供給する潤滑剤供給部と、を有すると共に、予圧管理が可能な予圧調整ネジを有する。
【0008】
本発明の軸受機構は、第1軌道台と第2軌道台との間に、転がり軸受部と、転がり軸受部の軸方向に配置された滑り軸受部とを有する。また、予圧付与ネジにより使用条件に合わせた予圧付与が可能な機構を有する。例えば機器の早送りの際や軽負荷時には、第1軌道台と第2軌道台との相対移動を転がり軸受部が担うことで、ステックスリップのない動作を実現できる。また、例えば急加減速時や重負荷時、振動などを伴う負荷を受ける際には、第1軌道台と第2軌道台との相対移動を転がり軸受部と滑り軸受部の両方が担うことで、ビレのない動作を実現できる。本発明では、転がり軸受部によるテーブルの移動に連動して潤滑剤が滑り軸受部に供給される。これにより、滑り軸受部に十分な潤滑剤を供給できるので、すべり軸受部の油膜形成を良好に行うことができる。したがって、転がり軸受と滑り軸受の両方を備えた軸受機構を円滑に動作させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、転がり軸受部と滑り軸受部を併せ持つ軸受機構において、滑り軸受部に十分な潤滑剤を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る軸受機構の全体構成を表す斜視図である。
【
図2】テーブルがストローク中央部に位置する場合の軸受機構の上面図である。
【
図3】テーブルがストローク中央部に位置する場合の軸受機構の側面図である。
【
図4】テーブルが前側のストローク端部に位置する場合の軸受機構の上面図である。
【
図5】テーブルが前側のストローク端部に位置する場合の軸受機構の側面図である。
【
図6】テーブルが後側のストローク端部に位置する場合の軸受機構の上面図である。
【
図7】テーブルが後側のストローク端部に位置する場合の軸受機構の側面図である。
【
図8】ストローク方向から見た軸受機構の正面図である。
【
図9】
図2中IX-IX断面による第1軌道台、第2軌道台及び滑り軸受部の断面構造を表す断面図である。
【
図10】シール部材を設ける変形例に係る軸受機構の全体構成を表す斜視図である。
【
図11】
図10中XI-XI断面による第2軌道台、滑り軸受部及びシール部材の断面構造を表す断面図である。
【
図12】リテーナのずれ防止機構を設ける変形例に係るずれ防止機構の一例を表す図である。
【
図13】潤滑剤漏れ防止用のパッキンを設ける変形例に係るパッキンの構造の一例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0012】
<1.軸受機構の構成>
図1~
図9を用いて、実施形態に係る軸受機構1の構成について説明する。
図1は、実施形態に係る軸受機構1の全体構成を表す斜視図、
図2及び
図3は、テーブルがストローク中央部に位置する場合の軸受機構1の上面図及び側面図、
図4及び
図5は、テーブルが前側のストローク端部に位置する場合の軸受機構1の上面図及び側面図、
図6及び
図7は、テーブルが後側のストローク端部に位置する場合の軸受機構1の上面図及び側面図、
図8はストローク方向から見た軸受機構1の正面図、
図9は
図2中IX-IX断面による第1軌道台、第2軌道台及び滑り軸受部の断面構造を表す断面図である。なお、
図8には、滑り軸受部の位置保持と予圧調整を行うネジを破線で示す。また、
図2~
図7、
図9ではネジの図示を省略する。以下の説明において、説明の便宜上、上下左右前後等の方向を適宜使用するが、それらの方向は各図に示す矢印の方向に対応している。
【0013】
図1~
図9に示すように、軸受機構1は、ベース2に対してテーブル3を直線的に移動させる直動案内機構である。軸受機構1は、ベース2と、テーブル3と、第1軌道台4L,4Rと、第2軌道台5L,5Rと、転がり軸受部6L,6Rと、滑り軸受部7L,7Rと、潤滑剤供給部18L,18Rとを有する。
【0014】
ベース2は、軸受機構1の台座となる部材であり、ベッドとも呼ばれる。
図8に示すように、ベース2は、略長方形状の平板部2aと、平板部2aから上側に向けて突出した突条部2bとを有しており、前後方向から見た形状が凸状となるように形成されている。ベース2は、突条部2bの左右両側面及び平板部2aの上面に、取付基準面2dを有する。
図1、
図2、
図4及び
図6に示すように、突条部2bは、平板部2aにおいて、前後方向に延設されている。平板部2aと突条部2bの前後方向の長さは略同一である。なお、軸受機構1がベース2を備えずに、軸受機構1が取り付けられるユーザ側の装置にベース2が設置されていてもよい。
【0015】
テーブル3は、ベース2に対して前後方向に直線的に移動されて位置決めされる部材であり、ブロック又はステージとも呼ばれる。
図1及び
図8に示すように、テーブル3は、略長方形状の平板部3aと、平板部3aの左右方向両端部から下側に向けて突出した2つの側壁部3bとを有しており、前後方向から見た形状が凹状となるように形成されている。テーブル3は、平板部3aの内側と2つの側壁部3bの内側にそれぞれ、取付基準面3cを有する。平板部3aと各側壁部3bの前後方向の長さは略同一である。
【0016】
第1軌道台4L,4Rは、テーブル3を案内する直線状の部材であり、ガイドレールとも呼ばれる。第1軌道台4L,4Rはそれぞれ、ベース2の突条部2bの左右両側面の取付基準面2d及び平板部2aの上面の取付基準面2dに当接するように、ベース2に複数のボルト(図示省略)により固定されている。第1軌道台4Rはベース2の突条部2bの右側に、第1軌道台4Lはベース2の突条部2bの左側に、配置されている。第1軌道台4L,4Rの前後方向の長さは、ベース2の前後方向の長さと略同一である。なお、第1軌道台4L,4Rとベース2の前後方向の長さを等しくしてもよい。また、第1軌道台4L,4Rはベース2と一体的に構成されてもよい。
【0017】
図1、
図3、
図5、
図7及び
図8に示すように、第1軌道台4L,4Rのそれぞれには、左右方向における外側に、V字状の案内溝8L,8Rがそれぞれ形成されている。案内溝8Rは、転動体9の外周面と接触する転動面8R1,8R2を備えている。案内溝8Lは、転動体9の外周面と接触する転動面8L1,8L2を備えている。なお、転動体9が例えば球状である場合には、案内溝8L,8Rは円弧状に形成されてもよい。
【0018】
第2軌道台5L,5Rは、テーブル3を案内する直線状の部材である。第2軌道台5L,5Rはそれぞれ、テーブル3の平板部3aの内側の取付基準面3c及び2つの側壁部3bの内側の取付基準面3cに当接するように、テーブル3の下側に複数のボルト(図示省略)により固定されている。なお、第2軌道台5L,5Rはテーブル3と一体的に形成されてもよい。
図8に示すように、第2軌道台5Rは、テーブル3の右側の側壁部3bと第1軌道台4Rとの間に、第1軌道台4Rと微小な間隙GP(
図9参照)を空けて左右方向に対向するように、配置されている。第2軌道台5Lは、テーブル3の左側の側壁部3bと第1軌道台4Lとの間に、第1軌道台4Lと微小な間隙GPを空けて左右方向に対向するように、配置されている。第2軌道台5L,5Rとテーブル3の前後方向の長さは略同一である。つまり、第2軌道台5L,5Rの前後方向の長さは、第1軌道台4L,4Rの前後方向の長さよりも短い。
【0019】
図8に示すように、第2軌道台5L,5Rのそれぞれには、左右方向における内側に、V字状の案内溝10L,10Rがそれぞれ形成されている。案内溝10Rは、転動体9の外周面と接触する転動面10R1,10R2を備えている。案内溝10Lは、転動体9の外周面と接触する転動面10L1,10L2を備えている。第1軌道台4Rと第2軌道台5Rは、案内溝8Rと案内溝10Rが左右方向に対向するように配置されている。同様に、第1軌道台4Lと第2軌道台5Lは、案内溝8Lと案内溝10Lが左右方向に対向するように配置されている。
【0020】
転がり軸受部6L,6Rは、転動体9の転がり運動を用いた軸受である。
図1~
図7に示すように、転がり軸受部6Lは、第1軌道台4Lと第2軌道台5Lとの間に配置され、転がり軸受部6Rは、第1軌道台4Rと第2軌道台5Rとの間に配置されている。転がり軸受部6Lは、リテーナ12Lと複数の転動体9とを有しており、転がり軸受部6Rは、リテーナ12Rと複数の転動体9とを有している。リテーナ12L,12Rは、複数の転動体9を保持するシート状の部材である。転動体9は円柱状のころ部材であり、リテーナ12L,12Rにより回転可能に保持されている。転動体9は例えば金属製であり、リテーナ12L,12Rは例えば樹脂製である。なお、リテーナ12L,12Rを含油素材やフッ素含有の樹脂材料で構成してもよい。また、リテーナ12L,12Rを例えばステンレス、アルミ合金、真鍮又は黄銅等の金属材料で構成してもよい。
【0021】
図9に示すように、リテーナ12Rは、第1軌道台4Rと第2軌道台5Rとの間に前後方向に移動可能に配置されている。リテーナ12Lは、第1軌道台4Lと第2軌道台5Lとの間に前後方向に移動可能に配置されている。リテーナ12L,12Rの厚みTH(
図9参照)は、前述の間隙GPよりも若干小さい。これにより、リテーナ12L,12Rは間隙GPを実質的に閉塞して潤滑剤13の漏れを防止しつつ、第1軌道台4L,4Rに対して第2軌道台5L,5Rと共に前後方向に円滑に移動することが可能である。
図1~
図7に示すように、リテーナ12L,12Rは、回転軸方向が互いに略90度異なる転動体9aと転動体9bが前後方向に交互に配置されるように、且つ、隣接する転動体9a,9b同士が接触しないように、複数の転動体9を回転可能に保持する。
図1~
図7に示す例では、例えば転がり軸受部6Lの転動体9aの外周面は、第1軌道台4Lの転動面8L1と第2軌道台5Lの転動面10L2とに接触する。また、例えば転がり軸受部6Lの転動体9bの外周面は、第1軌道台4Lの転動面8L2と第2軌道台5Lの転動面10L1とに接触する。また、例えば転がり軸受部6Rの転動体9aの外周面は、第1軌道台4Rの転動面8R1と第2軌道台5Rの転動面10R2とに接触する。また、例えば転がり軸受部6Rの転動体9bの外周面は、第1軌道台4Rの転動面8R2と第2軌道台5Rの転動面10R1とに接触する。
【0022】
滑り軸受部7L,7Rは、滑り運動を用いた軸受である。
図1~
図7に示すように、滑り軸受部7Lは、第1軌道台4Lと第2軌道台5Lとの間に、転がり軸受部6Lの前後方向(軸方向の一例)両側に配置され、滑り軸受部7Rは、第1軌道台4Rと第2軌道台5Rとの間に、転がり軸受部6Rの前後方向(軸方向の一例)両側に配置されている。滑り軸受部7Lは、転がり軸受部6Lの前側に配置された滑り軸受部7Lfと、転がり軸受部6Lの後側に配置された滑り軸受部7Lbとを有する。すなわち、滑り軸受部7Lf,7Lbは第2軌道台5Lの前後方向における両端に配置されている。滑り軸受部7Rは、転がり軸受部6Rの前側に配置された滑り軸受部7Rfと、転がり軸受部6Rの後側に配置された滑り軸受部7Rbとを有する。すなわち、滑り軸受部7Rf,7Rbは第2軌道台5Rの前後方向における両端に配置されている。滑り軸受部7L,7Rは、第2軌道台5L,5R側に固定されて保持されており、テーブル3の移動に伴って第1軌道台4L,4Rの案内溝8L,8Rと摺動する。
図8及び
図9に示すように、滑り軸受部7L,7Rはそれぞれ、V字状の案内溝8L,8RとV字状の案内溝10L,10Rとに嵌合する略四角柱状の部材である。滑り軸受部7L,7Rの第1軌道台4L,4Rの案内溝8L,8Rと当接する摺動面には、潤滑剤供給溝11(
図9参照)が形成されている。滑り軸受部7L,7Rの材質は、例えばPTFE等のフッ素含有の樹脂材料、含油金属等の含油素材、コーティング材、複合材、セラミック材等としてもよい。滑り軸受部7L,7Rの前後方向の長さL1(
図2、
図3参照)は、例えば軸受機構1に作用する負荷の最大値等に基づいて設定されてもよい。
【0023】
図2及び
図3に示すように、リテーナ12Lの前後方向の長さL2は、第2軌道台5Lの前後方向の長さから2つの滑り軸受部7Lf,7Lbの前後方向の長さL1×2を差し引いた長さL3よりも短く形成されている。同様に、リテーナ12Rの前後方向の長さL2は、第2軌道台5Rの前後方向の長さから2つの滑り軸受部7Rf,7Rbの前後方向の長さL1×2を差し引いた長さL3よりも短く形成されている。具体的には、
図2及び
図3に示すように、テーブル3がストローク中央部に位置する状態において、テーブル3が前側に移動可能なストローク長さL4は、リテーナ12L,12Rの前端部と滑り軸受部7Lf,7Rfの後端部との間の長さL5の略2倍である。同様に、テーブル3が後側に移動可能なストローク長さL6は、リテーナ12L,12Rの後端部と滑り軸受部7Lb,7Rbの前端部との間の長さL7の略2倍である。
【0024】
潤滑剤供給部18L,18Rは、転がり軸受部6L,6Rによるテーブル3の移動に連動して潤滑剤13を滑り軸受部7L,7Rに供給する。潤滑剤13は、例えば潤滑油やグリース等であり、潤滑剤溜り14L,14Rに収容されている。
図2及び
図3に示すように、潤滑剤溜り14Lは、第1軌道台4Lの案内溝8Lと、第2軌道台5Lの案内溝10Lと、滑り軸受部7Lfの後端部と、滑り軸受部7Lbの前端部とにより囲まれた空間である。潤滑剤溜り14Rは、第1軌道台4Rの案内溝8Rと、第2軌道台5Rの案内溝10Rと、滑り軸受部7Rfの後端部と、滑り軸受部7Rbの前端部とにより囲まれた空間である。なお、
図1~
図7では、潤滑剤溜り14L,14Rの領域を明確にするために、潤滑剤溜り14L,14Rをドットハッチングにより着色して示している。潤滑剤溜り14L,14Rの内部には、テーブル3に設けられた潤滑剤供給口(図示省略)から潤滑剤13が供給され、充填される。なお、
図9に示すように、第1軌道台4Rの案内溝8Rと第2軌道台5Rの案内溝10Rとの間には間隙GPが存在するが、微小な間隙(例えば0.7mm程度)であることに加えて、リテーナ12Rが間隙に挟まれるように介在するため、潤滑剤溜り14Rからの潤滑剤13の漏れは抑制される。潤滑剤溜り14Lについても同様である。
【0025】
潤滑剤供給部18L,18Rは、転がり軸受部6L,6Rによるテーブル3の移動に連動して、テーブル3の移動方向側に位置する滑り軸受部7L,7Rに潤滑剤13を供給する。具体的には、
図2及び
図3に示すように、テーブル3がストローク中央部に位置する状態から、
図4及び
図5に示すようにテーブル3が前側のストローク端部に移動した場合、リテーナ12L,12R及び転動体9を含む転がり軸受部6L,6Rがテーブル3の移動量の半分だけ前側に移動して、リテーナ12L,12Rの前端部と滑り軸受部7Lf,7Rfの後端部とが略一致する。これにより、テーブル3の前側への移動に連動して案内溝8L,10L及び案内溝8R,10Rの内部を前側に移動する転動体9が、潤滑剤溜り14L,14Rの内部に収容された潤滑剤13をテーブル3の移動方向側である前側に位置する滑り軸受部7Lf,7Rfに圧送する。滑り軸受部7Lfに圧送された潤滑剤13は、滑り軸受部7Lfと案内溝8Lとの摺動面の潤滑剤供給溝11に供給され、滑り軸受部7Rfに圧送された潤滑剤13は、滑り軸受部7Rfと案内溝8Rとの摺動面の潤滑剤供給溝11に供給される。なお、圧送された潤滑剤13のうち、滑り軸受部7Lf,7Rfに供給された潤滑剤13以外の余剰の潤滑剤13は、案内溝8L,10Lと転動体9との微小な隙間、及び、案内溝8R,10Rと転動体9との微小な隙間を介して、潤滑剤溜り14L,14R内における転がり軸受部6L,6Rの後側の空間に移動する。
【0026】
また、
図2及び
図3に示す状態から、
図6及び
図7に示すようにテーブル3が後側のストローク端部に移動した場合、リテーナ12L,12R及び転動体9を含む転がり軸受部6L,6Rがテーブル3の移動量の半分だけ後側に移動して、リテーナ12L,12Rの後端部と滑り軸受部7Lb,7Rbの前端部とが略一致する。これにより、テーブル3の後側への移動に連動して案内溝8L,10L及び案内溝8R,10Rの内部を後側に移動する転動体9が、潤滑剤溜り14L,14Rの内部に収容された潤滑剤13をテーブル3の移動方向側である後側に位置する滑り軸受部7Lb,7Rbに圧送する。滑り軸受部7Lbに圧送された潤滑剤13は、滑り軸受部7Lbと案内溝8Lとの摺動面に供給され、滑り軸受部7Rbに圧送された潤滑剤13は、滑り軸受部7Rbと案内溝8Rとの摺動面に供給される。なお、圧送された潤滑剤13のうち、滑り軸受部7Lb,7Rbに供給された潤滑剤13以外の余剰の潤滑剤13は、案内溝8L,10Lと転動体9との微小な隙間、及び、案内溝8R,10Rと転動体9との微小な隙間を介して、潤滑剤溜り14L,14R内における転がり軸受部6L,6Rの前側の空間に移動する。
【0027】
以上のように、転がり軸受部6L,6Rの内部の余分な潤滑剤13は、軸受機構1の摺動と共に転がり軸受部6L,6Rの外部に漏出し易くなる。そして潤滑剤供給部18L,18Rにある潤滑剤13は、リテーナ12L,12Rの移動により端部に設けた滑り軸受部7L,7Rに圧送され油膜形成がなされる。なお、滑り軸受部7L,7Rが第1軌道台4L,4Rの案内溝8L,8Rと当接する摺動面には、前述のように潤滑剤供給溝11が形成されている。
【0028】
図1及び
図8に示すように、テーブル3には、複数(例えば3つ)の予圧調整ネジ15と、複数(例えば6つ)の固定ネジ16とが設けられている。予圧調整ネジ15は、テーブル3の片側(この例では左側)の側壁部3bの第2軌道台5Lに対応する前後3箇所に設けられている。
図8に示すように、各予圧調整ネジ15は、先端が第2軌道台5Lの第1軌道台4Lとは反対側の端面に当接し、時計回り方向又は反時計回り方向に回されることで、第2軌道台5Lを第1軌道台4Lに対して進退させ、滑り軸受部7Lf,7Lb,7Rf,7Rbの予圧をそれぞれ調整する。なお、
図8では煩雑防止のため、予圧調整ネジ15と略同じ高さに設けられた固定ネジ21の図示が省略されている。
【0029】
固定ネジ16は、テーブル3の平板部3aの第2軌道台5Lに対応する前後3箇所と、テーブル3の平板部3aの第2軌道台5Rに対応する前後3箇所との、計6箇所に設けられている。固定ネジ16は、締め付ける方向に回されることで、予圧調整ネジ15により位置(与圧)を調整された第2軌道台5L,5Rをテーブル3に対して固定する。なお、予圧調整ネジ15の数及び固定ネジ16の数は上記に限るものではない。例えば、予圧調整ネジ15の数は1個又は3以外の複数個でもよいし、固定ネジ16は第2軌道台5L,5Rのそれぞれに対して1個ずつ設けられてもよいし、2個ずつ又は4個以上ずつ設けられてもよい。
【0030】
図1及び
図9に示すように、第2軌道台5L,5Rには、複数(例えば8つ)の固定ネジ21が設けられている。固定ネジ21は、第2軌道台5Lの第1軌道台4Lとは反対側の背面における滑り軸受部7Lf,7Lbの各々に対応する前後4箇所と、第2軌道台5Rの第1軌道台4Rとは反対側の背面における滑り軸受部7Rf,7Rbの各々に対応する前後4箇所との、計8箇所に設けられている。固定ネジ21は、滑り軸受部7Lf,7Lb及び滑り軸受部7Rf,7Rbが移動方向である前後方向へズレないように、第2軌道台5Lと滑り軸受部7Lf,7Lbを固定すると共に、第2軌道台5Rと滑り軸受部7Rf,7Rbを固定する。
図9に示すように、固定ネジ21は、第2軌道台5Rの背面から先端が滑り軸受部7Rfの左右方向中心よりも第1軌道台4R側に到達するまで挿入され、第2軌道台5Rと滑り軸受部7Rfとを固定する。他の固定ネジ21も同様である。なお、固定ネジ21の数は上記8つに限るものではない。例えば、滑り軸受部7Lf,7Lb,7Rf,7Rbのそれぞれに対して1個ずつ設けられてもよいし、3個以上ずつ設けられてもよい。
【0031】
図9に示すように、リテーナ12Rは第1軌道台4Rと第2軌道台5Rとの間に挟まれるように設けられる。第1軌道台4Rと第2軌道台5Rとの間隙GPを例えば0.7mm、リテーナ12Rの厚みTHを例えば0.5mmとした場合、リテーナ12Rと左右両側の第1軌道台4R及び第2軌道台5Rとの間にはそれぞれ0.1mm程度の微小な隙間が形成される。これにより、リテーナ12Rは摺動による抵抗が少ない状態で前後方向に移動することが可能である。リテーナ12Lについても同様である。
【0032】
なお、上記ではリテーナ12Rの厚みTHを例えば0.5mmとしたが、厚みTHは0.5mm以外としてもよい。例えば、リテーナ12L,12Rの厚みTHは、第1軌道台4Rと第2軌道台5Rとの間隙GPの40%から90%の範囲内とするのが好ましい。
【0033】
<2.実施形態の効果>
以上説明したように、本実施形態に係る軸受機構1は、第1軌道台4L,4Rと第2軌道台5L,5Rとの間に、転がり軸受部6L,6Rと、転がり軸受部6L,6Rの前後方向両側に配置された滑り軸受部7L,7Rとを有する。これにより、例えば機器の早送りの際や軽負荷時には、第1軌道台4L,4Rと第2軌道台5L,5Rとの相対移動を転がり軸受部6L,6Rが主に担うことで、ステックスリップのない動作を実現できる。また、例えば急加減速時や重負荷時、振動などを伴う負荷を受ける際には、第1軌道台4L,4Rと第2軌道台5L,5Rとの相対移動を転がり軸受部6L,6Rと滑り軸受部7L,7Rの両方が担うことで、ビレのない動作を実現できる。本実施形態では、転がり軸受部6L,6Rによるテーブル3の移動に連動して潤滑剤13が滑り軸受部7L,7Rに供給される。これにより、滑り軸受部7L,7Rに十分な潤滑剤13を供給できるので、すべり軸受部7L,7Rの油膜形成を良好に行うことができる。したがって、転がり軸受と滑り軸受の両方を備えた軸受機構1を円滑に動作させることができる。
【0034】
また、本実施形態では特に、次のような効果を得ることができる。すなわち、テーブル3の移動時、テーブル3の移動方向とは反対側に位置する滑り軸受部7L,7Rは、テーブル3の内部に位置していた第1軌道台4L,4Rの案内溝8L,8Rに接触するのに対し、テーブル3の移動方向側に位置する滑り軸受部7L,7Rは、テーブル3の外部に位置していた第1軌道台4L,4Rの案内溝8L,8Rと接触することになる。このため、テーブル3の移動方向側に位置する滑り軸受部7L,7Rに対する潤滑剤13の供給が不十分になり易い。本実施形態では、転がり軸受部6L,6Rによるテーブル3の移動に連動して、テーブル3の移動方向側に位置する滑り軸受部7L,7Rに潤滑剤13を供給するので、テーブル3の移動方向に関わらず移動方向における両側の滑り軸受部7L,7Rに対して十分に潤滑剤を供給することができる。
【0035】
また、本実施形態では特に、例えばテーブル3が前側に移動した場合、転動体9が案内溝8L,10L及び案内溝8R,10Rに対して転動することにより、リテーナ12L,12Rがテーブル3の移動量の半分だけ前側に移動する。反対に、テーブル3が後側に移動した場合、転動体9が案内溝8L,10L及び案内溝8R,10Rに対して転動することにより、リテーナ12L,12Rがテーブル3の移動量の半分だけ後側に移動する。このようにして、テーブル3の移動に連動して案内溝8L,10L及び案内溝8R,10Rの内部を移動する転動体9が、案内溝8L,10L及び案内溝8R,10Rの内部に収容された潤滑剤13をテーブル3の移動に伴い滑り軸受け部7L,7Rに圧送する。これにより、潤滑剤13を供給するための動力を設けることなく、テーブル3の移動に連動してテーブル3の移動方向側に位置する滑り軸受部7L,7Rに潤滑剤13を供給することができる。
【0036】
また、本実施形態では特に、次のような効果を得ることができる。すなわち、転がり軸受と滑り軸受の両方を備えた軸受機構1を円滑に動作させるには、滑り軸受部7L,7Rにおける油膜形成を良好に行うことに加えて、第1軌道台4L,4Rと第2軌道台5L,5Rとの隙間(滑り軸受部7L,7Rの予圧)の調整が非常に重要となる。本実施形態では、予圧調整ネジ15及び固定ネジ16を用いて滑り軸受部7L,7R及び転がり軸受部6L,6Rの予圧を簡単に調整して固定することができるので、軸受機構1を円滑に動作させることができる。また、使用状況に応じた予圧管理が可能となる。
【0037】
<3.変形例>
本発明は、以上説明した実施形態に限られるものではなく、その趣旨及び技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。以下、そのような変形例を説明する。
【0038】
(3-1.シール部材を設ける場合)
転がり軸受部6L,6Rと滑り軸受部7L,7Rとの間に、シール部材を設けてもよい。
図10及び
図11を用いて、本変形例に係る軸受機構1Aの構成について説明する。
図10は、本変形例に係る軸受機構1Aの全体構成を表す斜視図、
図11は、
図10中XI-XI断面による第2軌道台、滑り軸受部及びシール部材の断面構造を表す断面図である。なお、
図11ではベース2、テーブル3等の図示を省略している。
【0039】
図10及び
図11に示すように、転がり軸受部6Lと滑り軸受部7Lとの間に、シール部材17Lが設けられている。シール部材17Lは、転がり軸受部6Lと前側の滑り軸受部7Lfとの間に配置されたシール部材17Lfと、転がり軸受部6Lと後側の滑り軸受部7Lbとの間に配置されたシール部材17Lbとを有する。シール部材17Lfは、略四角枠状に形成されており、略四角柱状の滑り軸受部7Lfの後端部の外周を囲うように設けられている。シール部材17Lbは、略四角枠状に形成されており、略四角柱状の滑り軸受部7Lbの前端部の外周を囲うように設けられている。シール部材17Lの設置構造は特に限定されないが、例えば次のように設置されてもよい。すなわち、
図11に示すように、第2軌道台5Lを、例えば滑り軸受部7Lfが設けられる前側部5La、潤滑剤溜り14Lが設けられる中央部5Lb、滑り軸受部7Lbが設けられる後側部5Lcに3分割した構造とし、中央部5Lbの両端の凹部にシール部材17Lf,17Lbをそれぞれ設置した後に、前側部5La及び後側部5Lcを中央部5Lbに連結してもよい。
【0040】
シール部材17Lf,17Lbはそれぞれ、内周側が滑り軸受部7Lf,7Lb側に屈曲した形状を有する。これにより、シール部材17Lf,17Lbはそれぞれ、潤滑剤13を滑り軸受部7Lf,7Lbから潤滑剤溜り14L(転がり軸受部6L)へ侵入させる変形に対する剛性が、潤滑剤13を潤滑剤溜り14L(転がり軸受部6L)から滑り軸受部7Lf,7Lbへ侵入させる変形に対する剛性よりも高くなるように構成されている。
【0041】
なお、図示は省略するが、転がり軸受部6Rと滑り軸受部7Rとの間にも、上記シール部材17Lと同様の構成であるシール部材17Rが設けられている。
【0042】
本変形例によれば、転動体9による圧送によって潤滑剤13を潤滑剤溜り14L,14Rから滑り軸受部7L,7Rへ供給した後は、潤滑剤13が滑り軸受部7L,7Rから潤滑剤溜り14L,14Rへ戻ることをシール部材17L,17Rにより抑制できる。これにより、潤滑剤13を滑り軸受部7L,7Rにおける油膜形成に有効に活用できるので、潤滑剤13の使用量を削減でき、環境負荷を低減できる。
【0043】
(3-2.滑り軸受部にクラウニング加工を施す場合)
滑り軸受部7L,7Rは、第1軌道台4L,4Rとのクリアランスが極めて重要である。一方で転がり軸受部6L,6Rは、高精度でステックスリップの少ない軽い動きが得られる反面、転動体9の変形による軸受け自体の変形が大きい傾向にある。そこで、転がり軸受部6L,6Rの変形量に応じたR面取り及びクラウニング加工を滑り軸受部7L,7Rの第1軌道台4L,4Rと当接する両端部に施すことにより、高負荷時のすべり軸受けのロック現象を解決できスムーズな摺動が得られる。例えば、滑り軸受部7Lf,7Lbのそれぞれの第1軌道台4L側の端面に、前後方向両側の端部に向けて第1軌道台4Lの案内溝8Lの端面との距離が漸増する形状となるようにR面取り又はクラウニング研削加工が施されてもよい。同様に、滑り軸受部7Rf,7Rbのそれぞれの第1軌道台4R側の端面に、前後方向両側の端部に向けて第1軌道台4Rの案内溝8Rの端面との距離が漸増する形状となるようにR面取り又はクラウニング研削加工が施されてもよい。
【0044】
本変形例によれば、滑り軸受部7L,7Rに転がり軸受部6L,6Rの転動体9の弾性変形に対応したテーパ状の逃げを形成できる。これにより、例えばテーブル3にモーメント荷重等が作用した場合でも、第1軌道台4L,4Rと滑り軸受部7L,7Rとを隙間なく接触させることが可能となり(いわゆるベタ当たり)、吸振性を向上できる。
【0045】
(3-3.リテーナのずれ防止機構を設ける場合)
前述のように、リテーナ12L,12Rは、テーブル3がストロークの範囲内で前後方向に移動するに伴い、テーブル3の移動量の半分だけ前後方向に移動する。このため、テーブル3の移動が繰り返されるうちにリテーナ12L,12Rが初期設定された位置から位置ずれを起こす場合がある。
【0046】
そこで本変形例では、
図12に示すように、複数の転動体9a,9bのうちの少なくとも1つ(
図12では1つの転動体9a)の外周面に所定のピッチで突起19が形成されている。また、第1軌道台4L,4Rの案内溝8L,8Rの転動面8L1又は8L2、及び、転動面8R1又は8R2、並びに、第2軌道台5L,5Rの案内溝10L,10Rの転動面10L1又は10L2、及び、転動面10R1又は10R2にはそれぞれ、転動体9aの突起19が嵌合するディンプル穴20が形成されている。ディンプル穴20は、突起19が係合して転動体9が滑らかに転動できるように形成されている。なお、
図12では一例として、リテーナ12Lの転動体9aの突起19が転動面8L1,10L2のディンプル穴20と嵌合する構造を図示しているが、同様に、リテーナ12Rの転動体9aの突起19は、転動面8R1,10R2のディンプル穴20と嵌合する。また、
図12ではリテーナ12Lの図示を省略している。
【0047】
これにより、リテーナ12L,12Rと第1軌道台4L,4R及び第2軌道台5L,5Rとの間で滑りが発生することを防止でき、リテーナ12L,12Rの位置ずれを防止できる。
【0048】
なお、各転動面へのディンプル穴20の切削加工は、各転動面に対する焼き入れの前に行われる。すなわち、例えば各転動面に対する焼き入れ後にディンプル穴20の切削加工を行う場合には、各転動面の硬度が増大していることから、エンドミル等による切削加工に時間がかかり、切削加工効率が悪いという問題がある。本実施形態では、各転動面へのディンプル穴20の切削加工を焼き入れの前に行うことにより、硬度が増大する前にディンプル穴の切削加工を行うことができる。これにより、切削加工効率を向上できると共にコストを削減できる。
【0049】
また、以上では転動体9に突起19を設けると共に転動面にディンプル穴20を形成する場合について説明したが、リテーナ12L,16Rのずれ防止機構はこれに限定されるものではない。例えば、ラックアンドピニオン機構によってリテーナ12L,12Rのずれ防止を図ってもよい。
【0050】
(3-4.潤滑剤漏れ防止用のパッキンを設ける場合)
第1軌道台4L,4Rと第2軌道台5L,5Rとの間の間隙GPからの潤滑剤13の漏れを防止するために、パッキンを設けてもよい。本変形例について
図13を用いて説明する。
【0051】
本変形例に係る軸受機構1は、リテーナ21L,21Rを有する。リテーナ21Lは、第1軌道台4Lと第2軌道台5Lとの間に前後方向に移動可能に配置されている。リテーナ21Rは、第1軌道台4Rと第2軌道台5Rとの間に前後方向に移動可能に配置されている。
図13にリテーナ21Lの構造の一例を示す。
図13に示すように、リテーナ21Lは、支持部21Laと、パッキン部21Lbとを有する。支持部21Laは略四角柱状に形成されており、その前後方向に直交する断面積は潤滑剤溜り14Lの断面積と略同一よりも小さい。支持部21Laの前後方向の長さL8は、前述の実施形態のリテーナ12Lの前後方向の長さL2と略同じである。支持部21Laは、回転軸方向が互いに略90度異なる転動体9aと転動体9bが前後方向に交互に配置されるように、且つ、隣接する転動体9a,9b同士が接触しないように、複数の転動体9を回転可能に保持する。転動体9a,9bは、転動面と接触する表面の一部が支持部21Laの表面から露出するように設けられている。支持部21Laが第1軌道台4Lの転動面8L1,8L2及び第2軌道台5Lの転動面10L1,10L2と対向する面には、潤滑剤案内溝23がそれぞれ形成されていてもよい。
【0052】
パッキン部21Lbは、支持部21Laの上下両側にそれぞれ、前後方向に延びるように2本設けられている。パッキン部21Lbは、前後方向に長尺なシート状の部材であり、その厚みはリテーナ12L,12Rの厚みTHと略同じである。パッキン部21Lbの支持部21Laから前側に突出した部分の前後方向の長さL9は、滑り軸受部7Lfの前後方向の長さL1と略同じ又は短くなるように形成されている。同様に、パッキン部21Lbの支持部21Laから後側に突出した部分の前後方向の長さL10は、滑り軸受部7Lbの前後方向の長さL1と略同じ又は短くなるように形成されている。2本のパッキン部21Lbの支持部21Laから前側に突出した部分及び後側に突出した部分の互いに向かい合う内側の縁部にはそれぞれ、V字状の軸受案内溝24が形成されている。軸受案内溝24には、滑り軸受部7Lf,7Lbの上端部及び下端部が嵌合する。具体的には、パッキン部21Lbの支持部21Laから前側に突出した部分は、
図4及び
図5に示すようにテーブル3が前側のストローク端部に移動した場合、滑り軸受部7Lfの上端及び下端の略全体に嵌合し、パッキン部21Lbの支持部21Laから後側に突出した部分は、少なくとも一部が滑り軸受部7Lbの上端及び下端に嵌合するように構成されている。また、パッキン部21Lbの支持部21Laから後側に突出した部分は、
図6及び
図7に示すようにテーブル3が後側のストローク端部に移動した場合、滑り軸受部7Lbの上端及び下端の略全体に嵌合し、パッキン部21Lbの支持部21Laから前側に突出した部分は、少なくとも一部が滑り軸受部7Lfの上端及び下端に嵌合するように構成されている。
【0053】
なお、図示は省略するが、リテーナ21Rについても上述したリテーナ21Lと同様の構成を有する。
【0054】
図2及び
図3に示すように、テーブル3がストローク中央部に位置する状態から、
図4及び
図5に示すようにテーブル3が前側のストローク端部に移動した場合、リテーナ21L,21R及び転動体9を含む転がり軸受部6L,6Rがテーブル3の移動量の半分だけ前側に移動して、リテーナ21L,21Rの支持部21La,21Raの前端部と滑り軸受部7Lf,7Rfの後端部とが略一致する。これにより、テーブル3の前側への移動に連動して案内溝8L,10L及び案内溝8R,10Rの内部を前側に移動する支持部21La,21Raが、潤滑剤溜り14L,14Rの内部に収容された潤滑剤13をテーブル3の移動方向側である前側に位置する滑り軸受部7Lf,7Rfに圧送する。この際、パッキン部21Lb,21Rbにより、第1軌道台4L,4Rと第2軌道台5L,5Rとの間の間隙GPからの潤滑剤13の漏れが防止される。滑り軸受部7Lfに圧送された潤滑剤13は、滑り軸受部7Lfと案内溝8Lとの摺動面の潤滑剤供給溝11に供給され、滑り軸受部7Rfに圧送された潤滑剤13は、滑り軸受部7Rfと案内溝8Rとの摺動面の潤滑剤供給溝11に供給される。なお、圧送された潤滑剤13のうち、滑り軸受部7Lf,7Rfに供給された潤滑剤13以外の余剰の潤滑剤13は、支持部21La,21Raに形成された潤滑剤案内溝23などを介して、潤滑剤溜り14L,14R内における転がり軸受部6L,6Rの後側の空間に移動する。
【0055】
また、
図2及び
図3に示す状態から、
図6及び
図7に示すようにテーブル3が後側のストローク端部に移動した場合、リテーナ21L,21R及び転動体9を含む転がり軸受部6L,6Rがテーブル3の移動量の半分だけ後側に移動して、リテーナ21L,21Rの支持部21La,21Raの後端部と滑り軸受部7Lb,7Rbの前端部とが略一致する。これにより、テーブル3の後側への移動に連動して案内溝8L,10L及び案内溝8R,10Rの内部を後側に移動する支持部21La,21Raが、潤滑剤溜り14L,14Rの内部に収容された潤滑剤13をテーブル3の移動方向側である後側に位置する滑り軸受部7Lb,7Rbに圧送する。この際、パッキン部21Lb,21Rbにより、第1軌道台4L,4Rと第2軌道台5L,5Rとの間の間隙GPからの潤滑剤13の漏れが防止される。滑り軸受部7Lbに圧送された潤滑剤13は、滑り軸受部7Lbと案内溝8Lとの摺動面の潤滑剤供給溝11に供給され、滑り軸受部7Rbに圧送された潤滑剤13は、滑り軸受部7Rbと案内溝8Rとの摺動面の潤滑剤供給溝11に供給される。なお、圧送された潤滑剤13のうち、滑り軸受部7Lb,7Rbに供給された潤滑剤13以外の余剰の潤滑剤13は、支持部21La,21Raに形成された潤滑剤案内溝23などを介して、潤滑剤溜り14L,14R内における転がり軸受部6L,6Rの前側の空間に移動する。
【0056】
以上説明した変形例によれば、第1軌道台4L,4Rと第2軌道台5L,5Rとの間の間隙GPからの潤滑剤13の漏れを効果的に防止することができ、第1軌道台4L,4Rと第2軌道台5L,5Rとに挟まれたリテーナ21L,21Rは適切なクリアランスを得てストロークできる。
【0057】
(3-5.その他)
以上では、軸受機構の一例として、ベース2に対してテーブル3を直線的に移動させる直動案内機構である場合について説明したが、これに限られない。例えば、ベース2に対してテーブル3を例えば円弧や波形等の曲線状に移動させる曲線案内機構に適用してもよい。この場合、第1軌道台及び第2軌道台を曲線状の部材とすればよい。また、軸受機構を、軸状の第1軌道台に対して円筒状の第2軌道台が直線運動する機構(いわゆる有限ストローク転がり軸受け)としてもよい。この場合、ベース2やテーブル3等の構成は不要となる。
【0058】
また以上では、2本の第1軌道台4L,4Rがベース2に設置された場合について説明したが、これに限られない。例えば1本の第1軌道台がベース2に設置され、当該第1軌道台の左右両側面と、第2軌道台5L,5Rとの間に転がり軸受部6L,6R及び滑り軸受部7L,7Rが配置されてもよい。このような構成の軸受機構に対して本発明を適用しても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0059】
また、第1軌道台の長さが長い場合には、複数の第1軌道台を直列につなぎ合わせてもよい。
【0060】
また、以上既に述べた以外にも、上記実施形態や各変形例による手法を適宜組み合わせて利用しても良い。
【0061】
その他、一々例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【符号の説明】
【0062】
1 軸受機構
1A 軸受機構
2 ベース
3 テーブル
4L 第1軌道台
4R 第1軌道台
5L 第2軌道台
5R 第2軌道台
6L 転がり軸受部
6R 転がり軸受部
7L 滑り軸受部
7Lb 滑り軸受部
7Lf 滑り軸受部
7R 滑り軸受部
7Rb 滑り軸受部
7Rf 滑り軸受部
8L 案内溝
8R 案内溝
9 転動体
9a 転動体
9b 転動体
10L 案内溝
10R 案内溝
12L リテーナ
12R リテーナ
13 潤滑剤
15 予圧調整ネジ
16 固定ネジ
17L シール部材
17Lb シール部材
17Lf シール部材
17R シール部材
18L 潤滑剤供給部
18R 潤滑剤供給部
21L リテーナ
21R リテーナ
【要約】
【課題】転がり軸受と滑り軸受を備え、滑り軸受に十分な潤滑剤を供給することが可能な軸受機構を提供する。
【解決手段】軸受機構1は、第1軌道台4L,4Rと、第1軌道台4L,4Rに対して移動する、第1軌道台4L,4Rよりも短い第2軌道台5L,5Rと、第1軌道台4L,4Rと第2軌道台5L,5Rとの間に配置された転がり軸受部6L,6Rと、第1軌道台4L,4Rと第2軌道台5L,5Rとの間に、転がり軸受部6L,6Rの前後方向両側に配置された滑り軸受部7L,7Rと、転がり軸受部6L,6Rによる第2軌道台5L,5Rの移動に連動して潤滑剤13を滑り軸受部7L,7Rに供給する潤滑剤供給部18L,18Rと、を有する。
【選択図】
図2